説明

熱交換器

【課題】本発明は、防食性を向上させた熱交換器を提供する。
【解決手段】蒸発器10の外表面には、クリア塗料により形成された下塗り塗膜19と、下塗り塗膜19の上にアルミニウム粒子20を含む塗料により形成された上塗り塗膜21とを含む防食塗膜24が形成される。これにより、酸性の腐食性ガスは、上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20と反応して吸収される。そして、上塗り塗膜21の下にはクリア塗料から形成された下塗り塗膜19が形成されているから、仮に上塗り塗膜21に塗膜欠陥が生じた場合でも、下塗り塗膜19により蒸発器10の表面は保護されるようになっている。さらに、アルミニウム粒子20はフレーク状をなしているから、各粒子は、その板面を蒸発器10の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、少量の粒子で蒸発器10の表面を効率的に覆うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷蔵庫に取付けられる熱交換器として特許文献1に記載のものが知られている。このものは、冷媒を流通させる銅製パイプと、この銅製パイプに接触して設けられた放熱部材とからなり、銅製パイプ内を流通する冷媒と、冷蔵庫の内気又は外気との間で熱交換を行うものである。
冷蔵庫においては、庫内に貯蔵された食品から、酢酸ガス、硫化水素ガス等の、金属材料を腐食させる腐食性ガスが発生する場合がある。上記の熱交換器を冷蔵庫内に配設し、庫内の温度を下げるための蒸発器として用いた場合、蒸発器のデフロストにより発生する水に上記の腐食性ガスが溶け込み、この腐食性ガスの水溶液により蒸発器の表面が腐食することが懸念される。
そこで、特許文献1に係る熱交換器においては、アルミニウム粒子を混合した塗料を熱交換器の表面に塗布し、熱交換器の表面をアルミニウム粒子を含有する塗膜で覆う構成となっている。これにより、腐食性ガスの水溶液が塗膜中に侵入した場合でも、アルミニウム粒子と反応することでここに吸収され、それ以上の深部への浸透を防止することが期待された。
【特許文献1】特開2004−360069公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記の構成によると、塗料の塗布後の乾燥工程において、塗膜表面が局部的に膨れるという塗膜欠陥が発生することがあった。これは、塗膜内に多量のアルミニウム粒子が混入されていると、塗膜の硬化時に塗膜内の溶媒がガス化したときに、そのガスの放出経路がアルミニウム粒子によって妨げられ、その結果、塗膜内に留まって膨れを生じさせるものと考えられている。かといって、塗膜内のアルミニウム粒子量を減らせば、こんどは溶媒がガス化して外部に放出される経路は確保できても、腐食性ガスを溶解した水分が外部から侵入する経路も確保してしまうことになるから、水分の透過性、ひいては腐食性ガスの透過性も高くなって、結局、防食性が低下することになる。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、防食性を向上させた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、冷媒を流通させる銅製パイプと、この銅製パイプに接触して設けられた放熱部材とからなり、表面に防食塗膜が形成された熱交換器であって、前記防食塗膜は、前記蒸発器の外表面にクリア塗料により形成された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の上にアルミニウム粒子を含む塗料により形成された上塗り塗膜とを含むことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1記載のものにおいて、前記アルミニウム粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2記載のものにおいて、前記下塗り塗膜と前記上塗り塗膜との間には亜鉛粒子を含む中塗り塗膜が形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3記載のものにおいて、前記亜鉛粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
<請求項1の発明>
酸性の腐食性ガスは、上塗り塗膜に含まれるアルミニウム粒子と反応して吸収されるから、腐食性ガスが熱交換器の銅製パイプや放熱部材の外表面にまで侵入することを防止できる。
上記の上塗り塗膜にはアルミニウム粒子が含まれていることから、上塗り塗膜の乾燥時に、ガス化した溶媒がアルミニウム粒子に妨げられて塗膜内に留まり、塗膜が膨れるという塗膜欠陥を生じることが懸念される。
上記の点に鑑み、請求項1の発明においては、アルミニウム粒子を含まないクリア塗膜により下塗り塗膜を形成する構成とした。この下塗り塗膜はアルミニウム粒子を塗膜内に含まないから、塗膜乾燥時にガス化した溶媒が外部に放散しやすくなっており、塗膜欠陥が生じにくい。その結果、仮に上塗り塗膜に塗膜欠陥が生じた場合でも、下塗り塗膜により熱交換器の表面が保護される。
【0006】
<請求項2及び請求項4の発明>
請求項2及び請求項4の発明によれば、アルミニウム粒子又は亜鉛粒子はフレーク状をなしている。これにより、熱交換器表面に塗料が塗布されたときに、各粒子は、その板面を熱交換器の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、例えば球状をなすアルミニウム粒子又は亜鉛粒子を用いる場合に比べて、少量の粒子で熱交換器の表面を効率的に覆うことができる。
【0007】
<請求項3の発明>
冷蔵庫内の食品からは、肉、魚等からアンモニア等のアルカリ性の腐食性ガスが発生する場合がある。このアルカリ性の腐食性ガスに対しては、アルミニウム粒子は比較的容易に溶解してしまうため、熱交換器が腐食することを十分に防止することができないことが懸念される。
上記の点に鑑み、請求項3の発明においては、下塗り塗膜と上塗り塗膜との間に、亜鉛粒子を含む中塗り塗膜を形成する構成とした。亜鉛粒子はアルカリ性の腐食性ガスと反応して吸収すると共に、アルミニウム粒子に比べて容易には溶解しない性質を有しているから、アルカリ性の腐食性ガスにより熱交換器が腐食することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る熱交換器を、冷蔵庫の蒸発器10に適用した実施形態を図1ないし図4を参照して説明する。蒸発器10は、冷蔵庫(図示せず)の冷凍回路11に配設されると共に冷蔵庫内に配設されて、庫内の空気を冷却するようになっている。冷凍回路11は、図1に示すように、冷媒の循環管路12に、冷媒を圧縮する圧縮機13と、この圧縮機13で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器14と、この凝縮器14で凝縮した冷媒を減圧又は膨張させる減圧器15と、減圧器15で減圧された冷媒を蒸発させて周囲の温度を下げる蒸発器10とを備えてなる。
蒸発器10は、図2に示すように、複数の銅製パイプ16と、この銅製パイプ16に装着された複数のアルミニウム製のフィン17とを備えてなる。各銅製パイプ16の端部には銅製のU字状ベント18がろう付けされており、これにより各銅製パイプ16は互いに連結されて、複数回屈曲する形態をなしている。各フィン17は、各銅製パイプ16を貫通させた状態で、各銅製パイプ16を径方向外方に拡開することにより各銅製パイプ16の外周に固定されている。
【0009】
さて、図3に示すように、蒸発器10を構成する銅製パイプ16及びフィン17の外表面には、クリア塗料を塗布した後、硬化させてなる下塗り塗膜19が形成されており、この下塗り塗膜19の上には、フレーク状のアルミニウム粒子20を含む塗料を塗布した後、硬化させてなる上塗り塗膜21が形成されており、これにより、蒸発器10の外表面に防食塗膜24が形成されている。上記の上塗り塗膜21内においては、フレーク状のアルミニウム粒子20は、その板面が銅製パイプ16又はフィン17の外表面に対向するように配向されると共に、銅製パイプ16又はフィン17の外表面を覆うように、塗膜の厚さ方向に重なって配列している。
下塗り塗膜19に用いられるクリア塗料としては、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料等、任意の樹脂塗料を用いることができる。これらのうち、エポキシ樹脂系塗料の分子構造の主鎖はエーテル結合が主体であり、このエーテル結合は、エステル結合に比べて耐水性及び耐薬品性に優れており、硫化水素ガスや酢酸ガス等の腐食性ガスによっては分子結合が切断される等の損傷を受けることが少ないので、クリア塗料としてはエポキシ樹脂系塗料を用いるのが好ましい。この下塗り塗膜19の厚さは、10μm〜25μmが好ましく、15μm〜20μmがより好ましい。10μmよりも薄いと、腐食性ガスが透過して蒸発器10の外表面が腐食する虞があるから好ましくない。また、25μmよりも厚いと、下塗り塗膜19の硬化時に、溶媒が蒸発しにくくなり、塗膜の乾燥時間が長くなるから好ましくない。下塗り塗膜19の厚さが15μm〜20μmであると、腐食性ガスが下塗り塗膜19を透過するのを抑制すると共に、塗膜の乾燥時間を短縮できるのでより好ましい。
上塗り塗膜21に用いられる塗料としては、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料等、任意のクリア塗料にフレーク状のアルミニウム粒子20を混合したものを用いることができる。樹脂系塗料としては、上述のクリア塗料と同じく、エポキシ樹脂系塗料が好ましい。この上塗り塗膜21の厚さは、15μm〜35μmが好ましく、20μm〜25μmがより好ましい。15μmよりも薄いと、腐食性ガスが透過して蒸発器10の外表面が腐食する虞があるから好ましくない。また、35μmよりも厚いと、上塗り塗膜21の硬化時に、溶媒が蒸発しにくくなり、塗膜の乾燥時間が長くなるから好ましくない。上塗り塗膜21の厚さが20μm〜25μmであると、腐食性ガスが上塗り塗膜21を透過するのを抑制すると共に、塗膜の乾燥時間を短縮できるのでより好ましい。
【0010】
上塗り塗膜21用の塗料に混合されるアルミニウム粒子20の組成は、塗料の重量に対して10〜30重量部が好ましい。10重量部よりも少ないとアルミニウム粒子20が蒸発器10の外表面が十分に覆われなくなり、一方、30重量部よりも多いとコスト増を招くからである。さらに、アルミニウム粒子20の組成は15〜25重量部がより好ましい。15重量部よりも多いと蒸発器10の外表面がアルミニウム粒子20により覆われるから蒸発器10の腐食を確実に抑制可能となり、また、25重量部よりも少ないと製造コストが過度に増加することを防止できる。
アルミニウム粒子20は、平均粒径が1μm〜99μmのものが好ましく、3μm〜50μmのものがより好ましい。アルミニウム粒子20の平均粒径が1μmよりも小さいと、蒸発器10の外表面を覆うために必要とされるアルミニウム粒子20の量が多くなりすぎ、コスト増を招くので好ましくない。また、99μmよりも大きいと、粒子間の隙間から腐食性ガスが侵入する虞があるから好ましくない。アルミニウム粒子20の平均粒径が3μm〜50μmであれば、蒸発器10の外表面を覆うためのアルミニウム粒子20の量を少なくすることができるからコスト低減を図ることが可能であり、また、上塗り塗膜21の硬化時に溶媒が蒸発しやすくなるために溶媒を蒸発させる作業時間を短縮できる。この種のアルミニウム粒子20としては、例えば、大和金属粉工業株式会社製のAl−S NO.22000(平均粒径5μm)や、Al−S NO.600(平均粒径33μm)を用いることができる。
アルミニウム粒子20の形状は、真球、回転楕円体、針状、フレーク状など、任煮の形状のものを用いることができる。このうち、蒸発器10に防食塗膜24を形成する際に、蒸発器10の外表面に沿って配向し、防食塗膜24の厚さ方向に重なるように配列して腐食性ガスが蒸発器10の外表面に到達することを抑制できることから、フレーク状のアルミニウム粒子20が好ましい。
【0011】
また、防食塗膜24は、図4に示すように、蒸発器10を構成する銅製パイプ16及びフィン17の外表面に、クリア塗料を塗布した後、硬化させてなる下塗り塗膜19が形成され、この下塗り塗膜19の上に、フレーク状の亜鉛粒子22を含む塗料を塗布した後、硬化させてなる中塗り塗膜23が形成され、さらに、この中塗り塗膜23の上にフレーク状のアルミニウム粒子20を含む塗料を塗布した後、硬化させてなる上塗り塗膜21が形成される構成としてもよい。
上記の中塗り塗膜23内においては、フレーク状の亜鉛粒子22は、その板面が銅製パイプ16又はフィン17の外表面に対向するように配向されると共に、銅製パイプ16又はフィン17の外表面を覆うように塗膜の厚さ方向に重なって配列している。
中塗り塗膜23に用いられる塗料としては、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料等、任意のクリア塗料にフレーク状の亜鉛粒子22を混合したものを用いることができる。樹脂系塗料としては、実施形態1におけるクリア塗料と同じく、エポキシ樹脂系塗料が好ましい。この中塗り塗膜23の厚さは、15μm〜35μmが好ましく、20μm〜25μmがより好ましい。15μmよりも薄いと、腐食性ガスが透過して蒸発器10の外表面が腐食する虞があるから好ましくない。また、35μmよりも厚いと、中塗り塗膜23の硬化時に、溶媒が蒸発しにくくなり、塗膜の乾燥時間が長くなるから好ましくない。中塗り塗膜23の厚さが20μm〜25μmであると、腐食性ガスが中塗り塗膜23を透過するのを抑制すると共に、塗膜の乾燥時間を短縮できるのでより好ましい。
中塗り塗膜23に用いられるエポキシ樹脂系塗料としては、実施形態1において下塗り塗膜19又は上塗り塗膜21に用いられるエポキシ樹脂系塗料と同じものを用いることができる。
中塗り塗膜23用の塗料に混合される亜鉛粒子22の組成は、塗料の重量に対して10〜90重量部が好ましい。10重量部よりも少ないと亜鉛粒子22が蒸発器10の外表面が十分に覆われなくなり、一方、90重量部よりも多いと、塗料に対して亜鉛粒子22が多くなりすぎ、中塗り塗膜23の強度が低下するからである。さらに、亜鉛粒子22の組成は15〜80重量部がより好ましい。15重量部よりも多いと蒸発器10の外表面が亜鉛粒子22により確実に覆われるから蒸発器10の腐食を確実に抑制可能となり、また、80重量部よりも少ないと製造コストが過度に増加することを防止できる。
【0012】
亜鉛粒子22は、平均粒径が1μm〜45μmのものが好ましく、3μm〜35μmのものがより好ましい。亜鉛粒子22の平均粒径が1μmよりも小さいと、蒸発器10の外表面を覆うために必要とされる亜鉛粒子22の量が多くなりすぎ、コスト増を招くので好ましくない。また、45μmよりも大きいと、粒子間の隙間から腐食性ガスが侵入する虞があるから好ましくない。亜鉛粒子22の平均粒径が3μm〜35μmであれば、蒸発器10の外表面を覆うための亜鉛粒子22の量を少なくすることができるからコスト低減を図ることが可能であり、また、上塗り塗膜21の硬化時に溶媒が蒸発しやすくなるために溶媒を蒸発させる作業時間を短縮できる。この種の亜鉛粒子22としては、例えば、三井金属工業株式会社製フレーク状亜鉛粉(平均粒径33μm)を用いることができる。
亜鉛粒子22の形状は、真球、回転楕円体、針状、フレーク状など、任煮の形状のものを用いることができる。このうち、蒸発器10に防食塗膜24を形成する際に、蒸発器10の外表面に沿って配向し、防食塗膜24の厚さ方向に重なるように配列して腐食性ガスが蒸発器10の外表面に到達することを抑制できることから、フレーク状の亜鉛粒子22が好ましい。
【0013】
下塗り塗膜19、中塗り塗膜23、又は上塗り塗膜21に用いられるエポキシ樹脂系塗料としては、主剤としてのエポキシ樹脂70〜80重量部と、硬化剤としてのフェノール樹脂20〜30重量部とを混合した1液加熱硬化型の塗料を用いることができる。この種のエポキシ樹脂系塗料としては、例えば日本ペイント株式会社製のオルガ1000Hクリアを用いることができる。
また、下塗り塗膜19、中塗り塗膜23、又は上塗り塗膜21を形成するための塗料には、界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0014】
続いて、本実施形態に係る防食塗膜24の形成方法の一例を説明する。
まず、銅製パイプ16をフィン17に貫通させた状態で拡径させることで、銅製パイプ16とフィン17とを組み付ける。ついで、銅製パイプ16の端部にU字状ベント18ををろう付けすることで、各銅製パイプ16が複数回屈曲した形態をなす冷媒管路を形成する。これにより、蒸発器10が組み立てられる。
【0015】
次に、蒸発器10を、主剤としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としてのフェノール樹脂と、溶剤とを所定量混合した1液加熱硬化型のクリア塗料中に浸漬する。溶剤としては、トルエン、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等を単独で用いてもよいし、また、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
蒸発器10をクリア塗料中に浸漬した後、焼付け手段により塗膜を焼き付ける。この焼付けは、例えば180℃で20分加熱することにより行うことができる。これにより、蒸発器10の外表面に、クリア塗料により形成された下塗り塗膜19を形成する。
その後、下塗り塗膜19が形成された蒸発器10を、主剤としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としてのフェノール樹脂と、溶剤と、フレーク状のアルミニウム粒子20とを所定量混合した1液加熱硬化型の塗料中に浸漬する。その後、下塗り塗膜19を形成した時と同様に、例えば180℃で20分加熱することにより上塗り塗膜21を形成する。
このようにして、蒸発器10を構成する銅製パイプ16及びフィン17の外表面に、クリア塗料により形成された下塗り塗膜19と、この下塗り塗膜19の上に、フレーク状のアルミニウム粒子20を含む塗料により形成された上塗り塗膜21が形成され、上塗り塗膜21内においては、フレーク状のアルミニウム粒子20は、その板面が銅製パイプ16又はフィン17の外表面に対向するように配向されると共に、銅製パイプ16又はフィン17の外表面を覆うように、上塗り塗膜21の厚さ方向に重なって配列するようになっている。
【0016】
なお、下塗り塗膜19と上塗り塗膜21との間に中塗り塗膜23を形成する場合には、まず、上記した手法により蒸発器10の表面に下塗り塗膜19を形成し、この下塗り塗膜19が形成された蒸発器10を、主剤としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としてのフェノール樹脂と、溶剤と、フレーク状の亜鉛粒子22とを所定量混合した1液加熱硬化型の塗料中に浸漬する。その後、下塗り塗膜19を形成した時と同様に、例えば180℃で20分加熱することにより中塗り塗膜23を形成する。ついで、上記した手法により、中塗り塗膜23の上に、上塗り塗膜21を形成する。
上記のようにして形成された中塗り塗膜23内においては、フレーク状の亜鉛粒子22は、その板面が銅製パイプ16又はフィン17の外表面に対向するように配向されると共に、銅製パイプ16又はフィン17の外表面を覆うように、中塗り塗膜23の厚さ方向に重なって配列するようになっている。
【0017】
続いて、本実施形態の作用、効果について説明する。
冷蔵庫内に収容された食材又は食品からは、種々の腐食性ガスが発生する。例えば、ゆで卵や玉子焼き等からは硫化水素等の硫黄を含む酸性の腐食性ガスが発生し、一方、食酢、パン生地、マヨネーズ等からは酢酸を含む酸性の腐食性ガスが発生する。これらの腐食性ガスは、蒸発器10をデフロストする際に発生する水に溶け込み、この腐食性ガスの水溶液が、蒸発器10と接触することになる。
蒸発器10を構成する銅製パイプ16は、酸性の水溶液により腐食されやすいため、銅製パイプ16が酸性の腐食性ガスを溶解する水に接触すると、銅製パイプ16が腐食されて孔が形成され、銅製パイプ16内を循環する冷媒が漏れる虞がある。
【0018】
上記の点に鑑み、本実施形態においては、蒸発器10の外表面に、クリア塗料により形成された下塗り塗膜19と、下塗り塗膜19の上にアルミニウム粒子20を含む塗料により形成された上塗り塗膜21とを含む防食塗膜24を形成する構成とされる。これにより、まず、酸性の腐食性ガスの水溶液は、上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20と反応して吸収されてこれ以上浸透することが防止され、腐食性ガスが蒸発器10の外表面にまで到達することが防止される。
上記のように、上塗り塗膜21内に含まれるアルミニウム粒子20により蒸発器10の外表面が覆われることで、上塗り塗膜21の硬化時に、ガス化した溶媒の通り道が妨げられてしまい、塗膜内に溶媒が留まって塗膜表面が膨れるという塗膜欠陥が生じることが懸念される。
上記の点に鑑み、上塗り塗膜21の下にはクリア塗料から形成された下塗り塗膜19が形成される構成とされる。これにより、下塗り塗膜19はアルミニウム粒子20を含まないから、下塗り塗膜19の硬化時に、ガス化した溶媒が外部に放出されやすくなっており、下塗り塗膜19には塗膜欠陥が生じにくくなっている。その結果、仮に上塗り塗膜21に塗膜欠陥が生じた場合でも、下塗り塗膜19により蒸発器10の表面は保護されるようになっている。
この点、アルミニウム粒子20を含む塗膜に生じた塗膜欠陥から腐食性ガスが侵入することを防止するために、アルミニウム粒子20を含む塗膜を下塗り塗膜19とし、この下塗り塗膜19の上に、クリア塗料により形成される上塗り塗膜21を形成することも考えられる。
しかしこの手法によると、アルミニウム粒子20と腐食性ガスとが反応してアルミニウム粒子20の体積が変化して下塗り塗膜19が変形した場合に、この下塗り塗膜19の変形が上塗り塗膜21にまで影響を及ぼし、上塗り塗膜21に亀裂が生じてこの亀裂から腐食性ガスが塗膜内部に侵入することが懸念される。
上記の点に鑑み、アルミニウム粒子20は上塗り塗膜21に含まれる構成とされる。これにより、アルミニウム粒子20と腐食性ガスとが反応してアルミニウム粒子20に体積変化が生じて上塗り塗膜21が変形した場合でも、この上塗り塗膜21の変形は下塗り塗膜19に影響を及ぼさないようになっている。この結果、下塗り塗膜19が変形して亀裂等を生じることはなく、腐食性ガスの侵入経路が形成されることを防止できる。
その上、アルミニウム粒子20はフレーク状をなしているから、蒸発器10表面に塗料が塗布されたときに、各粒子は、その板面を蒸発器10の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、例えば球状をなすアルミニウム粒子20を用いる場合に比べて、少量の粒子で蒸発器10の表面を効率的に覆うことができる。
さらに、防食塗膜24が、下塗り塗膜19と上塗り塗膜21とを備える構成とし、この上塗り塗膜21にアルミニウム粒子20を含む構成としたから、防食塗膜24がアルミニウム粒子20を含む塗膜のみで構成されている場合に比べて、アルミニウム粒子20を含む上塗り塗膜21の厚さを薄く構成できる。これにより、上塗り塗膜21の硬化時にガス化した溶媒が外部に放散しやすくなり、塗膜欠陥の発生を抑制できる。
【0019】
また、冷蔵庫内に収容された食材又は食品からは、上述した酸性の腐食性ガスのほかに、肉や魚等からアンモニア等のアルカリ性の腐食性ガスが発生することがある。
上記した蒸発器10において上塗り塗膜21に添加したアルミニウム粒子20は、酸性の腐食性ガスと反応して吸収し、且つ容易には溶解しない性質を有するため、酸性の腐食性ガスによる蒸発器10の腐食を防止することができる。しかし、アルミニウムは両性金属であるため、アルカリ性の腐食性ガスとも反応し、このアルカリ性の腐食性ガスに対しては比較的容易に溶解するという性質を有する。このため、アルミニウム粒子20によっては、アルカリ性の腐食性ガスによる蒸発器10の腐食を十分に抑制することができない虞がある。
上記の点に鑑み、下塗り塗膜19と上塗り塗膜21との間に、亜鉛粒子22を含む中塗り塗膜23が形成される構成とされる。この亜鉛は、アルミニウムと同じく両性金属であり、酸性及びアルカリ性の腐食性ガスとの反応性を有し、且つ、アルカリ性の腐食性ガスに対しては、アルミニウムに比べて容易には溶解しにくいという性質を有する。
これにより、アンモニア等のアルカリ性の腐食性ガスは、中塗り塗膜23に添加された亜鉛粒子22と反応して吸収され、それ以上腐食性ガスが塗膜内に侵入することを防止できる。
【0020】
この点、亜鉛粒子22を上塗り塗膜21に添加し、中塗り塗膜23にアルミニウム粒子20を添加することも考えられる。
しかし、蒸発器10を構成する銅製パイプ16は酸性の腐食性ガスにより腐食しやすい性質を有しているため、蒸発器10には、まず酸性の腐食性ガスに対する耐久性が求められる。このため、上記したように亜鉛粒子22を上塗り塗膜21に添加し、中塗り塗膜23にアルミニウム粒子20を添加する構成によると、酸性の腐食性ガスにより上塗り塗膜21に添加された亜鉛粒子22が比較的容易に溶解してしまうため、酸性の腐食性ガスに対する蒸発器10の保護が十分に図れないことが懸念される。
上記の点に鑑み、上塗り塗膜21には酸性の腐食性ガスに対する溶解性が比較的小さいアルミニウムを添加することで、蒸発器10を、まず酸性の腐食性ガスから保護すると共に、仮に上塗り塗膜21のアルミニウム粒子20がアルカリ性の腐食性ガスにより溶解した場合でも、亜鉛粒子22を含む中塗り塗膜23により蒸発器10を保護することができるようになっている。
また、亜鉛粒子22はフレーク状をなしているから、蒸発器10表面に塗料が塗布された際に、各粒子は、その板面を蒸発器10の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、例えば球状をなす亜鉛粒子22を用いる場合に比べて、少量の粒子で蒸発器10の表面を効率的に覆うことができる。
【0021】
また、上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20や、中塗り塗膜23に含まれる亜鉛粒子22は、防食塗膜24の樹脂部分よりも熱伝導性に優れるから、アルミニウム粒子20や亜鉛粒子22を含まない場合に比べて、防食塗膜24の熱伝導性を向上させることができる。
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1−1>
まず、銅製パイプ16をフィン17に貫通させた状態で拡径させることで、銅製パイプ16とフィン17とを組み付ける。ついで、銅製パイプ16の端部にU字状ベント18ををろう付けすることで、各銅製パイプ16が複数回屈曲した形態をなす冷媒管路を形成する。このようにして蒸発器10が組み立てられる。
【0023】
次に、下塗り塗膜19を形成するためのクリア塗料を調製する。このクリア塗料は、エポキシ樹脂ワニス60.5重量部、エポキシ溶性フェノール樹脂ワニス31.7重量部、溶剤7.6重量部、添加剤7.6重量部とを混合、撹拌してなる。また、上記の溶剤は、トルエン(15〜20重量部)、n−ブチルアルコール(5〜10重量部)、イソブチルアルコール(5〜10重量部)、ジアセトンアルコール(15〜20重量部)からなる混合溶剤である。
続いて、上塗り塗膜21を形成するための塗料を調製する。この塗料は、フェノール変性エポキシ樹脂塗料70重量部と、アルミニウム粒子20を30重量部秤量したものとを混合、撹拌してなる。このフェノール変性エポキシ樹脂塗料は、上記したクリア塗料と同じものであり、エポキシ樹脂ワニス60.5重量部、エポキシ溶性フェノール樹脂ワニス31.7重量部、溶剤7.6重量部、添加剤7.6重量部とからなる。上記のアルミニウム粒子20は、平均粒径33μmの鱗片状を呈するアルミニウムフレークである。
上記のようにして調製したクリア塗料中に、蒸発器10を浸漬し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、蒸発器10の外表面に下塗り塗膜19を形成する。この下塗り塗膜19の厚さは、15μm〜18μmであった。
下塗り塗膜19を形成した後、アルミニウム粒子20を分散させた塗料中に、蒸発器10を浸漬し、上記と同様にして、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、下塗り塗膜19の上に上塗り塗膜21を形成する。この上塗り塗膜21の厚さは、23μm〜25μmであった。
上記のようにして形成した蒸発器10を冷蔵庫の庫内の上方に配置すると共に冷凍回路11に組付ける。
【0024】
<比較例1−1>
比較例1−1については、蒸発器10の外表面に実施例1−1と同様にして厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成した後、この下塗り塗膜の上に、この下塗り塗膜を形成したのと同じ組成のクリア塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、下塗り塗膜の上に、クリア塗料により形成された厚さ15μm〜18μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例1−1と同様にして蒸発器10を作製した。
<比較例1−2>
比較例1−2については、蒸発器10の外表面に、実施例1−1において上塗り塗膜21を形成したのと同じ組成の、アルミニウム粒子20を含む塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで厚さ23μm〜25μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成し、この下塗り塗膜の上に、実施例1−1において下塗り塗膜19を形成するために用いたのと同じ組成のクリア塗料を塗布し、同じく焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで厚さ15μm〜18μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例1−1と同様にして蒸発器10を作製した。
<比較例1−3>
比較例1−3については、蒸発器10の外表面に、実施例1−1において上塗り塗膜21を形成するために用いたのと同じ組成の、アルミニウム粒子20を含む塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで厚さ23μm〜25μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成し、この下塗り塗膜の上に、さらに上記のアルミニウム粒子20を含む塗料を塗布し、同じく焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで厚さ23μm〜25μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例1−1と同様にして蒸発器10を作製した。
【0025】
(酸性の腐食性ガスによるガス漏れ試験)
まず、腐食性ガスである硫化水素ガス及び酢酸ガスの発生源を調製した。硫化水素ガスの発生源は、容量500mlのビーカーに水100gを注ぎ、この水に硫化ナトリウム24gを溶解し、硫化ナトリウムが完全に溶解した状態の水溶液にリン酸二水素カリウム5.44gを溶解することにより調製した。酢酸ガスの発生源は、容量500mlのビーカーに水90gを注ぎ、この水に10gの氷酢酸10gを完全に溶解することにより調製した。
次に、両腐食性ガスの発生源を、同一の冷蔵庫の庫内に同時に収容した。なお、庫内を適度な湿度に保持するために、ビーカーに水100gを入れたものを、両腐食性ガスの発生源と共に庫内に収容した。
上記の状態で、冷蔵庫を冷却運転し、蒸発器10が腐食性ガスにより腐食して孔が開き、蒸発器10からガスが漏れ始めるまでの期間を調べた。なお、両腐食性ガスの発生源であるビーカーは、約200時間の運転毎に、新しく調製したものと交換した。また、冷蔵庫内の腐食性ガスの濃度は、冷却運転中、硫化水素濃度約6ppm、酢酸濃度約1ppmであった。
蒸発器10のガス漏れについては、ガス漏れ用のチェック液を塗布した蒸発器10の内部にガス圧1MPaの窒素ガスを充填し、目視により確認した。なお、冷蔵庫の冷却運転は、蒸発器10にガス漏れが確認された時点で中止するものとした。結果を表1にまとめた。
【0026】
【表1】

【0027】
(酸性の腐食性ガスによる試験結果)
表1に示すように、実施例1−1に係る蒸発器10においてガス漏れが認められたのは、冷却運転開始後210日目であった。これに対し、比較例1−1に係る蒸発器10では冷却運転開始後69日目にガス漏れが認められた。これは、実施例1−1に係る蒸発器10に形成された防食塗膜24の上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20と、硫化水素ガス及び酢酸ガス(腐食性ガス)とが反応し、アルミニウム粒子20に腐食性ガスが吸収されることにより、蒸発器10の外表面の腐食が抑制されたためであると考えられる。
【0028】
また、比較例1−2に係る蒸発器10では、冷却開始後74日目にガス漏れが認められた。これは、比較例1−2においては、下塗り塗膜に含まれるアルミニウム粒子20と、腐食性ガスとが反応し、アルミニウム粒子20が膨張したため、下塗り塗膜が厚さ方向外方に膨らみ、さらに、下塗り塗膜の上に形成された上塗り塗膜も厚さ方向外方に膨出したことにより、上塗り塗膜に亀裂が発生し、この亀裂から腐食性ガスが侵入して蒸発器10を腐食させたたためと考えられる。これに対し実施例1−1では、腐食性ガスを吸収するアルミニウム粒子20は上塗り塗膜21に含まれる構成となっているから、アルミニウム粒子20と腐食性ガスとが反応してアルミニウム粒子20が膨張して上塗り塗膜21が厚さ方向外方に膨らんでも、下塗り塗膜19に変形が及ばないようになっている。そして、この下塗り塗膜19はクリア塗料により形成されているから、塗膜欠陥が生じにくくなっており、蒸発器10の表面を確実に保護できる。これにより、腐食性ガスの侵入が抑制されたと考えられる。
そして、比較例1−3に係る蒸発器10では、冷却開始後120日目にガス漏れが認められた。これは、腐食性ガスは、樹脂塗膜と、アルミニウム粒子20との界面に沿って侵入するために、下塗り塗膜及び上塗り塗膜の双方にアルミニウムを含む構成とすると、腐食性ガスが容易に蒸発器10の外表面に到達してしまうことによると考えられる。これに対して実施例1−1では、下塗り塗膜はクリア塗料により形成されているから、腐食性ガスはこのクリア塗料により形成された下塗り塗膜を透過しにくくなっており、この結果、比較例1−3よりもガス漏れしにくくなったものと考えられる。
以上説明したように、本実施形態によれば、蒸発器10の外表面にクリア塗膜からなる下塗り塗膜19を形成し、この下塗り塗膜19の上に、アルミニウム粒子20を含む上塗り塗膜21を形成することにより、酸性の腐食性ガスにより蒸発器10が腐食されるのを抑制することができる。
【0029】
<実施例2−1>
実施例2−1については、まず、実施例1−1と同様にして、クリア塗料を用いて、厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜19を形成した。その後、この下塗り塗膜19の上に、以下のようにして中塗り塗膜23を形成した。
中塗り塗膜23を形成するための塗料は、以下のようにして調製する。この塗料は、フェノール変性エポキシ樹脂塗料70重量部と、亜鉛粒子22を30重量部秤量したものとを混合、撹拌してなる。このフェノール変性エポキシ樹脂塗料は、実施例1−1で使用したクリア塗料と同じ組成のものであり、エポキシ樹脂ワニス60.5重量部、エポキシ溶性フェノール樹脂ワニス31.7重量部、溶剤7.6重量部、添加剤7.6重量部とからなる。上記の亜鉛粒子22は、平均粒径33μmの鱗片状を呈する亜鉛フレークである。
実施例1−1と同様に下塗り塗膜19を形成した蒸発器10を、亜鉛粒子22を分散させた塗料中に、蒸発器10を浸漬し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、下塗り塗膜19の上に中塗り塗膜23を形成する。この中塗り塗膜23の厚さは、23μm〜25μmであった。
続いて、この中塗り塗膜23の上に、実施例1−1において上塗り塗膜21を形成したのと同じ組成の、アルミニウム含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、中塗り塗膜23の上に、厚さ23μm〜25μmのアルミニウム粒子20を含有する上塗り塗膜21を形成した。上記した以外は、実施例1−1と同様にして蒸発器10を作製した。
<実施例2−2>
実施例2−2については、実施例2−1と同様にして厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成した後、この下塗り塗膜の上に、実施例1−1において上塗り塗膜21を形成したのと同じ組成の、アルミニウム含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、下塗り塗膜19の上に、アルミニウム粒子20を含有する厚さ23μm〜25μmの中塗り塗膜(図示せず)を形成し、さらにこの中塗り塗膜の上に、実施例1−1において上塗り塗膜21を形成したのと同じ組成の、アルミニウム含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、中塗り塗膜の上に、アルミニウム粒子20を含有する厚さ23μm〜25μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例2−1と同様にして蒸発器10を作製した。
【0030】
<比較例2−1>
比較例2−1については、蒸発器10の外表面に、実施例1−1と同様にして厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成した後、この下塗り塗膜の上に、実施例1−1の下塗り塗膜19を形成したのと同じ組成のクリア塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、下塗り塗膜の上に、クリア塗料により形成された厚さ15μm〜18μmの中塗り塗膜(図示せず)を形成し、この中塗り塗膜の上に、実施例1−1の下塗り塗膜19を形成したのと同じ組成のクリア塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、中塗り塗膜の上に、クリア塗料により形成された厚さ15μm〜18μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例2−1と同様にして蒸発器10を作製した。
<比較例2−2>
比較例2−2については、蒸発器10の外表面に、実施例2−1と同様にして厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜(図示せず)及び厚さ23μm〜25μmの中塗り塗膜(図示せず)を形成した後、この中塗り塗膜の上に、実施例2−1において中塗り塗膜23を形成したのと同じ組成の、亜鉛含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、亜鉛粒子22を含む厚さ23μm〜25μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例2−1と同様にして蒸発器10を作製した。
<比較例2−3>
比較例2−3については、蒸発器10の外表面に、実施例2−1と同様にして厚さ15μm〜18μmの下塗り塗膜(図示せず)を形成した後、この下塗り塗膜の上に、実施例2−1において上塗り塗膜21を形成したのと同じ組成の、アルミニウム含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、アルミニウム粒子20を含む厚さ23μm〜25μmの中塗り塗膜(図示せず)を形成し、この中塗り塗膜の上に、実施例2−1において中塗り塗膜23を形成したのと同じ組成の、亜鉛含有塗料を塗布し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、亜鉛粒子22を含む厚さ23μm〜25μmの上塗り塗膜(図示せず)を形成した以外は、実施例2−1と同様にして蒸発器10を作製した。
【0031】
(酸性の腐食性ガスによるガス漏れ試験)
実施例2−1及び2−2並びに比較例2−1ないし2−3に係る蒸発器10に対して、実施例1−1及び比較例1−1ないし1−3に係る蒸発器10に行われた酸性の腐食性ガスによるガス漏れ試験と同一の手法により、酸性の腐食性ガスによるガス漏れ試験を行い、その結果を表2にまとめた。
【0032】
【表2】

【0033】
(酸性の腐食性ガスによる試験結果)
表2に示すように、実施例2−1に係る蒸発器10では、ガス漏れが認められたのは冷却運転開始後300日目であり、実施例2−2に係る蒸発器10では、320日目であった。これに対し、比較例2−1に係る蒸発器10では、冷却運転開始後80日目にガス漏れが認められた。これは、実施例2−1及び2−2に係る蒸発器10に形成された防食塗膜24の中塗り塗膜23及び上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20及び亜鉛粒子22により、腐食性ガスが吸収されることで、蒸発器10の外表面の腐食が抑制されたためであると考えられる。
なお、亜鉛は、アルミニウムと同じく両性金属であるため、酸性及びアルカリ性の腐食性ガスと反応して吸収することができる。もっとも、酸性の腐食性ガスに対してはアルミニウムのほうが亜鉛よりも溶解しにくいため、実施例2−1と実施例2−2とを比較すると、実施例2−2の方がガス漏れしにくくなったと考えられる。
また、比較例2−2においては60日目にガス漏れが認められた。これは、実施例2−1においては酸性の腐食性ガスに比較的強いアルミニウム粒子20が上塗り塗膜21に含まれているのに対し、比較例2−2においては、中塗り塗膜23及び上塗り塗膜21に、酸性の腐食性ガスに比較的容易に溶解する亜鉛粒子22のみが含まれているためであると考えられる。
そして、比較例2−3においては、230日目にガス漏れが認められた。これは以下のように考えられる。まず、酸性の腐食性ガスは、中塗り塗膜23に含まれるアルミニウム粒子20により吸収されるので、比較例2−1及び比較例2−2に比べては、ガス漏れまでの期間が長くなっているものと考えられる。しかしながら比較例2−3においては、酸性の腐食性ガスにより上塗り塗膜21に含まれる亜鉛粒子22が速やかに溶解してしまう。このため、蒸発器10は比較的早期の段階で下塗り塗膜19及び中塗り塗膜23の2層のみによって保護された状態になるため、蒸発器10の保護が十分でない。
これに対し、実施例2−1においては、まず、上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20により酸性の腐食性ガスが吸収されるから、蒸発器10は、比較的長期間にわたって、下塗り層19、中塗り層23、及び上塗り層21の3層で保護されるようになっている。このため、蒸発器10は酸性の腐食性ガスに対して十分に保護されるようになっているから、比較例2−3に比べてガス漏れしにくくなっているものと考えられる。
【0034】
一般的に、冷蔵庫内は酸性雰囲気下にあることが多いため、蒸発器10に対しては、酸性の腐食性ガスに対する耐性が強く求められる。また、銅製パイプ16は、酸性の腐食性ガスにより腐食されやすいため、蒸発器10を酸性の腐食性ガスから保護する必要性は高い。
したがって、上記したように実施例2−1及び実施例2−2に係る蒸発器10は、酸性の腐食性ガスに対して優れた耐性を示すことから、冷蔵庫内に配される蒸発器10として極めて有用である。
【0035】
(アルカリ性の腐食性ガスによるガス漏れ試験)
酸性の腐食性ガスに対して優れた耐性を示した実施例2−1及び2−2に対して、アルカリ性の腐食性ガスによるガス漏れ試験を行った。
まず、以下のようにして、アルカリ性の腐食性ガスであるアンモニアガスの発生源を調製した。まず容量500mlのビーカーに水90gを注ぎ、この水に10gのアンモニア水(28%)を完全に溶解することにより調製した。
続いて、アンモニアガスの発生源を、冷蔵庫の庫内に同時に収容した。なお、庫内を適度な湿度に保持するために、ビーカーに水100gを入れたものを、腐食性ガスの発生源と共に庫内に収容した。
上記の状態で、冷蔵庫を冷却運転し、蒸発器10がガス漏れに達する期間の確認を行った。なお、アンモニアガスの発生源であるビーカーは、約200時間の運転毎に、新しく調製したものと交換した。また、冷蔵庫内の腐食性ガスの濃度は、冷却運転中、アンモニア濃度約5ppmであった。
実施例2−1及び2−2に係る蒸発器10に対して、実施例1−1及び比較例1−1ないし1−3に係る蒸発器10に対して行われたガス漏れ試験と同一の手法により、アルカリ性の腐食性ガスによるガス漏れ試験を行い、その結果を表3にまとめた。
【0036】
【表3】

【0037】
(アルカリ性の腐食性ガスによる試験結果)
表3に示すように実施例2−1においては、240日目にガス漏れが認められた。これは、以下のように考えられる。まず、アルミニウムはアルカリ性の腐食性ガスにより比較的溶解しやすいため、上塗り塗膜21に含まれるアルミニウム粒子20がアンモニアガスにより溶解してしまう。しかしながら、中塗り塗膜23に含まれる亜鉛粒子22は比較的アルカリ性の腐食性ガスに溶解しにくいので、亜鉛粒子22によりアルカリ性の腐食性ガスが吸収されて、蒸発器10の外表面の腐食が抑制されたと考えられる。
また、実施例2−2においては、70日目と、実施例2−1よりも早期にガス漏れが認められた。これは、中塗り塗膜23及び上塗り塗膜21には、比較的アルカリ性の腐食性ガスに溶解しやすいアルミニウム粒子20のみが含まれているため、アルカリ性の腐食性ガスにより上塗り塗膜21及び下塗り塗膜19に含まれるアルミニウム粒子20が溶解して、蒸発器10の外表面が腐食されたためと考えられる。
以上説明したように、実施例2−1によれば、蒸発器10の外表面の上に、クリア塗膜からなる下塗り塗膜19を形成し、この下塗り塗膜19の上に、亜鉛粒子2を含む中塗り塗膜23を形成し、この中塗り塗膜23の上に、アルミニウム粒子20を含む上塗り塗膜21を形成することで、酸性の腐食性ガスによる腐食をアルミニウム粒子20により抑制すると共に、アルカリ性の腐食性ガスによる腐食を亜鉛粒子22により抑制することができる。これにより、酸性の腐食性ガスに対しても、アルカリ性の腐食性ガスに対しても、ガス漏れしにくい蒸発器10を得ることができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)本実施形態では、防食塗膜24は蒸発器10を塗料に浸漬した後、焼付け作業を行うことで形成したが、これに限られず、例えば吹付け塗装等、任意の塗装方法により形成することができる。
(2)本実施形態では、アルミニウム粒子20及び亜鉛粒子22はフレーク状をなしていたが、これに限られず、球形、回転楕円体、針状等、任意の形状であってもよい。
(3)本実施形態では、中塗り塗膜23には亜鉛粒子22を含む構成としたが、これに限られず、酸性又はアルカリ性の腐食性ガスを吸収可能であれば、スズなど任意の金属粒子を含む構成としてもよい。
(4)本実施形態では、本発明を蒸発器10に適用する構成としたが、これに限られず、本発明は、冷蔵庫外に配されて、冷媒の熱を庫外に放出する凝縮器14に適用してもよい。例えば温泉地域など硫化水素の発生する地域や、酢製造所など酢酸ガスの発生する地域に設置される場合など、外気に腐食性ガスが含まれる場所に冷蔵庫が設置される場合に、凝縮器14が腐食性ガスにより腐食することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る蒸発器を備える冷凍回路を示す概略構成図
【図2】蒸発器を示す正面図
【図3】実施例1−1に係る防食塗膜を示す模式断面図
【図4】実施例2−1に係る防食塗膜を示す模式断面図
【符号の説明】
【0040】
10…蒸発器(熱交換器) 16…銅製パイプ 19…下塗り塗膜 20…アルミニウム粒子 21…上塗り塗膜 22…亜鉛粒子 23…中塗り塗膜 24…防食塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を流通させる銅製パイプと、この銅製パイプに接触して設けられた放熱部材とからなり、表面に防食塗膜が形成された熱交換器であって、
前記防食塗膜は、前記蒸発器の外表面にクリア塗料により形成された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の上にアルミニウム粒子を含む塗料により形成された上塗り塗膜とを含むことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記アルミニウム粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記下塗り塗膜と前記上塗り塗膜との間には、亜鉛粒子を含む中塗り塗膜が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記亜鉛粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする請求項3記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−101154(P2007−101154A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294921(P2005−294921)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】