説明

熱伝導性フィルム

【課題】放熱性などの熱伝導性に優れたフィルムを提供する。
【解決手段】天然繊維から形成された基材と、該基材に担持された、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物とを有することを特徴とする熱伝導性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィルムに関する。より詳しくは、本発明は、電気・電子部品などの発熱部材に対する放熱部材として使用可能な、熱伝導性に優れるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすため、該発熱部材と筐体などとの間に、放熱部材として熱伝導性フィルムが介設されている。この熱伝導性フィルムは熱可塑性樹脂組成物からなるが、熱可塑性樹脂は金属材料などの無機物と比較して熱伝導性が低い。このため、熱伝導性フィラー(例:金属、セラミックス)を熱可塑性樹脂に配合することで高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている(例えば、特許文献1参照)。以下の特許文献2〜4には、従来の熱伝導性フィルムの放熱性などの問題を解決課題としたフィルムが開示されている。
【0003】
特許文献2には、熱源から離れた位置にある放熱体へ熱を拡散することが可能な、マトリックス樹脂に炭素繊維がシート平面と平行方向に配向して充填されている異方性熱導電性シートが開示されている。
【0004】
特許文献3には、低熱抵抗であり、しなやかさと適度な圧縮性とを有する放熱シートであって、金属メッキが施されたプラスチック繊維からなる織物、不織布または編物に、熱伝導性コンパウンドを塗布・含浸して得られる放熱シートが開示されている。
【0005】
特許文献4には、アルミパネルの精度不良による密着不良を防止し、発熱体から効率的に放熱しうる放熱シートであって、放熱ゲルなどの放熱材を、不織布状の放熱基材に含浸させて得られる放熱シートが開示されている。
【0006】
しかしながら、上述の熱伝導性フィルムは未だ放熱性などが充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−291220号公報
【特許文献2】特開2001−160607号公報
【特許文献3】特開2003−166154号公報
【特許文献4】特開2004−095987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術に存在する課題を解決しようとするものである。すなわち、本発明の課題は、放熱性などの熱伝導性に優れたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、従来の熱伝導性フィルムでは、異方性を有する熱伝導性フィラーが熱伝導性の低い方向に配向してしまい、期待する高熱伝導性が得られないことが判明した。
【0010】
そこで、本発明者らは、基材を単に熱伝導性フィラーを保持するためのものではなく、導電性フィラーの配向性をコントロールするために用いるという観点から更なる検討を行った。その結果、天然繊維から形成された基材、特に不織布状の基材に、熱伝導性フィラーおよびバインダーを含む組成物を担持させることにより、天然繊維周辺に熱伝導性フィラーが凝集し、該フィラーの配向性を乱すことができるため、熱伝導性に優れたフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[6]に関する。
[1]天然繊維から形成された基材と、該基材に担持された、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物とを有することを特徴とする熱伝導性フィルム。
【0012】
[2]天然繊維が、綿、麻およびパルプから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の熱伝導性フィルム。
[3]基材が、天然繊維から形成された不織布であることを特徴とする[1]または[2]に記載の熱伝導性フィルム。
【0013】
[4]熱伝導性フィラーが、炭素繊維およびセラミックスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[3]の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。
[5]バインダー樹脂が、アクリル重合体であることを特徴とする[1]〜[4]の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。
【0014】
[6]天然繊維から形成された基材に、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物を含浸、乾燥させて得られることを特徴とする[1]〜[4]の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱伝導性に優れたフィルムが提供される。本発明の熱伝導性フィルムは前記特性を有するため、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすための放熱部材として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の熱伝導性フィルムについて、好適な態様も含めて具体的に説明する。
〔熱伝導性フィルム〕
本発明の熱伝導性フィルムは、天然繊維から形成された基材と、該基材に担持された、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物(以下「熱伝導性樹脂組成物」ともいう。)とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の熱伝導性フィルムは、例えば、天然繊維から形成された基材に、必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を含浸、乾燥させて得られる。以下の説明では、熱伝導性樹脂組成物を基材に含浸あるいは塗布する際の「熱伝導性樹脂組成物」とは、「必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物」を意味することもある。
【0018】
熱伝導性樹脂組成物は、例えば、必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物中に基材を浸漬することにより基材に担持させてもよく、支持フィルムに固定された基材上に必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成することにより基材に担持させてもよい。このようにして、熱伝導性樹脂組成物を基材に担持させることができる。
【0019】
本発明の熱伝導性フィルムは、基材に熱伝導性樹脂組成物、すなわち熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂が担持された構成を有する。本発明の熱伝導性フィルムは、例えば、基材上に熱伝導性樹脂組成物から形成された熱伝導性樹脂層を有するフィルムであることが好ましい。このように、基材に担持された熱伝導性樹脂組成物とは、熱伝導性樹脂層を構成する熱伝導性樹脂組成物を意味する場合もある。熱伝導性樹脂層は基材の片面あるいは両面に形成されていてもよい。熱伝導性樹脂層が基材の両面に形成されている場合、基材は熱伝導性樹脂層中に配置(すなわち埋没)されていてもよい。基材として不織布を用いる場合、不織布中の少なくとも一部の空隙には熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂層が形成されている。また、本発明の熱伝導性フィルムは、上述の基材および熱伝導性樹脂層以外の層を有していてもよい。
【0020】
本発明の熱伝導性フィルムは、天然繊維、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含むため、優れた熱伝導性と、熱源などの被接着物に対する優れた密着性とを兼ね備えている。本発明の熱伝導性フィルムの熱伝導率は、通常は3W/m・K以上、好ましくは5W/m・K以上である。なお、前記フィルムの熱伝導率の上限は特に限定されないが、通常は10W/m・K程度である。
【0021】
本発明の熱伝導性フィルムの厚みは、通常は100〜1000μm、好ましくは200〜700μm、より好ましくは300〜600μmである。厚みが前記範囲を下回ると、熱伝導性フィルムの電気絶縁性が低下することがある。厚みが前記範囲を上回ると、塗工方式で生産する場合には、溶剤を充分に除去することが困難になってくるため、例えば、薄いフィルムを張り合わせて厚みを確保するなどの工程が必要になり、生産性が落ちることがある。
【0022】
<基材>
本発明において基材は、天然繊維から形成される。天然繊維としては、木綿、真綿、羊毛綿などの綿;麻;パルプなどが挙げられる。本発明において、これらは天然繊維としての綿、麻、パルプを意味する。また、繊維の構成要素のレベルで例示すれば、セルロースからなる天然繊維が挙げられる。天然繊維は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明では、このように、合成繊維から形成された基材ではなく、天然繊維から形成された基材を用いる。これにより、熱伝導率に優れた熱伝導性フィルムが得られる。
基材の形状としては、織布、不織布、シートなどが挙げられ、不織布が好ましい。天然繊維から形成された基材、特に不織布に熱伝導性樹脂組成物を含浸させることで、天然繊維周辺に熱伝導性フィラーが凝集し、該フィラーの配向性を乱すことが出来るため、フィルムの熱伝導性が向上する。これらの基材は従来公知の方法に従って製造することができる。
【0024】
基材の厚みは、通常は50〜1000μm、好ましくは100〜700μm、より好ましくは100〜500μmである。基材の目付は、通常10〜50g/m2、好ましくは20〜40g/m2である。
【0025】
<熱伝導性樹脂組成物>
熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を必須成分として含有し、さらに添加剤などを任意成分として含有してもよい。なお、熱伝導性樹脂組成物を基材に含浸あるいは塗布する際には、熱伝導性樹脂組成物を溶剤で希釈してもよい。
【0026】
《熱伝導性フィラー》
熱伝導性フィラーとしては、炭素繊維、セラミックスなどが挙げられ、熱伝導率の点で炭素繊維が特に好ましい。これらの熱伝導性フィラーを用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた電気絶縁性および熱伝導性を付与することができる。
【0027】
基材に担持された熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性フィラーの含有割合は、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは40〜80重量%である。熱伝導性フィラーの含有割合が前記範囲にあると、熱伝導性に優れた熱伝導性フィルムを得ることができる。
【0028】
熱伝導性フィラーとバインダー樹脂との密着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、熱伝導性フィラーはシラン処理剤などの表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としてば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。表面処理方法としては、従来公知の処理方法を利用できる。
【0029】
〈炭素繊維〉
本発明において炭素繊維を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた熱伝導性を付与することができる。炭素繊維としては、グラファイトファイバーなどが挙げられる。
【0030】
炭素繊維の繊維長としては、平均長が20〜500μmであることが好ましく、50〜300μmであることがより好ましく、100〜200μmであることが特に好ましい。炭素繊維の平均長が前記範囲にあると、バインダー樹脂への充填が容易である。炭素繊維の密度は、好ましくは1.0〜3.5g/cm3、より好ましくは1.5〜3.0g/cm3、特に好ましくは2.0〜2.5g/cm3である。
【0031】
〈セラミックス〉
本発明においてセラミックス粉末を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた強靭性および熱伝導性を付与することができる。セラミックスとしては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒素ケイ素などの金属窒化物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素などの金属炭化物;ダイヤモンド、グラファイトなどの絶縁性炭素材料などからなる粉末が挙げられる。これらの中では、粒度分布の制御が容易で、熱伝導性に優れることから、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末が好ましい。
【0032】
セラミックスは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
セラミックスは、例えば粉末の形態で用いられる。セラミックス粉末の形状としては、粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状などが挙げられる。
【0033】
《バインダー樹脂》
バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、これらの重合体にカルボキシル基やエポキシ基などの官能基を付与した重合体、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。これらの中では、熱伝導性樹脂組成物の取扱い性、塗工性および柔軟性の観点、および基材と熱伝導性樹脂層との密着性の観点から、アクリル重合体を好ましく用いることができる。
【0034】
なお、アクリル重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または共重合体の総称であり、具体的には(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を、全構成単位中に50〜100重量%含有する重合体のことを示す。
【0035】
アクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値で、好ましくは10000〜400000、より好ましくは20000〜200000、特に好ましくは30000〜160000である。Mwが前記範囲を下回ると熱伝導性フィルムに適度な強度を付与することが困難となる傾向があり、Mwが前記範囲を上回ると熱伝導性樹脂組成物の取扱い性が劣る傾向がある。Mwは、モノマーの共重合割合および重合温度などの条件を適宜選択することにより制御することができる。なお、Mwは、後述する実施例に記載の条件下で測定される値である。
【0036】
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル、および必要に応じて他の単量体を重合することにより製造することができる。なお、アクリル重合体を製造するに際して、重合開始剤を用いることが好ましい。
【0037】
−(メタ)アクリル酸エステル−
(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)で表される。
【0038】
【化1】

式(1)中、Zは水素原子またはメチル基を表し、Rは1価の有機基を表す。
【0039】
上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルグリシジル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0040】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0041】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0042】
フェノキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0043】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0044】
アルキルグリシジル(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
シクロアルキル(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0045】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0046】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなどのマクロモノマー類を挙げることもできる。
【0047】
これらの(メタ)アクリル酸エステルの中では、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステルは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記アクリル重合体において、その全構成単位中、上記(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位は、通常は50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれる。
【0049】
−他の単量体−
(メタ)アクリル酸エステルとともに使用可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニルフタル酸、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物類;1,3−ブタジエン、イソプレンなどの脂肪族共役ジエン類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなどのビニルエーテル類;末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリスチレン、ポリシリコーンなどのマクロモノマー類などが挙げられる。他の単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
−重合開始剤−
重合開始剤としては、N,N'−アゾビスイソブチロニトリル、4−アジドベンズアルデヒドなどのアゾ化合物またはアジド化合物;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、カンファーキノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−[4'−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのカルボニル化合物;ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのパーオキサイド化合物などが挙げられる。重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
基材に担持された熱伝導性樹脂組成物において、バインダー樹脂の含有割合は、熱伝導性フィラー100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは20〜70重量部である。バインダー樹脂の含有割合が前記範囲にあると、被接着物に対する粘着性に優れた熱伝導性フィルムを得ることができる。
【0052】
《添加剤》
上記熱伝導性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、熱伝導性フィラー以外の無機粉末を含有してもよい。また、上記熱伝導性樹脂組成物は、シランカップリング剤等の分散剤、可塑剤、接着助剤、ハレーション防止剤、レベリング剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含有してもよい。
【0053】
《熱伝導性樹脂組成物の調製方法》
上記熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーと、バインダー樹脂と、必要に応じて添加剤などの任意成分とを、ロール混練機、ミキサー、ホモミキサー、ビーズミルまたはサンドミルなどの混練・分散機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0054】
なお、熱伝導性樹脂組成物の塗工性を改良するため、基材に該樹脂組成物を担持させる工程において、該樹脂組成物を溶剤で希釈してもよい。溶剤で希釈する場合、ペースト状、液体状など何れでも構わないが、フィルムへの成形性などの観点から、ペースト状に調製することが好ましい。例えば、溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物の粘度は、1〜20Pa・sであることが好ましく、3〜15Pa・sであることがより好ましい。
【0055】
溶剤は、バインダー樹脂の溶解性および熱伝導性フィラーとの親和性が良好であり、熱伝導性樹脂組成物に適度な粘性を付与することができ、乾燥処理により容易に蒸発除去できる溶剤であることが好ましい。
【0056】
上記溶剤としては、標準沸点(1気圧における沸点)が60〜200℃の範囲にある、芳香族炭化水素類、ケトン類、アルコール類およびエステル類(以下、これらを「特定溶剤」ともいう。)が好ましい。
【0057】
上記特定溶剤としては、
トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;
n−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系アルコール類;
メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなどのエーテル系エステル類;酢酸−n−ブチル、酢酸アミルなどの飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸−n−ブチルなどの乳酸エステル類などが挙げられる。
【0058】
これらの中では、トルエン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートおよび乳酸エチルが好ましい。また、上記特定溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
さらに、上記特定溶剤以外の溶剤を用いてもよく、例えば、テレビン油、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソプロピルアルコールおよびベンジルアルコールが挙げられる。
【0060】
上記熱伝導性樹脂組成物を溶剤で希釈する場合は、上記溶剤は、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂の合計100重量部に対して、20〜100重量部の範囲で用いることが好ましく、30〜70重量部の範囲で用いることがより好ましい。
【0061】
〔熱伝導性フィルムの製造方法〕
本発明の熱伝導性フィルムは、例えば、天然繊維から形成された基材に、熱伝導性樹脂組成物を含浸、乾燥させて得ることができる。熱伝導性樹脂組成物の含浸方法として、以下の方法が挙げられる。
【0062】
第1に本発明の熱伝導性フィルムは、(1a)必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物中に基材を浸漬する工程、(2a)前記樹脂組成物中に浸漬された基材に超音波処理などの処理を必要に応じて行う工程、(3a)基材を前記樹脂組成物中から取り出す工程、(4a)前記樹脂組成物中から取り出された基材を乾燥する工程を順次行うことにより、製造することができる。
【0063】
工程(2a)において、必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物中に浸漬された基材に超音波処理などを必要に応じて行うことで、基材の空隙に熱伝導性フィラーを密に充填することができる。
【0064】
工程(4a)において、塗膜の乾燥条件としては、例えば50〜150℃で0.5〜30分程度であり、乾燥後における溶剤の残存割合(熱伝導性樹脂層中の溶剤の含有量)は、通常は2重量%以内である。
【0065】
第2に本発明の熱伝導性フィルムは、(1b)基材を支持フィルムに固定する工程、(2b)支持フィルムに固定された基材上に必要に応じて希釈された熱伝導性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥して熱伝導性樹脂層を形成する工程、(3b)同様の操作により基材の反対側に熱伝導性樹脂層を形成する工程、(4b)熱伝導性樹脂層/基材/熱伝導性樹脂層からなるフィルムを支持フィルムから剥離する工程を順次行うことにより、製造することができる。
【0066】
工程(1b)において、支持フィルムは、耐熱性および耐溶剤性を有するとともに、可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーターまたはブレードコーターなどによって支持フィルム上に上記熱伝導性樹脂組成物を塗布することができる。
【0067】
支持フィルムを形成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルおよびポリフロロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロースなどが挙げられる。
【0068】
支持フィルムの膜厚は、通常は20〜100μmである。また、支持フィルム表面には離型処理が施されていることが好ましい。これにより、支持フィルムからの樹脂層の剥離操作を容易に行うことができる。
【0069】
工程(2b)において、必要に応じて溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を基材上に塗布する方法としては、膜厚の均一性が高く、かつ膜厚が大きい(例えば10μm以上の)塗膜を効率よく形成することができる方法であることが好ましく、具体的には、ロールコーターによる塗布方法、ブレードコーターによる塗布方法、カーテンコーターによる塗布方法およびワイヤーコーターによる塗布方法などが挙げられる。塗膜の乾燥条件としては、例えば50〜150℃で0.5〜30分程度であり、乾燥後における溶剤の残存割合(熱伝導性樹脂層中の溶剤の含有量)は、通常は2重量%以内である。
【0070】
〔熱伝導性フィルムの用途〕
本発明の熱伝導性フィルムは熱伝導性に優れる。このため、本発明の熱伝導性フィルムは、電気・電子部品などの発熱部材に対する放熱部材として好適に用いることができる。
【0071】
具体的には、本発明の熱伝導性フィルムは、家電製品、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品などの発熱部材に対する放熱部材として好適に用いることができる。特に、多量の熱を発する家電製品やOA機器の外装部材として好適に用いることができる。
【0072】
また、本発明の熱伝導性フィルムは、照明装置などが有する光源で発生した熱を放熱するための放熱部材として用いることができる。特に有機EL(Electro Luminescence)照明装置において、有機EL発光素子近傍で発生する熱を逃がすための放熱部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の熱伝導性フィルムについて実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特記しない限り、「重量部」および「重量%」を示す。
【0074】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
バインダー樹脂(アクリル重合体)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC)を用いて、ポリスチレン換算で測定した値である。
・測定方法:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法
・標準物質:ポリスチレン
・装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
・カラム:東ソー(株)製、商品名:Tskguardcolumn SuperHZM-M
・溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・測定温度:40℃
【0075】
<伝導率測定>
熱伝導性フィルムの熱伝導率(W/m・K)は、厚み500μmのフィルムを作製し、株式会社アイフェイズ製熱伝導率測定システム(ai−Phase Mobile 1u、温度波分析法により測定)を用いて測定した。
【0076】
〔合成例1〕バインダー樹脂の合成
ブチルメタクリレート40部、ラウリルメタクリレート60部およびN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.75部を、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下において室温で均一になるまで攪拌した。
【0077】
攪拌後、80℃で3時間重合させ、さらにN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.25部を加えて1時間重合させ、100℃で1時間重合を継続させた後、室温まで冷却してポリマー溶液を得た。
【0078】
得られたポリマー溶液は、重合率が99%であり、このポリマー溶液から析出した共重合体(バインダー樹脂)のGPCにより測定されたMwは101000であった。
【0079】
〔調製例1〕溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物の調製
グラファイトファイバー(平均長:150μm、密度2.2g/cm3)100部、合成例1で得られたバインダー樹脂50部、およびトルエン50部をビーズミルで混練りし、溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0080】
[実施例1]不織布フィルムの作製
PETフィルムと、該PETフィルム上に固定された綿の不織布(厚み100μm、目付27.5g/m2)とからなる複合フィルムを準備した。ブレードコーターを用いて調製例1で得られた熱伝導性樹脂組成物を前記不織布上に塗布して塗膜1を形成し、該塗膜1を100℃で5分間乾燥して溶剤を完全に除去した。塗膜1上にPETフィルムを貼付し、前記不織布上のPETフィルムを剥離した。ブレードコーターを用いて調製例1で得られた熱伝導性樹脂組成物を、前記不織布の塗膜1が形成された面とは反対側の面上に塗布して塗膜2を形成し、該塗膜2を100℃で5分間乾燥して溶剤を完全に除去した。前記塗膜1上のPETフィルムを剥離し、不織布および熱伝導性樹脂層からなる平均膜厚500μmの熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムの熱伝導率は5W/m・Kであった。
【0081】
[実施例2]不織布フィルムの作製
調製例1で得られた熱伝導性樹脂組成物中に綿の不織布(厚み100μm、目付27.5g/m2)を浸漬した状態で、超音波処理を5分間行った後、不織布を取り出し、該不織布を100℃で5分間乾燥して溶剤を完全に除去し、平均膜厚500μmの熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムの熱伝導率は7W/m・Kであった。
【0082】
〔調製例2〕溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物の調製
窒化ホウ素(平均粒径:18μm、密度2.3g/cm3)100部、合成例1で得られたバインダー樹脂50部、およびトルエン50部をビーズミルで混練りし、溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0083】
[実施例3]不織布フィルムの作製
実施例1において、熱伝導性樹脂組成物として調整例2で得られた熱伝導性樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、不織布および熱伝導性樹脂層からなる平均膜厚500μmの熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムの熱伝導率は3W/m・Kであった。
【0084】
〔調製例3〕溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物の調製
グラファイトファイバー(平均長:150μm、密度2.2g/cm3)100部、シリコーンゲル(SR2400、東レ・ダウコーニング(株)製)50部、およびトルエン50部をビーズミルで混練りし、溶剤で希釈された熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0085】
[実施例4]不織布フィルムの作製
実施例1において、熱伝導性樹脂組成物として調整例3で得られた熱伝導性樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、不織布および熱伝導性樹脂層からなる平均膜厚500μmの熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムの熱伝導率は5W/m・Kであった。
【0086】
[比較例1]不織布フィルムの作製
実施例1において、不織布としてナイロン繊維の不織布を用いたこと以外は実施例1と同様にして、不織布および熱伝導性樹脂層からなる平均膜厚500μmの熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムの熱伝導率は1.5W/m・Kであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維から形成された基材と、
該基材に担持された、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物と
を有することを特徴とする熱伝導性フィルム。
【請求項2】
天然繊維が、綿、麻およびパルプから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項3】
基材が、天然繊維から形成された不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項4】
熱伝導性フィラーが、炭素繊維およびセラミックスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項5】
バインダー樹脂が、アクリル重合体であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項6】
天然繊維から形成された基材に、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む組成物を含浸、乾燥させて得られることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の熱伝導性フィルム。

【公開番号】特開2011−251467(P2011−251467A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126857(P2010−126857)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】