説明

熱伝導性棒状樹脂成形体

【課題】熱伝導率が高く、熱伝導率の異方性が小さい、切削加工用母材として有用な熱伝導性棒状樹脂成形体を得る。
【解決手段】熱可塑性樹脂100重量部と、黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)が20nm以上の黒鉛化炭素材料を25〜230重量部とを少なくとも含む熱伝導樹脂組成物を固化押出成形することにより切削加工用母材として有用な熱伝導性棒状樹脂成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に切削用母材として有用な棒状成形体に関し、高い熱伝導性、放熱性を有する熱伝導性棒状樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形部品は現在、各種用途に広く用いられているが、部品成形に用いる金型を作成する前の事前検討目的として、ブロック状や棒状の樹脂母材を利用して切削加工を行い、部品のモデルを作成する場合がある。こうした切削加工用母材は粉体圧縮成形法や固化押出成形法(例えば特許文献1、2)等により作成される。
【0003】
一般に粉体圧縮成形法では、所定の内容積を有する金型内に粉体状の材料を仕込み、高温高圧で材料を溶融圧縮してブロック状の成形物を得るが、バッチ方式の製造となり、生産性が高くない、圧縮条件により成形体物性が大きく変化するため、安定した物性を得る制御が難しい、成形物の形状やサイズが制約される等の問題がある。
これに対し、固化押出成形法は連続的な製造を前提としており、円、多角形等の断面を有する長尺の棒状成形体を得るのに有利な手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−313052号公報
【特許文献2】特公昭62−33059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気電子分野を中心に熱伝導率の高い樹脂成形部品が求められるようになってきている。すなわち一般的な樹脂は熱伝導率として0.2W/m・K前後の低い値を示し、伝熱性に劣っている為、電子デバイス、電気的駆動部等で発生する発熱を逃がす(放熱する)能力が低く、こうした分野での利用に制約を生ずる場合があった。
これに対し、非常に高い熱伝導率を有する熱伝導性フィラーを樹脂に混合することにより、樹脂の熱伝導率を著しく高め、適用を可能にしようとする検討が進みつつある。
【0006】
ここで、これら熱伝導性フィラーを含む熱伝導性樹脂はまだまだ新しい材料である為、実用に当っては様々な事前検討が必要であり、まずは切削加工による部品モデル(モックアップ)を作成し、諸々の実証試験を行った上で、量産段階で主に用いられる射出成形用の樹脂金型の設計、作成を行うといったプロセスを踏むことが好ましい。
また製品としての生産数量が比較的少量であって、射出成形金型を起す適性数量に満たない場合には、切削加工で最終製品の部品を製造する場合もある。
【0007】
また更には射出成形で製品が作成出来ない場合にも、切削加工で最終製品の部品を製作する場合がある。射出成形で成形できない場合とは、たとえば製品の厚みが大きくボイドやヒケが発生する場合、要求寸法精度が非常に高く射出成形では実現できない場合、製品サイズが大きく射出成形金型の作成が難しいになる場合などを言う。
【0008】
熱伝導率の高い切削用母材としては、母材内のいずれかの方向に対して一般的な樹脂の10倍以上の高熱伝導率、具体的には2W/m・K以上の熱伝導率を有することが好ましい。
【0009】
さて部品を量産する段階では射出成形が用いられるが、繊維状フィラーを複合した成形用樹脂を用いた場合には、射出成形時の樹脂流動方向への繊維状フィラーの配向に由来する物性異方性(XYZ方位による異方性)が生ずる傾向がある。
【0010】
こうした異方性発現が想定される場合、モックアップとして作成される切削部品にも類似の物性異方性を有させることが好ましいが、この実現には母材自身も物性異方性を有することが必要となる。棒状の母材の切削加工を行う場合、捧の断面方向を基準面として切削する場合が多いことから、捧の断面方向(XY方向)にほぼ等方性であって、長さ方向(Z方向)に異方性を有する、すなわちXY方向とZ方向とのフィラー配向性が異なる成形体を切削用母材に用いることが好ましい。また更に好ましくは実用上必要な範囲で成形体の異方性の程度をコントロールできる成形体が好ましい。
【0011】
尚、繊維状フィラーが熱伝導性である場合には、異方性は熱伝導率の相違として表れてくるので、成形体の断面方向(XY方向)と長さ方向(Z方向)で熱伝導率の異方性を有し、その異方性比が所定の範囲にある棒状成形体が切削用母材用としては好ましい。
【0012】
また切削加工用母材としては、加工性の観点から、複雑な切削加工(例えば肉厚1mmを切る薄肉形状の作成など)に耐える機械的強度が必要である。特に熱伝導性フィラーを混合した樹脂成形体は脆くなり易い傾向があり、衝撃強度が低下する場合が多いが、高い熱伝導性を得る半面で、極端な衝撃強度の低下があると、切削加工中の母材もしくは切削部品の破損が生じやすくなり、好ましくない。
【0013】
このように成形体の断面方向(XY方向)と長さ方向(Z方向)で熱伝導率の異方性を有し、その異方性比が所定の範囲にあり、かつ必要な機械的強度が確保され、切削用樹脂母材として製造できるサイズの自由度の高い熱伝導樹脂成形体はこれまで提案されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記の課題に鑑み、為されたものであり、本発明は、熱可塑性樹脂100重量部と、黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)が20nm以上の高結晶性の黒鉛化炭素材料25〜230重量部とを少なくとも含む熱伝導性樹脂組成物を固化押出成形してなる熱伝導性棒状成形体である。好ましくは前記高結晶性の黒鉛化炭素材料は、平均アスペクト比が2〜2000の黒鉛化炭素短繊維である熱伝導性棒状樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、切削用樹脂母材として好適な、高熱伝導率を有し、棒状成形体の断面方向の熱伝導率が長さ方向の熱伝導率よりも高く、その熱伝導率の異方性比が所定の範囲にあり、必要な機械的強度が確保され、成形サイズの自由度の大きな熱伝導性棒状樹脂成形体を生産性高く得ることが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について順次説明する。
[熱伝導性棒状成形体]
本発明の熱伝導性棒状成形体は、熱伝導性フィラーとして高結晶性の黒鉛化炭素材料を用いることにより、高い熱伝導率を有し、かつ必要な機械的強度が確保される。また固化押出成形法を用いることにより、棒状成形体の断面方向の熱伝導率が、長さ方向(押出方向)の熱伝導率よりも高く、その熱伝導率の異方性比が所定の範囲にあることを特徴とする棒状成形体であり、切削用母材として好ましく用いることができる。
【0017】
ここで固化押出成形法とは、例えば特公昭62−33059号公報に例示されているような公知の成形法であり、押出機で溶融・混練された樹脂を押出機先端に取り付けられた金型内に流し込み、この金型内で徐冷、固化させながら、連続して丸棒・板を押し出す成形方法である。押出成形される成形体の形状(丸捧状、角棒状、異形棒状等)は取り付ける金型口の形状によって決定される。
【0018】
固化押出成形法における重要なパラメーターとしては、1)樹脂温度、2)金型温度、3)成形速度、4)背圧(押出機スクリューによって発生される圧力)、5)先端圧(自由に吐出しようとする樹脂を金型出口側から各種方法を用いブレーキをかけることによりせき止めることによって発生せしめる圧力)等があり、成形する樹脂の特性に合わせてこれらパラメーターのバランスを調整することが肝要である。
【0019】
特に熱伝導性の優れた樹脂を用いて成形体を製造する場合には、溶融樹脂内部から金型壁面への熱伝達性が良い為、溶融樹脂の冷却速度が相対的に早くなる傾向がある。従って、これを補償するような金型温度およびまたは温度勾配を決定することも好ましい。
【0020】
具体的には、一般の非強化樹脂の押出成形の場合には熔融樹脂温度を、融点+0℃〜+100℃(ただしその樹脂の熱分解温度以下)に設定することが好ましいが、本発明で用いる熱伝導性樹脂の場合、それより10℃〜50℃高く設定することが好ましい。また金型温度は、熱伝導性樹脂が高熱伝導率であることにより熱量の損失速度が速いことを考慮し、一般の非強化樹脂の金型温度より温度勾配を小さくし、さらに徐冷することが好ましい。
【0021】
さて樹脂の流動速度の高い通常の押出成形法、射出成形法等では、樹脂にかかるせん断力により、押し出し方向に繊維状フィラーが強く配向した成形体が得られるのが一般的である。これに対し、固化押出成形法を用いた場合、既述のように金型内で溶融樹脂を徐冷、固化させながら押出成形する関係上、金型内の樹脂流動速度が遅く(例えば数mm/分前後の速度)、樹脂へのせん断力も非常に小さくなる為に、押出方向への繊維状フィラーの配向が抑制され、逆に押出方向(Z方向)に垂直な方向、すなわち成形体の断面方向(XY方向)に優先的に繊維状フィラーが配向するといった特徴的なフィラー配向が得られることが判明した。
【0022】
この場合、成形体内部では繊維状の熱伝導性フィラーの配向方向に相対的に熱伝導率が高くなることから、成形体の断面方向(XY方向)の熱伝導率が、長さ方向(Z方向)の熱伝導率よりも高くなる形になる。
【0023】
このようなフィラー配向の特徴は本発明の目的である、断面方向(XY方向)にほぼ等方性で、長さ方向(Z方向)に異方性を有し、かつ異方性の度合が所定の範囲にある棒状成形体を得る上で非常に好ましい。
【0024】
尚、黒鉛化炭素材料を熱可塑性樹脂に混合してなる熱伝導性樹脂を用いて、一般的な溶融押出成型もしくは射出成形を行った場合には、樹脂の押し出し方向(流動方向)に平行な方向の熱伝導率が、その垂直方向(断面方向)に対する熱伝導率よりも高くなること、また更には、例えば直径25mmを越える丸棒等の断面積の大きな棒状の成形体を作成することが装置の仕様上、困難であること等の理由により、熱伝導性(放熱性)の検証目的で用いる切削用母材としては適当ではない。
【0025】
すなわち本発明の熱伝導性棒状樹脂成形体は、高い熱伝導率を有することを特徴とし、断面方向の熱伝導率が少なくとも2W/m・K以上であることが好ましく、より好ましくは3W/m・K以上、更に好ましくは5W/m・K以上、最も好ましくは7W/m・K以上である。
【0026】
また本発明の熱伝導性棒状樹脂成形体は、棒状成形体断面方向の熱伝導率が長さ方向の熱伝導率よりも高く、かつその熱伝導率の異方性比が所定の範囲にあることを特徴とし、断面方向と長さ方向の異方性比は10:1〜3:2の範囲であることが好ましく、より好ましくは8:1〜3:2の範囲、更に好ましくは3:2の範囲である。
【0027】
尚、熱伝導性棒状樹脂成形体の断面方向の熱伝導率が2W/m・K未満の場合には、熱伝導性を特徴とする部品用途への使用に好ましくなく、また10:1を上回るような熱伝導率の極端な異方性は好ましくない。
【0028】
また熱伝導性棒状樹脂成形体に用いる熱伝導性樹脂組成物の耐衝撃性としては、ISO180/1Aに準拠したノッチ付きアイゾット衝撃強度の値が、2kJ/m以上であることが好ましく、より好ましくは3kJ/m以上、更に好ましくは4kJ/m以上、最も好ましくは5kJ/m以上である。
【0029】
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の熱伝導性棒状樹脂成形体に用いる熱伝導性組成物は、マトリクスとなる熱可塑性樹脂に所定量の高結晶性の黒鉛化炭素材料を少なくとも混合してなる。この熱伝導性樹脂組成物を用いて、固化押出成形してなる熱伝導性棒状樹脂成形体が本発明の目的とする棒状成形体として好ましい特性を示す。
【0030】
黒鉛化炭素材料は、熱可塑性樹脂100重量部に対し25〜230重量部、より好ましくは40〜200重量部、更に好ましくは50〜150重量部複合されることが好ましい。
熱可塑性樹脂100重量部に対し黒鉛化炭素材料が25重量部未満では熱伝導樹脂層の熱伝導性が不十分となり易く、230重量部超では熱伝導樹脂層の機械的強度や成形性が顕著に低下する場合が多くなる。
【0031】
[黒鉛化炭素短繊維]
熱可塑性樹脂組成物を構成する黒鉛化炭素材料は、高熱伝導性のフィラーとして使用する目的において、高結晶性の黒鉛構造を有することが好ましい。黒鉛結晶構造の成長度合は機器分析可能な幾つかの物性値により表現することができ、例えば黒鉛結晶の結晶子サイズや面間隔、炭素材料の真密度等の物性値が挙げられるが、本発明に用いる黒鉛化炭素材料としては、それらの物性値を代表して、少なくとも黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)として20nm以上の黒鉛化性に優れた黒鉛化炭素材料を用いる。Lcの値が20nm未満であると、例えば数100W/m・Kを超える高熱伝導率の黒鉛化炭素材料が得られにくく、本発明の目的に不十分となりやすい。結晶子サイズ(Lc)は好ましくは30nm以上、更に好ましくは40nm以上、最も好ましくは50nm以上である。
【0032】
黒鉛化炭素材料としては、黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)として20nm以上の黒鉛化炭素短繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等が挙げられる。尚、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛には微粒子状や扁平板状のもの等があるが、本発明においては熱伝導樹脂組成物中でのネットワークの効率的形成の観点で扁平形状のものが特に好ましく用いられる。
【0033】
本発明で用いる黒鉛化炭素材料は、平均繊維長と平均繊維径との比で表される平均アスペクト比が2〜2000の範囲にある黒鉛化炭素短繊維であることが最も好ましい。平均アスペクト比が2未満であると、熱伝導樹脂組成物中でのネットワークの効率的な形成が困難となり、その結果、高い熱伝導率を得ることが難しくなる。また2000超になると熱伝導樹脂組成物中と黒鉛化炭素短繊維の混練が困難になる。平均アスペクト比はより好ましくは3〜300、更に好ましくは5〜100、最も好ましくは10〜50である。
【0034】
黒鉛化炭素短繊維の平均繊維径に関しては特に限定はないが、ハンドリング性の観点から、概ね0.2〜20μm、より好ましくは3〜15μm、更に好ましくは5〜12μmのものが好ましい。
また黒鉛化炭素短繊維の平均繊維長についても特に限定はないが、ハンドリング性の観点から、概ね10〜10000μm、より好ましくは20〜1000μm、更に好ましくは30〜500μm、最も好ましくは50〜300μmのものが好ましい。
【0035】
結晶子サイズ(Lc値)が20nm以上の高結晶性の黒鉛化炭素材料としては、例えばメソフェーズピッチを溶融紡糸、不融化、黒鉛化してなるメソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維が最も好ましく用いられる。メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維については後段で詳述する。
【0036】
尚、高結晶性の黒鉛化炭素短繊維としては、メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の他に、金属触媒存在下で炭素含有ガスを分解、縮合してなる気相成長型の黒鉛化炭素短繊維、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー(例えば昭和電工「VGCF」等)も挙げられる。
【0037】
ただしこれら気相法による黒鉛化炭素短繊維は、メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維に比べて、マトリクスの熱可塑性樹脂への混練性に劣っており、熱可塑性樹脂中に多量に混合することは一般に難しく、利用上の制限がある。
【0038】
[その他の熱伝導性フィラー]
熱可塑性樹脂組成物には、熱伝導性フィラーとして、前記黒鉛化炭素材料以外に、金、銀、銅、アルミニウム、珪素等の金属およびその合金類、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等の金属酸化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物類、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物類、窒化炭素類、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物類、炭化珪素等の金属炭化物類、ダイヤモンド、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩類、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩類、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩類等による粒子状、不定形状、繊維状、ウイスカ状等の形態を持ったフィラー類を適量混合しても構わない。
【0039】
黒鉛化炭素材料以外の熱伝導性フィラーを含む場合、熱可塑性樹脂100重量部に対し、黒鉛化炭素材料とそれ以外の熱伝導性フィラーとの合計で230重量部未満、より好ましくは200重量部未満の範囲で複合されることが好ましい。
【0040】
[添加物等]
樹脂層の安定性、耐久性を高める目的、成形性を高める目的等において、適当な添加剤を用いることも可能である。これら添加剤としては、より具体的には、公知の紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、難燃剤等が挙げられる。
【0041】
また樹脂層には機械的強度を高める為の補強用フィラーも添加されても良い。補強用フィラーとしては、繊維長が0.1〜10mm程度、より好ましくは0.3〜6mm程度のガラス短繊維、炭素短繊維、アラミド短繊維等が挙げられる。尚、炭素短繊維としては特にポリアクリロニトリルを出発原料とするPAN系炭素繊維が好ましい。
【0042】
[熱伝導性フィラー、添加物等の混合方法]
熱可塑性樹脂と黒鉛化炭素材料、さらには黒鉛化炭素材料以外の熱伝導性フィラー、補強用フィラー、添加剤等との混合に関しては、単軸もしくはニ軸の混練用スクリューを有する公知の溶融混練装置、各種ミキサー、ブレンダー、撹拌機などを単体もしくは組み合わせて実施することができる。
【0043】
[熱可塑性樹脂]
本発明における熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、具体的には例えば、ポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、ポリイミド類及びその共重合体、ポリエーテルイミド類およびその共重合体、そのポリアミドイミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリアリレート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、ポリベンゾイミダゾール類およびその共重合体、ポリシリコーン系重合体等が挙げられる。
【0044】
これらの中で一般的に固化押出成形での安定生産を行う上での適性に関して、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルイミド類およびその共重合体、ポリベンゾイミダゾール類およびその共重合体、ポリブチレンナフタレート等が特に好適に挙げられる。
【0045】
尚、これら熱可塑性樹脂にはその柔軟性、後加工性、取り扱い性を高める目的で、ソフトセグメントとなる各種エラストマー成分等を共重合成分として用いた樹脂、もしくはマトリックスの樹脂中にマトリックスとは別種の樹脂を海島状に分散してなる樹脂を用いることも可能である。
【0046】
[メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の製造方法]
本発明において熱伝導性フィラーとして好適に用いられるLcが20nm以上の発達した黒鉛結晶を有する黒鉛化炭素材料、なかでも黒鉛化炭素短繊維を得るには、メソフェーズピッチを用いて紡糸を行うことが好ましい。
平均繊維径は、真円換算平均繊維径として、3〜20μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは5〜17μm、更に好ましくは7〜15μmである。
【0047】
尚、繊維径のバラツキを示す分散値(CV値)は所定本数測定時の繊維径の標準偏差を繊維径の平均値で除した値の百分率であるが、CV値は3〜20%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは3〜15%の範囲である。
【0048】
本発明ではメソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の繊維長は平均繊維長として30〜10000μm、好ましくは50〜100μm、より好ましくは100〜500μm、最も好ましくは150〜300μmの範囲にあることが好ましい。
これら黒鉛化炭素短繊維、なかでもメソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の好ましい製造方法については、例えば以下の通りである。
【0049】
ピッチ系黒鉛化炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましい。
【0050】
本発明の黒鉛化炭素短繊維の製造においては、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認できる。尚、ピッチは必要に応じ、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0051】
ピッチの軟化点温度は230〜360℃の範囲にあることが好ましい。軟化点温度は例えばメトラー法により求めることができる。軟化点温度が230℃より低いと、後述の不融化処理温度が低くなる関係で、不融化工程に長時間を要するため好ましくない。また一方、360℃を超えると、ピッチの熱分解による劣化を引き起こしやすくなり、発生したガスで繊維中に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。
【0052】
軟化点温度のより好ましい範囲は250℃以上340℃以下、更に好ましくは260℃以上320℃以下である。
このメソフェーズピッチを用いて、まず紡糸工程を行い、メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の前駆体繊維(以下、前駆体繊維という)を得る。
【0053】
紡糸方法には特に制限はないが、いわゆる溶融紡糸法が好ましく用いられる。より具体的には、例えば、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。
これらの中でも前駆体繊維の形態制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。
【0054】
以下、メルトブロー法による前駆体繊維の紡糸方法について詳述する。
紡糸ノズルの形状については特に制約なく、通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。
【0055】
一般にノズル孔の長さLと孔径Dの比L/Dは2〜30程度であることが好ましい。L/Dが2未満では、ピッチ溶融時のせん断力を高めることが難しくなり、L/Dが30を越えると紡糸圧力を高める必要が生じ、装置強度の確保を含めて装置のサイズアップが必要になったり、紡糸孔の面密度を上げ難くなり、生産性が低下する等の問題がある。
【0056】
一般にメルトブロー法における紡糸安定性を確保する上では、ノズル孔を通過する際のピッチの溶融粘度はおよそ1〜100Pa・sの範囲にあることが好ましい。
溶融ピッチの溶融粘度が1Pa・s未満であると、繊維形状を維持することが難しくなる。一方、溶融粘度が100Pa・sを超えると、紡糸ノズルの耐圧を相当に高める必要が出てくる為、装置のコストパフォーマンスの上で望ましくない。
【0057】
尚、紡糸工程においては、ノズル孔径の変更、ノズルからの原料ピッチの吐出量の変更、あるいはブロー風による前駆体繊維のドラフト比を変更する等の手法により、前駆体繊維の繊維径の調整が可能である。
【0058】
このうちドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを、ノズルから吐出された紡糸ピッチの細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0059】
製造時の紡糸安定性、ならびに後述する不融化・炭化工程を含む生産性の観点において、前駆体繊維の繊維径は真円換算平均繊維径として、およそ5〜25μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは7〜20μmである。
【0060】
メルトブロー法により紡糸された前駆体繊維は、例えば、ベルト可動の金網等にウェブ状の形態で捕集される。ウェブの厚みや目付量、密度等は紡糸条件とベルト搬送速度の設定により任意に調整できる。また必要に応じ、クロスラップ等の手法によりウェブを積層させることも可能である。ウェブの目付量としては生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
このようにして得られた前駆体繊維によるウェブは、ベルト等で搬送され、不融化処理の工程に送られる。
【0061】
不融化処理は公知の方法で行うことができる。例えば、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。尚、不融化処理は、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。
【0062】
不融化処理は、ピッチの軟化点温度よりも低温で処理することが好ましく、概ね150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は160〜340℃である。
【0063】
昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0064】
不融化処理の完了したウェブは、ベルト等で搬送され、炭化処理の工程に送られる。
炭化処理も公知の方法にて行うことができる。例えば、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中にて、ウェブを600〜2500℃前後の温度に加熱、熱処理することにより行うことができる。
【0065】
炭化処理を施した炭素繊維内部では有意に黒鉛結晶構造の発達が見られ、一般には熱処理温度が高いほど、熱処理時間が長いほど、また繊維に与える総熱量が大きいほど、結晶構造は大きく発達する。ただし後述の高度黒鉛化処理の工程を実施する場合には、同工程で黒鉛結晶構造の著しい発達が期待できることから、炭化処理工程の熱処理温度、時間、総熱量等を適宜抑えても構わない。
【0066】
炭化処理の工程はコスト面を考慮すると常圧かつ窒素雰囲気下で行うことが望ましい。また炭化処理は、バッチ処理、連続処理のどちらでも可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0067】
炭化処理の完了したウェブは、続いて粗粉砕工程を施すことが好ましい。粗粉砕工程とは各種の切断機およびまたは破砕・粉砕機等にウェブを投入し、ウェブの形状を破壊するとともに、ウェブ内部の炭素繊維を適当な繊維長を有する短繊維に切断する工程である。
【0068】
このように適当な長さの短繊維状に切断する目的は、後述の高度黒鉛化工程や湿式微粉砕工程における生産性、生産安定性、制御性等を高めることにある。ここで生産性を挙げた理由については、高度黒鉛化工程や湿式微粉砕工程が装置の関係上、バッチ処理で行われる場合が多い為、バッチ処理で一度に投入できる炭素繊維の量を増やす必要があり、これには一般にウェブ状であるよりは適当な繊維長の短繊維状である方が好ましいからである。すなわちバッチ処理用の容器や装置類に炭素繊維を充填する際の嵩密度を高めることが主目的であり、短繊維状の炭素繊維の嵩密度が少なくとも0.1g/cm以上、より好ましくは0.3g/cm以上、更に好ましくは0.5g/cm以上、最も好ましくは0.7g/cm以上となるように粗粉砕を行うことが好ましい。
【0069】
切断機としては、例えば、ギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用することができる。また破砕・粉砕機としては、例えば、衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕・粉砕機等が好適に使用される。また必要に応じ、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成することも可能である。
【0070】
短繊維状炭素繊維の嵩密度もしくは繊維長の制御に関しては、目的とする繊維長の範囲に対して好適な装置・機種もしくはその組み合わせ等を選定するとともに、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を適宜調整することによって、好ましく制御することができる。
【0071】
尚、切断機や破砕・粉砕機のみでは繊維長制御が不十分となる場合には、更に分級工程を付け加えることができる。分級工程はすなわち篩い分けの操作を行う工程であり、所定以上もしくは所定以下の繊維長の成分を篩い分けにより効率的に分離する工程であり、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の各種の分級装置を用いて実施される。
【0072】
粗粉砕工程を経た短繊維状の炭素繊維には、必要に応じ、炭素繊維内部の黒鉛結晶構造を更に大きく成長させる目的で、より高温の熱処理を施す高度黒鉛化処理の工程を行うことが好ましい。高度黒鉛化処理の工程は具体的には、例えば、アチソン炉、電気炉等を用い、真空中、あるいは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で、2500〜3500℃前後で熱処理を施す工程である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
【0074】
(1)炭素短繊維の平均繊維径:
JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本の炭素短繊維の繊維径を真円換算平均繊維径として測定し、その平均値から求めた。
【0075】
(2)炭素短繊維の繊維径の変動係数(CV値):
前記60本の炭素短繊維の繊維径測定値の標準偏差をその平均値で除した値の百分率として求めた。
【0076】
(3)炭素短繊維の平均繊維長:
光学顕微鏡下、測長器を用いて2000本の炭素短繊維を測定し(10視野、200本ずつ測定)、その個数平均繊維長として求めた。尚、倍率は測定する繊維長に応じて適宜調整した。
【0077】
(4)炭素短繊維の断面構造の観察
走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジー製S−2400)を用いて観察を行った。
【0078】
(5)炭素短繊維の真密度:
浮沈法を用いて測定した。即ち、シリンダー内に比重2.17(g/cm)のジブロモエタンと比重2.89(g/cm)のブロモホルムの混合溶液を作成し、25±0.2℃の温度にコントロールする。上記混合溶液に炭素短繊維を浸析させ、1.3kPaで3分間保持した後、炭素短繊維が混合液の中央に来るまでかき混ぜる。10分後、炭素短繊維が浮上するようであればジブロモエタンを追加し、沈むようであればブロモホルムを滴下する。この操作を炭素短繊維が静止するまで繰り返し、静止の後、その混合液体の密度を比重浮ひょうで測定し、炭素短繊維の真密度とした。
【0079】
(6)黒鉛結晶の結晶子サイズ、面間隔:
X線回折法にて求め、黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)と黒鉛結晶の面間隔(d002)は(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズ(La)は(110)面からの回折線を用いて求めた。
尚、X線回折測定結果からのデータ解析と数値算出方法は学振法に準拠して実施した。
【0080】
(7)炭素短繊維の熱伝導率、電気比抵抗値:
炭素繊維の粗粉砕処理を実施せず、炭化処理工程後もしくは高度黒鉛化処理工程後のウェブから単糸状の炭素繊維をサンプルとして抜き取って、以下の要領で測定を行った。すなわち前記でサンプルとして抜き取った繊維を平面上に固定した後、繊維上の所定の間隔をもって測定用の一対の端子部を設け、両端子間の電気比抵抗を測定する。尚、端子部となる繊維部分には銀ペーストを塗り、接触抵抗を低減するとともに、電気比抵抗の測定は四端子法をもって行った。
このようにして炭素繊維の繊維軸方向の電気比抵抗率を測定した後、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式より熱伝導率を求め、この値をもって、炭素繊維を粉砕してなる炭素短繊維の繊維長方向の熱伝導率とした。
K=1272.4/ER−49.4
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率(単位:W/(m・K))、ERは炭素繊維の電気比抵抗(単位:μΩ・m)を表す。
【0081】
(8)熱伝導性捧状樹脂成形体の熱伝導率:
棒状成形体から所定方向に試料片(10mm角、2mm厚み)を切り出し、レーザーフラッシュ法(NETZSCH製LFA−457)を用いて、断面方向と長さ方向の熱伝導率をそれぞれ測定した。尚、直径100mmの棒状成形体においては、試料片はサンプル断面の半径方向に3点採取し、その平均値をもって測定値とした。また直径20mmの棒状成形体では、サンプル断面の中心部(円の中心)で1点採取し、その測定値を用いた。
【0082】
(9)熱伝導性棒状樹脂成形体に用いる熱伝導性樹脂組成物の耐衝撃性:
各実施例で用いた熱伝導性樹脂組成物を別途射出成形により所定形状に成形した試験片を用い、ISO180/1Aに従い、アイゾット衝撃強度(ノッチ付)から求めた。
【0083】
[実験例1:メソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維の作成]
縮合多環炭化水素化合物より主としてなり、光学的異方性割合が100%、軟化点が288℃であるピッチを原料として用いた。原料ピッチを335℃で溶融し、直径0.2mmφの孔の口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分10000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して、メルトブロー法により、平均繊維径が約11.0μmの炭素繊維前駆体を作製した。
本紡糸における紡糸ノズルのL/Dは10であり、温度335℃、せん断速度6000s−1における紡糸時のピッチの溶融粘度は10.5Pa・sであった。得られた炭素繊維前駆体を多孔ベルト上に捕集し、さらにクロスラッパーで目付量が350g/mとなるように調整し、炭素繊維前駆体ウェブを得た。
【0084】
次に炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から290℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化処理を行った後、引き続いて窒素雰囲気中800℃で炭化処理を施し、炭化繊維ウェブを得た。この後、この炭化繊維ウェブを粗粉砕処理し、平均繊維長約200μmの炭化繊維粗粉砕物を得た。この炭化繊維粗粉砕物について、高度黒鉛化処理として、非酸化性雰囲気とした電気炉内で3100℃の熱処理を施し、目的とする黒鉛化炭素短繊維を作成した。
このようにして得られた黒鉛化炭素短繊維の平均繊維長は8.0μmであり、平均アスペクト比は25、炭素短繊維の真比重は2.20g/cmであり、黒鉛の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)は44nm、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズ(La)は106nmであった。また黒鉛結晶の面間隔(d002)は0.3365nmであった。
更に炭素短繊維の電気比抵抗は1.6μΩ・mであり、熱伝導率は750W/(m・K)であった。
【0085】
[実施例1]
実験例1で作成したメソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維45重量部と、芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製パンライト(登録商標)L−1225)55重量部とを短軸の混練機を用いて溶融混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。本熱伝導樹脂組成物の衝撃強度は3.1kJ/mであった。
本熱伝導性樹脂組成物を、特公昭62−33059号公報に記載のような成形装置を用いて、固化押出成形法により、成形機金型の加熱ゾーンの温度を150〜350℃、冷却ゾーンの温度を300〜50℃に制御し、断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
この棒状成形体の断面方向の熱伝導率は9.3W/m・K、長さ方向の熱伝導率は1.5W/m・Kであり、異方性比は約6.2:1であった。
【0086】
[実施例2]
実験例1で作成した異方性ピッチ系黒鉛化炭素短繊維30重量部と、芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製パンライト(登録商標)L−1250)70重量部とを短軸の混練機を用いて溶融混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。本熱伝導樹脂組成物の衝撃強度は7.3kJ/mであった。
本熱伝導性樹脂組成物を、実施例1と同様に固化押出成形法を用いて、断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
この棒状成形体の断面方向の熱伝導率は3.5W/m・K、長さ方向の熱伝導率は0.8W/m・Kであり、異方性比は約4.4:1であった。
【0087】
[比較例1]
以下の熱伝導性樹脂組成物を用い、実施例1と同様に固化押出成形法を用いて、断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
すなわち平均粒子径が約10μm前後の酸化アルミニウム微粒子(マイクロン社製AX10−32)130重量部、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製パンライト(登録商標)L−1225)100重量部を二軸混練装置を用いて溶融混練して熱伝導性樹脂組成物を得た。本熱伝導樹脂組成物の衝撃強度は7.4kJ/mであった。
本熱伝導性樹脂組成物を、実施例1と同様に固化押出成形法を用いて断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
この棒状成形体の断面方向の熱伝導率は0.8W/m・K、長さ方向の熱伝導率は0.7W/m・Kであり、異方性比は1.1:1であった。
【0088】
[比較例2]
以下の熱伝導性樹脂組成物を用い、実施例1と同様に固化押出成形法を用いて断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
すなわち平均粒子径が約10μm前後の酸化アルミニウム微粒子(マイクロン社製AX10−32)130重量部、平均粒子径が約3μm前後の酸化アルミニウム微粒子(マイクロン社製AX3−32)100重量部、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製パンライト(登録商標)L−1225)100重量部を二軸混練装置を用いて溶融混練して熱伝導性樹脂組成物を得た。本熱伝導樹脂組成物の衝撃強度は1.6kJ/mであった。
本熱伝導性樹脂組成物を、実施例1同様に固化押出成形法を用いて断面形状が真円で、直径100mm、長さ2mの棒状成形体を作成した。
この棒状成形体の断面方向の熱伝導率は1.2W/m・K、長さ方向の熱伝導率は1.0W/m・Kであり、異方性比は1.2:1であった。
【0089】
[比較例3]
実施例1で用いた熱伝導性樹脂組成物を用い、実施例1〜2の固化押出成形法の代わりに、一般的な溶融押出成形法、すなわち150〜350℃で成形し、冷却ゾーンは設けずに成形し、直径20mmの断面形状が真円で、長さ2mの棒状成形体を作成した。
この棒状成形体の断面方向の熱伝導率は1.3W/m・K、長さ方向の熱伝導率は9.8W/m・Kであり、異方性比は約0.13:1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部と、黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ(Lc)が20nm以上の黒鉛化炭素材料25〜230重量部とを少なくとも含む熱伝導性樹脂組成物を固化押出成形してなることを特徴とする熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項2】
黒鉛化炭素材料が、平均アスペクト比が2〜2000の範囲にある黒鉛化炭素短繊維であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項3】
黒鉛化炭素短繊維が、メソフェーズピッチを溶融紡糸した後、不融化、黒鉛化を施してなるメソフェーズピッチ系黒鉛化炭素短繊維であることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項4】
熱伝導性棒状樹脂成形体の断面方向の熱伝導率が2W/m・K以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項5】
熱伝導性棒状樹脂成形体の断面方向の熱伝導率が長さ方向の熱伝導率よりも大きく、その異方性比が10:1〜3:2の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項6】
熱伝導性棒状樹脂成形体の衝撃強度が2kJ/m以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性棒状樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性棒状樹脂成形体からなる切削加工用母材。

【公開番号】特開2011−37919(P2011−37919A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183439(P2009−183439)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】