説明

熱伝導性樹脂組成物、及びそれを用いた熱伝導性シート

【課題】絶縁性を損なうことなく、熱伝導性、耐熱性及び難燃性に優れる熱伝導性樹脂組成物、並びにそれを用いた熱伝導性シートを提供すること。
【解決手段】(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体を0.9〜10質量%、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜10質量%、(C)ゴム用軟化剤を1〜20質量%、(D)金属水酸化物を70〜95質量%、及び(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物を0.01〜5質量%含み、かつ、前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)/(B))が、90/10〜50/50である熱伝導性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物、及びそれを用いた熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器や電子機器の高速化及び高機能化に伴い、集積回路(IC)、中央処理素子(CPU)、発光ダイオード(LED)、大規模集積回路(LSI)等の半導体素子やパワートランジスタ等の電子部品は、高集積化、高密度化される傾向にある。しかしながら、電子部品を高集積化、高密度化すると、消費電力が増大し、消費電力の増大に伴って発熱量が増大するという問題がある。このように、電気機器や電子機器の内部で発生した熱は、電子部品の劣化、誤作動、故障及び破損等の不具合を引き起こす恐れがある。
【0003】
上記のような電子部品の不具合の発生を抑制するために、電子部品から熱を取り除いたり、同一部品内や装置内での温度差をなくして均熱化したりする方法等が用いられている。例えば、発熱源である電子部品からヒートシンク等の冷却用部品に熱を伝えると同時に、熱が伝えられたヒートシンク等の冷却用部品を冷却ファン等によって強制的に空冷することにより、熱を除去する方法が用いられている。
【0004】
また、ノート型パーソナルコンピュータのような小型の電子機器や、高集積化、高密度化される電子部品のように、冷却ファン等を設置するため空間がない場合には、シリコーングリースを塗布することによって放熱する方法が用いられている。
【0005】
しかし、シリコーングリースを用いる場合、シリコーングリースを均一に塗布することが難しいだけでなく、塗布後のはみ出しによって部品が汚染されるという問題がある。また、シリコーングリースはクッション性に劣るために、高荷重が印加されるような場合において、使用が制限されるという問題もある。
【0006】
ところで、近年、シリコーングリースに代わって、熱伝導性シートを使用する場合が増加している。熱伝導性シートは、発熱源である電子部品等と、ヒートシンク等の冷却用部品との間に挟んで使用する。これによって、両者を近接させるとともに、熱を電子部品から冷却用部品へ効率よく伝達することができる。
【0007】
熱伝導性シートとしては、例えば、シリコーンゴムに比較的熱伝導性の高い充填剤を混合させた熱伝導性シートが用いられている。熱伝導性シートには、熱伝導性以外にも様々な性能が要求される。例えば、電子基板に接触した状態で装着されることが多いので、電子基板の通電による故障を防止するために、絶縁性が求められている。また、消費電力の高い電気機器や電子機器の内部部品に熱伝導性シートが使用される場合、安全性の観点から、耐熱性や難燃性が要求される。
【0008】
特許文献1には、合成ゴムに水酸化アルミニウムを配合した熱伝導材が開示されている。特許文献2には、スチレン系熱可塑性エラストマーに、熱伝導性付与剤である水酸化アルミニウムと、パラフィン系オイルからなる軟化剤とを配合する放熱性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−150740号公報
【特許文献2】特開2004−146106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、シリコーンゴム製の熱伝導性シートは、シリコーングリースに比べて取り扱いが容易であるという利点がある反面、原料となるシリコーンゴムが高価である上に、硬化工程等の加工工程数が増加するために、コストが高くなるという問題がある。また、シリコーンゴム中には低分子量シロキサンが含まれているため、電子部品の使用中に熱伝導性シートから低分子量シロキサンがブリードアウトし、ブリードアウトした低分子量シロキサンが電極接点等に付着して、二酸化ケイ素を生成するという問題がある。この生成した二酸化ケイ素は接点不良等を引き起こす恐れがあり、この接点不良等が電子機器や電気機器の誤作動を誘引する恐れがある。
【0011】
特許文献1に開示された熱伝導材は、表面にオイルが滲み出した構成であるため、この表面に滲み出したオイルが電子部品等を汚染する恐れがある。また、熱伝導材の内部に無数の気泡を有していることから、難燃性が十分でない。
【0012】
特許文献2に開示された放熱性組成物は熱伝導率が低い。また、難燃性及び絶縁性についても検討の余地がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性及び耐熱性に優れ、かつ難燃性を有する熱伝導性樹脂組成物、並びにそれを用いた熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、ゴム用軟化剤と、金属水酸化物と、フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物と、を含む熱伝導性樹脂組成物とすることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位を含む共重合体を0.9〜10質量%、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜10質量%、
(C)ゴム用軟化剤を1〜20質量%、
(D)金属水酸化物を70〜95質量%、及び
(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物を0.01〜5質量%含み、かつ、
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)/(B))が、90/10〜50/50である熱伝導性樹脂組成物。
〔2〕
前記(D)成分は、平均粒子径20μm以上の第1の金属水酸化物と、平均粒子径20μm未満の第2の金属水酸化物と、を含み、かつ、前記第1の金属水酸化物と前記第2の金属水酸化物の質量比が100/1〜100/80である前記〔1〕の熱伝導性樹脂組成物。
〔3〕
前記(D)成分中のNa2O濃度が、0.2質量%以下である前記〔1〕又は〔2〕の熱伝導性樹脂組成物。
〔4〕
さらに、(F)シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔5〕
前記(A)成分が、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体を水添してなる水添共重合体、及び/又は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に官能基を導入し水素を添加してなる変性水添共重合体である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔6〕
前記(A)成分における前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が、30質量%以上90質量%以下である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔7〕
前記(A)成分の前記共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水素添加率が、10%以上である前記〔1〕〜〔6〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔8〕
前記(A)成分は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含むランダム共重合体を含む前記〔1〕〜〔7〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔9〕
前記(A)成分のマトリックス中に、前記(B)成分が分散されている前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物。
〔10〕
前記〔1〕〜〔9〕のいずれか一の熱伝導性樹脂組成物をシート状に形成してなる熱伝導性シート。
〔11〕
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂とを、溶融混練し、マスターバッチを得る工程と、
前記マスターバッチと、少なくとも(C)ゴム用軟化剤、(D)金属水酸化物、及び(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物とを、溶融混練し、熱伝導性樹脂組成物を得る工程と、を含む熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性、耐熱性及び難燃性に優れる熱伝導性樹脂組成物、並びに熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例2の熱伝導性樹脂組成物のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0019】
本実施形態にかかる熱伝導性樹脂組成物は、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体0.9〜10質量%、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜10質量%、(C)ゴム用軟化剤1〜20質量%、(D)金属水酸化物70〜95質量%、(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物を0.01〜5質量%含み、かつ(A)成分と(B)成分の質量比((A)/(B))が、90/10〜50/50である。
【0020】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位を含む共重合体を含んでいる。共役ジエン単量体単位として用いることができる単量体とは、1対の共役二重結合(共役するように結合した2つの二重結合)を有するジオレフィンである。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、及び1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、重合性及び物性の観点から、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)が好適に用いられる。これら共役ジエン単量体は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0021】
ビニル芳香族単量体単位として用いることができる単量体とは、ビニル基と芳香環を有する化合物をいう。ビニル芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、及びN,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等が挙げられる。これらの中でも、重合性及び物性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンが好適に用いられる。これらビニル芳香族単量体は、1種又は2種以上用いてもよい。
【0022】
(A)成分は、共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体を少なくとも共重合させて得られる共重合体であれば特に限定されず、公知のものを用いることもできる。さらに、上記共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に水素を添加してなる重合物(以下、「水添共重合体」と称する。);上記共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に官能基を導入した重合物(以下、「変性共重合体」と称する。);及び上記共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に官能基を導入したものに水素を添加してなる重合物(以下、「変性水添共重合体」と称する。)等を用いてもよい。これらの中で、加工性、耐熱性及び相溶性の観点と、金属水酸化物を多く配合できるという観点から、水添共重合体及び/又は変性水添共重合体であることが好ましい。具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等のスチレン系エラストマー、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等の水添共重合体、スチレン系エラストマー又は水添共重合体に官能基を導入した、変性共重合体や変性水添共重合体などが挙げられる。このように、(A)成分としては、金属水酸化物を多く配合できるという観点から、水添共重合体及び/又は変性水添共重合体であることが好ましく、スチレン−ブタジエン等のランダム共重合体を含む水添共重合体及び/又は変性水添共重合体であることがより好ましい。なお、水添共重合体及び変性水添共重合体については後述する。
【0023】
(A)成分中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは45〜90質量%、さらに好ましくは45〜86質量%である。ビニル芳香族単量体単位の含有量が上記範囲内であれば、より優れた柔軟性を得ることができる。なお、ビニル芳香族単量体単位の含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することが可能である。
【0024】
(A)成分において、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量は40質量%以下であることが好ましい。ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量が40質量%以下であれば、より優れた柔軟性と耐ブロッキング性を得ることができる。
【0025】
また、熱伝導性樹脂組成物の耐ブロッキング性をさらに優れたものにしたい場合、(A)成分におけるビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量が、10〜40質量%であることが好ましく、13〜37質量%であることがより好ましく、15〜35質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
また、熱伝導性樹脂組成物の柔軟性をさらに優れたものにしたい場合、(A)成分におけるビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量が、10質量%未満であることが好ましく、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
(A)成分におけるビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量は、四酸化オスミウムを触媒として、水添共重合体をt−ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Soi.1,429(1946)に記載の方法)により得られたビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック成分の質量(但し、平均重合度が約30以下のビニル芳香族単量体単位からなる重合体成分は除かれている)を用いて、次の式から求めることができる。
【0028】
ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量(質量%)={(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体中のビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの質量)/(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の質量)}×100
【0029】
(A)成分におけるビニル芳香族単量体単位のブロック率は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%である。ブロック率が上記範囲内であれば、さらに優れた柔軟性を得ることができる。なお、ここでいうブロック率とは、(A)成分中に含まれる全ビニル芳香族単量体単位量に対するビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック量の割合をいう。
【0030】
さらに、(A)成分は、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック以外に、ビニル芳香族単量体単位を5質量%以上含んでいることが好ましい。すなわち、(A)成分の平均重合度が30未満であり、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックとみなされないビニル芳香族単量体重合体成分の含有量が5質量%以上であることが好ましい。ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック以外のビニル芳香族単量体単位の含有量が5質量%以上であれば、(A)成分の耐熱性を向上することが可能となる。さらに、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック以外の部分の結晶化を阻害できるため、優れた柔軟性を熱伝導性樹脂組成物に付与できる。そして、(A)成分の結晶化を抑えることができるため、充填剤を多量に配合することが可能となる。
【0031】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5×104〜100×104、より好ましくは8×104〜80×104、さらに好ましくは9×104〜30×104である。ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックの含有量が10〜40質量%である場合、その重量平均分子量は好ましくは10×104〜50×104、より好ましくは13×104〜40×104、さらに好ましくは15×104〜30×104である。重量平均分子量が5×104以上であれば良好な靭性が得られ、100×104以下であれば良好な柔軟性が得られる。さらに、重量平均分子量が5×104〜100×104の範囲にあれば、低分子量成分の含有量が少ないため、揮発成分を抑えることができる。
【0032】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.01〜8.0、より好ましくは1.1〜6.0、さらに好ましくは1.1〜5.0である。分子量分布が上記範囲内にあれば、良好な成形加工性を得ることができる。なお、GPCにより測定した(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の分子量分布の形状は特に限定されず、ピークが二ヶ所以上存在するポリモーダルの分子量分布を持つものでもよいし、ピークが一つであるモノモーダルの分子量分布を持つものでもよい。
【0033】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布〔Mw/Mn;重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比〕は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したクロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンの測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)を使用して求めることができる。
【0034】
(A)成分として用いられる水添共重合体及び変性水添共重合体は、水素添加率が好ましくは10%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは85%以上である。水素添加率を10%以上とすることで、熱劣化(酸化劣化)により柔軟性、強度及び伸びが低下することを抑制できる。さらに、水素添加率が85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であれば、より優れた耐熱性を得ることができる。また、水素添加率が75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であれば、より優れた耐候性を得ることができる。なお、上記(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体を架橋反応する場合には、架橋密度及び物性の観点から、水素添加率は98%以下が好ましく、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下である。
【0035】
ここで、水素添加率とは、水添共重合体及び変性水添共重合体の各々の水素を添加する前の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水素添加率をいう。すなわち、水素を添加する前の共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体(以下、「水添前共重合体」と称する。)、及び、水素を添加する前の共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位を含む共重合体に官能基を導入したもの(以下、「変性水添前共重合体」と称する。)の各々が有する共役ジエン単量体単位の二重結合に対する、水添共重合体及び変性水添共重合体各々の水素添加された二重結合の割合をいう。水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0036】
なお、水添共重合体及び変性水添共重合体中のビニル芳香族単量体単位に基づく芳香族二重結合の水素添加率については特に限定されず、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。芳香族二重結合の水素添加率は、水添前共重合体及び変性水添前共重合体の各々が含んでいた芳香族二重結合に対する、水添共重合体及び変性水添共重合体各々の水素添加された二重結合の割合をいう。
【0037】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体は、下記式(イ)〜(ホ)から選ばれる少なくとも一つの構造を有することが好ましい。また、下記構造を複数種類、任意の割合で含む混合物でもよい。
(イ) B
(ロ) B−A
(ハ) B−A−B
(ニ) (B−A)m−Z
(ホ) (B−A)n−Z−Ap
【0038】
式(イ)〜(ホ)において、Bは共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とのランダム共重合体ブロック(以下、「ブロックB」と称する。)を表し、Aはビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロック(以下、「ブロックA」と称する。)を表す。mは2以上の整数を表し、n及びpはそれぞれ1以上の整数を表す。Zはカップリング剤残基を表す。ここで、カップリング残基とは、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位との共重合体の複数を、ブロックA−A間、ブロックB−B間、又はブロックA−B間において結合させるために用いられる、ポリハロゲン化合物や酸エステル類等からなるカップリング剤の、結合後の残基を意味する。カップリング残基Zは、例えば式(ニ)においてはm価であり,式(ホ)においてはn+p価である。
【0039】
上記式(イ)〜(ホ)において、ブロックB中のビニル芳香族単量体単位は均一に分布していても、テーパー状に分布していてもよい。すなわち、ビニル芳香族単量体単位の配列が、頭−頭構造、尾−尾構造、頭−尾構造のいずれであってもよい。ブロックBには、ビニル芳香族単量体単位が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。mは、2以上の整数であればよく、好ましくは2〜10の整数である。n及びpは、それぞれ1以上の整数であればよく、好ましくは1〜10の整数である。ブロックBを共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とのランダム構造にすることにより、(A)成分中の結晶部分を極力少なくする、又はなくすことができるので、充填剤をより多量に混合することが可能となる。
【0040】
変性共重合体は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に官能基を導入したものである。また、変性水添共重合体は、上記変性共重合体に水素添加したものである。上記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、カルボン酸基、チオカルボン酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、ピリジル基、キノリン基、ハロゲン化ケイ素基、シラノール基、アルコキシシラン基、ハロゲン化スズ基、アルコキシスズ基、及びフェニルスズ基等が挙げられる。これらの中でも、相溶性及び接着性等の観点から、好ましくは水酸基、アミノ基、エポキシ基、シラノール基、カルボキシル基、酸無水物基、カルボン酸基、及びアルコキシシラン基、より好ましくは水酸基、アミノ基、エポキシ基、及び酸無水物基である。なお、変性水添共重合体に含まれる官能基は、上記官能基群から選ばれる官能基を少なくとも1種以上有していることが好ましい。
【0041】
変性共重合体としては、例えば、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、アミノ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、カルボキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、エポキシ変性スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、アミノ変性スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、カルボキシ変性スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体、アミノ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体、エポキシ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体、及びカルボキシ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体等が挙げられる。これらの中でも、相溶性及び接着性等の観点から、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体が好ましい。
【0042】
変性水添共重合体としては、例えば、無水マレイン酸変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体)、アミノ変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体、エポキシ変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体、カルボキシ変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体)、アミノ変性スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、カルボキシ変性スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、アミノ変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、エポキシ変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、カルボキシ変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体、エポキシ変性スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体、アミノ変性スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体、カルボキシ変性スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体の水素添加物、アミノ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体の水素添加物、エポキシ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体の水素添加物、及びカルボキシ変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体の水素添加物等が挙げられる。これらの中でも、相溶性、接着性、及び加工性の観点から、無水マレイン酸変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体)、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンのランダム共重合体の水素添加物が好ましい。
【0043】
変性水添共重合体は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体の重合終了時に、上記の官能基群から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を含む変性剤を反応させることによって得ることができる。例えば、有機リチウム化合物を重合触媒として得られた共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体のリビング末端に、官能基を含む変性剤を付加反応させて変性水添前共重合体を得た後、水素を添加することにより、変性水添共重合体を得ることができる。
【0044】
また、変性水添共重合体を得る他の方法として、水添共重合体に有機リチウム化合物等の有機アルカリ金属化合物を反応(メタレーション反応)させて、有機アルカリ金属が付加した水添共重合体に、官能基を含む変性剤を付加反応させて得る方法等も用いることができる。
【0045】
(A)成分は、示差走査熱量測定法(DSC法)において、−50〜100℃の温度範囲に結晶化ピークが存在しないことが好ましい。ここで、−50〜100℃の温度範囲において結晶化ピークが存在しないとは、この温度範囲において結晶化に起因するピークが現れない、又は結晶化に起因するピークが認められる場合においても、その結晶化における結晶化ピーク熱量が3J/g未満である場合をいう。このように、水添共重合体及び/又は変性水添共重合体の結晶部分を極力少なくする、又は、結晶部分を存在させないことによって、充填剤をより多量に配合することが可能となる。すなわち、結晶部分には、充填剤が侵入できないので、結晶部分が少ないほど、充填剤の配合量を多くすることが可能となる。
【0046】
(A)成分の動的粘弾性スペクトルにおける損失正接(tanδ)のピークの少なくとも1つは、−30〜80℃に存在することが好ましく、より好ましくは−20〜70℃、さらに好ましくは−20〜50℃である。tanδのピークが−30〜80℃の範囲に少なくとも1つ存在することにより、柔軟性と靭性に優れる。なお、−30〜80℃の範囲に存在するtanδのピークは、ブロックBに起因するピークである。動的粘弾性スペクトルにおける損失正接(tanδ)は、動的粘弾性測定装置によって測定できる。
【0047】
(A)成分の共役ジエン部分のミクロ構造(シス、トランス、ビニル結合の比率)については特に限定されず、後述する極性化合物等の使用により任意に変えることができる。
【0048】
一般的に、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合含有量は共役ジエン部分100%に対して好ましくは5〜80%、より好ましくは10〜60%である。共役ジエン単量体としてイソプレンを使用した場合、又は、1,3−ブタジエンとイソプレンを併用した場合、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計含有量は、好ましくは3〜75%、より好ましくは5〜60%であることが好ましい。なお、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計含有量(但し、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合含有量)を以後「ビニル結合含有量」と称する。なお、共役ジエン単量体単位に基づくビニル結合含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0049】
(A)成分における各分子鎖中のビニル結合含有量の最大値と最小値との差は、好ましくは10%未満、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。(A)成分中のビニル結合は、均一に分布していてもテーパー状に分布していてもよい。すなわち、共役ジエン単量体の重合により生じるビニル結合(二重結合)の配列が、頭−頭構造、尾−尾構造、頭−尾構造のいずれであってもよい。なお、ビニル結合含有量の最大値と最小値との差とは、重合条件、すなわち、ビニル量調整剤の種類、該ビニル量調整剤の添加量、及び、共役ジエン単量体の重合温度で決定されるビニル結合含有量の最大値と最小値である。
【0050】
(A)成分における各分子鎖中のビニル結合含有量の最大値と最小値との差は、例えば、共役ジエン単量体の重合時又は共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の共重合時の重合温度によって制御することができる。具体的には、第3級アミン化合物やエーテル化合物のようなビニル量調整剤の種類と添加量が一定の場合、重合中の各分子鎖に組み込まれるビニル結合含有量は、重合温度によって決まる。例えば、等温で重合した場合には、各分子鎖にビニル結合が均一に分散した重合体が得られる。これに対して、昇温で重合した重合には、重合反応の初期、すなわち、重合温度が低温のときには高ビニル結合含有量の共重合体が得られ、重合反応の後半、すなわち、重合温度が高温のときには低ビニル結合含有量の共重合体が得られるという具合に、各分子鎖中のビニル結合含有量に差がある重合体が得られる。なお、各分子鎖中のビニル結合含有量が異なる構造を有する共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に水素を添加することによって、各分子鎖中のビニル結合含有量に差のある水添共重合体及び変性水添共重合体が得られる。
【0051】
共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体は、例えば、炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の開始剤を用いてアニオンリビング重合により得られる。炭化水素溶媒としては、特に限定されず、例えば、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。
【0052】
開始剤としては、一般的に、共役ジエン単量体及びビニル芳香族単量体に対し、アニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物であれば特に限定されず、例えば、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、炭素数1〜20の芳香族炭化水素アルカリ金属化合物、及び炭素数1〜20の有機アミノアルカリ金属化合物等が挙げられる。開始剤に含まれるアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、及びカリウム等が挙げられる。なお、アルカリ金属は、1分子中に1種、又は2種以上含まれていてもよい。
【0053】
具体的には、n−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ペンチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、トリルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec−ブチルリチウムの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムと少量の1,3−ブタジエンの反応生成物等が挙げられる。さらに、米国特許5,708,092号明細書に開示されている1−(t−ブトキシ)プロピルリチウム及びその溶解性改善のために1〜数分子のイソプレンモノマーを挿入したリチウム化合物、英国特許2,241,239号明細書に開示されている1−(t−ブチルジメチルシロキシ)ヘキシルリチウム等のシロキシ基含有アルキルリチウム、米国特許5,527,753号明細書に開示されているアミノ基含有アルキルリチウム、ジイソプロピルアミドリチウム及びヘキサメチルジシラジドリチウム等のアミノリチウム類も使用することができる。
【0054】
有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として、共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体を共重合する際に、共重合体に組み込まれる共役ジエン単量体に起因するビニル結合(1,2結合又は3,4結合)の含有量の調整や共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体とのランダム共重合性を調整するために、調整剤として第3級アミン化合物又はエーテル化合物を添加することができる。
【0055】
有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体を共重合する方法は、バッチ重合であっても連続重合であっても、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。分子量分布を好ましい適正範囲に調整する観点から、連続重合方法が好ましい。重合温度は、特に限定されないが、通常は0〜180℃であり、好ましくは30〜150℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常は48時間以内であり、好ましくは0.1〜10時間である。また、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。重合圧力は、上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されるものではない。
【0056】
重合終了時に2官能基以上のカップリング剤を必要量添加してカップリング反応を行ってもよい。2官能基以上のカップリング剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。2官能基カップリング剤としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン等のジハロゲン化合物、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸エステル類等の酸エステル類等が挙げられる。
【0057】
3官能基以上の多官能カップリング剤としては、例えば、3価以上のポリアルコール類、エポキシ化大豆油、ジグリシジルビスフェノールA等の多価エポキシ化合物、式R(4-n)SiXn(ただし、Rは炭素数1から20の炭化水素基、Xはハロゲン、nは3又は4の整数を表す)で表されるハロゲン化珪素化合物、及びハロゲン化錫化合物が挙げられる。ハロゲン化珪素化合物としては、例えば、メチルシリルトリクロリド、t−ブチルシリルトリクロリド、四塩化珪素、及びこれらの臭素化物等が挙げられる。ハロゲン化錫化合物としては、例えば、メチル錫トリクロリド、t−ブチル錫トリクロリド、及び四塩化錫等の多価ハロゲン化合物が挙げられる。また、炭酸ジメチルや炭酸ジエチル等も使用可能である。
【0058】
本実施形態において、水酸基、アミノ基、エポキシ基、シラノール基、及びアルコキシシラン基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1つ有する変性水添共重合体を得るために使用される変性剤としては、例えば、特公平4−39495号公報に記載された変性剤が挙げられる。
【0059】
水添共重合体及び変性水添共重合体を製造するために用いられる水添触媒としては、特に限定されず、例えば、下記(a)〜(c)に示す触媒等が用いられる。
(a)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、珪藻土等に担持させた担持型不均一系水添触媒。
(b)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒。
(c)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒。
【0060】
具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物及び/又は還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物等が挙げられ、具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル構造、インデニル構造、及びフルオレニル構造を有する配位子を少なくとも1つ以上持つ化合物が挙げられる。還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、及び有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0061】
水添反応の反応温度は、通常0〜200℃、好ましくは30〜150℃である。水添反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.1〜15MPa、より好ましくは0.2〜10MPa、さらに好ましくは0.3〜5MPaである。水添反応の反応時間は、通常3分〜10時間、好ましくは10分〜5時間である。なお、水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、あるいはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
【0062】
水添反応終了後の反応溶液は、必要に応じて触媒残査を除去し、水添共重合体及び変性水添共重合体を溶媒から分離することができる。分離の方法としては、例えば、水添共重合体及び変性水添共重合体の溶液に、アセトン又はアルコール等の水添共重合体及び変性水添共重合体に対して貧溶媒となる極性溶媒を加えて、水添共重合体及び変性水添共重合体を沈澱させて回収する方法、あるいは、水添共重合体及び変性水添共重合体の溶液を撹拌下熱湯中に投入し、スチームストリッピングにより溶媒を除去して回収する方法、あるいは、水添共重合体及び変性水添共重合体の溶液を直接加熱することによって溶媒を留去する方法等がある。
【0063】
水添共重合体及び変性水添共重合体には、各種フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤、アミン系安定剤等の安定剤を添加してもよい。
【0064】
フェノール系安定剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル・フェニル)プロピオネート、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン]、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムとポリエチレンワックス(50%)の混合物、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ブチル酸,3,3−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチレンエステル、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニル・アクリレート、及び2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0065】
リン系安定剤としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(混合モノ−およびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・モノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニル・モノトリデシル・ホスファイト、ジフェニル・イソデシル・ホスファイト、ジフェニル・イソオクチル・ホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチル−ジ−トリデシルホスファイト)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)オクチルホスファイト、4,4’−イソプロピリデン−ジフェノールアルキル(C12〜C15)ホスファイト、環状ネオペンタンテトライルビス(2,4−t−ブチルフェニルホスファイト)、環状ネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニルホスファイト)、環状ネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、環状ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ペンタエリスリトールジホスファイト系混合物、ジブチルヒドロゲンホスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイト・ポリマー、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスフォネート、ビス〔2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル〕エチルエステルホスファイト、及び6−〔(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ〔d,f〕〔1,3,2〕−ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
【0066】
イオウ系安定剤としては、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルー3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール・テトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオジプロピオン酸ジラウリル、及びテトラキス〔メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート〕メタン等が挙げられる。
【0067】
アミン系安定剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、4,4'−ジメトキシジフェニルアミン、4,4'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、及び4−イソプロポキシジフェニルアミン等が挙げられる。
【0068】
上記(A)成分の含有量は、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物全量に対して、0.9〜10質量%であり、好ましくは2〜10質量%、より好ましくは4〜10質量%である。(A)成分の含有量が、10質量%を超えると、熱伝導性及び難燃性が低下する傾向にある。また、(A)成分の含有量が0.9質量%未満では、十分な成形性が得られない。
【0069】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂を含む。(B)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、及びポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されているような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)等のポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。これらの中でも、相溶性の観点から、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、又はこれらの混合物が好ましい。
【0070】
ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、米国特許第3306874号明細書、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書及び米国特許第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び特公昭63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
【0071】
(B)成分は、全部又は一部が変性された変性ポリフェニレンエーテル樹脂であってもよい。ここでいう変性ポリフェニレンエーテル樹脂とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂をいう。
【0072】
ポリフェニレンエーテル樹脂の変性反応としては、特に限定されず、例えば、下記(d)〜(f)に示す方法等が挙げられる。
【0073】
(d)100℃以上、ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度未満の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂を溶融させることなく変性化合物と反応させる方法。
(e)ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂を、変性化合物と溶融混練し反応させる方法。
(f)ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂を、変性化合物と溶液中で反応させる方法。
【0074】
上記変性反応は、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下のいずれでも行うことができる。上記の中でも、作業性や、反応終了後の取扱性の観点から、上記(d)又は(e)の方法が好ましい。
【0075】
分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合、及びカルボン酸基又は酸無水物基を有する変性化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点から、好ましくはフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸であり、より好ましくはフマル酸、無水マレイン酸である。また、これら不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基のうちの1個又は2個がエステルになっている化合物も使用可能である。
【0076】
分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合、及びグリシジル基を有する変性化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、及びエポキシ化天然油脂等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートである。
【0077】
分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合、及び水酸基を有する変性化合物としては、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オール等の一般式Cn2n-3OH(nは正の整数)で表される不飽和アルコール、一般式Cn2n-5OH、Cn2n-7OH(nは正の整数)で表される不飽和アルコール等が挙げられる。
【0078】
上記の各種変性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂を製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることがより好ましい。
【0080】
ラジカル開始剤を用いて変性ポリフェニレンエーテル樹脂を製造する際のラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0081】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂への変性化合物の付加率は、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。なお、変性ポリフェニレンエーテル樹脂中に、未反応の変性化合物及び/又は変性化合物の重合体が1質量%未満の量であれば残存していても構わない。
【0082】
(B)成分の数平均分子量は、特に限定されないが、耐熱性及び加工性の観点から、1000以上であることが好ましく、1500〜50000であることがより好ましく、1500〜30000であることがさらに好ましい。ここで、(B)成分の数平均分子量は、GPCを用いて測定したポリスチレン換算した数平均分子量である。
【0083】
(B)成分の還元粘度ηsp/C(0.5g/dL、クロロホルム溶液、30℃測定)は、加工性の観点から、0.20〜0.70dL/gの範囲にあることが好ましく、0.30〜0.60dl/gの範囲にあることがより好ましい。
【0084】
(B)成分の配合量は、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物全量に対して、0.1〜10質量%であり、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜10質量%である。(B)成分の配合量が10質量%を超えると、柔軟性や加工性が低下する傾向にある。また、配合量が0.1質量%未満では、耐熱性改善効果が得られない。
【0085】
さらに、(A)成分と、(B)成分との質量比((A)/(B))は、90/10〜50/50であり、好ましくは80/20〜60/40である。上記質量比が上記範囲内であれば、柔軟性、加工性を低下させることなく、容易に熱伝導性樹脂組成物の耐熱性を改善することができる。
【0086】
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、(A)成分中のビニル芳香族単量体単位と相溶性を有する。そのため、(B)成分を(A)成分に添加することによって、(A)成分中のビニル芳香族単量体単位の相の軟化温度を上昇することが可能となり、熱伝導性樹脂組成物の耐熱性を改善することができる。
【0087】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体マトリックス中に、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂が均一に分散された状態であることが好ましい。(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂の複合体が上記のようなモルフォロジーを有していることによって、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体中のビニル芳香族単量体の相に由来する軟化温度を、高温側へと容易にシフトさせることができるとともに、引張特性等の性能低下を抑制することができる。複合体のモルフォロジーは、試料を四酸化オスミウムで染色した後、ウルトラミクロトームにより超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察できる。
【0088】
また、(A)成分として、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体を含む水添共重合体及び/又は変性水添共重合体であることが好ましい。スチレン−ブタジエンのランダム共重合体を含む水添共重合体及び/又は変性水添共重合体は優れた柔軟性を有しているので、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に対する(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量を多くすることができるだけでなく、後述する(D)金属水酸化物も多量に配合することができる。これにより、耐熱性改善効果を容易に得ることができるとともに、容易に熱伝導性を良くすることができる。
【0089】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を溶融混練する際の加工温度は、上記(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂の融点もしくは軟化温度以上であることが好ましく、例えば、250℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは280℃以上である。
【0090】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(C)ゴム用軟化剤を含む。
(C)ゴム用軟化剤としては、特に限定されず、一般的にゴム組成物に用いられる軟化剤であればよく、公知のものを用いることもできる。(C)ゴム用軟化剤としては、例えば、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、サブファクチス、脂肪酸及び脂肪酸塩、合成有機化合物、並びに合成オイル等が挙げられる。これらの中でも、加工性の観点から、鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン・ワックス、及び流動パラフィン等が挙げられる。これらの中でも、低温特性、耐汚染性及び耐老化性等の観点から、パラフィン系プロセスオイルがより好ましい。
【0091】
パラフィン系プロセスオイルの40℃における動粘度は、特に限定されないが、物性及び熱老化特性の観点から、好ましくは100mm2/sec以上、より好ましくは100〜10000mm2/sec、さらに好ましくは200〜5000mm2/secである。パラフィン系プロセスオイルとして、例えば、日本油脂製「NAソルベント(商品名)」、出光興産製「ダイアナ(商標)プロセスオイルPW−90、PW−380」、出光石油化学製「IP−ソルベント2835(商品名)」、及び三光化学工業製「ネオチオゾール(商品名)」等が挙げられる。
【0092】
(C)成分は、安全性の観点から、引火点が、170〜300℃であるものが好ましい。引火点は、ASTM D−92に準拠して測定できる。(C)成分は、物性及び加工性の観点から、重量平均分子量が100〜5000であるものが好ましい。重量平均分子量は、GPCを用いて測定したポリスチレン換算した重量平均分子量である。
【0093】
(C)ゴム用軟化剤の含有量は、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物全量に対して、1〜20質量%であり、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは6〜12質量%である。(C)ゴム用軟化剤の含有量が20質量%以下であれば、ゴム軟化剤のブリードアウトを抑制できるだけでなく、難燃性への悪影響も抑えることができる。また、(C)ゴム用軟化剤の含有量が1質量%以上であれば、十分な柔軟性を有する熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0094】
(D)金属水酸化物は、金属の水酸化物であれば特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び水酸化亜鉛等が挙げられる。これら金属水酸化物は、1種又は2種以上を組み合せて使用してもよい。上記の金属水酸化物の中でも、特に、水酸化アルミニウムが好ましい。水酸化アルミニウムの吸熱量は約1.97kJ/gであり、水酸化マグネシウムの約1.31kJ/g、水酸化カルシウムの約0.93kJ/gと比較して大きな吸熱量を有していることから、十分な難燃効果を得ることが可能となる。さらに、水酸化アルミニウムは、比較的高い熱伝導率を有しており、熱伝導性フィラーとして作用することが可能であるため、難燃性だけでなく、容易に熱伝導性も得ることができる。
【0095】
なお、(D)金属水酸化物は、原料等に由来する不純物成分(金属水酸化物以外の成分)を微量含んでいてもよい。水酸化アルミニウムとしては、例えば、ボーキサイトをアルカリ水溶液で溶解して二酸化炭素を導入して得られる炭酸ガス法により得られる水酸化アルミニウムや、ボーキサイトをアルカリ水溶液で溶解して種子晶を加えて得られるバイヤー法により得られる水酸化アルミニウム等を用いることができる。そのため、このような製造方法に依存して、水酸化アルミニウムはこれ以外の成分、例えば、SiO2、Fe23,Na2O等を通常含んでいてもよい。本実施形態において水酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウム純品の他、不純物を微量含む水酸化アルミニウム(通常水酸化アルミニウム含有量は99質量%以上)をも包含する。
【0096】
(D)成分の配合量は、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物全量に対して、70質量%以上95質量%以下であり、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。(D)成分の配合量が70質量%以上であれば、十分な熱伝導性効果及び難燃性効果を得ることができる。95質量%以下であれば、良好な加工性を得ることができる。
【0097】
(D)成分の配合量は、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物に対して、50〜90体積%が好ましく、より好ましくは55〜90体積%、さらに好ましくは60〜90体積%である。(D)成分の含有量が50体積%以上であれば、十分な熱伝導性効果及び難燃性効果を得ることができる。また、(D)成分の含有量が90体積%以下であれば、熱伝導性樹脂組成物の粘度上昇を抑えることができるとともに、熱伝導性シートが硬くなるのを抑制できる。
【0098】
(D)成分は、平均粒子径が20μm以上の金属水酸化物(以下、「第1の金属水酸化物」と称する。)を含むことが好ましい。平均粒子径が20μm以上の金属水酸化物を含むことによって、十分な熱伝導性を得ることが可能となる。第1の金属水酸化物の平均粒子径は、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上である。
【0099】
さらに、(D)成分は、平均粒子径が20μm未満の金属水酸化物(以下、「第2の金属水酸化物」と称する。)を含んでいることが好ましい。すなわち、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、平均粒子径が相違する2種以上の金属水酸化物を含んでいることがより好ましい。平均粒子径が相違する2種以上の金属水酸化物を含むことによって、熱伝導性だけでなく難燃性もより向上させることが可能となる。第2の金属水酸化物の平均粒子径は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0100】
(D)成分は、平均粒子径が20μm以上の第1の金属水酸化物と、平均粒子径が20μm未満の第2の金属水酸化物との質量比(第1の金属水酸化物/第2の金属水酸化物)は、好ましくは100/1〜100/80であり、より好ましくは100/10〜100/50、さらに好ましくは100/20〜100/50である。第1の金属水酸化物と第2の金属水酸化物の質量比が上記範囲内であれば、十分な熱伝導性と難燃効果を得ることができる。
【0101】
平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準の粒子径である。平均粒子径の測定は、通常、濃度が1%以下となるように、金属水酸化物を水又はエタノールに分散させて行う。この時、分散できない場合には界面活性剤を使用してもよく、適宜、ホモジナイザーや超音波によって分散させてもよい。
【0102】
(D)成分中のNa2O濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.2質量%以下である。より好ましくは0.1%質量以下、さらに好ましくは0.05質量%以下である。金属水酸化物中のNa2O濃度が0.2質量%以下であれば、絶縁性を向上することが可能となる。なお、Na2Oの含有量は、蛍光X線分光法により求めることができる。ここで、(D)金属水酸化物として2種以上のものを用いる場合、各々の金属水酸化物のNa2O濃度が上記数値範囲であればよい。この場合、全ての水酸化アルミニウムのNa2O濃度が上記数値範囲であることが最も好ましいが、少なくとも1種類の水酸化アルミニウムのNa2O濃度が上記数値範囲であるだけでも絶縁性をある程度向上させることができる。
【0103】
(D)成分は、適宜、カップリング剤や脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理等の前処理がなされていてもよい。カップリング剤としては、例えば、後述するシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、リシノール酸、パルミチン酸、及びミリスチン酸等が挙げられる。脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0104】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物を含む。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、及びテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が好ましい。
【0105】
フッ素樹脂変性物としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物、ポリテトラエチレンのシラン変性物等が挙げられる。これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)のアクリル変性物が好ましい。
【0106】
(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物の含有量は、熱伝導性樹脂組成物全量に対して、0.01〜5質量%であり、好ましくは0.1〜2質量%、より好ましくは0.3〜1.5質量%である。ここで、フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物の含有量とは、例えば、熱伝導性樹脂組成物がフッ素樹脂とフッ素樹脂変性物の両方を含む場合はそれらの総量であり、フッ素樹脂のみを含む場合はフッ素樹脂の総量をいい、フッ素樹脂変性物のみを含む場合はフッ素樹脂変性物の総量をいう。(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物の含有量が上記範囲内であれば、難燃性、機械的物性、シート成形性(粘性及びロール付着性)をバランスよく大幅に改良することができる。
【0107】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(F)シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる1種以上を、さらに含むことが好ましい。これらカップリング剤を配合することで、(A)成分中における(B)成分の分散性をさらに向上させることができる。その結果、熱伝導性をより向上させることができる。
【0108】
シラン系カップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシ−シクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)ウレア、メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシララン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ポリアルキレンオキサイドシラン類、及びパーフルオロアルキルトリメトキシシラン類等が挙げられる。アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、及びイソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート等が挙げられる。これらカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
(F)成分の合計含有量は、上記(C)成分に対して、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.2〜5質量%であることがさらに好ましい。カップリング剤の合計含有量が上記範囲内であれば、熱伝導性樹脂組成物中における(C)成分の分散性が向上し、機械的物性及び熱伝導性を向上することができる。特に、カップリング剤の合計含有量が0.01質量%以上とすることでカップリング剤の添加効果が十分に得られ、10質量%以下とすることで難燃性にさらに向上させることができる。
【0110】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、粘着性付与剤を含んでもよい。使用できる粘着性付与剤としては、特に限定はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、ロジン系樹脂(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、変性ロジン系樹脂(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン等)、ロジンエステル系(ロジン・グリセリンエステル、水添ロジン・グリセリンエステル、ロジン・ペンタエリスリトールエステル、水添ロジン・ペンタエリスリトールエステル、過水添ロジン・グリセリンエステル、安定化ロジン・ペンタエリスリトールエステル等)等)、石油系樹脂(炭化水素系(脂肪族石油系、芳香族石油系、ジシクロペンタジエン系、熱反応型、芳香族変性脂肪族石油系等)、脂肪族系石油樹脂(C5系)、芳香族系石油樹脂(C9系)、共重合系石油樹脂(C5/C9系)、脂環族系石油樹脂(水素添加系、ジシクロペンタジエン系等)、テルペン系樹脂(α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、芳香族変性、フェノール変性テルペン、ポリテルペン、水素添加テルペン等)、純モノマー系樹脂(スチレン/α−メチルスチレン、α−メチルスチレン/ビニルトルエン、スチレン等、(メタ)アクリル系)、クマロン・インデン樹脂、フェノール系樹脂、及びキシレン樹脂等が挙げられ、特に好ましくは、ロジン系(ロジン系樹脂、変性ロジン系樹脂)、テルペン系(テルペン系樹脂)、石油系(石油系樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂)である。なお、これら粘着付与剤は単独で用いても、2種以上組み合せて用いてもよい。
【0111】
粘着付与剤の配合量は、目的とする粘着力に応じて適宜変えることができるが、好ましくは、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物全量に対して1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは6〜12質量%である。
【0112】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、必要に応じて、通常の樹脂組成物において配合される種々の成分を適宜配合することができる。例えば、上記鉱物油系軟化剤以外のゴム用軟化剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、架橋剤、上記以外の熱可塑性樹脂及び/又はゴム、上記金属水酸化物以外のフィラー、上記金属水酸化物以外の難燃剤等である。
【0113】
上記鉱物油系軟化剤以外のゴム用軟化剤としては、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の植物油系軟化剤、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類の他、トール油、サブ、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びラウリン酸等が挙げられる。
【0114】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジヘプチル(DHP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジラウリル(DLP)、及びフタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)等が挙げられる。
【0115】
老化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系、カルバミン酸金属塩、及びワックス等が挙げられる。これら老化防止剤は1種又は2種以上を配合してもよい。
【0116】
酸化防止剤としては、例えば、アルデヒド類、アミン類、及びフェノール類等が挙げられる。
【0117】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、硫黄系加硫剤、エポキシ類、イソシアナート類、及びジ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0118】
上記以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及び(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン等が挙げられる。また、ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、及びスチレン−イソプレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0119】
上記金属水酸化物以外のフィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、クレー、炭素繊維、黒鉛微粉、ガラス繊維、窒化ホウ素、炭化珪素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミニウム、及び銅等が挙げられる。
【0120】
上記金属水酸化物以外の難燃剤としては、窒素系難燃剤(トリアジン系等)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、シリコーン系難燃剤、芳香族カルボン酸及びその金属塩、ホウ素化合物、及び亜鉛化合物等が挙げられる。
【0121】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、上記の各配合成分を、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサ、インターナルミキサ、ラボプラストミル、ミックスラボ、エクストルーダ(ニ軸押出機)等を用いて機械的混練によって調製することができる。この場合、特に、加圧ニーダー、バンバリーミキサ、ニ軸押出機が好ましい。
【0122】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、(1)(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂0.とを、溶融混練し、マスターバッチを得る工程と、(2)前記マスターバッチと、少なくとも(C)ゴム用軟化剤、(D)金属水酸化物、及び(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物とを、溶融混練し、熱伝導性樹脂組成物を得る工程と、を含む製造方法により製造することが好ましい。
【0123】
まず、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂とを、あらかじめ溶融混練して、マスターバッチを製造する。あらかじめ溶融混練することによって、(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体マトリックス中に、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を、容易に均一分散することができる。溶融混練する方法としては、特に限定されず、上記と同じ方法を用いることができる。なお、マスターバッチの形状としては、シート状、リボン状、ペレット状があるが、後工程における取り扱い易さの観点から、ペレット状であることが好ましい。
【0124】
次に、上記マスターバッチと、少なくとも(C)ゴム用軟化剤、(D)金属水酸化物及び(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物とを溶融混練する。溶融混練する方法としては、特に限定されず、上記と同じ方法を用いることができる。これにより、熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0125】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、用途に応じてシート状に加工し、熱伝導性シート(「フィルム」等と呼ばれることもある。)とすることができる。シート状に加工する方法としては、特に限定はなく、押出成形、プレス成形、カレンダー成形等で加工することができる。例えば、厚さ3mm未満のシート状に加工したい場合で、連続的に成形し、かつロール状に巻き取りたい場合には、押出成形やカレンダー成形が好ましい。また、厚さ3mm以上のシート状に加工したい場合には、ロール状に巻き取ることが困難なため、プレス成形が好ましい。
【0126】
押出成形やカレンダー成形によりシート状に加工する場合、得られる熱伝導性シートは、離型フィルム又は転写式粘着フィルムを挟んでロールにして巻き取ることが可能である。また、シート幅の大きさは特に限定されず、用途に応じてシート幅を決定することができる。押出成形を用いる場合、例えば、エクストルーダにより各成分を混練しながらTダイに押し出しすることによってシートを成形し、得られたシートを離型フィルム又は転写式粘着フィルムとともにシート引取装置によって巻き取る方法が挙げられる。この時の押出条件としては、熱伝導性樹脂組成物の配合によって、あるいは、所望のシートの幅によって異なるが、例えば、押出機の設定温度を90〜190℃、スクリュー回転数5〜80rpm、L/D(スクリューの長さと直径比)を20以上とすることが好ましい。
【0127】
また、熱伝導性シートは、上記の配合成分を有機溶剤等と混合し均一に分散させた後に、支持体に塗布、乾燥させることによって形成してもよい。すなわち、上記の配合成分を有機溶剤等と混合し均一に分散させて得られた混合溶液を、布、紙、ガラスクロス等の繊維状シートに含浸させた後、有機溶剤等を揮発させ乾燥することによって、繊維状シートと熱伝導性樹脂組成物の複合体として熱伝導性シートを製造してもよい。さらに、上記の方法によって得られた熱伝導性シートをカレンダーロールやプレス機でプレスしてもよい。このように、繊維状シートと熱伝導性樹脂組成物の複合体として形成された熱伝導性シートを、さらにカレンダーロールやプレス機でプレスすることによって、熱伝導性シートの厚みを調整できるとともに、支持体である繊維状シートの内部にも熱伝導性樹脂組成物を十分に含浸することができるので、熱伝導性を向上することが可能となる。プレスの加工条件としては、所望の厚みや大きさ等によって異なるが、カレンダーロールの場合、設定温度は80〜120℃、線圧10〜800kgf/cmであることが好ましく、プレス機の場合、設定温度を80〜120℃、荷重10〜160kg/cm2であることが好ましい。
【0128】
上記のように得られた本実施形態の熱伝導性シートは、熱伝導率が1.0W/m・K以上とすることができる。なお、熱伝導率は、ASTM(American Society for Testing and Materials) D5470に準拠し、測定できる。
【0129】
さらに、本実施形態の熱伝導性シートの好ましい態様としては、UL94規格(Underwriters Laboratories Inc.の規格番号94)のV−0規格を満たすことができる。UL94規格とは装置及び器具部品用のプラスチック材燃焼性試験に関する規格であり、この規格を満たすことによって難燃性が高い材料と分類される。
【0130】
本実施形態熱伝導性樹脂組成物に含まれる金属水酸化物は、ある温度以上になると分解して水を放出する。例えば、水酸化アルミニウムは200℃以上で分解して水を放出する性質がある。つまり、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートが燃焼した場合、該熱伝導性樹脂組成物中に含まれる金属水酸化物が分解して水を放出するため、これによって消炎される。したがって、本実施形態の熱伝導性シートは優れた難燃性を有することが可能となる。
【0131】
本実施形態の熱伝導性シートは、電子部品や半導体装置、表示装置等に使用することができる。具体的には、例えば、コンピュータのCPU、液晶バックライト、プラズマディスプレイパネル、LED素子、有機EL素子、二次電池あるいはその周辺機器、同じく電動機の放熱器、ペルチェ素子、インバータ、及び(ハイ)パワートランジスタ等が挙げられる。
【0132】
本実施形態の熱伝導性シートは、例えば、電子部品や半導体装置等の発熱源である発熱部品と、放熱板やヒートシンク等の冷却用部品との間に挟んで使用される。このように熱伝導性シートを介することによって、発熱部品から冷却用部品等へと、熱を効率的に伝導することができるので、電子部品、半導体装置や表示装置等の熱劣化等を低減することが可能となる。これにより、電子部品や半導体装置、表示装置等の故障を低減することができるだけでなく、寿命を延ばすことが可能となる。
【0133】
特に、LEDバックライト、LED照明等のLED関連部品は、近年、ハイパワー化に伴って発熱量が大きくなる傾向にあるだけでなく、熱の不均一化が生じやすい。このような問題を解決するためには、効率よく放熱及び均熱化する必要がある。本実施形態の熱伝導性シートを、例えば、LED基板の裏側と、アルミシャーシ等の放熱部材との間に貼り付けることよって、LED基板で発生した熱を効率よく放熱部材に伝導させることができる。
【実施例】
【0134】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。
【0135】
まず、実施例に用いた材料について説明する。共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の水添共重合体(ポリマー1)は下記の方法によって作製した。その他の材料については、市販のものをそのまま使用した。
【0136】
[ポリマー1(共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の水添共重合体)の調製]
下記(i)の手順にしたがって、水添触媒の調製を行った。次に、下記(ii)〜(viii)の反応手順に従い、(A)共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の共重合体の重合及び水添反応を行った。なお、重合反応中は、反応容器内を70℃に保持し、水添反応中は反応容器内を65℃に保持して行った。
【0137】
(i)窒素置換した水添触媒調整用反応容器に、乾燥及び精製したシクロヘキサン1Lを仕込み、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100mmolを添加した。充分に攪拌しながら、トリメチルアルミニウム200mmolを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させたものを、水添触媒として用いた。
【0138】
(ii)内容積が10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応容器に、シクロヘキサン10質量部を入れ、70℃に調製した。
【0139】
(iii)次に、n−ブチルリチウム0.0076質量部と、n−ブチルリチウム1molに対して0.4molとなるようにN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を添加した。
【0140】
(iv)1段目の反応として、スチレン8質量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を約3分間かけて添加し、添加終了後30分間反応させた。
【0141】
(v)2段目の反応として、1,3−ブタジエン48質量部とスチレン36質量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を60分かけて一定速度で連続的に反応容器に供給し、添加終了後30分間反応させた。
【0142】
(vi)3段目の反応として、スチレン8質量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を約3分間かけて添加し、添加終了後30分間反応させて、共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の共重合体を得た。
【0143】
(vii)得られた共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の共重合体に、(i)で調製した水添触媒を、チタン量換算で100質量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。
【0144】
(viii)水添反応終了後、メタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体の共重合体に対して0.3質量%添加し、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体を含む水添共重合体(ポリマー1)を得た。
【0145】
得られたポリマー1の重量平均分子量は16.5×104、分子量分布は1.2、水素添加率は99%であった。動的粘弾性測定の結果、tanδのピーク温度は−15℃に存在した。DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。さらに、3段目の反応後に得られた水添前共重合体から求めたビニル芳香族単位の含有量は52質量%、ビニル芳香族からなる重合体ブロックの含有量は16質量%、1,3−ブタジエン部のビニル結合含有量は21質量%であった。重量平均分子量及び分子量分布は、東ソー製、「HLC−8220GPC」を用いて測定した。
GPC;装置:東ソー製、HLC−8220GPC
データ処理:東ソー製、GPC−8020
カラム:TSKgel SuperHZM−M(4.6mmID×15cm)、TSKgel SuperHZ2000(4.6mmID×15cm)
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
構成:ポリスチレン換算
動的粘弾性;ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製、固体粘弾性アナライザー「RSA III」
DSC:パーキンエルマー製、「DSC−7」
【0146】
ポリマー2:クラレ製、「セプトン4033」(スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレン共重合体)
ポリマー3:クレイトンポリマージャパン製、「クレイトンFG1901X」(無水マレイン酸変性スチレン−(エチレン/ブチレン)−スチレン共重合体)
ポリフェニレンエーテル樹脂;旭化成プラスチックスシンガポール製、ポリフェニレンエーテル(PPE)パウダー(製品コード:ザイロン(商標)(S202A)(化学名:ポリ(2,6−ジメチルー1,4−フェニレンオキシド)
ゴム用軟化剤:出光興産製、「ダイアナプロセスオイル(商標)PW−380」(パラフィン系プロセスオイル)
金属水酸化物:水酸化アルミニウム(日本軽金属製)(表2に、平均粒子径及びNa2O含有量を示す。)
フッ素樹脂変性物:アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン製、「メタブレン(商標)A−3800」)(メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合物、テトラフルオロエチレン重合物の混合物)
シラン系カップリング剤:信越化学工業製、「KBE−403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
アルミニウム系カップリング剤:味の素ファインテクノ製、「プレンアクトAL−M」(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート)
【0147】
[マスターバッチの製造方法]
表1に示す配合組成で、ポリマー1と、ポリフェニレンエーテル樹脂とを二軸押出機「PCM−30」(池貝鉄工製)を用いて、シリンダー設定温度280℃で溶融押出を行いながらペレット化し、マスターバッチを作製した。
【0148】
[比較例1の熱伝導性シートの製造方法]
表2に示す配合組成で、ラボプラストミル(東洋精機製、「ローラミキサ R60」)を用いて、150℃で5分間混合し、各熱伝導性樹脂組成物を作製した。得られた各熱伝導性樹脂組成物を、3インチロール混練機を用いて150℃で混練し、シート状に成形した。さらに170℃に加熱したプレス機にてプレス成形し、縦220mm×横120mm、0.3mm厚、0.5mm厚及び1.0mm厚の熱伝導性シートをそれぞれ得た。
【0149】
[実施例1〜10,12及び比較例2,3の熱伝導性シートの製造方法]
表2に示す配合組成で、各マスターバッチ及び各材料を、ラボプラストミル(東洋精機製)を用いて、150℃で5分間混合し、各熱伝導性樹脂組成物を作製した。得られた各熱伝導性樹脂組成物を、3インチロール混練機を用いて150℃で混練し、シート状に成形した。さらに170℃に加熱したプレス機にてプレス成形し、縦220mm×横120mm、0.3mm厚、0.5mm厚及び1.0mm厚の熱伝導性シートをそれぞれ得た。なお、一例として実施例2の試料のモルフォロジーを透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮像し調べた。具体的には、試料を四酸化オスミウムで染色した後、ウルトラミクロトームにより超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM;倍率5万倍)にて撮像した。実施例2の熱伝導性樹脂組成物のTEM写真を図1に示す。図1によれば、ポリマー1のビニル芳香族単量体の相にポリフェニレンエーテル樹脂が入り込むことによって、ポリマー1のマトリックス中にポリフェニレンエーテル樹脂が均一に分散していることが確認された。
【0150】
[実施例11,13、及び比較例4,5の熱伝導性シートの製造方法]
表3に示す配合組成で、各材料をニ軸押出機「ZSK−25」(ウェルナー&フライデラー製)を用いて溶融混練し、各熱伝導性樹脂組成物のペレットを得た。得られた各熱伝導性樹脂組成物のペレットを190℃に設定された単軸押出機(東洋精機製作所製、ラボプラストミル型式:50M、スクリュー型式:D2020)及び120mm幅Tダイ(東洋精機製作所製)を用い、縦220mm×横120mm、0.3mm厚、0.5mm厚及び1.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0151】
得られた熱伝導性シートを用いて、軟化温度、難燃性、熱伝導率、絶縁破壊強度、耐屈曲性、成形安定性を測定した。
【0152】
<平均粒子径>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(堀場製作所製)を用いて、水酸化アルミニウムの平均粒子径を測定した。なお、分散媒中への試料の分散は、超音波を1分間照射した。
【0153】
<Na2O含有量>
蛍光X線分光法(理学電機製、蛍光X線分析装置「システム3270E」)により、水酸化アルミニウム中のNa2O含有量を測定した。
【0154】
<軟化温度>
熱機械分析装置(TMA)(TAインスツルメント製、「TMA/Q400」)を用いて、厚み1.0mmの各熱伝導性シートの軟化温度を測定した。なお、測定は針入モードで行った。
【0155】
<難燃性>
UL94規格に準拠して、厚み0.3mmの各熱伝導性シートの燃焼性を測定した。
【0156】
<熱伝導率>
ASTM(American Society for Testing and Materials)D5470に準拠し、樹脂材料熱抵抗測定装置(日立製作所製、「PMFA038−1」)を用いて、各熱伝導性シートの熱伝導率を測定した。測定温度は30℃で行った。
【0157】
<絶縁破壊強度>
JIS C2110に準拠して、23℃、油中、短時間法にて、各熱伝導性シートの絶縁破壊強度を測定した。試験電極は、Φ25円柱/Φ25円柱であり、試験片の厚みは1.0mmとした。
【0158】
<耐屈曲性>
長さ155mm、幅25mm、厚み0.5mmの各熱伝導性シートを180°の角度で3回折り曲げた後、屈曲部のクラック発生の有無を目視にて観察した。「屈曲部のクラックなし〜微小」のものを「○」、「屈曲部にクラック多数発生」のものを「△」、「屈曲部が一部破断」のものを「×」と評価した。
【0159】
<成形安定性>
熱伝導性樹脂組成物を、190℃に設定された単軸押出機(東洋精機製作所製、ラボプラストミル型式:50M、スクリュー型式:D2020)及び120mm幅Tダイ(東洋精機製作所製)を用い、Tダイのリップ厚みを1.0mmに調整し、シート成形した。得られたシートの外観、発泡の有無を目視で確認し、成形安定性を評価した。「発泡なし」のものを「○」、「発泡が少し発生した」ものを「△」、「発泡が多い」ものを「×」と評価した。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
【表4】

【0164】
表2に示すように、実施例1〜3では、ポリフェニレンエーテル樹脂を配合することによって、比較例1よりも軟化温度が高くなった。また、フッ素樹脂変性物を配合することによって、難燃性が良好となることが確認された。さらに、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性も良好であった。
【0165】
比較例3は、ポリフェニレンエーテル樹脂を多く含んでいるにもかかわらず、軟化温度が低くなった。これは、ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量が多すぎるために、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位の水添共重合体と、ポリフェニレンエーテル樹脂との均一混合が困難となり、相溶性が不完全となったためであると考えられる。
【0166】
実施例4及び5では、カップリング剤を添加することにより、水酸化アルミニウムの分散性がさらに改善され、熱伝導性が向上したことが確認された。
【0167】
実施例6では、Na2O濃度が0.2質量%以上の水酸化アルミニウムを含む例であるが、難燃性が低下した。
【0168】
実施例7では、平均粒子径が20μm未満の水酸化アルミニウムを含有せず、水酸化アルミニウムの平均粒子径が20μm以上の例であるが、それに比して、実施例2等では、平均粒子径が20μm未満の水酸化アルミニウムと、平均粒子径が20μm以上の水酸化アルミニウムとを含有することで、耐屈曲性、及び成形安定性がさらに向上したことが確認された。
【0169】
実施例10では、平均粒子径が20μm以下の水酸化アルミニウムと、平均粒子径20μm以上の水酸化アルミニウムとの質量比が100/100の例であるが、それに比して、実施例6、8等では、耐屈曲性、成形安定性、及び難燃性がさらに向上したことが確認された。
【0170】
実施例11では、十分な耐熱性改善効果が得られなかった。また、耐屈曲性、及び成形安定性が低下した。実施例11は、樹脂組成物の製造工程においてマスターバッチ化を行わなかった例であるが、それに比して、実施例2等では、耐熱性、耐屈曲性及び成形安定性がさらに向上したことが確認された。
【0171】
表4に示すように、実施例12、13でも、ポリフェニレンエーテル樹脂を配合することによって、耐熱性が向上し、また、フッ素樹脂変性物を添加することによって、難燃性がさらに改善されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、高熱伝導性、高絶縁性、耐屈曲性及び成形安定性に優れ、しかも難燃性で環境性に優れた熱伝導性樹脂組成物であり、幅広い分野において熱伝導性部材として使用できる。特に、熱伝導性シートとして好適に使用できる。本発明の熱伝導性シートは、例えば、各種電子部品、半導体装置あるいは表示装置において発熱源である発熱部品と、ヒートシンク等の放熱部品である冷却用部品と、の間に設けることによって、従来に比較して、高熱伝導性、高絶縁性、及び難燃性が必要とされる用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体を0.9〜10質量%、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜10質量%、
(C)ゴム用軟化剤を1〜20質量%、
(D)金属水酸化物を70〜95質量%、及び
(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物を0.01〜5質量%含み、かつ、
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)/(B))が、90/10〜50/50である熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)成分は、平均粒子径20μm以上の第1の金属水酸化物と、平均粒子径20μm未満の第2の金属水酸化物と、を含有し、かつ、前記第1の金属水酸化物と前記第2の金属水酸化物の質量比が100/1〜100/80である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)成分中のNa2O濃度が、0.2質量%以下である請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(F)シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体を水添してなる水添共重合体、及び/又は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体に官能基を導入し水素を添加してなる変性水添共重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分における前記ビニル芳香族単量体単位の含有量が、30質量%以上90質量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)成分の前記共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水素添加率が、10%以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)成分は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とのランダム共重合体ブロックを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(A)成分のマトリックス中に、前記(B)成分が分散されている請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物をシート状に形成してなる熱伝導性シート。
【請求項11】
(1)(A)共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体と、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂とを、溶融混練し、マスターバッチを得る工程と、
(2)前記マスターバッチと、少なくとも(C)ゴム用軟化剤、(D)金属水酸化物、及び(E)フッ素樹脂及び/又はフッ素樹脂変性物とを、溶融混練し、熱伝導性樹脂組成物を得る工程と、
を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57884(P2011−57884A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210253(P2009−210253)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】