説明

熱処理油組成物

【課題】冷却性能が高い熱処理油組成物であって、引火点が高い組成物であっても優れた冷却性能を有する熱処理油組成物を提供すること。
【解決手段】基油に、(A)金属系清浄分散剤及び(B)炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸を配合してなる熱処理油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理油組成物に関し、詳しくは焼入れ加工における冷却性能が高い熱処理油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入れなど熱処理加工は、通常熱処理液を用いて金属材料に所望の硬さを付与するために行われる。したがって、熱処理液は、金属材料の硬さを高め得る優れた冷却性能を有することが必要である。
従来熱処理液は、油系の熱処理液が多く使用されてきた。水系の熱処理液では、冷却性能が過度に高く、金属材料が焼割れを生ずる危険性があり、また油系の熱処理液と比較して、焼入れ歪みが大きいためである。それゆえ、冷却性能が高い油系の熱処理液、すなわち熱処理油が求められる。
熱処理油は、低い油温で使用するコールド油、高い温度で使用できるホット油及びその中間の温度で使用するセミホット油に区分され、コールド油はJIS K2242の1種、セミホット油及びホット油は2種に相当する。ホット油は通常100℃の動粘度がおよそ10〜30mm2/sであり、コールド油はおよそ6mm2/s以下のものである。
ところが、焼入れ歪みを低減するために、ホット油やセミホット油を用いて高い油温で焼入れすると、焼入れ歪みを低減する効果は大きいけれども、冷却性能が不足し、焼入れによって、目的とする硬さ(焼入れ硬度)が得られないという問題があった。
これに対し、コールド油を使用すると、十分な硬さは得られるものの、低粘度油であるため、引火点が低く焼入れ加工時における引火の危険性があり、また油煙が発生し環境を悪化させるという問題がある。
つまり熱処理油の冷却性能については、低粘度油であるほど高くなるが、低粘度油では引火の危険性などを回避できない状況にあった。
このような状況から、引火点が高く粘度が高いものであっても高い冷却性能を有する熱処理油が要望されているのである。
【0003】
一方、従来熱処理油の冷却性能の改良に関しては、鉱油系基油にアスファルト、高分子化合物、あるいはスルホン酸、サリチル酸等のアルカリ土類金属塩を配合して冷却性能を高めた焼入れ油が使用されてきた。しかし、この種の焼入油では冷却性能が不充分であり、金属材料に所望の硬さを付与できないことがあった。
また、近年の研究としては、例えば、特許文献1では、特定の動粘度及び組成を有するオイルに、脂肪族ポリオレフィンとヒドロカルビル置換フェノール、サリチル酸などのアルカリ土類金属塩、及び必要に応じて、ヒドロカルビル置換コハク酸エステルなどを含有する組成物が記載されている。また、特許文献2では、特定の動粘度及び組成を有するオイルに、サリゲニン誘導体のアルカリ金属塩及び脂肪族ポリオレフィン、ヒドロカルビル置換フェノール、サリチル酸などのアルカリ土類金属塩、ヒドロカルビル置換コハク酸エステルなどから選択される少なくとも1種を含有する組成物が開示されている。
しかし、これらの組成物は、いずれもポリイソブチレンなどの脂肪族ポリオレフィンを必須成分として含有するものであり、酸化安定性が不充分になるとともに、冷却性能についても必ずしも充分なものではない。
【0004】
【特許文献1】特表2005−513200号公報
【特許文献2】特表2005−513201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、冷却性能が高い熱処理油組成物であって、引火点が高い組成物であっても優れた冷却性能を有する熱処理油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、予期せぬことに、基油に、金属系清浄分散剤と特定の脂肪族カルボン酸とを配合した組成物がその目的を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)基油に、(A)金属系清浄分散剤及び(B)炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸を配合してなる熱処理油組成物、
(2)(A)成分の金属系清浄分散剤が、スルホン酸、フェノール及びサリチル酸の金属塩から選ばれる少なくとも一種である前記(1)に記載の熱処理油組成物、
(3)(A)成分の金属が、アルカリ土類金属である前記(1)又は(2)に記載の熱処理油組成物、
(4)脂肪族カルボン酸が炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱処理油組成物、
(5)(A)成分の配合量が組成物基準で、0.1〜20質量%であり、(B)成分の配合量が組成物基準で、0.1〜20質量%である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱処理油組成物、
(6)(B)成分の(A)成分に対する配合比が、質量比で0.1〜2である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱処理油組成物、
(7)組成物の引火点が180℃以上である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱処理油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷却性能が高い熱処理油組成物であって、引火点が高い組成物であっても優れた冷却性能を有する熱処理油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の熱処理油組成物は、基油に、(A)金属系清浄分散剤及び(B)炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸を配合してなるものである。
本発明で用いられる基油としては、特に制限されるものではなく、各種鉱油または合成油を用いることができる。鉱油としては、例えばパラフィン基系鉱油,中間基系鉱油,ナフテン基系鉱油などが挙げられる。また、合成油としては、例えばα−オレフィンオリゴマー(炭素数6〜16のα−オレフィンをオリゴマー化したもの、及びそれを水素添加したもの)、炭素数2〜16のオレフィンの(共)重合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル系炭化水素、各種エステル類、例えばネオペンチルグリコール,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールなどの多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール誘導体などを用いることができる。
【0010】
また、上記基油としては、100℃における動粘度が1〜50mm2/sのものが好ましく使用される。動粘度が1mm2/sより低い場合は引火しやすく危険な場合があり、また50mm2/sを超える場合は粘稠すぎて取扱が不便である。このような点から、上記動粘度は1.5〜45mm2/sのものが更に好ましく、特に2〜40mm2/sのものが好ましい。
また基油は、引火点が150℃以上であることが好ましく、170℃以上がより好ましい。150℃以上であれば、引火等の危険性が低く、同時に熱処理加工時における油煙の発生を抑制することができる。
さらに基油は粘度指数が85以上であることが好ましく、95以上がより好ましい。また、芳香族分(%CA)が10以下が好ましく、7以下がより好ましく、さらには3以下、特に1以下のものが好ましい。粘度指数が85以上であり、芳香族分(%CA)が10以下であれば、熱処理油組成物の酸化安定性を良好に維持することができる。
上記の鉱油および合成油は、一種のみを単独で用いることもできるが、二種以上を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0011】
本発明の(A)成分として用いられる金属系清浄分散剤は、従来公知の種々のものが使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えばスルホン酸、フェノール及びサリチル酸の金属塩が好適なものとして挙げられる。
上記スルホン酸としては、分子量がおよそ300〜1500のアルキル置換芳香族スルホン酸が挙げられ、具体的にはアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、石油スルホン酸などが挙げられる。このスルホン酸はチオスルホン酸でもよい。
また、フェノールとしては、アルキルフェノールやその硫化物、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物などが挙げられ、サリチル酸としてはアルキルサリチル酸が挙げられる。
このようなスルホン酸、フェノール及びサリチル酸のアルキル置換基としては、通常炭素数1〜20の飽和、不飽和を問わず、直鎖又は分岐のアルキル基が好ましい。また、これらの置換基を1〜7個、特に1〜4個有するものが好ましく使用される。
【0012】
上記スルホン酸、フェノール及びサリチル酸の金属塩などの金属系清浄分散剤における金属としては、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属が挙げられる。これらの中でも、冷却性能の点から、アルカリ土類金属が好ましく、例えばCa、Ba、Mgが用いられ、特にCaやBaが好ましい。
【0013】
また、スルホン酸、フェノール及びサリチル酸の金属塩は、それらの金属塩、及びこのものを金属水酸化物又は酸化物と二酸化炭素とにより、さらに過塩基化したものも好適に用いられる。
したがって、本発明における、(B)成分としての金属系清浄分散剤は、中性、塩基性及び過塩基性のものが広く使用でき、例えば、塩基価がおよそ0〜600mgKOH/gのものが用いられる。これらの中でも塩基価が50〜400mgKOH/gのものが好適である。
なお、ここでいう塩基価は、JIS K2501の「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7に規定する過塩素酸法に準拠して測定される「全塩基価」である。
【0014】
本発明においては、(A)成分として、上記金属系清浄分散剤を一種のみで用いることもできるが、二種以上を任意の割合で混合して用いることもできる。また、その配合量は、組成物基準で、0.1〜20質量%の範囲が好ましい。この配合量が0.1質量%未満では冷却性能の向上効果が不充分な場合があり、また、20質量%を超える場合は粘度が上昇して冷却性能が悪くなる恐れがある他、効果が飽和してコストが高くなる。このような理由から当該配合量は、1〜10質量%であることが更に好ましい。
【0015】
本発明の(B)成分である炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸としては、直鎖若しくは分岐鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸が好ましく用いられる。
上記脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、例えばヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸(これら飽和脂肪酸は直鎖状でも分岐状でもよい)、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸を含む)、オクタデカジエン酸(リノール酸を含む)、オクタデカトリエン酸(リノレン酸を含む)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の不飽和脂肪酸(これら不飽和脂肪酸は直鎖状でも分岐状でもよく、また二重結合の位置も任意である)等が挙げられる。
上記脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、例えばオクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、ヘキサコサン二酸、オクタコサン二酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸(これらジカルボン酸は直鎖状でも分岐状でもよい)、及びこれら飽和脂肪族ジカルボン酸に対応する不飽和脂肪族ジカルボン酸(これら不飽和脂肪酸は直鎖状でも分岐状でもよく、また二重結合の位置も任意である)などが挙げられる。
これらの脂肪族カルボン酸中でも、冷却性能の観点から、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、具体例としてカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。
【0016】
本発明においては、(B)成分として、上記脂肪族カルボン酸を一種のみ用いることもできるが、二種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。また、その配合量は、組成物基準で、0.1〜20質量%の範囲が好ましい。この配合量が0.1質量%未満では冷却性能の向上効果が不充分な場合があり、また、20質量%を超えると効果が飽和してコストに見合う効果が得られないことがある。このような理由から当該配合量は、1〜10質量%が更に好ましい。
【0017】
本発明においては、(B)成分の脂肪族カルボン酸の(A)成分である金属系清浄分散剤に対する配合比は、脂肪族カルボン酸/金属系清浄分散剤の質量比で0.1〜2、更には0.2〜1.5であることが好ましい。配合比がこの範囲であれば、良好な冷却性能が得られる。
【0018】
本発明の熱処理油組成物は、基本的には基油、(A)成分及び(B)成分を配合することによって調整されるが、さらに所望により、熱処理油に慣用されている添加剤、例えば蒸気膜破断剤、光輝性向上剤、酸化防止剤などを配合することができる。
上記蒸気膜破断剤としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素数は3〜20)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンなど炭素数5〜20のα-オレフィンの重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンなど炭素数3又は4のオレフィン重合体、などの各種ポリオレフィン類及びそれらポリオレフィン類の水素添加物、ポリメタクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、石油樹脂などの高分子化合物、並びにアスファルトなどを挙げることができる。これらの中でも、特に、冷却性、安定性の観点から、アスファルトが、また、光輝性の観点からエチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレンが好ましい。これら蒸気膜破断剤の数平均分子量は、通常800〜100,000であることが好ましい。またその配合量は、熱処理油組成物基準で、通常0.5〜10質量%の範囲である。
【0019】
また、上記光輝性向上剤としては、従来公知の油脂や油脂脂肪酸、アルキル又はアルケニルコハク酸イミド、置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸エステル誘導体などが挙げられる。また酸化防止剤としては、従来公知のアミン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の熱処理油組成物は、上記の成分を配合してなるものであり、その性状については特に制限はないが、組成物の引火点が180℃以上であるものが好ましく、190℃以上であるものがより好ましい。また、本発明の組成物の引火点が、さらに200℃以上、220℃以上、240℃以上、250℃以上、260℃以上など一層高いものがさらに好ましい。このように引火点が高い組成物であれば、高油温熱処理に用いるホット油、セミホット油として好適に用いることができる。
また、組成物の引火点が200℃以上であれば、消防法の危険物の分類で第四石油類に該当することから、指定数量の規制による制約を緩和でき、さらに、組成物の引火点が250℃以上であれば、指定可燃物(非危険物)として取り扱われ、消防法の制約をさらに緩和できる効果がある。
【0021】
本発明の熱処理油組成物は、引火点が、例えば250℃以上の高い組成物であっても、優れた冷却性能を有する熱処理油組成物である。
上記でいう冷却性能は、具体的には、JIS K 2242における銀試片の冷却曲線の800℃から300℃までの冷却時間(秒数)(以下、「300℃秒数」と称することがある)で表すことができ、その冷却時間が短いものほど冷却性能が良好であり、焼入れ加工によって充分な硬度を有する焼入れ加工物を得ることができることを示している。
本発明の熱処理油組成物は、この300℃秒数は極めて短く、組成物の引火点が260℃程度であるホット油、セミホット油に該当するものであっても冷却時間が6.0秒以下のものを得ることができ、さらには5.0秒以下、4.0秒以下のものも得ることができる。また、組成物の引火点が190℃程度のコールド油に該当するものであれば、300℃秒数が3.5秒程度のものを得ることができる。
これらの冷却性能は、同程度の引火点を有する公知の熱処理油よりかなり高い性能である。
【実施例】
【0022】
次に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、熱処理油組成物の性状及び性能は次の方法に従って求めた。
【0023】
(1)冷却性能
JIS K 2242に規定される冷却性能試験に準拠して、810℃に加熱した規定の銀試片を試料(熱処理油)に投入し、銀試片の冷却曲線を測定した。この冷却曲線の800℃から300℃までに冷却されるのに要する冷却時間(300℃秒数)を冷却性能として測定した。この秒数が小さい程冷却性能が高いことを示す。
(2)特性秒数
上記(1)のJIS K 2242で測定した冷却曲線における特性温度(蒸気膜段階が終了する温度)に到達するまでの時間(秒数)を測定した。
(3)100℃における動粘度
JIS K 2283に準拠して測定した。
(4)引火点
JIS K 2256(C.O.C法)に準拠して測定した。
(5)焼入れ実験
下記の実験条件で焼入れを行い、焼入れ処理物の硬度(焼入れ硬度)を測定した。
〔焼入れ実験条件〕
被加工材(試験片):SCM420、φ15mm×30mmL
加熱温度 :850℃×30分、純窒素雰囲気
焼入れ条件 :油温120℃、無攪拌、冷却時間3分
〔硬度測定方法〕
硬度測定位置 :半径の1/2位置の測定、r=3.75mm
硬度測定機器 :ビッカース硬度計
【0024】
実施例1〜17及び比較例1〜6
第1表に示す基油及び添加剤を用い、第1表で示す割合で混合して、熱処理油組成物を調合し、その性状及び性能を求めた。結果を第1表に示す。また、実施例6及び比較例6の熱処理油組成物について焼入れ実験を行い、その結果(焼入れ硬度)を第1表に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
[注]
1)鉱油―1:水素化精製鉱油(ISO−100相当)、100℃動粘度=90mm2/s、粘度指数=104、%CA=3.0、引火点=260℃
2)鉱油―2:水素化精製鉱油(ISO−10相当)、100℃動粘度=14mm2/s、粘度指数=99、%CA=6.0、引火点=190℃
3)蒸気膜破断剤:アスファルト、100℃動粘度=500mm2/s、引火点=340℃
【0029】
第1表から分るように、引火点が260℃程度の本発明の熱処理油組成物(実施例1〜16)は、300℃秒数が6.0秒以下であって短く、冷却性能が優れていることを示す。
これに対し、本発明の(A)、(B)のいずれか又は両方の成分を配合しない熱処理油組成物(比較例1〜3)及び(A)、(B)成分の代わりに蒸気膜破断剤を配合した比較例4の熱処理油組成物は、いずれも300℃秒数が9.4秒以上であって冷却性能が劣っている。また、引火点が250℃程度の市販熱処理油(比較例6)の300℃秒数も7.5秒であり、引火点が260℃程度の本発明の熱処理油より冷却性能が劣っている。
本発明熱処理油(実施例6、300℃秒数が5.0秒)と市販熱処理油(比較例6、300℃秒数が7.5秒)との焼入れ実験による焼入れ硬度は、前者が476Hvであるのに対し、後者が420Hvであることから本発明と比較例の焼入れ性能の差が明確に把握できる。
さらに、引火点が190℃程度であってコールド油の相当する本発明の熱処理油組成物(実施例17)は、300℃秒数が3.5秒であって、同じく引火点が190℃程度であり(A)、(B)成分の代わりに蒸気膜破断剤を配合した比較例6の熱処理油(300℃秒数が5.1秒)より冷却性能が格段に優れていることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の熱処理油組成物は、冷却性能が高い熱処理油組成物であって、引火点が高い組成物であっても優れた冷却性能を有する熱処理油組成物を提供することができる。したがって、焼入れ歪みを低減するために、所謂ホット油やセミホット油を用いて高い油温で焼入れする場合にも、必要な冷却性能を有する熱処理油として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、(A)金属系清浄分散剤及び(B)炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸を配合してなる熱処理油組成物。
【請求項2】
(A)成分の金属系清浄分散剤が、スルホン酸、フェノール及びサリチル酸の金属塩から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の熱処理油組成物。
【請求項3】
(A)成分の金属が、アルカリ土類金属である請求項1又は2に記載の熱処理油組成物。
【請求項4】
脂肪族カルボン酸が炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸である請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理油組成物。
【請求項5】
(A)成分の配合量が組成物基準で、0.1〜20質量%であり、(B)成分の配合量が組成物基準で、0.1〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理油組成物。
【請求項6】
(B)成分の(A)成分に対する配合比が、質量比で0.1〜2である請求項1〜5のいずれかに記載の熱処理油組成物。
【請求項7】
組成物の引火点が180℃以上である請求項1〜6のいずれかに記載の熱処理油組成物。

【公開番号】特開2009−29950(P2009−29950A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196055(P2007−196055)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】