説明

熱処理炉およびその運転方法

【課題】簡単な構成で、焼入室内が負圧になった際の安全性を確保し、変性ガスの削減も可能とした熱処理炉を提供する。
【解決手段】熱処理炉10は、加熱室4、油槽5、焼入室2、排気管9、および窒素ガス供給ライン20を有する。加熱室4内には被処理品8が収容され、所定の変性ガスの雰囲気下で加熱処理が行われる。油槽5には、焼き入れ用の油が貯留される。焼入室2は、加熱室4に連設される。焼入室2内には、加熱処理後の被処理品8が搬入され、油槽5内の油に被処理品8を浸漬して焼き入れが行われる。排気管9は、焼入室2に接続され、加熱処理に使用された変性ガスを排気する。窒素ガス供給ライン20は、排気管9に接続され、排気管9内に窒素ガスを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱処理された被処理品を、油槽に貯留された油に浸漬して焼き入れを行う熱処理炉およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱処理炉を、図3を用いて説明する。この従来の熱処理炉110は、出入扉1を備えた焼入室2が仕切扉3を介して加熱室4に連設されてなるとともに、焼入室2の下部に焼き入れ用の油槽5を連設して構成されている。仕切扉3には、加熱室4と焼入室2とを連通する雰囲気ガス通気用の開口穴3aが設けられている。加熱室4内には、図示しないヒーター、ラジアントチューブ、燃焼バーナー等が備えられていて、該加熱室4内が加熱されるようになっている。油槽5内の焼き入れ用の油は通常50〜150℃の温度に加熱されている。雰囲気ガスは、図示しない雰囲気ガス供給源から、雰囲気ガス供給ライン6を通って加熱室4に供給される。加熱室4内はファン7により攪拌され、雰囲気ガスは均一な温度に加熱される。これにより、加熱室4内に置かれた被処理品8が加熱処理される。
【0003】
雰囲気ガスとしては、吸熱性変性ガス(RXガス)、発熱性変性ガス(DXガス)、メタノール分解ガス等が広く使用されており、これら雰囲気ガスは、水素成分や一酸化炭素成分等の爆発可燃性ガス成分を含有している。
【0004】
雰囲気ガスは仕切扉3の開口穴3aを通って焼入室2に連続して流通し、排気管9より炉外に排出される。排出されたガスは、パイロットバーナー14によって燃焼処理され、排気ダクト11を介して屋外に放出される。
【0005】
一方、被処理品8は搬出テーブル12から出入扉1を経て焼入室2に搬入され、次いで出入扉1を閉止し、仕切扉3を開いて加熱室4に搬入され、仕切扉3を閉止した後所定のガス雰囲気下で加熱処理される。処理された被処理品8は、焼入室2を経て油槽5に搬送されて油に浸漬して焼き入れされる。焼入された被処理品8は、焼入室2に返送され、焼入室2で油切りした後、出入扉1を経て搬出入テーブル12に搬出されて加熱焼入処理を終了する。なお、搬出入テーブル12や焼入室2への被処理品8を出し入れする際に出入扉1を開いたときには、フレームカーテン用ノズル13に燃焼ガスが流れて燃焼し、焼入室2の出入開口部を塞ぐようにフレームカーテンを形成し、該開口部より焼入室2内に空気が侵入するのを防ぐようになっている。
【0006】
しかしながら、このような熱処理炉110にあっては、被処理品8が油槽5内の油に浸漬される際に、焼入室2内の雰囲気ガスの温度が低下し、該焼入室2内の圧力が急激に低下する(例えば、マイナス500mmaq程度。)。焼入室2内が負圧になると、排気管9や出入扉1から空気が炉内に侵入してくることが避けられない。焼入室2内にも流通している変性ガスは上述したように可燃性ガスを含むため、焼入室2内に空気が侵入すると、爆発を誘発する等危険な状態をまねくことがある。
【0007】
したがって、炉内の空気侵入による爆発の危険を防止する対策が必要である。その対策として、特許文献1には、図3に示すように、図示しない窒素ガス供給源121および流量制御機構122(圧力計、流量計、電磁弁等。)を備えた窒素ガス供給ライン120を焼入室2内に連通するように配設し、窒素ガス供給ライン120を通して焼入室2内に直接窒素ガスを供給することにより、焼入室2内の酸素濃度を爆発(燃焼)限界以下に維持することが提案されている。流量制御機構122は、焼入室2内が負圧になった負圧信号を検知したり、出入扉1の開閉を検知して窒素ガスの流量を調整するものであり、開閉スイッチ、圧力計、流量計、電磁弁等を備えて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−124621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のものでは、窒素ガス供給ライン120が窒素ガスの流量を制御する流量制御機構122を備えるため、窒素ガス供給ライン120の構成が複雑となり、設備コストが高くなる問題がある。また、焼入室2内に直接窒素ガスを供給するので、焼入室2内の変性ガス濃度が窒素ガスで薄まる。
【0010】
また、焼入室2内に供給された窒素ガスは排気管9へ向かうガス流の流れを助長し、変性ガスが排気管9を通って勢い良く噴出される。このため、酸素を含む変性ガスが着火源となりパイロットバーナー14で激しい燃焼が起こり、火災の危険がある。
【0011】
この発明は、上記の従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、焼入室内が負圧になった際の安全性を確保出来る熱処理炉およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の熱処理炉は、加熱室、油槽、焼入室、排気管、および窒素ガス供給ラインを有する。加熱室内には被処理品が収容され、所定の変性ガスの雰囲気下で加熱処理が行われる。油槽には、焼き入れ用の油が貯留される。焼入室は、前記加熱室に連設される。焼入室内には、前記加熱処理後の前記被処理品が搬入され、前記油槽内の前記油に前記被処理品を浸漬して焼き入れが行われる。排気管は、前記焼入室に接続され、前記加熱処理に使用された前記変性ガスを排気する。窒素ガス供給ラインは、前記排気管に接続され、前記排気管内に窒素ガスを供給する。
【0013】
このように構成された熱処理炉においては、排気管内に窒素ガスが供給される。焼入室が負圧のときには、窒素ガスが排気管を逆流して焼入室内に流入し、焼入室内に侵入する空気は窒素ガスで希釈されるので、爆発の危険が防止される。
【0014】
この構成では、窒素ガスの流量を制御するための複雑な機構が不要であり、設備コストを安くすることが出来る。例えば、窒素ガス供給ラインに止め弁を設けておき、初期の熱処理炉の立ち上げ時に止め弁により一度窒素ガスの流量を調整すれば良いので、流量計等で監視するほどシビアな流量調整が不要となる。しかも、焼入室内が正圧から負圧になった際は、排気管内と焼入室内との間の圧力差をトリガーとして一時的に排気管を逆流する窒素ガスの流量が増すので、初期に設定する窒素ガスの流量は少量で十分である。したがって、焼入室内が正圧の時には、排気される変性ガスの勢いを増すことなく、変性ガスを窒素ガスで希釈することが出来、変性ガスが着火源となるパイロットバーナーでの激しい燃焼に基づく火災も防止出来る。
【0015】
また、この発明の熱処理炉は、前記排気管から排出される前記変性ガスを燃焼処理するパイロットバーナーが設けられている。この構成によると、排気管から排気される変性ガスがパイロットバーナーで燃焼し、排気が促進されるので、排気管を通じた、焼入室への空気の侵入が抑止される。
【0016】
また、この発明の熱処理炉の運転方法は、加熱室内に収容された被処理品を所定の変性ガスの雰囲気下で加熱処理し、加熱処理後の前記被処理品を焼入室内に搬入し、油槽内の油に浸漬して焼入を行う熱処理炉の運転方法において、前記加熱処理に使用された前記変性ガスを排気する排気管に接続された窒素ガス供給ラインを通して、前記排気管内に窒素ガスを供給することにより、前記焼入室内が負圧になった際に前記排気管から窒素ガスを前記焼入室内に逆流させるものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、焼入室内が負圧になった際に焼入室内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給ラインを、焼入室から変性ガスを排気する排気管に接続したので、窒素ガスの流量制御のための複雑な機構が不要となり、設備コストを安くすることが可能となる。また、焼入室内に直接窒素ガスを供給しないので、焼入室内が正圧の時には、排気される変性ガスの勢いを増すことなく、変性ガスを窒素ガスで希釈することが出来、変性ガスが着火源となるパイロットバーナーでの激しい燃焼に基づく火災も防止出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に係る熱処理炉を示す概略構成図であり、焼入室内が負圧の時のガスの流れを説明する図である。
【図2】同上熱処理炉を示す概略構成図であり、焼入室内が正圧の時のガスの流れを説明する図である。
【図3】従来の熱処理炉を示す概略構成図を示す概略構成図であり、焼入室内が負圧の時のガスの流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図1、図2を参照して、この発明の実施形態に係る熱処理炉10について説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の熱処理炉10は、基本的な構成は、図3に示す従来の熱処理炉110とほぼ同じである。したがって、図3に示された従来の熱処理炉と同一の部分には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略し、従来の熱処理炉と異なる構成についてのみ説明する。
【0021】
図1に示されたこの発明の熱処理炉10が、図3に示された従来の熱処理炉110と異なる点は、大きくいうと、従来の熱処理炉110では、窒素ガス供給ライン120を焼入室2に接続し、窒素ガスを直接焼入室2内に供給するようにしていたが、この発明の熱処理炉10では、図1に示すように、排気管9に窒素ガス供給源21および止め弁22を備える窒素ガス供給ライン20を接続するようにした点である。ここで、止め弁22としては、一般に入手可能なY形弁やニードル弁を好適に用いることが出来る。
【0022】
ここで、被処理品8が焼入室2内に搬入された後、油槽5内の油に浸漬される際に、焼入室2内の雰囲気ガスの温度が低下し、該焼入室2内の圧力が急激に低下する(例えば、マイナス500mmaq程度。)。焼入室2内が負圧になると、排気管9や出入扉1から空気が炉内に侵入してくることが避けられない。焼入室2内にも流通している変性ガスは上述したように可燃性ガスを含むため、焼入室2内に空気が侵入すると、爆発を誘発する等危険な状態をまねくことがある。
【0023】
本発明の熱処理炉10では、焼入室2内が負圧になると、図1の矢印Aで示すように、窒素ガスが排気管9を逆流して焼入室2内に流入し、焼入室2内に侵入する空気は窒素ガスで希釈されるので、爆発の危険が防止される。
【0024】
窒素ガス供給ライン20は、窒素ガス供給源21と排気管9との間を配管でつなぎ、配管の途中に止め弁22を接続した簡単な構造である。例えば、初期の熱処理炉10の立ち上げ時に止め弁22により一度窒素ガスの流量を調整すればあとは放置しておけば良い。したがって、従来の熱処理炉110における窒素ガス供給ライン120(図3参照。)に比べて、窒素ガスの流量を制御するための複雑な機構が不要であり、設備コストを安くすることが出来る。しかも、焼入室2内が正圧から負圧になった際は、排気管9内と焼入室2内との間の圧力差をトリガーとして一時的に排気管9を逆流する窒素ガスの流量が増すので、初期に設定する窒素ガスの流量は少量で十分である。これにより、図2に示すように、焼入室2内が正圧の時には、排気される変性ガスの勢いを増すことなく、変性ガスを窒素ガスで希釈することが出来、変性ガスが着火源となるパイロットバーナー14での激しい燃焼に基づく火災も防止出来る。
【0025】
また、本発明の熱処理炉10では、焼入室2内に直接窒素ガスを供給しないので、焼入室2内の変性ガス濃度が窒素ガスにより希釈されることがない。このため、変性ガスの削減が可能となる。
【0026】
上記の実施形態に係る熱処理炉10は、出入扉1の出入開口部にフレームカーテンノズル13を備えるフレームカーテン型の熱処理炉である場合を例にして説明したが、この発明は、フレームカーテンノズル13を用いないフレームレス型の熱処理炉(例えば、焼入室内を真空排気して窒素ガスで復圧する、真空パージ式の熱処理炉。)にも適用可能である。
【0027】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、この発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0028】
10−熱処理炉
2−焼入室
4−加熱室
5−油槽
6−変性ガス供給ライン
8−被処理品
9−排気管
20−窒素ガス供給ライン
21−窒素ガス供給源
22−止め弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理品が収容され所定の変性ガスの雰囲気下で加熱処理する加熱室と、
焼き入れ用の油が貯留された油槽と、
前記加熱室に連設され、前記加熱処理後の前記被処理品が搬入され、前記油槽内の前記油に前記被処理品を浸漬して焼き入れを行う焼入室と、
前記焼入室に接続され、前記加熱処理に使用された前記変性ガスを排気する排気管と、
前記排気管に接続され、前記排気管内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給ラインと、
を備えた熱処理炉。
【請求項2】
前記排気管から排出される前記変性ガスを燃焼処理するパイロットバーナーが設けられた請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
加熱室内に収容された被処理品を所定の変性ガスの雰囲気下で加熱処理し、加熱処理後の前記被処理品を焼入室内に搬入し、油槽内の油に浸漬して焼入を行う熱処理炉の運転方法において、
前記加熱処理に使用された前記変性ガスを排気する排気管に接続された窒素ガス供給ラインを通して、前記排気管内に窒素ガスを供給することにより、前記焼入室内が負圧になった際に前記排気管から窒素ガスを前記焼入室内に逆流させる熱処理炉の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126940(P2012−126940A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277747(P2010−277747)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】