説明

熱処理炉

【課題】熱風供給装置6を共有させることにより製造コストをダウンさせた熱処理炉を提供する。
【解決手段】外側筐体1と、上方空間1Aが形成されるように外側筐体1の内側に設けられるとともに上面に上部開口2aが設けられ、その内部が第1の領域X2と第2の領域X1とに分かれている内側筐体2と、外側筐体1及び内側筐体2の内部を貫通するように設けられ、内側筐体2内部をワーク30が通過するように搬送するワーク搬送装置3と、上部開口2aとワーク搬送装置3との間且つワーク搬送方向Xに、複数個が互いの間に隙間52が形成されるように並列に配置されてワークを加熱するヒータ装置5と、上方空間1Aと上部開口2aとヒータ装置5間の隙間52とを通過してワークを加熱する熱風6aを供給する単一の熱風供給装置6と、熱風6aの供給量が第1の領域X2よりも第2の領域X1の方が多くなるように調整する熱風供給量調整機構とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理炉に関し、特にワークに付着した溶剤を揮発させる熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに付着した溶剤を揮発させる熱処理炉としては、図10に示すような構造のものが使用されている。
従来の熱処理炉は、例えば主として樹脂からなるワーク130に付着した溶剤の温度を室温から揮発温度まで立ち上がらせるための昇温領域100aと、昇温領域100aと仕切板104により物理的に区画され、昇温領域100aで立ち上がせた温度を維持して、ワーク130に付着した溶剤を完全に揮発させるための均熱領域100bとの2つの領域から構成されている。
【0003】
ワーク130は、例えば炭素鋼などの金属からなるパレット121上に載置され、ワーク搬送装置120により昇温領域100a及び均熱領域100bに搬送される。一般に、樹脂を加熱する場合には、電磁波(例えば赤外線や遠赤外線)を利用するヒータが適していることが知られており、樹脂と金属とを同時に加熱するためには、主として樹脂を加熱するヒータと主として金属を加熱する熱風の2つの熱源が必要である。このため、昇温領域100aには、主としてパレット121の温度を上昇させる熱風102aを供給する熱風供給装置101aと、主としてパレット121上に載置されるワーク130の温度を上昇させる赤外線ヒータ103aが設けられている。また、均熱領域100bには、主として昇温領域100aで上昇させたパレット121の温度を維持する熱風102bを供給する熱風供給装置101bと、主として昇温領域100aで上昇させたワーク130の温度を維持する熱風を供給する赤外線ヒータ103bが設けられている。
【特許文献1】特開平2000−165030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の熱処理炉においては、昇温領域100aの熱風供給装置101aが形成する熱風102aは、主としてパレット121の温度を上昇させるためのものであるので、温度の維持を目的とする均熱領域100bの熱風供給装置101bが形成する熱風102bに比べて、温度を高くする必要がある。このため、従来の熱処理炉においては、昇温領域100a及び均熱領域100bのそれぞれに熱風供給装置103a、103bを設けたが、製造コストが高いという課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、熱風供給装置を共有させることを可能にすることにより、製造コストをダウンさせた熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成される。
【0007】
本発明の第1態様によれば、外側筐体と、
少なくとも上方に空間が形成されるように前記外側筐体の内側に設けられるとともに、上面に上部開口が設けられ、その内部が前記ワークの搬送方向下流側の第1の領域と前記ワークの搬送方向上流側の温度が異なる第2の領域とに、物理的に区画されることなく分かれている内側筐体と、
前記外側筐体及び前記内側筐体の内部を貫通するように設けられ、前記内側筐体の内部をワークが通過するようにワークを搬送するワーク搬送装置と、
前記内側筐体の前記上部開口と前記ワーク搬送装置との間且つ前記第1の領域と前記第2の領域とに、複数個が互いの間に隙間が形成されるように前記ワークの搬送方向に並列に配置されて、前記ワークを加熱するヒータ装置と、前記上方空間と前記上部開口と前記複数のヒータ装置間の前記隙間とを通過して前記ワークを加熱する熱風を前記第1の領域と前記第2の領域とに同時に供給する単一の熱風供給装置と、
前記熱風を、前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が、供給量が多くなるように調整して前記ワークに供給する熱風供給量調整機構と、
を有することを特徴とする熱処理炉を提供する。
【0008】
本発明の第2態様によれば、前記熱風量調整機構は、多数の開口が設けられ、前記内側筐体の前記上部開口と前記ヒータ装置との間且つ前記第1の領域に配置された熱風供給側板状体を有することを特徴とする第1態様に記載の熱処理炉を提供する。
【0009】
本発明の第3態様によれば、前記熱風量調整機構は、前記内側筐体の前記上部開口と前記ヒータ装置との間に配置された熱風供給側板状体を有し、
前記熱風供給側板状体には、前記第1の領域での開口率が前記第2の領域での開口率よりも小さくなるように多数の開口が設けられていることを特徴とする第1態様に記載の熱処理炉を提供する。
【0010】
本発明の第4態様によれば、前記熱風供給側板状体は、多数の開口が設けられた第1の板状体と、前記第1の板状体とは前記ワークの搬送方向の長さが異なるように形成されるとともに多数の開口が設けられ、前記第1の板状体と相対的に移動可能に密着されて重ね合わされた第2の板状体を有し、前記第1の板状体と前記第2の板状体との相対位置を調整することで、前記第1の領域での開口率を調整可能としたものであることを特徴とする第3態様に記載の熱処理炉を提供する。
【0011】
本発明の第5態様によれば、前記熱風供給側板状体の前記第2の領域での開口率は、前記第1の領域での開口率の2倍から4倍であることを特徴とする第3態様又は第4態様に記載の熱処理炉を提供する。
【0012】
本発明の第6態様によれば、前記熱風量供給機構は、前記第1の領域での開口率が前記第2の領域での開口率よりも小さくなるように多数の開口が設けられた前記内側筐体の前記上部開口で構成されていることを特徴とする第1態様に記載の熱処理炉を提供する。
【0013】
本発明の第7態様によれば、前記熱風量供給機構は、前記第1の領域にある前記複数のヒータ装置間の隙間を、前記第2の領域にある前記複数のヒータ装置間の隙間よりも小さくなるように調整したものであることを特徴とする第1〜6態様のいずれか一つに記載の熱処理炉を提供する。
【0014】
本発明の第8態様によれば、前記ヒータ装置は、前記ワークを加熱するヒータと、前記ヒータに直接、前記熱風供給装置で形成された前記熱風が当たらないように前記ヒータの上部を覆う屋根材と、を備えていることを特徴とする第1〜7態様のいずれか一つに記載の熱処理炉を提供する。
【0015】
本発明の第9態様によれば、前記内側筐体は、一側方にも前記上方空間につながる空間を有するように前記外側筐体の内側に設けられ、
前記ヒータ装置と前記ワーク搬送装置との間且つ前記ワークの搬送方向と平行な前記内側筐体の側面には、前記熱風供給装置で形成されて前記一側方空間へ流入した熱風を前記内側筐体の内部に取り入れるために、側方開口が設けられていることを特徴とする第1〜8のいずれか一つに記載の熱処理炉を提供する。
【0016】
本発明の第10態様によれば、前記内側筐体の内部で前記ワーク搬送手段の下方に、多数の開口が設けられた熱風排気側板状体を有し、
前記熱風排気側板状体の前記第2の領域での開口率は、前記熱風供給側板状体の前記第2の領域での開口率と同一又は大きく、
前記熱風排気側板状体の前記第1の領域での開口率は、前記熱風供給側板状体の前記第1の領域での開口率と同一又は大きいことを特徴とする第1〜9態様のいずれか一つに記載の熱処理炉を提供する。
【0017】
本発明の第11態様によれば、前記内側筐体の内部で前記熱風排気側板状体の下方且つ前記第1の領域内に、前記熱風を排気するための排気ダクトが設けられていることを特徴とする第1〜10態様のいずれか一つに記載の熱処理炉を提供する。
【0018】
本発明の第12態様によれば、前記ワーク搬送装置が貫通する前記外側筐体及び前記内側筐体の貫通部分の上側は、内側筐体の内部に向かって折れ曲がっていることを特徴とする第1〜11態様に記載の熱処理炉を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内側筐体の上部開口と前記複数のヒータ装置間の前記隙間とを通過してワークを加熱する熱風の供給量を、第1の領域よりも第2の領域の方が多くなるように調整してワークに供給するようにしたことにより、同一の熱風供給装置を用いて仕切板等で物理的に区画することなく第1の領域と第2の領域との区別をつけることが可能となり、製造コストをダウンさせた熱処理炉を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下に、本発明に係る実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1Aは本発明の第1実施形態に係る熱処理炉のワーク搬送方向の概略断面図を示し、図1Bは本発明の第1実施形態に係る熱処理炉のワーク搬送方向に直交する横方向の概略断面図を示している。図2は、本発明の第1実施形態に係る熱処理炉の具体的構成例を示す斜視図である。
【0022】
図1A及び図1Bにおいて、本第1実施形態の熱処理炉は、外側筐体1と、上方及び一側方に上方空間1A及び側方空間1Bを形成するように外側筐体1の内側に設けられた、上面に上部開口部2aを有する内側筐体2と、外側筐体1の対向する一対の面1a、1b及び内側筐体2の中央部を貫通するように設けられ、内側筐体2の内部をワーク30が通過するようにワーク30を搬送するワーク搬送装置3とを有している。また、内側筐体2の上部開口2aとワーク搬送装置3の間には、複数個(例えば8個)が互いの間に隙間52が形成されるように並列に配置されて、ワーク30を加熱するヒータ装置5が設けられ、ワーク搬送装置3の下方には、側方空間1B、上方空間1A、上部開口2a、及び複数のヒータ装置5間の隙間52を通過してワーク30を加熱する熱風6aを供給する熱風供給装置6が設けられている。
【0023】
外側筐体1は、略直方体形状に形成され、ワーク搬送方向Xに対向する一対の面1a、1bの中央部にはそれぞれ、ワーク搬送装置3が貫通できるように貫通穴1c、1dが設けられている。外側筐体1の対向する一対の面1a、1bの貫通穴1c、1d近傍の上部1e、1fは、ヒータ装置5の熱及び熱風供給装置6からの熱風6aが外側筐体1の外部に逃げて熱処理炉内の温度が低下するのを抑えるために、内側に向かって折れ曲がっている。
【0024】
内側筐体2は、略直方体形状に形成され、少なくとも内側筐体2のワーク搬送方向Xに対向する一対の面は、外側筐体1の対向する一対の面1a、1bを共有するように設けられている。なお、内側筐体2のワーク搬送方向Xに対向する一対の面は、外側筐体1の対向する一対の面1a、1bの内側に接するように設けられてもよい。
【0025】
内側筐体2の上部開口2aとヒータ装置5との間で内側筐体2の内周面には、熱風量供給機構の一例である熱風供給側板状体4が取り付けられている。熱風供給側板状体4は、均等に分散された多数の開口を有する矩形で板状の部材であり、例えばパンチングメタルやスリット板などからなる。熱風供給側板状体4の開口の形状及び配列としては、図3Aに示すような多数の丸孔を並列に配置したものや図3Bに示すような多数の長孔を千鳥状に配置したものなど様々なものが採用できる。熱風供給側板状体4のワーク搬送方向下流側の均熱領域(第1の領域)X2での開口率は、ワーク搬送方向上流側の昇温領域(第2の領域)X1での開口率よりも小さくなるように設定されている。より好ましくは、開口比率が2:1〜4:1になるように設定されている。例えば、熱風供給側板状体4の均熱領域X2での開口率は30%、昇温領域X1での開口率は15%に設定される。
【0026】
なお、均熱領域X2と昇温領域X1とは、内側筐体2内で物理的に区画されることなく、つまり仕切板等で区画されることなく仮想的に分かれている。また、均熱領域X2と昇温領域X1との境界は、対向する一対の面1a、1b間の真ん中(図1Aの点線部分)にあることが好ましい。また、熱風供給側板状体4は、一枚の板状体からなるものに限られず、例えば、図4及び図5に示すように、開口の大きさは同一であるが長さが異なる2枚の板状体4a、4bを密着させて重ね合わせ、相対的に移動させることで、均熱領域X2での開口率が昇温領域X1での開口率よりも小さくなるようにした構成のものでもよい。
【0027】
熱風供給側板状体4の下面には梯子状の取付フレーム7が取り付けられている。取付フレーム7の下面には8個のヒータ装置5が取り付けられている。ヒータ装置5は、図6に示すように、電磁波(例えば赤外線ヒータや遠赤外線ヒータ)を利用するヒータの一例である矩形のパネルヒータ5aと、パネルヒータ5aの上部を覆う台形状の屋根材5bと、パネルヒータ5aと屋根材5bとを連結する複数の棒状の保持部材5cとを有している。
【0028】
熱風供給側板状体4と各屋根材5bとは、熱風供給側板状体4を通過した熱風6aの風速を緩和、低減するための空間51を形成するように設けられている。なお、屋根材5bの形状は、図6に示すような断面台形状の他にも、例えば断面半円状や断面コ字状であってもよい。
【0029】
パネルヒータ5aは、2枚を1組として4つの組に分けて温度設定される。例えば、内側筐体2のワーク搬送方向Xの長さを800mm、ワーク搬送速度を160mm/分として、ワーク30の目標温度を80℃、125℃、又は150℃とした場合、熱風供給装置6の熱風6aの温度及びパネルヒータ5aの各組のそれぞれの設定温度は、下記表1のようになる。
【0030】
【表1】

【0031】
つまり、昇温領域X1の2組は、ワーク30の温度を上昇させることを目的とするためワーク30の目標温度よりもかなり高い温度に設定され、均熱領域X2の2組は、ワーク30の温度を維持させることを目的とするためワーク30の目標温度よりもやや高い程度の温度に設定される。なお、具体的な設定温度については上記に限られず、内側筐体2のワーク搬送方向Xの長さやワーク搬送速度、内側筐体2の体積などに応じて適宜設定すればよい。
【0032】
ワーク搬送装置3は、例えば、ワーク搬送方向Xに平行な内側筐体2の対向する一対の面2b,2cに沿って突設された複数のプーリ3a,3aと、複数のプーリ3a,3a上を滑動可能に架設されたチェーン3b,3bと、チェーン3b,3b上に載置され、例えば駆動用モータ(図示していない)によりチェーン3b,3bが駆動することによって、ワーク搬送方向Xに移送されるパレット3cを備えている。パレット3cは、例えば炭素鋼などの金属で形成されている。例えば主として樹脂から形成されたワーク30は、パレット3cに保持されてワーク搬送方向Xに移送される。
【0033】
ワーク搬送装置3と熱風供給装置6との間には、熱風排気側板状体8と仕切板9とが順に内側筐体2の内周面に取り付けられている。熱風排気側板状体8は、熱風供給側板状体4と同様の構成を有する。つまり、熱風排気側板状体8には均等に分散した多数の開口が設けられており、熱風排気側板状体8の均熱領域X2での開口率は、昇温領域X1の開口率よりも小さくなるように設定されている。また、熱風排気側板状体8の昇温領域X1での開口率は、熱風供給側板状体4の昇温領域X1の開口率と同一又は大きく、熱風排気側板状体8の均熱領域X2での開口率は、熱風供給側板状体4の均熱領域での開口率と同一又は大きくなるように設定されている。
【0034】
仕切板9は、熱風排気側板状体8の下方に熱風排気側板状体8と平行に取り付けられ、熱風排気側板状体8を通過した熱風6aが熱風供給装置6に当たらないようにしている。仕切板9には排気用貫通穴9aが設けられ、排気用貫通穴9aには熱風排気側板状体8を通過した熱風6aを排気するための円筒状の排気用ダクト10が接続されている。排気用貫通穴9a及び排気ダクト用10は、上記のように熱風排気側板状体8の開口率を設定したため、均熱領域X2より昇温領域X1の方が熱風排気側板状体8を通過する熱風6aの量が多いので、仕切板9のワーク搬送方向上流側(昇温領域X1)に設けている。
【0035】
排気用ダクト10には、排気用ダクト10内に流れ込んだ熱風6aを外側筐体1の外部に排出するために外側筐体1の面1aの仕切板9より下方に設けられた排気用ブロア15が接続されている。
外側筐体1の下面1g上には、熱風供給装置6と循環ブロア11とが配置されている。熱風供給装置6は、外側筐体1の下面1gから立設して仕切板9と接続されている1組の仕切壁17,17と外側筐体1の下面1gと仕切板9とに囲まれた空間18内に配置されている。循環ブロア11は、外側筐体1の内側且つ空間18の外側に配置され、仕切壁17を貫通する連結ダクト12により熱風供給装置6と連結されている。
【0036】
循環ブロア11には、一端が仕切壁17を貫通して熱風供給装置6の近傍の空間18に接続された筒状の給気ダクト16が接続されている。循環ブロア11は、駆動により発熱する熱風供給装置6により温められた空間18内の空気を、給気ダクト16を介して取り入れ、連結ダクト12を介して熱風供給装置6へ供給する。熱風供給装置6は、上方空間1Aに供給する熱風6aの温度が前記表1に示す温度になるように、循環ブロア11により連結ダクト12を介して供給された前記空気を加熱して熱風6aを生成する。なお、熱風供給装置6は、極めて短時間(例えば1秒間)で本熱処理炉内の空気を入れ替えられるような熱風送風能力を有するように構成されている。
【0037】
また、熱風供給装置6は、筒状の連結ダクト13を介して、連結ダクト13の横方向の断面積よりも広い横方向の断面積を有するように形成された広径部19と接続されている。広径部19は、内側筐体2の側方空間1Bと隣接する面2dの下方に設けられた供給用貫通穴2eを介して側方空間1Bと接続されている。広径部19の横方向の断面積は、側方空間1Bの横方向の断面積よりも狭く形成されている。
【0038】
なお、連結ダクト13と側方空間1Bとは、垂直方向の開口位置をずらして形成されている。つまり、熱風供給装置6より生成された熱風6aは、連結ダクト13を通過して広径部19の内壁(図2では仕切板9)に衝突し、拡散されてから側方空間1B側へ供給されるようになっている。なお、このようにして側方空間1Bに供給された熱風6aは、側方空間1Bの横方向の断面積が広径部19の横方向の断面積よりも広くなっているので、さらに流れが乱されて拡散されやすくなり、その結果、上方空間1Aの全体にわたって一様に供給されることとなる。
【0039】
なお、排気ダクト10は、本熱処理炉内のクリーン化の観点から上記のように構成したが、熱風供給装置6の熱効率を重視して循環ブロア11と直接接続されるように構成してもよい。
本第1実施形態の熱処理炉は以上のように構成されている。
【0040】
本第1実施形態の熱処理炉によれば、熱風供給側板状体4の開口率を昇温領域X1よりも均熱領域X2の方が小さくなるようにしているので、内側筐体2の上部開口2aと複数のヒータ装置5間の隙間52とを通過してワーク30を加熱する熱風6aの供給量が、昇温領域X1よりも均熱領域X2の方が少なくなるように調整される。このように調整された熱風6aと上記のように温度設定されたパネルヒータ5aとにより、ワーク30は、図7の実線Aに示す理想的な温度曲線のように温度変化する。つまり、昇温領域X1で目標温度まで温度上昇し、均熱領域X2でその目標温度を維持するように温度変化する。したがって、昇温領域X1と均熱領域X2とに熱風を供給する熱風供給装置6をそれぞれに設ける必要が無く、つまり熱風供給装置6を共有させることが可能となり、熱処理炉の製造コストをダウンさせることができる。
【0041】
また、主として樹脂から形成されたワークを金属で形成されたパレット上に載置した状態で加熱する場合、電磁波(例えば赤外線ヒータや遠赤外線ヒータ)利用し、主としてワークを加熱するヒータ及び主としてパレットを加熱する熱風の2つの熱源を併用するが、熱風が直接当たる領域では熱風の風速により、図7の点線Bに示すように、ワークの温度が下がるため、ワークに加熱ムラが発生するおそれがある。
【0042】
そこで、本第1実施形態の熱処理炉においては、熱風供給側板状体4と各屋根材5bとにより、熱風供給側板状体4を通過した熱風6aの風速を緩和、低減する空間51を形成しているので、ワーク30に熱風6aが直接当たらず、図7の実線Aに示す理想的な温度曲線に近づけることができる。
【0043】
また、本第1実施形態の熱処理炉においては、熱風排気側板状体8を熱風供給側板状体4と同様に構成し、又、排気用ダクト10を昇温領域X1に設けているので、ワーク30に供給した熱風6aを円滑に排気することができ、熱風6aがワーク30の近傍に滞留しない。したがって、さらに図7の実線Aに示す理想的な温度曲線に近づけることができる。なお、上記はワーク30の目標温度が高くなるほど効果がある。
【0044】
また、本第1実施形態の熱処理炉においては、熱風排気側板状体8により、ワーク30に供給する熱風6aの量を調整できるので、昇温領域X1と均熱領域X2との間に垂直に仕切板を設けて別々の領域にすることを必要としない。したがって、熱処理炉の小型化を図ることも可能である。
【0045】
また、本第1実施形態の熱処理炉においては、熱風供給装置6により生成された熱風6aが、連結ダクト13を介して広径部19に供給され、広径部19で拡散されてから、側方空間1B、上方空間1Aへと供給されるようになっているので、上方空間1Aの全体にわたって一様に供給される。
【0046】
なお、本第1実施形態においては、パネルヒータ5aを8枚設置し、2枚を1組として4つの組に分けたが、これに限られない。例えば、パネルヒータ5aを4枚設置し、1枚で1組として4つの組に分けてもよい。但し、パネルヒータ5aの枚数及び/又は組数が奇数であると、昇温領域X1と均熱領域X2との境界がはっきりせず、図7の実線Aに示す理想的な温度曲線のようにならないおそれがある。したがって、パネルヒータ5aの枚数及び組数は偶数にするのが好ましく、さらには4の倍数にするのが好ましい。
【0047】
《第2実施形態》
図8は本発明の第2実施形態に係る熱処理炉の横方向の概略断面図を示している。本第2実施形態の熱処理炉は、側方開口2f、及びフィルタ14を有する点で本第1実施形態の熱処理炉とは異なる。その他の同一符号を付した点においては同様であるので、重複する説明は省略する。
【0048】
図8において、側方開口2fは、ワーク搬送装置3とヒータ装置5との間且つ内側筐体2の側方空間1Bと隣接する面2dに、内側筐体2のワーク搬送方向Xの長さにわたって設けられている。側方開口2fは、側方空間1Bを通じて移動してきた熱風6aが上部空間1A側にも供給されるように、側方空間1Bの横方向の断面積よりも開口面積が小さく形成されている。
【0049】
フィルタ14は、側方空間1Bの側方開口2fと貫通穴2eとの間の側方空間1Bに設けられている。フィルタ14は、HEPAフィルタなどの高性能フィルタであり、ワーク30に供給する熱風6aの空気清浄度を高めている(例えば1.6個以下/10リットル)。
【0050】
本第2実施形態の熱処理炉によれば、上記のように側方開口2fを設けたことにより、各パネルヒータ5a間の隙間52を通ってワーク30に供給される熱風6aのみに依存せずにワーク30の温度を上昇させることができる。これにより、ワーク30を温度上昇させる時間が短縮できるとともに、熱風6aの風速によるワーク30の温度低下(図7の点線B)を抑えて、ワーク30の温度曲線を図7の実線Aに示す理想的な温度曲線に近づけることができる。
なお、本実施形態の熱処理炉において、側方開口2fは単なる一つの開口としたが、熱風供給側板状体4や熱風排気側板状体8に設けた開口のように、均等に分散した多数の開口から形成されるものであってもよい。また、側方開口2fは、均熱領域X2での開口率が昇温領域X1での開口率よりも小さくなるように形成されてもよい。
【0051】
また、本第2実施形態の熱処理炉によれば、熱風形成装置6より生成された熱風6aに塵や埃が含まれていてもフィルタ14により除去されるので、ワーク30に空気清浄度の高い熱風6aを供給することが可能になる。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、上記実施形態において、熱風供給側板状体4は、内側筐体2の上部開口2aの下方に設けたが、内側筐体2の上部開口2aを塞ぐように内側筐体2の上部に取り付けられてもよい。また、内側筐体2の上部開口2a自体が、熱風供給側板状体4と同様にして、多数の開口から形成され、均熱領域X2での開口率が昇温領域X1での開口率よりも小さくなるように形成されてもよい。
【0053】
また、上記実施形態において、熱風供給側板状体4は、昇温領域X1にも均熱領域X2にも設けたが、図9に示すように、均熱領域X2のみに設けても同様の効果を奏するようにすることが可能である。
【0054】
また、上記実施形態においては、ワーク30に供給される熱風6aの供給量が均熱領域X2よりも昇温領域X1の方が多くなるようにする熱風量調整機構を、熱風供給側板状体4の昇温領域及び均熱領域X1,X2での開口率を調整することによって実現したが、各パネルヒータ5a間の隙間52の大きさを調整することによっても実現することは可能である。
【0055】
また、上記実施形態においては、熱風供給装置6を内側筐体2の下部に配置したが、内側筐体2の側方や上方に配置されてもよい。
【0056】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明にかかる熱処理炉は、熱風供給装置を共有させることを可能にすることにより、製造コストをダウンさせることができる効果を有し、特にワークに付着した溶剤を揮発させる熱処理炉として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る熱処理炉のワーク搬送方向の概略断面図
【図1B】本発明の第1実施形態に係る熱処理炉の横方向の概略断面図
【図2】本発明の第1実施形態に係る熱処理炉の斜視図
【図3A】熱風供給側板状体の一例を示す図
【図3B】熱風供給側板状体の他の例を示す図
【図4】熱風供給側板状体の変形例を示す斜視図
【図5】熱風供給側板状体の変形例を示す断面図
【図6】ヒータ装置の一部拡大斜視図
【図7】ワークの温度変化を示すグラフ
【図8】本発明の第2実施形態に係る熱処理炉の横方向の概略断面図
【図9】本発明の他の実施形態に係る熱処理炉の一部拡大断面図
【図10】従来の熱処理炉のワーク搬送方向の概略断面図
【符号の説明】
【0059】
1 外側筐体
1a、1b 面
1c、1d 貫通穴
1e、1f 屈曲部
1g 下面
2 内側筐体
2a 上部開口
2b、2c、2d 面
2e 貫通穴
2f 側部開口
3 ワーク搬送装置
3a プーリ
3b チェーン
3c パレット
4 熱風供給側板状体
4a、4b スリット板
5 ヒータ装置
5a パネルヒータ
5b 屋根材
5c 保持部材
6 熱風供給装置
7 取付フレーム
8 熱風排気側板状体
9 仕切板
10 排気用ダクト
11 循環ブロア
12、13 連結ダクト
14 フィルタ
15 排気用ブロア
16 供給ダクト
17 仕切壁
18 空間
19 広径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側筐体と、
少なくとも上方に空間が形成されるように前記外側筐体の内側に設けられるとともに、上面に上部開口が設けられ、その内部が前記ワークの搬送方向下流側の第1の領域と前記ワークの搬送方向上流側の温度が異なる第2の領域とに、物理的に区画されることなく分かれている内側筐体と、
前記外側筐体及び前記内側筐体の内部を貫通するように設けられ、前記内側筐体の内部をワークが通過するようにワークを搬送するワーク搬送装置と、
前記内側筐体の前記上部開口と前記ワーク搬送装置との間且つ前記第1の領域と前記第2の領域とに、複数個が互いの間に隙間が形成されるように前記ワークの搬送方向に並列に配置されて、前記ワークを加熱するヒータ装置と、前記上方空間と前記上部開口と前記複数のヒータ装置間の前記隙間とを通過して前記ワークを加熱する熱風を前記第1領域と前記第2の領域とに同時に供給する単一の熱風供給装置と、
前記熱風を、前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が、供給量が多くなるように調整して前記ワークに供給する熱風供給量調整機構と、
を有することを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記熱風量調整機構は、多数の開口が設けられ、前記内側筐体の前記上部開口と前記ヒータ装置との間且つ前記第1の領域に配置された熱風供給側板状体を有することを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記熱風量調整機構は、前記内側筐体の前記上部開口と前記ヒータ装置との間に配置された熱風供給側板状体を有し、
前記熱風供給側板状体には、前記第1の領域での開口率が前記第2の領域での開口率よりも小さくなるように多数の開口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記熱風供給側板状体は、多数の開口が設けられた第1の板状体と、前記第1の板状体とは前記ワークの搬送方向の長さが異なるように形成されるとともに多数の開口が設けられ、前記第1の板状体と相対的に移動可能に密着されて重ね合わされた第2の板状体を有し、前記第1の板状体と前記第2の板状体との相対位置を調整することで、前記第1の領域での開口率を調整可能としたものであることを特徴とする請求項3に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記熱風供給側板状体の前記第2の領域での開口率は、前記第1の領域での開口率の2倍から4倍であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記熱風量供給機構は、前記第1の領域での開口率が前記第2の領域での開口率よりも小さくなるように多数の開口が設けられた前記内側筐体の前記上部開口で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項7】
前記熱風量供給機構は、前記第1の領域にある前記複数のヒータ装置間の隙間を、前記第2の領域にある前記複数のヒータ装置間の隙間よりも小さくなるように調整したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の熱処理炉。
【請求項8】
前記ヒータ装置は、前記ワークを加熱するヒータと、前記ヒータに直接、前記熱風供給装置で形成された前記熱風が当たらないように前記ヒータの上部を覆う屋根材と、を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の熱処理炉。
【請求項9】
前記内側筐体は、一側方にも前記上方空間につながる空間を有するように前記外側筐体の内側に設けられ、
前記ヒータ装置と前記ワーク搬送装置との間且つ前記ワークの搬送方向と平行な前記内側筐体の側面には、前記熱風供給装置で形成されて前記一側方空間へ流入した熱風を前記内側筐体の内部に取り入れるために、側方開口が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の熱処理炉。
【請求項10】
前記内側筐体の内部で前記ワーク搬送手段の下方に、多数の開口が設けられた熱風排気側板状体を有し、
前記熱風排気側板状体の前記第2の領域での開口率は、前記熱風供給側板状体の前記第2の領域での開口率と同一又は大きく、
前記熱風排気側板状体の前記第1の領域での開口率は、前記熱風供給側板状体の前記第1の領域での開口率と同一又は大きいことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の熱処理炉。
【請求項11】
前記内側筐体の内部で前記熱風排気側板状体の下方且つ前記第1の領域内に、前記熱風を排気するための排気ダクトが設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の熱処理炉。
【請求項12】
前記ワーク搬送装置が貫通する前記外側筐体及び前記内側筐体の貫通部分の上側は、内側筐体の内部に向かって折れ曲がっていることを特徴とする請求項1〜11に記載の熱処理炉。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−93168(P2007−93168A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286647(P2005−286647)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】