説明

熱処理装置

【課題】ガラス状炭素からなるプロセスチューブ1をその外側の電磁誘導加熱コイル3で電磁誘導加熱することにより、温度制御を高速で行い熱処理作業のスループットを向上させることができる熱処理装置を提供する。
【解決手段】気密にしたプロセスチューブ1内を加熱して内部の被処理物Sを熱処理する熱処理装置において、プロセスチューブ1をガラス状炭素で構成すると共に、このプロセスチューブ1の外側に電磁誘導加熱コイル3が配置された構成とする。また、このプロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間に石英チューブ2を配置し、電磁誘導加熱コイル3を水冷式とした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密にしたプロセスチューブ内を加熱して内部の半導体ウエハ等を熱処理する熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、半導体ウエハを熱処理する際に高速熱処理装置(RTP:Rapid Thermal Prosesser)を用いる方法が知られている。また、このような高速熱処理装置では、電熱ヒータによる加熱ではなく、電磁誘導加熱によってプロセスチューブ内を加熱するようにした装置(IH-RTP:Induction Heating-RTP)も開発されている(例えば、特許文献1参照。)。この電磁誘導加熱による高速熱処理装置は、図4に示すように、被処理物Sを収容する石英ガラス製のプロセスチューブ5の外側にグラファイト製の加熱筒6を配置し、この加熱筒6の外側に絶縁断熱層7を介して電磁誘導加熱コイル3を配置している。また、この加熱筒6は、表面にSiC(炭化ケイ素)コートを施すことにより、電磁誘導加熱コイル3からの重金属イオンの透過を防止したり、グラファイトの酸化や摩耗による加熱筒6の消耗を防止している。
【0003】
上記構成の高速熱処理装置は、電磁誘導加熱コイル3に高周波電流を流して加熱筒6を加熱し放射熱を放射させることにより、プロセスチューブ5内を加熱する。しかも、プロセスチューブ5を囲む加熱筒6の内面全体から放射熱が発せられるので、ホットウォール型の加熱により被処理物Sを均一に熱処理することができる。
【0004】
ところが、最近の半導体製造プロセスでは、集積回路の線間隔のプロセスルールの微細化等に伴い、熱処理温度も低温化(例えば500℃以下)の要請が強くなっている。しかしながら、上記従来の高速熱処理装置では、プロセスチューブ5や加熱筒6の熱容量が大きいために、特に低温域での温度制御を高速で行うことが困難であるという問題があった。つまり、電磁誘導加熱による高速熱処理装置は、電熱ヒータを用いた高速熱処理装置よりもプロセスチューブ内の温度を高速で変化させることができるという利点を有するが、それでもなお熱容量が大きい石英ガラス製のプロセスチューブ5の外側からグラファイト製の加熱筒6で加熱するという構造のために、特に低温域では電磁誘導加熱コイル3の通電の開始や停止、電流の増減の実行から実際にプロセスチューブ5内の温度が変化するまでに大きな時間遅れが生じ、昇温や降温のプロセスを迅速に実行することができず、熱処理作業のスループットを向上させることができなかった。
【0005】
なお、石英ガラス製のプロセスチューブ5を省略して、グラファイト製の加熱筒6をプロセスチューブとしても用いることができれば、この石英ガラス製のプロセスチューブ5の分だけ熱容量を減少させることができるので、温度制御の高速化が可能となる。しかしながら、グラファイトは、層状の構造を持ち、層相互間の結合が弱いために、これを用いて十分な気密性と耐摩耗性や強度を有するプロセスチューブを作成することは困難である。また、グラファイトの表面にSiCコートを施したとしても、炭素の酸化による消失や摩耗によるカーボンダストとしての散逸によって消耗することを確実に防ぐことは出来ないので、プロセスチューブとして繰り返し長期間使用することができない。
【特許文献1】特開2004−71596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガラス状炭素からなるプロセスチューブを電磁誘導加熱することにより、温度制御を高速で行い熱処理作業のスループットを向上させることができる熱処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、気密にしたプロセスチューブ内を加熱して内部の被処理物を熱処理する熱処理装置において、プロセスチューブをガラス状炭素で構成すると共に、このプロセスチューブの外側に電磁誘導加熱コイルが配置されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、前記プロセスチューブと水冷式の電磁誘導加熱コイルとの間に石英ガラスからなる石英チューブを配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、電磁誘導加熱コイルに高周波電流を流すことにより、プロセスチューブのガラス状炭素を電磁誘導加熱によって直接加熱することができるので、このプロセスチューブ内の温度制御を高速で行うことができるようになる。しかも、ガラス状炭素は、グラファイトや石英ガラスに比べても熱容量が小さいので、さらに迅速な温度制御が可能となる。また、ガラス状炭素は、グラファイトのような酸化や摩耗による消耗がほとんどなく、特に500℃以下の比較的低温の大気雰囲気中では体積減少がほとんど生じないので、プロセスチューブとして長期間繰り返して使用することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、プロセスチューブと電磁誘導加熱コイルとの間の絶縁材として石英チューブを用いるので、電磁誘導加熱コイルを水冷により冷却することにより、この石英チューブの温度上昇を抑えると共に、プロセスチューブも迅速に冷却することができ、昇温プロセスに比べて比較的温度変化が緩やかになり易い降温プロセスをさらに高速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図3を参照して説明する。なお、これらの図においても、図4に示した従来例と同様の機能を有する構成部材には同じ番号を付記する。
【0012】
本実施形態は、従来例と同様に、半導体ウエハを熱処理するための電磁誘導加熱による高速熱処理装置について説明する。この高速熱処理装置は、図1に示すように、ガラス状炭素からなるプロセスチューブ1の内部に被処理物Sを収容するようになっている。ガラス状炭素(GLC:Glass-Like Carbon,glassy carbon)は、グラファイトと同様に、高い導電性や耐熱性、化学安定性を備えた炭素材料であるが、グラファイトとは異なり、高い気密性(ガス不透過性)を有すると共に、酸化やカーボンダストの散逸等による消耗のおそれのない、高い耐摩耗性と強度を備えたものである。プロセスチューブ1は、このガラス状炭素を横断面が長円形の筒状に形成したものである。
【0013】
上記プロセスチューブ1の外周側は、石英チューブ2に囲まれ、この石英チューブ2の外周側に電磁誘導加熱コイル3が配置されている。電磁誘導加熱コイル3は、高周波電流を流すためのコイルを配置したものである。従って、この電磁誘導加熱コイル3に高周波電流を流すと、プロセスチューブ1のガラス状炭素にうず電流が発生し、このうず電流によるジュール熱によってプロセスチューブ1全体が発熱する。また、このプロセスチューブ1は、内壁面全体から内側に向けて放射熱を発することになるので、ホットウォール型の加熱により被処理物Sを均一に熱処理することができる。この電磁誘導加熱の際、図2に示す電磁誘導加熱コイル3とプロセスチューブ1との間のギャップGは、間隔が狭いほどこれらの電磁的結合が強くなるので、加熱効率を高めることができる。また、電磁誘導加熱コイル3は、高周波電流によって大きな発熱が生じるので、これらのコイルの間には冷却水を循環させた水冷パイプが敷設されている。
【0014】
上記プロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間は絶縁する必要があり、本実施形態では、これらプロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間に、上記のように石英チューブ2を配置して絶縁している。石英チューブ2は、石英ガラスを、プロセスチューブ1と同形状であってこれよりも一回り大きい長円形の筒体に形成したものである。この石英チューブ2は、プロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間を絶縁するには十分な絶縁性を有すると共に、高温のプロセスチューブ1から外部への対流による熱の放散を有効に防止する効果も有している。また、電磁誘導加熱コイル3は、水冷により常時冷却されているので、この石英チューブ2の温度上昇を抑制することができる。しかも、加熱の終了により電流が遮断されると、この電磁誘導加熱コイル3の水冷による冷却効果により、石英チューブ2を介してプロセスチューブ1も冷却されることになるので、このプロセスチューブ1内の温度低下を促進することもできるようになる。このプロセスチューブ1の冷却効果は、図2に示す電磁誘導加熱コイル3とプロセスチューブ1との間のギャップGを狭くするほど有効に作用するので、石英チューブ2は、できるだけ薄く、かつ、プロセスチューブ1や電磁誘導加熱コイル3との間の隙間が少ないものを用いることが好ましい。
【0015】
上記プロセスチューブ1は、内部に被処理物Sを収容して処理用のガス(例えば窒素ガス等のような不活性ガスや還元性ガス、大気等)で満たす必要がある。従って、このプロセスチューブ1は、図3に示すように、両端部をフランジ4,4で封口すると共に、これらのフランジ4,4を着脱自在となるようにして、被処理物Sの出し入れを可能にしている。また、これらのフランジ4,4には、図示しない吸排気口が設けられ、これらの吸排気口を用いて処理用のガスの充填や排出を行うことができるようになっている。
【0016】
上記構成の高速熱処理装置によれば、電磁誘導加熱コイル3に高周波電流を流すことにより、プロセスチューブ1を電磁誘導加熱によって直接加熱することができるので、このプロセスチューブ1内の温度制御を高速で行うことができるようになる。しかも、このプロセスチューブ1に用いたガラス状炭素は、嵩密度が1.5g/cmであり、石英ガラス(SiO)の2.2g/cmやSiCコート・グラファイトの1.85g/cm(SiCコート自体は3.1g/cm)と比べても嵩密度が十分に小さく軽量であるため熱容量も小さい。従って、従来のように熱容量の大きいSiCコート・グラファイト製の加熱筒6や石英ガラス製のプロセスチューブ5を昇温させる必要がなくなり、熱容量の小さいガラス状炭素からなるプロセスチューブ1だけを昇温させればよいので、加熱処理の際の温度プロセスにおける昇温速度を速めることができるだけでなく、降温速度を速めることもでき、熱処理作業のスループットを向上させることができるようになる。つまり、昇温プロセスでは、単位時間ごとに同じ熱量を加えた場合に、熱容量の小さい方が温度上昇が速くなる。そして、降温プロセスでも、単位時間内の放熱熱量は外気や冷媒等との温度差によって定まるので、熱容量の小さい方が温度低下が速くなる。
【0017】
また、このプロセスチューブ1は、石英チューブ2を介して水冷式の電磁誘導加熱コイル3に囲まれているので、この電磁誘導加熱コイル3が降温プロセスで電流を遮断されて水冷により冷却されると、この石英チューブ2を介してプロセスチューブ1も冷却されることになるので、降温速度をさらに速めることができるようになる。つまり、石英ガラス製の石英チューブ2は、通常の断熱材に比べて断熱効果は少ないが、その分だけ電磁誘導加熱コイル3の温度が水冷により低下すると、プロセスチューブ1から熱を奪うことができるようになり、これによってプロセスチューブ1も冷却することができる。特に降温プロセスでは、別途冷却を行わない限り、プロセスチューブ1は自然放熱により温度を下げることになるので、昇温時に比べて温度変化が緩やかになり易い。しかしながら、電磁誘導加熱コイル3の水冷によってプロセスチューブ1も冷却できるようになれば、この降温プロセスでの温度低下をさらに速めることができるようになる。
【0018】
また、プロセスチューブ1に用いるガラス状炭素は、グラファイトと同様に、高い導電性や耐熱性、化学安定性を備えた炭素材料であるが、炭素原子が平面状に結合した層構造のグラファイトとは異なり、炭素原子間に三次元結合があるために、高いガス不透過性を有するので、プロセスチューブ1内の気密性を確実に維持することができる。しかも、このガラス状炭素は、炭素原子間に三次元結合により、グラファイトのように炭素が酸化してガスとなり消失したり摩耗によってカーボンダストとして散逸するようなことがなく、使用に伴う消耗がほとんど生じないので、プロセスチューブ1として長期間繰り返して使用することもできる。
【0019】
なお、上記実施形態では、プロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間に石英チューブ2を配置する場合を示したが、この石英チューブ2に代えて耐熱性と絶縁性を備えた例えばセラミックスチューブ等を用いることもでき、これらプロセスチューブ1と電磁誘導加熱コイル3との間が十分に絶縁されていれば、何も介在させないようにすることも可能である。また、電磁誘導加熱コイル3の水冷による冷却効果を期待する必要がなければ、石英チューブ2に代えて、耐熱性の断熱材を配置することもできる。
【0020】
また、上記実施形態では、半導体ウエハの熱処理に用いる高速熱処理装置について説明したが、被処理物Sは半導体ウエハに限らず任意であり、通常の熱処理装置であっても同様に実施可能である。さらに、上記実施形態では、枚葉型の被処理物Sの熱処理装置について示したが、大型の容器状のプロセスチューブ1を用いることにより、大量の被処理物Sをまとめて処理するバッチ処理型の熱処理装置に実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、高速熱処理装置の構造を示す断面側面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、図1におけるA−A断面正面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであって、高速熱処理装置におけるプロセスチューブの気密構造を示すための断面正面図である。
【図4】従来例を示すものであって、高速熱処理装置の構造を示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 プロセスチューブ
2 石英チューブ
3 電磁誘導加熱コイル
S 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密にしたプロセスチューブ内を加熱して内部の被処理物を熱処理する熱処理装置において、
プロセスチューブをガラス状炭素で構成すると共に、このプロセスチューブの外側に電磁誘導加熱コイルが配置されたことを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記プロセスチューブと水冷式の電磁誘導加熱コイルとの間に石英ガラスからなる石英チューブを配置したことを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−80151(P2006−80151A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259882(P2004−259882)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】