説明

熱力学サイクルの実施方法と装置

本発明は、熱力学サイクルを実施する方法と装置に関し、まず液状の作動流体(13)の圧力を高め、第1の部分流体(16)と第2の部分流体(17)に分割する。第1の部分流体を熱源(20)の熱により、また第2の部分流体を、圧力を低下させた作動流体(11)の熱により部分的に蒸発させる。引続き両方の部分流体を一体化し、熱源の熱を利用してガス状の作動流体(10)を生成する。この流体の圧力を低下させ、そのエネルギを使用可能な形に変換する。圧力の低下した作動流体を液化し、もって液状の作動流体を生成する。本発明により、第1の部分流体と液状の作動流体は概ね同じ温度を持つ。かくして熱源の熱を一層よく利用し、同時にこのサイクルの効率を向上させ得る。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1と7に記載の熱力学サイクルを実施する方法と装置に関する。
熱機関利用発電所(所謂火力発電所)は、熱を機械又は電気エネルギに変換するため熱力学サイクルを利用する。通常の熱機関利用発電所は、熱エネルギを燃料、特に化石エネルギ源の石炭、石油およびガスの燃焼により生成する。その際、その循環過程は、例えば作動流体として水を用いる古典的ランキンサイクルをベースとして進行する。水が高い沸点を持つことから、特に100〜200℃の温度を持つ、例えば地熱で加熱された液体や燃焼過程からの廃熱を熱源として使用することは経済性に欠けるため魅力的ではない。
この種低温の熱源に関し、近年それらの熱を効率よく機械的又は電気的エネルギに変換可能な種々の工業技術が開発されている。オーガニックな作動(オーガニックランキンサイクル、ORC)によるサイクルの他に、特に所謂古典的ランキンサイクルに比べ、カリーナサイクルが効率的に明らかに優れている。このカリーナサイクルをベースとし、多種多様な循環経路が種々の用途に開発されてきた。それらサイクルは作動流体として水の代りに2成分(例えばアンモニアと水)の混合物を使用し、この混合物の非等温的な沸騰及び凝縮工程を、このサイクルの効率をランキンサイクルに比べて高めるべく利用する。
少なくとも140℃の熱源温度では、特にカリーナサイクル系統(KCS11)が使用される。その際、熱交換器(以後「予熱−熱交換器」と呼ぶ)内に液状の作動流体をポンプで汲み上げ、この熱交換器内で、圧力を低下させた作動流体の一部凝縮により沸点まで加熱する。この減圧され、沸騰した作動流体を、その後分流器で第1と第2の部分流体に分割する。第1の部分流体は、別の第1の熱交換器内で熱源(例えば地熱で加熱された液体)の冷却により生ずる熱で部分的に蒸発する。第2の部分流体は、別の第2の熱交換器内で圧力の低下した作動流体の一部凝縮に伴う熱により部分的に蒸発する。
一部蒸発した第1と第2の部分流体は、引続きミキサで一体化され、一部蒸発した作動流体を生じる。引続き第3及びその他の熱交換器内で、熱源の熱を一部蒸発した作動流体に伝達することでガス状の作動流体が生じる。
このガス状の作動流体は、引続きタービン内で圧力を低下され、そのエネルギは発電に使用される。この圧力の低下した作動流体は、その後、前述の別の第2の熱交換器及び予熱−熱交換器内で一部凝縮され、引続き復水器内で完全に液化することで、冒頭に述べた液状の作動流体が生じ、こうしてこの循環過程が終了する。
本発明の課題は、前述の従来技術に比べ、同じ熱源で機械的及び/又は電気的エネルギのより高い収量を、装置費用を著しく高めることなく可能にする、熱力学サイクルを実施する方法と装置を提供することにある。
方法に対する課題は、本発明に従い、請求項1に記載の方法により解決される。本方法の有利な実施形態を従属請求項2から6に示す。装置に関する課題は、請求項7に記載の装置で解決される。この装置の有利な実施形態を各従属請求項8から12に示す。
本発明は、第1の部分流体を一部蒸発させる前の作動流体の温度が低ければ低い程、熱源の熱を益々効率よく利用できるという考え方から出発する。第1の部分流体が、液状の作動流体と同様にほぼ同じ温度である際、熱源からより多くの熱を取り出し、機械的及び/又は電気的エネルギの生産に、液状の作動流体が既に予熱されている場合よりも利用できる。本発明の枠内で「ほぼ同じ温度」とは、例えば第1の部分流体を形成する前の、与圧された液状の作動流体を軽く冷却し、又はこの液状の作動流体をより高い圧力にポンプアップすることで、温度差が極く僅かな値になることを云う。
従って、予熱−熱交換器により沸騰温度に迄圧力を印加された、液状の作動流体を予熱することで、第1の部分流体が、液状の作動流体より高温を有する従来技術におけるよりも、その熱源をよく利用できる。
【0002】
本発明は、循環経路、特に熱交換器の加熱面の循環経路を適切な寸法にすることで、機械的又は電気的エネルギの生産に、従来技術と比べてほぼ変わらない圧力、温度及びエンタルピーで、更にガス状の作動流体並びに液状の作動流体に不可欠な質量流量を高めることを可能とする。
【0003】
この場合、熱源の熱を一層よく利用することで獲得できるエネルギは、圧力を印加された液状の作動流体を予熱−熱交換器で予熱すべく、圧力を低下させた作動流体のエネルギを利用しないことによる損失より大きい。確かに加熱面の拡大で設備費用は増大するが、それに伴う損失の増大は、大部分が予熱−熱交換器の省略、その結果として簡略化された配管の操作により補償され、結果として設備費用は概ね変わらない。
この場合、第1と第2の熱交換器を、第1と第2の一部蒸発した部分流体が概ね同じ温度及び同じ蒸気含有量を有する寸法に形成するとよい。
【0004】
本発明の実施形態では、作動流体として複数成分の混合物を使用する。この複数成分の混合物の場合、2成分混合物、特にアンモニアと水の混合物が好適である。この混合物の非等温的な蒸発と凝縮により、このサイクルで特に高い効率を達成できる。
【0005】
特に地熱で加熱された液体、特に地熱が熱源である温泉水の使用により、環境を損なわないエネルギの獲得が可能となる。但し熱源として、ガス及び/又は蒸気タービン装置の排ガス(煙道ガス)や工業生産過程で、例えば鋼鉄の製造時に生じる熱も利用できる。
この循環過程の高い効率は、この際、熱源が100〜200℃、特に140〜200℃の温度を有することにより達成可能である。
【0006】
本発明並びに本発明の従属請求項の特徴に基づく他の有利な形態の実施例を、以下に図面に基づき詳述する。
【0007】
図1に示す熱力学サイクルを実施する装置1は、熱交換器HE5を持ち、該交換器の一次側を図示しない地熱源で熱された温泉水20が貫流し、二次側で第1にミキサ5と、第2にタービン2と接続されている。このタービン2は出口側で熱交換器HE2の二次側と接続されており、HE2は、他方でまた復水器HE1の一次側と接続されている。復水器HE1はその一次側の出口で、場合によっては復水タンクを経て、ポンプ3を介して分流器4と接続されている。この分流器4は、一方では熱交換器HE2の一次側を経て、また他方では熱交換器HE4の二次側を経てミキサ5と接続されている。熱交換器HE5とHE4は、熱した温泉水20を貫流すべく、一次側で互に接続されており、この温泉水はまず熱交換器HE5を通り、その後熱交換器HE4を経て流れる。
【0008】
作動流体として、この装置1内で水とアンモニアからなり、非等温的に蒸発及び凝縮する2成分混合物を使用する。この作動流体は、復水器HE1の後方で液体状態、つまり液状の作動流体13として存在する。この液状の作動流体13はポンプ3により圧力を高めて汲み出され、与圧された液状の作動流体14を生成し、この液流は分流器4により第1の部分流体16と第2の部分流体17に分割される。
【0009】
第1の部分流体16は、液状の作動流体13と略同じ温度を持つ。この第1の部分流体16は、熱交換器HE4の二次側に受容され、熱交換器HE5内で既に冷却された温泉水流20の冷却により生じる熱を利用して部分的に蒸発され、一部蒸発した第1の部分流体16aが生じる。第2の部分流体17は熱交換器HE2の一次側に受容され、二次側に受容された圧力の低下した作動流体11の一部凝縮で生じる熱を利用して一部蒸発され、一部蒸発した第2の部分流体17aを生成する。この一部蒸発した第1と第2の部分流体16a、17aは、引続きミキサ5内で一部蒸発した作動流体18に一体化される。その際熱交換器HE2とHE4は、第1と第2の一部蒸発した部分流体16a又は17aが、概ね同じ温度と蒸気含有量を有する寸法に形成されている。
【0010】
一部蒸発した作動流体18は、引続き熱交換器HE5の二次側に受容され、一次側に受容された、熱した温泉水流20の冷却に伴い完全に蒸発し、場合により一部過熱されてガス状の作動流体10を生ずる。該ガス状の作動流体10は、引続きタービン2内で圧力を低下され、そのエネルギを使用可能な形、例えば発電機(図示せず)で電流に変換され、圧力の低下した作動流体11を生ずる。この低圧の作動流体11は熱交換器HE2内で一部凝縮され、部分的に凝縮し、圧力の低下した作動流体12を生じる。この一部凝縮し圧力の低下した作動流体12は、引続き熱交換器(復水器)HE1内で、流入する冷却水流25により凝縮され、液状の作動流体13を生じる。圧力の低下した作動流体12の凝縮により冷却水流25に伝達された熱は、流れ出る冷却水流26と共に排出される。
【0011】
図2は、図1に示す装置1に略相当し、僅かに2、3のバルブ19と、セパレータ回路27を付加されて熱力学サイクルを実施する装置の循環過程の(算定評価)を示す。評価の出発条件として以下を選択した。
【0012】
温度 質量流量
温泉水流20 190℃ 71kg/秒
冷却水流25 10℃ 約400kg/秒
なお、水中のアンモニア濃度は81%である。
表1は、この循環経路の幾つか選択した流れに関して、循環経路の算定結果を示し、その際それらの熱交換器の出力を表2に基づき選択している。
【表1】

【表2】

【0013】
第1の部分流体16の熱交換器HE4に入る前の温度は13.1℃であり、従って与圧された液状の作動流体14又は液状の作動流体13(12.3℃)と概ね同じ温度を有する。これら条件下で、タービン2にて生産可能な電力は6925kWである。
【0014】
これに対し図3は、従来技術でKCS11(カリーナサイクル系統11)として公知の熱力学サイクルを実施するための装置30を示す。この装置30の、図1に示す本発明による装置との対比を容易にすべく、互いに対応する構成要素又は作動流体には同じ符号を付している。この装置30は、図1に示す本発明による装置と、ポンプ3と分割機4との間の一次側及び熱交換器HE2と復水器HE1との間の二次側に付加的に接続された熱回収用の予熱−熱交換器HE3が接続された点で異なっている。該熱交換器HE3により、与圧された液状の作動流体14は、一部液化され、圧力の低下した作動流体12の更なる一部凝縮により沸点まで加熱される。この第1の部分流体16は、飽和水温度を有し、この温度で熱交換器HE4に通される。液状の作動流体13に比べ、この著しく高い温度により、熱交換器HE4及びHE5内での温泉水流20の熱の利用は低下する。
【0015】
図4は、図3に示した装置30にほぼ相応し、付加的に幾つかのバルブ19とセパレータの配線27のみが追加された従来技術から公知の循環経路の算定評価を示す。該評価の出発条件として、図2に基づく循環経路の評価の場合と同じ出発条件を使用した。
表3は、幾つか選択したこの循環経路の流れに対する評価の結果を示しており、その際それらの熱交換器の出力は表4に基づき選択してある。
【表3】

【表4】

【0016】
この場合、獲得可能な電力は6638kWに過ぎない。従って、本発明による図1及び2に基づく循環経路の場合に獲得可能な電力は、従来技術から公知の循環経路の場合よりも4.3%高い。温泉水からのより高い熱の取り出し(流れ出る温泉水22の温度が、図4に基づく循環経路の70.06℃に比べ、図2に基づく循環経路では50.59℃に過ぎない)により、タービン2内に入る前のこの作動流体から獲得可能な、より高い質量流量(図2に基づく循環経路の場合30.2kg/秒であり、図4に基づく循環経路の場合は29kg/秒である)により、この余分の収益が得られる。
この熱交換器の出力の上昇により、加熱面の6.25%の増大が必要となり、費用の増大を伴う。しかしこの費用の増大は、大部分がタービン2の排蒸気側の配管を簡素化して通すことにより、また熱交換器HE3の省略により補償でき、結果として設備費用は全体としてほぼ変わらない。
【0017】
本発明を、上述の有利な実施例に基づき説明したが、全体としてそれらの実施例に限定されない。むしろ本発明又はその実施例の多くの変形及び変法が存在する。例えば熱交換器の数を増やすことも可能であり、図2の構成例で説明したように、付加的にバルブ及びセパレータを配線内に接続してもよい。更に例えばガス状の作動流体10は、1段階以上で、例えば2つの相前後して接続したタービンを介して圧力を低下させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】簡略化し、図式化して示す本発明による熱力学サイクルを実施するための装置の循環経路図。
【図2】図1に基づく装置のサイクルの算定評価図。
【図3】簡略化し、図式化して示してある従来技術から公知の熱力学サイクルを実施する装置の循環経路図。
【図4】図3に基づく装置のサイクルの算定評価図。
【符号の説明】
【0019】
1 熱力学サイクル実施する装置、2 タービン、3、35 ポンプ、4 分流器、5 ミキサ、10〜13、18 作動流体、14 作業液流、16、16a、17、17a 部分流体、19 バルブ、20、21 熱源、22 温泉水、25、26 冷却水流、27 セパレータの配線、HE1〜HE5 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の各工程より成る熱力学サイクルの実施方法。
液状の作動流体(13)を高圧でポンプにより汲み上げ、
該与圧された液状の作動流体(14)を第1の部分流体(16)と第2の部分流体(17)に分割し、この際第1の部分流体と液状の作動流体(13)は同じ温度とし、
第1の部分流体(16)を、熱源(20、21)の冷却に伴い生ずる熱を利用して一部蒸発させ、
圧力の低下した作動流体(11)の一部凝縮により生じる熱を利用して第2の部分流体(17)を部分的に蒸発させ、
一部蒸発した第1と第2の部分流体(16a、17a)を、一部蒸発した作動流体(18)と一体化し、
熱源(20)の冷却で生じる熱を利用した、一部蒸発した作動流体(18)の完全蒸発、場合によっては部分的過熱によりガス状の作動流体(10)を生成し、
該ガス状作動流体(10)の圧力を低下させ、そのエネルギを使用可能な形に変換し、かつ圧力の低下した作動流体(11)を生成し、更に
この一部凝縮し、圧力の低下した作動流体(12)を液状の作動流体(13)を生成するため完全に凝縮させる。
【請求項2】
第1と第2の一部蒸発させた部分流体(16a、17a)が、同じ温度及び同じ蒸気含有量を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
作動流体として複数成分の混合物を使用する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
複数成分の混合物として、2成分の混合物を使用する請求項3記載の方法。
【請求項5】
熱源(20)として地熱により加熱された液体を使用する請求項1から4の1つに記載の方法。
【請求項6】
熱源(20)が100〜200℃の温度を有する請求項1から5の1つに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも、以下の構成要素を備え、請求項1から6の1つに記載の熱力学サイクルを遂行する装置。
液状の作動流体(13)を、圧力を高めて汲み上げるポンプ(3)、
与圧された液状の作動流体(14)を、同じ温度を有する第1の部分流体(16)と第2の部分流体(17)に分割する分流器、
第1の部分流体(16)を受容し、部分的に蒸発した第1の部分流体(16a)を熱源(20)の冷却により生成し、かつ放出する第1の熱交換器(HE4)、
圧力の低下した第1の作動流体(11)と第2の作動流体(17)を受容し、この圧力の低下した作動流体(11)を第2の部分流体(17)に熱を伝達することにより冷却し、一部蒸発した第2の部分流体(17a)と一部液化し、圧力の低下した作動流体(12)を放出するための第2の熱交換器(HE2)、
一部蒸発した第1の部分流体(16a)と一部蒸発した第2の部分流体(17a)とを、一部蒸発した作動流体(18)と一体化するためのミキサ(5)、
一部蒸発した作動流体(18)を受容し、ガス状の、場合によっては過熱した、作動流体(10)を熱源(20)の冷却により生成し、かつ放出する第3の熱交換器(HE5)、
ガス状の作動流体(10)の圧力を低下させ、そのエネルギを使用可能な形に変換し、この圧力の低下した作動流体(11)を放出する装置(2)、及び
一部凝縮し、圧力の低下した作動流体(12)を受容し、完全に液化し、この液状の作動流体(13)を放出する第4の熱交換器(HE1)。
【請求項8】
第1と第2の一部蒸発させた部分流体(16a、17a)が同じ温度と蒸気含有量を有するよう、第1と第2の熱交換器(HE2、HE4)の寸法が定められた請求項7記載の装置。
【請求項9】
作動流体が複数成分の混合物からなる請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
複数成分の混合物が2成分混合物である請求項9記載の装置。
【請求項11】
熱源(20)として地熱により加熱された液体を用いる請求項7から10の1つに記載の装置。
【請求項12】
熱源(20)が100〜200℃の温度を有する請求項7から11の1つに記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−500811(P2007−500811A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521427(P2006−521427)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007443
【国際公開番号】WO2005/014981
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】