説明

熱加工装置

【課題】 型および加工対象物を、高温かつ高速に加熱し、さらに、高速に冷却する。
【解決手段】型100によって超微細パターンを加工対象物200にナノインプリンティングする熱加熱装置は、前記型100を保持すると共に、熱を前記型100に伝熱可能な型保持部2と、前記型保持部2を加熱する型加熱用IHヒータ3と、前記加工対象物200を保持すると共に、熱を前記加工対象物200に伝熱可能な加工対象物保持部7と、前記加工対象物保持部7を加熱する加工対象物加熱用IHヒータ8と、前記型200と前記加工対象物100とを押圧する押圧手段50とを具備している。前記型保持部2の少なくとも一部および前記加工対象物保持部7の少なくとも一部は、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、型によって超微細パターンを加工対象物にナノインプリンティングする熱加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(大規模集積回路)に代表される微細回路パターンを半導体基板(以下、単に基板と称する)上に形成するには、フォトリソグラフィーと呼ばれる技術が一般に用いられている。しかしながら、この方法では、形成するパターンの微細化にともない、装置の大型化やプロセスコストの増大を招いていた。
【0003】
近年、上記問題を解決するものとして、超微細なパターンを基板上に形成するナノインプリンティングプロセス技術が注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
このプロセスは、ガラス転移点を越える温度に加工対象物を加熱し、形成したいパターンが表面に作りこまれた型をこの加工対象物表面に押し付け、その後冷却、離型してパターンを転写する方法である。この方法では、高価なレーザ光源や光学系を必要とせず、加熱用ヒータとプレス装置を基本とした簡易な装置によって、型に作り込まれた形状をそのまま精度良く転写することが可能となっており、すでにこの方法によって約20nmの線幅をもつ細線が形成された報告がある(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
更に、このようなナノインプリンティングプロセス技術を用いることで、回折格子、フォトニック結晶、導波路等の光デバイス、マクロチャネル、リアクター等の流体デバイスのような、各種のマイクロチップ、マイクロデバイスの製作も可能な状況が実現しつつある。
【0006】
このようなナノインプリンティングプロセス技術において、加工対象物の加熱や冷却は非常に重要な技術要素である。加工対象物に所定の加工を施すことができるか否かは、加工温度に大きく依存し、また、スループットは、加熱時間、冷却時間に大きく依存するからである。
【0007】
従来、加熱手段としてPG(pyrolitic grafite)ヒータやセラミックヒータを用いて基板や型を加熱していた。また、セラミックヒータを挟んで型と対向する位置に冷却手段を設け、型の冷却を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、PGヒータには、250℃を超えるような高温加熱に使用すると酸化するという問題があった。また、単位面積あたりの発熱量を増大し高速に昇温するには、断面積を小さくして抵抗を大きくする必要があるが、PGヒータは非常に脆いため、その製作が難しいという問題があった。
【0009】
また、セラミックヒータには、高温加熱に使用しても酸化の問題はないが、熱衝撃に弱く発熱量を上げられないという問題があった。
【0010】
更に、従来の冷却手段には、型との間に加熱手段を介していたため冷却効率が落ちるという問題があった。
【非特許文献1】G. M. Whitesides, J. C. Love、「ナノ構造を作る新技術」、"日経サイエンス"、日本経済新聞社、平成13年(2001年)12月1日、31巻、12号、p.30−41
【非特許文献2】C. M. Sotomayor, et. al.、"Nanoimprint lithography: an alternative nanofabrication approach"、「Materials Science & Engineering C」、Elsevier Science、平成14年(2002年)、989巻、p.1−9
【特許文献1】国際公開番号WO2004/062886(第2図、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、型および加工対象物を、従来のものよりも高温かつ高速に加熱することができ、更に、従来のものよりも高速に冷却することが可能な熱加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の熱加工装置は、型および加工対象物をそれぞれ保持すると共に、熱を型および加対象物にそれぞれ伝熱可能な型保持部および加工対象物保持部と、型保持部および加工対象物保持部をそれぞれ加熱するIHヒータとを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、型および加工対象物をそれぞれ保持すると共に、熱を型および加対象物にそれぞれ伝熱可能な型保持部および加工対象物保持部をIHヒータによってそれぞれ加熱するので、型および加対象物を高温に加熱することができると共に、高速に加熱することができる。
【0014】
この場合、型保持部および加工対象物保持部は、比透磁率が0.99以上の材料により形成される方が好ましい。また、型保持部および加工対象物保持部は、電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成される方が好ましい。また、型および加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されるほうが好ましい。
【0015】
また、型保持部および加工対象物保持部を冷却する冷却手段を具備する方が好ましく、更に、冷却手段は、型保持部および加工対象物保持部の内部に設けられた冷却流路により形成される方が好ましい。また、冷却流路は、IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成される方が好ましい。そうすると、型を直接、高速に冷却することができる。
【0016】
また、前記型保持部および加工対象物保持部の、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成された部分は、型または加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されていると、型保持部および加工対象物保持部を、型または加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成するので、型および加工対象物の温度をキュリー温度(キュリー点)付近に維持することができる。
【0017】
また、IHヒータの発振周波数を変更する可変手段を具備するので、型保持部または加工対象物保持部の材料に合わせて、発振周波数を変更し、加熱効率を向上することができる。
【0018】
また、型および加工対象物は、比透磁率が0.99以上の材料により形成される方が好ましい。また、型および加工対象物は、電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成される方が好ましい。
【0019】
また、型保持部および加工対象物保持部は、熱伝導率が10W/m・K以上の材料で形成される方が好ましい。
【0020】
また、前記型保持部および加工対象物保持部は、前記IHヒータの側に配された被加熱手段と、前記型の側に配された伝熱手段とに分けられていると、加熱効率を上げて、さらに、型を効率良く加熱することができる。
【0021】
この場合、被加熱手段は、伝熱手段の比透磁率より大きい材料で形成される方が好ましく、更に、比透磁率が0.99以上の材料により形成される方が好ましい。また、被加熱手段は、伝熱手段の電気抵抗率より大きい材料で形成される方が好ましく、更に、電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成される方が好ましい。更には、フェライト系ステンレス鋼で形成される方が好ましい。また、型または加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成される方が好ましい。
【0022】
また、伝熱手段は、被加熱手段の熱伝導率より大きい材料で形成される方が好ましく、更に、熱伝導率が10W/m・K以上の材料で形成される方が好ましい。更には、銅又はアルミニウムで形成される方が好ましい。
【0023】
また、被加熱手段を冷却する冷却手段を具備する方が好ましく、更に、冷却手段は、被加熱手段の内部に設けられた冷却流路により形成される方が好ましい。また、冷却流路は、IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成される方が好ましい。
【0024】
また、伝熱手段を冷却する冷却手段を具備する方が好ましく、更に、伝熱手段の内部に設けられた冷却流路により形成される方が好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来のものよりも、型および加工対象物を高温かつ高速で加熱することができ、且つ高速で冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明の熱加工装置に含まれる型加熱装置1は、図1に示すように、型100を保持すると共に熱を型100に伝熱可能な型保持部2と、型保持部2を加熱するIH(電磁誘導加熱)ヒータ3と、型保持部2を冷却する冷却手段(図示せず)と、で主に構成される。
【0028】
型保持部2は、型100を保持する保持面2aに、ねじやクランプ金具等の締結具で型100を固定可能に形成される。また、型保持部2は、少なくとも比透磁率が0.99より大きい材料により形成される方が好ましく、また、電気抵抗率が1μΩ・cmより大きい材料により形成される方が好ましい。これにより、後述するIHヒータ3の加熱効率を上げることができ、型100を急速に加熱することができる。
【0029】
また、加熱温度が決まっている場合には、型保持部2の材料として、加熱温度付近にキュリー温度(キュリー点)を有する感温磁性材料を用いることもできる。感温磁性材料とは、磁性材料特有のキュリー温度(キュリー点)付近で磁性が消失する特性を利用した材料である。この材料を用いることにより、型保持部2の温度がキュリー温度(キュリー点)を超えると、型保持部2の磁性が失われ、後述するIHヒータが発生する磁力線の影響を受けなくなる。すると、誘導電流(うず電流)は発生せず、型保持部2は発熱しないため、温度がキュリー温度(キュリー点)付近で一定に維持されるという効果が得られる。
【0030】
なお、型100の保持は、ネジやクランプ金具等の締結具で型保持部2に固定する構造の他、溶接等により型保持部2に接合する構造、真空吸着により型保持部2に吸着保持する構造、型保持部2に嵌着する構造、静電吸着により吸着させる方法等、種々の方法を用いることができる。
【0031】
IHヒータ3は、コイルに交流電流を流すことにより、その周辺に磁力線を発生させる。そして、この磁力線の影響により、金属等の電気的導体に誘導電流(うず電流)を発生させ、電気的導体の抵抗によるエネルギー損失から、熱を発生させるものである。交流電流の発振周波数としては、10〜500kHz、更に好ましくは、180〜220kHzのものを用いることができる。また、IHヒータの発振周波数を変更する可変手段を設けて、型保持部2の材料に合わせて、発振周波数を細かく設定する方が好ましい。これにより更に加熱効率を上げることができる。
【0032】
このIHヒータ3を、型保持部2を挟んで型100と対向する側に設けると共に、型保持部2を加熱し得る適当な位置に配置することにより、型保持部2を介して、型100を高速に加熱することができる。なお、IHヒータ3を型保持部2の側部あるいは側部外方に設けて外側から加熱することも可能である。
【0033】
また、型保持部2は、型保持部2を冷却する冷却手段を具備するように形成することも可能である。冷却手段は、例えば型保持部2の内部に設けられた1以上の冷却流路として形成され、この冷却流路内に外部から冷却媒体を通すことにより、型保持部2を冷却することができる。この場合、冷却流路は、IHヒータ3による加熱の妨げにならないよう、直接加熱される部分とは異なる部分に形成される方が好ましい。特に、型保持部2は、IHヒータ側の表面から加熱されるので、冷却流路を少なくとも型100側寄りに設ける方が好ましい。冷却媒体としては、水や油等の冷却液や、空気や不活性ガス等の冷却気体を用いれば良い。このように構成することにより、型100を保持する型保持部2自体を直接冷却することができるので、型100を急速に冷却することができる。なお、冷却手段としては冷却流路を用いるものに限定されるものではなく、種々のものを適用することが可能である。
【0034】
ところで、上記IHヒータ3によって、型100を高速に加熱するために投入エネルギーを上げるには、電源を大きくする必要がありコスト高となる。これを避けるために型保持部2を加熱効率の良い材料によって形成することが考えられるが、加熱効率の良い材料は、抵抗が大きく、熱伝導が悪いため、型100を高速で加熱する際に、コイル形状や型保持部2の形状に起因する温度むらが大きくなるという問題がある。一方、熱伝導の良い材料は抵抗が小さいため、加熱効率が悪いという問題がある。
【0035】
これを解決するために、型保持部2は、図2に示すように、IHヒータ3によって加熱される被加熱手段21と、型100を保持し被加熱手段21の熱を型100に伝熱する伝熱手段22とに分けて形成することもできる。
【0036】
被加熱手段21は、IHヒータ3による加熱効率が伝熱手段22よりも大きい材料、すなわち電気抵抗率又は比透磁率が少なくとも伝熱手段22より大きい材料によって形成される。この場合、被加熱手段21の電気抵抗率が、1μΩ・cm以上の材料を用いるほうが好ましい。また、被加熱手段21の比透磁率が、0.99以上の材料を用いる方が好ましい。例えば、電気抵抗率、比透磁率の高いフェライト系ステンレス鋼やカーボン等を用いることができる。
【0037】
また、加熱温度が決まっている場合には、被加熱手段21の材料として、加熱温度付近にキュリー温度(キュリー点)を有する感温磁性材料を用いることもできる。これにより、キュリー温度(キュリー点)以上ではIHヒータの磁力線の影響を受けることがなく、被加熱手段21の温度をキュリー温度(キュリー点)付近に維持することができるという効果が得られる。
【0038】
伝熱手段22は、熱伝導率が少なくとも被加熱手段21よりも高い材料によって形成される。この場合、伝熱手段22の熱伝導率が、10W/m・K以上の材料を用いる方が好ましい。例えば、熱伝導率の大きい銅やアルミニウムを用いることができる。
【0039】
このように、型保持部2をIHヒータ3で加熱する被加熱手段21と、被加熱手段21の熱を型100に伝熱する伝熱手段22とに分けることにより、型100を高速に加熱することができると共に、型100を均一に加熱することできる。
【0040】
なお、被加熱手段21と伝熱手段22は、図示しないが、摩擦接合又はロウ付けにより接合する方が好ましい。これにより、被加熱手段21と伝熱手段22との間の熱伝導を向上することができる。
【0041】
また、冷却手段は、被加熱手段21と伝熱手段22の少なくともいずれか一方に設ければよいが、両方に設けることも勿論可能である。冷却手段としては、どのようなものを用いても良いが、例えば、冷却流路により形成することができる。なお、冷却流路を被加熱手段21に設ける場合には、IHヒータ3によって直接加熱される部分とは異なる部分に形成する方が好ましい。特に、被加熱手段21は、IHヒータ側の表面から加熱されるので、冷却流路を少なくとも伝熱手段22側寄りに設ける方が好ましい。冷却媒体としては、水や油等の冷却液や、空気や不活性ガス等の冷却気体を用いれば良い。
【0042】
なお、IHヒータ3を、型100を直接加熱し得る適当な位置に配置することも可能である。この場合、型保持部2を熱伝導率の大きい材料によって形成し、冷却手段として内部に冷却流路を設けるようにすることが好ましい。型保持部2の材料としては、熱伝導率が10W/m・K以上のものを用いる方が好ましく、例えば、銅やアルミニウムを用いることができる。また、型100は、電気抵抗率が、1μΩ・cm以上の材料により形成される方が好ましい。また、比透磁率が、0.99以上の材料により形成される方が好ましい。
【0043】
このように構成することにより、型100を直接加熱することができると共に、型保持部2の冷却手段によって型100を急速に冷却することができる。
【0044】
なお、型100としては、種々のものを用いることができ、例えば、1μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは10nm以下の所定のパターンが形成された型100を用いることができる。
【0045】
本発明の熱加工装置に含まれる加工対象物加熱装置6は、図3に示すように、加工対象物200を保持すると共に熱を加工対象物200に伝熱可能な加工対象物保持部7と、加工対象物保持部7を加熱するIH(電磁誘導加熱)ヒータ8と、加工対象物保持部7を冷却する冷却手段と、で主に構成される。
【0046】
加工対象物保持部7は、図3に示すように、加工対象物200を略水平状態で保持するもので、上面に多数のバキューム孔(図示無し)が形成された保持面7aを備えている。このバキューム孔に図示しない負圧源から負圧を作用させることで、保持面7a上に、加工対象物200を吸着保持できる。また、加工対象物保持部7は、少なくとも比透磁率が0.99より大きい材料により形成される方が好ましく、また、電気抵抗率が1μΩ・cmより大きい材料により形成される方が好ましい。これにより、後述するIHヒータ8の加熱効率を上げることができ、加工対象物200を急速に加熱することができる。
【0047】
また、加熱温度が決まっている場合には、加工対象物保持部7の材料として、加熱温度付近にキュリー温度(キュリー点)を有する感温磁性材料を用いることもできる。これにより、キュリー温度(キュリー点)以上ではIHヒータの磁力線の影響を受けることがなく、加工対象物保持部7の温度をキュリー温度(キュリー点)付近に維持することができるという効果が得られる。
【0048】
IHヒータ8は、型加熱装置1で説明したのと同様、コイルに交流電流を流すことにより、その周辺に磁力線を発生させる。そして、この磁力線の影響により、金属等の電気的導体に誘導電流(うず電流)を発生させ、電気的導体の抵抗によるエネルギー損失から、熱を発生させるものである。交流電流の発振周波数としては、10〜500kHz、更に好ましくは、180〜220kHzのものを用いることができる。また、IHヒータの発振周波数を変更する可変手段を設けて、加工対象物保持部7の材料に合わせて、発振周波数を細かく設定する方が好ましい。これにより更に加熱効率を上げることができる。
【0049】
このIHヒータ8を、加工対象物保持部7を挟んで加工対象物200と対向する側に設けると共に、加工対象物保持部7を加熱し得る適当な位置に配置することにより、加工対象物保持部7を介して、加工対象物200を高速に加熱することができる。なお、IHヒータ8を加工対象物保持部7の側部あるいは側部外方に設けて外側から加熱することも可能である。
【0050】
また、加工対象物保持部7は、加工対象物保持部7を冷却する冷却手段を具備するように形成することも可能である。冷却手段は、例えば加工対象物保持部7の内部に設けられた1以上の冷却流路として形成され、この冷却流路内に外部から冷却媒体を通すことにより、加工対象物保持部7を冷却することができる。この場合、冷却流路は、IHヒータ8による加熱の妨げにならないよう、直接加熱される部分とは異なる部分に形成される方が好ましい。特に、加工対象物保持部7は、IHヒータ側の表面から加熱されるので、冷却流路を少なくとも加工対象物200側寄りに設ける方が好ましい。冷却媒体としては、水や油等の冷却液や、空気や不活性ガス等の冷却気体を用いれば良い。このように構成することにより、加工対象物200を保持する加工対象物保持部7自体を直接冷却することができるので、加工対象物200を急速に冷却することができる。なお、冷却手段としては冷却流路を用いるものに限定されるものではなく、種々のものを適用することが可能である。
【0051】
また、加工対象物保持部7は、図4に示すように、IHヒータ8によって加熱される被加熱手段71と、加工対象物200を保持し被加熱手段71の熱を加工対象物200に伝熱する伝熱手段72とに分けて形成することもできる。
【0052】
被加熱手段71は、IHヒータ8による加熱効率が伝熱手段72よりも大きい材料、すなわち電気抵抗率又は比透磁率が少なくとも伝熱手段72より大きい材料によって形成される。この場合、被加熱手段71の電気抵抗率が、1μΩ・cm以上の材料を用いるほうが好ましい。また、被加熱手段71の比透磁率が、0.99以上の材料を用いるほうが好ましい。例えば、電気抵抗率、比透磁率の高いフェライト系ステンレス鋼やカーボン等を用いることができる。
【0053】
また、加熱温度が決まっている場合には、被加熱手段71の材料として、加熱温度付近にキュリー温度(キュリー点)を有する感温磁性材料を用いることもできる。これにより、キュリー温度(キュリー点)以上ではIHヒータの磁力線の影響を受けることがなく、被加熱手段71の温度をキュリー温度(キュリー点)付近に維持することができるという効果が得られる。
【0054】
伝熱手段72は、熱伝導率が少なくとも被加熱手段71よりも高い材料によって形成される。この場合、伝熱手段72の熱伝導率が、10W/m・K以上の材料を用いるほうが好ましい。例えば、熱伝導率の大きい銅やアルミニウムを用いることができる。
【0055】
このように、加工対象物保持部7をIHヒータ8で加熱する被加熱手段71と、被加熱手段71の熱を加工対象物200に伝熱する伝熱手段72とに分けることにより、加工対象物200を高速に加熱することができると共に、加工対象物200を均一に加熱することできる。
【0056】
なお、被加熱手段71と伝熱手段72は、図示しないが、摩擦接合又はロウ付けにより接合する方が好ましい。これにより、被加熱手段71と伝熱手段72との間の熱伝導を向上することができる。
【0057】
また、冷却手段は、被加熱手段71と伝熱手段72の少なくともいずれか一方に設ければよいが、両方に設けることも勿論可能である。冷却手段としては、どのようなものを用いても良いが、例えば、冷却流路により形成することができる。なお、冷却流路を被加熱手段71に設ける場合には、冷却流路をIHヒータ8によって加熱される部分とは異なる部分に形成する方が好ましい。特に、被加熱手段71は、IHヒータ側の表面から加熱されるので、冷却流路を少なくとも伝熱手段72側寄りに設ける方が好ましい。冷却媒体としては、水や油等の冷却液や、空気や不活性ガス等の冷却気体を用いれば良い。
【0058】
なお、加工対象物200としては、種々のものを用いることができ、例えばポリカーボネート、ポリイミド等の樹脂の他、ガラス、シリコン、ガリウム砒素、サファイア、酸化マグネシウム等の材料など、成形素材がそのまま基板形状をなしているものを用いることができる。また、シリコンやガラス等からなる基板本体の表面に、樹脂、フォトレジスト、配線パターンを形成するためのアルミ、金、銀等の金属薄膜の被覆層等が形成されたものを用いることもできる。更に、加工対象物200は、基板以外の形状であっても勿論良い。
【0059】
本発明の熱加工装置15は、加工対象物200を加工するためのものであって、例えば、図5に示すように、上述した型加熱装置1および加工対象物加熱装置6と、型100を加工対象物200に押圧する押圧手段50と、で主に構成される。
【0060】
型加熱装置1は、図6に示すように、型100を保持すると共に熱を型100に伝熱可能な型保持部2と、型保持部2を加熱する第1のIHヒータ31と、型保持部2を冷却する第1の冷却手段(図示せず)と、で主に構成される。また、型保持部2は、第1のIHヒータ3によって加熱される第1の被加熱手段23と、型100を保持し第1の被加熱手段23の熱を型100に伝熱する第1の伝熱手段24と、で構成しても良い。この場合、冷却手段を第1の被加熱手段23と第1の伝熱手段24のいずれか一方、あるいは両方に設けることも可能である。
【0061】
加工対象物加熱装置6は、図6に示すように、加工対象物200を保持すると共に熱を加工対象物200に伝熱可能な加工対象物保持部7と、加工対象物保持部7を加熱する第2のIHヒータ81と、加工対象物保持部7を冷却する第2の冷却手段(図示せず)と、で主に構成される。また、加工対象物保持部7は、IHヒータ8によって加熱される第2の被加熱手段73と、加工対象物200を保持し第2の被加熱手段73の熱を加工対象物200に伝熱する第2の伝熱手段74と、で構成しても良い。この場合、冷却手段を第2の被加熱手段73と第2の伝熱手段74のいずれか一方、あるいは両方に設けることも可能である。
【0062】
押圧手段50は、図5に示すように、Z方向に連結するボールネジ51と、このボールネジを回転駆動させるモータ52とから構成され、型加熱装置保持部53を介して型加熱装置1と連結されている。また、ボールネジ51の下端部と型加熱装置保持部53の上面はベアリング機構54を介して連結されている。押圧手段50をこのように構成することによって、型100を保持する型保持部2を上下し、加工対象物保持部7に保持される加工対象物200に対し、型100のパターン面100aを接近・押圧及び離間することができる。なお、ここでは、押圧手段を型加熱装置1側に設ける場合について説明したが、これに限られるものではなく、加工対象物加熱装置6側に設けることも可能である。
【0063】
型加熱装置1、加工対象物加熱装置6については、実施例1、実施例2において説明したものと同じものを適用することができるので、同一部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0064】
なお、型100としては、種々のものを用いることができ、例えば、1μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは10nm以下の所定のパターンが形成された型100を用いることができる。
【0065】
また、加工対象物200としても、種々のものを用いることができ、例えばポリカーボネート、ポリイミド等の樹脂の他、アルミニウム等の金属、ガラス、石英ガラス、シリコン、ガリウム砒素、サファイア、酸化マグネシウム等の材料など、成形素材がそのまま基板形状をなしているものを用いることができる。また、シリコンやガラス等からなる基板本体の表面に、樹脂、フォトレジスト、配線パターンを形成するためのアルミニウム、金、銀などの金属薄膜の被覆層等が形成されたものを用いることもできる。更に、加工対象物200は、基板以外の形状であっても勿論良い。なお、加工対象物200が金属である場合には、IHヒータによって加工対象物200を直接加熱するように構成することも可能である。
【0066】
次に、このような型加熱装置1、加工対象物加熱装置6、熱加工装置15の使用態様について説明する。
【0067】
まず、加工対象物加熱装置6の第2のIHヒータ81を作動させると、第2の被加熱手段73に誘導電流(うず電流)が発生し、第2の被加熱手段73の抵抗によるエネルギー損失によって熱が発生する。この熱は、第2の伝熱手段74を介して加工対象物200に伝熱され、加工対象物200がそのガラス転移温度以下近傍の温度に加熱保持される。
【0068】
次に、型加熱装置1の第1のIHヒータ31を作動させると、第1の被加熱手段23に誘導電流(うず電流)が発生し、第1の被加熱手段23の抵抗によるエネルギー損失によって熱が発生する。この熱は、第1の伝熱手段24を介して型100に伝熱され、型100が加工対象物200のガラス転移温度以上の温度に加熱される。
【0069】
その後、押圧手段50のモータ52を作動させて、型100を加工対象物200に押圧することにより加工対象物200に型100のパターンを形成することができる。
【0070】
最後に、冷却手段例えば第1の伝熱手段24内に設けられた冷却流路に冷却水を通すことによって型100をガラス転移温度以下に冷却した後、押圧手段50を作動させて、型100を加工対象物200から離型する。
【0071】
これにより、型100および加工対象物200を高温に加熱することができると共に、高速に加熱・冷却することができる。
【0072】
なお、上記型加熱装置1、加工対象物加熱装置6、熱加工装置15の使用態様は、一例であり、種々の使用態様で用いることができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の熱加工装置に含まれる型加熱装置を示す概略正面図である。
【図2】別の型加熱装置を示す概略正面図である。
【図3】本発明の熱加工装置に含まれる加工対象物加熱装置を示す概略正面図である。
【図4】別の加工対象物加熱装置を示す概略正面図である。
【図5】本発明の熱加工装置を示す概略正面図である。
【図6】本発明の熱加工装置を示す要部正面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 型加熱装置
2 型保持部
3 IHヒータ
6 加工対象物加熱装置
7 加工対象物保持部
8 IHヒータ
21 被加熱手段
22 伝熱手段
23 第1の被加熱手段(被加熱手段)
24 第1の伝熱手段(伝熱手段)
31 第1のIHヒータ(IHヒータ)
50 押圧手段
71 被加熱手段
72 伝熱手段
73 第2の被加熱手段(被加熱手段)
74 第2の伝熱手段(伝熱手段)
81 第2のIHヒータ(IHヒータ)
100 型
200 加工対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型によって超微細パターンを加工対象物にナノインプリンティングするための熱加熱装置であって、
前記型を保持すると共に、熱を前記型に伝熱可能な型保持部と、
前記型保持部を加熱する型加熱用IHヒータと、
前記加工対象物を保持すると共に、熱を前記加工対象物に伝熱可能な加工対象物保持部と、
前記加工対象物保持部を加熱する加工対象物加熱用IHヒータと、
前記型と前記加工対象物とを押圧する押圧手段と、
を具備しており、
前記型保持部の少なくとも一部および前記加工対象物保持部の少なくとも一部は、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成されていることを特徴とする熱加熱装置。
【請求項2】
前記型保持部を冷却する型用冷却手段と、
前記加工対象物保持部を冷却する加工対象物用冷却手段と、
を具備しており、
前記型用冷却手段は、前記型保持部の内部に設けられた型用冷却流路により形成されており、
前記型用冷却流路は、前記型用IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成されており、
前記加工対象物用冷却手段は、前記加工対象物保持部の内部に設けられた加工対象物用冷却流路により形成されており、
前記加工対象物冷却流路は、前記加工対象物用IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱加熱装置。
【請求項3】
前記型保持部の、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成された部分は、型の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されており、
前記加工対象物保持部の、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成された部分は、加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱加熱装置。
【請求項4】
前記型用IHヒータの発振周波数を変更する型用可変手段と、
前記加工対象物用IHヒータの発振周波数を変更する加工対象物用可変手段と、
を具備することを特徴とする請求項1記載の熱加熱装置。
【請求項5】
前記型および前記加工対象物は、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成されており、
前記型保持部および前記加工対象物保持部の、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成された部分は、熱伝導率が10W/m・K以上の材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱加熱装置。
【請求項6】
前記型保持部は、前記型用IHヒータの側に配された型用被加熱手段と、前記型の側に配された型用伝熱手段とに分けられており、
前記加工対象物保持部は、前記加工対象物用IHヒータの側に配された加工対象物用被加熱手段と、前記加工対象物の側に配された加工対象物用伝熱手段とに分けられており、
前記型用被加熱手段は、前記型用伝熱手段の比透磁率および電気抵抗率より大きく、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成されており、
前記加工対象物用被加熱手段は、前記加工対象物用伝熱手段の比透磁率および電気抵抗率より大きく、比透磁率が0.99以上でありかつ電気抵抗率が1μΩ・cm以上の材料により形成されており、
前記型用伝熱手段は、前記型用被加熱手段の熱伝導率より大きい材料で形成されており、
前記加工対象物用伝熱手段は、前記加工対象物用被加熱手段の熱伝導率より大きい材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱加熱装置。
【請求項7】
前記型用伝熱手段および前記加工対象物用伝熱手段は、熱伝導率が10W/m・K以上の材料で形成されていることを特徴とする請求項6記載の熱加工装置。
【請求項8】
前記型用被加熱手段および前記加工対象物用被加熱手段は、フェライト系ステンレス鋼で形成され、
前記型用伝熱手段および前記加工対象物用伝熱手段は、銅又はアルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項6記載の熱加工装置。
【請求項9】
前記型用被加熱手段を冷却する型用冷却手段と、
前記加工対象物用被加熱手段を冷却する加工対象物用冷却手段と、
を具備しており、
前記型用冷却手段は、前記型用被加熱手段の内部に設けられた型用冷却流路により形成され、
前記型用冷却流路は、前記型用IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成されおり、
前記加工対象物用冷却流路は、前記加工対象物用IHヒータによって直接加熱される部分とは異なる部分に形成されていることを特徴とする請求項6記載の熱加工装置。
【請求項10】
前記型用伝熱手段を冷却する型用冷却手段と、
前記加工対象物用伝熱手段を冷却する加工対象物用冷却手段と、
を具備しており、
前記型用冷却手段は、前記型用伝熱手段の内部に設けられた型用冷却流路により形成されており、
前記加工対象物用冷却手段は、前記加工対象物用伝熱手段の内部に設けられた加工対象物用冷却流路により形成されいることを特徴とする請求項6に記載の熱加工装置。
【請求項11】
前記型用被加熱手段は、型の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されており、
前記加工対象物用被加熱手段は、加工対象物の加熱温度近傍にキュリー温度を有する感温磁性材料により形成されていることを特徴とする請求項6記載の熱加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−224657(P2006−224657A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369550(P2005−369550)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】