説明

熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、熱可塑性エラストマー組成物、発泡体及び積層シート

【課題】動的に熱処理した後も発泡成形に必要な高い溶融張力を維持し、発泡倍率の高い発泡体を製造することができる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び(B)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含む混合物を、(C)架橋剤の存在下に動的に熱処理して前駆体を得、得られた前駆体に、(D)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂を添加することを含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法、発泡体及びその製造方法、積層シート、その製造方法及び接着方法、並びに画像表示装置に関し、更に詳しくは、動的に熱処理した後も発泡成形に必要な高い溶融張力及び溶融延展性を維持し、架橋が均一に進行し、発泡倍率の高い発泡体を製造することができる熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法、発泡倍率の高い発泡体及びその製造方法、クッション性に優れる積層シート、その製造方法及び接着方法、並びに破壊や歪みを生じにくい画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や情報機器等の内部絶縁体、緩衝材、防塵材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材、建築材、自動車や家電製品等の内装部品や外装部品用等として発泡成形品が用いられている。このような発泡成形品には、部品として組み込まれる際にそのシール性等を確保するという観点から、クッション性及び断熱性等の特性が要求される。
【0003】
発泡成形品の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂発泡体が知られているが、これらの発泡体は、クッション性の点で十分ではないという問題があった。このような問題を解決する試みとして、発泡倍率を高くしたり、オレフィン系樹脂にゴム成分等を配合して素材自体を柔らかくしたりすることが行われている。しかし、通常のオレフィン系樹脂発泡体では高温時での張力、即ち溶融張力が低く、高い発泡倍率を得ようとしても発泡時に気泡壁が破れてしまい、ガス抜けが生じたり、気泡の合一が生じたりした。そのため、発泡倍率が高く、柔らかい発泡体を得ることは困難であった。
【0004】
上記の問題を解決するものとして、ゴムと、熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂組成物の少なくともいずれかと、を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られる、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN以上、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みが80%以下である熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることで得られる発泡体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に開示された発泡体は、動的に熱処理する際に、熱可塑性樹脂が分解及び劣化し、その結果、熱可塑性エラストマー組成物の溶融張力が低下してしまい、発泡倍率を高くするには未だ改良の余地があった。
【0005】
この問題を解決するものとして、ゴム、及び210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN未満である、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂とα−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂の少なくともいずれか、を含む混合物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物、オレフィン系樹脂、並びに平均粒子径が0.1μm以上2.0μm未満の造核剤を少なくとも含有するオレフィン系樹脂組成物、を超臨界状態の二酸化炭素により発泡させてなるオレフィン系樹脂発泡体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/066584号パンフレット
【特許文献2】特開2007−291337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されたオレフィン系樹脂発泡体は、発泡倍率を高くするために溶融張力の高いオレフィン系樹脂を多量に添加しなくてはならない場合があった。また、従来の熱可塑性エラストマー組成物では、溶融した樹脂の引取速度を速くする際に樹脂が切断するときの引取速度、即ち溶融延展性が低いという問題があった。溶融延展性が低い場合、発泡倍率が高く、柔らかい発泡体を得ることが困難になる場合があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、動的に熱処理した後も発泡成形に必要な高い溶融張力及び溶融延展性を維持し、発泡倍率の高い発泡体を製造することができる熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、発泡倍率の高い発泡体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
更に、本発明の課題とするところは、クッション性に優れる積層シート及びその製造方法、並びにその接着方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の課題とするところは、破壊や歪みを生じにくい画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上であるオレフィン系熱可塑性樹脂を、動的に熱処理する前後二回にわたって加えることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法、発泡体及びその製造方法、積層シート、その製造方法及び接着方法、並びに画像表示装置が提供される。
【0014】
[1](A)エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び(B)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含む混合物を、(C)架橋剤の存在下に動的に熱処理して前駆体を得、得られた前記前駆体に、(D)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂を添加することを含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【0015】
[2]前記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法により製造される熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[3]JIS K6262に準拠して、70℃、22時間の条件で測定した圧縮永久歪みが60%以下である前記[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[4]前記[2]又は[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させて得られる発泡体。
【0018】
[5]前記[2]又は[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物を超臨界流体で発泡させる発泡体の製造方法。
【0019】
[6]前記[2]又は[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜20質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得る工程と、得られた前記化学発泡剤混合原料を発泡させる工程と、を有する発泡体の製造方法。
【0020】
[7]電子線を照射する工程を更に有する前記[5]又は[6]に記載の発泡体の製造方法。
【0021】
[8]前記[4]に記載の発泡体からなるシート状の基材と、前記基材の少なくとも一の面上に配設される、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層と、を備える積層シート。
【0022】
[9]前記粘着剤が、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、アクリル系重合体、及びポリエステル重合体からなる群より選択される少なくとも一種である前記[8]に記載の積層シート。
【0023】
[10]前記粘着面上に配設される離型シートを更に備える前記[8]又は[9]に記載の積層シート。
【0024】
[11]前記[2]又は[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形して、前記熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を得る工程と、前記基材の少なくとも一の面上に、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設する工程と、を有する積層シートの製造方法。
【0025】
[12]前記[2]又は[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物と、粘着剤と、を押出成形して、前記熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を成形するとともに、前記基材の少なくとも一の面上に、前記粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設することを含む積層シートの製造方法。
【0026】
[13]前記[8]〜[10]のいずれかに記載の積層シートに備わる粘着層の粘着面を、被着体の表面に貼り付けることを含む積層シートの接着方法。
【0027】
[14]視認面を有する画像表示パネルと、前記視認面に、所定間隔を離隔した状態で配設される前記画像表示パネルを保護する透明前面板と、前記画像表示パネルと前記透明前面板の間に配設される前記[8]〜[10]のいずれかに記載の積層シートと、前記画像表示パネル、前記透明前面板、及び前記積層シートを収納するケースと、を備える画像表示装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、動的に熱処理した後も発泡成形に必要な高い溶融張力及び溶融延展性を維持し、発泡倍率の高い発泡体を製造することができる熱可塑性エラストマー組成物を製造することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、動的に熱処理した後も発泡成形に必要な高い溶融張力及び溶融延展性を維持し、発泡倍率の高い発泡体を製造することができるという効果を奏するものである。
【0030】
更に、本発明の発泡体は、発泡倍率が高いという効果を奏するものである。
【0031】
また、本発明の発泡体の製造方法によれば、発泡倍率が高い発泡体を製造することができるという効果を奏する。
【0032】
更に、本発明の積層シートは、クッション性に優れるという効果を奏するものである。
【0033】
また、本発明の積層シートの製造方法によれば、クッション性に優れる積層シートを製造することができるという効果を奏する。
【0034】
更に、本発明の積層シートの接着方法によれば、クッション性に優れる積層シートを接着することができるという効果を奏する。
【0035】
また、本発明の画像表示装置は、破壊や歪みを生じにくいという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第一工程で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力に対する発泡体の発泡倍率の値の相関図である。
【図2】第二工程で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力に対する発泡体の発泡倍率の値の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0038】
I 熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(以下、「(A)成分」ともいう)、及び210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂(以下、「(B)成分」ともいう)を含む混合物を、架橋剤(以下、「(C)成分」ともいう)の存在下に動的に熱処理して前駆体を得(以下、「第一工程」ともいう)、得られた前駆体に、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂(以下、「(D)成分」ともいう)を添加する(以下、「第二工程」ともいう)ことを含む方法である。
【0039】
1 第一工程
第一工程は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含む混合物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理して前駆体を得る工程である。
【0040】
(1) 混合物
混合物は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含むものである。混合物に含まれる(A)成分と(B)成分の質量比は、(A)成分/(B)成分=95/5〜20/80であることが好ましく、90/10〜20/80であることが更に好ましく、90/10〜30/70であることが特に好ましい。(A)成分が20質量%未満、(B)成分が80質量%超であると、発泡体のゴム弾性が低下する場合がある。一方、(A)成分が95質量%超、(B)成分が5質量%未満であると、前駆体の相構造が、動的架橋の特徴である良好な海島構造((B)成分が海、(A)成分が島)になり難く、流動性や成形加工性が低下する場合がある。
【0041】
(i) エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、エチレンに由来する構成単位(以下、「エチレン単位」ともいう)と、α−オレフィンに由来する構成単位(以下、「α−オレフィン単位」ともいう)と、を含む共重合ゴムであれば特に制限されるものではない。従って、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、エチレン単位とα−オレフィン単位とを含む二元共重合ゴムの他に、他の単量体に由来する構成単位(以下、「他の単量体単位」ともいう)を含む三元共重合ゴムであっても良い。なお、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0042】
(エチレン単位)
エチレン単位の含有割合は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムに対して、35〜90mol%であることが好ましく、40〜90mol%であることが更に好ましく、45〜85mol%であることが特に好ましい。エチレン単位の含有割合が35mol%未満であると、機械的強度が不十分な場合がある。一方、90mol%超であると、柔軟性が不十分な場合がある。
【0043】
(α−オレフィン単位)
α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン等が挙げられる。これらの中でも、プロピレン、1−ブテン、1−オクテンが好ましい。なお、これらのα−オレフィンは、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0044】
α−オレフィン単位の含有割合は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムに対して、5〜65mol%であることが好ましく、10〜45mol%であることが更に好ましく、15〜40mol%であることが特に好ましい。α−オレフィン単位の含有割合が5mol%未満であると、所望とするゴム弾性を発揮し難くなる。一方、65mol%超であると、耐久性が低下する場合がある。
【0045】
(他の単量体単位)
他の単量体としては、例えば、非共役ジエン単量体がある。非共役ジエン単量体として、具体的には、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン等の直鎖状の非環状ジエン化合物;5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、ジヒドロミルセン等の分岐状の非環状ジエン化合物;テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等が挙げられる。これらの中でも、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。なお、非共役ジエン単量体は1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0046】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムが他の単量体単位を有する場合、他の単量体単位の含有割合は、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムに対して、15mol%以下であることが好ましく、1〜12mol%であることが更に好ましい。他の単量体単位の含有割合が15mol%超であると、耐久性が低下する場合がある。
【0047】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、これまで述べてきたエチレン・α−オレフィン系共重合ゴムの分子中の水素原子の一部が塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換されたハロゲン化共重合ゴムであることが好ましい。
【0048】
また、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、これまで述べてきたエチレン・α−オレフィン系共重合ゴムに不飽和単量体を重合させて得られるグラフト共重合ゴムであることも好ましい。不飽和単量体として、具体的には、塩化ビニル;酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体;マレイン酸;無水マレイン酸、マレイミド、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸誘導体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン化合物等が挙げられる。
【0049】
更に、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、これまで述べてきたエチレン・α−オレフィン系共重合ゴムに鉱物油系軟化剤を添加した油展ゴムであることも好ましい。このような油展ゴムは、取り扱いが容易である。従って、油展ゴムをエチレン・α−オレフィン系共重合ゴムとして用いると、熱可塑性エラストマー組成物の製造が容易になるため好ましい。なお、油展ゴムに含有される、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムと鉱物油系軟化剤の割合は、油展ゴム全体を100質量%とした場合に、それぞれ20〜80質量%であることが好ましく、25〜75質量%であることが更に好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。
【0050】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、例えば、エチレン及びα−オレフィン、必要に応じて他の単量体を、触媒及び溶媒の存在下、重合することにより調製することができる。重合方法は特に制限されず、従来公知の方法であって良い。具体的には、カチオン重合、アニオン重合、ラジカル重合等がある。これらの中でも、アニオン重合が好ましい。なお、触媒は特に制限されるものではなく、通常、重合反応に使用されるものであって良い。
【0051】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムの、X線回折測定による結晶化度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが更に好ましい。エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムの結晶化度が20%超であると、柔軟性が低下する場合がある。
【0052】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムの極限粘度(デカリン溶媒中、135℃で測定)は、1.0〜9.0dl/gであることが好ましく、2.0〜9.0dl/gであることが更に好ましく、3.0〜8.0dl/gであることが特に好ましい。極限粘度が1.0dl/g未満であると、例えば、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムとして油展ゴムを用いた場合に、前駆体から鉱物油系軟化剤がブリードアウトし、ゴム弾性が低下する場合がある。一方、極限粘度が9.0dl/g超であると、成形加工性が良好ではない場合がある。
【0053】
(ii) 第一のオレフィン系熱可塑性樹脂
第一のオレフィン系熱可塑性樹脂は、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上の樹脂である。第一のオレフィン系熱可塑性樹脂の、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力は3.0cN以上であり、5.0cN以上であることが好ましく、8.0cN以上であることが更に好ましい。溶融張力が3.0cN未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN未満となる場合がある。そのため、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、独立した気泡が形成され難く、形成される気泡の形状が不均一になる場合がある。
【0054】
第一のオレフィン系熱可塑性樹脂は、発泡性に影響する樹脂である。そのため、熱可塑性エラストマー組成物が所定の溶融張力を得るためにはオレフィン系結晶性樹脂であることが望ましい。
【0055】
(オレフィン系結晶性樹脂)
オレフィン系結晶性樹脂は、α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とするものである。第一のオレフィン系熱可塑性樹脂がこのようなオレフィン系結晶性樹脂であることによって、結晶が、即ち、オレフィン系結晶性樹脂が補強効果を示すため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が向上するという利点がある。ここで、オレフィン系結晶性樹脂において「α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とする」とは、オレフィン系結晶性樹脂の総量を100質量%とした場合に、α−オレフィンに由来する構成単位を80質量%以上含有することをいう。なお、α−オレフィンに由来する構成単位の含有率は、90質量%以上であることが好ましい。α−オレフィンに由来する構成単位の含有率が80質量%未満であると、結晶の含有量、即ち、オレフィン系結晶性樹脂の結晶性を有する構成単位の含有量が低下するため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0056】
オレフィン系結晶性樹脂は、α−オレフィンの単独重合体であっても、2種以上のα−オレフィンの共重合体であっても、α−オレフィンではない単量体との共重合体であってもよい。また、これらの異なる2種以上の重合体、及び/又は、共重合体の混合物であってもよい。
【0057】
オレフィン系結晶性樹脂が共重合体である場合、この共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。但し、ランダム共重合体の場合には、このランダム共重合体中の構成単位のうち、α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計の含有率が、ランダム共重合体の全体量100質量%に対して、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計の含有率が15質量%超であると、結晶化が阻害されるため、十分な結晶化度を得られないおそれがある。また、ブロック共重合体の場合には、このブロック共重合体中の構成単位のうち、α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計の含有率が、ブロック共重合体の全体量100質量%に対して、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計の含有率が40質量%超であると、結晶の含有量、即ち、オレフィン系結晶性樹脂の結晶性を有する構成単位の含有量が低下するため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0058】
オレフィン系結晶性樹脂は、結晶性を有するものである限り特に制限はないが、オレフィン系結晶性樹脂の結晶性としては、X線回折測定による結晶化度が50%以上であることが好ましく、53%以上であることが更に好ましく、55%以上であることが特に好ましい。ここで、結晶化度は、密度と密接に関係している値である。即ち、例えば、ポリプロピレンの場合、α型結晶(単斜晶形)の密度は0.936g/cm、スメチカ型微結晶(擬六方晶形)の密度は0.886g/cm、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.850g/cmである。また、ポリ−1−ブテンの場合、アイソタクチック結晶の密度は0.91g/cm、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.87g/cmである。このような結晶化度と密度との関係から、結晶化度が50%以上のオレフィン系結晶性樹脂とは、密度が0.89g/cm以上のオレフィン系結晶性樹脂である。そして、オレフィン系結晶性樹脂は、その密度が、0.90〜0.94g/cmであることが好ましい。オレフィン系結晶性樹脂の結晶化度が50%未満、即ち、密度が0.89g/cm未満であると、耐熱性、強度等が低下するおそれがある。
【0059】
オレフィン系結晶性樹脂は、示差走査熱量測定法による最大ピーク温度、即ち、融点(以下、単に「T」ともいう)が、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。Tが100℃未満であると、十分な溶融張力及び強度が発揮されないおそれがある。
【0060】
オレフィン系結晶性樹脂は、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒等の既存の触媒の存在下で、単量体を重合させて得られる樹脂である。触媒としてメタロセン触媒を用いると、低分子量成分や低結晶性成分の含有率を低くすることができるため、溶融張力や強度が良好になるという観点から好ましい。
【0061】
オレフィン系結晶性樹脂は、温度230℃、荷重49Nにおけるメルトフローレート(以下、単に「MFR」ともいう)が、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜80g/10分であることが更に好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の混練加工性、押出加工性等が不十分となるおそれがある。一方、100g/10分超であると、熱可塑性エラストマー組成物によって得られる成形品の強度が低下するおそれがある。
【0062】
以上の点から、オレフィン系結晶性樹脂として、具体的には、結晶化度が50%以上であり、密度が0.89g/cm以上であり、エチレンに由来する構成単位の含有率が20質量%以下であり、Tが100℃以上であり、MFRが0.1〜100g/10分であり、融点が140〜170℃である、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンとの共重合体、又は、プロピレンとエチレンと1−ブテンとの共重合体を用いることが特に好ましい。
【0063】
混合物を調製するに際しては、(A)成分及び(B)成分は、そのまま用いても良く、それぞれ同一又は異なる添加剤等を含む組成物として調製したものを用いても良い。(A)成分の形状は、ベール状、クラム状、ペレット状、粉体状(ベール状ゴム又はクラム状ゴムの粉砕品を含む)のいずれであっても良い。また、形状の異なる複数の(A)成分を組み合わせて用いても良い。
【0064】
(2) 前駆体
前駆体は、混合物を架橋剤の存在下に動的に熱処理して得られるものである。なお、本明細書にいう「動的に熱処理」するとは、剪断力を加えること、及び加熱することの両方を行うことをいう。そして、このような動的架橋によって得られる前駆体は、通常、(B)成分を海相とし、この海相中に、(A)成分が島相として分散している、いわゆる海島構造を構成する。なお、架橋剤とともに、架橋助剤と架橋促進剤の少なくともいずれかを用いると、架橋反応を穏やかに行うことができ、均一な架橋を行うことができるため好ましい。
【0065】
混合物を「動的に熱処理する」ための装置としては、溶融混練装置等を好適に用いることができる。この溶融混練装置による処理は、連続式及びバッチ式のいずれの方式であっても良い。溶融混練装置の具体例としては、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、一軸押出機、二軸押出機、連続式混練機、加圧ニーダー等が挙げられる。これらの中でも、経済性、処理効率等の観点から、一軸押出機、二軸押出機、連続式混練機等の連続式の溶融混練装置が好ましい。また、型式が同一の又は異なる連続式の溶融混練装置を2台以上組み合わせて用いても良い。
【0066】
二軸押出機のL/D比(スクリュー有効長さLと外径Dとの比)は、30以上であることが好ましく、36〜60であることが更に好ましい。また、二軸押出機としては、例えば、二本のスクリューが噛み合うもの、噛み合わないもの等の任意の二軸押出機を使用することができるが、二本のスクリューの回転方向が同一方向でスクリューが噛み合うものがより好ましい。このような二軸押出機としては、例えば、商品名「PCM」(池貝社製)、商品名「KTX」(神戸製鋼所社製)、商品名「TEX」(日本製鋼所社製)、商品名「TEM」(東芝機械社製)、商品名「ZSK」(ワーナー社製)等がある。
【0067】
連続式混練機のL/D比(スクリュー有効長さLと外径Dとの比)は、5以上であることが好ましく、10以上であることが更に好ましい。このような連続式混練機としては、例えば、商品名「ミクストロンKTX・LCM・NCM」(神戸製鋼所社製)、商品名「CIM・CMP」(日本製鋼所社製)等がある。
【0068】
動的に熱処理するに際しての処理温度は、120〜350℃とすることが好ましく、150〜290℃とすることが更に好ましい。処理時間は、20秒〜320分とすることが好ましく、30秒〜25分とすることが更に好ましい。また、負荷する剪断力は、ずり速度で10〜20000/secとすることが好ましく、100〜10000/secとすることが更に好ましい。
【0069】
(iii) 架橋剤
架橋剤の種類は、特に制限されるものではないが、第一のオレフィン系熱可塑性樹脂の融点以上の温度で動的架橋することにより、少なくともエチレン・α−オレフィン系共重合ゴムを架橋し得る化合物である。
【0070】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、フェノール樹脂、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸等がある。これらの中でも、有機過酸化物、フェノール樹脂が好ましい。なお、これらの架橋剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0071】
架橋剤の使用量は、混合物100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜15質量部であることが更に好ましく、1〜10質量部であることが特に好ましい。
【0072】
(有機過酸化物)
有機過酸化物として、具体的には、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、p−メンタンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ(t−ブチルパーオキシ)パーベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、3,2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドが好ましい。なお、これらの有機過酸化物は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0073】
架橋剤として有機過酸化物を使用する場合、有機過酸化物の使用量は、混合物100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることが更に好ましい。使用量が10質量部超であると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性が低下し、前駆体の機械的物性が低下する場合がある。一方、0.05質量部未満であると、架橋度が不足し、前駆体のゴム弾性及び機械的強度が低下する場合がある。
【0074】
架橋剤として有機過酸化物を用いる場合、架橋助剤として、硫黄、硫黄化合物(粉末硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、表面処理硫黄、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等)、オキシム化合物(p−キノンオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム等)、多官能性モノマー類(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−トルイレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等)等を併用することが好ましい。これらの中でも、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジビニルベンゼンが好ましい。これらの架橋助剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドは、架橋剤としての性質も有するため、架橋剤として単独で使用することもできる。
【0075】
架橋剤として有機過酸化物を使用する場合、架橋助剤の使用量は、混合物100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.2〜5質量部であることが更に好ましい。使用量が10質量部超であると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性が低下し、前駆体の機械的物性が低下する場合がある。
【0076】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂として、具体的には、一般式(1)で表されるp−置換フェノール系化合物、o−置換フェノール・アルデヒド縮合物、m−置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物等が挙げられる。これらの中でも、p−置換フェノール系化合物が好ましい。これらのフェノール樹脂は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0077】
【化1】

【0078】
一般式(1)中、Aは、水酸基、ハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、Rは、相互に独立に、炭素数1〜15の飽和炭化水素基を示し、sは、0〜10の整数を示す。
【0079】
p−置換フェノール系化合物は、例えば、アルカリ触媒の存在下、p−置換フェノールとアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との縮合反応により調製することができる。
【0080】
また、p−置換フェノール系化合物は市販品を用いても良い。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、商品名「タッキロール201」(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「タッキロール250−I」(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「タッキロール250−III」(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、商品名「PR−4507」(群栄化学工業社製)、商品名「ST137X」(ローム&ハース社製)、商品名「スミライトレジンPR−22193」(住友デュレズ社製)、商品名「タマノル531」(荒川化学工業社製)、商品名「SP1059」、商品名「SP1045」、商品名「SP1055」、商品名「SP1056」(以上、スケネクタディ社製)、商品名「CRM−0803」(昭和ユニオン合成社製)がある。これらの中でも、「タッキロール201」が好ましい。
【0081】
架橋剤としてフェノール樹脂を用いる場合、フェノール樹脂の使用量は、混合物100質量部に対して、0.2〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることが更に好ましい。使用量が10質量部超であると、前駆体の成形加工性が低下する場合がある。一方、0.2質量部未満であると、架橋度が不足し、前駆体のゴム弾性及び機械的強度が低下する場合がある。
【0082】
架橋剤としてフェノール樹脂を用いる場合、架橋速度を調節する目的で、架橋促進剤を併用することが好ましい。このような架橋促進剤としては、例えば、金属ハロゲン化物(例えば、塩化第一スズ、塩化第二鉄等)、有機ハロゲン化物(例えば、塩素化ポリプロピレン、臭化ブチルゴム、クロロプレンゴム等)等がある。また、架橋促進剤の他に、酸化亜鉛等の金属酸化物やステアリン酸等の分散剤を併用することが更に好ましい。
【0083】
また、前駆体は、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。含有することのできる添加剤としては、例えば、軟化剤、造核剤、潤滑剤、老化防止剤、熱安定剤、HALS等の耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤等の安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、難燃剤、粘着付与剤、酸化チタン、カーボンブラック及び有機顔料等の着色剤、フェライト等の金属粉末、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、木粉等の充填剤又はこれらの混合物等がある。これらの中でも、軟化剤、造核剤を含有することが好ましい。
【0084】
(軟化剤)
軟化剤は、加工性や柔軟性を向上させるものである。軟化剤として、具体例には、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系物質;コールタール、コールタールピッチ等のコールタール類;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油等の脂肪油;トール油、蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又はその金属塩;石油樹脂、クマロンインデン樹脂、アタクチックポリプロピレン等の合成高分子化合物;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等のエステル化合物;マイクロクリスタリンワックス、サブ(ファクチス)、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、液状チオコール、液状ポリイソプレン、液状ポリブテン、液状エチレン・α−オレフィン系共重合体等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系の鉱物油、液状ポリイソプレン、液状ポリブテン、液状エチレン・α−オレフィン系共重合体が好ましく、パラフィン系鉱物油、液状ポリイソプレン、液状ポリブテン、液状エチレン・α−オレフィン系共重合体が更に好ましい。
【0085】
軟化剤の使用量は、混合物100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることが更に好ましく、120質量部以下であることが特に好ましい。使用量が200質量部超であると、動的に熱処理する際に、分散不良を起こす場合がある。
【0086】
(造核剤)
造核剤は、セル径を容易に調整し、適度な柔軟性等を有する発泡体を得るために使用するものである。具体的には、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、チタニア等の無機化合物の粉末が挙げられる。表面処理した造核剤であってもよい。
【0087】
造核剤の使用量は、混合物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、0.01〜15質量部であることが更に好ましく、0.1〜10質量部であることが特に好ましい。なお、造核剤は、例えば、ポリプロピレン系樹脂等を用いてマスターバッチとして成形機に添加することができる。
【0088】
2 第二工程
第二工程は、前駆体に、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂を添加する工程であり、この工程を行うことで熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、前駆体及び第二のオレフィン系熱可塑性樹脂をヘンシェルミキサーで混合した後、40mm単軸押出機を使用し、220℃、70rpmで押し出しする方法がある。
【0089】
(iv) 第二のオレフィン系熱可塑性樹脂
第二のオレフィン系熱可塑性樹脂として、具体的には、「(1) 混合物」にて記載した第一のオレフィン系熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。なお、第二のオレフィン系熱可塑性樹脂は第一のオレフィン系熱可塑性樹脂と同一であっても良く、異なっても良い。
【0090】
熱可塑性エラストマー組成物に含まれる前駆体と(D)成分の質量比は、前駆体/(D)成分=70/30〜30/70であることが好ましく、65/35〜35/65であることが更に好ましく、60/40〜40/60であることが特に好ましい。前駆体が30質量%未満、(D)成分が70質量%超であると、発泡体のクッション性が劣る場合がある。一方、前駆体が70質量%超、(D)成分が30質量%未満であると、発泡倍率が低くなる場合がある。
【0091】
II 熱可塑性エラストマー組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、「I 熱可塑性エラストマー組成物の製造方法」により製造されるもの、即ち、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含む混合物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理(以下、「動的架橋」ともいう)して前駆体を得、得られた前駆体に、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂を添加して得られるものである。また、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間の条件で測定した圧縮永久歪みが、60%以下のものであることが好ましい。圧縮永久歪みが60%超であると、発泡させた場合に、発泡体のゴム弾性及びクッション性が良好とはいえない場合がある。
【0092】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力は、通常、5.0cN以上であり、7.0cN以上であることが好ましく、8.0cN以上であることが更に好ましい。溶融張力が5.0cN未満であると、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、独立した気泡が形成され難く、形成される気泡の形状が不均一になる場合がある。
【0093】
更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の、210℃における溶融延展性は、通常、30m/min以上であり、35m/min以上であることが好ましく、40m/min以上であることが更に好ましい。溶融延展性が30m/min未満であると、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、独立した気泡が形成され難く、形成される気泡の形状が不均一になる場合がある。
【0094】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)は、230℃、荷重98Nの条件下において、通常、0.1〜100g/10minであり、1.0〜70g/10minであることが好ましく、2.0〜50g/10minであることがより好ましい。熱可塑性エラストマー組成物のMFRが0.1g/10min未満であると、各種発泡体の製造方法による加工性等が不十分となる場合がある。一方、100g/10min超であると、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、独立した気泡が形成され難く、また、形成される気泡の形状が均一になり難い。従って、そのMFRが所定の数値範囲内にある熱可塑性エラストマー組成物を用いることにより、高い発泡倍率で、独立気泡性が高く、発泡気泡形状が均一な発泡体を製造することが可能となる。
【0095】
更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の硬度(デュロD)は、通常、90以下であり、好ましくは80以下であり、より好ましくは70以下である。熱可塑性エラストマー組成物の硬度(デュロD)が90超であると、発泡させた場合に、得られる積層シートの柔軟性が劣る場合がある。従って、その硬度(デュロD)が所定の数値以下である熱可塑性エラストマー組成物を用いることにより、クッション性に優れた積層シートを製造することができる。
【0096】
III 発泡体
次に、本発明の発泡体について説明する。発泡体は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより得られるものである。従って、発泡倍率及び独立気泡性が高く、発泡気泡の形状が均一なものであり、ゴム弾性、クッション性、並びに表面外観に優れたものである。
【0097】
発泡体は、超臨界流体又は化学発泡剤を用いて本発明の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させて得られるものである。但し、超臨界流体を用いて発泡させた発泡体は、化学発泡剤を用いて発泡させた発泡体と比較して臭気がなく、リサイクル性やクッション性に優れているため好ましい。
【0098】
発泡体の内部に形成される気泡の平均セル径は、1〜200μmであることが好ましく、3〜150μmであることが更に好ましい。この範囲を外れると、クッション性が低下する場合がある。なお、平均セル径は、発泡体の断面の拡大顕微鏡写真により求めることができる。
【0099】
発泡体は、発泡倍率及び独立気泡性が高く、気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、クッション性、及び表面外観に優れるものであるため、例えば、インスツルメントパネルやグローブボックス等の自動車内装部品、ウェザーストリップ等の自動車外装部品、弱電部品、電化製品用防振材、その他の工業部品、建材、スポーツ用品等として好適に用いることができる。
【0100】
IV 発泡体の製造方法
発泡体の製造方法としては、例えば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を超臨界流体で発泡させる方法(以下、「第一の製造方法」ともいう)や、本発明の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜20質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得る工程(以下、「工程(1)」ともいう)と、得られた化学発泡剤混合原料を発泡させる工程(以下、「工程(2)」ともいう)と、を有する方法(以下、「第二の製造方法」ともいう)がある。
【0101】
1 第一の製造方法
先ず、第一の製造方法について具体的に説明する。第一の製造方法は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を溶融して溶融物を得、得られた溶融物に超臨界流体を注入し、その後発泡させる方法である。
【0102】
超臨界流体としては、二酸化炭素や、窒素を超臨界状態としたものを使用することが好ましい。例えば、二酸化炭素であれば、温度31℃以上、圧力7.3MPa以上とすることにより、超臨界状態とすることができる。二酸化炭素は、比較的低い温度、圧力で超臨界状態となり、また溶融物への含浸速度が速く、高濃度の注入が可能なために、発泡成形に適しており、微細な気泡を形成することができる。
【0103】
第一の製造方法は、得られた溶融物に超臨界流体を注入し、その後、発泡させる方法であれば特に限定されるものではなく、バッチ法、連続法のいずれの方法で行っても良い。具体的には、押出成型、射出成型、プレス成型等が挙げられる。
【0104】
超臨界流体を、溶融状態の熱可塑性エラストマー組成物に注入して均一に混合すると、見掛け粘度が低下するために、流動性が向上する。また、超臨界流体を用いて熱可塑性エラストマー組成物を発泡させると、発泡倍率を高くすることができる。更に、得られる発泡体の平均セル径を調整し易い。
【0105】
2 第二の製造方法
次に、第二の製造方法について説明する。第二の製造方法は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜20質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得、得られた化学発泡剤混合原料を発泡させることを含む製造方法である。
【0106】
(1) 工程(1)
工程(1)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜20質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得る工程である。化学発泡剤は、樹脂材料の発泡成形に用いられるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、熱分解型発泡剤、揮発型発泡剤、中空粒子型発泡剤等があり、適宜選択して用いることができる。具体的には、商品名「ビニホールAC#3」(永和化成工業社製)、商品名「ポリスレンEE205」(永和化成工業社製)、商品名「EXPANCEL−092(DU)−120」(エクスパンセル社製)等が挙げられる。なお、これらの化学発泡剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0107】
化学発泡剤の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.1〜20質量部であり、特に好ましくは0.1〜15質量部である。化学発泡剤の配合量が0.01質量部未満であると、少なすぎるために十分な発泡倍率の発泡体を得ることが困難になる。一方、20質量部超であると、表面外観が劣るために好ましくない。
【0108】
(2) 工程(2)
工程(2)は、得られた化学発泡剤混合原料を発泡させる工程である。発泡方法は特に制限されるものではないが、押出発泡、射出発泡等の方法を好適に用いることができる。
【0109】
また、本発明の発泡体の製造方法は、電子線を照射する工程を更に有する方法であることが好ましい。電子線を照射することで、発泡体中の非共役ジエン及びα−オレフィンに由来する構成成分が、ラジカル重合を起こして三次元架橋構造を構成し、弾性回復性が更に増す。また、電子線照射により架橋を行うので、架橋剤による汚染がない。電子線は、発泡体に対して透過性があり、その透過の程度は、発泡体の厚みと、電子線の運動エネルギーに依存する。そのため、発泡体の厚みと電子線のエネルギーを調節すると、発泡体の厚み方向の架橋度が均一になる。
【0110】
電子線加速電圧は、好ましくは100〜2,000kVであり、更に好ましくは200〜1,000kVである。電子線加速電圧が100kV未満であると、表層部で捕獲吸収される電子の割合が相対的に多くなり、発泡体を透過する電子線が少なくなり、表層部と内部の架橋度に差が生じる場合がある。一方、2,000kV超であると、分子切断による機械的強度の低下が生じる場合がある。
【0111】
また、電子線の照射量は、好ましくは10〜1,000kGy(Gy:グレイ、J/kg)であり、更に好ましくは100〜800kGyである。10kGy未満であると、架橋度が不十分な場合がある。一方、1,000kGy超であると、分子切断による機械的強度の低下が生じる場合がある。
【0112】
電子線照射による架橋効果は、電子線加速電圧と照射量の積で表すことができる。電子線加速電圧(kV)と照射線量(kGy)の積は、好ましくは1,000〜2,000,000(kV・kGy)であり、更に好ましくは10,000〜500,000(kV・kGy)である。1,000(kV・kGy)未満であると、表層部で捕獲吸収される電子の割合が相対的に多くなり、発泡体を透過する電子線が少なくなり、表層部と内部の架橋度に差が生じる場合がある。一方、2,000,000(kV・kGy)超であると、分子切断による機械的強度の低下が生じる場合がある。
【0113】
電子線架橋だけでもゴム弾性の改良効果が得られるが、更にゴム弾性の改良効果を高めるために第二工程において、更に架橋助剤を添加しても良い。架橋助剤の使用量は、前駆体及び第二の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることが更に好ましい。使用量が10質量部超であると、ゴム弾性の改良効果は飽和しているために経済上好ましくない。一方、使用量が0.01質量部以下であると、更なるゴム弾性の改良効果がみられない場合がある。
【0114】
架橋助剤として、具体的には、「2 前駆体」にて記載した架橋助剤と同様のものが挙げられ、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0115】
電子線を照射する際には、発泡体がチューブ状等の立体形状の場合、回転させながら照射することが好ましい。このように照射することにより、発泡体の表面全体に均一に電子線を照射することができ、均一に架橋することできる。また、シート状、フィルム状等の立体形状では、裏表両面を照射することが好ましい。照射は往復して行うこともでき、また、表裏を交互に照射することができる。これにより裏表両面の表面に万遍なく、十分に照射することができる。
【0116】
また、照射は、連続して照射しても良く、バッチ式で照射しても良い。発泡体に、このように電子線照射を行うことにより、圧縮永久ひずみをより小さくすることができる。
【0117】
このようにして製造される本発明の発泡体は、発泡倍率及び独立気泡性が高く、気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性及びクッション性に優れ、圧縮永久歪みが非常に小さいものである。
【0118】
V 積層シート
本発明の積層シートは、本発明の発泡体からなるシート状の基材と、その少なくとも一の面上に配設される、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層と、を備えるものである。また、必要に応じて粘着面上に配設される離型シートを備えるものであることが好ましい。本発明の積層シートは、本発明の発泡体からなるシート状の基材を備えるため、クッション性に優れるものである。
【0119】
(粘着層)
粘着層に用いる粘着剤としては、粘着性を有し、フィルム成形加工が可能な重合体を用いることができる。このような重合体としてはオレフィン系重合体、スチレン系重合体、アクリル系重合体、ポリエステル系重合体、シリコーン系重合体、ウレタン系重合体等が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、アクリル系重合体、及びポリエステル系重合体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0120】
粘着層の厚さは、積層シートの特性や用途に応じて適宜選択されるが、成形加工性及び強度の観点から、例えば、フィルムとして使用する場合、1〜500μmであることが好ましく、5〜300μmであることが更に好ましい。また、シートとして使用する場合、0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが更に好ましい。また、基材と粘着層との厚さの比は、積層シートの特性や用途に応じて適宜選択されるが、例えば、基材/粘着層が1/0.01〜1/10の範囲にあることが好ましく、1/0.01〜1/5の範囲にあることが更に好ましい。
【0121】
(離型シート)
離型シートとしては、例えば、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリテトラフロオロエチレン樹脂等のシートを用いることができる。
【0122】
離型シートの配設には、粘着層の接着性を利用しても良く、必要に応じて適宜な接着剤等を用いても良い。
【0123】
また、本発明の積層シートは、良好なゴム弾性及びクッション性を有する本発明の発泡体を用いて製造されるものであり、優れたクッション性を示す。本発明の積層シートを携帯用画像表示装置等において、画像表示パネルの視認面と透明前面板との間に配設させた場合は、外部からの衝撃による画像表示パネルの割れを防止する効果が高く、画像表示パネルの画像の歪みやケースの歪みを生じさせにくい設計をすることが可能である。また、本発明の積層シートは、粘着面を有するため、携帯用画像表示装置等への取り付けに際して、接着剤を別途必要とせず、取り付け作業が簡単となり、低コスト化にも貢献できる。更に、本発明の積層シートは、装置内外からの塵の進入や発生を防ぐことができる。
【0124】
本発明の積層シートは、携帯用画像表示装置等の衝撃吸収用のシートとして特に好適に用いることができるが、その用途は特に限定されるものではなく、広範囲の用途に用いることができる。例えば、各種部材又は部品を所定の位置に取り付ける際に用いられる防塵材としても有用である。本発明の積層シートを利用して取り付け可能な部材としては、例えば、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等の画像表示装置に備わる画像表示部材や、移動体通信の装置に装着されるカメラやレンズ等が挙げられる。また、本発明の積層シートは、複写機やプリンター等の画像形成装置に使用されるトナーカートリッジが漏れることを防ぐためのシール材としても用いることができる。本発明の積層シートの形状は特に制限されず、使用目的に応じて適宜裁断や打ち抜き等の加工が施されていても良い。
【0125】
VI 積層シートの製造方法
本発明の積層シートの一の製造方法は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形して、熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を得る工程と、基材の少なくとも一の面上に、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設する工程と、を有する方法(以下、「一の製造方法」ともいう)である。
【0126】
一の製造方法として、より具体的には、発泡体を押出成形した後、粘着剤溶液を塗布、乾燥させる方法や、発泡体を押出成形した後、粘着剤を熱貼合する方法が挙げられる。
【0127】
本発明の積層シートの他の製造方法は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と、粘着剤と、を共押出成形して、熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を成形するとともに、基材の少なくとも一の面上に、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設することを含む方法(以下、「他の製造方法」ともいう)である。
【0128】
これらの製造方法の中でも、生産性の観点からは他の製造方法が好ましく、共押出しタイプの押出成形機を用い、超臨界流体を用いて発泡体からなるシート状の基材を成形すると同時に、粘着層を配設する方法が特に好ましい。
【0129】
VII 積層シートの接着方法
本発明の積層シートの接着方法は、本発明の積層シートから必要に応じて離型シートを剥離し、粘着層の粘着面を被着体の表面に貼り付けることを含む方法である。また、この接着方法によって、例えば、本発明の画像表示装置の画像表示パネルと透明前面板の間に配設させることができる。
【0130】
VIII 画像表示装置
本発明の画像表示装置は、視認面を有する画像表示パネルと、視認面に、所定間隔を離隔した状態で配設される画像表示パネルを保護する透明前面板と、画像表示パネルと透明前面板の間に配設される本発明の積層シートと、画像表示パネル、透明前面板、及び積層シートを収納するケースと、を備えるものである。
【0131】
このように、本発明の画像表示装置は、異種材料どうしであっても優れた接着性及び密閉性を発揮するとともに、良好なゴム弾性及びクッション性を有する本発明の発泡体を用いた積層シートを配設して得られるものである。このため、本発明の画像表示装置は、画像表示パネルの視認面に、良好な密閉性及びゴム弾性を保持した状態で透明前面板が接着されたものであり、極めて高品質なものである。
【実施例】
【0132】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0133】
[諸特性の評価]:ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を使用して、メルトフローレート(MFR)、及び溶融張力の測定を行った。また、射出成形機(商品名「N−100」、日本製鋼所社製)を使用し、熱可塑性エラストマー組成物を射出成形することによって、120mm×120mm×2mmの寸法の試験片を得、得られた試験片を使用して、硬度(デュロA)、硬度(デュロD)、引張応力、引張破断強度、引張破断伸び、及び圧縮永久歪みの測定を行った。
【0134】
[硬度(デュロA)]:JIS K6253に準拠して測定し、柔軟性の指標とした。
【0135】
[硬度(デュロD)]:JIS K6253に準拠して測定し、柔軟性の指標とした。
【0136】
[引張応力(MPa)]:JIS K6251に準拠し、100%モジュラス及び300%モジュラスとして測定した。
【0137】
[引張破断強度(MPa)]:JIS C3305に準拠して測定した。
【0138】
[引張破断伸び(%)]:JIS K6251に準拠して測定した。
【0139】
[メルトフローレート(MFR)(g/10min)]:JIS K7210に準拠して、230℃、荷重98Nの条件下で測定し、流動性の指標とした。
【0140】
[溶融張力(cN)]:メルトテンションテスターII型(東洋精機製作所社製)を使用し、下記の条件で溶融張力を測定した。
測定温度:210℃
オリフィス径:2mmφ
押出速度:10.0mm/min
引取速度:2.0m/min
【0141】
[溶融延展性(m/min)]:溶融張力の測定において、溶融した樹脂の引取速度を速くした際に、樹脂が切断したときの引取速度を溶融延展性として測定した。
【0142】
[圧縮永久歪み(%)]:JIS K6262に準拠して、70℃、22時間の条件で測定し、ゴム弾性の指標とした。
【0143】
[発泡倍率]:熱可塑性エラストマー組成物の、発泡前の比重と発泡後の比重をそれぞれ測定し、下記式(2)に従って算出した。
発泡倍率=発泡前比重/発泡後比重 (2)
【0144】
[発泡体表面]:表面外観を目視にて観察し、表面に波打ち及び発泡セル破れがない場合を「平滑」と評価し、表面に波打ち又は発泡セル破れがある場合を「荒れ」と評価した。
【0145】
[発泡セル状態]:拡大鏡を使用して発泡体の拡大写真(×100)を撮影し、独立気泡が形成された場合を「均一」と評価し、連続気泡が形成された場合を「不均一」と評価した。
【0146】
[発泡体の圧縮永久歪み(%)]:23℃、50%RH雰囲気下で、シート状の発泡体の試験片を2枚の圧縮板を用いて試験片の厚さの25%まで圧縮し、22時間保持したあと、試験片を圧縮状態から開放し、直後の試験片の厚みを測定し、下記式(3)に従って圧縮永久歪みを算出した。
圧縮永久歪み=[解放後の試験片の厚み−試験片の初めの厚み]/[25%圧縮時における試験片の厚み−試験片の初めの厚み]×100 (3)
【0147】
[収縮率(%)]:シート状の発泡体の試験片を100℃雰囲気下で、24時間保持した後の厚みを測定し、下記式(4)に従って収縮率を算出した。
収縮率=[試験片の初めの厚み−24時間後の試験片の厚み]/試験片の初めの厚み×100 (4)
【0148】
[熱可塑性エラストマー組成物の原料]:実施例、比較例の熱可塑性エラストマーは以下に示す原料を用いて調製した。
【0149】
(A)成分
エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体(以下、「EPDM」ともいう):
エチレン含量=66%、プロピレン含量=29.5%、5−エチリデン−2−ノルボルネン含量=4.5%、135℃のデカリン溶媒中の極限粘度=4.7dl/g。
油展ゴム:
EPDMのポリマー溶液にパラフィン系鉱物油(商品名「ダイアナプロセスオイルPW−90」、出光興産社製、流動点=−15℃、動粘度(40℃)=9.554×10−5/s)(EPDMの固形分100部に対して)100部を添加し、その後脱溶媒することにより、油展ゴムを調製した。
【0150】
(B)成分、及び/又は、(D)成分
熱可塑性樹脂(1):
結晶性ポリプロピレン、商品名「ニューストレン SH9000」(日本ポリプロ社製)、密度=0.90g/cm、MFR(温度230℃、荷重21.2N)=0.3g/10min、溶融張力(温度210℃、引取速度2.0m/min)=20.0cN。
熱可塑性樹脂(2):
結晶性ポリプロピレン、商品名「B241」(プライムポリマー社製)、密度=0.90g/cm、MFR(温度230℃、荷重21.2N)=0.5g/10min、溶融張力(温度210℃、引取速度2.0m/min)=5.6cN。
【0151】
(C)成分
架橋剤:
5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、商品名「パーヘキサ25B−40」(日本油脂社製)。
架橋助剤(1):
ジビニルベンゼン(新日鉄化学社製)、純度:81%。
架橋助剤(2):
トリメチロールプロパントリメタクリレート、商品名「ライトエステルTMP」(共栄社化学社製)。
【0152】
添加剤
老化防止剤:
ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、商品名「イルガノックス1010」(チバスペシャルティケミカルズ社製)。
【0153】
他の成分
熱可塑性樹脂(3):
結晶性ポリプロピレン、商品名「ノバテック FA3EB」(日本ポリプロ社製)、密度=0.90g/cm、MFR(温度230℃、荷重21.2N)=10.5g/10min、溶融張力(温度210℃、引取速度2.0m/min)=1.3cN。
【0154】
1.熱可塑性エラストマー組成物
(実施例1)
(第一工程)
(A)成分として油展ゴム42部、(B)成分として熱可塑性樹脂(1)8部、並びに(C)成分として架橋剤0.6部、架橋助剤(1)0.5部、及び老化防止剤0.1部をヘンシェルミキサーに投入し、30秒間混合した。その後、二軸押出機(同方向完全噛み合い型スクリュー、スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=33.5、商品名「PCM45」、池貝社製)を使用し、220℃、滞留時間1分30秒、400rpm、ずり速度400/secの処理時間で動的に熱処理を行いながら押し出して、ペレット状の前駆体を得た。
【0155】
(第二工程)
得られたペレット状の前駆体51部、(D)成分として熱可塑性樹脂(1)50部を加え、ヘンシェルミキサーで混合した後、40mm単軸押出機(スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=28、商品名「FS40II」、池貝社製)を使用し、220℃、70rpmで押し出して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(1)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(1)の硬度(デュロA)は100であり、硬度(デュロD)は56であり、100%モジュラスの値は12.3MPaであり、300%モジュラスの値は13.4MPaであり、引張破断強度は22.0MPaであり、引張破断伸びは780%であり、MFRは16.3g/10minであり、溶融張力は13.0cNであり、溶融延展性は45m/minであり、圧縮永久歪みは74%であった。
【0156】
(実施例2)
実施例1において第一工程で(B)成分として熱可塑性樹脂(1)の代わりに熱可塑性樹脂(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(2)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(2)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0157】
(実施例3)
実施例1において第二工程で(D)成分として熱可塑性樹脂(1)の代わりに熱可塑性樹脂(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(3)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(3)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0158】
(実施例4)
(第一工程)
(A)成分として油展ゴム42部、(B)成分として熱可塑性樹脂(2)8部、(C)成分として架橋剤0.6部、架橋助剤(1)0.5部、及び老化防止剤0.1部をヘンシェルミキサーに投入し、30秒間混合した。その後、二軸押出機(同方向完全噛み合い型スクリュー、スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=33.5、商品名「PCM45」、池貝社製)を使用し、220℃、滞留時間1分30秒、400rpm、ずり速度400/secの処理時間で動的に熱処理を行いながら押し出して、ペレット状の前駆体を得た。
【0159】
(第二工程)
得られたペレット状の前駆体51部、(D)成分として熱可塑性樹脂(1)45部を加え、ヘンシェルミキサーで混合した後、40mm単軸押出機(スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=28、商品名「FS40II」、池貝社製)を使用し、220℃、70rpmで押し出して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(4)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(4)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0160】
(実施例5)
実施例1の第二工程において、ペレット状の前駆体(1)51部、(D)成分として熱可塑性樹脂(1)50部に加え、更に架橋助剤(2)1部を加えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(5)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(5)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0161】
(比較例1)
実施例1において第一工程で(B)成分として用いた熱可塑性樹脂(1)の代わりに、他の成分として熱可塑性樹脂(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(6)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(6)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0162】
(比較例2)
実施例1において第二工程で(D)成分として用いた熱可塑性樹脂(1)の代わりに、他の成分として熱可塑性樹脂(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(7)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(7)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0163】
(比較例3)
(A)成分として油展ゴム42部、(B)成分として熱可塑性樹脂(1)58部、(C)成分として架橋剤0.6部、架橋助剤(1)0.5部、及び老化防止剤0.1部をヘンシェルミキサーに投入し、30秒間混合した。その後、二軸押出機(同方向完全噛み合い型スクリュー、スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=33.5、商品名「PCM45」、池貝社製)を使用し、220℃、滞留時間1分30秒、400rpm、ずり速度400/secの処理時間で動的に熱処理を行いながら押し出して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(8)を製造した。製造した熱可塑性エラストマー組成物(8)の各種物性値の測定結果を表2に示す。
【0164】
【表1】

【0165】
【表2】

【0166】
表2に示すように、熱可塑性エラストマー組成物(1)〜(5)は全て、溶融張力が8.0cN以上で、且つ溶融延展性が30m/min以上であり、高い溶融張力及び溶融延展性を示すものであることが分かる。これに対して、熱可塑性エラストマー組成物(7)は、溶融張力が低いものであった。また、熱可塑性エラストマー組成物(6)及び(8)は、溶融張力が8cN以上ではあるが、溶融延展性が30m/min未満であった。
【0167】
2.発泡体
第一の製造方法
[方法A]:20kgの熱可塑性エラストマー組成物を、下記の条件で作動する超臨界流体供給装置付きタンデム型押出発泡成形装置のホッパから投入し、押出発泡させることにより発泡体を製造した。
第1成形機:ホッパ投入量20kg、回転数70rpm、ヒータ温度(シリンダ内温度)240℃、シリンダ内圧力15MPa
超臨界流体:二酸化炭素、超臨界流体供給量(超臨界流体濃度):3%
第2成形機:回転数10rpm、ヒータ温度(シリンダ内温度)最上流側180℃、最下流側152℃、シリンダ内圧力8MPa
ダイ:ダイ温度152℃、圧力差8MPa
【0168】
第二の製造方法
[方法A]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、湿潤剤1部、及び化学発泡剤5部を添加して撹拌混合し、マスターバッチを得た。得られたマスターバッチを、直径40mmの単軸押出機(田辺プラスチック社製、L/D=28、幅20mm、高さ1.5mmの口金T−ダイ、発泡温度220℃、回転数20rpm、フルフライトスクリュー)に入れ、押出発泡することにより発泡体を製造した。
【0169】
[方法B]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、湿潤剤1部、及び化学発泡剤5部を添加して撹拌混合し、マスターバッチを得た。得られたマスターバッチを、射出成型機(型式「IS−90B」、東芝機械社製、平板金型=長さ100mm、幅100mm、高さ3.5〜6.5mm、発泡温度220℃)に入れ、射出成形発泡することにより発泡体を製造した。
【0170】
[方法C]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、160℃に設定した電熱ロール(関西ロール株式会社製)を用いて化学発泡剤5部を添加するとともにシート状に成形し、化学発泡剤を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなるシートを得た。得られたシートを、10cm×10cm、厚さ0.5cmの金型に入れ、220℃の電熱プレス成形機で10分加熱加圧して金型発泡することにより発泡体を製造した。
【0171】
(実施例6)
熱可塑性エラストマー組成物(1)を使用し、第一の製造方法[方法A]に準拠して発泡することにより、発泡体(1)を製造した。製造した発泡体(1)の発泡倍率は「16倍」、発泡体表面は「平滑」、発泡セル状態は「均一」であった。
【0172】
(実施例7〜15、比較例4〜9)
表3に示す熱可塑性エラストマー組成物を使用するとともに、表3に示す発泡方法に準拠して発泡することにより、発泡体(2)〜(16)を製造した。製造した各発泡体の発泡倍率、発泡体表面、及び発泡セル状態の評価結果を表3に示す。また、図1に第一工程で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力の値に対する発泡体の発泡倍率の値の相関図を示し、図2に第二工程で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力の値に対する発泡体の発泡倍率の値の相関図を示す。なお、表3に示す化学発泡剤の種類(1)〜(3)について、以下に示す。
【0173】
化学発泡剤(1):熱分解型発泡剤、商品名「ビニホールAC#3」(永和化成工業社製、熱分解温度:208℃)
化学発泡剤(2):熱分解型発泡剤、商品名「ポリスレンEE206」(永和化成工業社製、熱分解温度:200℃)
化学発泡剤(3):中空粒子型発泡剤、商品名「EXPANCEL−092(DU)−120」(エクスパンセル社製、最大熱膨張温度:180℃)
【0174】
【表3】

【0175】
表3に示すように、第一の製造方法により得られた発泡体(1)〜(5)は、発泡倍率が高く、発泡セル状態が均一であるとともに発泡体表面が平滑であり、表面外観に優れたものであった。これに対して、溶融張力又は溶融延展性の低い熱可塑性ラストマー組成物を用いて製造した発泡体(12)は、発泡倍率が低く、表面外観に劣るものであった。
【0176】
また、図1及び図2からわかるように、第一工程及び第二工程に用いるオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力が3.0cN以上の場合、より発泡倍率の高い発泡体を製造することができる。また、発泡体(4)及び(11)より、同等の発泡倍率の発泡体を製造する場合、第一工程に(B)成分を用いることにより、第二工程に用いる(D)成分の添加量を少なくすることができるので、熱可塑性エラストマー組成物の硬度を低くすることができ、結果、クッション性の良好な発泡体を製造することができる。更に、発泡体(1)及び(13)の発泡倍率の値から、溶融張力が3.0cN以上の熱可塑性樹脂を、動的に熱処理する前後二回にわたって加えることによって、より発泡倍率の高い発泡体を製造することができることがわかる。
【0177】
更に、表3からわかるように、第二の製造方法により得られた発泡体(6)〜(10)は、発泡体(14)〜(16)と比較して発泡倍率が高く、第一工程及び第二工程に用いるオレフィン系熱可塑性樹脂の溶融張力が高いほど、より発泡倍率の高い発泡体を製造することができることがわかる。
【0178】
(実施例16)
発泡体(1)の両面に電子線照射装置(商品名「ESP300−60」(日新ハイボルテージ社製))を用いて、加速電圧300kV、照射線量500kGyの条件で電子線を照射して発泡体(17)を得た。得られた発泡体(17)の圧縮永久歪み及び収縮率を表4に示す。
【0179】
(実施例17)
実施例16において発泡体(1)の代わりに発泡体(5)を用いたこと以外は、実施例16と同様の操作を行い、発泡体(18)を得た。得られた発泡体(18)の圧縮永久歪み及び収縮率を表4に示す。
【0180】
【表4】

【0181】
表4からわかるように、発泡体(17)及び(18)は、電子線を照射する前の発泡体(1)及び(5)より圧縮永久歪み及び収縮率が小さいものであった。さらに、第二工程において架橋助剤を添加した発泡体(18)は、架橋助剤を添加していない発泡体(17)より圧縮永久歪み及び収縮率が更に小さいものであった。
【0182】
本発明の発泡体の少なくとも一面に粘着層及び離型シートを配設することにより、クッション性に優れる積層シートを製造することができる。また、この積層シートは、画像表示パネルの視認面に、良好な密閉性及びゴム弾性を保持した状態で透明前面板を接着させることができるので、テレビ、パソコン、携帯電話等に代表される、極めて高品質な画像表示装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、発泡倍率が高く、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、クッション性、密閉性、及び表面外観に優れた発泡体を製造することができるものである。また、この熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより製造される本発明の発泡体は、ゴム弾性、クッション性、密閉性、及び表面外観に優れたものである。更に、この発泡体の少なくとも一面に粘着層及び離型シートを配設した本発明の積層シートは、クッション性に優れるものである。また、本発明の積層シートを用いれば、画像表示パネルの視認側に、良好な密閉性及びゴム弾性を保持した状態で透明前面板を接着させることができるので、テレビ、パソコン、携帯電話等に代表される、極めて高品質な画像表示装置を提供することができる。その他、インスツルメントパネルやグローブボックス等の自動車内装部品、ウェザーストリップ等の自動車外装部品、弱電部品、電化製品用防振材、その他の工業部品、建材、スポーツ用品等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、及び
(B)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第一のオレフィン系熱可塑性樹脂を含む混合物を、
(C)架橋剤の存在下に動的に熱処理して前駆体を得、得られた前記前駆体に、
(D)210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が3.0cN以上である第二のオレフィン系熱可塑性樹脂を添加することを含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法により製造される熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
JIS K6262に準拠して、70℃、22時間の条件で測定した圧縮永久歪みが60%以下である請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させて得られる発泡体。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の熱可塑性エラストマー組成物を超臨界流体で発泡させる発泡体の製造方法。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜20質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得る工程と、
得られた前記化学発泡剤混合原料を発泡させる工程と、を有する発泡体の製造方法。
【請求項7】
電子線を照射する工程を更に有する請求項5又は6に記載の発泡体の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の発泡体からなるシート状の基材と、
前記基材の少なくとも一の面上に配設される、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層と、を備える積層シート。
【請求項9】
前記粘着剤が、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、アクリル系重合体、及びポリエステル重合体からなる群より選択される少なくとも一種である請求項8に記載の積層シート。
【請求項10】
前記粘着面上に配設される離型シートを更に備える請求項8又は9に記載の積層シート。
【請求項11】
請求項2又は3に記載の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形して、前記熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を得る工程と、
前記基材の少なくとも一の面上に、粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設する工程と、を有する積層シートの製造方法。
【請求項12】
請求項2又は3に記載の熱可塑性エラストマー組成物と、粘着剤と、を押出成形して、
前記熱可塑性エラストマー組成物を発泡させた発泡体からなるシート状の基材を成形するとともに、
前記基材の少なくとも一の面上に、前記粘着剤からなり粘着面を有する粘着層を配設することを含む積層シートの製造方法。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の積層シートに備わる粘着層の粘着面を、被着体の表面に貼り付けることを含む積層シートの接着方法。
【請求項14】
視認面を有する画像表示パネルと、
前記視認面に、所定間隔を離隔した状態で配設される前記画像表示パネルを保護する透明前面板と、
前記画像表示パネルと前記透明前面板の間に配設される請求項8〜10のいずれか一項に記載の積層シートと、
前記画像表示パネル、前記透明前面板、及び前記積層シートを収納するケースと、を備える画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215684(P2010−215684A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60553(P2009−60553)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】