説明

熱可塑性エラストマー組成物を用いた靴

【課題】成形性、耐油性、耐すべり性に優れ、かつ光沢および耐摩耗性に優れる靴を提供する。
【解決手段】(a)結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・α−オレフィンブロックを有するブロック共重合体 100重量部、
(b)メルトフローレート(ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重)が700〜1500g/10分であるポリプロピレン系樹脂 5〜60重量部、および
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 50〜180重量部
を含み、成分(a)が、クロス型の分子構造を有するブロック共重合体(a1)とリニア型の分子構造を有するブロック共重合体(a2)との混合物であり、(a1)と(a2)との重量比が95:5〜70:30である熱可塑性エラストマー組成物(A)で構成されたアッパー部を有する靴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物で構成された長靴等の靴に関する。特に、成形性、耐油性および耐すべり性に優れるとともに、光沢および耐摩耗性に優れる靴に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長靴等の履物用のゴム的な材料として、加硫工程を必要とする合成ゴム、又は加硫工程を必要としない軟質ポリ塩化ビニル(PVC)が、射出成形加工性、耐傷付性、風合い(履き心地)などに優れ、多用されてきた。しかし、昨今の環境問題等に対処するため、市場から熱可塑性エラストマー(TPE)素材の要求が増えてきている。
【0003】
市場からの要請の多い熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー(SBC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0004】
これらのうちで、スチレン系熱可塑性エラストマー(SBC)は、特に、柔軟性に富み、機械的強度等に優れているが、その分子内に共役ジエンとしての二重結合を有しているため、耐熱性、耐候性および耐油性に問題がある。また、該スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共役ジエンのブロック共重合体の分子内二重結合を水素添加したエラストマーは、耐熱老化性(熱安定性)および耐候性を向上させたエラストマーとして広く使用されているが、ショアA硬さが40以上であるため、軟化剤の添加量を増量することによって軟化させており、かかる場合には、成形品表面にベタツキが発生したり、加熱応力下において軟化剤のブリードアウトを生じ、更にゴワゴワした風合いとなり、長靴用としては適していなかった。
【0005】
また、長靴を射出成形によって成形する際、ソール部(靴底部)の射出ランナーから熱可塑性エラストマーをモールドに導入すると、一般に、長靴の前面の甲部から胴部への屈曲部においてモールド内の樹脂速度が遅くなり、得られる長靴製品は、部分的に硬さと柔軟性のバランスが悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、スチレン系熱可塑性エラストマーに高流動性ポリプロピレン系樹脂、非芳香族系ゴム用軟化剤および水添石油樹脂を配合した組成物が知られている(例えば、特許文献1)。この組成物から成形される長靴は、改善された履き心地および優れた耐摩耗性を有するが、光沢が不十分である。
【0007】
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーであるCEBC(結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・ブテンブロックを有するブロック共重合体)にポリプロピレン系樹脂を配合した熱可塑性エラストマー組成物が知られている(例えば、特許文献2)。この組成物から成形される長靴は、改善された光沢を有するが、耐摩耗性が十分でない。
【0008】
また、熱可塑性エラストマー、すなわちゴム的材料、で構成される靴は、長期使用に耐えるのに十分な強度(例えば、耐摩耗性)を必要とすることに加えて、良好な外観を有するべく、光沢に優れたもの、特に、靴底部(ソール部)よりも上の部分(アッパー部)において光沢に優れたものが望まれている。
【特許文献1】特開2002−317096号公報
【特許文献2】特開2005−248077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の欠点を改善し、成形性、耐油性および耐すべり性に優れるとともに、光沢および耐摩耗性に優れる靴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アッパー部を特定のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物で構成することにより、アッパー部の光沢ならびに成形性および耐久性に優れる靴が得られることを見出した。また、上記アッパー部を有するとともに、ソール部を特定のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物で構成することにより、さらにソール部の耐摩耗性および耐すべり性が改善された靴が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(a)結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・α−オレフィンブロックを有するブロック共重合体 100重量部、
(b)メルトフローレート(ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重)が700〜1500g/10分であるポリプロピレン系樹脂 5〜60重量部、および
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 50〜180重量部
を含み、成分(a)が、クロス型の分子構造を有するブロック共重合体(a1)とリニア型の分子構造を有するブロック共重合体(a2)との混合物であり、(a1)と(a2)との重量比が95:5〜70:30である熱可塑性エラストマー組成物(A)で構成されたアッパー部を有する靴を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記アッパー部を有する靴において、
(d)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及び/又はそれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体 100重量部、
(e)ポリプロピレン系樹脂 5〜50重量部、
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 50〜250重量部、および
(f)水添石油樹脂 1〜50重量部
を含む熱可塑性エラストマー組成物(B)で構成されたソール部を有する靴を提供する。
【0013】
また、本発明は、組成物(A)を用いてアッパー部を射出成形した後、組成物(B)を用いてソール部を射出成形することを特徴とする上記靴を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の靴は、成形性、耐油性および耐すべり性に優れるとともに、光沢および耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。なお、本明細書において、「靴」は、短靴および長靴を包含する。また、「ソール部」は靴底部を意味し、「アッパー部」は靴の、靴底より上の部分、すなわち甲部および胴部を意味する。図1は、長靴の斜視図であり、1がソール部を示し、2がアッパー部を示す。
【0016】
1.アッパー部を構成する熱可塑性エラストマー組成物(A)の構成成分
成分(a)
成分(a)は、結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・α−オレフィンブロックを有するブロック共重合体である。結晶性エチレンブロックは、ブタジエンのブロック共重合体を水素添加することによって得られる。α−オレフィンとしては、ブテン、オクテン、ヘキセン等が挙げられる。なかでもブテンが好ましい。上記ブロック共重合体としては、CEBC(結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・ブテンブロックを有するブロック共重合体)が好ましい。CEBCを使用すると、より光沢のある製品が得られる。
【0017】
上記ブロック共重合体には、その分子構造がクロス型であるものとリニア型であるものがある。本発明では、成分(a)が、クロス型(a1)とリニア型(a2)の混合物である。混合物であることにより、引張強さと成形性(流動性)の両立が可能となる。クロス型とリニア型において、α−オレフィンは同じでも、異なっていても良い。また、クロス型とリニア型は各々、2種以上でも良い。クロス型(a1)とリニア型(a2)との混合比(重量比)は、95:5〜70:30、好ましくは95:5〜77:23である。クロス型(a1)の割合が上記配合比より少ないと成形性(流動性)が劣る。また、上記配合比より多いと、引張強さおよび引裂強さが劣り、強度が不足することにより亀裂が発生して耐久性に悪影響を及ぼす。
【0018】
クロス型(a1)は好ましくは、α−オレフィンを50〜60重量%、エチレンを50〜40重量%の割合で含む。また、重量平均分子量が32万〜35万であるのが好ましい。リニア型(a2)は好ましくは、α−オレフィンを30〜50重量%、エチレンを70〜50重量%の割合で含む。また、重量平均分子量が28万〜30万であるのが好ましい。クロス型(a1)の製品例としてはJSR株式会社製のダイナロン6201B(CEBC)が挙げられる。リニア型(a2)の製品例としては、JSR株式会社製のダイナロン6100B(CEBC)が挙げられる。
【0019】
成分(b)
成分(b)は、メルトフローレート(MFR、ASTM D−1238、L条件、230℃、2.16kg荷重)が700〜1500g/10分であるポリプロピレン系樹脂である。これは、得られる組成物の流動性を向上させ、成形性を改良すると共に、硬度の調整に効果を有するものである。該成分としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレンやプロピレンと他のα−オレフィン、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどとのランダムおよびブロック共重合体を挙げることができる。
【0020】
成分(b)は、MFRが700〜1500g/10分であり、好ましくは750〜1300g/10分である。MFRが700g/10分未満では、得られる組成物による靴の成形が困難となり、1500g/10分を超えると、組成物ペレットの製造が困難となる。
【0021】
成分(b)の配合量は、成分(a)100重量部に対して、5〜60重量部であり、好ましくは10〜40重量部である。上記下限未満では、アッパー部の光沢に劣り、耐久性にも劣る(変形摩耗する)。上記上限を超えると、成形性に劣る(離型時に変形を生じる)と共に、得られる靴の耐油性、風合いおよび履き心地も劣る。
【0022】
成分(c)
成分(c)は、非芳香族系ゴム用軟化剤であり、得られるアッパー部の柔軟性をコントロールし、履き心地を良くすることに寄与する。
成分(c)としては、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤を挙げることができる。ゴム用として用いられる鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の三者の組み合わさった混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものはパラフィン系、ナフテン環炭素数が30〜40%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれている。
【0023】
本発明の成分(c)として用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は、上記パラフィン系およびナフテン系のものである。芳香族系の軟化剤は、その使用により成分(a)が可溶となり、得られる組成物の物性の向上が図れないので好ましくない。本発明の成分(c)としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に適している。また、液状もしくは低分子量の合成軟化剤としては、ポリブテン、水素添加ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0024】
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が20〜50000cSt、100℃における動的粘度が5〜1500cSt、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が170〜300℃を示すのが好ましい。さらに、重量平均分子量が100〜2,000のものが好ましい。
【0025】
成分(c)の配合量は、成分(a)100重量部に対して、50〜180重量部、好ましくは80〜130重量部である。上記下限未満であると柔軟性のコントロールが難しく、また、成形性が悪くなるとともに耐油性も劣る。上記上限を超えると組成物ペレットの製造時にブロッキングが発生しやすく、また、得られるアッパー部から軟化剤がブリードアウトしやすく、風合いの低下、強度の低下、耐久性(亀裂)の低下やベタツキが生じる。ベタツキは汚れ付着の原因となり好ましくない。
【0026】
アッパー部を構成する上記組成物(A)は、上記成分(a)〜(c)の他に、さらに必要に応じて、各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、抗菌剤、着色剤等を含み得る。
【0027】
2.ソール部を構成する熱可塑性エラストマー組成物(B)の構成成分
成分(d)
成分(d)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及び/又はその水添ブロック共重合体成分であり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体及び/又はこれらの水素添加されたもの等を挙げることができる。
【0028】
上記(水添)ブロック共重合体(以下、(水添)ブロック共重合体とは、ブロック共重合体、及び/又は、水素添加されたブロック共重合体を意味する。)は、芳香族ビニル化合物を5〜60重量%、好ましくは、20〜50重量%含む。
【0029】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、好ましくは、芳香族ビニル化合物のみからなるか、または芳香族ビニル化合物50重量%以上、好ましくは70重量%以上と(水添)共役ジエン化合物(以下、(水添)共役ジエン化合物とは、共役ジエン化合物、及び/又は、水素添加された共役ジエン化合物を意味する。)との共重合体ブロックである。
【0030】
(水添)共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、好ましくは、(水添)共役ジエン化合物のみからなるか、または(水添)共役ジエン化合物50重量%以上、好ましくは70重量%以上と芳香族ビニル化合物との共重合体ブロックである。
【0031】
ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5,000〜1,500,000、より好ましくは、10,000〜550,000、更に好ましくは50,000〜400,000の範囲であり、分子量分布は10以下である。ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0032】
また、これらの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、分子鎖中の共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物由来の単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組合せでなっていてもよい。芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックA又は共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBがそれぞれ2個以上ある場合には、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0033】
ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、なかでもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、なかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0034】
上記ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等が挙げられる。
【0035】
水添ブロック共重合体は、上記ブロック共重合体の水素添加物であり、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体の水素添加物である。
【0036】
ブロック共重合体の水素添加物であって、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、そのミクロ構造は、任意であり、水素添加率は任意であるが、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。例えば、ポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%である。また、1,2−結合を選択的に水素添加した物であっても良い。ポリイソプレンブロックにおいてはイソプレンの好ましくは70〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0037】
目的により水素添加したブロック共重合体を使用する場合には、好ましくは上記水添物を用途に合わせて適宜使用することが出来る。
【0038】
水添ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、SBBS)等を挙げることができる。
【0039】
これらのブロック共重合体又は水添ブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて得ることができ、水添ブロック共重合体は、上記ブロック共重合体を公知の方法で水素添加して得ることができる。
【0040】
成分(e)
成分(e)は、ポリプロピレン系樹脂である。これは、得られる組成物の流動性を向上させ、成形性を改良すると共に、硬度の調整に効果を有するものである。該成分としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレンやプロピレンと他のα−オレフィン、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどとのランダムおよびブロック共重合体を挙げることができる。
【0041】
また、成分(e)は、メルトフローレート(MFR、ASTM D−1238、L条件、230℃、2.16kg荷重)は特に制限されないが、好ましくは40〜1500g/10分、さらに好ましくは45〜1300g/10分である。
【0042】
成分(e)の配合量は、成分(d)100重量部に対して5〜50重量部、好ましくは10〜45重量部である。上記下限未満では、流動性が劣るために成形性が悪く、また成分(d)との相溶も不十分となるために引張強度、耐摩耗性、耐久性も悪化する。上記上限を超えると、成分(e)自体の耐摩耗性の悪さにより耐摩耗性が悪化し、また得られる靴の履き心地が悪くなり、成形時に離型時の変形が残る。
【0043】
成分(c)
成分(c)は、非芳香族系ゴム用軟化剤であり、得られるソール部の柔軟性をコントロールし、履き心地を良くすることに寄与する。該成分としては、アッパー部に関して上記した成分(c)と同じものが使用される。
【0044】
成分(c)の配合量は、成分(d)100重量部に対して、50〜250重量部、好ましくは100〜200重量部である。上記下限未満であると柔軟性が不十分となり履き心地が悪くなる。また、柔軟性が不足していることにより成形性が悪くなるとともに耐油性、耐すべり性、耐摩耗性および耐久性も悪化する。上記上限を超えると組成物ペレットの製造時にブロッキングが発生しやすく、また、得られるソール部から軟化剤がブリードアウトしやすく、強度や耐摩耗性が低下したり、ベタツキが生じたりする。なお、ソール部におけるベタツキはスリップ防止に効果があり、好ましい現象である。
【0045】
成分(f)
成分(f)は、水添石油樹脂である。これは、ソール部の柔軟性と耐すべり性とのバランスを改善し、また、成形性を改善する。成分(f)としては、水素化石油樹脂、例えば水素化脂肪族系石油樹脂、水素化芳香族系石油樹脂、水素化共重合系石油樹脂及び水素化脂環族系石油樹脂、及び水素化テルペン系樹脂等が挙げられる。
【0046】
ここで、石油樹脂とは、石油精製工業、石油化学工業の各種工程で得られる樹脂状物、又は、それらの工程、特にナフサの分解工程にて得られる不飽和炭化水素を原料として共重合して得られる樹脂のことをいう。例えば、C5留分を主原料とする脂肪族系石油樹脂、C9留分を主原料とする芳香族系石油樹脂、シクロペンタジエン系化合物を主原料とする脂環族系石油樹脂、それらの共重合系石油樹脂が挙げられる。上記水素化石油樹脂は、これらの石油樹脂を公知の方法によって水素化することにより得られる。
【0047】
これらの中で、シクロペンタジエン系化合物とスチレン等の芳香族ビニル系化合物とを共重合した石油樹脂を水素添加したものが好ましい。
【0048】
成分(f)の配合量は、成分(d)100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部である。1重量部未満であると耐すべり性が悪化する。50重量部を超えると、ペレット製造時にブロッキングが発生する。
【0049】
ソール部を構成する上記組成物(B)は、上記成分(c)〜(f)の他に、さらに必要に応じて、各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、抗菌剤、着色剤等を含有することも可能である。
ここで、酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。このうちフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤は、上記の成分(c)〜(f)の合計100重量部に対して、0〜3.0重量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜1.0重量部である。
【0050】
3.熱可塑性エラストマー組成物の製造
アッパー部を構成する組成物(A)およびソール部を構成する組成物(B)はそれぞれ、上記構成成分を同時にあるいは任意の順序に加えて溶融混練することにより製造され得る。
【0051】
溶融混練の方法は、特に制限はなく、通常公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等を用いることにより、上記操作を連続して行うこともできる。ここで、溶融混練の温度は、好ましくは160〜220℃である。
【0052】
4.靴の製造
靴の製造方法は、特に限定されず、周知の方法を用いることができる。例えば、靴下状の裏布材をラストモールドに吊り込み、ラストモールド、ボトムモールドおよびサイドモールドを嵌合し、アッパー用組成物を靴成形空隙内に射出して胴部および甲部を成形した後、ソール用組成物を同様に靴成形空隙内に射出して靴底部を成形して靴を製造することができる。靴下状裏布材としては、織布、編布、人工皮革、合成皮革などを使用することができる。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の実施例、比較例によって具体的に説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
実施例1〜15及び比較例1〜13
アッパー部を構成する熱可塑性エラストマー組成物(A)に関しては表1に示す量(重量部)の各成分を用いて、ソール部を構成する熱可塑性エラストマー組成物(B)に関しては表2に示す量(重量部)の各成分を用いて、L/Dが47の二軸押出機に各成分を投入し、混練温度180℃、スクリュー回転数350rpmで溶融混練し、次いでペレット化した。得られたペレットを射出成形して試験片を作成し、下記試験(1)〜(9)に供した。評価結果を表1及び表2に示す。表1におけるA1〜A6のアッパー用組成物および表2におけるB1〜B9のソール用組成物が本発明に従う組成物である。
【0055】
さらに、上記で得られたペレットを用い、以下の手順で長靴を射出成形し、下記試験(10)〜(17)を行った。評価結果を表3及び表4に示す。
靴下状の裏布材をラストモールドに吊り込み、ラストモールド、ボトムモールドおよびサイドモールドを嵌合し、アッパー用組成物(A)を長靴成形空隙内に射出して胴部および甲部を成形した後、ソール用組成物(B)を長靴成形空隙内に射出して靴底部を成形して長靴を製造した。
なお、表3は、表1におけるアッパー用組成物A1〜A13の各々をソール用組成物B1と組み合わせて長靴を製造したときのアッパー部の評価であり、表4は、表2におけるソール用組成物B1〜B15の各々をアッパー用組成物A1と組み合わせて長靴を製造したときのソール部の評価である。
用いた試験方法及び材料は以下の通りである。
【0056】
1.試験方法
(1)アッパー用組成物のメルトフローレート(MFR):ASTM D−1288に準拠して160℃、2.16kg荷重で測定した。
(2)ソール用組成物のメルトフローレート(MFR):ASTM D−1238に準拠して230℃、2.16kg荷重で測定した。
(3)硬度(HDA):JIS K 6252に準拠し、試験片は6.3mm厚プレスシートを用いた。
(4)引張強さ:JIS K 6251に準拠し、試験片は2mm厚インジェクションシートを、3号ダンベル型試験片に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(5)100%伸び応力:JIS K 6251に準拠し、試験片は2mm厚インジェクションシートを、3号ダンベル型試験片に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(6)破断伸び:JIS K 6251に準拠し、試験片は2mm厚インジェクションシートを、3号ダンベル型試験片に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
【0057】
(7)耐油性:試験片は2mm厚インジェクションシートを、直径22mmの円形に打抜いて使用した。試験片を23℃のイソオクタンに24時間浸漬し、重さ及び比重より求めた体積の変化率(%)を測定した。
(8)耐摩耗性(ソール用組成物のみ評価):試験片は2mm厚インジェクションシートを、直径100mm円形に打抜いて使用し、JIS K 7204に準拠し、摩耗輪H−22、荷重1kg、1000回転での減量(mm)を測定した。
(9)耐ブロッキング性:ペレット製造時のブロッキングの有無で評価した。
○:ブロッキング無し。
△:ブロッキングを防止することが可能(添加剤等を用いることで)。
×:ブロッキング有り。
【0058】
(10)光沢(アッパー部のみ評価):射出成形により成形した長靴のアッパー部の表面状況を下記の基準で判定した。
○:光沢有り。
△:半光沢有り(半分程度の光沢)。
×:光沢無し。
【0059】
(11)成形性(流動性):射出成形による長靴の成形時の状況を下記の基準で判定した。
○:ヒケ、バリがなく良好に成形できた。
△:成形は可能であったがフローマーク、ウエルドラインが見られた。
×:成形型の流動末端まで樹脂が流れきらず、成形が不可能であった。
【0060】
(12)成形性(離型時の変形):長靴の射出成形における離型時の状況を下記の基準で判定した。
○:歪みがなく離型できる。
△:離型時に若干の歪みが生じる。
×:離型時に歪みが生じ、変形がひどい。
【0061】
(13)ベタツキ(アッパー部のみ評価):射出成形した長靴のアッパー部を手で触って下記の基準で判定した。
○:長靴表面にベタツキを感じない。
△:長靴表面に若干ベタツキがある。
×:長靴表面にベタツキがあり、汚れもつく。
【0062】
(14)風合い(履き心地):射出成形した長靴を造園業の5人の女性作業者に2ヶ月間(実動8時間/日)実履きしてもらってモニター試験を行い、下記の基準で判定した。
○:違和感を感じなく履ける人が4人以上。
△:違和感を感じなく履ける人が3人。
×:違和感を感じなく履ける人が2人以下。
【0063】
(15)耐すべり性(ソール部のみ評価):射出成形した長靴を造園業の5人の女性作業者に2ヶ月間(実動8時間/日)実履きしてもらってモニター試験を行い、下記の基準で判定した。
○:滑ることなく作業ができた人が4人以上。
△:滑ることなく作業ができた人が3人。
×:滑ることなく作業ができた人が2人以下。
【0064】
(16)耐久性(変形摩耗):射出成形した長靴を造園業の5人の女性作業者に2ヶ月間(実動8時間/日)実履きしてもらってモニター試験を行い、長靴の外観を下記の基準で評価した。
○:5人とも、変形摩耗がほとんどなく実用に耐えたと判断。
△:若干の変形摩耗を認めた人が1人ないし2人。
×:変形摩耗があり、実用性に欠けると判断した人が3人以上。
【0065】
(17)耐久性(亀裂)(アッパー部のみ評価):射出成形した長靴を造園業の5人の女性作業者に2ヶ月間(実動8時間/日)実履きしてもらってモニター試験を行い、長靴のアッパー部の外観を下記の基準で評価した。
○:5人とも、2ヶ月間長靴に亀裂を生じなかった。
△:1週間以内の亀裂の発生はないが、1人以上の靴において2ヶ月後に亀裂が入っていた。
×:1人以上の靴において1週間以内に亀裂が発生した。
【0066】
2.材料
成分(a1)
ダイナロン6201B:結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・ブテンブロックを有するブロック共重合体(CEBC)、JSR株式会社製、クロス型、数平均分子量(Mn):280,000、重量平均分子量(Mw):340,000、MFR:0.5g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)、密度:0.88(単位g/cm3)、ガラス転移温度:−50℃(ASTM D−3418)
【0067】
成分(a2)
ダイナロン6100B:結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・ブテンブロックを有するブロック共重合体:(CEBC)、JSR株式会社製、リニア型、重量平均分子量(Mw):290,000、MFR:0.6g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)、密度:0.88(単位g/cm3)、ガラス転移温度:−55℃(ASTM D−3418)
【0068】
成分(b)
(b)HF461X:Daelim Industrial Co., Ltd.製、ホモポリプロピレン、MFR:800g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)
【0069】
成分(b)(比較用)
J229E:株式会社プライムポリマー製、ランダムポリプロピレン、MFR:50g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)
【0070】
成分(c)
ダイアナプロセスオイル PW−90:出光興産株式会社製、パラフィン系オイル
【0071】
成分(d)
(1)セプトン4055:株式会社クラレ製、SEEPS、スチレン含有量:30重量%、イソプレン含有量:70重量%、数平均分子量(Mn):260,000、重量平均分子量(Mw):320,000、水素添加率:90%以上
(2)クレイトンG1651H:クレイトンポリマー製、SEBS、スチレン含有量:30重量%、数平均分子量(Mn):300,000、重量平均分子量(Mw):370,000
【0072】
成分(e)
(1)J229E:株式会社プライムポリマー製、ランダムポリプロピレン、MFR:50g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)
(2)HF461X:Daelim Industrial Co., Ltd.製、ホモポリプロピレン、MFR:800g/10分(ASTM D−1238、230℃、2.16kg)
【0073】
成分(f)
P−140:出光石油化学株式会社製、水添C5系石油樹脂
【0074】
任意成分
BM−102MT:富士ケミカル株式会社製、抗菌剤
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3及び表4より明らかなように、本発明にかかる実施例1〜15の靴はいずれも良好な特性を示した。
【0080】
一方、表3に示されるように、比較例1では、成分(a)として成分(a1)のみを使用しているため、組成物(A)の引張強さが劣り、得られる靴は耐久性に劣り、亀裂を生じた。比較例2では、成分(a)における成分(a1)の割合が本発明の下限未満であり、成形性(流動性)が劣る。比較例3では、成分(b)の量が本発明の下限未満であり、光沢が若干劣るとともに耐久性(変形摩耗)も悪かった。比較例4では、成分(b)の量が本発明の上限を超えており、耐油性が悪く、また離型時の変形が残り、風合いも劣る結果となった。成分(b)としてMFRが本発明の範囲外のポリプロピレン系樹脂を使用した比較例5では、成形性(流動性)が劣った。比較例6では、成分(c)の量が本発明の下限未満であり、耐油性および成形性(流動性)に劣る。比較例7では、成分(c)の量が本発明の上限を超えており、ペレット製造時にブロッキングが発生するとともに、成分(c)がブリードアウトして風合い、強度、耐久性(亀裂)の低下およびベタツキが発生した。
【0081】
また、表4に示されるように、比較例8では、成分(e)の量が本発明の下限未満であり、成形性(流動性)が悪く、試験片および靴を製造することができなかった。比較例9は、成分(e)の量が本発明の上限を超えており、耐摩耗性に劣るとともに、靴の成形性(離型性)および風合い(履き心地)に劣る。比較例10では、成分(c)の量が本発明の下限未満であり、柔軟性が不十分であるため、履き心地が悪くなる。また、成形性(流動性、離型時の変形)、耐油性、耐すべり性、耐摩耗性、耐久性(変形摩耗)も悪い。比較例11では、成分(c)の量が本発明の上限を超えており、ブリードが多く、ペレット製造時にブロッキングが発生し、また強度低下および耐摩耗性の悪化が生じる。成分(f)を添加しなかった比較例12では耐すべり性が悪く、成分(f)を本発明の上限を超えて添加した比較例13ではペレット製造時にブロッキングが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の靴の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1 ソール部
2 アッパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン・α−オレフィンブロックを有するブロック共重合体 100重量部、
(b)メルトフローレート(ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重)が700〜1500g/10分であるポリプロピレン系樹脂 5〜60重量部、および
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 50〜180重量部
を含み、成分(a)が、クロス型の分子構造を有するブロック共重合体(a1)とリニア型の分子構造を有するブロック共重合体(a2)との混合物であり、(a1)と(a2)との重量比が95:5〜70:30である熱可塑性エラストマー組成物(A)で構成されたアッパー部を有する靴。
【請求項2】
(d)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及び/又はそれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体 100重量部、
(e)ポリプロピレン系樹脂 5〜50重量部、
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 50〜250重量部、および
(f)水添石油樹脂 1〜50重量部
を含む熱可塑性エラストマー組成物(B)で構成されたソール部を有する、請求項1記載の靴。
【請求項3】
組成物(A)を用いてアッパー部を射出成形した後、組成物(B)を用いてソール部を射出成形することを特徴とする請求項2記載の靴を製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144102(P2009−144102A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325166(P2007−325166)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000167853)弘進ゴム株式会社 (12)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】