説明

熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置、及び光学フィルムの製造方法

【課題】光学ムラ故障の発生を抑えつつ、光学フィルムを製造する。
【解決手段】フィルム20はテンタ部12内を方向Z1に走行する。テンタ部12内は、方向Z1に4つのエリア36a〜36dに区画される。各エリア36a〜36dには、それぞれ送風ヘッド52a〜52dが設けられる。送風ヘッド52aにはノズル60aが設けられる。送風ヘッド52bには、ノズル60b及びノズル60xが、方向Z1下流側から上流側に向かって順次設けられる。送風ヘッド52c及び52dにはそれぞれノズル60c及び60dが設けられる。各ノズル60a〜60dは、フィルム20の搬送路と略直交する方向に伸びるように設けられる。ノズル60xは、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界に向かうように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置、及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの中でも光学等方性に優れていることから、液晶表示装置の偏光板の保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム等の光学フィルムとして用いられている。
【0003】
主なフィルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がしてフィルムとし、このフィルムを十分に乾燥する方法である。
【0004】
レターデーション等の光学特性が幅方向において均一となるために、フィルムを加熱して、フィルムの幅方向両端部(以下、耳部と称する)をクリップ等で把持し、幅方向に延伸する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−296422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のような延伸処理により得られた光学フィルムであっても、光学特性が幅方向においてばらつく故障(以下、光学ムラ故障と称する)が依然として発生していた。
【0006】
発明者は、鋭意検討の結果、延伸処理開始時のフィルムにおける幅方向の温度のばらつきを抑えることにより、光学ムラ故障の発生を抑えることができることを見出した。本発明は、光学ムラ故障の発生を抑えつつ、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置、及び熱可塑性樹脂フィルムの延伸を用いる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置は、テンタの内部に設けられた予熱エリア及び延伸エリアを順次通過するように、熱可塑性樹脂フィルムを走行させる走行部と、前記予熱エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、前記テンタの外部にあるテンタ外部空気よりも温度が高い第1の高温空気をあてる第1の高温空気供給部と、前記延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに温度が前記第1の高温空気の温度以上の第2の高温空気をあてる第2の高温空気供給部と、前記延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムを前記走行方向と直交する方向に延伸する延伸部と、前記延伸エリアから前記予熱エリアへ向かう方向となるように、前記予熱エリア及び前記延伸エリアの境界における前記第2の高温空気の流れる方向を調整する方向調整部とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記方向調整部は、前記延伸エリアに設けられ、前記境界に向かって伸びるように形成される噴出ノズルと、この噴出ノズルの先端に設けられ、前記第2の高温空気を噴出する噴出口とを有することが好ましい。また、前記方向調整部は、前記予熱エリアに設けられ、前記境界に向かって伸びるように形成される吸引ノズルと、この吸引ノズルの先端に設けられ、前記第2の高温空気を吸引する吸引口とを有することが好ましい。更に、前記噴出口または前記吸引口は、スリット状であり、前記延伸方向に長く伸びるように形成されることが好ましい。
【0009】
本発明の光学フィルムの製造方法は、テンタの内部に設けられた予熱エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、前記テンタの外部にあるテンタ外部空気よりも温度が高い第1の高温空気をあてる予熱工程と、前記テンタの内部にて、前記予熱エリアよりも前記走行方向下流側に設けられた延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、温度が前記第1の高温空気の温度以上の第2の高温空気をあてて、前記走行方向と直交する方向に前記熱可塑性樹脂フィルムを延伸する延伸工程と、前記延伸エリアから前記予熱エリアへ向かう方向となるように、前記予熱エリア及び前記延伸エリアの境界における前記第2の高温空気の流れる方向を調整する方向調整工程とを有することを特徴とする。
【0010】
前記方向調整工程では、前記境界よりも前記走行方向下流側から前記境界に向けて前記第2の高温空気を送ることが好ましい。前記方向調整工程では、前記境界よりも前記走行方向上流側から前記第2の高温空気を吸引することが好ましい。更に、前記延伸方向において均一の流量で前記第2の高温空気を流すことが好ましい。
【0011】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、溶液製膜方法によりつくられることが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂が、セルロースアシレートを含むことが好ましい。更に、前記熱可塑性樹脂が、環状ポリオレフィンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、テンタの外部にある空気よりも温度が高い第1の高温空気が充満する予熱エリア及び第1の高温空気よりも温度が高い第2の高温空気が充満する延伸エリアを順次走行する熱可塑性樹脂フィルムについて、延伸エリア内では、熱可塑性樹脂フィルムを走行方向と直交する方向に延伸し、予熱エリア及び延伸エリアの境界では、延伸エリアから予熱エリアに向かって高温空気を流すことができるため、第1の高温空気の延伸エリアへの流入が遮られる結果、延伸処理開始時における熱可塑性樹脂フィルムの延伸方向における温度ムラの発生を抑えることができる。したがって、本発明によれば、延伸処理開始時における熱可塑性樹脂フィルムの温度ムラに起因する光学ムラ故障の発生を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(オフライン延伸装置)
オフライン延伸装置10は、図1に示すように、供給部11と、テンタ部12と、熱緩和部13と、冷却部14と、巻取部15とを備えている。供給部11には、後述する溶液製膜方法により製造され、ロール状となって巻き芯21に巻き取られた長尺状のフィルム20が収納されている。巻き芯21に巻き取られたフィルム20は、供給ローラ22により、テンタ部12に送られた後、光学フィルム24となって、熱緩和部13、冷却部14、及び巻取部15に順次送られ、各部12〜15にて所定の処理が施される。
【0014】
テンタ部12は、図2に示すように、ケーシング16を有する。ケーシング16には、フィルム20を導入する入口16a、フィルム20をテンタ部12の外部へ送り出す出口16bが設けられる。また、ケーシング16の内部には、フィルム20の搬送路が、入口16aから出口16bにかけて形成される。フィルム20の搬送路では、フィルム20の耳部を把持して、フィルム20の長手方向(以下、方向Z1と称する)にフィルム20を搬送しながら、フィルム20の幅方向(以下、方向Z2と称する)に延伸する延伸処理を行う。テンタ部12の構成及び延伸処理の詳細は後述する。
【0015】
図1に示すように、テンタ部12と熱緩和部13との間には耳切装置25が設けられる。耳切装置25は光学フィルム24の耳部を切断する。切断された耳部は、カットブロア26で細かく小片にカットされる。カットされた耳部は、図示しない風送装置によりクラッシャ27に送られ、粉砕されてチップになる。
【0016】
熱緩和部13には多数のローラ28が設けられており、これらローラ28により光学フィルム24は冷却部14まで搬送される。また、熱緩和部13では、搬送中の光学フィルム24に対して乾燥風が吹き付けられる。冷却部14では、光学フィルム24が所定温度にまで冷却される。冷却された光学フィルム24は、巻取部15に送られる。巻取部15には巻き芯30を有する巻取装置及びプレスローラ31が設けられており、光学フィルム24はプレスローラ31により押圧されながら巻き芯30に巻き取られる。
【0017】
(テンタ部)
ケーシング16は、図2に示すように、方向Z1の上流側から順に、予熱エリア36a、延伸エリア36b、緩和エリア36c及び冷却エリア36dに区画される。なお、緩和エリア36cは省略してもよい。
【0018】
テンタ部12は、図2及び図3に示すように、クリップ40、レール41,42、及び送風装置43をケーシング16内に備える。レール41,42はフィルム20の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール41,42は所定のレール幅で離間している。
【0019】
図示しないチェーンは、レール41,42に沿って移動自在に取り付けられている。複数のクリップ40は、所定の間隔でチェーン全体に取り付けられている。なお、図2では、図の煩雑化を避けるため、クリップ40の一部のみを示す。チェーンはスプロケット48,49と噛み合っている。スプロケット48,49が回転することにより、クリップ40はレール41,42に沿って移動する。レール41、42上における入口16aの近傍の位置Paには、クリップ40によるフィルム20の耳部の把持を開始する把持開始手段(図示しない)が設けられ、レール41、42上における出口16bの近傍の位置Pbには、クリップ40によるフィルム20の耳部の把持を解除する把持解除手段(図示しない)が設けられる。クリップ40がレール41、42上の位置Paを通過すると、クリップ40はフィルム20の耳部の把持を開始し、クリップ40がレール41、42上の位置Pbを通過すると、クリップ40はフィルム20の耳部の把持を解除する。
【0020】
また、延伸エリア36bにおけるレール41,42のレール幅は、延伸処理が開始する延伸開始位置Pcから延伸処理が完了する延伸完了位置Pdまで、方向Z1に向かうに従って次第に広くなる。一方、緩和エリア36cにおけるレール41,42のレール幅は、方向Z1に向かうに従って次第に狭くなる。また、予熱エリア36a及び冷却エリア36dにおけるレール41,42のレール幅は、一定である。
【0021】
こうして、クリップ40がレール41,42に沿って移動することで、フィルム20は方向Z1へ搬送され、各エリア36a〜36dを順次通過し、各エリア36a〜36dにおいて所定の処理が施される。
【0022】
(送風装置)
図3及び図4に示すように、送風装置43は、多数の送風ヘッド52a〜52dと、送りダクト53と、戻りダクト54と、乾燥空気供給部55とを備える。
【0023】
(送風ヘッド)
図5に示すように、多数の送風ヘッド52a〜52cはそれぞれフィルム20の搬送路の上方に設けられる。図示は省略するが、送風ヘッド52dも、送風ヘッド52a〜52cと同様にフィルム20の搬送路の上方に設けられる。図3及び図4に示すように、送風ヘッド52aは予熱エリア36aに設けられ、送風ヘッド52bは延伸エリア36bに設けられる。同様にして、送風ヘッド52c〜52dは、各エリア36c〜36dに設けられる。
【0024】
送風ヘッド52aは、送風ヘッド52aの内部に設けられるヘッド内部ダクト、及び複数の噴出ノズル60aを有する。複数の噴出ノズル60aは、方向Z1に所定のピッチで並ぶように配される。噴出ノズル60aの先端は、フィルム20の搬送路に向かって伸びるように形成される。噴出ノズル60aの先端には、噴出口61aが設けられる。噴出口61aは、スリット状であり、方向Z2に長く伸びるように形成される。噴出ノズル60aの噴出口61aはヘッド内部ダクトと連通する。送風ヘッド52c〜52dは、噴出ノズル60aと同様の噴出ノズル60c〜60dを有し、送風ヘッド52aと同様の構造に形成される。
【0025】
送風ヘッド52bは、送風ヘッド52bの内部に設けられるヘッド内部ダクトと、噴出ノズル60bと、噴出ノズル60xとを有する。噴出ノズル60b及び噴出ノズル60xは、Z1方向下流側から上流側にかけて順次設けられる。噴出ノズル60b及び噴出ノズル60xの先端は、それぞれフィルム20の搬送路に向かって伸びるように形成される。噴出ノズル60b及び噴出ノズル60xの先端には、噴出口61b及び61xが設けられる。噴出口61b及び61xは、スリット状であり、方向Z2に長く伸びるように形成される。噴出口61b及び61xはヘッド内部ダクトと連通する。
【0026】
図4及び図5に示すように、各噴出ノズル60a〜60dの先端は、フィルム20の搬送路と略直交する方向に伸びるように形成される。噴出ノズル60xの先端は、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界に向かうように形成される。
【0027】
図3及び図4に示すように、送りダクト53が、各送風ヘッド52a〜52dの側面に設けられる。送りダクト53により、各送風ヘッド52a〜52dのヘッド内部ダクトと乾燥空気供給部55とが連通する。乾燥空気供給部55と接続する戻りダクト54は、フィルム20の搬送路の両側に設置される。
【0028】
乾燥空気供給部55は、空気を循環させるための循環ファンを備える。乾燥空気供給部55は、循環ファンを用いて、送りダクト53を介して各送風ヘッド52a〜52dに乾燥空気を送り、戻りダクト54を介してケーシング16内にある空気を回収する。回収された空気には、図示しない凝縮機による凝縮処理が施される。凝縮処理により、回収された空気から溶剤が取り除かれる。凝縮処理を経た空気は、循環ファンにより各送風ヘッド52a〜52dに再び送られる。各送風ヘッド52a〜52dに送られた乾燥空気は、図示しない温調機により、温度が所定の範囲内に調節された後、各噴出ノズル60a〜60d、60xからフィルム20の搬送路に向かって送り出される。
【0029】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、供給ローラ22は、ロール状となって巻き芯21に巻き取られたフィルム20を、テンタ部12に送る。テンタ部12を通過したフィルム20は、光学フィルム24となって、耳切装置25に送られる。光学フィルム24は、耳切装置25により耳部が切断された後、熱緩和部13、冷却部14を経て、巻取部15へ送られる。
【0030】
図2に示すように、テンタ部12に送られたフィルム20は予熱エリア36aに送られる。位置Paにおいて、図示しない把持開始手段により、レール41、42に沿って走行するクリップ40はフィルム20の耳部を把持する。そして、クリップ40は、耳部を把持しながら方向Z1に走行することにより、フィルム20は方向Z1上流側から下流側に向かって、予熱エリア36a、延伸エリア36b、緩和エリア36c及び冷却エリア36dを順次通過する。フィルム20の走行速度は、5m/分以上200m/分以下であることが好ましい。
【0031】
図3及び図4に示すように、乾燥空気供給機55は、空気を各送風ヘッド52a〜52dに供給する。図示しない温調機により、各送風ヘッド52a〜52dに送られた空気の温度は、それぞれ所定範囲内となるように調節される。各送風ヘッド52a〜52dに送られた空気は、方向Z2において均一の流量で、各噴出ノズル60a〜60dからフィルム20に向かって流れ、フィルム20と接触する。また、ケーシング16内の空気は、戻りダクト54を介して、乾燥空気供給機55に回収される。
【0032】
送風ヘッド52aにある空気の温度は、テンタ部12の外部にある空気の温度よりも高いものの、送風ヘッド52bにある空気の温度よりも低い。したがって、予熱エリア36aにある空気の温度は、延伸エリア36bにある空気の温度よりも低い状態となり、延伸エリア36bにあるフィルム20の温度は、予熱エリア36aにあるフィルム20の温度よりも高い状態となる。
【0033】
延伸エリア36bの位置Pcでは、フィルム20を方向Z2に延伸する延伸処理が開始する。ところが、フィルム20の走行に伴い、フィルム20の表面近傍では、延伸エリア36bにある空気よりも低温の空気が、予熱エリア36aから延伸エリア36bに向かって流れる。そして、低温の空気が延伸エリア36bに流入することによって、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界にあるフィルム20には、方向Z2の温度ムラが生じてしまう。延伸処理におけるフィルム20の温度、中でも、延伸処理の開始時におけるフィルム20の温度は、延伸処理におけるフィルム20の変形やポリマー分子の配向に大きな影響を与える。したがって、方向Z2に温度ムラが生じた状態のフィルム20について、方向Z2の延伸を開始すると、延伸処理後のフィルム20では、方向Z2に光学ムラ故障が生じてしまう。
【0034】
本発明では、先端が予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界に向かうように伸びる噴出ノズル60xと、この噴出ノズル60xの先端に設けられる噴出口61xとを備える送風ヘッド52bを用いるため、フィルム20の表面近傍において、延伸エリア36bにある空気と等しい温度の空気を、延伸エリア36bから予熱エリア36aに向かうように流すことができる。これにより、予熱エリア36aにある低温の空気が延伸エリア36bへ流入することを防ぐことができる。したがって、本発明によれば、位置Pcにおける、すなわち延伸処理が開始されるときのフィルム20の温度分布が方向Z2に均一になるため、光学フィルム24において、方向Z2における光学ムラ故障の発生を抑えることができる。
【0035】
また、噴出口61xが、方向Z2に長く伸びるスリット状に形成されているため、フィルム20に向けて送り出す空気の流量を、方向Z2において均一にすることが可能となり、結果として、延伸処理開始時におけるフィルム20の温度分布のばらつきを確実に抑えることができる。
【0036】
送風ヘッド52aの内部にある空気の温度は、40℃以上240℃以下の範囲内で調節されることが好ましい。そして、予熱エリア36aにあるフィルム20の温度は、30℃以上220℃以下の範囲内で調節されることが好ましい。
【0037】
送風ヘッド52bの内部にある空気の温度は、100℃以上270℃以下の範囲内で調節されることが好ましい。そして、延伸エリア36bにあるフィルム20の温度は、100℃以上250℃以下の範囲内で調節されるであることが好ましい。また、延伸エリア36bにあるフィルム20の残留溶剤量は、0重量%以上3重量%以下であることが好ましい。フィルム20の残留溶剤量は、対象となるフィルムからサンプルフィルムを採取し、採取時のサンプルフィルムの重量をx、サンプルフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。位置Pcにおけるフィルム20の幅をL1とし、位置Pdにおけるフィルム20の幅をL2とすると、延伸処理における延伸率ER(%)は(L2−L1)/L1×100で表される。延伸率ERは、0%より大きく400%以下であることが好ましい。
【0038】
上記実施形態では、送風ヘッド52bに設けられる噴出ノズルのうち方向Z1の最上流側の噴出ノズルとして、噴出ノズル60xを設けたが、本発明はこれに限られず、方向Z1の上流側に設けられる複数の噴出ノズルを噴出ノズル60xとしてもよいし、送風ヘッド52bに設けられる噴出ノズルの全てをノズル60xとしてもよい。
【0039】
図6に示すように、送風ヘッド52a及び52bの間に、吸引ヘッド65を設けてもよい。吸引ヘッド65には、吸引口65aを有する吸引ノズル65bが設けられる。吸引ノズル65bは、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界に向かって伸びるように形成される。図示しないコントローラの制御の下、吸引ノズル65bが、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界にある空気を吸引することにより、フィルム20の表面近傍において、延伸エリア36bにある空気を、延伸エリア36bから予熱エリア36aに向かうように流すことができる。本発明では、この吸引ノズル65bを単独で用いてもよいし、前述した噴出ノズル60xと併用してもよい。
【0040】
上記実施形態では、延伸エリア36bに供給される空気と等しい温度の空気を、位置Pcを介して、方向Z1と逆の方向に向かって流したが、本発明はこれに限られず、延伸エリア36b内の気圧が予熱エリア36a内の気圧よりも高くなるように、送風ヘッド52aに供給する空気の供給量及び送風ヘッド52bに供給する空気の供給量を調節してもよい。
【0041】
また、テンタ部12の運転中において、延伸エリア36b内の気圧が送風ヘッド52b内の気圧と略等しい条件である場合には、テンタ部12を起動する際、送風ヘッド52bを介して延伸エリア36bに空気を供給した後に、送風ヘッド52aを介して予熱エリア36aに空気を供給することが好ましい。
【0042】
なお、フィルム20が入口16aを通過する際、テンタ部12の外部にある空気が、入口16aからテンタ部12の内部に流入して、テンタ部12の内部にある空気が冷却される結果、テンタ部12の内部にある空気から異物などが液化し、更には固化し、テンタ部12内にあるケーシング16等の各部品が汚染されてしまう場合がある。この異物としては、フィルム20から蒸発した溶剤や添加剤(例えば、可塑剤やレターデーション制御剤)などが含まれる。このようなテンタ部12の汚染を防ぐために、テンタ部12の入口16aに、入口16aの一部を塞ぐ遮風部材を設けてもよい。これにより、フィルム20が入口16aを通過する際、テンタ部12の外部にある空気が、フィルム20の走行に伴って、テンタ部12の内部に流入することを防ぐことができる。
【0043】
(光学フィルム)
本発明により得られる光学フィルム24は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0044】
光学フィルム24の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、光学フィルム24の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、光学フィルム24の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0045】
また、光学フィルム24の面内レターデーションReは、0nm以上300nm以下であることが好ましく、光学フィルム24の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。方向Z2における面内レターデーションReのムラΔReは10nm以下であることが好ましく、方向Z2における厚み方向レターデーションRthのムラΔRthは20nm以下であることが好ましい。
【0046】
面内レターデーションReのムラΔRe、及び厚み方向レターデーションRthのムラΔRthの測定方法は次のとおりである。光学フィルム24から方向Z2にサンプルフィルムを均等に20枚切り出し、各サンプルフィルムについて面内レターデーションRe及び厚み方向レターデーションRthを測定した。Reの測定値のうち最大値をRemax、最小値をReminとすると、ΔReは(Remax−Remin)で表され、Rthの測定値のうち最大値をRthmax、最小値をRthminとすると、ΔRthは(Rthmax−Rthmin)で表される。
【0047】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は方向Z1の屈折率,n2は方向Z2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す。
【0048】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0049】
本発明は、図7に示す溶液製膜設備80にて行われる溶液製膜方法に適用することができる。なお、上記実施形態と同一の装置、部材については、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。溶液製膜設備80は、ストックタンク81、流延室82、テンタ部12、乾燥室83、冷却部14、及び巻取部15を有する。
【0050】
ストックタンク81は、モータ81aで回転する攪拌翼81bとジャケット81cとを備えており、その内部にはフィルム20の原料となるドープ91が貯留されている。ストックタンク81内のドープ91は、ジャケット81cにより温度が略一定となるように調整されている。また、攪拌翼81bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ91を均一な品質に保持している。ストックタンク81の下流には、ギアポンプ92及び濾過装置93が設置されており、これらを介してドープ91が流延ダイ95に送られる。
【0051】
流延室82には、流延ダイ95、支持体としての流延ドラム96、剥取ローラ97、温調装置98,99、及び減圧チャンバ100が設置されている。流延ドラム96は図示しない駆動装置によって、軸96aを中心に方向A1に回転する。流延ダイ95は、幅方向に伸びるように形成されるスリットを有する。この回転中の流延ドラム96の周面に向けて、流延ダイ95のスリットからドープ91が吐出し、流延ドラム96の周面に流延膜103が形成する。
【0052】
流延室82内及び流延ドラム96は、温調装置98,99によって、流延膜103が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延ドラム96が約3/4回転する間に、流延膜103は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ97によって流延ドラム96から剥ぎ取られ、湿潤フィルム104となる。流延ドラム96の周速度をV1、剥取ローラ97の周速度をV2とするときに、V2/V1が101%以上150%となるように、図示しない制御部が、流延ドラム96及び剥取ローラ97を回転駆動する。
【0053】
減圧チャンバ100は、流延ダイ95に対し、方向A1の上流側に配置されており、減圧チャンバ100内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム96の周面に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム96が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイ95と流延ドラム96との間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜103が形成される。
【0054】
流延室82内には、蒸発している有機溶剤を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)109と凝縮液化した溶剤を回収する回収装置110とが備えられている。凝縮器109で凝縮液化した有機溶剤は、回収装置110により回収される。回収された溶剤は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶剤として再利用される。
【0055】
流延室82の下流には、渡り部111、ピンテンタ112、テンタ部12が順に設置されている。渡り部111では、複数の搬送ローラ113を用いて、湿潤フィルム104をピンテンタ112に導入する。ピンテンタ112は、湿潤フィルム104の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フィルム104に対して乾燥風が送られ、湿潤フィルム104が走行しつつ乾燥され、フィルム20となる。
【0056】
湿潤フィルム104は、ピンテンタ112で、残留溶剤量が0.1重量%以上10重量%以下となるまで乾燥することが好ましい。残留溶剤量が150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜103を剥ぎ取り、ピンテンタ112で残留溶剤量が上記範囲となるまで乾燥することにより、テンタ部12におけるセルロースアシレート分子の配向制御がさらに効果的に行われる。すなわち、テンタ部12での延伸処理での、遅相軸の方向制御効果と、Re、Rthを高める効果と、光学ムラの改良効果とが高まる。ただし、本発明ではピンテンタ112での乾燥は、残留溶剤量が上記の範囲となるまで実施せずともよい。つまり、残留溶剤量が10重量%よりも高い状態の湿潤フィルム104をテンタ部12に送り込んでもよい。
【0057】
乾燥室83では、光学フィルム24に50℃以上200℃以下の乾燥風をあてて、光学フィルム24を乾燥する。乾燥室83では、残留溶剤量が0.01重量%以上5重量%以下となるまで光学フィルム24を乾燥することが好ましい。
【0058】
テンタ部12を、ピンテンタ112と乾燥室83との間に設けたが、本発明はこれに限られず、冷却部14と巻取部15との間にテンタ部12を設けてもよいし、ピンテンタ112と乾燥室83との間、及び冷却部14と巻取部15との間の両方に、テンタ部12を設けてもよい。また、溶液製膜設備80にて製造したフィルムについて、オフライン延伸装置10のテンタ部12を用いて延伸処理を行う場合には、溶液製膜設備80におけるテンタ部12を省略してもよい。
【0059】
上記実施形態のフィルム20には、上記のような溶液製膜方法によって得られるフィルムに限られず、溶融製膜方法によって得られるフィルムも含まれる。
【0060】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0061】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0062】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0063】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0064】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0065】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0066】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0067】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0068】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0069】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0070】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0071】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0072】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0073】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0074】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0075】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0076】
【化1】

【0077】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0078】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0079】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0080】
【化2】

【0081】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0082】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0083】
(実験1)
図1に示すテンタ部12において、膜厚80μm、幅1600mmのフィルム20に延伸処理を施して光学フィルム24を得た。予熱エリア36aには図6に示す送風ヘッド52a及び吸引ヘッド65を設け、延伸エリア36bには図6に示す送風ヘッド52bを設けた。テンタ部12において、フィルム20に対し、所定の温度に調節された空気をあてた。予熱エリア36aにあるフィルム20の温度は150℃であり、延伸エリア36bにあるフィルム20の温度は170℃であり、緩和エリア36cにあるフィルム20の温度は150℃であった。延伸処理における延伸率ERは40%であった。
【0084】
(実験2)
吸引ノズル65bを省略したこと以外は実験1と同様にして、テンタ部12においてフィルム20に延伸処理を施して光学フィルム24を得た。
【0085】
(実験3)
噴出ノズル60xを省略したこと以外は実験1と同様にして、テンタ部12においてフィルム20に延伸処理を施して光学フィルム24を得た。
【0086】
(実験4)
吸引ノズル65b及び噴出ノズル60xを省略したこと、更に、テンタ部12を起動する際、送風ヘッド52bを介して延伸エリア36bに空気を供給した後に、送風ヘッド52aを介して予熱エリア36aに空気を供給したこと以外は実験1と同様にして、テンタ部12においてフィルム20に延伸処理を施して光学フィルム24を得た。
【0087】
(実験5)
吸引ノズル65b及び噴出ノズル60xを省略したこと以外は実験1と同様にして、テンタ部12においてフィルム20に延伸処理を施して光学フィルムを得た。
【0088】
実験1〜5により得られた各光学フィルムから、Y方向にサンプルフィルムを均等に20枚切り出し、各サンプルフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向レターデーションRthを測定した。次に、各レターデーションの測定値から、ΔRe及びΔRthを算出した。そして、このΔRe及びΔRthを指標として、光学ムラの有無の評価を、以下基準に基づいて行った。
【0089】
(ΔReの評価)
◎:ΔReが4nm以内である。
○:ΔReが4nmより大きく、8nm以内である。
△:ΔReが8nmより大きく、10nm以内である。
×:ΔReが10nmより大きい。
【0090】
(ΔRthの評価)
◎:ΔRthが4nm以内である。
○:ΔRthが4nmより大きく、8nm以内である。
△:ΔRthが8nmより大きく、10nm以内である。
×:ΔRthが10nmより大きい。
【0091】
表1には、実験1〜5における噴出ノズル60xの有無、吸引ノズル65bの有無、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界における空気の流れ方向、及びΔRe及びΔRthを指標とする光学ムラの有無の評価結果を示す。表1における「空気の流れ方向」では、予熱エリア36a及び延伸エリア36bの境界における空気の流れ方向が、延伸エリア36bから予熱エリア36aへ向かう方向であった場合を「A」として表し、予熱エリア36aから延伸エリア36bへ向かう方向であった場合を「B」として表した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1より、本発明によれば、光学ムラ故障の発生を抑えつつ、延伸処理を行うことができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】オフライン延伸装置を示す概略図である。
【図2】テンタ部の概要を示す上面図である。
【図3】テンタ部及びダクトの概要を示す断面図である。
【図4】送風ヘッドの概要を示す斜視図である。
【図5】送風ヘッドの概要を示す断面図である。
【図6】吸引ヘッド及び送風ヘッドの概要を示す断面図である。
【図7】溶液製膜設備を示す概略図である。
【符号の説明】
【0095】
10 オフライン延伸装置
12 テンタ部
12a 入口
12b 出口
20 フィルム
24 光学フィルム
36a 予熱エリア
36b 延伸エリア
60a〜60x ノズル
61a〜61x 噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンタの内部に設けられた予熱エリア及び延伸エリアを順次通過するように、熱可塑性樹脂フィルムを走行させる走行部と、
前記予熱エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、前記テンタの外部にあるテンタ外部空気よりも温度が高い第1の高温空気をあてる第1の高温空気供給部と、
前記延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに温度が前記第1の高温空気の温度以上の第2の高温空気をあてる第2の高温空気供給部と、
前記延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムを前記走行方向と直交する方向に延伸する延伸部と、
前記延伸エリアから前記予熱エリアへ向かう方向となるように、前記予熱エリア及び前記延伸エリアの境界における前記第2の高温空気の流れる方向を調整する方向調整部とを備えることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置。
【請求項2】
前記方向調整部は、
前記延伸エリアに設けられ、前記境界に向かって伸びるように形成される噴出ノズルと、
この噴出ノズルの先端に設けられ、前記第2の高温空気を噴出する噴出口とを有することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置。
【請求項3】
前記方向調整部は、
前記予熱エリアに設けられ、前記境界に向かって伸びるように形成される吸引ノズルと、
この吸引ノズルの先端に設けられ、前記第2の高温空気を吸引する吸引口とを有することを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置。
【請求項4】
前記噴出口または前記吸引口は、スリット状であり、前記延伸方向に長く伸びるように形成されることを特徴とする請求項2または3記載の熱可塑性樹脂フィルムの延伸装置。
【請求項5】
テンタの内部に設けられた予熱エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、前記テンタの外部にあるテンタ外部空気よりも温度が高い第1の高温空気をあてる予熱工程と、
前記テンタの内部にて、前記予熱エリアよりも前記走行方向下流側に設けられた延伸エリアを走行する前記熱可塑性樹脂フィルムに、温度が前記第1の高温空気の温度以上の第2の高温空気をあてて、前記走行方向と直交する方向に前記熱可塑性樹脂フィルムを延伸する延伸工程と、
前記延伸エリアから前記予熱エリアへ向かう方向となるように、前記予熱エリア及び前記延伸エリアの境界における前記第2の高温空気の流れる方向を調整する方向調整工程とを有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記方向調整工程では、前記境界よりも前記走行方向下流側から前記境界に向けて前記第2の高温空気を送ることを特徴とする請求項5記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記方向調整工程では、前記境界よりも前記走行方向上流側から前記第2の高温空気を吸引することを特徴とする請求項5または6記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記延伸方向において均一の流量で前記第2の高温空気を流すことを特徴とする請求項5ないし7のうちいずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、溶液製膜方法によりつくられることを特徴とする請求項6ないし8のうちいずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項6ないし9のうちいずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、環状ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項6ないし9のうちいずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−158800(P2010−158800A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1274(P2009−1274)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】