説明

熱可塑性樹脂組成物及び光学素子

【課題】耐熱安定性及び光透過性の向上を図る。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物を250℃の温度で2時間加熱した時点において、作製工程で添加される又は作製工程で熱可塑性樹脂若しくは無機微粒子の分解反応によって生ずる揮発性を有する揮発性物質の揮発量の割合が、組成物全体に対して2%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び光学素子に係り、特に、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路等として好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MO、CD、DVD等の光情報記録媒体(以下、媒体ともいう。)に対して、情報の読み取りや、記録を行うプレーヤー、レコーダー及びドライブ等の情報機器には、光ピックアップ装置が備えられている。光ピックアップ装置には、光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットが具備されており、この光学素子ユニットは、これらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子を有している。
【0003】
上述した光ピックアップ装置の光学素子は、射出成形等の手段により安価に作製できる等の点で、プラスチックを材料として適用することが好ましい。光学素子に適用可能なプラスチックとしては、環状オレフィンとα一オレフィンの共重合体(例えば、特許文献1参照)等が知られているが、環状オレフィンが含有された物質は、湿度変化による屈折率の安定性は優れているものの、温度変化による屈折率の安定性は所望の効果を得ることが困難であった。
【0004】
そこで、屈折率の感温性の減少を図ることが可能なポリマー状光学製品として、感温性光学ベクトルX1を有するポリマー状ホスト物質と、感温性光学ベクトルX2を有し、ポリマー状ホスト物質中に分散した微細粒子とからなるポリマー状光学製品及び製造方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−105131号公報
【特許文献2】特開2002−207101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のポリマー状光学製品の場合、作製工程において、微細粒子の分散媒、微細粒子の表面処理剤、微細粒子をポリマー状ホスト物質に分散させる際の分散剤、ポリマー状ホスト物質の溶媒、ポリマー状ホスト物質の原料となるモノマー、ポリマー状ホスト物質の重合反応に使用される重合開始剤や、各種の触媒等の揮発性を有する物質が使用されており、後続の工程において、そのような揮発性物質に対して、除去処理や、化学反応を利用した不揮発性処理が施されている。
また、上述した種々の揮発性物質の他に、高温下における熱可塑性樹脂又は無機微粒子の分解反応に起因して発生する物質の中にも、揮発性を有する物質が含有されている。
このような揮発性物質は、ポリマー状ホスト物質に溶解するとともに、微細粒子に吸着されることによってポリマー状光学製品中に残存し易く、温度変化時の熱膨張等のポリマー状光学製品が有する諸物性に大きな影響を与えるといった問題が生じている。
【0007】
また、揮発性物質が与える影響については、現状において不明確であり、ポリマー状光学製品における揮発性物質の揮発量の観点から、具体的に規定した例は開示されていない。
【0008】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、耐熱安定性及び光透過性の向上を図ることが可能な熱可塑性樹脂組成物及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、
熱可塑性樹脂及び無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物において、
作製工程で添加される又は当該作製工程で前記熱可塑性樹脂若しくは無機微粒子の分解反応によって生ずる揮発性を有する揮発性物質を含有し、
前記揮発性物質が、250℃の温度で2時間加熱した時点における組成物全体に対する揮発量の割合が2%以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、250℃の温度で2時間加熱した時点における組成物全体に対する揮発性物質の揮発量の割合が2%以下であることで、熱可塑性樹脂組成物における強度の大幅な低下や、変形及び熱膨張の発生を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記無機微粒子が、シラン系又はチタン系の表面処理剤のうち少なくとも一種の表面処理剤によって表面処理されているものを含有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、シラン系及びチタン系の表面処理剤のうち少なくとも一種の表面処理剤によって無機微粒子に表面処理を施すことにより、無機微粒子の強度の向上を図ることに伴って、その無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物の強度の向上も図ることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記無機微粒子が、組成物全体に対する含有率が10〜90%の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、組成物全体に対する無機微粒子の含有率が10%以上であることで無機微粒子の混合による物性改良効果を発揮することができ、90%以下であることで組成物全体における最低限必要な熱可塑性樹脂の比率を維持するとともに、加工性が損なわれることを防止することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記無機微粒子が、体積平均分散粒子径が30nm以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、組成物中に分散された無機微粒子に起因した光散乱の発生を抑制することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン樹脂を含有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、低吸湿性を有する環状ポリオレフィンを含有することで、高い寸法安定性を維持することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明に係る光学素子は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、光線透過率及び線膨張係数の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、強度の大幅な低下や、変形及び熱膨張の発生を防止するとともに、光線透過率の向上を図ることが可能となり、これによって、耐熱安定性及び透明性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0023】
まず始めに、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物について説明する。
本実施形態における熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂と、無機微粒子と、揮発性物質とが含有されており、以下、熱可塑性樹脂、無機微粒子及び揮発性物質の詳細について、それぞれ説明する。
本実施形態における熱可塑性樹脂としては、光学材料として一般的に用いられる透明の熱可塑性樹脂であれば、特に限定されるものではないが、光学素子としての加工性の観点から、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリイミド樹脂であることが好ましく、環状オレフィン樹脂であることが特に好ましい。例えば、特開2003−73559号公報等に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を下記表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
なお、本実施形態における熱可塑性樹脂は、寸法安定性の観点から、吸水率が0.2%以下であることが好ましい。吸水率が0.2%以下の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭硝子社製)等のフッ素樹脂、ZEONEX(日本ゼオン社製)、アートン(JSR社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(チコナ社製)等の環状オレフィン樹脂、インデン/スチレン系樹脂及びポリカーボネート等が好適に用いられるが、特に限定されるものではない。
【0026】
また、熱可塑性樹脂の吸水率は、0.1%以下であることがより好ましい。これは、熱可塑性樹脂の有する吸水率が高い場合、揮発性物質を減量しても、再度吸水することで揮発性物質量を増大させることになり、最終的には、熱可塑性樹脂組成物の種々の物性に影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0027】
また、上述した熱可塑性樹脂は、相溶性のある他の樹脂と併用されることが好ましい。
さらに、上述した2種以上の樹脂を用いる場合、2種以上の樹脂からなる熱可塑性樹脂の吸水率は、個々の樹脂における吸水率の平均値と略同一であると考えられ、その平均の吸水率は、0.2%以下であればよい。
【0028】
一方、本実施形態における無機微粒子としては、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子、燐化物、複酸化物微粒子、オキソ酸塩微粒子、複塩微粒子、錯塩微粒子等を用いることができる。より具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、これら酸化物との組み合わせで形成されるリン酸塩、硫酸塩等、硫化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
また、無機微粒子としては、半導体結晶組成の微粒子を好適に用いることができる。半導体結晶組成には、特に限定されるものではないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光又は蛍光等が生じないものが好ましい。具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム及び錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン又はテルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。
【0030】
なお、G.Schmidら、Adv.Mater.、1991年、第4巻、p.494に記載の(BN)75(BF21515や、D.Fenskeら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.、1990年、第29巻、p.1452に記載のCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0031】
上述した無機微粒子は、1種の無機微粒子を用いてもよく、複数種の無機微粒子を併用してもよい。また、無機微粒子として、複合組成の無機粒子を用いることも可能である。
【0032】
なお、無機微粒子の体積平均粒径は、30nm以下であることが好ましい。無機粒子の体積平均粒径が30nm以下であれば、無機粒子に起因する光散乱を抑制でき、高い透明性を得ることができる。
【0033】
また、異なる粒径分布を有する粒子を混合して用いるような場合においては、1種の平均粒子径が30nm以下で、もう一種が30nm以上であって、平均が30nm以下の混合粒子を用いることも可能である。
ただし、この場合においては、30nm以上の平均粒径を有する粒子は、割合が小さいほど好ましく、具体的には、10nm以下であることが好ましい。
【0034】
さらに、無機粒子の体積平均粒径の下限としては、1nm以上であることが好ましい。これは、1nm以上であれば、比表面積が過大となることがなく、樹脂との親和性を得るための表面処理に必要な処理剤を適切な範囲に設定することができるからである。すなわち、無機粒子の形態が球状である場合において、総体積が同一であれば、比表面積は平均粒径に反比例することとなる。
例えば、平均粒径が30nmから1nmになると、比表面積は30倍となる。したがって、平均粒径が30nmの無機微粒子を用いた場合には、表面処理剤の必要量が総体積の10%となる。一方、平均粒径が1nmの無機微粒子を用いた場合には、表面処理剤の必要量が30倍となり、実現が不可能となる。
【0035】
さらに、上述した熱可塑性樹脂組成物に対する無機微粒子の含有率は、10%以上、90%以下であることが好ましく、20%以上、80%以下であることがより好ましい。これは、無機微粒子の含有率が10%以上であれば、無機微粒子の混合による物性改良効果を発揮させることができ、90%以下であれば、必要な樹脂比率を維持するとともに、元来の樹脂の長所である加工性等の各種特性の劣化を防止することが可能となるからである。
【0036】
上述した無機微粒子の作成方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知である方法を用いることが可能であり、例えば、ハロゲン化金属や、アルコキシ金属を原料として用いて、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のために有機酸や、有機アミン等を併用する方法も用いられる。
具体例として、二酸化チタン微粒子の場合には、Journal of chemical engineering of Japan、1998年、第1巻、第1号、p.21−28に記載の方法によって製造することが可能である。
また、硫化亜鉛微粒子の場合には、Journal of physical chemistry、1996年、第100巻、p.468−471に記載の方法や、ジメチル亜鉛又は塩化亜鉛を原料とし、硫化水素若しくは硫化ナトリウム等で硫化する際に、表面処理剤を添加する方法によって製造することが可能である。
【0037】
上述した方法によって作成された無機微粒子には、表面処理剤であるシラン系、シリコーンオイル系、チタネート系、アルミネート系及びアミノ酸系等のカップリング剤による表面処理が施されている。
上述したカップリング剤は、反応速度等の特性が異なるため、使用する無機微粒子の種類や、表面処理時の条件等に応じて適宜選択され、1種のみ用いてもよいし、複数種を併用してもよい。2種以上のカップリング剤を用いて表面処理を施す場合には、各種カップリング剤による表面処理が同時に施されてもよいし、異なる時期に施されてもよい。
また、使用するカップリング剤に応じて、得られる表面処理後の無機微粒子の特性が異なることがあるため、分散させる熱可塑性樹脂の親和性を考慮した上で、使用するカップリング剤を適宜選択してもよい。
【0038】
なお、シラン系のカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メチルフェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルフェノキシシラン等が挙げられる。
【0039】
また、チタン系のカップリング剤としては、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルフォニルチタネート及びビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0040】
無機微粒子に対するカップリング剤の割合としては、特に限定されるものではないが、5〜200%の範囲内であることが好ましく、10〜100%の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
このような表面処理剤を用いた表面処理方法としては、無機粒子の粉体に表面処理剤を直接噴霧した後に乾燥させる方法、表面処理剤を溶液にして噴霧した後に乾燥させる方法、無機微粒子の分散液に表面処理剤を添加反応させる方法、溶融混練等によって無機微粒子と樹脂とを複合化する時点で表面処理剤を添加する方法等、いずれの方法を適用することができる。
【0042】
上述した方法によって表面処理が施された無機微粒子は、熱可塑性樹脂中に混合されることにより、目的とする熱可塑性樹脂組成物が得られる。
熱可塑性樹脂と、無機微粒子との混合方法としては、揮発性物質の使用量を低減させる観点から、溶融混練法を利用することが好ましく、溶融混練法に適用可能な装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー及びロール等のような密閉式混練装置又はバッチ式混練装置を挙げられる。
なお、溶融混練法に用いられる装置としては、単軸押出機や、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いることも可能である。
【0043】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法として溶融混練法を利用する場合、原料である熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを一括で添加し混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。
また、押出機等の連続式の溶融混練装置を用いる場合においては、段階的に添加する成分をシリンダーの中途部から添加することも可能である。
、予め混連した後、熱可塑性樹脂以外の成分で予め添加しなかった成分を添加し、さらに溶融混練する際も、これらを一括で添加し、混練してもよく、段階的に分割添加して混練してもよい。
上述した熱可塑性樹脂及び無機微粒子を分割添加する方法としては、一成分を数回に分けて添加する方法、一成分は一括で添加し、異なる成分を段階的に添加する方法又はこれらの方法を組合せた方法であってもよい。
【0044】
また、溶融混練法を利用した製造方法の場合、上述した無機微粒子は、粉体又は凝集状態のまま添加すること可能である。一方、無機微粒子を液中に分散させた状態で添加することが可能であるが、この場合においては、混練後に脱揮処理を行うことが必要である。
なお、液中に分散させた状態で添加する場合、予め凝集粒子を一次粒子に分散させた後に添加することが好ましい。
【0045】
なお、分散処理としては、ビーズミル分散機、超音波分散機、高速攪拌型分散機及び高圧分散機等の各種分散処理機が適用可能であるが、ビーズミル分散機を好適に用いることができる。
ビーズミル分散機で使用されるビーズとしては、ジルコニアビーズや、ガラスビーズ等が挙げられるが、ジルコニアビーズが好適に用いることができる。また、使用されるビーズの径寸法は、小さいものが好ましく、直径0.1mm以下、0.001mm以上の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
また、溶融混練法を利用して熱可塑性樹脂組成物を作製する場合には、不活性ガスである窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンの中から選択される一種のガス又は二種以上の混合ガスの雰囲気下で行なわれることが好ましく、炭酸ガス、エチレンガス及び水素ガス等の一般的なガスであっても、混練される物質に対するに反応性を有さないガスであれば、上述した不活性ガスと混合して用いてもよい。
【0047】
なお、上述した溶融混練法を利用して熱可塑性樹脂組成物を作製する場合、溶融混練装置における反応系内は、残留する酸素を極力排除することが好ましいが、熱可塑性樹脂又は無機微粒子に吸着した酸素を含め、完全にその影響を排除することは困難である。
そのため、反応系内における酸素量は、1%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。これは、酸素による酸化反応によって樹脂が劣化すると同時に、着色が発生するからである。
【0048】
なお、上述した樹脂組成物の作製工程においては、各種添加剤を、必要に応じて単独で又は組み合わせて添加してもよい。
この場合、添加剤としては、酸化防止剤、耐光安定剤、熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤及び近赤外線吸収剤等の安定剤、滑剤や、可塑剤等の樹脂改良剤、軟質重合体や、アルコール性化合物等の白濁防止剤、染料や、顔料等の着色剤、その他帯電防止剤や、難燃剤等が挙げられる。単独で又は組み合わせて用いられてもよい。
【0049】
上述した添加剤のうち、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤等が挙げられ、フェノール系酸化防止剤、特に、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。
【0050】
上述した酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることが可能であって、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明の複合熱可塑性材料100質量部に対して0.001〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.01〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが適用可能であり、例えば、特開昭63−179953号公報に記載の2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等や、特開平1−168643号公報に記載のオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のアクリレート系化合物や、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート))メタン、すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)等のアルキル置換フェノール系化合物や、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物等が挙げられる。
【0052】
また、リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業において通常使用される物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のモノホスファイト系化合物や、4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0053】
さらに、イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0054】
さらに、上述したフェノール系、リン酸系及びイオウ系酸化防止剤の他に、ジフェニルアミン誘導体等のアミン系酸化防止剤や、ニッケル又は亜鉛のチオカルバメート等も酸化防止剤として適用可能である。
【0055】
なお、熱可塑性樹脂組成物には、ガラス転移温度における最低温度が30℃以下である化合物が配合されていてもよい。これにより、透明性、耐熱性及び機械的強度等の諸特性の低下を抑制して、長時間に渡る高温高湿度の環境下における白濁の発生を防止することができる。
【0056】
また、上述した添加剤のうち、耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤及びヒンダードアミン系耐光安定剤等が挙げられるが、レンズの透明性や、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)を用いることが好ましい。このようなHALSとしては、低分子量のものから中分子量、高分子量のものを適宜選択することができる。
【0057】
比較的分子量の小さいHALSとしては、LA−77(旭電化製)、Tinuvin765(CSC製)、Tinuvin123(CSC製)、Tinuvin440(CSC製)、Tinuvin144(CSC製)、HostavinN20(ヘキスト製)等が、中程度の分子量としては、LA−57(旭電化製)、LA−52(旭電化製)、LA−67(旭電化製)、LA−62(旭電化製)等が、さらに分子量の大きいものとしては、LA−68(旭電化製)、LA−63(旭電化製)、HostavinN30(ヘキスト製)、Chimassorb944(CSC製)、Chimassorb2020(CSC製)、Chimassorb119(CSC製)、Tinuvin622(CSC製)、CyasorbUV−3346(Cytec製)、CyasorbUV−3529(Cytec製)、Uvasil299(GLC製)等が挙げられる。
【0058】
なお、成型体を作成する場合には、低分子量又は中分子量のHALSが用いられることが好ましい。一方、膜状の複合材料を作成する場合には、高分子量のHALSを用いることが好ましい。
【0059】
上述した方法によって作製された熱可塑性樹脂組成物には、揮発性を有する揮発性物質が含有されている。
本実施形態における揮発性物質としては、上述した無機微粒子の分散媒、表面処理剤、熱可塑性樹脂の分散媒、熱可塑性樹脂の原料となるモノマー、熱可塑性樹脂の重合反応において使用される重合開始剤や、各種添加剤等に含有されている揮発性を有する物質が挙げられる。上述した種々の揮発性物質の他に、高温下における熱可塑性樹脂又は無機微粒子の分解反応に起因して発生する物質の中にも、揮発性物質が含有されている。
【0060】
また、本実施形態における揮発性物質は、揮発性物質が含有された熱可塑性樹脂組成物を250℃の温度で2時間加熱した時点における組成物全体に対する揮発量の割合が2%以下となっている。これは、組成物全体に対する揮発量の割合が2%以上であると、熱可塑性樹脂組成物の強度が極端に低下するとともに、変形及び熱膨張が発生し易くなる、すなわち、耐熱安定性が劣化するからである。
【0061】
なお、本実施形態における揮発性物質は、揮発性物質が含有された熱可塑性樹脂組成物を250℃の温度で2時間加熱した時点における組成物全体に対する揮発量の割合が2%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0062】
なお、揮発性物質のうち、シラン系及びチタン系の表面処理剤並びに熱可塑性樹脂の原料となるモノマー等は、可能な限り未反応物が残留しないように反応させることが好ましい。
また、揮発性物質としては、光学素子の使用温度領域において液状である物質が可能な限り少ないことが好ましい。これは、可塑剤等のように、常温において液体の状態で存在し、250℃においても未反応物が多量に存在する物質は、揮発性物質の減量を行った場合であっても、熱物性の改良効果が抑制されてしまうからである。
【0063】
揮発性物質の定量方法としては、一定量の試料を窒素下において、250℃の温度で保存し、揮発性物質が冷却トラップによって補足されるような装置を用いて、パージアンドトラップ法に基づいて行われる。
【0064】
なお、熱可塑性樹脂組成物の形状は、厚さ寸法が1mm以下の形状であって、揮発性物質の揮発が速やかに進行する状態の試料を用いることが好ましい。
また、本実施形態における揮発性物質の定量方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂組成物を加熱することにより、重量の減量分を測定することで揮発性性物質の揮発量を算出する方法であってもよい。
【0065】
以上のような熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、各種成形物を得ることができる。この際、成形される熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のみからなる場合の他に、熱可塑性樹脂と各種添加剤との混合物からなる場合もある。
【0066】
なお、その成形方法としては、特に限定されるものではないが、成型方法としては、特に限定されるものではないが、成型物における低複屈折性、機械強度及び寸法精度等の特性の観点から、溶融成型法が好ましい。溶融成型法としては、例えば、市販のプレス成型、市販の押し出し成型、市販の射出成型等が挙げられるが、生産性の観点から、射出成型が好ましい。
【0067】
また、成型条件は、使用目的又は成型方法に応じて適宜選択されるが、例えば、射出成型における樹脂組成物の温度としては、成型時に適度な流動性を樹脂に付与して成型品のヒケや、歪みの防止、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生の防止及び成型物の黄変の効果的な防止の観点から、150℃〜400℃の範囲内であることが好ましく、200℃〜350℃の範囲内であることがより好ましく、200℃〜330℃の範囲内であることが特に好ましい。
【0068】
さらに、光学用樹脂レンズは、AMES試験において陰性であることが好ましい。これは、AMES試験において陽性であると、使用者の健康の阻害、環境負荷の増大、材料安定性の低減等のおそれがあるからである。
【0069】
さらに、本実施形態における成型物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルム又はシート形状等の種々の形態で使用することが可能である。また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性及び低吸水性等に優れるため、各種光学部品への適用が可能である。
具体的な適用例としては、光学レンズや、光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズ等のレンズ;眼鏡レンズ等の全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)等の光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズ等のレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズ等が挙げられる。
また、その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム等の光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板等が挙げられる。
【0070】
上述した成形物の中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズや、レーザ走査系レンズ等の光学素子として好適に用いられ、以下、図1を参照しながら、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物によって成形された光学素子が用いられた光ピックアップ装置1について説明する。
ここで、図1は、光ピックアップ装置1の内部構造を示す模式図である。
【0071】
本実施形態における光ピックアップ装置1には、図1に示すように、光源である半導体レーザ発振器2が具備されている。この半導体レーザ発振器2から出射される青色光の光軸上には、半導体レーザ発振器2から離間する方向に向かって、コリメータ3、ビームスプリッタ4、1/4波長板5、絞り6、対物レンズ7が順次配設されている。
また、ビームスプリッタ4と近接した位置であって、上述した青色光の光軸と直交する方向には、2組のレンズからなるセンサーレンズ群8、センサー9が順次配設されている。
【0072】
光学素子である対物レンズ7は、光ディスクDに対向した位置に配置されるものであって、半導体レーザ発振器2から出射された青色光を、光ディスクDの一面上に集光するようになっている。このような対物レンズ7には、2次元アクチュエータ10が具備されており、この2次元アクチュエータ10の動作により、対物レンズ7は、光軸上を移動自在となっている。
【0073】
次に、光ピックアップ装置1の作用について説明する。
本実施形態における光ピックアップ装置1は、光ディスクDへの情報の記録動作時や、光ディスクDに記録された情報の再生動作時に、半導体レーザ発振器2から青色光を出射する。出射された青色光は、図1に示すように、光線L1となって、コリメータ3を透過して無限平行光にコリメートされた後、ビームスプリッタ4を透過して、1/4波長板5を透過する。さらに、絞り6及び対物レンズ7を透過した後、光ディスクDの保護基板D1を介して情報記録面D2に集光スポットを形成する。
【0074】
集光スポットを形成した光は、光ディスクDの情報記録面D2で情報ピットによって変調され、情報記録面D2によって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ7及び絞り6を順次透過した後、1/4波長板5によって偏光方向が変更され、ビームスプリッタ4で反射する。その後、センサーレンズ群8を透過して非点収差が与えられ、センサー9で受光されて、最終的には、センサー9によって光電変換されることによって電気的な信号となる。
以後、このような動作が繰り返し行われ、光ディスクDに対する情報の記録動作や、光ディスクDに記録された情報の再生動作が完了する。
【0075】
なお、光ディスクDにおける保護基板D1の厚さ寸法及び情報ピットの大きさにより、対物レンズ7に要求される開口数NAも異なる。本実施形態においては、高密度な光ディスクDであり、その開口数は0.85に設定されている。
【実施例】
【0076】
次に、実施例を挙げて本実施形態における熱可塑性樹脂組成物及び光学素子について説明する。
[実施例1]
まず始めに、無機微粒子1,2,3の作成方法について説明する。
シラン系の表面処理剤であるヘキサメチルジシラザン(以下、HMDS)によって処理されたシリカ微粒子粉体(日本アエロジル社製:RX300、一次粒径7nm)を混練前に200℃の温度で24時間乾燥させて、窒素雰囲気下で保存し、得られた無機微粒子を、「無機微粒子1」とした。
また、HMDSによって処理されたシリカ微粒子粉体(日本アエロジル社製:RX50、一次粒径40nm)を混練前に200℃の温度で24時間乾燥させて、窒素雰囲気下で保存し、得られた無機微粒子を、「無機微粒子2」とした。
さらに、未処理のシリカ微粒子粉体(日本アエロジル社製:A300、一次粒径7nm)を、「無機微粒子3」とした。
【0077】
次に、各試料1〜10の作製方法について説明する。
まず始めに試料1の作製方法について説明する。
PMMA(Poly(Methyl Methacrylate))樹脂(三菱レーヨン製:アクリペットVH)20部を、メチルイソブチルケトン80部に対して100℃の温度で溶解させ、無機微粒子1と熱可塑性樹脂組成物全体との重量比が50%となるように無機微粒子1の添加量を調整し、溶液に混合させた。その後、150℃の温度下において乾燥処理が施される。この際、乾燥時間を調整することにより、所定量の揮発性物質を含有する試料を作製した。
このようにして得られた試料を「試料1」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0078】
次に、試料2,3の作製方法について説明する。
試料1の作製方法において、乾燥時間を変更し、試料に含有される揮発性物質量をそれぞれ変更した以外は、同様の方法によって試料を作製した。
このようにして得られた試料を「試料2」及び「試料3」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0079】
次に、試料4,5,6,7の作製方法について説明する。
試料1の作製方法において、無機微粒子1と熱可塑性樹脂組成物全体との重量比が5%、20%、70%及び95%となるように無機微粒子1の添加量を変更するとともに、乾燥時間を変更して、試料に含有される揮発性物質量を変更した以外は、同様の方法によって各試料を作製した。
このようにして得られた各試料を、それぞれ「試料4」、「試料5」、「試料6」及び「試料7」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
ただし、試料7は、ホットプレスによって平滑な平面を得ることができなかったため、表面を研磨することによって平滑な平面を得た。
【0080】
次に、試料8,9の作製方法について説明する。
試料1の作製方法において、添加される無機微粒子を無機微粒子2,3にそれぞれ変更するとともに、乾燥時間を変更して、試料に含有される揮発性物質量を変更した以外は、同様の方法によって試料を作製した。
このようにして得られた各試料を、それぞれ「試料8」及び「試料9」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0081】
次に、試料10の作製方法について説明する。
試料1の作製方法において、無機微粒子を添加しないことに変更するとともに、乾燥時間を変更して、試料に含有される揮発性物質量を変更した以外は、同様の方法によって試料を作製した。
このようにして得られた試料を、「試料10」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0082】
次に、各樹脂成型試料の評価方法について説明する。
測定項目としては、光線透過率、線膨張係数及び揮発性物質量の計3項目が挙げられ、これらの測定結果に基づいて、各樹脂成型試料に対する評価を行った。
以下、各項目の測定方法の詳細について、それぞれ説明する。
【0083】
まず始めに、光線透過率の測定方法について説明する。
分光光度計(島津製作所製:UV−3150)を用いて、成形体の厚さ方向(1mm厚)の波長405nmにおける光線透過率の測定し、「光線透過率(%)」として下記表2に示した。
ここで、本実施例における光線透過率の測定方法は、ASTM D 1003に記載の方法に準拠した。
【0084】
次に、線膨張係数の測定方法について説明する。
測定装置(エスアイアイナノテクノロジー社製:EXSTAR6000 TMA)を用いて、40℃〜80℃の範囲内で温度を変化させ、温度変化前及び温度変化後における試料の厚さ寸法の寸法変化に基づいて線膨張係数を測定し、「線膨張係数(/K)」として下記表2に示した。
【0085】
最後に、揮発性物質量の測定方法について説明する。
各試料を、窒素気流下において250℃の温度で2時間保存した後、保存前及び保存後における重量変化に基づいて揮発性物質量を算出し、「揮発性物質量(%)」として下記表2に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
その結果、250℃の温度で2時間加熱した際に発生した揮発性物質量が熱可塑性樹脂組成物全体に対して2%以下であって、無機微粒子を含有する試料1,2,4,5,6,8,9,10は、発生した揮発性物質量が熱可塑性樹脂組成物全体に対して2%以上である試料3や、無機微粒子が含有されていない試料10と比較すると、線膨張係数の値が小さい、すなわち、耐熱安定性が優れていることが確認された。
【0088】
また、含有する無機微粒子に対してシラン系の表面処理剤による表面処理が施された試料1,2,5,6は、シラン系の表面処理剤による表面処理が施されていない試料9と比較すると、光線透過率の値が高い、すなわち、透明性が優れていることが確認された。
【0089】
さらに、含有する無機微粒子の熱可塑性樹脂組成物全体に対する含有量が10〜90%の範囲内である試料1,2,5,6は、10〜90%の範囲外である試料4,7と比較すると、試料4については、線膨張係数の値が大きく、耐熱安定性が劣化されていることが確認された。一方、試料7については、線膨張係数の値が非常に小さく、耐熱安定性が優れているものの、光線透過率の値が小さく、透明性が劣化されていることが確認された。
【0090】
さらに、含有する無機微粒子の体積平均分散粒子径が30nm以下である試料1,2,5,6は、体積平均分散粒子径が30nmより大きい試料8と比較すると、線膨張係数の値が小さく、光線透過率の値が大きい、すなわち、耐熱安定性及び光線透過率が優れていることが確認された。
【0091】
[実施例2]
まず始めに、無機微粒子4について説明する。
未処理のアルミナ粉体(大明化学製:TM−300、1次粒径:7nm)を、「無機微粒子4」とした。
【0092】
次に、各試料11〜14の作製方法について説明する。
まず始めに、試料11の作製方法について説明する。
100部の無機微粒子4に対して、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(東レダウケミカル製:SZ−6187)10部をトルエンに溶解させた溶液(計200部)を加え撹拌し、スラリー液を作製した。そして、二軸押出機(東洋精機製作所製:ラボプラストミル)を用いて、環状オレフィン樹脂(日本ゼオン製:ZEONEX340R)を溶融させ、各スラリー液を添加した後、混練させた。さらに、混練しながら、適当な温度で脱揮させた後、ストランドダイから押し出して切断し、ペレット化して、所定量の揮発性物質を含有する試料を作製した。
このようにして得られた試料を「試料11」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0093】
次に、試料12,13,14の作製方法について説明する。
上述した試料11の作製方法において、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン10部を溶解させる有機溶媒を、キシレン、シクロヘキサン及びテトラヒドロフランにそれぞれ変更させるとともに、混練工程における脱揮温度を変更して、試料に含有される揮発性物質量をそれぞれ変更したこと以外は、同様の方法によって試料を作製した。
このようにして得られた試料を、それぞれ「試料12」、「試料13」及び「試料14」とし、120℃の温度でホットプレスして、厚さ寸法が1mmとなるように成形した。
【0094】
その後、上述した実施例1と同様の方法により、各試料11,12,13,14における光線透過率、線膨張係数及び揮発性物質量を測定し、下記表3に示した。併せて、各測定項目における測定結果に基づいて、試料11,12,13,14に対する評価を行った。
【0095】
【表3】

【0096】
その結果、250℃の温度で2時間加熱した際に発生した揮発性物質量が熱可塑性樹脂組成物全体に対して2%以下であって、熱可塑性樹脂に環状オレフィン樹脂が含有された試料13,14は、熱可塑性樹脂に環状オレフィン樹脂が含有されていない試料11,12と比較すると、光線透過率の値は若干大きい程度であるが、線膨張係数の値は小さく、耐熱安定性及び光線透過率が優れていることが確認された。
【0097】
以上より、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物及び光学素子によれば、熱可塑性樹脂組成物を250℃の温度で2時間加熱した時点における揮発性物質の揮発量の割合が、組成物全体に対して2%以下であることにより、強度の大幅な低下や、変形及び熱膨張の発生を防止するとともに、光線透過率の向上を図ることが可能となり、これによって、耐熱安定性及び透明性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係る光学素子を対物レンズとして適用した光ディスク用のピックアップ装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0099】
7 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物において、
作製工程で添加される又は当該作製工程で前記熱可塑性樹脂若しくは無機微粒子の分解反応によって生ずる揮発性を有する揮発性物質を含有し、
前記揮発性物質は、250℃の温度で2時間加熱した時点における組成物全体に対する揮発量の割合が2%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子は、シラン系及びチタン系の表面処理剤のうち少なくとも一種の表面処理剤によって表面処理されているものを含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機微粒子は、組成物全体に対する含有率が10〜90%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機微粒子は、体積平均分散粒子径が30nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、環状オレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−299032(P2006−299032A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120910(P2005−120910)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】