説明

熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品

【課題】ウエルドラインや色ムラのない、耐衝撃性に優れた樹脂成形品が得られると共に、かかる樹脂成形品の表面に、金属層を、良好な光輝性と十分な密着強度をもって直接に形成することが出来る熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体にメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)5〜40質量%と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)50〜75質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)1〜10質量%とを含有するようにして、熱可塑性樹脂組成物を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品に係り、特に、加飾が施される加飾用樹脂成形品の成形材料として好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物と、加飾用樹脂成形品として有利に使用可能な樹脂成形品とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や各種OA機器用の熱可塑性樹脂成形品には、製品の外観や耐候性、その他の機能性を高めるために、成形品の表面に、めっき手法によりニッケルめっき層を形成し、或いは真空蒸着法やスパッタリング法等によりアルミニウム、クロムなどの金属層を形成した、所謂加飾樹脂成形品が、多く用いられている。
【0003】
ところで、近年では、表面に金属層が蒸着されてなる樹脂成形品において、成形品表面と金属層との間に形成されるベースコート層を省略し、成形品表面に金属層を直接に蒸着することによって、成形品表面への金属層の形成に際しての工程数の削減や低コスト化等を図る試みが、為されている。
【0004】
そして、例えば、下記特許文献1及び2等には、表面に金属層が直接に蒸着される熱可塑性樹脂成形品の成形材料として好適に使用可能な熱可塑性樹脂組成物が、開示されている。かかる樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形品においては、ベースコート層が、成形品表面と金属層との間に形成されていなくとも、金属層の表面において良好な光輝性が発揮され得ると共に、金属層の成形品への密着強度が十分に確保され得るのである。
【0005】
ところが、それら開示された熱可塑性樹脂組成物について、本発明者等が、様々な角度から種々検討を加えたところ、それには、以下の如き問題が内在していることが、明らかとなった。
【0006】
すなわち、特許文献1及び2に開示の熱可塑性樹脂組成物にあっては、それを用いた樹脂成形品の成形時に、ウエルドラインや樹脂の流動方向による色ムラ(色目の違い)が生じ易く、そして、そのようなウエルドラインや色ムラが生じた場合には、成形品表面に金属層を直接に蒸着したときに、金属層の表面においてウエルドラインや色むらが目立つようになり、それによって、樹脂成形品の外観が大きく損なわれるといった問題を生ずることが、明らかとなった。また、かかる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品においては、耐衝撃性に劣るものとなってしまい、そのため、例えば、自動車用部品等のように、耐衝撃性が高く、破壊形態が延性破壊となる特性が要求される樹脂成形品の成形材料としては不向きなものであることも、判明したのである。
【0007】
【特許文献1】特開2001−2869号公報
【特許文献2】特開2003−55523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き状を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂成形品を、ウエルドラインや色ムラを生ぜしめることなく有利に得ることが出来、しかも、成形された熱可塑性樹脂成形品の表面に対して金属層を直接に形成する場合にあっても、金属層表面での良好な光輝性と、金属層の成形品表面への十分な密着強度が効果的に確保し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。また、本発明にあっては、ウエルドラインや色ムラがなく、その上、金属層が、良好な光輝性と十分な密着強度とをもって、表面に有利に形成され得る樹脂成形品を提供することをも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明者等は、それらの課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ゴム質重合体にメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)とを必須成分として、それぞれ特定の割合において含む熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形品において、ウエルドラインや色むらの発生が解消されるばかりでなく、耐衝撃性が高められ、しかも、そのような樹脂成形品の表面に、ベースコート層を形成することなく、金属層を直接に蒸着したときに、金属層において、樹脂成形品表面との間にベースコート層を介在させたときと同様な優れた特性が確保され得ることを、見出したのである。
【0010】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、ゴム質重合体にメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)5〜40質量%と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)50〜75質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)1〜10質量%とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物にある。
【0011】
なお、この本発明に従う熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様の一つによれば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びこれら単量体と共重合可能なその他のビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体成分を重合してなるビニル系重合体(D)が、0質量%を超えて40質量%以下において、更に含有せしめられることとなる。
【0012】
そして、本発明にあっては、上記せる特徴を有する熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする樹脂成形品をも、その要旨とするものである。
【0013】
また、かかる本発明に従う樹脂成形品の望ましい態様の一つによれば、表面の少なくとも一部に、金属薄膜が蒸着される。
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明に従う熱可塑性樹脂組成物にあっては、ゴム質重合体にメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)とを必須成分として、それらが、それぞれ、特定の割合で含まれているところから、樹脂成形品の成形に際して、ウエルドラインや樹脂の流動方向による色むらが生ずることが、可及的に解消され得る。そのため、例えば、成形された樹脂成形品の表面に対して、ベースコート層を形成することなく、金属層を直接に蒸着した場合にあっても、ウエルドラインや色むらによって、金属層表面、ひいては成形品表面全体の外観が低下するようなことが、未然に防止され得る。
【0015】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品においては、ベースコート層が成形品表面と金属層との間に形成されていなくとも、樹脂成形品表面に直接に蒸着された金属層の表面において、良好な光輝性が発揮され得ると共に、金属層の成形品への密着強度が十分に確保され得る。
【0016】
しかも、かかる熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形品においては、耐衝撃性が有利に高められて、破壊形態が延性破壊となる特性が得られる。
【0017】
従って、かくの如き熱可塑性樹脂組成物を用いれば、自動車用部品にも好適に使用可能な耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂成形品を、ウエルドラインや色ムラを生ぜしめることなく有利に得ることが出来、しかも、成形された熱可塑性樹脂成形品の表面に対して金属層を直接に形成する場合にあっても、金属層表面での良好な光輝性と、金属層の成形品表面への十分な密着強度を効果的に確保することが出来るのである。
【0018】
そして、本発明に従う樹脂成形品にあっては、上記の如き優れた特徴を有する熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されているところから、ウエルドラインや色ムラの発生が有利に防止され得ると共に、自動車用部品等として好適に使用可能な優れた耐衝撃性が、十分に確保され得るのであり、その上、表面に金属層を直接に蒸着される場合にあっても、かかる金属層表面において良好な光輝性が発揮され得るだけでなく、樹脂成形品表面と金属層との間の密着強度が、有利に高められ得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ところで、本発明に従う熱可塑性樹脂組成物は、特定のゴム含有グラフト共重合体と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)とを必須成分として含有し、また、所定のビニル系重合体(D)を任意成分として含有するものであるが、それらの成分は、具体的には、以下に示す如きものである。
【0020】
<ゴム含有グラフト共重合体(A)>
本発明において、ゴム含有グラフト共重合体(A)とは、ゴム質重合体に、メタクリル酸アルキルエステル及び/またはアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなる共重合体である。
【0021】
ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体としては、ボリブタジエン、ブタジエンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体のような共役ジエン系重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体のようなアクリルエステル系重合体、エチレン−プロピレン又はブテン、好ましくはプロピレン−非共役ジエン共重合体、ポリオルガノシロキサン系重合体等が例示される。
【0022】
ここで、アクリル酸エステル重合体のアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられ、また、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体に含有されるジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,11−トリデカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で、或いは2種以上の複合ゴムとして用いることができる。
【0023】
ゴム質重合体は、公知の乳化重合法によりラテックス状で得ることができるが、このゴム質重合体ラテックスは、動的光錯乱法により測定される質量平均粒子径が、0.1〜0.8μmであることが好ましくは、また0.15〜0.35μmであることが、より好ましい。何故なら、ゴム質重合体ラテックスとして、質量平均粒子径が0.1μm未満であるものや、質量平均粒子径が0.8μmを超えるものが用いられる場合には、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される成形品の耐衝撃性が低下したり、また、かかる成形品の成形時に、樹脂の流動方向による色ムラ(色目の違い)が発生し易くなったりする恐れがあるからである。なお、かかるゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は0.15〜0.35μmであることが、より好ましい。
【0024】
ゴム質重合体にグラフト重合するメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が、それぞれ単独で、或いはそれら混合されて、用いられる。なお、それらのうちでも、特にメタクリル酸メチルが、好適に使用される。また、ゴム質重合体にグラフト重合するアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸nブチル等が、それぞれ単独で、或いはそれらうちの2種類以上が混合されて、用いられる。なお、それらのうちでも、特にアクリル酸メチルが好適に用いられる。
【0025】
そして、そのようなメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルのうちの少なくとも何れか一方を、ゴム質重合体にグラフト重合することで、ゴム含有グラフト共重合体(A)が得られるのであるが、それらメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルとを混合して使用する場合には、それらが、質量比で、メタクリル酸アルキルエステル/アクリル酸アルキルエステル=80〜99/20〜1となるように混合されていることが望ましい。何故なら、そのような混合比とすることで、複雑な形状の成形品を成形する際に生じ易い、樹脂の流動方向の違いによる色ムラの発生を可及的に抑制することが出来るからである。また、かかるメタクリル酸アルキルエステル/アクリル酸アルキルエステルの値は、95〜98/5〜2とされていることが、より望ましい。更に、メタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルとを混合して使用する際の好適な組合せは、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルである。
【0026】
なお、ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体の含有量は、特に限定されるものではないが、40〜80質量%であることが好ましく、特に好ましくは50〜70質量%である。何故なら、ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体の含有量が40質量%未満である場合には、ゴム質重合体の含有量が少な過ぎるために、成形品の耐衝撃性が低下し、また、かかる含有量が80質量%を超える場合にあっても、グラフト率が低下することから、成形品が耐衝撃性に劣るものとなってしまう恐れがあるからである。
【0027】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に対して5〜40質量%とされていなければならない。何故なら、ゴム含有グラフト共重合体(A)が、熱可塑性樹脂組成物中に5質量%以上の割合で含有されていることによって、初めて、かかる熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の耐衝撃性が、自動車用部品としても使用可能な程に、十分に高められ得るからであり、また、熱可塑性樹脂組成物中のゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量が40質量%以下に抑えられていることにより、樹脂成形品の耐熱性が十分に確保され得ると共に、かかる樹脂成形品の表面に蒸着によって形成される金属層において、優れた光反射性が発揮され得るようになるからである。従って、熱可塑性樹脂組成物中におけるゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量が5〜40質量%とされていることによって、自動車用部品、特に自動車用内装部品としての適性が効果的に得られることとなる。なお、熱可塑性樹脂組成物中におけるゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量は、5〜20質量%であることが望ましく、より望ましくは6〜15質量%である。
【0028】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(B)>
本発明では、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)として、2価フェノールより誘導されるもので、粘度平均分子量(ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレンを溶媒とした溶液で、Schnell の粘度式を用いて算出される値)が10000〜100000であるものが好適に使用され、また、粘度平均分子量が15000〜30000の芳香族ポリカーボネート樹脂が、更に好適に使用される。
【0029】
なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との溶液法あるいは溶融法で反応させて製造される。ここで使用する2価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]を対象とするが、その一部又は全部を他の二価フェノールで置換えてもよい。他の二価フェノールとしては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン等が、例示される。また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル又はハロホルメート等が例示され、具体的には、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメート及びこれらの混合物が、挙げられる。このような芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、適当な分子量調節剤、分岐剤、反応を促進するための触媒等も使用できる。そして、本発明では、かくして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂のうちで、例えば粘度平均分子量が互いに異なる2種以上のものを混合して、用いることも出来る。
【0030】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物中における芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に対して50〜75質量%とされていなければならない。何故なら、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)が、熱可塑性樹脂組成物中に50質量%以上の割合で含有されていることによって、成形される樹脂成形品の耐衝撃性、耐熱性が有利に向上せしめられると共に、かかる樹脂成形品の表面に直接に蒸着される金属層の光反射性が良好となるからである。また、熱可塑性樹脂組成物中の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の含有量が75質量%以下とされていることにより、成形される樹脂成形品でのウエルドラインの発生が有効に防止され得るだけでなく、かかる成形品の成形時における樹脂の流動性が良好なものとなり、しかも、樹脂成形品の表面に直接に蒸着される金属層の密着強度が有利に高められることとなるからである。なお、熱可塑性樹脂組成物中における芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の含有量は、55〜70質量%とされていることが望ましい。
【0031】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)>
本発明で使用するポリブチレンテレフタレート樹脂は、通常、テレフタル酸又はその誘導体と、1,4−ブタンジオール又はその誘導体とから重縮合反応により得られる樹脂であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、他のジカルボン酸やグリコール等を共重合しものも、用いられ得る。
【0032】
ここで、共重合可能なジカルボン酸としては、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが、例示され得る。これら共重合可能なジカルボン酸は、例えば、例示されたものの中から適宜に選択されたものが、単独で、或いは2種類以上組み合わされたものが混合されて、用いられる。
【0033】
一方、共重合可能なグリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−またはシス−2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などを挙げることができる。これら共重合可能なグリコールは、例えば、例示されたものの中から適宜に選択されたものが、単独で、或いは2種類以上組み合わされたものが混合されて、用いられる。
【0034】
また、かかるポリブチレンテレフタレート樹脂としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形体の耐衝撃性を十分に確保する上から、極限粘度が0.7〜1.50であることが好ましい。
【0035】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に対して1〜10質量%とされていなければならない。何故なら、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)が、熱可塑性樹脂組成物中に1質量%以上の割合で含有されていることによって、成形される樹脂成形品でのウエルドラインの発生が有効に防止され得るだけでなく、耐衝撃性が向上して、破壊形態が延性破壊を示すようになり、その上、かかる成形品の成形時における樹脂の流動性が良好なものとなって、色ムラの発生も、有利に抑制され得るからである。また、また、熱可塑性樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の含有量が10質量%以下とされていることにより、耐熱性の低下防止や色ムラの改善が実現され得るからである。なお、熱可塑性樹脂組成物中におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の含有量は、3〜8質量%とされていることが望ましく、より望ましくは4〜6質量%である。
【0036】
<ビニル系重合体(D)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に必要に応じて含有せしめられる任意成分としてのビニル系重合体(D)は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びこれら単量体と共重合可能なその他のビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体成分を重合してなるものである。このようなビニル系重合体(D)が含有された熱可塑性樹脂組成物にあっては、流動性が有利に高められると共に、色ムラの改善が、より効果的に図られ得る。
【0037】
ビニル系重合体(D)を形成する芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げら、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンである。芳香族ビニル系単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられ、好ましくはアクリロニトリルである。シアン化ビニル系単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
芳香族ビニル系単量体やシアン化ビニル系単量体以外の他のビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のα,β−不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物類;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のα,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類、不飽和グリシジルエステル類、不飽和グリシジルエーテル類、エポキシアルケン類、p−グリシジルスチレン類などの不飽和エポキシ化合物等が挙げられる。かかる他のビニル系単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ビニル系重合体(D)の製造方法は、例えば、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が適用される。
【0041】
ビニル系重合体(D)の質量平均分子量は50000〜300000であることが好ましい。何故なら、ビニル系重合体(D)の質量平均分子量が50000未満である場合には、成形される樹脂成形品の耐衝撃性が低下し、また、ビニル系重合体(D)の質量平均分子量が300000を超える場合には、樹脂成形品の成形時における樹脂の流動性が低下して、色ムラが生ずる恐れが大きくなるからである。なお、かかるビニル系重合体(D)の質量平均分子量は、90000〜150000であることが、更に好ましい。ここで、ビニル系重合体(D)の質量平均分子量は、ビニル系重合体(D)をテトラヒドロフランに溶解して得られた溶液を測定試料として、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)[東ソー(株)製]にを用いて測定し、標準ポリスチレン換算法にて算出した値である。
【0042】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるビニル系重合体(D)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に対して40質量%以下とされていることが、好ましい。何故なら、そのような範囲内において、ビニル系重合体(D)が熱可塑性樹脂組成物中に含まれることで、成形される成形品の耐衝撃性の低下を防止しつつ、含有されるビニル系重合体(D)の種類に応じてた様々な配合効果が、有利に得られることとなるからである。
【0043】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、任意成分として、上記せるビニル系重合体(D)以外にも、必要に応じて、各種の樹脂やエラストマー、添加剤等が、熱可塑性樹脂組成物、更にはそれを用いて成形される樹脂成形品において必要とされる物性等を損なわない範囲内で、適宜に配合される。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に任意成分として配合される樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂等のゴム強化スチレン系樹脂、或いはAS樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂(PMMA樹脂)、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン、ポリエステルエラストマー、ポリカプロラクトン、芳香族ポリエステルエラストマー、ポリアミド系エラストマー、ASグラフトポリエチレン、ASグラフトポリプロピレン等のポリエチレンワックス等が、挙げられる。これらの樹脂やエラストマーは、単独で、或いは2種類以上ブレンドされて、用いられる。また、かかる樹脂やエラストマーを、相溶化剤や官能基等により変性させた上で、熱可塑性樹脂組成物にしても良い。
【0045】
一方、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、エステル交換反応抑制剤、加水分解抑制剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料等)、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカ、タルクなどの充填剤、難燃剤、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、リン系難燃剤、フッ素樹脂などのドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコーンオイル、カップリング剤等が、単独で、或いは2種以上組み合わされて、用いられる。
【0046】
なお、本発明で用いられる必須成分や任意成分には、何れも、品質に問題がなければ、重合工程や加工工程、成形時などの工程回収品、市場から回収されたリサイクル品を用いることが出来る。
【0047】
そして、かくの如き本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記せるゴム含有グラフト共重合体(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の3種類の必須成分と、ビニル系重合体(D)を始めとした各種の任意成分とが混合されて、樹脂成形品の成形材料として使用される。このとき、それらの各成分を混合する方法は、特に制限はなく、一般的な混合方法が何れも採用され、例えば、押出機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練し、ペレット化する方法などが挙げられる。
【0048】
このように、本発明の熱可塑性樹脂組成物にあっては、必須成分として、ゴム含有グラフト共重合体(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート樹脂(C)とを特定の範囲内において含有してなるものであるところから、自動車用部品にも好適に使用可能な耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂成形品を、ウエルドラインや色ムラを生ぜしめることなく有利に得ることが出来、しかも、成形された熱可塑性樹脂成形品の表面に対して金属層を直接に形成する場合にあっても、金属層表面での良好な光輝性と、金属層の成形品表面への十分な密着強度を効果的に確保することが出来るのである。
【0049】
<樹脂成形品>
ところで、本発明に従う樹脂成形品は、上述せる熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されるものであるが、その成形方法は、何等限定されるものではない。かかる成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、真空成形法、ブロー成形法などが挙げられる。
【0050】
そして、そのよう本発明の樹脂成形品にあっては、その成形材料として、何れも、前記せるような優れた特徴を発揮する熱可塑性樹脂組成物が用いられているところから、ウエルドラインや色ムラの発生が有利に防止され得ると共に、破壊形態が延性破壊と示すような優れた耐衝撃性が、十分に確保され得るのであり、その上、表面に金属層を直接に蒸着される場合にあっても、かかる金属層表面において良好な光輝性が発揮され得るだけでなく、樹脂成形品表面と金属層との間の密着強度が、有利に高められ得るのである。
【0051】
従って、かかる樹脂成形品は、自動車、電気・電子・機械部品等の工業用品、スポーツ・レジャー用品等多くの用途に好適に用いられ、特に、環境影響に影響されず、耐衝撃性についても延性破壊を保持し、車両事故時に怪我防止につながることから、自動車用内装部品、例えば、センタクラスタ、レジスタベゼル、コンソールアッパーパネル、カップフォルダードア、ドアアームレスト、インサイドハンドル、或いはオーディオモール等のモール類として、より好適に使用され得ることとなる。
【0052】
<樹脂成形品表面への金属層の蒸着>
そして、図1に示されるように、上記の如き樹脂成形品10にあっては、例えば、その表面のうちの意匠面12に対して、金属層14が直接に蒸着されて、好適に使用される。なお、意匠面12と金属層14との間に、公知のベースコート層を形成したり、或いは金属層14の意匠面12側とは反対側の面上に、公知のトップコート層を形成したりすることも、勿論可能である。
【0053】
金属層14を意匠面12に蒸着する方法は、特に限定されるものではない。例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーディング法等の物理蒸着法(PVD法)、又は熱CVD法や、プラズマCVD法、光CVD法等の化学蒸着法(CVD法)等を利用して、金属層14が、意匠面12に対して直接に形成されるのである。
【0054】
また、金属層14を形成する蒸着物質も、何等限定されなく、かかる蒸着物質としては、例えば、アルミニウム、コバルト、クロム、金、銅、ゲルマニウム、インジウム、ニッケル、鉛、白金、シリコン、ルテニウム、チタン、錫、鉄、亜鉛、タンタル、タングステン、イットリウム及びこれら物質の混合物、酸化化合物、窒素化合物、硫化物、弗化物が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0056】
先ず、以下のようにして、3種類のゴム含有グラフト共重合体(A−1,A−2,A−3)と、2種類のビニル系重合体(D−1,D−2)とを、それぞれ調製して、所定量ずつ準備した。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(B−1)と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C−1)と、ポリエチレンテレフタレート樹脂(c−1)として、下記に示す如き市販品を、それぞれ準備した。なお、それら準備されたそれぞれの成分の各種物性は、下記の方法によって測定した。また、以下の記載中、「部」は「質量部」を意味する。
【0057】
ゴム粒子径の測定方法: 日機装(株)製:Microtrac Model:9230UPAを用いて、動的光散乱法により求めた。
【0058】
芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の分子量の測定方法:ウベローデ粘度計を用いて塩化メチレンを溶媒とした溶液で測定し、下記の式(1)に示されるSchnellの粘度式を用いて算出した。
η=1.23×Mv0.84×104 ・・・(1)
【0059】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の極限粘度の測定方法:ウベローデ粘度計を用いてフェノール/テトラクロルエタン=1/1を溶媒とした溶液で測定した。
【0060】
ビニル系重合体(D)の質量平均分子量は、ビニル系重合体(D)をテトラヒドロフランに溶解して得られた溶液を測定試料として、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)[東ソー(株)製]を用いて測定し、標準ポリスチレン換算法にて算出した。
【0061】
<ゴム含有グラフト共重合体(A−1)の製造>
先ず、ブタジエン40部とn−ブチルアクリレート60部からなる複合ゴム質重合体(平均粒子径0.22μm)ラテックス60部(ポリマー固形分)を仕込んだ反応容器に、純水100部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.22部及びN−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム0.45部を添加した。次いで、反応容器内の温度を75℃に昇温した後、メタクリル酸メチル38部、アクリル酸メチル2部、N−オクチルメルカプタン0.075部及びクメンヒドロパーオキシド0.18部からなる混合物を1.5時間にわたり連続的に滴下して重合させた。更に、1時間撹拌を続けることにより、反応を完結した。なお、滴下した単量体の重合率はそれぞれ約99.5%であった。
【0062】
次いで、得られた重合体ラテックスに酸化防止剤を添加し、その後、0.25%硫酸水溶液(ラテックスの2倍量)を添加し、85℃で5分間加熱して凝固させ、得られた樹脂固形物を洗浄・脱水後、70℃で24時間乾燥させた。それによって、白色粉末のゴム含有グラフト共重合体(A−1)を得た。なお、このゴム含有グラフト共重合体(A−1)のゴム含有量は61%、グラフト率は39%であった。
【0063】
<ゴム含有グラフト共重合体(A−2)の製造>
アクリル酸メチルの代わりにアクリル酸エチルを用いたこと以外は、ゴム含有グラフト共重合体(A−1)を製造する際と同様な操作を行って、ゴム含有グラフト共重合体(A−2)を得た。なお、ゴム含有グラフト共重合体(A−2)の重合率は99%、ゴム含有量は61%、グラフト率は41%であった。
【0064】
<ゴム含有グラフト共重合体(A−3)の製造>
メタクリル酸メチルの代わりにスチレン30部、アクリル酸メチルの代わりにアクリロニトリル10部を用いたこと以外は、ゴム含有グラフト共重合体(A−1)を製造する際と同様な操作を行って、ゴム含有グラフト共重合体(A−3)を得た。なお、ゴム含有グラフト共重合体(A−3)の重合率は99%、ゴム含有量は61%、グラフト率は45%であった。
【0065】
<ビニル系重合体(D−1)の製造>
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−ドデシルメルカプタン0.5部と、AN30部、ST70部からなるモノマー混合物を使用し、STの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応させた後、重合物を取り出して、ビニル系重合体(D−1)を得た。なお、この得られたビニル系重合体(D−1)の質量平均分子量は120000であった。
【0066】
<ビニル系重合体(D−2)の製造>
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−ドデシルメルカプタン1.0部と、AN25部、ST75部からなるモノマー混合物を使用し、STの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応させた後、重合物を取り出して、ビニル系重合体(D−2)を得た。なお、この得られたビニル系重合物の質量平均分子量は70000であった。
【0067】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(B)>
芳香族ポリカーボネート(B)として、市販品[三菱エンジニアリングプラスチック(株)製:S−3000F]を準備した。なお、この市販品である芳香族ポリカーボネート(B−1)の粘度平均分子量(Mv)は20000であった。
【0068】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂(C−1)>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(C−1)として、市販品[三菱エンジニアリングプラスチック(株)製:5020S]を準備した。なお、この市販品であるポリブチレンテレフタレート樹脂(C−1)の極限粘度は、1.24dl/g(30℃)であった。
【0069】
<ポリエチレンテレフタレート樹脂(c−2)>
ポリエチレンテレフタレート樹脂(c−2)として、市販品[三菱エンジニアリングプラスチック(株)製:GM502S]を準備した。なお、この市販品であるポリエチレンテレフタレート樹脂(c−2)の極限粘度は、0.75dl/g(30℃)であった。
【0070】
<実施例1〜7と比較例1〜8の調製>
次に、ゴム含有グラフト共重合体(A−1〜A−3)、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C−1、c−2)及びビニル系重合体(D−1、D−2)を表1、表2に示す割合で混合した。これによって、本発明に従う組成を有する7種類の熱可塑性樹脂組成物と、本発明において規定される組成とは異なる組成を有する8種類の熱可塑性樹脂組成物とを調製した。そして、本発明に従う組成を有する7種類の熱可塑性樹脂組成物を実施例1〜7とし、また、本発明において規定される組成とは異なる組成を有する8種類の熱可塑性樹脂組成物を比較例1〜8とした。
【0071】
引き続き、実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物と比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物の全てに、目視観察を容易にするためカーボンブラックを0.1部配合した。(なお、表1及び表2には、熱可塑性樹脂組成物の各成分の含有量が質量部にて示されているが、熱可塑性樹脂組成物のカーボンブラックの含有量が0.1質量部と極めて少量であるため、それら各成分の含有量は、実質的に、質量部の値と質量%の値とが略同一の値となることが、理解されるべきである。)そして、それらの各組成物(実施例1〜7、比較例1〜8)を30mm二軸押出機[(株)日本製鋼所製:TEX30α]を用いて、260℃の温度で溶融、混合して、それぞれ、ペレット化した。その後、得られた15種類のペレットを用いて、75トン射出成形機[(株)日本製鋼所製:J75EII−P]により成形温度260℃、金型温度60℃の条件で射出成形を行い、実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物と比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物からなる(全てにカーボンブラックを含む)15種類の試験片をそれぞれ成形した。そして、成形された各試験片を用いて、各熱可塑性樹脂組成物の物性(シャルピー衝撃強度、ビカット軟化温度、荷重たわみ温度、及び流動性)を下記の方法で、それぞれ測定した。それらの結果を下記表1及び表2にそれぞれ示した。
【0072】
シャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠し、測定温度23℃で測定した。ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠(A50法)し、測定荷重10N、昇温速度50℃/時間で測定した。荷重たわみ温度は、ISO 75に準拠し、測定荷重1.82MPa、昇温速度120℃/時間で測定した。流動性は、スパイラルフロー金型(幅15mm×厚さ2mm)を用いて、シリンダー温度260℃及び280℃、金型温度60℃、射出圧力100MPaの条件で、熱可塑性樹脂組成物を75トン射出成形機[(株)日本製鋼所製:J75EII−P]から射出し、スパイラル流動長(mm)を測定した。
【0073】
<樹脂成形品(センタクラスタ)の作製>
5000番の研磨紙を用いテーパ有効面が研磨された射出成形用金型と、150トン射出成形機[住友重機工業(株)製:SG150−SYCAPM IV成形機]とを用いて、上記のようにして調製された実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物と比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物とを、シリンダー温度260℃にて射出し、金型への樹脂充填時の金型温度は100℃、冷却時の金型温度は60℃として、ヒートサイクル射出成形を行った。それにより、図2及び図3に示される如き構造を有する樹脂成形品(センタクラスタ)を成形した。かくして、実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された7種類の樹脂成形品と、比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された8種類の樹脂成形品とを得た。なお、金型温度の調整には、加熱媒体としてスチームを使用し、冷却媒体として水を使用した。
【0074】
また、図2及び図3に示されるように、射出成形された15種類の樹脂成形品は、何れも、長手矩形の平板部16と、この平板部16の裏面の外周部から所定高さで突出し、且つその外周部に沿って延びるように一体的に立設された長手矩形の枠部18とを有すると共に、平板部16の中央部に長手矩形の窓部20が形成されてなる同一の形状及び構造とした。そして、平板部16の縦×横×厚さ:m1×n1×t1 を150mm×400mm×2mmとし、平板部16に設けられた窓部20の縦×横:m2×n2を100mm×200mmとした。また、平板部16の横方向に延びる上側端縁から窓部20の横方向に延びる上側端縁までの幅:wを20mmとした。更に、枠部18の厚さ:t2 を2mmとし、また、枠部18の平板部16の裏面からの突出高さ:hを18mmとした。
【0075】
<樹脂成形品の評価>
次に、かくして得られた実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる樹脂成形品と、比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる樹脂成形品とを用い、それら各樹脂成形品における色ムラやウエルドラインの発生の有無、及び耐衝撃性を、それぞれ、下記の方法にて評価した。それらの結果を、下記表1及び表2に示した。
【0076】
色ムラ:各樹脂成形品を目視により観察し、樹脂流動方向等から色ムラが発生しているか否かを確認した。色ムラが発生していないものを○とし、発生しているものを×として、それぞれ評価した。
【0077】
ウェルドライン:各樹脂成形品を目視により観察し、ウェルドラインが観察されるか否かを確認した。ウェルドラインが発生していないものを○とし、発生しているものを×として、評価した。
【0078】
耐衝撃性:各樹脂成形品を用いて、以下の要領で衝撃試験を実施した。この衝撃試験は、(株)保土ヶ谷技研製の側面二次衝撃試験機HG−1895を用いて、重さ6.8kgのヘッドフォームを10km/hの速度で、各樹脂成形品(図2中に「衝突位置」と示された部分)に衝突させて、破壊形態または、そのときの最大G及び最大荷重値と最大変位量又は破断時の変位量とを測定した。そして、ヘッドフォームを衝突させても破壊しなかったものを◎とし、衝突時に最大変位が25mm以上で延性破壊したものを○とし、25mm未満の変位で脆性破断したものを×として、それぞれ、評価した。
【0079】
<加飾樹脂成形品の作製>
次いで、先に成形された実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる樹脂成形品と、比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる樹脂成形品とを用い、それら各樹脂成形品の表面を、5000番の研磨紙にて研磨した後、かかる表面に対して、公知の真空蒸着法により、1×10-3Pa、電流値400mAで電子ビームを発生させて、アルミニウムからなる金属層(金属膜)を0.3μmの厚さで、直接に形成した。これにより、実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物からなり、且つ表面に金属層が直接に形成された7種類の加飾樹脂成形品と、比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物からなり、且つ表面に金属層が直接に形成された8種類の加飾樹脂成形品とを得た。
【0080】
<加飾樹脂成形品の評価>
その後、かくして得られた実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる加飾樹脂成形品と、比較例1〜8の熱可塑性樹脂組成物のそれぞれからなる加飾樹脂成形品とを用い、各加飾樹脂成形品における金属層表面の拡散反射率を、下記の方法で測定して、各加飾樹脂成形品の光反射性を評価した。また、各加飾樹脂成形品における金属層の密着強度や外観も、下記の方法で評価した。それらの結果を、下記表1及び表2に示した。
【0081】
拡散反射率の測定:拡散反射率(%)の測定には、(有)東京電色製のミラー反射計TR−1100ADを使用した。なお、この拡散反射率の測定結果が、3%以下であれば用途によって実用化可能なレベルであり、自動車の内装用途では、2.5%以下、特に要求されるのは2.0%以下である。
【0082】
密着強度:JIS D 0202の4.15碁盤目付着性試験方法に準拠して、碁盤目テープ剥離試験を行い、全く剥がれなかったものを○とし、剥がれが発生したものを×として、評価した。なお、この密着強度は、蒸着後に湿度50%、温度23℃で時間エージングした後に、碁盤目テープ剥離試験を行った際の密着強度(初期)と、恒温恒湿槽を使用し下記の条件(湿冷熱サイクル試験)で試験した後に、碁盤目テープ剥離試験を行った際の密着強度(ヒートサイクル後)とを、それぞれ評価した。湿冷熱サイクル試験条件:90℃×15.5時間→23℃×30分→−30℃×7.5時間→50℃95RH%→23℃×30分→−30℃×7.5時間を1サイクルとして4サイクル
【0083】
外観:各加飾樹脂成形品の外観を目視して、色ムラ、ウェルドラインが影響して、外観不良になっているか否か、また、特に湿冷熱サイクル試験後に、ふくれや剥れなどが生じているか否か等を観察して、総合的に判断し、外観に問題がなく良好なものを○とし、湿冷熱サイクル試験によって外観不良がわずかに発生するもの(用途によっては使用可能なもの)を△とし、初期及び湿冷熱サイクル試験後と合わせて外観不良となるものを×として、それぞれ評価した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
それら表1及び表2から明らかなように、本発明に従う組成を有する実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた樹脂成形品と加飾樹脂成形品の何れもが、全ての評価項目において、優れた評価が為されている。中でも、実施例2の熱可塑性樹脂組成物と実施例5の熱可塑性樹脂組成物とを用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品は、耐熱性や流動性を保持しつつ、延性破壊を示す衝撃性や拡散反射率の特性が優れていることが、確認される。
【0087】
これに対して、成分(C)の含有量が本発明の範囲外の比較例1や比較例2を用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品では、色ムラが発生するか、或いは拡散反射率が実用可能なレベルよりも大きな値となっている。また、(C)成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂(c−2)を用いた比較例4を用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品においても、色ムラが発生し、拡散反射率が劣っており、しかも、十分な耐衝撃性も得られないとの評価となっている。更に、成分(A)が本発明の範囲外の比較例3や比較例6を用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品についても、色ムラがあるだけでなく、外観の評価が×となっている。成分(B)の含有量が本発明の範囲外の比較例5や比較例8を用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品については、耐衝撃性、金属膜の密着性、外観のうちの何れかが劣っている。成分(A)の含有量が本発明の範囲外である比較例7を用いて得られた樹脂成形品や加飾樹脂成形品については、色ムラが発生し、衝撃性が低く、しかも外観も劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に従う構造を有する樹脂成形品の一実施形態を示す部分断面説明図である。
【図2】本発明に従う構造を有する樹脂成形品と従来構造を有する樹脂成形品の耐衝撃性並びに金属層の密着性等を調べるためのサンプル構造を示す正面説明図である。
【図3】図2におけるIII−III断面説明図である。
【符号の説明】
【0089】
10 樹脂成形品 12 意匠面
14 金属層 16 平板部
18 枠部 20 窓部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体にメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルをグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)5〜40質量%と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)50〜75質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)1〜10質量%とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びこれら単量体と共重合可能なその他のビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体成分を重合してなるビニル系重合体(D)を、0質量%を超えて40質量%以下において、更に含有することを特徴とする前記請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項4】
表面の少なくとも一部に、金属薄膜が蒸着されていることを特徴とする前記請求項3に記載の樹脂成形品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242445(P2009−242445A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87261(P2008−87261)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】