説明

熱可塑性重合体およびその製造方法

【課題】高度な耐熱性と無色透明性を有し、流動性および耐衝撃性に優れ、更に溶融滞留安定性に大きく優れる熱可塑性重合体を提供することを課題とする。また、その製造方法として、製造時のハンドリング性と生産性に従来より大きく優れる製造方法を提供するものである。
【解決手段】グルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体であって、前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性重合体。また、グルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な耐熱性と無色透明性を有し、従来比、流動性、耐衝撃性および溶融滞留安定性に大きく優れたグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称する)やポリカーボネート(以下、PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドランプといった自動車等の灯具部材としても使用されているが、近年、車内空間を大きくするためやガソリン燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源の間隔を小さくすること、部品の薄肉化が図られる傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性、耐候性、耐油性も要求される。
【0005】
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0007】
これらの問題点を解決する方法として、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を、押出機を用いて加熱して環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体が例えば特許文献1に開示されているが、押出機を用いて該共重合体を加熱処理して得られるグルタル酸無水物単位を有する共重合体は著しく着色するという問題があった。
【0008】
また、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する重合体溶液を真空下で加熱することによりグルタル酸無水物単位を含有する共重合体を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、これら公報に記載されている方法においては、溶媒を完全に真空下で脱溶媒するためには、高温で長時間の熱処理が必要となり、多大な労力とエネルギーが必要になるといった問題点があった。また、不飽和カルボン酸単量体を含有する重合体を溶液中で製造する際、高重合率を得るためには、重合温度を高める必要があり、重合体を溶液のまま真空下で加熱しても、得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体の着色抑制効果は十分ではなく、近年のより高度な無色性の要求を満たすものではなかった。
【0009】
そこで、特許文献3の如く、特定の不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体を特定の重合条件下で製造し、続いて該共重合体を加熱処理することにより、無色透明性と滞留安定性に優れるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体およびその製造方法が提案されている。特許文献3提案の技術によれば、得られる熱可塑性重合体の着色および滞留安定性は大いに改良されたが、光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、偏光板、導光板などの、より高性能な光学材料に使用するためには、より高度な無色透明性、流動性と耐衝撃の高度のバランス、および溶融滞留後の耐衝撃性について更なる向上が求められるとともに、いわゆるフィッシュアイ等の未溶融異物の少ない熱可塑性重合体が望まれていた。
【0010】
また、特定の重量平均分子量と分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を有し、無色透明性と耐熱性、成形性、光学等方性、耐溶剤性に優れたグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体が提案されている(特許文献4参照)。しかし、特許文献4提案の技術によっても、フィルム等の薄肉成形体用途で要求される流動性と耐衝撃性の高度のバランス、および溶融滞留後の耐衝撃性について、未だ十分ではなく、更なる向上が求められていた。
【0011】
一方、重合体の製造法に関し、一般的に、PMMA樹脂や(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合物(AC樹脂とも言う)、ポリスチレン(以下PS樹脂とも言う)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(以下AS樹脂とも言う)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(以下ABS樹脂とも言う)などは、工業的に製造される場合には、その大部分が塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造され、ごく一部が溶液重合で製造されている。
【0012】
塊状重合、懸濁重合、乳化重合は、大量に生産する場合には好都合の製造方法であるが、重合形式から容易に推察されるとおり、共重合組成、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の制御が困難である場合が多い。さらに言えば、懸濁重合、乳化重合のように、水を媒体とする重合方法では、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有する不飽和単量体を共重合することが困難であり、ポリマーに機能性や他ポリマーとの相溶性を付与することができず、機能性ポリマーとしての展開やポリマーアロイとして物理的な性質、化学的な性質を改善することを困難としていた。さらに、塊状重合、懸濁重合、乳化重合では、重合速度の制御がきわめて難しく、巨大分子量ポリマーの生成を抑制することが困難である。このため、ポリマー中には異物としてこれら巨大分子量ポリマーが混在し、フィルムや成形品に加工した際に、この巨大分子量ポリマーを核とする欠点(ブツ、フィッシュアイなど)が発生することがある。したがって、塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造されたポリマーは、透明性、均一性が高度に要求される光学用途では使用が制限されることがあるといった問題点があった。
【0013】
一方、溶液重合では、共重合組成の制御および巨大分子量ポリマーの生成抑制が比較的容易であり、前記水溶性官能基を有する不飽和単量体の共重合も可能となるが、生成した共重合体を有機溶剤溶液から分離、回収するのがきわめて困難であり、多大な労力とエネルギーが必要になるといった問題点があった。また、色調や溶融滞留安定性に悪影響を及ぼす低分子量ポリマーやオリゴマーの生成を抑制することが比較的困難であった。
【0014】
このような問題点を解決する方法として、沈殿重合で製造される重合体を含有する架橋性光学材料に関する技術が知られている(特許文献5参照)。この特許文献によれば、透明で、高屈折率かつ軽量な架橋性の光学材料が提供できるとされ、沈殿重合が「その前駆体である重合性単量体を溶解するが重合体は溶解しない溶剤に該重合性単量体を溶解し、その溶液を重合することにより、一定の重合度に達した重合体を析出物として回収する重合方法」と定義されている。
【0015】
しかしながら、特許文献5に具体的に記載された方法を単純にカルボキシル基含有アクリル系単量体を含む単量体混合物の沈殿重合に単に適用するのみでは、必ずしも共重合組成および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を精密に制御できるものではないことが判明した。
【0016】
また、非特許文献1、2には、不飽和カルボン酸単量体の共重合に関して、ベンゼンやトルエンといった芳香族基を含有する溶媒を用いた沈殿重合法が開示されている。しかしながら、本発明者等の検討によれば上記溶媒を用いて不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステルを含む単量体混合物を共重合する際、単量体混合物中での不飽和カルボン酸単量体の二量化が顕著に起こり、部分的に不均一な相を形成することや、溶媒への連鎖移動が避けられないため、生成する共重合体の共重合組成、分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を精密に制御することが困難であり、とりわけ分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が極端に大きくなるといった問題点があることが判明した。
【0017】
さらに、分散重合法で製造される重合体微粒子の製造方法が知られている(特許文献6参照)。しかし、かかる方法をカルボキシル基含有アクリル系単量体を含む単量体混合物の共重合に単純に適用するのみでは、共重合組成と分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を精密に制御することが困難であった。
【特許文献1】特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開昭60−120707号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】特開2004−002711号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献4】特開2004−292811号公報(第1−2頁、発明の詳細な説明)
【特許文献5】特開平8−217824号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平10−218935号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】Die Angewandte Makromolekuare Chemie 11(1970)p53-62
【非特許文献2】Journal of Polymer Science:Polymer Letters Edition, Vol.18(1980), p241-248
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明は、高度な耐熱性と無色透明性を有し、流動性および耐衝撃性に優れ、更に溶融滞留安定性にも大きく優れるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を提供することを課題とする。また、グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法として、従来より、製造時のハンドリング性と生産性において大きく優れる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を有するグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体が、高度な耐熱性と無色透明性を有したまま、流動性と耐衝撃性を高度に兼備し、更に溶融滞留安定性にも大きく優れることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
すなわち本発明は、
(1)(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体であって、かつ前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性重合体、
【0021】
【化1】

【0022】
(ただし、R1、R2は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
(2)前記熱可塑性重合体が、更に少なくとも(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含むことを特徴とする(1)に記載の熱可塑性重合体、
(3)前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる重量平均分子量が2000〜1000000の範囲であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱可塑性重合体、
(4)前記熱可塑性重合体を用いて厚さ100±5μmのフィルムを作製し、このフィルムを光学顕微鏡で観察して異物数を確認した際に、1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数が15個以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性重合体、
(5) 前記熱可塑性重合体が、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)に、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行うことによって得られるものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性重合体、
(6)(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)が、20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲である有機溶媒(B)中で、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸単量体からなる単量体混合物を共重合することにより得られたものである、(5)に記載の熱可塑性重合体、
(7)有機溶媒(B)が、溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有するものである、(6)に記載の熱可塑性重合体、
(8)有機溶媒(B)がケトンまたは酢酸エステルを含む(6)または(7)に記載の熱可塑性重合体、
(9)有機溶媒(B)がジイソブチルケトンを含む(8)に記載の熱可塑性重合体、
(10)有機溶媒(B)が酢酸イソアミルを含む(8)に記載の熱可塑性重合体、
(11)前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)の一次粒子の数平均粒子径が0.1〜500μmの範囲であることを特徴とする(5)〜(10)のいずれかに記載の熱可塑性重合体、
(12)前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする(5)〜(11)のいずれかに記載の熱可塑性重合体、
(13)20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲である有機溶媒(B)中で、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸単量体を含む単量体混合物を共重合して、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、前記原共重合体(A)に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応よる分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、下記一般式(1)で表される(i)グルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体を製造することを特徴とする熱可塑性重合体の製造方法、
【0023】
【化2】

【0024】
(ただし、R1、R2は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
(14)有機溶媒(B)が、溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有するものであることを特徴とする(13)に記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(15)(13)または(14)に記載の熱可塑性重合体が、(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性重合体であることを特徴とする熱可塑性重合体の製造方法、
(16)前記第一工程で用いる有機溶媒(B)がケトンまたは酢酸エステルを含む(13)〜(15)のいずれかに記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(17)有機溶媒(B)がジイソブチルケトンを含む(16)に記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(18)有機溶媒(B)が酢酸イソアミルを含む(16)に記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(19)前記原共重合体(A)のスラリーを固液分離した後、得られた原共重合体(A)のケークに水および/または有機溶媒を添加し、5〜200℃の温度で洗浄し、該洗浄液から、5〜200℃にて再度固液分離を行い、必要に応じて乾燥処理を行った後に、原共重合体(A’)を得て、原共重合体(A’)を用いて前記第二工程を行うことを特徴とする(13)〜(18)のいずれかに記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(20)前記原共重合体(A’)の数平均粒子径が1〜20000μmの範囲にあることを特徴とする(19)に記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(21)前記原共重合体(A)中に含有される(iii)不飽和カルボン酸単位量が15〜50重量%であることを特徴とする(13)〜(20)のいずれかに記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(22)前記第二工程における分子内環化反応を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする(13)〜(21)のいずれかに記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(23)連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする(22)に記載の熱可塑性重合体の製造方法、
(24)(1)〜(12)のいずれかに記載の熱可塑性重合体に更にゴム質含有重合体(C)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、および
(25)(1)〜(12)のいずれかに記載の熱可塑性重合体または(24)に記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融加工してなる成形品またはフィルムである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱可塑性重合体は、高度な耐熱性と無色透明性を有し、従来比、流動性および耐衝撃性に優れ、更に溶融滞留安定性において大きく優れる。また、本発明の製造法によれば、製造時のハンドリング性と生産性に従来より大きく優れる。従って、本発明の熱可塑性重合体は、光学材料を初めとし、機械関連部品、精密機械関連部品、電気機器のハウジング、情報機器関連部品等の多種多様な用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の熱可塑性重合体および熱可塑性重合体の製造方法について具体的に説明する。
【0027】
本発明の熱可塑性重合体とは、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体であって、前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性重合体である。
【0028】
【化3】

【0029】
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0030】
本発明の熱可塑性重合体は、好ましくは、下記一般式(2)で表される(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性重合体であって、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位は一種または二種以上を用いることができる。
【0031】
【化4】

【0032】
(ただし、R3は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R4は無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0033】
本発明の熱可塑性重合体を得る方法としては特に制限はないが、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および下記一般式(3)で表される(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)に、更に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行うことによって得ることが好ましい。
【0034】
【化5】

【0035】
(ただし、R5は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0036】
また、前記原共重合体(A)を得る方法としては特に制限はないが、下記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および下記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸単量体からなる単量体混合物を共重合することにより得ることが好ましい。すなわち、前記方法では、原共重合体(A)中に含まれる(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位は下記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の共重合により誘導され、原共重合体(A)中に含まれる(iii)不飽和カルボン酸単位は下記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸単量体から誘導される。
【0037】
【化6】

【0038】
(ただし、R6は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R7は無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0039】
【化7】

【0040】
(ただし、R8は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0041】
この際の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては特に制限はないが、これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は置換基を有する該炭化水素基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが好ましく、具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。
【0042】
中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種以上の混合物であってもよい。
【0043】
不飽和カルボン酸単量体単位としては特に制限はないが、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体としては、上記一般式(5)で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物、およびこれら不飽和カルボン酸単量体の金属塩等が挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0044】
また、原共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体単位を含むことができる。この際に、原共重合体(A)中のその他のビニル系単量体単位は、その他のビニル系単量体を共重合することにより導入されることが好ましい。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリン酢酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル、アリルアルコール、メタリルアルコール、およびα−メチレン−γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0045】
本発明の熱可塑性重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.0〜3.0の範囲であり、熱可塑性重合体の流動性の観点から、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の下限は好ましくは2.05以上であり、より好ましくは2.25以上、特に好ましくは2.30以上である。本発明の熱可塑性重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0未満では、流動性が低下し、溶融時の溶融粘度が高くなる傾向にある。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0以上を有することによって、熱可塑性重合体の流動性および溶融滞留時の衝撃強度保持率が向上するという効果を発現する。一方、本発明の熱可塑性重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の上限は、好ましくは2.95以下であり、より好ましくは2.9以下であり、更に好ましくは2.85以下であり、特に好ましくは2.80以下である。本発明の熱可塑性重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が3.0を越える場合、耐衝撃性および溶融滞留後の耐衝撃強度保持率が低下する傾向にある。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を本発明の特定の範囲に制御することにより、本発明の熱可塑性重合体は、高度な耐熱性と無色透明性を有しながら、特に良流動と高衝撃を高度に兼備し、更には溶融滞留後の耐衝撃性維持を含めた溶融滞留安定性において大きく優れるという特徴を有する。尚、本発明における分子量分布とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定し、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出するものである。
【0046】
本発明の熱可塑性重合体を得る製造方法としては、特に制限はないが、共重合を行って原共重合体(A)を得て、次いで、前記原重合体(A)に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行う方法を好ましく挙げることができる。原共重合体(A)を共重合により得る際の重合反応の伝達体としてはイオン、ラジカル等が挙げられるが、好ましくはラジカルである。重合方法としては、特に制限はなく、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合、沈殿重合等の重合法、および塊状懸濁重合のように公知の重合法の組み合わせが好ましく用いられる。これら重合は回分式、連続式のいずれでもよい。また、例えば超臨界二酸化炭素等の超臨界流体中での重合も用いることができる。特に本発明の熱可塑性重合体中の異物、特に未溶融ポリマー等を減少し、光学材料用途で求められる低異物を達成するという観点から塊状重合、溶液重合、沈殿重合およびこれら重合法の組み合わせが好ましく、更に生成した原共重合体(A)の分離と回収におけるハンドリング性を考慮すれば、沈殿重合が最も好ましい。沈殿重合とは、例えば、原共重合体(A)の原料である単量体混合物は溶解するが、かつ、原共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である溶媒中で重合をするものと定義することができるが、20℃の温度における水への溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲である特定の有機溶媒(B)を用いて行う沈殿重合が、原共重合体(A)の分子内環化反応により得られる熱可塑性重合体の特性、特に流動性、耐衝撃性および溶融加工時の耐衝撃性保持の観点からとりわけ好ましい。
【0047】
従って、本発明の熱可塑性重合体の好ましい製造法としては、20℃における水1Lに対する溶解度が、0.1〜6.0dl/gの範囲にある有機溶媒(B)中で共重合を行って原共重合体(A)を得て、次いで、前記原共重合体(A)に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行う方法を挙げることができる。また、前記有機溶媒(B)は、その溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有することがより好ましい。
【0048】
ここで、原共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を特定の範囲に制御し、かつ、原共重合体(A)から、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応により共重合体を製造する際に、分子内環化反応時の副反応および/または分解により引き起こされる、巨大分子量体および/または低分子量体の生成が原因となる分子量分布の増大を防ぎ、熱可塑性重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を特定範囲に制御する観点から、有機溶媒(B)の20℃における水1Lに対する溶解度としては、同溶解度の上限が6.0g/L以下であり、好ましくは5.0g/L以下であり、より好ましくは3.0g/L以下であり、更に好ましくは2.8g/L以下であり、特に好ましくは2.3g/L以下であり、最も好ましくは2.1g/L以下である。また、熱可塑性重合体の溶融滞留安定性の観点から、有機溶媒(B)の20℃における水への溶解度の下限は、0.1g/L以上であり、0.2g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.3g/L以上であり、更に好ましくは0.4g/L以上であり、特に好ましくは0.5g/L以上である。また、300℃以上の高温における溶融滞留安定性の観点から、同溶解度の下限は、最も好ましくは1.0g/L以上の範囲である。
【0049】
更に、より高度なレベルの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の制御を達成する観点から、有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの上限は好ましくは、16.7MPa1/2以下であり、より好ましくは16.6MPa1/2以下であり、更に好ましくは16.5MPa1/2以下であり、特に好ましくは16.4MPa1/2以下であり、最も好ましくは16.1MPa1/2以下である。また、溶解度パラメーターの下限は、14.0MPa1/2以上であり、より好ましくは14.5MPa1/2以上であり、更に好ましくは15.0MPa1/2以上であり、特に好ましくは15.2MPa1/2以上であり、最も好ましくは15.4MPa1/2以上である。
【0050】
また、本発明の有機溶媒(B)を用いることで、原共重合体(A)の重合時の反応容器壁部、反応容器底部、および攪拌翼等への析出ポリマーの付着、および析出ポリマー同士の合着による粗大化を高度に防止することが可能となる。更には、原共重合体(A)を粉体として極めて容易に取り出すことができる。重合後の原共重合体(A)スラリーの固液分離を行った後の原共重合体(A)の粒子の回収において、有機溶媒(B)の効果により、原共重合体(A)の粒子の分散性が大きく向上する。また、前記の原共重合体(A)の分散性および粉体としての大気中への舞い上がり防止の観点から、有機溶媒(B)の沸点としては、特に制限はないが40℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、特に好ましくは128℃以上であり、最も好ましくは132℃以上である。
【0051】
本発明では、有機溶媒(B)を使用して、原共重合体(A)を製造することで、上記のような効果が得られるとともに、得られた原共重合体(A)に分子内環化反応せしめて得られる熱可塑性重合体に含まれる異物の数を非常に低いレベルに押さえることができる。
【0052】
また、本発明の熱可塑性重合体に関し、その厚さ100±5μmのフィルムにおいて、このフィルムを光学顕微鏡で観察して異物数を確認した際に、無作為に10カ所の点で観察、異物数のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)として評価した場合の1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数は、特に制限はないが、15個以下であることが好ましく、より好ましくは10個以下であり、更に好ましくは3個以下、特に好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。ここで、厚さ100±5μmのフィルムは溶液製膜および溶融製膜により作製することができる。例えば、溶液製膜の方法は、本発明の熱可塑性重合体をメチルエチルケトンに濃度25重量%で、室温で24時間攪拌しながら溶解させ、得られた熱可塑性重合体溶液をガラス板上に流延した後、50℃で20分、次いで80℃で30分乾燥処理を行い、厚さ100±5μmのフィルムを作成するというものである。また、このフィルムを光学顕微鏡で観察して異物数を確認した際に、1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数をカウントする際には、1サンプルあたり、無作為に10カ所の点で観察、異物数のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)とし評価する。異物の確認に用いる光学顕微鏡としては具体的に微分干渉型反射顕微鏡(ニコン社製 ECLIPSE LV100D)を挙げることができ、前記光学顕微鏡により、厚さ100±5μmのフィルムの表面を観察し、内部の異物由来の凹凸数を異物数としてカウントする。
【0053】
本発明における異物とは、製造工程で外部から混入した無機物や有機物といった外乱異物と本発明の原共重合体(A)の製造時に生成した巨大分子量体や低分子量化合物等の副生成物をはじめとした不溶成分および/または非溶融成分、および原共重合体(A)から分子内環化反応により熱可塑性重合体を得る際に生成した巨大分子量体や低分子量化合物等の副生成物をはじめとした不溶成分および/または非溶融成分のうち、少なくとも1種である。ここで、外部から混入した外乱異物を除く異物に関して、光学顕微鏡を用いた同様の確認法で評価した際に、無作為に10カ所の点で観察、異物数のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)として評価した場合の1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数は、特に制限はないが、10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下であり、更に好ましくは1個以下、特に好ましくは0.5個以下、最も好ましくは0個である。異物について、外部から混入した外乱異物を除く異物とそれ以外を見分ける方法としては、例えば、個々の異物について顕微IRを測定し、特性吸収を確認する方法が挙げられる。
【0054】
また、本発明の熱可塑性重合体は、重量平均分子量(以下Mwとも呼ぶことがある)が、好ましくは2000〜1000000であり、より好ましくは2000〜200000である。本発明の熱可塑性重合体のフィルムを溶融製膜により効果的に作製する観点と、流動性の観点から、Mwの上限としては90000であることがより好ましく、更に好ましくは上限が80000であり、特に好ましくは上限が70000である。また、Mwの下限は、耐衝撃性と溶融滞留安定性の観点から3000であることがより好ましく、更に好ましくは5000であり、特に好ましくは10000である。
【0055】
尚、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0056】
本発明の熱可塑性重合体の溶融粘度は特に制限はないが、プランジャー式キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所製 キャピログラフ タイプ1C)を用いて、ガラス転移温度+150℃の温度で測定し、せん断速度5秒−1に外挿して得たせん断速度5秒−1における溶融粘度(Pa・s)が、10〜100000Pa・sの範囲であることが好ましく、溶融製膜性と溶融濾過性の向上の観点からより好ましくは、100〜10000Pa・sの範囲であり、更に好ましくは100〜5000Pa・sの範囲であり、特に好ましくは100〜2000Pa・sの範囲である。
【0057】
本発明の(i)グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法は、以下に示す2つの工程により製造されることが好ましい。すなわち、後の工程により(i)グルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体及び不飽和カルボン酸単量体と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体とを共重合させ、原共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、続いて、かかる原共重合体(A)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で、好ましくは加熱せしめることにより、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコールによる分子内環化反応を行わせる工程(第二工程)からなる製造方法である。この場合、典型的には、原共重合体(A)を加熱することにより2単位の(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水され、あるいは、隣接する(iii)不飽和カルボン酸単位と(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の前記(i)グルタル酸無水物単位が生成される。また、(i)グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造において、そのハンドリング性と生産性の向上の観点から、20℃における水1Lに対する溶解度が、0.1〜6.0dl/gの範囲にある有機溶媒(B)中で共重合を行って原共重合体(A)を得て、次いで、前記原共重合体(A)に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行う方法が特に好ましい。有機溶媒(B)の20℃における水1Lに対する溶解度としては、重合時と洗浄時において攪拌翼や反応容器への原共重合体(A)の付着、原共重合体(A)同士の合着を防ぎ、ハンドリング性と生産性を向上させる観点と、共重合後に得られる原共重合体(A)中の副生成物を除去し、分子内環化反応時の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の増大を抑制する観点、および必要に応じて好ましく実施できる洗浄、すなわち原共重合体(A)の水および/または有機溶媒による洗浄を行う場合の効果を高める観点から、同溶解度の上限は、好ましくは5.0g/L以下であり、より好ましくは3.0g/L以下であり、更に好ましくは2.8g/L以下であり、特に好ましくは2.3g/L以下であり、最も好ましくは2.1g/L以下である。また、有機溶媒(B)の20℃における水への溶解度の下限は、0.1g/L以上であり、0.2g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.3g/L以上であり、更に好ましくは0.4g/L以上であり、特に好ましくは0.5g/L以上である。
【0058】
第二工程を経て得られる共重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)を好ましく制御し、これにより本発明の種々の効果を発現するといった観点から、第一工程における重合方法については、重合開始剤の存在下あるいは非存在下で、20℃における水1Lに対する溶解度が、本発明の特定の範囲にある有機溶媒(B)中で重合することが好ましく、より好ましくは、溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有する有機溶媒(B)中で重合することである。本発明の有機溶媒(B)を用いれば、本発明の原共重合体(A)は、該共重合体(A)の原料である単量体混合物を含む均一な有機溶媒相から、重合反応が進行するに従い、析出・沈殿してくる、いわゆる「沈殿重合法」で得ることができるが、特定の有機溶媒(B)を用いた沈殿重合により得た原共重合体(A)は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が特定の範囲に制御され、かつ、該原共重合体(A)に(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコールによる分子内環化反応せしめて得られる共重合体においても分子量分布が特定の範囲に制御することができる。尚、原共重合体(A)は、重合後のスラリー溶液を濾過、遠心分離等の固液分離および乾燥することにより、該原共重合体(A)を単離することができる。
【0059】
本発明の有機溶媒(B)としては、ジイソブチルケトン、メチルノニルケトン(2−ウンデカノン)、メチルヘキシルケトン、メチルアミルケトン(2−ヘプタノン)、メチルイソアミルケトン、メチル−sec−アミルケトン、エチルアミルケトン、プロピルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、4,6−ジメチル−2−ヘプタノンおよびイソブチルイソプロピルケトン等のケトン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ブチルエーテル、プロピルエーテルおよびジヘキシルエーテル等のエーテル、酢酸イソアミル、酢酸−sec−アミル(酢酸1−メチルブチル)、酢酸2−メチルブチル、酢酸1,3−ジメチルブチル、酢酸1−メチルアミル、酢酸2−メチルアミルおよび酢酸3−メチルアミル等の酢酸エステルのほか、蟻酸イソアミル、蟻酸−sec−アミル、蟻酸2−メチルブチル、蟻酸1−メチルアミル、蟻酸2−メチルアミルおよび蟻酸3−メチルアミル等の蟻酸エステル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸−sec−ブチル、イソ酪酸アミルおよびイソ酪酸イソアミル等のイソ酪酸エステル、酪酸イソアミル、酪酸−sec−アミル、酪酸−2−メチルブチル、酪酸1−メチルアミル、酪酸2−メチルアミルおよび酪酸3−メチルアミル等の酪酸エステル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、吉草酸イソブチル、吉草酸−sec−ブチル、吉草酸アミル、吉草酸イソアミル、吉草酸−sec−ブチル、吉草酸2−メチルブチル、吉草酸1−メチルアミル、吉草酸2−メチルアミルおよび吉相酸3−メチルアミル等の吉草酸エステル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸ブチル、イソ吉草酸イソブチル、イソ吉草酸−sec−ブチル、イソ吉草酸アミル、イソ吉草酸イソアミル、イソ吉草酸−sec−ブチル、イソ吉草酸2−メチルブチル、イソ吉草酸1−メチルアミル、イソ吉草酸2−メチルアミルおよびイソ吉草酸3−メチルアミル等のイソ吉草酸エステル、2−エチル酪酸イソブチル、オクタン酸エチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブトキシエチル、ステリアン酸ブチル、イソステリアン酸ブチル、およびラウリルアルコール等の炭素数12以上を有する直鎖状または分岐状のアルコールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも前記ケトン、前記エーテルおよび前記エステルのうち少なくとも1種を好ましく用いることができ、より好ましくはケトンおよび/またはエステルであり、特に好ましくはケトンおよび/または酢酸エステルである。
【0060】
前記ケトンを用いた場合、共重合時の重合容器への高度の合着抑制の観点から好ましい。
【0061】
前記酢酸エステルを用いた場合、本発明の熱可塑性重合体の高温での溶融滞留安定性、すなわち300℃以上での黄色度保持率の観点から好ましい。また、前記ケトンと前記酢酸エステルを併用することにより、共重合時の重合容器への高度の合着抑制と、熱可塑性重合体の高温での溶融滞留安定性向上を高度に両立することができる。この際の前記ケトンと前記酢酸エステルの混合比としては、特に制限はないが、前記ケトン5〜95重量%および前記酢酸エステル95〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは前記ケトン10〜90重量%および前記酢酸エステル90〜10重量%である。
【0062】
有機溶媒(B)として用いるケトンとしては、ジイソブチルケトン、メチルノニルケトン、4,6−ジメチル−2−ヘプタノン、4,6−ジメチル−5−ヘプタン−2−オン、メチルイソアミルケトン、およびジイソプロピルケトンのうち少なくとも1種が特に好ましく、最も好ましくはジイソブチルケトンである。本発明においてジイソブチルケトンとは、ジイソブチルケトン、またはジイソブチルケトンとジイソブチルケトンの一種以上の異性体との混合物を指し、例えば、ジイソブチルケトンと4,6−ジメチル−2−ヘプタノンとの混合物を挙げることができる。4,6−ジメチル−2−ヘプタノンはジイソブチルケトンの異性体として含まれることが多く、これらの混合比率は特に制限はない。また、ジイソブチルケトンは、その生成時に残存する可能性のある化合物、例えば、4,6−ジメチル−5−ヘプタン−2−オン、メチルイソブチルケトン、1,3,5−トリメチルベンゼン、メチルアミルアルコール、メチルイソブチルカービノール、ジイソブチルカービノールおよびこれらの異性体を含むことができる。
【0063】
有機溶媒(B)として用いる酢酸エステルとしては、酢酸イソアミル、酢酸−sec−アミル(酢酸1−メチルブチル)および酢酸2−メチルブチルのうち少なくとも1種であることがより好ましく、特に好ましくは酢酸イソアミルである。本発明において、酢酸イソアミルとは酢酸3−メチルブチル、または酢酸3−メチルブチルと酢酸2−メチルブチルの混合物、または酢酸3−メチルブチルとその他の異性体との混合物を指す。酢酸イソアミルが酢酸3−メチルブチルと酢酸2−メチルブチルとの混合物である場合に、この混合比は特に制限はなく、酢酸3−メチルブチルの含有比率が極めて少ないもの、酢酸2−メチルブチルの含有比率が極めて少ないものの何れでもよく、また、混合比は適宜調整可能であるが、例えば、酢酸3−メチルブチル1〜99重量%と酢酸2−メチルブチル99〜1重量%の混合物を挙げることができ、入手性の観点から好ましくは酢酸3−メチルブチル50〜90重量%と酢酸2−メチルブチル50〜10重量%の混合物を挙げることができる。酢酸イソアミルは、本発明の効果を損なわない範囲内において酢酸、酢酸アミルを含んでもよい。酢酸イソアミルの製法には特に制限はなく、酢酸イソアミルの原料としてイソアミルアルコールを用いる場合、イソアミルアルコールは有機合成により得たものであっても、植物由来のものであってもよい。イソアミルアルコールは、3−メチルブタノールであっても、3−メチルブタノールと2−メチルブタノールの混合物であってもよく、また、1−メチルブタノール、アミルアルコールを含んでもよい。
【0064】
また、有機溶媒(B)は、20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲に維持される混合比であれば、有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒を含むことができる。また、有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒を含んだ場合の有機溶媒の溶解度パラメーターは、14.0〜16.7MPa1/2の範囲に維持されることが好ましい。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、アルコール、アルデヒド、ラクトン、芳香族化合物、極性非プロトン溶媒、カーボネート化合物、ハロゲン系化合物から選ばれる1種以上を挙げることができる。中でも、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上が好ましい。その他の有機溶媒として添加できる脂肪族炭化水素としては、炭素数が5〜10の直鎖状炭化水素、側鎖を有する脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素を挙げることができる。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、イソノナン、n−デカン、2,4−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタンおよびこれらの種々の異性体を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。その他の有機溶媒として添加できるカルボン酸エステルとしては、飽和脂肪族カルボン酸および飽和アルコールからなるエステルが挙げることができ、飽和カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを、また飽和アルコールとしては炭素数1〜10で直鎖状および分岐状のものを挙げることができる。その他の有機溶媒として添加できるカルボン酸エステルとしては、蟻酸−n−プロピル、蟻酸イソプロピル、蟻酸−n−ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル(蟻酸−n−ペンチル)、蟻酸−n−ヘキシル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル、トリアセチン、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸1−メトキシ−2−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−tert−ブチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル、酢酸アミル、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−n−ヘプチル、酢酸−n−オクチル、酢酸−n−ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸−n−ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸−n−ブチル、酪酸イソブチル、酪酸アミル、酪酸−n−ヘキシル、およびこれらの種々の異性体等を好ましく挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるケトンとしては、炭素数1〜10で直鎖状および分岐状の飽和脂肪族基からなるケトンであり、具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセチルアセトン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン、アセトフェノン、イソホロン、およびシクロヘキサノンなどを挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるエーテルとしては、ジフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、およびジエチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert−ブタノール、3−メトキシブタノール、1,3−ブタンジオール、アリルアルコール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、メチルアミルアルコール、ヘプタノール、イソヘプタノール、オクタノール、イソオクタノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、メチルイソブチルカービノール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、ジイソブチルカービノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、イソデカノール、イソトリデカノール、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,4−ジエチルペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、オクタンジオール等のジオールおよびこれらの異性体等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できる芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるラクトンとしては、γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−ブチロラクトン等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できる極性非プロトン溶媒としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキシド、アセトニトリル等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるカーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できるハロゲン系化合物としては、有機溶媒(B)および前記した有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒として添加できる脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、アルコール、芳香族化合物、極性非プロトン溶媒、カーボネート化合物、ハロゲン系化合物から選ばれる1種以上のハロゲン化物のほか、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ヘキサフルホロイソプロパノール等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。
【0065】
有機溶媒(B)としてケトンを用いた場合、本発明の熱可塑性重合体または熱可塑性樹脂組成物の製造時に押出機、製膜機等の溶融プロセスを経る際に、パスタイム減少、押出吐出量の増大による生産性向上と、発生ガス量の減少を目的とする場合には、溶融プロセスの温度として、好ましくは300℃以上、より好ましくは310℃以上、更に好ましくは320℃以上、特に好ましくは325℃以上の高温に設定することが好ましいが、300℃以上の高温での処理においては、300℃未満の処理時と比較して、黄色度保持率が低下する傾向にあった。有機溶媒(B)として、前記のエステル、より好ましくは酢酸エステル、更に好ましくは酢酸イソアミルを用いた場合、300℃以上の高温での処理においても、黄色度保持率に優れるが、有機溶媒(B)としてケトンを用いた場合には、300℃以上の高温処理における、黄色度保持率向上の観点から、更に、有機溶媒(B)としてのエステル、エーテル、アルコールから選ばれる少なくとも一種を混合することが好ましく、特に好ましくは有機溶媒(B)としての酢酸エステルであり、中でも酢酸イソアミルが最も好ましい。有機溶媒(B)としてのケトンと、有機溶媒(B)としてのエステル、エーテル、アルコールから選ばれる少なくとも一種との混合割合としては、特に制限はないが、エステル、エーテル、アルコールから選ばれる少なくとも一種が1〜99重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜95重量%であり、更に好ましくは30〜90重量%である。
【0066】
また、20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲に維持される混合比内であれば、有機溶媒(B)以外のその他のケトン、カルボン酸エステル、エーテル、アルコールおよび芳香族から選ばれる少なくとも一種も、本発明の熱可塑性重合体の300℃以上の高温処理における黄色度保持率の向上の観点から、好ましく用いることができる。これら有機溶媒(B)以外のその他のケトン、カルボン酸エステル、エーテル、アルコールおよび芳香族から選ばれる少なくとも一種としては、有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒を例示した頁に挙げたものが好ましいが、より好ましくは、カルボン酸エステルおよびアルコールであり、中でも好ましくは、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル、および酢酸アミルのうち少なくとも1種を挙げることができる。好ましい混合比は、混合後の有機溶媒の20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲に維持される範囲内であれば、特に制限はないが、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の増大化の抑制の観点から、前記カルボン酸エステルの含有量の上限は、80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下であり、更に好ましくは40重量%以下であり、特に好ましくは30重量%以下であり、最も好ましくは20重量%以下である。
【0067】
また、本発明では、有機溶媒(B)は、本発明の効果を損なわない範囲において、酢酸等の遊離酸、各種安定剤、水分等を含むことができる。
【0068】
なお、本発明の製造方法において沈殿重合する際、その重合反応系に水を添加すると共重合組成の精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極く少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが好ましい。
【0069】
第一工程における重合温度については、任意に設定することが可能であるが、180℃以下の重合温度で重合することが好ましく、120℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、40℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から20〜720分間の範囲が好ましく、より好ましくは30〜420分間の範囲であり、更に好ましくは60〜240分間の範囲である。また、第一工程における、重合液中の溶存酸素濃度は、特に制限はないが、加熱処理後の共重合体の無色透明性の観点から好ましくは1000ppm以下であり、重合液中の溶存酸素濃度は0ppmあるいは0ppmに限りなく近いことが特に好ましいが、本発明では、第一工程の重合液中の溶存酸素濃度が5ppmを超える場合であっても、無色透明性、滞留安定性、熱安定性に優れた共重合体を得ることができる。尚、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を低下させる方法としては、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0070】
第一工程である原共重合体(A)の製造時に用いられる不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および必要に応じて共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体混合物の好ましい割合は特に制限はないが、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体が5〜80重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは15〜50重量%、最も好ましくは20〜45重量%の範囲であり、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は好ましくは20〜95重量%、より好ましくは50〜95重量%、更に好ましくは50〜90重量%、特に好ましくは50〜85重量%、最も好ましくは55〜80重量%の範囲であり、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%であり、最も好ましい割合は0〜5重量%である。不飽和カルボン酸系単量体量が5重量%未満の場合には、原共重合体(A)の加熱による(i)グルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、(ii)不飽和カルボン酸系単量体量が80重量%を超える場合には、原共重合体(A)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0071】
また、これらの単量体混合物は、有機溶媒中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、生成する原共重合体(A)を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0072】
本発明では重合開始剤は必ずしも必要ではないが、重合開始剤を使用することが好ましく、重合開始剤としては、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0073】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物量に対して、0.001〜4.0重量部が好ましく、とりわけ0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0074】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0075】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンおよびn−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0076】
本発明において好ましい重合溶媒である有機溶媒(B)中で共重合することにより得られた原共重合体(A)を含む有機溶媒スラリーに関し、共重合が終了した段階のスラリーにおいて、前スラリーの全重量に占める原共重合体(A)の割合は特に制限はないが、生産性の観点から5重量%以上であることが好ましく、より好ましくは7重量%以上であり、更に好ましくは10重量%以上であり、特に好ましくは14重量%以上であり、最も好ましくは15重量%以上である。
【0077】
また、前記有機溶媒スラリーは、例えば、遠心分離機により固液分離することにより、原共重合体(A)と有機溶媒(B)とを分離・分別でき、さらに必要であれば、有機溶媒(B)を数%程度含有する原共重合体(A)を棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しない原共重合体(A)を製造することも可能である。
【0078】
もっと簡便には、可能であれば、スプレードライヤーにより原共重合体(A)を回収すると同時に、乾燥ポリマーとし、有機溶媒(B)を回収することもできる。
【0079】
また、本発明の原共重合体(A)は、前記好ましい態様の製造方法において、重量平均分子量(以下Mwと呼ぶことがある)が好ましくは2000〜1000000であり、より好ましくは2000〜200000である。原共重合体(A)の流動性とそれを分子内環化反応してなる本発明の熱可塑性樹脂、および更にゴム質重合体(C)を添加してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の溶融加工時の流動性の観点から、Mwの上限としては90000であることがより好ましく、更に好ましくは上限が80000であり、特に好ましくは上限が70000である。また、Mwの下限は、耐衝撃性と溶融滞留安定性の観点から3000であることがより好ましく、更に好ましくは5000であり、特に好ましくは10000である。Mwが2000未満の場合には、耐衝撃性が低下する傾向にある。Mwが1000000を超える場合には、溶融加工時に、十分に溶融、または溶解しない高分子量物が成形体中に異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。
【0080】
前記原共重合体(A)の一次粒子の数平均粒子径は特に制限はないが、重合中の重合溶媒(B)による粒子中の残存モノマーおよびオリゴマーの抽出効果の向上および重合後の粒子の乾燥効率の向上の観点から、0.1〜5000μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜500μmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜10μmの範囲であり、特に好ましくは0.1〜5.0μmの範囲であり、最も好ましくは0.1〜2.0μmの範囲である。上記範囲の数平均粒径の原共重合体(A)は、分子内環化反応を実施する第二工程に先立って必要に応じ好ましく実施される水での洗浄において、洗浄効率が向上するという利点も有する。
【0081】
また、本発明の原共重合体(A)の分子量分布は特に制限はないが、次に続く分子内環化反応により、分子量分布が2.0〜3.0の範囲である本発明の熱可塑性重合体を得るという観点から、2.0〜3.0の範囲が好ましく、分子量分布の下限は好ましくは2.05以上であり、より好ましくは2.25以上、更に好ましくは2.3以上である。一方、本発明の原共重合体(A)における分子量分布の上限は、好ましくは2.95以下であり、より好ましくは2.9以下であり、更に好ましくは2.85以下であり、特に好ましくは2.8以下であり、最も好ましくは2.75以下である。原共重合体(A)の分子量分布を上記範囲に制御するには、有機溶媒(B)中で重合を行うことが好ましい。本発明の原共重合体(A)の分子量分布が2.0未満では、流動性が低下し、溶融加工時の溶融粘度が高くなる傾向にある。本発明の原共重合体(A)の分子量分布が3.0を越える場合、分子内環化反応を経て得られる熱可塑性重合体の分子量分布は大きく増大する傾向にある。
【0082】
また、原共重合体(A)のシーケンスとしては、分子内環化反応後の分子量分布の増大を抑制するといった観点から、両隣が共に(iii)不飽和カルボン酸単位である(iii)不飽和カルボン酸単位の、全(iii)不飽和カルボン酸単位数に占める割合は、特に制限はないが、分子内環化反応後の分子量分布の増大を抑制し、本発明の熱可塑性樹脂組成物の分子量分布を2.0〜3.0の範囲に制御するといった観点から、90%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以下であり、更に好ましくは50%以下であり、特に好ましくは30%以下であり、最も好ましくは20%以下である。このようなシーケンスを有する原共重合体(A)を得る方法としては、特に制限はないが、有機溶媒(B)中で沈殿重合を行うことが好ましい。シーケンスの確認方法としては、13C−NMRを用いた方法を好ましく用いることができる。
【0083】
本発明においては、第一工程において得られた、本発明の特定の有機溶媒(B)中で共重合した原共重合体(A)を含む有機溶媒スラリー(以下原共重合体(A)スラリーと呼ぶことがある)を、第二工程で分子環化反応せしめるのに先立ち、以下の洗浄工程を実施することができる。すなわち、原共重合体(A)スラリーを固液分離した後、得られた原共重合体(A)のケーク(洗浄工程に用いる際の原共重合体(A)のケークは好ましくは有機溶媒(B)を含む)に水および/または有機溶媒を添加して洗浄し、該洗浄液から再度固液分離を行い、原共重合体(A’)を得て、次いで、原共重合体(A’)を用いて前記第二工程を行うというものである。尚、本洗浄は製造工程の簡略化の観点から1回であることが好ましいが、必要に応じて、水および/または有機溶媒により複数回実施することができ、有機溶媒での洗浄と水での洗浄を交互に実施することもできる。本発明では、洗浄後の粒径制御と固液分離後の分散性、乾燥効率、乾燥後の分散性の観点から、少なくとも水で洗浄することが好ましい。洗浄に使用する有機溶媒としては、原共重合体(A)の該有機溶媒に対する溶解度が1g/100ml以下のものが好ましく、単独溶媒、混合溶媒を問わないが、洗浄を経て得られる原共重合体(A’)の固液分離、乾燥時等におけるハンドリング性と乾燥効率、および本発明の熱可塑性重合体、熱可塑性樹脂組成物の高温溶融滞留安定性、300℃以上の高温での黄色度保持率の向上の観点から、水に対する溶解度が特定の範囲にある有機溶媒(B)が最も好ましく、また、本発明の熱可塑性重合体、熱可塑性樹脂組成物の高温溶融滞留安定性の観点から、有機溶媒(B)以外のその他のケトン、カルボン酸エステル、エーテル、アルコールおよび芳香族化合物から選ばれる少なくとも一種も、好ましく用いることができる。これら有機溶媒(B)以外のその他のケトン、カルボン酸エステル、エーテル、アルコールおよび芳香族化合物から選ばれる少なくとも一種としては、有機溶媒(B)以外のその他の有機溶媒を例示した頁に挙げたものが好ましいが、より好ましくは、カルボン酸エステルおよびアルコールであり、中でも好ましくは、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル、および酢酸アミルのうち少なくとも1種、およびメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノールおよびtert−ブタノールのうち少なくとも1種を挙げることができる。
【0084】
上記洗浄工程により、揮発成分が少なく、極めてハンドリング性に優れる原共重合体(A’)粒子を得ることができる。ここで、固液分離後の原共重合体(A)のケーク中の揮発分含有量は、特に制限はなく、10〜90重量%であることが好ましい。特定の有機溶媒(B)中で共重合して得た原共重合体(A)のケークに前記の洗浄を施した場合、原共重合体(A’)の数平均粒子径は特に制限はないが、1〜20000μmの範囲に制御され、好ましくは1〜5000μmの範囲であり、より好ましくは1〜3000μmの範囲であり、更に好ましくは2〜2000μmの範囲に制御される。原共重合体(A)に洗浄工程を施すことにより得られた原共重合体(A’)では、粒子径が増大し、第二工程と第二工程に先立った乾燥等の作業において、粒子のハンドリング性に極めて優れる。洗浄工程において、原共重合体(A)のケーク中に残存する有機溶媒(B)および/または洗浄時の添加された有機溶媒(B)が存在する場合には、原共重合体(A)の粒子同士の凝集の度合いが制御され、粒子径を上記のより好ましい範囲に制御することが可能となり、また、ダイマー、トリマー、テトラマー、オリゴマー等、例えば重量平均分子量が2000未満の低分子量体、仕込み由来の残存物、および副生成物等の除去効率が一層向上する。この際に、粒子径を上記のより好ましい範囲に制御し、更に粒子表面の粘着性を抑制するには、有機溶媒(B)の20℃における水1Lに対する溶解度は、特に制限はないが、0.1〜6.0g/Lの範囲であることが好ましい。
【0085】
特定の有機溶媒(B)中で共重合して得た原共重合体(A)のケークから得た原共重合体(A’)粒子は、有機溶媒(B)以外の有機溶媒中で共重合を行って得た原共重合体のケークを洗浄して得た粒子と比較して、粘着性も少なく、粒子の移動時の粒子の舞い上がりも少なく、ろ過時または乾燥時の粒子同士の合着も少ないため、第二工程と第二工程に先立った乾燥等の作業において、極めてハンドリング性に優れるものである。さらには、第二工程を経て得られる本発明の熱可塑性重合体の無色透明性を向上させることができる。
【0086】
第一ろ過における原共重合体(A)スラリーの固液分離の方法については、特に制限はなく、通常の遠心分離機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、振動ろ過機、ベルトフィルターなどを好ましく用いることにより、原共重合体(A)のケークを得ることができる。
【0087】
第一ろ過によって分離・分別されて得られた原共重合体(A)のケークに水を添加する場合、攪拌下加熱することにより、原共重合体(A)を洗浄するとともに、ポリマー粒子を凝集させ、粒子を前記の特定の範囲に制御することができる。洗浄時に添加する水の量は、特に制限はないが、前記第一ろ過で得られたケーク100重量部に対して、100〜2000重量部であることが好ましく、より好ましくは100〜1000重量部、更に好ましくは200〜600重量部である。水の添加量が100重量部以上であれば、洗浄効果が増大する傾向にあり、水の添加量が2000重量部以下であれば、、廃水処理負荷が小さくなる傾向にある。
【0088】
洗浄液中の原共重合体(A)の濃度は、特に制限はないが、好ましくは0.1〜50重量%の範囲であり、より好ましくは1〜30重量%の範囲であり、最も好ましくは1〜20重量%の範囲である。ここで、洗浄液中の原共重合体(A)の濃度は以下のように計算される。
洗浄液中の原共重合体(A)の濃度(重量%)=100×(1−α/100)×(原共重合体(A)ケーク量(重量部))/(原共重合体(A)ケーク量(重量部)+水添加量(重量部))。
α:原共重合体(A)ケークの揮発分含有量(重量%)
【0089】
なお、原共重合体(A)ケーク中の揮発分含有量(重量%)は該ケークを真空乾燥機中、130℃にて揮発分が完全に留去されるまで加熱処理を実施した時の重量変化より、下式にて算出した値である。
原共重合体(A)ケーク中の揮発分含有量(重量%)=重量減少率(%)=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0090】
本発明においては、洗浄温度および洗浄後の固液分離温度(第二ろ過温度)には特に制限はなく、用いる水および/または有機溶媒が固体とならない温度であればよいが、5〜200℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは50〜120℃の範囲である。洗浄温度および第二ろ過温度が5℃未満の温度の場合は、洗浄効果が低下する傾向にある。
【0091】
上記洗浄操作を実施する装置については、洗浄温度を上記範囲内に制御できるものであれば、特に制限はなく、通常の攪拌機を備えたオートクレーブ等を使用することができる。なお、洗浄に際しては原共重合体(A)のスラリー及び/またはそれに添加する水を予熱しておくことも可能である。
【0092】
上記洗浄操作により得られた水スラリーの固液分離(第二ろ過)の方法については、上記温度にてろ過が可能なものであれば、特に制限はなく、通常の遠心分離機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、振動ろ過機、ベルトフィルターなどを好ましく用いることができるが、固液分離後の揮発分を低減し、その後の乾燥工程の負荷を低減するという観点から、遠心分離が説くに好ましい。本発明の洗浄方法を実施することにより、第二ろ過後の共重合体の揮発分含有量を10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは20〜50重量部とすることができ、その後の乾燥工程の負荷を低減することが可能となる。
【0093】
さらに必要であれば、上記洗浄操作によって得られた水および/または有機溶媒を含有する原共重合体(A’)ケークを棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しない原共重合体(A)を製造することも可能である。
【0094】
尚、ここで言う数平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、150倍または1万倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径を表す。
【0095】
本発明における第二工程、すなわち原共重合体(A)または原共重合体(A’)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法は、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や窒素気流中などの不活性ガス雰囲気で、または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。
【0096】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは150〜350℃の範囲であり、より好ましくは180〜320℃の範囲であり、特に好ましくは200〜310℃の範囲である。
【0097】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させる観点から、押出機のスクリュー直径(D)とスクリューの長さ(L)の比(L/D)が20以上であることが好ましく、より好ましくは40以上である。
【0098】
また、押出機の中でも、二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、極めて無色透明性、機械特性に優れる熱可塑性共重合体が得られる傾向があるため、好ましく使用することができる。ここで、二軸・単軸複合型連続混練押出機とは、押出機ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出機を言い、市販されているこのタイプの押出機としては、CTE社製の「HTM型押出機」が挙げられる。原料となる共重合体(A)を、連続式で加熱処理し環化反応を進行させる際、反応の進行に従い、溶融粘度が高くなることに起因し、押出装置のせん断による発熱が大きくなり、分子主鎖の熱分解による着色が大きくなる傾向が見られる。また、該せん断発熱は、単軸スクリューよりも二軸スクリューで溶融混練した場合に大きくなる。一方、反応速度の観点からは、二軸スクリューで溶融混練することが好ましい。以上のことから、特定の二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、溶融粘度が比較的低い反応初期段階では、二軸スクリューで、十分な反応速度を確保しながら、溶融粘度が比較的高くなる反応後期段階では、せん断発熱を抑制した単軸スクリュー部で加熱処理することにより、分子主鎖の熱分解が抑制されるため、得られるグルタル酸無水物含有単位を含有する共重合体は特に色調、機械特性に優れるものと推察される。
【0099】
押出機を用いて原共重合体(A)を加熱する際の押出機のシリンダー温度は特に制限はないが、200〜380℃に設定することが好ましく、より好ましくは200〜350℃の範囲であり、更に好ましくは220〜350℃の範囲である。
【0100】
さらに本発明では、原共重合体(A)を上記方法等により加熱する際に、必須ではないがグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。尚、これらアルカリ金属化合物は、水和物、無水物のいずれも好ましく用いることができ、特に好ましくは酢酸リチウム水和物、酢酸リチウム無水物である。
【0101】
本発明の熱可塑性重合体中の(i)グルタル酸無水物単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性共重合体100重量%中に5〜80重量%であり、より好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは15〜50重量%、とりわけ好ましくは25〜50重量%、最も好ましくは30〜45重量%の範囲である。
【0102】
また、本発明の熱可塑性重合体における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられ、本発明ではH−NMR法を用いた。
【0103】
また、H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0104】
また、本発明の熱可塑性重合体には、上記(i) グルタル酸無水物単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位成分の他に(iii)不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0105】
本発明においては、原共重合体(A)の(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性重合体中に含有される不飽和カルボン酸単位量は特に制限はないが50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%とすることが好ましく、特に好ましくは0〜5重量%である。不飽和カルボン酸単位が50重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0106】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は特に制限はなく0〜35重量%であることが好ましいが、より好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、更に好ましくは0〜5重量%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が多すぎると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0107】
かくして得られる本発明の熱可塑性重合体のガラス転移温度は特に制限はないが110℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上であり、実用耐熱性の面で好ましい。また、さらに好ましい態様においてはガラス転移温度が130℃以上である。また、上限としては、特に制限はないが通常180℃程度、好ましくは160℃以下である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度である。
【0108】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性重合体の黄色度(Yellowness Index)の値は特に制限はないが、40以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、更に好ましくは8以下であり、特に好ましくは5以下であり、最も好ましくは3以下と着色が抑制され、更に好ましい態様においては2以下と極めて高度な無色透明性を有する。上記において黄色度はガラス転移温度+140℃で射出成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常1程度である。
【0109】
さらに、本発明の熱可塑性重合体の製造時には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が本発明の熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0110】
本発明の熱可塑性重合体には、耐衝撃性の向上の観点から、更にゴム質含有重合体(C)を含むことが好ましい。ゴム質含有重合体(C)は、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、内部に1層以上のゴム質重合体を含む層を有する構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体等が好ましく使用できるが、特に多層構造重合体が透明性・着色の少なさの点で優れており、好ましい。
【0111】
前記多層構造重合体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有する多層構造重合体であることが好ましい。多層構造重合体において、ゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル系単量体、シリコーン系単量体、スチレン系単量体、ニトリル系単量体、共役ジエン系単量体、ウレタン結合を生成する単量体、エチレン系単量体、プロピレン系単量体、イソブテン系単量体などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル系単位およびブタジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましい。例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴム、およびアクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系位体、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴムなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有する重位であるゴムが、透明性および機械特性の点から、最も好ましい。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
【0112】
前記多層構造重合体において、ゴム層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他のビニル単位などから選ばれる1種以上の単位を含有する重合体が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含有する重合体が好ましく、それに加えて不飽和グリシジル基含有単位、不飽和カルボン酸単位および不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれる1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0113】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0114】
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、およびさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0115】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではなく、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0116】
上記不飽和ジカルボン酸無水物単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0117】
また、上記脂肪族ビニル単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを用いることができる。上記芳香族ビニル単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを用いることができる。上記シアン化ビニル単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを用いることができる。上記マレイミド単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどを用いることができる。上記不飽和ジカルボン酸単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などを用いることができる。上記その他のビニル単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを用いることができる。これらの単量体は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0118】
本発明のゴム質含有重合体(C)は、その多層構造において、最外層(シェル層)の種類は、上述のとおり不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位およびその他のビニル単位などの1種類以上の単位を含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0119】
本発明の熱可塑性重合体との溶融混練に供するゴム質含有重合体(C)として、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を最外層とする多層構造重合体を用いることが最も好ましい。
【0120】
最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明の共重合体の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位が生成する。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を有する多層構造重合体を熱可塑性共重合体(A)に配合して溶融混練する際の加熱により、最外層に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が得られる。これにより、連続相(マトリックス相)となる本発明の共重合体中に、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が良好に分散することが可能となり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0121】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらにはアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0122】
また、不飽和カルボン酸単位の原料となる単量体としては、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0123】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含有せしめるゴム質含有重合体(C)の好ましい例としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸共重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル共重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層がブタンジエン/スチレン共重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる。ここで、“/”は共重合を示す。さらに、ゴム層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)である本発明の共重合体との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0124】
多層構造重合体の平均粒子径については、0.01μm以上、1000μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、0.02μm以上、100μm以下がより好ましく、0.05μm以上、10μm以下がさらに好ましく、0.05μm以上、1μm以下が最も好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、多層構造重合体の平均粒子径は、小角光散乱測定によるギニエプロットあるいは透過型電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0125】
本発明の多層構造重合体において、コアとシェルの重量比は、多層構造重合体全体に対して、コア層が30重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、コア層が50重量%以上、90重量%以下であることがより好ましく、さらに、60重量%以上、80重量%以下であることが特に好ましい。
【0126】
本発明の多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
【0127】
多層構造重合体の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製”メタブレン(登録商標)”、鐘淵化学工業社製”カネエース(登録商標)”、呉羽化学工業社製”パラロイド(登録商標)”、ロームアンドハース社製”アクリロイド(登録商標)”、ガンツ化成工業社製”スタフィロイド(登録商標)”およびクラレ社製”パラペット(登録商標)SA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0128】
また、ゴム質含有重合体(C)として使用されるゴム質含有グラフト共重合体の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル単量体(その具体例は前述と同様である)、不飽和カルボン酸単量体(その具体例は前述と同様である)、芳香族ビニル単量体(その具体例は前述と同様である)、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体(その具体例は前述と同様である)の1種以上から選択される単量体(混合物)を(共)重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0129】
グラフト共重合体に用いられるゴム質重合体としては、ジエンゴム、アクリルゴムおよびエチレンゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0130】
本発明におけるグラフト共重合体を構成するゴム質重合体の重量平均粒子径は、0.1〜0.5μm、特に0.15〜0.4μmの範囲が好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、ゴム質重合体の重量平均粒子径は「Rubber Age, Vol.88, p.484−490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0131】
本発明におけるグラフト共重合体は、ゴム質重合体10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%の存在下に、上記の単量体(混合物)20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記の範囲未満、または上記の範囲を越える場合には、衝撃強度や表面外観が低下する場合がある。
【0132】
なお、グラフト共重合体は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成する、グラフトしていない共重合体を含んでいてもよい。衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の重量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度は、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0133】
本発明におけるグラフト共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0134】
本発明におけるグラフト共重合体の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの公知の重合法および塊状懸濁重合のようにこれら重合法の組み合わせにより得ることができる。
【0135】
また、本発明の熱可塑性重合体およびゴム質含有重合体(C)のそれぞれの屈折率が近似している場合、透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができるため、好ましい。具体的には、両者の屈折率の差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、本発明の熱可塑性重合体の各単量体単位組成を調整する方法、および/またはゴム質含有重合体(C)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成を調製する方法などが挙げられる。
【0136】
なお、ここで言う屈折率差とは、以下に示す方法で測定した値である。本発明の共重合体が可溶な溶媒に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離する。この可溶部分(本発明の共重合体を含む部分)と不溶部分(ゴム質含有重合体を含む部分)をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を屈折率差と定義する。
【0137】
また、熱可塑性樹脂組成物中での本発明の熱可塑性重合体とゴム質含有重合体(C)の共重合組成および分子量分布については、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作の後に、各成分を個別に分析する。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物に関し、溶液製膜または溶融製膜により厚さ100±5μmのフィルムを作製し、このフィルムの表面を微分干渉型反射顕微鏡(ニコン社製 ECLIPSE LV100Dにより観察した際に、無作為に10カ所の点で観察、異物数(内部の異物由来の凹凸数)のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)として評価した場合の1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数は、特に制限はないが、15個以下であることが好ましく、より好ましくは10個以下であり、更に好ましくは3個以下、特に好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。ここで、外部から混入した外乱異物を除く異物に関して、光学顕微鏡を用いた同様の確認法で評価した際に、無作為に10カ所の点で観察、異物数のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)として評価した場合の1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数は、特に制限はないが、10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下であり、更に好ましくは1個以下、特に好ましくは0.5個以下、最も好ましくは0個である。
【0138】
本発明において、本発明の熱可塑性重合体とゴム質含有重合体(C)を配合する際の重量比は、99/1〜50/50の範囲であることが好ましく、さらに、99/1〜60/40の範囲であることがより好ましく、特に99/1〜70/30の範囲であることが最も好ましい。
【0139】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する際には、本発明の熱可塑性重合体とゴム質含有重合体(C)とを、適度な剪断場の下で加熱溶融混合する方法を用いる。製造する熱可塑性樹脂組成物中のゴム質含有重合体粒子の凝集を抑制するためには、比較的低温、かつ回転数を低めにして剪断力があまりかからないように溶融混練することが好ましい。具体的にはニーディングゾーンにおける樹脂温度をTとすると、(本発明の共重合体のTg+100℃)≦T≦(ゴム質含有重合体の1%分解温度)の範囲に制御することが好ましく、さらには、(本発明の共重合体のTg+120℃)≦T≦(ゴム質含有重合体の0.5%分解温度)の範囲に制御することが一層好ましい。ここで、ゴム質含有重合体の1%分解温度とは、窒素中での示差熱重量同時測定装置(セイコー電子工業社製、TG/DTA−200)を用いて、100〜450℃の温度領域を20℃/分の昇温速度で行った加熱試験により、加熱前の重量を100%とした時の重量減少率が1%に達した時の温度である。樹脂温度が本発明の範囲より低い場合、溶融粘度が極めて高くなり、溶融混練が事実上不可能となり好ましくない。また、樹脂温度が本発明の範囲より高い場合、ゴム質含有重合体(C)の再凝集および着色が著しくなり、好ましくない。
【0140】
本発明では、ゴム質含有重合体(C)に加えて、更にモノホスファイト系化合物を含有することができる。これにより、ゴム質含有重合体(C)の分解が抑制され大幅な着色抑制、流動性向上効果が得られるため好ましく使用できる。
【0141】
本発明で用いるモノホスファイト系化合物とはその分子内に1個のリン原子を持ち3個の有機基が結合した有機亜リン酸エステルであり、耐熱性の点から分子量300〜2000が好ましく、さらに分子量350〜1500の範囲であることがより好ましく、特に分子量400〜1000の範囲であることが最も好ましい。分子量が300以下では溶融混練時に揮発しやすく着色抑制、流動性向上効果が得られ難く、分子量が2000以上の場合には異物化しやすく高度な透明性が得られない問題がある。さらに、性状として液体または固体などの形態があるが使用に際しての制限はなく、液体の場合粘度1〜10000mPa・sの範囲であることが好ましく、さらに粘度2〜7000mPa・sの範囲であることがより好ましく、特に粘度5〜5000mPa・sの範囲であることが最も好ましい。または固体性状の場合、融点60〜220℃の範囲が好ましく、さらに融点80〜210℃の範囲がより好ましく、特に融点100〜200℃の範囲が最も好ましい。さらに、有機亜リン酸エステルの3個の酸素原子の内2個以上が芳香族残基と結合しているされる環状モノホスファイト系化合物、または、有機亜リン酸エステルの3個の酸素原子の内少なくとも1つが芳香族残基と結合しているモノホスファイト系化合物であることが好ましい。具体的なホスファイト系化合物としては、、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト等が挙げられる。この中で、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが特に好ましく利用できる。これらの特定のホスファイト系化合物を1種または2種以上併用して使用する事が可能である。
【0142】
本発明で用いるモノホスファイト系化合物には、さらにヒンダードフェノール系またはチオエーテル系化合物を併用することが可能である。ヒンダ−ドフェノ−ル系化合物、チオエーテル系化合物を少なくとも一種を併用させることによりゴム質含有重合体の分解がさらに抑制され大幅な色調改良効果が得られる。
【0143】
具体的なヒンダ−ドフェノ−ル系化合物としては分子量400以上のものが好ましく、具体的には、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、1,6−へキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、N,N’−ヘキサメチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマミド)、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0144】
具体的なチオエーテル系化合物はとしては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)などが挙げられる。
【0145】
本発明の熱可塑性重合体にゴム質含有重合体(C)および必要に応じてホスファイト系化合物を含有する樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の原共重合体(A)を加熱処理装置内で加熱処理し、本発明の共重合体を製造する際、ゴム質含有重合体(C)と原共重合体(A)の合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を原共重合体(A)と同時に添加し溶融混練する方法、本発明の熱可塑性重合体を製造する過程、該加熱処理途中の段階でゴム質含有重合体(C)と原共重合体(A)との合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を添加し溶融混練する方法、本発明の熱可塑性重合体を製造した後、本発明の熱可塑性重合体とゴム質含有重合体(C)の合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を溶融混練する方法等が挙げられる。
【0146】
使用できる加熱処理装置としては制限はなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダー混練機等が好ましく使用できる。
【0147】
また、ゴム質含有重合体(C)を含んでなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度は特に制限はないが、プランジャー式キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所製 キャピログラフ タイプ1C)を用いて、ガラス転移温度+150℃の温度で測定し、せん断速度5秒−1に外挿して得たせん断速度5秒−1における溶融粘度(Pa・s)が、10〜100000Pa・sの範囲であることが好ましく、溶融製膜性と溶融濾過性の向上の観点からより好ましくは、100〜20000Pa・sの範囲であり、更に好ましくは100〜5000Pa・sの範囲であり、特に好ましくは100〜2000Pa・sの範囲である。
【0148】
また、本発明の熱可塑性重合体、および更にゴム質含有重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびエチレン−α−オレフィン系共重合体等のポリオレフィン系樹脂およびこれらの酸または酸無水物変性物、ポリスチレン系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など、から選ばれた一種以上をさらに含有させることができる。また高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルエステルアミドおよびこれらのブロックポリマーなどの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤、ハイドロタルサイトなどの金型腐食防止剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0149】
本発明の熱可塑性樹脂組成物のマトリックスである熱可塑性重合体部分の分子量分布は2.0〜3.0の範囲であることが好ましく、熱可塑性樹脂組成物の流動性の観点から、分子量分布の下限はより好ましくは2.05以上であり、更に好ましくは2.25以上であり、特に好ましくは2.30以上である。本発明の熱可塑性重合体部分の分子量分布が2.0未満では、流動性が低下し、溶融時の溶融粘度が高くなる傾向にある。分子量分布が2.0以上を有することによって、熱可塑性樹脂組成物の流動性が向上するという効果を発現する傾向にある。一方、本発明の熱可塑性重合体部分の分子量分布の上限は、より好ましくは2.95以下であり、更に好ましくは2.9以下であり、特に好ましくは2.85以下であり、最も好ましくは2.80以下である。本発明の熱可塑性重合体部分の分子量分布が3.0を越える場合、耐衝撃性および溶融滞留後の耐衝撃強度保持率が低下する傾向にある。
【0150】
本発明の熱可塑性重合体および更にゴム質含有重合体(C)を含んでなる熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形、プレス成形などが可能であり、フィルム、シート、管、ロッド、その他の希望する任意の形状と大きさを有する成形体に成形して使用することができる。
【0151】
本発明の熱可塑性重合体および熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの製造方法には、公知の方法を使用することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、インフレーション法、T−ダイ法、流延法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、流延法により本発明のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能である。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。該フィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を前記の1種以上の溶剤に溶かし、その溶液をバーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶剤を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0152】
かくして得られる成形品またはフィルムは、高度な耐熱性と無色透明性を有し、流動性、耐衝撃性、および溶融滞留安定性に大きく優れる点を活かして、光学材料、電気電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0153】
本発明の熱可塑性重合体および熱可塑性樹脂組成物を溶融加工して得られる成形品またはフィルムは、前記の優れた特性を活かして、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0154】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0155】
(1)重量平均分子量・分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)
得られた原共重合体または熱可塑性重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定した。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出した。
【0156】
(2)各成分組成
重水素化ジメチルスルホキシド中、30℃でH−NMRを測定し、得られた原共重合体、熱可塑性重合体の各々の組成を決定した。
【0157】
(3)有機溶媒の水への溶解度
有機溶媒の水への溶解度は、フラスコ内のイオン交換水1L(20℃の温度に設定)に、有機溶媒を直接投入しながら、20℃で48時間攪拌して溶解試験を行い、イオン交換水1L(1kg)に対して飽和溶解する有機溶媒の質量として得たものである。尚、有機溶媒の投入時を除き、フラスコは密閉して溶解試験を行った。
【0158】
(4)溶解度パラメーター
本発明で採用した溶解度パラメーターδ(MPa1/2)は、「POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION」、J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、およびE.A.GRULKE著、p.VII/675−714、WILEY INTERSCIENCE(1999)のTABLE7に記載のデータを採用した。なお、TABLE7に記載されていない有機溶媒に関しては、前記文献に記載されているSmallの方法で算出した値を採用した。尚、Smallの方法とは、前記文献のp.VII/675−714のTABLE2で与えられたSmallの方法による特定の原子及び原子団の凝集エネルギー定数F(MPa1/2・cm/mol)を採用し、密度をs(g/cm)、基本分子量をM(g/mol)とし、δ=(sΣF)/Mで溶解度パラメーターδ(MPa1/2)を算出するものである。尚、1(MPa1/2)=2.046(cal/cm1/2である。
【0159】
また、2種類以上の有機溶媒からなる混合物である場合の溶解度パラメーターδは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出した。
δ=Σ(δi×Xi/100)
【0160】
(5)ケーク中の揮発分含有量
重合に続く第一ろ過後の原共重合体ケークおよび第二ろ過後の原共重合体ケークをそれぞれ真空乾燥機中130℃にて揮発分が完全に留去されるまで真空乾燥を実施し、重量変化を測定し、下式より算出した重量減少率を揮発分含有量として評価した。
原共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)=重量減少率(重量%)=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0161】
(6)黄色度(Yellowness Index(YI値))
得られた熱可塑性重合体、熱可塑性樹脂組成物のそれぞれについて、射出成形機(名機製作所 M−50AII−SJ)を用いて、熱可塑性重合体のガラス転移温度+140℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性重合体のガラス転移温度+140℃)で射出成形し、得た厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0162】
(7)透明性(全光線透過率)
得られた熱可塑性重合体、熱可塑性樹脂組成物のそれぞれについて、前記(6)の条件(ガラス転移温度+140℃)で射出成形し、得た厚さ1mm成形品の23℃での全光線透過率(%)を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて測定し、透明性を評価した。
【0163】
(8)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0164】
(9)流動性:得られた熱可塑性重合体、熱可塑性樹脂組成物のそれぞれについて、ISO−R1133に従い、熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃)の温度にて、荷重37.3Nの条件でメルトフローレート(MFR)(g/10min)を測定した。
【0165】
(10)耐衝撃性:得られた熱可塑性重合体、熱可塑性重合体のそれぞれについて、熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃)の温度にて射出成形を行って得た厚さ1/2インチのノッチ付試験片を用いて、ノッチ付アイゾット衝撃強度をASTM D256に準拠し、23℃にて測定した。
【0166】
(11)溶融滞留安定性(ΔYI):得られた熱可塑性重合体、熱可塑性重合体のそれぞれについて、熱可塑性重合体のガラス転移温度+140℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性重合体のガラス転移温度+140℃)の温度にてプレス成形機上で10分間滞留させた後の厚さ1mm成形品のYI値と、前記(6)で測定したYI値との差(ΔYI)の絶対値を算出した。
【0167】
(12)溶融滞留安定性(衝撃強度保持率):射出成形機(名機製作所 M−50AII−SJ)中で、熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃)の温度にて10分間、溶融滞留させた後、射出成形して得た、1ショット目の厚さ1/2インチの射出成形品について、ノッチ付きアイゾット衝撃強度をASTM D256に準拠し、23℃にて測定し、衝撃強度保持率を次式により算出した。ここで、通常の射出成形により得た射出成形品のノッチ付きアイゾット衝撃強度とは前記(10)に記載の方法で得た値である。
衝撃強度保持率(%)=[溶融滞留後の射出成形品のノッチ付きアイゾット衝撃強度(J/m)]/[通常の射出成形により得た射出成形品のノッチ付きアイゾット衝撃強度(J/m)]×100。
【0168】
(13)高温溶融滞留安定性(ΔYI):得られた熱可塑性重合体、熱可塑性重合体のそれぞれについて、射出成形機(名機製作所 M−50AII−SJ)中で、330℃の温度で10分間、溶融滞留させた後、射出成形して得た、1ショット目の厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定し、前記(6)で測定したYI値との差(ΔYI)の絶対値を算出した。
【0169】
(14)重合収率:単量体混合物を重合して得た原共重合体のスラリーについて、固液分離を行って得た原共重合体のケークから、130℃で真空条件下、加熱処理を実施することにより揮発分を完全に留去し、重合収率を下式より算出した。ここで、原共重合体には重合中に攪拌翼および/または壁部に付着したものは含んでいない。
重合収率(%)=[加熱処理後得られた原共重合体の全重量/仕込んだ単量体混合物の全重量]×100。
【0170】
(15)スラリー濃度:原共重合体の重合終了後、系内を均一に攪拌しつつ、原共重合体を含むスラリーをサンプリングした。スラリーから、130℃で真空条件下、加熱処理を実施することにより揮発分を完全に留去し、加熱処理前後の各々の重量からスラリー濃度を算出した。
スラリー濃度(%)=[(加熱処理前のスラリーの全重量−スラリーから揮発分を完全に留去した後の原共重合体の重量)/加熱処理前のスラリーの全重量]×100。
【0171】
(16)異物数
得られた熱可塑性重合体または熱可塑性樹脂組成物をメチルエチルケトンに濃度25重量%で、室温で24時間攪拌しながら溶解させ(熱可塑性樹脂組成物の場合はゴム質含有重合体(C)は溶解せず分散する)、得られた熱可塑性重合体または熱可塑性樹脂組成物の溶液をガラス板上に流延した後、50℃で20分、次いで80℃で30分乾燥処理を行い、厚さ100±5μmのフィルムを作成した。このフィルムの表面を微分干渉型反射顕微鏡(ニコン社製 ECLIPSE LV100D)により観察し、内部の異物由来の凹凸数を異物数としてカウントした。前記カウント作業に関しては、無作為に選んだ1mm四方単位面積当たりについて、10μm以上の凹凸について、その数をカウントした。これを1サンプルあたり、無作為に10カ所の点で観察、異物数のカウントを繰り返し、その平均値を1mm四方単位面積当たりの異物数(個/mm)とし評価した。
【0172】
参考例で使用した有機溶媒に関し、水に対する溶解度、重合溶媒のSP値および沸点を表1にまとめた。
【0173】
【表1】

【0174】
参考例1
重合工程(第一工程):原共重合体(A)(a−1)〜(a−10)の合成
参考例1:原共重合体(A)(a−1)
下記混合物質におけるジイソブチルケトンとしては、ジイソブチルケトン単独体を用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。内温が85℃に達した時点を重合開始とし、内温を85℃に60分間保ち、その後30分間かけて内温を95℃まで昇温後、更に95℃で30分間熟成させて重合を終了し、原共重合体(a−1)のスラリーを得た。重合は、重合初期から原共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体は、全原共重合体のうち1重量%未満であり、良好に重合が進行した。スラリー濃度は15.3%であり、原共重合体(a−1)の重合収率は84%であった。得られた原共重合体(a−1)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過で得たケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−1)を得た。得られた原共重合体(a−1)を走査型電子顕微鏡(以下SEMとも呼ぶことがある)を用い、1万倍で観察し、1次粒子径を画像解析(使用ソフト:Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」)して算出した結果、数平均粒子径が1.0μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は145000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.30であった。原共重合体(a−1)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
ジイソブチルケトン 450重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部。
【0175】
参考例2:原共重合体(A)(a−2)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。内温が85℃に達した時点を重合開始とし、内温を85℃に60分間保ち、その後30分間かけて内温を95℃まで昇温後、更に95℃で30分間熟成させて重合を終了し、原共重合体(a−2)のスラリーを得た。
【0176】
重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であり、良好に重合が進行した。重合収率は82%であり、スラリー濃度は14.9%であった。得られた原共重合体(a−2)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過で得たケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−2)を得た。得られた原共重合体(a−2)をSEMにより観察した結果、数平均粒子径が1.5μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は85000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.45であった。原共重合体(a−2)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
ジイソプロピルルケトン 450重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.9重量部。
【0177】
参考例3:原共重合体(A)(a−3)
下記混合物質(イ)および(ロ)におけるジイソブチルケトンとしては、ジイソブチルケトン単独体を用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら95℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに60分間保った後、重合を終了し、共重合体スラリー(a−3)を得た。重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であった。重合収率は84%であり、スラリー濃度は16.8%であった。得られた原共重合体(a−3)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過で得たケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−3)を得た。得られた原共重合体(a−3)はSEM観察の結果、数平均粒子径が0.9μmであった。重量平均分子量は、50000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.31であった。原共重合体(a−3)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
ジイソブチルケトン 365重量部
混合物質(ロ):
ジイソブチルケトン 35重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.5重量部。
【0178】
参考例4:原共重合体(A)(a−4)
下記混合物質(イ)および(ロ)における酢酸イソアミルとしては、酢酸3−メチルブチルを用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質(イ)を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら75℃に昇温した。内温が75℃に達した時点を重合開始とし、下記混合物質(ロ)を40分間かけて連続滴下した。次いで、内温を75℃に300分間保ち、重合を終了し、原共重合体(a−4)のスラリーを得た。重合は、重合初期から原共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であり、良好に重合が進行した。重合収率は75%であり、スラリー濃度は13.6%であった。原共重合体(a−4)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過して得たケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。また、ケークの揮発分含有量は70重量%であった。原共重合体(a−4)のケークについて100℃で20時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−4)を得た。原共重合体(a−4)をSEMで観察した結果、数平均粒子径が2.1μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は72000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.29であった。原共重合体(a−4)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=73/27であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 23重量部
メタクリル酸メチル 77重量部
酢酸イソアミル 400重量部
混合物質(ロ):
酢酸イソアミル 50重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.5重量部。
【0179】
参考例5:原共重合体(A)(a−5)
下記混合物質(イ)および(ロ)における酢酸イソアミルとしては、異性体として酢酸2−メチルブチルを30重量%含有するものを用いた(酢酸3−メチルブチル/酢酸2−メチルブチル=70/30)。また、ジイソブチルケトンとしては、異性体として4,6−ジメチルヘプタン−2−オンを12重量%含有するものを用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに85℃で140分間保った後、重合を終了し、原共重合体(a−5)のスラリーを得た。重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であった。重合収率は85%であり、スラリー濃度は16.2%であった。原共重合体(a−5)を含むスラリーを40℃まで冷却した後に、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行い、固液分離して得られたケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。また、ケークの揮発分含有量は55重量%であった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−5)を得た。得られた原共重合体(a−5)はSEM観察の結果、数平均粒子径が1.5μmであった。重量平均分子量は、70000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.31であった。原共重合体(a−5)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=76/24であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 22重量部
メタクリル酸メチル 78重量部
酢酸イソアミル 320重量部
ジイソブチルケトン 80重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.1重量部
混合物質(ロ):
酢酸イソアミル 20重量部
ジイソブチルケトン 5重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.6重量部 。
【0180】
参考例6:原共重合体(A)(a−6)
下記混合物質におけるジイソブチルケトンとしては、異性体として4,6−ジメチルヘプタン−2−オンを12重量%含有するものを用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。内温が85℃に達した時点を重合開始とし、内温を85℃に60分間保ち、その後30分間かけて内温を95℃まで昇温後、更に95℃で30分間熟成させて重合を終了し、原共重合体(a−6)のスラリーを得た。重合は、重合初期から原共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体は、全原共重合体のうち3重量%であった。原共重合体(a−6)の重合収率は65%であり、スラリー濃度は11.8%であった。原共重合体(a−6)を含むスラリーを40℃まで冷却した後に、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行い、固液分離して得られたケークの揮発分含有量は58重量%であった。次いで130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−6)を得た。得られた原共重合体(a−6)をSEM観察した結果、数平均粒子径は2.5μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は140000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.85であった。原共重合体(a−6)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
ジイソブチルケトン 270重量部
酢酸ブチル 180重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部。
【0181】
参考例7:原共重合体(A)(a−7)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに85℃で140分間保った後、重合を終了し、共重合体スラリー(a−7)を得た。重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち4重量%であった。重合収率は65%であり、スラリー濃度は10.8%であった。得られた原共重合体(a−7)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過を行って原共重合体(a−7)のケークを得た。また、ケークの揮発分含有量は75重量%であった。次いで130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−7)を得た。得られた原共重合体(a−7)はSEM観察の結果、数平均粒子径が3.5μmであった。重量平均分子量は、72000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.90であった。原共重合体(A−7)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=75/25であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 22重量部
メタクリル酸メチル 78重量部
メチルイソアミルケトン 450重量部
混合物質(ロ):
メチルイソアミルケトン 50重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.6重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.1重量部。
【0182】
参考例8:原共重合体(A)(a−8)
重合溶媒を蟻酸イソアミルに変更した以外は、原共重合体(a−2)と同様の製造方法で共重合を行った。重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体は、全原共重合体のうち1重量%未満であった。重合収率は73%であり、スラリー濃度は13.3%であった。原共重合体(a−2)と同様に吸引ろ過して得られた原共重合体(a−8)はSEM観察の結果、数平均粒子径が2.5mmであった。重量平均分子量は100000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.15であった。原共重合体(a−8)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
蟻酸イソアミル 450重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.7重量部。
【0183】
参考例9:原共重合体(A)(a−9)
ジイソブチルケトンとしては、異性体として4,6−ジメチルヘプタン−2−オンを12重量%含有するものを用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに120分間保った後、重合を終了し、原共重合体スラリー(a−9)を得た。重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であった。原共重合体(a−9)を含むスラリーを40℃まで冷却した後に、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行い、固液分離して得られたケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。また、ケークの揮発分含有量は53重量%であった。重合収率は81%であり、スラリー濃度は23.1%であった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−9)を得た。得られた原共重合体(a−9)はSEM観察の結果、数平均粒子径が1.8μmであった。重量平均分子量は、70000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.48であった。原共重合体(a−9)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
ジイソブチルケトン 200重量部
混合物質(ロ):
ジイソブチルケトン 50重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.1重量部。
【0184】
参考例10:原共重合体(A)(a−10)
ジイソブチルケトンとしては、異性体として4,6−ジメチルヘプタン−2−オンを12重量%含有するものを用いた。容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら90℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに100分間保った後、重合を終了し、原共重合体スラリー(a−10)を得た。重合後にスケーリングとして攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満であった。重合収率は80%であり、スラリー濃度は17.8%であった。得られた原共重合体(a−10)のスラリーを30℃まで冷却した後、窒素ガスを流しながら遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)の製品)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行い、固液分離して得られたケークの粒子は空気中に飛散することもなく、粒子同士の合着、吸引ろ過機の内壁への付着もなく、ろ過後の粒子の分散性にも優れ、ハンドリング性に優れるものであった。また、ケークの揮発分含有量は52重量%であった。次いで、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−10)を得た。得られた原共重合体(a−10)はSEM観察の結果、数平均粒子径が1.6μmであった。Mwは、77000、分子量分布(Mw/Mn)は、2.61であった。原共重合体(a−10)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=77/23であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸 19重量部
メタクリル酸メチル 81重量部
ジイソブチルケトン 330重量部
n−ドデシルメルカプタン 1.4重量部
混合物質(ロ):
ジイソブチルケトン 20重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部。
【0185】
比較例用の原共重合体の製造、原共重合体(a−11)〜(a−17)の合成
参考例11:比較例用の原共重合体(a−11)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。内温が85℃に達した時点を重合開始とし、内温を85℃に60分間保ち、95℃まで30分かけて昇温した後、さらに95℃で30分間保ち、重合を終了し、原共重合体(a−11)を得た。重合は、重合初期から原共重合体(a−11)が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体は、全原共重合体のうち1重量%未満であった。重合収率は61%であった。得られた原共重合体(a−11)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−11)を得た。得られた比較例用の原共重合体(a−11)をSEMで観察した結果、数平均粒子径が3.2μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は143000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は4.68であった。原共重合体(a−11)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=68/32であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
n−ヘプタン 900重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.2重量部。
【0186】
参考例12:比較例用の原共重合体(a−12)
重合溶媒を酢酸ブチル75重量%およびn−ヘプタン25重量%の混合物(δ=16.8)に変更した以外は、原共重合体(a−11)と同様の製造方法で共重合を行い(用いた混合物質を下記)、原共重合体(a−12)を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体は、全原共重合体のうち6重量%であった。重合収率は62%であった。得られた原共重合体(a−12)のスラリーを定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し、130℃で12時間真空乾燥を行い、パウダー状の原共重合体(a−12)を得た。得られた比較例用の原共重合体(a−12)をSEMで観察した結果、数平均粒子径が5.5μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は140000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は3.32であった。原共重合体(a−12)の共重合組成はメタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
酢酸ブチル 675重量部
n−ヘプタン 225重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.2重量部。
【0187】
参考例13:比較例用の原共重合体(a−13)
重合溶媒を酢酸ブチル75重量%およびn−ヘプタン25重量%の混合物(δ=16.8)に変更した以外は、原共重合体(a−2)と同様の製造方法で共重合を行った。系内の全共重合体スラリーの25重量%が壁部や攪拌翼に付着した。重合収率は37%であった。原共重合体(a−2)と同様に吸引ろ過して得られた原共重合体(a−13)はSEM観察の結果、数平均粒子径が2.5mmであった。重量平均分子量は83000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は3.98であった。原共重合体(a−13)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
酢酸ブチル 360重量部
n−ヘプタン 90重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.9重量部。
【0188】
参考例14:比較例用の原共重合体(a−14)
重合溶媒をメチルイソブチルケトンに変更し、n−ドデシルメルカプタンの配合量を0.3重量部に変更した以外は、原共重合体(a−2)と同様の製造方法で共重合を行った。系内の全共重合体スラリーの45重量%が攪拌翼および壁部に付着し、攪拌不能となったため、重合反応を完結することができなかった。重合収率は28%であった。攪拌翼および壁部に付着しなかったスラリー部分について原共重合体(a−2)と同様に吸引ろ過して得られた原共重合体(a−14)は数平均粒子径が4mmであった。重量平均分子量は150000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は4.69であった。原共重合体(a−14)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
メチルイソブチルケトン 450重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部。
【0189】
参考例15:比較例用の原共重合体(a−15)
重合溶媒をトルエンに変更した以外は、原共重合体(a−11)と同様の製造方法で共重合を行った。重合初期から溶媒不溶の塊状物が生成し、攪拌不能となったため、重合反応を完結することができなかった。この塊状の原共重合体(a−15)を各種分析した結果、重量平均分子量は140000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は6.88、原共重合体(a−15)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=65/35であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
トルエン 900重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.2重量部。
【0190】
参考例16:比較例用の原共重合体(a−16)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら85℃に昇温した。内温が85℃に達した時点を重合開始とし、内温を85℃に90分間保ち、30分間かけて90℃に昇温した後、さらに90分間保ち、重合を終了した。反応系を室温まで冷却し、不溶な沈殿物のないポリマー溶液を得た。該ポリマー溶液を多量のイオン交換水に滴下し得られたパウダーを80℃で乾燥したが、重合溶媒であるエチレングリコールモノエチルエーテルを完全除去するのに、72時間を要した。得られた原共重合体(a−16)の重合収率は80%であり、重量平均分子量は94000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は3.32であった。原共重合体(a−16)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 27重量部
メタクリル酸メチル 73重量部
エチレングリコールモノエチルエーテル 200重量部
2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル 0.3重量部。
【0191】
参考例17:比較例用の原共重合体(a−17)
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤(以下の方法で調整した。メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保つ。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続け、メタクリル酸メチルとアクリルアミド共重合体の水溶液として得る。得られた水溶液を懸濁剤として使用した)0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の原共重合体(a−17)を得た。この原共重合体(a−17)の重合率は98%であり、重量平均分子量は90000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.79であった。原共重合体(a−17)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
メタクリル酸 27重量部
メタクリル酸メチル 73重量部
t−ドデシルメルカプタン 1.5重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0192】
参考例1〜17の共重合結果をまとめたものを表2に示す。
【0193】
尚、表2中の粒子の付着程度について、重合中に原共重合体粒子の塊状化がなく、重合終了後、原共重合体が粒子として、スラリー状で溶媒中に分散し、かつ重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が全原共重合体のうち1重量%未満である場合を◎、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が、全原共重合体のうち1重量%以上10重量%未満である場合を○、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が、全原共重合体のうち10重量%以上30重量%未満である場合を△、重合後に攪拌翼および壁部に付着した原共重合体が、全原共重合体のうち30重量%以上である場合を×とした。
【0194】
また、表2中の粒子の分散性について、原共重合体を含むスラリーを40℃まで冷却した後に、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行い、固液分離した後に得られる遠心分離機内のケークのうち、粉体状で取り出すことができない部分が、全ケークの重量中、1重量%未満であり、粒子の分散性に優れるものを◎、原共重合体が固体として、スラリー状で溶媒中に分散するが、原共重合体を含むスラリーを遠心分離した後に得られるケークのうち、粉体で取り出すことができない部分が、全ケークの重量中、1重量%以上5重量%未満である場合を○、原共重合体が固体として、スラリー状で溶媒中に分散するが、原共重合体を含むスラリーを遠心分離した後に得られるケークのうち、粉体で取り出すことができない部分が全ケークの重量中、5重量%以上である場合を△、既に重合終了後に粉体で得られなかったものについては×で記載した。尚、粉体で取り出すことができない部分としては、粉体状であるが、取り出し時に粉体が大気中に舞い上がることにより、結果として回収できなかったものも含む。
【0195】
【表2】

【0196】
表2より、実施例用の参考例1〜10、および比較例用の参考例11〜17の比較から、本発明の特定の有機溶媒(B)を用いることにより、分子量分布が2.0〜3.0の範囲である本発明の熱可塑性重合体に導入可能で、かつ分子量分布が2.0〜3.0の範囲の原共重合体(A)を得ることが可能となる。また、有機溶媒(B)を用いた重合により、原料モノマーを従来の沈殿重合法と比較して高濃度で使用しても、原共重合体(A)の粒子の合着および攪拌翼や壁部等への付着を大きく抑制することができ、これにより、原共重合体(A)を、従来の沈殿重合法と比較して、高重合率、高スラリー濃度で得ることができる。中でも、有機溶媒(B)としてジイソブチルケトンを用いた場合、原共重合体(A)の粒子の合着および攪拌翼や壁部等への付着を大きく抑制したまま、20%以上の高スラリー濃度で、所望の原共重合体(A)の粒子を得ることができ、生産性に優れることがわかる。また、原共重合体(A)のケークはハンドリング性にも優れることがわかる。更に、従来の沈殿重合法では、重量平均分子量が9万以下であり、流動性の観点から好ましい原共重合体(A)を、粒子同士の合着や攪拌翼や壁部への付着を高度に防止し、粒子の分散性に優れる状態で、かつ高スラリー濃度で得ることは不可能であったが、本発明の有機溶媒(B)を用いた沈殿重合により、前記の課題を全て解決できることがわかった。
【0197】
洗浄工程
参考例18:原共重合体(A’)(a’−1)
参考例1で得られた原共重合体(a−1)のスラリーを加圧ろ過機(三菱化工機械社製)にて25℃で固液分離し、原共重合体(a−1)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、75重量%であった。続いて、固液分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給して、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−1)ケークの揮発分含有量は50重量%であり、さらに130℃で12時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−1)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は230μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は146000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.28であった。原共重合体(a’−1)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0198】
参考例19:原共重合体(A’)(a’−2)
参考例2で得られた原共重合体(a−2)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離して原共重合体(a−2)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、58重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを45℃まで冷却し、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、45℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−2)のケークの揮発分含有量は53重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて130℃で12時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−2)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は240μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は86000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.40であった。原共重合体(a’−2)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0199】
参考例20:原共重合体(A’)(a’−3)
参考例3で得られた原共重合体(a−3)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離し、原共重合体(a−3)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、58重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100部に対して400部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られた原共重合体(a’−3)のスラリーを80℃で遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−3)ケークの揮発分含有量は52重量%であり、得られたケークをさらに真空下にて130℃で12時間乾燥を行い、完全に揮発分を留去し、粒子状の原共重合体(a’−3)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は230μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は51000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.29であった。原共重合体(a’−3)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0200】
参考例21:原共重合体(A’)(a’−4)
参考例4で得られた原共重合体(a−4)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い原共重合体(a−4)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、55重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離した。得られた原共重合体(a’−4)のケークの揮発分含有量は35重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて100℃で20時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−4)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は930μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は74000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.26であった。原共重合体(a’−4)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=73/27であった。
【0201】
参考例22:原共重合体(A’)(a’−5)
参考例5で得られた原共重合体(a−5)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、原共重合体(a−5)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、54重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−5)のケークの揮発分含有量は34重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて100℃で20時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−5)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は900μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は69000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.30であった。原共重合体(a’−5)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=76/24であった。
【0202】
参考例23:原共重合体(A’)(a’−6)
参考例6で得られた原共重合体(a−6)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、原共重合体(a−6)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、54重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−6)のケークの揮発分含有量は34重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて100℃で20時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−6)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は450μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は143000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.81であった。原共重合体(a’−6)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0203】
参考例24:原共重合体(A’)(a’−7)
参考例7で得られた原共重合体(a−7)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、原共重合体(a−7)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、54重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−7)のケークの揮発分含有量は34重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて100℃で20時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−7)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は1520μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は75000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.30であった。原共重合体(a’−7)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=75/25であった。
【0204】
参考例25:原共重合体(A’)(a’−8)
参考例8で得られた原共重合体(a−8)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、原共重合体(a−8)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、54重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−8)のケークの揮発分含有量は34重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて100℃で20時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−8)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は1210μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は101000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.10であった。原共重合体(a’−8)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0205】
参考例26:原共重合体(A’)(a’−10)
参考例8で得られた原共重合体(a−10)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、共重合体(a−10)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、54重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−10)のケークの揮発分含有量は34重量%であり、固液分離により得られたケークをさらに真空下にて130℃で12時間乾燥を行い、揮発分を完全に留去し、粒子状の原共重合体(a’−10)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は240μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は77000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.47であった。原共重合体(a’−10)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=77/23であった。
【0206】
参考例27:原共重合体(A’)(a’−3’)
参考例3で得られた原共重合体(a−3)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行い、原共重合体(a−3)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、58重量%であった。続いて、遠心分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100部に対して400部の酢酸ブチルを添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られた原共重合体のスラリーを80℃で遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体ケークの揮発分含有量は52重量%であった。続いて、得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃の温度で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られたケークをさらに真空下にて130℃で12時間乾燥を行い、完全に揮発分を留去し、粒子状の原共重合体(a’− 3’)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は430μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は53000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.25であった。原共重合体(a’−3’)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0207】
参考例28:比較例用の原共重合体(a’−11)
参考例11で得られた比較例用の原共重合体(a−11)のスラリーを加圧ろ過機(三菱化工機械社製)にて25℃で固液分離し(第一ろ過)、比較例用の原共重合体(a−11)のケークを得た。得られたケークを真空乾燥機中、130℃、12時間乾燥し、揮発分含有量を求めた結果、78重量%であった。続いて、固液分離後に得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100重量部に対して400重量部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られた原共重合体(a’−11)のスラリーを80℃に保ったまま、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給して回転速度1000rpm、80℃で5分間遠心分離を行った。得られた原共重合体(a’−11)ケークの揮発分含有量は57重量%であった。このケークをさらに真空下、130℃で12時間乾燥を行ったところ、酢酸ブチルが2.2wt%残存していたため、さらに、130℃で12時間真空乾燥を行い、粒子状の原共重合体(a’−11)を得た。SEMにて、150倍で観察し、粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径は650μmであった。また、GPC測定による重量平均分子量は142000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は3.25であった。原共重合体(a’−11)の共重合組成はMMA/MAA(重量%比)=72/28であった。
【0208】
実施例用の参考例18〜27および比較例用の参考例28の洗浄結果をまとめたものを表3に示す。
【0209】
表3中の洗浄後の粒子の分散性について、洗浄後、原共重合体を含むスラリーを遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、回転速度1000rpmで5分間遠心分離を行って得られるケークのうち、全て粉体として取り出すことができ、分散性に優れるものを○とした。また、原共重合体を含むスラリーを遠心分離した後に得られるケークのうち、粉体で取り出せない部分が少なくとも一部あるが、全ケークの重量中、5重量%未満である場合を△、原共重合体を含むスラリーを遠心分離した後に得られるケークのうち、粉体で取り出せない部分が全ケークの重量中、5重量%以上である場合を×で記載した。尚、遠心分離時のケークの温度については参考例18〜28の全てについて、80℃で実施して粒子分散性の横並び評価を行った(原共重合体(A’)(a’−2)についても洗浄後、80℃で遠心分離して評価を行った結果を表3に記載)。
【0210】
また、表3中の洗浄後の乾燥効率(乾燥速度)について、遠心分離後の原共重合体のケーク300gをステンレス製のバット上に厚さ8mmで敷き詰め、真空乾燥機(ヤマト科学社製 DP−32)を用いて、5Torrの圧力下、23℃から130℃まで30分で昇温し、130℃に達した後に7時間熱処理を実施した際に、バット底部に接していたケーク中に残存する有機溶媒量が2.0重量%未満である場合を○、ケーク中に残存する有機溶媒量が2.0重量%以上5.0重量%未満である場合を△、ケーク中に残存する有機溶媒量が5.0重量%以上である場合を×とした。
【0211】
表3中の乾燥後の粒子の分散性について、前記と同様の条件にて真空乾燥処理を実施して得た乾燥後の粒子について乾燥後の粒子において、粒子同士の合着や乾燥容器への付着が生じず、乾燥前の粒子径で全て回収できるものを○、粒子同士の合着や乾燥容器への付着が生じるが、粒子同士の合着量や乾燥容器への付着量が5.0重量%未満のものを△、粒子同士の合着量や乾燥容器への付着量が5.0重量%以上のものを×とした。
【0212】
【表3】

【0213】
表3より、参考例18〜27、および比較例用の参考例28の比較から、特定の有機溶媒(B)中で重合を行って得た原共重合体(A)は、水中で洗浄を実施し、次いで固液分離を行った後の粒子の再分散性に優れ、更に乾燥時に粒子乾燥効率に優れ、乾燥後の粒子の分散性に優れるため、粒子の取り出しや乾燥後の粒子のハンドリング性にも優れることがわかる。
【0214】
参考例29:ゴム質含有重合体(c−1)の製造
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内にイオン交換水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5重量部および過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル51重量部、スチレン19重量部およびメタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21重量部、メタクリル酸9重量部および過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、さらに90分間保持して、シェル層を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造のゴム質含有重合体(c−1)を得た。この重合体粒子の窒素中での1%分解温度は295℃であった。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は150nmであった。
【0215】
参考例30:ゴム質含有重合体(c−2):三菱レイヨン社製”メタブレン(登録商標)W377”(コア;アクリル重合体、シェル;メタクリル酸メチル重合体)を使用した。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は150nmであった。
【0216】
実施例1〜17:熱可塑性重合体の製造(第二工程)、(d−1)〜(d−17)
参考例1〜6、参考例10および参考例18〜27で得られた原共重合体(A)((a−1)〜(a−6)および(a−10))、原共重合体(A’)((a’−1)〜(a’−8)、(a’−10)および(a’−3’))の各々100重量部に対して、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の熱可塑性重合体((d−1)〜(d−17))を得た。これらの結果を表4に示した。
【0217】
実施例18〜21:熱可塑性重合体の製造(第二工程)、(d−18)〜(d−21)
(a’−3)、(a’−4)、(a’−5)および(a’−6)の各々100重量部に対して、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量15kg/h、シリンダ温度340℃で分子内環化反応を行い、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の熱可塑性重合体(d−18)〜(d−21)を得た。これらの結果を表4に示した。
【0218】
比較例1〜5:比較例用の熱可塑性重合体の製造(第二工程)、(d−22)〜(d−26)
比較例用の原共重合体(a−11)、(a−12)、(a−16)、(a−17)および原共重合体(a’−12)の各々100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の比較例用の熱可塑性重合体((d−22)〜(d−26))を得た。これらの結果を表4に示した。
【0219】
【表4】

【0220】
実施例1〜17および比較例1〜5の比較から、分子量分布が特定の範囲に制御された本発明の熱可塑性重合体は、無色透明性と耐熱性を良好に有しながら、耐衝撃性と流動性との双方に優れ、更に溶融滞留安定性および高温溶融滞留安定性にも優れることがわかった。また、実施例18〜21より、シリンダ温度を340℃とし、原料供給量を向上させ、分子内環化反応を行って得た熱可塑性重合体(d−18)〜(d−21)は、実施例10〜13の熱可塑性重合体と同等の組成を有することがわかった。すなわち、シリンダ温度を340℃とすることで、原料供給量を1.5倍としても同等の組成の熱可塑性重合体を得ることができ、これにより、生産量も1.5倍に増大した。また、有機溶媒(B)としてのエステルを含む重合溶媒を用いて誘導された原共重合体(A’)にシリンダ温度340℃で分子内環化を施して得た、実施例19および20の熱可塑性重合体は、色調および高温溶融滞留安定性に特に優れることがわかった。
【0221】
実施例22〜39:熱可塑性樹脂組成物の製造
熱可塑性重合体(d−1)〜(d−15)および(d−17)、ゴム質含有重合体(C)を表5の割合で配合し、2軸押出機TEX30(L/D=44.5、日本製鋼社製)を用いて設定温度280℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。ゴム質含有重合体(c−1)を含む実施例22、実施例24〜39については、熱可塑性樹脂組成物をテトラヒドロフラン中に分散させ、遠心分離を行うことによりゴム質重合体を単離したのち、赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1及び1760cm−1に吸収ピークが確認され、ゴム質重合体中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。
【0222】
比較例6〜11:比較例用の熱可塑性樹脂組成物の製造
熱可塑性重合体(d−22)〜(d−26)、ゴム質含有重合体(c−1)、を表5の割合で配合し、2軸押出機TEX30(L/D=44.5、日本製鋼社製)を用いて設定温度280℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の比較例用の熱可塑性樹脂組成物を得た。これら比較例用の熱可塑性樹脂組成物をテトラヒドロフラン中に分散させ、遠心分離を行うことによりゴム質重合体を単離したのち、赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1及び1760cm−1に吸収ピークが確認され、ゴム質重合体中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。
【0223】
実施例40
参考例9で得られた原共重合体(a’−1)100重量部、酢酸リチウム0.2重量部を2軸押出機TEX30(L/D=44.5、日本製鋼社製)を用いて設定温度285℃、スクリュー回転数100rpmで分子内環化反応を行い、加熱処理途中の段階である中間位置からサイドフィーダーを用いゴム質含有重合体(c−1)25重量部を添加混練し、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥して、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物をテトラヒドロフラン中に分散させ、遠心分離を行うことによりゴム質重合体を単離したのち、赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1及び1760cm−1に吸収ピークが確認され、ゴム質重合体中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。
【0224】
実施例22〜40および比較例6〜11の結果をまとめたものを表5に示す。
【0225】
【表5】

【0226】
実施例22〜40および比較例6〜11の比較から、本発明の熱可塑性重合体にゴム質含有重合体(C)を添加した実施例22〜40の熱可塑性樹脂組成物は、高度な無色透明性を有しながら、耐衝撃性と流動性の双方に優れ、更に溶融滞留安定性および300℃以上の高温における溶融滞留安定性にも優れることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体であって、かつ前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性重合体。
【化1】

(ただし、R1、R2は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【請求項2】
前記熱可塑性重合体が、更に少なくとも(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性重合体。
【請求項3】
前記熱可塑性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる重量平均分子量が2000〜1000000の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性重合体。
【請求項4】
前記熱可塑性重合体を用いて厚さ100±5μmのフィルムを作製し、このフィルムを光学顕微鏡で観察して異物数を確認した際に、1mm四方単位面積当たりの10μm以上の異物数が15個以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
【請求項5】
前記熱可塑性重合体が、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)に、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行うことによって得られるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
【請求項6】
(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)が、20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲である有機溶媒(B)中で、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸単量体からなる単量体混合物を共重合することにより得られたものである、請求項5に記載の熱可塑性重合体。
【請求項7】
有機溶媒(B)が、溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有するものである、請求項6に記載の熱可塑性重合体。
【請求項8】
有機溶媒(B)がケトンまたは酢酸エステルを含む請求項6または7に記載の熱可塑性重合体。
【請求項9】
有機溶媒(B)がジイソブチルケトンを含む請求項8に記載の熱可塑性重合体。
【請求項10】
有機溶媒(B)が酢酸イソアミルを含む請求項8に記載の熱可塑性重合体。
【請求項11】
前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)の一次粒子の数平均粒子径が0.1〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項5〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
【請求項12】
前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて得られる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0〜3.0の範囲であることを特徴とする請求項5〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
【請求項13】
20℃の温度における水1Lに対する溶解度が0.1g/L〜6.0g/Lの範囲である有機溶媒(B)中で、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸単量体を含む単量体混合物を共重合して、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、前記原共重合体(A)に(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応よる分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、下記一般式(1)で表される(i)グルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体を製造することを特徴とする熱可塑性重合体の製造方法。
【化2】

(ただし、R1、R2は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【請求項14】
有機溶媒(B)が、溶解度パラメーターが14.0〜16.7MPa1/2の範囲であり、かつ構造中に酸素原子を有するものであることを特徴とする請求項13に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の熱可塑性重合体が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体であることを特徴とする熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項16】
前記第一工程で用いる有機溶媒(B)がケトンまたは酢酸エステルを含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項17】
有機溶媒(B)がジイソブチルケトンを含む請求項16に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項18】
有機溶媒(B)が酢酸イソアミルを含む請求項16に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項19】
前記原共重合体(A)のスラリーを固液分離した後、得られた原共重合体(A)のケークに水および/または有機溶媒を添加し、5〜200℃の温度で洗浄し、該洗浄液から、5〜200℃にて再度固液分離を行い、必要に応じて乾燥処理を行った後に、原共重合体(A’)を得て、原共重合体(A’)を用いて前記第二工程を行うことを特徴とする請求項13〜18のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項20】
前記原共重合体(A’)の数平均粒子径が1〜20000μmの範囲にあることを特徴とする請求項19に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項21】
前記原共重合体(A)中に含有される(iii)不飽和カルボン酸単位量が15〜50重量%であることを特徴とする請求項13〜20のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項22】
前記第二工程における分子内環化反応を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする請求項13〜21のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項23】
連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする請求項22に記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項24】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体に更にゴム質含有重合体(C)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項25】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体または請求項25に記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融加工してなる成形品。
【請求項26】
成形品がフィルムである請求項25記載の成形品。

【公開番号】特開2007−254703(P2007−254703A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242843(P2006−242843)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】