説明

熱型光検出器、熱型光検出装置、電子機器および熱型光検出器の製造方法

【課題】 熱型光検出素子を支持する支持部材についての熱容量の低減と、製造工程において必要となる機械的強度の確保と、を両立させること。
【解決手段】 熱型光検出器の一実施形態は、基板BSと、光吸収膜4を含む熱型光検出素子5と、熱型光検出素子5を支持すると共に、基板BSに支持されている支持部材50と、基板BSおよび支持部材50の少なくとも一方から他方に向けて突出する少なくとも一本の補助支柱(57a,57b)と、を含み、少なくとも一本の補助支柱(57a,57b)の突出全長L0は、基板BSと支持部材50との間の最大距離L1よりも小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型光検出器、熱型光検出装置、電子機器および熱型光検出器の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱型光検出器としては、熱電対型素子(サーモパイル)、焦電型素子あるいはボロメーター等がある。熱電対型素子(サーモパイル)は、光吸収に伴う光吸収膜の温度上昇を、熱電対によって直接的に検出する。
【0003】
焦電型素子は、光吸収に伴う光吸収膜の温度上昇を、強誘電体の焦電効果(パイロ電子効果)を利用して検出する。例えば、強誘電体(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)やタンタル酸リチウム等の誘電率の大きな結晶体は、加熱したり冷却したりすると電気分極量の変化を生じる。すなわち、温度変化があると自発分極量に変化が生じて表面電荷量に変化が生じ、温度変化がないと表面電荷は中和する。分極状態が変化するのに伴い、強誘電体結晶の両端に接続される各電極間に表面電荷量の変化により生じた焦電流が流れる。焦電流(または分極量変化に伴う誘電率、分極量)を検出することによって、照射された光(赤外線等)の光量を検出することができる。
【0004】
また、ボロメーターは、光吸収に伴う温度上昇を、例えば感熱抵抗素子の抵抗値の変化として検出する。
【0005】
熱型光検出素子は冷却装置をもたない構造であるのが通常である。よって、素子を気密パッケージに収容する等して、素子を減圧環境下に置き、さらに基板や周辺膜と熱分離して、受光した光(赤外線等)によって生じる熱が周囲へ極力拡散しない構造とする必要がある。熱の基板への散逸を防いで熱型光検出素子の検出特性の低下を抑制するためには、例えば、基板と熱型光検出素子との間に、熱分離用の空洞部を設ける構造を採用することが有効である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1には、熱分離用の空洞部を有する熱型赤外線アレイセンサーが示され、特許文献2には、熱分離用の空洞部を有する焦電型赤外線検出素子が示されている。
【0006】
また、熱型光検出素子の一つである赤外線検出素子は、小規模素子分野では、例えば人感センサーに応用され、大規模アレイ分野では、例えば赤外線カメラ装置に応用されている。かつては軍事技術として開発されたが、近年は民生品へ応用が進みはじめており、今後赤外線検出による様々な応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−205944号公報
【特許文献2】特開2002−214038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱型光検出素子では、上述のとおり、受光した光(赤外線を含む)によって生じる熱の、周囲へ拡散を極力低減することが重要である。つまり、熱型光検出素子が搭載される支持部材は、空洞部を介して基板から浮いた状態で保持されるのが好ましい。また、検出素子の熱感応性を向上させるために熱容量を小さくするのが好ましい。また、基板側への熱伝達を抑制するために支持部自体はある程度以上の熱抵抗を有するのが好ましい。
【0009】
このためには、例えば、素子が搭載される搭載部と、その搭載部を支持する細いく(かつ、ある程度の長さをもつ)アームとを有する支持部材(例えば、膜状の部材:メンブレン)を使用し、その支持部材を、上述の細いアームによって基板から浮上した状態に保持し、基板への熱拡散を抑制しつつ支持部材(メンブレン)を安定に支えるという立体構造を採用することが考えられる。
【0010】
支持部材のアームは、熱拡散を抑制するために、平面視で、細く形成するのが好ましいが、その一方、搭載部に搭載される素子を安定に支えるだけの機械強度(剛性等)を持つことも要求される。支持部材の機械強度は、例えば、立体構造を製造する過程における不良品発生頻度(歩留まり)に影響を及ぼす。例えば、支持部材に、熱型光吸収素子の自重による撓み等が生じ、支持部材と基板との間の最小距離が、設計値よりも小さくなった状態であると、例えば、熱熱分離用の空洞の形成のためにウエットエッチングを使用した場合には、スティッキング(基板と支持部材との貼り付き(固着))が生じ易くなる。スティッキングは、例えば、ウエットエッチング後の乾燥工程において、液体の表面張力によって生じる。
【0011】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、熱型光検出素子における熱の散逸による素子特性の低下の抑制と、製造時における、支持部材の必要な機械的強度の確保とを両立することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の熱型光検出器の一態様では、基板と、光吸収膜を含む熱型光検出素子と、前記熱型光検出素子を支持すると共に、前記基板に支持されている支持部材と、前記基板および前記支持部材の少なくとも一方から他方に向けて突出する少なくとも一本の補助支柱と、を含み、前記少なくとも一本の補助支柱の突出全長は、前記基板と前記支持部材との間の最大距離よりも小さく設定されている。
【0013】
この構造によれば、製造工程においては、補助支柱(補助支持部)を利用して支持部材を安定的に支持することができる。例えば、補助支柱に連接して犠牲膜からなる犠牲層(犠牲層が柱状にパターニングされる場合には犠牲支柱(あるいは犠牲スペーサー)ということもできる)を設け、補助支柱および犠牲層(犠牲支柱)によって、立体構造(支持部材および支持部材上に形成される熱型光検出素子を含む立体構造)を支持する(支える)ことができる。これによって、実質的に、製造時における支持部材の機械的強度が向上したことになり、基板側への撓み等が抑制される。よって、例えば、ウエットエッチング工程の乾燥処理時等におけるスティッキングの発生を抑制することができる。
【0014】
一方、問題となる製造工程が終了した後、必要がなくなった犠牲層(犠牲支柱)を除去することによって、支持部材と補助支柱との間には空隙が形成され、基板と支持部材とは熱的に分断されることになり、これによって熱の拡散が阻止される。例えば、支持部材と基板との間の最大距離と、補助支柱の突出全長と差に対応する空隙が形成され、これによって、支持部材と補助支柱が熱的に分離される。よって、熱型光検出素子の製造が完了した後は、補助支柱の存在は、支持部材を経由した熱の拡散の原因にはならない。したがって、熱型光検出素子における熱の散逸による素子特性の低下の抑制と、製造時における、支持部材の必要な機械的強度の確保とを両立することができる。
【0015】
(2)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記支持部材は、前記熱型光検出素子を搭載する搭載部と、一端が前記搭載部に連結され、他端が前記基板に支持された少なくとも一本のアーム部と、を有し、前記少なくとも一本の補助支柱は、前記搭載部と前記基板との間、および前記少なくとも一本のアーム部と前記基板との間の、少なくとも一方に設けられている。
【0016】
本態様では、支持部材は、搭載部と、搭載部と支持する少なくとも一本のアームと、を有する。補助支柱は、搭載部と基板(センサーの土台となる基部)との間に設けることができ、また、少なくとも一本のアームと基板との間に設けることができる。なお、基板上の別構造物(例えば、基板上に積層形成される各種の膜や層(絶縁膜や絶縁層、導体膜や導体層等))も、基板(広義の基板)の一部と考えることができる(検出素子を支持する土台となるため)。すなわち、補助支柱は、平面視で、搭載部と重なりを有する位置(つまり、重なりを有するよう)に設けることができ、また、少なくとも一本のアームと重なりを有する位置(つまり、重なりを有するよう)に設けることができる。
【0017】
(3)本発明の熱型光検出器の他の態様では、一本の補助支柱を、平面視で、前記支持部材の中心の位置に設ける。
【0018】
補助支柱は、熱型光検出器の製造工程中の(少なくとも)一期間において、支持部材を安定的に支持して、支持部材(搭載部やアーム)の変位(撓み等)や変形(ねじれ等)を抑制する働きをすることが期待される。本態様では、補助支柱を、平面視で、支持部材の中心の位置に設ける(つまり、支持部材の中心と重なりを有するように、補助支柱を設ける)。支持部材の搭載部には、熱型光検出素子の自重が直接的にかかる。よって、支持部材の中心点を、補助支柱を利用して支持することは、支持部材の撓み等を抑制する点で効果的である。
【0019】
支持部材が、例えば平面視で、中心点に対して点対称な図形(180°回転すると元の図に重なる図形)であるとすると(これに限定されるものではない)、その中心点は、その図形(つまり支持部材)の重心に一致することになる。よって、その中心点を、補助支柱を利用して支持することは、支持部材の撓み等を抑制する点で特に効果的である。
【0020】
(4)本発明の熱型光検出器の他の態様では、一対の補助支柱の各々を、平面視で、前記支持部材の中心に対して、互いに点対称となる位置に設ける。
【0021】
本態様では、一対の補助支柱の各々を、平面視で、支持部材の中心に対して、互いに点対称となる位置(つまり、180°回転すると互いに重なり合う位置)に設ける。これによって、支持部材は、補助支柱によってバランスよく支持され、変位や変形を効果的に抑制することができる。
【0022】
(5)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記熱型光検出素子は、赤外線検出素子である。
【0023】
本態様によれば、小型で、熱容量が小さく、かつ歩留まりがよい(つまり、製造工程において、スティッキング等による不良が生じにくい)赤外線検出器を実現することができる。
【0024】
(6)本発明の熱型光検出装置の一態様では、上記いずれか記載の熱型光検出器が複数、2次元配置されている。
【0025】
これによって、複数の熱型光検出器(熱型光検出素子)が2次元に配置された(例えば、直交2軸の各々に沿ってアレイ状に配置された)、熱型光検出装置(熱型光アレイセンサー)が実現される。
【0026】
(7)本発明の電子機器の一態様は、上記いずれかの熱型光検出器を含む。
【0027】
上記いずれかの熱型光検出器は、熱容量が小さいために熱に対する感応性が高く、かつ製造時の歩留まりが高いことから、製造コストの低減も可能である。この熱型光検出器を有する電子機器も、同様の効果を享受することができる。例えば、1セル分または複数セルの熱型光検出器をセンサーとして用いることで、物体の物理情報の解析(測定)を行う解析機器(測定機器)、火や発熱を検知するセキュリティー機器、工場などに設けられるFA(Factory Automation)機器などの各種の電子機器を構成することができる。
【0028】
(8)本発明の電子機器の一態様は、上記の熱型光検出装置を含む。
【0029】
上記の熱型光検出装置は、熱容量が小さいために熱に対する感応性が高く、かつ製造時の歩留まりが高いことから、製造コストの低減も可能である。この熱型光検出装置を有する電子機器も、同様の効果を享受することができる。電子機器の好適な例としては、例えば、光(温度)分布画像を出力するサーモグラフィー、車載用ナイトビジョンあるいは監視カメラ等があげられる。
【0030】
(9)本発明の熱型光検出器の製造方法の一態様は、基板と、熱型光検出素子と、前記熱型光検出素子を支持すると共に、前記基板と前記基板に支持されている支持部材と、前記基板および前記支持部材の少なくとも一方から他方に向けて突出する少なくとも一本の補助支柱と、前記少なくとも一本の補助支柱の突出全長は、前記基板と前記支持部材との間の最大距離よりも小さく設定されている熱型光検出器の製造方法であって、前記補助支柱層とは異なる材料で構成される第1犠牲層を、前記基板と前記支持部材との間の空洞部となるべき空間を埋めるように、前記基板上に形成する工程と、前記少なくとも一本の補助支柱が第1補助支柱を含むとした場合に、前記第1補助支柱としての補助支柱層を形成する工程と、前記第1補助支柱層に連接し、前記補助支柱層および前記第1犠牲層の各々の構成材料とは異なる材料からなり、かつ、前記第1補助支柱層の突出長と前記第1犠牲層の膜厚に相当する突出長とを合計した合計突出長が、前記基板と前記支持部材との間の前記最大距離となるように、前記膜厚が設定された第2犠牲層を形成する工程と、前記第1補助支柱層と、前記第1補助支柱層に連接する前記第2犠牲層とで構成される積層構造の上に前記支持部材を形成する工程と、前記支持部材上に、前記熱型光検出素子を形成する工程と、前記第1犠牲層を除去する工程と、前記第2犠牲層を除去する工程と、を含む。
【0031】
本態様では、基板と支持部材との間に空洞部を形成するために第1犠牲層を利用し、また、補助支柱と支持部材との間の空隙の形成のために第2犠牲層を利用する。例えば、支持部材の形成前に、空洞部が形成されるべき空間を埋める(換言すれば、充填する)ように第1犠牲層を形成しておく。
【0032】
また、補助支柱に連接して第2犠牲層(第2犠牲層が柱状にパターニングされる場合には犠牲支柱ということもできる)を形成しておく。第2犠牲層上に、支持部材を形成する材料層等を形成すれば、補助支柱および犠牲層(犠牲支柱)によって、支持部材を支持することができ、これによって、実質的に、支持部材の機械的強度が向上したことになる。
【0033】
支持部材が形成された後(例えば、熱型光検出素子の少なくとも一部が形成された後)に、第1犠牲層を選択的に除去し、これによって、空洞部を形成する。このとき、支持部材は、補助支柱および犠牲層(犠牲支柱)によって、基板上に支持されていることから、変位や変形が抑制され、ウエットエッチングによって第1犠牲層を除去した場合であっても、スティッキング(液体の表面張力によって支持部材の一部と基板とが固着する現象)の発生が抑制される。
【0034】
なお、第1犠牲層のエッチング除去の際、補助支柱や第2犠牲層は構成材料が異なることから、除去されずに残存する。また、基板や支持部材に関しても、例えば、その表面に、上述の第1犠牲層用エッチャントに対してエッチングストッパーとして働く膜等を形成しておけば、第1犠牲層のエッチングによる影響を受けない。
【0035】
空洞部が形成された後に、必要がなくなった第2犠牲層(犠牲支柱)を、例えばエッチングによって除去することによって、支持部材と補助支柱との間に空隙を形成することができる。例えば、支持部材と基板との間の最大距離と、補助支柱の突出全長と差に対応する空隙が形成される。この空隙は、補助支柱と支持部材とを熱的に分離する熱分離用の空隙となる。熱型光検出器が例えば気密封止された減圧パッケージ内に収容される場合、空隙による断熱効果は高まる。支持部材と補助支柱は熱的に分離されているため、熱型光検出素子の製造が完了した後は、補助支柱の存在は、支持部材の熱容量に影響を与えない。
【0036】
(10)本発明の熱型光検出器の製造方法の他の態様では、前記補助支柱層を形成する工程は、前記第1犠牲層をパターニングして、前記第1補助支柱層を形成するための第1開口部を形成する工程と、前記第1開口部に、前記第1補助支柱層を構成する材料を埋め込む工程と、含み、かつ、前記第2犠牲層を形成する工程は、前記膜厚が設定された第2犠牲層を形成した後、前記第2犠牲層をパターニングする工程を含む。
【0037】
本態様では、第1犠牲層に選択的に設けられた開口部に補助支柱層を埋め込むことによって補助支柱を形成する(つまり、第1犠牲層が除去された場合に、埋め込まれていた補助支柱層が補助支柱となる)。さらに、その補助支柱層上に第2犠牲層を形成し、その第2犠牲層をパターニングして、補助支柱に連接する第2犠牲層(具体的には、第2犠牲層の材料からなる犠牲支柱)を形成する。
【0038】
この製造方法によれば、異なる材料からなる補助支柱および第2犠牲層(犠牲支柱)を、半導体の製造方法(フォトリソグラフィー)を利用して無理なく、形成することができる。
【0039】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、熱型光検出素子を支持する支持部材についての熱容量の低減と、製造工程において必要となる機械的強度の確保と、を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1(A)〜図1(E)は、補助支柱を有する熱型光検出器の一例(ここでは、焦電型赤外線検出器とする)の構成を説明するための図
【図2】図2(A)〜図2(C)は、熱型光検出器の立体構造の製造方法の概要を示す図
【図3】図3(A)〜図3(E)は、熱型光検出器の立体構造の製造方法の具体例を説明するための図
【図4】図4(A)〜図4(D)は、熱型光検出器の立体構造の製造方法の具体例を説明するための図
【図5】図5(A)および図5(B)は、熱型光検出器の立体構造の製造方法の具体例を説明するための図
【図6】図6(A)および図6(B)は、補助支柱(ならびにメイン支柱)の好ましい配置の例について説明するための図
【図7】熱型光検出装置の他の例(基板上にトランジスター等の回路素子が形成された例)を示す図
【図8】熱型光検出装置(熱型光検出アレイ)の回路構成の一例を示す回路図
【図9】図9(A)および図9(B)は、補助支柱を有するボロメーターの例を示す図
【図10】熱型光検出器や熱型光検出装置を含む電子機器の構成の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0042】
(第1の実施形態)
図1(A)〜図1(E)は、補助支柱を有する熱型光検出器の一例(ここでは、焦電型赤外線検出器とする)の構成を説明するための図である。図1(A)は、熱型光検出器の要部の平面図であり、図1(B)は、図1(A)のA−A線に沿う断面図であり、図1(C)〜図1(E)の各々は、補助支柱の構成例を示す図である。
【0043】
図1(A)および図1(B)に示される熱型光検出器は、MEMS(微小電気機械システム)技術(半導体製造技術)を使用して基板上に形成される立体構造を有する、焦電型赤外線検出器(焦電型赤外線センサー)である。
【0044】
(焦電型光検出器の構造例)
図1(A)および図1(B)に示されるように、基板BSと支持部材50との間には、空洞部10が設けられている。空洞部10は、例えば、基板BSと、支持部材50の被支持部以外の部分とを熱的に分離する機能を有する。基板BSの表面(凹部の表面)には、空洞部10形成時のエッチングストッパーなるエッチングストッパー膜ES(例えば、チタンナイトライド膜:TiN)が形成されている。
【0045】
また、空洞部10上に支持部材50が設けられている。基板BSは、狭義には、例えばシリコン基板等であり、広義には、センサーの土台となる基部(センサー基部)ということができる。広義の意味の基板(基部)には、シリコン基板等の表面上に形成された絶縁層(層間絶縁膜)が含まれる。つまり、基板上の別構造物(例えば、基板上に積層形成される各種の膜や層(絶縁膜や絶縁層、導体膜や導体層等))も、検出素子を支持する土台となることから、基板の一部と考えることができる。広義の基板BSを使用した具体例については、図7を用いて後述する。
【0046】
支持部材50は、例えば、シリコン窒化膜(Si膜)/シリコン酸化膜(SiO膜)/シリコン窒化膜(Si膜)の積層膜(ポリサイド)から形成される膜状の部材(メンブレン)である。支持部材(メンブレン)50は、赤外線吸収膜4からの熱の放逸を抑制するために、その熱容量が小さく設定されるのが好ましい。
【0047】
支持部材(メンブレン)50は、赤外線検出素子5が搭載される搭載部51と、搭載部51の一端に一端が連結され、他端が基板BS(ここでは、基板BSの固定部Qa)に支持される第1アーム(第1アーム部)52aと、搭載部51の他端に一端が連結され、他端が基板BS側(ここでは、基板BSの固定部Qb)に支持される第2アーム(第1アーム部)52bと、を有する。
【0048】
また、熱型光検出素子としての焦電型赤外線検出素子(焦電型光検出素子)5は、下部電極1と、焦電膜(強誘電体膜)2と、上部電極3と、光吸収膜としての赤外線吸収膜4と、を有する。下部電極(第1電極)1および上部電極(第2電極)3は、例えば、3層の金属膜を積層することによって形成される。例えば、焦電膜(強誘電体膜)2から遠い位置から順に、例えばスパッタリングにて形成されるイリジウム(Ir)、イリジウム酸化物(IrOx)及びプラチナ(Pt)の三層構造とすることができる。また、焦電膜(強誘電体膜)2としては、例えばPZT(Pb(Zi,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いることができる。焦電膜(強誘電体膜)2は、例えば、スパッタリング法やMOCVD法等で成膜することができる。下部電極(第1電極)1および上部電極(第2電極)3の膜厚は、例えば0.4μm程度であり、焦電膜(強誘電体膜)2の膜厚は、例えば0.1μm程度である。
【0049】
(補助支柱の形成例)
図1(A)および図1(B)に示されるように、本実施形態では、メイン支柱(主支柱、主ポストあるいは主支持部)55a,55bに加えて、製造時における支持部材50の変位や変形を抑制するため(製造時における機械的強度の補強のため)に、補助支柱(補助ポストあるいは補助支持部)57a,57bが設けられている。
【0050】
図1(A)に示されるように、平面視で、支持部材50における第1アーム52aと重なる位置に、メイン支柱55aと補助支柱57aが設けられており、同様に、平面視で、第2アーム52bに重なる位置に、メイン支柱55bと補助支柱57bが設けられている。合計で4つの支柱(ポスト)が設けられており、赤外線検出素子5からより遠い位置にある2つの支柱55a,55bをメイン支柱と呼び、赤外線検出素子5からより近い位置にある2つの支柱57a,57bを補助支柱と呼んでいる。
【0051】
図1(B)に示されるように、メイン支柱55a,55bは、基板BSと、支持部材50の第1アーム52aまたは第2アーム52bとの間に設けられる。メイン支柱55a,55bの各上面は、第1アーム52aおよび第2アーム52bの各底面に接触し、支持部材50(つまり第1アーム52aおよび第2アーム52b)を支持して、支持部材50(特に、搭載部51)の基板方向への撓み等を抑制している。
【0052】
一方、補助支柱57a,57bは、製造工程中(の一期間)において、支持部材50を支持して撓み等の発生を抑制するために使用される。そして、問題となる製造工程(スティッキングの発生が生じやすい、空洞部10の形成のためのウエットエッチング工程等)が終了した後は、空隙Ga,Gbによって、支持部材50から切り離される(分断された状態となる)。つまり、補助支柱57a,57bの各々は、支持部材50から熱的に分離された状態となる。
【0053】
例えば、補助支柱57a,57bに連接して犠牲膜からなる犠牲層(犠牲層が柱状にパターニングされる場合には犠牲支柱(犠牲スペーサー)ということもできる)を形成しておけば、補助支柱(57a,57b)および犠牲層(犠牲支柱)によって支持部材50を支持することができる。これによって、実質的に、支持部材50の機械的強度が向上したことになる。よって、例えば、ウエットエッチング工程の乾燥処理時等におけるスティッキングの発生を抑制することができる。
【0054】
そして、問題となる工程が終了した後に、必要がなくなった犠牲層(犠牲支柱)を除去することによって、支持部材と補助支柱との間には空隙Ga,Gbが形成される。つまり、熱型光検出器が完成した状態において、支持部材50と基板BSとの間の最大距離をL1とし、補助支柱57a,57bの突出全長をL0としたとき、L1>L0が成立する。そして、L1とL0の差に相当する間隔をもつ空隙Ga,Gbが形成され、これによって、支持部材50と補助支柱57a,57bが熱的に分離される。よって、熱型光検出素子の製造が完了した後は、補助支柱の存在は、支持部材50を経由した熱の拡散には影響を与えない。したがって、熱型光検出素子を支持する支持部材についての熱容量の低減と、製造工程において必要となる機械的強度の確保と、を両立させることができる。
【0055】
なお、メイン支柱55a,55bは、必ず設けなくてはならないものではない。例えば、第1アーム52aおよび第2アーム52bの各々の距離が短い場合には、基板BS側の固定部Qa,Qbの各々で、第1アーム52aおよび第2アーム52bの各々を支持するだけでよい場合もあり得る。
【0056】
但し、アーム部52(第1アーム52a,第2アーム52b)は、熱を基板BS側に極力逃がさないという観点から、大きな熱抵抗を有するのが好ましく、この点で、アーム部52(第1アーム52a,第2アーム52b)の全長は、ある程度、長くするのが好ましい(アーム部52の熱抵抗は、アーム部52の全長に比例して増大するため)。一方、支持部材50は、支持部材50自体による蓄熱を極力抑制するという観点から、熱容量を小さくするのが好ましく、膜状の支持部材(メンブレン)50の厚みは、断面積を小さくするために薄く形成するのが好ましく、そして、支持部材(メンブレン)50の厚みが薄くなるほど、支持部材(メンブレン)50の剛性が低下して、撓み等の変位や、ねじれ等の変形等が生じやすくなる。
【0057】
したがって、アーム部52(第1アーム52a,第2アーム52b)の全長を長くした場合には、特に製造時において、支持部材(メンブレン)50の剛性不足が特に問題となり易く、上述のとおり、例えばウエットエッチング時にスティッキングが発生する可能性が高まる。このような場合には、図1(A)および図1(B)に示すように、まず、平面視で、赤外線検出素子5からより遠い位置にメイン支柱55a,55bを設け、さらに、赤外線検出素子5からより近い位置に補助支柱57a,57bを設ける構成を採用することが好ましい。メイン支柱と補助支柱とを併用することによって、支持部材50の変位や変形をより効果的に抑制することができる。
【0058】
補助支柱の形成態様としては、図1(C)〜図1(E)に示され態様が考えられる。図1(C)の例では、補助支柱57が、基板BSから支持部材50に向けて突出しており、空隙(エアギャップ)Gは、支持部材50側に設けられている。図1(A)および図1(B)に示される構造では、この図1(C)の態様の補助支柱が使用されている。
【0059】
また、図1(D)の例では、補助支柱57が、支持部材50から基板BSに向けて突出しており、空隙Gは、基板BS側に設けられている。また、図1(E)の例では、一対の補助支柱57が設けられる。一対の補助支柱57の一方は、支持部材50から基板BSに向けて突出し、その突出長はLaであり、他方は、基板BSから支持部材50に向けて突出し、その突出長はLbである。空隙Gは、一対の補助支柱57の各々に挟まれた位置に形成されている。一対の補助支柱57の全突出長をL0(=La+Lb)とし、基板BSと支持部材50との間の最大距離をL1とすると、L1>L0が成立する。
【0060】
少なくとも一本の補助支柱(57a,57b等)は、断面図で視て、支持部材50の構成要素である搭載部51と基板BSとの間、および少なくとも一本のアーム部(52a,52b)と基板BSとの間の、少なくとも一方に設けることができる。すなわち、補助支柱(57a,57b等)は、平面視で、搭載部51と重なりを有する位置(つまり、重なりを有するよう)に設けることができ、また、少なくとも一本のアーム(52a,52b)と重なりを有する位置(つまり、重なりを有するよう)に設けることができる。
【0061】
(立体構造の製造方法について)
図2(A)〜図2(C)は、熱型光検出器の立体構造の製造方法の概要を示す図である。図2(A)〜図2(C)において、図1と共通する部分には同じ参照符号を付してある。
【0062】
図1(B)の断面構造をもつ熱型光検出器を形成する場合には、まず、シリコン基板BSをエッチング加工して凹部を形成し、凹部表面をエッチングストッパー膜ES(TiN)で覆っておく。そして、MEMS技術あるいは半導体製造技術を利用して、フォトリソグラフィーによって図2(A)に示すような立体構造を形成する。この立体製造の具体的な製造工程については、後述する。
【0063】
図2(A)において、基板BSはシリコンで構成され、メイン支柱55a,55bおよび補助支柱57a,57bはシリコンナイトライド(Si)で構成され、第1犠牲層70は、シリコン酸化膜(SiO膜)で構成され、第2犠牲層80は、ポリシリコン(Poly−Si)で構成される。また、支持部材50は、シリコン窒化膜(Si膜)/シリコン酸化膜(SiO膜)/シリコン窒化膜(Si膜)の積層膜(ポリサイド)から形成される膜状の部材(メンブレン)である。
【0064】
次に、図2(B)に示すように、第1犠牲層70をエッチングにより除去することによって空洞部10を形成する。次に、図2(C)に示すように、第2犠牲層(犠牲支柱あるいは犠牲スペーサー)80をエッチングにより除去することによって、空隙Ga,Gbを形成する。第2犠牲層(犠牲支柱あるいは犠牲スペーサー)80のエッチングに際しては、スティッキング防止のために、ドライエッチングを用いることが好ましい(ウエットエッチングとドライエッチングを併用することも可能であるが、仕上げのエッチングにはドライエッチングを使用することが好ましい)。
【0065】
(製造方法の具体例)
以下、図3(A)〜図3(E)、図4(A)〜図4(D)ならびに図5(A),図5(B)を用いて、熱型光検出器の立体構造の製造方法の具体例について説明する。図3(A)〜図3(E)、図4(A)〜図4(D)ならびに図5(A),図5(B)は各々、熱型光検出器の立体構造の製造方法の具体例を説明するための図である。各図において、前掲の図面と共通する部分には同じ参照符号を付してある。
【0066】
図1(B)の断面構造をもつ熱型光検出器を形成する場合には、まず、シリコン基板BSをエッチング加工して凹部を形成し、凹部表面をエッチングストッパー膜ES(TiN)で覆っておく。次に、図3(A)に示すように、空洞部10となるべき空間を埋める(充填する)ように、基板BS上に第1犠牲層(SiO層)70を形成する。次に、第1犠牲層(SiO層)70をパターニングして、メイン支柱および補助支柱を形成するべき位置に、開口部71を形成する。
【0067】
次に、図3(B)に示すように、開口部71に、メイン支柱層55a,55bおよび補助支柱層57a,57bとしてのシリコンナイトライド層(Si層)を埋め込む。具体的には、例えば、全面にシリコンナイトライド層(Si層)を形成した後、エッチバック処理によって第1犠牲層70上のシリコンナイトライド層(Si層)を除去することで、開口部71に、メイン支柱層および補助支柱層としてのシリコンナイトライド層(Si層)を埋め込むことができる。つまり、第1犠牲層70に選択的に設けられた開口部71に補助支柱層を埋め込むことによって補助支柱57a,57bを形成することができる。この方法によれば、半導体の製造方法(フォトリソグラフィー)を利用して、補助支柱57a,57bを無理なく形成することができる。
【0068】
次に、図3(C)に示すように、第2犠牲層(Poly−Si層)79を形成する。次に、図3(D)に示すように、第2犠牲層(Poly−Si層)79をパターニングして、犠牲支柱(犠牲スペーサー)としての第2犠牲層(Poly−Si層)80を形成する。次に、図3(E)に示すように、シリコン窒化膜(Si膜)/シリコン酸化膜(SiO膜)/シリコン窒化膜(Si膜)の積層膜から形成される支持部材(メンブレン)50を形成する。
【0069】
次に、図4(A)〜図4(D)を参照する。まず、図4(A)に示すように、下部電極の構成材料層1’と、強誘電体層(PZT層)2’と、上部電極の構成材料層3’とを順次、積層形成する。下部電極構成材料層1’および上部電極構成材料層3’の各々は、例えば、強誘電体層2’から遠い位置から順に、イリジウム(Ir)、イリジウム酸化物(IrOx)及びプラチナ(Pt)の三層構造とすることができる。また、強誘電体層2’としては、PZT(Pb(Zi,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いることができる。これらは、例えば、スパッタリング法やMOCVD法等で成膜することができる。下部電極構成材料層1’および上部電極構成材料層3’の膜厚は、例えば0.4μm程度であり、強誘電体層2’の膜厚は、例えば0.1μm程度である。
【0070】
次に、図4(B)に示すように、下部電極の構成材料層1’、強誘電体層(PZT層)2’ならびに上部電極の構成材料層3’の各々をパターニングして、下部電極1、強誘電体膜(PZT膜)2ならびに上部電極3を構成する(これによって、積層コンデンサーが形成される)。次に、図4(C)に示すように、積層コンデンサー上を電気的絶縁膜60で覆う。次に、図4(D)に示すように、光吸収膜(赤外線吸収膜)4と、引き出し電極層65と、を形成する。光吸収膜(赤外線吸収膜)4は、例えばSiO膜である。
【0071】
次に、図5(A)および図5(B)を参照する。図5(A)に示すように、第1犠牲層70(SiO層)を、例えば弗酸系のエッチング液を用いて除去する。これによって、熱分離用の空洞部10が形成される。このとき、支持部材50は、メイン支柱55a,55bならびに補助支柱57a,57bによって安定的に支持されるため、変位や変形が抑制され、スティッキングが生じにくい。
【0072】
なお、第1犠牲層(SiO層)70のエッチング除去の際、メイン支柱55a,55b、補助支柱57a,57bならびに第2犠牲層80は構成材料が異なることから、除去されずに残存する。また、基板BSにはエッチングストッパー膜ES(TiN膜)が形成されており、また、支持部材(メンブレン)50の表裏面はSi膜であることから、これらもエッチングによって除去されずに残存する。
【0073】
次に、図5(B)に示すように、第2犠牲層(Poly−Siからなる犠牲支柱(犠牲スペーサー))をエッチングによって除去する。これによって、空隙Ga,Gbが形成される。このエッチングは、スティッキング防止のために、ドライエッチング(例えば、XeF系のエッチングガスを用いたプラズマドライエッチング)によって除去する。なお、ウエットエッチングとドライエッチングを併用することも可能であるが、この場合、仕上げのエッチングにはドライエッチングを使用することが好ましい。この方法によれば、半導体の製造方法(フォトリソグラフィー)を利用して、熱分離用の空隙Ga,Gbを無理なく形成することができる。
【0074】
空洞部10が形成された後に、必要がなくなった第2犠牲層(犠牲支柱,犠牲スペーサー)を除去することによって、支持部材50と補助支柱57a,57bとの間に空隙を形成され、両者が分断される。例えば、支持部材50と基板BSとの間の最大距離L1と、補助支柱57a,57bの突出全長L0と差に対応する空隙Ga,Gbが形成される。この空隙Ga,Gbは、補助支柱57a,57bと支持部材50とを熱的に分離する熱分離用の空隙となる。熱型光検出器が例えば気密封止された減圧パッケージ内に収容される場合、空隙Ga,Gbによる断熱効果は高まる。支持部材50と補助支柱57a,57bは熱的に分離されているため、熱型光検出器の製造が完了した後は、補助支柱57a,57bが存在していても、支持部材50の熱容量に影響を与えず、また、補助支柱57a,57bを経由した放熱経路が形成されることもない。
【0075】
このようにして、熱型光検出器(赤外線検出器等)が形成される。この熱型光検出器(赤外線検出器等)は、半導体製造技術を用いて製造されることから微細化(小型化)が可能であり、補助支柱(補助ポスト)は空隙によって支持部材から熱分離されていることから素子特性の低下を招かず、かつ、製造工程において、スティッキング等による不良が生じにくいことから、歩留まりよく製造することができる。
【0076】
(第2の実施形態)
本実施形態では、補助支柱(ならびにメイン支柱)の好ましい配置の例について説明する。図6(A)および図6(B)は、補助支柱(ならびにメイン支柱)の好ましい配置の例について説明するための図である。図6(A)および図6(B)において、前掲の図と共通する部分には同じ参照符号を付してある。
【0077】
製造工程において、単純に支柱を設けて支持部材50を支持する構造を採用すると、その支柱が放熱経路を構成する可能性があることから、支柱は、熱型光検出素子から遠い位置に設ける必要がある。このため、図6(A)の例では、メイン支柱55a,55bは、熱型光検出素子5からの距離が大きくなるように配置されている。つまり、メイン支柱55aは、第1アーム52aの基板側に設けられており、メイン支柱55bは、第2アーム52bの基板側に設けられている。
【0078】
一方、本実施形態の補助支柱は、問題となる製造工程が終了した後は、補助支柱と支持部材との間には空隙が形成されて、補助支柱を経由した放熱経路の形成の心配がないことから、補助支柱は、熱型光検出素子に近い位置に形成しても問題がない。この利点を考慮すると、補助支柱は、例えば、図6(A)に示される位置に設けることが可能である。
【0079】
図6(A)では、メイン支柱55a,55bに加えて、補助支柱57a〜57eが設けられている。但し、これらの補助支柱のすべてを設置する必要はなく、補助支柱の本数や設置位置は、適宜、調整することができる。支柱(ポスト)の設置位置は、力学的バランスを考慮して決定するのが好ましい。
【0080】
一本の補助支柱は、平面視で、支持部材50の中心の位置に設ける(つまり、支持部材50の中心と重なりを有するように補助支柱を設ける)ことができる。図6(A)では、補助支柱57gが支持部材50の中心の位置(O点)に設けられている。支持部材50の搭載部51には、熱型光検出素子の自重が直接的にかかる。よって、支持部材50の中心点を、補助支柱を利用して支持することは、支持部材の撓み等を抑制する点で効果的である。
【0081】
支持部材が、平面視で、中心点(O点)に対して点対称な形状(180°回転すると元の図に重なる形状)であるとすると、その中心点(O点)は、その図形(つまり支持部材50)の重心に一致することになる。図6(A)に示される支持部材50は、平面視で、中心点(O点)に対して点対象な形状を有する。よって、図6(A)の例において、その中心点(O点)を、補助支柱57gを利用して支持することは、支持部材50(搭載部51やアーム52)の変位(撓み等)や変形(ねじれ等)を抑制する点で効果的である。
【0082】
また、一対の補助支柱の各々を、平面視で、支持部材50の中心に対して、互いに点対称となる位置に設けることができる。図6(A)では、一対の補助支柱(57aと57b、57cと57d、57eと57f)の各々が、平面視で、支持部材50の中心点(点対称の中心点)に対して、互いに点対称となる位置(つまり、180°回転すると互いに重なり合う位置)に設けられている。これによって、支持部材50は、一対の補助支柱の各々によってバランスよく支持され、変位や変形が効果的に抑制される。
【0083】
また、図6(A)では、一対のメイン支柱の各々(55aと55b)も、平面視で、支持部材50の中心点(点対称の中心点)に対して、互いに点対称となる位置に設けられている。
【0084】
また、力学的バランスを考慮すると、支柱(メイン支柱および補助支柱)は、線対称の位置に設けるのが、さらに好ましい。図6(A)では、第1方向DR1(あるいは第2方向DR2)に沿う線(X軸とする)に対して、補助支柱57cと57fならびに補助支柱57eと57dが、線対称の位置に配置されている。また、メイン支柱55aと55bもY軸に対して線対称の位置に配置されている。また、補助支柱57gは、Y軸上に(X軸に沿って)配置されている。
【0085】
また、図6(A)では、第3方向DR3(あるいは第4方向DR4)に沿う線(Y軸とする)に対して、補助支柱57aと57b、補助支柱57cと57e、補助支柱57fと57dが、線対称の位置に配置されている。また、メイン支柱55aと55b、ならびに補助支柱57a,57gおよび57bは、X軸上に(X軸に沿って)配置されている。
【0086】
図6(B)には、補助支柱(ならびにメイン支柱)の好ましい配置の他の例が示される。図6(B)の例では、第1アーム52aおよび第2アーム52bが、平面視で、屈曲部を有する形状を有している。よって、アーム長を長くとることができ、熱抵抗を大きくすることができることから、赤外線検出素子5から基板に向けての熱の拡散が効果的に抑制される。
【0087】
図6(B)に示される支持部材50は、平面視で、中心点(O点)に対して点対象な形状を有する。図6(B)では、補助支柱57cが支持部材50の中心の位置(O点)に設けられている。支持部材50の搭載部51には、熱型光検出素子の自重が直接的にかかる。よって、支持部材50の中心点を、補助支柱57cを利用して支持することは、支持部材50の撓み等を抑制する点で効果的である。
【0088】
また、図6(B)では、一対の補助支柱(57aと57b)の各々が、平面視で、支持部材50の中心点(点対称の中心点)Oに対して、互いに点対称となる位置(つまり、180°回転すると互いに重なり合う位置)に設けられている。これによって、支持部材50は、一対の補助支柱の各々によってバランスよく支持され、変位や変形が効果的に抑制される。また、メイン支柱55aと55bも、平面視で、支持部材50の中心点(点対称の中心点)Oに対して、互いに点対称となる位置に設けられている。
【0089】
また、メイン支柱55aと補助支柱57a、ならびに補助支柱57bとメイン支柱55bは、X軸に対して線対称の位置に設けられている。また、補助支柱57aとメイン支柱55b、ならびにメイン支柱55aと補助支柱57bは、Y軸に対して線対称の位置に設けられている。図6(B)の例は、アーム長を長くとることができ、また、各支柱が点対称(ならびに線対称)の位置に配置されていることから、力学的なバランスがよい。製造工程において、支持部材50は、各支柱によって安定的に保持される。
【0090】
(第3実施形態)
図7は、熱型光検出装置の他の例(基板上にトランジスター等の回路素子が形成された例)を示す図である。図7の上側に熱型光検出器(熱型赤外線検出器)の平面図が示され、下側に、A―A線に沿う断面図が示される。図7において、前掲の図面と共通する部分には同じ参照符号を付してある。
【0091】
図7において、P型のシリコン基板11の表面には、薄い酸化膜(ゲート酸化膜)15が形成されており、ゲート酸化膜15上には、MOSトランジスターのゲート(例えばシリコンゲート)9が形成されている。ゲート9およびN型拡散層7a,7bは、MOSトランジスターM1を構成する。このMOSトランジスターM1は、例えば、図8における光検出セルCL1における、選択トランジスターM1として利用することができる。
【0092】
シリコン基板11上には層間絶縁膜13(SiO層)が形成されている。層間絶縁膜13上に、先に説明した立体構造が形成されている。本実施形態では、シリコン基板11と層間絶縁膜13を含めた部分が、広義の基板BS(基部BS)となる。
【0093】
本実施形態では、3本の補助支柱(57a〜57c)が設けられている。各補助支柱(57a〜57c)と支持部材50との間には、空隙Ga〜Gcが形成されている。なお、本実施形態では、メイン支柱は使用されていない。また、図7の例では、3つのコンタクト部(CX1〜CX3)が設けられている。各コンタクト部(CX1〜CX3)は、1層目メタル31と、コンタクトプラグ32と、2層目メタル33と、コンタクトプラグ34と、3層目メタル35と、コンタクトプラグ36と、4層目メタル37と、によって構成される。
【0094】
(第4実施形態)
図8は、熱型光検出装置(熱型光検出アレイ)の回路構成の一例を示す回路図である。図8の例では、複数の光検出セル(CL1〜CL4等)が、2次元的に配置されている。複数の光検出セル(CL1〜CL4等)の中から一つの光検出セルを選択するために、走査線(W1a,W1b等)と、データ線(D1a,D1b等)が設けられている。
【0095】
光検出セルCL1は、熱型光検出素子5としての圧電コンデンサーZCと、素子選択トランジスターM1aと、を有する。圧電コンデンサーZCの両極の電位関係は、PDr1に印加する電位を切り換えることによって反転することができる(この電位反転によって、機械的なチョッパーを設ける必要がなくなる)。なお、光検出セルCL2も同様の構成である(他の光検出セルも構成は同じである)。
【0096】
データ線D1aの電位は、リセットトランジスターM2をオンすることによって初期化することができる。検出信号の読み出し時には、読み出しトランジスターM3がオンする。焦電効果によって生じる電流は、I/V変換回路510によって電圧に変換され、アンプ600によって増幅され、A/D変換器700によってデジタルデータに変換される。
【0097】
本実施形態では、複数の熱型光検出器(熱型光検出素子)が2次元的に配置された(例えば、直交2軸(X軸およびY軸)の各々に沿ってアレイ状に配置された)、熱型光検出装置(熱型光アレイセンサー)が実現される。
【0098】
(第5実施形態)
図9(A)および図9(B)は、補助支柱を有するボロメーターの例を示す図である。図9(A)は平面図であり、図9(B)はB−B線に沿う断面図である。本実施形態のボロメーターは、例えば、感熱抵抗素子を用いたボロメーターである。
【0099】
図9(A),図9(B)に示すように、基板BSには、空洞部10が形成されている。支持部材50は、空洞部10を介して基板BSから離間して設けられている。支持部材50には、4つの搭載部51a〜51dが設けられている。搭載部51a〜51dの各々には、4つの感熱抵抗素子(SiC薄膜サーミスター等)5a’〜5d’の各々が搭載されている。各感熱抵抗素子5a’〜5d’は、例えば、ブリッジ回路を構成するように相互に接続される。
【0100】
また、支持部材50の中心点(点対称の中心点)Oの位置に、補助支柱57(Siからなる)が構成されている。補助支柱57と支持部材50との間には、空隙Gが設けられている。
【0101】
(第6実施形態)
図10に本実施形態の熱型光検出器や熱型光検出装置を含む電子機器の構成例を示す。電子機器は、例えば赤外線カメラである。図示されるように、電子機器は、光学系400と、センサーデバイス(熱型光検出装置)410と、画像処理部420と、処理部430と、記憶部440と、操作部450と、表示部460とを含む。なお本実施形態の電子機器は図10の構成に限定されず、その構成要素の一部(例えば光学系、操作部、表示部等)を省略したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0102】
光学系400は、例えば1または複数のレンズや、これらのレンズを駆動する駆動部などを含む。そしてセンサーデバイス410への物体像の結像などを行う。また必要であればフォーカス調整なども行う。
【0103】
センサーデバイス410は、上述した本実施形態の光検出器を二次元配列させて構成され、複数の行線(走査線(あるいはワード線))と複数の列線(データ線)が設けられる。センサーデバイス410は、二次元配列された光検出器に加えて、行選択回路(行ドライバー)と、列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路と、A/D変換部等を含むことができる。二次元配列された各光検出器からのデータを順次読み出すことで、物体像の撮像処理を行うことができる。
【0104】
画像処理部420は、センサーデバイス410からのデジタルの画像データ(画素データ)に基づいて、画像補正処理などの各種の画像処理を行う。処理部430は、電子機器の全体の制御や電子機器内の各ブロックの制御を行う。この処理部430は、例えばCPU等により実現される。記憶部440は、各種の情報を記憶するものであり、例えば処理部430や画像処理部420のワーク領域として機能する。操作部450は、ユーザが電子機器を操作するためのインターフェースとなるものであり、例えば各種ボタンやGUI(Graphical User Interface)画面などにより実現される。
【0105】
表示部460は、例えばセンサーデバイス410により取得された画像やGUI画面などを表示するものであり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイにより実現される。
【0106】
このように、1セル分の熱型光検出器を赤外線センサー等のセンサーとして用いる他、1セル分の熱型光検出器を直交二軸方向に二次元配置することでセンサーデバイス(熱型光検出装置)410を構成することができ、こうすると熱(光)分布画像を提供することができる。このセンサーデバイス410を用いて、サーモグラフィー、車載用ナイトビジョンあるいは監視カメラなどの電子機器を構成することができる。
【0107】
もちろん、1セル分または複数セルの熱型光検出器をセンサーとして用いることで物体の物理情報の解析(測定)を行う解析機器(測定機器)、火や発熱を検知するセキュリティー機器、工場などに設けられるFA(Factory Automation)機器などの各種の電子機器を構成することもできる。
【0108】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、補助支柱の製造方法は、先に説明した方法に限定されるものではない。補助支柱の製造方法としては、例えば、熱分離用の空洞部と補助支柱用の第2犠牲層と支持部材(メンブレン)用の膜とを最初に積層しておき、空洞をトレンチ状に掘り込む際に、併せて形成してしまう方法を採用することもできる。また、第1犠牲層および第2犠牲層の構成材料、それらの除去方法等に関しても種々、変形が可能である。
【0109】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、熱型光検出素子を支持する支持部材についての熱容量の低減と、製造工程において必要となる機械的強度の確保と、を両立させることができる。本発明は、種々の熱型光検出器(例えば、熱伝対型素子(サーモパイル)、焦電型素子、ボロメーター等)に広く適用することができる。検出する光の波長は問わない。
【符号の説明】
【0110】
5 熱型光検出素子(光検出素子)としての赤外線検出素子、10 空洞部、
50 支持部材(メンブレン)、51 搭載部、G(Ga,Gb) 空隙、
52(52a,52b) アーム部(第1アーム、第2アーム)、
55a,55b メイン支柱、57a,57b 補助支柱、
70 第1犠牲層、80 第2犠牲層、BS 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
光吸収膜を含む熱型光検出素子と、
前記熱型光検出素子を支持すると共に、前記基板に支持されている支持部材と、
前記基板および前記支持部材の少なくとも一方から他方に向けて突出する少なくとも一本の補助支柱と、を含み、
前記少なくとも一本の補助支柱の突出全長は、前記基板と前記支持部材との間の最大距離よりも小さく設定されていることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項2】
請求項1記載の熱型光検出器であって、
前記支持部材は、前記熱型光検出素子を搭載する搭載部と、一端が前記搭載部に連結され、他端が前記基板に支持された少なくとも一本のアーム部と、を有し、
前記少なくとも一本の補助支柱は、前記搭載部と前記基板との間、および前記少なくとも一本のアーム部と前記基板との間の、少なくとも一方に設けられていることを特徴とする熱型光検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱型光検出器であって、
一本の補助支柱を、平面視で、前記支持部材の中心の位置に設けることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱型光検出器であって、
一対の補助支柱の各々を、平面視で、前記支持部材の中心に対して、互いに点対称となる位置に設けることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱型光検出器であって、
前記熱型光検出素子は、赤外線検出素子である、ことを特徴とする熱型光検出器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の熱型光検出器が複数、2次元配置されていることを特徴とする熱型光検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の熱型光検出器を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項8】
請求項6記載の熱型光検出装置を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
基板と、熱型光検出素子と、前記熱型光検出素子を支持すると共に、前記基板に支持されている支持部材と、前記基板および前記支持部材の少なくとも一方から他方に向けて突出する少なくとも一本の補助支柱と、前記少なくとも一本の補助支柱の突出全長は、前記基板と前記支持部材との間の最大距離よりも小さく設定されている熱型光検出器の製造方法であって、
前記補助支柱層とは異なる材料で構成される第1犠牲層を、前記基板と前記支持部材との間の空洞部となるべき空間を埋めるように、前記基板上に形成する工程と、
前記少なくとも一本の補助支柱が第1補助支柱を含むとした場合に、前記第1補助支柱としての補助支柱層を形成する工程と、
前記第1補助支柱層に連接し、前記補助支柱層および前記第1犠牲層の各々の構成材料とは異なる材料からなり、かつ、前記第1補助支柱層の突出長と前記第1犠牲層の膜厚に相当する突出長とを合計した合計突出長が、前記基板と前記支持部材との間の前記最大距離となるように、前記膜厚が設定された第2犠牲層を形成する工程と、
前記第1補助支柱層と、前記第1補助支柱層に連接する前記第2犠牲層とで構成される積層構造の上に前記支持部材を形成する工程と、
前記支持部材上に、前記熱型光検出素子を形成する工程と、
前記第1犠牲層を除去する工程と、
前記第2犠牲層を除去する工程と、
を含むことを特徴とする熱型光検出器の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の熱型光検出器の製造方法であって、
前記補助支柱層を形成する工程は、
前記第1犠牲層をパターニングして、前記第1補助支柱層を形成するための第1開口部を形成する工程と、
前記第1開口部に、前記第1補助支柱層を構成する材料を埋め込む工程と、含み、
かつ、前記第2犠牲層を形成する工程は、
前記膜厚が設定された第2犠牲層を形成した後、前記第2犠牲層をパターニングする工程を含む、
ことを特徴とする熱型光検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−153853(P2011−153853A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14177(P2010−14177)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】