説明

熱型素子及び熱型素子の製造方法

【課題】熱作用を伴う機能部材を集積した熱型素子において、急激な温度変化に伴って生じる熱膨張による伸縮で発熱部や感熱部等の機能部材が破壊される課題を解決し、機能部材の迅速な熱応答性を確保しつつ変形を防止する熱型素子及び熱型素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板20に設けた空洞30上に薄層を架橋する構造の熱型素子は、温度によって寸法が変化する機能部材と、機能部材の寸法の変化を吸収するように、温度によって寸法が変化する寸法増減部材60と、を備えている。この機能部材と寸法増減部材60とは、基板20に設けられた空洞30上に連結架橋されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱又は感熱部材等を有する熱型素子及び熱型素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発熱部となる抵抗体へ電力を供給してジュール発熱させる発熱素子(マイクロヒータともいう)の技術が開示されている(例えば、特許文献1)。例えば、特許文献1記載の雰囲気計は、Si基板の空洞上に架橋した微小な薄層をなす発熱部を、機能部材として集積している。上述したように、発熱素子の発熱部がSi基板と直接接していないことにより、発熱部からSi基板への熱の損失が小さくなり、しかも、上記のような熱型素子は、半導体微細加工技術を用いて微小な寸法に形成される。そのため、少ない電力で熱型素子を所定温度にすることができる。いわゆる、MEMS(Micro Electro Mechanical System)であって、従って発熱部の熱容量が小さく、電力を印加して数ミリ秒で所定温度に到達させることができる。
【0003】
上記したような発熱部は迅速に低温状態から高温状態、あるいは高温状態から低温状態にさせることができる。そのため、発熱部の構成材料の熱膨張率が大きい場合は、高速に伸縮して変形し、空洞上の発熱部を支持する箇所への応力集中により発熱部が破壊されてしまうことがあった。
【0004】
また、発熱素子と同様に、Si基板の空洞上に架橋した微小な薄層をなす温度検出部を、機能部材として集積した感熱素子がある。感熱素子の場合も、迅速な熱応答を利用しているため、上述したような伸縮が生じて変形してしまうことがあった。
【0005】
ここで、熱膨張による変位に関して、一般に、自由に変形できる長さlの物体の熱膨張は下記式(1)で表される。
【0006】
Lh=Ll(1+α(Th−Tl)) ・・・ 式(1)
【0007】
ここで、Lh:高温時の長さ、Ll:低温時の長さ、Th:高温時の温度、Tl:低温時の温度、α:膨張係数とする。また、上記式(1)を熱膨張による変位量Lh−Ll=Δlとして表すと下記式(2)となる。
【0008】
Δl=α・Ll(Th−Tl) ・・・ 式(2)
【0009】
上記式(2)からも明らかなように、物性値のαがゼロの時以外は、温度差に応じた変位が生じるものである。
【0010】
上述したように、発熱素子の場合、図19に示すように発熱部が基板から分離している構造では、熱膨張により発熱部が凸状に変形し、発熱体を支持する部分への応力集中により発熱部が破壊してしまうという問題があった。
【0011】
ここで、図19は、本発明に関連する熱型素子の概略構成例を示している。図19に示された熱型素子は、Pt、Au、NiCr等の正の熱膨張係数を有する材料により抵抗体10を形成し、その抵抗体10を基板20に設けた空洞30の上に架橋して、機能部材として用いている。その抵抗体10の両端は、それぞれ基板上の電極部40と接続される。このような抵抗体10において、基板上の部分は基板20に拘束されているため伸縮はできないが、空洞上の部分は基板20に拘束されないので伸縮が可能となる。したがって、温度状態により寸法が変化する抵抗体では、図19の(c)に示すように低温状態では抵抗体が平坦でも、高温状態では図19の(b)に示すように熱膨張により抵抗体10が中央方向へ伸長して大きなたわみが生じてしまっていた。
【0012】
上記問題を解決するために、発熱抵抗及び感熱抵抗を支持膜と保護膜で挟み込むダイヤフラム構造を有する熱式センサにおいて、支持膜や保護膜の引張応力を基材に対して50MPa以上250MPa以下にすることにより、発熱部の変形を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【0013】
さらに、上記問題を解決するための他の技術として、Si基板上に形成され、周辺部がSiO2であるフローティングメンブレンにおいて、メンブレン内部の応力を相殺するために、SiO2膜からなるメンブレン中央部分をSi24に置き換える技術も開示されている(例えば、特許文献3)。
【0014】
また、応力を補償する技術として、応力補償用被膜の技術が開示されている(例えば、特許文献4)。具体的には、上記特許文献3記載の技術では、高温状態で基板上に被膜を形成する被膜プロセスによって形成された反り構造体の反りを補償するために、負の熱膨張係数を有する被膜を、使用温度より高い温度で、反り構造体の凹面上、すなわち上記被膜プロセスで形成された被膜上にさらに形成する。これにより、基板は比較的平坦な構造を有することができる。
【0015】
さらに、上記問題に関連する技術として、試料温度を変化させながらX線回折測定を実行する装置に組み込まれる試料保持装置の技術が開示されている(例えば、特許文献5)。具体的には、上記特許文献5記載の技術では、正の熱膨張係数を有する試料配置部の温度変化による上下方向の変位を、熱膨張係数の異なる第1支持部材と第2支持部材の変位で抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記特許文献2及び特許文献3記載の技術では、応力は、作製時の温度、圧力、厚み等に依存しているため、調整が複雑であり、バラツキも大きくなってしまうという課題があった。そのため、上記特許文献2及び特許文献3記載の技術では、確実に応力バランスを一定にすることは困難であった。
【0017】
特許文献4記載の技術では、基板面上に堆積する被膜は、反り状態の大きい端部ほど被膜の界面に働く応力が大きくなるので、膜はがれが発生してしまうという課題があった。通常は、応力の差を小さくして膜はがれを防止している。
【0018】
特許文献5記載の技術は、上述したように正の熱膨張係数を有する試料配置部の温度変化による上下方向の変位を、熱膨張係数の異なる第1支持部材と第2支持部材の変位で抑制する技術である。つまり、特許文献5記載の技術は面方向の変位を抑制するものではなく、また、上記熱型素子とは異なり、試料配置部も基板に設けた空洞上に配置する構成のものでもない。さらに、試料配置部の変位の抑制に関して、時間要素は考慮されてないという課題があった。
【0019】
本発明はこのような実情を鑑みてなされたものであり、熱作用を伴う機能部材を集積した熱型素子において、急激な温度変化に伴って生じる熱膨張による伸縮で発熱部や感熱部等の機能部材が破壊される課題を解決し、機能部材の迅速な熱応答性を確保しつつ変形を防止する熱型素子及び熱型素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の熱型素子は、基板に設けた空洞上に薄層を架橋する構造の熱型素子であって、温度によって寸法が変化する機能部材と、機能部材の寸法の変化を吸収するように、温度によって寸法が変化する寸法増減部材と、を備え、機能部材と寸法増減部材とは、基板に設けられた空洞上に連結架橋されることを特徴とする。
【0021】
本発明の熱型素子の製造方法は、基板上に、温度によって寸法が変化する機能部材を形成する機能部材形成ステップと、基板上に、機能部材の寸法の変化を吸収するように温度によって寸法が変化する寸法増減部材を、機能部材と連結して形成する寸法増減部材形成ステップと、機能部材と寸法増減部材とが空洞上に連結架橋されるように、基板に空洞を形成する空洞形成ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱型素子の迅速な熱応答性を確保しつつ、機能部材の変形を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態1)
【図2】本実施形態に係る熱型素子の温度分布の例を示す図である。
【図3】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態2)
【図4】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態3)
【図5】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態4)
【図6】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態5)
【図7】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態6)
【図8】本実施形態に係る発熱素子に電力を印加した際の様子を示す模式図である。
【図9】本実施形態に係る熱型素子の寸法増減部材の構成例を示す図である。
【図10】本実施形態に係る熱型素子の機能部材の構成例を示す図である。
【図11】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態7)
【図12】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態8)
【図13】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態9)
【図14】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態10)
【図15】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態10)
【図16】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態11)
【図17】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態12)
【図18】本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。(実施形態12)
【図19】本発明に関連する熱型素子の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態の例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図1の(b)及び(c)は、図1の(a)のIa−Ibにおける断面図、図1の(d)は、機能部材の抵抗体と寸法増減部材との連結部の例を示している。図1の(b)は熱型素子が高温状態である例、図1の(c)は熱型素子が低温状態である例を示している。また、図中で示した矢印は、熱膨張による伸縮を表したものである。
【0026】
本実施形態に係る熱型素子は、基板20に設けた空洞30の上に架橋した機能部材となる抵抗体10を、寸法増減部材60で連結支持している。
【0027】
はじめに、本実施形態に係る熱型素子の作製方法を説明する。
【0028】
まず、電極間の絶縁性を保つため、基板20の表面にSiO2、Ta25、Si34等の絶縁膜をスパッタ法などにより、例えば0.5μm成膜する。本実施形態では、基板としてSi基板を適用した例を示すが、これに限定されるものではない。その後、絶縁膜上に抵抗体10となる電気導電性の高いPt、Au、NiCr、W等の正の熱膨張係数を有する抵抗膜をスパッタ法などにより、例えば0.3μm成膜する。
【0029】
次に、抵抗膜を抵抗体の形状に加工するため、フォトレジストで幅4μm、長手方向170μm、短手方向2μmの折り返しパターンを形成し、それをマスクとして抵抗膜をエッチングする。その後、レジスト除去して所定形状の抵抗体を作製する。この際、最終的な空洞上の抵抗体の長さが154μmとなるように配置する。
【0030】
寸法増減部材60を形成するため、抵抗体10の短手方向と重複する位置にフォトレジストで10μm×200μmの開口パターンを形成し、表面に負の熱膨張係数を有する材料、例えばZrW28(タングステン酸ジルコニウム)、HfW28(タングステン酸ハフニウム)、Li2O−Al23−nSiO2(ケイ酸リチウムアルミニウム)、Mn3CuN−Mn3GeN(マンガン窒化物)等をスパッタ法などにより、例えば0.3μm成膜し、レジスト除去により寸法増減部材60を作製する。寸法増減部材60の架橋長さLは、使用する材料や温度に応じて決定する。
【0031】
尚、絶縁性でない材料を使用し、抵抗体10と寸法増減部材60との絶縁性を保つ必要がある場合には、寸法増減部材60の形成前にSiO2、Ta25、Si34等の絶縁膜を形成しておく。
【0032】
ここで、抵抗体10に使用する材料をPt(αは約9μ/℃)、寸法増減部材60に使用する材料をZrW28(αは約−9μ/℃)とする場合を例に挙げて、寸法増減部材60の架橋長さLを算出する。熱型素子を0℃から500℃で使用する場合、0℃と500℃の温度差で伸長するPtの大きさをΔlとして、上記式(2)にLl=154μmを代入してΔlを計算すると、約0.7μmとなる。このΔlと同じ収縮を生じさせるために必要なZrW28の架橋長さを上記式(2)から計算すると154μmが求まる。このように、寸法増減部材60に抵抗体10のαよりも大きいものを選定するとLは小さく、逆に小さいものを選定するとLを大きくできる。
【0033】
次に、電極間の絶縁性を保つため、基板表面にSiO2、Ta25、Si34等の絶縁膜をスパッタ法などにより、例えば0.5μm成膜する。そして、抵抗体下のSi基板をエッチングして空洞30を形成するための304μm×304μmの窓及び電極部上の絶縁膜を除去するための開口パターンをフォトレジストで形成し、開口部から絶縁膜をエッチングする。その後レジストを除去する。
【0034】
続いて、空洞30を形成するために、KOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等を用いてSi基板を異方性エッチングして、空洞上の長さが154μmの抵抗体10と空洞上の長さが154μmの寸法増減部材60で、両者が連結している部分が4μmの大きさの熱型素子を完成する。ここでの空洞30は、機能部材が配置された側の基板面から形成したものであるが、機能部材と基板とを空間により断熱するため、かつ機能部材の熱容量を小さくするために設けるものであればよいため、空洞は機能部材が配置されていない基板面から形成するものや溝、または貫通孔のような形状であってもよい。さらに、抵抗体10と寸法増減部材60との連結部分は、上記長さに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0035】
上述したように作製した熱型素子の機能部材の抵抗体を500℃に発熱させることによって、例えば、周囲雰囲気の気体へ伝熱させるために要した電力と、既知の周囲雰囲気の熱伝導率との関係から、周囲雰囲気の熱伝導率として高速に検出することができる。さらに、検出した熱伝導率と既知の周囲雰囲気の状態との関係により、周囲雰囲気の気体の状態を高速に検出することができる。
【0036】
また、上記熱型素子は、気体の熱伝導率と周囲雰囲気の濃度との関係を利用し、例えば、周囲雰囲気の熱伝導率と空気中の水蒸気濃度との関係から湿度センサとして適用することができる。さらに、周囲雰囲気の熱伝導率と水蒸気と水素との濃度の関係により、燃料電池の水素濃度センサとしても適用することができる。
【0037】
また、発熱部材に触媒や金属酸化物半導体などのガス感応材料を被覆し、発熱部材によってガス感応材料を活性化させることで、ガスセンサに適用することもできる。さらに、周囲雰囲気の気体に伝熱させるために要した電力と既知の周囲雰囲気の圧力との関係により圧力センサとして適用することもできる。また、既知の周囲雰囲気の流速との関係によりフローセンサとして適用することもできる。
【0038】
一方、この機能部材の抵抗体10が雰囲気の温度に応じた抵抗値となることによって、既知の温度と測定した抵抗値との関係から、周囲雰囲気の気体の温度を高速に検出し、さらにその温度と既知の周囲雰囲気の状態の関係により、周囲雰囲気の気体の状態を高速に検出することができる。例えば、周囲雰囲気の発熱部から伝熱する温度と、その温度と既知の流速との関係から、フローセンサとして適用することができる。また、密閉雰囲気の発熱部から伝熱する温度と、その温度と既知の加速度との関係から、加速度センサとして適用することができる。さらに、周囲雰囲気からの光吸収に伴う温度変化と、その温度と既知の赤外線との関係から、赤外線センサとして適用することができる。尚、本実施形態に係る熱型素子が上記複数のセンサとして適用できることを説明したが、上記したセンサは例であり、これに限定されるものではない。
【0039】
次に、本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係る熱型素子の抵抗体10は、一端が基板20上の電極部40に接続されており、電極部40との接続部から空洞30上に延びて折り返し部で折り返えすように形成されている。抵抗体10は、負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60と上記折り返し部分で連結している。ここで、空洞30上の抵抗体10や寸法増減部材60は基板20に拘束されることなく伸縮できるため、温度状態に応じて、それぞれ伸縮する。そのため、正の熱膨張係数を有する抵抗体10は、図1の(b)に示すように、高温状態で抵抗体10の抵抗パターン先端側へΔl伸長し、負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は基板側にΔl変位する。したがって、抵抗体10の伸長を寸法増減部材60により吸収し、熱型素子が高温状態であっても、図1の(c)に示す低温状態と同様にたわみのない形状を保持している。
【0041】
次に、抵抗体10と寸法増減部材60との連結について説明する。
【0042】
図1の(d)は、抵抗体10と寸法増減部材60との連結部を示している。尚、抵抗体10の抵抗パターン上に積層した寸法増減部材60は図示していない。抵抗体10の各部をパターン長手方向のR1、R2、短手方向のR3とし、低温から高温時の各部の伸長を、それぞれΔl1、Δl2、Δl3とする。ここではパターン短手方向は長手方向と比べて十分小さいので、Δl3は無視できる。Δl1とΔl2は大きさと方向が同じで並行であるため、抵抗体全体の伸長はΔl1と同じ大きさと向きの変位ベクトルd10で表せる。同様に、寸法増減部材60の長手方向の収縮は、Δl4の変位ベクトルd11で表せる。ベクトルd10及びベクトルd11を一致させることで、熱膨張による抵抗体10の伸縮を吸収する。
【0043】
図1に示す熱型素子のように、抵抗体10の伸縮方向と対向するように寸法増減部材60を連結して、抵抗体10の変位ベクトルと寸法増減部材60の変位ベクトルを一致させた場合、最小限の寸法増減部材60で抵抗体10の伸縮を吸収できる配置となる。
【0044】
次に、抵抗体10と寸法増減部材60との熱伝導度について説明する。
【0045】
図2は、抵抗体10の熱伝導度よりも寸法増減部材60の熱伝導度が小さい場合における、温度上昇時の図1の(a)のIa−Ib方向の温度分布の様子を示したものである。抵抗体10の伸縮を吸収する寸法増減部材60の架橋長さを決定する条件の1つは温度であり、使用する材料によって使用温度範囲での抵抗体10の変位量と一致させるように所定の架橋長さが決まる。この架橋長さは、抵抗体と寸法増減部材が一様で全く同じ温度変化する条件のものである。寸法増減部材に用いる材料の熱膨張係数の絶対値は、抵抗体となる材料のものと比べて小さい場合が多いが、熱伝導度についても導電性の抵抗体の材料より、寸法増減部材の材料の方が小さい場合が多い。この材料の熱伝導度の違いにより、温度状態が変化する時、空洞上に架橋した抵抗体と寸法増減部材とで温度差が生じる。
【0046】
図2に示す例では、抵抗体の熱伝導度は、寸法増減部材の熱伝導度より大きいため、基板への伝熱は抵抗体側の方が大きく、抵抗体側の温度がより高くなる。この状態では抵抗体の伸長の方が大きく、抵抗体の伸長と寸法増減部材の収縮がアンバランスになる。そのため、このような場合においても抵抗体の伸長を吸収するためは、寸法増減部材側の変位が大きくなるように、寸法増減部材の架橋長さを熱伝導度に応じて所定値よりも長くするとよい。
【0047】
本実施形態により、機能部材の伸縮量を吸収する手段を設けることで、温度変化に対しても変形し難く、安定した特性を得ることが可能となる。また、機能部材の熱応答速度と同期させて、確実な伸縮量の吸収を行うことにより、熱容量の付加を最小限にして、迅速な熱応答を行うことが可能となる。
【0048】
(実施形態2)
図3は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。上記実施形態1の熱型素子の構成と異なる点は、抵抗体10と寸法増減部材60との連結部である。本実施形態では、正の熱膨張係数を有する抵抗体10と負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60を積層して異なる平面間で連結支持する例を説明する。図3の(a)は、抵抗体10の下面と寸法増減部材60の上面を連結したものである。他方、図3の(b)は、抵抗体10の上面と寸法増減部材60の下面を連結したものである。図中に示した矢印は、熱膨張による伸縮を表している。
【0049】
抵抗体10と寸法増減部材60を積層して連結したどちらも場合も、高温状態において抵抗体10は基板側から張出した抵抗体10の先端側に伸長し、寸法増減部材60は基板側へ収縮するので、抵抗体10の伸縮を寸法増減部材60により吸収することができる。また、このように抵抗体10と寸法増減部材60の接合面積を増やすことによって、連結部の強度を得ることができる。
【0050】
本実施形態により、機能部材と機能部材の伸縮量を吸収する手段との連結部の強度を向上させることが可能となり、より安定した特性を得ることが可能となる。
【0051】
(実施形態3)
図4は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。本実施形態が上記実施形態1と異なる点は、接続部材70を介して、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材である正の熱膨張係数を有する抵抗体と、負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60と、を連結する点である。図中に示した矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図4の(a)は、抵抗体10と寸法増減部材60との厚さ方向の間に接続部材70を配置する例を示している。他方、図4の(b)は、抵抗体10と寸法増減部材60との平面方向の間に接続部材70を配置する例を示している。
【0052】
本実施形態は、正の熱膨張係数を有する抵抗体10と負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60の間を絶縁する必要がある場合や連結部の接合力を上げる場合に好適である。正の熱膨張係数を有する導電性の抵抗体10と負の熱膨張係数を有し熱伝導度が大きい導電性の寸法増減部材60で構成する熱型素子では、熱伝導度が小さい絶縁性の寸法増減部材60で構成する場合よりも、寸法増減部材60から基板20への伝熱を大きくできるため、抵抗体側と寸法増減部材側との温度差を小さくできる。そのため、温度分布で生じる抵抗体側と寸法増減部材側と伸縮のアンバランスを一致させるような考慮が必要ない。
【0053】
抵抗体10に連結する接続部材70の伸縮は、抵抗体10の伸縮とあわせて、温度によって寸法が変化するひとつの部材として扱うことにより、接続部材70の伸縮を寸法増減部材60により吸収するので、接続部材70には正、負またはゼロの何れの熱膨張係数を有するものでも用いることができる。そのため、抵抗体10と寸法増減部材60とを強く接合するような材料を選択することができる。
【0054】
本実施形態により、このように熱伝導度の値が近く、温度分布が小さくなるような材料を適用した接続部材を介して、機能部材と寸法増減部材とを連結支持することにより、安定した熱型素子を得ることが可能となる。また、寸法増減部材と機能部材とを連結させるにあたり、寸法増減部材の材質の接合力が小さい場合、製造工程や伸縮によって、特に寸法増減部材や機能部材の微細化が増す場合は連結部が断絶しやすくなる問題があった。しかし、接続部材として、寸法増減部材と抵抗体とに接合力を有する材料を選択することや、接合面積を増やすことによって、構造強度を得ることが可能となる。
【0055】
さらに、機能部材と寸法増減部材とを接部材を介して連結することにより、さらに多種の材料の組み合わせが可能となり、多種多様な熱型素子を実現することが可能である。そして、接続部材を介して連結するので、機能部材と寸法増減部材とを強固に支持することが可能となり、温度変化に対しても変形し難く、安定した特性を得ることが可能となる。
【0056】
(実施形態4)
図5は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。本実施形態が、上記実施形態1と異なる点は、抵抗体及び電極部40を複数備えている点である。図5の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図である。図5の(b)は、図5の(a)のVa−Vbの断面図である。図5の(c)は、抵抗体と寸法増減部材60との連結部の例を示している。尚、図5の(c)では、抵抗体の抵抗パターン上に積層した寸法増減部材60は図示していない。また、図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。
【0057】
図5に示すように、本実施形態に係る熱型素子は、絶縁基板21に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体11が、抵抗体の伸縮方向に対向する位置で寸法増減部材60と連結配置され、その寸法増減部材60が他の抵抗体12、13とも連結して支持する構成である。
【0058】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0059】
本実施形態では、絶縁基板21に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体11〜13は、空洞上の部分で伸縮が可能となるため、高温状態では折り返し部のある先端側へ伸長する。また、抵抗体11〜13を連結する負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は、パターン長手方向に収縮する。ここで、抵抗パターン短手方向の伸長は長手方向と比べて十分小さいため、無視できる。
【0060】
低温状態から高温状態にした時の抵抗体11〜13の伸長をそれぞれ変位ベクトルd10、d20、d30とする。他方、寸法増減部材60の抵抗体11に対向した収縮をd11、抵抗体12に対向した収縮をd21、抵抗体13に対向した収縮をd31として、対向する抵抗体と寸法増減部材のベクトルを一致させて、抵抗体の伸縮を吸収する。空洞上の抵抗体間を連結する寸法増減部材60は、一端を絶縁基板21に支持する場合に比べて温度分布が小さくなるため、全体の伸縮を増すことができる。
【0061】
本実施形態により、機能部材を連結支持する部分に、機能部材とは極性の異なる熱膨張係数を有する寸法増減部材を用い、機能部材の熱膨張を吸収することにより、安定した熱型素子を実現することが可能となる。また、機能部材の伸縮方向と対向して寸法増減部材を連結配置して、熱容量の付加を最小限にすることにより、迅速な熱応答を行うことが可能となる。
【0062】
(実施形態5)
図6は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。図6に示すように、本実施形態が上記実施形態4と異なる点は、空洞30の上に赤外線吸収部を備えている点である。図6の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図である。図6の(b)は、図6の(a)のVIa−VIbの断面図である。赤外線吸収部は、赤外線を吸収して温度が変化するため、その温度変化を熱電対により検出することができる。
【0063】
空洞上に架橋した熱電対91はアルメルの薄膜からなる熱電対パターン911とクロメルの薄膜からなる熱電対パターン912を有しており、熱電対パターン911と熱電対パターン912が接合された個所における熱起電力を、熱電対に接続する基板上に設置した電極部間の電圧として検出する。熱電対パターン911と熱電対パターン912が接合された個所と、赤外線吸収部80とは寸法増減部材60を介して連結されており、この赤外線吸収部80における温度は寸法増減部材60を仲介して伝熱させる。
【0064】
尚、赤外線吸収部80は白金黒等の薄膜を表面に積層させることにより、対峙する物体から放射される熱を吸収する。また、発熱素子として、抵抗体のジュール発熱機構に代わり、ペルチェ素子を構成することも可能である。
【0065】
すなわち、図6において、赤外線吸収部80をAl電極、熱電対パターン911をN型半導体パターン、熱電対パターン912をP型半導体パターンに置き換える。基板の空洞上に架橋した、ポリシリコンに不純物を拡散した薄膜であって、空洞上で少なくとも一対のN型半導体とP型半導体パターンをAl電極によって接合し、P型半導体パターンの端部の電極からN型半導体パターンの端部の電極へ電流を印加することによって、Al電極部が加熱される。他方、逆方向の電流を印加すれば、Al電極部が冷却され、このように電流の向きや電流値の調節によって任意の温度に制御することができる。これにより、空洞上のAl電極部を周囲雰囲気の気体を凝集するまで冷却することによって凝集温度を検出し、雰囲気の露点温度を検出する露点温度センサとして用いることができる。
【0066】
本実施形態により、さらに多種のセンサとして熱型素子を適用することが可能となる。
【0067】
(実施形態6)
図7は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す図である。図7の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図7の(b)は、図7の(a)のVIIa−VIIbの断面図である。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。
【0068】
本実施形態に係る熱型素子では、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体10を、伸縮方向に対向した位置で複数の寸法増減部材60で連結支持している。本実施形態に係る熱型素子の抵抗体10は、抵抗値を大きくして感度を向上させるために、抵抗パターンを複数折り返すもので、抵抗パターンの各折り返し部を寸法増減部材60により連結支持されている。
【0069】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0070】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体10は、低温状態から高温状態になると抵抗パターン長手方向に伸長する。ここで、抵抗パターン短手方向の伸長は長手方向と比べて十分小さいため、無視できる。他方、抵抗体10を連結支持する負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は、高温状態になるとパターン長手方向に収縮する。それぞれの連結部において、抵抗パターンと寸法増減部材の変位を一致させることで、抵抗体の伸縮を吸収することができる。
【0071】
次に、本実施形態に係る発熱素子の抵抗体10に電力を印加する際の様子について説明する。
【0072】
図8は、本実施形態に係る発熱素子の抵抗体10に電力を印加して発熱させた際の様子を示す模式図である。図8の(a)は、図7の(a)のVIIc−VIId方向における温度分布の時間変化の例を示す。図8の(b)は、図7の(a)のD点における発熱温度の時間変化の例示す。そして、図8の(c)は、図7のD点における変位の時間変化の例を示している。
【0073】
本実施形態に係る発熱素子の抵抗体10を発熱させた際の温度分布は、図8の(a)に示すように、隣接する抵抗パターンからの熱が重畳され、A点が存在する中心部の抵抗パターンにおける温度が最も高く、そこからC点が存在する最外の抵抗パターンに向かうほど温度は低下する。温度分布により抵抗体10の伸縮量はパターンごとに変わるため、抵抗パターンと寸法増減部材60の変位を一致させることが必要となる。
【0074】
ここで、本実施形態では、抵抗体10のそれぞれのパターン折り返し部分を寸法増減部材60により連結配置しているため、図9及び図10に示すように、寸法増減部材60の架橋長さL又は抵抗パターン長さRを変更することにより、より簡便に抵抗パターンの伸縮を吸収することができる。
【0075】
図9では、温度分布を利用し、高温状態で伸縮の大きい中心部の抵抗体パターンに比べて伸縮の小さい抵抗パターンの周辺部における寸法増減部材の架橋長さL1を、中心部の寸法増減部材の架橋長さL2よりも短くして、それぞれの連結部での伸縮を一致させる例を示している。また、図10では、高温となる抵抗体の中心部に比べて低温となる抵抗パターンの長さR1を、中心部の抵抗パターンの長さR2よりも長くして、それぞれの連結部での伸縮を一致させる例を示している。
【0076】
また、本実施形態の抵抗体10のように、抵抗パターンを複数折り返し、抵抗パターンの各折り返し部を寸法増減部材60により連結支持する構成では、抵抗パターンの両端が寸法増減部材60により支持される形となり、抵抗パターンの伸縮量が分散される。そのため、1つの寸法増減部材60により吸収させる抵抗体10の伸縮量が少なくなるので、伸縮の吸収が容易となる。
【0077】
ここで、図8の(b)に示すように、発熱温度が平衡するまでには時間が必要である。発熱開始の時間をt0、D点における温度をT0とし、発熱温度が平衡する時間をt3、その時の温度をT3とすると、温度はT0からT3まで時々刻々変化する。そのため、抵抗体10を熱伝導度の小さい空間で断熱される空洞上の寸法増減部材60と連結し、抵抗体10からの伝熱により、寸法増減部材60でも抵抗体10と同様の温度変化を生じさせることができる。図9に示すように寸法増減部材60の架橋長さを各部で変更して、抵抗体10からの伝熱を増やし、温度分布を変えることで、図8の(c)に示すような抵抗体10と寸法増減部材60の変位の関係にすることができる。
【0078】
つまり、時間t1における抵抗体10の伸長量と寸法増減部材60の収縮量の絶対値や、時間t2、t3における抵抗体10の伸長量と寸法増減部材60の収縮量の絶対値を合わせ、抵抗体10と同期して変位する寸法増減部材60とすることにより、抵抗体10の伸縮を吸収することができる。
【0079】
例えば、抵抗体10の材料がPtであり、厚さ0.3μm、パターン長100μm、パターン幅4μmのサイズであって、電流を5ミリ秒印加してジュール発熱させることにより、100Hzの周期の間欠条件で、抵抗体を0℃から500℃の間の周期発熱をさせると、パターン長手方向の伸縮が100Hzの周期で約0.5μm発生するとする。このような、伸縮が繰り返されると、抵抗体10の抵抗値等の物性値が変化し、所定の発熱温度が維持できなくなり、検出素子の特性が変化し、10000時間を越えると脆性疲労が拡大し亀裂に到ることもある。しかし、抵抗パターンを連結支持する部分に、負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60を用い、伸縮を吸収することにより、亀裂を防止できる。
【0080】
本実施形態により、複数の寸法増減部材で機能部材を連結することにより、機能部材を面形状で強固に支持することが可能となり、安定性を向上させることが可能となる。さらに、機能部材の温度分布に応じて、寸法増減部材の架橋長さや機能部材の長さを変更し、機能部材の伸縮を寸法増減部材で吸収することにより、安定した熱型素子を得ることが可能となる。
【0081】
(実施形態7)
図11は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図11の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図11の(b)は、図11の(a)のXIa−XIbの断面図である。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図11に示すように、本実施形態の熱型素子は、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体14と抵抗体15とを、伸縮方向に対向する位置で複数の寸法増減部材で連結支持するものである。
【0082】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0083】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体14、15は、基板上の部分では伸縮はできないが、空洞上の部分では基板20に拘束されないので伸縮が可能となるため、高温状態では折り返し部のある先端側へ伸長する。また、抵抗体14と抵抗体15との間で連結支持する負の熱膨張係数を有する寸法増減部材61、62は、パターン長手方向に収縮する。ここで、抵抗パターン短手方向の伸長は長手方向と比べて十分小さいため、無視できる。
【0084】
低温状態から高温状態に遷移した際の抵抗体14、抵抗体15の伸長をそれぞれΔl14、Δl15、また寸法増減部材61の抵抗体14に接した側の収縮をΔl614、抵抗体15に接した側の収縮をΔl615、同様に寸法増減部材62の抵抗体14に接した側の収縮をΔl624、抵抗体15に接した側の収縮をΔl625とする。抵抗体と寸法増減部材とがそれぞれ連結した部分の伸長と収縮、すなわちΔl14とΔl624、Δl15とΔl625を一致させることにより、抵抗パターンの伸長を吸収することができる。
【0085】
本実施形態により、機能部材を連結支持する部分に、機能部材とは極性の異なる熱膨張係数を有する寸法増減部材を用い、機能部材の熱膨張を吸収することにより、安定した熱型素子を実現することが可能となる。また、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持することにより、面形状の支持となり強度に優れ、安定した熱型素子とすることが可能となる。さらに、機能部材の伸縮方向と対向して寸法増減部材を連結配置して、熱容量の付加を最小限にすることにより、迅速な熱応答を行うことが可能となる。尚、本実施形態に係る熱型素子では、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持するため、面で幅広く支持でき、機能部材のねじれや振動に耐性を向上させることが可能となる。
【0086】
(実施形態8)
図12は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図12の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図12の(b)は、図12の(a)のXIIa−XIIbの断面図である。図12の(c)は、本実施形態に係る熱型素子の抵抗体10と寸法増減部材60との連結部例を示したものである。尚、図12の(c)では、抵抗パターン上に積層した寸法増減部材60は図示していない。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図12では、熱型素子が基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体10を、複数の寸法増減部材60で連結配置する構成である例を示している。
【0087】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0088】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体10は、空洞上での伸び縮みが可能となるため、高温状態では折り返し部のある先端側へ伸長し、その抵抗体の伸長はd10のベクトルで表せる。ここで、抵抗パターン短手方向の伸長は長手方向と比べて十分小さいため、無視できる。
【0089】
他方、本実施形態における抵抗体10を連結支持する負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は、抵抗体10に対向する向きではなく、2つの寸法増減部材60の角度が角度θになるような角度で設けられている。また、抵抗体10と連結されていない端は、基板20と接続されている。尚、本実施形態では寸法増減部材60を2つ備える例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0090】
上記した寸法増減部材の一方の収縮をΔl61、もう一方をΔl62とすると、寸法増減部材による収縮は各収縮を合成したd11のベクトルで表せ、抵抗体10と寸法増減部材60の伸長と収縮のベクトルを一致させることで、抵抗体の伸縮を吸収することができる。
【0091】
寸法増減部材60がなす角度である角度θと架橋長さを変更して、寸法増減部材60の変位ベクトルを抵抗体10の変位ベクトルに対応させることで、伸縮の吸収範囲が広がり、抵抗体10の伸縮方向に対向する位置で寸法増減部材の架橋長さが十分に得られない場合にも適用することができる。また熱膨張係数や長さが厳密でなくても対応することができる。
【0092】
本実施形態により、機能部材を連結支持する部分に、機能部材とは極性の異なる熱膨張係数を有する寸法増減部材を用い、機能部材の熱膨張を吸収することにより、安定した熱型素子を実現することが可能となる。また、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持することにより、面方向の支持強度が優れ、安定した熱型素子とすることが可能となる。さらに、機能部材を連結支持する寸法増減部材がなす角度と架橋長さを変更することで、伸縮の吸収範囲が広がり、機能部材の伸縮方向に対向する位置で寸法増減部材の架橋長さが十分に得られない場合にも適用することが可能となる。また、熱膨張係数や長さが厳密でない場合にも対応することが可能となる。
【0093】
(実施形態9)
図13は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図13の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図13の(b)は、図13の(a)のXIIa−XIIbの断面図である。図13の(c)は、本実施形態に係る熱型素子の抵抗体と寸法増減部材との連結部の一部の例を示している。尚、図13の(c)では、抵抗パターン上に積層した寸法増減部材は図示していない。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図13では、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体16、17、18、19が、抵抗体の伸縮方向に対向しない角度で、複数の寸法増減部材により連結配置され、その寸法増減部材が他の抵抗体にも連結配置する例を示している。
【0094】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0095】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体16、17、18、19の高温状態での伸長を、それぞれΔl16、Δl17、Δl18、Δl19とし、また高温状態での負の熱膨張係数を有する寸法増減部材63の収縮は、抵抗体16と接する側をΔl636、抵抗体17と接する側の収縮をΔl637とする。同様に寸法増減部材64の収縮もそれぞれΔl647、Δl648、寸法増減部材65の収縮もΔl658、Δl659、寸法増減部材66の収縮もΔl669、Δl666とする。抵抗体16では、抵抗体16に連結した寸法増減部材の収縮Δl636、Δl666を合成したベクトルd11と、抵抗体16の伸長ベクトルd10を一致させ、抵抗体16の伸縮を吸収する。同様に、各抵抗体での伸長のベクトルd20、d30、d40と収縮のベクトルd21、d31、d41をそれぞれ一致させることで、各抵抗体の伸縮を吸収することができる。
【0096】
空洞上で抵抗体を複数の寸法増減部材により連結配置する形状では、容易に上記実施形態5と同様に空洞上に赤外線吸収部80を配置し、抵抗体を熱電対と置き換えて赤外線センサとすることもできる。
【0097】
本実施形態により、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持するため、面で幅広く支持でき、抵抗体のねじれや振動に強い熱型素子を実現することが可能となる。
【0098】
(実施形態10)
図14は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図14の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図14の(b)は、図14の(a)のXIVa−XIVbの断面図である。図14の(c)は、本実施形態に係る熱型素子の抵抗体10と寸法増減部材との連結部の一部の例を示している。尚、図14の(c)では、抵抗パターン上に積層した寸法増減部材は図示していない。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図14では、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体10が、抵抗体10の伸縮方向に対向しない角度で、複数の寸法増減部材と連結配置された例を示している。
【0099】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0100】
空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体10の基板上にある電極部側から張出した抵抗パターン部分をそれぞれR1、R2とし、高温状態におけるそれぞれのパターンの伸長をΔl1、Δl2とする。また、R1、R2を結ぶ抵抗パターン部分をR3とし、R1側とR2側への伸長をそれぞれΔl31、Δl32とする。また、負の熱膨張係数を有する寸法増減部材67、68の収縮をΔl67、Δl68で表す。寸法増減部材は抵抗パターンR1とR3の接点、および抵抗パターンR2とR3の接点にそれぞれ連結して配置してある。図14の(c)に示すように、抵抗パターンと寸法増減部材の連結部では、例えば、抵抗パターンR2の伸長Δl2とR3の伸長Δl32を合成したベクトルd10と、寸法増減部材68のベクトルd11が一致するように配置することで、抵抗パターンの伸長を吸収することができる。
【0101】
ここで、本実施形態における抵抗体では、高温状態において抵抗パターンR1及びR2に抵抗パターンR3のパターン長手方向の力も働くため、抵抗パターンR3の伸縮が大きくなる場合は、基板からのパターン張出部が変形する。そのため、図15に示すように抵抗パターンR1、R2の中間にさらに寸法増減部材を連結支持して伸長を分散して吸収することにより、変形を緩和することもできる。
【0102】
本実施形態により、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持するため、面で幅広く支持でき強度に優れる熱型素子を実現することが可能となる。
【0103】
(実施形態11)
図16は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図16では、基板20に設けた空洞上に架橋した機能部材となる抵抗体10が、抵抗体10の伸縮方向に対向しない角度で、複数の寸法増減部材と連結支持された例を示している。
【0104】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0105】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する円形状の抵抗体10は、空洞上での伸び縮みが可能となり、高温状態では基板上の電極部40から張出した先端側へ伸長する。負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は、抵抗体10の伸縮方向に対向しない角度で複数の箇所で連結し、抵抗体10に連結しない側の端は基板に接続している。抵抗体10の伸縮方向に対向しない角度で複数の箇所で連結した寸法増減部材60は、抵抗体10の伸長をそれぞれ吸収し、全体の伸縮を分散して吸収する。本実施形態では、温度分布に応じて伸縮の大きい先端側に向かうほど、寸法増減部材の架橋長さをL1、L2、L3と順次長くして伸縮を吸収している例を示す。
【0106】
本実施形態により、機能部材を複数の寸法増減部材で連結支持するため、面での支持となり温度変化に対しても変形しにくくし、強度を向上させることが可能となる。また、機能部材を連結支持する部分に、機能部材とは極性の異なる熱膨張係数を有する寸法増減部材を用い、機能部材の熱膨張を吸収することにより、安定した熱型素子を実現することが可能となる。
【0107】
尚、上記各実施形態を組み合わせることもかのうである。例えば、寸法増減部材の配置として、抵抗体の伸縮方向に対向する配置と抵抗体の伸縮方向に対向しない角度の配置とを組み合わせ、抵抗体と複数の寸法増減部材とを連結支持して、熱容量の付加をできるだけ小さくし、支持強度に優れた熱型素子とすることも可能である。
【0108】
(実施形態12)
図17は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す。図17の(a)は、本実施形態に係る熱型素子の概略構成例を示す平面図であり、図17の(b)は、図17の(a)のXVIIa−XVIIbの断面図である。図中の矢印は、熱膨張による伸縮を表している。図17では、基板20に設けた空洞上に架橋した抵抗体10が絶縁膜50で覆われ複数の材料層で構成される機能部材に、その伸縮方向に対向して寸法増減部材60を連結配置する例を示す。
【0109】
本実施形態に係る熱型素子における温度変化に伴う伸縮の吸収について説明する。
【0110】
基板20に設けた空洞上に架橋した正の熱膨張係数を有する抵抗体10と、その抵抗体10を絶縁膜50により挟んだ構造の機能部材は、空洞上で伸縮が可能となるため、高温状態では抵抗体10の折り返し部のある発熱または感熱部材の先端側へΔl伸長する。負の熱膨張係数を有する寸法増減部材60は、基板側へ収縮するため、抵抗体10と寸法増減部材60とを連結配置した部分の収縮を伸長と一致させることで、複数の材料層で構成される機能部材の伸縮を吸収することができる。
【0111】
また、図18に示すように、寸法増減部材60を絶縁膜50に連結して支持しても、機能部材の伸縮を吸収することができる。
【0112】
ここで、機能部材が単一の材料層からなる場合、材料の熱膨張係数に応じて、材料層の伸縮が生じ、材料の熱膨張係数に対応させた連結支持をすることが必要である。他方、機能部材が複数の材料層で構成されている場合には、単一の材料層からなる場合と異なり、各材料層の温度に応じた性質の違いにより、伸縮だけではなく、反り曲がりやねじれを生じてしまう。また、単一の材料層では成膜時の成膜速度や温度などの作製条件や膜厚により残留応力を低減させる工夫が必要であり、成膜条件あるいは形状に制限があった。他方、複数の材料層では、材料の熱膨張係数が大きく異ならないことや、成膜時の成膜速度や温度などの作製条件や膜厚を調節し残留応力の微妙なバランスを保つようにさせる工夫がさらに必要であり、材料の種類や成膜条件あるいは形状に制限があった。本実施形態では、機能部材を寸法増減部材で連結支持するので、機能部材を複数の材料層で構成する場合であっても、温度変化により発生する構成材料やその作製条件等による反りやねじれなどの変形も防止できる。
【0113】
本実施形態により、機能部材を連結支持する部分に機能部材とは極性の異なる熱膨張係数を有する寸法増減部材を用い、機能部材の熱膨張を吸収することにより、安定した熱型素子が可能となる。また、より多種の材料の組み合わせ、および制御範囲の広い生産条件が適用でき、多種多様な熱型素子を実現することが可能となる。
【0114】
以上好適な実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した熱型素子及び熱型素子の製造方法に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるということは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る熱型素子は、発熱素子や感熱素子として利用することができる。発熱素子としては、例えば、ガスセンサの触媒や金属酸化物半導体を高速で加熱するために用いられるマイクロヒータに適用することができる。また、微小量の化学合成を行うためのコンビナトリアルマイクロデバイスのマイクロヒータ、バイオ、医療分野におけるマイクロチップとして、DNA等に熱サイクルを与えるPCR操作のために組み込まれたマイクロヒータ、タンパク質と反応させるマイクロリアクターに組み込まれたマイクロヒータとしても適用することができる。また、ジュール発熱による以外の発熱機構としては、発熱部の温度制御を行うマイクロペルチェ機構を集積し、発熱したり冷却させたりすることにより、露点センサとして応用することもできる。
【0116】
他方、感熱素子としては、例えば、雰囲気の温度センサ、流体の流速と熱伝導との関係を利用したサーマルフローセンサ、気体密度と熱伝導との関係を利用した気体圧力センサ、雰囲気が受ける加速度による熱移動を利用した加速度センサ、気体の熱伝導率を利用したガスセンサ等に適用することができる。また、光吸収にともなう温度上昇を直接検出する熱電対型素子(サーモパイル)、電気分極の変化として検出する焦電型素子、素子の温度上昇を抵抗変化として検出するボロメータ等の赤外線センサにも適用することができる。さらに、ガスや液体の成分分析装置においては、これらの発熱素子や感熱素子を複合して用いることができる。
【符号の説明】
【0117】
10 抵抗体
20 基板
21 絶縁基板
30 空洞
40 電極部
50 絶縁膜
60 寸法増減部材
70 接続部材
80 赤外線吸収部
91 熱電対
92 熱電対
93 熱電対
911 熱電対パターン
912 熱電対パターン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0118】
【特許文献1】特許第2889909号公報
【特許文献2】特許第4127697号公報
【特許文献3】特開平08−264844号公報
【特許文献4】特開2006−281766号公報
【特許文献5】特許第3717342号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けた空洞上に薄層を架橋する構造の熱型素子であって、
温度によって寸法が変化する機能部材と、
前記機能部材の寸法の変化を吸収するように、温度によって寸法が変化する寸法増減部材と、を備え、
前記機能部材と前記寸法増減部材とは、前記基板に設けられた空洞上に連結架橋されることを特徴とする熱型素子。
【請求項2】
少なくとも1つ以上の前記寸法増減部材は、前記機能部材の伸縮方向に対向するように前記機能部材と連結されていることを特徴とする請求項1記載の熱型素子。
【請求項3】
少なくとも1つ以上の前記寸法増減部材は、前記機能部材の伸縮方向に対向する以外の角度で前記機能部材と連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱型素子。
【請求項4】
前記寸法増減部材は、前記機能部材の温度分布に基づいて寸法と連結位置とが決定されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項5】
接続部材をさらに備え、
前記機能部材と寸法増減部材とは、前記接続部材を介して前記基板に設けられた空洞上に連結架橋されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項6】
前記機能部材は、正の熱膨張係数を有し、
前記寸法増減部材は、負の熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項7】
前記機能部材は、少なくとも1つの以上の材料層からなることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項8】
前記機能部材は、少なくとも発熱手段及び冷却手段の何れかを有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項9】
前記機能部材は、熱を検出する熱検出手段を有することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の熱型素子。
【請求項10】
基板上に、温度によって寸法が変化する機能部材を形成する機能部材形成ステップと、
前記基板上に、前記機能部材の寸法の変化を吸収するように温度によって寸法が変化する寸法増減部材を、前記機能部材と連結して形成する寸法増減部材形成ステップと、
前記機能部材と前記寸法増減部材とが空洞上に連結架橋されるように、前記基板に空洞を形成する空洞形成ステップと、を備えることを特徴とする熱型素子の製造方法。
【請求項11】
前記寸法増減部材形成ステップは、少なくとも1つ以上の前記寸法増減部材を前記機能部材の伸縮方向に対向するように形成することを特徴とする請求項10記載の熱型素子の製造方法。
【請求項12】
前記寸法増減部材形成ステップは、少なくとも1つ以上の前記寸法増減部材を前記機能部材の伸縮方向に対向する以外の角度で形成することを特徴とする請求項10又は11記載の熱型素子の製造方法。
【請求項13】
前記寸法増減部材形成ステップは、前記機能部材の温度分布に基づいて、前記寸法増減部材の寸法及び前記機能部材との連結位置を決定することを特徴とする請求項10から12の何れか1項に記載の熱型素子の製造方法。
【請求項14】
接続部材を形成する接続部材形成ステップをさらに備え、
前記接続部材は、前記機能部材と前記寸法増減部材とを連結することを特徴とする請求項10から13の何れか1項に記載の熱型素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−278142(P2010−278142A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127915(P2009−127915)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】