説明

熱拡散シート

【課題】高い絶縁性と高い熱拡散性を有する高絶縁熱拡散性シートを提供する。
【解決手段】バインダー(A)として、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、アクリルゴム及びアクリル粘着剤からなる群より選ばれる1以上のポリマーを用い、前記バインダー(A)に、少なくとも、熱拡散フィラー(B)として、アスペクト比が10以上1000以下の扁平形状の窒化ホウ素を、組成物全体に対して50〜90体積%(固形分換算)の割合で配合してなり、シートの面に平行な方向の熱伝導率を、シートの面に垂直な方向の熱伝導率で除した値が1.1〜1000であることを特徴とする熱拡散シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器内部の発熱部品において発せられる熱を速やかに拡散し、局所的な温度上昇を緩和する、もしくは、発熱源から離れた箇所に熱を輸送することの可能な、面方向の熱拡散性・熱輸送特性に優れる熱拡散シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器類は軽薄短小化、高速動作化が進んでいる。そのため、それらの内部部品として組み込まれるLEDやCPU等の演算素子、パワートランジスタなどにおいては、その発熱密度が上昇する傾向にある。これらの熱は製品の寿命や正常な動作に対して悪影響を及ぼすことから、熱を速やかに放散し、冷却し、ヒートスポットを解消することはますます重要となっている。
【0003】
通常、このような熱を放散させるために、ヒートパイプ、ヒートシンクや、アルミ、銅製の放熱プレート等の放熱部品が必要に応じて熱伝導性シート・熱伝導性グリス等を介して用いられる。これらの熱伝導性シート・熱伝導性グリスは、シートなどの面に対して垂直な方向に熱を伝えることが目的であった。しかし、例えばLEDを用いた照明や薄型ディスプレイ、もしくは携帯電話機器、モバイルPC等では、小型化・薄型化・軽量化の点や限られたスペース内でのレイアウトの問題から、一般的に体積・重量の大きくなるヒートシンクを用いることが難しい場合があった。
【0004】
このような問題点に対し、面方向に熱伝導率の高い、熱伝導性に異方性を持った熱拡散シートを用いることによる解決法が提案されており、このような熱拡散シートとして、炭素繊維をポリマーに配合した熱拡散シートやグラファイトシートなどが提案されている。(特許文献1〜2を参照)
なお、本発明においては、シートの平面と平行な方向の熱伝導を熱拡散と呼んでいる。
【0005】
しかしながら、これらグラファイトシートに代表される熱拡散性シートはいずれも炭素系材料を用いたものであるため導電性を有する。一方、電気・電子機器の内部にて熱拡散シートを使用する際には、導電性のシートはショート(短絡)や電磁波の干渉といった悪影響が懸念される。このため、グラファイトシート等の導電性を有する熱拡散性シートを利用するに当たっては、シートの表面を絶縁性のフィルムでラミネートしたり、他の絶縁性材料と積層したりする、もしくは、炭素繊維等の導電性熱伝導材料を絶縁性の高いポリマーにより覆う、といった手法が提案されている。また、電磁波の干渉については基板のグラウンドとグラファイトシートを電気的に接続するなどの対策が提案されている。(特許文献2〜5を参照)
【0006】
また、これら炭素系材料を用いたシートは、シートに占める炭素成分の割合が非常に高く、バインダーなどが含まれていても少量であるため、往々にして脆いという欠点を有しており、これに対しては、やはり樹脂シートで覆うなどの対策が講じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−256764号公報
【特許文献2】特開2001−160607号公報
【特許文献3】特開2001−261851号公報
【特許文献4】特開2004−23066号公報
【特許文献5】特開2009−158780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような他の材料との積層化や、ラミネートすることは、製造工程を複雑化するという問題点が有る。また、これらの導電性の炭素材料を絶縁性材料で覆ったシートは、シート全体に占める導電性材料の比率が高いため、絶縁破壊電圧が低い傾向にあり、特に高い電界が印加される可能性がある用途では使用することが難しく、また、劣化など何らかの理由によりこれらのシートが破損した際には導電性の炭素材料が飛散する懸念が存在していた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、高い絶縁性と高い熱拡散性を有する高絶縁熱拡散性シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行ったところ、所定のポリマーをマトリックスとし、これに対し所定の形状をした絶縁性熱拡散性フィラーを所定量配合することにより、絶縁性でかつ面方向の熱拡散性に優れた熱拡散シートを得ることができることを見出し、本発明をなすにいたった。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)バインダー(A)として、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、アクリルゴム及びアクリル粘着剤からなる群より選ばれる1以上のポリマーを用い、前記バインダー(A)に、少なくとも、熱拡散フィラー(B)として、アスペクト比が10以上1000以下の扁平形状の窒化ホウ素を、組成物全体に対して50〜90体積%(固形分換算)の割合で配合してなり、シートの面に平行な方向の熱伝導率を、シートの面に垂直な方向の熱伝導率で除した値が1.1〜1000であることを特徴とする熱拡散シート。
(2)前記窒化ホウ素の平均粒径が1〜20μmの範囲にあることを特徴とする(1)に記載の熱拡散シート。
(3)前記熱拡散フィラー(B)が、さらに水酸化マグネシウムを含み、前記水酸化マグネシウムのアスペクト比が3以上20以下であり、前記窒化ホウ素が前記水酸化マグネシウムよりも体積的に多いことを特徴とする(1)または(2)に記載の熱拡散シート。
(4)前記窒化ホウ素の平均粒径が、前記水酸化マグネシウムの平均粒径よりも大きく、前記水酸化マグネシウムの平均粒径が0.5〜5μmの範囲にあることを特徴とする(3)に記載の熱拡散シート。
(5)前記バインダー(A)が、分子量50万〜100万のアクリル粘着剤であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱拡散シート。
(6)シートの厚さが0.5mm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱拡散性シート。
(7)シートの面に平行な方向の熱伝導率と、シートの面に垂直な方向の熱伝導率の積が10W−2−2以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱拡散シート。
(8)体積抵抗率が1.0×1010Ωcm以上であり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の熱拡散シート。
(9)難燃性がUL94 V−0またはVTM−0であることを特徴とする(3)または(4)に記載の熱拡散シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高い絶縁性と高い熱拡散性を有する高絶縁熱拡散性シートを提供することができる。つまり、本発明の熱拡散シートは面内方向に熱を効率よく拡散、輸送することが可能であり、また、優れた絶縁性を示し、また仮に破損した場合であっても回路内で電気的ショートを起こす恐れがないため、電気・電子機器類におけるヒートスポットの解消、均熱化、熱拡散等の用途に好んで用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施例9の熱拡散シートの表面の走査電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱拡散シートは、バインダー(A)に熱拡散フィラー(B)を配合した組成物からなるシートである。厚さは0.5mm以下であることが好ましい。
【0015】
(A)バインダー
本発明に用いるバインダーは、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、アクリルゴム、アクリル粘着剤からなる群より選定されたものまたは二つ以上を選定しこれらを混合したものを用いる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリルゴム共重合体といったポリオレフィン系樹脂を用いるのが好ましく、適宜これらを混合して用いることができる。中でも、酢酸ビニル含量の高いエチレン−酢酸ビニル共重合体や、エチレン−アクリルゴム共重合体などはフィラー受容性が高く、熱拡散性フィラーを多量に配合するのに適している。一方で、これらのフィラー受容性の高い熱可塑性樹脂は、結晶性がないか、あっても低く、機械的強度に劣る場合が多い。そのため、必要に応じて適宜ポリエチレン、ポリプロピレンなどを混合し、必要な熱拡散性能と機械特性が得られるように配合を調整することができる。
【0017】
熱可塑性エラストマーは、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系など種々の熱可塑性エラストマーがあるが、中でも、スチレン系、オレフィン系、およびナノ結晶構造制御型エラストマーを用いることが好ましい。これらの熱可塑性エラストマーは、フィラー受容性に優れるため熱拡散性フィラーを多量に配合しやすく、また、必要に応じてオイルなどの可塑剤を加えることで、さらにフィラー受容性を高めることができ、高い熱拡散性フィラーの配合率を達成可能であるため、高い熱拡散性能を有するシートを得ることが可能であるため好ましい。また、これらの熱可塑性エラストマーは、柔軟性を有しているため、熱拡散性シートの利用の際に発熱部品および放熱部品に密着させやすく、発生する熱を効率よく拡散・輸送することが可能となる。熱可塑性エラストマーにおいてもやはり、必要な機械特性を得るために適宜その他のポリオレフィン系熱可塑性樹脂と混合することが可能である。
【0018】
アクリルゴムは、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチル等のアクリル酸アルキルエステルを主とし、これらに反応性官能基を有する単量体を少量共重合させて得られるゴムである。反応性官能基は、架橋させる際の反応活性点となる官能基であって、クロロ基、エポキシ基などが挙げられる。アクリルゴムは、このような官能基を利用して架橋させて用いることもできるし、架橋させず、未架橋のまま用いることもできる。特に高いフィラー配合量では、未架橋のまま用いることが好ましい場合がある。
また、アクリルゴムも元来フィラー受容性が高いポリマーであるが、さらにエーテル・エステル系オイル等の可塑剤を添加することでこれをさらに高めることができ、より高い熱拡散性を有するシートを得ることが可能となる。アクリルゴムは柔軟性を得やすく、また、シートにした際に表面粘着性を帯びやすいため、やはり発熱部品・放熱部品と密着しやすく、熱の拡散・移動に有利である。さらに、アクリルゴムは高い耐熱性を有するため、特に高い耐熱性の求められる用途にて熱拡散シートを用いる場合にはアクリルゴムをバインダーとすることが適当な場合がある。
【0019】
アクリル粘着剤は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸二エチルヘキシル、などのアクリル酸アルキルエステルからなる(共)重合体に、架橋時の反応点となる少量のカルボン酸や水酸基を導入したものであって、粘着性を有するものである。重合体がトルエン、酢酸エチル等に溶解された溶剤タイプや、エマルションタイプ、紫外線硬化タイプのものなどが利用可能であるが、特に、汎用であり、多くの特性を示すものが容易に入手可能な溶剤タイプを用いることが好ましい。また、溶剤タイプでは、溶剤を追加することで粘着剤を希釈することができるため、粘着剤に対するフィラーの配合量を特に高めることが可能であり、好ましい。
【0020】
また、アクリル粘着剤については、所望する熱拡散性能、機械特性等に応じた分子量の粘着剤を選べばよい。一般的には、分子量が小さくなると粘着剤自身が柔らかくなり、熱拡散性フィラーの充填がしやすくなる他、得られるシートの柔軟性も増すが、逆に凝集力が小さくなるため、シートとしての取り扱いが困難になる場合がある。逆に分子量が大きくなると、シートにしたときの機械強度を高くすることが可能であるが、逆に熱拡散性フィラーを高い配合量で配合することが困難になり、またシートが脆くなる場合がある。特に好ましい分子量は50〜100万である。
【0021】
(B)熱拡散性フィラー
本発明では熱拡散性フィラーとして、形状が扁平形状であって、そのアスペクト比が10以上1000以下である窒化ホウ素を用いる。さらに、熱拡散フィラーには、形状が扁平形状であって、そのアスペクト比が3以上20以下である水酸化マグネシウムを加えても良い。これら扁平形状のフィラーは、フィラーの面方向の熱伝導率が面に垂直な方向の熱伝導率に対して高く、また扁平形状であることにより、これらのフィラーを容易にシートの面方向に配向させることができ、シートの面方向の熱伝導性を高め、本発明の目的である熱拡散性能を発現することができる。また同時に、これらのフィラーは絶縁体であるためバインダーと混合して得られるシートは高い絶縁性を発揮する。
【0022】
扁平な形状のフィラーである窒化ホウ素と水酸化マグネシウムにおいては、特に窒化ホウ素はその面方向の熱伝導率が高いフィラーとして知られており、熱伝導シートなどに用いられている。しかしながら、これら従来の熱伝導性シートはシートの面に垂直な方向に熱を伝えることを意図したものであるため、窒化ホウ素の、不定形または球状の凝集体が用いられることが多かった。しかし、本発明では、不定形または球状の凝集体ではなく扁平形状をした窒化ホウ素を用いることが重要である。
【0023】
水酸化マグネシウムは、熱拡散性の面では窒化ホウ素に特性が劣るものの、熱拡散性フィラーであると同時に難燃剤としての役割を果たす。このような熱拡散性シートに対して場合によって求められる難燃性を熱拡散性と同時に付与することが可能であるため本発明の用途に適している。
【0024】
このような扁平な形状の窒化ホウ素は、アスペクト比が10以上1000未満のフィラーを用いる。アスペクト比が10より小さいと、熱拡散性を高めるために重要な配向性が低下し、高い熱拡散性を得ることが難しくなるため本発明の用途に対して不適である。また、1000以上の高いアスペクト比を持つフィラーは、比表面積の増大により組成物の粘度が高くなり、加工が困難になる。さらに、フィラー自身を作製することが困難となるほか、シートの加工中にフィラー自身が割れやすくなるため、結果的にアスペクト比1000以上のフィラーが配合されたシートを得ることが通常困難である。これらの事情から、本発明で用いる扁平な形状のフィラーのアスペクト比は、より好ましくは10以上500未満である。
【0025】
アスペクト比とは、粒子の長径を、粒子の厚みで除した値であり、つまり長径/厚みである。粒子が球状の場合はアスペクト比は1であり、扁平な度合いが増すにつれてアスペクト比は高くなる。
【0026】
ところで、上述のように、本発明で用いられる窒化ホウ素と水酸化マグネシウムでは、基本的に窒化ホウ素の方が熱拡散性能に優れる。このため、より高い熱拡散性能を有するシートを得るためには、フィラーが配向し、シートの内部で窒化ホウ素フィラー同士が接触するように配置されることが好ましい。そのためには、配合される窒化ホウ素の粒径が水酸化マグネシウムに比べて大きく、また配合量も高い方が好ましい。
【0027】
また、窒化ホウ素の平均粒径は、窒化ホウ素は1〜20μmにあることが好ましい。これは、主として窒化ホウ素はより大きい粒子の方が接触しやすく熱拡散に有利であるためであるが、1μm以下の窒化ホウ素を用いると組成物の粘度が上昇してしまい、配合量を高めることが難しくなるため好ましくない。一方、20μm以上の平均粒径を持つ窒化ホウ素は、基本的に凝集しているため、本発明で目的とする熱拡散性を得るためにフィラーを配向させることが困難となるため、好ましくない。窒化ホウ素の平均粒径は、より好ましくは5〜15μmである。
【0028】
一方、水酸化マグネシウムの平均粒径は0.5〜5μmであることが好ましい。水酸化マグネシウムは難燃剤としての役割を担うため、その難燃性能のためには小さい粒径の方が好ましい。一方で、窒化ホウ素の粒径についての記述の際にも述べたように、粒径が小さくなることで組成物の粘度が高くなりやすく、平均粒径が0.5μm以下のものでは特に粘度上昇が顕著になるため不適である。一方、平均粒径が5μm以上の粒子では、得られる難燃性が低下してくる他、窒化ホウ素粒子の配向を妨げる場合が有り、好ましくない。水酸化マグネシウムの平均粒径は、より好ましくは、0.5〜2.5μmである。
【0029】
なお、平均粒径としてはレーザー回折法にて測定されるメジアン径(ある粉体をある粒径から二つに分けたとき、その粒径より大きい粒子と小さい粒子が等量となる粒径、一般にD50値とも呼ばれる)を用いた。
【0030】
これらの扁平な形状の窒化ホウ素または水酸化マグネシウムは、表面が脂肪酸、チタネート、シランなどで表面処理されていてもよい。特に水酸化マグネシウムは表面処理することによる組成物の粘度低下への寄与が高いため、表面処理されていることが好ましく、その際は脂肪酸で処理することが最も好ましく、その処理量は1〜5%程度が好ましい。
【0031】
上記の扁平な形状をした窒化ホウ素、または窒化ホウ素と水酸化マグネシウムの合計量は、熱拡散シートを形成する組成物全体に対して50〜90体積%の割合で配合されている。50%以下の配合量では、すなわち熱拡散性のフィラーが全体積の半量以下となるため、熱拡散性が急激に低下するため本発明の意図に対して不適である。一方、90体積%を超える配合量では、シートが脆くなり、取り扱いが困難となる上、フィラーとフィラーの間に目には見えない微細な間隙ができやすくなり、熱拡散性能が低下することがあるため不適である。好ましくは55〜85体積%で、特に好ましくは55〜80体積%である。なお、フィラーの体積としては、質量を真密度で割った値を使用した。
【0032】
水酸化マグネシウムは、難燃性を発揮するためには、組成物全体に対して10〜40体積%の割合で配合されていることが好ましい。10%以下の配合量では、十分な難燃性を発揮することが難しい。一方、40体積%以上の配合量では、窒化ホウ素の量が少なくなり、熱拡散性能が悪化する恐れがある。より好ましくは15〜35体積%であり、特に好ましくは20〜30体積%である。なお、水酸化マグネシウムの配合量は、窒化ホウ素の配合量よりも少ないことが好ましい。
【0033】
(その他の成分)
本発明で用いるシートには、必要に応じて上記バインダー(A)、熱拡散性フィラー(B)以外の成分が含まれていてもよい。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、アクリルゴムなどと共に用いられるパラフィンオイルやエーテル・エステルオイルといった可塑剤、また、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、銅害防止剤や、架橋剤、架橋助剤などである。可塑剤の多くは、バインダーとなるポリマーと同量以下の配合量にて用いられるが、必要に応じてバインダーポリマー100質量部に対して300〜500質量部の可塑剤を配合して用いることも可能である。また、酸化防止剤や架橋剤などはバインダーポリマー100質量部に対して0.1〜5質量部配合されることが常であるが、必要に応じて10質量部程度配合される場合もある。
【0034】
(シートの成形方法)
本発明の熱拡散性シートは通常の樹脂組成物を混練、成形する手法と同様の手法にて、もしくは、粘着剤とフィラーを混合した後にその液状組成物を成膜後に溶剤を揮発させることで得ることができる。
【0035】
すなわち、以下に示す手順にて本発明のシートを作製することができる。熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、アクリルゴムなどの固形のポリマーと熱拡散性フィラーをバンバリーミキサー、ニーダーなどの密閉型混練機、単軸押出機、二軸押出機、などの押出機、もしくはオープンロールなどの開放型混練機にて均一になるまで十分よく混練する。熱拡散性フィラーとバインダーポリマーを十分に混合、攪拌できる装置であれば特に制限はない。熱拡散性フィラーは一括して配合し、混練してもよいし、数回に分けて混練してもよい。十分均一になった組成物は、オープンロールやカレンダーロールを通すことで帯状に成形され、そのまま必要な厚さに成形してもよいし、これをさらに熱圧プレスにかけて成形をしてもよい。
【0036】
その際、シート内部のフィラーを面方向に配向させるために、オープンロールやカレンダーロールで高いせん断がかかるほうが好ましく、また、熱圧プレスでは高圧力が加えられることが好ましい。
【0037】
一方、液状であるアクリル粘着剤をバインダーとして用いる場合は、通常の回転型攪拌機や、プラネタリーミキサー、3本ロール、自転公転ミキサーなどを用いて熱拡散性フィラーなどを分散させればよく、やはりこれも十分に熱拡散性フィラーを分散させることができるのであれば特に制限はない。
【0038】
粘着剤に熱拡散性フィラーを十分に分散させたのち、続いてその分散液をPETフィルム、ポリイミドフィルム等に、アプリケーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーターなど、目的とする厚さと分散液の粘度を勘案した適切な塗工方法により塗工し、恒温槽や連続式の炉などで十分に溶剤を揮発させることで本発明のシートを得ることができる。また、必要に応じてさらに架橋工程や硬化工程をおこなってもよい。
【0039】
さらに、ここで得られたシートをロール圧延やプレスにより圧縮することで熱拡散性フィラー同士の接触を促すことが可能であり、さらに高い熱拡散性能を有するシートとすることができる。
【0040】
(熱伝導率)
上記の手法にて得られた熱拡散性シートは、熱拡散性フィラーがシートの面内に配向し、シートの面方向の熱伝導率が、シートの面に垂直な方向の熱伝導率に比べて高く、これにより、熱拡散シートが、発熱部品に接する面で受けた熱をシートの面に垂直な方向ではなく、シートの面に並行な方向へ拡散・輸送させることが可能となる。等方的な熱伝導率を持つシートの場合、発熱部品から受けた熱は、その反対面に主として到達し、効率的に熱を拡散・輸送することができない。
【0041】
上記のようなシートの方向に対する熱伝導率の異方性は、大きいほど熱を拡散しやすくなる。異方性が大きいと、熱は熱拡散シートの受熱側近傍を主として伝い、拡散・輸送されるようになり、熱拡散シートを薄くすることが可能となる。しかし、一方、薄くすることでトータルとして拡散・輸送可能な熱量は小さくなる。このような事情を鑑み、本発明で用いる熱拡散シートでは、シートに垂直方向の熱伝導率で、シートの面に並行な方向の熱伝導率を除した値が、1.1〜1000であるものを用いる。1.1以下では、異方性が小さく、熱を拡散することができない。一方、1000以上ではシートの最表面のみでしか熱が拡散できないため、トータルの熱拡散量が減少するため好ましくない。より好ましくは、1.5〜500、さらに好ましくは、1.5〜200である。
【0042】
上記の手法で得られる熱拡散性シートは、シートに並行な方向の熱伝導率とシートの面に垂直な方向の熱伝導率の積が、10W−2−2以上あることにより、より効率的に熱を拡散することが可能となる。
【0043】
(絶縁性)
シートの絶縁性は、シートの面に垂直方向に測定した体積固有抵抗値が1.0×1010Ωcm以上あり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上あれば、絶縁性が必須となる用途においてもショートの懸念なく使用することが可能である。
【0044】
(難燃性)
熱拡散シートの難燃性は、UL94 V−0またはVTM−0である。つまり、安全規格UL‐94(Underwriter
Laboratories,inc. Standard No.94)における垂直燃焼試験での難燃性評価がV−0またはVTM−0である。なお、VTMは、薄手材料垂直燃焼試験での結果であり、V−0とVTM−0は同程度の難燃性を意味する。
【0045】
(本発明の効果)
本発明によれば、シートに平行な方向の熱伝導率が、シートの面に垂直な方向の熱伝導率よりも大きい、十分な熱拡散性能を有する熱拡散シートを得られる。
【0046】
また、本発明の熱拡散シートは、グラファイトを使用していないため、絶縁性が必須となる用途においてもショートの懸念なく使用することが可能である。
【0047】
また、本発明の熱拡散シートは、適切な量の樹脂とフィラーを含んでいるため、柔軟であり、シート状に成形可能である。
【0048】
また、本発明によれば、シリコーン樹脂を使用しないで熱拡散シートを作成可能であるため、熱拡散シートからシロキサンを生じず、接点障害を起こすことがない。
【0049】
また、本発明の熱拡散シートに水酸化マグネシウムを添加することで、熱拡散シートは難燃性を獲得し、高温にさらされても発火することがない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、アクリルゴムをバインダー(A)として使用する場合、以下の方法により、熱拡散シートを作成した。
表に示す各例でのバインダーとフィラーを、表中での配合量(体積%)にてバンバリーミキサーで混練し、組成物を得た、この組成物をオープンロールにてシート状に成形、熱圧プレスし、厚さ0.5mmの熱拡散シートを得た。
【0052】
アクリル粘着剤をバインダー(A)として使用する場合は、以下の方法により熱拡散シートを作成した。アクリル粘着剤を酢酸エチルで希釈し、回転型撹拌機を用いて、表に示す各例の種類と量のフィラーを分散させた。その後、剥離処理されたPETフィルム上にドクターブレードにより塗工し、乾燥(70℃×5分)させ、さらにプレスし、厚さ0.3mmの熱拡散シートを得た。
【0053】
バインダー(A)として以下の材料を使用した。
熱可塑性エラストマー:ナノ結晶構造制御型エラストマー( 三井化学製、ノティオ PN3560)
熱可塑性樹脂:エチレン−酢酸ビニル共重合体(ランクセス製、レバプレン 450)、ポリプロピレン(日本ポリプロピレン製、ノバテックFX4G)、エチレン・アクリル共重合体(デュポン製、ベイマックDP)、変性ポリエチレン(三井・デュポン製、アドテックスL6101M)を60:20:10:5で混合したもの
アクリルゴム:日本ゼオン製、ニポールAR54
アクリル粘着剤:綜研化学製、SK−ダイン1811L、分子量 約70万
【0054】
フィラー(B)として以下の材料を使用した。
窒化ホウ素(扁平形状):昭和電工社製 UHP−1 平均粒径 8μm、アスペクト比 10〜50
窒化ホウ素(球状): 粒径、アスペクト比 ほぼ1
アルミナ: アスペクト比 ほぼ1
黒鉛: 日本黒鉛製 薄片化黒鉛 UP−35N
水酸化マグネシウム:協和化学工業社製キスマ5A アスペクト比 2〜5

また、その他の成分として、以下の材料を使用した。
流動パラフィン:新日本石油製 流動パラフィン350
【0055】
そのようにして得られたシートを以下の方法で測定した。
(1)熱伝導率(面方向)
レーザーフラッシュ二次元法により測定した面方向の熱拡散率と、アルキメデス法により測定した密度およびDSC(示差走査熱量測定)により測定された比熱から、シートの面方向の熱伝導率を算出した。なお、面方向の熱拡散率を測定するに当たっては、熱伝導率既知の標準試料が必要となるが、これにはタンタルもしくはアルミニウムの箔を用いた。
(2)熱伝導率(面に垂直方向)
レーザーフラッシ法により測定したシートの面に垂直方向の熱拡散率と、アルキメデス法により測定した密度よりおよびDSC(示差走査熱量測定)により測定された比熱から、シートの面に垂直方向の熱伝導率を算出した。
(3)絶縁性
JIS K 6271、JIS C 2110−1に準拠し、シートの体積固有抵抗並びに絶縁破壊電圧を測定した。体積固有抵抗値が1.0×1010Ωcm以上であり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上ならば◎、それ以外を×とした。
(4)難燃性
厚さ0.5mmのシートを用い、UL−94に定められた20mm垂直燃焼試験を実施した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
実施例1〜11では、面に平行な方向の熱伝導率を除した値が、1.1以上である。また、熱伝導率の積も10を超えている。
なお、実施例3はアクリルゴムでの実施例である。また、実施例6より、窒化ホウ素の上限が理解できる。また、実施例10と11より水酸化マグネシウムの量と難燃性の関係が明らかになった
比較例1、実施例5、実施例1、実施例6、比較例2を比較することで、熱拡散フィラーの量は、50〜90体積%が好ましいことが分かる。
比較例1では、窒化ホウ素が少ないと、面方向においても、面に垂直な方向においても、熱伝導率が十分でないことがわかった。
比較例2では、窒化ホウ素が多すぎるため、シート状に成形することができなかった。
比較例3、4では、球状の窒化ホウ素や、アルミナを使用すると、熱伝導率に異方性がなく、面方向と面に垂直な方向で同程度の熱伝導率であることが分かる。
比較例5では、黒鉛を使用しており、面方向の熱伝導率が高いが、黒鉛が導電性物質であるため、絶縁性が悪かった。
比較例6では、熱拡散性フィラーに占める水酸化マグネシウムの割合が体積として窒化ホウ素よりも多いため、面に平行な方向と面に垂直な方向の熱伝導率の積が10以下であり、十分な熱拡散性が得られなかった。
【0060】
水酸化マグネシウムを30体積%配合した実施例9の熱拡散シートは、UL94 V−0の難燃性を有する。実施例9〜11、比較例6を比べると、難燃性の観点から、水酸化マグネシウムの配合量は、10〜40体積%が好ましいことが分かる。
【0061】
図1に、実施例9の熱拡散シートの平面方向からの操作電子顕微鏡写真を示す。長径2〜6μm程度の扁平形状の粒子が窒化ホウ素であり、0.5〜2μm程度の扁平形状の粒子が水酸化マグネシウムである。平面形状の窒化ホウ素が、窒化ホウ素の面とシートの面とが平行になるように配向していることが分かる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー(A)として、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、アクリルゴム及びアクリル粘着剤からなる群より選ばれる1以上のポリマーを用い、
前記バインダー(A)に、少なくとも、熱拡散フィラー(B)として、アスペクト比が10以上1000以下の扁平形状の窒化ホウ素を、組成物全体に対して50〜90体積%(固形分換算)の割合で配合してなり、
シートの面に平行な方向の熱伝導率を、シートの面に垂直な方向の熱伝導率で除した値が1.1〜1000であることを特徴とする熱拡散シート。
【請求項2】
前記窒化ホウ素の平均粒径が1〜20μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の熱拡散シート。
【請求項3】
前記熱拡散フィラー(B)が、さらに水酸化マグネシウムを含み、
前記水酸化マグネシウムのアスペクト比が3以上20以下であり、
前記窒化ホウ素が前記水酸化マグネシウムよりも体積的に多いことを特徴とする請求項1または2に記載の熱拡散シート。
【請求項4】
前記窒化ホウ素の平均粒径が、前記水酸化マグネシウムの平均粒径よりも大きく、前記水酸化マグネシウムの平均粒径が0.5〜5μmの範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の熱拡散シート。
【請求項5】
前記バインダー(A)が、分子量50万〜100万のアクリル粘着剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱拡散シート。
【請求項6】
シートの厚さが0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱拡散性シート。
【請求項7】
シートの面に平行な方向の熱伝導率と、シートの面に垂直な方向の熱伝導率の積が10W−2−2以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱拡散シート。
【請求項8】
体積抵抗率が1.0×1010Ωcm以上であり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱拡散シート。
【請求項9】
難燃性がUL94 V−0またはVTM−0であることを特徴とする請求項3または4に記載の熱拡散シート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−64691(P2012−64691A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206532(P2010−206532)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】