説明

熱水水質測定装置

【課題】イオンを除去した熱水で水質センサを洗浄し、外部から洗浄液を供給することなく水質センサを洗浄できる熱水水質測定装置を提供する。
【解決手段】熱水の水質を測定する水質センサ2と、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部11とを備え、前記脱イオン熱水で前記水質センサ2を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶存イオン濃度が高い熱水の水質を測定する水質センサを洗浄する機構を備えた熱水水質測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、供給される水を所定pH値のイオン水に電解する電解槽と、前記電解槽の排水路に配置されたpHセンサと、前記pHセンサを洗浄するセンサ洗浄部とを設けたことを特徴とするpHセンサを備えたイオン水生成器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−235443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地熱発電所では、地下から噴出する蒸気と熱水の混合流体を気液分離器で蒸気と熱水に分離後、蒸気をタービン発電機に導入し地熱発電を行っている。従来、気液分離器で分離された熱水は、還元井に戻されていた。近年では、発電に用いられていなかった高温熱水を熱源として、低沸点媒体を用いて発電を行うバイナリー発電の導入が検討されている。バイナリー発電では、使用後の熱水の温度はさらに低下するので、シリカ等のスケール源が過飽和状態になり、スケールが析出することがある。pH計やシリカ濃度計のセンサ部にスケールが析出すると、計測が不能になったり、計測精度が悪化したり、計測器の応答速度が遅くなったりする。このスケールを除去するために、メンテナンス頻度を増加しなければならず、メンテナンス費用が増加してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、熱水に硫酸等を添加してpH5〜6程度に制御し、シリカの重合速度を低下させることでメンテナンス周期を長期化し、メンテナンス費用の低減を図っている。熱水の水質は日々変化するため、変化幅に対して十分余裕のある硫酸を常に添加すると、ランニングコストが増大するため、最適な硫酸量の制御が求められている。そのため、pHやシリカ濃度を測定した結果に基づいて硫酸添加量を制御している。
【0006】
しかし、センサ部の洗浄を人の手により行う場合は、人件費がかかる。また、センサ部の汚れを物理的にこすり落とす方法は、センサを損傷しやすい。酸洗浄では有機物や酸に溶解性の高い物質の汚れは落とせるが、シリカなど酸への溶解性の低い物質は洗浄困難である。また、pH計においては酸洗浄後に純水等で洗浄に用いた酸を十分に洗い流す必要がある。アルカリによる洗浄ではシリカを溶解しやすいが、汚れのみでなくガラス電極も溶解してしまうため、電極の寿命が短くなるという問題がある。また洗浄に用いたアルカリを十分に洗い流す必要がある。洗浄に酸やアルカリを用いる場合には河川放流や下水に直接放流することはできず、中和等の廃液処理が必要となり、コストが増加する。また、地熱発電所は山岳地に設置されるケースが多く、センサ洗浄用の純水を大量に保有し消費するには、純水の輸送コストがかかり経済的ではないという問題点があった。洗浄液のpHの違いによるスケールの溶解性は、スケールの組成によって異なる。例えば、シリカはアルカリ性溶液に溶けやすいが、炭酸カルシウム等カルシウム系のスケールは酸性溶液に溶けやすい。
【0007】
上記特許文献1のpHセンサでは、イオンが存在する水を電解した強酸性水を洗浄液としているが、溶存イオン濃度が高濃度である場合、飽和イオン濃度に対する溶存イオン濃度の割合が高くなり、pHセンサに付着したスケールの溶解に寄与できる濃度差が小さいもしくは洗浄液が過飽和の場合スケールを溶解する能力がないという問題があった。
【0008】
本発明者は、純水を用いればどちらに対しても溶解性を得られるので、イオンを除去された熱水を洗浄液として用いれば、飽和溶解度と溶存イオン濃度の濃度差を大きくでき、温度が高いことにより、飽和溶解度がより高く、かつ、スケールの溶解速度が促進されることに着目して本発明を生み出した。
【0009】
上記の課題を解決するべく、本発明は、イオンを除去した熱水で水質センサを洗浄し、外部から洗浄液を供給することなく水質センサを洗浄できる熱水水質測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る熱水水質測定装置は、熱水の水質を測定する水質センサと、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部とを備え、前記脱イオン熱水で前記水質センサを洗浄することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の熱水水質測定装置において、前記熱水が通流する主配管に設けられた水質センサと、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部と、前記水質センサより下流側の主配管に分岐配管および第2切り替え弁を設け、前記分岐配管の一端を前記脱イオン部に接続し、前記水質センサより上流側の主配管に第1切り替え弁を設け、前記脱イオン部と前記第1切り替え弁を接続する返送配管と、前記脱イオン熱水を前記水質センサおよび前記脱イオン部の間を循環流通させる循環ポンプとを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部に前記熱水を供給する前に前記熱水を加熱または冷却する温度調整器を備えることを特徴とする熱水水質測定装置。
また、本発明のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部がイオン交換樹脂であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部が電気再生式脱イオン装置であることを特徴とする。
また、本発明のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記水質センサが、pH計またはシリカ濃度計であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記第1切り替え弁と前記第2切り替え弁の開閉、および、前記脱イオン部の起動停止とを制御する制御部を備え、定期的に前記水質センサを自動洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオンを除去した熱水で水質センサを洗浄し、外部から洗浄液を供給することなく水質センサを洗浄できる熱水水質測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る熱水水質測定装置の実施形態を図面を参照しながら説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【0018】
本発明に係る第1の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、第1の実施形態における熱水水質測定装置の概略構成図である。本発明の熱水水質測定装置は、熱水が通流する主配管1に設けられた水質センサ2と、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部5と、前記水質センサ2より下流側の主配管1に分岐配管7および第2切り替え弁4を設け、前記分岐配管の一端を前記脱イオン部5に接続し、前記水質センサ2より上流側の主配管1に第1切り替え弁3を設け、前記脱イオン部5と前記第1切り替え弁3を接続する返送配管8と、前記脱イオン熱水を前記水質センサ2および前記脱イオン部5の間を循環流通させる循環ポンプ6とを備える。水質センサ2の種類に限定は無く、pH計やシリカ計や他の水質計であってもよいが、図1では例としてpH計とした。電気伝導度計9は必須ではないが、脱イオン部5のイオン交換樹脂のイオン吸着能力をチェックする観点から備えることがより望ましい。イオン交換樹脂を着脱可能なカートリッジに収納しておき、イオン交換樹脂のイオン吸着能力が低下したら新しいイオン交換樹脂を入れたカートリッジに交換する。イオン交換樹脂としては、熱水の水質に応じて強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性イオン交換樹脂の使用量を調整することとすればイオン交換樹脂の交換頻度を低減できるが、概ね1対1の体積割合で供えておくことでもよい。脱イオン熱水が循環通流する配管の容積が大きいほど脱イオン部5への負荷が大きくなり、イオン交換樹脂の交換頻度が短くなってしまうので、この容積をなるべく小さくすることでランニングコストを低減できる。
【0019】
図1では第2切り替え弁4と脱イオン部5の間を接続する分岐配管7の途中に温度調整器10を設けたが、必須ではない。しかし、主配管1を通流する熱水の温度が脱イオン部5のイオン交換樹脂の耐熱温度より高い場合は、温度調整器10を設け、イオン交換樹脂の耐熱温度以下まで熱水を冷却する。多くのイオン交換樹脂では耐熱温度が50℃程度なので、50℃以下に冷却する。温度調整器10の例としては、配管を長くして外気で配管を冷却する構成としてもよいし、この配管にフィンを設けて伝熱を促進する構造としてもよいし、ペルチェ素子を用いて配管を冷却してもよい。
【0020】
主配管1を通流する熱水の温度が脱イオン部5のイオン交換樹脂の耐熱温度より低い場合は、温度調整器10を設けることは必須ではないが、脱イオン部5のイオン交換樹脂の耐熱温度より低くかつなるべく高い温度にする方が望ましい。なぜなら、熱水の飽和溶解度と溶存イオン濃度の濃度差を大きくでき、温度が高いことにより、飽和溶解度がより高く、かつ、スケールの溶解速度が促進されるからである。
【0021】
制御部16は、水質センサ2、電気伝導時計9と信号線で接続されており、データが制御部に入力される。また、制御部16は、第1切り替え弁3、第2切り替え弁4および循環ポンプ6と電気的に接続されており、弁の流路の切り替えや循環ポンプの流量が制御されている。制御部16は必ずしも必須ではなく各機器を人が手動で操作することも可能であるが、制御部16で自動制御することが望ましい。
【0022】
次に本装置の動作について説明する。水質センサ2による水質測定時は、主配管1のみに熱水が通流するように第1切り替え弁3と第2切り替え弁4をそれぞれ切り替える。測定が終了したら、水質センサ2と脱イオン部5との間を脱イオン熱水が循環して通流するように第1切り替え弁3と第2切り替え弁4をそれぞれ切り替える。
【0023】
洗浄終了の判定は、単にタイマーで洗浄時間を予め決めておく方式(例:5分測定、55分洗浄)でもよいし、電気伝導度計9の指示値が下がり、安定したら、洗浄完了とみなす制御を行ってもよい。洗浄が完了したら主配管1のみに熱水が通流するように第1切り替え弁3と第2切り替え弁4をそれぞれ切り替えて、水質センサ2を測定状態に戻すか、もしくは、次の測定のタイミングまで通水をストップする。
【0024】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る概略構成図である。第2の実施形態は、上記第1の実施形態の脱イオン部11をイオン交換樹脂から電気再生式脱イオン装置(EDI:Electric deionization)へ変更した例である。熱水は、イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混相が一般的)が充填してある脱塩室に導入される。脱塩室は、陰極室12と陽極室14の間に設けられており、陰極室と脱塩室の間に陽イオン交換膜を、陽極室と脱塩室の間に陰イオン交換膜をそれぞれ設置されている。陰極室12内には陰極、陽極室14内には陽極が備えられている。陰極室12の一端と返送配管を接続する配管を設け、その途中に流量調整弁17を設ける。陰極室12の他端と陽極室の一端を接続する配管を設ける。陽極室の他端から外部に濃縮液を排出する配管を設ける。陽極と陰極は図示しない電源に接続されており、制御部16の指令により陰極と陽極に電圧を印加すると、陽イオンは陰極へ、陰イオンは陽極へそれぞれ移動し、脱塩室内からナトリウムイオンや塩化物イオンなどのイオンを陰極室12および陽極室14へ移動できる。水の電気分解や電離により生成する水素イオンや水酸化物イオンにより脱塩室内のイオン交換樹脂が連続的に再生される。
【0025】
濃縮液が外部に排出されることによる液量減少を補う方法としては、第1切り替え弁3より上流側の主配管1から配管を分岐させ、脱イオン部11の上流側または温度調整器10の上流側の分岐配管7に接続する方法がある。
【0026】
他の方法としては、第1切り替え弁3から濃縮液の流量分だけа−b方向に原水である熱水を補給するように調節する方法がある。
さらに他の方法としては、分岐配管の途中に図示していないバッファータンクを設け、脱イオン部11で外部に排出される濃縮液の量より多い熱水を貯留することにしてもよい。この場合、次の手順で行う。測定終了後、第1切り替え弁3をа−b方向に通流するようにし、第2切り替え弁4をa−c方向に通流するように切り替える。循環ポンプ6を起動しバッファータンクに熱水を貯留する。バッファータンクには水位計を設けておき、水位計が上限値に達したら、第1切り替え弁3をc−b方向に通流するように切り替え、上述の手順と同様に脱イオン熱水を循環させる。この際、濃縮液として排出された液量分だけバッファータンクの水位が減少することになる。水位計が下限値に達した場合は、第1切り替え弁3をа−b方向に通流するようにし、再度バッファータンクに熱水を貯留する。
【0027】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る概略構成図である。第2の実施形態に記載の内容に対して、水質センサ2の熱水と接する部分に対向する位置に超音波発生器の出力部を設け、水質センサ2に超音波を当てることにより、純水による洗浄効果をより高めている。この超音波発生器の設置は、第1の実施形態にも適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 主配管
2 水質センサ
3 第1切り替え弁
4 第2切り替え弁
5 脱イオン部(イオン交換カートリッジ)
6 循環ポンプ
7 分岐配管
8 返送配管
9 電気伝導度計
10 温度調整器
11 脱イオン部(電気再生式脱イオン装置)
12 陰極室
13 脱塩室
14 陽極室
15 超音波発生器
16 制御部
17 流量調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水の水質を測定する水質センサと、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部とを備え、前記脱イオン熱水で前記水質センサを洗浄することを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱水水質測定装置において、前記熱水が通流する主配管に設けられた水質センサと、前記熱水のイオンを除去して脱イオン熱水を生成する脱イオン部と、前記水質センサより下流側の主配管に分岐配管および第2切り替え弁を設け、前記分岐配管の一端を前記脱イオン部に接続し、前記水質センサより上流側の主配管に第1切り替え弁を設け、前記脱イオン部と前記第1切り替え弁を接続する返送配管と、前記脱イオン熱水を前記水質センサおよび前記脱イオン部の間を循環流通させる循環ポンプとを備えることを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部に前記熱水を供給する前に前記熱水を加熱または冷却する温度調整器を備えることを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部がイオン交換樹脂であることを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記脱イオン部が電気再生式脱イオン装置であることを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記水質センサが、pH計またはシリカ濃度計であることを特徴とする熱水水質測定装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の熱水水質測定装置において、前記第1切り替え弁と前記第2切り替え弁の開閉、および、前記脱イオン部の起動停止とを制御する制御部を備え、定期的に前記水質センサを自動洗浄することを特徴とする熱水水質測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−83293(P2012−83293A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231335(P2010−231335)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】