説明

熱硬化性接着剤による部材接着方法及び接着部材構造

【課題】低コスト、省エネルギにて、また基板への部品実装の前後を問わずに、基板とヒートシンクとの熱硬化性接着剤による接着を可能とする方法及び接着部材構造を提供する。
【解決手段】基板1の、ヒートシンク2と接着される面に電気抵抗層3を所定のパターンで印刷し、その表面に絶縁コーティングを施す。またヒートシンク2の、基板1と接着される面に熱硬化性接着剤4を塗布する。そして、電気抵抗層3が印刷形成された基板1と、熱硬化性接着剤4が塗布されたヒートシンク2とを重ね合わせる。その後、電気抵抗層3に電源11を印加、通電し、その電気抵抗層3を発熱させて熱硬化性接着剤4を加熱、硬化させ、上記基板1とヒートシンク2とを重ね合わせた状態で接着、固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばセラミック基板とヒートシンク(放熱体)とを熱硬化性接着剤を用いて接着する熱硬化性接着剤による部材接着方法及び接着部材構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路基板においては、部品の高密度実装化が益々進展し、通常のチップコンデンサやICチップ等のチップ部品の高密度実装ばかりでなく、パワーIC等の高発熱量の部品も同時に実装されるようになってきている。このため、この種の電子回路基板においては、同基板にヒートシンクを密着固定し、種々の実装部品からの発生熱を基板からヒートシンクに伝えて高効率に放熱させるようにしている。
ここで、基板へのヒートシンクの密着固定は、扱いやすさ等による優位性から接着剤、特に熱硬化性接着剤を用いる方法が用いられている。
このような熱硬化性接着剤を用いる場合には、その硬化(基板及びヒートシンクの接着)には熱硬化性接着剤の加熱が必要となる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−257437号公報(段落[0022])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上掲特許文献1に開示の技術においては、熱硬化性接着剤の加熱を硬化(加熱)炉で行うことを特に明記していないが、硬化炉を用いるのが一般的である。このため、硬化炉が必要となってコストが上昇する上に、エネルギ損失が大きくなった。また、硬化炉を用いる方法では、炉内の加熱雰囲気中に基板及びヒートシンクが置かれることになるため、部品の耐熱性の程度によってはその基板ヘの実装手順が制約される(基板及びヒートシンクの加熱接着後にその部品を実装する)ことも考慮しなければならなかった。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、硬化炉が不要で低コスト、省エネルギにて熱硬化性接着剤の加熱硬化を行うことができ、また、部品実装用の基板等の部材(被放熱側部材)への同部品実装の前後を問わずに熱硬化性接着剤の加熱硬化を行うことも可能な熱硬化性接着剤による部材接着方法及び接着部材構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、熱硬化性接着剤による部材接着方法及び接着部材構造を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、各々対応する。
【0008】
(1)被放熱側部材と放熱側部材とを熱硬化性接着剤によって接着する方法であって、前記被放熱側部材と放熱側部材とのいずれか一方の部材の、他方の部材と接着される面に所定のパターンの電気抵抗層を付着形成すると共に、両部材を、それら相互間に熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わせ、その後、前記電気抵抗層を通電により発熱させて前記熱硬化性接着剤を硬化させ、両部材を接着することを特徴とする熱硬化性接着剤による部材接着方法。
前記電気抵抗層の付着形成は、例えば、抵抗体形成用導電ペースト(電気ヒータとして使用できる酸化ルテニウムペースト、白金ペースト等)を、印刷あるいはインジェクションや刷毛による塗布等で付着させ、焼成することにより行われる。前記熱硬化性接着剤は、被放熱側部材側又は放熱側部材側のいずれかの接着面に塗布される。前記電気抵抗層への通電は、一般的には直流電源により行われるが、交流電源により行ってもよい。要するに、その通電によって所期の発熱動作が行われればよい。これらは、以下の発明においても同様である。
(2)前記被放熱側部材は発熱部品実装用の絶縁性及び熱伝導性を有する基板であり、前記放熱側部材は熱伝導性を有する放熱体であって、前記電気抵抗層は前記基板又は放熱体に付着形成されることを特徴とする(1)項に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法。
前記基板は、一般的には絶縁性及び熱伝導性の他に耐熱性をも有する基板が用いられる。前記基板としては、後述するセラミック基板の他に、ガラスエポキシ基板等が用いられる。前記放熱体は、通常、熱伝導性の他に耐熱性をも有する放熱板等の放熱部材が用いられる。
【0009】
(3)前記基板はセラミック基板であり、前記放熱体はヒートシンクであって、前記電気抵抗層は前記セラミック基板に印刷により付着形成され、かつその表面が絶縁層でコーティングされ、前記熱硬化性接着剤は前記ヒートシンクに塗布されることを特徴とする(2)項に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法。
前記セラミック基板としては、アルミナ基板、チタニア基板、ステアタイト基板等を用いることができるが、絶縁性、熱伝導性、耐熱性に優れたアルミナ基板が好ましい。前記ヒートシンクは、例えばアルミニウム、銅等の金属、又はそれらの合金から形成されるのが一般的であるが、これらはいずれも導電性を有する。したがって、前記電気抵抗層(印刷抵抗)の表面を絶縁層でコーティングしてヒートシンクを通した短絡を防ぎ、電気抵抗層の通電、発熱を妨げないようになされている。
(4)被放熱側部材と放熱側部材とが熱硬化性接着剤によって接着される接着部材構造であって、前記被放熱側部材又は放熱側部材のいずれか一方の部材には、他方の部材と接着される面に所定のパターンの電気抵抗層が通電可能に付着形成され、前記他方の部材には、前記一方の部材と接着される面に前記熱硬化性接着剤が塗布され、これら両部材が、相互間に前記電気抵抗層及び熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わされていることを特徴とする接着部材構造。
【発明の効果】
【0010】
(1)項に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法によれば、被放熱側部材と放熱側部材との熱硬化性接着剤による接着を、硬化炉を用いることなく、したがって低コスト、省エネルギにて行うことができる。また、被放熱側部材への部品実装の前後を問わずに熱硬化性接着剤の加熱硬化を行うこともできる。
(2)項に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法によれば、被放熱側部材が発熱部品実装用の絶縁性及び熱伝導性を有する基板であり、放熱側部材が熱伝導性を有する放熱体であって、電気抵抗層が前記基板又は放熱体に付着形成される形態において、(1)項と同様の効果が得られる。
(3)項に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法によれば、近年一般的な、部品の高密度実装化が適用された電子回路基板における、セラミック基板とヒートシンクとの熱硬化性接着剤による接着方法において、(1)項と同様の効果が得られる。また、(2)項における電気抵抗層の付着形成や、セラミック基板及びヒートシンク間に熱硬化性接着剤を介在させる作業を、電子回路基板の量産ライン上等において容易に行うことができる。
(4)項に記載の接着部材構造によれば、同構造における被放熱側部材と放熱側部材との熱硬化性接着剤による接着を、硬化炉を用いることなく、したがって低コスト、省エネルギにて行うことができる。また、被放熱側部材への同部品実装の前後を問わずに熱硬化性接着剤の加熱硬化を行うこともできる。更に、電子回路基板における被放熱側部材と放熱側部材との熱硬化性接着剤による接着にこの接着部材構造を適用すれば、上記電子回路基板の量産ライン上等において上記接着を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明による熱硬化性接着剤による部材接着方法の一実施形態の説明図、図2は図1におけるA−A矢視図である。
本発明は、被放熱側部材と放熱側部材とを熱硬化性接着剤によって接着する方法であり、本実施形態において、被放熱側部材は、発熱部品実装用の絶縁性及び熱伝導性を有する基板、図示例では絶縁性、熱伝導性及び耐熱性に優れたアルミナ基板からなるセラミック基板である。また放熱側部材は、熱伝導性を有する放熱体、図示例ではアルミニウム合金により形成されたヒートシンクである。
図1において、セラミック基板1の、ヒートシンク2と接着される面(図中、下面)には電気抵抗層3が所定のパターンで印刷により付着形成されている。電気抵抗層3のパターンは、例えば図2に示すように蛇行状とされるが、これのみに限定されることはない。
なお、少なくとも電気抵抗層3の表面は、ヒートシンク2によって電気抵抗層3の両端間が短絡しないように絶縁層でコーティング(絶縁コーティング)されている。
【0012】
また、ヒートシンク2の、セラミック基板1と接着される面(図1中の上面のセラミック基板1と対向する平面領域)には熱硬化性接着剤4が塗布されている。熱硬化性接着剤4としては、硬化後においても熱伝導性を有するものが選択される。
熱硬化性接着剤4として絶縁性を有するものが選択された場合には、上記電気抵抗層3表面の絶縁コーティングは不要となる。絶縁性の熱硬化性接着剤4がヒートシンク2による電気抵抗層3の両端間短絡を防ぐからである。
【0013】
電気抵抗層3が印刷により形成され必要に応じて絶縁コーティングされたセラミック基板1と、熱硬化性接着剤4が塗布されたヒートシンク2とは、図1に示すように重ね合わされる。つまり、セラミック基板1とヒートシンク2との間に電気抵抗層3及び熱硬化性接着剤4が介在する接着部材構造(電子回路基板の中間品構造)を呈する。
【0014】
電源11は、セラミック基板1面に形成された電気抵抗層3に通電端子12を介して通電し、同電気抵抗層3を発熱させて熱硬化性接着剤4を硬化させるための電源である。電源11は、図示例のように直流電源を用いることが一般的であるが、交流電源を用いてもよい。要するに、通電によって電気抵抗層3を発熱させ、熱硬化性接着剤4を硬化させることができれば電源11にどのような種類を用いてもよい。
熱硬化性接着剤4の加熱、硬化により、重ね合わされたセラミック基板1とヒートシンク2とが接着固定されることはいうまでもない。
【0015】
通電端子12と電気抵抗層3との導通は、どのような形態でとってもよい。
例えば、上下両端縁部分及びそれら相互間(穴内周部分)に導電性メッキが施された貫通穴1aを、セラミック基板1下面の電気抵抗層3のパターン両端部分に相当する箇所に形成しておく。その後、電気抵抗層3を、そのパターン両端部分が上記貫通穴1aの下端縁部分に各別に積層されるように形成する等によって、貫通穴1aの上下両端縁部分及びそれら相互間部分(貫通穴1a周り)と、電気抵抗層3との導通をとっておき、貫通穴1aに填め込まれた通電端子12と電気抵抗層3との導通をとる形態が挙げられる。
ヒートシンク2との絶縁が確保されれば、通電端子12をヒートシンク2側から挿入し、その先端面をセラミック基板1下面の電気抵抗層3のパターン両端部分に各別に接触させ、電気抵抗層3との導通をとるように構成してもよい。
いずれにしても、電気抵抗層3の通電による発熱、つまり熱硬化性接着剤4の硬化は、基本的に1回限りであるから、電気抵抗層3及び電気抵抗層3への通電のための導通形態(構成)に要求される耐久性は僅かである。
【0016】
以上述べた本実施形態をフローチャートで示せば図3の通りである。
図3を、図1を併用して説明すると、まずセラミック基板1の、ヒートシンク2と接着される面に電気抵抗層3を所定のパターンで印刷すると共にその表面に絶縁コーティングを施す(ステップ301)。
次ステップ302では、ヒートシンク2の、セラミック基板1と接着される面に熱硬化性接着剤4を塗布する。
ステップ303では、電気抵抗層3が印刷形成され、絶縁コーティングされたセラミック基板1と、熱硬化性接着剤4が塗布されたヒートシンク2とを重ね合わせる。
最後に、電気抵抗層(印刷抵抗)3に直流電源11を印加、通電して同電気抵抗層3を発熱させ、熱硬化性接着剤接触面を例えば125℃になるまで加熱して熱硬化性接着剤4を硬化させ、セラミック基板1とヒートシンク2とを重ね合わせた状態で接着、固定する(ステップ304)。
これにより、セラミック基板1上に実装されたICチップやパワーIC等の発熱部品1bからの発生熱がセラミック基板1からヒートシンク2に伝導され、このヒートシンク2から効率よく大気中(水冷式であれば冷却水中)に放散される。
【0017】
以上のように本実施形態においては、硬化(加熱)炉を用いることなく熱硬化性接着剤4を加熱硬化できるので、熱硬化性接着剤4による部材接着の低コスト化、省エネルギ化が図れる。また、セラミック基板1への部品1bの実装の前後を問わずに熱硬化性接着剤4の加熱硬化が可能である。更に、本実施形態において必要な電気抵抗層3の形成や、ヒートシンク2への熱硬化性接着剤4の塗布等を、電子回路基板の量産ライン上等において容易に行うことができる等の効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による熱硬化性接着剤による部材接着方法の一実施形態の説明図である。
【図2】図1におけるA−A矢視図である。
【図3】本実施形態の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0019】
1:セラミック基板(被放熱側部材)、2:ヒートシンク(放熱側部材)、3:電気抵抗層、4:熱硬化性接着剤、1b:発熱部品、11:電源、12:通電端子。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被放熱側部材と放熱側部材とを熱硬化性接着剤によって接着する方法であって、
前記被放熱側部材と放熱側部材とのいずれか一方の部材の、他方の部材と接着される面に所定のパターンの電気抵抗層を付着形成すると共に、両部材を、それら相互間に熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わせ、その後、前記電気抵抗層を通電により発熱させて前記熱硬化性接着剤を硬化させ、両部材を接着することを特徴とする熱硬化性接着剤による部材接着方法。
【請求項2】
前記被放熱側部材は発熱部品実装用の絶縁性及び熱伝導性を有する基板であり、前記放熱側部材は熱伝導性を有する放熱体であって、前記電気抵抗層は前記基板又は放熱体に付着形成されることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法。
【請求項3】
前記基板はセラミック基板であり、前記放熱体はヒートシンクであって、前記電気抵抗層は前記セラミック基板に印刷により付着形成され、かつその表面が絶縁層でコーティングされ、前記熱硬化性接着剤は前記ヒートシンクに塗布されることを特徴とする請求項2に記載の熱硬化性接着剤による部材接着方法。
【請求項4】
被放熱側部材と放熱側部材とが熱硬化性接着剤によって接着される接着部材構造であって、
前記被放熱側部材又は放熱側部材のいずれか一方の部材には、他方の部材と接着される面に所定のパターンの電気抵抗層が通電可能に付着形成され、前記他方の部材には、前記一方の部材と接着される面に前記熱硬化性接着剤が塗布され、これら両部材が、相互間に前記電気抵抗層及び熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わされていることを特徴とする接着部材構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−98502(P2008−98502A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280183(P2006−280183)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】