説明

熱線遮蔽ガラスルーバー、及びこれを含む窓構造

【課題】熱線遮蔽ガラスを用いて、使用時期又は使用地域に応じて熱線遮蔽機能を制御することができるものを提供する。
【解決手段】複数枚の、熱線遮蔽ガラス10が、長手方向が互いに平行になるように、且つ各ガラスが長手方向を回転軸心として回転及び静止自在に配設され、且つ熱線遮蔽ガラスがタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含有する熱線遮蔽層を有することを特徴とする熱線遮蔽ガラスルーバー30、及びこれを含む窓構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線遮蔽機能を有するガラス板で構成されたルーバーに関し、特に、建築、車両・鉄道用等の窓に設置される、可動式の熱線遮蔽ガラスルーバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等の空調負荷を低減するために、これらの窓に、太陽光中の近赤外線(熱線)を遮蔽する機能が求められている。熱線を遮蔽するガラスとして、ガラス自体にFe、Cr、Tiなどのイオンを導入して熱線吸収性を持たせた練り込み型の熱線吸収ガラス、金属酸化物膜を蒸着させた熱線反射ガラス、インジウム錫酸化物(ITO)や酸化錫(ATO)などの透明導電膜の薄膜を乾式成膜したもの、金属酸化物膜/Ag膜等を主成分とする貴金属膜/金属酸化物膜を積層した熱線遮蔽膜(Low−E膜ともいう)が形成された熱線遮蔽ガラス(特許文献1)等が提案され、実用化されている。この内、Low−E膜は比較的短波長の太陽光の近赤外線は透過し、室内から放射される暖房等の遠赤外線は反射して逃がさない機能を有する。
【0003】
さらに、高い熱線遮蔽性を有し、且つ高い可視光透過率を実現する熱線遮蔽ガラスとして、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物の微粒子を熱線遮蔽機能の主体とし、UV励起着色防止剤を含むコーティング膜をガラス基板上に形成したものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−226148号公報
【特許文献2】特開2007−269523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された熱線遮蔽ガラス等は、夏季のような気温の高い時期又は温暖な地域(以下、夏季と略す。)において使用する場合は、太陽光の近赤外線を遮蔽するため、室内の冷房効率を上げることができるが、冬季のような気温の低い時期又は寒冷な地域(以下、冬季と略す。)において使用する場合は逆に暖かくならないという問題がある。また、特許文献1に記載されたLow−E膜は、上述の通り、冬季は断熱性が優れ、暖房効率を上げることができるが、夏季は太陽光の近赤外線を透過するため、冷房負荷の低減には寄与できないことがある。
【0006】
従って、本発明の目的は、熱線遮蔽ガラスを用いて、使用時期又は使用地域に応じて熱線遮蔽機能を制御することができるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、複数枚の、熱線遮蔽ガラスが、長手方向が互いに平行になるように、且つ各ガラスが長手方向を回転軸心として回転及び静止自在に配設され、且つ熱線遮蔽ガラスがタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含有する熱線遮蔽層を有することを特徴とする熱線遮蔽ガラスルーバーによって達成される。このガラスルーバーを、例えば、建築物の室内(建築物や車両・鉄道等の閉じられた空間の内部を意味する。)と室外(同空間の外部を意味する。)の境界にあるガラス部の室外側に設置した場合、夏季は各熱線遮蔽ガラスを回転させ、ガラス面が太陽光の入射方向と垂直になる角度、又はガラス部を覆うような角度に調節することで、太陽光の近赤外線を熱線遮蔽層により遮断することができる。これにより近赤外線による室内の温度上昇を抑え、冷房効率を上げることができる。タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含有する熱線遮蔽層は可視光透過率が高いので、このガラス面を通しても良好な可視光透過性が確保されている。一方、冬季は各熱線遮蔽ガラスを回転させ、各ガラス面が太陽光の入射方向と平行になる角度に調節することで、太陽光の近赤外線を遮断しないようにすることができる。これにより、近赤外線により室内が暖まる効果を妨げず、暖房効率を上げることができる。
【0008】
本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーの好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記熱線遮蔽ガラスが矩形状の板状である。
(2)前記熱線遮蔽ガラスが、長手方向を回転軸心として回転させると、各ガラスが隣り合うガラスと少なくとも一部で重なるように配設されている。これにより、夏季における太陽光の近赤外線の遮断をより確実に行うことができる。
(3)前記熱線遮蔽ガラスが、長手方向の回転軸心が水平方向になるように配設されている。
(4)前記熱線遮蔽ガラスが、2枚の透明基板の間に中間膜が挟持されて接着一体化されており、中間膜と透明基板との間に、前記熱線遮蔽層及び中間膜、或いは前記熱線遮蔽層、プラスチックフィルム及び中間膜が設けられている。
【0009】
熱線遮蔽ガラスをこのような構成の合わせガラスとすることで、ガラスルーバーの耐候性、耐衝撃性を上げることができるので、室外に設置する場合に、より有効な熱線遮蔽ガラスルーバーとすることができる。
(5)2枚の透明基板が共にガラス板である。
(6)前記中間膜が、ポリビニルブチラールを含む組成物の層(PVB層)又はエチレン/酢酸ビニル共重合体を含む組成物の層(EVA層)である。
(7)タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表される。
【0010】
また、上記目的は、本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーが、室内と室外の境界にあるガラス窓の室外側に設置されている構造を含む窓構造によって達成される。
【0011】
これにより、使用時期又は使用地域に応じて熱線遮蔽機能を制御し、室内の空調効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーをオフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等のガラス窓の外側に設置することで、夏季、冬季といった使用時期又は使用地域に応じて熱線遮蔽機能を制御し、これらの建築物等の空調効率を向上することができるので、空調負荷を低減し、省エネルギー及びコスト低減に寄与することができる。
【0013】
従って、本発明の窓構造は、空調負荷を低減し、省エネルギー及びコスト低減に寄与できる窓構造である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーを構成する熱線遮蔽ガラスの代表的な一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーの代表的な一例を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の窓構造の代表的な一例を示す概略断面図であり、(a)は夏季の使用状態、(b)は冬季の使用状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーを構成する熱線遮蔽ガラス10の代表的な一例を示す概略断面図である。
【0016】
図1において、熱線遮蔽ガラス10は矩形状の板状である。本発明においては熱線遮蔽ガラスルーバーに使用できれば、熱線遮蔽ガラス10の形状には特に制限はなく、楕円形状の板状でも、断面が長方形、楕円形状等の棒状でも良い。作製容易な点、効率的に近赤外線を遮蔽できる点、視認性の点で図1に示すような矩形状の板状が好ましい。なお、本発明において、熱線遮蔽ガラスにおける「ガラス」とは透明基板全般を意味するものである。したがって、熱線遮蔽ガラスとは、熱線遮蔽性が付与された透明基板を意味する。
【0017】
図1に示した熱線遮蔽ガラス10においては、ガラス板11A上に、中間膜12A、プラスチックフィルム13、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線遮蔽層14、中間膜12B及びガラス板11Bが順に積層一体化されている。この熱線遮蔽ガラスは、一般に2枚のガラス板11A、11Bの間に、表面に熱線遮蔽層14が設けられたプラスチックフィルム13を、中間膜12A,12Bを介して挟んで、接着一体化されたものである。熱線遮蔽層14に含まれるタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物の微粒子Wは、可視光線をほとんど遮断せず、近赤外線(特に、太陽光からの放射量が多い850〜1150nm付近の近赤外線)の遮断機能に優れており、優れた熱線遮蔽性を示す。熱線遮蔽層14における、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物の微粒子の含有量は特に制限は無いが、1m2当たり、一般に0.1〜50g、0.5〜20gが好ましく、さらに0.1〜10gが好ましい。このような範囲で複合タングステン酸化物の微粒子を含むことにより、得られる積層体の熱線カット特性と透明性の両立が可能となる。
【0018】
熱線遮蔽層14は、好ましくは、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物の微粒子を、バインダ樹脂組成物中に分散させた層である。中間膜12A、12Bは、好ましくは、ポリビニルブチラールを含む組成物の層(PVB層)又はエチレン/酢酸ビニル共重合体を含む組成物の層(EVA層)であり、これらの積層体でも良い。EVA層は、有機過酸化物を含有するエチレン/酢酸ビニル共重合体を含む組成物の架橋層であることが好ましい。プラスチックフィルム13と熱線遮蔽層14との位置は反対でも良い。また、プラスチックフィルム13を設けず、熱線遮蔽層14のみを設けても良い。
【0019】
本発明における熱線遮蔽ガラス10は、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線遮蔽層を有する熱線遮蔽ガラスであれば、図1のような合わせガラス構造でなくても、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線遮蔽層を被覆したガラス板やタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線遮蔽層を有するプラスチックフィルムを1枚のガラス板に接着層を介して貼り付けたフィルム強化ガラスであっても良い。また、熱線遮蔽層14が中間膜の機能を有し、ガラス板を接着することができれば、2枚のガラス板11A、11Bを熱線カット層14で接着した合わせガラスであっても良い。従来の中間膜を使用することができ、耐候性、耐衝撃性等の点から図1に示したような合わせガラス構造が好ましい。
【0020】
ガラス板11A、11Bは透明基板であれば良く、それぞれ同一でも異なっていても良い。例えば、グリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンアフタレート(PEN)、ポリエチレンブチレート、ポリメチルメタクリレート等のプラスチック製の基板又はフィルムを用いてもよい。耐候性、耐衝撃性等の点で2枚の透明基板は共にガラス板が好ましい。透明基板の厚さは、1〜20mm程度が一般的である。
【0021】
熱線遮蔽ガラス10は、一般に、危険防止のため角の面取りがなされ、後述のように、主に室外に設置されるので、樹脂コート等による防水処理加工がなされる。
【0022】
次に本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーについて説明する。図2は本発明の熱線遮蔽ガラスルーバー30の代表的な一例を示す概略斜視図である。図示の通り、熱線遮蔽ガラスルーバー30は、フレーム20(透過図部分を破線で示す)、取り付け具21、及び図1で説明した矩形状の熱線遮蔽ガラス10を構成に含む。フレーム20は、一般にステンレス等の金属製であり、取り付け具21の軸22と対になる軸受け23を有する。取り付け具21は一般にステンレス等の金属製であり、上記の軸受け23と対になる軸22、及び熱線遮蔽ガラス10を固定するための熱線遮蔽ガラス10の幅及び厚みに合わせた大きさの嵌合部24を有する。熱線遮蔽ガラス10は、長手方向の両端部が取り付け具21の嵌合部24でバネ止め、ネジ止め等の固定手段により固定され、図示の通り、複数枚の熱線遮蔽ガラス10が、長手方向が互いに平行になるように配設されている。取り付け具21の軸22はフレーム20の軸受け23に装着されており、各熱線遮蔽ガラス10は軸22を回転軸心として回転及び静止自在にフレーム20に取り付けられている。
【0023】
複数枚の熱線遮蔽ガラス10の間隔は夏季に太陽光の近赤外線を遮断できれば特に制限はない。より確実に太陽光の近赤外線を遮断できるように、各熱線遮蔽ガラス10を回転させると各ガラス10の板面が隣り合うガラス10の板面と少なくとも一部が重なるように配設されているのが好ましい。この場合、熱線遮蔽ガラス10の回転角度を、全てのガラス10の板面が隣り合うガラス10の板面と少なくとも一部で重なるように調節することで、フレーム20で囲われた範囲を熱線遮蔽ガラス10の板面で隙間無く覆うことができる。各熱線遮蔽ガラス10が重なる範囲は特に制限はないが、一般に5〜20mmである。なお、フレーム20には、すべての熱線遮蔽ガラス10の回転角度が同一の角度に調節できるように、歯車等の連動手段(図示していない)が設けられていることが好ましい。また、機械的又は電子的な遠隔操作が可能な制御手段が設けられていることが好ましい。
【0024】
本発明の熱線遮蔽ガラスルーバー30は、図2においては熱線遮蔽ガラス10が水平方向を回転軸心として回転及び静止自在に設置されているが、ガラス10の長手方向を垂直方向に設置し、垂直方向を回転軸心としても良い。太陽光の入射方向に応じて熱線遮蔽ガラス10の板面の角度を調節するために、図2のように水平方向を回転軸心とした方が好ましい。図2においては、熱線遮蔽ガラス10は取り付け具21の軸22でのみフレーム20に取り付けられているが、熱線遮蔽ガラス10が長手方向を回転軸心として回転及び静止自在に配設されていれば良く、取り付け手段はどのようなものでも良い。例えば、フレーム20に回転及び静止自在に取り付けられたアームに熱線遮蔽ガラス10を固定する手段などが挙げられる。
【0025】
次に本発明の熱線遮蔽ガラスルーバーを含む窓構造について説明する。図3は本発明の窓構造50の代表的な一例を示す概略断面図であり、図3(a)が夏季における使用状態を示し、図3(b)が冬季における使用状態を示す。ガラス窓40はオフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等の室内と室外の境界にあるガラス窓である。なお、本発明において、ガラス窓40の「ガラス」とは透明基板全般を意味するものである。熱線遮蔽ガラスルーバー30は、図2で説明した通りのものであり、本発明の窓構造50においては、ガラス窓40の室外側に設置されている。図3(a)に示すように、夏季においては、熱線遮蔽ガラスルーバー30の各熱線遮蔽ガラス10を回転させ、全てのガラス10の板面が太陽光の入射方向と垂直になる角度に調節されている。これにより、太陽光の近赤外線の室内への透過を熱線遮蔽ガラス10の熱線遮蔽層により遮断することができる。本発明に係る熱線遮蔽層に含まれるタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物は、可視光線をほとんど遮断せず、太陽光からの放射量が多い近赤外線(特に850〜1150nm付近の近赤外線)の遮断機能に優れており、優れた熱線遮蔽性を示す。従って、近赤外線による室内の温度上昇を抑え、冷房効率を向上することができる。
【0026】
また、図3(b)に示すように、冬季においては、各熱線遮蔽ガラス10を回転させ、各ガラス10の板面が太陽光の入射方向と平行になる角度に調節されている。これにより、太陽光の近赤外線の室内への透過が熱線遮蔽ガラス10の熱線遮蔽層によって遮断されないようになっている。従って、太陽光の近赤外線により室内が暖まる効果を妨げず、暖房効率を向上することができる。更に、熱線遮蔽ガラス10の角度を適当な角度に調節することで、太陽光の近赤外線の透過量を調節し、室内の温度調節に寄与することができる。
【0027】
本発明の窓構造50においては、本発明の熱線遮蔽ガラスルーバー30を設置しているので、ガラス窓40はグリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板等の通常のガラス、又はポリメチルメタクリレート等のプラスチック製の透明基板で良い。また、ガラス窓40は耐衝撃性、耐貫通性を向上するため、合わせガラスとしても良く、断熱効果を高めるため複層ガラスとしても、冬季の室内からの暖房熱等の遠赤外線放射を抑えるためにLow−E膜を設けても良い。
【0028】
本発明の窓構造50においては、室内と室外の境界にあるガラス窓40の室外側に、本発明の熱線遮蔽ガラスルーバー30が設置されている構造を含んでいれば良い。図3においては室外の最外部に熱線遮蔽ガラスルーバー30が設置されているが、さらにその室外側にガラス窓が設置されていても良い。また、熱線遮蔽ガラスルーバー30が2枚の透明基板の間に設けられている一体型の窓構造でも良い。
【0029】
以下、本発明に係る熱線遮蔽ガラスの各構成について説明する。
[熱線遮蔽層]
本発明に係る熱線遮蔽ガラスを構成する熱線遮蔽層は、上記の通り、タングステン酸化物及び/又は複合タンクステン酸化物の微粒子をバインダ樹脂組成物に分散させた層である。
【0030】
上記タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表される酸化物であり、複合タングステン酸化物は、上記タングステン酸化物に、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加した組成を有するものである。これにより、z/y=3.0の場合も含めて、WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。本発明では、複合タングステン酸化物が好ましい。
【0031】
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該赤外線遮蔽材料をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となり得る。
【0032】
複合タングステン酸化物の微粒子は、安定性の観点から、一般に、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される酸化物であることが好ましい。アルカリ金属は、水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。
【0033】
特に、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であるものが好ましい。また複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。優れた分散性が得られ、優れた赤外線カット機能、透明性が得られる。
【0034】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され赤外線遮蔽効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、微粒子含有層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0035】
酸素量の制御を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0036】
さらに、複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
【0037】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0038】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0039】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。また、本発明の複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることが、耐候性の向上の観点から好ましい。
【0040】
本発明で使用される複合タングステン酸化物微粒子の粒径は、透明性を保持する観点から、800nm以下の粒径(平均粒径)、特に400nm以下の粒径を有していることが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。
【0041】
なお、熱線吸収材の平均粒子径は、熱線吸収層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の熱線吸収材の投影面積円相当径を求めた数平均値とする。
【0042】
上記複合タングステン酸化物微粒子は、例えば下記のようにして製造される。
【0043】
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0044】
タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0045】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0046】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0047】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し赤外線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100〜650℃で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650〜1200℃の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0048】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で赤外線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な赤外線遮蔽微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N2、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、赤外線遮蔽微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0049】
本発明の複合タングステン酸化物微粒子は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤が好ましい。これによりバインダ樹脂との親和性が良好となり、透明性、熱線遮蔽性の他、各種物性が向上する。
【0050】
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシアクリルシランを挙げることができる。ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシアクリルシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、微粒子100質量部に対して5〜20質量部で使用することが好ましい。
【0051】
上記バインダ樹脂組成物に含まれるバインダ樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を使用することができる。例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の合成樹脂をあげることができる。耐候性の点でシリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アルキル樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂が好ましく、特に紫外線硬化性樹脂が好ましい。紫外線硬化性樹脂は、短時間で硬化させることができ、生産性に優れているので好ましい。バインダ樹脂組成物は、硬化方法に応じて熱重合開始剤、光重合開始剤を含む。さらに、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤を含んでいてもよい。また、熱線遮蔽層に中間膜の機能を付加する場合は、後述の中間膜と同様なPVB樹脂組成物又はEVA樹脂組成物をバインダ樹脂組成物として用いることができる。
【0052】
熱線遮蔽層は、上記(複合)タングステン酸化物をバインダ樹脂100質量部に対して、10〜500質量部、さらに20〜500質量部、特に30〜300質量部含有することが好ましい。また熱線遮蔽層の厚さは、一般に0.1〜50μm、好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.1〜5μmである。
【0053】
[中間膜]
本発明に係る熱線遮蔽ガラスを構成する中間膜は、上記の通り、一般にEVA層又はPVB層、これらの積層膜である。
【0054】
上記PVB層を構成するPVB樹脂組成物は、一般に、PVB樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤等を含んでいる。PVB樹脂として、ポリビニルアセタール単位が70〜95重量%、ポリ酢酸ビニル単位が1〜15重量%で、平均重合度が200〜3000、特に300〜2500であるものが好ましい。
【0055】
PVB樹脂組成物の可塑剤としては、一塩基酸エステル、多塩基酸エステル等の有機系可塑剤やリン酸系可塑剤を挙げることができる。
【0056】
一塩基酸エステルとしては、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプタン酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の有機酸とトリエチレングリコールとの反応によって得られるエステルが好ましく、特に、トリエチレン−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキソエート、トリエチレングリコール−ジ−カプロネート、トリエチレングリコール−ジ−n−オクトエートが好ましい。なお、上記有機酸とテトラエチレングリコール又はトリプロピレングリコールとのエステルも使用することができる。
【0057】
多塩基酸エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸等の有機酸と炭素原子数4〜8個の直鎖状又は分岐状アルコールとのエステルが好ましく、特に、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペートが好ましい。
【0058】
リン酸系可塑剤としては、トリブトキシエチルフォスフェート、イソデシルフェニルフォスフェート、トリイソプロピルフォスフェート等が好ましい。
【0059】
PVB樹脂組成物において、可塑剤の量が少ないと成膜性が低下し、多すぎると耐熱時の耐久性等が損なわれるため、ポリビニルブチラール樹脂100質量部に対して可塑剤を一般に5〜50質量部、特に10〜40質量部含むことが好ましい。
【0060】
本発明のPVB樹脂組成物は、紫外線吸収剤(UV吸収剤)として、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物及び、ヒンダードアミン系化合物等を使用することができる。ベンゾフェノン系化合物が、黄変性が抑制され好ましい。
【0061】
上記ベンゾフェノン系化合物の好ましい例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノン、2,2'、4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノンを挙げることができ、特に2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノンが好ましい。
【0062】
PVB層においては、上記紫外線吸収剤を、PVB100質量部に対して0.05〜1.0質量部(特に0.1〜0.2質量部)使用することが好ましい。
【0063】
さらにPVB樹脂組成物は、脂肪酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩(一般に接着力調整剤として使用)を含んでも良い。
【0064】
上記脂肪酸のアルカリ土類金属塩の例としては、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、オクチル酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム、ギ酸バリウム、酢酸バリウム、乳酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸バリウム等;また脂肪酸のアルカリ金属塩の例としては、ギ酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オクチル酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0065】
PVB樹脂組成物には、更に劣化防止のために、安定剤、酸化防止剤等の添加剤が添加されていても良い。
【0066】
上記EVA層を構成するEVA樹脂組成物に用いられるEVAは、酢酸ビニル含有率が、一般に23〜38質量%であり、特に23〜28質量%であることが好ましい。この酢酸ビニル含有率が、23質量%未満であると、高温で架橋硬化させる場合に得られる樹脂の透明度が充分でなく、逆に38質量%を超えると耐衝撃性、耐貫通性が不足する傾向となる。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、1.5〜20.0g/10分、特に2.0〜8.0g/10分であることが好ましい。これにより予備圧着が容易になる。
【0067】
上記EVA樹脂組成物は、上記EVAに、紫外線吸収剤、有機過酸化物を含んでおり、さらに必要に応じて架橋助剤、接着向上剤、可塑剤等の種々の添加剤を含有させることができる。
【0068】
EVA樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物及び、ヒンダードアミン系化合物を挙げることができる。黄変を抑制する観点から、ベンゾフェノン系化合物が好ましい。
【0069】
EVA層においては、上記紫外線吸収剤を、EVA100質量部に対して0.01〜1.5質量部(特に0.5〜1.0質量部)使用することが好ましい。
【0070】
EVA樹脂組成物に含まれる有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも併用することもできる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0071】
この有機過酸化物の例としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
【0072】
EVA層は、膜の種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物を含んでいることが好ましい。
【0073】
使用するアクリロキシ基含有化合物及びメタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドルフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプオピル基を挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。
【0074】
アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。
【0075】
多官能化合物(架橋助剤)としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、更に前述のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを挙げることができる。
【0076】
エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)5グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0077】
EVA樹脂組成物には、上記EVA層とガラス板又は透明プラスチック基板又はフィルムとの接着力をさらに高めるために、接着向上剤としてシランカップリング剤を添加することができる。
【0078】
このシランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0079】
EVA樹脂組成物に含まれる可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用しても良い。可塑剤の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0080】
本発明に係るEVA層は、例えば、上記EVA、有機過酸化物、紫外線吸収剤等を含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形してEVA樹脂フィルムを得る方法により製造することができる。また本発明に係るPVB層も、上記と同様に、例えば、上記PVB、紫外線吸収剤等を含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形してPVB樹脂フィルムを得る方法により製造することができる。
【0081】
また、上記組成物を溶剤に溶解させ、この溶液を適当な塗布機(コーター)で適当な支持体上に塗布、乾燥して塗膜を形成することにより層状物を得ることもできる。なお、PVB層とEVA層とは、各々の樹脂フィルムで形成する他、PVB樹脂とEVA樹脂との2層押出成形等で、PVB/EVA複合樹脂フィルムとしたものを用いて形成しても良く、また、いずれか一方の樹脂フィルムに他方の樹脂組成物を塗工して、例えば予め成膜したPVB樹脂フィルムにEVA樹脂組成物を塗工して2層積層フィルムとしたものを用いて形成しても良い。3層積層膜の接着用中間膜についても同様に形成可能である。
【0082】
[プラスチックフィルム]
本発明に係る熱線遮蔽ガラスを構成するプラスチックフィルムは、一般に透明なプラスチックフィルムである。その材料としては、透明(「可視光に対して透明」を意味する。)であれば特に制限はない。プラスチックフィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。プラスチックフィルムの厚さは、10〜400μm、特に20〜200μmであるのが好ましい。また、プラスチックフィルム表面には、接着性を向上させるために、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などの接着処理を施してもよい。
【0083】
本発明に係る熱線遮蔽ガラスを製造するには、まず熱線遮蔽層を形成したプラスチックフィルムを用意する。これは、プラスチックフィルム上に、(複合)タングステン酸化物の微粒子を、上述のようにバインダ樹脂に分散させた塗布液を塗布、乾燥させることにより(必要によりさらに熱、光等により硬化させることにより)得ることができる。この場合、乾燥は、プラスチックフィルム上に塗布した樹脂組成物を60〜150℃、特に70〜110℃で加熱することにより行うのが好ましい。乾燥時間は1〜10分間程度でよい。光照射は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線を照射して行うことができる。
【0084】
次いで、上記のように中間膜として、EVA樹脂フィルムを成膜し、2枚のガラス板の間に、このEVA樹脂フィルムを介して、上記の熱線遮蔽層を形成したプラスチックフィルムを挟み(ガラス板/EVA樹脂フィルム/熱線遮蔽層が形成されたプラスチックフィルム/EVA樹脂フィルム/ガラス板、の順で積層)、この積層体(合わせガラス)を脱気した後、加熱下に押圧して接着一体化すれば良い。このような合わせガラスは、例えば、真空袋方式、ニップロール方式で得ることができる。EVA層が軟質であるためニップロール方式で圧着することにより行うことができ、積層体の製造が容易となる。ニップロールの温度は80〜140℃であることが好ましい。
【0085】
上記熱線遮蔽ガラスを製造する際、EVA層を一般に100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間架橋させる。この架橋は、ガラス板の間に挟持された状態で、脱気したのち、例えば80〜120℃の温度で予備圧着し、100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間加熱処理することにより行われる。架橋後の冷却は一般に室温で行われるが、特に、冷却は速いほど好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例を示し、本発明についてさらに詳述する。
(1)熱線遮蔽ガラスの作製
(中間膜の作製)
下記の配合を原料としてカレンダ成形法により中間膜(透明接着剤層)として厚さ0.7mmのEVAシートを得た。尚、配合物の混練は、80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0087】
(配合)
EVA(酢酸ビニル含有量25質量%、
商品名:ウルトラセン635、東ソー(株)製) : 100質量部
架橋剤(パーブチルE;日本油脂(株)製
t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート) : 2.2質量部
シランカップリング剤(KBM503;信越化学工業(株)製) : 1.0質量部
紫外線吸収剤(ユビナール3049;BASFジャパン(株)製) : 0.5質量部
【0088】
(熱線遮蔽層付きPETフィルムの作製)
PETフィルム(200μm)上に、下記の熱線カット層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、120℃で2分間乾燥して、厚さ1μmの熱線カット層を形成した。
【0089】
(配合)
シリコーン樹脂(固形分20質量%、トルエン80質量%、
KR−251、信越化学(株)製) 75質量部
セシウムタングステン酸化物(Cs0.33WO3
固形分20質量%、MIBK80質量%) 100質量部
【0090】
(熱線遮蔽ガラスの作製)
上記で得られた熱線遮蔽層付きPETフィルムを、両側にEVAシートを介してガラス板により挟んで積層し、これをゴム袋に入れて真空脱気し、110℃の温度で予備圧着した。次に、この予備圧着ガラスをオーブン中に入れ、温度130℃の条件下で30分間加圧処理して、合わせガラス(ガラス板/EVA/熱線遮蔽層付きフィルム/EVA/ガラス板)を製造した。
【0091】
(2)熱線遮蔽ガラスルーバーの作製
作成した熱線遮蔽ガラスを短冊状に切断、面取り、樹脂コートによる防水処理して、幅90mm×長さ720mmの矩形状のガラス板を作成した。その熱線遮蔽ガラス18枚を幅780mm×高さ1370mmのフレームに取り付け、図2に示したような熱線遮蔽ガラスルーバーを作成した。各熱線遮蔽ガラスの重なり幅は10mmとした。
【0092】
上記熱線遮蔽ガラスルーバーをオフィスの室外に面したガラス窓の外側に設置した。夏季において、熱線遮蔽ガラスの板面の角度を太陽光の入射方向と垂直になるように調節したところ、可視光透過性に変化はないが、近赤外線を良好に遮蔽し、冷房効率を向上することができた。冬季は熱線遮蔽ガラスの板面の角度を太陽光の入射方向と平行になるように調節したところ、太陽光の近赤外線により室温が向上し、暖房効率を向上することができた。
【0093】
なお、本発明は上記の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
オフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等の空調負荷を夏季、冬季を問わず低減することができる。
【符号の説明】
【0095】
10 熱線遮蔽ガラス
11A、11B ガラス板
12A、12B 中間膜
13 プラスチックフィルム
14 熱線遮蔽層
20 フレーム
30 熱線遮蔽ガラスルーバー
40 ガラス窓
50 窓構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の、熱線遮蔽ガラスが、長手方向が互いに平行になるように、且つ各ガラスが長手方向を回転軸心として回転及び静止自在に配設され、且つ熱線遮蔽ガラスがタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含有する熱線遮蔽層を有することを特徴とする熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項2】
前記熱線遮蔽ガラスが矩形状の板状である請求項1に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項3】
前記熱線遮蔽ガラスが、長手方向を回転軸心として回転させると、各ガラスが隣り合うガラスと少なくとも一部で重なるように配設されている請求項1又は2に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項4】
前記熱線遮蔽ガラスが、長手方向の回転軸心が水平方向になるように配設されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項5】
前記熱線遮蔽ガラスが、2枚の透明基板の間に中間膜が挟持されて接着一体化されており、中間膜と透明基板との間に、前記熱線遮蔽層及び中間膜、或いは前記熱線遮蔽層、プラスチックフィルム及び中間膜が設けられている請求項1又は2に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項6】
2枚の透明基板が、共にガラス板である請求項3に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項7】
前記中間膜が、ポリビニルブチラールを含む組成物の層(PVB層)又はエチレン/酢酸ビニル共重合体を含む組成物の層(EVA層)である請求項3又は4に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項8】
タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表される請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラスルーバー。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラスルーバーが、室内と室外の境界にあるガラス窓の室外側に設置されている構造を含む窓構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−216081(P2010−216081A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60802(P2009−60802)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】