説明

熱輸送装置、電子機器及び熱輸送装置の製造方法

【課題】効率よく熱輸送を行うことのできる熱輸送装置を提供すること。
【解決手段】熱輸送装置は、作動流体と、蒸発部と、凝縮部と、流路部とを具備する。熱輸送装置は、前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つに設けられ、カーボン系材料からなる領域をさらに具備する。作動流体は、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる。蒸発部は、前記作動流体を液相から気相に蒸発させる。凝縮部は、前記蒸発部と連通し、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる。流路部は、前記凝縮部で液相に凝縮した前記作動流体を前記蒸発部に流通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の熱源に熱的に接続される熱輸送装置、この熱輸送装置を備えた電子機器及び熱輸送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の熱源、例えばPC(Personal Computer)のCPU(Central Processing Unit)に熱的に接続され、熱源の熱を吸収して輸送する装置として、ヒートスプレッダ、ヒートパイプ及びCPL(Capillary Pumped Loop)等の熱輸送装置が使われている。これら熱輸送装置は、例えば銅板等からなるソリッド型の金属からなる熱輸送装置や最近では作動流体が封入されたものが提案されている。
【0003】
ところで、カーボン系材料例えばカーボンナノチューブは熱伝導性が高く、蒸発現象の促進に寄与することが知られている。このようなカーボンナノチューブを利用した熱輸送装置の一つとしてのヒートパイプが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7213637号(第3欄66行目〜第4欄12行目、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンナノチューブは高い熱伝導性を有し、純水に対して安定である一方、純水に対して超撥水性を有する。一方、熱輸送装置に用いられる作動流体としては、大きい潜熱を有する純水を使うことが一般的である。従って、特許文献1に記載されたカーボンナノチューブ層を有する熱輸送装置に作動流体として純水を使用する場合、上記超撥水性のため、カーボンナノチューブ層に毛細管力がほとんど働かず、作動流体の循環が滞るおそれがある。また、カーボンナノチューブ層と作動流体との接触面積が小さいため、蒸発効率及び凝縮効率が低減するおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、大型化することなく効率良く熱輸送を行うことのできる熱輸送装置及びこの熱輸送装置を備えた電子機器を提供することにある。本発明の別の目的は、製造が容易で信頼性の高い熱輸送装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る熱輸送装置は、作動流体と、蒸発部と、凝縮部と、流路部とを具備する。熱輸送装置は、前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つに設けられ、カーボン系材料からなる領域をさらに具備する。
作動流体は、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる。
蒸発部は、前記作動流体を液相から気相に蒸発させる。
凝縮部は、前記蒸発部と連通し、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる。
流路部は、前記凝縮部で液相に凝縮した前記作動流体を前記蒸発部に流通させる。
【0008】
本発明によれば、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる溶液を作動流体として使用することで、作動流体に対するカーボン系材料の親水性を向上させることができる。このように親水性を向上させることで、カーボン系材料の毛細管力を向上させることができ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、熱輸送装置が効率良く熱輸送を行うことができる。
【0009】
本発明において、前記ヒドロキシル基を有する有機化合物は、アルコール類である。
【0010】
本発明において、前記アルコール類はブタノールであり、前記ブタノールの含有量は、2重量%より大きく10重量%以下である。
より望ましくは、ブタノールの含有量は、2.1重量%以上10重量%以下である。さらに望ましくは、ブタノールの含有量は、3重量%以上10重量%以下である。
【0011】
本発明によれば、親水性及び毛細管力を向上させ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通を促進させるために純水にアルコール類を添加した作動流体を使用する場合、アルコール類をブタノールとしたとき、添加は少量で足りる。
【0012】
本発明において、前記カーボン系材料は、カーボンナノチューブである。
【0013】
本発明によれば、カーボンナノチューブは表面にナノ構造を有するので、表面積の大きな領域を、蒸発部、凝縮部及び流路部の少なくとも一つに設けることができる。これにより、熱輸送装置を大型化することなく作動流体の蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、熱輸送装置が効率良く熱輸送を行うことができる。
【0014】
本発明において、前記領域は、紫外線処理された前記カーボンナノチューブからなる。
【0015】
本発明によれば、カーボンナノチューブからなる領域に紫外線処理を行うことで、作動流体に対するカーボンナノチューブの親水性をさらに向上させることができる。これにより、カーボン系材料の毛細管力を向上させることができ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通をさらに促進させることができる。その結果、熱輸送装置がさらに効率良く熱輸送を行うことができる。
【0016】
本発明において、前記領域は、表面に溝を有する。
【0017】
本発明によれば、表面に溝を設けることで、上記領域における作動流体の毛細管力を向上させることができるので、作動流体の流通をさらに促進させることができる。また、表面に溝を設けることで、表面積の大きな領域を蒸発部、凝縮部及び流路部の少なくとも一つに設けることができる。これにより、熱輸送装置を大型化することなく、作動流体の蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、熱輸送装置がさらに効率良く熱輸送を行うことができる。
【0018】
本発明において、前記アルコール類はエタノールであり、前記エタノールの含有量は、15重量%以上40重量%以下である。
【0019】
本発明に係る電子機器は、熱源と、熱輸送装置とを具備する。
前記熱輸送装置は、作動流体と、蒸発部と、凝縮部と、流路部とを具備する。熱輸送装置は、前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つに設けられ、カーボン系材料からなる領域をさらに具備する。
作動流体は、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる。
蒸発部は、前記作動流体を液相から気相に蒸発させる。
凝縮部は、前記蒸発部と連通し、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる。
流路部は、前記凝縮部で液相に凝縮した前記作動流体を前記蒸発部に流通させる。
【0020】
本発明によれば、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加した溶液を作動流体として使用する。これにより、作動流体に対するカーボン系材料の親水性を向上させることができる。このように親水性を向上させることで、カーボン系材料の毛細管力を向上させることができ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、熱輸送装置が効率良く熱輸送を行うことができる。
【0021】
本発明に係る熱輸送装置の製造方法は、作動流体を液相から気相に蒸発させる蒸発部、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる凝縮部、及び液相の前記作動流体を前記蒸発部に流通させるための流路部を有する熱輸送装置の製造方法である。
前記熱輸送装置の製造方法は、第1の基材にカーボン系材料からなる領域を形成して、前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つを構成する第2の基材を作製する。
少なくとも前記第2の基材を用いてコンテナを形成する。
前記コンテナ内に、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる作動流体を封入する。
【0022】
本発明によれば、作動流体として純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加した溶液を作動流体として使用すれば、作動流体に対するカーボン系材料からなる領域の親水性を向上させることができるので、製造が容易で信頼性を向上させることができる。
また、このように親水性を向上させることで、カーボン系材料の毛細管力を向上させることができ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、上記製造方法により製造された熱輸送装置が、効率良く熱輸送を行うことができる。
【0023】
本発明において、さらに、前記カーボン系材料がカーボンナノチューブであり、このカーボンナノチューブを紫外線処理する。
【0024】
本発明によれば、紫外線処理を行うことで、作動流体に対する上記領域の親水性をさらに向上させることができる。このように親水性を向上させることで、カーボン系材料の毛細管力を向上させることができ、作動流体のカーボン系材料からなる領域での蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。その結果、上記製造方法により製造された熱輸送装置が、効率良く熱輸送を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の熱輸送装置によれば、作動流体に対するカーボン系材料の親水性を向上させることで作動流体の蒸発、凝縮及び流通を促進させることができる。これにより、熱輸送装置を大型化することなく、熱輸送装置が効率良く熱輸送を行うことができる。また、本発明の熱輸送装置の製造方法によれば、製造が容易で信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図である。
【図2】ヒートスプレッダを示す平面図である。
【図3】図2に示したA−A線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。
【図4】蒸発部を示す斜視図である。
【図5】カーボンナノチューブの撥水性発現を示す模式図である。
【図6】カーボンナノチューブ表面とアルコール水溶液の濡れ角を示す説明図である。
【図7】紫外線処理後のカーボンナノチューブと冷媒との濡れ角を示す表である。
【図8】ヒートスプレッダの動作を説明するための模式図である。
【図9】ヒートスプレッダの製造方法を示すフローチャートである。
【図10】コンテナ内への冷媒の注入方法を順に示した模式図である。
【図11】ヒートパイプを示す断面図である。
【図12】ヒートパイプの動作を説明するための模式図である。
【図13】ヒートスプレッダを備えた電子機器として、デスクトップ型のPCを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態では、熱輸送装置としてヒートスプレッダを一例に挙げて説明する。
【0028】
[ヒートスプレッダの構造]
図1は、本発明の一実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図であり、図2は、このヒートスプレッダを示す平面図である。
【0029】
同図に示すように、ヒートスプレッダ1は、コンテナ2を有する。コンテナ2は、受熱板4と、受熱板4と対向して設けられた放熱板3と、受熱板4と放熱板3とを気密に接合する側壁板5とからなる。
【0030】
放熱板3、受熱板4及び側壁板5は、ろう付け、すなわち溶着により接合されてもよいし、材料によっては接着剤を用いて接合されてもよい。放熱板3、受熱板4及び側壁板5は、例えば金属材料からなる。その金属材料としては、例えば高い熱伝導性を有する銅などが挙げられる。そのほかにも金属材料としては、ステンレスやアルミニウムが挙げられるが、これらに限られない。金属の他に、カーボン等の高熱伝導性の材料でもよい。放熱板3、受熱板4及び側壁板5の全てが異なる材料で構成されていてもよいし、これらのうち2つが同じ材料で構成されていてもよいし、全てが同じ材料で構成されていてもよい。
【0031】
コンテナ2には、図示しない冷媒(作動流体)が封入されている。この冷媒については後で詳細に説明する。
【0032】
図3は、図2に示したA−A線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。
【0033】
受熱板4は、コンテナ2の外壁面に相当する受熱面41と、放熱板3に対向し、受熱面41に表裏対向する蒸発面42(蒸発部)とを有する。
受熱面41には熱源50が熱的に接続されている。熱的に接続とは、直接接続される場合の他に、例えば熱伝導体を介して接続される場合なども含まれる。熱源50としては、例えばCPU(Central Processing Unit)、抵抗、その他の発熱電子部品、ディスプレイ等の電子機器が挙げられる。
蒸発面42には、下地層8を介して蒸発部7が設けられている。蒸発部7は、図示しない液相の冷媒(以下、液冷媒という。)を蒸発させる。
【0034】
コンテナ2の内部空間は、主に流路6を構成する。この流路6は、液冷媒及び気相の冷媒(以下、蒸気冷媒という。)の流路である。すなわち、流路6は、液冷媒を放熱板3側から受熱板4側へと重力により流通させるとともに、蒸気冷媒を受熱板4側から放熱板3側へと流通させる。
【0035】
放熱板3は、コンテナ2の外壁面に相当する放熱面31と、受熱板4に対向し、放熱面31に表裏対向する凝縮面32(凝縮部)とを有する。
凝縮面32は、蒸発部7にて蒸発した蒸気冷媒を凝縮させる。
放熱面31には、ヒートシンク55等の放熱のための部材が熱的に接続されている。ヒートシンク55には、ヒートスプレッダ1から熱が伝達され、この熱がヒートシンク55から放熱される。
【0036】
側壁板5の内面は、液相流路51(流路部)を構成する。この液相流路51は、放熱板3の凝縮面32にて凝縮した液冷媒の流路である。すなわち、液相流路51は、液冷媒を放熱板3側から受熱板4側へと毛細管力と重力とにより流通させる。
【0037】
蒸発部7は、例えば、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びダイヤモンドライクカーボン等のカーボン系材料からなる。本実施形態において、蒸発部7はカーボンナノチューブよりなるものとして説明する。カーボンナノチューブは例えば金属ヒートスプレッダに用いられる典型的な金属材料である銅のおよそ10倍の高熱伝導特性を持つ。
従って、カーボンナノチューブにより蒸発部7を構成することで、主に金属材料から構成されるヒートスプレッダと比較して、極めて高い熱伝達効率が得られる。
また、カーボンナノチューブはナノ構造を有するので、大きな比表面積を有する。このため、蒸発部7と同様のサイズの蒸発部を金属材料で構成する場合と比較して、高い熱伝達効率が得られる。
【0038】
なお、同図では、説明を分かりやすくするため、コンテナ2に対する蒸発部7のスケール比を大きくするなど、実際の形状から変更して描いている。また、図示の例では蒸発部7を受熱面41の一部に設けているが、全面に設けてもよい。
【0039】
下地層8は、蒸発部7を形成するための触媒層であり、例えば金属材料等からなる。その金属材料としては、アルミニウムやチタンが挙げられるが、これらに限られない。また、放熱板3を構成する材料が触媒となり得る場合等には、下地層8は設けなくてもよい。
【0040】
本実施形態のヒートスプレッダ1は平面略正方形状を有する。しかし、これに限定されず、任意の形状でよい。ヒートスプレッダ1の一辺の長さeは、例えば30〜50mm程度である。ヒートスプレッダ1は、例えば側面略長方形状を有する。ヒートスプレッダ1の高さhは、例えば2〜5mm程度である。上述したヒートスプレッダ1のサイズは、ヒートスプレッダ1に熱的に接続される熱源50がPC(Personal Computer)のCPUであることを想定したものである。ヒートスプレッダ1のサイズは熱源50に応じて適宜決めればよい。例えばヒートスプレッダ1に熱的に接続される熱源50が大型ディスプレイ等の大容量熱源である場合、eはさらに大きくする必要があり、例えば2600mm程度とすればよい。ヒートスプレッダ1のサイズは、冷媒が流通して適切に凝縮できるようなコンテナ2内を流通する冷媒の蒸発と凝縮のサイクルが滞りなく繰り返されるような値に設定される。ヒートスプレッダ1の動作温度範囲は、およそ−40℃〜+200℃が想定されている。ヒートスプレッダ1の吸熱密度は、例えば8W/mm以下である。
【0041】
[蒸発部の構造]
図4は、蒸発部7を示す斜視図である。
【0042】
同図に示すように、蒸発部7は例えば平面略円形を有する。蒸発部7は、表面に設けられた蒸発面72と、蒸発面72に表裏対向する受熱面71とを備える。蒸発面72には溝74が設けられる。
【0043】
溝74には、周方向溝75と径方向溝76とがある。周方向溝75は、蒸発面72に設定された中心点からの同心円状に複数、所定の距離を隔てて形成されている。径方向溝76は、蒸発部7に設定された中心点を通過するように放射状に複数形成されている。
【0044】
溝74の形状は上記した例に限定されず、冷媒が溝74の全域に亘って流通できる任意の形状であればよい。例えば、周方向溝75は同心多角形状、同心楕円状及び螺旋状等に形成されてもよい。あるいは、溝74を周方向及び径方向に形成するのではなく、例えば複数の直線状の溝を互いに平行、或いは格子状に形成してもよい。
【0045】
上記した溝74の形状により、液冷媒が蒸発部7の蒸発面72の全域に亘って流通可能となる。従って、毛細管力による液冷媒の流通を効率良く行うことができる。
【0046】
溝74の断面形状としては、例えばV字形、U字形等が挙げられる。中でも、V字形状に溝74を形成することには、以下の利点がある。すなわち、液冷媒が溝74内を流通するとき、メニスカス周辺部の液膜が薄くなる。V字形状の溝74は、例えばU字形断面の溝と比べて、メニスカス周辺部の薄液膜領域を大きく確保することができる。蒸発部7からの熱は、薄液膜領域において、薄液膜領域以外の領域より高い熱伝達率で液冷媒を伝達される。このため液冷媒は、他の領域に比較して薄液膜領域において効率良く蒸発される。従って、薄液膜領域を大きく確保できるV字形状の溝74は、U字形状の溝と比べて熱伝達率が高く、蒸発効率も高い。
【0047】
蒸発部7は平面略円形を有し、受熱板4の蒸発面42の略中央に位置する。蒸発部7の平面形状は任意であり、略楕円形、略多角形などでもよい。蒸発部7の直径は、例えば30mm程度であるが、これに限られない。蒸発部7の厚さは、例えば10〜50μm、より具体的には20μm程度である。蒸発部7のサイズは、熱源50から発せられる熱量に応じて適宜変更可能である。受熱板4の蒸発面42に対する蒸発部7の設置位置も略中央に限定されず、任意の位置でよい。受熱板4の蒸発面42に対する蒸発部7の大きさの比は図示したものに限定されず、任意でよい。なお、同図に示す例では、図を分かりやすくするため、蒸発部7に対する溝74のスケール比を変更するなど、実際の形状から変更して描いている。
【0048】
[冷媒の組成]
次に、ヒートスプレッダ1のコンテナ2に封入される冷媒について説明する。
【0049】
図5は、カーボンナノチューブの撥水性発現を示す模式図である。
【0050】
同図に示すように、蒸発部7を構成するカーボンナノチューブ等のカーボン系材料は、純水に対して安定であるとともに高い熱伝導性を有し、純水に対して超撥水性を有し濡れ角は180°に近い。一方、ヒートスプレッダに用いられる冷媒として、純水を使うことが一般的である。ただし、カーボンナノチューブからなる蒸発部7を有するヒートスプレッダ1に冷媒として純水を使用する場合、上記超撥水性のため、ヒートスプレッダ1の蒸発効率及び凝縮効率が低減するおそれがある。
【0051】
さらに、上記超撥水性のため、蒸発部7に毛細管力がほとんど働かず、冷媒の循環が滞るおそれがある。なお、毛細管力は、下記の式(1)により求められる。
【0052】
ΔP=2δcosθ/r ・・・(1)
【0053】
ここで、ΔPは毛細管力、δは作動液の表面張力、θは接触角(濡れ角)、rは代表長さである。代表長さrは毛細管の管径に相当する。
【0054】
上記式(1)によれば、毛細管力ΔPを向上させるためには、表面張力δを大きく、濡れ角θを小さく、代表長さrを小さくすればよい。
【0055】
そこで、純水にヒドロキシル基(OH基)を有する有機化合物を少量添加したものを冷媒として使用する。これにより、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料に対する冷媒の上記濡れ角θが小さくなり、すなわち親水性を向上させることができ、十分な毛細管力ΔPを得ることができる。
【0056】
具体的には、純水に添加されるヒドロキシル基を有する有機化合物として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、グリセリン等のポリオール類、及びフェノール、アルキルフェノール等のフェノール類などが挙げられる。
【0057】
中でも、上記アルコール類として炭素数が4以上の高級アルコールを用いた場合、温度上昇とともに冷媒の表面張力が向上することが知られている。この現象は、高温部において作動流体の蒸発を補うように作用するため、セルフリウェッティング(Self-rewetting)と呼ばれ、ドライアウトを防ぎ、ヒートスプレッダ1の特性を向上させる。従って、カーボンナノチューブを蒸発部7に用い、さらに上記アルコール類を添加した純水を冷媒として用いることで、濡れ性の向上とセルフリウェッティングとが相乗的に発揮され、高い毛細管力が得られる。
【0058】
[エタノール又はブタノールの純水への添加]
次に、純水に添加されるヒドロキシル基を有する有機化合物の具体例としてエタノール及びブタノールをそれぞれ純水に添加したアルコール水溶液を用いた場合の濡れ角計測実験について説明する。
【0059】
垂直配向カーボンナノチューブアレイ上に冷媒としてのアルコール水溶液を滴下し、このアルコール水溶液とカーボンナノチューブの濡れ角を測定した。アルコールとしては、エタノールとブタノールを用いた。テフロン(登録商標)加工したニードルNの先端にアルコール水溶液を球状に形成し、それをカーボンナノチューブ表面に接触させ、ニードルNを上昇させることで液滴をカーボンナノチューブ表面に残し、その濡れ角を測定した。
【0060】
エタノールの純水に添加量は、10重量%、20重量%、30重量%とした。一方、ブタノールの場合の添加量は、1重量%、2重量%、3重量%、5重量%とした。
【0061】
図6は、カーボンナノチューブ表面とアルコール水溶液との濡れ角を測定した結果を示す図である。
【0062】
同図に示すように、純水にエタノールを10重量%添加したときカーボンナノチューブ表面に液滴を残すことができ、20重量%添加したとき濡れ角が著しく低下した。30重量%添加したとき完全に濡れ広がって濡れ角測定が不可能となり、十分な濡れ性を得ることができた。
【0063】
一方、純水にブタノールを1重量%添加したときカーボンナノチューブ表面に液滴を残すことができ、3重量%添加したとき濡れ角が大きく低下し、5重量%添加したとき完全に濡れ広がった。より詳細には、純水にブタノールを1重量%添加したとき濡れ角θが140.6°となり、2重量%添加したとき濡れ角θが121.6°となり、3重量%添加したとき濡れ角θが21.2°となった。5重量%添加したときは測定不能となり、十分な濡れ性を得ることができた。このように、ブタノールを用いた場合には、エタノールに比較して極めて少量の添加で、カーボンナノチューブに対する濡れ性を大きく改善することができる。
【0064】
毛細管力で作動液を還流させうる最低限の条件は、上記式(1)においてΔP>0が成立すること、すなわちθ≦90°が成立することである。濡れ角θ≦90°を成立させて毛細管力で作動液を還流させうるには、同図に示すグラフから分かるように、ブタノールの含有量は、2重量%より大きくすればよい。より望ましくは、ブタノールの含有量は、2.1重量%以上である。さらに望ましくは、ブタノールの含有量は、3重量%以上である。
また、濡れ角θ≦90°を成立させて毛細管力で作動液を還流させうるには、エタノールの含有量は、およそ15重量%以上とすればよい。
なお、ブタノール又はエタノールの重量%が大きくなると、それに伴う表面張力低下分が増大し、毛細管力に悪影響を及ぼすおそれがある。この点を考慮して、ブタノールの添加量はおよそ10重量%以下とし、エタノールの添加量はおよそ40重量%以下とすればよい。
【0065】
このように冷媒のカーボンナノチューブに対する濡れ角を小さくすることで、上述のように毛細管力を向上させることができるとともに、液冷媒の蒸発効率も上昇させることができる。
【0066】
[蒸発部の表面改質]
純水にブタノール又はエタノールを添加した冷媒を使用するとともに、毛細管力の向上のために蒸発部7に表面改質を行ってもよい。表面改質とは、例えば紫外線処理によるカルボキシル基(COOH)等の親水基の導入である。
【0067】
例えば、紫外線処理は次のように行えばよい。すなわち、波長172nmのエキシマランプ(ランプ管面の光強度は例えば50mW/cm)を、管面から2mm下の位置に垂直配向カーボンナノチューブアレイを配置し、大気雰囲気で蒸発部7の表面に紫外線を照射することで表面改質を行う。照射時間は例えば1分間程度である。このように紫外線処理を行うことで、大気中の酸素が活性酸素やオゾンになり、カーボンナノチューブを酸化する。これにより、親水性を有するカルボキシル基(COOH)等の親水基が蒸発部7の表面に形成される。
【0068】
この表面改質が施されたカーボンナノチューブに、上記ニードルNを用いて、例えば1重量%のブタノール水溶液を滴下し、濡れ角を測定した。
【0069】
図7は、紫外線処理後のカーボンナノチューブと冷媒との濡れ角を示す表である。
【0070】
紫外線処理を施していないカーボンナノチューブに対する1重量%のブタノール水溶液の濡れ角θは、140.6°であるが、紫外線を1分間程度照射するだけで濡れ角を5°未満と著しく小さくすることができ、紫外線処理前に比して良好な毛細管力が得られる。また、冷媒をの組成をこの表に示すように種々に変更した場合であっても、カーボン系材料に紫外線を1分間程度照射するだけで、冷媒の組成に係らず濡れ角を小さくさせ、すなわち親水性を向上させ、良好な毛細管力を得ることが可能となる。
【0071】
なお、本実施形態では純水にブタノール又はエタノールを添加した冷媒を使用したが、冷媒として純水を使用する場合でも、カーボンナノチューブに紫外線処理を行えば、濡れ角を小さくさせ良好な毛細管力を得ることができる。
【0072】
[ヒートスプレッダの動作]
次に、以上のように構成されたヒートスプレッダ1の動作について説明する。
【0073】
図8は、ヒートスプレッダ1の動作を説明するための模式図である。
【0074】
同図に示すように、熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱板4の受熱面41が受ける。そうすると、受熱面41に表裏対向する蒸発面42に設けられた蒸発部7の溝74において毛細管力により液冷媒が流通する(矢印A)。この液冷媒は主に蒸発部7の蒸発面72で蒸発し、蒸気冷媒となる。蒸気冷媒の一部は蒸発部7の溝74内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは放熱板3側に向かうように流路6を流通する(矢印B)。蒸気冷媒が流路6を流通することで熱が拡散し、放熱板3の凝縮面32において蒸気冷媒が凝縮し、液相に戻る(矢印C)。これによりヒートスプレッダ1により拡散させられた熱が、凝縮面32に表裏対向する放熱面31からヒートシンク55に伝達され、ヒートシンク55から放熱される(矢印D)。液冷媒は液相流路51を毛細管力により流通して、あるいは流路6を重力により流通して受熱側に戻る(矢印E)。このような動作が繰り返されることにより、熱源50の熱がヒートスプレッダ1により移動する。
【0075】
矢印A〜Eで示した各動作の領域は、ある程度の目安あるいは基準を示すものである。熱源50の熱量等によりそれらの各動作領域が多少シフトする場合があるので、各動作が領域ごとに明確に分けられるわけではない。
【0076】
[ヒートスプレッダの製造方法]
次に、ヒートスプレッダ1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0077】
図9は、ヒートスプレッダ1の製造方法を示すフローチャートである。
【0078】
受熱板4の蒸発面42に下地層8を形成する(ステップST101)。下地層8はカーボンナノチューブを生成するための触媒層である。
【0079】
次に、下地層8にカーボンナノチューブを密集して生成することで、カーボンナノチューブ層を形成する(ステップST102)。カーボンナノチューブはプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相蒸着)や熱CVDにより触媒層上に生成することができるが、この方法に限られない。蒸発面42には上記紫外線処理による表面改質を施してもよい。放熱板3の凝縮面32にも同様に紫外線処理による表面改質を施してもよい。
【0080】
次に、カーボンナノチューブ層の表面に、加工工具(バイト)でV字形状を有する溝を形成する(ステップST103)。これにより、蒸発面72に溝74を有する蒸発部7が形成される。一般に、ミクロンオーダーの形状を有するカーボンナノチューブを機械加工して微細な構造体を作成することは難しく、通常はエッヂングにより表面加工を行う。それに対し、本発明者の見地によれば、密集して生成しているカーボンナノチューブを1つの材料(カーボンナノチューブ層)とみなし、カーボンナノチューブを少しずつ倒すようにすることで、ミクロンオーダーの形状を形成することができる。この加工方法は、金属等の基材を切削するよりも容易であり、またエッヂングよりも安価にできる上、良好な微細加工性が得られる。バイトは下地層8を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成されてもよい。それにより、加工時に下地層8、受熱板4及びバイト自体を傷つけることがなく、下地層8と溝74の底部77との距離を例えば1μm以上に保つことが可能となる。これにより、傷や剥がれのない蒸発部7を実現することができる。破れた下地層を通って受熱板4と下地層8との間に冷媒が侵入することがないため、下地層8全体が剥離するおそれがない。金型によるプレス成型などで溝74を形成してもよい。この場合も同様の趣旨により、金型が下地層8を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成されてもよい。
【0081】
所望のV字形状の溝が精密加工された型と触媒層としての下地層8を設けた受熱板4の蒸発面42との間に反応気相を流すことで、表面に溝74を有する蒸発部7を形成してもよい。この方法によれば、切削等を行う必要がないため、下地層8及び受熱板4を傷つけるおそれがさらに低減する。なお、この方法は熱CVDに限られる。
【0082】
受熱板4の蒸発面42にV字形状の溝を形成し、受熱板4上に対応するV字形状の溝を有する触媒層としての下地層8を形成し、下地層8上に対応するV字形状の溝を有するカーボンナノチューブ層を形成してもよい。ここでも切削等を行う必要が無いため、下地層8及び受熱板4を傷つけるおそれがさらに低減する。
【0083】
必要に応じて、蒸発部7の蒸発面72に上述の紫外線処理による表面改質を施す(ステップST104)。
【0084】
次に、受熱板4に側壁板5を介して放熱板3を接合し、コンテナ2を形成する(ステップST105)。接合時には、各部材の精密な位置合わせが行われる。
【0085】
次に、コンテナ2内に冷媒を注入し、封止する(ステップST106)。この冷媒は、上述のように純水に所望の量のヒドロキシル基(OH基)を有する有機化合物を添加したものである。
【0086】
図10は、コンテナ2内への冷媒の注入方法を順に示した模式図である。
【0087】
受熱板4は、注入口45及び注入路46を備えている。
【0088】
図10(A)に示すように、例えば注入口45及び注入路46を介して流路6内が減圧され、注入口45及び注入路46を介して図示しないディスペンサにより冷媒が内部流路に注入される。
【0089】
図10(B)に示すように、押圧領域47が押圧されて注入路46が塞がれる(仮封止)。別の注入路46及び注入口45を介して流路6内が減圧され、その流路6内が目標圧になった時点で押圧領域47が押圧されて注入路46が塞がれる(仮封止)。
【0090】
図10(C)に示すように、押圧領域47よりも注入口45に近い側において、注入路46が例えばレーザ溶接により塞がれる(本封止)。これにより、ヒートスプレッダ1の内部が密閉される。このように、コンテナ2内に冷媒を注入し、封止することで、ヒートスプレッダ1が完成する。
【0091】
次に、受熱板4の受熱面41に熱源50を実装する(ステップST107)。熱源50がCPUの場合、この工程は、例えばはんだ付け等のリフロー工程により行われる。
【0092】
リフロー工程と、ヒートスプレッダ1の製造工程とは、別の場所(例えば別の工場など)で行われる場合もある。したがって、リフロー後に作動流体が注入される場合、例えばヒートスプレッダ1を工場間を往復させる必要があり、それによるコスト、作業者の労力、時間、あるいは工場間往復の際に発生するパーティクルの問題等がある。本製造方法によれば、ヒートスプレッダ1が完成された後にリフローすることが可能となり、上記問題を解決することができる。
【0093】
次に、本発明の他の実施形態に係る熱輸送装置を説明する。
【0094】
[凝縮部の他の実施形態]
上記実施形態では、受熱板4の蒸発面42にカーボンナノチューブ等のカーボン系材料からなる蒸発部7を設けた。しかしながら、これに限定されず、放熱板3の凝縮面32の一部又は全面にカーボン系材料からなる凝縮部を設けてもよい。この凝縮部の表面には溝を設けてもよい。カーボン系材料としては、例えばカーボンナノチューブが挙げられる。
【0095】
カーボンナノチューブは高い熱伝導性を有し、表面にナノ構造を有するので、凝縮面32を金属材料等からなる放熱板3だけで構成する場合に比べて、凝縮及び放熱を促進させることができる。また、このナノ構造及び凝縮部に設けられた溝により毛細管力を向上させることができるので、凝縮面における液冷媒の流通、凝縮及び放熱をさらに促進させることができる。
【0096】
凝縮部を形成するカーボンナノチューブは、先端が下方に向かうように生成されればよい。液冷媒は先端が下方に向かうカーボンナノチューブを伝いつつ重力により受熱板4の蒸発面42へと向かう。この構造により、液冷媒の流通を促進させることができるとともに、新たに凝縮層に到達する蒸気冷媒の凝縮の妨げになることもない。これにより、凝縮面32への液冷媒の供給量が減少するおそれが低減し、冷媒の循環に障害をきたすことなく、動作の安定性を実現できる。
【0097】
あるいは、受熱板4の蒸発面42にカーボン系材料からなる蒸発部7を設けず、放熱板3の凝縮面32にのみカーボン系材料からなる凝縮層を設けることも本実施形態の一態様である。
【0098】
[熱輸送装置の他の実施形態]
図11は、本発明の他の実施形態に係る熱輸送装置としてのヒートパイプを示す断面図である。
【0099】
同図に示すように、ヒートパイプ100は、一端部に設けられた受熱側端部400と、受熱側端部400と対向して他端部に設けられた放熱側端部300と、受熱側端部400と放熱側端部300とを連結する壁部500とを有するパイプ型のコンテナ200よりなる。
【0100】
コンテナ200の内部空間は、主に冷媒(作動流体)の流路600を構成する。コンテナ200には、上記純水に所望の量のヒドロキシル基(OH基)を有する有機化合物を添加した冷媒が封入されている。
【0101】
壁部500の内面(流路部)には、受熱側端部400と放熱側端部300とを連結するようにカーボンナノチューブ等のカーボン系材料からなる液相流路510(領域)が設けられる。この液相流路510には、受熱側端部400と放熱側端部300とを連結する方向に長尺状の溝を設けてもよい。
【0102】
受熱側端部400は、コンテナ200の外壁面に相当する受熱面410と、放熱側端部300に対向する蒸発面420(蒸発部)とを有する。蒸発面420には、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料からなり表面に溝を有する蒸発部700(領域)が設けられる。蒸発部700は、蒸発面420の全面に設けてもよく、一部に設けてもよい。
【0103】
放熱側端部300は、コンテナ200の外壁面に相当する放熱面310と、受熱側端部400に対向する凝縮面320(凝縮部)とを有する。凝縮面320には、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料からなり表面に溝を有する凝縮層750(領域)が設けられる。凝縮層750は、凝縮面320の全面に設けてもよく、一部に設けてもよい。
【0104】
液相流路510、蒸発面420、蒸発部700、凝縮面320及び凝縮層750の表面に紫外線処理を行って表面改質をしてもよい。蒸発部700及び凝縮層750は、液相流路510と一体的に設けられてもよいし、断続的に設けられてもよい。液相流路510、蒸発部700及び凝縮層750の全てを設けなくてもよく、これら各部材のうち少なくとも1つのみ設けてもよい。
【0105】
コンテナ200の受熱側端部400の受熱面410には熱源50が熱的に接続され、放熱側端部300の放熱面310にはヒートシンク55が熱的に接続される。
【0106】
図12は、ヒートパイプ100の動作を説明するための模式図である。
【0107】
同図に示すように、熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱側端部400の受熱面410が受ける。そうすると、受熱側端部400の蒸発面420に設けられた蒸発部700の溝において毛細管力により液冷媒が流通する(矢印A1)。この液冷媒は受熱側端部400に設けられた蒸発部700の蒸発面で蒸発し、蒸気冷媒となる。蒸気冷媒の一部は、蒸発部700の溝内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは、わずかな圧力差によって放熱側端部300側に向かうように流路600を流通する(矢印B1)。蒸気冷媒が流路600を流通することで熱が拡散し、放熱側端部300の凝縮面320に設けられた凝縮層750において蒸気冷媒が凝縮し、液相に戻る(矢印C1)。これによりヒートパイプ100により拡散させられた熱が、放熱側端部300の放熱面310からヒートシンク55に伝達され、ヒートシンク55から放熱される(矢印D1)。液冷媒は液相流路510を毛管現象により流通して受熱側端部400に戻る(矢印E1)。このような動作が繰り返されることにより、熱源50の熱がヒートパイプ100により移動する。
【0108】
上記ヒートパイプ100によれば、純水に所望の量のヒドロキシル基(OH基)を有する有機化合物を添加した冷媒カーボン系材料からなり溝が設けられた液相流路510を流通するので、良好な毛細管力を得ることができ、冷媒の還流を促進することができる。
【0109】
[電子機器]
図13は、ヒートスプレッダ1を備えた電子機器として、デスクトップ型のPCを示す斜視図である。
【0110】
PC20の筐体21内には、回路基板22が配置され、例えば回路基板22には熱源としてのCPU23が搭載されている。このCPU23にヒートスプレッダ1が熱的に接続され、ヒートスプレッダ1にはヒートシンクが熱的に接続される。
【0111】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0112】
例えば、受熱板4の一部の領域に蒸発部7を設けたが、これに限定されず、受熱板4の全面に蒸発部7としてカーボン系材料からなる蒸発層を設けてもよい。
【0113】
熱輸送装置としてヒートスプレッダ及びヒートパイプを例に説明したが、これに限定されず、CPL等の熱輸送装置でもよい。
【0114】
ヒートスプレッダ1の平面形状は四角形あるいは正方形とした。しかし、その平面形状は、円形、楕円形、多角形、あるいは他の任意の形状であってもよい。
【0115】
電子機器としてデスクトップ型のPCを例に挙げた。しかし、これに限定されず、電子機器としては、PDA(Personal Digital Assistance)、電子辞書、カメラ、ディスプレイ装置、オーディオ/ビジュアル機器、プロジェクタ、携帯電話、ゲーム機器、カーナビゲーション機器、ロボット機器、レーザ発生装置、その他の電化製品等が挙げられる。
【符号の説明】
【0116】
1…ヒートスプレッダ
2、200…コンテナ
3…放熱板
4…受熱板
5…側壁板
6、600…流路
7、700…蒸発部
50…熱源
51、510…液相流路
55…ヒートシンク
100…ヒートパイプ
300…放熱側端部
400…受熱側端部
500…壁部
750…凝縮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる作動流体と、
前記作動流体を液相から気相に蒸発させる蒸発部と、
前記蒸発部と連通し、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる凝縮部と、
前記凝縮部で液相に凝縮した前記作動流体を前記蒸発部に流通させる流路部と、
前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つに設けられ、カーボン系材料からなる領域と
を具備する熱輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記ヒドロキシル基を有する有機化合物は、アルコール類である
熱輸送装置。
【請求項3】
請求項2に記載の熱輸送装置であって、
前記アルコール類はブタノールであり、前記ブタノールの含有量は、2重量%より大きく10重量%以下である
熱輸送装置。
【請求項4】
請求項3に記載の熱輸送装置であって、
前記カーボン系材料は、カーボンナノチューブである
熱輸送装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱輸送装置であって、
前記領域は、紫外線処理された前記カーボンナノチューブからなる
熱輸送装置。
【請求項6】
請求項5に記載の熱輸送装置であって、
前記領域は、表面に溝を有する
熱輸送装置。
【請求項7】
請求項2に記載の熱輸送装置であって、
前記アルコール類はエタノールであり、前記エタノールの含有量は、15重量%以上40重量%以下である
熱輸送装置。
【請求項8】
熱源と、
熱輸送装置とを具備し、
前記熱輸送装置は、
純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる作動流体と、
前記作動流体を液相から気相に蒸発させる蒸発部と、
前記蒸発部と連通し、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる凝縮部と、
前記凝縮部で液相に凝縮した前記作動流体を前記蒸発部に流通させる流路部と、
前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つに設けられ、カーボン系材料からなる領域とを有する
電子機器。
【請求項9】
作動流体を液相から気相に蒸発させる蒸発部、前記作動流体を気相から液相に凝縮させる凝縮部、及び液相の前記作動流体を前記蒸発部に流通させるための流路部を有する熱輸送装置の製造方法であって、
第1の基材にカーボン系材料からなる領域を形成して、前記蒸発部、前記凝縮部及び前記流路部の少なくとも一つを構成する第2の基材を作製し、
少なくとも前記第2の基材を用いてコンテナを形成し、
前記コンテナ内に、純水にヒドロキシル基を有する有機化合物を添加してなる作動流体を封入する
熱輸送装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の熱輸送装置の製造方法であって、さらに、
前記カーボン系材料がカーボンナノチューブであり、このカーボンナノチューブを紫外線処理する
熱輸送装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−243036(P2010−243036A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91216(P2009−91216)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】