説明

熱電変換素子及びその製造方法

【課題】熱伝導率を十分に低減させ、特性を大きく向上させた熱電変換素子を提供する。
【解決手段】熱電変換材料の焼結体からなる熱電変換素子において、平均径1〜100nmの細孔を設け、この細孔の体積分率を5〜30%とする。この熱電変換素子は、熱電変換材料を構成する元素の塩の溶液を混合し、還元剤を添加して前記熱電変換材料を構成する元素の粒子を析出させ、水熱合成によって熱電変換材料粒子を形成し、次いでこの熱電変換材料粒子を焼結する工程により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる材料であり、熱電冷却素子や熱電発電素子として利用される熱電素子を構成する材料である。この熱電変換材料はゼーベック効果を利用して熱電変換を行うものであるが、その熱電変換性能は、性能指数と呼ばれる下式で表される。
Z=α2(σ/κ)
(上式中、Zは性能指数を、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、そしてκは熱伝導率を示す)
【0003】
従って、熱電変換材料の熱電変換性能を高めるためには、ゼーベック係数を高くし、電気伝導率を高くし、熱伝導率を低くすればよいことがわかる。しかしながら、ゼーベック係数と電気伝導率の間には背反関係があり、電気伝導率と熱伝導率の間にも背反関係があり、これらを同時に向上させることはできない。すなわち、上記式において分子を大きくすると分母も大きくなり、分母を小さくすると分子も小さくなり、性能指数Zを向上することができない。
【0004】
このような熱電変換材料からなる熱電変換素子において特性を向上させるため、素子内に平均径1〜5μmの気孔を分布させて熱伝導率を低減させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−223013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、平均径1〜5μmの気孔を分布させたのみでは熱伝導率の低減効果が十分ではなく、熱電変換材料として十分な特性向上が得られない。
【0007】
本発明は、このような問題を解消し、熱伝導率を十分に低減させ、特性を大きく向上させた熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために本発明によれば、熱電変換材料の焼結体からなり、平均径1〜100nmの細孔を有し、この細孔の体積分率が5〜30%である熱電変換素子が提供される。
【0009】
上記問題点を解決するために2番目の発明によれば、熱電変換材料を構成する元素の塩の溶液を混合し、還元剤を添加して前記熱電変換材料を構成する元素の粒子を析出させ、水熱合成によって熱電変換材料粒子を形成し、次いでこの熱電変換材料粒子を焼結する工程を含む、上記熱電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平均径1〜100nmの細孔を分布させ、さらにこの細孔の体積分率を5〜30%とすることにより、熱伝導率が大きく低減し、熱電変換素子としての特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記のように、本発明の熱電変換素子は、熱電変換材料の焼結体からなり、平均径1〜100nmの細孔を有し、この細孔の体積分率が5〜30%であることを特徴とする。熱電変換材料としては従来より用いられている各種の材料、例えばCoSb3系、BaGaGe系、Bi2Te3系、PbTe系、SiGe系、ZnSb系、FeSi系、MgSi系、MnSi系等を用いることができ、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)等のうち少なくとも2種からなるものが好ましい。これらのうち、特にCoSb3系又はBi2Te3系熱電変換材料が好ましい。これらの材料は室温付近でのゼーベック係数が高いため、性能指数Zを向上させることができる。
【0012】
本発明の熱電変換素子においては、平均径1〜100nmの細孔を有することが必要であり、特にこの細孔の平均径は10〜20nmであることが好ましい。細孔の平均径が100nmより大きいと熱伝導率の低減効果が十分ではなく、1nmより小さいと電気伝導率まで急激に低下してしまう。この細孔は素子内に均一に分布していることが好ましい。
【0013】
また本発明の熱電変換素子においては、上記細孔の素子に占める体積分率が5〜30%であることが必要である。30%を超えると機械強度が著しく低下し、5%より少ないと十分な熱伝導率低減効果が得られない。
【0014】
本発明の熱電変換素子の製造方法においては、まず材料として熱電変換材料を構成する元素(例えばBi、Te、Co、Sb)の塩(例えばCoCl2、SbCl3)を溶媒に溶解し、得られた溶液を混合する。溶媒としては、材料の塩を溶解できるものであればよく、例えばアルコール、アセトン等を用いることができる。
【0015】
次いでこの混合溶液に還元剤を添加し、例えばCoやSbのイオンを還元してCoやSbの粒子を析出させる。
【0016】
還元剤としてはイオンを還元できるものであればよく、例えば水素化硼素ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。
【0017】
こうして熱電変換材料を構成する元素の塩の均一混合溶液中において、還元剤を添加して前記熱電変換材料を構成する元素のイオンを還元することにより、これらの元素のナノ粒子を得ることができる。このナノ粒子の粒径は1〜20nmであることが好ましい。この還元析出によって、例えばCoとSbの混合粒子が得られるが、この際、この混合粒子はナノスケール(φ=5〜20nm)のポアを形成した状態で凝集する。
【0018】
次いで水熱合成を実施することにより、例えばCo粒子とSb粒子からCoSb3の熱電変換材料の粒子を形成する。水熱合成の条件は、200℃、24時間が好ましく、このような水熱合成によって、混合粒子間のナノスケールのポアを有したまま熱電変換材料の粒子が形成されることになる。こうして得られた材料を、例えば580℃においてSPS焼結することにより、本発明の熱電変換素子が得られる。
【0019】
上記の方法において、1〜20nmのナノ粒子を凝集させることにより得られる熱電変換素子中の細孔の平均径を1〜100nmに制御することができ、またpH調整等の凝集のさせ方を変更することにより、細孔の体積分率を5〜30%に制御することができる。
【実施例】
【0020】
実施例
0.1gのCoCl2・6H2Oと0.29gのSbCl3を100mLのエタノールに加え、攪拌して溶解させた。この溶液に0.36gのNaBH4を加え、常温において還元反応を行い、Coナノ粒子とSbナノ粒子を含むスラリーを形成した。このスラリーを200℃において24時間水熱合成を行い、CoSb3ナノ粒子を得た。粒子を回収後、650℃にてSPS焼結を行い、熱電変換素子を得た。得られた素子についてアルキメデス法により密度を測定したところ、空孔率は20%及び30%であった。また細孔の平均径は20nmであった。
【0021】
得られた熱電変換素子について電気伝導率及び熱伝導率を測定し、性能指数をもとめた。また細孔を有さないCoSb3についても文献値の電気伝導率及び熱伝導率から性能指数をもとめた。結果を以下の表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
また、空孔率を20%と一定にし、細孔径を変えた熱電変換素子の熱伝導率を計算し、その関係を図1に示す。さらに、細孔径を20nmと一定にし、空孔率を変えた熱電変換素子の性能指数を計算でもとめ、その関係を図2に示す。
【0024】
上記の結果から明らかなように、平均径1〜100nmの細孔を空孔率5〜30%で設けることにより熱電特性を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】細孔径と熱伝導率の関係を示すグラフである。
【図2】空孔率と性能指数の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料の焼結体からなり、平均径1〜100nmの細孔を有し、この細孔の体積分率が5〜30%である熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱電変換材料がCoSb3系又はBi2Te3系である、請求項1記載の熱電変換素子。
【請求項3】
熱電変換材料を構成する元素の塩の溶液を混合し、還元剤を添加して前記熱電変換材料を構成する元素の粒子を析出させ、水熱合成によって熱電変換材料粒子を形成し、次いでこの熱電変換材料粒子を焼結する工程を含む、請求項1記載の熱電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−108876(P2008−108876A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289718(P2006−289718)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】