熱電材料及びその製造方法
【課題】高い性能指数を有するMnSiy(1.7≦y≦1.8)系のP型熱電材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この熱電材料の製造方法は、原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、原料を溶融することにより溶融物とする工程と、該溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程とを含む。
【解決手段】この熱電材料の製造方法は、原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、原料を溶融することにより溶融物とする工程と、該溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果を含む熱電性能を有する熱電材料及びその製造方法に関する。特に、本発明は、正孔(ホール)をキャリアとする半導体であるP型熱電材料及びその造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する熱電モジュールは、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果等と呼ばれる熱電効果を利用した2種類の熱電素子を組み合わせて構成され、熱電対や電子冷却素子等もこれに該当する。熱電材料として半導体が用いられる場合には、P型半導体とN型半導体とが組み合わされる。
【0003】
一般に、熱電材料の性能は、次式(1)によって表される性能指数Zにより特徴付けられる。
Z=α2σ/κ (1)
ここで、αはゼーベック定数、σは電気伝導度、κは熱伝導度である。
式(1)に示すように、ゼーベック定数α及び電気伝導度σが大きいほど、また、熱伝導度κが小さいほど、熱電材料の性能指数は高くなる。そのため、一般的に、熱電材料としては、半導体材料が適している。
【0004】
多くの場合に、熱電材料は、母材となる半導体材料に適切な不純物を添加して、上記ゼーベック定数等の熱電特性を最適化することにより作製される。これらの熱電特性はキャリア濃度と密接に関係しており、また、母材のエネルギーギャップは、環境温度と共に、キャリア濃度を決定する一要因となっている。
【0005】
通常、性能指数Zの温度特性は極大値を有するが、この極大値を与える温度領域は、母材のエネルギーギャップに大きく依存している。即ち、母材毎に、最適な温度領域が存在する。例えば、P型熱電材料として用いられるマンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)は、エネルギーギャップ0.67eVを有し、中温度域(300℃〜550℃程度)において高い性能を有している。
【0006】
図19は、Mn−Siの2元系状態図であり、図20は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)の結晶化が進む過程を示す模式図である。ここで、図19に示す記号(a)〜(d)は、図20に示す結晶化過程(a)〜(d)に対応している。
MnSiy(1.7≦y≦1.8)結晶は、図20の(a)に示す化学量論的組成(ストイキオメトリ)を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)を含有するメルトを、図20の(b)〜(d)に示すように冷却速度を制御しながら冷却して結晶化させることにより作製される。ところが、MnSiy(1.7≦y≦1.8)の結晶化は、図20の(c)に示すように、包晶反応を起こしながら促進されるので、図20の(d)に示すように、MnSiy(1.7≦y≦1.8)内に層状のMnSiが析出してしまう。例えば、非特許文献1には、成長した結晶中のMnSiの縞は、母相のc軸に平行に分布する板状析出物であることが報告されている。また、そのような板状析出物の間隔Dと幅Wとのの比であるW/Dは0.02〜0.03程度であり、平均が0.02であることが報告されている。さらに、MnSiは、板状析出物として結晶中に存在しているので、この比W/Dは、結晶中のMnSiとMn15Si26との体積比にほぼ等しい(第36〜38頁)。一方、そのようなMn15Si26の所定の結晶方向においては、金属的なMnSiの影響のために、熱電材料の性能指数Zの最大値がZ=3×10−4K−1〜4×10−4K−1に留まることも報告されている(第69頁)。
【0007】
また、非特許文献2にも、MnSi1.73内に析出する層状のMnSiの面積分率は、顕微鏡観察によれば2vol.%〜3vol.%であることが報告されている。
【0008】
このような層状のMnSiは、結晶の作製条件に依存して、約10vol.%に上る場合もある。例えば、非特許文献3には、そのような場合における条件及び分析結果が報告されている(第92〜93頁、表1)。
【0009】
ここで、マンガンモノシリサイドMnSiは金属的な特性を持つP型良導体であり熱電材料には適していない。そのため、MnSiが析出しているMnSiy(1.7<y<1.8)は性能指数Zが低下することが予想される。例えば、上記非特許文献2には、MnSiの面積分率は2vol.%〜3vol.%の場合における性能指数として、Z=3×10−4K−1〜4×10−4K−1という値が報告されている。
【0010】
しかし、他方では、熱電材料に人工的に微細な第二相を混入させることにより粒界を生じさせ、それによって電気伝導度σを低下させることなく熱伝導度κのみを低下させるというアイデアが提案されている。例えば、特許文献1には、熱電材料の電気抵抗率ρやゼーベック係数αの劣化による性能指数Zの低下量よりも熱伝導率κの低減による性能指数Zの増加量を大きくすることにより性能指数Zの向上を図るために、熱電材料の出発原料を超微粒子とし、それに母材と反応しない超微粒子を均一に分布する状態に添加して焼結して超微粒子の結晶粒を生じさせることにより成る熱電材料が開示されている。また、特許文献2には、(A)ケイ素−ゲルマニウム合金相と(B)ζβ−鉄シリサイド相とからなり、(A)相の割合が35〜70モル%であり、(A)相又は(B)相からなる分散相の平均領域径が1μm以下である複合焼結体が開示されている。さらに、特許文献3には、熱電変換効率が高く、密度が小さく、高温で熱伝導率が増加しにくい熱電材料として、シリコン(Si)とシリコンカーバイド(SiC)とによって構成される複合体の焼結熱発電材料であって、シリコンの平均粒径が10μm以下であり、シリコンカーバイドの平均粒径が1μm以下である熱発電材料が開示されている。
【0011】
このように、母材(MnSiy(1.7≦y≦1.8))よりも熱電特性が劣る第二相(MnSi)が存在する場合に、第ニ相のサイズや組織構造や、熱電特性値(母材との差)に応じて全体の特性が異なってくるため、第二層の有効性については不明であった。
【0012】
ところで、非特許文献4には、化学輸送成長法により、MnSiが内在しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)を合成することが報告されている。しかし、この方法の欠点は、成長速度が遅い(0.01mg/h〜5mg/h程度)ことであり、工業的視点に立って適用可能な量を量産することは極めて困難である。
【0013】
また、特許文献4には、合成されたMnSi1.7焼結体について粉末X線回折により分析を行い、母相であるMnSi1.7のピークスケールに対しMnSiのピークが観察されないことから、第二相が存在しない単相組織を焼結により合成できることを主張している。
さらに、上記特許文献4には、偏析が少なく、結晶粒が微細であり、且つ、不純物が混入していないMnSi1.7系熱電材料を短時間で安価に製造するために、原材料を溶融する溶融工程と、該溶融工程によって溶融された原材料を滴下して滴下中の原材料に噴霧気体を吹き付けて急冷却すると共に粉末化してMnSi1.7系熱電材料とする冷却・粉末化工程と、該冷却・粉末化工程において得られた粉末状のMnSi1.7系熱電材料を加圧、焼結、又は、加圧焼結により、所望形状に成形する成形工程とを含むMnSi1.7系熱電材料の製造方法が開示されている。
【0014】
しかし、このような方法によって製造されるのは、焼結体(多結晶体)に限定される。そして、MnSiy(1.7≦y≦1.8)は正方晶構造をとるため、性能指数は大きな異方性を有することが知られている。従って、このような異方性の大きな材料を焼結した場合には、各結晶粒の方向がランダムになるので、焼結体全体としては、平均化された性能指数になってしまうという欠点がある。
【0015】
それに対し、本願発明者らは、MnSi−MnSiy(1.7≦y≦1.8)複合材料の熱電特性のシミュレーションを行うことにより、次の2点を見出した。即ち、第1に、MnSiy(1.7≦y≦1.8)のc軸方向については、キャリア濃度向上による出力因子(α2σ)向上の効果はあるが、熱伝導度κを低下させる効果を有しない限り性能指数Zは単調に低下する。第2に、MnSiy(1.7≦y≦1.8)のc軸に垂直な方向に対しては、出力因子(α2σ)向上すら見られないので、熱伝導度κを低下させる効果を有しない限り性能指数Zは単調に低下する(非特許文献5)。
【特許文献1】特開平10−242535号公報
【特許文献2】特開平9−100166号公報
【特許文献3】特開平7−38156号公報
【特許文献4】特開2002−332508号公報
【非特許文献1】川澄、「Mn15Si26近傍組織合金の結晶解析と熱電特性に関する研究」、慶應義塾大学工学部昭和54年度学位論文、p.36−38、p.69
【非特許文献2】川澄、他、「マンガン・シリサイドMnSi〜1.73の結晶成長、及び、Mn15Si26の半導体特性(Crystal growth of manganese silicide, MnSi〜1.73 and semiconducting properties of Mn15Si26)」、ジャーナル・オブ・マテリアル・サイエンス(JOURNAL OF MATERIAL SCIENCE)16、1981年、p.355−366
【非特許文献3】ソロムキン(Solomkin)等、「p型高マンガン・シリサイドにおけるGeドーピングの効果(The effect of Ge doping on p-type Higher Mnganese Silicide (HMS))」、第21回熱電国際会議(International Conference on Thermoelectronics)会報、2002年、p.90−93
【非特許文献4】小島、他、「化学輸送法によるMnSi1.73の結晶成長(Crystal Growth of MnSi1.73 by Chemical Transport Metod)」、日本応用物理学会論文誌(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS)、1975年、第14巻、第1号、p.141−142)
【非特許文献5】青山、他、「高マンガン・シリサイド(HMS)におけるモノシリサイドの微細構造(Microstructure of monosilicide (MnSi) in Higher Manganese Silicides (HMS))」、第1回マイクロ&ナノテクノロジー国際シンポジウム会報(2004年、米国ハワイ州ホノルル)、p.82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、高い性能指数を有するMnSiy(1.7≦y≦1.8)系の熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出されないか、又は、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出された場合に、該ピークの最高値が、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満である。
【0018】
また、本発明の第2の観点に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察されないか、又は、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察された場合に、該領域の面積占有率が、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満である。
【0019】
さらに、本発明の1つの観点に係る熱電材料の製造方法は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、上記ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、原料を溶融することにより溶融物とする工程と、該溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程とを具備する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶に添加される不純物の量を制御すると共に、所定の範囲の冷却速度で溶融物を結晶化するので、結晶中のマンガンモノシリサイドMnSiの含有量を極めて低く抑えることができる。従って、単結晶をP型熱電材料として利用することにより、高い性能指数を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
本発明の第1の実施形態に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材とするMnSiy系単結晶であって、p型良導体であるマンガンモノシリサイドMnSiをほとんど含有しないことを特徴とする。ここで、MnSiをほとんど含有しないとは、所定の検査によってMnSiが検出されないことを言う。例えば、後で詳しく説明するように、X線回折による分析の結果、MnSiの(2 1 0)のピークが検出されないか、又は、検出されたピークの値がノイズレベルの10%未満である場合や、顕微鏡観察によってMnSiが観察されないか、又は、観察されたMnSiの面積占有率がMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満の場合を言う。
【0022】
本願発明者らは、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶の作製条件を実験的に見出し、MnSiの存在と熱電特性の相関を精査した。そして、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶が、最も高い性能指数Zを有することを突き止めた。即ち、他の要因(例えば、母材以外の元素のドーピング)によりキャリア濃度向上による出力因子(α2σ)の向上を果たすことさえできれば、元来、熱電材料には不適なMnSiを含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)が、理想的な熱電材料となることを解明した。
【0023】
本発明の第1の実施形態に係る熱電材料の製造方法について説明する。
まず、原料として、母材であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)の化学量論的組成を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)と、母材に添加されるゲルマニウム(Ge)と、不純物とを用意する。この内のゲルマニウムについては、4族元素であるシリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量が用意される。そして、これらの原料をよく混合する。その際には、それらの原料を一旦溶融させた後に冷却することにより合金を作製し、それを粉砕しても良い。さらに、混合された原料を溶融することにより、メルト(溶融物)を作製し、このメルトを、0℃/分より大きく、且つ、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる。結晶成長させる方法としては、ブリッジマン法等の公知の方法を用いることができる。
【0024】
実施例として、本実施形態に係る熱電材料の製造方法を用いて、Mn(Si1−xGex)1.7を基本組成とする300gの熱電材料を作製した。
まず、原料として、マンガン(純度3Nup)を156.4546g、シリコン(純度5N)を136.3603g、及び、ゲルマニウム(純度4N)を7.1851g秤量して混合した。そして、それを坩堝に入れて、アルゴン雰囲気中において高周波加熱溶解し、さらに、冷却することにより、合金を作製した。
【0025】
次に、この合金を粉砕し、それを先端にMnSi1.7シード結晶を仕込んだ石英管(φ32mm×L200mm)に入れ、アルゴン雰囲気のブリッジマン炉において、MnSi1.7単結晶育成を行った。シード結晶としては、予め、無シードでブリッジマン成長させたMnSi1.7単結晶を、X線極点解析により結晶方位を出して切り出したものを用いた。また、標準的に、合金を溶融する際の溶融温度を1250℃、固液界面近傍の温度勾配を3℃/mm、成長速度を0.5mm/min(即ち、メルト(溶融液)の冷却速度1.5℃/min)とした。さらに、ブリッジマン炉内の温度勾配を参考にして、L20mmのシードの中央付近に固液界面が来るように、石英管先端の成長開始位置を調整した。即ち、シード下端からの距離が10mmの位置において1428K(1155℃)となるように位置を調整することにより、シードの下半分が固体状態で、上半分が溶融状態となるようにして、シードの下半分の結晶方位を受け継ぐように結晶成長を行った。本実施例においては、石英管の口径をφ32まで大口径化することにより、約60g/hの結晶成長速度を実現した。なお、この成長速度は、小島らによって報告された結晶成長速度(0.01mg/h〜5mg/h)の約10,000倍に相当する。
図1は、このようにして作製されたMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットの写真を示している。
【0026】
ここで、フジノ、他、「MnSi−Siの部分システムの相図(Phase Diagram of the Partial System of MnSi - Si)」(日本応用物理学会論文誌(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS)、第3巻、第8号(1964年8月)、p.431−435)や、川澄、他、「MnSi2−x結晶の光回折(On The Striations in MnSi2-x Crystals)」(日本応用物理学会論文誌、第15巻(1976年)、第7号、p.1405−1406)は、結晶が層状のMnSiを含んでいる場合においても、対象的なラウエパターンが観察される場合には、そのような結晶のことを単結晶として報告している。本願においても、同様のラウエパターンが観察される場合には、単結晶であるものとする。
【0027】
図2及び図3は、所定の量のゲルマニウムを添加することにより、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を作製できることを示す図である。比較例としては、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.3at.%)を、実施例と同様の方法によって作製した。
【0028】
図2は、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットの光学顕微鏡による組織観察写真を示している。これらの写真は、実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットの研磨面に対して、フッ硝酸によるケミカルエッチングを行うことにより、MnSiy結晶中に析出したMnSiを表出させたものを表している。ここで、MnSiは、MnSiy(1.7≦y≦1.8)よりも腐食され易いので、黒い線又は点状の黒い影(エッチング痕)として観察される。図2に示すように、ゲルマニウム添加量(x)を増加させるに従って、MnSi層の間隔が狭まると共に、次第に分散するようになっている。例えば、x=0の場合にMnSi層間隔は約20μmであったのに対して、母材以外の元素であるゲルマニウムを添加することにより(例えば、x=0.00027)、MnSi層間隔は狭くなり(約5.9μm)、ゲルマニウム添加量を増加させることにより(例えば、x=0.00106)、MnSi層間隔はさらに狭くなっている(約1.7μm)。また、それに伴い、MnSiは、線状から点状へと変化している。そして、ゲルマニウム添加量をx=0.5at.%まで増加させた場合には、MnSiは観察されなくなる。
【0029】
図3は、実施例及び比較例において作製されたMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶試料について、粉末X線回折を行った結果を示している。図3においては、MnSiy(1.7≦y≦1.8)をMn15Si26と仮定している。また、各グラフは、Mn15Si26の(1 0 15)ピークの強度によって規格化されることにより、相対強度を表している。図3に示すように、MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピーク(2θ=44.4°)は、ゲルマニウムの添加量(x)の増加に伴って一旦増加するが、その後に減少する。そして、ゲルマニウムの添加量をx=0.3at.%程度まで増加させることにより、MnSiの(2 1 0)ピークは、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満に留まるようになる。さらに、ゲルマニウムの添加量をx=1at.%程度に増加させることにより、MnSiピークは検出されなくなる。即ち、MnSiがほぼ消滅したことを示している。
【0030】
これらの分析結果より、MnSiy(1.7≦y≦1.8)にゲルマニウムを添加することにより、MnSiy中に析出しようとするMnSiが分散させられ、ゲルマニウムの添加量がある臨界値を超えたところで、MnSiの成長とMnSiy(1.7≦y≦1.8)の成長とが競合し、MnSiを消滅させる効果が生じることが裏付けられる。
【0031】
図4は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピークの相対強度と性能指数Zとの関係を示している。なお、図4においては、MnSi1.7をMn15Si26と仮定している。図4より明らかなように、MnSiの(2 1 0)ピーク強度が低下するに従って(即ち、MnSiが減少するに従って)、性能指数Zは増加している。即ち、ゲルマニウムの添加量を制御することにより、P型熱電材料として優れた特性を有するMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を作製することができる。
【0032】
次に、Ge添加MnSi1.7の結晶性とMnSiの微細組織について説明する。
実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットを結晶成長方向に対して垂直に切り出すことにより試料を作製して、X線極点解析を行った。図5は、Ge添加MnSi1.7をMn15Si26と仮定した場合に、(1 0 15)ピークの室温におけるロッキングカーブの半値幅(FWHM)を示している。図5に示すように、ゲルマニウムの添加量xの増加に伴ってFWHMが減少してくることにより、MnSi1.7の結晶性が向上することが確認された。言い換えれば、MnSiが分散・減少することにより、MnSi1.7の結晶性が向上する。
【0033】
また、先に図2を参照しながら説明したように、MnSi層の間隔は、ゲルマニウム添加量の増加に伴って狭くなっており、x=0.00133において、MnSi層の間隔は最も狭くなる。さらに、x=0.00265において、MnSi層は途切れ始め、x=0.00530においては遂にMnSiは観察されなくなっている。図6は、図2に示すGe添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層の間隔のゲルマニウム添加量依存性を示している。図6の破線に示すように、ゲルマニウムの添加量xとMnSi層の間隔Wとの間には、W=20.2−18.71{1−exp(−2952.4x)}の関係があると推定される。
【0034】
さらに、図2に示すケミカルエッチングにより表出したGe添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層を拡大して観察した。図7には、x=0.00027、x=0.00053、及び、x=0.00265の場合における観察写真が示されている。図7に示すように、MnSi層の厚さは、組成(ゲルマニウムの添加量)に依らず、0.2μm〜0.3μmの範囲に収まっている。従って、MnSi層の数の増加は、MnSiの体積の増加に対応しているといえる。反対に、MnSi層の途切れは、MnSiの体積の減少に対応していると考えられる。このような対応関係を考慮すると、図3に示す分析結果は、図2におけるMnSi組織観察の結果と良い一致を示す。それにより、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織は、ゲルマニウム添加量に依存して核生成及び分散を生じ、その結果、MnSiとMnSi1.7の競合的な成長に支配されることが確認された。
【0035】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と電気特性との関係について説明する。ここでは、比較例として、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.03)と共に、アルミニウム(Al)の添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.03)を実施例と同様の方法によって作製し、それらを分析した。
【0036】
図8は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における電気伝導度σ、ゼーベック定数α、及び、出力因子α2σの組成依存性、即ち、ゲルマニウム又はアルミニウムの添加量xに対する依存性を比較して示している。図8に示すように、ゲルマニウム添加量xに対する電気伝導度σ及びゼーベック定数αの傾きは、x=0.00133とx=0.00265との間において劇的な変化を示している。即ち、Ge添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σは、x≦0.00133の範囲において、Al添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σの約2倍の傾きで増加(或いは、ゼーベック定数αが減少)しているが、xが0.00133より大きくなると、緩やかな減少に転じている。
【0037】
アルミニウムを添加する場合と、ゲルマニウムを添加する場合とにおいて、このような特性の違いが現れるのは、次のようなメカニズムによるものと考えられる。即ち、Al添加MnSi1.7単結晶における電気伝導度σに対するアルミニウム添加の効果は、価数制御則に基づいてアルミニウムが完全にイオン化することにより、Al3+がp型ドーパントとして働くものと解釈される。一方、Ge添加MnSi1.7単結晶については、x≦0.00133の範囲において、添加量xの増加に伴ってMnSi層が増加するため(図2及び図3参照)、電気伝導度σは増加する。或いは、ゼーベック定数αは減少する。そして、x>0.00133の範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σが緩やかに減少するのは(又は、ゼーベック定数αが増加するのは)、MnSiの消滅に関連しているものと考えられる。また、Al添加MnSi1.7単結晶の出力因子α2σはx=0.0035において最大値を示しているが、Ge添加MnSi1.7単結晶は、x=0.00974において最大値に到達している。
【0038】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と電気特性との関係について説明する。
図9は、Ge添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における正孔密度及びモビリティ(移動度)の組成依存性(ゲルマニウム添加量依存性)を示している。この正孔密度は、室温におけるホール測定によって決定されたものである。
【0039】
図9に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶の正孔密度(濃度)は、極大値を有している。このような結果は、MnSi層の存在と関連して現れたものと考えられる。即ち、先に図7を参照しながら説明したように、MnSi層は殆ど同じ厚さを有しているので、0.00027≦x≦0.00265の範囲においてMnSi層数が増加することは(図2参照)、MnSi1.7全体における正孔濃度の増加に対応する。反対に、0.00265<xの範囲においてMnSi層が途切れるようになることは(図2参照)、MnSi1.7全体における正孔濃度の減少に対応する。
【0040】
一方、図9に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶のモビリティは、x=0.00133において最小値をとっている。MnSi自体、或いは、MnSi1.7とMnSiとの界面がキャリアに対する散乱源になることが、モビリティを低下させる要因になっていると考えられる。しかしながら、0.00265<xの範囲においては、MnSi層が途切れて消滅するのに加えて、図5に示すように、MnSi1.7単結晶の結晶性が向上することにより、モビリティは回復を見せる。
【0041】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と熱伝導度の関係について説明する。
Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度における電子による寄与を、ウィーデマンフランツ則を用いることにより、図8に示す電気伝導度σを用いて算出した。格子熱伝導度κphは、トータルの熱伝導度κからキャリアによる要素κeを引くことにより得られた。ここで、要素κeは、κe=2.45×10−8×σ×Tによって表される。なお、Tは絶対温度である。
【0042】
図10は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphの組成依存性、即ち、母材以外の元素の添加量xに対する依存性を比較して示している。図10に示すように、Al添加MnSi1.7単結晶及びGe添加MnSi1.7単結晶において、格子熱伝導度κphはキャリアによる要素κeよりも大きい。また、Al添加MnSi1.7単結晶において、熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphの両方は、アルミニウム不純物によるフォノン散乱により、アルミニウム添加量の増加に対して単調に減少している。それに対して、Ge添加MnSi1.7単結晶において、熱伝導度κは、x=0.00053近傍で最大値をとっている。ここで、xが比較的小さい範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphが増加するのは、高い格子熱伝導度を有するMnSiが増加するためと考えられる。反対に、xが比較的大きい範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphが減少するのは、ゲルマニウムによるフォノン散乱が増加するためと考えられる。
【0043】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶における性能指数の組成依存性について説明する。
図11は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における性能指数Zの組成依存性、即ち、母材以外の元素の添加量xに対する依存性を比較して示している。これらの性能指数Zは、図8に示す出力因子α2σと図10に示す熱伝導度κとを用いて算出されたものである。
【0044】
図11に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶のZ値は、ゲルマニウム添加量xの増加に伴って増加している。それに対して、Al添加MnSi1.7単結晶のZ値は、x=0.0035近傍で最大値を取っている。アルミニウムを添加した試料における性能指数Zの最大値は、図8における出力因子α2σの最大値を反映しているものと考えられる。一方、Ge添加MnSi1.7単結晶におけるゲルマニウム添加の効果は、MnSiの分散及び消滅と、MnSi1.7単結晶の結晶性向上によるモビリティの増加であると考えられる。
【0045】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材としてキャリアドーピングされたMnSiy系熱電材料であって、熱電材料には不適なMnSiをほとんど含有していないため(例えば、面積分率1%未満)、極めて高い熱電特性を示す(例えば、性能指数Z=7×10−4/k)。従って、このような熱電材料を用いることにより、セグメント型熱電素子や、熱電変換効率の高い熱電モジュール(例えば、変換効率7%)を作製することができる。
【0046】
熱電モジュールを作製する場合に用いられるN型熱電材料としては、本実施形態に係る熱電材料MnSiy(1.7≦y≦1.8)と同程度の温度領域において高い熱電性能を発揮する材料であれば、いずれも適用することができる。
【0047】
以下において、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールについて説明する。
図12は、熱電モジュール(シリサイド・モジュール)の1つの作製例の外観を示している。この熱電モジュールは、次のように作製される。
まず、P型熱電材料として、ゲルマニウムが1at.%添加され、冷却速度を1.5℃/分として結晶成長させることによって作製された、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を用意する。
また、N型熱電材料として、例えば、Mg2Si0.4Sn0.6を用意する。
【0048】
次に、これらのP型及びN型熱電材料の各々を直方体形に切り出すことにより、P型素子及びN型素子を作製する。そして、図13に示すように、P型素子1とN型素子2とを橋渡しするように、電極3〜5を、P型素子1及びN型素子2の上面及び下面に交互に形成する。電極3〜5は、例えば、アルミニウム(Al)を溶射することによって形成される。これらのP型素子1、N型素子2、及び、電極3〜5が、熱電モジュールの基本構造(π組)となる。このような複数のπ組構造を直列に接続すると共に、素子の上面及び下面に形成された電極の外側に、素子等を支持すると共に素子との間で熱交換を行うための基板(熱交換基板)を配置する。さらに、直列に接続されたπ組構造の両端から配線を引き出すことにより、図12に示す熱電モジュールが完成する。
【0049】
図14は、図12に示す熱電モジュールの出力電力P(W)を示しており、図15は、図12に示す熱電モジュールのエネルギー変換効率η(%)を示している。この熱電モジュールにおいては、素子の上面及び下面に配置された2枚の基板に温度差520℃(高温側553℃、低温側33℃)を与えた場合に、出力電力5.5W、エネルギー変換効率7.3%と極めて高い値を実現することができた。
【0050】
図16は、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの別の作製例の外観を示している。この熱電モジュールは、次のように作製される。
まず、P型熱電材料として、ゲルマニウムが1at.%添加され、冷却速度を1.5℃/分として結晶成長させることによって作製されたMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を用意する。
また、N型熱電材料として、例えば、Co0.9(Pt0.05Pd0.05)Sb3を用意する。
【0051】
次に、これらのP型及びN型熱電材料の各々を直方体形に切り出すことにより、P型素子及びN型素子を作製する。また、図13に示すπ組の構造となるように、P型素子及びN型素子の上面及び下面に、溶射によってアルミニウム電極を形成する。さらに、このような複数のπ組構造を直列に接続すると共に、熱交換基板を配置し、配線を引き出すことにより、図16に示す熱電モジュールが完成する。
【0052】
図17は、図16に示す熱電モジュールにおける最大出力電力Pmax(W)と高温側温度Th(℃)との関係を示している。図17に示すように、熱交換基板の高温側温度Thを525℃とした場合に、4.2Wの高出力を実現することができた。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱電材料について説明する。本実施形態に係る熱電材料も、第1の実施形態に係る熱電材料と同様に、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材とするMnSiy系単結晶であって、p型良導体であるマンガンモノシリサイドMnSiをほとんど含有していない。しかしながら、母材に添加される元素がガリウム(Ga)であるという点で、第1の実施形態におけるものと異なっている。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱電材料の製造方法について説明する。
まず、原料として、母材であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)の化学量論的組成を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)と、母材に添加されるガリウム(Ga)と、不純物とを用意する。この内のガリウムについては、シリコン及びガリウムの和の0.28at.%〜1.1at.%に相当する量が用意される。その後の工程については、第1の実施形態と同様に、これらの原料をよく混合して溶融することにより、メルト(溶融物)を作製し、このメルトを、0℃/分より大きく、且つ、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる。
【0055】
実施例として、ガリウムの添加量(x')が0.28≦x'≦1.1であるMn(Si1−x'Gax')y(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットを作製し、また、比較例として、ガリウムの添加量(x')が0≦x'<0.28である同単結晶インゴットを作製して、それらの微細組織を観察した。なお、実施例及び比較例の試料の詳細な作製方法は、第1の実施形態において説明したものと同様である。
【0056】
図18は、実施例(x'=0.0028,0.0044,0.011)及び比較例(x'=0)の試料の光学顕微鏡による組織観察写真を示している。これらの写真は、実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットの研磨面に対して、フッ硝酸によるケミカルエッチングを行うことにより、MnSiy結晶中に析出したMnSiを表出させたものを表している。ここで、MnSiは、MnSiy(1.7≦y≦1.8)よりも腐食され易いので、黒い線又は点状の黒い影(エッチング痕)として観察される。図18に示すように、ガリウム添加量(x')を増加させるに従って、MnSi層の間隔が狭くなった。例えば、x'=0(non-doped)のときにはMnSi層の間隔が約20μmであったのに対して、x'=0.0028のときには、最も狭い約2.3μmとなっている。そして、ガリウム添加量をさらに増加させると、x'=0.0044としたときにMnSi層は途切れ始め、x'=0.011としたときには、もはやMnSi層は観察されない。それにより、第1の実施形態におけるのと同様に、Ga添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織は、ガリウム添加量に依存してMnSiの核生成及び分散を生じ、その結果、MnSiとMnSi1.7の競合的な成長に支配されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果を含む熱電性能を有する熱電材料及びその製造方法において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットを示す写真である。
【図2】Mn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶におけるMnSiの微細組織(10μ/div)を示す写真である。
【図3】ゲルマニウムの添加量を変化させた場合におけるMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)の粉末X線回折結果を示す図である。
【図4】MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピークの相対強度と性能指数Zとの関係を示す図である。
【図5】Ge添加MnSi1.7をMn15Si26と仮定した場合における(1 0 15)ピークの半値幅(FWHM)のゲルマニウム添加量依存性を示す図である。
【図6】Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層の間隔のゲルマニウム添加量依存性を示す図である。
【図7】Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSiのストライプの幅(MnSi層の厚さ)を示す図である。
【図8】Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における電気伝導度σ、ゼーベック定数α、出力因子α2σの組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図9】Ge添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における正孔(ホール)密度及びモビリティ(移動度)の組成(ゲルマニウム添加量)依存性を示す図である。
【図10】Ge添加MnSi1.7単結晶及びAl添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における熱伝導度κと格子熱伝導度κphの組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図11】Ge添加MnSi1.7単結晶及びAl添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における性能指数の組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの作製例の外観を示す写真である。
【図13】熱電モジュールの基本構造(π組)を示す図である。
【図14】図12に示す熱電モジュールのI−P特性及びI−V特性を示す図である。
【図15】図12に示す熱電モジュールのI−η特性及びI−V特性を示す図である。
【図16】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの別の作製例の外観を示す写真である。
【図17】図16に示す熱電モジュールの最大出力電力Pmaxと高温側温度Thとの関係を示す図である。
【図18】Mn(Si1−x'Gax')y'(1.7≦y≦1.8)単結晶におけるMnSiの微細組織(10μ/div)を示す写真である。
【図19】Mn−Siの2元状態図である。
【図20】MnSiy(1.7<y<1.8)の結晶化が進む過程を示す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果を含む熱電性能を有する熱電材料及びその製造方法に関する。特に、本発明は、正孔(ホール)をキャリアとする半導体であるP型熱電材料及びその造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する熱電モジュールは、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果等と呼ばれる熱電効果を利用した2種類の熱電素子を組み合わせて構成され、熱電対や電子冷却素子等もこれに該当する。熱電材料として半導体が用いられる場合には、P型半導体とN型半導体とが組み合わされる。
【0003】
一般に、熱電材料の性能は、次式(1)によって表される性能指数Zにより特徴付けられる。
Z=α2σ/κ (1)
ここで、αはゼーベック定数、σは電気伝導度、κは熱伝導度である。
式(1)に示すように、ゼーベック定数α及び電気伝導度σが大きいほど、また、熱伝導度κが小さいほど、熱電材料の性能指数は高くなる。そのため、一般的に、熱電材料としては、半導体材料が適している。
【0004】
多くの場合に、熱電材料は、母材となる半導体材料に適切な不純物を添加して、上記ゼーベック定数等の熱電特性を最適化することにより作製される。これらの熱電特性はキャリア濃度と密接に関係しており、また、母材のエネルギーギャップは、環境温度と共に、キャリア濃度を決定する一要因となっている。
【0005】
通常、性能指数Zの温度特性は極大値を有するが、この極大値を与える温度領域は、母材のエネルギーギャップに大きく依存している。即ち、母材毎に、最適な温度領域が存在する。例えば、P型熱電材料として用いられるマンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)は、エネルギーギャップ0.67eVを有し、中温度域(300℃〜550℃程度)において高い性能を有している。
【0006】
図19は、Mn−Siの2元系状態図であり、図20は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)の結晶化が進む過程を示す模式図である。ここで、図19に示す記号(a)〜(d)は、図20に示す結晶化過程(a)〜(d)に対応している。
MnSiy(1.7≦y≦1.8)結晶は、図20の(a)に示す化学量論的組成(ストイキオメトリ)を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)を含有するメルトを、図20の(b)〜(d)に示すように冷却速度を制御しながら冷却して結晶化させることにより作製される。ところが、MnSiy(1.7≦y≦1.8)の結晶化は、図20の(c)に示すように、包晶反応を起こしながら促進されるので、図20の(d)に示すように、MnSiy(1.7≦y≦1.8)内に層状のMnSiが析出してしまう。例えば、非特許文献1には、成長した結晶中のMnSiの縞は、母相のc軸に平行に分布する板状析出物であることが報告されている。また、そのような板状析出物の間隔Dと幅Wとのの比であるW/Dは0.02〜0.03程度であり、平均が0.02であることが報告されている。さらに、MnSiは、板状析出物として結晶中に存在しているので、この比W/Dは、結晶中のMnSiとMn15Si26との体積比にほぼ等しい(第36〜38頁)。一方、そのようなMn15Si26の所定の結晶方向においては、金属的なMnSiの影響のために、熱電材料の性能指数Zの最大値がZ=3×10−4K−1〜4×10−4K−1に留まることも報告されている(第69頁)。
【0007】
また、非特許文献2にも、MnSi1.73内に析出する層状のMnSiの面積分率は、顕微鏡観察によれば2vol.%〜3vol.%であることが報告されている。
【0008】
このような層状のMnSiは、結晶の作製条件に依存して、約10vol.%に上る場合もある。例えば、非特許文献3には、そのような場合における条件及び分析結果が報告されている(第92〜93頁、表1)。
【0009】
ここで、マンガンモノシリサイドMnSiは金属的な特性を持つP型良導体であり熱電材料には適していない。そのため、MnSiが析出しているMnSiy(1.7<y<1.8)は性能指数Zが低下することが予想される。例えば、上記非特許文献2には、MnSiの面積分率は2vol.%〜3vol.%の場合における性能指数として、Z=3×10−4K−1〜4×10−4K−1という値が報告されている。
【0010】
しかし、他方では、熱電材料に人工的に微細な第二相を混入させることにより粒界を生じさせ、それによって電気伝導度σを低下させることなく熱伝導度κのみを低下させるというアイデアが提案されている。例えば、特許文献1には、熱電材料の電気抵抗率ρやゼーベック係数αの劣化による性能指数Zの低下量よりも熱伝導率κの低減による性能指数Zの増加量を大きくすることにより性能指数Zの向上を図るために、熱電材料の出発原料を超微粒子とし、それに母材と反応しない超微粒子を均一に分布する状態に添加して焼結して超微粒子の結晶粒を生じさせることにより成る熱電材料が開示されている。また、特許文献2には、(A)ケイ素−ゲルマニウム合金相と(B)ζβ−鉄シリサイド相とからなり、(A)相の割合が35〜70モル%であり、(A)相又は(B)相からなる分散相の平均領域径が1μm以下である複合焼結体が開示されている。さらに、特許文献3には、熱電変換効率が高く、密度が小さく、高温で熱伝導率が増加しにくい熱電材料として、シリコン(Si)とシリコンカーバイド(SiC)とによって構成される複合体の焼結熱発電材料であって、シリコンの平均粒径が10μm以下であり、シリコンカーバイドの平均粒径が1μm以下である熱発電材料が開示されている。
【0011】
このように、母材(MnSiy(1.7≦y≦1.8))よりも熱電特性が劣る第二相(MnSi)が存在する場合に、第ニ相のサイズや組織構造や、熱電特性値(母材との差)に応じて全体の特性が異なってくるため、第二層の有効性については不明であった。
【0012】
ところで、非特許文献4には、化学輸送成長法により、MnSiが内在しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)を合成することが報告されている。しかし、この方法の欠点は、成長速度が遅い(0.01mg/h〜5mg/h程度)ことであり、工業的視点に立って適用可能な量を量産することは極めて困難である。
【0013】
また、特許文献4には、合成されたMnSi1.7焼結体について粉末X線回折により分析を行い、母相であるMnSi1.7のピークスケールに対しMnSiのピークが観察されないことから、第二相が存在しない単相組織を焼結により合成できることを主張している。
さらに、上記特許文献4には、偏析が少なく、結晶粒が微細であり、且つ、不純物が混入していないMnSi1.7系熱電材料を短時間で安価に製造するために、原材料を溶融する溶融工程と、該溶融工程によって溶融された原材料を滴下して滴下中の原材料に噴霧気体を吹き付けて急冷却すると共に粉末化してMnSi1.7系熱電材料とする冷却・粉末化工程と、該冷却・粉末化工程において得られた粉末状のMnSi1.7系熱電材料を加圧、焼結、又は、加圧焼結により、所望形状に成形する成形工程とを含むMnSi1.7系熱電材料の製造方法が開示されている。
【0014】
しかし、このような方法によって製造されるのは、焼結体(多結晶体)に限定される。そして、MnSiy(1.7≦y≦1.8)は正方晶構造をとるため、性能指数は大きな異方性を有することが知られている。従って、このような異方性の大きな材料を焼結した場合には、各結晶粒の方向がランダムになるので、焼結体全体としては、平均化された性能指数になってしまうという欠点がある。
【0015】
それに対し、本願発明者らは、MnSi−MnSiy(1.7≦y≦1.8)複合材料の熱電特性のシミュレーションを行うことにより、次の2点を見出した。即ち、第1に、MnSiy(1.7≦y≦1.8)のc軸方向については、キャリア濃度向上による出力因子(α2σ)向上の効果はあるが、熱伝導度κを低下させる効果を有しない限り性能指数Zは単調に低下する。第2に、MnSiy(1.7≦y≦1.8)のc軸に垂直な方向に対しては、出力因子(α2σ)向上すら見られないので、熱伝導度κを低下させる効果を有しない限り性能指数Zは単調に低下する(非特許文献5)。
【特許文献1】特開平10−242535号公報
【特許文献2】特開平9−100166号公報
【特許文献3】特開平7−38156号公報
【特許文献4】特開2002−332508号公報
【非特許文献1】川澄、「Mn15Si26近傍組織合金の結晶解析と熱電特性に関する研究」、慶應義塾大学工学部昭和54年度学位論文、p.36−38、p.69
【非特許文献2】川澄、他、「マンガン・シリサイドMnSi〜1.73の結晶成長、及び、Mn15Si26の半導体特性(Crystal growth of manganese silicide, MnSi〜1.73 and semiconducting properties of Mn15Si26)」、ジャーナル・オブ・マテリアル・サイエンス(JOURNAL OF MATERIAL SCIENCE)16、1981年、p.355−366
【非特許文献3】ソロムキン(Solomkin)等、「p型高マンガン・シリサイドにおけるGeドーピングの効果(The effect of Ge doping on p-type Higher Mnganese Silicide (HMS))」、第21回熱電国際会議(International Conference on Thermoelectronics)会報、2002年、p.90−93
【非特許文献4】小島、他、「化学輸送法によるMnSi1.73の結晶成長(Crystal Growth of MnSi1.73 by Chemical Transport Metod)」、日本応用物理学会論文誌(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS)、1975年、第14巻、第1号、p.141−142)
【非特許文献5】青山、他、「高マンガン・シリサイド(HMS)におけるモノシリサイドの微細構造(Microstructure of monosilicide (MnSi) in Higher Manganese Silicides (HMS))」、第1回マイクロ&ナノテクノロジー国際シンポジウム会報(2004年、米国ハワイ州ホノルル)、p.82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、高い性能指数を有するMnSiy(1.7≦y≦1.8)系の熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出されないか、又は、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出された場合に、該ピークの最高値が、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満である。
【0018】
また、本発明の第2の観点に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察されないか、又は、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察された場合に、該領域の面積占有率が、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満である。
【0019】
さらに、本発明の1つの観点に係る熱電材料の製造方法は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、上記ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、原料を溶融することにより溶融物とする工程と、該溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程とを具備する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶に添加される不純物の量を制御すると共に、所定の範囲の冷却速度で溶融物を結晶化するので、結晶中のマンガンモノシリサイドMnSiの含有量を極めて低く抑えることができる。従って、単結晶をP型熱電材料として利用することにより、高い性能指数を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
本発明の第1の実施形態に係る熱電材料は、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材とするMnSiy系単結晶であって、p型良導体であるマンガンモノシリサイドMnSiをほとんど含有しないことを特徴とする。ここで、MnSiをほとんど含有しないとは、所定の検査によってMnSiが検出されないことを言う。例えば、後で詳しく説明するように、X線回折による分析の結果、MnSiの(2 1 0)のピークが検出されないか、又は、検出されたピークの値がノイズレベルの10%未満である場合や、顕微鏡観察によってMnSiが観察されないか、又は、観察されたMnSiの面積占有率がMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満の場合を言う。
【0022】
本願発明者らは、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶の作製条件を実験的に見出し、MnSiの存在と熱電特性の相関を精査した。そして、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶が、最も高い性能指数Zを有することを突き止めた。即ち、他の要因(例えば、母材以外の元素のドーピング)によりキャリア濃度向上による出力因子(α2σ)の向上を果たすことさえできれば、元来、熱電材料には不適なMnSiを含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)が、理想的な熱電材料となることを解明した。
【0023】
本発明の第1の実施形態に係る熱電材料の製造方法について説明する。
まず、原料として、母材であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)の化学量論的組成を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)と、母材に添加されるゲルマニウム(Ge)と、不純物とを用意する。この内のゲルマニウムについては、4族元素であるシリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量が用意される。そして、これらの原料をよく混合する。その際には、それらの原料を一旦溶融させた後に冷却することにより合金を作製し、それを粉砕しても良い。さらに、混合された原料を溶融することにより、メルト(溶融物)を作製し、このメルトを、0℃/分より大きく、且つ、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる。結晶成長させる方法としては、ブリッジマン法等の公知の方法を用いることができる。
【0024】
実施例として、本実施形態に係る熱電材料の製造方法を用いて、Mn(Si1−xGex)1.7を基本組成とする300gの熱電材料を作製した。
まず、原料として、マンガン(純度3Nup)を156.4546g、シリコン(純度5N)を136.3603g、及び、ゲルマニウム(純度4N)を7.1851g秤量して混合した。そして、それを坩堝に入れて、アルゴン雰囲気中において高周波加熱溶解し、さらに、冷却することにより、合金を作製した。
【0025】
次に、この合金を粉砕し、それを先端にMnSi1.7シード結晶を仕込んだ石英管(φ32mm×L200mm)に入れ、アルゴン雰囲気のブリッジマン炉において、MnSi1.7単結晶育成を行った。シード結晶としては、予め、無シードでブリッジマン成長させたMnSi1.7単結晶を、X線極点解析により結晶方位を出して切り出したものを用いた。また、標準的に、合金を溶融する際の溶融温度を1250℃、固液界面近傍の温度勾配を3℃/mm、成長速度を0.5mm/min(即ち、メルト(溶融液)の冷却速度1.5℃/min)とした。さらに、ブリッジマン炉内の温度勾配を参考にして、L20mmのシードの中央付近に固液界面が来るように、石英管先端の成長開始位置を調整した。即ち、シード下端からの距離が10mmの位置において1428K(1155℃)となるように位置を調整することにより、シードの下半分が固体状態で、上半分が溶融状態となるようにして、シードの下半分の結晶方位を受け継ぐように結晶成長を行った。本実施例においては、石英管の口径をφ32まで大口径化することにより、約60g/hの結晶成長速度を実現した。なお、この成長速度は、小島らによって報告された結晶成長速度(0.01mg/h〜5mg/h)の約10,000倍に相当する。
図1は、このようにして作製されたMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットの写真を示している。
【0026】
ここで、フジノ、他、「MnSi−Siの部分システムの相図(Phase Diagram of the Partial System of MnSi - Si)」(日本応用物理学会論文誌(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS)、第3巻、第8号(1964年8月)、p.431−435)や、川澄、他、「MnSi2−x結晶の光回折(On The Striations in MnSi2-x Crystals)」(日本応用物理学会論文誌、第15巻(1976年)、第7号、p.1405−1406)は、結晶が層状のMnSiを含んでいる場合においても、対象的なラウエパターンが観察される場合には、そのような結晶のことを単結晶として報告している。本願においても、同様のラウエパターンが観察される場合には、単結晶であるものとする。
【0027】
図2及び図3は、所定の量のゲルマニウムを添加することにより、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を作製できることを示す図である。比較例としては、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.3at.%)を、実施例と同様の方法によって作製した。
【0028】
図2は、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットの光学顕微鏡による組織観察写真を示している。これらの写真は、実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットの研磨面に対して、フッ硝酸によるケミカルエッチングを行うことにより、MnSiy結晶中に析出したMnSiを表出させたものを表している。ここで、MnSiは、MnSiy(1.7≦y≦1.8)よりも腐食され易いので、黒い線又は点状の黒い影(エッチング痕)として観察される。図2に示すように、ゲルマニウム添加量(x)を増加させるに従って、MnSi層の間隔が狭まると共に、次第に分散するようになっている。例えば、x=0の場合にMnSi層間隔は約20μmであったのに対して、母材以外の元素であるゲルマニウムを添加することにより(例えば、x=0.00027)、MnSi層間隔は狭くなり(約5.9μm)、ゲルマニウム添加量を増加させることにより(例えば、x=0.00106)、MnSi層間隔はさらに狭くなっている(約1.7μm)。また、それに伴い、MnSiは、線状から点状へと変化している。そして、ゲルマニウム添加量をx=0.5at.%まで増加させた場合には、MnSiは観察されなくなる。
【0029】
図3は、実施例及び比較例において作製されたMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶試料について、粉末X線回折を行った結果を示している。図3においては、MnSiy(1.7≦y≦1.8)をMn15Si26と仮定している。また、各グラフは、Mn15Si26の(1 0 15)ピークの強度によって規格化されることにより、相対強度を表している。図3に示すように、MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピーク(2θ=44.4°)は、ゲルマニウムの添加量(x)の増加に伴って一旦増加するが、その後に減少する。そして、ゲルマニウムの添加量をx=0.3at.%程度まで増加させることにより、MnSiの(2 1 0)ピークは、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満に留まるようになる。さらに、ゲルマニウムの添加量をx=1at.%程度に増加させることにより、MnSiピークは検出されなくなる。即ち、MnSiがほぼ消滅したことを示している。
【0030】
これらの分析結果より、MnSiy(1.7≦y≦1.8)にゲルマニウムを添加することにより、MnSiy中に析出しようとするMnSiが分散させられ、ゲルマニウムの添加量がある臨界値を超えたところで、MnSiの成長とMnSiy(1.7≦y≦1.8)の成長とが競合し、MnSiを消滅させる効果が生じることが裏付けられる。
【0031】
図4は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピークの相対強度と性能指数Zとの関係を示している。なお、図4においては、MnSi1.7をMn15Si26と仮定している。図4より明らかなように、MnSiの(2 1 0)ピーク強度が低下するに従って(即ち、MnSiが減少するに従って)、性能指数Zは増加している。即ち、ゲルマニウムの添加量を制御することにより、P型熱電材料として優れた特性を有するMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を作製することができる。
【0032】
次に、Ge添加MnSi1.7の結晶性とMnSiの微細組織について説明する。
実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットを結晶成長方向に対して垂直に切り出すことにより試料を作製して、X線極点解析を行った。図5は、Ge添加MnSi1.7をMn15Si26と仮定した場合に、(1 0 15)ピークの室温におけるロッキングカーブの半値幅(FWHM)を示している。図5に示すように、ゲルマニウムの添加量xの増加に伴ってFWHMが減少してくることにより、MnSi1.7の結晶性が向上することが確認された。言い換えれば、MnSiが分散・減少することにより、MnSi1.7の結晶性が向上する。
【0033】
また、先に図2を参照しながら説明したように、MnSi層の間隔は、ゲルマニウム添加量の増加に伴って狭くなっており、x=0.00133において、MnSi層の間隔は最も狭くなる。さらに、x=0.00265において、MnSi層は途切れ始め、x=0.00530においては遂にMnSiは観察されなくなっている。図6は、図2に示すGe添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層の間隔のゲルマニウム添加量依存性を示している。図6の破線に示すように、ゲルマニウムの添加量xとMnSi層の間隔Wとの間には、W=20.2−18.71{1−exp(−2952.4x)}の関係があると推定される。
【0034】
さらに、図2に示すケミカルエッチングにより表出したGe添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層を拡大して観察した。図7には、x=0.00027、x=0.00053、及び、x=0.00265の場合における観察写真が示されている。図7に示すように、MnSi層の厚さは、組成(ゲルマニウムの添加量)に依らず、0.2μm〜0.3μmの範囲に収まっている。従って、MnSi層の数の増加は、MnSiの体積の増加に対応しているといえる。反対に、MnSi層の途切れは、MnSiの体積の減少に対応していると考えられる。このような対応関係を考慮すると、図3に示す分析結果は、図2におけるMnSi組織観察の結果と良い一致を示す。それにより、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織は、ゲルマニウム添加量に依存して核生成及び分散を生じ、その結果、MnSiとMnSi1.7の競合的な成長に支配されることが確認された。
【0035】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と電気特性との関係について説明する。ここでは、比較例として、ゲルマニウムの添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.03)と共に、アルミニウム(Al)の添加量(x)を変化させたMnSi1.7単結晶(0≦x<0.03)を実施例と同様の方法によって作製し、それらを分析した。
【0036】
図8は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における電気伝導度σ、ゼーベック定数α、及び、出力因子α2σの組成依存性、即ち、ゲルマニウム又はアルミニウムの添加量xに対する依存性を比較して示している。図8に示すように、ゲルマニウム添加量xに対する電気伝導度σ及びゼーベック定数αの傾きは、x=0.00133とx=0.00265との間において劇的な変化を示している。即ち、Ge添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σは、x≦0.00133の範囲において、Al添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σの約2倍の傾きで増加(或いは、ゼーベック定数αが減少)しているが、xが0.00133より大きくなると、緩やかな減少に転じている。
【0037】
アルミニウムを添加する場合と、ゲルマニウムを添加する場合とにおいて、このような特性の違いが現れるのは、次のようなメカニズムによるものと考えられる。即ち、Al添加MnSi1.7単結晶における電気伝導度σに対するアルミニウム添加の効果は、価数制御則に基づいてアルミニウムが完全にイオン化することにより、Al3+がp型ドーパントとして働くものと解釈される。一方、Ge添加MnSi1.7単結晶については、x≦0.00133の範囲において、添加量xの増加に伴ってMnSi層が増加するため(図2及び図3参照)、電気伝導度σは増加する。或いは、ゼーベック定数αは減少する。そして、x>0.00133の範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の電気伝導度σが緩やかに減少するのは(又は、ゼーベック定数αが増加するのは)、MnSiの消滅に関連しているものと考えられる。また、Al添加MnSi1.7単結晶の出力因子α2σはx=0.0035において最大値を示しているが、Ge添加MnSi1.7単結晶は、x=0.00974において最大値に到達している。
【0038】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と電気特性との関係について説明する。
図9は、Ge添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における正孔密度及びモビリティ(移動度)の組成依存性(ゲルマニウム添加量依存性)を示している。この正孔密度は、室温におけるホール測定によって決定されたものである。
【0039】
図9に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶の正孔密度(濃度)は、極大値を有している。このような結果は、MnSi層の存在と関連して現れたものと考えられる。即ち、先に図7を参照しながら説明したように、MnSi層は殆ど同じ厚さを有しているので、0.00027≦x≦0.00265の範囲においてMnSi層数が増加することは(図2参照)、MnSi1.7全体における正孔濃度の増加に対応する。反対に、0.00265<xの範囲においてMnSi層が途切れるようになることは(図2参照)、MnSi1.7全体における正孔濃度の減少に対応する。
【0040】
一方、図9に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶のモビリティは、x=0.00133において最小値をとっている。MnSi自体、或いは、MnSi1.7とMnSiとの界面がキャリアに対する散乱源になることが、モビリティを低下させる要因になっていると考えられる。しかしながら、0.00265<xの範囲においては、MnSi層が途切れて消滅するのに加えて、図5に示すように、MnSi1.7単結晶の結晶性が向上することにより、モビリティは回復を見せる。
【0041】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織と熱伝導度の関係について説明する。
Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度における電子による寄与を、ウィーデマンフランツ則を用いることにより、図8に示す電気伝導度σを用いて算出した。格子熱伝導度κphは、トータルの熱伝導度κからキャリアによる要素κeを引くことにより得られた。ここで、要素κeは、κe=2.45×10−8×σ×Tによって表される。なお、Tは絶対温度である。
【0042】
図10は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphの組成依存性、即ち、母材以外の元素の添加量xに対する依存性を比較して示している。図10に示すように、Al添加MnSi1.7単結晶及びGe添加MnSi1.7単結晶において、格子熱伝導度κphはキャリアによる要素κeよりも大きい。また、Al添加MnSi1.7単結晶において、熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphの両方は、アルミニウム不純物によるフォノン散乱により、アルミニウム添加量の増加に対して単調に減少している。それに対して、Ge添加MnSi1.7単結晶において、熱伝導度κは、x=0.00053近傍で最大値をとっている。ここで、xが比較的小さい範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphが増加するのは、高い格子熱伝導度を有するMnSiが増加するためと考えられる。反対に、xが比較的大きい範囲において、Ge添加MnSi1.7単結晶の熱伝導度κ及び格子熱伝導度κphが減少するのは、ゲルマニウムによるフォノン散乱が増加するためと考えられる。
【0043】
次に、Ge添加MnSi1.7単結晶における性能指数の組成依存性について説明する。
図11は、Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における性能指数Zの組成依存性、即ち、母材以外の元素の添加量xに対する依存性を比較して示している。これらの性能指数Zは、図8に示す出力因子α2σと図10に示す熱伝導度κとを用いて算出されたものである。
【0044】
図11に示すように、Ge添加MnSi1.7単結晶のZ値は、ゲルマニウム添加量xの増加に伴って増加している。それに対して、Al添加MnSi1.7単結晶のZ値は、x=0.0035近傍で最大値を取っている。アルミニウムを添加した試料における性能指数Zの最大値は、図8における出力因子α2σの最大値を反映しているものと考えられる。一方、Ge添加MnSi1.7単結晶におけるゲルマニウム添加の効果は、MnSiの分散及び消滅と、MnSi1.7単結晶の結晶性向上によるモビリティの増加であると考えられる。
【0045】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料は、MnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材としてキャリアドーピングされたMnSiy系熱電材料であって、熱電材料には不適なMnSiをほとんど含有していないため(例えば、面積分率1%未満)、極めて高い熱電特性を示す(例えば、性能指数Z=7×10−4/k)。従って、このような熱電材料を用いることにより、セグメント型熱電素子や、熱電変換効率の高い熱電モジュール(例えば、変換効率7%)を作製することができる。
【0046】
熱電モジュールを作製する場合に用いられるN型熱電材料としては、本実施形態に係る熱電材料MnSiy(1.7≦y≦1.8)と同程度の温度領域において高い熱電性能を発揮する材料であれば、いずれも適用することができる。
【0047】
以下において、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールについて説明する。
図12は、熱電モジュール(シリサイド・モジュール)の1つの作製例の外観を示している。この熱電モジュールは、次のように作製される。
まず、P型熱電材料として、ゲルマニウムが1at.%添加され、冷却速度を1.5℃/分として結晶成長させることによって作製された、MnSiをほとんど含有しないMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を用意する。
また、N型熱電材料として、例えば、Mg2Si0.4Sn0.6を用意する。
【0048】
次に、これらのP型及びN型熱電材料の各々を直方体形に切り出すことにより、P型素子及びN型素子を作製する。そして、図13に示すように、P型素子1とN型素子2とを橋渡しするように、電極3〜5を、P型素子1及びN型素子2の上面及び下面に交互に形成する。電極3〜5は、例えば、アルミニウム(Al)を溶射することによって形成される。これらのP型素子1、N型素子2、及び、電極3〜5が、熱電モジュールの基本構造(π組)となる。このような複数のπ組構造を直列に接続すると共に、素子の上面及び下面に形成された電極の外側に、素子等を支持すると共に素子との間で熱交換を行うための基板(熱交換基板)を配置する。さらに、直列に接続されたπ組構造の両端から配線を引き出すことにより、図12に示す熱電モジュールが完成する。
【0049】
図14は、図12に示す熱電モジュールの出力電力P(W)を示しており、図15は、図12に示す熱電モジュールのエネルギー変換効率η(%)を示している。この熱電モジュールにおいては、素子の上面及び下面に配置された2枚の基板に温度差520℃(高温側553℃、低温側33℃)を与えた場合に、出力電力5.5W、エネルギー変換効率7.3%と極めて高い値を実現することができた。
【0050】
図16は、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの別の作製例の外観を示している。この熱電モジュールは、次のように作製される。
まず、P型熱電材料として、ゲルマニウムが1at.%添加され、冷却速度を1.5℃/分として結晶成長させることによって作製されたMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶を用意する。
また、N型熱電材料として、例えば、Co0.9(Pt0.05Pd0.05)Sb3を用意する。
【0051】
次に、これらのP型及びN型熱電材料の各々を直方体形に切り出すことにより、P型素子及びN型素子を作製する。また、図13に示すπ組の構造となるように、P型素子及びN型素子の上面及び下面に、溶射によってアルミニウム電極を形成する。さらに、このような複数のπ組構造を直列に接続すると共に、熱交換基板を配置し、配線を引き出すことにより、図16に示す熱電モジュールが完成する。
【0052】
図17は、図16に示す熱電モジュールにおける最大出力電力Pmax(W)と高温側温度Th(℃)との関係を示している。図17に示すように、熱交換基板の高温側温度Thを525℃とした場合に、4.2Wの高出力を実現することができた。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱電材料について説明する。本実施形態に係る熱電材料も、第1の実施形態に係る熱電材料と同様に、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材とするMnSiy系単結晶であって、p型良導体であるマンガンモノシリサイドMnSiをほとんど含有していない。しかしながら、母材に添加される元素がガリウム(Ga)であるという点で、第1の実施形態におけるものと異なっている。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱電材料の製造方法について説明する。
まず、原料として、母材であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)の化学量論的組成を満たすように調整されたマンガン(Mn)及びシリコン(Si)と、母材に添加されるガリウム(Ga)と、不純物とを用意する。この内のガリウムについては、シリコン及びガリウムの和の0.28at.%〜1.1at.%に相当する量が用意される。その後の工程については、第1の実施形態と同様に、これらの原料をよく混合して溶融することにより、メルト(溶融物)を作製し、このメルトを、0℃/分より大きく、且つ、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる。
【0055】
実施例として、ガリウムの添加量(x')が0.28≦x'≦1.1であるMn(Si1−x'Gax')y(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットを作製し、また、比較例として、ガリウムの添加量(x')が0≦x'<0.28である同単結晶インゴットを作製して、それらの微細組織を観察した。なお、実施例及び比較例の試料の詳細な作製方法は、第1の実施形態において説明したものと同様である。
【0056】
図18は、実施例(x'=0.0028,0.0044,0.011)及び比較例(x'=0)の試料の光学顕微鏡による組織観察写真を示している。これらの写真は、実施例及び比較例によって得られた単結晶インゴットの研磨面に対して、フッ硝酸によるケミカルエッチングを行うことにより、MnSiy結晶中に析出したMnSiを表出させたものを表している。ここで、MnSiは、MnSiy(1.7≦y≦1.8)よりも腐食され易いので、黒い線又は点状の黒い影(エッチング痕)として観察される。図18に示すように、ガリウム添加量(x')を増加させるに従って、MnSi層の間隔が狭くなった。例えば、x'=0(non-doped)のときにはMnSi層の間隔が約20μmであったのに対して、x'=0.0028のときには、最も狭い約2.3μmとなっている。そして、ガリウム添加量をさらに増加させると、x'=0.0044としたときにMnSi層は途切れ始め、x'=0.011としたときには、もはやMnSi層は観察されない。それにより、第1の実施形態におけるのと同様に、Ga添加MnSi1.7単結晶中のMnSi組織は、ガリウム添加量に依存してMnSiの核生成及び分散を生じ、その結果、MnSiとMnSi1.7の競合的な成長に支配されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果を含む熱電性能を有する熱電材料及びその製造方法において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料であるMnSiy(1.7≦y≦1.8)単結晶インゴットを示す写真である。
【図2】Mn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)単結晶におけるMnSiの微細組織(10μ/div)を示す写真である。
【図3】ゲルマニウムの添加量を変化させた場合におけるMn(Si1−xGex)y(1.7≦y≦1.8)の粉末X線回折結果を示す図である。
【図4】MnSiy(1.7≦y≦1.8)中に存在するMnSiの(2 1 0)ピークの相対強度と性能指数Zとの関係を示す図である。
【図5】Ge添加MnSi1.7をMn15Si26と仮定した場合における(1 0 15)ピークの半値幅(FWHM)のゲルマニウム添加量依存性を示す図である。
【図6】Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSi層の間隔のゲルマニウム添加量依存性を示す図である。
【図7】Ge添加MnSi1.7単結晶中のMnSiのストライプの幅(MnSi層の厚さ)を示す図である。
【図8】Ge添加MnSi1.7単結晶、及び、Al添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における電気伝導度σ、ゼーベック定数α、出力因子α2σの組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図9】Ge添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における正孔(ホール)密度及びモビリティ(移動度)の組成(ゲルマニウム添加量)依存性を示す図である。
【図10】Ge添加MnSi1.7単結晶及びAl添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における熱伝導度κと格子熱伝導度κphの組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図11】Ge添加MnSi1.7単結晶及びAl添加MnSi1.7単結晶のc軸方向における性能指数の組成(母材以外の元素の添加量)依存性を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの作製例の外観を示す写真である。
【図13】熱電モジュールの基本構造(π組)を示す図である。
【図14】図12に示す熱電モジュールのI−P特性及びI−V特性を示す図である。
【図15】図12に示す熱電モジュールのI−η特性及びI−V特性を示す図である。
【図16】本発明の第1の実施形態に係る熱電材料を利用した熱電モジュールの別の作製例の外観を示す写真である。
【図17】図16に示す熱電モジュールの最大出力電力Pmaxと高温側温度Thとの関係を示す図である。
【図18】Mn(Si1−x'Gax')y'(1.7≦y≦1.8)単結晶におけるMnSiの微細組織(10μ/div)を示す写真である。
【図19】Mn−Siの2元状態図である。
【図20】MnSiy(1.7<y<1.8)の結晶化が進む過程を示す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出されないか、又は、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出された場合に、該ピークの最高値が、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満である熱電材料。
【請求項2】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察されないか、又は、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察された場合に、該領域の面積占有率が、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満である熱電材料。
【請求項3】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、
原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、前記ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、
前記原料を溶融することにより溶融物とする工程と、
前記溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程と、
を具備する熱電材料の製造方法。
【請求項4】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、
原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるガリウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、前記ガリウムを、シリコン及びガリウムの和の0.28at.%〜1.1at.%に相当する量だけ用意する工程と、
前記原料を溶融することにより溶融物とする工程と、
前記溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程と、
を具備する熱電材料の製造方法。
【請求項1】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出されないか、又は、粉末X線回折によってマンガンモノシリサイドMnSiの(2 1 0)ピークが検出された場合に、該ピークの最高値が、44°≦2θ≦45゜の範囲において積分平均されたノイズレベルの10%未満である熱電材料。
【請求項2】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)を母材として不純物が添加された単結晶を含み、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察されないか、又は、顕微鏡観察によってマンガンモノシリサイドMnSiの領域が観察された場合に、該領域の面積占有率が、マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)の1%未満である熱電材料。
【請求項3】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、
原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるゲルマニウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、前記ゲルマニウムを、シリコン及びゲルマニウムの和の0.3at.%〜1at.%に相当する量だけ用意する工程と、
前記原料を溶融することにより溶融物とする工程と、
前記溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程と、
を具備する熱電材料の製造方法。
【請求項4】
マンガンシリサイドMnSiy(1.7≦y≦1.8)系単結晶を含む熱電材料の製造方法であって、
原料として、母材であるマンガンシリサイドMnSiyの化学量論的組成を満たすマンガン及びシリコンと、母材に添加されるガリウムと、母材に添加される不純物とを用意する工程であって、前記ガリウムを、シリコン及びガリウムの和の0.28at.%〜1.1at.%に相当する量だけ用意する工程と、
前記原料を溶融することにより溶融物とする工程と、
前記溶融物を、0℃/分より大きく、1.5℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、結晶成長させる工程と、
を具備する熱電材料の製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図19】
【図1】
【図2】
【図7】
【図12】
【図16】
【図18】
【図20】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図19】
【図1】
【図2】
【図7】
【図12】
【図16】
【図18】
【図20】
【公開番号】特開2007−235083(P2007−235083A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169374(P2006−169374)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
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