説明

熱CVD装置

【課題】基板サイズが大型化された場合においても、加熱手段と基板との間に設置される赤外線透過窓の厚みを大気圧に対して強度保持のために厚くすることを防止し、コストアップを抑えることができる熱CVD装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバー2内を赤外線透過窓としての石英ガラス3によって基板5を設置する側と基板5を加熱する複数の赤外線ランプ8を設置する側とに分離し、成膜プロセス工程中において、基板5側のチャンバー下部室2aに原料ガスとしての一酸化炭素ガスと水素ガスの混合ガスを導入するとともに、赤外線ランプ8側のチャンバー上部室2aに不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入し、かつ仕切りバルブ15、及び19を開放し真空ポンプ16を稼動して、チャンバー下部室2aとチャンバー上部室2aの圧力が略同じになるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱CVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などが実用化されているが、近年、これら以外にもフィールドエミッションディスプレイ(FED)が注目されている。上記フィールドエミッションディスプレイでは、電子放出素子として例えば多数のグラファイトナノファイバーを用いた電子源を有しており、この電子源が平面上に複数配列されている。
【0003】
上記グラファイトナノファイバーを形成する方法として、熱CVD装置による方法が知られている。良好な電子放出特性を有するグラファイトナノファイバーを形成するためには、触媒存在下の基板上で、原料ガス(例えば一酸化炭素ガス)を目標温度(例えば550℃)まで加熱する必要がある。原料ガスが目標温度(例えば550℃)に加熱されないと、良好な電子放出特性を有するグラファイトナノファイバーが得られない場合がある。よって、基板上で原料ガスが目標温度に短時間で加熱されることが重要である。
【0004】
このため、真空チャンバー内の基板表面を効果的に加熱し、かつ真空チャンバー内に導入される原料ガスの加熱が抑えられるように、真空チャンバーの上面に設けた耐熱ガラス板を介して真空チャンバー内の基板表面と対向するようにして真空チャンバーの外側に基板加熱手段としての赤外線ランプを設置した構成の熱CVD装置が知られている(例えば、特許文献1。)。
【0005】
上記特許文献1のような熱CVD装置では、図4に示すように、真空チャンバー100内には、基板101を載置した基板ホルダー102と、基板ホルダー102の周囲に位置するようにして真空チャンバー102の底面に配置した複数のガス噴出口(不図示)を有するガス導入環103を有しており、真空チャンバー100の上面の外側上方には、基板101の表面側と対向するようにして基板101を加熱するための棒状の赤外線ランプ104が複数配置されている。各赤外線ランプ104は、大気圧下にあるランプ保持容器105の内側に保持されている。
【0006】
ガス導入環103には、配管を介して水素ガス供給系(不図示)と一酸化炭素ガス供給系(不図示)が接続されている。なお、フィールドエミッションディスプレイに用いる上記基板101は透明な耐熱ガラスからなり、この基板101表面には、不図示のカソードラインとこのカソードライン上にグラファイトナノファイバーの触媒金属が予め塗布されている。
【0007】
真空チャンバー100の上面は、真空チャンバー102の大きさに合わせて開口されており、この開口を塞ぐようにして赤外光を透過する略透明な石英ガラス106に例示される赤外線透過窓が取り付けられている。石英ガラス106の内周面はOリング107によってシールされている。
【0008】
そして、上記熱CVD装置を使用して基板101上にグラファイトナノファイバーの膜を成膜させる際には、先ず真空ポンプ(不図示)を稼動して真空チャンバー100内を所定の圧力に調整した後、赤外線ランプ104に通電し石英ガラス106をとおして真空チャンバー100内に赤外光を透過させて基板101表面を目標温度(例えば550℃程度)に加熱する。その後、真空チャンバー100内の圧力を調整しながら水素ガス供給系(不図示)からガス導入環103に水素ガスを導入して噴出させることによって真空チャンバー100内のクリーニングを行ない、基板101上に塗布されている触媒金属(不図示)の表面を還元する。
【0009】
その後、真空チャンバー100内の圧力を調整しながら水素ガス供給系(不図示)と一酸化炭素ガス供給系(不図示)からガス導入環103に水素ガスと一酸化炭素ガスを導入しこの混合ガスを噴出させ、基板101上にグラファイトナノファイバー膜を成膜する。
【0010】
このように、この熱CVD装置では、石英ガラス106を介して真空チャンバー100の外側に基板101と対向するようにして複数の赤外線ランプ104を配置し、各赤外線ランプ104から発せられる赤外光を基板101の表面に照射して、基板101の表面(成膜面)を目標温度(例えば550℃程度)に加熱する。これにより、真空チャンバー100内に導入される一酸化炭素ガスが、基板101に到達して成長温度以下の温度(例えば450℃程度)に加熱されるのを抑制することができる。
【特許文献1】特開2002−115060号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記した従来の熱CVD装置では、大気圧下にある真空チャンバー100の外側上方に設けた複数の赤外線ランプ104から発せられる赤外光を、排気によって圧力が調整される真空チャンバー100内の基板101表面に照射するために、赤外線ランプ104と基板101との間に位置する真空チャンバー100の上面に形成した開口に略透明な石英ガラス106をシールして取り付けている。
【0012】
このため、グラファイトナノファイバーの成膜プロセス工程において、真空チャンバー100内が排気されて真空チャンバー100内の圧力が小さくなると、石英ガラス106の裏面側(基板101が配置されている真空チャンバー100の内側)と表面側(大気圧下の赤外線ランプ104側)とでは圧力差が大きくなり、石英ガラス106には、その表面側(大気圧の赤外線ランプ104側)から大気圧による力が作用する。
【0013】
よって、基板サイズがA4サイズ程度以下のときには特に問題がなかったが、大サイズのフィールドエミッションディスプレイに対応してサイズの大きい基板(例えば基板サイズが1m×2m程度の基板)を使用する場合には、上記石英ガラス106もそれに応じて大サイズのものが必要となることにより、石英ガラスの表面に作用する大気圧によって石英ガラスに変形や破損等が生じないように、厚みを厚くして強度を高めた大サイズの石英ガラスが必要となるので、コストが高くなってしまう。
【0014】
また、グラファイトナノファイバー膜を成膜する熱CVD装置において、ホットプレート型の加熱手段を真空チャンバー内に設けて基板を加熱する構成も考えられる。この場合は、この加熱手段と真空チャンバー内に導入される原料ガス(一酸化炭素ガス等)の導入口とが近接しているので、基板に到達して原料ガス(一酸化炭素ガス等)が徐々に加熱されてしまう。このため、原料ガス(一酸化炭素ガス等)が良好な電子放出特性を有するグラファイトナノファイバー膜が得られる温度に到達する前に、アモルファス状のカーボン膜が堆積してしまう場合があった。
【0015】
そこで本発明は、基板サイズが大型化された場合においても、加熱手段と基板との間に設置される石英ガラス等の赤外線透過窓の厚みを大気圧に対して強度保持のために厚くすることを防止し、コストアップを抑えることができる熱CVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、真空チャンバー内に設置される基板に対して、前記基板の膜形成面側と対向するようにして前記真空チャンバー内に設けた加熱手段と、前記真空チャンバー内の前記基板側と前記加熱手段側との間を通気可能状態で分離するように設置した熱線を透過する赤外線透過窓(例えば石英ガラス)と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に原料ガスを供給する原料ガス導入手段と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側に不活性ガスを供給する不活性ガス導入手段と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側から排気する排気手段と、を備えたことを特徴としている。
【0017】
また、前記不活性ガス導入手段は、前記加熱手段側の圧力が前記基板側の圧力より高くもしくは略同じになるように前記不活性ガスを導入することを特徴としている。
【0018】
また、請求項3に記載の発明は、真空チャンバー内に設置される基板に対して、前記基板の膜形成面側と対向するようにして前記真空チャンバー内に設けた加熱手段と、前記真空チャンバー内の前記基板側と前記加熱手段側との間を気密状態で分離するように設置した熱線を透過する赤外線透過窓と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に原料ガスを供給する原料ガス導入手段と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側にガスを供給するガス導入手段と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側を排気する第1の排気手段と、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側を排気する第2の排気手段と、を備えたことを特徴としている。
【0019】
また、前記第1の排気手段と前記第2の排気手段の稼動により、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側と前記加熱手段側の各圧力が成膜プロセス工程中において略同じになるように制御することを特徴としている。
【0020】
また、前記原料ガスは炭素含有ガスを含んでおり、前記加熱手段により加熱された前記基板上に熱CVD法によってカーボン膜を成膜することを特徴としている。
【0021】
また、前記加熱手段は、赤外光を発する赤外線ランプであることを特徴としている。
【0022】
また、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に酸素ガスを供給する酸素ガス導入手段を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、加熱手段を真空チャンバー内に設置して、加熱手段側と基板側を通気状態で赤外線透過窓(例えば石英ガラス)により分離する。更に、基板側に原料ガスを導入する際に、原料ガスが加熱手段側に流入しないように基板側に不活性ガスを導入する。これにより、加熱手段側と基板側の圧力差は小さくなるので大サイズの赤外線透過窓を用いた場合でも、厚みを厚くして強度を高めた赤外線透過窓は必要がなく、コストの低減を図ることができる。更に、加熱手段側に原料ガスが流入されることが抑制されることによって、加熱手段が汚れることを防止することができる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、真空チャンバー内の赤外線透過窓によって分離された基板側と加熱手段側の各圧力を、第1の排気手段と第2の排気手段の稼動によって略同じになるように制御することにより、赤外線透過窓の両面には圧力差による大きな力が作用していないので、大サイズの赤外線透過窓を用いた場合でも、厚みを厚くして強度を高めた赤外線透過窓は必要がなく、コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1に係る熱CVD装置を示す概略構成図である。なお、本実施形態における熱CVD装置は、フィールドエミッションディスプレイに用いるグラファイトナノファイバー膜を基板上に成膜するものである。
【0026】
この熱CVD装置1の真空チャンバー2内には、中央部より少し上側に赤外光を透過する赤外線透過窓としての略透明な石英ガラス3が水平に設置されており、この石英ガラス3によって真空チャンバー2内をチャンバー下部室2aとチャンバー上部室2bに分離している。石英ガラス3は、その外周面が真空チャンバー2の内壁面に対して通気可能な状態に近接して、保持部材4上に固定されている。
【0027】
真空チャンバー2のチャンバー下部室2aには、基板5を載置した基板ホルダー6と、基板ホルダー6の周囲に位置するようにしてチャンバー下部室2aの底面に配置した複数のガス噴出口(不図示)を有するガス導入環7を有しており、真空チャンバー2のチャンバー上部室2bには、基板5の表面側と対向するようにして基板5を加熱するための棒状の赤外線ランプ8が所定間隔で複数配置されている。各赤外線ランプ8の上方には、各赤外線ランプ8から発せられる赤外光を基板5の表面側に効率よく照射されるように湾曲した反射板9が設けられている。
【0028】
なお、フィールドエミッションディスプレイに用いる上記基板5は透明な耐熱ガラスからなり、この基板5表面には、不図示のカソードラインとこのカソードライン上にグラファイトナノファイバーの触媒金属が予め塗布されている。本実施形態で用いた基板5のサイズは、1m×2mの大きさである。
【0029】
ガス導入環7には、配管10を介して水素ガス供給系11と一酸化炭素ガス供給系12と酸素ガス供給系13がそれぞれ接続されている。水素ガス供給系11と一酸化炭素ガス供給系12と酸素ガス供給系13には、不図示の仕切りバルブ、ガス流量調整器、ガスボンベ等をそれぞれ有している。また、チャンバー下部室2aには、チャンバー下部室2a内の圧力が1気圧(大気圧)以上になったときに開放する逆止バルブ14と、仕切りバルブ15と真空ポンプ16が接続されている。
【0030】
真空チャンバー2のチャンバー上部室2bには、配管17を介してアルゴンガス供給系18が接続されている。アルゴンガス供給系18には、不図示のバルブ、ガス流量調整器、ガスボンベ等を有している。
【0031】
次に、本実施形態に係る上記熱CVD装置1によるグラファイトナノファイバーの成膜プロセス工程を、図3に示す成膜プロセスチャートを参照して説明する。
【0032】
先ず、時刻t1から時刻t2の間(約10〜15分)において、仕切りバルブ15を開き真空ポンプ16を稼動して真空チャンバー2のチャンバー下部室2a内を排気して所定圧力(約1Pa)に調整する。
【0033】
そして、時刻t2から時刻t3の間(約20分)において、各赤外線ランプ8に通電し石英ガラス3をとおしてチャンバー下部室2a内に赤外光を透過させて基板5表面を目標温度(例えば550℃程度)に加熱する。なお、グラファイトナノファイバーの成膜が終了するまで、基板5表面を目標温度(例えば550℃程度)に維持する。
【0034】
基板5の温度が550℃程度に達すると、時刻t3から時刻t4の間(約15〜15分)において、仕切りバルブ14を少し閉じて排気量を減量しながら、水素ガス供給系11とアルゴンガス供給系18の各ガスラインを開放して、1気圧(大気圧)に達するまでチャンバー下部室2a内のガス導入環7に水素ガスを導入してガス噴出口(不図示)から噴出させるとともに、チャンバー上部室2b内に不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入し、チャンバー下部室2a内をクリーニングする。このクリーニングにより、基板5上に塗布されている触媒金属(不図示)の表面を還元する。
【0035】
なお、水素ガス供給系11からチャンバー下部室2a内のガス導入環7への水素ガスの導入と、アルゴンガス供給系18からチャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入は、グラファイトナノファイバーの成膜が終了するまで行なう。
【0036】
また、成膜プロセス工程中において、チャンバー上部室2b側の圧力がチャンバー下部室2a側の圧力よりも少し高く、もしくは略同じ圧力になるようにアルゴンガス供給系18を制御して、チャンバー上部室2bにアルゴンガスを導入する。このように、チャンバー上部室2b側の圧力がチャンバー下部室2a側の圧力よりも少し高くなるように、チャンバー上部室2bにアルゴンガスを導入すると、チャンバー下部室2aに導入された混合ガス(一酸化炭素ガス+水素ガス)や微粒子(煤)がチャンバー上部室2b側に侵入することを防止することができる。
【0037】
そして、このクリーニングが終了後、時刻t4から時刻t5の間(約20〜30分)において、一酸化炭素ガス供給系12のガスラインを開放して、チャンバー下部室2a内のガス導入環7に一酸化炭素ガスを導入し、ガス噴出口(不図示)から一酸化炭素ガスと水素ガスとの混合ガスを噴出させて、基板5上にグラファイトナノファイバー膜を成膜する。
【0038】
この成膜時におけるチャンバー下部室2a内の圧力とチャンバー上部室2b内の圧力は、チャンバー下部室2aとチャンバー上部室2bが石英ガラス3により通気可能な状態で分離されているので、ともに略同じ圧力(もしくはチャンバー上部室2b側の方が少し高い圧力)である。また、この成膜時において、各赤外線ランプ8は石英ガラス3によって分離されたチャンバー上部室2b側に位置しているので、チャンバー下部室2a内の下面に設けたガス導入環7に導入されて噴出される混合ガス(一酸化炭素ガス+水素ガス)が基板5に到達して目標温度(550℃程度)以上に加熱されることにより、高品位なグラファイトナノファイバー膜を得ることできる。
【0039】
そして、グラファイトナノファイバー膜の成膜が終了後、水素ガス供給系11と一酸化炭素ガス供給系12及びアルゴンガス供給系18の各ガスラインの仕切りバルブ(不図示)を閉じ、チャンバー下部室2a内への一酸化炭素ガスと水素ガスの導入を停止するとともに、チャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入を停止する。更に、グラファイトナノファイバー膜の成膜が終了すると、各赤外線ランプ8への通電をオフして基板5に対する加熱を停止する。
【0040】
その後、時刻t5から時刻t6の間(約20〜30分)において、仕切りバルブ14を開放し真空ポンプ16を稼動してチャンバー下部室2a内に残留している混合ガス(一酸化炭素ガス+水素ガス)と、チャンバー上部室2b内に残留しているアルゴンガスを排出し、この状態で放置して自然冷却する。
【0041】
この冷却工程が終了後、窒素ガス供給系(不図示)からチャンバー下部室2a内及びにチャンバー上部室2b内に窒素ガスを導入して、チャンバー下部室2a内及びにチャンバー上部室2b内の圧力を大気圧に戻し、その後、チャンバー下部室2a内からグラファイトナノファイバー膜が成膜された基板5を取り出し、一連の成膜プロセス工程を終了する。
【0042】
ところで、上記した成膜プロセス工程でグラファイトナノファイバー膜の成膜中において、成膜中に寄与しなかった残留ガス等を主成分とする微粒子(煤)が石英ガラス3の基板5側の面に付着し、赤外線ランプ8から発せられる赤外光の透過率が低下して基板5に対する加熱効率が低下していく。
【0043】
以下、石英ガラス3に対するクリーニング工程について説明する。
【0044】
前記成膜プロセス工程が終了して、グラファイトナノファイバー膜が成膜された基板5を取り出した後に、仕切りバルブ15を開き真空ポンプ16を所定時間(約10〜15分)だけ稼動してチャンバー下部室2a内を排気して、チャンバー下部室2a内を所定圧力(約1Pa)に調整する。なお、チャンバー下部室2aとチャンバー上部室2bは、石英ガラス3により通気可能な状態で分離されているので、チャンバー上部室2b内も真空ポンプ16の稼動によって所定圧力(約1Pa)に調整される。
【0045】
その後、各赤外線ランプ8に通電し発せられる赤外光で石英ガラス3を加熱し、石英ガラス3が所定温度(例えば400〜500℃程度)に達した後、この加熱を所定時間(約20分)維持する。
【0046】
その後、仕切りバルブ15を少し閉じて排気量を減量しながら、酸素ガス供給系13とアルゴンガス供給系18の各ガスラインを開放して、1気圧(大気圧)に達するまでチャンバー下部室2a内のガス導入環7に酸素ガスを導入してガス噴出口(不図示)から噴出させるとともに、チャンバー上部室2b内に不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入する。チャンバー下部室2a内に導入された酸素ガスによって、石英ガラス3の基板5側の面に付着した微粒子(煤)は酸化されて除去(クリーニング)される。
【0047】
なお、クリーニング工程中において、チャンバー上部室2b側の圧力がチャンバー下部室2a側の圧力よりも少し高く、もしくは略同じ圧力になるようにアルゴンガス供給系18を制御して、チャンバー上部室2bにアルゴンガスを導入する。このように、チャンバー上部室2b側の圧力がチャンバー下部室2a側の圧力よりも少し高くなるように、チャンバー上部室2bにアルゴンガスを導入すると、チャンバー下部室2a内に浮遊している微粒子(煤)がチャンバー上部室2b側に侵入することを確実に防止することができ、赤外線ランプ8の汚れを防止することができる。
【0048】
そして、このクリーニング終了後、酸素ガス供給系13及びアルゴンガス供給系18の各ガスラインの仕切りバルブ(不図示)を閉じ、チャンバー下部室2a内への酸素炭素ガスの導入を停止するとともに、チャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入を停止する。更に、このクリーニングが終了すると、各赤外線ランプ8への通電をオフして石英ガラス3に対する加熱を停止する。そして、仕切りバルブ15を開放し真空ポンプ16を稼動してチャンバー下部室2a内に残留している酸素ガスを排出するとともに、チャンバー上部室2b内に残留しているアルゴンガスを排出し、この状態で所定時間(約20〜30分)放置して自然冷却する。
【0049】
この冷却が終了後、窒素ガス供給系(不図示)からチャンバー下部室2a内及びチャンバー上部室2b内に窒素ガスを導入して、チャンバー下部室2a内及びチャンバー上部室2b内の圧力を大気圧に戻して、石英ガラス3に対する一連のクリーニング工程を終了する。このクリーニング工程が終了すると、次の基板に対して上記した成膜プロセス工程を行なう。
〈実施形態2〉
図2は、本発明の実施形態2に係る熱CVD装置を示す概略構成図である。なお、図1に示した実施形態1に係る熱CVD装置と同一機能を有する部材には同一符合を付して説明する。
【0050】
本実施形態に係る熱CVD装置1は、チャンバー上部室2bにも仕切りバルブ19が接続されており、配管20を介して真空ポンプ16に接続されている。また、真空チャンバー2内をチャンバー下部室2aとチャンバー上部室2bに分離している石英ガラス3は、その外周面が真空チャンバー2の内壁面に密着させ、保持部材4上にシール部材(Oリング)21によってシール状態で固定されている。他の構成は図1に示した実施形態1に係る熱CVD装置と同様であり、重複する説明は省略する。
【0051】
次に、本実施形態に係る上記熱CVD装置1によるグラファイトナノファイバーの成膜プロセス工程を、実施形態1と同様に図2に示す成膜プロセスチャートを参照して説明する。
【0052】
先ず、時刻t1から時刻t2の間(約10〜15分)において、仕切りバルブ15を開き真空ポンプ16を稼動して真空チャンバー2のチャンバー下部室2a内を排気して所定圧力(約1Pa)に調整する。この際、仕切りバルブ19を開き、チャンバー上部室2b内も排気してチャンバー下部室2a内と略同じ圧力(約1Pa)に調整する。
【0053】
そして、時刻t2から時刻t3の間(約20分)において、各赤外線ランプ8に通電し石英ガラス3をとおしてチャンバー下部室2a内に赤外光を透過させて基板5表面を目標温度(例えば550℃程度)に加熱する。なお、グラファイトナノファイバーの成膜が終了するまで、基板5表面を目標温度(例えば550℃程度)に維持する。
【0054】
基板5の温度が550℃程度に達すると、時刻t3から時刻t4の間(約15〜15分)において、仕切りバルブ14、及び19を少し閉じて排気量を減量しながら、水素ガス供給系11とアルゴンガス供給系18の各ガスラインを開放して、1気圧(大気圧)に達するまでチャンバー下部室2a内のガス導入環7に水素ガスを導入してガス噴出口(不図示)から噴出させるとともに、チャンバー上部室2b内に不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入し、チャンバー下部室2a内及びチャンバー上部室2b内をクリーニングする。このクリーニングにより、基板5上に塗布されている触媒金属(不図示)の表面を還元する。
【0055】
なお、水素ガス供給系11からチャンバー下部室2a内のガス導入環7への水素ガスの導入と、アルゴンガス供給系18からチャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入は、グラファイトナノファイバーの成膜が終了するまで行なう。
【0056】
そして、このクリーニングが終了後、時刻t4から時刻t5の間(約20〜30分)において、一酸化炭素ガス供給系12のガスラインを開放して、チャンバー下部室2a内のガス導入環7に一酸化炭素ガスを導入し、ガス噴出口(不図示)から一酸化炭素ガスと水素ガスとの混合ガスを噴出させて、基板5上にグラファイトナノファイバー膜を成膜する。
【0057】
この成膜時におけるチャンバー下部室2a内の圧力とチャンバー上部室2b内の圧力は、ともに略同じ圧力(本実施形態では1気圧(大気圧))である。また、この成膜時において、各赤外線ランプ8は石英ガラス3によって分離されたチャンバー上部室2b側に位置しているので、チャンバー下部室2a内の下面に設けたガス導入環7に導入されて噴出される混合ガス(一酸化炭素ガス+水素ガス)が所定温度(450℃程度)以下に抑えられることにより、高品位なグラファイトナノファイバー膜を得ることできる。
【0058】
そして、グラファイトナノファイバー膜の成膜が終了後、水素ガス供給系11と一酸化炭素ガス供給系12及びアルゴンガス供給系18の各ガスラインの仕切りバルブ(不図示)を閉じ、チャンバー下部室2a内への一酸化炭素ガスと水素ガスの導入を停止するとともに、チャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入を停止する。更に、グラファイトナノファイバー膜の成膜が終了すると、各赤外線ランプ8への通電をオフして基板5に対する加熱を停止する。
【0059】
その後、時刻t5から時刻t6の間(約20〜30分)において、仕切りバルブ14、及び19を開放し真空ポンプ16を稼動してチャンバー下部室2a内に残留している混合ガス(一酸化炭素ガス+水素ガス)と、チャンバー上部室2b内に残留しているアルゴンガスを排出し、この状態で放置して自然冷却する。
【0060】
この冷却工程が終了後、窒素ガス供給系(不図示)からチャンバー下部室2a内及びにチャンバー上部室2b内に窒素ガスを導入して、チャンバー下部室2a内及びにチャンバー上部室2b内の圧力を大気圧に戻し、その後、チャンバー下部室2a内からグラファイトナノファイバー膜が成膜された基板5を取り出し、一連の成膜プロセス工程を終了する。
【0061】
ところで、本実施形態の場合も同様に上記した成膜プロセス工程でグラファイトナノファイバー膜の成膜中において、成膜中に寄与しなかった残留ガス等を主成分とする微粒子(煤)が石英ガラス3の基板5側の面に付着し、赤外線ランプ8から発せられる赤外光の透過率が低下して基板5に対する加熱効率が低下していく。
【0062】
なお、上記したグラファイトナノファイバー膜の成膜中において、石英ガラス3の外周面と真空チャンバー2の内壁面との間でのシール漏れ等によって、上記微粒子(煤)がチャンバー上部室2b内に侵入した場合でも、上記したようにチャンバー上部室2b内には不活性ガスであるアルゴンガスが導入されて充満しているので、チャンバー上部室2b内の赤外線ランプ8に上記微粒子(煤)が付着して、赤外線ランプ8の表面が汚れることはない。
【0063】
以下、石英ガラス3に対するクリーニング工程について説明する。なお、このクリーニング工程では、石英ガラス3の両面において圧力差が生じないように、チャンバー上部室2b側においてもチャンバー下部室2a側と対応した処理を行うようにしている。
【0064】
前記成膜プロセス工程が終了して、グラファイトナノファイバー膜が成膜された基板5を取り出した後に、仕切りバルブ15、及び19を開き真空ポンプ16を所定時間(約10〜15分)だけ稼動してチャンバー下部室2a内を排気するとともに、チャンバー上部室2b内も排気して、チャンバー下部室2a内とチャンバー上部室2b内を所定圧力(約1Pa)に調整する。その後、各赤外線ランプ8に通電し発せられる赤外光で石英ガラス3を加熱し、石英ガラス3が所定温度(例えば550℃程度)に達した後、この加熱を所定時間(約20分)維持する。
【0065】
その後、仕切りバルブ15、及び19を少し閉じて排気量を減量しながら、酸素ガス供給系13とアルゴンガス供給系18の各ガスラインを開放して、1気圧(大気圧)に達するまでチャンバー下部室2a内のガス導入環7に酸素ガスを導入してガス噴出口(不図示)から噴出させるとともに、チャンバー上部室2b内に不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入する。チャンバー下部室2a内に導入された酸素ガスによって、石英ガラス3の基板5側の面に付着した微粒子(煤)は酸化されて除去(クリーニング)される。
【0066】
そして、このクリーニング終了後、酸素ガス供給系13及びアルゴンガス供給系18の各ガスラインの仕切りバルブ(不図示)を閉じ、チャンバー下部室2a内への酸素炭素ガスの導入を停止するとともに、チャンバー上部室2b内へのアルゴンガスの導入を停止する。更に、このクリーニングが終了すると、各赤外線ランプ8への通電をオフして石英ガラス3に対する加熱を停止する。そして、仕切りバルブ15、及び19を開放し真空ポンプ16を稼動してチャンバー下部室2a内に残留している酸素ガスを排出するとともに、チャンバー上部室2b内に残留しているアルゴンガスを排出し、この状態で所定時間(約20〜30分)放置して自然冷却する。
【0067】
この冷却が終了後、窒素ガス供給系(不図示)からチャンバー下部室2a内及びチャンバー上部室2b内に窒素ガスを導入して、チャンバー下部室2a内及びチャンバー上部室2b内の圧力を大気圧に戻して、石英ガラス3に対する一連のクリーニング工程を終了する。このクリーニング工程が終了すると、次の基板に対して上記した成膜プロセス工程を行なう。
【0068】
このように、上記した本発明の実施形態1、2に係る熱CVD装置1は、真空チャンバー2内に設置した石英ガラス3によって、基板5が配置されて原料ガス(一酸化炭素ガス)が導入されるチャンバー下部室2aと赤外線ランプ8が設置されるチャンバー上部室2bとに分離して、赤外線ランプ8から発せられる赤外光を石英ガラス3を透過させてチャンバー下部室2a内の基板5表面に照射して基板5表面側のみを効果的に加熱することにより、チャンバー下部室2a内のガス導入環7に導入されて噴出される原料ガス(一酸化炭素ガス)が基板5に到達して目標温度(550℃程度)以上に加熱されるので、電子放出特性が良好なグラファイトナノファイバー膜を得ることができる。
【0069】
また、前記成膜プロセス工程において、チャンバー下部室2a内とチャンバー上部室2b内での圧力差が小さくなるように調整されることによって、石英ガラス3の両面には圧力差による大きな力が作用していないので、大サイズの石英ガラス3を用いた場合でも、厚みを厚くして強度を高めた石英ガラスは必要がなく、コストの低減を図ることができる。更に、石英ガラス3は、真空チャンバー2内に設置されているので、万一この石英ガラス3にクラック等が発生した場合でも原料ガス(一酸化炭素ガス)等が真空チャンバー2の外部に漏れ出すことはなく、高い安全性を確保することができる。
【0070】
なお、上述した実施形態2では、成膜プロセス工程において、チャンバー下部室2a内とチャンバー上部室2b内の圧力が略同じになるように調整する構成であったが、基板5が配置されて原料ガス(一酸化炭素ガス)が導入されるチャンバー下部室2a内の圧力を、赤外線ランプ8が設置されるチャンバー上部室2b内の圧力よりも若干低くなるように(この場合においても石英ガラス3の両面での圧力差は無視できる程度に小さい)、仕切りバルブ15によって調整するようにしてもよい。この場合には、石英ガラス3の外周面と真空チャンバー2の内壁面との間でのシール漏れ等が生じたときでも、チャンバー下部室2a内の圧力の方が低い(低圧)なので、チャンバー下部室2a内の微粒子(煤)がチャンバー上部室2b側に侵入することはない。
【0071】
また、上述した実施形態2では、チャンバー上部室2bに不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入するようにしていたが、不活性ガスに限定されることなく、例えばエア(空気)でもよい。
【0072】
また、上述した実施形態1、2では、基板上にグラファイトナノファイバー膜を成膜する熱CVD装置であったが、グラファイトナノファイバー膜以外の薄膜を成膜する熱CVD装置(成膜装置)においても同様に本発明を適用することができる。
【0073】
また、上述した実施形態2では、石英ガラス3がシール状態で固定されている構成であったが、シールされていない状態で設置される場合においても同様に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態1に係る熱CVD装置を示す概略構成図。
【図2】本発明の実施形態2に係る熱CVD装置を示す概略構成図。
【図3】本発明の実施形態1、2におけるグラファイトナノファイバーの成膜プロセス工程を示すチャート図。
【図4】従来例における熱CVD装置を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0075】
1 熱CVD装置
2 真空チャンバー
2a チャンバー下部室
2b チャンバー上部室
3 石英ガラス(赤外線透過窓)
5 基板
7 ガス導入環
8 赤外線ランプ(加熱手段)
11 水素ガス供給系
12 一酸化炭素ガス供給系
13 酸素ガス供給系
18 アルゴンガス供給系


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内に設置される基板に対して、前記基板の膜形成面側と対向するようにして前記真空チャンバー内に設けた加熱手段と、
前記真空チャンバー内の前記基板側と前記加熱手段側との間を通気可能状態で分離するように設置した熱線を透過す赤外線透過窓と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に原料ガスを供給する原料ガス導入手段と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側に不活性ガスを供給する不活性ガス導入手段と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側から排気する排気手段と、を備えた、
ことを特徴とする熱CVD装置。
【請求項2】
前記不活性ガス導入手段は、前記加熱手段側の圧力が前記基板側の圧力より高くもしくは略同じになるように前記不活性ガスを導入する、
ことを特徴とする請求項1に記載の熱CVD装置。
【請求項3】
真空チャンバー内に設置される基板に対して、前記基板の膜形成面側と対向するようにして前記真空チャンバー内に設けた加熱手段と、
前記真空チャンバー内の前記基板側と前記加熱手段側との間を気密状態で分離するように設置した熱線を透過する赤外線透過窓と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に原料ガスを供給する原料ガス導入手段と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側にガスを供給するガス導入手段と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側を排気する第1の排気手段と、
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記加熱手段側を排気する第2の排気手段と、を備えた、
ことを特徴とする熱CVD装置。
【請求項4】
前記第1の排気手段と前記第2の排気手段の稼動により、前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側と前記加熱手段側の各圧力が成膜プロセス工程中において略同じになるように制御する、
ことを特徴とする請求項3に記載の熱CVD装置。
【請求項5】
前記原料ガスは炭素含有ガスを含んでおり、前記加熱手段により加熱された前記基板上に熱CVD法によってカーボン膜を成膜する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱CVD装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、赤外光を発する赤外線ランプである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱CVD装置。
【請求項7】
前記真空チャンバー内の前記赤外線透過窓により分離された前記基板側に酸素ガスを供給する酸素ガス導入手段を有している、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱CVD装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−9073(P2006−9073A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185930(P2004−185930)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】