説明

燃料噴射弁

【課題】ニードル弁の開弁作動時における可動コアと固定コアとの衝突力を低減することの可能な燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】ニードル弁30と共に軸方向へ往復移動可能な可動コア60は、軸方向に通じる連通路62、及びこの連通路62の固定コア50側で噴孔側に凹む溝部63を有する。固定コア50は、可動コア60側の端面に、溝部63に入り込むことの可能な突部52を有する。コイル40に通電され、可動コア60が固定コア50側へ磁気吸引されるとき、突部52の径方向の外壁53と溝部63の径方向の内壁64との間に絞り流路が形成される。この絞り流路は、その流路断面積が連通路62の流路断面積より小さい。このため、ニードル弁30の開弁作動時、可動コア60と固定コア50との間のギャップ18から連通路62へ流れる燃料の流れが絞り流路によって規制され、可動コア60の加速が減衰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に燃料を噴射供給する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクから高圧ポンプによって加圧圧送され、デリバリパイプに蓄圧された燃料を内燃機関に噴射供給する電磁式の燃料噴射弁が知られている。燃料噴射弁は、コイルに通電されると、可動コアを固定コア側に磁力により吸引し、その可動コアと共に移動するニードル弁により噴孔を開閉することで燃料を噴射する。
特許文献1に記載の燃料噴射弁では、可動コアに軸方向に通じる連通路が設けられている。連通路は、可動コアと固定コアとの間のギャップと、可動コアより噴孔側の燃料通路とを連通している。さらに、可動コアには、連通路の固定コア側で噴孔側へテーパ状に凹む凹部が形成されている。
コイルに通電され、可動コアが固定コア側へ磁気吸引されるとき、可動コアと固定コアとの間のギャップ内の燃料は、テーパ状の凹部及び連通路を経由し、可動コアより噴孔側の燃料通路へ流れる。このため、ギャップ内の燃料圧力が速やかに低下することで、ニードル弁の開弁速度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−517141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の燃料噴射弁によると、可動コアと固定コアとが当接する時まで可動コアが加速されることで、可動コアと固定コアとの衝突力が大きくなり、ニードル弁及び可動コアがバウンスするおそれがある。これにより、燃料噴射量の制御が困難になることが懸念される。
また、可動コアと固定コアとが衝突するときの衝突音が大きくなるおそれがある。さらに、可動コアと固定コアとの衝突により、可動コア及び固定コアが損傷するおそれがある。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニードル弁の開弁作動時における可動コアと固定コアとの衝突力を低減することの可能な燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明によると、筒状のハウジングは、燃料が噴射される噴孔、この噴孔に連通する燃料通路、及び噴孔と燃料通路との間に形成される弁座を有する。このハウジング内に軸方向に往復移動可能に設けられるニードル弁は、弁座に着座又は離座することで噴孔を開閉する。コイルは、通電されることで磁界を発生する。固定コアは、ハウジング内でコイルの発生する磁界内に固定される。可動コアは、固定コアの噴孔側で、ニードル弁と共に軸方向へ往復移動可能に設けられる。
可動コアは、可動コアと固定コアとの間のギャップと可動コアより噴孔側の燃料通路とを連通する連通路、及びこの連通路の固定コア側で噴孔側に凹む溝部を有する。
固定コアは、可動コア側の端面に溝部に入り込むことの可能な突部を有する。コイルへの通電により可動コアが固定コア側へ磁気吸引されるとき、突部の径方向の外壁と溝部の径方向の内壁との間に絞り流路が形成される。この絞り流路の断面積は、連通路の断面積より小さい。
【0006】
ニードル弁が噴孔を開放する開弁作動時において、可動コアが固定コア側へ磁気吸引されると、可動コアと固定コアとの間のギャップ内の燃料は連通路を経由し、可動コアより噴孔側の燃料通路へ流れる。このとき、可動コアと固定コアとが衝突する前に、突部の径方向の外壁と溝部の径方向の内壁との間に絞り流路が形成され、ギャップから連通路への燃料の流れが規制される。このため、ギャップ内の燃料圧力により、可動コアの移動を妨げる抵抗力が増大する。したがって、可動コアの加速が減衰され、可動コアと固定コアとが衝突するときの衝突力が低減する。この結果、可動コア及びニードル弁のバウンスが抑制されるので、燃料噴射量の制御を精密に行うことができる。また、可動コアと固定コアとの衝突音を低減することができる。さらに、可動コア及び固定コアの衝突による損傷を防ぐことができる。
【0007】
請求項2に係る発明によると、突部の径方向の外壁は、軸方向に平行に形成された第1平行部を有する。一方、溝部の径方向の内壁は、軸方向に平行に形成された第2平行部を有する。第1平行部と第2平行部により形成される絞り流路の断面積は、連通路の断面積より小さい。第1平行部と第2平行部の軸方向の長さの設定により、ギャップから連通路への燃料の流れを規制する時間を調節することが可能になる。その時間に可動コアの加速が減衰されるので、可動コアと固定コアとが衝突するときの衝突力を確実に低減することができる。
【0008】
請求項3に係る発明によると、第1平行部を軸に垂直な仮想平面に投影したときの面積をS1、第2平行部をその仮想平面に投影したときの面積をS2、連通路をその仮想平面に投影したときの面積をS3とすると、S2−S1<S3の関係を満たす。これにより、第1平行部と第2平行部により形成される絞り流路の断面積(S2−S1)を、連通路の断面積S3より小さくすることが可能になる。
【0009】
請求項4に係る発明によると、突部の軸方向溝部側の壁面は、溝部側に凸状の曲面である。また、溝部の軸方向突部側の壁面は、噴孔側に凹状の曲面である。これにより、突部と溝部との間の流体抵抗が低減され、可動コアより噴孔側の燃料通路とギャップとの間を燃料が速やかに流れる。したがって、開弁応答性及び閉弁応答性を高めることができる。
【0010】
請求項5に係る発明によると、突部の軸方向溝部側の壁面の曲率半径をR1、溝部の軸方向突部側の壁面の曲率半径をR2とすると、R1<R2の関係を満たす。これにより、突部と溝部とが線接触するので、可動コアが固定コアから離れるときのリンギング力を低減することができる。したがって、閉弁応答性を高めることができる。
【0011】
請求項6に係る発明によると、溝部は、ニードル弁の軸の周りに環状に形成される。突部は、溝部の軸方向固定コア側で、環状に形成される。これにより、可動コアが周方向に回転移動した場合、突部が溝部に確実に入り込むことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の要部断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の開弁作動時を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の開弁作動時を示す要部断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁と従来の燃料噴射弁の特性図である。
【図6】本発明の第2実施形態による燃料噴射弁を示す要部断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態による燃料噴射弁を示す要部断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態による燃料噴射弁を示す要部断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態による燃料噴射弁を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を図1〜図5に示す。燃料噴射弁1は、燃料タンクから高圧ポンプによって加圧圧送され、デリバリパイプに蓄圧された燃料を内燃機関に噴射供給する。
図1に示すように、燃料噴射弁1は、ハウジング10、ニードル弁30、コイル40、固定コア50及び可動コア60等を備えている。
ハウジング10は、第1磁性部11、非磁性部12及び第2磁性部13を有している。第1磁性部11、非磁性部12及び第2磁性部13は、略円筒状に形成され、燃料入口14側からこの順に接続している。非磁性部12は、第1磁性部11と第2磁性部13との間の磁気的な短絡を防止する。
第1磁性部11の非磁性部12と反対側の端部に、燃料入口14を形成する筒状の入口部材15が接合している。入口部材15の径内側には、フィルタ16が設けられている。燃料入口14から流入した燃料は、フィルタ16によって燃料の中の異物が捕獲され、ハウジング10の内側に形成される燃料通路17に導入される。
【0015】
ハウジング10は、第2磁性部13の非磁性部12と反対側の端部にノズルボディ20を有している。ノズルボディ20は、有底筒状に形成され、底部21および筒部22を有する。筒部22は、第2磁性部13の内側に接合している。底部21には、噴孔23が形成されている。また、底部21の内壁には、凹テーパ状の弁座24が形成されている。
【0016】
ニードル弁30は、円柱状に形成され、ハウジング10内に軸方向へ往復移動可能に収容されている。
ニードル弁30は、燃料入口14側の端部から径外方向に環状に延びる鍔部31を有している。鍔部31は、可動コア60の軸方向燃料入口14側の端面に当接可能である。
ニードル弁30の鍔部31側は、中空筒状に形成されている。ニードル弁30には、中空筒状に形成された部分の内側と外側とを径方向に通じる孔32が形成されている。この孔32を通り、燃料が流通可能である。
ニードル弁30のノズルボディ20側の端部には、シート部33が形成されている。シート部33は、弁座24に当接可能である。ニードル弁30には、シート部33から軸方向に所定の距離離れた位置に摺動部34が形成されている。摺動部34は、ノズルボディ20の筒部22の内壁と摺動する。摺動部34の径外側の外壁一部に面取り部35が設けられる。この面取り部35と筒部22の内壁との間を燃料が流通可能である。
ニードル弁30は、シート部33が弁座24に着座することで噴孔23に通じる燃料通路17を閉塞し、シート部33が弁座24から離座することで噴孔23に通じる燃料通路17を開放する。
以下、ニードル弁30が弁座24から離座する方向を開弁方向といい、ニードル弁30が弁座24に着座する方向を閉弁方向という。
【0017】
燃料噴射弁1は、ニードル弁30を駆動する電磁駆動部を有している。電磁駆動部は、コイル40、固定コア50及び可動コア60等から構成される。
ハウジング10の第1磁性部11及び非磁性部12の径外側にスプール41が設けられる。スプール41にコイル40が巻回されている。コイル40の外側には、磁性材からなる筒状のホルダ42が設けられている。コイル40は、コネクタ43の端子44と電気的に接続している。コネクタ43を通じてコイル40に通電されると、コイル40は磁界を生じる。
【0018】
固定コア50は、磁性材により略円筒状に形成され、ハウジング10の第1磁性部11の径内側に固定されている。固定コア50には、その中心に軸方向に通じる孔51が設けられている。この孔51に、第1スプリング70が挿入されている。第1スプリング70は、一端がニードル弁30の鍔部31に当接し、他端が固定コア50の内側に圧入固定されたアジャスティングパイプ71に当接している。アジャスティングパイプ71の圧入量により、第1スプリング70の荷重が設定される。第1スプリング70は、ニードル弁30を閉弁方向へ付勢している。
【0019】
可動コア60は、磁性材から略円筒状に形成され、固定コア50の噴孔23側に設けられている。
可動コア60は、ハウジング10の内側に軸方向に往復移動可能に設けられている。コイル40に通電されていない状態で、可動コア60と固定コア50との間には、所定のギャップ18(図2参照)が形成される。
可動コア60には、その中心に軸方向に通じる孔61が設けられている。この孔61にニードル弁30が挿通される。可動コア60とニードル弁30とは軸方向に相対移動可能である。
なお、ニードル弁30は、可動コア60の径内側に位置する部分が可動コア60の孔61の内壁と摺動する。ニードル弁30は、ノズルボディ20側に設けられた摺動部34と、可動コア60の内側の摺動箇所との2か所で案内され、ハウジング10の内側を往復移動可能である。
【0020】
第2スプリング72は、一端が可動コア60の噴孔23側の凹み67に当接し、他端が第1磁性部11に形成された段差面73に当接している。第2スプリング72は、可動コア60を開弁方向に付勢している。
第1スプリング70の付勢力は、第2スプリング72の付勢力よりも大きく設定されている。したがって、コイル40に通電されないとき、ニードル弁30のシート部33は、弁座24に着座する。
【0021】
次に、本実施形態の特徴となる構成を図2に基づき説明する。
図2(A)は、本実施形態の燃料噴射弁1の電磁駆動部の模式図である。図2(B)は、図2(A)のII−II線断面図であり、可動コア60のみを示すものである。
図2は、コイル40への通電がオフの状態を示している。
可動コア60には、軸方向に通じる連通路62が設けられている。連通路62は、可動コア60と固定コア50との間のギャップ18と、可動コア60より噴孔23側でニードル弁30とハウジング10との間に形成される下流側燃料通路19とを連通する。本実施形態において、連通路62は、ニードル弁30の軸の周りに6個設けられている。なお、連通路62の個数は、適宜設定可能である。
また、可動コア60は、連通路62の固定コア50側で噴孔23側に凹む溝部63を有している。溝部63は、ニードル弁30の軸の周りに円環状に形成されている。
溝部63の径方向の内壁は、軸方向に平行な第2平行部64を有している。また、溝部63の軸方向固定コア50側の壁面65は、噴孔23側に凹む曲面に形成されている。
【0022】
固定コア50は、可動コア60側の端面に突部52を有している。突部52は、溝部63の軸方向固定コア50側に位置している。突部52は、ニードル弁30の軸の周りに円環状に形成されている。
突部52の径方向の外壁は、軸方向に平行に形成された第1平行部53を有している。また、突部52の軸方向溝部63側の壁面54は、溝部63側に凸状の曲面に形成されている。
ここで、突部52の軸方向溝部63側の壁面54の曲率半径をR1、溝部63の軸方向突部52側の壁面65の曲率半径をR2とする。このとき、溝部63と突部52は、R1<R2の関係を満たすように形成される。これにより、コイル40に通電され、可動コア60が固定コア50に磁気吸引されるとき、突部52と溝部63とが線接触することが可能になる。
第1平行部53を軸に垂直な仮想平面に投影したときの面積をS1、第2平行部64をその仮想平面に投影したときの面積をS2、連通路62をその仮想平面に投影したときの面積をS3とする。このとき、溝部63と突部52は、S2−S1<S3の関係を満たすように形成される。これにより、突部52が溝部63に入り込むとき、第1平行部53と第2平行部64の間に形成される絞り流路T(図4、図5参照)の断面積(S2−S1)が、連通路62の断面積S3より小さくなる。
【0023】
燃料噴射弁1の作動について説明する。
燃料入口14からハウジング10内に流入した燃料は、固定コア50の中央の孔51、ニードル弁30の内側と外側、ギャップ18及び下流側燃料通路19などに充満する。
コイル40に通電されると、コイル40の発生する磁界により、第1磁性部11、固定コア50、可動コア60および第2磁性部13などから形成される磁気回路に磁束が流れる。これにより、可動コア60は、図3の矢印Pに示すように、固定コア50に磁気吸引される。このとき、ニードル弁30の鍔部31と可動コア60とが当接することで、ニードル弁30は、可動コア60と共に開弁方向へ移動する。したがって、シート部33が弁座24から離座し、噴孔23から燃料が噴射される。
可動コア60が固定コア50側に移動すると、噴孔23が開放されると共に、下流側燃料通路19の容積が大きくなるので、下流側燃料通路19の燃料圧力が低下する。一方、ギャップ18内の燃料は圧縮される。下流側燃料通路19の燃料とギャップ18内の燃料との圧力差により、ギャップ18内の燃料は矢印Qに示すように連通路62を通り、下流側燃料通路19へ流れる。このため、ギャップ18内の燃料圧力が低下するので、可動コア60が速やかに移動する。
【0024】
図4(A)に示すように、可動コア60と固定コア50との距離が近くなり、突部52が溝部63に入り込むと、第1平行部53と第2平行部64により絞り流路Tが形成される。この絞り流路Tの断面積(S2−S1)は、連通路62の断面積S3より小さい。このため、ギャップ18から連通路62への燃料の流れが規制される。このため、ギャップ18内の燃料圧力の低下が制限され、ギャップ18内の燃料圧力による可動コア60の移動を妨げる抵抗力が増大する。したがって、可動コア60の加速度が小さくなる。
【0025】
図4(B)に示すように、可動コア60が固定コア50側にさらに移動すると、突部52の軸方向溝部63側の壁面54と、溝部63の軸方向固定コア50側の壁面65とが当接する。このとき、可動コア60と固定コア50との衝突力が低減されるので、ニードル弁30は、慣性によりさらに開弁方向へ移動することが抑制される。したがって、ニードル弁30及び可動コア60のバウンスを抑制することができる。
【0026】
一方、コイル40への通電がオフされると、第1スプリング70の付勢力により、ニードル弁30は可動コア60と共に閉弁方向へ移動する。ニードル弁30のシート部33が弁座24に着座することで、燃料噴射が遮断される。
【0027】
次に、ニードル弁30の開弁作動時におけるギャップ18と下流側燃料通路19との間の最小流路断面積の変化を図5に示す。
図5では、可動コアのリフト量を横軸とし、ギャップと下流側燃料通路との間に形成される流路の最小流路断面積を縦軸としている。
本実施形態の燃料噴射弁1における最小流路断面積の変化を実線Aで示し、従来の燃料噴射弁における最小流路断面積の変化を破線Bで示す。
ここで、従来の燃料噴射弁とは、可動コアに連通路のみが形成され、溝部と突部が設けられていないものである。
【0028】
従来の燃料噴射弁の場合、ニードル弁の開弁作動時、ギャップと下流側燃料通路との間に形成される流路の最小流路断面積は、開弁開始から可動コアのリフト量がL3になるまで、連通路の断面積S3である。リフト量がL3の時点で、ギャップの流路断面積と連通路の流路断面積とが同じになる。それ以降、ギャップの流路断面積が可動コアのリフトと共に急激に小さくなり、リフト量がL5(フルリフト)で、可動コアと固定コアとが当接する。
【0029】
これに対し、本実施形態の燃料噴射弁1では、開弁開始から可動コア60のリフト量がL1になるまで、ギャップ18と下流側燃料通路19との間に形成される流路の最小流路断面積は、連通路62の断面積S3である。
リフト量L1で、突部52が溝部63に入り込む。そして、リフト量がL2からL4までの一定時間、第1平行部53と第2平行部64により形成される絞り流路Tの断面積(S2−S1)が、ギャップ18と下流側燃料通路19との間の最小流路断面積となる(図4(A)参照)。
リフト量L4以降、突部52の軸方向の壁面54と溝部63の軸方向の壁面65との間の流路の断面積が、絞り流路Tの断面積(S2−S1)より小さくなる。そして、リフト量がL5(フルリフト)で、突部52と溝部63とが当接する(図4(B)参照)。
【0030】
本実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)本実施形態では、ニードル弁30の開弁作動時、可動コア60のリフト量がL2からL4に移行する間、第1平行部53と第2平行部64により絞り流路Tが形成され、ギャップ18から連通路62への燃料の流れが規制される。このため、ギャップ18内の燃料圧力の低下が抑制され、可動コア60の移動を妨げる抵抗力が増大する。したがって、可動コア60の加速度が小さくなり、可動コア60と固定コア50とが衝突するときの衝突力が低減する。この結果、可動コア60及びニードル弁30のバウンスが抑制されるので、燃料噴射量の制御を精密に行うことができる。また、可動コア60と固定コア50との衝突音を低減することができる。さらに、可動コア60及び固定コア50の衝突による損傷を防ぐことができる。
なお、リフト量L2からL4までの間隔は、第1平行部53と第2平行部64の軸方向の長さにより設定可能である。また、絞り流路Tの断面積(S2−S1)は、第1平行部53を軸に垂直な仮想平面に投影したときの面積S1と、第2平行部64をその仮想平面に投影したときの面積S2との差により設定可能である。この設定により、可動コア60と固定コア50との衝突力を確実に低減することができる。
【0031】
(2)本実施形態では、可動コア60のフルリフト時、突部52の軸方向溝部63側の壁面54と、溝部63の軸方向突部52側の壁面65とが線接触する。これにより、可動コア60と固定コア50とが密着することなく、可動コア60が固定コア50から離間するときのリンギング力を低減することができる。したがって、閉弁応答性を高めることができる。
【0032】
(3)本実施形態では、突部52の軸方向溝部63側の壁面54が、溝部63側に凸状の曲面である。また、溝部63の軸方向突部52側の壁面65が、噴孔23側に凹状の曲面である。これにより、突部52と溝部63との間の流体抵抗が低減され、下流側燃料通路19とギャップ18との間を燃料が速やかに流れる。したがって、開弁応答性及び閉弁応答性を高めることができる。
(4)本実施形態では、溝部63は、ニードル弁30の軸の周りに環状に形成される。突部52は、溝部63の軸方向固定コア50側に位置し、ニードル弁30の軸の周りに環状に形成される。これにより、可動コア60が周方向に回転移動した場合にも、突部52が溝部63に確実に入り込むことが可能になる。
【0033】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の燃料噴射弁を図6に示す。以下、複数の実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、溝部631が各連通路62ごとに形成されている。溝部631は、それぞれ対応する連通路62の周囲に、連通路62と略同軸に形成されている。
突部521は、各溝部631の軸方向固定コア50側に位置し、固定コア50の可動コア60側の端面に複数個設けられている。
なお、可動コア60の径外側には平面部66が形成されている。この平面部66に対応してハウジング10の内壁に図示しない平面部が形成される。これにより、可動コア60は、固定コア50に対し、周方向への回転移動が規制される。したがって、突部521は、対応する溝部631に確実に入り込むことが可能になる。
【0034】
突部521の第1平行部531と、溝部631の第2平行部641と、連通路62とは、S2−S1<S3の関係を満たすように形成されている。また、突部521の軸方向溝部631側の壁面541と、溝部631の軸方向突部521側の壁面651は、R1<R2の関係を満たすように形成されている。これにより、第1平行部531と第2平行部641の間に形成される絞り流路の断面積(S2−S1)は、連通路62の断面積S3より小さい。また、突部521と溝部631とは線接触することが可能である。
本実施形態では、第1実施形態と比較して、連通路62の断面積S3と溝部631の面積S2との差が小さい。このため、第1実施形態と比較して、突部521の第1平行部531と溝部631の第2平行部641との間の距離を大きく形成することが可能になる。したがって、突部521及び溝部631を容易に形成することができる。
【0035】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態の燃料噴射弁を図7に示す。本実施形態では、溝部632の軸方向固定コア50側の壁面652は、軸に垂直な平面状に形成されている。また、突部522の軸方向溝部632側の壁面542は、軸に垂直な平面状に形成されている。
突部522の第1平行部532と、溝部632の第2平行部642と、連通路62とは、S2−S1<S3の関係を満たすように形成されている。
【0036】
本実施形態では、溝部632の軸方向固定コア50側の壁面652、及び突部522の軸方向溝部632側の壁面542を軸に垂直な平面状に形成することで、溝部632及び突部522の加工が容易になる。したがって、加工コストを低減することができる。
また、溝部632と突部522とが当接する面積は、可動コア60を軸に垂直な仮想平面に投影したときの面積より小さい。したがって、突部及び溝部を設けていない従来の燃料噴射弁と比較して、可動コア60が固定コア50から離間するときのリンギング力を低減することができる。
【0037】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態の燃料噴射弁を図8に示す。図8では、ニードル弁30がフルリフトした状態を示している。本実施形態では、可動コア60のフルリフト時、溝部633と突部523とが当接することなく、可動コア60の固定コア50側の端面と、固定コア50の可動コア60側の端面とが当接する。
突部523の第1平行部533と、溝部633の第2平行部643と、連通路62とは、S2−S1<S3の関係を満たすように形成されている。また、突部523の軸方向溝部633側の壁面543と、溝部633の軸方向突部523側の壁面653は、R1<R2の関係を満たすように形成されている。これにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、可動コア60と固定コア50が当接する面積は、突部及び溝部を設けていない従来の燃料噴射弁と比較して、凹部の面積S2分小さい。したがって、従来の燃料噴射弁と比較して、可動コア60が固定コア50から離間するときのリンギング力を低減することができる。
【0038】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態の燃料噴射弁を図9に示す。本実施形態では、溝部634の軸方向固定コア50側の壁面が、噴孔23側に凹むテーパ面654に形成されている。また、突部524の軸方向溝部634側の壁面が、溝部634側に凸状のテーパ面544に形成されている。
本実施形態において、突部524の第1平行部534とテーパ面544とのなす角をθ1とし、溝部634の第2平行部644とテーパ面654とのなす角をθ2とする。このとき、θ1<θ2、または、θ1>θ2の関係を満たすように溝部634と突部524は形成される。これにより、突部524と溝部634とが線接触することが可能になる。このため、可動コア60が固定コア50から離間するときのリンギング力を低減することができる。したがって、閉弁応答性を高めることができる。
また、本実施形態では、突部524と溝部634のテーパ面544、654により、突部524と溝部634との間の流体抵抗が低減され、下流側燃料通路19とギャップ18との間を燃料が速やかに流れる。したがって、開弁応答性及び閉弁応答性を高めることができる。
さらに、本実施形態では、溝部634の軸方向固定コア50側の壁面、及び溝部634の軸方向固定コア50側の壁面を曲面に形成することと比較して、溝部634及び突部524の加工が容易になる。したがって、加工コストを低減することができる。
【0039】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態では、突部の径方向の外壁に第1平行部を形成し、溝部の径方向の内壁に第2平行部を形成した。これに対し、本発明は、突部の径方向の外壁と溝部の径方向の内壁は、その間に、連通路よりも流路断面積の小さい絞り流路を形成することが可能であれば、軸に平行な面に限らず、例えば曲面またはテーパ状であってもよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ・・・燃料噴射弁
10 ・・・ハウジング
17 ・・・燃料通路
18 ・・・ギャップ
19 ・・・下流側燃料通路(燃料通路)
23 ・・・噴孔
24 ・・・弁座
30 ・・・ニードル弁
40 ・・・コイル
50 ・・・固定コア
52,521,522,523,524・・・突部
53 ・・・第1平行部
60 ・・・可動コア
62 ・・・連通路
63,631,632,633,634・・・溝部
64 ・・・第2平行部
T ・・・絞り流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が噴射される噴孔、この噴孔に連通する燃料通路、及び前記噴孔と前記燃料通路との間に形成される弁座を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に軸方向に往復移動可能に設けられ、前記弁座に着座又は離座することで前記噴孔を開閉するニードル弁と、
通電されることで磁界を発生するコイルと、
前記ハウジング内で前記コイルの発生する磁界内に固定される固定コアと、
前記固定コアの前記噴孔側に設けられ、前記ニードル弁と共に軸方向へ往復移動可能な可動コアと、を備え、
前記可動コアは、前記可動コアと前記固定コアとの間のギャップと前記可動コアより前記噴孔側の燃料通路とを連通する連通路、及びこの連通路の前記固定コア側で前記噴孔側に凹む溝部を有し、
前記固定コアは、前記可動コア側の端面に溝部に入り込むことの可能な突部を有し、
前記コイルへの通電により前記可動コアが前記固定コア側へ磁気吸引されるとき、前記突部の径方向の外壁と前記溝部の径方向の内壁との間に形成される絞り流路の断面積は、前記連通路の断面積より小さいことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記突部の径方向の外壁は、軸方向に平行に形成された第1平行部を有し、
前記溝部の径方向の内壁は、軸方向に平行に形成された第2平行部を有し、
前記コイルへの通電により前記可動コアが前記固定コア側へ磁気吸引されるとき、前記第1平行部と前記第2平行部により形成される前記絞り流路の断面積は、前記連通路の断面積より小さいことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記第1平行部を軸に垂直な仮想平面に投影したときの面積をS1、前記第2平行部を前記仮想平面に投影したときの面積をS2、前記連通路を前記仮想平面に投影したときの面積をS3とすると、
S2−S1<S3の関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記突部の軸方向溝部側の壁面は、前記溝部側に凸状の曲面であり、
前記溝部の軸方向突部側の壁面は、前記噴孔側に凹状の曲面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記突部の軸方向溝部側の壁面の曲率半径をR1、前記溝部の軸方向突部側の壁面の曲率半径をR2とすると、
R1<R2の関係を満たすことを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
前記溝部は、前記ニードル弁の軸の周りに環状に形成され、
前記突部は、前記溝部の軸方向固定コア側で、環状に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97704(P2012−97704A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248199(P2010−248199)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】