説明

燃料噴射弁

【課題】デポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果の耐久性を向上させる。
【解決手段】ニードル4の先細り部5における当接部13より先端側には、窪み部14が設けられており、サック室19における燃料流れ上流端部での直径Dsacが、窪み部14における燃料流れ上流端部での直径Dguより小さく、且つ窪み部14における燃料流れ下流端部での直径Dglより大きい。窪み部14で発生したキャビテーション気泡が噴孔9内で崩壊するときの衝撃力によって噴孔9内のデポジットを浸食することができるとともに、キャビテーション気泡の発生による燃料流量の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を噴孔から噴射する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジン等の内燃機関において連続運転を行った場合に、燃料噴射弁の噴孔内にデポジットが付着すると、噴孔の有効径が減少して単位時間当たりの燃料噴射量(噴射率)が減少したり、燃料の噴射方向や噴霧角が変化したりして、排気特性の悪化等を招きやすくなる。
【0003】
下記特許文献1では、燃料噴射ノズルの噴孔の周りに、例えばジュラルミンや酸化チタンのような高膨張率物質を環状のコーティング部として設けている。コーティング部の熱膨張率を、カーボン等からなるデポジットの熱膨張率よりも大きくするので、燃焼室内の温度変化によってコーティング部が厚さ方向に伸縮するときに、付着したデポジットがせん断力を受けて剥離するようにしている。あるいは、噴孔の周りに設ける環状のコーティング部を、フッ素樹脂のような撥油性物質によって形成することで、デポジットが付着し難いようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−364498号公報
【特許文献2】特表2004−519604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、燃料噴射ノズルの噴孔がエンジン筒内の高温・高圧のガスに晒されるため、噴孔の周りに設けたコーティング部が経時劣化等により取れる可能性がある。その結果、噴孔内でのデポジットの堆積をコーティング部により抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果の耐久性が低下する。
【0006】
本発明に係る燃料噴射弁は、噴孔内でのデポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料噴射弁は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る燃料噴射弁は、先端部に先細り部を有するニードルと、ニードルの先細り部が当接するシート面が形成され、該シート面より先端側に、噴孔が形成されたサック部を有するノズルボディと、を備える燃料噴射弁であって、ニードルの先細り部には、ノズルボディのシート面に当接する当接部が設けられ、ニードルの先細り部における当接部より先端側には、窪み部が設けられ、ニードルの先細り部における当接部より先端側が、ノズルボディのサック部によって形成され且つ噴孔に連通するサック室に臨んで配置され、ニードルの当接部がノズルボディのシート面から離れることで、ノズルボディのシート面とニードルの先細り部との間を流れる燃料が、サック室を通って噴孔から噴射され、サック室における燃料流れ上流端部での直径が、窪み部における燃料流れ上流端部での直径より小さく、且つ窪み部における燃料流れ下流端部での直径より大きいことを要旨とする。
【0009】
本発明の一態様では、窪み部における燃料流れ上流端部が、当接部に対して燃料流れ下流側に所定距離はなされて配置されていることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、窪み部で発生したキャビテーション気泡が噴孔内で崩壊するときの衝撃力によって噴孔内のデポジットを浸食することができるとともに、キャビテーション気泡の発生による燃料流量の低下を抑制することができる。その結果、噴孔内でのデポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料噴射弁の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料噴射弁の他の概略構成を示す図である。
【図3】噴孔中心を含む縦断面内でのキャビテーション気泡のボイド率分布と、噴孔表面でのデポジットの浸食速度分布を数値計算した結果の一例を示す図である。
【図4】噴孔全域での浸食速度の平均値を計算した結果の一例を示す図である。
【図5】窪み部の上流端部位置(Dgu−Dsac)と浸食速度(時間平均)との関係を計算した結果を示す図である。
【図6】環状溝の円弧半径を変化させた場合に噴孔全域での浸食速度の平均値を計算した結果の一例を示す図である。
【図7】窪み部の下流端部位置(Dgl−Dsac)と燃料流量との関係を計算した結果を示す図である。
【図8】デポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果をエンジン実験で確認した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料噴射弁の概略構成を示す図であり、中心軸と直交する方向から見た噴射弁先端部の内部構成を示す。本実施形態に係る燃料噴射弁は、内開弁形式の噴射弁であり、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関にて用いられるものである。なお、噴射弁先端部以外の構成については、公知の構成を適用可能であるため、図1では図示を省略している。
【0014】
ノズルボディ7の中空部にはニードル4が内挿されており、ニードル4はノズルボディ7の内周面に沿って摺動可能な状態で支持されている。ノズルボディ7の内部(ニードル4の外周面とノズルボディ7の内周面との間)には燃料室18が形成されており、図示しない燃料ポンプにより圧送された燃料が燃料室18に供給される。ニードル4は、その先端部に先細り部5を有しており、ノズルボディ7の内周面には、ニードル4の先細り部5が当接する円錐面形状のシート面6が形成されている。ノズルボディ7は、概ね半球形状のサック部8をシート面6より先端側に有しており、サック部8には複数の噴孔9が形成されている。図1に示す例では、円筒形状の噴孔9が放射状に配置されている。
【0015】
ニードル4の先細り部5には、円錐面11,12が形成されており、円錐面12が円錐面11より先端側に位置する。円錐面12の円錐角θ2は、円錐面11の円錐角θ1より大きく(θ2>θ1)、シート面6の円錐角θseatは、円錐面11の円錐角θ1より大きく、且つ円錐面12の円錐角θ2より小さい(θ2>θseat>θ1)。円錐面11と円錐面12との接続部分が、ノズルボディ7のシート面6に当接する当接部13となる。ニードル4の先細り部5における当接部13より先端側が、ノズルボディ7のサック部8によって形成され且つ噴孔9に連通するサック室19に臨んで配置されている。
【0016】
ニードル4は図示しないニードル駆動機構(例えばソレノイドやピエゾ素子等を用いた電磁アクチュエータ)により駆動可能である。例えばニードル駆動機構を駆動していない場合は、ニードル4が図示しないばねやニードル後端部に作用する燃料圧力によりノズルボディ7のシート面6側(図1の下側)へ付勢されていることで、ニードル4の当接部13がシート面6に密着している。この場合は、燃料室18と各噴孔9との連通が遮断され、燃料が噴射されない。一方、ニードル駆動機構を駆動すると、ニードル4の当接部13がノズルボディ7のシート面6から離れることで、燃料室18が各噴孔9と連通し、燃料室18に供給された燃料が、ノズルボディ7のシート面6とニードル4の先細り部5との間の燃料流路を流れ、サック室19を通って各噴孔9から内燃機関(例えばディーゼルエンジン)の筒内に噴射される。その際には、サック室19が圧力溜まりとして機能し、サック室19から各噴孔9に燃料が均等に分散する。
【0017】
本実施形態では、ニードル4の先細り部5の円錐面12に環状溝が形成されていることで、ニードル4の先細り部5における当接部13より先端側(燃料流れ下流側)には、ノズルボディ7のシート面6に対し離間するよう径方向内側に窪んだ窪み部14が全周に渡って設けられている。さらに、ニードル4の先細り部5における窪み部14より先端側には、円錐面15が形成されている。図1は、円錐面15の円錐角θ3が円錐面12の円錐角θ2より大きい例(θ3>θ2)を示しているが、例えば図2に示すように、円錐面15の円錐角θ3を円錐面12の円錐角θ2に等しくすることも可能であるし、円錐面15の円錐角θ3を円錐面12の円錐角θ2より小さくすることも可能である。さらに、窪み部14における燃料流れ上流端部(円錐面12との接続部分)での直径Dguは、サック室19における燃料流れ上流端部(サック部8の内周面とシート面6との接続部分)での直径Dsacより大きく(Dgu>Dsac)、窪み部14における燃料流れ下流端部(円錐面15との接続部分)での直径Dglは、サック室19における燃料流れ上流端部での直径Dsacより小さい(Dgl<Dsac)。
【0018】
ディーゼルエンジン等の内燃機関において連続運転を行った場合に、噴孔9内にデポジットが付着すると、噴孔9の有効径が減少して単位時間当たりの燃料噴射量(噴射率)が減少したり、燃料の噴射方向や噴霧角が変化したりして、排気特性の悪化等を招きやすくなる。これに対して本実施形態では、燃料噴射時に、ニードル4の当接部13を通過した燃料は、ノズルボディ7のシート面6を沿うように流れ、窪み部14(環状溝)の上流端部で流れがニードル壁面から剥離し、剥離領域の圧力が燃料の飽和蒸気圧以下になってキャビテーション気泡が発生する。そして、サック室19内に流入したキャビテーション気泡を含む燃料は、サック室19の内壁に沿うようにして各噴孔9に流入する。なお、キャビテーションは窪み部14の全周に渡って発生するため、キャビテーション気泡は図1や図2に示す縦断面内のみだけではなく、その両脇からも噴孔9内に導かれる。噴孔9内で崩壊するキャビテーション気泡の衝撃力によって、噴孔9内に形成されたデポジットが浸食(剥離)される。
【0019】
ここで、窪み部14(環状溝)の燃料流れ上流端部位置をサック室19の内壁に対して変化させながら(Dgu−Dsacを変化させながら)、噴孔9表面のデポジットがキャビテーション気泡の崩壊によって浸食される速度(浸食速度とする)を市販のAVL社製熱流体解析ソフトFIRE(Version2008)を使用して数値計算した。噴孔9内に堆積するデポジットは運転条件等によって変化するため、ここでは鋼の物性値を用いて計算した。噴射圧=100MPa、噴射期間=1ms、噴孔9の直径=0.1mm、サック室19の直径Dsac=0.85mmの条件で、噴孔9中心を含む縦断面内でのキャビテーション気泡のボイド率(体積分率)分布と、噴孔9表面でのデポジットの浸食速度分布を数値計算した結果の一例を図3に示す。図3に示すように、窪み部14(環状溝)でキャビテーション気泡が発生し、噴孔9にキャビテーション気泡が流入することがわかる。図3に示す浸食速度データから、噴孔9全域での浸食速度の平均値をグラフ化した結果を図4に示す。図4には、本実施形態の計算結果の一例を従来ノズル(窪み部14が無い形状)と比較して示した。このようにして求めた浸食速度の時系列データを時間平均した値と、窪み部14の上流端部位置(Dgu−Dsac)との関係を整理した結果を図5に示す。図5には、時間平均した浸食速度の噴孔9内分布も併せて示した。
【0020】
図5のAに示すDgu−Dsac>0の範囲内では、図5のBに示すそれ以外の範囲と比較して、デポジットの浸食速度が増大しており、デポジット堆積に伴う流量低下に対する抑制効果があることがわかる。Dgu−Dsac>0の範囲内では、噴射開始直後に窪み部14の上端部で流れがニードル壁面から剥離して、剥離領域の圧力が燃料の飽和蒸気圧以下になってキャビテーションが発生する。さらに、窪み部14では縦渦が発達して、その中心部の圧力が燃料の飽和蒸気圧以下になってキャビテーションが発生する。このようにして窪み部14で発生したキャビテーション気泡がサック室19の内壁に沿うようにして噴孔9に流入し、噴孔9の内壁近傍でキャビテーション気泡が崩壊することで、噴孔9の内壁に形成されたデポジットが浸食されるため、デポジットの浸食速度が増大する。一方、範囲外の浸食速度は従来ノズル(窪み部14が無い形状)とほとんど差がみられなかった。これは、窪み部14の上端部がサック室19内に存在すると、ノズルボディ7のシート面6上を通過した燃料がサック室19の内壁を沿うようにして噴孔9に流入するために、窪み部14で強い縦渦が形成されず、キャビテーションの発生が抑制されるためである。なお、噴射開始直後の極めて短期間には、ノズルボディ7のシート面6上を通過した燃料がニードル4に沿うように流れるが、約0.1ms以下の短期間であり、浸食速度に対する効果はそれほど大きくない。そこで、本実施形態では、窪み部14(環状溝)の燃料流れ上流端部をサック室19の内壁(シート面6との接続部分)より径方向外側に配置し、Dgu−Dsac>0にすることで、噴孔9内でのキャビテーション気泡の崩壊によるデポジットの浸食効果を向上させることができる。なお、特許文献2では、ニードルにおける当接部より上流側及び下流側に切り欠きを設けているが、ノズルボディのシート面に対する当接部の「ずれ移動」を制限するためのものであり、噴孔内でのキャビテーション気泡の崩壊によるデポジットの浸食効果を狙ったものではない。
【0021】
また、燃料の多様化や地域差等によって想定外の物性の燃料(例えば飽和蒸気圧が高い成分を含有する燃料)が使用される場合や、燃料が超高圧噴射される場合には、窪み部14で大量のキャビテーション気泡が発生する可能性がある。その場合には、耐用年数以内に窪み部14の一部がキャビテーション気泡により浸食される可能性がないとは言い切れない。このとき、窪み部14の上流端部が当接部13と一致する場合には、当接部13が浸食されてシート不良による故障の原因になる。これを避けるためには、窪み部14の燃料流れ上流端部を、当接部13に対して燃料流れ下流側(ニードル先端側)に所定距離Lはなして配置することが好ましい。そうすれば万一、窪み部14の浸食が始まってもすぐにシート不良に至らず、ノズル(エンジン)の寿命を延ばすことができる。そのためには、当接部13と窪み部14の上流端部との距離Lを0.2mm以上に設定することが好ましい。ノズル(エンジン)の寿命をより延ばすためには、当接部13と窪み部14の上流端部との距離Lを0.3mm以上に設定することが好ましい。
【0022】
また、図5の浸食速度の結果に示すように、Dgu−Dsac>0の範囲内では、Dgu−Dsacの値が小さい、つまり窪み部14の上流端部を当接部13から離した方が浸食速度がやや高くなる。これは、窪み部14で発生したキャビテーション気泡が噴孔9に到達する前に崩壊して消滅するものもあり、窪み部14と噴孔9との距離が短い方が噴孔9に到達するキャビテーション気泡がやや多くなることによる。
【0023】
また、図1や図2に示す構成例では、窪み部14(環状溝)は円弧状であり、図6に示すように、円弧の半径が0.2mm〜0.6mmの範囲で数値計算し、浸食速度の増加に効果があることを確認した。ただし、窪み部14については、円弧状以外にも、例えば円弧と直線を組み合わせた形状や四角状や台形状等、窪み部14の上流端部で燃料流れを壁面から剥離させてキャビテーションを発生できる形状であれば、同様の効果が得られることは容易に推測できる。
【0024】
次に、窪み部14(環状溝)の燃料流れ下流端部位置をサック室19の内壁に対して変化させながら(Dgl−Dsacを変化させながら)、燃料流量を数値計算した結果を図7に示す。図7の縦軸の燃料流量は、窪み部14(環状溝)が無い場合の燃料流量で割って正規化(ノーマライズ)したものであり、ニードル4のリフト量が0.05mm、0.10mm、0.25mmであるときにおけるDgl−Dsacと燃料流量との関係を示す。図7に示すように、ニードル4のリフト量が大きい0.25mmのときには、Dgl−Dsac≧0の範囲において、窪み部14が無い場合より若干低い燃料流量を示すが、それほど大きな差ではない。しかし、ニードル4のリフト量が小さい0.05mm、0.10mmのときには、Dgl−Dsac≧0の範囲において、窪み部14が無い場合より燃料流量が大きく低下している。これに対して、Dgl−Dsac<0の範囲では、ニードル4のリフト量が小さいときにおいても、燃料流量の低下が抑制されていることがわかる。これは以下の理由による。窪み部14で発生したキャビテーション気泡は、その上流から流れてくる燃料(液相)とともに下流に流れる。Dgl−Dsac≧0の範囲では、窪み部14の下流端部とノズルボディ7のシート面6間の燃料(液相)の見かけ上の流路断面積(幾何学的な流路断面積からキャビテーション気泡が通過する流路断面積を差し引いた面積)が減少する。ニードル4のリフト量が小さいときには、ニードル4のリフト量が大きいときと比較して、幾何学的な流路断面積が小さく、幾何学的な流路断面積に対するキャビテーション気泡が通過する流路断面積の割合が大きくなる。その結果、キャビテーションがほとんど発生しない窪み部14が無い場合と比較して、シート面6の領域で燃料流量の低下が大きく現れる。これに対して、Dgl−Dsac<0の範囲では、キャビテーション気泡が発生しても窪み部14の下流端部での見かけ上の流路断面積を十分確保することができるため、ニードル4のリフト量が小さいときでも燃料流量の低下を抑制することができる。
【0025】
ニードル4のリフト量が小さく、当接部13で燃料の流路断面積が絞られているような場合(例えば図7におけるニードル4のリフト量が0.05mmの場合)には、燃料流量の小さいDgl−Dsac≧0の方が、燃料流量の大きいDgl−Dsac<0と比較して、サック室19内の圧力が低くなる。サック室19内の圧力が低いと、ニードル4をリフトさせる方向に働く力が弱いため、ニードル4のリフト速度が小さく、ニードル4のリフト量が小さい期間(サック室19内の圧力が低い期間)が長く続く。サック室19内の圧力が低いと、噴孔9から噴射される燃料噴霧の微粒化状態の悪化を招きやすくなる。特にパイロット噴射は、ニードル4のリフト量が小さいため、上述の影響を大きく受ける。パイロット噴射による燃料噴霧の微粒化状態が悪化すると、燃料の蒸発も悪化するため、スモークやPMの排出要因となる。また、液滴のままシリンダ内壁に付着するものも出現し、これらは未燃HCやPMの排出要因となる。そこで、本実施形態では、窪み部14(環状溝)の燃料流れ下流端部をサック室19の内壁(シート面6との接続部分)より径方向内側に配置し、Dgl−Dsac<0にすることで、キャビテーション気泡の発生による燃料流量の低下を抑制することができる。そのため、サック室19内の圧力が低い期間を短くすることができ、噴孔9から噴射される燃料噴霧の微粒化を向上させることができる。その結果、スモークや未燃HCやPMの排出を抑制することができる。
【0026】
以上説明した本実施形態によれば、窪み部14で発生したキャビテーション気泡が噴孔9内で崩壊するときの衝撃力によって噴孔9内のデポジットを浸食(剥離)することができるとともに、キャビテーション気泡の発生による燃料流量の低下を抑制することができる。その際には、デポジットの堆積を抑制するためのコーティング部を噴孔9の内壁に形成する必要も無い。したがって、噴孔9内でのデポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果の耐久性を向上させることができる。
【0027】
デポジットの堆積を抑制することで燃料流量の低下を抑制する効果をエンジン実験で確認した結果の一例を図8に示す。この結果は、デポジット堆積を促進するといわれている亜鉛イオンを燃料(軽油)に3ppm添加し、デポジットが非常に堆積しやすい過酷な条件に設定して実験したものである。図8に示すように、従来ノズル(窪み部14が無い形状)では、時間経過とともに燃料流量の低下率が増加するのに対して、本実施形態では、初期に燃料流量の低下率が増加するものの、その後に燃料流量が回復していることがわかる。
【0028】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
4 ニードル、5 先細り部、6 シート面、7 ノズルボディ、8 サック部、9 噴孔、11,12,15 円錐面、13 当接部、14 窪み部、18 燃料室、19 サック室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に先細り部を有するニードルと、
ニードルの先細り部が当接するシート面が形成され、該シート面より先端側に、噴孔が形成されたサック部を有するノズルボディと、
を備える燃料噴射弁であって、
ニードルの先細り部には、ノズルボディのシート面に当接する当接部が設けられ、
ニードルの先細り部における当接部より先端側には、窪み部が設けられ、
ニードルの先細り部における当接部より先端側が、ノズルボディのサック部によって形成され且つ噴孔に連通するサック室に臨んで配置され、
ニードルの当接部がノズルボディのシート面から離れることで、ノズルボディのシート面とニードルの先細り部との間を流れる燃料が、サック室を通って噴孔から噴射され、
サック室における燃料流れ上流端部での直径が、窪み部における燃料流れ上流端部での直径より小さく、且つ窪み部における燃料流れ下流端部での直径より大きい、燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁であって、
窪み部における燃料流れ上流端部が、当接部に対して燃料流れ下流側に所定距離はなされて配置されている、燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19386(P2013−19386A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155004(P2011−155004)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】