説明

燃料難溶性コート剤、それから形成された塗膜、及び積層体

【課題】 燃料に対する耐溶解性能に優れた塗膜を形成する燃料難溶性コート剤とその燃料難溶性コート剤を用いた積層体、燃料タンク、燃料系部品を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸成分を0.5〜15質量%含有し、かつ190℃、2160g荷重でのメルトフローレートが0.1〜100g/10分であるポリオレフィン樹脂(A)と、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、及びポリオールから選ばれる少なくとも一種の架橋剤(B)と、溶媒(C)とを含有し、ポリオレフィン樹脂(A)及び架橋剤(B)が溶媒(C)に溶解及び/又は分散してなる燃料難溶性コート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンなどの燃料に対して優れた耐溶解性を有する塗膜を形成することが可能な燃料難溶性コート剤、およびその塗膜を積層してなる積層体、燃料タンク、燃料系部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用に代表される燃料タンクでは、軽量化、成形性、防錆性などの観点から、樹脂製のタンクが多く用いられるようになってきている。樹脂製の燃料タンクを実用的に用いるには、ガソリンなどの燃料成分がタンク本体から透過・揮発し飛散するのを抑える必要がある。そのため、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと示すことがある)などに代表されるバリア材を積層することによって、燃料タンクにバリア性が付与されている。
【0003】
EVOHなどのバリア材を、例えば高密度ポリエチレンなどの主材上に積層し、燃料タンクを構成した場合、タンク本体の剛性や衝撃強度、成形性を保つために主材層の厚みは肉厚にし、比較的高価であるバリア層はコスト的な点から薄く積層することが必要となる。そうした場合において、タンク本体が外力からうける衝撃や引っ掻きなどからバリア層を守るためには、バリア層が主材層よりタンク内面側(内層側)となるように設計する必要がある。しかしながら、バリア層を燃料タンクの最内層とした場合では、燃料に直接接触してしまうため、燃料によるバリア層の溶解や膨潤、劣化が発生し、その結果、必要とするバリア性が確保されなくなるという問題がある。そのためバリア層の更に内面側には燃料に対する耐溶解性能を備えたバリア層保護層を設ける必要があった。
【0004】
かかる状況において、樹脂製燃料タンクでは、EVOHなどからなるバリア層の両面に、酸変性ポリオレフィン樹脂などからなる接着層を介して、更に外層側にはタンクの剛性などを保持するために高密度ポリエチレンなどからなる主材層を設け、また更に内層側にはバリア層を保護するための高密度ポリエチレンなどからなるバリア層保護層を設けた積層構造のものが一般的であり、多くは多層ブロー成形にて成形されている。
【0005】
このようなバリア層及びバリア層保護層を設けた燃料タンクにおいては、バリア層保護層の厚みを薄くし、バリア層をより内面側に寄せることでバリア性が向上することが特許文献1に開示されている。しかし、多層ブロー成形においては、成形後の各層の厚みにムラが発生する問題があるため、あらかじめ各層とも厚めに設計しておく必要があった。このように、バリア層保護層やその接着層の厚みを薄くするにも限界があり、バリア層保護層の更なる薄膜化が望まれていた。
【0006】
また一方で、このような複雑な構成の材料を多層ブロー成形で成形するには、大型の設備が必要であり初期投資が大きいこと、再生困難な大量のバリが発生すること、また成形の自由度に制限があることなどの問題があり、より成形性に優れ生産性の高い成形方法が望まれていた。
【0007】
このような状況にあって近年では、燃料タンクを射出成形や圧縮成形などの成形性に優れた成形方法で製造することについて、多くの検討がなされている。
例えば、特許文献2では、バリア層保護層が予め積層されたバリアフィルムを射出成形された半割体の内面側に設け、これら半割体同士を接合させる方法が示されている。しかし、このような方法では、バリアフィルムに対して主材樹脂を直接射出して成形するため射出の圧力や熱によりバリアフィルムが破れる場合があった。
また、特許文献3では、予め主材層とバリア層が積層された完成品に近い成形品を成形した後、溶融したバリア層保護層材料を圧縮成形にてバリア層内面側に積層する方法が示されている。しかしこの方法では、主材層にバリア層が積層された積層体を完成品に近い形状に成形するのが困難であり、またバリの問題も残る。これらのように射出成形などで燃料タンクを製造するには、バリア層保護層やバリア層を容易に形成させることが困難であり問題となっていた。
【0008】
以上に示したような、バリア層保護層の薄膜化や、射出成形などにおいての容易なバリア層保護層及びバリア層の形成化などの要望に対しては、コート剤を塗布して得られる塗膜によってこれらの層を形成させる方法が有効と考えられる。例えば特許文献4ではEVOHをアルコール系の溶媒に溶解したコート剤を基材に塗布してバリア層を形成させる方法が示されている。しかしながら、バリア層保護層の形成に関しては、必要な性能を付与できるコート剤について検討がなされていなかった。
【0009】
またさらには、バリア層の保護にとどまらず、燃料系部品では燃料に直接接触する材料についてその保護が必要な場合もある。例えば、チューブや継ぎ手などは、脱着の作業性を良好にするために、また振動を干渉させるために、エラストマー成分を含んだ柔軟な材料を用いることが多いが、エラストマーの中には燃料の直接接触により溶解してしまうために、その使用が制限されているものがあった。
【0010】
以上のように、燃料に対する耐溶解性に優れた塗膜を形成するコート剤は、バリア層の保護や、積層体、成形体などへの燃料耐溶解性付与のために要望されていた。またその様なコート剤としては、環境問題の観点から水系のものが好まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−29904号公報
【特許文献2】特開平10−157738号公報
【特許文献3】特開平5−104552号公報
【特許文献4】米国特許第4487789号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、燃料に対する耐溶解性能に優れた塗膜を形成する燃料難溶性コート剤とその燃料難溶性コート剤を用いた積層体、燃料タンク、燃料系部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリオレフィン樹脂(A)と特定の架橋剤(B)と溶媒(C)とからなるコート剤において、燃料に対する耐溶解性に優れた塗膜が形成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)不飽和カルボン酸成分を0.5〜15質量%含有し、かつ190℃、2160g荷重でのメルトフローレートが0.1〜100g/10分であるポリオレフィン樹脂(A)と、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、及びポリオールから選ばれる少なくとも一種の架橋剤(B)と、溶媒(C)とを含有し、ポリオレフィン樹脂(A)及び架橋剤(B)が溶媒(C)に溶解及び/又は分散してなる燃料難溶性コート剤。
(2)架橋剤(B)が、ヒドラジド化合物であることを特徴とする(1)記載の燃料難溶解性コート剤。
(3)溶媒(C)が、水及び/又は水溶性の有機溶媒であることを特徴とする(1)又は(2)記載の燃料難溶性コート剤。
(4)ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)との質量比(A)/(B)が99.9/0.1〜50/50であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤。
(5)形成された塗膜を、トルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる60℃の試験燃料油に240時間浸漬した場合に、試験燃料油接触面の溶解する厚みが5μm以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤から形成されてなる塗膜。
(7)基材上に(6)記載の塗膜が積層されてなる積層体。
(8)少なくとも主材層、バリア層、バリア層保護層が外層からこの順に積層されてなる積層体であって、バリア層保護層が(6)記載の塗膜であることを特徴とする積層体。
(9)上記(7)又は(8)記載の積層体からなる燃料タンク。
(10)上記(7)又は(8)記載の積層体からなる燃料系部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料に対する保護層が容易に、しかも薄く形成することが可能となり、燃料タンクや燃料系部品について、燃料に対する耐溶解性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコート剤は、ポリオレフィン樹脂(A)と、架橋剤(B)と、溶媒(C)とを含有し、燃料に対して優れた耐溶解性を有する塗膜を形成することが可能なコート剤である。
本発明における燃料としては特に限定されないが、主に液体燃料のことであり、例えば、ガソリン、軽油、灯油などの石油燃料や、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール燃料などが挙げられる。
【0016】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(A)は、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン類などのオレフィン成分を主たる構成モノマーとする樹脂であり、これらのモノマーの2種以上を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A)は不飽和カルボン酸成分を0.5〜15質量%含有したものであり、好ましくは1.0〜10質量%であり、より好ましくは2〜5質量%である。不飽和カルボン酸成分が0.5質量%未満であれば得られるコート剤の基材に対する密着性が悪化する傾向にあり、15質量%を超えると得られるコート剤の燃料に対する耐溶解性が劣る傾向にある。
【0018】
不飽和カルボン酸成分とは、分子内、すなわちモノマー成分内、に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0019】
さらにポリオレフィン樹脂(A)は、190℃、2160g荷重でのメルトフローレートが0.1〜100g/10分のものであり、好ましくは0.5〜50g/10分であり、より好ましくは1〜10g/10分であり、さらに好ましくは1〜5g/10分である。メルトフローレートが0.1g/10分未満であれば後述する溶媒(C)に対する溶解又は分散性が悪化し、100g/10分を超えると得られるコート剤の燃料に対する耐溶解性が劣る傾向にある。
【0020】
ポリオレフィン樹脂(A)には、オレフィン成分、不飽和カルボン酸成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。こうしたモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;ジエン類;(メタ)アクリロニトリル;ハロゲン化ビニル類;ハロゲン化ビリニデン類;一酸化炭素;二酸化硫黄が挙げられる。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタアクリル酸〜」を意味する。)
【0021】
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0022】
本発明において用いることのできる架橋剤(B)としては、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、及びポリオールが挙げられ、これらは一種を単独で用いてもよいし、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、コート剤としたときの燃料に対する耐溶解性がより優れるオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物が好ましく、オキサゾリン化合物、ヒドラジド化合物がさらに好ましい。
【0023】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるオキサゾリン化合物としては、分子中に少なくともオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィドなどのオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマーなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。オキサゾリン基含有ポリマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを重合させることにより得られる。必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法は、特に限定されず、公知の種々の重合方法を採用することができる。
【0024】
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製エポクロスシリーズなどが挙げられる。より具体的には、水溶性タイプの「WS−500」、「WS−700」、エマルションタイプの「K−1010E」、「K−1020E」、「K−1030E」、「K−2010E」、「K−2020E」、「K−2030E」などが挙げられる。
【0025】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるエポキシ化合物としては、分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタレート、ジグリシジルオルトフタレートなどのグリシジルエステル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N′,N′−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンおよび1,3−ビス(N,N′−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどのグリシジルアミンなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
エポキシ化合物の市販品としては、アデカ社製アデカレジンシリーズやナガセ化成工業社製デナコールシリーズなどが挙げられる。より具体的には、「アデカレジンEM−101−50」、「アデカレジンEM−107−50L」、「アデカレジンEM−0517」、「アデカレジンEM−051R」、「アデカレジンEM−054R」、「デナコールEM−150」などが挙げられる。
【0027】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるカルボジイミド化合物としては、分子中に少なくとも2つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、p−フェニレン−ビス(2,6−キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン−ビス(t−ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチレン−t−ブチルカルボジイミド)などのカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミドなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさからポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドの製法は特に限定されるものではないが、例えば、イソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により製造することができる。イソシアネート化合物も限定されるものではなく、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、及び芳香族イソシアネートのいずれであっても構わない。また、必要に応じて多官能液状ゴムやポリアルキレンジオールなどが共重合されていてもよい。
【0028】
ポリカルボジイミド化合物の市販品としては、日清紡社製カルボジライトシリーズなどが挙げられる。より具体的には、水溶性タイプの「SV−02」、「V−02」、「V−02−L2」、「V−04」、エマルションタイプの「E−01」、「E−02」、有機溶液タイプの「V−01」、「V−03」、「V−07」、「V−09」、無溶剤タイプの「V−05」が挙げられる。
【0029】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるイソシアネート化合物としては、分子中に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。またこれらの各有機ジイソシアネート化合物と多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等との付加物、あるいはこれらポリイソシアネートをもとにしたカルボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ビュウレット基、又はイソシアヌレート基を持つ変性物を用いることもできる。
【0030】
イソシアネート化合物の市販品としては、BASF社製の「バソナットHW100」などが挙げられる。
【0031】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるヒドラジド化合物としては、分子中に少なくとも2つ以上のヒドラジド基を有するものであればよく、低分子化合物であっても重合体であってもかまわないが、コート剤とした場合に得られる塗膜の燃料に対する耐溶解性や燃料バリア性に優れる点から低分子化合物であることが好ましい。
【0032】
低分子化合物のヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどの炭素原子を2〜10個、特に4〜6個含有するジカルボン酸ジヒドラジド;エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジンなどの炭素原子を2〜4個有する脂肪族の水溶性ジヒドラジンなどが挙げられ、これらは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、コート剤とした場合に、得られる塗膜の、燃料に対する耐溶解性や燃料バリア性に優れる点からアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0033】
重合体のヒドラジド化合物としては、その構造や特性は特に限定されないが、例えば、アクリルアミドとアクリル酸ヒドラジドを共重合して得られたものなどが挙げられる。重合体のヒドラジド化合物の市販品としては、大塚化学社製APAシリーズなどが挙げられる。より具体的には、「APA−M950」、「APA−M980」、「APA−P250」、「APA−P280」などが挙げられる。
【0034】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるメラミン化合物としては、特に限定されるものではなく、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が挙げられる。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等を挙げることができる。
【0035】
本発明において架橋剤(B)として用いることのできるポリオールとしては、分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、などの脂肪族ポリオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔TMビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔ビスフェノールAP〕、2,3,3′,4,4′,5−ヘキサヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ポリオール、キシリトール、グルコースなどの低分子量の糖類、酒石酸などのポリヒドロキシカルボン酸、ポリイソプレンジオール、水添ポリイソプレンジオール、ポリアクリルポリオールなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
本発明のコート剤において、ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)との質量比(A)/(B)は、99.9/0.1〜50/50の範囲とすることが好ましく、99.5/0.5〜60/40がより好ましく、99/1〜70/30がさらに好ましい。架橋剤(B)の含有量が0.1質量%未満の場合は、添加効果が少ないため得られるコート剤の燃料に対する耐溶解性が悪化する傾向にあり、架橋剤(B)の含有量が50質量を超えた場合は、得られるコート剤の燃料に対する耐溶解性が悪化したり、コート剤が増粘し安定性が悪化する傾向がある。
【0037】
本発明のコート剤において、ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)は溶媒(C)に溶解及び/又は分散している必要があり、その溶解及び/又は分散方法は特に限定されない。ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)は一括して溶媒(C)に溶解及び/又は分散してもかまわないが、一般的に溶解や分散の際には加熱を必要とすることが多くそのためゲル化する場合があるため、ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)は個別に溶媒(C)に溶解及び/又は分散し、その後それらを常温で混合する方法が好ましい。個別に溶媒(C)に溶解及び/又は分散する場合の溶媒(C)はかならずしも同一の溶媒を用いる必要はないが、互いの溶解性が良い溶媒同士を選定することが液安定性の点から好ましい。
【0038】
本発明に用いる溶媒(C)としては、ポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を溶解及び/又は分散できるものであればよく、水溶性のもの(水を含む)であっても非水溶性のものであってもかまわない。ただし地球環境、職場環境問題の観点から水及び/又は水溶性の有機溶媒が好ましい。
【0039】
非水溶性の溶媒としては、ポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を溶解及び/又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、ヘプタン、キシレン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、オクタン、シクロヘキサン、シクロへキシルベンゼン、シクロへキセン、シクロペンタン、ジペンテン、シメン、テレピン油、ヘキサン、ペンタン、メシチレン、メチルシクロヘキサン等に代表される炭化水素などを用いることができる。
【0040】
本発明において水溶性の有機溶媒とは、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上の有機溶媒である。水溶性の有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどが挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合液であってもよい。
【0041】
非水溶性の溶媒にポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を溶解及び/又は分散する方法としては公知の方法を用いることが可能であり、ポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を非水溶性の溶媒に溶解する方法が一般的である。溶解する方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を非水溶性の溶媒の中で加熱や撹拌さらには加圧などによって、ポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)の溶液を得ることができる。
【0042】
水及び/又は水溶性の有機溶媒にポリオレフィン樹脂(A)及び/又は架橋剤(B)を溶解及び/又は分散する方法としては公知の方法を用いることが可能である。ただし水溶性のポリオレフィン樹脂(A)及び/又は水溶性の架橋剤(B)を用いた場合は、水及び/又は水溶性の有機溶媒の中で加熱や撹拌さらには加圧などによって溶液を得ることができるが、非水溶性のポリオレフィン樹脂(A)及び/又は非水溶性の架橋剤(B)を用いた場合は、水及び/又は水溶性の有機溶媒に分散し分散体として取得する方法を用いることが有効である。その場合、分散体中に不揮発性の乳化剤が含有されないような方法で分散されることが、燃料に対する耐溶解性の点から好ましい。非水溶性のポリオレフィン樹脂(A)を水及び/又は水溶性の有機溶媒に不揮発性の乳化剤を添加せずに分散する方法としては、特開2003−119328号公報などに例示されており、具体的には、ポリオレフィン樹脂(A)、水溶性の有機溶媒、アミンなどの塩基性化合物と水とを密閉容器内で加熱および撹拌する方法が好ましい。
【0043】
上記塩基性化合物としては、被膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が被膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0044】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると被膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0045】
以上のような方法で得られる、ポリオレフィン樹脂(A)、架橋剤(B)及び溶媒(C)からなるコート剤の固形分濃度は、成膜条件、目的とする塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コート剤の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、コート剤の1〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。
【0046】
本発明の燃料難溶性コート剤は、必要に応じてレベリング剤、ヌレ剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料、染料、分散剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の添加剤や、上記添加剤以外の有機もしくは無機の化合物を本発明の効果を損なわない範囲で添加してもかまわない。
【0047】
本発明の燃料難溶性コート剤は、様々な基材に対して良好な密着性を有し、種々の方法によって塗布することができ、これにより基材に塗膜が積層された積層体を得ることができる。基材としては特に限定されず、例えばプラスチックの成形体、フィルム、繊維、不織布、ガラス、金属、金属箔、紙等が挙げられる。基材上に燃料難溶性コート剤を塗布した後に、塗布膜に含有する溶媒(C)の全て又は一部を乾燥することにより、燃料難溶性の塗膜を得ることができる。
【0048】
以上の方法によって燃料難溶性コート剤から形成された塗膜は、トルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる60℃の試験燃料油に240時間浸漬した場合に試験燃料油接触面の溶解する厚みを5μm以下とすることができ、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下とすることができる。
【0049】
本発明において、溶解する厚みは、以下に示した方法によって求める。塗膜を形成する基材としては、60℃の試験燃料油に浸漬しても溶解や膨潤のないもので且つ厚みムラの小さいものが適当であり、厚みが10〜50μmの範囲で選ばれるアルミ箔を用いるのが好適である。アルミ箔をはじめとする基材に、本発明のコート剤を乾燥後の塗膜厚みが10μmとなるようにマイヤーバー等で塗布し、その後120℃で10分間乾燥する。得られた塗膜と基材とからなる積層体の厚みを、厚み測定機で測定する(この値を初期厚みとする)。次に60℃に保温された、トルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる試験燃料油に、積層体を塗膜が完全に浸かるように浸漬し、その状態で240時間保温する。240時間保温後に積層体を取りだし、室温で1時間放置した後に、厚みを厚み測定機で測定し(この値を浸漬後厚みとする)、下記式(1)によって導きだされた値を、溶解する厚みとする。
溶解する厚み(μm)=初期厚み(μm)−浸漬後厚み(μm) (1)
【0050】
次に、本発明の燃料難溶性コート剤を用いた積層体について説明する。燃料難溶性コート剤は、燃料に対する耐溶解性に優れた塗膜を形成できることから、燃料タンクや燃料系部品に用いられる積層体の構成材料として好適に使用することができる。
【0051】
燃料タンクに用いられる積層体としては、少なくとも主材層、バリア層、バリア層保護層が外層からこの順に積層されたものが好ましく、バリア層保護層として燃料難溶性コート剤から形成される塗膜を用いることができる。ここで外層とは、本積層体を用いて燃料タンクとした場合に、タンク外側方向に位置する層のことであり、内層とはタンク内側方向(燃料貯蔵側方向)に位置する層のことである。
【0052】
主材層に用いられる材料は、成形性及び成形体とした際の剛性や衝撃強度などの物性に優れたものであれば特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステルやこれらの共重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
主材層の厚みは、成形性及び成形体とした際の剛性や衝撃強度などの物性が保持されておれば特に限定されず、主材層に用いられる材料によって異なるため一概には言えないが、1〜10mmの範囲で用いることが好ましい。
【0053】
バリア層に用いられる材料は、燃料に対するバリア性にすぐれたものであれば特に限定されず、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、アルミ蒸着、アルミナ蒸着、シリカ蒸着などの蒸着層、アルミ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルムなどの蒸着フィルム、金属箔などが挙げられる。
バリア層の厚みは、燃料に対するバリア性が確保されておれば特に限定されず、バリア層に用いられる材料によって異なるため一概には言えないが、1〜2000μmの範囲で用いることが好ましい。また、バリア層の積層方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0054】
バリア層保護層としては、本発明の燃料難溶性コート剤を塗布、乾燥して得られる塗膜を使用する。燃料難溶性コート剤の塗布方法としては、特に限定されず公知の塗布方法を用いることができる。例えば、キャスティングヘッドからの吐出、ロールコート、エアナイフコート、グラビアロールコート、ドクターロールコート、ドクターナイフコート、カーテンフローコート、スプレーコート、シャワーコート、ワイヤーバー、ロッドコート、浸漬コート、刷毛塗りなどが挙げられる。また塗布は2回以上行ってもかまわない。
【0055】
燃料難溶性コート剤を塗布した後には、塗布膜に含有する溶媒(C)の全て又は一部を乾燥する必要があり、溶媒(C)を乾燥する方法としては、乾燥後の塗膜の燃料に対する耐溶解性を良好に保つために加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度は40〜200℃が好ましく、50〜180℃がより好ましく、60〜150℃がさらに好ましく、80〜120℃が特に好ましい。また乾燥時間としては、塗膜の燃料に対する耐溶解性を良好にするためには長時間の乾燥が有効であるが、生産性などの観点から、5〜1200秒が好ましく、10〜900秒がより好ましく、20〜600秒がさらに好ましい。また、乾燥後のいずれかの工程で熱処理工程があってもかまわない。
【0056】
乾燥後の塗膜の厚みとしては、0.5〜500μmが好ましく、1〜200μmがより好ましく、2〜100μmがさらに好ましく、3〜50μmが特に好ましく、5〜20μmが最も好ましい。塗膜の厚みが0.5μm未満の場合は本発明の主たる目的である燃料からの保護効果が小さく、500μmを超えた場合は積層体の燃料バリア性が悪化する傾向にある。
【0057】
少なくとも主材層、バリア層、バリア層保護層が外層からこの順に積層された積層体は、互いの層間の接着性を向上させるなど種々の目的でそれぞれの層間に、表面処理がなされていてもかまわないし、アンカーコート層や接着層などのその他の層が設けられていてもかまわない。さらには、主材層の外層側やバリア層保護層の内層側に必要に応じてその他の層が設けられていてもかまわない。
【0058】
以上のような積層体の構成は、燃料タンクに好適に用いることができる。成形方法は特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、予め少なくとも主材層、バリア層、バリア層保護層からなる積層体をシート状に得てから、それを熱圧縮成形などで半割体を成形し、半割体同士を接合させる方法や、予め主材層とバリア層を多層で射出成形やブロー成形、押出し成形などで成形した後に、成形体のバリア層面に難溶性コート剤を塗布乾燥し、必要に応じて半割体同士を接合させる方法や、予め主材層を射出成形やブロー成形などで成形し、内層側にバリア性フィルムやバリア性コート剤からなる塗膜を密着させバリア層を形成した後に、バリア層面に難溶性コート剤を塗布乾燥し、必要に応じて半割体同士を接合させる方法などが挙げられる。
【0059】
本発明の燃料難溶性コート剤は、上記のような燃料タンクに限らず燃料系部品などに使用することも可能である。ここで燃料系部品とは、燃料タンクに付随する部品など燃料に直接接触する部品のことであり、チューブ類(チューブ、ホース、パイプ等)、ライニング管、管継ぎ手類(エルボー、チーズ、レデューサー、その他ジョイントやカップラー)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール材、パッキン類)等が挙げられる。これら燃料系部品の構成材料を基材として、これに本発明の燃料難溶性コート剤から形成された塗膜を積層することにより、燃料に対する耐溶解性を付与することが可能となる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0061】
<各種特性の測定法、評価法>
1.ポリオレフィン樹脂(A)の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
2.ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
3.塗膜の燃料に対する耐溶解性
厚みが12μmのアルミ箔(三井化学ファブロ社製、ハイホイル)に、コート剤を乾燥後の塗膜厚みが10μmとなるようにマイヤーバーで塗布し、その後120℃で10分間乾燥し、アルミ箔上に塗膜が積層された試験片を得た。次に60℃に保温されたトルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる試験燃料油に、塗膜が完全に浸かるように試験片を浸漬し、その状態で60℃で240時間保温した。60℃保温前後の試験片の厚みを厚み測定機(ハイデンハイン社製、ハイデンハインセルトCT)で測定し、塗膜の溶解する厚みによって、燃料に対する耐溶解性を評価した。なお、測定はn=5で行い、測定値はその平均値とした。
4.積層体の燃料バリア性
内径75mmΦのアルミニウム製カップに、トルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる試験燃料油を入れ、テフロン(登録商標)製のパッキンを介して積層体をかぶせ、パッキンの外側でカップと積層体を接着剤で密閉した。積層体をかぶせた面が下になるようにカップを倒立させて、積層体と試験燃料油を完全に接触させ、その状態で1時間放置し、試験燃料油と接着剤に接触がないことと、カップと積層体の接着部から漏れがないことを確認した上で、60℃で240時間保温し、60℃保温前後の重量を測定し、重量変化から燃料バリア性を評価した。なお、測定はn=3で行い測定値はその平均値とした。
【0062】
<ポリオレフィン樹脂(A)>
ポリオレフィン樹脂(A)としては、市販品であるボンダインLX4110(アルケマ社製、以下LX4110とする)、ホンダインHX8290(アルケマ社製、以下HX8290とする)、ボンダインHX8210(アルケマ社製、以下HX8210とする)、ニュクレルN1525(三井・デュポンポリケミカル社製、以下N1525とする)、ニュクレルN1110H(三井・デュポンポリケミカル社製、以下N1110Hとする)を用いた。ポリオレフィン樹脂(A)の特性を表1にまとめた。なお、以上のポリオレフィン樹脂(A)は、以下に示す方法で分散体として利用した。
【0063】
【表1】

【0064】
<LX4110、HX8290、HX8219の分散体の製造>
撹拌翼を供えた内容積が1Lの耐圧オートクレーブに、100gのポリオレフィン樹脂(LX4110又はHX8290又はHX8219)、150gの2−プロパノール、4.5gのトリエチルアミン及び245.5の蒸留水を仕込み、密閉後、撹拌翼の回転速度を200rpmとして撹拌した。次いで、オートクレーブの系内温度を120℃になるまで加熱し、さらに120℃を保ちつつ120分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度200rpmのまま攪拌しつつ約40℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、ポリオレフィン樹脂の分散体を得た。なお、ろ過後に300メッシュフィルター上には未分散物は確認されなかった。(LX4110より得られた分散体を以下、LX4110Emと示し、HX8290より得られた分散体を以下、HX8290Emと示し、HX8219より得られた分散体を以下、HX8219Emと示す。)
【0065】
<N1525、N1110Hの分散体の製造>
撹拌翼を供えた内容積が1Lの耐圧オートクレーブに、75gのポリオレフィン樹脂(N1525又はN1110H)、75gの1−プロパノール、14gのトリエチルアミン及び336gの蒸留水を仕込み、密閉後、撹拌翼の回転速度を200rpmとして撹拌した。次いで、オートクレーブの系内温度を140℃になるまで加熱し、さらに140℃を保ちつつ120分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度200rpmのまま攪拌しつつ約40℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、ポリオレフィン樹脂の分散体を得た。なお、ろ過後に300メッシュフィルター上には未分散物は確認されなかった。(N1525より得られた分散体を以下、N1525Emと示し、N1110Hより得られた分散体を以下、N1110HEmと示す。)
【0066】
<架橋剤(B)>
オキサゾリン化合物の水溶液(日本触媒社製、エポクロスWS−500)
エポキシ化合物の水分散体(アデカ社製、アデカレジンEM−051R)
カルボジイミド化合物の水分散体(日清紡社製、カルボジライトE−02)
イソシアネート化合物の水溶液(BASF社製、バソナットHW100)
低分子ヒドラジド化合物の水溶液(大塚化学社製、アジピン酸ジヒドラジド)
重合体ヒドラジド化合物の水溶液(大塚化学社製、APA−P280)
【0067】
実施例1
ポリオレフィン樹脂(A)の分散体としてLX4110Emを用い、架橋剤(B)の水溶液としてオキサゾリン化合物の水溶液(日本触媒社製、エポクロスWS−500)を用いて、(A)と(B)の質量比(A)/(B)が90/10となるように両者を室温で撹拌混合した後、固形分濃度が20質量%になるように水で希釈混合してコート剤を得た。
次に、厚み200μmの高密度ポリエチレンシート(主材層)のコロナ面に、乾燥後の厚みが10μmになるようになるようにEVOHコート剤(日本合成化学社製、ソワノール16DX)をマイヤーバーでコートし120℃で10分間乾燥させバリア層を設けた。
さらにバリア層の上に乾燥後の厚みが5μmになるようにコート剤をマイヤーバーでコートし、120℃で10分間乾燥させて塗膜を形成し、主材層/バリア層/バリア層保護層からなる積層体を得た。
【0068】
実施例2〜14、比較例1、2
表2に示すコート剤組成になるように、ポリオレフィン樹脂(A)の分散体と架橋剤(B)の水溶液または水分散体の種類と、質量比(A)/(B)とを変更した以外は実施例1と同様の操作を行ってコート剤を得、そのコート剤を使用し実施例1と同様の操作を行って積層体を得た。なお、実施例5、7、11〜13においては、コート剤の固形分濃度を15質量%とした〔実施例5、7は(A)の固形分濃度が低いため、実施例11〜13は(B)の固形分濃度が低いため〕。
【0069】
比較例3
厚み200μmの高密度ポリエチレンシート(主材層)のコロナ面に、乾燥後の厚みが10μmになるようになるようにEVOHコート剤(日本合成化学社製、ソワノール16DX)をマイヤーバーでコートし120℃で10分間乾燥させバリア層を設け、評価用積層体を得た。
【0070】
得られたコート剤について塗膜の燃料に対する耐溶解性を評価し、また得られた積層体について燃料バリア性を評価し、それらの結果を表2に示した。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例1〜4と比較例1の結果の比較から、架橋剤(B)としてオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物を用いた場合、得られた塗膜は燃料に対する耐溶解性に優れ、しかもそのことにより積層体のバリア層が保護され、積層体の燃料バリア性が良好であった。
実施例5と実施例1の結果の比較から、ポリオレフィン樹脂(A)に不飽和カルボン酸含有量が15質量%のものを用いた場合(実施例5)、不飽和カルボン酸含有量が多いため、得られた塗膜は燃料に対する耐溶解性がやや劣り、しかもそのことにより積層体のバリア層の保護効果が小さくなり燃料バリア性もやや悪化した。しかし、比較例1の結果との比較では、実施例5の方が、塗膜の燃料に対する耐溶解性、積層体の燃料バリア性とも優れていた。
実施例6、7と実施例1の結果の比較から、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレート値が低い程、塗膜の燃料に対する耐溶解性、積層体の燃料バリア性ともに良好な結果となる傾向があることが確認された。しかし、メルトフローレート値が100g/10分のN1110H(実施例7)であっても、比較例1の結果との比較では、塗膜の燃料に対する耐溶解性、積層体の燃料バリア性とも優れていた。
実施例1、8〜10において、ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)の比率を変更したところ、実施例8や10では、(A)/(B)の最適比率をやや外れたため、塗膜の燃料に対する耐溶解性、積層体の燃料バリア性ともやや劣る傾向にあった。しかし比較例1の結果との比較では、塗膜の燃料に対する耐溶解性、積層体の燃料バリア性とも優れていた。実施例9では実施例1とほぼ同等の塗膜の燃料に対する耐溶解性および積層体の燃料バリア性を有していた。
実施例11〜14では、架橋剤(B)としてヒドラジド化合物を用いたところ、燃料に対する耐溶解性に優れていた。特に低分子のヒドラジド化合物を用いた場合(実施例11〜13)には、積層体の燃料バリア性にも優れていた。実施例13と実施例1、2の結果を比較すると、全てにおいて(A)/(B)の比率が同じであり且つ、燃料に対して溶解する厚みが0μmであるのに、実施例13では積層体の燃料バリア性が優れていた。このことにより、バリア層を保護することによる燃料バリア効果だけでなく、バリア層保護層自体が燃料バリア性に優れていると考えられる。低分子のヒドラジド化合物を用いることでバリア層保護層の燃料バリア性が優れる明確な機構は不明であるが、架橋剤が低分子量であるために、ポリオレフィン樹脂(A)が結晶構造を形成する際に立体障害が起こり難いため、ポリオレフィン樹脂(A)の結晶性を保持したまま架橋構造を形成することが可能なためとみられる。
【0073】
一方、比較例1において、架橋剤(B)を含有しないコート剤を使用したところ、得られる塗膜は燃料に対する耐溶解性を有しておらず、塗膜の全てが溶解した。またそのことにより、積層体のバリア層保護効果が得られず、積層体の燃料バリア性も劣る結果となった。
比較例2において、ポリオレフィン樹脂(A)としてメルトフローレート値が200g/10分であるHX8210を使用したところ、得られる塗膜は燃料に対する耐溶解性が低く、塗膜の殆どが溶解した。またそのことにより、積層体のバリア層保護効果が得られず、積層体の燃料バリア性も劣る結果となった。
比較例3において、バリア層保護層を設けない積層体を用いて、燃料バリア性を評価したところ、燃料との直接接触によってバリア層に溶解や膨潤があったとみられ、積層体の燃料バリア性は劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸成分を0.5〜15質量%含有し、かつ190℃、2160g荷重でのメルトフローレートが0.1〜100g/10分であるポリオレフィン樹脂(A)と、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、及びポリオールから選ばれる少なくとも一種の架橋剤(B)と、溶媒(C)とを含有し、ポリオレフィン樹脂(A)及び架橋剤(B)が溶媒(C)に溶解及び/又は分散してなる燃料難溶性コート剤。
【請求項2】
架橋剤(B)が、ヒドラジド化合物であることを特徴とする請求項1記載の燃料難溶解性コート剤。
【請求項3】
溶媒(C)が、水及び/又は水溶性の有機溶媒であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料難溶性コート剤。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂(A)と架橋剤(B)との質量比(A)/(B)が99.9/0.1〜50/50であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤。
【請求項5】
形成された塗膜を、トルエン50vol%及びイソオクタン50vol%からなる60℃の試験燃料油に240時間浸漬した場合に、試験燃料油接触面の溶解する厚みが5μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料難溶性コート剤から形成されてなる塗膜。
【請求項7】
基材上に請求項6記載の塗膜が積層されてなる積層体。
【請求項8】
少なくとも主材層、バリア層、バリア層保護層が外層からこの順に積層されてなる積層体であって、バリア層保護層が請求項6記載の塗膜であることを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項7又は8記載の積層体からなる燃料タンク。
【請求項10】
請求項7又は8記載の積層体からなる燃料系部品。

【公開番号】特開2009−227975(P2009−227975A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40753(P2009−40753)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】