説明

燃料電池システムの起動制御方法

【課題】燃料電池システムの停止時発電処理を実施するにあたり、弁誤開弁等の不具合を防止できる燃料電池システムの起動制御方法を提供する。
【解決手段】停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止し、その後に燃料電池システム10の起動指令を検出したとき、燃料電池20のアノード圧力Paが第1閾値圧力以下の場合には、酸化剤ガス供給装置14による酸化剤ガスの供給を開始する前に、燃料ガス供給装置16から燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理を行うようにしたので、カソード側の圧力と同様になっている大気圧とアノード側の圧力との差圧(極間差圧)を上げることなく(極間差圧を下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池20の外部で連通する空気導入弁55の誤開弁等を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化剤ガス及び燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)及び酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)をアノード電極及びカソード電極に供給して電気化学的に反応させることにより、直流の電気エネルギを得るシステムである。このシステムは、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極接合体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0004】
この燃料電池の停止時には、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給が停止されるが、燃料ガス流路内に前記燃料ガスが残留する一方、酸化剤ガス流路内に前記酸化剤ガスが残留している。従って、特に燃料電池の停止期間が長くなると、燃料ガスや酸化剤ガスが電解質膜を透過し、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスとが混在し反応して電解質膜・電極構造体が劣化するおそれがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムでは、燃料電池の運転停止時に、アノード側への反応ガスの供給を遮断するとともに、カソード側へのブロア(エアポンプ)による反応ガスの供給を遮断し、アノード側排ガスをアノード側循環ラインを経由して上流側に循環させ、かつカソード側排ガスをカソード循環ラインを介して上流側に循環させ、燃料電池内の電気化学反応を継続させることで発電出力をバッテリに充電するとともに、アノード側排ガスの水素を消費させるとともに、カソード側排ガス中の酸素を消費して窒素ガスをタンクに蓄積し、蓄積した窒素ガスにより燃料電池のアノード内及びカソード内をガス置換している。
【0006】
特許文献1に記載された技術のように、燃料電池の運転停止時に、窒素ガスにより燃料電池のアノード内及びカソード内を不活性なガスにより置換することは、運転停止後に、不必要な反応が発生する可能性が少なくなり、燃料電池の劣化防止という観点からも好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−22487号公報(図1、[0029])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に係る燃料電池システムは、カソード側循環ラインや、窒素ガスを蓄積するタンク、並びに前記窒素ガスをアノード側に供給するライン等が必要となり、燃料電池システムとしての構造が複雑かつ高価になる。
【0009】
そこで、燃料電池の運転停止時に、アノード側への燃料ガスの供給を遮断し、カソード側の空気供給量を少なくして発電を継続させることで、カソード側を窒素で充満させるようにして運転を停止させることが考えられる。
【0010】
このような運転停止時処理を実施した場合、アノード側は、負圧が大きくなった状態で、気密に保持される。カソード側は、エアポンプを通じて大気に連通しているので、大気圧(0kPg)となる。したがって、ソーク中は、アノードとカソード間の極間差圧が大きな状態となっている。
【0011】
また、燃料電池システムでは、例えば、ソーク中に外気温が氷点下になるおそれがあるとき等、アノード側に溜まっている水等を燃料電池スタックの外側に吹き飛ばす(掃気する)ために、アノード側の燃料ガス入口連通孔と、エアポンプの出口側との間に、空気導入路が設けられ、この空気導入路には、空気導入弁が配設される。
【0012】
この場合、アノード側の燃料ガス出口連通孔に連通するオフガス流路と希釈ボックスの入口との間に、パージ弁に並列に大容量の排出弁が設けられ、前記掃気(アノード掃気処理または単にアノード空気掃気処理という。)する際に、前記空気導入弁が開弁されるとともに、前記排出弁(必要であればパージ弁)が開弁され、エアポンプからの圧縮空気が、前記空気導入弁、燃料電池内のアノード、前記排出弁(パージ弁)を通じて、希釈ボックスに流入する。希釈ボックスの出口側は大気に連通している。このようにして、アノード側の液滴等を吹き飛ばすことによりアノード側の氷結が防止される。
【0013】
ところで、上述した空気導入弁、パージ弁及び排出弁には、弁(弁体)が弾性力により閉じられ、電磁力により開かれるノーマルクローズ型{非通電時に弁(弁体)が閉じられる。}の開閉弁である電磁弁が採用されている。
【0014】
したがって、前記した空気導入弁、パージ弁、及び排出弁には、前記運転停止後のソーク時に前記アノード掃気処理を行う前には、前記した大きな極間差圧がかかっている。
【0015】
一方、従来技術に係る、燃料電池システムの起動時には、図12のタイミングチャートに示すように、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオン状態(IG ON)にされると、エアポンプが駆動されて酸化剤ガスがカソードに導入され、カソード圧力がエアポンプの回転数の増加に対応して所定圧力Pdまで上昇した時間Tsの経過時に、水素遮断弁を開弁して高圧の燃料ガスを導入するようにしている。
【0016】
しかしながら、上記従来の起動手順を、上述した停止時発電処理後のソーク中の燃料電池システムに適用した場合には、イグニッションスイッチをオン(IG ON)してから遮断弁を開弁するまでの間に、負圧になっているアノードと正圧になったカソードとの間の極間差圧がさらに大きくなって、弾性力により閉じられている前記空気導入弁、パージ弁、及び排出弁のいずれかがが誤開弁(誤開放)してしまうという問題がある。
【0017】
この発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、運転スイッチ(イグニッション)のオン、すなわち起動指令を検出した燃料電池システムの起動時に、起動性をできるだけ損なうことなく、空気導入弁等が誤開弁する等の不具合を発生させないことを可能とする燃料電池システムの起動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係る燃料電池システムの起動制御方法は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、を備え、前記燃料電池の運転停止指令を検出したとき、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記燃料電池の前記アノードの圧力が第1閾値圧力以下の場合には、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理を行うことを特徴とする(請求項1に係る発明)。
【0019】
この発明によれば、停止時発電処理を実施した後に燃料電池の発電を停止し、その後に燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記燃料電池の前記アノードの圧力が第1閾値圧力以下の場合には、酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理を行うようにしたので、アノードとカソードの極間差圧(ここでいう極間差圧は、カソード側の圧力と同様となっている大気圧とアノード側の圧力との差圧)を上げることなく(極間差圧を下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池の外部で連通する空気導入弁の誤開弁等を防止することができる。
【0020】
また、この発明に係る燃料電池システムの起動制御方法は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、を備え、前記燃料電池の運転停止指令を検出したとき、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が第2閾値以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が規定時間範囲以内である場合には、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第2起動処理を行うことを特徴とする(請求項2に係る発明)。
【0021】
この発明によれば、燃料電池の発電を停止した後、ソーク中に起動指令を検出したとき、前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が第2閾値(例えば、実施形態では、アノード圧力センサの測定下限範囲)以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が規定時間範囲(例えば、実施形態では、起動時負圧保護が必要な時間範囲)以内である場合には、酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第2起動処理を行うようにしたので、アノードとカソードの極間差圧を上げることなく(下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池の外部で連通する空気導入弁の誤開弁等を防止することができる。
【0022】
なお、請求項1に係る発明は、例えば、燃料電池のアノードの圧力が第1閾値圧力以下となっているかを測定可能な負圧側の圧力測定レンジ(アノード圧力センサの測定下限範囲)の広い圧力センサを用いることで実施可能であるが、請求項2に係る発明では、そのような負圧側の圧力測定レンジ(アノード圧力センサの測定下限範囲)の広い圧力センサを設けなくとも、前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が規定時間範囲(例えば、実施形態では、起動時負圧保護が必要な時間範囲)以内という時間条件により燃料ガスの供給開始時点を想定できる点で利点がある。
【0023】
この場合、前記燃料電池システムは、さらに、前記燃料電池のアノード側に掃気ガスを導入して該アノードを掃気するアノード掃気装置を備え、前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が前記第2閾値以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が前記規定時間範囲に入る前の時間に、前記アノード掃気装置が作動した場合には、前記第2起動処理を中止し、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給開始を前記燃料ガス供給装置による燃料ガスの供給開始よりも早くする第3起動処理を行うことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、燃料電池の発電を停止し、その後に燃料電池システムの起動指令を検出したとき、停止時発電処理を実施した後に燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が第2閾値以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が前記規定時間範囲に入る前の時間に、前記アノード掃気装置が作動した場合には、アノードの圧力が増加しているので、前記第2起動処理を行う必要がなくなるので中止し、酸化剤ガス供給装置による酸化剤ガスの供給開始を燃料ガス供給装置による燃料ガスの供給開始よりも早くする第3起動処理(通常の起動処理)を行うようにしたので、発電停止時処理をした後の起動時における起動処理を迅速に行うことができる。
【0025】
なお、前記規定時間範囲に入るまでの時間が、前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときの前記アノードの温度及び湿度を考慮して予め定められる特性に基づき、高温高湿の場合には低温低湿の場合に比べて、短い時間に設定されるようにすることで、アノードの温度及び湿度に応じた的確な前記規定時間範囲に入るまでの時間を設定することができる。
【0026】
また、前記燃料電池システムは、さらに、エアポンプに入力ポートが連通し、前記燃料電池の前記アノード側に出力ポートが連通する掃気弁を有し、前記エアポンプから前記掃気弁の入力ポート及び出力ポートを介して前記アノード側に掃気ガスを導入して該アノードを掃気するアノード掃気装置を備え、前記掃気弁は、弾性力により弁体が閉弁し、前記弾性力を上回る電磁力により弁体が開弁するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、停止時発電処理を実施した後に燃料電池の発電を停止し、その後に燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記燃料電池の前記アノードの圧力が第1閾値圧力以下の場合には、酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理を行うようにしたので、アノードとカソードの極間差圧を上げることなく(極間差圧を下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池の外部で連通する空気導入弁の誤開弁等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施形態に係る起動制御方法が実施される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図3】空気導入弁の要部断面図である。
【図4】燃料電池システムの運転停止時の動作説明に供されるタイミングチャートである。
【図5】停止時発電処理の模式的説明図である。
【図6】停止時発電処理を実施した場合のアノード圧力の変化状態の説明図である。
【図7】極間差圧保護必要時の起動時エア供給制御処理の説明に供されるフローチャートである。
【図8】極間差圧保護必要時の起動時エア供給制御処理の説明に供されるタイミングチャートである。
【図9】停止時発電処理を実施した後のソーク中に、アノード掃気処理が実施された場合のアノード圧力の変化状態の説明図である。
【図10】停止時発電処理後に、アノード圧力が低下から上昇に転じる時点の要因説明図である。
【図11】極間差圧保護必要判断と、エア供給制御処理の対応関係の説明図である。
【図12】通常時の起動時エア供給制御処理の説明に供されるタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に示すように、この発明の実施形態に係る起動制御方法が実施される燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、燃料電池スタック12に置換ガスを導入するアノード掃気装置15と、燃料電池スタック12に接続自由なバッテリ(蓄電装置)17と、燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ(制御装置、制御部)18とを備える。
【0030】
コントローラ18は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM(EEPROMも含む。)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、その他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力装置、時計、計時部としてのタイマ19等を有しており、CPUがROMに記録されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)、たとえば制御部、演算部、及び処理部等として機能する。
【0031】
燃料電池システム10は、燃料電池自動車等の燃料電池車両に搭載される。バッテリ17は、燃料電池車両を通常走行可能であり、例えば、20A、〜500V程度であるとともに、後述する12V電源98よりも高電圧且つ高電力容量である。
【0032】
燃料電池スタック12は、複数の燃料電池(セル又はセルペアともいう。)20を積層して構成される。各燃料電池20は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜22をカソード電極24とアノード電極26とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)28を備える。
【0033】
カソード電極24及びアノード電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜22の両面に形成される。
【0034】
電解質膜・電極構造体28をカソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32で挟持する。カソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0035】
カソード側セパレータ30と電解質膜・電極構造体28との間には、酸化剤ガス流路34が設けられるとともに、アノード側セパレータ32と前記電解質膜・電極構造体28との間には、燃料ガス流路36が設けられる。
【0036】
燃料電池スタック12には、各燃料電池20の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう。)を供給する酸化剤ガス入口連通孔38a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口連通孔40a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口連通孔(図示せず)、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口連通孔38b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口連通孔40b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口連通孔(図示せず)が設けられる。
【0037】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ50を備え、前記エアポンプ50が空気供給流路52に配設される。空気供給流路52には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器54が配設される。空気供給流路52は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに連通する。
【0038】
酸化剤ガス供給装置14は、酸化剤ガス出口連通孔38bに連通する空気排出流路56を備える。空気排出流路56は、加湿器54の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路56には、エアポンプ50から空気供給流路52を通って燃料電池スタック12に供給される空気の圧力を調整するためのバタフライ弁等の開度調整可能な背圧制御弁(単に、背圧弁ともいう。)58が設けられる。背圧制御弁58は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)制御弁により構成されることが好ましい。空気排出流路56は、希釈ボックス60に連通する。
【0039】
アノード掃気装置15は、前記酸化剤ガス供給装置14と共用するエアポンプ50と、エゼクタ66の下流側の水素供給流路64と空気供給流路52との間に配設された空気導入流路53と、この空気導入流路53に設けられた空気導入弁55と、燃料ガスのオフガス流路70と空気排出流路56との間に配設された排出弁59とを備える。
【0040】
空気導入弁55は、エアポンプ50から空気供給流路52及び空気導入流路53を介し、燃料ガス入口連通孔40aを通じて燃料ガス流路36に圧縮空気を導入するための、いわゆるアノード側空気掃気処理(アノード掃気処理ともいう。)時に開放される開閉弁であり、排出弁59は、このアノード掃気処理時に、同時に開放される開閉弁である。
【0041】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留し開閉弁であるインタンク電磁弁63が一体的に設けられた水素タンク62を備え、この水素タンク62は、水素供給流路64を介して燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに連通する。
【0042】
この水素供給流路64には、開閉弁である遮断弁65及びエゼクタ66が設けられる。エゼクタ66は、水素タンク62から供給される水素ガスを、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12に供給するとともに、燃料電池スタック12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路68から吸引して、再度、前記燃料電池スタック12に燃料ガスとして供給する。
【0043】
燃料ガス出口連通孔40bには、オフガス流路70が連通する。オフガス流路70の途上には、水素循環路68が連通するとともに、オフガス流路70には、パージ弁72を介して希釈ボックス60が接続される。希釈ボックス60の排出口側には、排出流路74が接続される。なお、排出流路74には、図示しない貯蔵バッファが配設され、この貯蔵バッファには、大気に連通する排気流路が接続される。
【0044】
なお、上述した空気導入弁55、排出弁59、及びパージ弁72は、容量は異なるが、その構造は共通している。ここで、空気導入弁55を例としてその構造(構成)を説明する。
【0045】
図3は、空気導入弁55の要部断面を示している。空気導入弁55は、ボディ101と、エアポンプ50側に連通するポート(入力ポート)124と、ポート124に連通する弁室126と、燃料ガス入口連通孔40aに連通するポート(出力ポート)128と、ポート124とポート128との間を連通乃至遮断する弁体120と、弁体120がフランジ部として形成されたプランジャ112と、ボディ101とプランジャ112の間に設けられたスプリング114と、電磁コイル116と、を備える。
【0046】
図3に示す閉弁状態では、弁体120は、スプリング114の弾性力によって、プランジャ112を介して閉弁方向に付勢され、ポート124とポート128との間を遮断している。プランジャ112は、電磁コイル116への通電による電磁力でスプリング114の弾性力に抗って、図3中、上方に可動し、弁体120を開弁方向に移動させ、ポート124とポート128との間を連通させる(開弁状態)。
【0047】
コントローラ18は、各種制御処理を実行するために、水素供給流路64に設けられたアノード圧力Paを検出する圧力センサ102、酸化剤ガス出口連通孔38bの近傍に設けられたカソード圧力Pkを検出する圧力センサ103、燃料ガス出口連通孔40bの近傍に設けられた水素温度Thを検出する温度センサ104、図示しない冷却媒体入口連通孔に設けられた冷媒温度Tcを検出する温度センサ106、各燃料電池20の電圧(セル電圧又はセルペア電圧という。)Vcを検出する電圧センサ108、及び燃料電池スタック12から流れ出る電流の電流値Ioを検出する電流センサ110の各信号を取り込み、後述するFCコンタクタ86のオン(閉)オフ(開)、遮断弁65等の弁の開閉及び開度制御、及びエアポンプ50の流量(風量)の調整等のアクチュエータの制御等を行う。
【0048】
図2に示すように、燃料電池スタック12には、主電力線80の一端が接続されるとともに、前記主電力線80の他端がインバータ82に接続される。インバータ82には、三相の車両走行用の駆動モータ84が接続される。なお、主電力線80は、実質的には、2本用いられているが、説明の簡素化を図るために、1本の前記主電力線80で記載する。以下に説明する他のラインにおいても、同様である。
【0049】
主電力線80には、FCコンタクタ(主電源開閉器、燃料電池スタック開閉器)86が配設されるとともに、エアポンプ50が接続される。主電力線80には、電力線88の一端が接続され、電力線88には、DC/DCコンバータ90及びバッテリコンタクタ(蓄電装置開閉器)92を介してバッテリ17が接続される。電力線88には、分岐電力線94が設けられ、分岐電力線94には、ダウンバータ(DC/DCコンバータ)96を介して12V電源98が接続される。なお、12V電源98は、バッテリ17よりも低い電圧であればよく、12Vに限定されるものではない。
【0050】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、以下に説明する。
【0051】
先ず、燃料電池システム10の通常運転時(通常発電時、又は通常発電処理時ともいう。)には、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50を介して、空気供給流路52に空気が送られる。この空気は、加湿器54を通って加湿された後、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに供給される。この空気は、燃料電池スタック12内の各燃料電池20に設けられている酸化剤ガス流路34に沿って移動することにより、カソード電極24に供給される。
【0052】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔38bから空気排出流路56に排出され、加湿器54に送られることによって新たに供給される空気を加湿した後、背圧制御弁58を介して希釈ボックス60に導入される。
【0053】
一方、燃料ガス供給装置16では、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が開放されることにより、水素タンク62から減圧制御弁(図示せず)により減圧された後、水素供給流路64に水素ガスが供給される。この水素ガスは、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに供給される。燃料電池スタック12内に供給された水素ガスは、各燃料電池20の燃料ガス流路36に沿って移動することにより、アノード電極26に供給される。
【0054】
使用済みの水素ガスは、燃料ガス出口連通孔40bから水素循環路68を介してエゼクタ66に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池スタック12に供給される。従って、カソード電極24に供給される空気とアノード電極26に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して発電が行われる。
【0055】
一方、水素循環路68を循環する水素ガスには、不純物が混在し易い。このため、不純物を混在する水素ガスは、パージ弁72が開放されることによって希釈ボックス60に導入される。この水素ガスは、希釈ボックス60内で空気オフガスと混合されることにより水素濃度が低下された後、貯蔵バッファ(図示せず)に排出される。
【0056】
通常発電中には、アノード掃気装置15は作動させず、空気導入弁55及び排出弁59は、閉じた状態に保持される。空気導入弁55及び排出弁59並びにパージ弁72は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)の開閉弁である。
【0057】
次に、燃料電池システム10の運転停止時の動作について、図4に示すタイミングチャートに沿って、以下に説明する。
【0058】
図示しない燃料電池自動車に搭載された燃料電池システム10は、上記のように、通常発電運転を行うことにより、所望の走行が行われている。そして、図示しないイグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフされると、コントローラ18は、これを停止指令として検出し(時点t1)、燃料電池システム10の運転停止処理を開始する。
【0059】
先ず、後述するディスチャージ処理(低酸素ストイキ発電処理、停止時発電処理、O2リーン処理、又はO2リーン発電処理ともいう。)後に、燃料電池スタック12内の燃料ガス圧力(アノード圧力Pa)が設定圧力に維持されるように、水素ガス(燃料ガス)の供給圧力が、予め、設定される。
【0060】
ディスチャージ処理時には、空気は、酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。
【0061】
具体的には、低酸素ストイキは、値1前後に設定される。なお、酸素ストイキは、通常発電時には、1.2〜3.0の間に収まることが好ましい。一方、ディスチャージ処理時に、水素ガスは、供給が停止される。アノード圧力Pa1は、ディスチャージ完了時に、一定圧力Pa2以上に維持されるように設定される。一定圧力Pa2は、水素の不足や過剰が発生しない程度の圧力である。
【0062】
図4に示すように、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフにされると(時点t1)、インタンク電磁弁63及び遮断弁65の開放作用下に燃料電池スタック12に水素ガスが供給され、燃料電池スタック12内の圧力がアノード圧力Pa1まで上昇する(時点t1〜t2:昇圧処理)。
【0063】
昇圧処理が終了すると(時点t2)、インタンク電磁弁63が閉じられ、インタンク電磁弁63の故障検知処理に移行する。この故障検知処理では、インタンク電磁弁63の直下流の圧力変化の有無により故障検知が行われる。圧力が低下した場合には、インタンク電磁弁63が正常とされる。すなわち、正常に閉弁されたと判断する。
【0064】
インタンク電磁弁63の故障検知処理が終了すると(時点t3)と、カソード掃気処理が行われる。このカソード掃気処理では、カソード側の水滴を含む液滴等を吹き飛ばすため、及び希釈ボックス60に残留している水素を完全に希釈するための空気による(酸化剤ガス供給装置14による)掃気処理が行われる。この際、高回転数[rpm]に設定されるエアポンプ50を駆動するのに不足する電力は補充される(時点t4〜t5)。
【0065】
カソード掃気処理後には、背圧制御弁58の開度制御が一旦停止されて開放されることでカソード側が大気に連通し、カソード圧力PkがPk=0[kPag:gはゲージ圧を意味する。]にされる状態が作られる(時点t4〜t5)。さらに、カソード掃気処理終了時点(時点t4)で、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50は、通常運転時に比べて相当に回転数が減速され、酸化剤ガス中の酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。具体的には、低酸素ストイキは、1前後に設定される。そして、圧力センサ103の学習処理(0点補正)がなされる。
【0066】
その後、時点t5〜t8において、背圧制御弁58の開度を調整することで、圧力センサ103により検出されるカソード圧力Pkが、低酸素ストイキに対応する所定の低圧力Pk1とされ、さらに、その低圧力Pk1での背圧制御弁58の学習処理がなされる(時点t5〜t6)。以降、エアポンプ50のオフ(時点t7)まで、低圧力Pk1とされる。
【0067】
一方、燃料電池スタック12は、発電が継続されている(時点t1〜t7)。
【0068】
背圧制御弁58の学習処理(時点t5〜t6)後の低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理、単にO2リーン処理ともいう。時点t6〜t7)では、燃料電池スタック12から取り出される電流(FC電流)は、固体高分子電解質膜22を透過してアノード側からカソード側に燃料ガスである水素ガスが移動することを阻止する値に設定される。その際、図2において、FCコンタクタ86及びバッテリコンタクタ92がオンされており、燃料電池スタック12の発電時に得られる電力は、DC/DCコンバータ90により電圧を降圧させた後、バッテリ17に充電される。
【0069】
上記のように、燃料電池スタック12では、低酸素ストイキの空気が供給される一方、遮断弁65の閉塞(時点t3)により水素ガスの供給が停止した状態で、発電が行われている。パージ弁72も閉じられている。そして、燃料電池スタック12による発電電力は、バッテリ17に供給されることにより、ディスチャージ{図4中、DCHG(O2リーン処理)}されている。従って、燃料電池スタック12の発電電圧が所定の電圧、すなわち、バッテリ17に供給不能な電圧(バッテリ17の電圧とほぼ同じ電圧)まで低下すると、エアポンプ50にのみ発電電力が供給される。
【0070】
これにより、燃料電池スタック12内では、O2リーン処理(時点t6〜t7)の間にアノード側の水素濃度が低下する一方、カソード側の酸素濃度が低下していく。そこで、例えば、アノード側の水素圧力(アノード圧力Pa)が所定の圧力Pa2以下となった際に、エアポンプ50がオフされるとともに、バッテリコンタクタ92がオフされる(時点t7)。
【0071】
このため、燃料電池スタック12は、内部に残存する水素ガスと空気とにより発電される(時点t7〜t8)。この燃料電池スタック12の発電により発生する電力は、ダウンバータ96を介して降圧された後、12V電源98に充電(図4中、D/V DCHG)されるとともに、必要に応じて図示しないラジエータファン等に電力が供給される。さらに、燃料電池スタック12の発電電圧が、ダウンバータ96の作動限界電圧の近傍まで低下すると、FCコンタクタ86がオフされる(時点t8)。これにより燃料電池システム10は、運転停止状態、いわゆるソーク状態となる。
【0072】
上述したように、イグニッションスイッチがオフされると(時点t1)、水素ガスの供給を停止する前に、燃料電池スタック12内のアノード圧力Paがアノード圧力Pa1まで上昇された後(時点t2)、背圧制御弁58、エアポンプ50、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が操作されている。従って、燃料電池スタック12では、この燃料電池スタック12内に残存する水素ガスと低酸素ストイキの空気とにより発電が行われ、発電電力がバッテリ17に供給されてディスチャージされている(時点t2〜t7)。
【0073】
これにより、停止時発電処理による作用効果を模式的に説明する図5に示すように、燃料電池スタック12内のアノード側では、水素残量が低下して(図5中、アノードの水素残量低下)水素濃度が減少するとともに、カソード側では、低酸素ストイキであるので酸素濃度が減少して窒素N2の濃度が上昇している。結果、排気側(空気排出流路56側)からの酸素の進入(拡散)が防止され、カソード側の低酸素状態が保持される。
【0074】
その上、水素ガスの供給を停止する前に、燃料電池スタック12に供給される水素ガスの供給圧力を、アノード圧力Pa1まで上昇させている(時点t2)。このため、燃料電池スタック12内に適正な量の水素が充填された状態で、低酸素ストイキによる発電(O2リーン処理)が良好に遂行され、ディスチャージ完了後に、燃料電池スタック12内に過剰な水素ガスが残存したり、水素ガス不足が発生したりすることを、確実に阻止することができるという効果が得られる。
【0075】
さらに、エアポンプ50を停止することにより(時点t7)、空気の供給を停止した状態で、すなわち、燃料電池スタック12内に残存する水素及び酸素のみで、前記燃料電池スタック12が発電されている(図4中、D/V DCHG)。
【0076】
このため、エアポンプ50を介して空気の供給を行いながら、燃料電池スタック12の発電を行った場合、システム内の窒素置換範囲が、燃料電池スタック12内に止まるのに対し、エアポンプ50を停止した後、燃料電池スタック12の発電を行うと、燃料電池スタック12の入口側まで窒素ガスによる置換範囲が拡大される(図5参照)。これにより、燃料電池システム10のカソード側は、比較的長期間にわたって停止されても、燃料電池20の劣化を可及的に阻止することができるという利点がある。
【0077】
図6は、停止時発電処理を実施した場合のアノード圧力Paの変化状態を示している。なお、この変化状態を示す特性130は、予め、実験等により測定され、コントローラ18のメモリ内に特性、マップ等として記憶されている。
【0078】
イグニッションスイッチのオフ後、時点t3において、遮断弁65が閉じられると、アノード循環系(エゼクタ66→燃料ガス入口連通孔40a→燃料ガス流路36→燃料ガス出口連通孔40b→水素循環路68→エゼクタ)内のアノード圧力Paは、停止時発電処理を原因とする反応により水素ガスが消費されるので、比較的急に減少していく。そして、停止時発電処理を実施した場合の運転停止時点t8(FCコンタクタ86をオン状態からオフ状態にした時点)におけるアノード圧力Paは、所定範囲内の負圧になっていることを確認している。
【0079】
その一方、図6中、時点t8以降のソーク中には、水素が消費されず、アノード圧力Paの特性に示すように、アノード圧力Paは徐々に低下するが、水素量が少なくなったときに(時点t10)、窒素ガスがカソード側からアノード側へ透過する量が大きくなり、アノード圧力Paは、徐々に大きくなる(時点t10以降)。
【0080】
図6において、第1閾値圧力Pth1は、アノード圧力Paがこの第1閾値圧力Pth1以下であるときに、図12に示したように、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオン状態にされ、エアポンプ50が駆動されて酸化剤ガスがカソードに導入され、カソード圧力Pkがエアポンプ50の回転数の増加に対応して所定圧力Pd(図12参照)まで上昇したときに、図3に示した弁体120が開弁してしまう極間差圧(Pk−Pa:Pkは正圧でPaは負圧であるので、極間差圧は|Pk|+|Pa|となる。)以上に大きくなる閾値を示している。
【0081】
換言すれば、上記の極間差圧|Pk|+|Pa|は、空気導入弁55の弁体120を閉弁方向に付勢しているスプリング114の弾性力に抗って弁体120を開弁(開放)してしまう圧力であり、ソーク時間が時点t9〜t11までの第1閾値圧力Pth1以下の負圧保護期間Tpnにあるときは、次に説明する極間差圧保護処理(負圧保護処理)を行いながらの起動処理を行う。
【0082】
すなわち、ソーク中の負圧保護期間Tpn内でイグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオン状態にされたときには、図7のフローチャート及び図8のタイミングチャートの実線で示す極間差圧保護処理のように、より大きな極間差圧とならないように、イグニッションスイッチのオン(IG ON)後、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50を作動させて酸化剤ガスの供給を開始する前に、遮断弁65を開弁して(ステップS1:YES)、燃料ガス供給装置16から燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間(所定時間)Ts1後に(ステップS2:YES)、エアポンプ50を駆動して、カソード圧力・流量指令値を起動用の圧力・流量に設定して(ステップS3)酸化剤ガスの供給を開始するようにしている。なお、ステップS1及びS2の判定が否定的であるとき(ステップS1:NO、ステップS2:NO)、ステップS4に示すように、カソード圧力・流量指令値を0(エアポンプ50の回転数を0値)としておく。
【0083】
ここで、所定時間Ts1は、この時間内に、アノード圧力Paが上述した第1閾値圧力Pth1を上回るのに必要十分な時間に設定している。
【0084】
なお、ソーク中に、外気温が氷点下等の低温になったとき、あるいは氷点下になることが予測されたときに、アノード掃気処理が必要と判断された場合であって、ソーク中の上述した期間Tpn(図6参照、極間差圧|Pk|+|Pa|が、空気導入弁55の弁体120を閉弁方向に付勢しているスプリング114の弾性力に抗って弁体120を開弁(開放)してしまう圧力以上の圧力になる時間帯)内に、図9の時点t10´に示すように、アノード掃気装置15による上述したアノード掃気処理が行われた場合には、空気導入弁55及び排出弁59が開弁してアノード側が空気に置換されて大気圧となるので、アノード掃気後は、図7、図8を参照して説明した差圧保護処理は不要となり、図8の点線で示すタイミング(図12で示した通常起動時のタイミング)でエアポンプ50を起動した後、遮断弁65を開弁する起動処理を行えばよい。
【0085】
実際上、停止時発電処理後であって、図6に示したアノード圧力Paが低下から上昇に転じる時点t10は、図10に示すように、大気圧に対する依存性はほとんど無く、固体高分子電解質膜22の温度と湿潤状態によって決定されることを確認している。すなわち、ソーク中に、アノード圧力Paが低下から上昇に転じ時点t10は、固体高分子電解質膜22が高温で湿潤(WET)状態である程、運転停止時点t8(FCコンタクタ86がオン状態からオフ状態にされた時点)から短いソーク時間Tsa以降となり、低温で乾燥(DRY)状態である程、運転停止時点t8から長いソーク時間Tsd以内となる。
【0086】
よって、図11のフローチャートに示すように、ステップS11の判断において、(i)停止時発電処理中のアノード圧力Paが所定圧力Pth2{ここでは、アノードの圧力センサ102の測定範囲下限値:これ以上、低い圧力(負圧)になるとセンサ出力がオーバーフローする。(それぞれが負圧で、この実施形態では、|Pth2|<|Pth1|)}、(ii)ソーク時間がソーク時間Tsaを上回りかつソーク時間Tsdを下回る、(iii)ソーク中に、アノード掃気処理の実施履歴がないこと、(iv)起動時アノード圧力PaがPth1以下であることの4つの条件が揃ったときに、ステップS12に示すエア供給タイミングが極間差圧保護用のタイミング(図8中、実線で示すタイミング)とされ、4つの条件中、少なくとも1つの条件が欠けたときには、通常のタイミング(図8中、点線で示すタイミング)で、エア供給が実施される。
【0087】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように上述した実施形態係る燃料電池システム10の起動制御方法は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池20と、燃料電池20に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池20に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、を備える。
【0088】
コントローラ18(制御部、制御手段)は、燃料電池20の運転停止指令を検出したとき、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池20に供給しながら燃料電池20を発電させる停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止し、その後に燃料電池システム10の起動指令を検出したとき、燃料電池20のアノード圧力Paが第1閾値圧力Pth1(この場合、例えば、第1閾値圧力Pth1を測定可能な負圧側に広い測定レンジを有する圧力センサ102で測定する。)以下の場合には、酸化剤ガス供給装置14による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、燃料ガス供給装置16から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間Ts1後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理(図8参照)を行うようにしたので、アノードとカソードの極間差圧(ここでいう極間差圧とは、カソード側の圧力と同様となっている大気圧とアノード側圧力との差圧を意味する。)を上げることなく(極間差圧を下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池20の外部で連通する空気導入弁55、排出弁59、及びパージ弁72の誤開弁等を防止することができる。
【0089】
また、圧力センサ102が、上記第1閾値圧力Pth1までは測定できない負圧側測定範囲が狭い圧力センサ102である場合であっても、燃料電池20の前記停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止したときのアノード圧力Paが第2閾値Pth2(この実施形態では、圧力センサ102による負圧測定値の仕様上の下限値)以下の圧力であって、かつ燃料電池20の発電を停止したときからの経過時間が規定時間範囲(図6中、時点t9〜t11までの極間差圧保護起動が必要な時間範囲)以内である場合には、酸化剤ガス供給装置14による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、燃料ガス供給装置16から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間Ts1後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第2起動処理(図6、図8)を行うようにしたので、圧力センサ102が、上記第1閾値圧力Pth1までは測定できない負圧側測定範囲の狭い圧力センサ102である場合であっても、上記の経過時間を監視することで燃料ガスの供給開始時点を想定でき、アノードとカソードの極間差圧を上げることなく(下げて)起動することが可能となり、アノードとカソードとの間を燃料電池20の外部で連通する空気導入弁55、排出弁59、及びパージ弁72の誤開弁を防止することができる。
【0090】
この場合、前記停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止し、その後に燃料電池システム10の起動指令を検出したとき、停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止したときのアノードの圧力Paが第2閾値Pth2以下の圧力であって、かつ燃料電池20の発電を停止したときからの経過時間が時点t9〜t11までの規定時間範囲に入る前の時間(この実施形態では、時点t10´)に、アノード掃気装置15が作動した場合には、アノード圧力Paが大気圧まで増加しているので、前記第2起動処理を行う必要がなくなるので中止し、酸化剤ガス供給装置14による酸化剤ガスの供給開始を燃料ガス供給装置16による燃料ガスの供給開始よりも早くする第3起動処理(通常の起動処理:図8中、点線で示した処理)を行うようにしたので、発電停止時処理をした後の起動時における起動処理を迅速に行うことができる。
【0091】
なお、前記規定時間範囲に入るまでの時間Tsa、Tsb(図10参照)が、前記停止時発電処理を実施した後に燃料電池20の発電を停止したときの前記アノードの温度及び湿度を考慮して予め定められる特性150、152に基づき、高温高湿(特性150)の場合に設定される時間Tsaは、低温低湿(特性152)の場合に設定される時間Tsbに比べて、短い時間に設定されるようにすることで、アノードの温度及び湿度に応じた的確な前記規定時間範囲に入るまでの時間を設定することができる。
【0092】
また、燃料電池システム10は、さらに、エアポンプ50に入力ポートが連通し、燃料電池20の前記アノード側に出力ポートが連通する掃気弁である空気導入弁55を有し、エアポンプ50から空気導入弁55の入力ポート124及び出力ポート128を介して前記アノード側に掃気ガスである圧縮空気を導入して該アノードを掃気するアノード掃気装置15を備え、空気導入弁55は、スプリング114の弾性力により弁体120が閉弁し、前記弾性力を上回る電磁力により弁体120が開弁するものであることが好ましい。
【0093】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採りうることができる。
【符号の説明】
【0094】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
14…酸化剤ガス供給装置 15…アノード掃気装置
16…燃料ガス供給装置 17…バッテリ
18…コントローラ 19…タイマ
20…燃料電池 22…固体高分子電解質膜
24…カソード電極 26…アノード電極
28…電解質膜・電極構造体 30、32…セパレータ
34…酸化剤ガス流路 36…燃料ガス流路
38a…酸化剤ガス入口連通孔 38b…酸化剤ガス出口連通孔
40a…燃料ガス入口連通孔 40b…燃料ガス出口連通孔
50…エアポンプ 52…空気供給流路
53…空気導入流路 54…加湿器
55…空気導入弁 56…空気排出流路
58…背圧制御弁 59…排出弁
60…希釈ボックス 62…水素タンク
63…インタンク電磁弁 64…水素供給流路
65…遮断弁 66…エゼクタ
68…水素循環路 70…オフガス流路
72…パージ弁 74…排出流路
86…FCコンタクタ 90…DC/DCコンバータ
92…バッテリコンタクタ 96…ダウンバータ
98…12V電源 102、103…圧力センサ
104、106…温度センサ 108…電圧センサ
110…電流センサ 112…プランジャ
114…スプリング 120…弁体
124、128…ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備え、
前記燃料電池の運転停止指令を検出したとき、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、
その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、
前記燃料電池の前記アノードの圧力が第1閾値圧力以下の場合には、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第1起動処理を行う
ことを特徴とする燃料電池システムの起動制御方法。
【請求項2】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備え、
前記燃料電池の運転停止指令を検出したとき、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、
その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、
前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が第2閾値以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が規定時間範囲以内である場合には、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給を開始する前に、まず、前記燃料ガス供給装置から前記燃料ガスの供給を開始し、開始したときから予め定められる時間後に、前記酸化剤ガスの供給を開始する第2起動処理を行う
ことを特徴とする燃料電池システムの起動制御方法。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムの起動制御方法において、
前記燃料電池システムは、さらに、前記燃料電池のアノード側に掃気ガスを導入して該アノードを掃気するアノード掃気装置を備え、
前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、その後に前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、
前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときのアノードの圧力が第2閾値以下の圧力であって、かつ前記燃料電池の発電を停止したときからの経過時間が前記規定時間範囲に入る前の時間に、前記アノード掃気装置が作動した場合には、前記第2起動処理を中止し、
前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給開始を前記燃料ガス供給装置による燃料ガスの供給開始よりも早くする第3起動処理を行う
ことを特徴とする燃料電池システムの起動制御方法。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池システムの起動制御方法において、
前記規定時間範囲に入るまでの時間が、
前記停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止したときの前記アノードの温度及び湿度を考慮して予め定められる特性に基づき、高温高湿の場合には低温低湿の場合に比べて、短い時間に設定される
ことを特徴とする燃料電池システムの起動制御方法。
【請求項5】
請求項1、2又は4記載の燃料電池システムの起動制御方法において、
前記燃料電池システムは、さらに、エアポンプに入力ポートが連通し、前記燃料電池の前記アノード側に出力ポートが連通する掃気弁を有し、前記エアポンプから前記掃気弁の入力ポート及び出力ポートを介して前記アノード側に掃気ガスを導入して該アノードを掃気するアノード掃気装置を備え、
前記掃気弁は、弾性力により弁体が閉弁し、前記弾性力を上回る電磁力により前記弁体が開弁するものである
ことを特徴とする燃料電池システムの起動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−212617(P2012−212617A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78451(P2011−78451)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】