説明

燃料電池システム

【課題】カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節し得る燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池スタックと、電源と、制御装置とを具備し、燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備え、制御装置が、燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムであって、作動判断手段が、燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、電源が、燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに係り、更に詳細には、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節し得る燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子形燃料電池の電解質膜には、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFSA)膜などが用いられている(特許文献1参照。)。
このような電解質膜を用いた燃料電池システムにおいては、発電を終了した後に、燃料電池内に残っている水の量を減らすことが必要とされている。燃料電池の技術において、燃料電池の反応により生じた水が燃料電池のガス流路やガス拡散層を塞ぐことを防ぐ必要があり、また、燃料電池のガス流路やガス拡散層で水が凍結するのを防ぐ必要もある。
そこで、燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化ガスを供給して電気を生成する燃料電池システムであって、燃料電池スタックと、発電機及びバッテリーの少なくとも一つを含む直流電源と、コントローラとを含み、前記コントローラは、前記燃料電池スタックが発電しているか否かを判断し、前記燃料電池スタックによる発電が終了すると、前記発電機及びバッテリーのうちの少なくとも一つにより燃料電池スタックに電流を供給するようにプログラムされている燃料電池システムが提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平7−90111号公報
【特許文献2】特開2005−93426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質を備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節し得る燃料電池システムは未だ開発されていない。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節し得る燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねたところ、燃料電池スタックと、電源と、制御装置とを具備し、該燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備え、該制御装置が、該燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムによって、該作動判断手段が、該燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、該電源が、該燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加するようにしたことにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、電源と、制御装置とを具備し、該燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備え、該制御装置が、該燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムであって、該作動判断手段が、該燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、該電源が、該燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池スタックと、電源と、制御装置とを具備し、該燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備え、該制御装置が、該燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムによって、該作動判断手段が、該燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、該電源が、該燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加するようにしたため、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節し得る燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の燃料電池システムについて説明する。
上述の如く、本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、電源と、制御装置とを具備し、燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備え、制御装置が、燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムであって、作動判断手段が、燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、電源が、燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加するものである。
このような構成とすることにより、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節することができ、発電性能を向上させることができる。
また、燃料電池スタック内に保持される水分量を減少させることができるため、周辺温度が氷点下以下となってもガス流が氷により妨げられにくいため、燃料電池スタックの始動性が向上するという副次的効果も得られる。
なお、電源は直流電源であることが望ましく、発電機及びバッテリーのうちの少なくとも一方を含む。
【0009】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、上記電圧は、水を電気分解するため1.23V以上の電圧であることを要するが、上記電解質の分解電圧以下の電圧であることが望ましい。
このような構成とすることにより、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節することができ、発電性能をより向上させることができる。また、印加の際の最大電圧を5V程度とすることにより、電解質の劣化を抑制できるという副次的効果も得られる。
【0010】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、電源の電源正極及び電源負極が、正極に接続されていることが望ましい。
このような構成とすることにより、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節することができ、発電性能をより向上させることができる。特に、カソード側及び電解質における発電に伴う生成水を効率良く除去することができる。
【0011】
更にまた、本発明の燃料電池システムにおいては、電源の電源正極が、正極に接続され、且つ電源の電源負極が、負極に接続されていることが望ましい。
このような構成とすることによっても、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により調節することができ、発電性能をより向上させることができる。特に、燃料電池スタック内に適度な水分量を維持するような場合に、好適な構成である。
【0012】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、作動判断手段が、燃料電池スタックが発電を終了したと判断したときに、電源が、燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加するものであることが望ましい。
このような構成とすることにより、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能をより向上させることができる。
【0013】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、制御装置が、燃料電池スタックの作動状態判断手段を備え、作動状態判断手段が、燃料電池スタックの発電性能が低下したと判断したときに、電源が、燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加するものであることが望ましい。
このような構成とすることにより、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。
【0014】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、作動状態判断手段が、燃料流量検知手段と、空気流量検知手段と、発電量検知手段と、燃料流量及び空気流量から算出される発電量基準データを格納する演算処理装置とを有し、演算処理装置が、燃料流量検知手段から得られる燃料流量と空気流量検知手段から得られる空気流量とから算出される発電量基準データと、発電量検知手段から得られる発電量と、を対比するものであることが望ましい。
このような構成とすることにより、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。
【0015】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、作動状態判断手段が、正極のガス流れ方向上流側と下流側とに圧力検知手段を有するとともに、差圧基準データを格納する演算処理装置と、を有し、演算処理装置が、下流側圧力検知手段と上流側圧力検知手段とから得られる差圧と、差圧基準データと、を対比するものであることが望ましい。
このような構成とすることによっても、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。
【0016】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、制御装置が、燃料電池スタックの電流検知手段を備え、電流検知手段が、燃料電池スタックに電流が流れていないと判断したときに、電源が、燃料電池スタックへの電圧の印加を停止するものであることが望ましい。
このような構成とすることによっても、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。また、電解質の劣化を抑制できるという副次的効果も得られる。
【0017】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、制御装置が、時間計測手段を備え、時間計測手段が、所定時間に達したと判断したときに、電源が、燃料電池スタックへの電圧の印加を停止するものであることが望ましい。
このような構成とすることによっても、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。また、電解質の劣化を抑制できるという副次的効果も得られる。
【0018】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、所定時間は、生成水を電気分解するための時間であることが望ましい。
このような構成とすることによっても、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節する、特に生成水のみを除去することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。また、電解質の劣化を抑制できるという副次的効果も得られる。
【0019】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、所定時間は、所定の水分量を電気分解するための時間であって、所定の水分量は、制御装置が、燃料電池スタックの抵抗検知手段と、水分量から算出される電気抵抗基準データを格納する演算処理装置とを備え、制御装置が、抵抗検知手段から得られる電気抵抗と、電気抵抗基準データと、を対比して算出されるものであることが望ましい。
このような構成とすることによっても、燃料電池スタックの性能低下の検知を確実に行うことができ、性能低下したときのみ、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極とを備える燃料電池スタック内の水分量を電気分解により確実に調節することができ、発電性能を効果的に向上させることができる。また、電解質の劣化を抑制できるという副次的効果も得られる。
【0020】
一方、本発明の燃料電池システムにおいては、電解質中のカチオン成分の全部又は一部が分子性カチオンであり、且つアニオン成分の全部又は一部が分子性アニオンであることが望ましい。
このような構成とすることにより、電解質の設計を使用環境に合わせて適宜変更することができ、プロトン伝導性をより向上させることができる。
【0021】
特に、カチオン成分の全部が分子性カチオンであり、且つアニオン成分の全部が分子性アニオンであることは、水と複合イオン等を形成し易くなるという観点からより望ましい。
なお、「分子性カチオン」及び「分子性アニオン」とは、それぞれ多原子カチオン及び多原子アニオンを意味する。
【0022】
また、本発明においては、分子性カチオンが少なくとも1種のヘテロ原子を有することが望ましい。
このようなヘテロ原子を含有する分子性カチオンは、高イオン伝導性を有するものであり、プロトン伝導性をより向上させることができる。
【0023】
なお、ヘテロ原子とは、炭素原子(C)及び水素原子(H)以外の原子であり、代表的には酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)、リン原子(P)、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)、ホウ素原子(B)、コバルト原子(Co)、アンチモン原子(Sb)、などを挙げることができる。
【0024】
また、本発明の燃料電池システムにおいては、電解質が、分子性カチオン及び分子性アニオンが形成するイオン液体を含有することが望ましい。
このようなイオン液体を含有することにより、イオン液体としての性質を有することとなり、更に高イオン伝導性を有することで、プロトン伝導性を更に向上させることができる。
一方、イオン液体であれば、形成するカチオン成分及びアニオン成分の双方がそれぞれ分子性カチオン及び分子性アニオンである必要はない。
【0025】
また、イオン液体を適用することにより、従来の加湿を必要とする燃料電池で発生した生成水による拡散過電圧(フラッティング)による電圧低下を防止し、高い電流密度まで、発電が可能となり、燃料電池自体を小型化することが可能である。
更に、高温運転が可能なため、放熱系システムについても小型化を図ることができる。
【0026】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、イオン液体の全部又は一部が、親水性イオン液体であることが望ましい。
このようなイオン液体は水を含有させる場合に、電解質における水の保持能を向上させることができ、より一層プロトン伝導性の向上効果を発揮させることが可能となる。
【0027】
ここで、本発明に用いられるカチオン成分とアニオン成分について具体例を挙げて詳細に説明する。
なお、本発明においては、以下に示すカチオン成分とアニオン成分を適宜組合わせて用いることができる。
【0028】
上述したカチオン成分の一種である分子性カチオンとしては、例えばイミダゾリウム誘導体カチオン、より具体的には次の化学式(1)で表される一置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Monosubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0029】
【化1】

【0030】
(式中のR11は、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0031】
そして、炭化水素基の具体例としては、メチル基やブチル基などを挙げることができる。
【0032】
また、次の化学式(2)で表される二置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Disubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0033】
【化2】

【0034】
(式中のR21及びR22は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0035】
そして、R21及びR22としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベンジル基、γ−フェニルプロピル基などを挙げることができる。
【0036】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R21がメチル基であり、R22がメチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベンジル基、γ−フェニルプロピル基であるものや、R21がエチル基であり、R22がブチル基であるものなどを挙げることができる。
【0037】
更に、次の化学式(3)で表される三置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Trisubstituted Imidazolium Derivatives Cation);
【0038】
【化3】

【0039】
(式中のR31〜R33は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0040】
そして、R31〜R33としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、プロピル基、ヘキシル基、ヘキサデシル基などを挙げることができる。
【0041】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R31がエチル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がプロピル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がブチル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がヘキシル基であり、R32及びR33がメチル基であるもの、R31がヘキサデシル基であり、R32及びR33がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0042】
また、次の化学式(4)で表されるピリジニウム誘導体カチオン(Pyridinium Derivatives Cation);
【0043】
【化4】

【0044】
(式中のR41〜R44は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0045】
そして、R41〜R44としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
【0046】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R41がエチル基であり、R42〜R44が水素であるもの、R41がブチル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42及びR44が水素でありR43がメチル基であるもの、R42及びR43がメチル基でありR44が水素であるもの、R42及びR44がメチル基でありR43が水素であるもの、R42及びR43が水素でありR44がエチル基であるもの、R41がヘキシル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42及びR44が水素でありR43がメチル基であるもの、R41がオクチル基であり、R42〜R44が水素であるものやR42及びR43が水素でありR44がメチル基であるもの、R42およびR44が水素でありR43がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0047】
更に、次の化学式(5)で表されるピロリジニウム誘導体カチオン(Pyrrolidinium Derivatives Cation);
【0048】
【化5】

【0049】
(式中のR51及びR52は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0050】
そして、R51及びR52としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
【0051】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R51がメチル基であり、R52がメチル基であるものやエチル基であるもの、ブチル基であるもの、ヘキシル基であるもの、オクチル基であるもの、R51がエチル基であり、R52がブチル基であるもの、R51及びR52がプロピル基、ブチル基、ヘキシル基であるものなどを挙げることができる。
【0052】
また、次の化学式(6)で表されるアンモニウム誘導体カチオン(Ammonium Derivatives Cation);
【0053】
【化6】

【0054】
(式中のR61〜R64は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0055】
そして、R61〜R64としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、オクチル基などを挙げることができる。
【0056】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R61〜R64がメチル基であるものやエチル基であるもの、ブチル基であるもの、R61がメチル基であり、R62〜R64がオクチル基であるものなどを挙げることができる。
【0057】
更に、次の化学式(7)で表されるホスフォニウム誘導体カチオン(Phosphonium Derivatives Cation);
【0058】
【化7】

【0059】
(式中のR71〜R74は同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0060】
そして、R71〜R74としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他にエチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、フェニル基、ベンジル基などを挙げることができる。
【0061】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R71がメチル基であり、R72〜R74がブチル基であるものやイソブチル基であるもの、R71がエチル基であり、R72〜R74がブチル基であるもの、R71〜R74がブチル基であるものやオクチル基であるもの、R71がテトラデシル基であり、R72〜R74がブチル基であるものやヘキシル基であるもの、R71がヘキサデシル基であり、R72〜R74がブチル基であるもの、R71がベンジル基であり、R72〜R74がフェニル基であるものなどを挙げることができる。
【0062】
また、次の化学式(8)で表されるグアニジウム誘導体カチオン(Guanidinium Derivatives Cation);
【0063】
【化8】

【0064】
(式中のR81〜R86は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0065】
そして、R81〜R86としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができる。
【0066】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、R81〜R86の全てが水素であるものやメチル基であるもの、R81がエチル基、R82〜R85がメチル基、R86が水素であるもの、R81がイソプロピル基、R82〜R85がメチル基、R86が水素であるもの、R81がプロピル基、R82〜R86がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0067】
更に、次の化学式(9)で表されるイソウロニウム誘導体カチオン(Isouronium Derivatives Cation);
【0068】
【化9】

【0069】
(式中のR91〜R95は同一でも異なっていてもよく、水素又は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示し、Aは酸素原子又は硫黄原子を示す。)を挙げることができる。
【0070】
そして、R91〜R95としては、上述したR11と同様のものを任意に組合わせたものを挙げることができ、その他に水素、エチル基などを挙げることができる。
【0071】
また、これらの基の代表的な組合せの具体例としては、Aが酸素原子(O)であって、R91〜R95の全てがメチル基であるものやR91がエチル基、R92〜R95がメチル基であるもの、Aが硫黄原子(S)であって、R91がエチル基、R92〜R95がメチル基であるものなどを挙げることができる。
【0072】
一方、上記分子性アニオンとしては、例えば硫酸アニオン[SO2−]、硫酸一水素アニオン[HSO]又は次の化学式(10)で表される硫酸エステルアニオン(Sulfates anion);
【0073】
【化10】

【0074】
(式中のR101は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)を挙げることができる。
【0075】
そして、R101としては、上述したR11と同様のものを挙げることができ、その他にエチル基、ヘキシル基、オクチル基などを挙げることができる。
【0076】
また、代表的な具体例としては、R101がメチル基やエチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基であるものなどを挙げることができる。
【0077】
また、次の化学式(11)で表されるスルホン酸エステルアニオン(Sulfonates anion);
【0078】
【化11】

【0079】
(式中のR111は1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基、更にはそのフッ素置換体を示す。)を挙げることができる。
【0080】
そして、代表的な具体例としては、R111がフッ素置換されたメチル基(トリフルオロメタンサルフォネートアニオンに相当)であるもの、更にはp−トリル基(p−トルエンスルホン酸アニオンに相当)であるものを挙げることができる。
【0081】
更に、次の化学式(12)〜(14)で表されるアミドアニオン(Amides Anion)又はイミドアニオン(Imides Anion);
【0082】
【化12】

【0083】
【化13】

【0084】
【化14】

【0085】
を挙げることができる。
なお、アミドアニオンやイミドアニオンについては必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0086】
また、次の化学式(15)又は(16)で表されるメタンアニオン(Methanes Anion);
【0087】
【化15】

【0088】
【化16】

【0089】
を挙げることができる。
なお、メタンアニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0090】
また、次の化学式(17)〜(23)で表されるホウ素含有化合物アニオン;
【0091】
【化17】

【0092】
【化18】

【0093】
【化19】

【0094】
【化20】

【0095】
【化21】

【0096】
【化22】

【0097】
【化23】

【0098】
を挙げることができる。
なお、ホウ素含有化合物アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0099】
更に、次の化学式(24)〜(32)で表されるリン含有化合物アニオン;
【0100】
【化24】

【0101】
【化25】

【0102】
【化26】

【0103】
【化27】

【0104】
【化28】

【0105】
【化29】

【0106】
【化30】

【0107】
【化31】

【0108】
【化32】

【0109】
を挙げることができる。
なお、リン含有化合物アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0110】
更に、次の化学式(33)又は(34)で表されるカルボン酸アニオン;
【0111】
【化33】

【0112】
【化34】

【0113】
を挙げることができる。
なお、カルボン酸アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0114】
更に、次の化学式(35)又は(36)で表される金属元素含有アニオン;
【0115】
【化35】

【0116】
【化36】

【0117】
を挙げることができる。
なお、金属元素含有アニオンについても必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0118】
他方、分子性アニオンではないが、他のアニオン成分としてハロゲン化物アニオン(Halogenides Anion)であるフッ素アニオン[F]や塩素アニオン[Cl]、臭素アニオン[Br]、ヨウ素アニオン[I]を挙げることもできる。
【0119】
更に、本発明の燃料電池システムにおいては、親水性イオン液体の全部又は一部が、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン又はアンモニウム誘導体カチオン、及びこれらの任意の組合わせに係る分子性カチオンの混合物と、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン[(HF)F(nは実数で1〜3が望ましい。)]、硫酸一水素アニオン又はリン酸二水素アニオン、及びこれらの任意の組合わせに係る分子性アニオンの混合物とから成ることが望ましい。
これらの分子性カチオンと分子性アニオンを組合わせたものはイオン液体(常温溶融塩)であって、良好な親水性を示すからである。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を若干の実施例により更に詳細に説明する。
【0121】
(実施例1)
図1は、本例の燃料電池システムの構成を示す説明図である。同図に示すように、燃料電池スタック10と、電源の一例であるバッテリー20と、制御装置30と、水素タンク40と、圧縮機50と、を具備する。そして、水素タンク40より燃料ガス供給ライン42を介して水素が燃料電池スタック10に供給される。また、圧縮機50により圧縮され、酸化剤ガス供給ライン52を介して空気が燃料電池スタック10に供給される。更に、燃料電池スタック10の正極12側には、バッテリー20のバッテリー正極及びバッテリー負極が接続されている。更にまた、燃料電池スタック10とバッテリー20との間には電流検知手段の一例である電流計22と印加する電圧を検知する電圧検知手段の一例である電圧計24と、印加等を制御するスイッチ26とが配設されている。
燃料電池スタック10が発電している間は、水素制御弁44及び空気制御弁54が開いている。余剰な電力が生じている場合は、スイッチ26が閉じ、バッテリー20を充電することができる。
それ以外では、スイッチ26は開いている。燃料電池スタック10の発電が停止されると、水素制御弁44及び空気制御弁54とが閉じられる。このような燃料電池システム全般の制御は、制御装置30により行われる。
なお、13で示されるものは、燃料電池スタックの負極14側であり、電解質は図示しない。
【0122】
図2は、本例において用いる燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。同図に示すように、燃料電池スタックは、電解質11と、正極12及び負極13と、正極側セパレータ14及び負極側セパレータ15と、エンドプレート16と、絶縁部17と、を備える。正極12及び負極13は、それぞれ電極触媒層12A、13A及びガス拡散層12B、13Bから構成される。エンドプレート16を除くものにより、ユニットセルが構成され、燃料電池スタックは、少なくとも1つのユニットセルを含むものとなっている。
また、電極触媒層12A及びガス拡散層12Bは、絶縁部17により分割されている。更に、正極側セパレータ14及び負極側セパレータ15の間には、第2スイッチ18が設けられている。更にまた、燃料ガスの一例である水素及び酸化ガスの一例である空気はガス流路19を介してユニットセルに供給され、ユニットセルはエンドプレート16の間で積層されている。
【0123】
本例においては、制御装置が、バッテリーにより燃料電池スタックに電圧を印加する。燃料電池スタックに1.23V以上の電圧が印加されると、以下の(I)に示すような水の電解反応が起こる。
O→H+1/2O…(I)
【0124】
この反応により、燃料電池スタックの電解質、正極、負極及びガス流路内の水を消費できる。従って、燃料電池スタック内に保持される水分量は減少し、電解質膜付近での水分が過多となり、燃料及び酸化ガスの拡散を阻害することで、発電性能を下げてしまう現象(フラッディング)を防止することができる。
また、周辺温度が氷点下以下となってもガス流れが氷により妨げられないため、燃料電池スタックは容易に始動することができる。
【0125】
また、本例において用いる燃料電池スタックは、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質を備える。イオン伝導体としては、イオン液体を適用することにより、200℃付近の高温領域まで使用可能であり、100℃以上において高いプロトン伝導度を示す。イオン液体を電解質に適用することにより、高温運転が可能なため、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜を適用した燃料電池と異なり、加湿が不要になることで、加湿装置が削減可能である。更に、放熱系システムも小型化することで、燃料電池システム全体を小型化することが可能となる。
【0126】
また、このようなイオン液体を電解質に適用した燃料電池スタックでは、基本的に供給ガスへの加湿が不要なため、水としては正極側に生成水のみが存在する。この生成水を電気分解するためには、電圧を燃料電池スタックの正極側に選択的に印加する必要がある。そのため、バッテリーの正極及び負極が燃料電池スタックの正極に接続される。燃料電池システムでは、燃料電池スタックに電流が流れるときであって、印加される電圧が1.23V以上のときに、水の電解反応が起こる。
【0127】
更に、本例においては電流検知手段の一例である電流計を備えている。燃料電池スタックに流れる電流が所定のアンペア数に達し、水を電気分解する反応が一定のアンペア数で進行するように、燃料電池スタックに印加される電圧を制御する。電流ではなく電圧を一定にすると、燃料電池スタック内の水分量が少量しかない場合には、水の電気分解の反応は止まってしまう。従って、電流が一定のアンペア数で流れるように電圧を制御することが望ましい。
【0128】
燃料電池スタックへの電圧印加は、制御装置により制御される。図3は、制御の一例を示すフローチャートである。本例においては、燃料電池スタック10の運転が停止した後、スイッチ26を接続してバッテリーから燃料電池スタック10へ電圧を印加する。その際、燃料電池スタック10の第2スイッチ18は遮断しておく。図2の燃料電池スタック10において、正極側セパレータ14には、絶縁部17が設けられている。そのため、第2スイッチ18を遮断することにより、正極側セパレータ14は絶縁部17により2つの部位に電気的に絶縁された状態となり、絶縁部17を挟んだ2つの部位の間に電圧を印加することとなる。その結果、正極セパレータ14側の電極触媒層12A及びガス拡散層12B、ガス流路19に電圧が印加され、これらに存在する生成水を電気分解することとなる。水の電気分解に伴い、電流が発生するが、この電流は電流計により検知し、検知されている間は、電圧を印加する。一方、電流が検知されなくなった場合には、電圧の印加を停止し、スイッチ26を遮断する。その後、燃料電池スタック10の第2スイッチ18を接続し、燃料電池スタック10の発電運転を行う場合と同じ状態に変更する。
【0129】
ここで、水の電気分解を発生させるために印加する電圧は、1.23V以上の電圧である。水の電気分解による効果を表す結果を示す。図4は、イオン液体を電解質に用いた燃料電池において、電圧印加前後の発電性能を比較した結果である。ここでは、電圧を1.7Vとして、40秒間保持した場合に、発電性能が向上し、電圧印加前後で同じ電流密度での電圧は1.5倍向上した。また、印加する電圧としては、燃料電池スタックの電解質に適用したイオン液体が分解しない電圧とする。通常イオン液体の電位窓は−1〜3Vであり、印加する電圧としては2V以下が望まれる。しかし、これは使用するイオン液体の特性に依存するものであり、この電圧値に限定されるものではない。
【0130】
なお、本例においては、燃料電池スタックの運転が停止した後、バッテリーから電圧を印加することとした。電圧を印加する時期としては、燃料電池スタックの発電性能が低下した場合に、燃料電池スタックの運転が停止した後に実施することも考えられる。燃料電池スタックの発電性能の低下を判断する方法として、燃料と空気の流量と発電性能のマップを参照し、発電性能が低下した場合に、性能低下と判断する方法や、酸化ガスの燃料電池スタックの前後差圧が増加した場合に性能低下と判断する方法がある。酸化ガスの燃料電池スタックの前後差圧をモニタすることにより、正極側のガス流路内でのフラッディングの発生に特化して検知することが可能である。
【0131】
(実施例2)
燃料電池システムの構成は図1に示すものと同様である。一方、燃料電池スタックの構成は異なり、図5は、本例の燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。同図に示すように、燃料電池スタックは、電解質11と、正極12及び負極13と、正極側セパレータ14及び負極側セパレータ15と、エンドプレート16と、絶縁部17と、を備える。正極12及び負極13は、それぞれ電極触媒層12A、13A及びガス拡散層12B、13Bから構成される。エンドプレート16を除くものにより、ユニットセルが構成され、燃料電池スタックは、少なくとも1つのユニットセルを含むものとなっている。
また、正極側セパレータ14には、絶縁部17が設けられている。絶縁部17により、電解質11の一部と、電極触媒層12A、ガス拡散層13Aとを分割している。更に、燃料ガスの一例である水素及び酸化ガスの一例である空気はガス流路19を介してユニットセルに供給され、ユニットセルはエンドプレート16の間で積層されている。
【0132】
燃料電池スタックへの電圧印加は、制御装置により制御される。図6は、制御の一例を示すフローチャートである。本例においては、燃料電池スタック10の運転が停止した後、スイッチ26を接続してバッテリーから燃料電池スタック10へ電圧を印加する。電圧の印加は、絶縁部17及び電解質11で仕切られた正極側セパレータ14の両端の間で行われる。その結果、正極側セパレータ14側の電解質11、電極触媒層12A、ガス拡散層12B、及びガス流路19に電圧が印加され、これらに存在する生成水を電気分解することとなる。水の電気分解に伴い、電流が発生するが、この電流は電流計により検知し、検知されている間は、電圧を印加する。一方、電流が検知されなくなった場合には、電圧の印加を停止するため、スイッチを遮断する。
【0133】
なお、本例では、燃料電池スタックの運転が停止した後、バッテリーから電圧を印加することとした。電圧を印加する時期としては、燃料電池スタックの発電性能が低下した場合に、燃料電池スタックの運転が停止した後に実施することも考えられる。
燃料電池スタックの発電性能の低下を判断する方法として、燃料と空気の流量と発電性能のマップを参照し、発電性能が低下した場合に性能低下と判断する方法や、カソードガスの燃料電池スタックの前後差圧が増加した場合に性能低下と判断する方法がある。カソードガスの燃料電池スタックの前後差圧をモニタすることにより、カソードのガス流路内でのフラッディングの発生に特化して検知することが可能である。
【0134】
(実施例3)
図7は、本例の燃料電池システムの構成を示す説明図である。同図に示すように、燃料電池スタック10と、電源の一例であるバッテリー20と、制御装置30と、水素タンク40と、圧縮機50と、を具備する。そして、水素タンク40より燃料ガス供給ライン42を介して水素が燃料電池スタック10に供給される。また、圧縮機50により圧縮され、酸化剤ガス供給ライン52を介して空気が燃料電池スタック10に供給される。更に、燃料電池スタック10の正極12側には、バッテリー20のバッテリー正極、燃料電池スタック10の負極13側には、バッテリー負極が接続されている。更にまた、燃料電池スタック10とバッテリー20との間には電流検知手段の一例である電流計22と印加する電圧を検知する電圧検知手段の一例である電圧計24と、印加等を制御するスイッチ26とが配設されている。
燃料電池スタック10が発電している間は、水素制御弁44及び空気制御弁54が開いている。余剰な電力が生じている場合は、スイッチ26が閉じ、バッテリー20を充電することができる。
それ以外では、スイッチ26は開いている。燃料電池スタック10の発電が停止されると、水素制御弁44及び空気制御弁54とが閉じられる。このような燃料電池システム全般の制御は、制御装置30により行われる。
なお、13で示されるものは、燃料電池スタックの負極であり、電解質は図示しない。
【0135】
図8は、本例において用いる燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。同図に示すように、燃料電池スタックは、電解質11と、正極12及び負極13と、正極側セパレータ14及び負極側セパレータ15と、エンドプレート16と、を備える。正極12及び負極13は、それぞれ電極触媒層12A、13A及びガス拡散層12B、13Bから構成される。これらによりユニットセルが構成され、燃料電池スタックは、少なくとも1つのユニットセルを含むものとなっている。
また、燃料ガスの一例である水素及び酸化ガスの一例である空気はガス流路19を介してユニットセルに供給され、ユニットセルはエンドプレート16の間で積層されている。
【0136】
燃料電池スタックへの電圧印加は、制御装置により行われる。図9は、制御の一例を示すフローチャートである。本例においては、燃料電池スタック10の運転が停止した後、スイッチ26を接続してバッテリーから燃料電池スタック10へ電圧を印加する。その結果、電解質、電極触媒層、ガス拡散層、正極側セパレータ及び負極側セパレータのガス流路に電圧が印加され、これらに存在する生成水を電気分解することとなる。水の電気分解に伴い、電流が発生するが、この電流は電流計により検知し、検知されている間は、電圧を印加する。一方、電流が検知されなくなった場合には、電圧の印加を停止し、スイッチ26を遮断する。
【0137】
このような方法により、イオン液体を電解質に適用した燃料電池スタック内に存在する生成水を電気分解によって除去する。その結果、燃料電池スタック内に保持される水分量は減少し、膜付近での水分量が過多となり、燃料及び酸化ガスの拡散を阻害するすることによって、性能を下げてしまう現象(フラッディング)を防止することが可能である。また、周辺温度が氷点下以下となってもガス流が氷により妨げられないため、燃料電池スタックは容易に始動できる。
【0138】
なお、本例では、燃料電池スタックの運転が停止した後、バッテリーから電圧を印加することとした。電圧を印加する時期としては、燃料電池スタックの発電性能が低下した場合に、燃料電池スタックの運転が停止した後に実施することも考えられる。
燃料電池スタックの発電性能の低下を判断する方法として、燃料と空気の流量と発電性能のマップを参照し、発電性能が低下した場合に性能低下と判断する方法や、カソードガスの燃料電池スタックの前後差圧が増加した場合に性能低下と判断する方法がある。カソードガスの燃料電池スタックの前後差圧をモニタすることにより、カソードのガス流路内でのフラッディングの発生に特化して検知することができる。
【0139】
(実施例4)
本例の燃料電池システム及び燃料電池スタックの構成は、実施例3と同様のものである。
本例においては、燃料電池スタックの電解質中の含水量を保持させる状態とし、プロトン伝導度を向上させ、燃料電池スタックの性能の向上を図る構成とする。
【0140】
本例においては、親水性のイオン液体に水を添加することなどにより、プロトン伝導性が向上し、燃料電池としての性能(例えばIV特性)が向上する現象に基づくものである。図10に水分量制御手段により、電解質中の水分量を増加させたときのIV特性を示す。イオン液体に水を添加することにより、IRロスに相当する傾きが緩やかになることがわかる。図11は、イオン液体のみの場合とイオン液体に水を添加した場合の温度の逆数とプロトン伝導率の関係を示している。イオン液体に水を添加することによって、ほとんどの温度領域で電解質のプロトン伝導度が向上することが分かる。
【0141】
図12は、制御の一例を示すフローチャートである。燃料電池スタックへの電圧印加は、制御装置により制御される。本例では、燃料電池スタック10の運転が停止した後、スイッチ26を接続してバッテリーから燃料電池スタック10へ電圧を印加する。その結果、電解質、電極触媒層、ガス拡散層、正極側セパレータ及び負極側セパレータのガス流路に電圧が印加され、これらに存在する生成水を電気分解することとなる。一方、所定時間が経過した後に電圧の印加を停止し、スイッチ26を遮断する。
図13(A)に、本例における電解質中の水分量の変化の概要を示す。
【0142】
なお、ここでは、電解質中の水分量をプロトン伝導度が最も高くなるように電気分解を行う。電気分解を行う水分量は、発電に伴う生成水量をあらかじめ算出しておき、算出量に基づいて規定の水分量との差分である電気分解量を決定し、印加する際の電圧と時間を決定する方法が一つとして考えられる。発電に伴う生成水量は以下の(II)で算出される。なお、Fはファラデー定数(=96485[C/mol])である。
O[g/min]=I[A]/2F[C/mol]・60[sec/min]・18[g/mol]…(II)
【0143】
ただし、運転条件に応じて、温度、ガス流量が変化する。そのため、排出ガス中の水分量が変化し、燃料電池スタックに残存する生成水量は変動することとなる。
図13(B)に負荷と電解質中の水分量の関係の一例を示す。そこで、電気分解を行う水分量を算出する際には、これら排出ガス中の水分量、即ち燃料電池スタック外へ排出される水分量を考慮する必要がある。
【0144】
これらを考慮した生成水量の算出方法を図14のフローチャートで説明する。
まず、燃料電池スタックに流入してくる空気に関して、吸気流量、吸気温度、吸気湿度を測定する。また、燃料電池スタックから流出してくる空気に関して、排気流量、排気温度、排気湿度を測定する。
次に、吸気湿度から吸気飽和水蒸気圧、排気温度から排気飽和水蒸気圧を算出する。
次に、吸気飽和水蒸気圧、吸気湿度から吸気水蒸気圧を算出し、排気飽和水蒸気圧、排気湿度から排気水蒸気圧を算出する。
次に、空気中に水蒸気の形態で混入している水分量である絶対湿度を求める。具体的には、吸気水蒸気圧、吸気温度から吸気絶対湿度を算出し、排気水蒸気圧、排気温度から排気絶対湿度を算出する。
次に、排気絶対湿度、吸気絶対湿度、排気流量、吸気流量から排出水分量を算出する。更に、燃料電池スタック内部に流入する空気に含まれている吸気水分量と、燃料電池スタック内部から排出される空気に含まれている排気水分量が計算され、その差を求めることにより排出水分量が求められる。
次に、生成水分量を式(II)より算出する。
最後に、生成水分量と排出水分量との差を算出し、その差分から電気分解のため電圧を印加する時間を算出する。生成水分量と排気水分量は、燃料電池スタックの運転状態により時々刻々変化するため、算出に当たっては単位時間当たりの値の積算値として算出し、電気分解のため電圧を印加する時間は、燃料電池スタックの運転が終了し、電圧印加の直前に算出する。
【0145】
一方、記述した方法とは異なり、電解質に含まれる水分量を測定した抵抗値から算出し、その算出量に基づいて規定の水分量との差分である電気分解量を決定し、印加する際の電圧と時間を決定する方法も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】実施例1の燃料電池システムの構成を示す説明図である。
【図2】実施例1において用いる燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。
【図3】制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】イオン液体を電解質に用いた燃料電池において、電圧印加前後の発電性能を比較した結果である。
【図5】実施例2において用いる燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。
【図6】制御の一例を示すフローチャートである。
【図7】実施例3の燃料電池システムの構成を示す説明図である。
【図8】実施例3において用いる燃料電池スタックの構成を示す概略断面図である。
【図9】制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】電解質中の水分量を増加させたときのIV特性を示すグラフ図である。
【図11】イオン液体のみの場合とイオン液体に水を添加した場合の温度の逆数とプロトン伝導率の関係を示すグラフ図である。
【図12】制御の一例を示すフローチャートである。
【図13】(A)及び(B)は、実施例4における電解質中の水分量の変化の概要を示すグラフ図及び負荷と電解質中の水分量の関係の一例を示すグラフ図である。
【図14】生成水量の算出方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0147】
10 燃料電池スタック
11 電解質
12 正極
13 負極
14 正極側セパレータ
15 負極側セパレータ
16 エンドプレート
17 絶縁部
18 第2スイッチ
19 ガス流路
20 バッテリー
22 電流計
24 電圧計
26 スイッチ
30 制御装置
40 水素タンク
42 燃料ガス供給ライン
44 水素制御弁
50 圧縮機
52 酸化剤ガス供給ライン
54 空気制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、電源と、制御装置と、を具備し、
上記燃料電池スタックが、カチオン成分とアニオン成分とを含むイオン伝導体を含有する電解質と、これを挟持する正極及び負極と、を備え、
上記制御装置が、上記燃料電池スタックの作動判断手段を備える燃料電池システムであって、
上記作動判断手段が、上記燃料電池スタックの発電が終了したと判断してから燃料電池スタックの発電が開始したと判断する間に、
上記電源が、上記燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加する、ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
上記電圧は、上記電解質の分解電圧以下の電圧であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
上記電源の電源正極及び電源負極が、上記正極に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
上記電源の電源正極が、上記正極に接続され、且つ上記電源の電源負極が、上記負極に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
上記作動判断手段が、上記燃料電池スタックが発電を終了したと判断したときに、
上記電源が、上記燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加する、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
上記制御装置が、上記燃料電池スタックの作動状態判断手段を備え、該作動状態判断手段が、上記燃料電池スタックの発電性能が低下したと判断したときに、
上記電源が、上記燃料電池スタックの少なくとも一部に電圧を印加する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
上記作動状態判断手段が、燃料流量検知手段と、空気流量検知手段と、発電量検知手段と、燃料流量及び空気流量から算出される発電量基準データを格納する演算処理装置と、を有し、
上記演算処理装置が、上記燃料流量検知手段から得られる燃料流量と上記空気流量検知手段から得られる空気流量とから算出される発電量基準データと、上記発電量検知手段から得られる発電量と、を対比する、ことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
上記作動状態判断手段が、上記正極のガス流れ方向上流側と下流側とに圧力検知手段を有するとともに、差圧基準データを格納する演算処理装置と、を有し、
上記演算処理装置が、上記下流側圧力検知手段と上記上流側圧力検知手段とから得られる差圧と、上記差圧基準データと、を対比する、ことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
上記制御装置が、上記燃料電池スタックの電流検知手段を備え、該電流検知手段が、上記燃料電池スタックに電流が流れていないと判断したときに、
上記電源が、上記燃料電池スタックへの電圧の印加を停止する、ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
上記制御装置が、時間計測手段を備え、該時間計測手段が、所定時間に達したと判断したときに、
上記電源が、上記燃料電池スタックへの電圧の印加を停止する、ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
上記所定時間は、生成水を電気分解するための時間であることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
上記所定時間は、所定の水分量を電気分解するための時間であって、
上記所定の水分量は、上記制御装置が、上記燃料電池スタックの抵抗検知手段と、水分量から算出される電気抵抗基準データを格納する演算処理装置と、を備え、該制御装置が、該抵抗検知手段から得られる電気抵抗と、該電気抵抗基準データと、を対比して算出されるものであることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
上記電解質中のカチオン成分の全部又は一部が分子性カチオンであり、且つ上記アニオン成分の全部又は一部が分子性アニオンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項14】
上記電解質が、上記分子性カチオン及び上記分子性アニオンが形成するイオン液体を含有することを特徴とする請求項13に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
上記イオン液体の全部又は一部が、親水性イオン液体であることを特徴とする請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
上記親水性イオン液体の全部又は一部が、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピロリジニウム誘導体カチオン及びアンモニウム誘導体カチオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性カチオンと、四フッ化ホウ素アニオン、トリフルオロメタンサルフォネートアニオン、フッ化水素アニオン、硫酸一水素アニオン及びリン酸二水素アニオンから成る群より選ばれた少なくとも1種の分子性アニオンと、から成ることを特徴とする請求項15に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−153028(P2008−153028A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338903(P2006−338903)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】