燃料電池劣化判定装置
【課題】燃料電池劣化判定において、一時的出力低下の影響をより正確に反映することである。
【解決手段】燃料電池システム10のシステム本体部12の各要素を全体として制御する燃料電池制御装置50には記憶装置60が接続される。記憶装置60には、劣化閾値特性マップ62と、補正値関係マップ64が格納される。燃料電池制御装置50は、燃料電池スタック14の劣化判定のために、各トリップの燃料電池スタック14の実際の最大出力に対し、補正値関係マップ64を用いて得られる補正値を一時的な出力低下として戻した後の補正後最大出力を求める補正後出力算出処理部54と、補正後最大出力と、劣化閾値特性マップ62から得られる劣化閾値特性線とを比較することで燃料電池スタック14の劣化を判定する劣化判定処理部56を含む。
【解決手段】燃料電池システム10のシステム本体部12の各要素を全体として制御する燃料電池制御装置50には記憶装置60が接続される。記憶装置60には、劣化閾値特性マップ62と、補正値関係マップ64が格納される。燃料電池制御装置50は、燃料電池スタック14の劣化判定のために、各トリップの燃料電池スタック14の実際の最大出力に対し、補正値関係マップ64を用いて得られる補正値を一時的な出力低下として戻した後の補正後最大出力を求める補正後出力算出処理部54と、補正後最大出力と、劣化閾値特性マップ62から得られる劣化閾値特性線とを比較することで燃料電池スタック14の劣化を判定する劣化判定処理部56を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池劣化判定装置に係り、特に一時的な出力低下を区別して燃料電池の劣化を判定する燃料電池劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に与える影響が少ないことから、車両に燃料電池の搭載が行われている。燃料電池は、例えば燃料電池スタックを構成する単位セルのアノード側に水素等の燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含む酸化ガス、例えば空気を供給し、電解質膜を通しての反応によって必要な電力を取り出す。
【0003】
燃料電池スタックを構成する単位セルは、電解質膜とその両側にそれぞれ配置される触媒層と、それぞれの触媒層の外側に配置されるアノード側電極とカソード側電極とを有する膜電極アセンブリ(Membrane Electrode Assembly:MEA)と、MEAを挟持する1組のセパレータを含んで構成される。
【0004】
MEAは、電気化学反応の進行によって発電能力が低下して行き、例えば燃料電池の運転に従って燃料電池の最大出力が低下してゆく。この出力の低下には、MEAの劣化が含まれるので、その劣化程度を判定することが必要となる。ここで出力とは出力電力のことである。
【0005】
特許文献1には、燃料電池発電装置等として、引き出す電流を一定の条件で出力電圧を測定する評価モードを設定し、この評価モードにおいて、過去の出力電圧と現在の出力電圧とを比較して燃料電池発電装置の劣化状態を診断することが開示されている。
【0006】
特許文献2には、燃料電池システムにおける劣化には、活性化分極の増加となる触媒活性劣化と、抵抗増加となる抵抗分極と、拡散分極の増加となるガス拡散層拡散性能劣化とがあり、電圧、電流、抵抗の測定と予め求めてあるデータベースに基づいてこれらを分離することが述べられている。そして、ガス拡散層拡散性能劣化では撥水性能が劣化してフラッディングとなるので、押圧を緩めて空孔率を大きくし拡散性能を上げることが開示されている。
【0007】
特許文献3には、燃料電池発電装置等として、電流電圧特性から劣化推定を行ういくつかの方法が述べられている。例えば、電流電圧特性で電流が低下する傾きの大きくなるところの電圧の変化から劣化を推定し、あるいは電流を少し変えてそのときの電圧の変化から直線近似によって電流電圧特性の傾きと切片電流を求め、その変化から劣化を推定する。
【0008】
特許文献4には、燃料電池の物理パラメータ推定方法として、電流電圧特性において出力電流を走査して出力電圧を測定し、小電流領域が触媒活性化電圧損失、中電流領域が抵抗電圧損失、大電流領域が濃度電圧損失として、各モデル式をフィッティングさせることにより、触媒層、電解質膜、拡散層の物理パラメータを推定することが述べられている。
【0009】
本発明に特に関連するものとして、特許文献5には、燃料電池システムにおいて、触媒の酸化劣化は回復可能な劣化であり、カーボン腐食劣化は回復不可能な劣化であることから、燃料電池の電流電圧特性の初期値の電圧値から現在の電圧値までの低下値から、運転停止して回復する分を減じて回復不可能な劣化を求めることが開示されている。ここでは、運転継続時間が長いほど、電圧が高いほど、回復可能な電圧低下量が大きいことが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−87686号公報
【特許文献2】特開2005−322577号公報
【特許文献3】特開平11−195423号公報
【特許文献4】特開2009−26567号公報
【特許文献5】特開2006−147404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術に示されるように、電解質膜を用いる燃料電池においては、燃料電池の運転の進行に伴う出力低下の中に回復可能な一時的出力低下と、回復不可能な劣化による出力低下とが含まれる。
【0012】
燃料電池の運転が続くと触媒は徐々に酸化し、燃料電池の出力能力が低下し、例えば最大出力が一時的に低下するが、この酸化は可逆反応であることから運転が停止すると触媒が還元に転じ、次回運転時には燃料電池の最大出力は元に戻る。このように触媒酸化による最大出力の低下は一時的出力低下である。しかし、MEAの経年劣化が進むにつれて、触媒は運転直後から急速に酸化が進むので、燃料電池の最大出力の一時的低下もその幅が大きくなる。
【0013】
これに対し、燃料電池の電解質膜の劣化や、拡散電極層のカーボン担体の消失等による燃料電池の出力能力の低下は、元には戻らない不可逆変化であるので、経年劣化となり、回復不可能な出力低下で、この劣化が急速に進んでいることは異常劣化であるといえる。
【0014】
したがって、燃料電池の劣化判定には、この一時的出力低下の分を含まないようにして異常劣化の進展を判定する必要がある。
【0015】
燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとすると、燃料電池の触媒は、上記のように経年劣化が進むにつれて、各トリップの運転開始直後から急速に酸化が進み一時的出力低下の幅も大きくなる傾向がある。このように、触媒の酸化による一時的出力低下は、燃料電池の経年劣化の進行程度によって左右される。従来技術ではこの点を考慮していないので、燃料電池の劣化判定の正確性が不十分である。
【0016】
本発明の目的は、一時的出力低下の影響をより正確に反映できる燃料電池劣化判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る燃料電池劣化判定装置は、予め定めた基準出力条件の下の燃料電池の出力である基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めて記憶する劣化閾値特性記憶手段と、燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求める手段と、劣化閾値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う判定手段と、を備え、補正後基準条件出力を求める手段は、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めて記憶する補正値記憶手段と、補正値記憶手段に記憶される関係に基づいてトリップ特性値と累積運転量とで定まる補正値を取得する手段と、を含み、取得された補正値に基づいて補正後基準条件出力を求めることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、トリップ特性値としてトリップの運転時間を用い、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、劣化閾値特性記憶手段は、累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、劣化閾値特性記憶手段は、燃料電池が車両走行に用いられる場合に、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、燃料電池が車両走行に用いられる場合に、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成により、燃料電池劣化判定装置は、燃料電池の基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めておき、燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求めて、劣化特性値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う。ここで、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めておき、この関係にトリップ特性値と累積運転量とを当てはめて得られる補正値に基づいて補正後基準条件出力を求め、これを用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響としてトリップ特性値と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0024】
また、燃料電池劣化判定装置において、トリップ特性値としてトリップの運転時間を用いるときは、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めておく。そして、この補正値を用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響としてトリップの運転時間と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0025】
また、燃料電池劣化判定装置において、トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めておく。そして、この補正値を用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響として、出力の電圧依存性と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0026】
また、燃料電池劣化判定装置において、累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を用いる。例えば、燃料電池で走行する車両については、車両走行距離等を基準に劣化判定することが分かりやすい場合があるが、車両の加速減速等に応じて発電量の多いときと発電量の少ないときがあり、これらの繰り返しを行うときは、車両走行距離等よりも、発電量に関係する累積運転量を用いる方が燃料電池の劣化に対する影響をより正確に反映できる。このように、上記構成をとることで、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0027】
また、燃料電池劣化判定装置において、燃料電池が車両走行に用いられる場合には、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を用いる。このように、燃料電池で走行する車両については、累積車両走行距離等を基準に劣化判定することで、車両の使用状況を分かりやすく反映できる。
【0028】
また、燃料電池劣化判定装置において、燃料電池が車両走行に用いられる場合には、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めてこれを用いる。このように、燃料電池で走行する車両については、トリップの走行距離等を基準に劣化判定することで、車両の使用状況を分かりやすく反映できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る実施の形態の燃料電池劣化判定装置を含む燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、一時的出力低下を考慮する前の燃料電池の出力低下の様子を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップの例を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップを用いて一時的出力低下を補正して、燃料電池の劣化を判定する様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップの他の例を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、車両の走行状態の相違によって燃料電池の出力低下が異なる例の様子を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、車両が一定速度で走行するときに発電電荷量の時間的変化がないことを説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、車両が低速走行と高速走行とを繰り返すときに発電電荷量の時間的変化の様子を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、発電時間に関する補正値関係マップを示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、発電電荷量に関する補正値関係マップを示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性の一時的出力低下を考慮する前の燃料電池の出力低下の様子を説明する図である。
【図12】図11のAのトリップにおける電圧の時間分布の様子を説明する図である。
【図13】図11のCのトリップにおける電圧の時間分布の様子を説明する図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性に関する補正値関係マップを示す図である。
【図15】図11のAのトリップにおいて、電圧依存性に関する補正値関係マップを用いて一時的出力低下に対する影響を算出する様子を説明する図である。
【図16】図11のCのトリップにおいて、電圧依存性に関する補正値関係マップを用いて一時的出力低下に対する影響を算出する様子を説明する図である。
【図17】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性の一時的出力低下を補正して燃料電池の劣化を判定する様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、燃料電池として車両に搭載されるものを説明するが、車両以外に用いられる燃料電池であってもよい。例えば、据え置き型燃料電池であってもよい。以下では、燃料電池スタックとして、単位セルを約200個直列接続して配置したものを2組組み合わせたものとして説明するが、それ以外の組み合わせによる燃料電池であってもよい。
【0031】
以下では、劣化判定に燃料電池の最大出力を用いている。これは、最大出力が燃料電池の能力の端的な指標であることと、燃料電池の最大負荷のときに劣化が最も進展することを考慮したものであるが、勿論、これとは別の出力条件の下で劣化判定を行うものとしてよい。例えば、予め定めた基準出力条件の下での燃料電池の出力である基準条件出力を用いて劣化判定を行うものとしてもよい。基準条件出力としては、予め設定された定格出力条件の下の定格出力、最大出力に対し、予め設定された負荷率の条件の下の基準負荷率出力等を用いることができる。その意味で、最大出力は、負荷率100%の基準条件出力と考えることができる。
【0032】
また、以下で述べる劣化閾値特性線、補正値関係マップは説明のための例示であって、燃料電池システムの具体的内容に応じこれと異なる値等をとる。また、燃料電池システムの仕様に応じて、適当な変更が可能である。
【0033】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0034】
図1は、車両に搭載される燃料電池システム10の構成を示す図である。燃料電池システム10は、システム本体部12と、システム本体部12の各要素を全体として制御する燃料電池制御装置50とを含んで構成されている。燃料電池制御装置50は、燃料電池劣化判定を行う機能も有しているので、その意味では燃料電池劣化判定装置としての機能を有する制御装置である。
【0035】
システム本体部12は、燃料電池セルが複数積層されて燃料電池スタック14と呼ばれる燃料電池本体及び、燃料電池スタック14のアノード側に配置される水素ガス供給のための各要素と、カソード側に配置される空気供給のための各要素を含んで構成される。
【0036】
燃料電池スタック14は、電解質膜の両側に触媒電極層を配置したMEA(Membrane Electrode Assembly)の両外側にセパレータを配置して挟持した単位セルを複数個組み合わせて積層したものである。ここでは、約200個の単位セルを直列配置したものを2組組み合わせて、約200Vから約300Vの電圧を出力できる構成としてある。
【0037】
燃料電池スタック14は、アノード側に水素等の燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含む酸化ガス、例えば空気を供給し、電解質膜を通しての電池化学反応によって発電し、必要な電力を取り出す機能を有する。
【0038】
ここで、触媒電極層は、さらに触媒層と拡散電極層とが積層された構造を有する。触媒層は、例えばPtを含む層で、燃料電池の電気化学反応の進展とともに酸化され、その触媒能力が低下し、これによって燃料電池の出力低下が生じる。この触媒層の酸化は、燃料電池の運転を停止することで還元されて触媒能力が復帰する。したがって、触媒層の酸化による燃料電池の出力低下は、回復可能な一時的出力低下である。
【0039】
これに対し、拡散電極層は、例えばカーボン層が用いられ、燃料電池の電気化学反応の進展とともに消失等が進展し、燃料電池の出力低下を生じるが、これは燃料電池の運転を停止しても復帰せず、回復不可能な出力低下となる。燃料電池の劣化は、このようなカーボン層の劣化の他、電解質膜の経年劣化等によっても生じる。
【0040】
図1の構成に戻り、アノード側の水素ガス源16は、燃料ガスとしての水素を供給するタンクである。水素ガス源16に接続されるレギュレータ18は、水素ガス源16からのガスを適当な圧力と流量に調整する機能を有する。レギュレータ18の出力口は、燃料電池スタック14のアノード側入口流路20に接続され、適当な圧力と流量に調整された燃料ガスが燃料電池スタック14に供給される。
【0041】
燃料電池スタック14のアノード側出口流路22に接続される気液分離器(G/L)24は、燃料電池スタック14で消費しきれなかった水素ガスと、カソード側で生成される水分がMEAを通してカソード側に漏れてくる水とを分離するものである。気液分離された水は、希釈器40に導かれる。
【0042】
気液分離器24の下流側に設けられる循環昇圧器26は、気液分離されたガスの水素分圧を高めて再びアノード側入口流路20に戻し再利用する機能を有する水素ポンプである。
【0043】
カソード側の酸化ガス源(AIR)28は、実際には大気を用いることができる。酸化ガス源28である大気はフィルタ30を通してからカソード側に供給される。
【0044】
フィルタ30の下流側に設けられるエアコンプレッサ(ACP)32は、モータによって酸化ガスを容積圧縮してその圧力を高める気体昇圧機である。ACP32の出力側は、カソード側入口流路34に接続される。
【0045】
またACP32は、燃料電池制御装置50の制御の下で、その回転速度(毎分当りの回転数)を可変して、所定量の酸化ガスを提供する機能を有する。すなわち、酸化ガスの所要流量が大きいときは、モータの回転速度を上げ、逆に酸化ガスの所要流量が小さいときは、モータの回転速度を下げる。このように、ACP32は、後述する調圧弁38とともに、燃料電池スタック14に供給される酸化ガス量を調整でき、これらの動作を制御することによって燃料電池スタック14の発電状態を制御することができる。
【0046】
カソード側出口流路36に設けられる調圧弁38は、背圧弁とも呼ばれるが、カソード側出口のガス圧を調整し、燃料電池スタック14への酸化ガスの流量を調整する機能を有する弁で、例えば流路の実効開口を調整できる弁を用いることができる。
【0047】
希釈器40は、アノード側からの排気と排水、及び、カソード側の排気と排水を集め手混合し、アノード側からの水素を希釈して外部に排出するためのバッファ容器である。
【0048】
燃料電池スタック14には1組の発電電力取出端子が設けられる。1組の発電電力取出端子の一方側に直列に配置される電流検出器42は、発電電流を検出する機能を有する装置である。検出された電流データは、適当な信号線を介して燃料電池制御装置50に伝送される。また、1組の発電電力取出端子の間に設けられる電圧検出器44は、発電電圧を検出する機能を有する装置である。検出された電圧データは、適当な信号線を介して燃料電池制御装置50に伝送される。
【0049】
燃料電池スタック14に設けられる発電電力取出端子の他方端は、負荷46に接続され、これによって、燃料電池スタック14において発電された電力が負荷に供給される。最終的な負荷としては、例えば、車両に搭載される回転電機、電子機器等であるが、実際には、燃料電池スタック14からの発電電力は一旦2次電池に蓄積されることが多い。勿論この場合でも、燃料電池スタック14からの発電電力で回転電機等を直接駆動するものとできる。
【0050】
システム本体部12は燃料電池制御装置50と接続されることで、燃料電池制御装置50の制御の下で作動する。燃料電池制御装置50には、記憶装置60が接続され、また、図示されていない統括制御部からの燃料電池運転指令を取得する運転指令インタフェース66と、車両の走行状況を示す情報を取得する走行状況インタフェース68と、燃料電池スタック14に劣化が生じているときに注意信号(CAUTION)を出力するCAUTIONインタフェース70が設けられる。
【0051】
記憶装置60は、燃料電池制御装置50において実行される燃料電池制御プログラム等を格納する機能を有する。また、燃料電池制御装置50がその機能の1つである燃料電池スタック14の劣化判定を実行する際に用いられるマップ等を格納する機能を有する。
【0052】
記憶装置60に格納されるマップの1つである劣化閾値特性マップ62は、燃料電池スタック14の最大出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性を予め求め、これをマップ化したものである。例えば、横軸に累積運転量をとり、縦軸に燃料電池スタック14の最大出力をとったマップである。このマップは、累積運転量の増加とともに劣化によって低下する燃料電池スタック14の最大出力の様子を示す特性線であるので、これを劣化閾値特性線と呼ぶことができる。
【0053】
以下に説明するように、横軸の累積運転量として、車両の累積走行距離、累積走行時間、燃料電池スタック14の累積発電時間、累積発電電荷量等をとることができるので、劣化閾値特性マップ62は、複数の種類のマップを含むものである。
【0054】
記憶装置60に格納されるマップの1つである補正値関係マップ64は、燃料電池スタック14が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の最大出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後最大出力を求めるために用いられるマップである。補正値関係マップ64は、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めてマップ化したものである。例えば、横軸方向に累積運転量を並べ、縦軸方向にトリップ特性値を並べた表において、累積運転量とトリップ特性値の組み合わせのそれぞれに対応する補正値を、その表に示す形式のマップとすることができる。
【0055】
以下に述べるように、トリップ特性値としては、トリップにおける車両の走行距離、トリップにおける車両の走行時間、トリップにおける燃料電池スタック14の発電時間、トリップにおける燃料電池スタック14の発電電荷量とることができる。また、上記のように、累積運転量もいくつかの種類を取り得るので、補正値関係マップ64は、これらの組み合わせによって形成される複数のマップを含むものである。
【0056】
劣化閾値特性と補正値関係は、マップ以外の形式で表現して記憶装置60に格納されるものとしてもよい。劣化閾値特性においては、累積運転量を入力することで、燃料電池の出力が読み出せるものであればよく、補正値関係においては、トリップ特性値と累積運転量とを入力することで補正値が読み出せるものであればよい。例えば、劣化閾値特性をルックアップテーブルの形式で記憶装置60に格納してもよく。また、計算式の形式で、劣化閾値特性、補正値関係を記憶装置60に格納してもよい。
【0057】
燃料電池制御装置50は、上記のようにシステム本体部12を構成する各要素を全体として制御する機能を有する。具体的には、負荷46からの要求発電電力を取得し、レギュレータ18によって燃料ガスの供給を制御し、ACP32と調圧弁38によって酸化ガスの供給を制御すること等によって燃料電池スタック14において発電させる機能を有する。また、燃料電池制御装置50は、特に、燃料電池スタック14の劣化の程度を判定する機能を有する。かかる燃料電池制御装置50は、車両搭載に適したコンピュータ等で構成することができる。また、燃料電池制御装置50の機能は、他の車両搭載コンピュータの機能の一部とすることもできる。例えば、車両全体の制御を行うハイブリッドECU等に、燃料電池制御装置50の機能を持たせることができる。
【0058】
燃料電池制御装置50は、システム本体部12の運転を制御する運転処理部52を有する。また、燃料電池スタック14の劣化判定のために、各トリップの燃料電池スタック14の実際の最大出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後最大出力を求める補正後出力算出処理部54と、補正後最大出力と、劣化閾値特性線とを比較することで燃料電池スタック14の劣化を判定する劣化判定処理部56を含む。
【0059】
上記構成の作用、特に、燃料電池制御装置50の燃料電池劣化判定に関する各機能について、以下に詳細に説明する。ここで、トリップ特性値として、トリップにおける走行距離、発電量等を用いる場合について、図2から図10を用いて説明し、トリップ特性値として、トリップにおける電圧の時間分布を用いる場合について、図11から図17を用いて説明する。
【0060】
図2は、劣化閾値特性線72として、横軸に車両の総走行距離をとり、縦軸に車両のスロットル全開時の燃料電池スタックの出力をとる特性線を用いて、燃料電池スタック14の劣化判定を行おうとするときの様子を説明する図である。なお、図2においてFCとあるのはFuel Cellの略で、燃料電池のことであり、ここでは燃料電池スタック14のことである。なお、燃料電池の出力とは、出力電力のことである。
【0061】
車両のスロットル全開時とは、車両におけるアクセルペダルを一杯に踏込み、いわゆるアクセル開度を100%とした状態である。この状態は、燃料電池スタック14の発電電力で車両が走行しているときにおいて、燃料電池スタック14の最大負荷のときに相当する。燃料電池スタック14の出力は負荷が大きいほど低下するので、劣化判定に用いるものとしては、この最大負荷時の燃料電池スタック14の出力である最大出力を用いることが好ましい。
【0062】
劣化閾値特性線72は、回復可能な一時的出力低下を除いた後の燃料電池スタック14の最大負荷時の出力を総走行距離に関連付けたもので、予め実験等で求めておくことができる。図2に示されるように、劣化閾値特性線72は、燃料電池スタック14の最大出力が当初の運転開始からの累積運転量である総走行距離の増加ともに低下する特性を有している。求められた劣化閾値特性線72は、記憶装置60の劣化閾値特性マップ62として記憶され、必要に応じ読み出される。
【0063】
図2における黒丸は、車両の各トリップにおけるスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力、すなわち、各トリップにおける実際の最大出力である。車両の実際のトリップにおいては、例えば、1〜数回程度、このスロットル全開時のことがあるので、車両の統括制御部等から走行状況インタフェース68を介してその時点を燃料電池制御装置50に知らせる。燃料電池制御装置50は知らせを受けたその時点における出力を電流検出器42によって得られる電流と電圧検出器44によって得られる電圧から電力を求めて取得することで、各トリップにおけるスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力、すなわち、各トリップの実際の最大出力を得ることができる。
【0064】
図2は、ある車両において、各トリップのスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力をそのトリップが開始したときの総走行距離に関連づけて、黒丸マーク74でそれぞれプロットしたものである。この例では、出荷時のデータを除いて、8つのトリップについてのスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力の値が示されている。
【0065】
なお、各トリップにおける走行距離、それまでの総走行距離等は、図1で説明した走行状況インタフェース68を介して取得される情報を用いることができる。後述の走行時間等も同様に、走行状況インタフェース68から取得される情報と、運転指令インタフェース66を介して取得される運転指令タイミング等を用いることができる。
【0066】
図2において、括弧の中に示した値は、各トリップの走行距離である。ここに示されるように、各トリップにおける走行距離はまちまちである。このように、各トリップにおける燃料電池スタック14の使用状態というのは、出荷時からの総走行距離、つまり、累積使用期間が異なる上に、そのトリップにおける使用期間が異なるものである。
【0067】
燃料電池スタック14の実際の最大出力が、この劣化閾値特性線72以下となるときは、燃料電池スタック14に標準的な劣化を超えた異常劣化が進展していることを意味する。劣化閾値とは、そのような意味である。図2の例では、A,B,C,Dの4つのトリップのデータがそれぞれ劣化閾値特性線72よりも低い出力を示している。
【0068】
ところで、各トリップにおける燃料電池スタック14の出力低下には、回復可能な一時的出力低下が含まれている。一時的出力低下は、次のトリップのときには回復しているので劣化ではない。その意味で、図2の各黒丸マーク74は、回復可能な一時的出力低下を考慮する前の燃料電池スタック14の出力低下の様子を示している。したがって、図2のデータのままでは、A,B,C,Dが劣化している状態を示しているとは判定できない。
【0069】
燃料電池スタック14における回復可能な一時的出力低下は、次のような特性を有する。すなわち、第1に、総走行距離が同じであっても、トリップの走行距離が長いほど、回復可能な一時的出力低下の幅は大きくなる。これは、トリップの運転開始から終了までの走行距離が長いほど電気化学反応の時間が長く、その時間が長いほど触媒の酸化が進展するからである。第2に、同じトリップ走行距離であっても、総走行距離が長いほど、回復可能な一時的出力低下の幅は大きくなる。これは、MEAの経年変化が進展するにつれて、触媒の酸化が急速に進展するという特性を有するからである。
【0070】
このような回復可能な一時的出力低下のデータは、予め実験等で求めておくことができる。求められたデータは、記憶装置60の補正値関係マップ64に格納され、必要に応じ読み出すことができる。補正値というのは、この一時的出力低下を、各トリップの実際の最大出力に戻して補正することで、一時的出力低下を除いた各トリップの最大出力を求めることができるからである。
【0071】
そこで、図2の例の場合、記憶装置60の補正値関係マップ64から、トリップ走行距離と総走行距離と補正値との関係を読み出す。図3は、そのような補正値関係マップの例を示す図である。ここでは、横軸方向に累積運転量である総走行距離を並べ、縦軸方向にトリップ特性値であるトリップ走行距離を並べた表において、総走行距離とトリップ走行距離の組み合わせのそれぞれに対応する補正値が示されている。
【0072】
例えば、図2のAのトリップは、総走行距離が1万kmで、トリップ走行距離が200kmであるので、図3の補正値関係マップの該当する箇所を読み出すことで、補正値は12kwとなる。この12kwが、一時的出力低下に相当する値である。したがって、Aのトリップの実際の最大出力にこの12kwを戻して加算することで、Aのトリップにおける一時的出力低下を除いた最大出力が求められる。これらの一連の処理工程は、図1の燃料電池制御装置50の補正後出力算出処理部54の機能によって実行される。
【0073】
図4は、各トリップの実際の最大出力に対し、図3に示される補正値関係マップを用いて補正値を読み出し、その補正値を用いて算出される値である補正後最大出力を白丸マーク76で示したものである。白丸マーク76が示す補正後最大出力と、これに対応する黒丸マーク74が示す実際の最大出力との間の差異が、一時的出力低下を考慮した補正値に相当する。
【0074】
図4における各白丸マーク76は、一時的出力低下の影響を除いた最大出力を示しているので、これと劣化閾値特性線72とを比較することで、各トリップにおいて劣化が進展しているか否かを判定できる。すなわち、白丸マーク76が劣化閾値特性線72以下の最大出力を示すときは、回復不可能な劣化が異常に進展していることになる。図4の例では、Cのトリップのときに異常劣化が認められると判定される。これらの工程処理は、燃料電池制御装置50の劣化判定処理部56の機能によって実行される。異常劣化が認められると判定されると、CAUTIONインタフェース70を介して、適当なCAUTION表示等の出力が行われる。
【0075】
上記では、累積運転量として総走行距離をとった。これに代えて、累積運転量として総走行時間をとることができる。図5は、累積運転量として総走行時間を用いるときの劣化閾値特性線80と、補正値関係マップ81を示す図である。
【0076】
図5に示されるように、劣化閾値特性線80は、最大負荷時のFC出力と総走行時間との関係で予め求められたものが用いられる。最大負荷時のFC出力とは、いまの場合、図2で説明したように、スロットル全開時の燃料電池スタック14の出力である。これに対応し、補正値関係マップ81は、横軸に総走行時間をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0077】
上記では、累積運転量として車両の走行に関係する量を用いている。ここで車両の走行状態は一定ではなく、加速減速等を伴うものである。その場合に、同じ走行距離または走行時間であっても、走行状態によって燃料電池スタック14の発電状況が異なることがある。発電状況が異なると、一時的出力低下の程度も異なってくることがある。
【0078】
図6は、車両の走行状態が異なることでFC出力がどのように相違するかを実験した結果を示す図である。ここでは、時速80km/hの定速走行する場合と、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合で、総走行時間と総走行距離とを同じ条件となるようにし、それぞれの燃料電池スタック14の出力が走行時間の経過とともにどのように変化するかを実験した結果が示されている。横軸が走行時間、縦軸が燃料電池スタック14の出力である。
【0079】
図6の結果からは、時速80km/hの定速走行を行って3時間後の出力低下と、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返して1時間後の出力低下とがほぼ同じとなっている。つまり、走行の加減速を繰り返す方が、定速走行に比べ、少なくとも一時的出力低下の程度が大きい。図6の例では、同じ出力低下に対し、走行時間において3倍の相違がある。
【0080】
図7,8は、そのような相違が現れる理由を模式的に説明する図である。これらの図においては、横軸に時間、縦軸に発電電荷量がとられている。図7は、時速80km/hの定速走行する場合、図8は時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合
である。
【0081】
図7に示されるように、時速80km/hの定速走行する場合には発電電荷量に時間的変化が生じない。これに対し、図8に示されるように、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合には、加減速が繰り返されることから、発電電荷量に急増と急減が交互に繰り返されることになる。車両としては、平均速度は図7も図8も80km/hとなるが、車両の慣性、アクセル操作、ブレーキ操作等の影響で、加減速を繰り返す方が、全体として多くの発電電力を要し、そのために全体の発電電荷量が増加するものと考えることができる。
【0082】
図6の結果を考慮すると、車両の実際の走行状態によっては、累積運転量として燃料電池スタック14の累積発電電荷量、または累積発電時間を用いることがよい場合がある。図9、図10は車両の総走行距離、総走行時間に代えて、累積運転量として燃料電池スタック14の総発電時間、総発電電荷量を用いて劣化判定を行う場合の劣化閾値特性線と補正値関係マップを説明する図である。
【0083】
図9は、累積運転量として、総発電時間を用いる場合である。このときは、図9に示されるように、劣化閾値特性線82は、最大負荷時のFC出力と総発電時間との関係で予め求められたものが用いられる。これに対応し、補正値関係マップ83は、横軸に総発電時間、縦軸にトリップ発電時間をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0084】
図10は、累積運転量として、総発電電荷量を用いる場合である。このときは、図10に示されるように、劣化閾値特性線84は、最大負荷時のFC出力と総発電電荷量との関係で予め求められたものが用いられる。これに対応し、補正値関係マップ85は、横軸に総発電電荷量、縦軸にトリップ発電電荷量をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0085】
この場合、劣化判定においては、各トリップにおける発電電荷量を求める必要があるが、これは、電流検出器42によって取得される電流値と経過時間とを用いて、電流の積分値としての電荷量を算出することで取得することができる。
【0086】
以上で、トリップ特性値として、トリップにおける走行距離、発電量等を用いる場合についての説明を行ったので、次に、トリップ特性値として、トリップにおける電圧の時間分布を用いる場合について、図11から図17を用いて説明する。
【0087】
触媒の酸化は、燃料電池スタック14の発電電位、すなわち出力電圧による影響を受ける。すなわち、燃料電池スタック14の出力電圧が高いと酸化が進行し、ある程度出力電圧が低くなると還元に転じる。したがって、燃料電池スタック14の出力電圧が高いと、一時的出力低下の幅が大きくなり、出力電圧が低いと一時的出力低下の幅が小さくなり、場合によっては、還元によって一時的出力電圧の低下が戻されることになる。また、この酸化の電圧依存性は、MEAの経年劣化にも関係する。例えば、同じ出力電圧であっても総走行距離が長いほど触媒の酸化は急激に進行する。
【0088】
これらのことから触媒の酸化の電圧依存性を考慮して、一時的出力低下の影響を求めることができる。ここで、図1と同様な劣化閾値特性線72と、各トリップにおける最大出力のデータを示す図11を用いて、電圧依存性を考慮した劣化判定について説明する。図11は図1と同様であるが、ここでは、トリップ走行距離は考慮に入れない。図11において、劣化閾値特性線72以下の黒丸マーク74はA,B,C,Dの4つのトリップに関するものであるが、以下では、AとCを例題として説明を続ける。
【0089】
図12、13は、A,Cのそれぞれのトリップにおける燃料電池スタック14の出力電圧の時間分布を示す図である。出力電圧の時間分布は、各トリップの経過時間を単位時間に区切って、それぞれの単位時間における出力電圧を求めて、これを同じ出力電圧を有する単位時間がいくらあるか集計し、各出力電圧ごとに得られる合計時間の分布を求めたものを用いることができる。
【0090】
図12,13においては、横軸に、燃料電池スタック14の出力電圧を表すものとして、代表的な単位セルの端子間電圧であるセル電圧を0.1V刻みでとり、縦軸に各セル電圧における単位時間の合計がとられている。上記の例では、燃料電池スタック14は直列に約200個接続されているので、燃料電池スタック14の出力電圧は、このセル電圧の約200倍となる。
【0091】
なお単位時間としては1秒を用いた。すなわち、単位セルの端子間電圧であるセル電圧を、各トリップの開始から終了まで1秒刻みで測定し、そのデータを、各セル電圧刻みごとに該当する単位時間を合計して分布が取られる。
【0092】
図12に示されるように、Aのトリップでは、セル電圧が0.5Vから0.6Vの間の運転が20秒あり、0.6Vから0.7Vの間の運転が140秒あり、0.7Vから0.8Vの間の運転が480秒あり、0.8Vから0.9Vの間の運転が720秒あり、0.9Vから1.0Vの間の運転が650秒ある。
【0093】
同様に、図13に示されるように、Cのトリップにおいても、各セル電圧における運転の合計時間がそれぞれ示される。ここでは、セル電圧が0.6V以下の運転がなく、例えば、0.8Vから0.9Vの間の運転が950秒、0.9Vから1.0Vまでの運転が890秒となっている。このようにCのトリップはAのトリップに比べ、セル電圧が高い領域での運転合計時間が長くなっている。
【0094】
燃料電池スタック14の最大出力に対するセル電圧の影響は、図14に示される補正値関係マップに示される。ここでは、横軸方向に累積運転量である総走行距離を並べ、縦軸方向にトリップ特性値であるセル電圧を並べた表において、総走行距離とセル電圧の組み合わせのそれぞれに対応する補正値が示されている。ここで補正値は、酸化が進んで一時的出力低下となるときを−(負)の値とし、還元によって一時的出力低下が戻されるときを+(正)の値としてある。
【0095】
図14に示されるように、セル電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなり、セル電圧が同じでも、総走行距離の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなることが分かる。
【0096】
補正後最大出力は、図12,13で説明したトリップにおける電圧の時間分布と、図14の補正値関係マップを用いて、一時的出力低下量を求めることで算出される。図15はAのトリップに関する算出を示す図で、図16はCのトリップに関する算出を示す図である。
【0097】
Aのトリップは総走行距離が1万kmであるので、図14の補正値関係マップからその走行距離についての各セル電圧に対する補正値を拾い出す。そして、図12の結果から得られる各セル電圧における合計運転時間を乗じ、各セル電圧における一時的出力低下量をそれぞれ算出する。例えば、図15において、セル電圧が0.9Vを超え1.0V以下の補正値である出力への影響は図14から−0.010kw/sであり、そのセル電圧における合計運転時間は図12から650秒であるので、そのセル電圧における一時的出力低下量は、(−0.010)×650=−6.5kwとなる。
【0098】
このような計算を各セル電圧について行い、全体を合計すると、Aのトリップ全体における一時的出力低下量が算出される。図15における計算結果は、−6.5kwである。
【0099】
同様に、図13と図14とを用いて、Cのトリップ全体における一時的出力低下量は、図16に示されるように、−20.78kwとなる。
【0100】
図17は、このようにして求められた補正値を用いて、補正後最大出力を求める様子を示す図である。白丸マーク75が補正後最大出力で、黒丸マーク74が補正を行う前の各トリップの実際の最大出力である。白丸マークと黒丸マークとの間の相違が、電圧依存性の補正値となる。Aのトリップでは図15で算出されたように一時的出力低下は−6.5kwであるので、黒丸マークの最大出力にこの値を戻し、具体的には符号を反転して+6.5kwを黒丸マークの値に加算して白丸マークとする。なお、ここでは、図17の縦軸を単セルについての出力とした。
【0101】
同様に、Cのトリップでは、図15で算出されたように一時的出力低下は−20.78kwであるので、黒丸マークの最大出力にこの値を戻し、具体的には符号を反転して+20.78kwを黒丸マークの値に加算して白丸マークとする。他のトリップについても同様に補正値を計算し、これを黒丸マークの値に加算することで補正後最大出力としての白丸マークを得る。
【0102】
次に、図4で説明したのと同様に、劣化閾値特性線72と各トリップの補正後最大出力とを比較し、各トリップについての劣化判定を行う。図17の例では、Aのトリップのみが補正後最大出力が劣化閾値特性線72以下であるので、このトリップにおいて異常劣化が進展していると判定される。異常劣化があると判定されると、CAUTIONインタフェース70を介して、適当なCAUTION表示等の出力が行われる。
【0103】
このように、トリップ特性値と累積運転量とに基づく補正値関連マップを用いて、各とリップにおける一時的出力低下を算出し、補正後最大出力を求めて、これを劣化閾値特性線と比較することで、より正確に燃料電池スタック14の劣化判定を行うことができる。
【0104】
また、上記構成によれば、燃料電池スタック14または車両を定期点検のように、通常の運転状態から外して劣化判定を行うのではなく、燃料電池スタック14の通常の運転状態または車両の通常の走行状態において、リアルタイムで劣化判定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る燃料電池劣化判定装置は、触媒の酸化のように回復可能な一時的出力低下を伴う燃料電池の劣化判定に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
10 燃料電池システム、12 システム本体部、14 燃料電池スタック、16 水素ガス源、18 レギュレータ、20 アノード側入口流路、22 アノード側出口流路、24 気液分離器、26 循環昇圧器、28 酸化ガス源、30 フィルタ、32 ACP、34 カソード側入口流路、36 カソード側出口流路、38 調圧弁、40 希釈器、42 電流検出器、44 電圧検出器、46 負荷、50 燃料電池制御装置、52 運転処理部、54 補正後出力算出処理部、56 劣化判定処理部、60 記憶装置、62 劣化閾値特性マップ、64,81,83,85 補正値関係マップ、66 運転指令インタフェース、68 走行状況インタフェース、70 CAUTIONインタフェース、72,80,82,84 劣化閾値特性線、74 黒丸マーク、75,76 白丸マーク。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池劣化判定装置に係り、特に一時的な出力低下を区別して燃料電池の劣化を判定する燃料電池劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に与える影響が少ないことから、車両に燃料電池の搭載が行われている。燃料電池は、例えば燃料電池スタックを構成する単位セルのアノード側に水素等の燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含む酸化ガス、例えば空気を供給し、電解質膜を通しての反応によって必要な電力を取り出す。
【0003】
燃料電池スタックを構成する単位セルは、電解質膜とその両側にそれぞれ配置される触媒層と、それぞれの触媒層の外側に配置されるアノード側電極とカソード側電極とを有する膜電極アセンブリ(Membrane Electrode Assembly:MEA)と、MEAを挟持する1組のセパレータを含んで構成される。
【0004】
MEAは、電気化学反応の進行によって発電能力が低下して行き、例えば燃料電池の運転に従って燃料電池の最大出力が低下してゆく。この出力の低下には、MEAの劣化が含まれるので、その劣化程度を判定することが必要となる。ここで出力とは出力電力のことである。
【0005】
特許文献1には、燃料電池発電装置等として、引き出す電流を一定の条件で出力電圧を測定する評価モードを設定し、この評価モードにおいて、過去の出力電圧と現在の出力電圧とを比較して燃料電池発電装置の劣化状態を診断することが開示されている。
【0006】
特許文献2には、燃料電池システムにおける劣化には、活性化分極の増加となる触媒活性劣化と、抵抗増加となる抵抗分極と、拡散分極の増加となるガス拡散層拡散性能劣化とがあり、電圧、電流、抵抗の測定と予め求めてあるデータベースに基づいてこれらを分離することが述べられている。そして、ガス拡散層拡散性能劣化では撥水性能が劣化してフラッディングとなるので、押圧を緩めて空孔率を大きくし拡散性能を上げることが開示されている。
【0007】
特許文献3には、燃料電池発電装置等として、電流電圧特性から劣化推定を行ういくつかの方法が述べられている。例えば、電流電圧特性で電流が低下する傾きの大きくなるところの電圧の変化から劣化を推定し、あるいは電流を少し変えてそのときの電圧の変化から直線近似によって電流電圧特性の傾きと切片電流を求め、その変化から劣化を推定する。
【0008】
特許文献4には、燃料電池の物理パラメータ推定方法として、電流電圧特性において出力電流を走査して出力電圧を測定し、小電流領域が触媒活性化電圧損失、中電流領域が抵抗電圧損失、大電流領域が濃度電圧損失として、各モデル式をフィッティングさせることにより、触媒層、電解質膜、拡散層の物理パラメータを推定することが述べられている。
【0009】
本発明に特に関連するものとして、特許文献5には、燃料電池システムにおいて、触媒の酸化劣化は回復可能な劣化であり、カーボン腐食劣化は回復不可能な劣化であることから、燃料電池の電流電圧特性の初期値の電圧値から現在の電圧値までの低下値から、運転停止して回復する分を減じて回復不可能な劣化を求めることが開示されている。ここでは、運転継続時間が長いほど、電圧が高いほど、回復可能な電圧低下量が大きいことが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−87686号公報
【特許文献2】特開2005−322577号公報
【特許文献3】特開平11−195423号公報
【特許文献4】特開2009−26567号公報
【特許文献5】特開2006−147404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術に示されるように、電解質膜を用いる燃料電池においては、燃料電池の運転の進行に伴う出力低下の中に回復可能な一時的出力低下と、回復不可能な劣化による出力低下とが含まれる。
【0012】
燃料電池の運転が続くと触媒は徐々に酸化し、燃料電池の出力能力が低下し、例えば最大出力が一時的に低下するが、この酸化は可逆反応であることから運転が停止すると触媒が還元に転じ、次回運転時には燃料電池の最大出力は元に戻る。このように触媒酸化による最大出力の低下は一時的出力低下である。しかし、MEAの経年劣化が進むにつれて、触媒は運転直後から急速に酸化が進むので、燃料電池の最大出力の一時的低下もその幅が大きくなる。
【0013】
これに対し、燃料電池の電解質膜の劣化や、拡散電極層のカーボン担体の消失等による燃料電池の出力能力の低下は、元には戻らない不可逆変化であるので、経年劣化となり、回復不可能な出力低下で、この劣化が急速に進んでいることは異常劣化であるといえる。
【0014】
したがって、燃料電池の劣化判定には、この一時的出力低下の分を含まないようにして異常劣化の進展を判定する必要がある。
【0015】
燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとすると、燃料電池の触媒は、上記のように経年劣化が進むにつれて、各トリップの運転開始直後から急速に酸化が進み一時的出力低下の幅も大きくなる傾向がある。このように、触媒の酸化による一時的出力低下は、燃料電池の経年劣化の進行程度によって左右される。従来技術ではこの点を考慮していないので、燃料電池の劣化判定の正確性が不十分である。
【0016】
本発明の目的は、一時的出力低下の影響をより正確に反映できる燃料電池劣化判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る燃料電池劣化判定装置は、予め定めた基準出力条件の下の燃料電池の出力である基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めて記憶する劣化閾値特性記憶手段と、燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求める手段と、劣化閾値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う判定手段と、を備え、補正後基準条件出力を求める手段は、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めて記憶する補正値記憶手段と、補正値記憶手段に記憶される関係に基づいてトリップ特性値と累積運転量とで定まる補正値を取得する手段と、を含み、取得された補正値に基づいて補正後基準条件出力を求めることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、トリップ特性値としてトリップの運転時間を用い、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、劣化閾値特性記憶手段は、累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、劣化閾値特性記憶手段は、燃料電池が車両走行に用いられる場合に、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る燃料電池劣化判定装置において、補正値記憶手段は、燃料電池が車両走行に用いられる場合に、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成により、燃料電池劣化判定装置は、燃料電池の基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めておき、燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求めて、劣化特性値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う。ここで、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めておき、この関係にトリップ特性値と累積運転量とを当てはめて得られる補正値に基づいて補正後基準条件出力を求め、これを用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響としてトリップ特性値と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0024】
また、燃料電池劣化判定装置において、トリップ特性値としてトリップの運転時間を用いるときは、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めておく。そして、この補正値を用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響としてトリップの運転時間と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0025】
また、燃料電池劣化判定装置において、トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めておく。そして、この補正値を用いて劣化判定を行う。これにより、一時的な出力低下の影響として、出力の電圧依存性と累積運転量の両方が反映されるので、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0026】
また、燃料電池劣化判定装置において、累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を用いる。例えば、燃料電池で走行する車両については、車両走行距離等を基準に劣化判定することが分かりやすい場合があるが、車両の加速減速等に応じて発電量の多いときと発電量の少ないときがあり、これらの繰り返しを行うときは、車両走行距離等よりも、発電量に関係する累積運転量を用いる方が燃料電池の劣化に対する影響をより正確に反映できる。このように、上記構成をとることで、より正確に燃料電池の劣化判定を行うことができる。
【0027】
また、燃料電池劣化判定装置において、燃料電池が車両走行に用いられる場合には、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を用いる。このように、燃料電池で走行する車両については、累積車両走行距離等を基準に劣化判定することで、車両の使用状況を分かりやすく反映できる。
【0028】
また、燃料電池劣化判定装置において、燃料電池が車両走行に用いられる場合には、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めてこれを用いる。このように、燃料電池で走行する車両については、トリップの走行距離等を基準に劣化判定することで、車両の使用状況を分かりやすく反映できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る実施の形態の燃料電池劣化判定装置を含む燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、一時的出力低下を考慮する前の燃料電池の出力低下の様子を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップの例を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップを用いて一時的出力低下を補正して、燃料電池の劣化を判定する様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、補正値関係マップの他の例を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、車両の走行状態の相違によって燃料電池の出力低下が異なる例の様子を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、車両が一定速度で走行するときに発電電荷量の時間的変化がないことを説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、車両が低速走行と高速走行とを繰り返すときに発電電荷量の時間的変化の様子を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、発電時間に関する補正値関係マップを示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、発電電荷量に関する補正値関係マップを示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性の一時的出力低下を考慮する前の燃料電池の出力低下の様子を説明する図である。
【図12】図11のAのトリップにおける電圧の時間分布の様子を説明する図である。
【図13】図11のCのトリップにおける電圧の時間分布の様子を説明する図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性に関する補正値関係マップを示す図である。
【図15】図11のAのトリップにおいて、電圧依存性に関する補正値関係マップを用いて一時的出力低下に対する影響を算出する様子を説明する図である。
【図16】図11のCのトリップにおいて、電圧依存性に関する補正値関係マップを用いて一時的出力低下に対する影響を算出する様子を説明する図である。
【図17】本発明に係る実施の形態において、電圧依存性の一時的出力低下を補正して燃料電池の劣化を判定する様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、燃料電池として車両に搭載されるものを説明するが、車両以外に用いられる燃料電池であってもよい。例えば、据え置き型燃料電池であってもよい。以下では、燃料電池スタックとして、単位セルを約200個直列接続して配置したものを2組組み合わせたものとして説明するが、それ以外の組み合わせによる燃料電池であってもよい。
【0031】
以下では、劣化判定に燃料電池の最大出力を用いている。これは、最大出力が燃料電池の能力の端的な指標であることと、燃料電池の最大負荷のときに劣化が最も進展することを考慮したものであるが、勿論、これとは別の出力条件の下で劣化判定を行うものとしてよい。例えば、予め定めた基準出力条件の下での燃料電池の出力である基準条件出力を用いて劣化判定を行うものとしてもよい。基準条件出力としては、予め設定された定格出力条件の下の定格出力、最大出力に対し、予め設定された負荷率の条件の下の基準負荷率出力等を用いることができる。その意味で、最大出力は、負荷率100%の基準条件出力と考えることができる。
【0032】
また、以下で述べる劣化閾値特性線、補正値関係マップは説明のための例示であって、燃料電池システムの具体的内容に応じこれと異なる値等をとる。また、燃料電池システムの仕様に応じて、適当な変更が可能である。
【0033】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0034】
図1は、車両に搭載される燃料電池システム10の構成を示す図である。燃料電池システム10は、システム本体部12と、システム本体部12の各要素を全体として制御する燃料電池制御装置50とを含んで構成されている。燃料電池制御装置50は、燃料電池劣化判定を行う機能も有しているので、その意味では燃料電池劣化判定装置としての機能を有する制御装置である。
【0035】
システム本体部12は、燃料電池セルが複数積層されて燃料電池スタック14と呼ばれる燃料電池本体及び、燃料電池スタック14のアノード側に配置される水素ガス供給のための各要素と、カソード側に配置される空気供給のための各要素を含んで構成される。
【0036】
燃料電池スタック14は、電解質膜の両側に触媒電極層を配置したMEA(Membrane Electrode Assembly)の両外側にセパレータを配置して挟持した単位セルを複数個組み合わせて積層したものである。ここでは、約200個の単位セルを直列配置したものを2組組み合わせて、約200Vから約300Vの電圧を出力できる構成としてある。
【0037】
燃料電池スタック14は、アノード側に水素等の燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含む酸化ガス、例えば空気を供給し、電解質膜を通しての電池化学反応によって発電し、必要な電力を取り出す機能を有する。
【0038】
ここで、触媒電極層は、さらに触媒層と拡散電極層とが積層された構造を有する。触媒層は、例えばPtを含む層で、燃料電池の電気化学反応の進展とともに酸化され、その触媒能力が低下し、これによって燃料電池の出力低下が生じる。この触媒層の酸化は、燃料電池の運転を停止することで還元されて触媒能力が復帰する。したがって、触媒層の酸化による燃料電池の出力低下は、回復可能な一時的出力低下である。
【0039】
これに対し、拡散電極層は、例えばカーボン層が用いられ、燃料電池の電気化学反応の進展とともに消失等が進展し、燃料電池の出力低下を生じるが、これは燃料電池の運転を停止しても復帰せず、回復不可能な出力低下となる。燃料電池の劣化は、このようなカーボン層の劣化の他、電解質膜の経年劣化等によっても生じる。
【0040】
図1の構成に戻り、アノード側の水素ガス源16は、燃料ガスとしての水素を供給するタンクである。水素ガス源16に接続されるレギュレータ18は、水素ガス源16からのガスを適当な圧力と流量に調整する機能を有する。レギュレータ18の出力口は、燃料電池スタック14のアノード側入口流路20に接続され、適当な圧力と流量に調整された燃料ガスが燃料電池スタック14に供給される。
【0041】
燃料電池スタック14のアノード側出口流路22に接続される気液分離器(G/L)24は、燃料電池スタック14で消費しきれなかった水素ガスと、カソード側で生成される水分がMEAを通してカソード側に漏れてくる水とを分離するものである。気液分離された水は、希釈器40に導かれる。
【0042】
気液分離器24の下流側に設けられる循環昇圧器26は、気液分離されたガスの水素分圧を高めて再びアノード側入口流路20に戻し再利用する機能を有する水素ポンプである。
【0043】
カソード側の酸化ガス源(AIR)28は、実際には大気を用いることができる。酸化ガス源28である大気はフィルタ30を通してからカソード側に供給される。
【0044】
フィルタ30の下流側に設けられるエアコンプレッサ(ACP)32は、モータによって酸化ガスを容積圧縮してその圧力を高める気体昇圧機である。ACP32の出力側は、カソード側入口流路34に接続される。
【0045】
またACP32は、燃料電池制御装置50の制御の下で、その回転速度(毎分当りの回転数)を可変して、所定量の酸化ガスを提供する機能を有する。すなわち、酸化ガスの所要流量が大きいときは、モータの回転速度を上げ、逆に酸化ガスの所要流量が小さいときは、モータの回転速度を下げる。このように、ACP32は、後述する調圧弁38とともに、燃料電池スタック14に供給される酸化ガス量を調整でき、これらの動作を制御することによって燃料電池スタック14の発電状態を制御することができる。
【0046】
カソード側出口流路36に設けられる調圧弁38は、背圧弁とも呼ばれるが、カソード側出口のガス圧を調整し、燃料電池スタック14への酸化ガスの流量を調整する機能を有する弁で、例えば流路の実効開口を調整できる弁を用いることができる。
【0047】
希釈器40は、アノード側からの排気と排水、及び、カソード側の排気と排水を集め手混合し、アノード側からの水素を希釈して外部に排出するためのバッファ容器である。
【0048】
燃料電池スタック14には1組の発電電力取出端子が設けられる。1組の発電電力取出端子の一方側に直列に配置される電流検出器42は、発電電流を検出する機能を有する装置である。検出された電流データは、適当な信号線を介して燃料電池制御装置50に伝送される。また、1組の発電電力取出端子の間に設けられる電圧検出器44は、発電電圧を検出する機能を有する装置である。検出された電圧データは、適当な信号線を介して燃料電池制御装置50に伝送される。
【0049】
燃料電池スタック14に設けられる発電電力取出端子の他方端は、負荷46に接続され、これによって、燃料電池スタック14において発電された電力が負荷に供給される。最終的な負荷としては、例えば、車両に搭載される回転電機、電子機器等であるが、実際には、燃料電池スタック14からの発電電力は一旦2次電池に蓄積されることが多い。勿論この場合でも、燃料電池スタック14からの発電電力で回転電機等を直接駆動するものとできる。
【0050】
システム本体部12は燃料電池制御装置50と接続されることで、燃料電池制御装置50の制御の下で作動する。燃料電池制御装置50には、記憶装置60が接続され、また、図示されていない統括制御部からの燃料電池運転指令を取得する運転指令インタフェース66と、車両の走行状況を示す情報を取得する走行状況インタフェース68と、燃料電池スタック14に劣化が生じているときに注意信号(CAUTION)を出力するCAUTIONインタフェース70が設けられる。
【0051】
記憶装置60は、燃料電池制御装置50において実行される燃料電池制御プログラム等を格納する機能を有する。また、燃料電池制御装置50がその機能の1つである燃料電池スタック14の劣化判定を実行する際に用いられるマップ等を格納する機能を有する。
【0052】
記憶装置60に格納されるマップの1つである劣化閾値特性マップ62は、燃料電池スタック14の最大出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性を予め求め、これをマップ化したものである。例えば、横軸に累積運転量をとり、縦軸に燃料電池スタック14の最大出力をとったマップである。このマップは、累積運転量の増加とともに劣化によって低下する燃料電池スタック14の最大出力の様子を示す特性線であるので、これを劣化閾値特性線と呼ぶことができる。
【0053】
以下に説明するように、横軸の累積運転量として、車両の累積走行距離、累積走行時間、燃料電池スタック14の累積発電時間、累積発電電荷量等をとることができるので、劣化閾値特性マップ62は、複数の種類のマップを含むものである。
【0054】
記憶装置60に格納されるマップの1つである補正値関係マップ64は、燃料電池スタック14が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の最大出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後最大出力を求めるために用いられるマップである。補正値関係マップ64は、各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めてマップ化したものである。例えば、横軸方向に累積運転量を並べ、縦軸方向にトリップ特性値を並べた表において、累積運転量とトリップ特性値の組み合わせのそれぞれに対応する補正値を、その表に示す形式のマップとすることができる。
【0055】
以下に述べるように、トリップ特性値としては、トリップにおける車両の走行距離、トリップにおける車両の走行時間、トリップにおける燃料電池スタック14の発電時間、トリップにおける燃料電池スタック14の発電電荷量とることができる。また、上記のように、累積運転量もいくつかの種類を取り得るので、補正値関係マップ64は、これらの組み合わせによって形成される複数のマップを含むものである。
【0056】
劣化閾値特性と補正値関係は、マップ以外の形式で表現して記憶装置60に格納されるものとしてもよい。劣化閾値特性においては、累積運転量を入力することで、燃料電池の出力が読み出せるものであればよく、補正値関係においては、トリップ特性値と累積運転量とを入力することで補正値が読み出せるものであればよい。例えば、劣化閾値特性をルックアップテーブルの形式で記憶装置60に格納してもよく。また、計算式の形式で、劣化閾値特性、補正値関係を記憶装置60に格納してもよい。
【0057】
燃料電池制御装置50は、上記のようにシステム本体部12を構成する各要素を全体として制御する機能を有する。具体的には、負荷46からの要求発電電力を取得し、レギュレータ18によって燃料ガスの供給を制御し、ACP32と調圧弁38によって酸化ガスの供給を制御すること等によって燃料電池スタック14において発電させる機能を有する。また、燃料電池制御装置50は、特に、燃料電池スタック14の劣化の程度を判定する機能を有する。かかる燃料電池制御装置50は、車両搭載に適したコンピュータ等で構成することができる。また、燃料電池制御装置50の機能は、他の車両搭載コンピュータの機能の一部とすることもできる。例えば、車両全体の制御を行うハイブリッドECU等に、燃料電池制御装置50の機能を持たせることができる。
【0058】
燃料電池制御装置50は、システム本体部12の運転を制御する運転処理部52を有する。また、燃料電池スタック14の劣化判定のために、各トリップの燃料電池スタック14の実際の最大出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後最大出力を求める補正後出力算出処理部54と、補正後最大出力と、劣化閾値特性線とを比較することで燃料電池スタック14の劣化を判定する劣化判定処理部56を含む。
【0059】
上記構成の作用、特に、燃料電池制御装置50の燃料電池劣化判定に関する各機能について、以下に詳細に説明する。ここで、トリップ特性値として、トリップにおける走行距離、発電量等を用いる場合について、図2から図10を用いて説明し、トリップ特性値として、トリップにおける電圧の時間分布を用いる場合について、図11から図17を用いて説明する。
【0060】
図2は、劣化閾値特性線72として、横軸に車両の総走行距離をとり、縦軸に車両のスロットル全開時の燃料電池スタックの出力をとる特性線を用いて、燃料電池スタック14の劣化判定を行おうとするときの様子を説明する図である。なお、図2においてFCとあるのはFuel Cellの略で、燃料電池のことであり、ここでは燃料電池スタック14のことである。なお、燃料電池の出力とは、出力電力のことである。
【0061】
車両のスロットル全開時とは、車両におけるアクセルペダルを一杯に踏込み、いわゆるアクセル開度を100%とした状態である。この状態は、燃料電池スタック14の発電電力で車両が走行しているときにおいて、燃料電池スタック14の最大負荷のときに相当する。燃料電池スタック14の出力は負荷が大きいほど低下するので、劣化判定に用いるものとしては、この最大負荷時の燃料電池スタック14の出力である最大出力を用いることが好ましい。
【0062】
劣化閾値特性線72は、回復可能な一時的出力低下を除いた後の燃料電池スタック14の最大負荷時の出力を総走行距離に関連付けたもので、予め実験等で求めておくことができる。図2に示されるように、劣化閾値特性線72は、燃料電池スタック14の最大出力が当初の運転開始からの累積運転量である総走行距離の増加ともに低下する特性を有している。求められた劣化閾値特性線72は、記憶装置60の劣化閾値特性マップ62として記憶され、必要に応じ読み出される。
【0063】
図2における黒丸は、車両の各トリップにおけるスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力、すなわち、各トリップにおける実際の最大出力である。車両の実際のトリップにおいては、例えば、1〜数回程度、このスロットル全開時のことがあるので、車両の統括制御部等から走行状況インタフェース68を介してその時点を燃料電池制御装置50に知らせる。燃料電池制御装置50は知らせを受けたその時点における出力を電流検出器42によって得られる電流と電圧検出器44によって得られる電圧から電力を求めて取得することで、各トリップにおけるスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力、すなわち、各トリップの実際の最大出力を得ることができる。
【0064】
図2は、ある車両において、各トリップのスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力をそのトリップが開始したときの総走行距離に関連づけて、黒丸マーク74でそれぞれプロットしたものである。この例では、出荷時のデータを除いて、8つのトリップについてのスロットル全開時の燃料電池スタック14の出力の値が示されている。
【0065】
なお、各トリップにおける走行距離、それまでの総走行距離等は、図1で説明した走行状況インタフェース68を介して取得される情報を用いることができる。後述の走行時間等も同様に、走行状況インタフェース68から取得される情報と、運転指令インタフェース66を介して取得される運転指令タイミング等を用いることができる。
【0066】
図2において、括弧の中に示した値は、各トリップの走行距離である。ここに示されるように、各トリップにおける走行距離はまちまちである。このように、各トリップにおける燃料電池スタック14の使用状態というのは、出荷時からの総走行距離、つまり、累積使用期間が異なる上に、そのトリップにおける使用期間が異なるものである。
【0067】
燃料電池スタック14の実際の最大出力が、この劣化閾値特性線72以下となるときは、燃料電池スタック14に標準的な劣化を超えた異常劣化が進展していることを意味する。劣化閾値とは、そのような意味である。図2の例では、A,B,C,Dの4つのトリップのデータがそれぞれ劣化閾値特性線72よりも低い出力を示している。
【0068】
ところで、各トリップにおける燃料電池スタック14の出力低下には、回復可能な一時的出力低下が含まれている。一時的出力低下は、次のトリップのときには回復しているので劣化ではない。その意味で、図2の各黒丸マーク74は、回復可能な一時的出力低下を考慮する前の燃料電池スタック14の出力低下の様子を示している。したがって、図2のデータのままでは、A,B,C,Dが劣化している状態を示しているとは判定できない。
【0069】
燃料電池スタック14における回復可能な一時的出力低下は、次のような特性を有する。すなわち、第1に、総走行距離が同じであっても、トリップの走行距離が長いほど、回復可能な一時的出力低下の幅は大きくなる。これは、トリップの運転開始から終了までの走行距離が長いほど電気化学反応の時間が長く、その時間が長いほど触媒の酸化が進展するからである。第2に、同じトリップ走行距離であっても、総走行距離が長いほど、回復可能な一時的出力低下の幅は大きくなる。これは、MEAの経年変化が進展するにつれて、触媒の酸化が急速に進展するという特性を有するからである。
【0070】
このような回復可能な一時的出力低下のデータは、予め実験等で求めておくことができる。求められたデータは、記憶装置60の補正値関係マップ64に格納され、必要に応じ読み出すことができる。補正値というのは、この一時的出力低下を、各トリップの実際の最大出力に戻して補正することで、一時的出力低下を除いた各トリップの最大出力を求めることができるからである。
【0071】
そこで、図2の例の場合、記憶装置60の補正値関係マップ64から、トリップ走行距離と総走行距離と補正値との関係を読み出す。図3は、そのような補正値関係マップの例を示す図である。ここでは、横軸方向に累積運転量である総走行距離を並べ、縦軸方向にトリップ特性値であるトリップ走行距離を並べた表において、総走行距離とトリップ走行距離の組み合わせのそれぞれに対応する補正値が示されている。
【0072】
例えば、図2のAのトリップは、総走行距離が1万kmで、トリップ走行距離が200kmであるので、図3の補正値関係マップの該当する箇所を読み出すことで、補正値は12kwとなる。この12kwが、一時的出力低下に相当する値である。したがって、Aのトリップの実際の最大出力にこの12kwを戻して加算することで、Aのトリップにおける一時的出力低下を除いた最大出力が求められる。これらの一連の処理工程は、図1の燃料電池制御装置50の補正後出力算出処理部54の機能によって実行される。
【0073】
図4は、各トリップの実際の最大出力に対し、図3に示される補正値関係マップを用いて補正値を読み出し、その補正値を用いて算出される値である補正後最大出力を白丸マーク76で示したものである。白丸マーク76が示す補正後最大出力と、これに対応する黒丸マーク74が示す実際の最大出力との間の差異が、一時的出力低下を考慮した補正値に相当する。
【0074】
図4における各白丸マーク76は、一時的出力低下の影響を除いた最大出力を示しているので、これと劣化閾値特性線72とを比較することで、各トリップにおいて劣化が進展しているか否かを判定できる。すなわち、白丸マーク76が劣化閾値特性線72以下の最大出力を示すときは、回復不可能な劣化が異常に進展していることになる。図4の例では、Cのトリップのときに異常劣化が認められると判定される。これらの工程処理は、燃料電池制御装置50の劣化判定処理部56の機能によって実行される。異常劣化が認められると判定されると、CAUTIONインタフェース70を介して、適当なCAUTION表示等の出力が行われる。
【0075】
上記では、累積運転量として総走行距離をとった。これに代えて、累積運転量として総走行時間をとることができる。図5は、累積運転量として総走行時間を用いるときの劣化閾値特性線80と、補正値関係マップ81を示す図である。
【0076】
図5に示されるように、劣化閾値特性線80は、最大負荷時のFC出力と総走行時間との関係で予め求められたものが用いられる。最大負荷時のFC出力とは、いまの場合、図2で説明したように、スロットル全開時の燃料電池スタック14の出力である。これに対応し、補正値関係マップ81は、横軸に総走行時間をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0077】
上記では、累積運転量として車両の走行に関係する量を用いている。ここで車両の走行状態は一定ではなく、加速減速等を伴うものである。その場合に、同じ走行距離または走行時間であっても、走行状態によって燃料電池スタック14の発電状況が異なることがある。発電状況が異なると、一時的出力低下の程度も異なってくることがある。
【0078】
図6は、車両の走行状態が異なることでFC出力がどのように相違するかを実験した結果を示す図である。ここでは、時速80km/hの定速走行する場合と、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合で、総走行時間と総走行距離とを同じ条件となるようにし、それぞれの燃料電池スタック14の出力が走行時間の経過とともにどのように変化するかを実験した結果が示されている。横軸が走行時間、縦軸が燃料電池スタック14の出力である。
【0079】
図6の結果からは、時速80km/hの定速走行を行って3時間後の出力低下と、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返して1時間後の出力低下とがほぼ同じとなっている。つまり、走行の加減速を繰り返す方が、定速走行に比べ、少なくとも一時的出力低下の程度が大きい。図6の例では、同じ出力低下に対し、走行時間において3倍の相違がある。
【0080】
図7,8は、そのような相違が現れる理由を模式的に説明する図である。これらの図においては、横軸に時間、縦軸に発電電荷量がとられている。図7は、時速80km/hの定速走行する場合、図8は時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合
である。
【0081】
図7に示されるように、時速80km/hの定速走行する場合には発電電荷量に時間的変化が生じない。これに対し、図8に示されるように、時速70km/hと時速90km/hとを交互に繰り返す場合には、加減速が繰り返されることから、発電電荷量に急増と急減が交互に繰り返されることになる。車両としては、平均速度は図7も図8も80km/hとなるが、車両の慣性、アクセル操作、ブレーキ操作等の影響で、加減速を繰り返す方が、全体として多くの発電電力を要し、そのために全体の発電電荷量が増加するものと考えることができる。
【0082】
図6の結果を考慮すると、車両の実際の走行状態によっては、累積運転量として燃料電池スタック14の累積発電電荷量、または累積発電時間を用いることがよい場合がある。図9、図10は車両の総走行距離、総走行時間に代えて、累積運転量として燃料電池スタック14の総発電時間、総発電電荷量を用いて劣化判定を行う場合の劣化閾値特性線と補正値関係マップを説明する図である。
【0083】
図9は、累積運転量として、総発電時間を用いる場合である。このときは、図9に示されるように、劣化閾値特性線82は、最大負荷時のFC出力と総発電時間との関係で予め求められたものが用いられる。これに対応し、補正値関係マップ83は、横軸に総発電時間、縦軸にトリップ発電時間をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0084】
図10は、累積運転量として、総発電電荷量を用いる場合である。このときは、図10に示されるように、劣化閾値特性線84は、最大負荷時のFC出力と総発電電荷量との関係で予め求められたものが用いられる。これに対応し、補正値関係マップ85は、横軸に総発電電荷量、縦軸にトリップ発電電荷量をとったものが用いられる。これらは、予め実験等で求めたものを記憶装置60に記憶し、それを必要に応じて読み出すことで用いることができる。
【0085】
この場合、劣化判定においては、各トリップにおける発電電荷量を求める必要があるが、これは、電流検出器42によって取得される電流値と経過時間とを用いて、電流の積分値としての電荷量を算出することで取得することができる。
【0086】
以上で、トリップ特性値として、トリップにおける走行距離、発電量等を用いる場合についての説明を行ったので、次に、トリップ特性値として、トリップにおける電圧の時間分布を用いる場合について、図11から図17を用いて説明する。
【0087】
触媒の酸化は、燃料電池スタック14の発電電位、すなわち出力電圧による影響を受ける。すなわち、燃料電池スタック14の出力電圧が高いと酸化が進行し、ある程度出力電圧が低くなると還元に転じる。したがって、燃料電池スタック14の出力電圧が高いと、一時的出力低下の幅が大きくなり、出力電圧が低いと一時的出力低下の幅が小さくなり、場合によっては、還元によって一時的出力電圧の低下が戻されることになる。また、この酸化の電圧依存性は、MEAの経年劣化にも関係する。例えば、同じ出力電圧であっても総走行距離が長いほど触媒の酸化は急激に進行する。
【0088】
これらのことから触媒の酸化の電圧依存性を考慮して、一時的出力低下の影響を求めることができる。ここで、図1と同様な劣化閾値特性線72と、各トリップにおける最大出力のデータを示す図11を用いて、電圧依存性を考慮した劣化判定について説明する。図11は図1と同様であるが、ここでは、トリップ走行距離は考慮に入れない。図11において、劣化閾値特性線72以下の黒丸マーク74はA,B,C,Dの4つのトリップに関するものであるが、以下では、AとCを例題として説明を続ける。
【0089】
図12、13は、A,Cのそれぞれのトリップにおける燃料電池スタック14の出力電圧の時間分布を示す図である。出力電圧の時間分布は、各トリップの経過時間を単位時間に区切って、それぞれの単位時間における出力電圧を求めて、これを同じ出力電圧を有する単位時間がいくらあるか集計し、各出力電圧ごとに得られる合計時間の分布を求めたものを用いることができる。
【0090】
図12,13においては、横軸に、燃料電池スタック14の出力電圧を表すものとして、代表的な単位セルの端子間電圧であるセル電圧を0.1V刻みでとり、縦軸に各セル電圧における単位時間の合計がとられている。上記の例では、燃料電池スタック14は直列に約200個接続されているので、燃料電池スタック14の出力電圧は、このセル電圧の約200倍となる。
【0091】
なお単位時間としては1秒を用いた。すなわち、単位セルの端子間電圧であるセル電圧を、各トリップの開始から終了まで1秒刻みで測定し、そのデータを、各セル電圧刻みごとに該当する単位時間を合計して分布が取られる。
【0092】
図12に示されるように、Aのトリップでは、セル電圧が0.5Vから0.6Vの間の運転が20秒あり、0.6Vから0.7Vの間の運転が140秒あり、0.7Vから0.8Vの間の運転が480秒あり、0.8Vから0.9Vの間の運転が720秒あり、0.9Vから1.0Vの間の運転が650秒ある。
【0093】
同様に、図13に示されるように、Cのトリップにおいても、各セル電圧における運転の合計時間がそれぞれ示される。ここでは、セル電圧が0.6V以下の運転がなく、例えば、0.8Vから0.9Vの間の運転が950秒、0.9Vから1.0Vまでの運転が890秒となっている。このようにCのトリップはAのトリップに比べ、セル電圧が高い領域での運転合計時間が長くなっている。
【0094】
燃料電池スタック14の最大出力に対するセル電圧の影響は、図14に示される補正値関係マップに示される。ここでは、横軸方向に累積運転量である総走行距離を並べ、縦軸方向にトリップ特性値であるセル電圧を並べた表において、総走行距離とセル電圧の組み合わせのそれぞれに対応する補正値が示されている。ここで補正値は、酸化が進んで一時的出力低下となるときを−(負)の値とし、還元によって一時的出力低下が戻されるときを+(正)の値としてある。
【0095】
図14に示されるように、セル電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなり、セル電圧が同じでも、総走行距離の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなることが分かる。
【0096】
補正後最大出力は、図12,13で説明したトリップにおける電圧の時間分布と、図14の補正値関係マップを用いて、一時的出力低下量を求めることで算出される。図15はAのトリップに関する算出を示す図で、図16はCのトリップに関する算出を示す図である。
【0097】
Aのトリップは総走行距離が1万kmであるので、図14の補正値関係マップからその走行距離についての各セル電圧に対する補正値を拾い出す。そして、図12の結果から得られる各セル電圧における合計運転時間を乗じ、各セル電圧における一時的出力低下量をそれぞれ算出する。例えば、図15において、セル電圧が0.9Vを超え1.0V以下の補正値である出力への影響は図14から−0.010kw/sであり、そのセル電圧における合計運転時間は図12から650秒であるので、そのセル電圧における一時的出力低下量は、(−0.010)×650=−6.5kwとなる。
【0098】
このような計算を各セル電圧について行い、全体を合計すると、Aのトリップ全体における一時的出力低下量が算出される。図15における計算結果は、−6.5kwである。
【0099】
同様に、図13と図14とを用いて、Cのトリップ全体における一時的出力低下量は、図16に示されるように、−20.78kwとなる。
【0100】
図17は、このようにして求められた補正値を用いて、補正後最大出力を求める様子を示す図である。白丸マーク75が補正後最大出力で、黒丸マーク74が補正を行う前の各トリップの実際の最大出力である。白丸マークと黒丸マークとの間の相違が、電圧依存性の補正値となる。Aのトリップでは図15で算出されたように一時的出力低下は−6.5kwであるので、黒丸マークの最大出力にこの値を戻し、具体的には符号を反転して+6.5kwを黒丸マークの値に加算して白丸マークとする。なお、ここでは、図17の縦軸を単セルについての出力とした。
【0101】
同様に、Cのトリップでは、図15で算出されたように一時的出力低下は−20.78kwであるので、黒丸マークの最大出力にこの値を戻し、具体的には符号を反転して+20.78kwを黒丸マークの値に加算して白丸マークとする。他のトリップについても同様に補正値を計算し、これを黒丸マークの値に加算することで補正後最大出力としての白丸マークを得る。
【0102】
次に、図4で説明したのと同様に、劣化閾値特性線72と各トリップの補正後最大出力とを比較し、各トリップについての劣化判定を行う。図17の例では、Aのトリップのみが補正後最大出力が劣化閾値特性線72以下であるので、このトリップにおいて異常劣化が進展していると判定される。異常劣化があると判定されると、CAUTIONインタフェース70を介して、適当なCAUTION表示等の出力が行われる。
【0103】
このように、トリップ特性値と累積運転量とに基づく補正値関連マップを用いて、各とリップにおける一時的出力低下を算出し、補正後最大出力を求めて、これを劣化閾値特性線と比較することで、より正確に燃料電池スタック14の劣化判定を行うことができる。
【0104】
また、上記構成によれば、燃料電池スタック14または車両を定期点検のように、通常の運転状態から外して劣化判定を行うのではなく、燃料電池スタック14の通常の運転状態または車両の通常の走行状態において、リアルタイムで劣化判定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る燃料電池劣化判定装置は、触媒の酸化のように回復可能な一時的出力低下を伴う燃料電池の劣化判定に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
10 燃料電池システム、12 システム本体部、14 燃料電池スタック、16 水素ガス源、18 レギュレータ、20 アノード側入口流路、22 アノード側出口流路、24 気液分離器、26 循環昇圧器、28 酸化ガス源、30 フィルタ、32 ACP、34 カソード側入口流路、36 カソード側出口流路、38 調圧弁、40 希釈器、42 電流検出器、44 電圧検出器、46 負荷、50 燃料電池制御装置、52 運転処理部、54 補正後出力算出処理部、56 劣化判定処理部、60 記憶装置、62 劣化閾値特性マップ、64,81,83,85 補正値関係マップ、66 運転指令インタフェース、68 走行状況インタフェース、70 CAUTIONインタフェース、72,80,82,84 劣化閾値特性線、74 黒丸マーク、75,76 白丸マーク。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた基準出力条件の下の燃料電池の出力である基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めて記憶する劣化閾値特性記憶手段と、
燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求める手段と、
劣化閾値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う判定手段と、
を備え、
補正後基準条件出力を求める手段は、
各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めて記憶する補正値記憶手段と、
補正値記憶手段に記憶される関係に基づいてトリップ特性値と累積運転量とで定まる補正値を取得する手段と、
を含み、取得された補正値に基づいて補正後基準条件出力を求めることを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
トリップ特性値としてトリップの運転時間を用い、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
劣化閾値特性記憶手段は、
累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
劣化閾値特性記憶手段は、
燃料電池が車両走行に用いられる場合に、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項6】
請求項2に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
燃料電池が車両走行に用いられる場合に、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項1】
予め定めた基準出力条件の下の燃料電池の出力である基準条件出力が当初の運転開始からの累積運転量の増加ともに低下する劣化閾値特性線を予め求めて記憶する劣化閾値特性記憶手段と、
燃料電池が運転を開始し停止するまでの各運転を各トリップとして、各トリップの実際の基準条件出力に対し、運転の停止によって回復する一時的な出力低下を補正値として戻した後の補正後基準条件出力を求める手段と、
劣化閾値特性線と補正後基準条件出力との比較から燃料電池の劣化判定を行う判定手段と、
を備え、
補正後基準条件出力を求める手段は、
各トリップの発電状況を示すトリップ特性値と累積運転量と補正値との関係を予め求めて記憶する補正値記憶手段と、
補正値記憶手段に記憶される関係に基づいてトリップ特性値と累積運転量とで定まる補正値を取得する手段と、
を含み、取得された補正値に基づいて補正後基準条件出力を求めることを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
トリップ特性値としてトリップの運転時間を用い、トリップの運転時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
トリップ特性値として、各トリップの経過時間を単位時間に区切ってそれぞれの出力電圧を求めて得られる分布である出力電圧の時間分布を用い、出力電圧が高いほど一時的出力低下が大きくなる関係と、当初の運転開始からの累積運転量の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
劣化閾値特性記憶手段は、
累積運転量として、当初の運転開始からの累積発電電荷量または累積発電時間を用い、累積発電電荷量または累積発電時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1に記載の燃料電池劣化判定装置において、
劣化閾値特性記憶手段は、
燃料電池が車両走行に用いられる場合に、累積運転量として、当初の運転開始からの累積走行距離または累積走行時間時間を用い、累積走行距離または累積走行時間の増加とともに燃料電池の基準条件出力が低下する関係に基づいて求められる劣化閾値特性線を記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【請求項6】
請求項2に記載の燃料電池劣化判定装置において、
補正値記憶手段は、
燃料電池が車両走行に用いられる場合に、トリップ特性値としてトリップの走行距離または走行時間を用い、トリップの走行距離または走行時間が長くなるほど一時的出力低下が大きくなる関係と、累積走行距離または累積走行時間の増加ともにそのトリップにおける一時的出力低下が大きくなる関係とに基づいて補正値に関する関係を予め求めて記憶することを特徴とする燃料電池劣化判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−238476(P2010−238476A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84214(P2009−84214)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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