説明

燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた燃料電池

【課題】優れた発電特性および耐久性を有する燃料電池を提供する。
【解決手段】アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜とを含み、前記アノードは、前記電解質膜上に積層されたアノード触媒層、および前記アノード触媒層上に積層されたアノード拡散層を含み、前記アノード触媒層は、アノード触媒および高分子電解質を含み、かつ高分子電解質の含有率が異なる少なくとも上層部および下層部から構成され、前記上層部は、アノード拡散層側に位置し、前記下層部は、電解質膜側に位置し、前記下層部における前記高分子電解質の含有率が、前記上層部における高分子電解質の含有率よりも低く、さらに、前記アノード触媒層は、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の細孔径の最も小さい部分が、前記下層部に存在する、燃料電池用膜電極接合体、ならびにそれを用いる燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜電極接合体に関し、具体的には、燃料電池用膜電極接合体のアノード触媒層の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地球温暖化、大気汚染等の環境問題および資源枯渇の問題を解決し、持続可能な循環型社会を実現させる方策として、燃料電池を用いたエネルギーシステムが提案されている。
【0003】
燃料電池としては、工場、住宅等に設置する定置型の燃料電池だけでなく、自動車、携帯電子機器などの電源として用いられる非定置型の燃料電池が挙げられる。ガソリンエンジンを利用した発電機に比べて、燃料電池は、静粛で大気汚染ガスの排出がないため、最近では、災害時の非常用電源、レジャー用途の可搬型電源として、燃料電池の早期実用化が期待されている。
【0004】
このような燃料電池の中でも、メタノール、ジメチルエーテル等の有機液体燃料を水素ガスに改質せずに、アノードに直接供給して発電する直接酸化型燃料電池が注目され、活発な研究開発が行われている。その理由として、有機液体燃料は理論エネルギー密度が高いこと、さらに有機液体燃料は貯蔵が容易であり、有機液体燃料を用いることにより燃料電池システムを簡素化できることが挙げられる。
【0005】
直接酸化型燃料電池は、膜電極接合体(以下、MEAと称す)をセパレータで挟み込んだ単位セルを有する。一般的に、MEAは、電解質膜と、その両側にそれぞれ配置されたアノードおよびカソードを含む。アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層と拡散層を含む。この直接酸化型燃料電池は、アノードに燃料と水を供給し、カソードに酸化剤(例えば酸素ガス、空気)を供給することで発電する。
【0006】
例えば、燃料としてメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと称す)の電極反応は、以下の通りである。
アノード:CH3OH+H2O → CO2+6H++6e-
カソード:3/2O2+6H++6e- → 3H2
すなわち、アノードでは、メタノールと水が反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。アノードで生成されたプロトンは電解質膜を通ってカソードに到達し、電子は外部回路を経由してカソードに到達する。カソードでは、酸素ガス、プロトンおよび電子が結合して、水が生成される。
【0007】
しかしながら、このDMFCのような直接酸化型燃料電池の実用化にはいくつかの問題点が存在している。
DMFCのアノードでは、メタノールの酸化に対する触媒活性(比活性)が小さい。このため、DMFCは、水素ガスを燃料として用いる固体高分子電解質型燃料電池(以下、PEFCと称す)に比べて、アノード過電圧が著しく大きいという問題がある。さらに、メタノールが未反応のまま電解質膜を通過しカソードに達する現象、いわゆる「メタノールクロスオーバー」により、カソードにおいては、本来のカソード電極反応である酸素ガスの還元反応以外にメタノール酸化反応が起こる。このメタノール酸化反応がカソード過電圧を増加させる原因となっている。上記のようなアノード過電圧およびカソード過電圧の増加により、DMFCの出力密度は、PEFCの出力密度に比べて低い。
【0008】
これらの問題に対処するために、DMFCに含まれる触媒の量をPEFCの場合に比べて多くして、触媒層投影単位面積あたりの触媒表面積を増加させることが提案されている。しかしながら、触媒量の増加は、触媒層自体の厚みの増大を招くこととなり、メタノールまたは酸化剤を触媒層内部の反応場まで到達させることが困難となる。このため、却って発電特性を低下させる結果となっている。
【0009】
そこで、上記問題を解決するために、アノード触媒層自体の構造を改良する数多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、アノード触媒層の厚さを20μm以上とし、さらに、アノード触媒層が細孔径0.3〜2.0μmの細孔を有し、その細孔容積が全細孔容積に対して4%以上とすることが開示されている。特許文献1は、触媒層内の細孔構造を最適化することにより、電子伝導性およびプロトン伝導性を低下させることなく、液体燃料が電極内部の反応場へ到達しやすくすることを意図している。
【0010】
特許文献2には、触媒層の一方の面から他方の面に向かって徐々に孔径が増大する貫通孔を設けることが開示されている。特許文献2は、触媒層に前記のような貫通孔を設けることにより、メタノール水溶液が電解質膜に触れる量を調整することを意図している。
【0011】
特許文献3には、触媒が凝集したクラスターの粒径を高分子電解質膜に近づくほど小さく、集電体に近づくほど大きくすること、または、イオン交換樹脂の濃度を高分子電解質膜に近づくほど高く、集電体に近づくほど低くすることが開示されている。特許文献3は、前記構成により、触媒利用率および触媒層のガス透過性を向上させることを意図している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−183368号公報
【特許文献2】特開2008−103092号公報
【特許文献3】特開平8−162123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、アノード触媒量を低減させた場合においても、電極反応場である三相界面を確保し、アノード過電圧の小さい、耐久性に優れた燃料電池用膜電極体およびそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一局面に係る燃料電池用膜電極接合体は、アノードと、カソードと、それらの間に配置された電解質膜とを含む。前記アノードは、電解質膜上に積層されたアノード触媒層、および前記アノード触媒層上に積層されたアノード拡散層を含む。前記アノード触媒層は、アノード触媒および高分子電解質を含み、かつ前記高分子電解質の含有率が異なる少なくとも上層部および下層部から構成され、前記上層部は、前記アノード拡散層側に位置し、前記下層部は、前記電解質膜側に位置し、前記下層部における前記高分子電解質の含有率が、前記上層部における前記高分子電解質の含有率よりも低い。前記アノード触媒層は、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の細孔径の最も小さい部分が、前記下層部に存在する。
【0015】
前記上層部における前記高分子電解質の含有率が、23〜28重量%であり、前記下層部における前記高分子電解質の含有率が、18〜22重量%であることが好ましい。
【0016】
前記上層部における前記高分子電解質の含有率Aと前記下層部における前記高分子電解質の含有率Bとの差(A−B)が、3〜6重量%であることが好ましい。
【0017】
前記アノード触媒層中の前記アノード触媒は、導電性炭素粒子に担持されており、前記アノード触媒層の投影単位面積あたりの前記アノード触媒の量は、1〜4mg/cm2であることが好ましい。
【0018】
前記アノード触媒層のハーフドライ/バブルポイント法により測定された制限細孔径分布において、最大細孔直径は2〜3μmの範囲にあり、平均流量細孔直径は0.8〜1.2μmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
前記アノード触媒層の透気度は、0.04〜0.08L/(min・cm2・kPa)であることが好ましい。
【0020】
前記アノード触媒層の空隙率は、60〜80%であることが好ましい。
【0021】
前記下層部は、前記アノード触媒層の前記電解質膜に接する表面から前記アノード触媒層の厚さの1/3までの領域を占めることが好ましい。
【0022】
また、本発明の一局面に係る燃料電池は、前記燃料電池用膜電極接合体、アノードに接するアノード側セパレータ、およびカソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アノード触媒層内部に存在する貫通孔の細孔径に適合するように、高分子電解質の含有率を調整している。このため、アノード触媒層の全領域においてプロトン伝導性を確保することができる。さらに、液体燃料により高分子電解質が膨潤してアノード触媒層の空隙体積が減少することを抑制することが可能となるため、二酸化炭素の排出性や液体燃料の均一拡散性が改善される。従って、本発明により、アノード触媒量を低減させた場合においても、電極反応場である三相界面が確保され、アノード過電圧の小さい、耐久性に優れた燃料電池用膜電極体およびそれを用いた燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池に含まれる単位セルの構造を模式的に示す縦断面略図である。
【図2】図1に示した燃料電池に含まれるアノード触媒層16を示す部分的縦断面図である。
【図3】図1に示した燃料電池に含まれるアノード触媒層16の貫通孔を模式的に示した説明図である。
【図4】パームポロメータによる制限細孔径分布の測定の原理を説明するための模式図である。
【図5】パームポロメータによる制限細孔径分布の測定の原理を説明するためのグラフである。
【図6】パームポロメータによる制限細孔径分布の測定の原理を説明するためのグラフである。
【図7】パームポロメータにより測定された制限細孔径分布を説明するためのグラフである。
【図8】アノード触媒層を形成するために用いられるスプレー式塗布装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る燃料電池用膜電極接合体は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを含み、アノードは、電解質膜上に積層されたアノード触媒層、およびアノード触媒層上に積層されたアノード拡散層を含む。
アノード触媒層は、アノード触媒および高分子電解質を含み、かつ高分子電解質の含有率が異なる少なくとも上層部および下層部から構成される。上層部は、アノード拡散層側に位置し、下層部は、電解質膜側に位置し、下層部における高分子電解質の含有率は、上層部における高分子電解質の含有率よりも低い。さらに、アノード触媒層は、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の細孔径の最も小さい部分が、下層部に存在する。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた燃料電池を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1に、本発明の一実施形態に係る燃料電池に含まれる単位セルの構造を模式的に示す縦断面図を示す。
図1の単位セル1は、電解質膜10と、電解質膜10を挟むアノード11およびカソード12とからなる膜電極接合体(MEA)13、並びにMEA13を挟むアノード側セパレータ14およびカソード側セパレータ15を備える。
【0028】
アノード11は、アノード触媒層16とアノード拡散層17を含む。アノード触媒層16は、電解質膜10上に積層されており、アノード拡散層17はアノード触媒層16上に積層されている。アノード拡散層17は、アノード側セパレータ14に接している。
カソード12は、カソード触媒層18およびカソード拡散層19を含む。カソード触媒層18は、電解質膜10上に積層されており、カソード拡散層19は、カソード触媒層18上に積層されている。カソード拡散層19は、カソード側セパレータ15に接している。
【0029】
アノード側セパレータ14は、アノード11と対向する面に、燃料を供給し、未使用燃料および反応生成物を排出する燃料流路20を有する。カソード側セパレータ15は、カソード12と対向する面に、酸化剤を供給し、未使用酸化剤および反応生成物を排出する酸化剤流路21を有する。なお、酸化剤としては、例えば、酸素ガス、または空気のような酸素ガスを含む混合ガスが用いられる。通常は、空気を酸化剤として用いることが多い。
【0030】
アノード11の周囲には、アノード11を封止するように、アノード側ガスケット22が配置されている。同様に、カソード12の周囲には、カソード12を封止するように、カソード側ガスケット23が配置されている。アノード側ガスケット22とカソード側ガスケット23とは、電解質膜10を介して対向している。アノード側ガスケット22およびカソード側ガスケット23により、燃料、酸化剤、および反応生成物が外部へ漏洩することが防止される。
【0031】
さらに、図1の単位セル1は、セパレータ14および15の両側に、それぞれ、集電板24および25、シート状のヒータ26および27、絶縁板28および29、並びに端板30および31を有する。単位セル1は、締結手段(図示せず)により一体化されている。
【0032】
図2に、図1に示した単位電池1に含まれるアノード触媒層16の縦断面を模式的に示す。
アノード触媒層16は、触媒金属微粒子または触媒金属微粒子を担持した導電性炭素粒子(触媒担体)と、高分子電解質とを主成分とする。触媒金属微粒子としては、例えば、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金微粒子を用いることができる。触媒金属微粒子の平均粒径は、1〜3nmであることが好ましい。導電性炭素粒子としては、例えば、カーボンブラック等の当該分野で公知の材料を用いることができる。導電性炭素粒子の平均一次粒径は、10〜50nmであることが好ましい。
【0033】
アノード触媒層16に含まれる高分子電解質は、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性、耐メタノール膨潤性等に優れていることが好ましい。このような高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質が挙げられる。なお、アノード触媒層16に含まれる高分子電解質は、電解質膜10を構成する高分子電解質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
アノード触媒層16は、高分子電解質の含有率が異なる少なくとも上層部16aおよび下層部16bから構成される。上層部16aは、アノード拡散層17側に位置し、下層部16bは、電解質膜10側に位置する。下層部16bにおける高分子電解質の含有率は、上層部16aにおける高分子電解質の含有率よりも低い。なお、図2では、アノード触媒層16が、上層部16aと下層部16bとから構成される場合を示している。
ここで、上層部および下層部が、触媒金属微粒子または導電性炭素粒子に担持された触媒金属微粒子と、高分子電解質とを含む場合、上層部および下層部における前記高分子電解質の含有率は、それぞれ、上層部および下層部を構成する、触媒金属微粒子または導電性炭素粒子に担持された触媒金属微粒子と、高分子電解質との合計重量に占める高分子電解質の重量の割合のことをいう。また、上層部および下層部が、触媒金属微粒子または導電性炭素粒子に担持された触媒金属微粒子と、高分子電解質との他に、追加の成分を有する場合、前記高分子電解質の含有率は、触媒金属微粒子または導電性炭素粒子に担持された触媒金属微粒子と、高分子電解質と、追加の成分との合計重量に占める高分子電解質の重量の割合のことをいう。
【0035】
さらに、アノード触媒層16は、その電解質膜10の接する面からアノード拡散層17に接する面までを貫通する複数の貫通孔を有する。アノード触媒層16の下層部16bには、図3に示されるように、貫通孔40の細孔径の最も小さい部分(狭窄部)40aが存在する。なお、図3は、下層部16bに存在する貫通孔の狭窄部を模式的に示す縦断面図である。
【0036】
以下で説明するように、固形分(アノード触媒、高分子電解質、必要に応じてアノード触媒を担持した導電性炭素粒子等)、および所定の分散媒を含むアノード触媒インクを用いてアノード触媒層16を作製する場合、アノード触媒インクを塗布し、乾燥すると、固形分が凝集し、図3に示されるような凝集領域40bが形成される。この凝集領域40bにおいては、触媒粒子同士または触媒粒子を担持した導電性炭素粒子同士が高分子電解質により結着している。
凝集領域40bの間には、空隙が存在し、この空隙が、アノード触媒層16の電解質膜10側の面からアノード拡散層17側の面まで連続的に連通することにより、貫通孔40が形成される。なお、凝集領域40bのサイズが大きいほど、凝集領域40b間の空隙のサイズは大きくなる。
【0037】
この狭窄部40aの直径は、二酸化炭素の排出性およびメタノールのような液体燃料の拡散性に大きく影響する。上記のように、アノード触媒層16の下層部16bには、貫通孔40の狭窄部40aが配置されている。貫通孔40の狭窄部40aを下層部16bに配置することにより、上層部16aでの液体燃料の均一拡散性の確保と液体燃料のクロスオーバーの低減化を同時に実現することができる。
【0038】
さらに、狭窄部40aが存在する下層部16bは、その空隙率が、他の部分より小さくなっていることが多い。一方で、アノード触媒層16には、高分子電解質が含まれる。この高分子電解質は、メタノールのような液体燃料により膨潤することが知られている。高分子電解質の膨潤により、貫通孔40の狭窄部40aが閉塞したり、狭窄部40aの細孔径がさらに小さくなったりすると、アノード触媒層16における二酸化炭素の排出性および液体燃料の拡散性が低下することが考えられる。
【0039】
そこで、本発明では、下層部16bにおける高分子電解質の含有率を、上層部16aにおける高分子電解質の含有率よりも小さくしている。これにより、メタノールのような液体燃料により高分子電解質が膨潤して、貫通孔40の狭窄部40aが閉塞したり、狭窄部40aの細孔径がさらに小さくなったりすることを抑制することができる。その結果、アノード過電圧の小さい、耐久性に優れた燃料電池を得ることができる。
【0040】
本実施形態に係る膜電極接合体は、液体燃料をそのままアノード供給する直接酸化型燃料電池用の膜電極接合体として特に有用に用いられる。
【0041】
下層部16bにおける高分子電解質の含有率Bは、18〜22重量%であることが好ましく、19〜21重量%がさらに好ましい。上層部16aにおける高分子電解質の含有率Aは、23〜28重量%であることが好ましく、24〜27重量%がさらに好ましい。
下層部16bにおける高分子電解質の含有率Bが18重量%より小さい場合、プロトン伝導性が低下することがある。前記含有率Bが23重量%より大きい場合、高分子電解質の膨潤により貫通孔の狭窄部の細孔径が減少することがある。上層部16aにおける高分子電解質の含有率Aが23重量%より小さい場合、触媒粒子表面への高分子電解質の被覆が不均一になりやすく、その結果、プロトン伝導性が低下することがある。前記含有率Aが28%より大きい場合、高分子電解質の膨潤により貫通孔の狭窄部の細孔径が減少することがある。
【0042】
上層部16aにおける高分子電解質の含有率Aと、下層部16bにおける高分子電解質の含有率Bとの差(A−B)は、3〜6(重量%)であることが好ましい。差(A−B)が、3よりも小さい場合および6よりも大きい場合には、アノード触媒層内部に存在する貫通孔の細孔径に適合するように、高分子電解質の含有率を最適化できないことがある。この場合、プロトン伝導性の低下もしくは高分子電解質の膨潤による貫通孔の狭窄部の細孔径減少が生ずることがある。
【0043】
下層部16bは、アノード触媒層16の厚さ方向において、アノード触媒層16の電解質膜10側に接する表面からアノード触媒層16の厚さの1/3までの領域を占めることが好ましく、1/4までの領域を占めることがさらに好ましい。
下層部16bを、前記範囲に配置することにより、アノード触媒層の全領域で、良好なプロトン伝導性が得られやすく、液体燃料のクロスオーバーの低減化にも有効である。
なお、高分子電解質の含有率が低い下層部16bの厚さが前記範囲よりも厚くなると、アノード触媒層16のプロトン伝導性が低下することがある。さらには、アノード触媒層16において空隙率が大きい領域が増えるために、メタノールクロスオーバー量(MCO量)が増大する可能性もある。
【0044】
アノード触媒層16は、上層部16aおよび下層部16b以外に、それらの間に配置された少なくとも1つの中層部を有していてもよい。この場合、中層部における高分子電解質の含有率は、上層部16aにおける高分子電解質の含有率Aより小さく、下層部16bにおける高分子電解質の含有率Bより大きいことが好ましい。さらに、複数の中層部が含まれる場合、アノード拡散層側から電解質膜側に向かって、各中層部における高分子電解質の含有率を段階的に減少させてもよい。
このように、上層部16aと下層部16bとの間に、少なくとも1つの中層部を設けることにより、アノード触媒層16全体にわたって、二酸化炭素の排出性およびメタノールの均一な拡散性をさらに向上させることができる。
【0045】
アノード触媒層16の厚さは、20〜100μmであることが好ましく、40〜70μmであることがさらに好ましい。アノード触媒層16の厚さが20μmより薄いと、電極反応に必要な量の触媒を確保することができないことがある。前記厚さが100μmを超えると、アノード触媒層のプロトン伝導性および電子伝導性を維持することができないことがある。
【0046】
アノード触媒層16の厚さは、例えば、アノード触媒層16の縦断面の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、電子顕微鏡観察により、アノード触媒層16の厚さを、例えば所定の10箇所で測定し、得られた値の平均値を、アノード触媒層16の厚さとすることができる。また、アノード触媒層16の電解質膜10側に接する表面は、アノード触媒層16の最も電解質膜10側の端を含み、アノード触媒層16の厚さ方向に垂直な面とすることができる。
【0047】
高分子電解質として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質が用いられる場合、上層部16aにおける高分子電解質の含有率および下層部16bにおける高分子電解質の含有率は、例えば、イオンクロマトグラフィーによるF比率の定量分析により測定することができる。
【0048】
アノード触媒が導電性炭素粒子に担持されている場合、アノード触媒層16の投影単位面積あたりのアノード触媒の量は、1〜4mg/cm2であることが好ましく、2.5〜4mg/cm2であることがさらに好ましい。
導電性炭素粒子は、アノード触媒層16において、二次凝集体を形成する。このため、アノード触媒層16に導電性炭素粒子が含まれる場合、アノード触媒層16の多孔質化が促進される。よって、アノード触媒の量を、アノード触媒層16の投影単位面積あたり、1〜4mg/cm2と低減させたとしても、電極反応場である三相界面を確保することができる。このため、アノード過電圧の増加を抑制することができる。
【0049】
ここで、触媒層の投影単位面積とは、触媒層の主面を法線方向から見た場合の輪郭形状を用いて計算される面積のことである。例えば、前記法線方向から見た場合の触媒層の輪郭形状が矩形の場合には、投影単位面積は、(縦の長さ)×(横の長さ)により計算することができる。
【0050】
なお、上層部16aに含まれるアノード触媒の量および導電性炭素粒子の量と、下層部16bに含まれるアノード触媒の量および導電性炭素粒子の量が同じである場合、下層部16bにおける導電性炭素粒子に対する高分子電解質の重量比は、上層部16aにおける導電性炭素粒子に対する高分子電解質の重量比よりも小さい。この場合、アノード触媒と導電性炭素粒子との混合重量比にもよるが、下層部16bにおける導電性炭素粒子に対する高分子電解質の重量比は、0.4〜1.4であることが好ましく、1.1〜1.4であることがさらに好ましい。上層部16aにおける導電性炭素粒子に対する高分子電解質の重量比は、0.6〜1.9であることが好ましく、1.5〜1.9であることがさらに好ましい。これにより、アノード過電圧の増加をさらに抑制することができる。
【0051】
貫通孔40の細孔径は、電解質膜10側からアノード拡散層17側に向かって増加していることが好ましい。このような構成により、アノード触媒層16で発生した二酸化炭素を、アノード触媒層16から効果的に排出することが可能となり、よって、アノード触媒層16全体に燃料を均一に拡散させることができる。このように、燃料を均一に拡散させることができるため、アノード触媒の量を低減させた場合においても、アノード触媒層において電極反応場である三相界面を確保することができ、その結果、アノード過電圧を低く維持することが可能となる。
【0052】
アノード触媒層16における二酸化炭素の排出性および液体燃料の拡散性は、狭窄部40aの直径分布の度合いにも影響を受ける。狭窄部40aの直径分布を最適化することにより、二酸化炭素の排出性および液体燃料の拡散性を向上することがさらに好ましい。アノード触媒層16に含まれる貫通孔40の制限細孔径分布において、最大細孔直径が2〜3μmの範囲にあり、平均流量細孔直径が0.8〜1.2μmの範囲にあることが好ましい。ここで、制限細孔径とは、貫通孔の最小断面(狭窄部40aの断面)と同じ面積の円の直径のことをいう。
【0053】
アノードにおける反応生成物である二酸化炭素は、最大細孔直径かそれに近い直径を有する貫通孔を選択的に透過する粘性流の挙動を示し、メタノールのような液体燃料は、前記以外の貫通孔を拡散流の挙動により透過すると考えられる。最大細孔直径は、二酸化炭素の排出性に関与する。また、平均流量細孔直径は、液体燃料の拡散性に関与するとともに、液体燃料がアノード触媒層に供給されることによる、電極反応場である三相界面の形成にも関与する。
【0054】
アノード触媒層16の「貫通していない細孔部分」を含んだ細孔直径分布ではなく、貫通孔の細孔径の分布を最適化することにより、アノード触媒層16に、二酸化炭素の排出に有効な細孔直径を有する貫通孔と、液体燃料の拡散性に寄与し電極反応場である三相界面形成に必要な細孔直径を有する貫通孔とを適切に設けることができる。すなわち、粘性流としての二酸化炭素の排出機能と拡散流としての液体燃料の透過機能とを兼ね備えた最適な細孔構造のアノード触媒層を形成することができる。このため、アノード触媒層全体にメタノールをさらに均一に拡散させることができ、よって、アノード過電圧のさらに小さい、耐久性に優れた燃料電池を提供することが可能となる。
【0055】
最大細孔直径が2μm未満の場合には、二酸化炭素の排出機能が低下することがある。最大細孔直径が3μmを超えると、二酸化炭素の排出機能は向上するが、燃料のクロスオーバー量が著しく増大し、燃料利用率が低下することがある。さらには、カソードの電極電位が低下し、その結果、発電特性が低下することがある。
平均流量細孔直径が0.8μm未満の場合には、アノード触媒層に燃料を均一に供給させることが困難となることがある。平均流量細孔直径が1.2μmを超えると、高濃度の燃料を使用した場合に、燃料のクロスオーバー量が増大し、発電領域の面内均一性が低下することがある。
【0056】
制限細孔分布における最大細孔直径および平均流量細孔直径は、ハーフドライ/バブルポイント法(ASTM E1294-89およびF316-86)を用いた多孔質材料自動細孔径分布測定システム(以下、パームポロメータと称す)により測定することができる。以下、最大細孔直径および平均流量細孔直径の測定方法を説明する。
【0057】
(i)最大細孔直径
最大細孔直径は、以下のようにして測定することができる。
測定用試料として、所定のサイズのアノード触媒層を用いる。測定用試料を、表面張力γが20.1mN/mのSilwick試薬中に浸漬し、減圧環境下で、測定用試料に、Silwick試薬を60分間含浸させて、測定用試料の貫通孔にSilwick試薬を充填させる。
次に、Silwick試薬を充填した測定用試料を、パームポロメータに取り付ける。測定用試料に空気を供給し、空気圧力を連続的に増加させる。このとき、図5に示される、空気透過流量がゼロから増加し始める瞬間の圧力(バブルポイント圧力)P0を計測する。得られたP0値から、以下の式(1):
0=(C×γ)/P0 (1)
を用いて、アノード触媒層の貫通孔の最大細孔直径D0を算出できる。なお、式(1)において、γはSilwick試薬の表面張力であり、Cは比例定数(2.86)である。
【0058】
(ii)平均流量細孔直径
平均流量細孔直径は、以下のようにして測定することができる。
上記と同様に、所定のサイズのアノード触媒層を測定用試料として用いる。測定用試料を、Silwick試薬中に浸漬し、減圧環境下で、測定用試料に、Silwick試薬を60分間含浸させて、測定用試料の貫通孔にSilwick試薬を充填させる。
次に、Silwick試薬を充填した測定用試料を、パームポロメータに取り付け、前記測定用試料に空気を供給する。図4の(a)に示されるように、空気圧力がP0に達するまでは、Silwick試薬51は、貫通孔50から押し出されることはない(領域I)。空気圧力がP0以上となると、図4の(b)に示されるように、Silwick試薬51が貫通孔50から押し出されて、空気透過流量が増加する。このとき、細孔直径の大きい貫通孔から順に、Silwick試薬が押し出される(領域II)。空気圧力をさらに増加させると、図4の(c)に示されるように、全ての貫通孔50から、Silwick試薬51が押し出される(領域III)。このようにして、図5に示される濡れ流量曲線Aを求める。本測定においては、空気透過流量が200L/minに到達するまで、空気の供給圧力を増加させる。
【0059】
次に、同じ測定用試料をそのまま用いて、空気圧力を連続的に増加させたときの空気透過流量を測定する。この場合にも、空気透過流量が200L/minに到達するまで、空気圧力を増加させる。このようにして、図5に示される乾き流量曲線Bを求める。
【0060】
そして、図5で示した濡れ流量曲線Aについて、上記式(1)により空気圧力Pを細孔直径Dに換算し、細孔直径Dに対して、Lw/Ldをプロットすることにより、図6に示すようなグラフを得る。Lw/Ldは所定の細孔直径Dにおける、乾き流量に対する濡れ流量の割合の積算値を示している。そして、図6に示すグラフにおいて、Lw/Ldが1/2のときの細孔径が制限細孔径分布における平均流量細孔直径D1/2である。なお、Lw/Ldが0のときの細孔径が制限細孔径分布における最大細孔直径D0である。このようにして求められた平均流量細孔直径D1/2は、直径がD1/2以上である貫通孔を透過する空気透過量が、アノード触媒層を透過する全空気透過量の1/2を占めることを意味する。なお、図6の積算値を示すグラフを細孔直径ごとの寄与度を示すグラフに換算することにより、例えば、図7のようなグラフが得られる。
【0061】
貫通孔を液体が透過する場合でも、気体が透過する場合でも、その透過量は、貫通孔の最も狭い部分の影響を受ける。よって、上記測定方法で得られる最大細孔直径および平均流量細孔直径は、貫通孔の狭窄部の直径を反映している。
【0062】
アノード触媒層16の透気度は、0.04〜0.08L/(min・cm2・kPa)であることが好ましい。なお、図5に示す乾き流量曲線Bの傾きの値(つまり、空気圧力に対する空気透過流量Ldの傾きの値)を、アノード触媒層の透気度としている。アノード触媒層16の透気度を前記範囲とすることより、アノード触媒層16において、二酸化炭素を選択的に排水できる経路を形成することができる。この結果、アノード触媒層16における液体燃料の均一拡散性をさらに向上することができる。
【0063】
アノード触媒層16の空隙率は、60〜80%であることが好ましい。アノード触媒層の空隙率を前記範囲とすることにより、アノード触媒層16の内部に、燃料の拡散性と二酸化炭素の排出性に有効な流通経路を有する領域と、電子伝導性およびプロトン伝導性を担う領域とをともに確保することが可能となる。その結果、アノードの過電圧をさらに低下させることができる。
【0064】
アノード触媒層の空隙率は、例えば、アノード触媒層の所定の10箇所の断面を走査型電子顕微鏡を使用して撮像し、その画像データを画像処理(二値化処理)することにより、算出することができる。
【0065】
なお、下層部16bは、他の部分と比較して、空隙率が小さくなっていることが多い。この場合、下層部16bの空隙率は、40〜60%であることが好ましい。
【0066】
次に、図8を参照しながら、アノード触媒層16の形成方法を説明する。図8は、アノード触媒層16を形成するためのスプレー式塗布装置の構成の一例を示す概略図である。
【0067】
スプレー式塗布装置70は、アノード触媒インク72を収容したタンク71およびスプレーガン73を備える。
タンク71内において、アノード触媒インク72は、攪拌機74により撹拌されて、常時流動状態にある。アノード触媒インク72は、開閉バルブ75が設けられた供給管76を介して、スプレーガン73に供給され、噴出ガスとともに、スプレーガン73から吐出される。噴出ガスは、ガス圧力調整器77およびガス流量調整器78を介して、スプレーガン73に供給される。噴出ガスとしては、例えば、窒素ガスを用いることができる。
【0068】
図8の装置70において、スプレーガン73は、アクチュエータ79により、矢印Xに平行なX軸およびX軸に垂直でありかつ紙面に垂直な方向に平行なY軸の2方向に任意の位置から任意の速度で移動することが可能である。
【0069】
スプレーガン73の下方には、電解質膜10が配置されており、スプレーガン73を、アノード触媒インク72を吐出させながら移動させることにより、電解質膜10上に、カソード触媒層を形成させることができる。電解質膜10におけるアノード触媒インク72の塗布領域は、マスク80を用いて調節することができる。
【0070】
上層部16aおよび下層部16bから構成されるアノード触媒層16は、アノード触媒またはアノード触媒を担持した導電性炭素粒子(触媒担体)と高分子電解質との合計重量に対する高分子電解質の重量の割合が異なる2種の触媒インクを用いて作製することができる。この場合、高分子電解質の重量割合が低い触媒インクを用いて、下層部16bが作製される。
【0071】
下層部16bは、固形分の合計重量に対する高分子電解質の重量の割合が18〜22重量%である触媒インクを用いて作製することができる。上層部16aは、固形分の合計重量に対する高分子電解質の重量の割合が23〜28重量%である触媒インクを用いて作製することができる。
【0072】
アノード触媒層16を形成するとき、電解質膜10の表面温度を、ヒータ81を使用して調整することが好ましい。
【0073】
アノード触媒層16の貫通孔の制限細孔分布および空隙率は、スプレーガン73の移動速度、アノード触媒インク72の噴出量および電解質膜10の表面温度を調整することにより制御することが可能である。アノード触媒インク72の噴出量は、インク噴出用ガスの圧力および流量により調整することができる。ここで、アノード触媒層16の貫通孔の細孔直径および空隙率を大きくするためには、スプレーガン73の移動速度を速くし、アノード触媒インク72の噴出量を少なくし、電解質膜10の表面温度を高くすることがよい。
【0074】
アノード触媒層の透気度は、例えば、アノード触媒を導電性炭素粒子に担持させたり、触媒インクの作製時にアノード触媒の超音波分散処理を調節したりすることにより、制御することができる。
【0075】
なお、本発明者らの検討により、好ましい制限細孔分布等が得られるように塗布条件を制御した上で、電解質膜上にアノード触媒インクを塗り重ねた場合、塗り重ね回数が少ない場合でも多い場合でも、制限細孔径分布は、ほとんど変化しないことが分かった。この結果は、貫通孔の狭窄部が、下層部に存在することを示していると考えられる。
【0076】
また、アノード触媒層16は、アノード触媒またはアノード触媒を担持した導電性炭素粒子(触媒担体)と高分子電解質との合計重量に対する高分子電解質の重量の割合が異なる2種の触媒インクを用いるダイコータ塗工法によっても形成することができる。
なお、ダイコータ塗工法において、アノード触媒層16の貫通孔の制限細孔分布および空隙率は、触媒インクの組成および/または固形分濃度の調整、乾燥条件の適正化等を行うことにより制御可能である。
【0077】
アノード触媒が導電性炭素粒子に担持されている場合、導電性炭素粒子の平均粒径を変化させることによっても、貫通孔の狭窄部を下層部に配置することができる。この場合、例えば、下層部に含まれる導電性炭素粒子の平均粒径を、上層部に含まれる導電性炭素粒子の平均粒径よりも小さくすることが有効である。
【0078】
本発明において、アノード触媒層16以外の構成要素については、特に限定されない。図1を参照しながら、アノード触媒層16以外の構成要素について説明する。
【0079】
電解質膜10は、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性、耐メタノール膨潤性等に優れていることが好ましい。電解質膜10を構成する材料(高分子電解質)は、電解質膜10が前記特性を有すれば、特に限定されない。
【0080】
カソード触媒層18は、触媒金属微粒子を担持した導電性炭素粒子と、高分子電解質とを主成分とする。触媒金属微粒子としては、例えば、白金(Pt)微粒子を用いることができる。カソード触媒層18に含まれる投影単位面積あたりの触媒金属微粒子の量は、1〜2mg/cm2であることが好ましい。
【0081】
ここで、各触媒層に含まれる投影単位面積あたりの触媒金属微粒子の量とは、触媒層の主面を法線方向から見た場合の輪郭形状を用いて計算される面積で、各触媒層に含まれる触媒金属微粒子の重量を除した値のことである。例えば、前記法線方向から見た場合の触媒層の輪郭形状が矩形の場合には、触媒層の面積は、(縦の長さ)×(横の長さ)により計算することができ、投影単位面積あたりの触媒金属微粒子の量は、触媒層に含まれる触媒微粒子の重量を、前記面積で除することにより得られる。
【0082】
カソード触媒層18に含まれる高分子電解質は、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性、耐メタノール膨潤性等に優れていることが好ましい。また、カソード触媒層18に含まれる高分子電解質は、電解質膜10を構成する高分子電解質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0083】
アノード拡散層17およびカソード拡散層19としては、導電性多孔質基材および導電性多孔質基材上に配置された多孔質複合層を有する。多孔質複合層は、導電性炭素粒子および撥水性結着材料を含む。導電性多孔質基材上に配置される多孔質複合層の量は、1〜3mg/cm2であることが好ましい。なお、前記多孔質複合層の量は、多孔質複合層の投影単位面積(1cm2)あたりの値である。
【0084】
アノード拡散層17に用いられる導電性多孔質基材としては、燃料の拡散性、発電により発生した二酸化炭素の排斥性、電子伝導性を併せ持つ導電性多孔質材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等が挙げられる。
さらに、前記導電性多孔質材料には、撥水性結着材料を付着させてもよい。つまり、前記導電性多孔質材料は、撥水処理に供してもよい。前記撥水性結着材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0085】
カソード拡散層19に用いられる導電性多孔質基材としては、酸化剤の拡散性、発電により発生した水およびアノード側から移動してきた水の排出性、ならびに電子伝導性を併せ持つ導電性多孔質材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等が挙げられる。
さらに、前記導電性多孔質材料には、撥水性結着材料を付着させてもよい。つまり、前記導電性多孔質材料は、撥水性処理に供してもよい。前記撥水性結着材料としては、アノード拡散層17に用いた材料と同じ材料を用いることができる。
【0086】
アノード拡散層17およびカソード拡散層19の多孔質複合層に含まれる撥水性結着材料としては、上記のようなフッ素樹脂を用いることができる。
多孔質複合層に含まれる導電性炭素粒子は、導電性カーボンブラックを主体として含むことが好ましい。導電性カーボンブラックは、ストラクチャーが高度に発達しており、しかも比表面積が200〜300m2/g程度であることが好ましい。
【0087】
各多孔質複合層の投影単位面積とは、多孔質複合層の主面を法線方向から見た場合の輪郭形状を用いて計算される面積のことである。例えば、前記法線方向から見た場合の多孔質複合層の輪郭形状が矩形の場合には、投影単位面積は、(縦の長さ)×(横の長さ)により計算することができる。
【0088】
セパレータ14および15は、機密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は、特に限定されない。また、流路20および21の形状についても特に限定されない。
【0089】
集電板24および25、シート状のヒータ26および27、絶縁板28および29、並びに端板30および31の構成材料には、当該分野で公知の材料を用いることができる。
【実施例】
【0090】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら限定するものではない。
【0091】
(実施例1)
図1および図2に示されるような燃料電池を作製した。
<アノード触媒層の作製>
アノード触媒として、平均粒径2nmのPt−Ru合金微粒子(Pt:Ruの重量比=2:1)を担持した導電性炭素粒子(Pt−Ru/C)を用いた。導電性炭素粒子としては、平均一次粒子径30nmのカーボンブラック(三菱化学社製のケッチェンブラックEC)を使用した。導電性炭素粒子とPt−Ruとの合計重量に占めるPt−Ruの重量の割合を70重量%とした。
【0092】
前記アノード触媒をイソプロパノール水溶液(イソプロパノール濃度を50重量%に設定)中に30分間超音波分散させた。この後、この分散液に高分子電解質を5重量%含有した水溶液を所定量添加し、ディスパーで攪拌して、上層部用触媒インクおよび下層部用触媒インクを調製した。上層部用触媒インクにおいて、全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を26重量%とした。下層部用触媒インクにおいて、全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を20重量%とした。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸イオノマー(Aldrich社製Nafion5%水溶液)を用いた。
【0093】
電解質膜10上に、アノード触媒層を、図8に示されるスプレー式塗布装置70を用いて作製した。電解質膜10としては、10cm×10cmのサイズに切断した電解質膜(Dupont社製Nafion112)を用いた。
【0094】
まず、図8のスプレー式塗布装置のタンク71に、下層部用触媒インクを充填して、電解質膜10上に、下層部16bを6cm×6cmのサイズで形成した。下層部16bは、下層部用触媒インクを厚さ方向に15回塗り重ねて形成した。ここで、下層部用触媒インクを塗布する際のスプレーガン73の移動速度は40mm/秒に設定し、噴出ガス(窒素ガス)の噴出圧力を0.20MPaに設定した。また、電解質膜10の表面温度を65℃に調整した。
【0095】
次に、スプレー式塗布装置のタンク71に上層部用触媒インクを充填し、下層部16bの上に、上層部用触媒インクを塗布して、上層部16aを形成した。上層部16aは、上層部用触媒インクを厚さ方向に15回塗り重ねて形成した。ここで、上層部用触媒インクを塗布する際のスプレーガン73の移動速度は60mm/秒に設定し、噴出ガスの噴出圧力を0.15MPaに設定した。また、作製中の上層部16aの表面温度を70℃に調整した。
【0096】
アノード触媒層16に含まれるPt−Ru触媒の量は、3.7mg/cm2であった。前記Pt−Ru触媒の量は、アノード触媒層16の投影単位面積(触媒層の主面を法線方向から見た場合の触媒層の単位面積)あたりに含まれるPt−Ru触媒の重量である。
【0097】
<カソード触媒層の作製>
カソード触媒として、平均粒径2nmのPt微粒子を担持した導電性炭素粒子(Pt−Ru/C)を用いた。導電性炭素粒子としては、平均一次粒子径30nmのカーボンブラック(三菱化学社製のケッチェンブラックEC)を使用した。導電性炭素粒子とPtとの合計重量に占めるPtの重量の割合を46重量%とした。
【0098】
前記カソード触媒を、イソプロパノール水溶液(イソプロパノール濃度を40重量%に設定)中に超音波分散させた。この後、この分散液に高分子電解質を5重量%含有した水溶液を添加し、ディスパーで攪拌して、カソード触媒インクを調製した。この際、カソード触媒インクにおける含まれる全固形分に占める高分子電解質の重量割合を20重量%とした。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸イオノマー(Aldrich社製Nafion5%水溶液)を用いた。
【0099】
次に、スプレー式塗布装置のタンク71に、カソード触媒インクを充填し、アノード触媒層16が形成されている側とは反対側の電解質膜10上に、アノード触媒層16に対向するように、カソード触媒インクを塗布乾燥して、6cm×6cmサイズのカソード触媒層18を形成し、膜触媒層接合体(CCM)を得た。カソード触媒層18に含まれるPt触媒の量は1.4mg/cm2であった。なお、前記Pt触媒の量は、触媒層の投影単位面積(触媒層の主面を法線方向から見た場合の触媒層の単位面積)あたりに含まれるPt触媒の重量である。
【0100】
<アノード拡散層の作製>
アノード拡散層17を、導電性多孔質基材上に多孔質複合層を形成することにより作製した。導電性多孔質基材としては、カーボンペーパー(東レ社製TGP−H090)を用いた。
まず、導電性多孔質基材を撥水処理に供した。具体的には、導電性多孔質基材を7重量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)分散液(ダイキン工業社製D−1Eをイオン交換水で希釈した水溶液)中に1分間浸漬し、この後、浸漬後の導電性多孔質基材を、大気中常温で3時間乾燥させた。次いで、乾燥後の導電性多孔質基材を、不活性ガス(N2)中、360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去した。このようにして、導電性多孔質基材に撥水処理を施した。PTFE量は、撥水処理後の導電性多孔質基材の12.5重量%であった。
【0101】
次に、この撥水処理後の導電性多孔質基材表面に、以下のようにして多孔質複合層を形成した。
まず、導電性カーボンブラック(Cabot社製VulcanXC−72R)を、界面活性剤(Aldrich社製Triton X−100)が添加された水溶液中に超音波分散させ、この後、ハイビスミックス(プライミクス社製)を用いて高分散させた。次に、得られた分散液に、PTFE分散液(ダイキン工業社製D−1E)を添加し、この後、得られた分散液の高分散化を再度行った。こうして、多孔質複合層用ペーストを作製した。この多孔質複合層用ペーストをドクターブレードにより導電性多孔質基材の一方の面全体に均一塗布し、次いで、大気中常温で8時間乾燥させた。その後、前記導電性多孔質基材を、不活性ガス(N2)中360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去して、多孔質複合層を形成した。多孔質複合層中に含まれるPTFE量は40重量%であり、多孔質複合層の投影単位面積あたりの量は、2.6mg/cm2であった。
【0102】
<カソード拡散層の作製>
カソード拡散層19を、導電性多孔質基材上に多孔質複合層を形成することにより作製した。導電性多孔質基材としては、カーボンペーパー(東レ社製TGP−H090)を用いた。
まず、導電性多孔質基材を撥水処理に供した。具体的には、導電性多孔質基材を15重量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)分散液(Aldrich社製60%PTFEディスパージョンをイオン交換水で希釈した水溶液)中に1分間浸漬し、この後、浸漬後の導電性多孔質基材を、大気中常温で3時間乾燥させた。次いで、乾燥後の導電性多孔質基材を、不活性ガス(N2)中、360℃で1時間焼成して、界面活性剤を除去した。このようにして、導電性多孔質基材に撥水処理を施した。PTFE量は、撥水処理後の導電性多孔質基材の23.5重量%であった。
【0103】
次に、この撥水処理後の導電性多孔質基材表面に、アノード拡散層17と同様にして多孔質複合層を形成した。このとき、多孔質複合層用ペーストを導電性多孔質基材の一方の表面に塗布する際のドクターブレードの設定ギャップを変更することにより、多孔質複合層の塗布量を調整した。多孔質複合層中に含まれるPTFE量は40重量%であり、多孔質複合層の投影単位面積あたりの量は、1.8mg/cm2であった。
【0104】
<MEAの作製>
まず、アノード拡散層17およびカソード拡散層18を、それぞれ6cm×6cmのサイズに切断した後、CCMの両面に、多孔質複合層側が内側となるように積層した。次いで、得られた積層体を、ホットプレス法(130℃、4MPa、3分間)に供して、触媒層と拡散層とを接合した。このようにして、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0105】
次に、MEA13のアノード11およびカソード12の周囲に、アノード側ガスケット22およびカソード側ガスケット23を、電解質膜10を挟み込むようにして配置した。アノード側ガスケット22およびカソード側ガスケット23としては、ポリエーテルイミド層を中間層として、その両側にシリコーンゴム層を設けた3層構造体を用いた。
【0106】
ガスケットを配置したMEA13を、それぞれ外寸が12cm×12cmのアノード側セパレータ14およびカソード側セパレータ15、集電板24および25、シート状のヒータ26および27、絶縁板28および29、並びに端板30および31で両側から挟み込み、締結ロッドで固定した。締結圧は、セパレータの面積あたりで12kgf/cm2とした。
セパレータは、厚さが4mmの樹脂含浸黒鉛材(東海カーボン(株)製のG347B)を用いた。各セパレータには、幅1.5mm、深さ1mmのサーペンタイン型流路を形成しておいた。集電板24および25としては、金メッキ処理を施したステンレス鋼板を使用した。シート状のヒータ26および27には、サミコンヒータ(坂口電熱(株)製)を用いた。
以上のようにして得られた燃料電池を、燃料電池Aとした。
【0107】
(実施例2)
下層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を18重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Bを作製した。
【0108】
(実施例3)
下層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を22重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Cを作製した。
【0109】
(実施例4)
上層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を23重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Dを作製した。
【0110】
(実施例5)
上層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を28重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Eを作製した。
【0111】
(実施例6)
下層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を23重量%、上層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を29重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Fを作製した。
【0112】
(実施例7)
下層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を17重量%、上層部用触媒インクにおける全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を22重量%に変更したこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Gを作製した。
【0113】
(実施例8)
下層部用触媒インクおよび上層部用触媒インクの塗布回数を変更して、アノード触媒層の投影単位面積あたりのPt−Ru触媒の量を2.5mg/cm2としたこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Hを作製した。
【0114】
(実施例9)
アノード触媒をイソプロパノール水溶液中で超音波分散させる時間を60分間に変更することにより、アノード触媒層の貫通孔の最大細孔直径を2.1μmとし、平均流量細孔直径を0.9μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Iを作製した。
【0115】
(実施例10)
アノード触媒を超音波分散させるためのイソプロパノール水溶液中のイソプロパノール濃度を30重量%に変更することにより、アノード触媒層の貫通孔の最大細孔直径を2.9μmとし、平均流量細孔直径を1.1μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Jを作製した。
【0116】
(実施例11)
導電性炭素粒子(カーボンブラック)に担持されていないアノード触媒を用いること、下層部用触媒インクおよび上層部用触媒インクの塗布回数を変更して、アノード触媒層の投影単位面積あたりのPt−Ru触媒の量を6.0mg/cm2としたこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池Kを作製した。
【0117】
(比較例1)
下層部用触媒インクの塗り重ね回数を30回に変更し、上層部用触媒インクを用いなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較燃料電池1を作製した。
【0118】
(比較例2)
上層部用触媒インクの塗り重ね回数を30回に変更し、下層部用触媒インクを用いなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較燃料電池2を作製した。
【0119】
(比較例3)
下層部用触媒インクにおいて、全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を26重量%とした。下層部用触媒インクを塗布する際のスプレーガン73の移動速度は60mm/秒に設定し、噴出ガス(窒素ガス)の噴出圧力を0.15MPaに設定した。電解質膜10の表面温度を70℃に調整した。さらに、上層部用触媒インクにおいて、全固形分に占める高分子電解質の重量割合(含有率)を20重量%とした。上層部用触媒インクを塗布する際のスプレーガン73の移動速度は40mm/秒に設定し、噴出ガスの噴出圧力を0.20MPaに設定した。作製中の上層部の表面温度を65℃に調整した。
上記以外は、実施例1と同様にして、比較燃料電池3を作製した。
【0120】
[評価]
実施例1〜11および比較例1〜3で作製した燃料電池に用いたアノード触媒層について、PMI社製の多孔質材料自動細孔径分布測定システム(パームポロメータ)を用い、制限細孔径分布における、貫通孔の最大細孔直径および貫通孔の平均流量細孔直径の測定、ならびに透気度の測定を上記のようにして行った。
【0121】
なお、測定試料は、以下のようにして作製した。PTFE多孔質膜(日東電工社製テミッシュ)上に、実施例1〜11および比較例1〜3と同一条件でアノード触媒層を形成した。このアノード触媒層を直径25mmの円形状に打ち抜いて、測定用試料を得た。なお、PTFE多孔質膜は、アノード触媒層に比べて透気度が1桁以上高く、しかも、触媒インクがPTFE多孔質膜の内部に侵入しない。このため、測定用試料をPTFE多孔質膜上に形成させた状態で、上記評価に供した。
【0122】
アノード触媒層の貫通孔の制限細孔径分布における、最大細孔直径および平均流量細孔直径の測定結果、ならびにアノード触媒層の透気度の測定結果を表1に示す。
【0123】
また、実施例1〜11および比較例1〜3で作製した燃料電池に用いたアノード触媒層の空隙率および貫通孔の細孔径状態を以下の方法により測定した。
実施例1〜11および比較例1〜3に記載した方法と同一方法でMEAを作製した。MEAを所定のサイズに切断し、試料を得た。得られた試料を、エポキシ樹脂に包埋し、前記エポキシ樹脂の試料が露出した表面を、サンドペーパーによる湿式研磨およびバフ琢磨布(アルミナ混濁液含浸)による鏡面仕上げに供した。電解質膜、アノード触媒層およびアノード拡散層からなる断面の所定の10箇所を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製のS4500)を使用して撮像し、その画像データを画像処理(二値化処理)することでアノード触媒層の空隙率を算出した。
【0124】
貫通孔の細孔径が電解質膜側から拡散層側に向かって増加しているかどうかを、走査型電子顕微鏡を使用して撮像した画像データをもとに評価した。
【0125】
結果を表1に示す。表1には、各実施例および比較例で作製したアノード触媒層について、Pt−Ru触媒の量および高分子電解質の重量割合(含有率)も示す。
【0126】
【表1】

【0127】
次に、実施例1〜11で作製した燃料電池A〜K、比較例1〜3で作製した比較燃料電池1〜3について、燃料利用率および耐久特性を評価した。評価方法を以下に示す。
【0128】
(1)燃料利用率
燃料である5Mメタノール水溶液を流量0.16cc/分でアノードに供給し、酸化剤である空気を流量0.19L/分でカソードに供給し、150mA/cm2の電流密度で、各燃料電池を90分間連続発電させた。発電時の電池温度は60℃とした。
発電開始から、20分間経過した時点より、アノードから排出されるメタノール量(mol/分)を測定した。そして、メタノール供給量(8.0×10-3mol/分)から発電により消費されたメタノール量(5.597×10-4mol/分)と、上記したアノードから排出されるメタノール量を差し引いた量を算出し、その値をメタノールクロスオーバー量(MCO量)と定義した。この得られたMCO量を電流密度の単位(mA/cm2)に換算した後、以下の式(2):
Uf=150/(150+MCO量) (2)
を用いて、燃料利用率Ufを算出した。得られた結果を表2に示す。表2において、燃料利用率Ufは百分率で表現している。
【0129】
(2)耐久特性
燃料である5Mメタノール水溶液を流量0.22cc/minでアノードに供給し、酸化剤である空気を流量0.26L/minでカソードに供給し、0.4Vの定電圧で、各燃料電池を連続発電させた。発電時の電池温度は60℃とした。
発電開始から4時間経過した時点での電流密度値から電力密度値を算出した。得られた値を初期電力密度とした。その後、発電開始から5000時間経過した時点での電流密度値から電力密度値を算出した。
初期電力密度に対する5000時間経過したときの電力密度の比率を電力密度維持率とした。得られた結果を表2に示す。表2において、電力密度維持率は百分率で表現している。
【0130】
【表2】

【0131】
表2から明らかなように、燃料電池A〜Kの電力密度維持率は、非常に高い値を示した。本発明においては、アノード触媒層内部に存在する貫通孔の細孔径に適合するように、高分子電解質の含有率を調整している。このため、アノード触媒層におけるプロトン伝導性を確保することができる。さらに、高濃度メタノール水溶液により高分子電解質が膨潤することによるアノード触媒層の空隙体積の減少が抑制され、その結果、アノード触媒層における二酸化炭素の排出性やメタノール水溶液の均一拡散性が低下することが抑制されたものと考えられる。
【0132】
これらの燃料電池の中でも、燃料電池A〜E、IおよびJでは、初期特性および耐久特性が顕著に向上している。これらの燃料電池の場合には、アノード触媒層内部に、粘性流としての二酸化炭素の排出機能と拡散流としてのメタノールの透過機能とを兼ね備えた最適な細孔構造を形成させているため、アノード触媒層全体にメタノールを均一に拡散させることができ、その結果、電極反応場である三相界面が確保することができたと考えられる。
【0133】
一方で、燃料電池1〜3の電力密度維持率は、燃料電池A〜Kの電力密度維持率と比較して顕著に低い値を示した。
燃料電池1の場合には、アノード触媒層の上層部において、貫通孔の細孔径が大きいにも関わらず、高分子電解質の含有率が低い。このため、アノード触媒層のプロトン伝導性が低下し、耐久特性が悪化したものと推察される。
【0134】
燃料電池2の場合には、アノード触媒層の下層部において、貫通孔の細孔径が小さいにも関わらず、高分子電解質の含有率が高い。このため、高濃度メタノール水溶液により高分子電解質が膨潤してアノード触媒層の空隙体積が減少し、アノード触媒層の二酸化炭素の排出性およびメタノール水溶液の均一拡散性が阻害され、耐久特性が悪化したものと推察される。
【0135】
燃料電池3の場合には、アノード触媒層の上層部において、貫通孔の細孔径が大きいにも関わらず、高分子電解質の含有率が低く、アノード触媒層の下層部において、貫通孔の細孔径が小さいにも関わらず、高分子電解質の含有率が高い。このため、上層部では、プロトン伝導性が低下し、下層部では、高濃度メタノール水溶液により高分子電解質が膨潤して空隙体積が減少し、二酸化炭素の排出性やメタノールの均一拡散性が阻害される。この結果、耐久特性が大幅に悪化したものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の燃料電池は、優れた発電特性および耐久性を有するため、例えば、携帯電話、ノートパソコン、ディジタルスチルカメラ等の携帯用小型電子機器用の電源として有用である。さらに、本発明の燃料電池は、災害時の非常用電源、レジャー用途の可搬型電源、電動スクータ、自動車用電源等としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0137】
1 単位セル
10 電解質膜
11 アノード
12 カソード
13 膜電極接合体(MEA)
14 アノード側セパレータ
15 カソード側セパレータ
16 アノード触媒層
17 アノード拡散層
18 カソード触媒層
19 カソード拡散層
20、21 流路
22、23 ガスケット
24、25 集電板
26、27 シート状のヒータ
28、29 絶縁板
30、31 端板
40、50 貫通孔
40a 狭窄部
40b 凝集領域
51 Silwick試薬
70 スプレー式塗布装置
71 タンク
72 アノード触媒インク
73 スプレーガン
74 攪拌機
75 開閉バルブ
76 供給管
77 ガス圧力調整器
78 ガス流量調整器
79 アクチュエータ
80 マスク
81 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜とを含む燃料電池用膜電極接合体であって、
前記アノードは、前記電解質膜上に積層されたアノード触媒層、および前記アノード触媒層上に積層されたアノード拡散層を含み、
前記アノード触媒層は、アノード触媒および高分子電解質を含み、かつ前記高分子電解質の含有率が異なる少なくとも上層部および下層部から構成され、前記上層部は、前記アノード拡散層側に位置し、前記下層部は、前記電解質膜側に位置し、前記下層部における前記高分子電解質の含有率が、前記上層部における前記高分子電解質の含有率よりも低く、
前記アノード触媒層は、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の細孔径の最も小さい部分が、前記下層部に存在する、燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記上層部における前記高分子電解質の含有率が、23〜28重量%であり、
前記下層部における前記高分子電解質の含有率が、18〜22重量%である請求項1記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記上層部における前記高分子電解質の含有率Aと前記下層部における前記高分子電解質の含有率Bとの差(A−B)が、3〜6重量%である請求項1または2記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
前記アノード触媒層中の前記アノード触媒が、導電性炭素粒子に担持されており、前記アノード触媒層の投影単位面積あたりの前記アノード触媒の量が、1〜4mg/cm2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
前記アノード触媒層のハーフドライ/バブルポイント法により測定された制限細孔径分布において、最大細孔直径が2〜3μmの範囲にあり、平均流量細孔直径が0.8〜1.2μmの範囲にある請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
前記アノード触媒層の透気度が、0.04〜0.08L/(min・cm2・kPa)である請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項7】
前記アノード触媒層の空隙率が、60〜80%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項8】
前記下層部が、前記アノード触媒層の前記電解質膜に接する表面から前記アノード触媒層の厚さの1/3までの領域を占める請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体、前記アノードに接するアノード側セパレータ、および前記カソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−204583(P2011−204583A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72791(P2010−72791)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】