説明

燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法

【課題】ホットスタンバイ工程における電力や資源の消費を抑制し、燃料電池スタックの性能劣化を防止し、流量の制御を簡単にすることができる燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに制御方法の提供。
【解決手段】燃料極層と固体電解質層と空気極層とからなる発電セルが積層された燃料電池スタックと燃料改質器と燃料ガス供給手段と酸化剤ガス供給手段と水蒸気供給手段と各供給手段の流量を制御する制御手段とを少なくとも備える燃料電池発電装置に関し、ホットスタンバイ状態において、燃料ガスの燃焼熱を利用して燃料電池スタックを加熱、保持し、燃料電池スタックに燃料極の還元状態を維持可能な最低流量以上の燃料ガス及び水蒸気を供給する制御を行い、更に、空気の流量を略一定に維持した状態で燃料電池スタックの温度に応じて燃料ガスの流量を変化させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電装置及び燃料電池発電装置を制御するための制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの電気化学反応により電気を発生させる燃料電池発電装置は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ないことから、近年、発電用途などに利用されている。この燃料電池発電装置は、反応温度や電解質の種類によって分類することができ、反応温度が300℃程度以下の低温型には、固体高分子型(PEFC)、アルカリ型(AFC)、リン酸型(PAFC)などがあり、高温型には、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)などがある。
【0003】
この中で、固体酸化物型は、運転温度が高いために触媒を使用する必要がなく、排熱が利用しやすく、また、電池構成材料が全て固体でできていることから構成がシンプルであり、高い発電効率が得られるなどの特徴があり、近年盛んに開発が行われている。また、燃料電池発電装置は、発電セルの形状により、円筒型、モノリス型、平板積層型の3つに分類されるが、発電セルの形成が容易な平板積層型が広く採用されている。
【0004】
上記平板積層型の固体酸化物型燃料電池装置は、発電セルとセパレータとが交互に積層されて燃料電池スタックが構成されている。発電セルは、酸化物イオン導電体からなる固体電解質層を空気極(カソード)層と燃料極(アノード)層とで挟み込んだ積層構造を有し、空気極側には酸化剤ガスとしても酸素(空気)が供給され、燃料極側には燃料ガスが供給されるようになっている。
【0005】
上記空気極層及び燃料極層は、酸素や燃料ガスが固体電解質層との界面に到達することができるように多孔質材料で形成されている。また、セパレータ或いはインターコネクタは、発電セル間を電気的に接続すると共に、燃料ガスや酸化剤ガスをセパレータ外周面から導入して燃料極層に向かって吐出させる通路を有している。また、セパレータと空気極層との間には空気極集電体が配置され、セパレータと燃料極層との間には燃料極集電体が配置されている。
【0006】
上記構成の固体酸化物燃料電池では、セパレータを介して発電セルの空気極側に供給された酸化剤ガス(酸素)は、空気極層内の気孔を通って固体電解質層との界面近傍に到達し、空気極から電子を受け取って酸化物イオン(O2−)になる。この酸化物イオンは、燃料極に向かって固体電解質層内を拡散移動し、燃料極との界面近傍で燃料ガスと反応して反応生成物(HO等)となり、燃料極に電子を放出する。そして、この電子を燃料極集電体から取り出すことによって電流が発生する。上記電極反応(発電反応)は、燃料ガスとして水素を用いた場合は以下のようになる。
【0007】
空気極: 1/2O + 2e → O2−
燃料極: H + O2− → HO + 2e
全体 : H + 1/2O → H
【0008】
ここで、燃料ガスとして水素を使用する場合、水素の濃度をコントロールするために窒素が混合されるが、装置が大型化するにつれて窒素の使用量が増加してしまう。そこで、燃料ガスとして水素に代えて都市ガスや天然ガスなどの炭化水素系ガスを使用する燃料電池発電装置が提案されている(例えば、下記引用文献1参照)。
【0009】
この燃料電池発電装置は、例えば、燃料ガスの流量と酸化剤ガスの流量とに応じて直流出力電力を発生する燃料電池スタックと、燃料電池スタックに酸化剤ガスを導入する空気供給系と、燃料電池スタックに燃料ガスを導入する燃料ガス供給系と、燃料ガス供給系から送られる炭化水素ガスを水素リッチな燃料ガスに改質する燃料改質器と、燃料ガス供給系に水蒸気を導入する水蒸気供給系と、各種制御を行う制御部などで構成され、燃料電池スタックと燃料改質器とで燃料電池モジュールが構成される。
【0010】
【特許文献1】特開2002−260697号公報(第4−9頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、上記電極反応を起こさせるためには燃料電池スタックを所定の温度に昇温する必要があるため、コールドスタンバイ(常温)状態の燃料電池発電装置を稼働させる場合は、まず、燃料電池モジュール内部や燃料電池スタック下部に設けたヒータやバーナなどを用いて燃料電池スタックを加熱したり、高温の燃料ガスや酸化剤ガスを供給して燃料電池スタックを加熱するなどして、燃料電池スタックを上記所定の温度まで昇温させてホットスタンバイ状態にし(燃料電池スタックが発電可能な温度で保持される状態をホットスタンバイ状態と呼ぶ。)、その後、所定の流量の燃料ガスや酸化剤ガスを供給して電極反応により一定の電力を取り出す定格運転を行っている。
【0012】
このように、ホットスタンバイ状態では、燃料電池スタックを所定の温度で保持する必要があり、ヒータやバーナなどを用いて加熱し、かつ、窒素で希釈された水素(例えば、96%−N、4%−H)を燃料極側に多量に供給しなければならないため、電力や資源を無駄に消費してしまうという問題があった。特に、発電セルの外周部にガス漏れ防止シールを設けていないシールレス構造の燃料電池発電装置では、資源の無駄な消費が多くなってしまう。
【0013】
また、従来は、ホットスタンバイ状態において、燃料電池スタックの温度を制御することのみに着目して還元性ガス(水素ガスと窒素ガス)の流量を制御していたため、還元性ガスの流量が少ない場合に、発電セルの周囲から侵入する酸素や空気極側から拡散する酸化物イオンによって燃料極を構成する金属が酸化されてしまい、その結果、燃料電池スタックの性能が劣化してしまうという問題があった。
【0014】
更に、従来は、ホットスタンバイ状態において、燃料電池スタックの温度を制御するために酸化剤ガスの流量を増減させていたため、制御部では還元性ガスと酸化剤ガスの双方の流量を制御しなければならず、制御部における流量の制御が複雑になってしまうという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、ホットスタンバイ状態における電力や資源の消費を抑制することができる燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の第2の目的は、ホットスタンバイ状態における燃料電池スタックの性能劣化を防止することができる燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の第3の目的は、ホットスタンバイ状態における流量の制御を簡単にすることができる燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は、炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、前記燃料ガス、前記水蒸気及び前記酸化剤ガスの流量を制御する制御手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置において、前記制御手段では、前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極層を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御するものであり、前記制御手段では、前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させる制御を行う構成とすることができる。
【0019】
また、本発明のプログラムは、炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置を制御するためのプログラムであって、コンピュータを、前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極層を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御する制御手段、として機能させるものであり、前記制御手段では、前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させる制御を行う構成とすることができる。
【0020】
また、本発明の方法は、燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置における制御方法であって、前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、前記燃料電池スタックに外部負荷を接続していない状態で生じる反応で発生する熱により、前記燃料電池スタックを加熱するものである。
【0021】
また、本発明の方法は、炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置における制御方法であって、前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、前記燃料電池スタックに外部負荷を接続していない状態で生じる反応で発生する熱により、前記燃料電池スタックを加熱するものである。
【0022】
本発明においては、前記反応は、供給された前記燃料ガスが前記発電セル外周部で燃料電池モジュール内部に放出され、放出された前記燃料ガスが前記酸化剤ガス中の酸素と反応して燃焼する反応であることが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、前記ホットスタンバイ状態において、前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御する構成とすることができ、また、前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させる構成とすることもできる。
【0024】
また、本発明においては、前記燃料電池発電装置は、前記燃料電池スタックの周囲に、前記燃料極層を通過した前記燃料ガスを放出するシールレス構造であることが好ましい。
【0025】
このように、本発明では、ホットスタンバイ状態において、外部負荷を接続しない状態での反応、すなわち、供給された燃料ガスが発電セル外周部で燃料電池モジュール内部に放出され、放出された燃料ガスが酸化剤ガス中の酸素と反応して燃焼し発熱するというシールレス構造に特有の燃焼反応により生成される熱を利用して燃料電池スタックを加熱しているため、電力や資源の消費を抑制することができる。また、燃料極には還元状態を維持可能な最低流量以上の還元性ガスを供給する制御を行っているため、燃料極の酸化を抑制して燃料電池スタックの性能劣化を防止することができる。また、酸化剤ガスの流量を変えずに燃料電池スタックの温度に応じて燃料ガスの流量を変化させる制御を行っているため、流量の制御を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法によれば、下記記載の効果を奏する。
【0027】
本発明の第1の効果は、ホットスタンバイ状態における電力や資源の消費を抑制することができるということである。その理由は、燃料電池モジュール内部や燃料電池スタック下部に設けたヒータやバーナを用いて燃料電池スタックを加熱するのではなく、基本的に、外部負荷を接続しない状態での反応(すなわち、供給された燃料ガスが発電セル外周部で燃料電池モジュール内部に放出され、放出された燃料ガスが酸化剤ガス中の酸素と反応して燃焼するというシールレス構造に特有の燃焼反応)で発生する熱を利用して燃料電池スタックを加熱しているからである。この場合、外部負荷が接続され、燃料電池モジュールを動作させるのに最低限必要な補機電力を発電している状態もホットスタンバイ状態とみなすことができる。
【0028】
また、本発明の第2の効果は、ホットスタンバイ状態における燃料電池スタックの性能劣化を抑制することができるということである。その理由は、発電セル周囲から侵入する酸素や空気極側から拡散する酸化物イオンによる燃料極の酸化を防止することができるように、燃料極には、燃料極を還元状態に維持可能な最低流量以上の還元性ガスを供給する制御を行っているからである。
【0029】
また、本発明の第3の効果は、ホットスタンバイ状態における流量の制御を簡単にすることができるということである。その理由は、燃料電池スタックの温度を空気の流量を増減させることによって制御するのではなく、空気の流量を略一定に維持して、燃料電池スタックの温度に応じて燃料ガスの流量を変化させて燃料ガスの燃焼量を増減させる制御を行っているからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、その好ましい一実施の形態において、燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と燃料極層及び空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、燃料ガスを改質する燃料改質器と、燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、各供給手段の流量を制御する制御手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置に関し、燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、外部負荷が接続されていない状態で生じる反応、すなわち、供給された燃料ガスが発電セル外周部で燃料電池モジュール内部に放出され、放出された燃料ガスが酸化剤ガス中の酸素と反応して燃焼するというシールレス構造に特有の燃焼反応で発生する熱を利用して燃料電池スタックを加熱し、制御手段では、燃料電池スタックに、燃料極の還元状態を維持可能な最低流量以上の燃料ガス及び水蒸気を供給する制御を行い、更に、空気の流量を略一定に維持した状態で、燃料電池スタックの温度に応じて燃料ガスの流量を変化させて燃料ガスの燃焼量を増減させる制御を行うものである。以下、その具体的構成について、図面を参照して説明する。
【実施例】
【0031】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る燃料電池発電装置及び制御プログラム並びに燃料電池発電装置の制御方法について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は、本実施例の燃料電池発電装置の構成を模式的に示す図である。また、図2は、燃料電池モジュール内の燃料電池スタックの具体的構成例を示す図であり、図3は、本実施例の燃料電池発電装置を用いた制御手順を示すフローチャート図である。また、図4は、外部負荷が接続されている状態と外部負荷が接続されていない状態における電極反応を模式的に示す図である。
【0032】
図1に示すように、本実施例の燃料電池発電装置1は、燃料ガス(都市ガスや天然ガス、LPGガスなどの炭化水素ガス)の流量と酸化剤ガス(酸素や空気など)の流量とに応じて直流出力電力を発生する燃料電池スタック3と、燃料電池スタック3に酸化剤ガス(本実施例では空気とする。)を導入する空気ブロア6や空気供給配管などの空気供給系と、燃料電池スタック3に燃料ガスを導入する燃料ガス昇圧器7や燃料ガス供給配管などの燃料ガス供給系と、燃料電池モジュール2内に配設され、燃料ガス供給系から送られる炭化水素ガスを水素リッチな燃料ガスに改質する燃料改質器4と、燃料ガス供給系に水蒸気を導入する水移送ポンプ8や水蒸気発生器10、水蒸気供給配管などの水蒸気供給系と、燃料電池スタック3の温度を測定する温度測定手段(図示せず)と、燃料ガスや水蒸気、空気の流量制御などを行う制御部5と、燃料電池スタック3からの直流出力を交流出力に変換して交流電力を外部負荷に供給するインバータ(図示せず)などで構成されている。
【0033】
また、この制御部5は通常、燃料電池発電装置1の制御装置内に設けられており、制御装置の演算処理部や表示部、操作部などと協働して動作するように構成される。なお、上記制御部5は制御装置内にハードウェアとして構成されていてもよいし、コンピュータ(ソフトウェアを実行可能なハードウェア資源の総称)を、上記制御部5として機能させる制御プログラムとして構成し、該制御プログラムを制御装置で実行させるようにしてもよい。
【0034】
また、図1に示した燃料電池発電装置1における燃料電池スタック3の構成は特に限定されないが、例えば、図2に示すような構成とすることができる。具体的に説明すると、燃料電池モジュール2内に配置される燃料電池スタック3は、固体電解質層12の両面に燃料極層13と空気極層11とを配置した発電セル14と、燃料極層13の外側に配置した燃料極集電体19と、空気極層11の外側に配置した空気極集電体18と、各集電体の外側に配したセパレータ17とからなる単セルが縦方向に多数積層されて構成されている。
【0035】
固体電解質層12はイットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)等で構成され、燃料極層13はNi、Co等の金属又はNi−YSZ、Co−YSZ等のサーメットで構成され、空気極層11はLaMnO、LaCoO等で構成されている。また、燃料極集電体19はNi基合金等のスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成され、空気極集電体18はAg基合金等のスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成され、セパレータ17はステンレス等で構成されている。
【0036】
また、セパレータ17は、発電セル14間を電気的に接続すると共に、発電セル14に対してガスを供給する機能を有し、燃料ガスをセパレータ17の外周面から導入して燃料極集電体19に対向する面のほぼ中央部から吐出する燃料ガス通路と、酸化剤ガス(空気)をセパレータ17の外周面から導入して空気極集電体18に対向する面に吐出する酸化剤ガス通路とを備えている。
【0037】
また、この燃料電池スタック3の両側にはステンレス等で形成された一対の端板15、16が配置されており、燃料電池スタック3の電力はこの上下一対の端板15、16を介して外部に取り出すことができるようになっている。
【0038】
なお、この燃料電池スタック3は、発電セル14の外周部にガス漏れ防止シールを設けないシールレス構造となっており、運転時には、燃料ガス通路及び酸化剤ガス通路を通してセパレータ17の略中心部から発電セル14に向けて供給される燃料ガス及び酸化剤ガス(空気)を発電セル14の外周方向に拡散させながら燃料極層13及び空気極層11の全面に良好な分布で行き渡らせて発電反応を生じさせると共に、発電反応で消費されなかった余剰ガス(高温排ガス)を発電セル14の外周部からハウジング内に自由に放出するようになっており、ハウジングの内部空間に放出された排ガスは排気穴より燃料電池モジュール2外に排出されるようになっている。
【0039】
次に、上記構成の燃料電池発電装置1を用いた具体的な制御手順について、図3のフローチャート図を参照して説明する。
【0040】
まず、ステップS101で、コールドスタンバイ状態(常温状態)において、制御装置のボタン操作などによって燃料電池モジュール2を起動用のヒータやバーナにより加熱して、燃料電池スタック3を発電可能な温度まで昇温後、ホットスタンバイ状態を開始させ、上記起動用のヒータやバーナを停止させる。
【0041】
ここで、従来の燃料電池発電装置のホットスタンバイ状態では、燃料電池スタック3を所定の温度に保持させるために、燃料電池モジュール2内や燃料電池スタック3下部に設けた昇温用のヒータやバーナ等の加熱手段を動作させて燃料電池スタック3を加熱していたため、電力を無駄に消費してしまうという問題があった。そこで本発明では、電力の消費を抑制するために、燃焼反応を利用して燃料電池スタック3を加熱、保持する方法を採用する。
【0042】
具体的に説明すると、燃料電池発電装置1では、外部負荷が接続されている状態では、空気極層11で生成された酸化物イオンはイオン導電率の大きい固体電解質層12を通過して燃料極層13に到達し、燃料極層13で燃料ガスと結合して電子を放出し、放出された電子が燃料電池スタック3に接続された外部負荷を通って空気極層11に移動し、空気極層11で酸化物イオンが生成されるという電極反応が生じる。
【0043】
そこで、本発明の燃料電池発電装置1では、上述した外部負荷が零或いは補機動力を動作させるのに必要な最低限の電力を発電している際に、燃料電池スタック3からハウジング内に放出される燃料ガスを燃焼させ、燃料によって発生する熱を用いて燃料電池スタック3の温度を700℃程度に保持する構成としている。これにより、ヒータやバーナ等の加熱手段を使用しないか、若しくは加熱手段を使用したとしても使用量を減らすことができるため、電力の消費を抑制することができる。
【0044】
次に、制御部5は、ステップS102で、空気供給系を制御して、燃料電池スタック3に所定の流量の空気を供給し、引き続きステップS103で、燃料ガス供給系及び水蒸気供給系を制御して、燃料電池スタック3に所定の流量の燃料ガス及び水蒸気を供給する。
【0045】
ここで、従来の燃料電池発電装置では、高温の燃料ガスや水蒸気を供給して燃料電池スタック3を加熱していたが、その際、燃料ガスや水蒸気の流量は燃料電池スタック3の温度制御のみを目的にして設定していたため、燃料ガスや水蒸気の流量が少なくなる場合があり、その場合に、発電セル14の燃料極層13を構成する金属が酸化されてしまい、燃料電池スタック3の性能が劣化してしまうという問題があった。
【0046】
具体的に説明すると、シールレス構造の燃料電池発電装置では、上述したように余剰ガスは発電セル14の外周部からハウジング内に放出するようになっているため、燃料極層13に供給される還元性ガスが少ないと、発電セル14の外周部から放出された空気が燃料極層13に侵入してしまう。また、固体電解質層12を通過する酸化物イオンが燃料ガスと結合しないと燃料極層13に酸化物イオンが拡散してしまう。ここで、燃料極層13は、上述したようにNi、Co等の金属等で構成されているため、発電セル14の周囲から侵入する酸素や固体電解質層12を通過する酸化物イオンによって容易に酸化物を形成してしまい、燃料極層13の表面が酸化物で覆われると、電極反応が抑制されて燃料電池スタック3の性能が劣化してしまう。
【0047】
そこで、本発明の燃料電池発電装置1では、燃料極層13を構成する金属の酸化を抑制することができるように、制御部5は、燃料ガスと水蒸気とからなる還元性ガスの流量を、燃料極層13を還元状態に維持可能な所定の流量(以下、最低流量と呼ぶ。)以上に制御する。この最低流量は、燃料電池スタック3がシール構造であるかシールレス構造であるか、余剰ガスが侵入しにくい構造であるか否かなど、燃料電池スタック3の構造によって異なるため、最低流量を具体的に規定することは難しいが、本実施例の1KW級の燃料電池発電装置1では、燃料ガスとしての都市ガスの最低流量は0.5NL/min程度(”N”は0℃基準を意味する。)、水蒸気としての水供給の最低流量は略9mL/min程度とすることができる。
【0048】
なお、水素ガスと窒素ガスを使用する燃料電池発電装置では、燃料極層13を還元状態に維持するためのパージガスの大部分を窒素ガスで補うため、窒素ガスの消費量が増大してしまうが、本発明の燃料電池発電装置1では、燃料ガスとして炭化水素系ガスと水蒸気を用いており、パージガスの大部分を水蒸気で補うことができるため、資源の消費を抑制することができる。
【0049】
次に、ステップS104で、制御部5は、燃料電池モジュール2内に予め設けた温度測定手段で測定された燃料電池スタック3の温度を取得し、ステップS105で、取得した温度と予め設定された温度パターンとを比較して、燃料電池スタック3の温度を変えるか否かを判断する。
【0050】
ここで、従来の燃料電池発電装置では、例えば、燃料電池スタック3の温度を上げる場合は高温の空気の流量を増やし、燃料電池スタック3の温度を下げる場合には高温の空気の流量を減らすなど、空気の流量で燃料電池スタック3の温度を制御していたため、制御部5では燃料ガスと水蒸気と空気の3つのガスの流量を制御しなければならず、制御部5における制御が複雑になるという問題があった。
【0051】
そこで、本発明の燃料電池発電装置1では、空気の流量を変えずに、燃料ガスの流量を変え燃料ガスの燃料量を増減させて燃料電池スタック3の温度を制御する。具体的には、ステップS106で、制御部5は、予め記憶された燃料電池スタック3の温度と燃料ガスの流量との相関関係を示すテーブルを参照して、燃料電池スタック3の温度を上げる場合は燃料ガスの流量を増やして燃料の燃焼を促進させ、燃料電池スタック3の温度を下げる場合は燃料ガスの流量を減らして燃料の燃焼を抑制する制御を行う。これにより、空気の流量を略一定に保つことができるため、制御部5では燃料ガス及び水蒸気の流量を制御すればよく、制御部5における流量の制御を簡単にすることができる。なお、この燃料ガスの流量の増減量は、固体電解質層12の電子導電率や燃料電池スタック3の構造などを参照して適宜設定することができる。
【0052】
その後、ステップS107で、制御部5は、燃料電池スタック3の温度を監視し、所定の温度に達したらホットスタンバイ状態になったと判断し、ステップS108で、所定の出力を得るために必要な所定の流量の燃料ガスと水蒸気と空気とを燃料電池スタック3に供給して発電を行い、その後、ステップS109で、制御装置のボタン操作などによって運転の停止が指示されたら、予め設定された流量パターンに従って燃料ガス、水蒸気及び空気の流量を徐々に減らして運転を停止させる。
【0053】
このように、本実施例の燃料電池発電装置1では、燃料電池モジュール2内部や燃料電池スタック3下部に設けたヒータやバーナを用いて燃料電池スタック3を加熱、保持するのではなく、燃料電池スタック3からハウジング内部に放出された燃料の燃焼反応で発生する熱を利用して燃料電池スタック3を加熱、保持するため、ホットスタンバイ状態における電力や資源の消費を抑制することができる。
【0054】
また、制御部5では、燃料電池スタック3に、燃料極層13を還元状態に維持可能な最低流量以上の還元性ガスを供給しているため、発電セル14の周囲から侵入する酸素や固体電解質層12を通って拡散する酸化物イオンによる燃料極層13の酸化を効果的に抑制することができ、ホットスタンバイ状態における燃料電池スタック3の性能の劣化を防止することができ、これまで使用していた窒素・水素を一切使わなくすることができる。
【0055】
また、制御部5では、高温の空気の流量を増減させて燃料電池スタック3の温度を制御するのではなく、燃料電池スタック3の温度に応じて燃料ガスの流量を変化させ、燃料ガスの燃焼量を増減させて燃料電池スタック3の温度を制御しているため、空気の流量を略一定に保つことができ、ホットスタンバイ状態における流量の制御を簡単にすることができる。
【0056】
なお、上記実施例では、炭化水素系の燃料ガスと水蒸気とを用いる燃料電池発電装置1について記載したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、水素ガスと窒素ガスを用いる燃料電池発電装置1においても同様に適用することができる。また、上記実施例では、シールレスタイプの燃料電池発電装置1について記載したが、シールタイプの燃料電池発電装置1においても、燃料極側を通過した燃料ガスを燃料電池モジュールのハウジング内に放出して燃焼させ、燃料電池スタックを加熱、保持することにより、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、固体酸化物型燃料電池発電装置において特に有効であるが、リン酸型燃料電池発電装置、溶融炭酸塩型燃料電池発電装置などの他の種類の燃料電池発電装置に対しても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例に係る燃料電池発電装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係る燃料電池スタックの具体的構成例を示す図である。
【図3】本発明の一実施例に係る燃料電池発電装置を用いた制御手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料電池発電装置
2 燃料電池モジュール
3 燃料電池スタック
4 燃料改質器
5 制御部
6 空気ブロア
7 燃料ガスブロア
8 水移送ポンプ
9 純水タンク
10 水蒸気発生器
11 空気極層
12 固体電解質層
13 燃料極層
14 発電セル
15、16 端板
17 セパレータ
18 空気極集電体
19 燃料極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、前記燃料ガス、前記水蒸気及び前記酸化剤ガスの流量を制御する制御手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置において、
前記制御手段では、
前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、
前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極層を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御することを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項2】
前記制御手段では、前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させる制御を行うことを特徴とする請求項1記載の燃料電池発電装置。
【請求項3】
前記燃料電池発電装置は、前記燃料電池スタックの周囲に、前記燃料極層を通過した前記燃料ガスを放出するシールレス構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池発電装置。
【請求項4】
炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置を制御するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、
前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極層を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御する制御手段、として機能させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項5】
前記制御手段では、前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させる制御を行うことを特徴とする請求項4記載の制御プログラム。
【請求項6】
前記燃料電池発電装置は、前記燃料電池スタックの周囲に、前記燃料極層を通過した前記燃料ガスを放出するシールレス構造であることを特徴とする請求項4又は5に記載の制御プログラム。
【請求項7】
燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置における制御方法であって、
前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、
前記燃料電池スタックに外部負荷を接続していない状態で生じる反応で発生する熱により、前記燃料電池スタックを加熱することを特徴とする燃料電池発電装置の制御方法。
【請求項8】
炭化水素系の燃料ガスが供給される燃料極層と酸化剤ガスが供給される空気極層と前記燃料極層及び前記空気極層の間に配設される固体電解質層とで構成される発電セルがセパレータ或いはインターコネクタを挟んで積層された燃料電池スタックと、前記燃料ガスを改質する燃料改質器と、前記燃料極層に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記空気極層に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガスの供給経路に水蒸気を導入する水蒸気供給手段と、を少なくとも備える燃料電池発電装置における制御方法であって、
前記燃料電池スタックを発電可能な温度に保持するホットスタンバイ状態において、
前記燃料電池スタックに外部負荷を接続していない状態で生じる反応で発生する熱により、前記燃料電池スタックを加熱することを特徴とする燃料電池発電装置の制御方法。
【請求項9】
前記反応は、供給された前記燃料ガスが前記発電セル外周部で燃料電池モジュール内部に放出され、放出された前記燃料ガスが前記酸化剤ガス中の酸素と反応して燃焼する反応であることを特徴とする請求項7又は8に記載の燃料電池発電装置の制御方法。
【請求項10】
前記ホットスタンバイ状態において、前記燃料極層に供給する前記燃料ガス及び前記水蒸気の流量を、前記燃料極を還元状態に維持可能な所定の流量以上に制御することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一に記載の燃料電池発電装置の制御方法。
【請求項11】
前記ホットスタンバイ状態において、前記空気極層に供給する前記酸化剤ガスの流量を略一定に維持し、かつ、前記燃料電池スタックの温度に応じて、前記燃料極層に供給する前記燃料ガスの流量を変化させることを特徴とする請求項10記載の燃料電池発電装置の制御方法。
【請求項12】
前記燃料電池発電装置は、前記燃料電池スタックの周囲に、前記燃料極層を通過した前記燃料ガスを放出するシールレス構造であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一に記載の燃料電池発電装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−311288(P2007−311288A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141313(P2006−141313)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】