説明

燃料電池駆動車両

【課題】燃料電池駆動車両のフロントボックス内のスペースを効率的に利用して燃料電池の積層枚数の増加を可能にする。
【解決手段】カウルトップ7をフロントボックス2の後端部から下向きに突出させた燃料電池駆動車両1において、フロントボックス2内に燃料電池スタック14と、電動モータ9と、減速機13を搭載する。燃料電池スタック14を上向きに積層した複数の燃料電池で構成するとともに、車両の前進方向に関して後傾した状態で配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池をエネルギー源として走行する燃料電池駆動車両のフロントボックスへの燃料電池スタックの配置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池をエネルギー源として走行する燃料電池駆動車両に関して、特許文献1は車両のフロントボックス内への燃料電池スタックの配置に関する提案を行っている。
具体的には、フロントボックス内において燃料電池の積層方向が垂直となるように、燃料電池スタックを搭載することを提案している。電動モータの高出力化のために、燃料電池の積層枚数を増やす場合でも、このように燃料電池スタックを配置することで、車体の前後方向及び左右方向の寸法に影響を及ぼさずに高出力化が図れるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−173790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な乗用車タイプの車両においてフロントボックスの上方はボンネットに画成される。ボンネットとフロントガラスの間にはカウルトップが存在する。カウルトップはフロントボックス内に下向きに突出する。
【0005】
こうした車両において、垂直方向に燃料電池を積層した燃料電池スタックをフロントボックス内に配置する場合、燃料電池の積層枚数を増やして行くと、やがて燃料電池がカウルトップと干渉する。つまり、積層枚数はカウルトップの位置に依存して決まる。
【0006】
しかながら、カウルトップと干渉しない上限まで燃料電池を積層した場合でも、フロントボックス内のスペースにはまだ余裕があることが多い。これはカウルトップがボンネットの大半の部位よりも下向きに突出しているからである。
【0007】
特許文献1の従来技術は、車体の前後方向及び左右方向の寸法に影響を与えないという利点はあるものの、フロントボックス内のスペースの有効利用や燃料電池の積層枚数の最大化という点では、必ずしも最良の配置とは言えない。
【0008】
この発明は、燃料電池スタックを搭載するフロントボックス内のスペースのより効率的な利用と、燃料電池の積層枚数の一層の増加とを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、この発明は、後端部においてカウルトップを下向きに突出させたフロントボックスを備え、燃料電池スタックをフロントボックス内に搭載した燃料電池駆動車両において、上向きに積層した複数の燃料電池で構成される燃料電池スタックを、車両の前進方向に関して後傾した状態でフロントボックス内に配置している。
【発明の効果】
【0010】
複数の燃料電池を上向きに積層した燃料電池スタックを後傾した状態でフロントボックス内に配置することで、フロントボックスの後端部に下向きに突出するカウルトップとの干渉を避けつつ、フロントボックス内により多くの枚数の燃料電池を積層することが可能となる。その結果、フロントボックス内のスペースを電動モータの高出力化に効率良く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施形態による燃料電池駆動車両の要部の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、乗用車タイプの燃料電池駆動車両1の前部には、ボンネット3により前輪4の略上方に位置してフロントボックス2が画成される。
【0013】
フロントボックス2の後端部には車両のフロントガラス6とボンネット3の間に位置するカウルトップ7が下向きに突出する。
【0014】
同様に、フロントボックス2の前端部にはラジエータ8が若干後傾した状態で配置される。
【0015】
前輪4は電動モータ9により減速機13を介して回転駆動される。減速機13は駆動輪10と、ベルト11を介して駆動輪10と連動する従動輪12とを備える。駆動輪10は電動モータ9の出力軸に結合し、従動輪12の回転が前輪4に伝達される。減速機13は電動モータ9の回転を減速して前輪4に伝達する。そのため、従動輪12の径は駆動輪10の径より大きく設定される。
【0016】
電動モータ9を回転駆動する燃料電池スタック14は上向きに積層された複数の燃料電池からなる。燃料電池スタック14はカウルトップ7との干渉を避けるために車両の前進方向に関して後傾した状態でフロントボックス2内に固定される。
【0017】
電動モータ9と減速機13は燃料電池スタック14の下方に配置される。後傾した燃料電池スタック14の下方のスペースは前方ほど高さが高くなる。このスペースを有効に利用すべく、減速機13は大径の従動輪12が駆動輪10の前方に位置するように配置される。
【0018】
燃料電池スタック14の上方にはさらに補機15が配置される。補機15は好ましくは燃料電池スタック14と同様に後傾した状態で配置される。
【0019】
フロントボックス2内における燃料電池スタック14の以上の配置がもたらす作用を次に説明する。
【0020】
この実施形態においては、上向きに積層された複数の燃料電池からなる燃料電池スタック14を後傾状態でフロントボックス2内に配置したので、燃料電池スタック14と、フロントボックス2の後端部において下向きに突出するカウルトップ7とが干渉しにくい環境が得られる。したがって、上向きに燃料電池を積層した燃料電池スタックを後傾させずにフロントボックス2内に配置した前記従来技術と比較して、より多く燃料電池の積層が可能となる。
【0021】
燃料電池スタック14の後傾角度を、カウルトップ7のフロントボックス2への突出寸法に基づき決定するならば、燃料電池の積層枚数を増加させた場合に、燃料電池スタック14とカウルトップ7とが干渉し始める際に、燃料電池スタック14はボンネット3とも干渉し始める。言い換えれば、燃料電池スタック14とカウルトップ7とが干渉し始める段階では、フロントボックス2内に余計なスペースがほとんど残存せず、フロントボックス2内のスペースを燃料電池の積層枚数の増加に最大限利用することができる。
【0022】
燃料電池スタック14の下方には電動モータ9と減速機13が配置されている。後傾した燃料電池スタック14の下方に形成されるスペースの上下の寸法は車両の前方で大きく後方に向かって小さくなる。減速機13は駆動輪10の前方により径の大きな従動輪12を配置しているので、電動モータ9と減速機13は燃料電池スタック14の下方のこのスペースに無駄なく配置することができる。
【0023】
燃料電池スタック14を後傾状態で配置することは、後傾したラジエータ8との干渉を避けるうえでも好ましい。
【0024】
さらに、燃料電池スタック14の上方に補機15を同様に後傾状態で配置することで、カウルトップ7とボンネット3の間に形成されるスペースを有効に利用しで、燃料電池の積層枚数を減らすことなく補機15を配置することができる。ただし、補機15の配置は燃料電池スタック14の上方に限らない。フロントボックス2内の任意の空きスペースに配置可能である。
【0025】
以上のように、この実施形態は、燃料電池スタック14を後傾した状態でフロントボックス2内に配置したので、フロントボックス2の後端部に下向きに突出するカウルトップ7との干渉をさけつつ、燃料電池スタック14の燃料電池積層枚数を最大限に確保することができる。したがって、車体の寸法を代えずに電動モータ9の高出力化を図れる余地が拡大し、燃料電池駆動車両の出力増大要求に対する対応性を向上させる効果が得られる。
【0026】
また、後傾した燃料電池スタック14の下方に減速機13と電動モータ9を配置することで、後傾した燃料電池スタック14の下方に生じるスペースを有効に利用できる。さらに、大径の従動輪12が駆動輪10の前方に位置するように減速機13を配置することで、後傾した燃料電池スタック14の下方のスペースをより一層有効に活用できる。
【0027】
以上のように、この発明を特定の実施形態を通じて説明して来たが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。当業者にとっては、クレームの技術範囲でこれらの実施形態にさまざまな修正あるいは変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 燃料電池駆動車両
2 フロントボックス
7 カウルトップ
8 ラジエータ
9 電動モータ
10 駆動輪
11 ベルト
12 従動輪
13 減速機
14 燃料電池スタック
15 補機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部においてカウルトップを下向きに突出させたフロントボックスを備え、燃料電池スタックをフロントボックス内に搭載した燃料電池駆動車両において、
上向きに積層した複数の燃料電池で構成される燃料電池スタックを、車両の前進方向に関して後傾した状態でフロントボックス内に配置したことを特徴とする燃料電池駆動車両。
【請求項2】
燃料電池スタックの後傾角度はカウルトップのフロントボックス内への突出寸法に応じて設定されることを特徴とする請求項1の燃料電池駆動車両。
【請求項3】
フロントボックス内の燃料電池スタックの下方のスペースに、燃料電池スタックの出力電流で運転される電動モータと電動モータの回転を減速する減速機とを配置したことを特徴とする請求項1または2の燃料電池駆動車両。
【請求項4】
減速機は、電動モータに結合した駆動輪と駆動輪の回転に従って、駆動輪と異なる軸上で回転する駆動輪より大径の従動輪とを備え、減速機は従動輪を駆動輪の前方に配置した状態で、燃料電池スタックの下方に配置されることを特徴とする請求項3の燃料電池駆動車両。
【請求項5】
燃料電池スタックと同様に後傾した補機を燃料電池スタックの上方に配置したことを特徴とする請求項1から4のいずれかの燃料電池駆動車両。
【請求項6】
フロントボックス内の、車両の前進方向に関して燃料電池スタックの前方に、後傾したラジエータをさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかの燃料電池駆動車両。

【図1】
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【公開番号】特開2011−11619(P2011−11619A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156987(P2009−156987)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】