説明

燃料電池

【課題】複数の燃料前駆体を反応させて燃料を発生させる燃料供給源を用いた場合でも、燃料極の不純物を適切に除去する燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料極23と酸化剤極22と固体高分子電解質膜21を備える発電部2と、燃料が供給される燃料供給空間25を有する燃料極部と、複数の燃料前駆体32を接触させ化学反応を行うことによって前記燃料を発生させ、前記燃料を供給する燃料供給源3とを有し、前記燃料供給源は、複数の燃料前駆体をそれぞれ貯蔵する複数の貯蔵部と、少なくともいずれかの前記貯蔵部に貯蔵された前記燃料前駆体を他方の前記貯蔵部へ移動させる燃料制御機構33とを有し、前記燃料制御機構は、前記燃料と前記酸化剤との反応により前記燃料極に蓄積する不純物に関する物理量に基づいて前記燃料前駆体の移動を制御する供給制御を行い、前記不純物の少なくとも一部は、前記供給制御によって発生した前記燃料の圧力で除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発電部及び燃料貯蔵源を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在燃料電池には多数の方式が存在するが、電子機器に用いられる燃料電池は、そのシステムの小型化・簡素化が容易である事から固体高分子形燃料電池の適用が有望である。固体高分子形燃料電池は、燃料極と酸化剤極と両極に挟持された固体高分子電解質膜とから成る単電池によって構成され、燃料極側にメタノールや水素等の燃料を供給し、酸化剤極側に酸化剤気体、例えば酸素や空気を供給し、これらの電気化学反応により電力を発生する。その中でも燃料極に水素を供給する直接水素型燃料電池は発電電圧が高く注目されている。なお直接水素型燃料電池は燃料極側の水素を循環させるフロー系と水素の循環を行わないデッドエンド系に大別されるが、特にノートパソコンや携帯電話等のモバイル機器においては補機等の構成要素が少ないデッドエンド系の方が高エネルギー密度化が容易である為適している。
【0003】
ところで燃料電池の発電反応の過程で酸化剤極において水が生成する。酸化剤極で生成した水の多くは空気中に蒸発するが、温度や湿度等の運転環境によって固体高分子電解質膜を通して燃料極に水が移動し、逆拡散水として燃料極に移動する。フロー系の燃料電池では逆拡散水は燃料ガスの移動に伴い燃料極から移動し、燃料極から除去されるが、デッドエンド系の燃料電池では燃料ガスの移動速度が遅い為に、逆拡散水は燃料極から移動せずに蓄積される場合がある。逆拡散水は微量であれば燃料電池の発電反応に影響はないが、継続した発電を行った場合には燃料極の触媒層表面を覆ってしまい拡散過電圧の増大を引き起こして発電性能の著しい低下を招く事がある。
【0004】
上記課題に対し、燃料極に対して一時的に通常運転よりも高圧力の水素を供給する事によって燃料極に存在する水を除去する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に係る燃料電池は発電部と、燃料供給源から供給される燃料ガスを発電部に流通させる燃料流路と、燃料流路内の燃料ガス圧力を通常運転圧力よりも高圧力に制御する圧力制御機構と、圧力制御機構の高圧力制御によって作動し燃料流路内の水やその他発電の妨げとなる不純物を燃料電池外に排出する不純物排出機構を備えている。特許文献1に係る燃料電池では燃料電池の状態をモニタリングしており、発電開始から所定の時間が経過した場合、あるいは燃料電池の電圧が所定の値を下回った場合、あるいは燃料電池内の不純物濃度が所定値を上回る場合、あるいは燃料電池内の燃料濃度が所定値を下回った場合等のタイミングで燃料流路の圧力を上昇させる。また圧力制御機構の動作に伴い、燃料電池内の不純物を外部へと放出させるべく圧力が所定値以上になった時にのみ開弁する不純物排出機構が備えられている。上記動作によれば燃料流路内の不純物を発電部から除去する事が可能である。
【0005】
しかしながら上述の特許文献1に係る燃料電池では、圧力制御機構にレギュレータバルブを用いており、燃料供給源は常に高圧の燃料を供給する必要がある為、燃料供給源には水素吸蔵合金や高圧水素ボンベが使用される。上記の燃料供給源は高い耐圧性を有する為、非常に堅牢な構造であり燃料電池システムが大型化してしまう。
【0006】
また、燃料供給源として、水素化合物と水等の複数種類の燃料前駆体を反応させて燃料ガスを発生して発電部に供給する燃料ガス発生器を用いる場合がある。このような燃料供給源は、発電に必要な分の燃料を発生させる為に、比較的低圧で駆動させることが可能であり、堅牢な構造を必要としない為、燃料電池システムの小型化が望める。しかし燃料を低圧で燃料流路に供給する為に、特許文献1に係る技術を適用してもレギュレータバルブに入力する1次圧が低い為に、燃料流路内の不純物を十分に排除する事が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−41647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、複数の燃料前駆体を反応させて燃料を発生させる燃料供給源を用いた場合でも、燃料極の不純物を適切に除去する事ができる燃料電池を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の燃料電池の第1の特徴は、燃料が供給される燃料極と酸化剤が供給される酸化剤極と燃料極及び酸化剤極に挟持された固体高分子電解質膜を備える発電部と、発電部に、燃料極の電解質膜が配置された面に対向するように設けられ燃料が供給される燃料供給空間を有する燃料極部と、複数の燃料前駆体を接触させ化学反応を行うことによって燃料を発生させ、燃料極部に対して燃料を供給する燃料供給源とを有し、燃料供給源は、複数の燃料前駆体をそれぞれ貯蔵する複数の貯蔵部と、複数の燃料前駆体のうち、少なくともいずれかの貯蔵部に貯蔵された燃料前駆体を他方の貯蔵部へ移動させる燃料制御機構とを有し、前記燃料制御機構は、前記燃料と酸化剤との反応により燃料極に蓄積する不純物に関する物理量に基づいて燃料前駆体の移動を制御する供給制御を行い、不純物の少なくとも一部は、供給制御によって発生した燃料の圧力で除去されるものであることを要旨とする。
【0010】
かかる特徴によれば燃料前駆体を貯蔵部の内部で反応させて発生した燃料を発電部に供給する燃料電池において、発生する燃料の供給量を変えることによって燃料極に溜まる不純物を移動させて発電性能の回復を行う事が出来る。
【0011】
また本発明の燃料電池の第2の特徴は、第1の特徴の燃料電池において、前記燃料制御機構は、不純物に関する物理量を検出する物理量検出部を備え、物理量算出部が、不純物が燃料極に所定量以上蓄積した事を示す物理量を算出したときに燃料前駆体の移動を増加させる増加供給制御を行う事を要旨とする。
【0012】
かかる特徴によれば除去が必要となる量の不純物が燃料極に溜まった事を検出して燃料前駆体の反応させる速度を増加させて、通常運転よりも速い速度で燃料を燃料極に対して供給するので、噴射された燃料によって燃料極に溜まった不純物を適切なタイミングで移動する事が出来る。
【0013】
また本発明の燃料電池の第3の特徴は、第2の特徴の燃料電池において、前記燃料制御機構は、不純物に関する物理量を検出する物理量検出部を備え、物理量算出部が、不純物が燃料極に所定量以上蓄積した事を示す物理量を算出したときに燃料前駆体の移動を減少させる減少供給制御と、減少供給制御の後に燃料前駆体の移動を増加させる増加供給制御とを行う事を要旨とする。
【0014】
かかる特徴によれば第2の特徴の燃料電池の効果に加え、通常運転よりも速い速度で供給される燃料の量が増加し、燃料極部に対してより長い時間燃料が噴射されて供給されるので、燃料極に溜まった不純物の移動をより確実に行う事が出来る。
【0015】
また本発明の燃料電池の第4の特徴は、第3の特徴の燃料電池において、燃料供給源と発電部との間には、燃料を燃料極部に供給する開状態と、燃料を燃料極部に供給しない閉状態とのどちらかを維持する燃料弁を備え、燃料弁は、前記燃料制御機構が減少供給制御を行っているときに、閉状態となることを要旨とする。
【0016】
かかる特徴によれば、燃料極部に供給する燃料の供給速度が一時的に勢いを増す事が出来る為、燃料極に溜まった不純物の移動をより確実に行う事が出来る。
【0017】
また本発明の燃料電池の第5の特徴は、第1から4の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、燃料極部は、燃料極部の内部の不純物を排出する排出部と連結することを要旨とする。
【0018】
かかる特徴によれば、燃料極に溜まった不純物は圧力差によって供給速度が増した燃料によって排出部へと移動するため、燃料極部内の不純物をより確実に除去する事が出来る。
【0019】
また本発明の燃料電池の第6の特徴は、第5の特徴の燃料電池において、燃料極部と排出部とは着脱可能であり、燃料極部と排出部との間には、燃料極部の内部の不純物を排出部に排出する開状態と、燃料極部の内部の不純物を排出部に排出しない閉状態とのどちらかを維持する排出弁を備え、排出弁は、燃料極部に備えられている事を要旨とする。
【0020】
かかる特徴によれば、排出部内に移動した不純物は排出部を交換する事により燃料電池装置の外部へと除去することが出来、連続運転時における不純物の除去回数を大幅に増やす事が出来る。
【0021】
また本発明の燃料電池の第7の特徴は、第1から6の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、燃料極部は、燃料が燃料極の面方向に対して垂直方向に供給される燃料流路を備えることを要旨とする。
【0022】
かかる特徴によれば、燃料は燃料流路を通る事によって燃料極近傍まで速い供給速度を維持したまま供給できるので、より確実に不純物の除去を行う事が出来る。
【0023】
また本発明の燃料電池の第8の特徴は、第7の特徴の燃料電池において、燃料流路は、燃料が燃料極の面方向に拡散する拡散部を備えることを要旨とする。
【0024】
かかる特徴によれば、燃料流路から供給された燃料は拡散部により燃料極に沿って広範囲に渡って供給されるので、不純物の除去をより広範囲に行う事が出来る。
【0025】
また本発明の燃料電池の第9の特徴は、第5または6の特徴の燃料電池において、燃料供給空間は、燃料極に対して設けられた溝であることを要旨とする。
【0026】
かかる特徴によれば、燃料供給空間は溝状に形成されているので、燃料供給空間に不純物が溜まった場合に、より確実に不純物を排出部へ移動する事が出来る。
【0027】
また本発明の燃料電池の第10の特徴は、第2から9の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、物理量は、発電部の電圧値であり、物理量検出部は電圧値が所定値以下となる状態を検出することを要旨とする。
【0028】
かかる特徴によれば、燃料電池の電圧を読み取って減少供給制御または増加供給制御を制御するので、燃料電池に対して過度な負荷を燃料電池に与える事なく安全に燃料極の水の除去が出来る。
【0029】
また本発明の燃料電池の第11の特徴は、第2から9の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、物理量は、発電部の電流値であり、物理量検出部は電流値が所定値以上となる状態を検出することを要旨とする。
【0030】
かかる特徴によれば、燃料電池の電流を読み取って減少供給制御または増加供給制御を制御するので、燃料電池に対して過度な負荷を燃料電池に与える事なく、安全に燃料極の水の除去が出来る。
【0031】
また本発明の燃料電池の第12の特徴は、第2から9の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、物理量は、燃料電池が発電を開始してからの時間であり、物理量検出部は時間が所定時間を経過した状態を検出することを要旨とする。
【0032】
かかる特徴によれば、燃料電池が発電を開始してからの時間を読み取って定期的に停止制御と供給制御を切り替えるので、不純物の除去をより確実に行う事が出来る。
【0033】
また本発明の燃料電池の第13の特徴は、第4から12の特徴のいずれかに記載の燃料電池において、貯蔵部と排出部とは、発電部から着脱可能なカートリッジ構造である事を要旨とする。
【0034】
かかる特徴によれば、可搬型の燃料電池において、カートリッジの交換により連続して発電を行えるので、長時間の発電が可能である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、複数の燃料前駆体を反応させて燃料を発生させる燃料供給源を用いた場合でも、燃料極の不純物を適切に除去する事ができる燃料電池を提供する事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例に係る燃料電池1の全体の概略構成である。
【図2】本発明の実施例の形態1における燃料電池の概略図である。
【図3】固体高分子電解質膜と酸化剤極及び燃料極の部分拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態1における燃料電池の電圧と燃料圧力の遷移図である。
【図5】本発明の実施の形態2における燃料電池の電圧と燃料圧力の遷移図である。
【図6】本発明の実施の形態3における燃料電池の概略図である。
【図7】本発明の実施の形態4における燃料電池の概略図である。
【図8】本発明の実施の形態5における燃料極部の拡大断面図である。
【図9】本発明の実施の形態5の変更例における燃料極部の拡大断面図である。
【図10】本発明の実施の形態6における燃料極部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施の形態1)
図1から図4に基づいて本発明の実施の形態1における燃料電池1の実施例を説明する。
【0038】
図1には本発明の一実施例に係る燃料電池1の全体の概略構成、図2には燃料電池1の概略図、図3は固体高分子電解質膜21と酸化剤極22及び燃料極23の部分拡大図、図4は本実施例の燃料電池1を動作したときの発電部2の電圧と燃料の圧力の遷移図を示してある。
【0039】
図1に示されるように、燃料電池1は、発電部2と、燃料供給源3から構成される。
【0040】
図2に示すように発電部2は固体高分子電解質膜21の両面に酸化剤が供給される酸化剤極22と燃料が供給される燃料極23を有する。ここで酸化剤としては通常大気中の酸素が用いられる事が多いが、窒素などの不純物を排除するために酸素ボンベなどによって純酸素を供給しても良い。燃料極23に与えられる燃料としては水素が挙げられる。燃料は燃料供給源3の内部の複数の貯蔵部にそれぞれ収容されている複数の燃料前駆体32が複数の貯蔵部の一部である反応部31の内部で反応する事によって得られる。ここで燃料前駆体32の具体例として水素化ホウ素ナトリウム・水素化アルミ等の水素化化合物やアルミ等の金属や水・触媒を含む触媒溶液が挙げられ、上記水素化化合物や金属と水や触媒溶液を接触させる事で、水素発生反応が生じる事が知られている。複数の燃料前駆体32を反応させるには、燃料制御機構33が一方の燃料前駆体2を他方の燃料前駆体2の存在する反応部31に供給するという方法がある。また反応部31ではない貯蔵部に設置された複数の燃料前駆体2が、燃料制御機構33によって同時に反応部31へと送られるという方法もある。本発明の技術は少なくとも1種類の燃料前駆体32が、燃料制御機構33により反応前とは異なる場所へ移動することによって燃料の発生を行う系に適用される。当然の事ながら燃料前駆体32を反応部31へ供給されなければこのような系において燃料は発生しない。なお本明細書においては、燃料制御機構33が燃料前駆体32を反応部31へと供給する動作を供給制御、燃料制御機構33が燃料前駆体32を反応部31へ供給していない状態を停止制御と呼ぶ。また通常運転時よりも大きな電力を発生する高負荷運転時においても燃料の安定した供給が可能であるように、燃料供給源3における供給制御をしている間の燃料発生速度は発電部2が発電で使用する燃料消費速度よりも速い事が好ましい。
【0041】
複数の燃料前駆体32は適切なタイミングで反応をさせなければ、発生する燃料が過剰になり発電部2が高圧の状況を招いたり、発生する燃料が少ない為に燃料不足による発電性能の低下を招く。そこで燃料前駆体32の供給制御を行う必要があるが、供給制御には幾つかの種類が存在する。一つは燃料制御機構33は燃料供給空間25の内部圧力を検出し、反応部31の圧力が燃料供給空間25の圧力よりも低い場合には燃料前駆体32を反応部31へと移動し燃料を発生させる。逆に反応部31の圧力が高い場合には燃料前駆体32の反応部31への移動を停止させる。この制御方法であれば燃料供給空間25の内部圧力をほぼ一定に保ち発電部2の発電を行う事が出来る。なお本制御方法は電力を用いず、燃料供給空間25の内部圧力を検出する手段自体が燃料前駆体32の移動を行う構造も含む。
【0042】
その他の制御方法としては、燃料制御機構33は発電部2の発電量を検出しており、発電量から消費される燃料の量を算出し、必要な量の燃料を発生させるべく燃料前駆体32を反応させるというものである。上記圧力を利用した制御方法であると、発電部2での発電による燃料の消費によって圧力が変動する為、供給制御と停止制御への移行には若干の遅延が生じる可能性がある。しかしながら燃料の消費量を算出する制御方法であれば上記遅延が生じる事がなく燃料供給空間25の内部圧力をほぼ一定に保ち発電部2の発電を行う事が可能である。
【0043】
その他の制御方法としては、発電部2の発電量が一定である場合や発電電力の変動が予め詳細にわかっている場合に限られるが、発電部2を発電してからの発電電力の推移に併せて供給制御及び停止制御を行うものである。この制御方法によれば上述の発電量を検出する制御方法と同様に、遅延が生じる事がなく燃料供給空間25の内部圧力をほぼ一定に保ち発電部2の発電を行う事が可能である。
【0044】
上記制御方法によって燃料の発生流量は適切な値に制御されるが、発電部2の発電量に必要な燃料を発生させる制御方法であれば上記例には限らない。また本発明の燃料電池1において燃料を発生させるこれらの制御方法は単独で用いても良いし、複数の制御方法を組み合わせても利用しても良い。
【0045】
発電部2には、供給された燃料が発電部2の外部へ漏洩する事を防ぐ為に、燃料極23は外壁24によって囲われた燃料供給空間25を有する燃料極部26があり、燃料供給空間25は燃料極23の固体高分子電解質膜21が配置された面に対向するように設けられている。また同様の理由で固体高分子電解質膜21と外壁24が接する箇所には封止手段が備えられている事が好ましい。封止手段の例としてはパッキン・接着剤を利用したシール、固体高分子電解質膜21を外壁24へと熱融着させる等のシール方法があるが、固体高分子電解質膜21と外壁24の接触箇所の機密性が得られる方法であればこれに限らない。このように封止手段によって閉鎖空間になる燃料供給空間25に燃料供給源3から燃料が供給される。また図2に示すように発電部2と燃料供給源3が互いに距離を空けて備えられており燃料供給源3から発電部2に対して燃料を直接供給する事が難しい場合には、お互いを燃料が内部を移動する事が出来る配管やチューブ等の燃料供給路34を利用する事も可能である。
【0046】
次に酸化剤極22と燃料極23との詳細な構成と発電部2の発電動作を図3を用いて説明する。固体高分子電解質膜21は白金、ルテニウム、コバルトに代表される触媒が担持されたカーボン粒子が全面に塗布された層である触媒層をその表面に有している。触媒層は酸化剤極22側の触媒層221と燃料極23側の触媒層231というように両面に配置されている。更に両面の触媒層の表面には導電性と通気性を両立する酸化剤極22側と燃料極23側の両面にガス拡散層222・232を有している事が好ましい。ガス拡散層222・232は燃料を透過するために多孔質となっており、また導電性を得るべく金属やカーボン等の導電体によって形成される。
【0047】
燃料供給空間25に与えられた燃料はガス拡散層232中の空孔を通して燃料極23側の触媒層231へと到達し、触媒上で以下に示す反応が生じプロトンと電子へと変わる。
【0048】
H 2 →2H ++2e - (式1)
触媒上で発生したプロトンは固体高分子電解質膜21中を移動して酸化剤極22側の触媒層221へと運搬される。また電子は触媒層よりも導電性の高いガス拡散層232中を移動して図示していない外部回路へと移動する。外部回路の先には燃料電池1で発電した電力により駆動する電子機器が接続されており、さらに電子機器の先には酸化剤極22側のガス拡散層222と接続される。
【0049】
一方酸化剤極22側では空気中の酸素がガス拡散層222中の空孔を通して酸化剤極22側の触媒層221へと到達する。酸化剤極22側の触媒層221では固体高分子電解質膜21を通して運搬されたプロトンと酸素と外部回路を通して移動してきた電子と以下の反応を起こし水を生成する。
【0050】
(1/2)O2 +2H++2e -→H2 O (式2)
このような電気化学反応を経て燃料電池1は電力を発生し電子機器を駆動する事ができる。なお触媒の例を上に挙げたが、発電部2の発電反応においてプロトンを生成できるものであれば触媒の種類はこれには限らない。またガス拡散層222・232は触媒層221・231と比較すると電気抵抗は低いが、金属やカーボンに比べると電気抵抗は高い為に、固体高分子電解質膜21の面積が広い場合には外部回路へと移動する間に抵抗成分が加わり電圧が低下してしまう。このような電圧低下を改善する為に、ガス拡散層222・232の触媒層221・231と接する面と反対側の面に接するようにガス拡散層222・232よりも導電性の高いカーボン樹脂や金属で形成された電極板を設けても良い。
【0051】
ここで酸化剤極22で発生した水の多くは酸化剤極22に面する空気中に蒸発するが、一部は固体高分子電解質膜21を通して燃料極23へと透過する。燃料極23へと移動した水は燃料供給空間25へと蒸発するが、燃料供給空間25は閉鎖空間である為に蒸気圧が運転状態の温度における飽和水蒸気圧に達すると水は液滴として燃料極部26に溜まり始める。また酸化剤極22が大気に面している場合には、空気中の気体が固体高分子電解質膜21を通して燃料供給空間25へと透過してくる。透過してくる気体の主成分のうち酸素は燃料極上でプロトン反応して水になるが、窒素は燃料供給空間25の内部に留まり続ける。本明細書においては上記水や窒素などを不純物としている。
【0052】
発電部2の発電における抵抗成分は、触媒上での反応に係る活性過電圧、構成部材の電気抵抗による抵抗過電圧、燃料の供給阻害による拡散過電圧の三種に大きく分けられる。拡散過電圧は不純物が燃料極23の表面を覆う事によって燃料極23に対して燃料の供給が阻害されたり、燃料不足で燃料が燃料極23に対する供給量が低下した場合等に上昇する。
【0053】
次に図4を用いて本発明の燃料電池1の動作について説明を行う。通常運転時には燃料制御機構33は供給制御と停止制御を繰り返す事によってほぼ一定の圧力で燃料を燃料極23に対して供給している。この状態で発電部2を発電させると上述のように燃料極部26の面全体にほぼ一様に水が溜まり、溜まった水は燃料極23上を覆ってしまい触媒層231に対する燃料の供給を阻害して、図4に示すように発電部2の電圧が徐々に低下してくる(区間a)。そこで水が燃料極部26に所定量以上溜まったところで燃料制御機構33は区間aにおける燃料の消費量よりも多くの燃料を発生させるべく燃料前駆体32の移動速度を速くする増加供給制御へと移行する(t1)。増加供給制御を一定時間保持している状態の間に燃料供給源3が発生する燃料の量は該時間における燃料消費量よりも多く、通常運転時よりも多くの燃料が連続的に燃料供給空間25へと噴き付けられるように供給される。燃料極23を覆っている不純物は連続的な燃料の供給を受ける事によって燃料極23を覆っている不純物は飛ばされて燃料供給空間25の一部に集められる復帰動作が行われる(区間b)。またこのとき燃料供給空間の圧力は増加供給制御による消費よりも多い水素発生の為に通常運転で使用する圧力よりも高くなる。復帰動作の後に燃料制御機構33は停止制御へと移行し、燃料極23に対する燃料の供給を停止する(t2)。その後発電部2は発電を持続している為に燃料極23では燃料の消費が続けられ、燃料供給空間3の圧力は低下してくる。そして燃料供給空間3の圧力が通常運転時における圧力まで低下すると、燃料制御機構33は通常運転時の制御方法に戻る。そして再び水によって燃料極23への燃料の供給が阻害された時には復帰動作を行う事によって発電性能の回復を行う。
【0054】
ここで本実施例において燃料制御機構33が通常運転から増加供給制御へ移行を適切に行う事が求められるが、それには以下に示すように幾つかの方法を挙げる事ができる。
【0055】
≪制御パターン1≫
燃料制御機構33は、酸化剤極22と燃料極23との間の電圧を検出する手段を備えており、発電部2の電圧が予め定められた所定圧以下となったときに燃料制御機構を通常運転状態から増加供給制御へと移行する。発電部2の動作電圧は使用機器の要求する電力の大きさによって変化するが、通常運転時には0.7V付近の電圧値で動作させる事が望ましい。そして通常運転を持続して行い、不純物が燃料極23を覆う事による拡散過電圧の増大により電圧値が第1所定値まで低下したときには、燃料制御機構33はその電圧情報を受けて燃料極部26に水が溜まったと判定し、通常運転の制御から増加供給制御へと移行する。また本発明において電圧値の第1所定値とは0V以上であればいかなる値に設定しても良いが固体高分子電解質膜21と触媒層221・231を含む膜電極接合体の劣化を防ぐという観点から0.2V以上に設定する事が望ましい。
【0056】
復帰動作によって発電部2の電圧は通常運転時の電圧と同等まで回復する事が望ましいが、ガス拡散層232の微細な孔の中に詰まっている不純物は完全に除去する事が難しい為、少なくとも復帰動作後に電圧が回復していれば通常運転時の電圧よりも低い状態でも増加供給制御を終了して通常運転の制御に移行しても良い。
≪制御パターン2≫
燃料制御機構33は、発電部2の発電状態の電流値を検出する手段を備えており、発電部2の電流が予め定められた所定値以上となったときに燃料制御機構33を通常運転の制御から増加供給制御へと移行する。発電部2の通常発電時の電流は固体高分子電解質膜21と酸化剤極22と燃料極23によって決定される発電有効面積の大きさによるため、一概にその大きさを述べる事はできないが、制御パターン1に示すように通常運転時に0.7V付近の電圧値に対応する電流値である事が望ましい。また増加供給制御を終了するタイミングも制御パターン1と同様に、少なくとも復帰動作後に電圧が回復した時に、その電圧に対応する値まで電流値が低下していれば、通常運転時の電流よりも低くても良い。
≪制御パターン3≫
燃料制御機構33は、発電部2の発電時間を検出する手段を備えており、発電部2の発電時間が予め定められた所定時間を経過した時に燃料制御機構33を通常運転の制御から増加供給制御へと移行する。発電を行う環境温度及び湿度によって変化するが、使用する電子機器での要求電力が一定である場合、時間の経過と共にどれだけの不純物が燃料極23の表面を覆ってしまったかを予測する事ができる。その為予め燃料極部26に不純物が溜まり復帰動作が必要になる時間を設定しておき、その燃料制御機構33において発電部2の発電時間情報を受けて燃料極部23の表面を不純物が覆ったことを判定し通常運転から増加供給制御への移行を行う。また増加供給制御を終了する際には、増加供給制御を開始してからの時間を検出し、不純物を除去するのに十分な時間が経過した事を検出した段階で増加供給制御の終了を実行する。
【0057】
通常運転制御から増加供給制御への移行、及び増加供給制御の終了への制御には以上のような制御パターンを適用する事ができる。しかしながら燃料極部26に溜まった不純物量を検出できる手段であればこれに限らない。また上記の制御パターンにおいては発電部2の発電状況に応じて燃料制御機構33が動作をする為、燃料制御機構33には電磁弁が適用される。
【0058】
またすべての制御パターンに適用できるが、増加供給制御を終了するタイミングについては圧力値によって制御されても良い。燃料制御機構33は燃料極部26の燃料の圧力を検出する手段を備えており、停止制御を開始してから燃料極部26の燃料の圧力が所定値以上になったときに燃料制御機構33は増加供給制御から停止制御へと移行する。燃料極部26内の燃料が高圧になりすぎて燃料電池1の破損を防ぐ為に、所定値は燃料電池1が破損する圧力よりも低く設定される。
【0059】
なお通常運転から増加供給制御への移行と、増加供給制御から通常運転への移行は異なるトリガーにより行なわれても良い。例えば通常運転から増加供給制御への移行は電圧の検出を利用した制御パターン1によって行い、増加供給制御から通常運転への移行は圧力の検出によって行われても良い。
【0060】
上述のように燃料極23を不純物が覆ってしまい触媒層231に対する燃料の阻害が生じて発電部2の発電性能が低下した場合でも、燃料極23に対して通常運転時よりも速い速度で燃料を供給する事で、不純物を適切なタイミングで除去する事によって発電部2の発電性能を回復する事が出来る。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における発電部2を動作したときの発電部2の電圧と燃料の圧力の遷移図を図5に示す。なお、本実施の形態1と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図5を用いて本実施の形態2について説明する。
【0061】
本発明の実施の形態2における発電部2は、実施の形態1の発電部2と同様の構成であるが、燃料制御機構33の燃料前駆体32の供給制御方法が異なる。燃料制御機構32は発電部2の通常運転時における燃料の消費量よりも少ない燃料を発生させるべく燃料前駆体32の移動を行う減少供給制御を行った後に、通常運転時における燃料の消費量よりも多くの燃料を発生させるべく燃料前駆体32の移動を行う増加供給制御を行う。
【0062】
図5の発電部2の電圧及び圧力の遷移図に従って本実施の形態2の説明を行う。発電部2が通常発電を長時間継続すると不純物が燃料極部26に溜まって燃料極23が覆われる事により拡散過電圧が上昇し発電部2の発電電圧が低下する。不純物が燃料極部26に所定量以上溜まったところで燃料制御機構33は減少供給制御へと移行する(t3)。減少供給制御において燃料の発生量を減少させるには、燃料前駆体32の供給速度を通常運転時よりも遅くする事や、燃料前駆体32の供給を完全に停止する事で実現される。燃料供給空間25に対する燃料の供給量が減少するために燃料供給空間25の燃料の分圧は徐々に低下する。燃料の分圧の低下は拡散過電圧の増大を引き起こす為、燃料の分圧低下に伴って発電部2の発電電圧が低下する(区間c)。減少供給制御での発電を続け、燃料供給空間25の燃料の分圧が予め決められた所定圧まで低下した時に、燃料制御機構33は増加供給制御状態へと移行する(t4)。増加供給制御を一定時間保持している状態において燃料供給源3が発生する燃料の量は該時間における燃料消費量よりも多く、通常運転時よりも多くの燃料が連続的に燃料供給空間25へと噴き付けられるように供給される。また減少供給制御での発電を行っていた為に燃料供給空間25の内部圧力は低下しており、実施の形態1または2で示す発電部の構成よりも燃料供給空間25に対する燃料の供給がより長時間行われる。燃料極23を覆っている不純物は連続的な燃料の供給を受ける事によって燃料極23を覆っている不純物は飛ばされて燃料供給空間25の一部に集められる復帰動作が行われる(区間b)。またこのとき燃料供給空間25の圧力は増加供給制御による消費よりも多い水素発生の為に通常運転で使用する圧力よりも高くなる。復帰動作の後に燃料制御機構33は停止制御へと移行し、燃料極23に対する燃料の供給を停止する(t5)。その後発電部2は発電を持続している為に燃料極23では燃料の消費が続けられ、燃料供給空間25の圧力は低下してくる。そして燃料供給空間25の圧力が通常運転時における圧力まで低下すると、燃料制御機構33は通常運転時の制御方法に戻る。そして再び水によって燃料極23への燃料の供給が阻害された時には復帰動作を行う事によって発電性能の回復を行う。
【0063】
本実施の形態において燃料制御機構33が通常運転の制御から減少供給制御への切替制御方法は本実施の形態1における制御パターン1から3における通常運転から増加供給制御の切替方法を、及び増加供給制御から通常運転の制御への切替制御方法は本実施の形態1における制御パターン1から3における通常運転から増加供給制御の切替方法を適用できる。
≪制御パターン4≫
燃料制御機構33は、酸化剤極22と燃料極23との間の電圧を検出する手段を備えており、発電部2の電圧が予め定められた所定圧以下となったときに燃料制御機構33を通常運転状態から減少供給制御へと移行する。発電部2の動作電圧は使用機器の要求する電力の大きさによって変化するが、通常運転時には0.7V付近の電圧値で動作させる事が望ましい。そして通常運転を持続して行い、不純物が燃料極23を覆う事による拡散過電圧の増大により電圧値が第2所定値まで低下したときには、燃料制御機構33はその電圧情報を受けて燃料極部26に水が溜まったと判定し、通常運転の制御から減少供給制御へと移行する。その後、減少供給制御から増加供給制御へ移行する際には、第1所定値まで電圧が低下した時に行うのが好ましい。第2所定値は第1所定値以下あれば良いが、固体高分子電解質膜21の保護の観点から0.2V以上で設定する事が好ましい。その為第2所定圧は通常運転における電圧よりも低く、第1所定圧よりも高い値で設定される。
【0064】
増加供給制御に移行してからの挙動は制御パターン1と同様の制御方法である。
【0065】
≪制御パターン5≫
燃料制御機構33は、発電部2の発電状態の電流値を検出する手段を備えており、発電部2の電流が予め定められた所定値以上となったときに燃料制御機構33を通常運転の制御から減少制御へと移行する。発電部2の通常発電時の電流は固体高分子電解質膜21と酸化剤極22と燃料極23によって決定される発電有効面積の大きさによるため、一概にその大きさを述べる事はできないが、制御パターン4に示すように通常運転時に0.7V付近の電圧値に対応する電流値である事が望ましい。通常運転を持続して行い、不純物が燃料極23を覆う事による拡散過電圧の増大によって電圧値が低下する。電力は電圧と電流の積で与えられる事から、使用機器の要求電力が一定であるとした場合に上述の電圧低下が生じた時にはそれに伴って電流値が増大する。制御パターン4と同様第2所定値に対応する電流値になったときに通常運転から減少供給制御への移行、第1所定値に対応する電流値になったときに減少供給制御を終了し、増加供給制御へと移行する。
【0066】
増加供給制御に移行してからの挙動は制御パターン2と同様の制御方法である。
≪制御パターン6≫
燃料制御機構33は、発電部2の発電時間を検出する手段を備えており、発電部2の発電時間が予め定められた所定時間を経過した時に燃料制御機構33を通常運転の制御から減少制御へと移行する。予め燃料極部26に不純物が溜まり復帰動作が必要になる時間を設定しておき、その燃料制御機構33において発電部2の発電時間情報を受けて燃料極部23の表面を不純物が覆ったことを判定し通常運転から減少供給制御への移行を行う。減少供給制御から増加供給制御への切替は、膜電極接合体の劣化を防ぐ為に発電に必要な燃料の圧力が燃料極に残っている間に行う事が好ましい。減少供給制御における燃料の発生量がわかっている為に、減少供給制御に移行してからの時間と、発電における燃料の使用量と、燃料極部26の内部容積から、燃料極部26の内部の燃料残量を計算できる。そこで減少供給制御で燃料極26の内部の燃料を消費しきる前に増加供給制御へと移行を行う。
【0067】
増加供給制御に移行してからの挙動は制御パターン3と同様の制御方法である。
【0068】
またすべての制御パターンに適用できるが、減少供給制御を終了するタイミングについては圧力値によって制御されても良い。燃料制御機構33は燃料極部26の燃料の圧力を検出する手段を備えており、停止制御を開始してから燃料極部26の燃料の圧力が所定値以上になったときに燃料制御機構33は減少供給制御から増加供給制御へと移行する。なお所定の圧力は通常運転における燃料極部26の内部圧力よりも低ければ良いが、燃料極部26への不純物の過度な燃料の不足状態を避ける為に、40kPa以上に設定されるとより良い。
なお制御パターン1から3と同様に制御状態の切替はそれぞれ異なるトリガーにより行なわれても良い。
【0069】
本実施の形態に示す燃料電池1の構成及び制御方法によれば、燃料は通常運転よりも高速度で燃料供給空間25に対して、より長い時間供給される為、燃料極23を覆っている不純物の除去をさらに効率よく行う事が出来る。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における燃料電池1の概略構成図を図6に示す。なお、本実施の形態1または2と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図6を用いて本実施の形態4について説明する。
【0070】
本発明の実施の形態4における燃料電池1は実施の形態1または3における燃料電池1において、発電部2と燃料供給源3との間に燃料弁35を設けている。燃料弁35は弁体の開閉状態により、燃料供給源3から発電部2への燃料の移動が可能である開状態と、燃料の移動が出来ない閉状態を有しており、燃料弁35の開閉動作は燃料制御機構33の制御と連動して動作する。また燃料弁35が備えられている場所は燃料供給空間25の入口から燃料供給源3の出口までの間であればどこであってもよく、図6に示すように発電部2と燃料供給源3が互いに距離があり燃料供給路34によって接続されている場合には燃料供給路34に備えられていても良い。
【0071】
燃料電池1が通常運転において発電をしているときには燃料弁35は開状態となっている。この状態で発電部2が発電を続けていると、不純物が燃料極部26に溜まって燃料極23が覆われる事により拡散過電圧が上昇し発電部2の発電電圧が低下する。不純物が燃料極部26に所定量以上溜まったところで燃料制御機構33は減少供給制御へと移行するが、この時同時に燃料弁35も閉状態へと移行し、燃料弁35によって発電部2と燃料供給源3の内部空間は遮断された状態となる。この状態で発電部2が発電をする為、燃料供給空間25の燃料を含む気体の圧力は低下していき、一方で燃料供給源3は発電部2に対して燃料を供給しない為に燃料供給源3の内部圧力は保持、若しくは緩やかに上昇する。そして発電部2の電圧が所定値まで低下し、燃料制御機構33が第1制御を終了した際に燃料弁35は開状態へと移行する。このとき発電部2と燃料供給源3の内部空間には上述のように圧力差が生じているために、燃料弁35が開状態になる事によって燃料は燃料供給部25に対して勢いよく流入する。このため燃料極23を覆っている不純物は燃料によって飛ばされやすくなる。
【0072】
燃料弁35の開閉動作は燃料電池1の使用者によって制御されても良いが、図6に示すように燃料弁35は燃料制御機構33と動作を連動する為に、信号線36によって燃料制御機構33の制御情報に関する信号を受けて開閉動作を行う電磁弁であると良い。
【0073】
また燃料供給源3は内部の燃料前駆体32の残量がなくなり燃料が発電部2に供給できない場合に、燃料前駆体32が入った別の燃料供給源3を使用できるように、着脱可能なカートリッジ構造であってもよい。その場合、燃料弁35は発電部2と燃料供給源3を切り離した時に発電部2側に備えられていると良い。このような構成であれば、交換部材である燃料供給源3に余分な機構を設ける必要事がないので、燃料供給源3の製造コストを低く抑えることができる。また発電部2と燃料供給源3を切り離した際に、切り離した箇所の流路断面を塞ぐ弁機能を備えていれば燃料の漏洩を防ぐ事が出来るが、この弁機能を燃料制御機構33がもっていても良い。
【0074】
本実施の形態によれば燃料弁35によって発電部2と燃料供給源3の間に圧力差が得られる為、復帰動作における燃料供給空間25に対する燃料の供給速度が上昇し、不純物の除去をより確実に行う事が可能である。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における燃料電池1の概略図を図7に示す。なお、本実施の形態1から3と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図7を用いて本実施の形態4について説明する。
【0075】
図7に示すように本発明の実施の形態5における燃料電池1は実施の形態4における燃料電池1に加え、燃料極部26と接続される排出部4と、燃料極部26と排出部4の間に排出弁41を備えている。
【0076】
排出部4は燃料極部26の燃料供給空間25と接続されており、燃料供給空間25に溜まった不純物は排出部4へと移動する事が出来る。この構成における発電部2では、燃料極部26の内部容積が排出部4によって拡張される為、燃料制御機構33を減少供給制御から通常運転状態にした場合、燃料極部26の燃料の内圧が通常運転時で使用される圧力と同等に上昇するまでにより多くの燃料を供給する必要がある。その為、燃料供給空間25に対して燃料を噴きつける供給をより長時間持続する事が出来る。また実施の形態1から4においては、復帰動作を行った場合、不純物は燃料供給空間25に留まる為、複数回復帰動作を行い燃料供給空間25に溜まった不純物の量が増えたとしても不純物の行き場がないが、本実施の形態5においては、排出部4が燃料供給空間25とは別の箇所に備えられており不純物は排出部4へと移動するためにより多くの復帰動作を行う事が出来る。
【0077】
また、排出部4への不純物の移動をより確実に行う為には、排出部4は燃料供給空間25の燃料制御機構33と離れた箇所、即ち水素流の下流側に備えられている事が望ましい。また発電部2と排出部4との距離がある場合、両構成を配管やチューブ等の排出路42で接続しても良い。
【0078】
また、排出部4は取り外しできる構成であるとなお良い。このような構成においては排出部4の内部に不純物がいっぱいに溜まってしまった場合には、排出部4を発電部2から取り外し、排出部4の内部に溜まった不純物を廃棄した後に再び発電部2に取り付ける事で、繰り返し復帰動作が行えるようになる。その場合、排出部4と燃料供給空間25との間に排出部41が発電部2側に備えられている事が好ましい。排出部41は図5に示すように排出路42上にあってもよいし、発電部2に備えられていても良い。排出部41は燃料極部26の内部不純物を排出部4に排出する開状態と、燃料極部26の内部の不純物を排出部4に排出しない閉状態のいずれか一方の状態をとる弁体である。復帰動作時を含む通常運転時には排出部41は開状態であり、排出部4を取り外した際に排出部41を閉状態にする事で燃料供給空間25と排出部4の接続流路からの燃料の漏洩を防ぐ事が可能となる。
【0079】
また図7に示すように排出部4が燃料供給源3と同一の交換体に備えられていても良い。このような構成であれば燃料供給源3がカートリッジ構造になっている場合に、交換体の内部の燃料前駆体32の残量が無くなり新しい交換体と付け変える事で、不純物が排出部4を満たさないような適切なタイミングで排出部4も新しいものと取り替える事が出来る。
【0080】
本実施の形態によれば復帰動作によって燃料極部26の内部の不純物をより確実に除去できる事に加え、不純物が排出部4に移動する事で復帰動作をより多くの回数行う事が可能である。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5における発電部2の燃料極部26の拡大断面図を図8に示す。なお、本実施の形態1から4と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図8を用いて本実施の形態5について説明する。
【0081】
図8に示すように本発明の実施の形態6における発電部2は実施の形態1から5における発電部2に加え、燃料極部26に燃料流路261を有している。燃料供給源3から供給された燃料は燃料極部26の内部に備えられた燃料流路261中を通して燃料極23へと到達する。燃料流路261は燃料極23に対して燃料を垂直に供給するように備えられている。これにより燃料は燃料極23に直接噴きつけられる為、燃料極23を覆っている不純物をより確実に飛ばして除去できる。
【0082】
また本実施の形態5の変更例の発電部2の燃料極部26の拡大断面図を図9に示す。図9に示すように本変更例における発電部2は複数の燃料流路261を備えている。特に燃料極23の面積が広い場合には図9に示すような単一の燃料流路261では触媒層231の全体を覆う不純物は除去する事が難しい。そこで図9に示すように燃料極23の面に対して複数の燃料流路261を備える事により、広い面積を有する触媒層23の全体を覆うように不純物が存在していた場合も、不純物を確実に除去する事が可能である。また複数の燃料流路261の保持と、複数の燃料流路261への燃料の分配を行う為に、燃料極部26を2層に隔離するように隔壁262を設けることが望ましい。隔壁262を設ける事で燃料は燃料供給源3から燃料制御機構33を通して、隔壁262によって燃料供給空間25と隔てられた分配空間251に行き渡り、その後複数の燃料流路261から燃料極23に対して供給される。
【0083】
また一つの燃料流路261の燃料極23を覆う不純物の除去範囲を更に広げる為に拡散部263を設けても良い。拡散部263は燃料流路261の燃料極23と接する箇所から、燃料極23の面方向に沿うように延伸した部材である。拡散部263をさらに備える事によって燃料流路261を通ってきた燃料は、拡散部263と固体高分子電解質膜21との間の燃料極23の中を通って燃料供給空間25に供給される為、拡散部263が設けられた範囲の燃料極23を覆った不純物を確実に燃料供給空間25の一部へと移動をする事が出来る。
【0084】
本実施例によれば復帰動作による燃料極23を覆う不純物の除去を、より確実に広い範囲で行う事が出来る。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6における発電部2の燃料極部26の分解斜視図を図10に示す。なお、本実施の形態1から5と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図10を用いて本実施の形態6について説明する。
【0085】
本発明の実施の形態6における発電部2は実施の形態5における発電部2の燃料極部26に加えて、図10に示すように外壁24に対して燃料供給空間25が溝状に設けられている。燃料供給空間25は蛇行して燃料極23の面全体に燃料が行き渡るように配置される。また燃料供給空間25の溝が切られる基面252は燃料極23と接し、外壁24はステンレスに代表される金属やカーボン等の導電性を有する材料で作られる事が望ましい。上記構成であれば燃料極23の面全体から集電をする事ができ電気抵抗が低くなるので、より効率の高い発電を行う事が可能である。
【0086】
また燃料供給空間25の両端には燃料極部26の外部と接続される貫通孔が設けられる。貫通孔の一方は燃料供給源3から供給された燃料を燃料供給空間25へと取り入れる為の供給口253であり、もう一方は排出部4へと接続される排出口254である。
【0087】
本実施例における燃料極部26で発電を持続した時にも燃料供給空間25に不純物が溜まってしまい燃料3の触媒層231への供給が阻害されるが、燃料供給空間25が溝状であり不純物の導通流路が確保されている為に、復帰動作を行う事によって不純物をより確実に排出部4へと移動する事が出来る。
【0088】
以上、本発明の一例を説明したが、具体例を説明したに過ぎない。特に本発明を限定するものではなく、各部の具体的構成等は適宜変更可能である。また、各実施の形態及び変更例の作用効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、各実施の形態及び変更例に記載されたものに限定されるものではない。また明細書においては説明の便宜上、燃料電池は単一のセルによって構成されているが、本発明は支持体に挟持された発電セルを複数有する構造の燃料電池においても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、燃料電池及び燃料電池装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 燃料電池
2 発電部
3 燃料供給源
4 排出部
21 固体高分子電解質膜
22 酸化剤極
23 燃料極
24 外壁
25 燃料供給空間
26 燃料極部
31 反応部
32 燃料前駆体
33 燃料制御機構
34 供給路
35 燃料弁
36 信号線
41 排出弁
42 排出路
221 触媒層(酸化剤極)
222 ガス拡散層(酸化剤極)
231 触媒層(燃料極)
232 ガス拡散層(燃料極)
251 分配空間
252 基面
253 供給口
254 排出口
261 燃料流路
262 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が供給される燃料極と酸化剤が供給される酸化剤極と前記燃料極及び前記酸化剤極に挟持された固体高分子電解質膜を備える発電部と、
前記発電部に、前記燃料極の前記電解質膜が配置された面に対向するように設けられ燃料が供給される燃料供給空間を有する燃料極部と、
複数の燃料前駆体を接触させ化学反応を行うことによって前記燃料を発生させ、前記燃料極部に対して前記燃料を供給する燃料供給源とを有し、
前記燃料供給源は、
複数の燃料前駆体をそれぞれ貯蔵する複数の貯蔵部と、
前記複数の燃料前駆体のうち、少なくともいずれかの前記貯蔵部に貯蔵された前記燃料前駆体を他方の前記貯蔵部へ移動させる燃料制御機構とを有し、
前記燃料制御機構は、前記燃料と前記酸化剤との反応により前記燃料極に蓄積する不純物に関する物理量に基づいて前記燃料前駆体の移動を制御する供給制御を行い、
前記不純物の少なくとも一部は、前記供給制御によって発生した前記燃料の圧力で除去されるものであることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料制御機構は、前記不純物に関する物理量を検出する物理量検出部を備え、
前記物理量検出部が、前記不純物が前記燃料極に所定量以上蓄積した事を示す前記物理量を検出したときに前記燃料前駆体の移動を通常運転時よりも増加させる増加供給制御を行う事を特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記燃料制御機構は、前記不純物に関する物理量を検出する物理量検出部を備え、
前記物理量検出部が、前記不純物が前記燃料極に所定量以上蓄積した事を示す前記物理量を検出したときに前記燃料前駆体の移動を減少させる減少供給制御と、前記減少供給制御の後に前記燃料前駆体の移動を増加させる増加供給制御とを行う事を特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料供給源と前記発電部との間には、前記燃料を前記燃料極部に供給する開状態と、前記燃料を前記燃料極部に供給しない閉状態とのどちらかを維持する燃料弁を備え、
前記燃料弁は、減少供給制御を行っているときに、前記閉状態となることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料極部は、前記燃料極部の内部の不純物を排出する排出部と連結することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料極部と前記排出部とは着脱可能であり、
前記燃料極部と前記排出部との間には、前記燃料極部の内部の不純物を前記排出部に排出する開状態と、前記燃料極部の内部の不純物を前記排出部に排出しない閉状態とのどちらかを維持する排出弁を備え、
前記排出弁は、前記燃料極部に備えられている事を特徴とする請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃料極部は、前記燃料が前記燃料極の面方向に対して垂直方向に供給される燃料流路を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記燃料流路は、前記燃料が前記燃料極の面方向に拡散する拡散部を備えることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記燃料供給空間は、前記燃料極に対して設けられた溝であることを特徴とする請求項5または6に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記物理量は、前記発電部の電圧値であり、前記物理量検出部は前記電圧値が所定値以下となる状態を検出することを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記物理量は、前記発電部の電流値であり、前記物理量検出部は前記電流値が所定値以上となる状態を検出することを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記物理量は、前記燃料電池が発電を開始してからの時間であり、前記物理量検出部は前記時間が所定時間を経過した状態を検出することを特徴とする請求項2から9のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項13】
前記貯蔵部と前記排出部とは、前記発電部から着脱可能なカートリッジ構造である事を特徴とする請求項4から12のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−178282(P2012−178282A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40774(P2011−40774)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】