物理量センサおよび物理量計測方法
【課題】ある期間に観測される干渉波形の数を基に物理量を算出するバッチ処理方式と個々の干渉波形の周期を基に物理量を算出する逐次処理方式とを適宜切り替え可能にする。
【解決手段】物理量センサは、物理量の算出をバッチ処理方式で行う第1の演算部9と、物理量の算出を逐次処理方式で行う第2の演算部10と、信号抽出部8が計測した個々の干渉波形の周期から干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定する切替部12とを有する。
【解決手段】物理量センサは、物理量の算出をバッチ処理方式で行う第1の演算部9と、物理量の算出を逐次処理方式で行う第2の演算部10と、信号抽出部8が計測した個々の干渉波形の周期から干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定する切替部12とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の物理量を計測する物理量センサおよび物理量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体レーザの自己結合効果を用いた波長変調型の物理量センサが提案されている(特許文献1参照)。この物理量センサの構成を図19に示す。図19の物理量センサは、物体210にレーザ光を放射する半導体レーザ201と、半導体レーザ201の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード202と、半導体レーザ201からの光を集光して物体210に照射すると共に、物体210からの戻り光を集光して半導体レーザ201に入射させるレンズ203と、半導体レーザ201に発振波長が連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返させるレーザドライバ204と、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部205と、電流−電圧変換増幅部205の出力電圧を2回微分する信号抽出回路206と、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるモードホップパルス(以下、MHPとする)の数を数える計数装置207と、物体210との距離および物体210の速度を算出する演算装置208と、演算装置208の算出結果を表示する表示装置209とを有する。
【0003】
レーザドライバ204は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ201に供給する。これにより、半導体レーザ201は、発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返すように駆動される。図20は、半導体レーザ201の発振波長の時間変化を示す図である。図20において、P1は第1の発振期間、P2は第2の発振期間、λaは各期間における発振波長の最小値、λbは各期間における発振波長の最大値、Tcarは三角波の周期である。
【0004】
半導体レーザ201から出射したレーザ光は、レンズ203によって集光され、物体210に入射する。物体210で反射された光は、レンズ203によって集光され、半導体レーザ201に入射する。フォトダイオード202は、半導体レーザ201の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部205は、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅し、信号抽出回路206は、電流−電圧変換増幅部205の出力電圧を2回微分する。計数装置207は、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。演算装置208は、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと第1の発振期間P1におけるMHPの数と第2の発振期間P2におけるMHPの数に基づいて、物体210との距離や物体210の速度等の物理量を算出する。
【0005】
自己結合型の物理量センサによれば、従来のFMCWレーダや定在波レーダ、自己混合型レーザセンサなどに比べて、測定対象の変位や速度を高い分解能で計測することができる。しかしながら、自己結合型の物理量センサでは、FFTと同じように変位や速度の算出にある程度の計測時間(特許文献1の例では、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の半周期)が必要となるため、速度の変化が速い測定対象の計測においては計測誤差を生じるという問題点があった。また、信号処理においてMHPの数を数える必要があるため、半導体レーザの半波長未満の分解能を実現することが難しいという問題点があった。
【0006】
そこで、発明者は、ある期間に観測されるMHPの数を基に物理量を算出するバッチ処理方式の物理量センサに対して、個々のMHPの周期に基づいて物理量を算出する逐次処理方式の物理量センサを提案した(特願2008−270794)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−313080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逐次処理方式の物理量センサによれば、測定対象の物理量をバッチ処理方式の物理量センサよりも高い分解能で計測することができ、また搬送波周波数よりも速度の変化が速い測定対象にも対応することができる。
しかしながら、従来、バッチ処理方式と逐次処理方式の両方を搭載した物理量センサは存在せず、また状況に応じてバッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能な物理量センサも提案されていなかった。例えば測定対象の違いによりバッチ処理方式で有用な計測値が得られる場合と逐次処理方式で有用な計測値が得られる場合があるので、バッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能にすることは重要である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バッチ処理方式と逐次処理方式の両方を搭載した物理量センサにおいて、バッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の物理量センサは、測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、前記計数手段の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手段と、前記信号抽出手段が計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手段と、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記信号抽出手段が計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記計数手段の計数結果、前記信号抽出手段の計測結果、前記第1の演算手段の算出結果、前記第2の演算手段の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手段の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手段と、測定者の指示に応じて、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手段とから構成されることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記第1の演算手段は、前記計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、前記第2の演算手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手段が計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の物理量計測方法は、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、前記計数手順の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手順と、前記信号抽出手順で計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手順と、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手順とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記信号抽出手順で計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記計数手順の計数結果、前記信号抽出手順の計測結果、前記第1の演算手順の算出結果、前記第2の演算手順の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手順の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手順と、測定者の指示に応じて、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手順とから構成されることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記計数手順の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記第1の演算手順は、前記計数手順によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手順の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、前記第2の演算手順は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手順で計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の演算手段の算出結果と第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段を設けることにより、第1の演算手段が行うバッチ処理方式と第2の演算手段が行う逐次処理方式とを適宜切り替えることができる。その結果、バッチ処理方式で有用な計測値が得られる場合にはバッチ処理方式に切り替え、逐次処理方式で有用な計測値が得られる場合には逐次処理方式に切り替えることが可能になる。
【0017】
また、本発明では、信号抽出手段が計測した個々の周期から干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/Aが成立する場合、第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【0018】
また、本発明では、情報提示手段と切替指示入力手段とを設けることにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを手動で切り替えることができる。
【0019】
また、本発明では、計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における電流−電圧変換増幅部の出力電圧波形およびフィルタ部の出力電圧波形を模式的に示す波形図である。
【図3】モードホップパルスについて説明するための図である。
【図4】半導体レーザの発振波長とフォトダイオードの出力波形との関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における信号抽出部の動作を説明するための図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における第1の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における第1の演算部の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の1例を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の他の例を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態における切替部の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態における第2の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態における第2の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図14】本発明の第5の実施の形態における第1の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図15】本発明の第5の実施の形態における第1の演算部の動作を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第7の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第7の実施の形態における切替部の動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第8の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図19】従来の物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図20】図19の物理量センサにおける半導体レーザの発振波長の時間変化の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。図1の物理量センサは、測定対象の物体14にレーザ光を放射する半導体レーザ1と、半導体レーザ1の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード2と、半導体レーザ1からの光を集光して放射すると共に、物体14からの戻り光を集光して半導体レーザ1に入射させるレンズ3と、半導体レーザ1を駆動する発振波長変調手段となるレーザドライバ4と、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部5と、電流−電圧変換増幅部5の出力電圧から搬送波を除去するフィルタ部6と、フィルタ部6の出力電圧に含まれる自己結合信号であるMHPの数を数える計数部7と、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの周期を計測する信号抽出部8と、計数部7が計測したMHPの数に基づいて物体14との距離や物体14の速度を算出する第1の演算部9と、信号抽出部8が計測したMHPの周期に基づいて物体14の変位や速度を算出する第2の演算部10と、第1、第2の演算部9,10の算出結果を表示する表示部11と、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらを物理量センサの計測結果として採用するかを判定する切替部12と、切替部12の判定結果に応じて第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらか一方を選択して表示部11に出力するスイッチ13とを有する。フォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とは検出手段を構成し、切替部12とスイッチ13とは切替手段を構成している。
【0022】
以下、説明容易にするために、半導体レーザ1には、モードホッピング現象を持たない型(VCSEL型、DFBレーザ型)のものが用いられているものと想定する。
レーザドライバ4は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ1に供給する。これにより、半導体レーザ1は、注入電流の大きさに比例して発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間P1と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間P2とを交互に繰り返すように駆動される。このときの半導体レーザ1の発振波長の時間変化は、図20に示したとおりである。本実施の形態では、発振波長の最大値λb及び発振波長の最小値λaはそれぞれ常に一定になされており、それらの差λb−λaも常に一定になされている。
【0023】
半導体レーザ1から出射したレーザ光は、レンズ3によって集光され、物体14に入射する。物体14で反射された光は、レンズ3によって集光され、半導体レーザ1に入射する。ただし、レンズ3による集光は必須ではない。フォトダイオード2は、半導体レーザ1の内部又はその近傍に配置され、半導体レーザ1の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部5は、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する。
【0024】
フィルタ部6は、変調波から重畳信号を抽出する機能を有するものである。図2(A)は電流−電圧変換増幅部5の出力電圧波形を模式的に示す図、図2(B)はフィルタ部6の出力電圧波形を模式的に示す図である。これらの図は、フォトダイオード2の出力に相当する図2(A)の波形(変調波)から、図2の半導体レーザ1の発振波形(搬送波)を除去して、図2(B)のMHP波形(干渉波形)を抽出する過程を表している。
【0025】
計数部7は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。計数部7は、論理ゲートからなるカウンタを利用するものでもよいし、他の手段を用いるものでもよい。
【0026】
信号抽出部8は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの周期をMHPが発生する度に計測する。ここで、自己結合信号であるMHPについて説明する。図3に示すように、ミラー層1013から物体14までの距離をL、レーザの発振波長をλとすると、以下の共振条件を満足するとき、物体14からの戻り光と半導体レーザ1の光共振器内のレーザ光は強め合い、レーザ出力がわずかに増加する。
L=qλ/2 ・・・(1)
式(1)において、qは整数である。この現象は、物体14からの散乱光が極めて微弱であっても、半導体レーザ1の共振器内の見かけの反射率が増加することにより、増幅作用が生じ、十分観測できる。
【0027】
図4は、半導体レーザ1の発振波長をある一定の割合で変化させたときの発振波長とフォトダイオード2の出力波形との関係を示す図である。式(1)に示したL=qλ/2を満足したときに、戻り光と光共振器内のレーザ光の位相差が0°(同位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も強め合い、L=qλ/2+λ/4のときに、位相差が180°(逆位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も弱め合う。そのため、半導体レーザ1の発振波長を変化させていくと、レーザ出力が強くなるところと弱くなるところとが交互に繰り返し現れ、このときのレーザ出力をフォトダイオード2で検出すると、図4に示すように一定周期の階段状の波形が得られる。このような波形は一般的には干渉縞と呼ばれる。この階段状の波形、すなわち干渉縞の1つ1つがMHPである。ある一定時間において半導体レーザ1の発振波長を変化させた場合、測定距離に比例してMHPの数は変化する。
【0028】
図5(A)〜図5(D)は信号抽出部8の動作を説明するための図であり、図5(A)はフィルタ部6の出力電圧の波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図、図5(B)はMHPを2値化した波形を示す図、図5(C)は信号抽出部8に入力されるサンプリングクロックを示す図、図5(D)は図5(B)に対応する信号抽出部8の測定結果を示す図である。
【0029】
まず、信号抽出部8は、図5(A)に示すフィルタ部6の出力電圧が上昇してしきい値TH1以上になったときにハイレベルと判定し、フィルタ部6の出力電圧が下降してしきい値TH2(TH2<TH1)以下になったときにローレベルと判定することにより、フィルタ部6の出力を2値化する。そして、信号抽出部8は、2値化したMHPの立ち上がりエッジの周期(すなわち、MHPの周期)を立ち上がりエッジが発生する度に測定する。このとき、信号抽出部8は、図5(C)に示すサンプリングクロックの周期を1単位としてMHPの周期を測定する。図5(D)の例では、信号抽出部8は、MHPの周期としてTα,Tβ,Tγを順次測定している。図5(C)、図5(D)から明らかなように、周期Tα,Tβ,Tγの大きさは、それぞれ5[samplings]、4[samplings]、2[samplings]である。サンプリングクロックの周波数は、MHPの取り得る最高周波数に対して十分に高いものとする。
【0030】
次に、第1の演算部9は、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと計数部7が数えたMHPの数に基づいて、物体14との距離および物体14の速度を算出する。図6は第1の演算部9の構成の1例を示すブロック図、図7は第1の演算部9の動作を示すフローチャートである。第1の演算部9は、計数部7の計数結果等を記憶する記憶部90と、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと計数部7の計数結果に基づいて物体14との距離の候補値と物体14の速度の候補値を算出する物理量候補値算出部91と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数の2倍数との大小関係に基づいて物体14の状態を判定する状態判定部92と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数の2倍数との大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果に正負の符号を付与する符号付与部93と、計数部7の計数結果の平均値を算出することにより、半導体レーザ1と物体14との平均距離に比例したMHPの数である距離比例個数を求める距離比例個数算出部94と、状態判定部92の判定結果に基づいて候補値の選定を行い、物体14との距離および物体14の速度を確定する物理量確定部95とから構成される。
【0031】
本実施の形態では、物体14の状態を所定の条件を満たす微小変位状態、あるいは微小変位状態よりも動きが大きい変位状態のいずれかであるとする。発振期間P1と発振期間P2の1期間あたりの物体14の平均変位をVとしたとき、微小変位状態とは(λb−λa)/λb>V/Lbを満たす状態であり(ただし、Lbは時刻tのときの距離)、変位状態とは(λb−λa)/λb≦V/Lbを満たす状態である。
【0032】
記憶部90は、計数部7の計測結果を記憶する。物理量候補値算出部91は、現時刻tにおける距離の候補値Lα(t),Lβ(t)と速度の候補値Vα(t),Vβ(t)を次式のように算出して、記憶部90に格納する(図7ステップS10)。
Lα(t)=λa×λb×(MHP(t−1)+MHP(t))
/{4×(λb−λa)} ・・・(2)
Lβ(t)=λa×λb×(|MHP(t−1)−MHP(t)|)
/{4×(λb−λa)} ・・・(3)
Vα(t)=(MHP(t−1)−MHP(t))×λb/4 ・・・(4)
Vβ(t)=(MHP(t−1)+MHP(t))×λb/4 ・・・(5)
【0033】
式(2)〜式(5)において、MHP(t)は現時刻tにおいて算出されたMHPの数、MHP(t−1)はMHP(t)の1回前に算出されたMHPの数である。例えば、MHP(t)が第1の発振期間P1の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第2の発振期間P2の計数結果であり、逆にMHP(t)が第2の発振期間P2の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第1の発振期間P1の計数結果である。
【0034】
候補値Lα(t),Vα(t)は物体14が微小変位状態にあると仮定して計算した値であり、候補値Lβ(t),Vβ(t)は物体14が変位状態にあると仮定して計算した値である。物理量候補値算出部91は、式(2)〜式(5)の計算を計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0035】
次に、状態判定部92は、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数2NLとの大小関係に基づいて物体14の状態を判定する(図7ステップS11)。図8、図9は状態判定部92の動作を説明するための図であり、計数部7の計数結果の時間変化を示す図である。図8、図9において、Nuは第1の発振期間P1の計数結果、Ndは第2の発振期間P2の計数結果である。
【0036】
物体14の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも小さく、物体14が単振動している場合、計数結果Nuの時間変化と計数結果Ndの時間変化は、図8に示すように互いの位相差が180度の正弦波形となる。上記の説明では、このときの物体14の状態を微小変位状態としている。図20から明らかなように、第1の発振期間P1と第2の発振期間P2は交互に訪れるので、計数結果Nuと計数結果Ndも交互に現れる。距離比例個数NLは、図8に示した正弦波形の平均値に相当する。
【0037】
一方、物体14の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも大きい場合、計数結果Nuの時間変化は、図9の300で示す負側の波形が正側に折り返された形になり、同様に計数結果Ndの時間変化は、図9の301で示す負側の波形が正側に折り返された形になる。上記の説明では、この計数結果の折り返しが生じている部分における物体14の状態を変位状態としている。一方、計数結果の折り返しが生じていない部分における物体14の状態は、微小変位状態である。
【0038】
現時刻tの1回前に計測された計数部7の計数結果をN(t−1)とすると、計数結果の折り返しが生じている変位状態では、N(t−1)≧2NLが成立する。また、計数結果の折り返しが生じていない微小変位状態では、N(t−1)<2NLが成立する。状態判定部92は、N(t−1)≧2NLが成立する場合、物体14が変位状態であると判定し、N(t−1)<2NLが成立する場合、物体14が微小変位状態であると判定する。
状態判定部92は、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0039】
次に、符号付与部93は、計数部7の1回前の計数結果N(t−1)とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数2NLとの大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果N(t)に正負の符号を付与する(図7ステップS12〜S14)。符号付与部93は、具体的には以下の式を実行する。
If N(t−1)≧2NL Then N’(t)→−N(t) ・・・(6)
If N(t−1)<2NL Then N’(t)→+N(t) ・・・(7)
【0040】
符号付与部93は、式(6)に示すように、N(t−1)≧2NLが成立する場合には、計数部7の現時刻tの計数結果N(t)に負の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする(図7ステップS14)。また、符号付与部93は、式(7)に示すように、N(t−1)<2NLが成立する場合には、計数部7の現時刻tの計数結果N(t)に正の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする(図7ステップS13)。
符号付き計数結果N’(t)は、記憶部90に格納される。符号付与部93は、以上のような符号付与処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0041】
次に、距離比例個数算出部94は、符号付与部93によって符号が与えられた符号付き計数結果から距離比例個数NLを求める(図7ステップS15)。距離比例個数算出部94は、次式に示すように符号付き計数結果を用いて、距離比例個数NLを算出する。
NL=(Nu’+Nd’)/2 ・・・(8)
【0042】
式(8)において、Nu’は計数結果Nuに符号付与処理を施した後の符号付き計数結果、Nd’は計数結果Ndに符号付与処理を施した後の符号付き計数結果である。なお、物理量の計測開始初期時においては、符号付与部93が大小関係を判定するのに必要な距離比例個数NLが得られていない。このため、符号付与部93は、符号付き計数結果を出力することはできない。したがって、計測開始初期時においては、距離比例個数算出部94は、式(8)の代わりに計数部7の計数結果Nu,Ndを用いる次式により距離比例個数NLを算出する。
NL=(Nu+Nd)/2 ・・・(9)
【0043】
つまり、距離比例個数算出部94は、計測開始初期時に式(9)を用いて距離比例個数NLを算出し、符号付与部93によって距離比例個数NLの算出に必要な符号付き計数結果が算出されるようになった後は式(8)を用いて距離比例個数NLを算出することになる。
【0044】
距離比例個数算出部94が算出した距離比例個数NLは、記憶部90に格納される。距離比例個数算出部94は、以上のような距離比例個数NLの算出処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。なお、本実施の形態では、2回分の計数結果を用いて距離比例個数NLを算出しているが、2m(mは正の整数)回の計数結果を用いて距離比例個数NLを算出するようにしてもよい。
【0045】
次に、物理量確定部95は、状態判定部92の判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図7ステップS16〜S18)。物理量確定部95は、物体14が微小変位状態と判定された場合、記憶部90に記憶されている速度の候補値Vα(t)を物体14の速度として確定し、距離の候補値Lα(t)を物体14との距離として確定する(図7ステップS17)。また、物理量確定部95は、物体14が変位状態と判定された場合、記憶部90に記憶されている速度の候補値Vβ(t)を物体14の速度として確定し、距離の候補値Lβ(t)を物体14との距離として確定する(図7ステップS18)。
【0046】
なお、MHP(t−1)とMHP(t)の大小関係によって、Vβ(t)は必ず正の値となり、Vα(t)は正又は負の値のいずれかとなるが、これらの符号は物体14の速度の向きを表現したものではない。発振波長が増加している方の半導体レーザのMHPの数が、発振波長が減少している方の半導体レーザのMHPの数よりも大きいとき、物体14の速度は正方向(レーザに接近する方向)となる。
第1の演算部9は、以上のステップS10〜S18の処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0047】
一方、第2の演算部10は、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。信号抽出部8で用いるサンプリングクロックの周波数をfad[Hz]、基準周期をT0[samplings]、半導体レーザ1の発振平均波長をλ[m]とし、演算対象のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]長くなったとすると、この演算対象のMHPの周期における物体14の変位D[m]は次式のようになる。
D=n×λ/(2×T0) ・・・(10)
【0048】
基準周期T0とは、物体14が静止していたときのMHPの周期、もしくは算出された距離におけるMHPの周期である。演算対象のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]短くなった場合には、式(10)の周期変化量nの符号を負にすればよい。半導体レーザ1の発振波長が増加する第1の発振期間P1において、変位Dが正の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向であり、変位Dが負の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向である。また、発振波長が減少する第2の発振期間P2において、変位Dが正の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向であり、変位Dが負の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向である。なお、基準周期T0から物体14との距離を算出することができる。算出方法としては、特許文献1において、変位が0として算出する方法がある。
【0049】
また、演算対象のMHPの周期は(T0+n)/fadなので、演算対象のMHPの周期における物体14の速度V[m/s]は次式のようになる。
V=n×λ/(2×T0)×fad/(T0+n) ・・・(11)
【0050】
第2の演算部10は、式(10)により物体14の変位Dを算出することができ、式(11)により物体14の速度Vを算出することができる。例えばサンプリングクロックの周波数fadを16[MHz]、基準周期T0を160[samplings]、半導体レーザ1の平均波長を850[nm]とし、演算対象のMHPの周期が基準周期T0から1[samplings]長くなったとすると、演算対象のMHPの周期における物体14の変位Dは5.31[nm]、速度Vは1.05[mm/s]と計算できる。第2の演算部10は、以上のような算出処理をMHPが発生する度に行う。
【0051】
ここで、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波(三角波)の半周期あたりの、物体14との距離に関係するMHPの数をNlとする。物体14の平均速度の絶対値を搬送波半周期あたりの変位に直したときにλ/2×Naとすると、搬送波半周期あたりのMHPの数は、Nl+NaもしくはNl−Naとなる。搬送波半周期あたりの変位がλ/2×Nbの速度で動いているとき、搬送波半周期あたりのMHPの数はNl+NbもしくはNl−Nbになるので、この数に対応するMHPの周期が観測される。物体14の変位Dや速度Vを求めるには、個々のMHPの周期から搬送波半周期あたりのMHPの数を逆算し、このMHPの数から物体14の変位Dや速度Vを算出すればよい。上記の式(10)、式(11)は、このような導出原理に基づくものである。なお、上記の平均速度とは、ある1つのMHP間の平均速度のことである。
【0052】
第1の演算部9が行うバッチ処理方式の算出処理では、物体の変位と速度の分解能は半導体レーザの半波長λ/2程度である。これに対して、第2の演算部10が行う逐次処理方式の算出処理では、変位と速度の分解能はλ/2×n/T0なので、半波長λ/2未満の高分解能を実現することができる。また、バッチ処理方式の算出処理では、搬送波の半周期の計測時間がかかるのに対して、逐次処理方式の算出処理では、1つ1つのMHPの周期から物体の変位や速度を求めることができるので、計測に要する時間を大幅に短縮することができ、搬送波周波数よりも速度の変化が速い物体にも対応することができる。
【0053】
次に、切替部12は、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のうちどちらを採用するかを切り替える。図10は切替部12の動作を示すフローチャートである。切替部12は、信号抽出部8が計測したMHPの周期Tから次式のように単位時間当たりのMHPの数Nを算出する(図10ステップS20)。
N=1/T ・・・(12)
【0054】
そして、切替部12は、MHPの数Nの変化の周波数を搬送波半周期よりも短い一定時間tm(tm<Tcar/2)にわたって調べ、この変化の周波数のうち最大のものをfsigとし、搬送波の周波数をfcar(=1/Tcar)としたとき、式(13)が成立するかどうかを判定する(図10ステップS21)。
fsig>fcar/A ・・・(13)
Aは1より大きい所定の定数で、例えば10である。
【0055】
切替部12は、式(13)が成立する場合、第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果を採用すべきと判定し(ステップS22)、式(13)が成立しない場合、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果を採用すべきと判定する(ステップS23)。
【0056】
すなわち、切替部12は、式(13)が成立する場合、測定対象の速度の変化が速く、物理量センサの計測結果が搬送波周波数に対して十分低い(1/A程度)周波数の線形結合で表現できないと判定する。この場合、第1の演算部9の算出結果は測定者にとって有用な結果ではなく、第2の演算部10の算出結果が有用である。したがって、切替部12は、第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定する。反対に、式(13)が成立しない場合、切替部12は、物理量センサの計測結果が搬送波周波数に対して十分低い周波数の線形結合で表現できると判定する。この場合、第1の演算部9の算出結果は測定者にとって有用な結果である。したがって、切替部12は、第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定する。切替部12は、ステップS20〜S23の処理を一定時間tm毎に行う。
【0057】
スイッチ13は、切替部12が第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定した場合、第1の演算部9の算出結果を選択して出力し、切替部12が第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定した場合、第2の演算部10の算出結果を選択して出力する。
こうして、表示部11は、第1の演算部9の算出結果または第2の演算部10の算出結果のいずれかをリアルタイムで表示する。
以上のように、本実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【0058】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に切り替えたが、物理量センサを用いる測定者が手動で切り替えることも可能である。図11は本発明の第2の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。本実施の形態の物理量センサは、半導体レーザ1と、フォトダイオード2と、レンズ3と、レーザドライバ4と、電流−電圧変換増幅部5と、フィルタ部6と、計数部7と、信号抽出部8と、第1の演算部9と、第2の演算部10と、表示部11と、スイッチ13と、計数部7の計測結果、信号抽出部8の計測結果、第1の演算部9の算出結果、第2の演算部10の算出結果のうち少なくとも1つを第1、第2の演算部9,10の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示部15と、測定者の指示に応じて、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらか一方を物理量センサの計測結果として採用する切替指示入力部16とを有する。
【0059】
情報提示部15は、計数部7の計測結果、信号抽出部8の計測結果、第1の演算部9の算出結果、第2の演算部10の算出結果のうち少なくとも1つをバッチ処理方式と逐次処理方式の切替判断用の情報として、この情報を数値で表示するか、あるいは情報の履歴をグラフで表示する。
【0060】
物理量センサを用いる測定者は、情報提示部15が表示した情報を見て、バッチ処理方式と逐次処理方式のどちらで有用な情報が得られているかを判断し、バッチ処理方式と逐次処理方式のどちらか一方を選択すべく切替指示入力部16を操作する。
切替指示入力部16は、測定者の操作に応じて、第1の演算部9の算出結果または第2の演算部10の算出結果のどちらか一方をスイッチ13に選択させる。
【0061】
その他の構成の動作は、第1の実施の形態で説明したとおりである。こうして、表示部11は、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果または第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果のどちらか一方を、測定者の選択に応じて表示することになる。
以上のように、本実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを手動で切り替えることができる。
【0062】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、基準周期T0を物体14が静止している状態でのMHPの周期としたが、本実施の形態は基準周期T0の他の求め方を説明するものである。図12は本発明の第3の実施の形態に係る第2の演算部10の構成例を示すブロック図である。第2の演算部10は、物理量算出部100と、周期算出部101とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同様でよい。
【0063】
周期算出部101は、第1の演算部9が算出した距離からMHPの周期を求める。MHPの周波数は測定距離に比例し、MHPの周期は測定距離に反比例する。そこで、MHPの周期と距離との関係を予め求めて周期算出部101のデータベース(不図示)に登録しておけば、周期算出部101は、第1の演算部9によって算出された距離に対応するMHPの周期をデータベースから取得することにより、MHPの周期を求めることができる。あるいは、MHPの周期と距離との関係を示す数式を予め求めて設定しておけば、周期算出部101は、第1の演算部9によって算出された距離を数式に代入することにより、MHPの周期を算出することができる。
【0064】
物理量算出部100は、周期算出部101が求めた周期を基準周期T0とし、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。つまり、物理量算出部100は、第1の実施の形態で説明した式(10)により物体14の変位Dを算出し、式(11)により物体14の速度Vを算出する。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体14の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0065】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図13は本発明の第4の実施の形態に係る第2の演算部10の構成例を示すブロック図である。第2の演算部10は、物理量算出部100と、計数部7の計数結果等を記憶する記憶部102と、計数部7の計数結果の平均値を算出することにより距離比例個数NLを求める距離比例個数算出部103と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数との大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果に正負の符号を付与する符号付与部104と、距離比例個数NLからMHPの周期を算出する周期算出部105とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同様でよい。
【0066】
計数部7の計数結果は、記憶部102に格納される。距離比例個数算出部103は、計数部7の計数結果から、第1の実施の形態の距離比例個数算出部94と同様にして距離比例個数NLを求める。距離比例個数NLは、記憶部102に格納される。距離比例個数算出部103は、距離比例個数NLの算出処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0067】
次に、符号付与部104は、第1の実施の形態の符号付与部93と同様にして計数部7の最新の計数結果N(t)に正負の符号を付与する。正負の符号が与えられた符号付き計数結果N’(t)は、記憶部102に格納される。符号付与部104は、符号付与処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0068】
次に、周期算出部105は、距離比例個数NLからMHPの周期Tを次式のように算出する。
T=C/(2×fcar×NL) ・・・(14)
ここで、fcarは搬送波(三角波)の周波数、Cは光速である。
【0069】
物理量算出部100は、周期算出部105が求めた周期を基準周期T0とし、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。つまり、物理量算出部100は、第1の実施の形態で説明した式(10)により物体14の変位Dを算出し、式(11)により物体14の速度Vを算出する。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体14の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0070】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図14は本発明の第5の実施の形態に係る第1の演算部9の構成例を示すブロック図、図15はこの第1の演算部9の動作を示すフローチャートである。本実施の形態の第1の演算部9は、記憶部90と、物理量候補値算出部91と、計数部7の第1の発振期間P1の計数結果と第2の発振期間P2の計数結果の増減方向の一致不一致に基づいて物体14の状態を判定する状態判定部92aと、物理量確定部95とから構成される。
【0071】
物理量候補値算出部91の動作は、第1の実施の形態と同じである(図15ステップS10)。
次に、状態判定部92aは、計数部7の第1の発振期間P1の計数結果Nuと第2の発振期間P2の計数結果Ndの増減方向の一致不一致に基づいて物体14の状態を判定する(図15ステップS19)。状態判定部92aは、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が逆方向の場合、物体14が微小変位状態であると判定し、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が同方向の場合、物体14が変位状態であると判定する。
【0072】
現時刻tの計数結果がNuであれば、計数結果Nuの増減は、現時刻tの計数結果Nu(t)と2回前の計数結果Nu(t−2)との差Nu(t)−Nu(t−2)の符号で判別することができ、計数結果Ndの増減は、1回前の計数結果Nd(t−1)と3回前の計数結果Nd(t−3)との差Nd(t−1)−Nd(t−3)の符号で判別することができる。一方、現時刻tの計数結果がNdであれば、計数結果Nuの増減は、1回前の計数結果Nu(t−1)と3回前の計数結果Nu(t−3)との差Nu(t−1)−Nu(t−3)の符号で判別することができ、計数結果Ndの増減は、現時刻tの計数結果Nd(t)と2回前の計数結果Nd(t−2)との差Nd(t)−Nd(t−2)の符号で判別することができる。
【0073】
このような増減の判別の結果、計数結果Nu,Ndが共に増加している場合あるいは共に減少している場合は、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が同方向であり、物体14が変位状態であると判断することができる。また、計数結果Nu,Ndのどちらか一方が増加していて他方が減少している場合は、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が逆方向であり、物体14が微小変位状態であると判断することができる。
状態判定部92aは、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0074】
第1の実施の形態と同様に、物理量確定部95は、状態判定部92aの判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図15ステップS16〜S18)。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。図9で説明したような計数結果の折り返しが生じると、計数結果Nu,Ndの平均値に変化が生じる。そこで、状態判定部92aは、計数結果Nu,Ndの平均値の変化に基づいて物体14の状態を判定するようにしてもよい。本実施の形態においても、第1の演算部9の構成は第5の実施の形態と同様であるので、図14、図15の符号を用いて説明する。
【0076】
物理量候補値算出部91の動作は、第1の実施の形態と同じである(図15ステップS10)。
本実施の形態の状態判定部92aは、現時刻t以前に求めた計数結果Nuの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値以内であり、かつ現時刻t以前に求めた計数結果Ndの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値以内である場合、計数結果Nu,Ndのそれぞれの平均値に変化無しと判断して、物体14が微小変位状態であると判定する(図15ステップS19)。
【0077】
また、状態判定部92aは、現時刻t以前に求めた計数結果Nuの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値を超えて変化したり、現時刻t以前に求めた計数結果Ndの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値を超えて変化したりした場合、物体14が変位状態であると判定する(図15ステップS19)。
状態判定部92aは、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0078】
第1の実施の形態と同様に、物理量確定部95は、状態判定部92aの判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図15ステップS16〜S18)。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、切替部12は信号抽出部8の計測結果に基づいて第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のうちどちらを採用するかを切り替えているが、計数部7の計数結果に基づいて切り替えるようにしてもよい。図16は本発明の第7の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0080】
図17は本実施の形態の切替部12aの動作を示すフローチャートである。切替部12aは、計数部7の計数結果の変化の周波数をfn、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、次式が成立するかどうかを判定する(図17ステップS24)。
fn>fcar/B ・・・(15)
Bは1より大きい所定の定数で、例えば10である。
【0081】
切替部12aは、式(15)が成立する場合、第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果を採用すべきと判定し(ステップS25)、式(15)が成立しない場合、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果を採用すべきと判定する(ステップS26)。切替部12aは、ステップS24〜S26の処理を一定時間毎に行う。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
[第8の実施の形態]
次に、本発明の第8の実施の形態について説明する。第1〜第7の実施の形態では、MHP波形を含む電気信号を検出する検出手段としてフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とを用いたが、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することも可能である。図18は本発明の第8の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の物理量センサは、第1〜第7の実施の形態のフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5の代わりに、検出手段として電圧検出部17を用いるものである。
【0083】
電圧検出部17は、半導体レーザ1の端子間電圧、すなわちアノード−カソード間電圧を検出して増幅する。半導体レーザ1から放射されたレーザ光と物体14からの戻り光とによって干渉が生じるとき、半導体レーザ1の端子間電圧には、MHP波形が現れる。したがって、半導体レーザ1の端子間電圧からMHP波形を抽出することが可能である。
【0084】
フィルタ部6は、電圧検出部17の出力電圧から搬送波を除去する。物理量センサのその他の構成は、第1〜第7の実施の形態と同じである。
こうして、本実施の形態では、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することができ、第1〜第7の実施の形態と比較して物理量センサの部品を削減することができ、物理量センサのコストを低減することができる。また、本実施の形態では、フォトダイオードを使用しないので、外乱光による影響を除去することができる。
【0085】
本実施の形態では、レーザドライバ4から半導体レーザ1に供給する駆動電流をレーザ発振のしきい値電流付近に制御することが好ましい。これにより、半導体レーザ1の端子間電圧からMHPを抽出することが容易になる。
【0086】
なお、第1〜第7の実施の形態において、特開2009−47676号公報に開示された技術を用いて、計数部7の計数結果を補正するようにしてもよい。
また、第1の実施の形態の第1の演算部9の代わりに、特許文献1に開示された距離・速度算出方法を用いて物体14との距離及び物体14の速度を算出するようにしてもよい。
【0087】
なお、第1〜第8の実施の形態において少なくとも計数部7と信号抽出部8と第1の演算部9と第2の演算部10と切替部12,12aと情報提示部15とは、例えばCPU、メモリおよびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1〜第8の実施の形態で説明した処理を実行する。
また、第1〜第8の実施の形態で計測する物理量の例としては、距離、変位、速度、振動周波数、振動振幅などの他に質量、長さ、時間、エネルギーがある。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の物理量を計測する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1…半導体レーザ、2…フォトダイオード、3…レンズ、4…レーザドライバ、5…電流−電圧変換増幅部、6…フィルタ部、7…計数部、8…信号抽出部、9…第1の演算部、10…第2の演算部、11…表示部、12,12a…切替部、13…スイッチ、14…物体、15…情報提示部、16…切替指示入力部、17…電圧検出部、90…記憶部、91…物理量候補値算出部、92,92a…状態判定部、93…符号付与部、94…距離比例個数算出部、95…物理量確定部、100…物理量算出部、101…周期算出部、102…記憶部、103…距離比例個数算出部、104…符号付与部、105…周期算出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の物理量を計測する物理量センサおよび物理量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体レーザの自己結合効果を用いた波長変調型の物理量センサが提案されている(特許文献1参照)。この物理量センサの構成を図19に示す。図19の物理量センサは、物体210にレーザ光を放射する半導体レーザ201と、半導体レーザ201の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード202と、半導体レーザ201からの光を集光して物体210に照射すると共に、物体210からの戻り光を集光して半導体レーザ201に入射させるレンズ203と、半導体レーザ201に発振波長が連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返させるレーザドライバ204と、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部205と、電流−電圧変換増幅部205の出力電圧を2回微分する信号抽出回路206と、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるモードホップパルス(以下、MHPとする)の数を数える計数装置207と、物体210との距離および物体210の速度を算出する演算装置208と、演算装置208の算出結果を表示する表示装置209とを有する。
【0003】
レーザドライバ204は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ201に供給する。これにより、半導体レーザ201は、発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返すように駆動される。図20は、半導体レーザ201の発振波長の時間変化を示す図である。図20において、P1は第1の発振期間、P2は第2の発振期間、λaは各期間における発振波長の最小値、λbは各期間における発振波長の最大値、Tcarは三角波の周期である。
【0004】
半導体レーザ201から出射したレーザ光は、レンズ203によって集光され、物体210に入射する。物体210で反射された光は、レンズ203によって集光され、半導体レーザ201に入射する。フォトダイオード202は、半導体レーザ201の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部205は、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅し、信号抽出回路206は、電流−電圧変換増幅部205の出力電圧を2回微分する。計数装置207は、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。演算装置208は、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと第1の発振期間P1におけるMHPの数と第2の発振期間P2におけるMHPの数に基づいて、物体210との距離や物体210の速度等の物理量を算出する。
【0005】
自己結合型の物理量センサによれば、従来のFMCWレーダや定在波レーダ、自己混合型レーザセンサなどに比べて、測定対象の変位や速度を高い分解能で計測することができる。しかしながら、自己結合型の物理量センサでは、FFTと同じように変位や速度の算出にある程度の計測時間(特許文献1の例では、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の半周期)が必要となるため、速度の変化が速い測定対象の計測においては計測誤差を生じるという問題点があった。また、信号処理においてMHPの数を数える必要があるため、半導体レーザの半波長未満の分解能を実現することが難しいという問題点があった。
【0006】
そこで、発明者は、ある期間に観測されるMHPの数を基に物理量を算出するバッチ処理方式の物理量センサに対して、個々のMHPの周期に基づいて物理量を算出する逐次処理方式の物理量センサを提案した(特願2008−270794)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−313080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逐次処理方式の物理量センサによれば、測定対象の物理量をバッチ処理方式の物理量センサよりも高い分解能で計測することができ、また搬送波周波数よりも速度の変化が速い測定対象にも対応することができる。
しかしながら、従来、バッチ処理方式と逐次処理方式の両方を搭載した物理量センサは存在せず、また状況に応じてバッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能な物理量センサも提案されていなかった。例えば測定対象の違いによりバッチ処理方式で有用な計測値が得られる場合と逐次処理方式で有用な計測値が得られる場合があるので、バッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能にすることは重要である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バッチ処理方式と逐次処理方式の両方を搭載した物理量センサにおいて、バッチ処理方式と逐次処理方式とを適宜切り替え可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の物理量センサは、測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、前記計数手段の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手段と、前記信号抽出手段が計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手段と、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記信号抽出手段が計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記計数手段の計数結果、前記信号抽出手段の計測結果、前記第1の演算手段の算出結果、前記第2の演算手段の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手段の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手段と、測定者の指示に応じて、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手段とから構成されることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記切替手段は、前記計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記第1の演算手段は、前記計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、前記第2の演算手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手段が計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の物理量計測方法は、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、前記計数手順の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手順と、前記信号抽出手順で計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手順と、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手順とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記信号抽出手順で計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記計数手順の計数結果、前記信号抽出手順の計測結果、前記第1の演算手順の算出結果、前記第2の演算手順の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手順の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手順と、測定者の指示に応じて、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手順とから構成されることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記切替手順は、前記計数手順の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の物理量計測方法の1構成例において、前記第1の演算手順は、前記計数手順によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手順の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、前記第2の演算手順は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手順で計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の演算手段の算出結果と第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段を設けることにより、第1の演算手段が行うバッチ処理方式と第2の演算手段が行う逐次処理方式とを適宜切り替えることができる。その結果、バッチ処理方式で有用な計測値が得られる場合にはバッチ処理方式に切り替え、逐次処理方式で有用な計測値が得られる場合には逐次処理方式に切り替えることが可能になる。
【0017】
また、本発明では、信号抽出手段が計測した個々の周期から干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/Aが成立する場合、第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【0018】
また、本発明では、情報提示手段と切替指示入力手段とを設けることにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを手動で切り替えることができる。
【0019】
また、本発明では、計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することにより、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における電流−電圧変換増幅部の出力電圧波形およびフィルタ部の出力電圧波形を模式的に示す波形図である。
【図3】モードホップパルスについて説明するための図である。
【図4】半導体レーザの発振波長とフォトダイオードの出力波形との関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における信号抽出部の動作を説明するための図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における第1の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における第1の演算部の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の1例を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の他の例を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態における切替部の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態における第2の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態における第2の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図14】本発明の第5の実施の形態における第1の演算部の構成の1例を示すブロック図である。
【図15】本発明の第5の実施の形態における第1の演算部の動作を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第7の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第7の実施の形態における切替部の動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第8の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図19】従来の物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図20】図19の物理量センサにおける半導体レーザの発振波長の時間変化の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。図1の物理量センサは、測定対象の物体14にレーザ光を放射する半導体レーザ1と、半導体レーザ1の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード2と、半導体レーザ1からの光を集光して放射すると共に、物体14からの戻り光を集光して半導体レーザ1に入射させるレンズ3と、半導体レーザ1を駆動する発振波長変調手段となるレーザドライバ4と、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部5と、電流−電圧変換増幅部5の出力電圧から搬送波を除去するフィルタ部6と、フィルタ部6の出力電圧に含まれる自己結合信号であるMHPの数を数える計数部7と、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの周期を計測する信号抽出部8と、計数部7が計測したMHPの数に基づいて物体14との距離や物体14の速度を算出する第1の演算部9と、信号抽出部8が計測したMHPの周期に基づいて物体14の変位や速度を算出する第2の演算部10と、第1、第2の演算部9,10の算出結果を表示する表示部11と、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらを物理量センサの計測結果として採用するかを判定する切替部12と、切替部12の判定結果に応じて第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらか一方を選択して表示部11に出力するスイッチ13とを有する。フォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とは検出手段を構成し、切替部12とスイッチ13とは切替手段を構成している。
【0022】
以下、説明容易にするために、半導体レーザ1には、モードホッピング現象を持たない型(VCSEL型、DFBレーザ型)のものが用いられているものと想定する。
レーザドライバ4は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ1に供給する。これにより、半導体レーザ1は、注入電流の大きさに比例して発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間P1と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間P2とを交互に繰り返すように駆動される。このときの半導体レーザ1の発振波長の時間変化は、図20に示したとおりである。本実施の形態では、発振波長の最大値λb及び発振波長の最小値λaはそれぞれ常に一定になされており、それらの差λb−λaも常に一定になされている。
【0023】
半導体レーザ1から出射したレーザ光は、レンズ3によって集光され、物体14に入射する。物体14で反射された光は、レンズ3によって集光され、半導体レーザ1に入射する。ただし、レンズ3による集光は必須ではない。フォトダイオード2は、半導体レーザ1の内部又はその近傍に配置され、半導体レーザ1の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部5は、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する。
【0024】
フィルタ部6は、変調波から重畳信号を抽出する機能を有するものである。図2(A)は電流−電圧変換増幅部5の出力電圧波形を模式的に示す図、図2(B)はフィルタ部6の出力電圧波形を模式的に示す図である。これらの図は、フォトダイオード2の出力に相当する図2(A)の波形(変調波)から、図2の半導体レーザ1の発振波形(搬送波)を除去して、図2(B)のMHP波形(干渉波形)を抽出する過程を表している。
【0025】
計数部7は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。計数部7は、論理ゲートからなるカウンタを利用するものでもよいし、他の手段を用いるものでもよい。
【0026】
信号抽出部8は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの周期をMHPが発生する度に計測する。ここで、自己結合信号であるMHPについて説明する。図3に示すように、ミラー層1013から物体14までの距離をL、レーザの発振波長をλとすると、以下の共振条件を満足するとき、物体14からの戻り光と半導体レーザ1の光共振器内のレーザ光は強め合い、レーザ出力がわずかに増加する。
L=qλ/2 ・・・(1)
式(1)において、qは整数である。この現象は、物体14からの散乱光が極めて微弱であっても、半導体レーザ1の共振器内の見かけの反射率が増加することにより、増幅作用が生じ、十分観測できる。
【0027】
図4は、半導体レーザ1の発振波長をある一定の割合で変化させたときの発振波長とフォトダイオード2の出力波形との関係を示す図である。式(1)に示したL=qλ/2を満足したときに、戻り光と光共振器内のレーザ光の位相差が0°(同位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も強め合い、L=qλ/2+λ/4のときに、位相差が180°(逆位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も弱め合う。そのため、半導体レーザ1の発振波長を変化させていくと、レーザ出力が強くなるところと弱くなるところとが交互に繰り返し現れ、このときのレーザ出力をフォトダイオード2で検出すると、図4に示すように一定周期の階段状の波形が得られる。このような波形は一般的には干渉縞と呼ばれる。この階段状の波形、すなわち干渉縞の1つ1つがMHPである。ある一定時間において半導体レーザ1の発振波長を変化させた場合、測定距離に比例してMHPの数は変化する。
【0028】
図5(A)〜図5(D)は信号抽出部8の動作を説明するための図であり、図5(A)はフィルタ部6の出力電圧の波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図、図5(B)はMHPを2値化した波形を示す図、図5(C)は信号抽出部8に入力されるサンプリングクロックを示す図、図5(D)は図5(B)に対応する信号抽出部8の測定結果を示す図である。
【0029】
まず、信号抽出部8は、図5(A)に示すフィルタ部6の出力電圧が上昇してしきい値TH1以上になったときにハイレベルと判定し、フィルタ部6の出力電圧が下降してしきい値TH2(TH2<TH1)以下になったときにローレベルと判定することにより、フィルタ部6の出力を2値化する。そして、信号抽出部8は、2値化したMHPの立ち上がりエッジの周期(すなわち、MHPの周期)を立ち上がりエッジが発生する度に測定する。このとき、信号抽出部8は、図5(C)に示すサンプリングクロックの周期を1単位としてMHPの周期を測定する。図5(D)の例では、信号抽出部8は、MHPの周期としてTα,Tβ,Tγを順次測定している。図5(C)、図5(D)から明らかなように、周期Tα,Tβ,Tγの大きさは、それぞれ5[samplings]、4[samplings]、2[samplings]である。サンプリングクロックの周波数は、MHPの取り得る最高周波数に対して十分に高いものとする。
【0030】
次に、第1の演算部9は、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと計数部7が数えたMHPの数に基づいて、物体14との距離および物体14の速度を算出する。図6は第1の演算部9の構成の1例を示すブロック図、図7は第1の演算部9の動作を示すフローチャートである。第1の演算部9は、計数部7の計数結果等を記憶する記憶部90と、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと計数部7の計数結果に基づいて物体14との距離の候補値と物体14の速度の候補値を算出する物理量候補値算出部91と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数の2倍数との大小関係に基づいて物体14の状態を判定する状態判定部92と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数の2倍数との大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果に正負の符号を付与する符号付与部93と、計数部7の計数結果の平均値を算出することにより、半導体レーザ1と物体14との平均距離に比例したMHPの数である距離比例個数を求める距離比例個数算出部94と、状態判定部92の判定結果に基づいて候補値の選定を行い、物体14との距離および物体14の速度を確定する物理量確定部95とから構成される。
【0031】
本実施の形態では、物体14の状態を所定の条件を満たす微小変位状態、あるいは微小変位状態よりも動きが大きい変位状態のいずれかであるとする。発振期間P1と発振期間P2の1期間あたりの物体14の平均変位をVとしたとき、微小変位状態とは(λb−λa)/λb>V/Lbを満たす状態であり(ただし、Lbは時刻tのときの距離)、変位状態とは(λb−λa)/λb≦V/Lbを満たす状態である。
【0032】
記憶部90は、計数部7の計測結果を記憶する。物理量候補値算出部91は、現時刻tにおける距離の候補値Lα(t),Lβ(t)と速度の候補値Vα(t),Vβ(t)を次式のように算出して、記憶部90に格納する(図7ステップS10)。
Lα(t)=λa×λb×(MHP(t−1)+MHP(t))
/{4×(λb−λa)} ・・・(2)
Lβ(t)=λa×λb×(|MHP(t−1)−MHP(t)|)
/{4×(λb−λa)} ・・・(3)
Vα(t)=(MHP(t−1)−MHP(t))×λb/4 ・・・(4)
Vβ(t)=(MHP(t−1)+MHP(t))×λb/4 ・・・(5)
【0033】
式(2)〜式(5)において、MHP(t)は現時刻tにおいて算出されたMHPの数、MHP(t−1)はMHP(t)の1回前に算出されたMHPの数である。例えば、MHP(t)が第1の発振期間P1の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第2の発振期間P2の計数結果であり、逆にMHP(t)が第2の発振期間P2の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第1の発振期間P1の計数結果である。
【0034】
候補値Lα(t),Vα(t)は物体14が微小変位状態にあると仮定して計算した値であり、候補値Lβ(t),Vβ(t)は物体14が変位状態にあると仮定して計算した値である。物理量候補値算出部91は、式(2)〜式(5)の計算を計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0035】
次に、状態判定部92は、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数2NLとの大小関係に基づいて物体14の状態を判定する(図7ステップS11)。図8、図9は状態判定部92の動作を説明するための図であり、計数部7の計数結果の時間変化を示す図である。図8、図9において、Nuは第1の発振期間P1の計数結果、Ndは第2の発振期間P2の計数結果である。
【0036】
物体14の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも小さく、物体14が単振動している場合、計数結果Nuの時間変化と計数結果Ndの時間変化は、図8に示すように互いの位相差が180度の正弦波形となる。上記の説明では、このときの物体14の状態を微小変位状態としている。図20から明らかなように、第1の発振期間P1と第2の発振期間P2は交互に訪れるので、計数結果Nuと計数結果Ndも交互に現れる。距離比例個数NLは、図8に示した正弦波形の平均値に相当する。
【0037】
一方、物体14の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも大きい場合、計数結果Nuの時間変化は、図9の300で示す負側の波形が正側に折り返された形になり、同様に計数結果Ndの時間変化は、図9の301で示す負側の波形が正側に折り返された形になる。上記の説明では、この計数結果の折り返しが生じている部分における物体14の状態を変位状態としている。一方、計数結果の折り返しが生じていない部分における物体14の状態は、微小変位状態である。
【0038】
現時刻tの1回前に計測された計数部7の計数結果をN(t−1)とすると、計数結果の折り返しが生じている変位状態では、N(t−1)≧2NLが成立する。また、計数結果の折り返しが生じていない微小変位状態では、N(t−1)<2NLが成立する。状態判定部92は、N(t−1)≧2NLが成立する場合、物体14が変位状態であると判定し、N(t−1)<2NLが成立する場合、物体14が微小変位状態であると判定する。
状態判定部92は、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0039】
次に、符号付与部93は、計数部7の1回前の計数結果N(t−1)とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数2NLとの大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果N(t)に正負の符号を付与する(図7ステップS12〜S14)。符号付与部93は、具体的には以下の式を実行する。
If N(t−1)≧2NL Then N’(t)→−N(t) ・・・(6)
If N(t−1)<2NL Then N’(t)→+N(t) ・・・(7)
【0040】
符号付与部93は、式(6)に示すように、N(t−1)≧2NLが成立する場合には、計数部7の現時刻tの計数結果N(t)に負の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする(図7ステップS14)。また、符号付与部93は、式(7)に示すように、N(t−1)<2NLが成立する場合には、計数部7の現時刻tの計数結果N(t)に正の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする(図7ステップS13)。
符号付き計数結果N’(t)は、記憶部90に格納される。符号付与部93は、以上のような符号付与処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0041】
次に、距離比例個数算出部94は、符号付与部93によって符号が与えられた符号付き計数結果から距離比例個数NLを求める(図7ステップS15)。距離比例個数算出部94は、次式に示すように符号付き計数結果を用いて、距離比例個数NLを算出する。
NL=(Nu’+Nd’)/2 ・・・(8)
【0042】
式(8)において、Nu’は計数結果Nuに符号付与処理を施した後の符号付き計数結果、Nd’は計数結果Ndに符号付与処理を施した後の符号付き計数結果である。なお、物理量の計測開始初期時においては、符号付与部93が大小関係を判定するのに必要な距離比例個数NLが得られていない。このため、符号付与部93は、符号付き計数結果を出力することはできない。したがって、計測開始初期時においては、距離比例個数算出部94は、式(8)の代わりに計数部7の計数結果Nu,Ndを用いる次式により距離比例個数NLを算出する。
NL=(Nu+Nd)/2 ・・・(9)
【0043】
つまり、距離比例個数算出部94は、計測開始初期時に式(9)を用いて距離比例個数NLを算出し、符号付与部93によって距離比例個数NLの算出に必要な符号付き計数結果が算出されるようになった後は式(8)を用いて距離比例個数NLを算出することになる。
【0044】
距離比例個数算出部94が算出した距離比例個数NLは、記憶部90に格納される。距離比例個数算出部94は、以上のような距離比例個数NLの算出処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。なお、本実施の形態では、2回分の計数結果を用いて距離比例個数NLを算出しているが、2m(mは正の整数)回の計数結果を用いて距離比例個数NLを算出するようにしてもよい。
【0045】
次に、物理量確定部95は、状態判定部92の判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図7ステップS16〜S18)。物理量確定部95は、物体14が微小変位状態と判定された場合、記憶部90に記憶されている速度の候補値Vα(t)を物体14の速度として確定し、距離の候補値Lα(t)を物体14との距離として確定する(図7ステップS17)。また、物理量確定部95は、物体14が変位状態と判定された場合、記憶部90に記憶されている速度の候補値Vβ(t)を物体14の速度として確定し、距離の候補値Lβ(t)を物体14との距離として確定する(図7ステップS18)。
【0046】
なお、MHP(t−1)とMHP(t)の大小関係によって、Vβ(t)は必ず正の値となり、Vα(t)は正又は負の値のいずれかとなるが、これらの符号は物体14の速度の向きを表現したものではない。発振波長が増加している方の半導体レーザのMHPの数が、発振波長が減少している方の半導体レーザのMHPの数よりも大きいとき、物体14の速度は正方向(レーザに接近する方向)となる。
第1の演算部9は、以上のステップS10〜S18の処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0047】
一方、第2の演算部10は、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。信号抽出部8で用いるサンプリングクロックの周波数をfad[Hz]、基準周期をT0[samplings]、半導体レーザ1の発振平均波長をλ[m]とし、演算対象のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]長くなったとすると、この演算対象のMHPの周期における物体14の変位D[m]は次式のようになる。
D=n×λ/(2×T0) ・・・(10)
【0048】
基準周期T0とは、物体14が静止していたときのMHPの周期、もしくは算出された距離におけるMHPの周期である。演算対象のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]短くなった場合には、式(10)の周期変化量nの符号を負にすればよい。半導体レーザ1の発振波長が増加する第1の発振期間P1において、変位Dが正の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向であり、変位Dが負の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向である。また、発振波長が減少する第2の発振期間P2において、変位Dが正の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向であり、変位Dが負の場合、物体14の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向である。なお、基準周期T0から物体14との距離を算出することができる。算出方法としては、特許文献1において、変位が0として算出する方法がある。
【0049】
また、演算対象のMHPの周期は(T0+n)/fadなので、演算対象のMHPの周期における物体14の速度V[m/s]は次式のようになる。
V=n×λ/(2×T0)×fad/(T0+n) ・・・(11)
【0050】
第2の演算部10は、式(10)により物体14の変位Dを算出することができ、式(11)により物体14の速度Vを算出することができる。例えばサンプリングクロックの周波数fadを16[MHz]、基準周期T0を160[samplings]、半導体レーザ1の平均波長を850[nm]とし、演算対象のMHPの周期が基準周期T0から1[samplings]長くなったとすると、演算対象のMHPの周期における物体14の変位Dは5.31[nm]、速度Vは1.05[mm/s]と計算できる。第2の演算部10は、以上のような算出処理をMHPが発生する度に行う。
【0051】
ここで、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波(三角波)の半周期あたりの、物体14との距離に関係するMHPの数をNlとする。物体14の平均速度の絶対値を搬送波半周期あたりの変位に直したときにλ/2×Naとすると、搬送波半周期あたりのMHPの数は、Nl+NaもしくはNl−Naとなる。搬送波半周期あたりの変位がλ/2×Nbの速度で動いているとき、搬送波半周期あたりのMHPの数はNl+NbもしくはNl−Nbになるので、この数に対応するMHPの周期が観測される。物体14の変位Dや速度Vを求めるには、個々のMHPの周期から搬送波半周期あたりのMHPの数を逆算し、このMHPの数から物体14の変位Dや速度Vを算出すればよい。上記の式(10)、式(11)は、このような導出原理に基づくものである。なお、上記の平均速度とは、ある1つのMHP間の平均速度のことである。
【0052】
第1の演算部9が行うバッチ処理方式の算出処理では、物体の変位と速度の分解能は半導体レーザの半波長λ/2程度である。これに対して、第2の演算部10が行う逐次処理方式の算出処理では、変位と速度の分解能はλ/2×n/T0なので、半波長λ/2未満の高分解能を実現することができる。また、バッチ処理方式の算出処理では、搬送波の半周期の計測時間がかかるのに対して、逐次処理方式の算出処理では、1つ1つのMHPの周期から物体の変位や速度を求めることができるので、計測に要する時間を大幅に短縮することができ、搬送波周波数よりも速度の変化が速い物体にも対応することができる。
【0053】
次に、切替部12は、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のうちどちらを採用するかを切り替える。図10は切替部12の動作を示すフローチャートである。切替部12は、信号抽出部8が計測したMHPの周期Tから次式のように単位時間当たりのMHPの数Nを算出する(図10ステップS20)。
N=1/T ・・・(12)
【0054】
そして、切替部12は、MHPの数Nの変化の周波数を搬送波半周期よりも短い一定時間tm(tm<Tcar/2)にわたって調べ、この変化の周波数のうち最大のものをfsigとし、搬送波の周波数をfcar(=1/Tcar)としたとき、式(13)が成立するかどうかを判定する(図10ステップS21)。
fsig>fcar/A ・・・(13)
Aは1より大きい所定の定数で、例えば10である。
【0055】
切替部12は、式(13)が成立する場合、第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果を採用すべきと判定し(ステップS22)、式(13)が成立しない場合、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果を採用すべきと判定する(ステップS23)。
【0056】
すなわち、切替部12は、式(13)が成立する場合、測定対象の速度の変化が速く、物理量センサの計測結果が搬送波周波数に対して十分低い(1/A程度)周波数の線形結合で表現できないと判定する。この場合、第1の演算部9の算出結果は測定者にとって有用な結果ではなく、第2の演算部10の算出結果が有用である。したがって、切替部12は、第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定する。反対に、式(13)が成立しない場合、切替部12は、物理量センサの計測結果が搬送波周波数に対して十分低い周波数の線形結合で表現できると判定する。この場合、第1の演算部9の算出結果は測定者にとって有用な結果である。したがって、切替部12は、第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定する。切替部12は、ステップS20〜S23の処理を一定時間tm毎に行う。
【0057】
スイッチ13は、切替部12が第1の演算部9の算出結果を採用すべきと判定した場合、第1の演算部9の算出結果を選択して出力し、切替部12が第2の演算部10の算出結果を採用すべきと判定した場合、第2の演算部10の算出結果を選択して出力する。
こうして、表示部11は、第1の演算部9の算出結果または第2の演算部10の算出結果のいずれかをリアルタイムで表示する。
以上のように、本実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に適宜切り替えることができる。
【0058】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを自動的に切り替えたが、物理量センサを用いる測定者が手動で切り替えることも可能である。図11は本発明の第2の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。本実施の形態の物理量センサは、半導体レーザ1と、フォトダイオード2と、レンズ3と、レーザドライバ4と、電流−電圧変換増幅部5と、フィルタ部6と、計数部7と、信号抽出部8と、第1の演算部9と、第2の演算部10と、表示部11と、スイッチ13と、計数部7の計測結果、信号抽出部8の計測結果、第1の演算部9の算出結果、第2の演算部10の算出結果のうち少なくとも1つを第1、第2の演算部9,10の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示部15と、測定者の指示に応じて、第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のどちらか一方を物理量センサの計測結果として採用する切替指示入力部16とを有する。
【0059】
情報提示部15は、計数部7の計測結果、信号抽出部8の計測結果、第1の演算部9の算出結果、第2の演算部10の算出結果のうち少なくとも1つをバッチ処理方式と逐次処理方式の切替判断用の情報として、この情報を数値で表示するか、あるいは情報の履歴をグラフで表示する。
【0060】
物理量センサを用いる測定者は、情報提示部15が表示した情報を見て、バッチ処理方式と逐次処理方式のどちらで有用な情報が得られているかを判断し、バッチ処理方式と逐次処理方式のどちらか一方を選択すべく切替指示入力部16を操作する。
切替指示入力部16は、測定者の操作に応じて、第1の演算部9の算出結果または第2の演算部10の算出結果のどちらか一方をスイッチ13に選択させる。
【0061】
その他の構成の動作は、第1の実施の形態で説明したとおりである。こうして、表示部11は、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果または第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果のどちらか一方を、測定者の選択に応じて表示することになる。
以上のように、本実施の形態では、バッチ処理方式と逐次処理方式とを手動で切り替えることができる。
【0062】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、基準周期T0を物体14が静止している状態でのMHPの周期としたが、本実施の形態は基準周期T0の他の求め方を説明するものである。図12は本発明の第3の実施の形態に係る第2の演算部10の構成例を示すブロック図である。第2の演算部10は、物理量算出部100と、周期算出部101とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同様でよい。
【0063】
周期算出部101は、第1の演算部9が算出した距離からMHPの周期を求める。MHPの周波数は測定距離に比例し、MHPの周期は測定距離に反比例する。そこで、MHPの周期と距離との関係を予め求めて周期算出部101のデータベース(不図示)に登録しておけば、周期算出部101は、第1の演算部9によって算出された距離に対応するMHPの周期をデータベースから取得することにより、MHPの周期を求めることができる。あるいは、MHPの周期と距離との関係を示す数式を予め求めて設定しておけば、周期算出部101は、第1の演算部9によって算出された距離を数式に代入することにより、MHPの周期を算出することができる。
【0064】
物理量算出部100は、周期算出部101が求めた周期を基準周期T0とし、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。つまり、物理量算出部100は、第1の実施の形態で説明した式(10)により物体14の変位Dを算出し、式(11)により物体14の速度Vを算出する。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体14の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0065】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図13は本発明の第4の実施の形態に係る第2の演算部10の構成例を示すブロック図である。第2の演算部10は、物理量算出部100と、計数部7の計数結果等を記憶する記憶部102と、計数部7の計数結果の平均値を算出することにより距離比例個数NLを求める距離比例個数算出部103と、計数部7の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数との大小関係に応じて計数部7の最新の計数結果に正負の符号を付与する符号付与部104と、距離比例個数NLからMHPの周期を算出する周期算出部105とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同様でよい。
【0066】
計数部7の計数結果は、記憶部102に格納される。距離比例個数算出部103は、計数部7の計数結果から、第1の実施の形態の距離比例個数算出部94と同様にして距離比例個数NLを求める。距離比例個数NLは、記憶部102に格納される。距離比例個数算出部103は、距離比例個数NLの算出処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0067】
次に、符号付与部104は、第1の実施の形態の符号付与部93と同様にして計数部7の最新の計数結果N(t)に正負の符号を付与する。正負の符号が与えられた符号付き計数結果N’(t)は、記憶部102に格納される。符号付与部104は、符号付与処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0068】
次に、周期算出部105は、距離比例個数NLからMHPの周期Tを次式のように算出する。
T=C/(2×fcar×NL) ・・・(14)
ここで、fcarは搬送波(三角波)の周波数、Cは光速である。
【0069】
物理量算出部100は、周期算出部105が求めた周期を基準周期T0とし、信号抽出部8の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体14の変位と速度を算出する。つまり、物理量算出部100は、第1の実施の形態で説明した式(10)により物体14の変位Dを算出し、式(11)により物体14の速度Vを算出する。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体14の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0070】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図14は本発明の第5の実施の形態に係る第1の演算部9の構成例を示すブロック図、図15はこの第1の演算部9の動作を示すフローチャートである。本実施の形態の第1の演算部9は、記憶部90と、物理量候補値算出部91と、計数部7の第1の発振期間P1の計数結果と第2の発振期間P2の計数結果の増減方向の一致不一致に基づいて物体14の状態を判定する状態判定部92aと、物理量確定部95とから構成される。
【0071】
物理量候補値算出部91の動作は、第1の実施の形態と同じである(図15ステップS10)。
次に、状態判定部92aは、計数部7の第1の発振期間P1の計数結果Nuと第2の発振期間P2の計数結果Ndの増減方向の一致不一致に基づいて物体14の状態を判定する(図15ステップS19)。状態判定部92aは、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が逆方向の場合、物体14が微小変位状態であると判定し、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が同方向の場合、物体14が変位状態であると判定する。
【0072】
現時刻tの計数結果がNuであれば、計数結果Nuの増減は、現時刻tの計数結果Nu(t)と2回前の計数結果Nu(t−2)との差Nu(t)−Nu(t−2)の符号で判別することができ、計数結果Ndの増減は、1回前の計数結果Nd(t−1)と3回前の計数結果Nd(t−3)との差Nd(t−1)−Nd(t−3)の符号で判別することができる。一方、現時刻tの計数結果がNdであれば、計数結果Nuの増減は、1回前の計数結果Nu(t−1)と3回前の計数結果Nu(t−3)との差Nu(t−1)−Nu(t−3)の符号で判別することができ、計数結果Ndの増減は、現時刻tの計数結果Nd(t)と2回前の計数結果Nd(t−2)との差Nd(t)−Nd(t−2)の符号で判別することができる。
【0073】
このような増減の判別の結果、計数結果Nu,Ndが共に増加している場合あるいは共に減少している場合は、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が同方向であり、物体14が変位状態であると判断することができる。また、計数結果Nu,Ndのどちらか一方が増加していて他方が減少している場合は、計数結果Nuの時間変化に対して計数結果Ndの時間変化が逆方向であり、物体14が微小変位状態であると判断することができる。
状態判定部92aは、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0074】
第1の実施の形態と同様に、物理量確定部95は、状態判定部92aの判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図15ステップS16〜S18)。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。図9で説明したような計数結果の折り返しが生じると、計数結果Nu,Ndの平均値に変化が生じる。そこで、状態判定部92aは、計数結果Nu,Ndの平均値の変化に基づいて物体14の状態を判定するようにしてもよい。本実施の形態においても、第1の演算部9の構成は第5の実施の形態と同様であるので、図14、図15の符号を用いて説明する。
【0076】
物理量候補値算出部91の動作は、第1の実施の形態と同じである(図15ステップS10)。
本実施の形態の状態判定部92aは、現時刻t以前に求めた計数結果Nuの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値以内であり、かつ現時刻t以前に求めた計数結果Ndの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値以内である場合、計数結果Nu,Ndのそれぞれの平均値に変化無しと判断して、物体14が微小変位状態であると判定する(図15ステップS19)。
【0077】
また、状態判定部92aは、現時刻t以前に求めた計数結果Nuの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値を超えて変化したり、現時刻t以前に求めた計数結果Ndの最新の平均値がこの値よりも前に求めた計数結果Nuの平均値に対して所定のしきい値を超えて変化したりした場合、物体14が変位状態であると判定する(図15ステップS19)。
状態判定部92aは、以上のような判定処理を、計数部7によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0078】
第1の実施の形態と同様に、物理量確定部95は、状態判定部92aの判定結果に基づいて物体14との距離および物体14の速度を確定する(図15ステップS16〜S18)。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、切替部12は信号抽出部8の計測結果に基づいて第1の演算部9の算出結果と第2の演算部10の算出結果のうちどちらを採用するかを切り替えているが、計数部7の計数結果に基づいて切り替えるようにしてもよい。図16は本発明の第7の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0080】
図17は本実施の形態の切替部12aの動作を示すフローチャートである。切替部12aは、計数部7の計数結果の変化の周波数をfn、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、次式が成立するかどうかを判定する(図17ステップS24)。
fn>fcar/B ・・・(15)
Bは1より大きい所定の定数で、例えば10である。
【0081】
切替部12aは、式(15)が成立する場合、第2の演算部10が行った逐次処理方式の算出結果を採用すべきと判定し(ステップS25)、式(15)が成立しない場合、第1の演算部9が行ったバッチ処理方式の算出結果を採用すべきと判定する(ステップS26)。切替部12aは、ステップS24〜S26の処理を一定時間毎に行う。
物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
[第8の実施の形態]
次に、本発明の第8の実施の形態について説明する。第1〜第7の実施の形態では、MHP波形を含む電気信号を検出する検出手段としてフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とを用いたが、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することも可能である。図18は本発明の第8の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の物理量センサは、第1〜第7の実施の形態のフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5の代わりに、検出手段として電圧検出部17を用いるものである。
【0083】
電圧検出部17は、半導体レーザ1の端子間電圧、すなわちアノード−カソード間電圧を検出して増幅する。半導体レーザ1から放射されたレーザ光と物体14からの戻り光とによって干渉が生じるとき、半導体レーザ1の端子間電圧には、MHP波形が現れる。したがって、半導体レーザ1の端子間電圧からMHP波形を抽出することが可能である。
【0084】
フィルタ部6は、電圧検出部17の出力電圧から搬送波を除去する。物理量センサのその他の構成は、第1〜第7の実施の形態と同じである。
こうして、本実施の形態では、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することができ、第1〜第7の実施の形態と比較して物理量センサの部品を削減することができ、物理量センサのコストを低減することができる。また、本実施の形態では、フォトダイオードを使用しないので、外乱光による影響を除去することができる。
【0085】
本実施の形態では、レーザドライバ4から半導体レーザ1に供給する駆動電流をレーザ発振のしきい値電流付近に制御することが好ましい。これにより、半導体レーザ1の端子間電圧からMHPを抽出することが容易になる。
【0086】
なお、第1〜第7の実施の形態において、特開2009−47676号公報に開示された技術を用いて、計数部7の計数結果を補正するようにしてもよい。
また、第1の実施の形態の第1の演算部9の代わりに、特許文献1に開示された距離・速度算出方法を用いて物体14との距離及び物体14の速度を算出するようにしてもよい。
【0087】
なお、第1〜第8の実施の形態において少なくとも計数部7と信号抽出部8と第1の演算部9と第2の演算部10と切替部12,12aと情報提示部15とは、例えばCPU、メモリおよびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1〜第8の実施の形態で説明した処理を実行する。
また、第1〜第8の実施の形態で計測する物理量の例としては、距離、変位、速度、振動周波数、振動振幅などの他に質量、長さ、時間、エネルギーがある。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の物理量を計測する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1…半導体レーザ、2…フォトダイオード、3…レンズ、4…レーザドライバ、5…電流−電圧変換増幅部、6…フィルタ部、7…計数部、8…信号抽出部、9…第1の演算部、10…第2の演算部、11…表示部、12,12a…切替部、13…スイッチ、14…物体、15…情報提示部、16…切替指示入力部、17…電圧検出部、90…記憶部、91…物理量候補値算出部、92,92a…状態判定部、93…符号付与部、94…距離比例個数算出部、95…物理量確定部、100…物理量算出部、101…周期算出部、102…記憶部、103…距離比例個数算出部、104…符号付与部、105…周期算出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、
この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、
前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、
前記計数手段の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手段と、
前記信号抽出手段が計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手段と、
前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段とを備えることを特徴とする物理量センサ。
【請求項2】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、前記信号抽出手段が計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項3】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、
前記計数手段の計数結果、前記信号抽出手段の計測結果、前記第1の演算手段の算出結果、前記第2の演算手段の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手段の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手段と、
測定者の指示に応じて、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手段とから構成されることを特徴とする物理量センサ。
【請求項4】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、前記計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の物理量センサにおいて、
前記第1の演算手段は、前記計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、
前記第2の演算手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手段が計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量センサ。
【請求項6】
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、
この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、
前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、
前記計数手順の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手順と、
前記信号抽出手順で計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手順と、
前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手順とを備えることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項7】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、前記信号抽出手順で計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項8】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、
前記計数手順の計数結果、前記信号抽出手順の計測結果、前記第1の演算手順の算出結果、前記第2の演算手順の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手順の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手順と、
測定者の指示に応じて、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手順とから構成されることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項9】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、前記計数手順の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の物理量計測方法において、
前記第1の演算手順は、前記計数手順によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手順の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、
前記第2の演算手順は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手順で計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項1】
測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、
この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、
前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、
前記計数手段の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手段と、
前記信号抽出手段が計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手段と、
前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手段とを備えることを特徴とする物理量センサ。
【請求項2】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、前記信号抽出手段が計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項3】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、
前記計数手段の計数結果、前記信号抽出手段の計測結果、前記第1の演算手段の算出結果、前記第2の演算手段の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手段の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手段と、
測定者の指示に応じて、前記第1の演算手段の算出結果と前記第2の演算手段の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手段とから構成されることを特徴とする物理量センサ。
【請求項4】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記切替手段は、前記計数手段の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手段の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手段の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の物理量センサにおいて、
前記第1の演算手段は、前記計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、
前記第2の演算手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手段が計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量センサ。
【請求項6】
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、
この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、
前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、
前記計数手順の計数結果に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第1の演算手順と、
前記信号抽出手順で計測した個々の周期に基づいて前記測定対象の物理量を算出する第2の演算手順と、
前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらを物理量の計測結果として採用するかを切り替え可能な切替手順とを備えることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項7】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、前記信号抽出手順で計測した個々の周期から前記干渉波形の単位時間当たりの数を算出し、この数の変化の周波数をfsig、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fsig>fcar/A(Aは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fsig>fcar/Aが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項8】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、
前記計数手順の計数結果、前記信号抽出手順の計測結果、前記第1の演算手順の算出結果、前記第2の演算手順の算出結果のうち少なくとも1つを前記第1、第2の演算手順の算出結果の切替判断用の情報として、この情報を測定者に提示する情報提示手順と、
測定者の指示に応じて、前記第1の演算手順の算出結果と前記第2の演算手順の算出結果のどちらか一方を物理量の計測結果として採用する切替指示入力手順とから構成されることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項9】
請求項6記載の物理量計測方法において、
前記切替手順は、前記計数手順の計数結果の変化の周波数をfn、前記半導体レーザの発振波長変調の搬送波の周波数をfcarとしたとき、fn>fcar/B(Bは1より大きい所定の定数)が成立する場合、前記第2の演算手順の算出結果を採用すべきと判定し、fn>fcar/Bが成立しない場合、前記第1の演算手順の算出結果を採用すべきと判定することを特徴とする物理量センサ。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の物理量計測方法において、
前記第1の演算手順は、前記計数手順によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手順の計数結果とから前記測定対象との距離および前記測定対象の速度のうち少なくとも一方を算出し、
前記第2の演算手順は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記信号抽出手順で計測した周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位および速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−106851(P2011−106851A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259670(P2009−259670)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
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