狭窄血管における壁振動を評価するための超音波技法
解剖学的構造に関する2Dイメージにおいてブリュイ源の位置を特定するため、ならびに/または振動およびその原因の血流についての情報を同時に取得するため、組織振動の超音波イメージングのためのリアルタイム信号処理技法を提供する。ブリュイは、超音波エコーのアンサンブルを使用して、量的に評価される。信号処理は、壁変位の推定と、時間分解振動スペクトルの表示とを可能にする。振動は、検出され、振幅および周波数に従って色分けされ、リアルタイムにBモードイメージおよび/またはカラーフローイメージ上にオーバーレイされる。提案される振動イメージングアルゴリズムは、従来の超音波カラーフローイメージング中に獲得されたデータと、通常はカラーフローイメージングにおいて抑制されるクラッタ信号とを使用して、組織振動を検出し、特徴付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的には、米国海軍研究局(ONR:Office of Naval Research)から助成金を受けており(助成金番号N00014−01−G−0460)、米国政府は、本発明に一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0002】
2世紀以上にわたって、動脈狭窄(arterial stenosis)は、聴診器を使用して聴くことのできるブリュイ(bruit)として知られる音に関連付けられてきた。聴診法(聴診器を使用する受動的聴音)が、腎血管高血圧症、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、および内出血など多くの血管疾患において、ブリュイおよび心雑音(murmur)の音量および音高を質的に評価するために定石的に使用されている。
【0003】
狭窄、動脈瘤、動静脈瘻、および偽動脈瘤に関連付けられる血管音は、血流が高圧力領域から狭い孔を通って低圧力領域に流れるときに生み出される渦によって血管壁に加えられる力によって生み出されることが、今では明らかにされている。管腔面積は狭窄によって縮小され、したがって、狭窄の隘路における流速は高められる。流速のこの局所的な高まりは、狭窄後拡張領域が境界層剥離(flow separation)を防ぐのに十分な流線型を成していない(すなわち、狭窄が「ベンチュリ管(venturi tube)」でない)場合、狭窄後ジェット(post−stenotic jet)を生み出す。ジェットの境界を境とする速度の差によって、流体剪断応力(fluid shear)の大きい領域が生み出される。これらの剪断力は、流れの中に渦を生じさせ、その渦が次に、層状の流体の流れに対する抵抗を生じさせる。渦の存在は、狭窄後領域における流速および圧力の変動の原因となり、それらの変動は、血管壁における対応する運動を引き起こす。したがって、狭窄を越えた後の圧力降下によって生み出されるエネルギーは、血管壁のこれらの力学的振動と、血液の微少な加熱とを通して消散される。血管壁および周囲組織における局所的振動は、皮膚表面に達したとき、可聴の「ブリュイ」および「心雑音」として、または触診可能な「震動」として現れる。動脈壁の弾性も、回路にキャパシタンスを導入する。狭窄後キャパシタンス(post−stenotic capacitance)は、収縮期に狭窄から遠位の圧力が上昇する原因となる。あまり深刻でない狭窄の場合、狭窄を越えた後の圧力降下は、ピーク収縮期圧力フェーズ中にだけ著しく、したがって、ブリュイは収縮期フェーズ中にだけ持続する。しかし、より深刻な狭窄の場合、狭窄から遠位の圧力降下は大きく、したがって、拡張期フェーズ中にも著しい圧力勾配が狭窄を越えた後に存在し、ブリュイが拡張期フェーズ初期まで長引く原因となる。
【0004】
振動のパワースペクトルは、ストローハル数(Strouhal number)を介して孔の直径および局所的流速と直接関係付けられる「折点周波数(break frequency)」と呼ばれる周波数ピークを示す。言い換えると、折点周波数は、狭窄箇所の残存管腔直径(residual lumen diameter)に逆比例する。高感度マイクロフォンを用いて記録されたブリュイおよび心雑音のスペクトル内容を定量化するために、血管音検査法(phonoangiography)および心音図検査法(phonocardiography)が開発され、頚動脈血管音検査法が、頚動脈狭窄の程度を推定するために、多数の臨床試験において有効に使用されている。しかし、聴診法および血管音検査法は、皮膚表面に到達する高強度振動の診断に制限され、振動の発生源が明確に弁別され得ないので、感度および特定性に乏しい。現在、ブリュイに関連付けられた振動を、その発生源において量的に映像化する診断ツールは存在しない。したがって、組織振動が診断において重要なことは示されたが、臨床的使用は今のところ限られている。皮膚表面に到達した振動の分析に限定されない、狭窄血管に関連付けられたブリュイおよび壁振動を分析するための非侵襲的技法を提供することが望ましい。
【0005】
過去20年のデュプレックスおよびカラーフロー超音波(duplex and color−flow ultrasound)の進歩は、解剖学的イメージとフローイメージとの同時利用をリアルタイムに可能にすることで、血管診断に重大な臨床的影響を及ぼした。超音波組織ドプライメージング(TDI)(ultrasonic tissue Doppler imaging)が、心臓壁および動脈における異常な壁運動の評価のために使用されてきた。従来のカラーフロー超音波イメージでは、異常な血流からの組織振動は、特徴的なスペックルアーチファクト(speckled artifact)を周囲組織において生じさせる。これらのアーチファクトは、組織振動を示し、狭窄を認知するのに役立つ。しかし、それらは解釈が難しく、定量的でもない。
【0006】
デュプレックス超音波の導入とともに、流速に基づいた狭窄の重症度の非侵襲的評価基準が開発された。これらの基準は非常に有用ではあるが、そのような技法は、壁振動スペクトルに存在する乱流情報を分析しない。高性能診断ツールを達成するため、壁振動と流速を計算に入れた、狭窄の重症度を評価するための非侵襲的な超音波ベースの技法を提供することが望ましい。
【0007】
【非特許文献1】Sikdar S, Shamdasani V, Gong L, Managuli R, Hayashi T, Mitake T, Kim Y. "A single mediaprocessor-based programmable ultrasound system," IEEE Trans Inf. Tech. Biomed 2003; 7:64-40
【非特許文献2】P. Stoica and it Moses in "Introduction to Spectral Analysis," Upper Saddle River, NJ: Prentice-Hall, 1997
【非特許文献3】Ferrara and Algazi, "A new wideband spread target maximum likelihood estimator for blood velocity estimation," IEEE Trans Ultrason Ferroelect Freq Contr.1991; 38:1-16
【非特許文献4】Bonnefous and Pesque, "Time domain formulation of pulse-Doppler ultrasound and blood velocity estimation by cross correlation," Ultrason Imaging, 1986; 8:73-85
【非特許文献5】Wilson, "Description of broad-band pulsed Doppler ultrasound processing using the. two-dimensional Fourier transform," Ultrason Imaging, 1991; 13:301-15
【非特許文献6】Munk and Jensen. "A new approach for the estimation of axial velocity using ultrasound" Ultrasonics, 2000; 37:661-5
【非特許文献7】Loupas and Gill, "Multifrequency Doppler: Improving the quality of spectral estimation by making full use of the information present in the backscattered RF echoes," IEEE Trans Ultrason Ferroelect Freq Contr., 1994; 42:672-88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、狭窄血管によって生み出される振動が検出され、その振幅および周波数に従って色分けされ、リアルタイムにBモードイメージおよび/またはカラーフローイメージ上にオーバーレイされる、超音波計器用の新しい組織振動検出モードおよびイメージングモードを開発することが望ましい。その場合、組織振動イメージングモードは、振動の発生源の位置を患者の解剖学的構造に関してより正確に特定するため、ならびに/または振動およびその原因の狭窄についての情報を同時に取得するために使用されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示される概念は、動脈狭窄に関連する組織振動を映像化することによって、そのような狭窄を検出し、位置的に特定し、定量化するために開発された。これらの振動によって引き起こされる音(ブリュイおよび心雑音)は、時には、聴診器を使用して聴くことができ、または皮膚表面で触診可能であり、内出血および動脈狭窄を始めとする様々な生理学的状態を示す。本明細書で開示される技法は、組織振動を検出し、相対的に広い対象領域において組織振動を映像化し、組織振動の測定された特性に基づいて狭窄の血行力学的特性を定量化するために、受信超音波エコーのアンサンブル(ensemble)を処理するアルゴリズムを利用する。本明細書で開示されるアルゴリズムは、人の末梢動脈および冠動脈における狭窄をリアルタイムに位置特定する際の組織振動の有用性を研究するために、プログラム可能な超音波システムにおいて実施された。
【0010】
一般に、本明細書で説明される振動イメージングアルゴリズムは、従来の超音波メージングの間に獲得された2D超音波データのアンサンブルと、そのようなデータに関連付けられる(従来のカラーフローイメージングにおいては通常は抑制される)クラッタ信号(clutter signal)とを使用して、組織振動を検出し、特徴付ける。3つの主要アルゴリズムを始めとする、この目的に適した様々な信号処理アルゴリズムが、振動のパラメトリックモデリングと、クラッタ、血流、および振動を区別する基準とに基づいて開発された。第1の主要アルゴリズムは、位相分解(phase decomposition)に基づいており、第2の主要アルゴリズムは、ノイズにおける複素指数(complex exponential)の推定に基づいており、第3の主要アルゴリズムは、自己回帰モデリング(autoregressive modeling)に基づいている。
【0011】
別の1組のアルゴリズムは、狭窄部位の近くの小さな対象領域(例えば、ドプラ距離ゲート)から受信された超音波エコーのより大きなアンサンブル(一般に64〜512)を利用して、組織振動の存在を確認し、改善された精度で組織振動の特性を測定する。運動の結果としての受信超音波エコーの遅い時間変化と、超音波ビームの方向に沿った近隣位置における組織の運動の変化の両方を利用する、2次元(2D)フーリエ変換を始めとする、この目的に適した様々な信号処理アルゴリズムが開発された。振動を識別するための第1のアルゴリズムは、直交復調受信エコーの2Dフーリエ変換に基づいており、ラドン変換(Radon transform)を利用して、振動に対応するスペクトルピークを識別する。振動を識別するための第2のアルゴリズムは、多周波平均(multi−frequency average)を利用して、振動に対応するスペクトルピークを識別し、その他の雑音源を抑制する。そのようなアルゴリズムを使用して動脈狭窄を位置的に特定し、等級分けするための方法が、本明細書でさらに開示される。
【0012】
本明細書では、血流の渦の衝撃によって生み出される軟部組織振動が、検出され、振幅および周波数に従って色分けされ、リアルタイムにBモードイメージおよび/またはカラーフローイメージ上にオーバーレイされる、超音波計器用の新しい組織振動イメージングモードが開示される。組織振動イメージングモードは、振動の発生源の位置を解剖学的構造に関してより正確に特定するため、ならびに/または振動およびその原因の血流についての情報を同時に取得するために使用されることができる。
【0013】
リアルタイム組織振動イメージングは、ソフトウェアプログラム可能信号とイメージ処理バックエンドとを用いる超音波システムにおいて、例えば、10フレーム/秒のフレームレートで実施された。予試験の結果は、動脈狭窄の結果として生み出される振動が、そのような技法を使用して検出され、映像化され得ることを確認した。振動振幅は、狭窄の下流の部位の近くで最大になることが予想され、この事実は、狭窄の位置を迅速かつ非侵襲的に特定するために使用されることができる。組織振動から強く後方散乱される超音波エコーは、ドプラ血流速度ベースの方法を使用した場合には血液からの弱い散乱が原因で検出することが難しい、狭窄の検出を改善することができる。
【0014】
可能性として、この新しい組織振動イメージング技法は、様々な装置および臨床現場において有用であることができる。例えば、組織振動検出機能を備える低コストのポータブルスクリーニング装置は、冠動脈および末梢動脈疾患を有する患者を診断および/もしくは選別するために、一般医によって便利に利用されることができ、または胸に痛みのある患者を評価するために、医療補助者および外傷センタによって便利に利用されることができる。加えて、ハイエンド超音波システムにおける組織振動イメージングモードは、高性能診断能力のためにデュプレックス超音波を増強することができ、これは、患者の狭窄を診断するために、イメージングセンタ、心臓病クリニック、および病院によって便利に利用されることができる。狭窄を示す検出された組織振動は、聴診器を使用してブリュイを聴く訓練を受けた人には認識可能であるような可聴信号として、または触診可能な震動を検出する訓練を受けた人には認識可能な触診可能信号として提供されることができる。
【0015】
本明細書で開示される概念の一態様は、狭窄の下流の血流の渦によって引き起こされる組織振動を検出し、特徴付けることによって、2D超音波データのアンサンブルを使用して動脈狭窄を検出し、その位置を特定するための方法に関する。この方法は、映像化される部位の組織運動スペクトル信号を生成するために、2D超音波データのアンサンブルを処理するステップを含む。その後、組織運動スペクトル信号は、狭窄における振動以外の源からの組織運動への寄与が実質的に最小化された組織振動信号を生成するために処理される。振動イメージは、組織振動信号を使用して表示され、部位における狭窄の位置を示す。
【0016】
2D超音波データのアンサンブルを処理する1つの手法は、超音波データから相関行列(correlation matrix)を推定するステップと、信号部分空間(signal subspace)と雑音部分空間(noise subspace)とを識別するために相関行列の固有分解(eigen decomposition)を実行するステップとを含む。その後、信号部分空間および雑音部分空間における優位振動成分の周波数が推定され、その推定に基づいて、振動振幅推定および振動周波数推定が決定される。振動振幅推定と振動周波数推定の少なくとも一方が、組織振動信号を含む。
【0017】
狭窄に関連する振動を映像化するために2D超音波データのアンサンブルを処理する第2の手法は、受信超音波エコーのアンサンブルの自己回帰モデルの反射係数(reflection coefficient)を計算するステップを含む。線形予測フィルタ係数(linear prediction filter coefficient)が、反射係数から計算される。パワースペクトルが推定され、パワースペクトルのピークが検出される。パワースペクトルの推定およびピークに基づいて、振動振幅推定および振動周波数推定が決定される。やはり、振動振幅推定と振動周波数推定の少なくとも一方が、組織振動信号を含む。
【0018】
2D超音波データのアンサンブルを処理するまた別の手法では、平均クラッタ速度(mean clutter velocity)が、自己相関を使用して超音波データから推定される。2D超音波データのアンサンブルは、平均クラッタ速度を用いてダウンミックスされ、ダウンミキシング信号を生成する。ダウンミキシング信号の位相とダウンミキシング信号の平均位相が決定され、平均位相がダウンミキシング信号の位相から減算されて、残差位相(residual phase)を生成する。その後、残差位相は優位成分に分解される。エネルギー閾値および周波数閾値を適用することによって、雑音および血流からの組織振動への寄与は、実質的に抑制され、部位における組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成する。
【0019】
残差位相を分解するステップは、好ましくは、残差位相から相関行列を推定するステップと、優位成分を決定するために相関行列の固有分解を実行するステップとを含む。
【0020】
フィルタリングを行うステップは、好ましくは、部位における狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去するステップを含み、また好ましくは、部位における狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数にある雑音をフィルタで除去するステップも含む。このステップも、信号の統計的特性を利用することによって、血流と組織振動とを区別するステップを含む。
【0021】
加えて、本発明の方法は、組織振動イメージから決定された組織振動の位置にドプラサンプルボリューム(Doppler sample volume)を配置することによって、振動イメージに表示された振動が部位における狭窄に対応することを確認するステップを含むことができる。このステップでは、相対的に大きなアンサンブル(一般に64〜512パルスを含むアンサンブル)から決定された組織振動スペクトルが、2D超音波データの相対的に小さなアンサンブル(一般に6〜16パルスを含むアンサンブル)から検出された組織振動を確認するために利用されることができる。
【0022】
振動イメージを表示するステップは、好ましくは、部位の振動振幅イメージと振動周波数イメージの少なくとも一方を表示するステップを含む。有効性のため、本発明の方法は、部位の下に重なる解剖学的構造(すなわち、Bモードグレースケールイメージ)に関連付けて、振動イメージを実質的にリアルタイムに表示するステップを含むことができる。
【0023】
本発明の別の態様は、超音波データのアンサンブルを使用して動脈狭窄を検出し、その位置を特定するための装置に関する。この装置は、超音波パルスを内部部位に向けて送信し、狭窄が原因で振動している組織を含む内部部位における散乱体(scatterer)から超音波データを受信するための、超音波トランスデューサを含む。一実施形態では、フロントエンドシステムが、超音波トランスデューサによって生み出された超音波パルスを制御し、超音波トランスデューサによって受信されたエコーを復調して、同相成分と直交成分の両方を有する信号を生成する。この装置はまた、フロントエンドシステムから信号を受信するバックエンドシステムと、組織振動プロセッサとを含む。フロントエンドおよびバックエンドシステムは、任意選択で、単一ユニットに組み合わされることができ、またはこれらのシステムの1つもしくは複数の部分は、システムのその他の部分から離れた場所で動作することもできる。組織振動プロセッサは、狭窄によって引き起こされた組織振動を推定するために、超音波信号を処理して、組織振動信号を生成する。一実施形態では、組織振動信号は、バックエンドシステムによってイメージ信号に変換される。イメージ信号を受信し、内部部位における狭窄が示された組織振動イメージを表示するために、ディスプレイがバックエンドシステムに結合される。任意選択で、ディスプレイは、組織振動検出および識別装置から離れた場所に存在することもできる。例えば、ディスプレイは、病院内に物理的に配置されることができ、一方、組織振動検出および識別装置は、装置が使用されている患者を搬送する救急車内など、別の場所に物理的に配置される。また、可視表示の代わりに、組織振動検出および識別の結果は、組織振動を表す可聴出力または触診可能出力として提供されることもできる。組織振動信号は、狭窄を示すために、自動アルゴリズムによって解釈されることもでき、自動解釈の結果は、電子的読み取りとして提供されることができる。一般に、本発明の装置によって実行される機能は、上述された方法のステップと一致する。
【0024】
上記の要約は、以下の発明を実施するための最良の形態でさらに詳細に説明される概念のほんのいくつかを簡略化された形で紹介するために提供された。しかし、上記の要約は、特許請求される主題の主要なまたは必須の特徴を識別することは意図されておらず、特許請求される主題の範囲を決定する際の助けとして使用されることも意図されていない。
【0025】
1つまたは複数の例示的な実施形態およびそれらの変更の様々な態様および付随する利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって、例示的な実施形態およびそれらの変更がより良く理解されるのに伴い、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図および開示された実施形態は限定的なものではない
例示的な実施形態が、図面の図を参照して説明される。本明細書で開示される実施形態および図は、限定的なものではなく、説明的なものと見なされるべきであることが意図されている。
【0027】
組織振動イメージングシステム
図1は、超音波システム10を示したブロック図であり、全体的に従来の超音波システムと類似しているが、組織振動イメージングを含むように変更されており、したがって、本明細書で開示される概念を実施する際に使用可能である。超音波システム10は、典型的には1MHz〜15MHzの搬送波周波数を用いて変調された信号を、複数のサイクル(すなわち、2〜20サイクル)を使用して送信する、超音波トランスデューサ12を含む。送信された信号は、ビーム経路沿いの散乱体(図示されず)によって反射され、トランスデューサから散乱までの距離に持続時間が依存する時間遅延の後に受信される。獲得ステージでは、組織から受信された音響エコーは、トランスデューサによって電気信号に変換され、これらの信号は、アナログ−デジタル変換器(別個に図示されず)によってデジタル化される。フロントエンドサブシステム14は、ダイナミックフォーカシング(dynamic focusing)、アポディゼーション(apodization)、ならびに送信および受信超音波波形のステアリング(steering)を実行する、ビームフォーマ(beam former)16を含む。フロントエンドシステム14にはまた、組織内の深さに比例する可変利得を用いて信号を増幅する、時間利得補償(TGC:time−gain−compensation)回路18と、直交復調およびデシメーションによって高周波数搬送波をデジタル的に除去して、複素量I(t)+jQ(t)として表現され得る同相(I)および直交(Q)サンプルの両方を提供する、無線周波(RF)復調器およびデシメータ20とが含まれる。その後、獲得された直交アンサンブル(またはカラーフロー)データは、例えば、Bモード、カラーフローモード、組織振動モード、およびドプラモードなど、選択された1つ(または複数)の超音波モードに応じて、バックエンドサブシステム22において処理される。
【0028】
組織の解剖学的イメージを生成するため、対象信号は、I(t)+jQ(t)の包絡線である。Bモードプロセッサ24は、エコーの大きさ
【0029】
【数1】
【0030】
を計算し、モニタ上でのグレースケールイメージとしての表示に適したものとなるようにダイナミックレンジを圧縮する。散乱体によって導入された時間遅延は、複素量I(t)+jQ(t)の位相に反映される。したがって、複素受信信号の位相は、散乱体の瞬間位置の推定を提供する。時間に伴う位相変化を監視することによって、散乱体の変位および速度が推定されることができる。カラーフローイメージングでは、複数のパルス(通常は6から16パルス)が、パルス繰り返し周波数(PRF:pulse repetition frequency)として知られるレートで、各走査線に沿って送信され、受信される。したがって、各空間位置からの受信時間サンプルの集まりは、「アンサンブル」と呼ばれる。カラーフロープロセッサ26は、一般に自己相関アルゴリズムを使用して隣接時間サンプルの間の位相差を推定することによって、データのアンサンブルから血流速度を推定する。2Dイメージは、異なる空間位置から複数のサンプルを獲得することによって生成される。ドプラプロセッサ30を用いて実施されるドプラモードでは、走査は単一の走査線に沿って実行され、単一の空間位置からの血流速度のスペクトルは、データのかなり大きなアンサンブル(一般に64〜512パルスからのデータ)から推定される。処理されたイメージフレームをラスタモニタまたはディスプレイ36上に表示する前に、走査変換(scan conversion)が走査変換器回路32によって実行され、走査変換器回路32は、獲得された超音波データを極座標からラスタディスプレイによって使用される直交座標に変換する。表示イメージの品質を改善するため、およびディスプレイ上で解剖学的構造とフローイメージとを合成するため、任意選択で、後処理回路34によって後処理が適用されることができる。
【0031】
例示的な一実施形態で超音波データを処理するために使用される組織振動プロセッサ28が、図1に示されている。直交データアンサンブルが、組織振動プロセッサに入力される。しかし、これらのデータから血流速度を推定する代わりに、組織振動プロセッサは、複素受信信号の位相から散乱組織の瞬間変位を推定する。この組織運動は、従来のカラーフローイメージングではクラッタと呼ばれ、クラッタフィルタを使用して抑制される。一般に、心拍動、呼吸、およびトランスデューサ運動は各々、組織の観測される変位または運動に寄与することができる。そのような運動は、数ヘルツまたはそれ以下の低周波数にある。狭窄が存在するとき、狭窄の周囲の組織は、数10ヘルツから1000ヘルツ以上の範囲にわたる周波数で局所的に振動する。組織運動の異なる成分の周波数を分析することによって、狭窄血管によって引き起こされた振動は、その他の運動源によって引き起こされたクラッタから区別されることができる。組織振動プロセッサは、組織運動を優位運動成分に分解し、心拍動の周波数よりも高い周波数にあると思われる運動成分を識別することによって、この分析を実行する。
【0032】
組織振動プロセッサ28は、従来の超音波機械で使用するために、追加の固定機能回路板または特定用途向け集積回路(ASIC)として実装され得ることが企図されている。ともに同じデータアンサンブルを処理するので、任意選択で、組織振動プロセッサは、カラーフロープロセッサ26と組み合わされることができる。スタンドアロン型の組織振動イメージング装置が、フロントエンドサブシステム14、Bモードプロセッサ24、組織振動プロセッサ28、および走査変換器32とともに実施されることができる。組織振動プロセッサが、1つもしくは複数のデジタル信号プロセッサ(DSP)を使用するソフトウェア/ハードウェアで、または代替としてASICで実施され得ること、あるいは組織振動プロセッサの処理ステップを実行するために、プロセッサによってアクセスされるメモリに保存された機械語命令にアクセスする従来の汎用プロセッサチップ上でさえも実施され得ることは、当業者であれば理解されよう。
【0033】
超音波機械の計算力は、近年著しく高まっており、プロセッサ技術における進歩から恩恵を受けている。したがって、以下で説明される組織振動イメージングアルゴリズムを実行することから生じる付加的な計算負荷は、最新の超音波機械で無理なくサポートされることができる。かつて、新世代の高性能マルチメディアプロセッサを使用して、B、M、カラーフロー、およびドプラなどの従来の処理モードのすべてをソフトウェアでサポートする、組織振動プロセッサとしての使用に適したプログラム可能な超音波信号およびイメージ処理システムが開発され(例えば、非特許文献1参照)、その後、このシステムは、本明細書で開示される組織振動処理を実施する際に有用であることが示された。プログラム可能なシステムの主な強みは、従来の超音波機械では必要とされることもあったハードウェア変更を必要としない、組織振動イメージングなどの新しいモードおよびアプリケーションの開発が容易なことである。したがって、ソフトウェアプログラム可能な超音波システムを使用する統合組織振動イメージングが、2D超音波走査における振動のリアルタイム視覚化のために有効かつ有益に使用された。
【0034】
組織振動イメージング用のアルゴリズム
従来のカラーフローイメージングでは、血流の速度は、サンプルボリュームから受信された複数の超音波エコー(一般に6〜16パルス)の間の平均位相差を計算することによって推定される。動いている組織から後方散乱されたエコーは、血液からの弱い散乱と比べて著しく高い(一般に40dB〜60dB高い)信号強度を有する傾向にあり、より低い速度を有する傾向もある。この振幅が高く、周波数が低い組織信号は、一般にクラッタと呼ばれ、推定血流速度に偏りを与える傾向にある。したがって、クラッタは、従来のカラーフローイメージングでは、適切なフィルタを使用して抑制される。クラッタの主要成分は、心拍動、呼吸、およびトランスデューサの動きである。血流の渦が存在するとき、局所的な組織振動、例えば、狭窄血管における血流の渦によって引き起こされる組織振動も、このクラッタの一部であり、従来の超音波処理システムでは、通常は抑制される。
【0035】
本明細書で開示される概念によれば、組織振動は、残りのクラッタおよびフロー信号から分離される。この機能を達成する際に、組織振動とクラッタとは、異なる周波数内容を有する統計的に独立した信号を生み出すことが認識された。心拍動および呼吸に起因するクラッタは一般に、1Hzまたはそれ以下で生じるが、組織振動は一般に、50Hzまたはそれ以上で生じる。その他の雑音源は、著しくより高い周波数にある。組織散乱体は互いにより緊密に結合しており、集団で動く傾向にあるので、組織からの散乱は一般に、血液からの散乱と比べてより干渉性が高い。したがって、血流信号は一般に、その他の源からのクラッタおよび組織振動信号と比べて、はるかにより大きな周波数帯域を有する。血流信号は、弱い信号強度とより大きな帯域幅のため、より強く、より干渉性の高い組織振動信号と比べて、この手法の目的に関しては、雑音と見なされることができる。したがって、組織振動は、スペクトル分析に基づいて、クラッタおよび血流から区別されることができる。受信超音波エコーの位相のスペクトル分析は、散乱信号強度を無視して散乱体運動の成分を分離するために使用されることができるが、複素超音波エコーのスペクトル分析は、信号強度および運動成分の両方を考慮する。
【0036】
本発明の概念を実施する際に好ましくは使用される、限られた数の時間超音波サンプル(6〜16パルス)のため、従来のクラッタフィルタリングおよびスペクトル推定技法は、そのような短い時間的記録をもとに組織振動と通常のクラッタとを区別する十分な解像度を欠いている。したがって、この機能を実施するために、高解像度のスペクトル推定技法が開発された。
【0037】
狭窄血管に関連する振動の映像化に関して、直交成分の最適な組として信号をモデル化する固有分解ベースのスペクトル推定と、白色ガウス雑音によって駆動される自己回帰線形予測フィルタの出力として信号をモデル化する自己回帰スペクトル推定とを含む、2つの高解像度スペクトル推定技法が、この目的のために適しているとして認定された。したがって、狭窄に関連する組織振動を分離するために、3つの信号処理アルゴリズム(固有分解に基づいた2つと、自己回帰に基づいた1つ)が開発された。第1のアルゴリズムは、受信超音波エコーの位相の固有分解ベースのスペクトル分析に基づいており、第2のアルゴリズムは、複素超音波エコーの固有分解ベースのスペクトル分析に基づいており、第3のアルゴリズムは、複素超音波エコーの自己回帰スペクトル分析に基づいている。固有分解は計算集約的な演算であるので、反復的QR分解(iterative QR factorization)を利用する近似的固有分解が、計算効率の良いアルゴリズムとして使用される。
【0038】
狭窄血管に関連する振動を映像化するために開発された信号モデル
振動する組織から受信された信号をモデル化するため、一様な運動を有し、サンプルボリューム内の位置
【0039】
【数2】
【0040】
、s=1...Sにランダムに分配された、S個の点散乱体(point scatterer)を用いて、映像化される組織が近似され、ここで、
【0041】
【数3】
【0042】
は、球面座標の単位方向ベクトルを表す。散乱体の瞬間位置
【0043】
【数4】
は、
【0044】
【数5】
【0045】
によって与えられ、ここで、(dr(t),dΨ(t),dφ(t))は、時間の関数としての変位を表す。サンプルボリュームからの散乱が一様で、平均散乱係数としてαを有する場合、サンプルボリュームの散乱関数は、
【0046】
【数6】
【0047】
となる。その場合、サンプルボリュームからの複素受信信号y(τ,t)は、単一の点散乱体のパルスエコー空間インパルス応答
【0048】
【数7】
【0049】
と、トランスデューサの時間応答x(τ)と、散乱関数
【0050】
【数8】
【0051】
との畳み込み(convolution)としてモデル化されることができる。
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、時間インデックスτおよびtは、それぞれ「速い(fast)」時間および「遅い(slow)」時間を表し、f0は、トランスデューサの中心周波数であり、n(τ,t)は、白色熱雑音である。式(1)および(2)を組み合わせた結果が、
【0054】
【数10】
【0055】
であり、ここで、cは、音速であり、
【0056】
【数11】
【0057】
は、トランスデューサと各点散乱体の間の往復(two−way)パルス伝播時間である。振動に関する散乱体の変位は、パルスエコー空間インパルス応答の空間サイズおよびトランスデューサ応答の包絡線と比べて小さい。したがって、最初の2つの項の「遅い」時間変化は、無視されることができ、式(3)は、
【0058】
【数12】
【0059】
と簡略化されることができ、ここで、A(τ)は、散乱信号の複素振幅である。複素受信信号が、瞬間放射状変位(instantaneous radial displacement)を用いて位相変調されることは明らかである。
【0060】
サンプルボリューム内の散乱点がすべて、ピーク変位a0、周波数fvibで、単純な調和的な仕方で放射状に振動している場合、心拍動、呼吸、およびその他の組織運動(すなわち、クラッタまたは雑音)によるトランスデューサに対する組織変位は、dtiss(t)である。この運動は、これ以降、「クラッタ運動(clutter motion)」と呼ばれる。その後、合成された変位は、以下のように、重ね合わせと見なされることができる。
dr(t)=dtiss(t)+a0sin(2πfvibt) (5)
【0061】
超音波パルスのアンサンブルは、パルス繰り返し周波数(PRF)として知られるレートとで、同じ方向に送信される。その場合、m番目のパルス送信からの複素受信信号y(τ,m)は、
【0062】
【数13】
【0063】
であり、ここで、TPRFは、パルス繰り返し間隔である。位相変調複素受信信号のフーリエ変換は、ベッセル級数(Bessel series)
【0064】
【数14】
【0065】
であり、ここで、Jiは、第1種ベッセル関数(Bessel function of the first kind)、
【0066】
【数15】
【0067】
、δは、ディラックのデルタ関数(Dirac delta function)、c(f)は、クラッタ運動のスペクトル(クラッタスペクトル)、N(τ,f)は、雑音スペクトルである。
【0068】
図2は、組織振動が存在するときの超音波信号の典型的なパワースペクトル40を示している。スペクトルは、以下に提示される式(8)によって示されるように、振動周波数によって分けられるクラッタスペクトルの複数のコピーを含む。ftissにおける低周波数ピーク42は、クラッタスペクトルに対応し、参照番号44および46によってそれぞれ示される対称的なピークf-およびf+は、振動に対応し、ptiss、p+、およびp-は、対応するピークパワーである。f+およびf-における周波数ピークは、本明細書では、「マッチングペア(matching pair)」と呼ばれる。振幅が小さい振動の場合、より高次の項は無視されることができ、したがって、スペクトルエネルギーの大部分は、それぞれ3つの周波数ピークf-、ftiss、およびf+に存在する。
【0069】
【数16】
【0070】
であるので、周波数ピークにおけるパワーの比は、振動振幅の推定を提供することができる。したがって、振動周波数および振幅は、以下のように、パワースペクトルから推定されることができる。
【0071】
【数17】
【0072】
これらの推定法は、本明細書では、それぞれ「スペクトル周波数推定法(spectral frequency estimator)」および「パワー比振幅推定法(power ratio amplitude estimator)」と呼ばれる。代替として、振動周波数および振幅は、クラッタ運動の影響を抑制した後、超音波振動の残差位相
【0073】
【数18】
【0074】
から推定されることもできる。優位成分の周波数の計算効率の良い粗い推定
【0075】
【数19】
【0076】
は、残差位相のゼロ交差Nzeroをカウントすることによって得られることができる。この推定は、残差位相を補間して振動の平均周期を計算することによって、さらに洗練されることができる。振動振幅は、残差位相の分散によって推定されることができる。これらの推定法は、以下のように定義され、
【0077】
【数20】
【0078】
本明細書では、それぞれ「ゼロ交差周波数推定法(zero−crossing frequency estimator)」および「位相分散振幅推定法(phase variance amplitude estimator)」と呼ばれる。
【0079】
リアルタイム組織振動イメージングの場合、対象領域内の各サンプルボリュームからの超音波データの短いアンサンブル(一般に6〜16パルスまたはエコー)だけしか、処理のために利用できないことがある。従来のカラーフローイメージングシステムは、血流を保ちながら、クラッタを抑制するために、クラッタフィルタリングを利用する。しかし、僅かな数の時間サンプルのため、従来のクラッタフィルタリングベースの手法、またはフーリエベースの手法は、組織振動、血流、およびクラッタを区別するのに十分な解像度を欠いている。振動信号の特性を利用するパラメトリック手法は、この区別を行うのにより適しているように思われる。(a)雑音内の1対の複素指数の推定、(b)自己回帰モデリング、および(c)超音波信号の位相の分解を含む、式(6)および(7)の超音波振動のモデルに基づいた3つのパラメトリック手法が、利用されることができる。以下のセクションでは、これら3つのパラメトリック手法に基づいた例示的な振動検出アルゴリズムが、より詳細に説明される。式(4)の複素超音波信号を生成する1つの方法は、受信超音波信号の直交分解である。代替方法は、相互相関技法を使用して受信RF超音波データを処理することによって、式(4)の位相変化を生み出す時間遅延を計算することである。
【0080】
雑音内の複素指数の推定を使用する振動イメージング
式(7)のベッセル展開(Bessel expansion)の逆フーリエ変換を使用して、式(6)は、以下のように展開される。
【0081】
【数21】
【0082】
したがって、超音波信号は、雑音に埋め込まれた複素指数の和としてモデル化されることができる。式(10)の角括弧によって括られた式から理解され得るように、振動は、複素指数のマッチングペアに対応する。対照的に、クラッタ運動に対応する複素指数は一般に、周波数のそのようなマッチングペアをもたない。周波数(ftiss,f+,f-)は、root−MUSICアルゴリズムおよびESPRITアルゴリズムを使用して推定されることができる(例えば、非特許文献2参照)。その場合、振動は、マッチングピーク基準|f++f-−2ftiss|<Fthresholdを使用して、検出されることができ、振動振幅および周波数は、上で説明された式(9)を使用して、推定されることができる。アルゴリズムのステップは、図3Aに関して、以下でより詳細に説明される。この基準に基づいて、振動が検出され、クラッタ運動から区別されることができる。任意の血流信号は雑音スペクトルの一部として見なされ得る。
【0083】
図3Aは、カラーフロー処理から通常は除外される、クラッタまたは雑音内の1対の複素指数に基づいて組織振動を推定するための、第1のアルゴリズムに含まれる論理ステップを示すフローチャート50を示している。手順は、2D超音波データの直交復調アンサンブル52から始まる。
【0084】
ステップ53で、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタが抑制される。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0085】
ステップ54で、相関行列が、カラーフローデータから推定される。ステップ56で、固有分解を実行して、信号部分空間58と雑音部分空間60とを生成するために、相関行列が利用される。ステップ62で、信号部分空間と雑音部分空間とを使用して、優位成分の周波数が、上で述べられたroot−MUSICアルゴリズムおよびESPRITアルゴリズムを利用することによって推定される。その後、判断ステップ64は、各優位成分が両側性をもつ(double−sided)かどうかを決定し、一方、ステップ66は、式(8)を使用して各優位成分の振動振幅および周波数を推定する。優位成分が両側性をもたない(すなわち、潜在的組織振動成分ではない)場合、判断ステップ64は「0」を返し、一方、優位成分が両側性をもつ場合、判断ステップは1を返す。その後、乗算器68は、判断ステップ64の出力に優位成分の振動振幅および周波数推定を乗じ、優位成分が組織振動成分でない場合はヌルを生成し、その他の場合は優位成分の振動振幅および周波数推定を返す。その後、メジアンフィルタ70が、分離された誤検出振動とその他の望ましくない雑音とを結果から取り除き、その結果、ステップ72で、狭窄部位を示す残りの振動イメージが表示される。
【0086】
自己回帰信号モデルを使用する振動イメージング
振動からの超音波信号は、以下のように、分散σ2を有する白色ガウス雑音を入力としてもつ、p次自己回帰線形予測フィルタの出力としてモデル化されることができる。
【0087】
【数22】
【0088】
線形予測係数ak(τ)は、予測誤差の最小2乗最小化(least squares minimization)を使用して、または計算効率の良いBurgアルゴリズムを使用して(例えば、非特許文献2参照)、計算されることができる。その後、高解像度スペクトル推定が、この自己回帰モデルから、以下のように、取得されることができる。
【0089】
【数23】
【0090】
式(8)から、クラッタ運動ピークの周囲のパワースペクトルにおける周波数ピークの対称マッチングペアの存在が、振動として検出されることができる。以前のように、フロー信号は、雑音と見なされることができる。振動からの超音波信号の場合、式(13)のパワースペクトルは、多項式
【0091】
【数24】
【0092】
の極小において周波数ピーク(ftiss,f+,およびf-)を有する。振動は、マッチングピーク基準|f++f-−2ftiss|<Fthresholdを使用して、検出されることができ、振動振幅および周波数は、式(9)を使用して、推定されることができる。アルゴリズムのステップは、図3Bに関して、以下でより詳細に説明される。
【0093】
図3Bのフローチャート80に示されているように、第2の代替アルゴリズムも、直交復調アンサンブルデータセット52から始まる。やはり、ステップ53で、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタが抑制される。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0094】
ステップ82で、直交復調データの各アンサンブルについて、反射係数が計算される。ステップ84で、反射係数を使用して、線形予測係数が決定される。ステップ86で、パワースペクトルが線形予測係数から推定され、パワースペクトルのピークが検出される。やはり、判断ステップ64が、識別されたピークが両側性をもつかどうかを決定することによって、識別されたピークが組織振動に関するものかどうかを決定し、組織振動に関するものでない場合は0を返し、関するものである場合は1を返す。また、ステップ66が、これら各ピークにおける振動振幅および周波数の推定を提供し、乗算器68において、判断ステップ64からの結果が、推定された振幅および周波数によって乗じられる。その後、メジアンフィルタ70が、結果に適用され、ステップ72で、フィルタリングされたイメージデータが、振動イメージとして表示される。
【0095】
位相分解に基づいた振動イメージング
振動の検出および映像化のための第3のアルゴリズムは、位相超音波信号に基づくことができる。式(7)に示されるように、振動は、クラッタ運動の場合には一般に存在しない振動シグニチャ(oscillatory signature)を位相内に生み出す。フロー信号も振動位相を有することができるが、振動する組織からのエコーは、フローからのものよりも干渉性が高いと予想される。したがって、それらの位相は、より少ない数の優位成分によってモデル化されることができる。したがって、振動検出アルゴリズムは、超音波信号の位相のその優位成分への分解と、振動位相の試験とに基づくこともできる。代替として、直交復調超音波データを使用する代わりに、位相は、1対のRF超音波データの間の時間遅延を推定することによって、RF超音波データから推定されることもできる。
【0096】
最初に、従来の自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いて2D超音波データのアンサンブルをダウンミックスすることによって、線形時間変化運動が抑制される。その後、2D超音波データのアンサンブルの位相が計算され、固定エコーの影響を抑制するために平均位相が減算される。その後、残差位相が、主要成分分析に類似する方法を使用して、優位成分に分解される。分解の第1のステップは、修正された共分散法(Marple、1987年)を使用した、残差位相の相関行列の推定を含む。その後、相関行列の反復的QR分解を使用して、近似固有分解が実行されることができる。k回目の反復の後、上三角行列Rkの対角要素によって、近似固有値λiが推定されることができる。固有ベクトルは、固有値が減少する順序に配列される。固有値は、対応する固有ベクトルによって寄与を受ける信号エネルギーの尺度である。したがって、p個の優位成分に含まれる全信号エネルギーの一部分は、
【0097】
【数25】
【0098】
を使用して推定されることができる。したがって、雑音および血流は、閾値基準Ep>Ethresholdを超過したEpの値を利用するだけで、抑制されることができる。クラッタ運動から組織振動をさらに分離するため、組織振動はクラッタ運動に比べてより高い周波数を有するという事実が利用される。その場合、振動は、周波数閾値基準
【0099】
【数26】
【0100】
を使用してクラッタから分離されることができ、ここで、Fthresholdは、振動の1周期の半分の少なくとも一方がアンサンブルに含まれるように選択される。振動周波数および振幅は、式(10)を使用して推定されることができる。このアルゴリズムのステップは、図3Cに関して、以下でより詳細に説明される。この例示的なアルゴリズムは、内出血に関連する振動を映像化するために開発されたが、詳細に説明されたように、狭窄血管に関連する振動を映像化する際にも有効であることが示された。
【0101】
フローチャート90は、第3のアルゴリズムの論理ステップを示している。やはり、直交アンサンブルデータ52から始まり、ステップ53は、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタを抑制する。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0102】
ステップ94は、直交アンサンブルまたはカラーフローデータのアンラップ位相(unwrapped phase)を計算し、その後、アンラップ位相から平均クラッタ速度を減算して、残差位相を生成することを提供する。上で説明されたように、直交復調データから位相を決定する代わりに、位相は、1対のRF超音波データの間の時間遅延を推定することによって、RF超音波データから決定されることもできる。ステップ96は、残差位相を使用して、相関行列を推定し、その後、相関行列は、ステップ98で、QR分解を実行するために使用され、上で述べられたように、式(10)を使用して決定される、固有値推定100、固有ベクトル推定102、ならびに振動振幅および周波数推定104を生成する。判断ステップ106は、固有値推定を使用して、p個の優位成分に含まれる全エネルギーが事前定義された閾値Tよりも大きいかどうかを決定する。そのような場合、判断ステップ106は、大きくない場合は0を返し、大きい場合は1を返す。同様に、判断ステップ108は、推定固有ベクトルが事前定義された閾値Fよりも大きい周波数をもつかどうかを決定する。もつ場合、判断ステップ108は、1を返し、もたない場合は0を返す。その後、判断ステップ106および108の結果、ならびに優位成分の推定振動振幅および周波数が、乗算器110によって一緒に掛け合わされ、その結果、判断ブロックのどちらかが0を返した場合、結果はヌルであり、どちらも0を返さなかった場合、ステップ104からの推定振動振幅および周波数が返される。やはり、メジアンフィルタ70が、推定振幅および周波数に適用され、狭窄の部位を示す振動イメージとしてステップ72で表示されるフィルタリングされた結果を提供する。
【0103】
狭窄を映像化および分析するために上で説明されたアルゴリズムを使用する
図4は、超音波を使用して動脈狭窄の位置を特定し、定量化することに含まれる論理ステップを示すフローチャート120を示している。手順は、カラードプラ超音波を使用して血管が映像化されるステップ122から始まる。ステップ124で、ブリュイの血管周囲のアーチファクトが可視になるまで、パルス繰り返し周波数(PRF)が調整される。ステップ126で、概括的に上で説明されたように、振動振幅イメージがリアルタイムに生成される。ステップ128で、2D振動イメージにおけるブリュイの位置が識別される。ステップ130で、ドプラサンプルボリュームが、最大振動振幅に最も近いブリュイに配置される。ステップ132で、パルス波ドプラデータから(やはり上で説明された技法を使用して)、振動スペクトルが生成される。ステップ134で、振動スペクトルの「折点」周波数が示され、ステップ136で、狭窄が定量化される。
【0104】
検出可能な振動振幅および周波数
身体ファントムモデル(physical phantom model)を使用した実験において、約1μmのピーク振幅を有する組織振動が正確に検出された。最小検出可能振動振幅は、受信超音波エコーの位相の雑音レベルおよびダイナミックレンジに依存する。最新の超音波機械では、位相は、(16ビット直交復調データの場合)96dBまたはそれ以上のダイナミックレンジを有することができ、信号は一般に、80dBまたはそれ以上、電子的および熱雑音レベルを超過する。したがって、式(4)から、50nmほどの小ささの振動は、理論的には、5MHzの超音波トランスデューサを使用して検出されることができる。実際には、超音波信号の減衰が、ダイナミックレンジを減少させ、深部組織における最小検出可能振幅を約0.5μmに制限する。
【0105】
検出可能な振動周波数は、PRFの選択に、すなわち、FPRFに依存する。振動周波数に比べて低すぎるPRFは、エイリアシングをもたらし、高すぎるPRFを選択すると、低周波数振動を検出することに失敗する。振動は、アンサンブルに対応する時間窓内で1振動サイクルの少なくとも半分が捕捉された場合にだけ検出されることができる。したがって、アンサンブルサイズがEの場合、
【0106】
【数27】
【0107】
と
【0108】
【数28】
【0109】
の間の周波数を有するすべての振動は、理論的には、エイリアシングなしに検出されることができる。振動は広帯域であることができるので、低PRF値でインタロゲート(interrogate)された高周波数振動は、このアルゴリズムを使用した場合、雑音と間違われることがあり得る。したがって、より良い感度のため、振動の数周期だけがアンサンブルに含まれるように、PRFおよびアンサンブルサイズを選択するのが望ましい。したがって、最大検出可能周波数は、振動のk周期がアンサンブルに含まれる場合、
【0110】
【数29】
【0111】
である。実施されたシミュレーションおよびファントム実験は、インタロゲーション期間(interrogation period)の間に2分の1から6振動周期を使用するだけで、信頼性の高い検出が実行され得ることを示している。例えば、1kHzのPRFおよび16周期/パルスのアンサンブルサイズを用いると、31.3Hzと375Hzの間の周波数の振動は、高い信頼性で検出されることができる。
【0112】
残存管腔直径の定量化
組織振動は血流の渦によって生み出されるので、組織振動の周波数は、渦の周波数と同じである。振動の周波数スペクトルは、乱流ジェットの有効直径に依存し、したがって、ブリュイのスペクトルは、狭窄の重症度に関連する。ブリュイのスペクトルは、それを超えると周波数の上昇に伴いエネルギーが急速に低下するピーク周波数を示す。ストローハル数(S)は、乱流変動の折点周波数(fvib)を、
【0113】
【数30】
【0114】
に従って、乱流の長さスケール(狭窄における残存管腔直径(D)および妨害のない血管における平均下流血流速度)に関係付ける。
【0115】
大多数の個人で、頚動脈血流速度とストローハル数の積は、折点周波数において約500mm/sと比較的一定であり続けることが、頚動脈狭窄において経験的に観測された。したがって、単純な関係が、折点周波数と残存管腔直径との間に存在する。
【0116】
【数31】
【0117】
頚動脈以外の動脈では、血流速度は、パルス波ドプラを使用して推定されることができる。その場合、ストローハル数が値1で一定であり続けることを仮定して、狭窄における残存管腔直径を定量化するために、折点周波数が使用されることができる。
【0118】
さらに、振動の振幅を直接測定する能力は、狭窄が等級分けされることを可能にする。渦におけるエネルギー(E)と、したがって、組織振動の振幅(avib)とは、以下のように、流量と直接的に比例する。
【0119】
【数32】
【0120】
これまで、ブリュイを分析する(聴診、血管音検査法、および心音図検査法など)その他の技法は、狭窄に関連する壁振動の振幅を直接的に測定することができなかった。振動の振幅を直接的に測定する能力は、音響パワー、(例えば、冠動脈における)圧力降下、およびフローパワー散逸など、狭窄および対応する振動に関連するその他のパラメータの定量化を可能にする。そのような技法を使用して狭窄血管から集められた経験的データは、血行力学的に重大な狭窄を表す狭窄特徴を識別するために分析されることができる。3D超音波イメージングが狭窄の正確な位置特定を提供することを容易にすることも理解されたい。例えば、そのようなイメージングは、3つの主要な冠動脈のどれに狭窄が関連付けられるかを決定することを容易にする。
【0121】
アーチファクト源
カラーフローデータ獲得では、各走査線に沿ったインタロゲーションは、短い期間だけ実行される。振動は、典型的には10ms〜100msの持続期間を有する一時的なものである。したがって、いくつかの振動がインタロゲートされない可能性が存在する。振動は一般に、相対的に大きな空間的広がりを有し、心臓周期毎に繰り返されるので、振動がまったく見落とされる可能性は低いが、イメージにおいて可視の振動の空間的広がりは、本当の空間的広がりの一部に過ぎないこともある。PRFおよび対象領域を適切に選択することによって、そのような不一致は最小化されることができる。
【0122】
その他のアーチファクトが、振動として誤検出されることもある。トランスデューサ運動は、クラッタスペクトルに追加的な周波数ピークを導入することがあり、誤検出を引き起こすことがあるが、訓練された超音波検査士を使用して走査を実行することで、これらの誤検出を最小化することができる。超音波検査士の緊張した骨格筋の振動および周囲の振動も、振動イメージ内で検出されることがある。加えて、高解像度スペクトル推定法は、振動として誤検出され得るスプリアスピークを生み出すことがある。そのようなアーチファクトは、解剖学的構造と相互関連があり、心臓周期毎に周期的であることが予想される、病気に起因する振動から容易に区別されることができる。これらのアーチファクトは、追加的な時間サンプルが利用可能である場合にも、回避されることができる。したがって、振動イメージ内に表示される振動は、ピーク強度の位置にドプラサンプルボリュームを配置することによって、振動スペクトルを用いて確認されるべきである。
【0123】
モデリングから導き出されたアルゴリズムの比較
振動を検出する提案されたアルゴリズムの能力は、シミュレーションモデルを使用して評価された。シミュレーションは、MUSICおよびESPRITなどの部分空間ベースのアルゴリズムが、クラッタおよび血流の存在下で狭帯域振動を検出するための高い感度(96%)および特定性(98%)を有し、広帯域振動が存在するときでさえも堅牢であることを示している。狭帯域振動の場合、自己回帰モデルに基づいたアルゴリズムは、僅かに改善された特定性(99%)、同程度の感度を有し、広帯域振動に対しても堅牢である。位相分解ベースのアルゴリズムは、僅かに低い感度(93%)および特定性(98%)を有するが、広帯域振動に対してより堅牢である。
【0124】
提案されたアルゴリズムの計算必要量が、以下の表2に示されている。部分空間ベースのアルゴリズム(MUSIC/ESPRIT)は、モデル次数(model order)の選択に大きく依存する計算必要量を有する。これらのアルゴリズムでは、固有分解が、最も計算集約的なタスクである。自己回帰ベースのアルゴリズムは、計算集約度がより低く、計算必要量は、モデル次数により小さく依存する。この場合、スペクトル推定のためのFFTの計算が、最も計算集約的なタスクである。位相分解法は、実信号の演算を含むだけなので、最も計算集約度が低い。したがって、位相分解アルゴリズムは、リアルタイム実施用に最も適している。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
改善された組織運動スペクトルのための2Dフーリエ変換処理
図5Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。ここに表された散乱体の運動は、超音波ビームの方向に軸が沿っている。受信パルスのスペクトルが、原点を通過する傾いた直線上にあることに留意されたい。
【0128】
【数33】
【0129】
(縦軸の左側の)ドプラスペクトルのピークは、直線21によって示されるように、
【0130】
【数34】
【0131】
のドプラシフトに対応する。
【0132】
図5Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。式(8)から、振動の存在が、受信信号のベッセル変調(Bessel modulation)を引き起こし、それが、図5Aに示されたスペクトルの複数のコピーを、原点を通過する直線に平行であり、互いにfvibだけずれた直線上に生成する。従来のドプラスペクトル(すなわち、図5Bに縦軸の左側)は、(直線23によって示される)129+300=429Hzおよび(矢印25によって示される)129−300=−171Hzの周波数において、それぞれ対応するピークを示している。
【0133】
シミュレートされた受信エコーのこの2Dスペクトル構成から、いくつかの洞察を得ることができる。第1の知見は、ドプラスペクトルのスペクトル拡散は、ドプラシフトに依存することである。この点は、図6Aにグラフによって示された、200mm/sの高い散乱体速度の場合の2D FFTからさらに理解されることができ、図6Aは、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が5MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方を含む。この場合、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。この例の場合、2D FFTスペクトルには平行な高調波帯が見えるが、ドプラスペクトルの大きな拡散は、振動パターンをほとんど完全に不鮮明にしている。図6Bは、2MHzのより低い超音波中心周波数がインタロゲーションのために(すなわち、受信超音波エコーの2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方のために)使用され、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、同じ状況を示している。ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。図6Bの2MHz超音波周波数のドプラシフトはより低いので、図6Bのドプラスペクトルの拡散は、図6Aのドプラスペクトルの拡散に比べて減じられ、対称的な振動シグニチャが部分的に見えることに留意されたい。したがって、心臓壁などの素早く動く組織の振動を分析する場合、インタロゲーション超音波の送信パルス用により低い周波数が選択されるべきである。
【0134】
別の洞察は、組織加速が2D FFTスペクトルの広がりを引き起こすことの認識に関する。心臓組織では、加速は、0〜10m/s2の範囲にわたることがあり得る。図7Aは、インタロゲーション窓内で10mm/sから30mm/sに(すなわち、5m/s2の加速で)加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。従来のドプラスペクトル(すなわち、縦軸の左側のスペクトル)は、2MHzの送信パルスを用いてさえも、著しいスペクトルの広がりを示している。さらに、図7Bは、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、インタロゲーション窓内で10mm/sから30mm/sに(すなわち、5m/s2の加速で)加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。図7Bは、加速している組織に振動が存在するとき、高い加速は振動スペクトルを著しく不鮮明にすることができることを示している。したがって、組織加速の影響を抑制するために、受信超音波データを前処理することが重要である。
【0135】
式(5)で記述される受信超音波信号の位相は、主として変位の軸成分によって影響される。組織が完全に同質である場合、位相は、軸方向に直交する運動に対しては変化を受けずにいる。しかし、多くの組織の非同質性のため、運動の横成分および高さ成分に対しても、受信信号の位相および振幅に変化が存在する。したがって、軸をはずれた運動成分さえも、受信信号に影響を与える。横速度成分の存在は、横速度成分の大きさに比例するスペクトルの広がりを生じさせる。横振動成分は、同様のスペクトルの広がりを引き起こす。特に、この広がりは、振動がビーム軸に直交する方向で生じる場合であっても、振動を表す高調波ベッセル帯が依存としてドプラスペクトルに存在することを意味している。図8Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交している場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。ドプラスペクトルはドプラシフトを示しておらず、散乱体速度に比例する広がりを示していないことに留意されたい。図8Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交しており、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示している。この図では、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。振動の高調波帯特性が、矢印27によって示されるように、297Hzの周波数において明瞭に見られることに留意されたい。したがって、ビーム軸に直交する振動を検出することが可能なばかりでなく、振動周波数を正確に推定することも可能である。振動のこの重要な特性は、移動血液の速度に関して、正確な速度推定が超音波ビームの向きに大きく依存する、従来のデュプレックス超音波にまさる著しい利点を提供する。
【0136】
図5A〜図7Bに示されたように、従来のドプラスペクトルは、ドプラシフトおよび組織加速に依存する大きなスペクトル分散を有することがあり得る。従来のドプラ処理における別のアーチファクトは、サンプルボリューム内の複数の散乱体からの散乱の強め合うおよび弱め合う干渉によって生み出されるランダム位相シフトが原因で生み出される粒状スペックルパターン(granular speckle pattern)である。スペックルアーチファクトと大きな分散は、振動に関連する下に重なる高調波スペクトルシグニチャを覆い隠すことがあり得る。そのような影響は、心臓壁運動の場合など、組織運動と加速が大きい場合により顕著であり、それは、心臓壁の振動の分析に関する従来のドプラ処理の重要な限界である。
【0137】
広帯域ドプラ推定技法は、従来のドプラスペクトル処理によって導入される特有のスペクトルの広がりを減じることができる。図7Aおよび図7Bにおいて示されたように、スペクトル分散は、主として送信信号の帯域幅に起因する。広帯域推定技法は、送信信号の帯域幅を利用してドプラシフトを推定し、したがって、スペクトルの広がりを減じることができる。そのような帯域推定は、サンプルボリュームからの寄与が別個に分析されるので、スペックル雑音を減じることもできる。広帯域最尤推定法(WMLE:Wideband Maximum Likelihood Estimator)(例えば、非特許文献3参照)、広帯域相互相関推定法(WCCE:Wideband Cross−correlation Estimator)(例えば、非特許文献4参照)、および2D FFT推定法(例えば、非特許文献5参照)など、いくつかの広帯域推定技法が提案されている。振動は2Dスペクトル内に固有のシグニチャを有するので、2Dフーリエ変換が特に興味深い。
【0138】
血液速度を推定するため、ラドン変換が、2Dフーリエ変換領域における直線の傾きを推定するために提案された(例えば、非特許文献6参照)。速度拡散(velocity spread)は、ラドン変換におけるρ=0軸(ρ−θ領域)を見ることによって得られることができる。現在の手法では、この方法は、狭窄血管周囲の組織における振動を識別するために適合される。図5A〜図5Bに基づいて、ラドン変換領域は、正規化ドプラシフト
【0139】
【数35】
【0140】
と周波数シフトfvibの間のマッピングとして解釈されることができる。
【0141】
図9Aは、図5Aの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示している。正規化ドプラシフトの2.59×10-5、周波数シフトの0において、ピークが見られる。図9Bは、図5Bの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示している。2.59×10-5におけるピークの複数のコピーを、異なる周波数シフトにおいて見ることができる。対応するドプラスペクトルは、ピークドプラシフトにおけるすべての周波数シフトに対応する強度をプロットすることによって、ラドン変換から引き出すことができる。図9Cおよび図9Dは、図9Aおよび図9Bのラドン変換から計算された対応するドプラスペクトルをグラフによって示している。図5Aおよび図5Bのドプラスペクトルと比べて、スペクトル拡散が著しく減じられている。振動ピークは、図9Dの矢印29によって示されるように、±278Hzの周波数(300Hzの実際値と比べて7.3%の誤差)において生じる。(矢印31によって示される)組織運動ピークと第1の振動ピーク(矢印29)の間の差は、4.9dBであり、これは、推定された7.9μmの振動振幅(5μmの実際値と比べて58%の誤差)に対応する。
【0142】
代替の血液速度推定法は、送信帯域幅における周波数の全範囲に対応する適切にスケーリングされたドプラスペクトルを合成することによって、2D FFTスペクトルから導き出されることができる(例えば、非特許文献7参照)。この方法から推定された速度スペクトルは、
【0143】
【数36】
【0144】
によって与えられる。ここで、f0は、中心周波数、BWは、送信パルスの帯域幅、fRFおよびfDOPは、それぞれ2D FFT領域における空間周波数および時間周波数、Y(fRF,fDOP)およびY0(fRF)は、式(7)で定義されたフーリエ変換である。この推定は、「多周波推定(multifrequency estimate)」と呼ばれる。多周波推定は、サンプルボリュームにわたる積分によって導入される大きな統計的変動が回避されるので、速度解像度を改善する。本発明の開示では、これらの技法は、狭窄血管周囲の組織における振動を識別するために適合される。1MHzの帯域幅を使用して図5Aおよび図5Bから計算される多周波推定が、それぞれ図10Aおよび図10Bに示されている。組織運動ピークは、(図10Aおよび図10Bにおいて)矢印33によって示されるように、125Hzにあり、129Hzの予想ドプラシフトとよく対応する。第1の振動ピークは、(図10Bの矢印35によって示されるように)それぞれ−172Hzと422Hzにあり、式(13)によれば、297Hzの推定振動周波数(300Hzの実際値と比べて1%の誤差)を生じさせる。低周波数ピークと第1の振動ピークの間の差は、6.5dBであり、5.48μmの推定振動振幅(5μmの実際値と比べて9.6%の誤差)に対応する。
【0145】
上で示されたように、多周波推定は、ラドン変換と比べて、振動振幅および周波数のより正確な推定を提供する。ラドン変換推定は、平均組織運動によるドプラシフトについて自動的に補正を行うが、このドプラシフトは、多周波推定では保存される。多周波推定のスペクトル拡散は、ラドン変換推定のものと同じである。しかし、ラドン変換を計算する追加の計算負荷は、ラドン変換に基づいた推定を、多周波推定より望ましくないものにする。
【0146】
シミュレーションモデルを使用した狭窄の超音波振動イメージングの妥当性検証
提案された狭窄振動検出アルゴリズムを評価するため、血管壁における振動のシミュレーションモデルが開発された。図11Aは、妥当性検証で使用されるシミュレーションモデル(すなわち、散乱体分布の3Dモデル)を概略的に示している。超音波シミュレータField II(Jensen、1996年)が、パルスエコー空間インパルス応答hpe(・)およびトランスデューサ時間応答x0(・)を計算するために使用された。散乱振幅αsおよび平均位置r→sは、ガウス分布からランダムに割り当てられ、血管壁からの散乱強度は、血液からのものより40dB高い。瞬間散乱体位置ν(r→,t)は、図11Bにグラフによって示されているように、正常な人の大腿動脈の血管壁からのドプラ超音波信号の位相を使用して推定された。運動は、0.08mmのピーク変位をもち、血管壁に直交する方向に起こるものとして定義された。振動は、血管壁に直交する方向に運動し、0.5μmのピーク振幅、100Hzの周波数をもつように、血管壁の1つの領域において発生させられた。振動を伴うクラッタ運動が、図11Bのボックス180内にグラフによって示されている。振動drvib(t)は、異なる信号対雑音比(SNR)において白色ガウス雑音を有するガウス加重シヌソイド(Gaussian−weighted sinusoid)として、以下のようにモデル化され、
【0147】
【数37】
【0148】
【数38】
【0149】
ここで、tpositionおよびtdurationは、心臓周期における振動の位置および持続時間、βSNRは、白色ガウス雑音n(t)のSNRである。ガウス雑音の追加は、血流の渦および乱流によって生み出されると予想される広帯域振動をシミュレートする。振動周波数は100Hzであり、βSNRは0から2まで変化させられた。
【0150】
血液からの信号は、主要なアルゴリズムの両方で雑音スペクトルの一部であると見なされた。血流からの信号が振動として誤検出されないことをさらに検証するため、血流も、図11Aの妥当性検証モデルでシミュレートされた。血液に対応する散乱体の運動は、Jensenによって提案された人の大腿動脈における血流モデル(1996年)を使用して生成された。モデルに導入された血流は、50cm/sのピーク速度を有する放物線である。シミュレートされた血流の時間変化する速度特徴が、図11Cのグラフによって示されている。
【0151】
Field IIシミュレーションパラメータは、上で表1において言及された。得られたシミュレート無線周波(RF)ラインは、同相(I)および直交(Q)データを得るために復調され、これらは、原カラーフローデータを得るためにデシメーションされた。感度および特定性を測定するため、振動検出性能が異なる閾値を用いて評価された。位相分解アルゴリズムの場合、Ethresholdは、信号が振動として見なされるための、優位成分におけるエネルギーの%を示す。root−MUSICベースのアルゴリズム(すなわち、雑音における複素指数の推定に基づいたアルゴリズム)の場合、Fthresholdは、複素指数のマッチングペアの周波数の最大差を表す。シミュレーションは、異なる閾値および異なるモデル次数を用いて実行され、検出器性能を評価するために、受信器動作特性(ROC:receiver−operating characteristic)曲線が生成された。その後、ROC曲線は、適切な閾値設定およびモデル次数を選択するためのガイドラインとして使用されることができる。位相分解アルゴリズムの場合、p次モデルは、Eをアンサンブルサイズとして、2≦p<E/2である、2(p+1)×2(p+1)型の相関行列をもった。2つの優位成分が、振動検出のために考察された。root−MUSICアルゴリズムの場合、モデル次数pは、指数のマッチングペアの検出を可能にするため、3≦p<E/2であるように選択され、推定相関行列サイズは、2p×2pであった(例えば、非特許文献2参照)。
【0152】
図12Aは、黒緑カラーマップを使用してBモードイメージ上にオーバーレイされた振動振幅イメージである。カラーマップは、推定振幅の値に従って較正されている。提案されたアルゴリズムを定量的に評価するため、(図12Bにグラフによって示された)2つのマスクが生成され、Vは、振動がシミュレートされた領域に対応し、NVは、振動が存在しない領域に対応する。散乱体は時間変化運動を有するので、振動する散乱体が領域NVに存在しないことを保証するように、マスクは適切に空間的に生成される。領域Vにおいて振動として正しく検出されたピクセルのパーセンテージが、真陽性としてカウントされ、領域NVにおいて振動として検出されたピクセルのパーセンテージが、偽陽性としてカウントされる。
【0153】
異なるモデル次数を使用する、上で説明された2つの主要なアルゴリズム(位相分解アルゴリズムおよび雑音における複素指数の推定に基づいたアルゴリズム)に関する感度、特定性、およびROC曲線が、図13A〜図13Fにグラフによって示されている。図13Aは、図3Aに示された位相分解アルゴリズムの場合、閾値がより大きくなると、より多くの真の振動が拒絶されるので、すべてのモデル次数について、閾値が大きくなるにつれて感度が低下することが示されている。相関行列がより小さいので、より低いモデル次数がより高い感度を有し、したがって、限られた数の時間サンプルを使用して、より良い推定が得られることができる。
【0154】
図13Bは、特定性は、すべてのモデル次数について、非常に類似しており、より大きな閾値はより良い雑音拒絶をもたらすので、閾値が大きくなるにつれて上昇することが示されている。より細かい調査の結果、大多数の誤検出は、血流速度が低く、クラッタ対血液信号比(clutter−to−blood signal ratio)が高いときに生じることが決定された。そのような場合、血液からのI−Qドプラ信号は、振幅の小さい組織振動のものとほとんど区別がつかないことがあり得る。異なるモデル次数についてのROC曲線が、図13Cにグラフによって示されており、96%の感度および98%の特定性が2次のモデルを用いて達成され得ることが示されている。適切な閾値を選択するため、動作点がROC曲線において選択される。その後、対応する閾値が、図13Aまたは図13Bから見出されることができる。
【0155】
図13Dは、図3Aに示されたroot−MUSICベースのアルゴリズムの場合、周波数閾値が大きくなると、より多くの真の振動が検出され得るので、すべてのモデル次数について、周波数閾値が大きくなるにつれて感度が上昇することが示されている。
【0156】
図13Eは、周波数閾値が大きくなると、より多くの誤検出が生じるので、閾値が大きくなるにつれて特定性が低下することが示されている。4次のモデルは、クラッタ空間のより良いモデリングのため、僅かにより良い感度および特定性を有する。
【0157】
root−MUSICベースのアルゴリズムのROC曲線が、図13Fにグラフによって示されている。3次のアルゴリズムの場合、97%の感度および98%の特定性が達成可能であり、4次のアルゴリズムの場合、99%の特定性で、感度は98%に高められることができる。
【0158】
振動帯域幅の増大に伴う感度の変化が、図14にグラフによって示されており、(線200によって示される)図3Cの位相分解アルゴリズムと(線202によって示される)図3Aのroot−MUSICアルゴリズムの両方が、振動が狭帯域であるとき(βSNR=0)は、同じくらいの感度を達成し得ることを示している。振動の帯域幅が増大すると、root−MUSICアルゴリズム(線202)の場合、狭い帯域幅を有する複素指数として振動をモデル化することに基づいているので、感度が低下する。他方、位相分解アルゴリズム(線200)は、振動の帯域幅特性について事前仮定を作らないので、振動の帯域幅に対してより堅牢である。
【0159】
組織振動イメージングシステム
組織振動イメージングが臨床的に役に立つためには、振動のリアルタイム視覚化が非常に望ましい。B、M、カラーフロー、およびドプラなどすべての従来の処理モードをサポートするために高性能マルチメディアプロセッサを使用する、プログラム可能な超音波信号およびイメージ処理システムが、ソフトウェアで利用可能である。プログラム可能なシステムの主な強みは、新しいハードウェアを必要としない、または従来の超音波機械にハードウェア変更を施さない、新しいモードおよびアプリケーションの開発が容易なことである。そのようなプログラム可能な超音波機械は、内部の原カラーフローおよびパルス波(PW)ドプラ直交データへのアクセスおよび処理を可能にし、リアルタイムで組織振動イメージングのための上で述べた位相分解アルゴリズムの実施を容易にする。
【0160】
位相分解アルゴリズムは、2D超音波走査中の振動のオンライン視覚化のための、ソフトウェアプログラム可能な超音波システムで、すでに経験的に試験されている。現在、組織振動イメージングは、アンサンブルサイズが走査線当たり10および256サンプルで、32走査線の場合、9.1フレーム/秒で達成されることができる。超音波機械の計算能力は、プロセッサ技術の進歩から恩恵を受けて、近年著しく増大しており、この傾向は、将来も続くと予想される。マルチメディアアプリケーションを対象に据えた多くの最新プロセッサは、計算オーバーヘッドが実数の乗算および加算と同じである複素数の乗算および加算を実行することができる専用命令を有する。そのようなプロセッサを使用して、本明細書で開示されたアルゴリズムをサポートするための計算負荷は、3分の1または4分の1に引き下げられることができる。したがって、本明細書で開示された組織振動イメージングアルゴリズムの追加計算負荷は、最新の超音波機械で無理なくサポートされることができる。
【0161】
実験的妥当性検証
図15は、上記で開示される振動イメージングアルゴリズムを確認するために使用される、身体ファントム(すなわち、振動プレート)を含む試験システムを概略的に示している。圧電プレート181が、壁183およびプラスチック基台181を含む試験用の管に組み込まれる。圧電プレートは、機能発生器194に論理的に結合される。試験用の管は、水184で満たされる。(超音波機械190に論理的に結合される)超音波プローブ190と、(発振器192に論理的に結合される)光ファイバマイクロメータ188が、機能発生器194からのシヌソイド信号を使用して100Hzと800Hzの間の周波数で振動させられる圧電プレートに近づけて、水槽(すなわち、水で満たされた試験用の管)内に配置された。振動プレートの振幅が、1から7μmのピークプレート変位に対応する異なる駆動電圧について、光ファイバマイクロメータ188を使用して較正された。その後、圧電プレート181が、5MHzの線形トランスデューサおよび異なるPRFでアンサンブルサイズ10を有する、プログラム可能な超音波システムを使用して映像化された。プレートの位置も、光ファイバマイクロメータを使用して測定され、超音波を使用して得られたデータと行われる比較を可能にした。
【0162】
図16Aは、プレートファントム(すなわち、図18)の振動振幅イメージであり、図16Bは、プレートファントムの振動周波数イメージであり、振動が圧電プレートの位置として正しく検出されたことを示している。プレートの縁は基台に取り付けられるので、最大振動振幅はプレートの中央で生じ、縁では変位が0であることが予想され、それはまさに、図16Aに示されることに対応する。プレートの中央における推定振動周波数は、450と500Hzの間である。MUSIC擬似スペクトルが、図16Cに示されており、ゼロ周波数ピークが、定常エコーに対応することを示している。顕著な両側ピークが±500Hzにおいて観察され、プレートの振動周波数に対応する。
【0163】
図17Aは、圧電プレートを変位させるために使用される異なる駆動電圧について、超音波によって推定された振動振幅(y軸)対図15の光ファイバマイクロメータを使用して独立に測定された値(x軸)をグラフによって示している。振幅および周波数は、式(8)および式(9)で定義された推定法を使用して推定された。光ファイバ振幅測定は、プレートの中央で行われた。図17Bは、超音波によって推定された周波数(y軸)対機能発生器周波数(x軸)をグラフによって示している。両方のプロットに、1単位の傾きを有する実線204が示されている。推定値と測定値の間の差が、振幅については図17Cに、周波数については図17Dに、対応する測定値に対してプロットされている。図から理解されるように、検出値と測定値の間の最大差は、両方の推定法とも、振幅では1μm、周波数では50Hzより小さい。振幅における差のいくつかは、光ファイバ測定が行われたプレートの位置のばらつきに帰せられることができる。
【0164】
狭窄によって引き起こされた壁振動を視覚化し、振動スペクトルを推定する能力を検証するため、脈動流ファントム(pulsatile flow phantom)を使用して研究が実行された。実験は、生体外の子ヒツジの動脈で実行された。図18は、オシロスコープ142および光ファイバマイクロメータ148と論理的に結合されたコンピュータベースのコントローラ140と、ドプラ対応超音波イメージング機械142と、イメージングプローブ146とを含む、実験構成を概略的に示している。光ファイバマイクロメータ148およびイメージングプローブ146は、水槽内に配置された生体内動脈サンプル150の近くに位置付けられる。人の動脈流を模倣した脈動流が、脈動ポンプ154を使用して、動脈サンプルを通るように生み出される。脈動ポンプ154(フロリダ州プンタゴルダのPulsafeeder Incから入手可能なPulsatron(登録商標)ポンプ)の出力は、ダンピングカラム(damping column)156を通して、生体内動脈サンプルに接続される。ダンピングカラム内の液体の高さの調整が、全体的なフローインピーダンスを制御し、それによって、動脈内のドプラフロー特徴を、図19に示されるように、人の動脈流のものと同様に視覚的に出現させることができる。
【0165】
時間変化する壁変位が、超音波および光ファイバマイクロメータを使用して測定される。マイクロメータの出力は、オシロスコープを使用してデジタル化され、そのデータが、コンピュータベースのコントローラを使用して獲得される。原超音波データは、超音波機械の内部でデジタル的に獲得される。その後、両方の方法を使用して決定された壁変位のパワースペクトルが比較されることができる。動脈の一部分を部分的に結紮して有効管腔直径を小さくすることによって、狭窄がシミュレートされる。その後、パワースペクトル測定が、超音波および光ファイバ方法の両方を使用して繰り返される。
【0166】
図20Aおよび図20Bは、シミュレート狭窄をもつ2つの異なる生体外動脈からの振動振幅イメージである。図20Aでは、30%の狭窄が、3.4mm直径の動脈でシミュレートされている。壁振動は、約4動脈直径だけ離れた下流で生じる。図20Bでは、42%の狭窄が、3.1mm直径の動脈でシミュレートされており、壁振動は、より近い約3直径だけ下流で生じる。図20Aおよび図20Bは、上で説明された技法を使用して、動脈壁振動の位置(したがって、狭窄の位置)の明確な映像化が可能であることを示している。各イメージにおいて、狭窄部位は実線矢印141で示され、破線矢印143はフローの方向を示す。各イメージにおける対象領域は、ボックス145によって示される。
【0167】
図21は、ピークフロー加速中の、矢印147によって示される、超音波を使用して決定された平均振動スペクトルと、矢印149によって示される、光ファイバマイクロメータ(上で説明された図18を参照)を使用して決定された平均振動スペクトルをグラフによって示している。垂直軸は標準偏差を表す。両方のスペクトルとも同様の形状を有し、それを超えるとエネルギーが急速に降下する折点周波数が観察されることができる。この結果は、超音波を使用して壁振動スペクトルを評価することが可能であることを示している。
【0168】
人のバイパス静脈移植片における生体内振動
生体内の病的組織振動の特性を研究するため、大腿動脈に狭窄バイパス静脈移植片(bypass vein graft)を有する患者からデータが収集された。プログラム可能な超音波機械が、リアルタイムイメージングおよびデータ収集のために使用され、5MHzの線形プローブが、カラーフローモードにおいては500HzのPRF、10パルスのアンサンブルサイズで、PWドプラモードにおいては4〜8kHzのPRFで、イメージングおよびデータ収集のために使用された。
【0169】
図3Aに関して上で説明された(好ましくはESPRIT法を利用する)振動イメージングアルゴリズムが、オハイオ州ツインバーグのHitachi Medical Systems Americaによって製造されるプログラム可能な超音波機械Hitachi HiVision 5500(登録商標)で実施された。この機械上でのすべての信号およびイメージ処理は、ソフトウェアによって実行され、したがって、新しいアルゴリズムを容易に組み込むための柔軟性を提供する。上で開示されたアルゴリズムを使用するようにプログラムされたこのシステムは、振動がリアルタイムに視覚化されることを可能にし、生体内手続き中に上で説明された技法の評価を容易にする。
【0170】
データは、可聴ブリュイを有する、狭窄バイパス静脈移植片を有する患者から収集された。静脈移植片は最初に、カラードプラ超音波を使用して視覚化された。ブリュイの血管周囲アーチファクトが見えるまで、PRFが調整された。その後、振動振幅イメージがリアルタイムに生成された。ブリュイが2D振動イメージ内に見えるようになると、ドプラサンプルボリュームが、最大振動振幅をもつ位置に配置された。その後、振動スペクトルが、上で説明された技法(図3Aを参照)を使用して、パルス波ドプラデータから生成された。振動スペクトル内に「折点」周波数が認められた。
【0171】
図23Aは、狭窄静脈移植片のカラーパワーイメージであり、図23Bは、同じ狭窄静脈移植片の振動振幅イメージであり、図23Cは、同じ狭窄静脈移植片の振動周波数イメージである。矢印206は、狭窄の位置を示している。周囲血管アーチファクトは、矢印208によって示されるように、カラーパワーイメージ内に見ることができ、一方、振動振幅イメージは、矢印210によって示されるように、狭窄の下流のブリュイの発生源をはっきり示している。振動振幅は、血管壁の近くが最も高く、血管壁から遠ざかるにつれて減少する。
【0172】
血管壁変位をより詳細に評価するため、距離ゲートがピーク振動振幅の位置に配置され、(概括的に図5に関して上で説明されたように)変位がドプラ信号の位相から推定された。血管壁の瞬間位置および対応するスペクトルが、時間の関数として図24Aおよび図24Bに示されている。図24Aは、狭窄大腿静脈移植片からのパルス波ドプラデータの位相を使用して推定される、ボックス212に示される振動をもつ瞬間血管壁位置をグラフによって示している。図24Bは、図24Aからの信号の運動ピリオドグラム(motion periodogram)である。図24Bの変位スペクトルは、最大200Hzの著しいエネルギーを示し、各心臓サイクルで繰り返される。
【0173】
1.25秒の時間における図24Bのスペクトルの交差セクションが、図24Cにグラフによって示されている。矢印214によって示されるように、ピークが90Hzの折点周波数において観測され、それを超えると、周波数が増大するのに伴い、エネルギーが減退する。図24Dは、概括的に図3Aに関して説明されたMUSICアルゴリズムを使用して、同じ位置においてカラーフローデータの10アンサンブルだけから推定された擬似スペクトルをグラフによって示している。顕著なスペクトルピークが、矢印216によって示されるように、折点周波数において観測される。MUSIC擬似スペクトルは完全なスペクトル特性を反映していないが、スペクトルピークを推定するために使用され得ることに留意されたい。このケーススタディは、血流の渦によって引き起こされた生体内組織振動は、短い時間記録だけを使用して検出され得ることを示しており、リアルタイム振動イメージングの実現可能性を例証している。
【0174】
図25Aは、パルス波ドプラデータから推定された変位を使用して計算された正常大腿動脈からの壁変位スペクトルをグラフによって示している。スペクトルエネルギーは、数10Hz内で急速に減退し、100Hzを超えるスペクトルエネルギーは、雑音レベルに匹敵する。図25Bは、狭窄バイパス静脈移植片からのスペクトルをグラフによって示している。スペクトルエネルギーは、より緩やかに減退し、数100Hzにおいてさえも、相当なエネルギーが存在する。矢印160は、それを超えるとエネルギーが周波数の増大とともに減退する折点周波数を示す。図25Cは、同じ患者の第2の狭窄からのスペクトルをグラフによって示している。スペクトルのピークが、矢印162によって示されるように、折点周波数において観測されることができる。スペクトルの全体的形状は、図25Bのものと同様である。
【0175】
図25Dは、異なる患者の静脈移植片狭窄からのスペクトルをグラフによって示している。やはり、顕著なスペクトルピークが、矢印164によって示されるように、折点周波数において観測されることができる。
【0176】
振動スペクトルのリアルタイム定量評価のため、スクロール表示技法が実施されることができ、水平軸は時間を表し、垂直軸は対数目盛で周波数を表し、ピクセル輝度は振動強度を表す。図26A〜図26Dは、そのような時間変化する壁振動スペクトルをグラフによって示している。図26Aによって表される正常な大腿動脈では、45Hzを超えるスペクトルエネルギーは、雑音レベルに匹敵する。狭窄の場合、図26B〜図26Dにグラフによって示されるように、より高い周波数に相当なスペクトルエネルギーが存在する。3つの狭窄のすべてで(すなわち、図26B〜図26Dに示されるように)、振動はピーク収縮期壁運動の直後に生じる。折点周波数は、矢印166、168、および170によって示されるように、この時間変化する振動スペクトル表示から視覚的に決定されることができる。これらの折点周波数の自動検出も、リアルタイムに実行されることができる。
【0177】
人の冠動脈における生体内振動
図27Aは、左前下行(LAD:left anterior descending)動脈および右冠動脈(RCA:right coronary artery)に血管造影的に確認された冠動脈疾患を有する患者の心筋壁上に位置付けられた範囲から、上で説明された時間2D FFT法を使用して計算されたドプラスペクトルである。距離ゲートが、RCA付近に配置された。等容収縮(IVC:isovolumetric contraction)、心室駆出(VE:ventricular ejection)、等容弛緩(IVR:isovolumetric relaxation)、および心室充満(VF:ventricular filling)に対応する心筋壁運動の4つのフェーズが示されている。高周波数の狭帯域振動を示す明らかな高調波スペクトルが、心室駆出フェーズの後半の部分に観察されることができる。振動は、連続的に減少する周波数を有し、斜めの帯として現れ、2つの連続する心臓周期内で繰り返される。対称的な両側ピークが、心室駆出フェーズ末期において観測される振動を表す。
【0178】
図27Bは、上で詳細に説明された自己相関法を使用して推定された、心室駆出中の壁速度の詳細な時間経過をグラフによって示している。速度は、ボックスに囲われた領域内に示された、振動を表す振動成分を示している。振動の持続時間は約85msであり、振動は調和成分をもつように見える。
【0179】
図28Aは、コーダルアンギュレーション(caudal angulation)を用いて左前斜位投影(left anterior oblique projection)において獲得された、図27Aおよび図27Bで映像化された患者の右冠動脈の血管造影イメージである。近位RCAにおける瀰漫性20%狭窄(diffuse 20% stenosis)、中位RCAにおける管状20%狭窄(tubular 20% stenosis)、および遠位RCAにおける40%狭窄が識別されることができる。
【0180】
図28Bは、図27A、図27B、および図28Aの患者からの拡張期における心尖部二腔像(apical two−chamber view)にオーバーレイされた振動振幅イメージである。後側左心室壁の振動が、RCAの中位および遠位部分の近くに見られることができる。振動は、遠位RCAにおける2つの異なる病変に対応し得る2つの領域に発生源があるように思える。
【0181】
図29Aは、クラニアルアンギュレーション(cranial angulation)を用いて右前斜位投影において獲得された、図27A、図27B、図28A、および図28Bで映像化された患者の血管造影イメージである。近位LADは中度に石灰化している。中位LADに50%管状病変が存在する。
【0182】
図29Bは、図29Aの患者からの心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージである。中位LADセクションに心筋振動が観察されることができる。
【0183】
狭窄から生じる組織振動とその他の源から生じる組織振動との区別
振動は、孔の両側の圧力差によって生み出される。狭窄は、そのような圧力差が存在する、孔を含む比較的一般的な生理学的特徴を表す。しかし、破裂血管などのその他の生理学的特徴も、振動を生み出すことができる圧力差を有する孔を含む。以下では、本明細書で開示された振動イメージング技法が、どのようにして狭窄と組織振動のその他の源とを区別することができるかについての説明を提供する。
【0184】
狭窄では、圧力差は一般に、収縮期により著しいが、出血血管では、圧力差は、拡張期でも同様に著しいことがあり得る。したがって、心臓周期において振動が生じる時間に関する振動の分析は、狭窄に関連する振動を出血に関連する振動から区別するために使用され得るデータを提供する。
【0185】
図1を参照すると、組織振動プロセッサ28は、心電計信号を使用して、心臓周期における振動のタイミングを決定するように構成されることができる。別の実施形態では、組織振動プロセッサは、心拍動に起因する組織運動の周期性を使用して、心臓周期中の振動のタイミングを決定するように構成されることができる。
【0186】
要約
経験的証拠は、狭窄血管に関連する血管壁および周囲組織における低強度の局所振動のリアルタイム超音波イメージングの実現可能性を例証している。パラメトリック信号分解およびスペクトル推定に基づいたいくつかのアルゴリズムが、わずか10個程度の時間サンプルを使用して、振幅の小さな組織振動を映像化するために開発された。シミュレーションは、これらのアルゴリズムが、クラッタおよび血流の存在下で振動を検出することに関して、高い感度(96%から98%)および特定性(98%から99%)を有し、広帯域振動が存在するときでさえも堅牢であることを示す。振動振幅および周波数は、正確に推定されることができ、リアルタイム組織振動イメージングが、ソフトウェアプログラム可能なサブシステムを用いる超音波機械において実施された。振動は、狭窄バイパス静脈移植片において、および被験者の冠動脈から観測された。
【0187】
組織振動イメージングは、従来のツールを使用した場合は今のところ臨床家が入手できない、追加的な診断情報を提供することができる。組織振動イメージング能力を有する超音波装置は、従来のデュプレックス超音波を使用する他の方法では診断が困難な、これまではブリュイに関連付けられた、狭窄およびその他の血管異常を評価するための有用なスクリーニングおよび診断ツールとなることができる。本明細書で開示された超音波振動イメージング技法は、振幅の小さな振動をその発生源において視覚化する可能性のために魅力的である。振動スペクトルは、狭窄における残存管腔直径に直接関係する折点周波数を計算するために使用されることができる。組織振動イメージングの重要な応用例は、おそらく冠動脈狭窄の非侵襲的診断であろう。従来のデュプレックス超音波は、冠動脈を視覚化する困難および冠動脈血流からの貧弱な散乱強度によって制限される。冠動脈狭窄を有する患者は、300Hzと800Hzの間の周波数をもつ拡張期心雑音を有する。したがって、臨床的に重要な冠動脈狭窄は、冠動脈流量および最小残存管腔直径に依存する振幅および周波数を有する振動を生み出すことが予想される。冠動脈疾患によって生み出される心臓壁振動の経胸腔的評価(transthoracic assessement)は、臨床的に重要な冠動脈狭窄を診断するための低コストで有効な方法になることができる。
【0188】
本発明がそれを実施する好ましい形態およびそれに対する変更に関して説明されたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、その他の多くの変更が本発明に施され得ることを理解されよう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によって多少なりとも限定されることはなく、代わりに、もっぱら添付の特許請求の範囲を参照することによって決定されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】組織振動イメージングを実施するのに適した例示的な超音波システムの機能ブロック図である。
【図2】振動サンプルボリュームからの予想ドプラスペクトル(すなわち、周波数対パワー)のグラフである。
【図3A】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するための例示的な部分空間ベースのアルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図3B】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するために自己回帰を使用する例示的な代替アルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図3C】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するために位相分解を使用する別の例示的な代替アルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図4】超音波を使用して生成された振動組織イメージを使用して動脈狭窄を位置的に特定し、等級分けするための方法の論理ステップを示すフローチャートである。
【図5】図5Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に沿っている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D高速フーリエ変換(FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図5Bは、エコーの原因である散乱体が超音波ビームの軸に沿って20mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図6】図6Aは、エコーの原因である散乱体が超音波ビームの軸に沿って200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が5MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図6Bは、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が2MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図7】図7Aは、5m/s2の加速で10mm/sから30mm/sに加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図7Bは、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、5m/s2の加速で10mm/sから30mm/sに加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図8】図8Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交している場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図8Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交しており、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図9A】図5Aの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示した図である。
【図9B】図5Bの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示した図である。
【図9C】図9Aのラドン変換から計算されたスペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図9D】図9Bのラドン変換から計算されたドプラスペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図10A】図5Aの2D FFTスペクトルから計算された多周波スペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図10B】図5Bの2D FFTスペクトルから計算された多周波スペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図11A】本明細書で説明される、狭窄に関連する振動を映像化するための超音波使用を検証するために使用される散乱体分布の3Dシミュレーションモデルを概略的に示した図である。
【図11B】ボックスで囲われた領域によって示される振動を伴うモデル化されたクラッタ運動をグラフによって示した図である。
【図11C】モデル化された血流特徴をグラフによって示した図である。
【図12A】本明細書で開示される振動イメージング技法を検証するために使用されるシミュレーションモデルの振動振幅イメージの図である。
【図12B】振動検出の感度および特定性を計算するために使用されるマスクを概略的に示した図である。
【図13A】位相分解ベースの振動検出についての感度対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13B】位相分解ベースの振動検出についての特定性対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13C】位相分解ベースの振動検出についての受信器動作特性曲線をグラフによって示した図である。
【図13D】root−MUSICベースの振動検出についての感度対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13E】root−MUSICベースの振動検出についての特定性対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13F】root−MUSICベースの振動検出についての例示的な受信器動作特性曲線をグラフによって示した図である。
【図14】本明細書で開示された位相分解アルゴリズムおよびroot−MUSICアルゴリズムについて、振動帯域幅の増大に対する感度の堅牢性をグラフによって示した図である。
【図15】プレートの振動を映像化するために超音波プローブが使用される実験構成であって、本明細書で開示された組織振動を映像化するための超音波の使用を支持する経験的証拠を生み出すために使用された構成を概略的に示した図である。
【図16A】振動振幅でオーバーレイされた図15の振動ファントムのBモード超音波イメージの図である。
【図16B】振動周波数でオーバーレイされた図15の振動ファントムのBモード超音波イメージの図である。
【図16C】図16Bの超音波イメージの一部から取り出されたI−QアンサンブルデータのMUSIC擬似スペクトルをグラフによって示した図である。
【図17A】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動振幅をグラフによって示した図である。
【図17B】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動周波数をグラフによって示した図である。
【図17C】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動振幅の間の差をグラフによって示した図である。
【図17D】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動周波数の間の差をグラフによって示した図である。
【図18】超音波プローブが生体外動脈の狭窄を映像化するために使用される実験構成であって、本明細書で開示された狭窄に関連する組織振動を映像化するための超音波の使用を支持する経験的証拠を生み出すために使用された構成を概略的に示した図である。
【図19】図18の生体外動脈におけるフローのイメージの図である。
【図20A】30%のシミュレート狭窄を表す、図18の実験構成を使用して得られた生体外動脈の振動振幅イメージの図である。
【図20B】42%のシミュレート狭窄を表す、図18の実験構成を使用して得られた生体外動脈の振動振幅イメージの図である。
【図21】図18の実験構成を使用してシミュレートされた狭窄からの振動スペクトルであって、パルス波ドプラ超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して生成された振動スペクトルをグラフによって示した図である。
【図22】図22Aは被験者における狭窄静脈移植片からのカラードプライメージの図である。図22Bは図9Aの狭窄静脈移植片の振動振幅イメージの図である。
【図23】図23Aは周囲血管アーチファクトを含む狭窄大腿静脈移植片のカラーパワー超音波イメージの図である。図23Bは図23Aの狭窄大腿静脈移植片の振動振幅イメージの図である。図23Cは図23Aの狭窄大腿静脈移植片の振動周波数イメージの図である。
【図24A】狭窄大腿静脈移植片からのパルス波ドプラデータの位相分解を使用して推定される瞬間血管壁位置をグラフによって示した図である。
【図24B】図24Aを生成するために使用された信号の運動ピリオドグラムの図である。
【図24C】特定の時点における図24Bのスペクトルの交差セクション特徴をグラフによって示した図である。
【図24D】同じ位置におけるカラーフロー超音波データの10アンサンブルについてMUSICアルゴリズムを使用して計算された運動擬似スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25A】本明細書で開示された技法を使用して生体内で得られる正常な大腿動脈の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25B】本明細書で開示された技法を使用して生体内で得られる狭窄大腿バイパス静脈移植片の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25C】図25Bに表された狭窄と同じ患者に存在する異なる狭窄の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25D】別の患者に存在する狭窄の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図26】図26Aは本明細書で開示された技法を使用して得られる正常な動脈の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Bは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Cは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Dは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図27】図27Aは心室駆出フェーズ末期において観察される振動を対称的な両側ピークが表す、冠動脈疾患を有する患者の心筋の超音波イメージから2D FFT法を使用して計算されたドプラスペクトルの図である。図27Bは調和成分を含むように見える高周波数振動をボックスに囲われた領域が示す、心室駆出中の壁速度の時間経過をグラフによって示した図である。
【図28】図28Aはコーダルアンギュレーションを用いて左前斜位投影において獲得された、冠動脈疾患を有する患者の血管造影イメージの図である。図28Bは図28Aの患者の心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージの図である。
【図29】図29Aはクラニアルアンギュレーションを用いて右前斜位投影において獲得された、冠動脈疾患を有する患者の血管造影イメージの図である。図29Bは図29Aの患者の心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージの図である。
【符号の説明】
【0190】
12 超音波トランスデューサ
14 フロントエンドサブシステム
16 ビームフォーマ
18 時間利得補償
20 RF復調器&デシメータ
22 バックエンドサブシステム
24 Bモード処理
26 カラーフロー処理
28 組織振動処理
30 ドプラ処理
32 走査変換
34 後処理
36 ディスプレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的には、米国海軍研究局(ONR:Office of Naval Research)から助成金を受けており(助成金番号N00014−01−G−0460)、米国政府は、本発明に一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0002】
2世紀以上にわたって、動脈狭窄(arterial stenosis)は、聴診器を使用して聴くことのできるブリュイ(bruit)として知られる音に関連付けられてきた。聴診法(聴診器を使用する受動的聴音)が、腎血管高血圧症、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、および内出血など多くの血管疾患において、ブリュイおよび心雑音(murmur)の音量および音高を質的に評価するために定石的に使用されている。
【0003】
狭窄、動脈瘤、動静脈瘻、および偽動脈瘤に関連付けられる血管音は、血流が高圧力領域から狭い孔を通って低圧力領域に流れるときに生み出される渦によって血管壁に加えられる力によって生み出されることが、今では明らかにされている。管腔面積は狭窄によって縮小され、したがって、狭窄の隘路における流速は高められる。流速のこの局所的な高まりは、狭窄後拡張領域が境界層剥離(flow separation)を防ぐのに十分な流線型を成していない(すなわち、狭窄が「ベンチュリ管(venturi tube)」でない)場合、狭窄後ジェット(post−stenotic jet)を生み出す。ジェットの境界を境とする速度の差によって、流体剪断応力(fluid shear)の大きい領域が生み出される。これらの剪断力は、流れの中に渦を生じさせ、その渦が次に、層状の流体の流れに対する抵抗を生じさせる。渦の存在は、狭窄後領域における流速および圧力の変動の原因となり、それらの変動は、血管壁における対応する運動を引き起こす。したがって、狭窄を越えた後の圧力降下によって生み出されるエネルギーは、血管壁のこれらの力学的振動と、血液の微少な加熱とを通して消散される。血管壁および周囲組織における局所的振動は、皮膚表面に達したとき、可聴の「ブリュイ」および「心雑音」として、または触診可能な「震動」として現れる。動脈壁の弾性も、回路にキャパシタンスを導入する。狭窄後キャパシタンス(post−stenotic capacitance)は、収縮期に狭窄から遠位の圧力が上昇する原因となる。あまり深刻でない狭窄の場合、狭窄を越えた後の圧力降下は、ピーク収縮期圧力フェーズ中にだけ著しく、したがって、ブリュイは収縮期フェーズ中にだけ持続する。しかし、より深刻な狭窄の場合、狭窄から遠位の圧力降下は大きく、したがって、拡張期フェーズ中にも著しい圧力勾配が狭窄を越えた後に存在し、ブリュイが拡張期フェーズ初期まで長引く原因となる。
【0004】
振動のパワースペクトルは、ストローハル数(Strouhal number)を介して孔の直径および局所的流速と直接関係付けられる「折点周波数(break frequency)」と呼ばれる周波数ピークを示す。言い換えると、折点周波数は、狭窄箇所の残存管腔直径(residual lumen diameter)に逆比例する。高感度マイクロフォンを用いて記録されたブリュイおよび心雑音のスペクトル内容を定量化するために、血管音検査法(phonoangiography)および心音図検査法(phonocardiography)が開発され、頚動脈血管音検査法が、頚動脈狭窄の程度を推定するために、多数の臨床試験において有効に使用されている。しかし、聴診法および血管音検査法は、皮膚表面に到達する高強度振動の診断に制限され、振動の発生源が明確に弁別され得ないので、感度および特定性に乏しい。現在、ブリュイに関連付けられた振動を、その発生源において量的に映像化する診断ツールは存在しない。したがって、組織振動が診断において重要なことは示されたが、臨床的使用は今のところ限られている。皮膚表面に到達した振動の分析に限定されない、狭窄血管に関連付けられたブリュイおよび壁振動を分析するための非侵襲的技法を提供することが望ましい。
【0005】
過去20年のデュプレックスおよびカラーフロー超音波(duplex and color−flow ultrasound)の進歩は、解剖学的イメージとフローイメージとの同時利用をリアルタイムに可能にすることで、血管診断に重大な臨床的影響を及ぼした。超音波組織ドプライメージング(TDI)(ultrasonic tissue Doppler imaging)が、心臓壁および動脈における異常な壁運動の評価のために使用されてきた。従来のカラーフロー超音波イメージでは、異常な血流からの組織振動は、特徴的なスペックルアーチファクト(speckled artifact)を周囲組織において生じさせる。これらのアーチファクトは、組織振動を示し、狭窄を認知するのに役立つ。しかし、それらは解釈が難しく、定量的でもない。
【0006】
デュプレックス超音波の導入とともに、流速に基づいた狭窄の重症度の非侵襲的評価基準が開発された。これらの基準は非常に有用ではあるが、そのような技法は、壁振動スペクトルに存在する乱流情報を分析しない。高性能診断ツールを達成するため、壁振動と流速を計算に入れた、狭窄の重症度を評価するための非侵襲的な超音波ベースの技法を提供することが望ましい。
【0007】
【非特許文献1】Sikdar S, Shamdasani V, Gong L, Managuli R, Hayashi T, Mitake T, Kim Y. "A single mediaprocessor-based programmable ultrasound system," IEEE Trans Inf. Tech. Biomed 2003; 7:64-40
【非特許文献2】P. Stoica and it Moses in "Introduction to Spectral Analysis," Upper Saddle River, NJ: Prentice-Hall, 1997
【非特許文献3】Ferrara and Algazi, "A new wideband spread target maximum likelihood estimator for blood velocity estimation," IEEE Trans Ultrason Ferroelect Freq Contr.1991; 38:1-16
【非特許文献4】Bonnefous and Pesque, "Time domain formulation of pulse-Doppler ultrasound and blood velocity estimation by cross correlation," Ultrason Imaging, 1986; 8:73-85
【非特許文献5】Wilson, "Description of broad-band pulsed Doppler ultrasound processing using the. two-dimensional Fourier transform," Ultrason Imaging, 1991; 13:301-15
【非特許文献6】Munk and Jensen. "A new approach for the estimation of axial velocity using ultrasound" Ultrasonics, 2000; 37:661-5
【非特許文献7】Loupas and Gill, "Multifrequency Doppler: Improving the quality of spectral estimation by making full use of the information present in the backscattered RF echoes," IEEE Trans Ultrason Ferroelect Freq Contr., 1994; 42:672-88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、狭窄血管によって生み出される振動が検出され、その振幅および周波数に従って色分けされ、リアルタイムにBモードイメージおよび/またはカラーフローイメージ上にオーバーレイされる、超音波計器用の新しい組織振動検出モードおよびイメージングモードを開発することが望ましい。その場合、組織振動イメージングモードは、振動の発生源の位置を患者の解剖学的構造に関してより正確に特定するため、ならびに/または振動およびその原因の狭窄についての情報を同時に取得するために使用されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示される概念は、動脈狭窄に関連する組織振動を映像化することによって、そのような狭窄を検出し、位置的に特定し、定量化するために開発された。これらの振動によって引き起こされる音(ブリュイおよび心雑音)は、時には、聴診器を使用して聴くことができ、または皮膚表面で触診可能であり、内出血および動脈狭窄を始めとする様々な生理学的状態を示す。本明細書で開示される技法は、組織振動を検出し、相対的に広い対象領域において組織振動を映像化し、組織振動の測定された特性に基づいて狭窄の血行力学的特性を定量化するために、受信超音波エコーのアンサンブル(ensemble)を処理するアルゴリズムを利用する。本明細書で開示されるアルゴリズムは、人の末梢動脈および冠動脈における狭窄をリアルタイムに位置特定する際の組織振動の有用性を研究するために、プログラム可能な超音波システムにおいて実施された。
【0010】
一般に、本明細書で説明される振動イメージングアルゴリズムは、従来の超音波メージングの間に獲得された2D超音波データのアンサンブルと、そのようなデータに関連付けられる(従来のカラーフローイメージングにおいては通常は抑制される)クラッタ信号(clutter signal)とを使用して、組織振動を検出し、特徴付ける。3つの主要アルゴリズムを始めとする、この目的に適した様々な信号処理アルゴリズムが、振動のパラメトリックモデリングと、クラッタ、血流、および振動を区別する基準とに基づいて開発された。第1の主要アルゴリズムは、位相分解(phase decomposition)に基づいており、第2の主要アルゴリズムは、ノイズにおける複素指数(complex exponential)の推定に基づいており、第3の主要アルゴリズムは、自己回帰モデリング(autoregressive modeling)に基づいている。
【0011】
別の1組のアルゴリズムは、狭窄部位の近くの小さな対象領域(例えば、ドプラ距離ゲート)から受信された超音波エコーのより大きなアンサンブル(一般に64〜512)を利用して、組織振動の存在を確認し、改善された精度で組織振動の特性を測定する。運動の結果としての受信超音波エコーの遅い時間変化と、超音波ビームの方向に沿った近隣位置における組織の運動の変化の両方を利用する、2次元(2D)フーリエ変換を始めとする、この目的に適した様々な信号処理アルゴリズムが開発された。振動を識別するための第1のアルゴリズムは、直交復調受信エコーの2Dフーリエ変換に基づいており、ラドン変換(Radon transform)を利用して、振動に対応するスペクトルピークを識別する。振動を識別するための第2のアルゴリズムは、多周波平均(multi−frequency average)を利用して、振動に対応するスペクトルピークを識別し、その他の雑音源を抑制する。そのようなアルゴリズムを使用して動脈狭窄を位置的に特定し、等級分けするための方法が、本明細書でさらに開示される。
【0012】
本明細書では、血流の渦の衝撃によって生み出される軟部組織振動が、検出され、振幅および周波数に従って色分けされ、リアルタイムにBモードイメージおよび/またはカラーフローイメージ上にオーバーレイされる、超音波計器用の新しい組織振動イメージングモードが開示される。組織振動イメージングモードは、振動の発生源の位置を解剖学的構造に関してより正確に特定するため、ならびに/または振動およびその原因の血流についての情報を同時に取得するために使用されることができる。
【0013】
リアルタイム組織振動イメージングは、ソフトウェアプログラム可能信号とイメージ処理バックエンドとを用いる超音波システムにおいて、例えば、10フレーム/秒のフレームレートで実施された。予試験の結果は、動脈狭窄の結果として生み出される振動が、そのような技法を使用して検出され、映像化され得ることを確認した。振動振幅は、狭窄の下流の部位の近くで最大になることが予想され、この事実は、狭窄の位置を迅速かつ非侵襲的に特定するために使用されることができる。組織振動から強く後方散乱される超音波エコーは、ドプラ血流速度ベースの方法を使用した場合には血液からの弱い散乱が原因で検出することが難しい、狭窄の検出を改善することができる。
【0014】
可能性として、この新しい組織振動イメージング技法は、様々な装置および臨床現場において有用であることができる。例えば、組織振動検出機能を備える低コストのポータブルスクリーニング装置は、冠動脈および末梢動脈疾患を有する患者を診断および/もしくは選別するために、一般医によって便利に利用されることができ、または胸に痛みのある患者を評価するために、医療補助者および外傷センタによって便利に利用されることができる。加えて、ハイエンド超音波システムにおける組織振動イメージングモードは、高性能診断能力のためにデュプレックス超音波を増強することができ、これは、患者の狭窄を診断するために、イメージングセンタ、心臓病クリニック、および病院によって便利に利用されることができる。狭窄を示す検出された組織振動は、聴診器を使用してブリュイを聴く訓練を受けた人には認識可能であるような可聴信号として、または触診可能な震動を検出する訓練を受けた人には認識可能な触診可能信号として提供されることができる。
【0015】
本明細書で開示される概念の一態様は、狭窄の下流の血流の渦によって引き起こされる組織振動を検出し、特徴付けることによって、2D超音波データのアンサンブルを使用して動脈狭窄を検出し、その位置を特定するための方法に関する。この方法は、映像化される部位の組織運動スペクトル信号を生成するために、2D超音波データのアンサンブルを処理するステップを含む。その後、組織運動スペクトル信号は、狭窄における振動以外の源からの組織運動への寄与が実質的に最小化された組織振動信号を生成するために処理される。振動イメージは、組織振動信号を使用して表示され、部位における狭窄の位置を示す。
【0016】
2D超音波データのアンサンブルを処理する1つの手法は、超音波データから相関行列(correlation matrix)を推定するステップと、信号部分空間(signal subspace)と雑音部分空間(noise subspace)とを識別するために相関行列の固有分解(eigen decomposition)を実行するステップとを含む。その後、信号部分空間および雑音部分空間における優位振動成分の周波数が推定され、その推定に基づいて、振動振幅推定および振動周波数推定が決定される。振動振幅推定と振動周波数推定の少なくとも一方が、組織振動信号を含む。
【0017】
狭窄に関連する振動を映像化するために2D超音波データのアンサンブルを処理する第2の手法は、受信超音波エコーのアンサンブルの自己回帰モデルの反射係数(reflection coefficient)を計算するステップを含む。線形予測フィルタ係数(linear prediction filter coefficient)が、反射係数から計算される。パワースペクトルが推定され、パワースペクトルのピークが検出される。パワースペクトルの推定およびピークに基づいて、振動振幅推定および振動周波数推定が決定される。やはり、振動振幅推定と振動周波数推定の少なくとも一方が、組織振動信号を含む。
【0018】
2D超音波データのアンサンブルを処理するまた別の手法では、平均クラッタ速度(mean clutter velocity)が、自己相関を使用して超音波データから推定される。2D超音波データのアンサンブルは、平均クラッタ速度を用いてダウンミックスされ、ダウンミキシング信号を生成する。ダウンミキシング信号の位相とダウンミキシング信号の平均位相が決定され、平均位相がダウンミキシング信号の位相から減算されて、残差位相(residual phase)を生成する。その後、残差位相は優位成分に分解される。エネルギー閾値および周波数閾値を適用することによって、雑音および血流からの組織振動への寄与は、実質的に抑制され、部位における組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成する。
【0019】
残差位相を分解するステップは、好ましくは、残差位相から相関行列を推定するステップと、優位成分を決定するために相関行列の固有分解を実行するステップとを含む。
【0020】
フィルタリングを行うステップは、好ましくは、部位における狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去するステップを含み、また好ましくは、部位における狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数にある雑音をフィルタで除去するステップも含む。このステップも、信号の統計的特性を利用することによって、血流と組織振動とを区別するステップを含む。
【0021】
加えて、本発明の方法は、組織振動イメージから決定された組織振動の位置にドプラサンプルボリューム(Doppler sample volume)を配置することによって、振動イメージに表示された振動が部位における狭窄に対応することを確認するステップを含むことができる。このステップでは、相対的に大きなアンサンブル(一般に64〜512パルスを含むアンサンブル)から決定された組織振動スペクトルが、2D超音波データの相対的に小さなアンサンブル(一般に6〜16パルスを含むアンサンブル)から検出された組織振動を確認するために利用されることができる。
【0022】
振動イメージを表示するステップは、好ましくは、部位の振動振幅イメージと振動周波数イメージの少なくとも一方を表示するステップを含む。有効性のため、本発明の方法は、部位の下に重なる解剖学的構造(すなわち、Bモードグレースケールイメージ)に関連付けて、振動イメージを実質的にリアルタイムに表示するステップを含むことができる。
【0023】
本発明の別の態様は、超音波データのアンサンブルを使用して動脈狭窄を検出し、その位置を特定するための装置に関する。この装置は、超音波パルスを内部部位に向けて送信し、狭窄が原因で振動している組織を含む内部部位における散乱体(scatterer)から超音波データを受信するための、超音波トランスデューサを含む。一実施形態では、フロントエンドシステムが、超音波トランスデューサによって生み出された超音波パルスを制御し、超音波トランスデューサによって受信されたエコーを復調して、同相成分と直交成分の両方を有する信号を生成する。この装置はまた、フロントエンドシステムから信号を受信するバックエンドシステムと、組織振動プロセッサとを含む。フロントエンドおよびバックエンドシステムは、任意選択で、単一ユニットに組み合わされることができ、またはこれらのシステムの1つもしくは複数の部分は、システムのその他の部分から離れた場所で動作することもできる。組織振動プロセッサは、狭窄によって引き起こされた組織振動を推定するために、超音波信号を処理して、組織振動信号を生成する。一実施形態では、組織振動信号は、バックエンドシステムによってイメージ信号に変換される。イメージ信号を受信し、内部部位における狭窄が示された組織振動イメージを表示するために、ディスプレイがバックエンドシステムに結合される。任意選択で、ディスプレイは、組織振動検出および識別装置から離れた場所に存在することもできる。例えば、ディスプレイは、病院内に物理的に配置されることができ、一方、組織振動検出および識別装置は、装置が使用されている患者を搬送する救急車内など、別の場所に物理的に配置される。また、可視表示の代わりに、組織振動検出および識別の結果は、組織振動を表す可聴出力または触診可能出力として提供されることもできる。組織振動信号は、狭窄を示すために、自動アルゴリズムによって解釈されることもでき、自動解釈の結果は、電子的読み取りとして提供されることができる。一般に、本発明の装置によって実行される機能は、上述された方法のステップと一致する。
【0024】
上記の要約は、以下の発明を実施するための最良の形態でさらに詳細に説明される概念のほんのいくつかを簡略化された形で紹介するために提供された。しかし、上記の要約は、特許請求される主題の主要なまたは必須の特徴を識別することは意図されておらず、特許請求される主題の範囲を決定する際の助けとして使用されることも意図されていない。
【0025】
1つまたは複数の例示的な実施形態およびそれらの変更の様々な態様および付随する利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって、例示的な実施形態およびそれらの変更がより良く理解されるのに伴い、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図および開示された実施形態は限定的なものではない
例示的な実施形態が、図面の図を参照して説明される。本明細書で開示される実施形態および図は、限定的なものではなく、説明的なものと見なされるべきであることが意図されている。
【0027】
組織振動イメージングシステム
図1は、超音波システム10を示したブロック図であり、全体的に従来の超音波システムと類似しているが、組織振動イメージングを含むように変更されており、したがって、本明細書で開示される概念を実施する際に使用可能である。超音波システム10は、典型的には1MHz〜15MHzの搬送波周波数を用いて変調された信号を、複数のサイクル(すなわち、2〜20サイクル)を使用して送信する、超音波トランスデューサ12を含む。送信された信号は、ビーム経路沿いの散乱体(図示されず)によって反射され、トランスデューサから散乱までの距離に持続時間が依存する時間遅延の後に受信される。獲得ステージでは、組織から受信された音響エコーは、トランスデューサによって電気信号に変換され、これらの信号は、アナログ−デジタル変換器(別個に図示されず)によってデジタル化される。フロントエンドサブシステム14は、ダイナミックフォーカシング(dynamic focusing)、アポディゼーション(apodization)、ならびに送信および受信超音波波形のステアリング(steering)を実行する、ビームフォーマ(beam former)16を含む。フロントエンドシステム14にはまた、組織内の深さに比例する可変利得を用いて信号を増幅する、時間利得補償(TGC:time−gain−compensation)回路18と、直交復調およびデシメーションによって高周波数搬送波をデジタル的に除去して、複素量I(t)+jQ(t)として表現され得る同相(I)および直交(Q)サンプルの両方を提供する、無線周波(RF)復調器およびデシメータ20とが含まれる。その後、獲得された直交アンサンブル(またはカラーフロー)データは、例えば、Bモード、カラーフローモード、組織振動モード、およびドプラモードなど、選択された1つ(または複数)の超音波モードに応じて、バックエンドサブシステム22において処理される。
【0028】
組織の解剖学的イメージを生成するため、対象信号は、I(t)+jQ(t)の包絡線である。Bモードプロセッサ24は、エコーの大きさ
【0029】
【数1】
【0030】
を計算し、モニタ上でのグレースケールイメージとしての表示に適したものとなるようにダイナミックレンジを圧縮する。散乱体によって導入された時間遅延は、複素量I(t)+jQ(t)の位相に反映される。したがって、複素受信信号の位相は、散乱体の瞬間位置の推定を提供する。時間に伴う位相変化を監視することによって、散乱体の変位および速度が推定されることができる。カラーフローイメージングでは、複数のパルス(通常は6から16パルス)が、パルス繰り返し周波数(PRF:pulse repetition frequency)として知られるレートで、各走査線に沿って送信され、受信される。したがって、各空間位置からの受信時間サンプルの集まりは、「アンサンブル」と呼ばれる。カラーフロープロセッサ26は、一般に自己相関アルゴリズムを使用して隣接時間サンプルの間の位相差を推定することによって、データのアンサンブルから血流速度を推定する。2Dイメージは、異なる空間位置から複数のサンプルを獲得することによって生成される。ドプラプロセッサ30を用いて実施されるドプラモードでは、走査は単一の走査線に沿って実行され、単一の空間位置からの血流速度のスペクトルは、データのかなり大きなアンサンブル(一般に64〜512パルスからのデータ)から推定される。処理されたイメージフレームをラスタモニタまたはディスプレイ36上に表示する前に、走査変換(scan conversion)が走査変換器回路32によって実行され、走査変換器回路32は、獲得された超音波データを極座標からラスタディスプレイによって使用される直交座標に変換する。表示イメージの品質を改善するため、およびディスプレイ上で解剖学的構造とフローイメージとを合成するため、任意選択で、後処理回路34によって後処理が適用されることができる。
【0031】
例示的な一実施形態で超音波データを処理するために使用される組織振動プロセッサ28が、図1に示されている。直交データアンサンブルが、組織振動プロセッサに入力される。しかし、これらのデータから血流速度を推定する代わりに、組織振動プロセッサは、複素受信信号の位相から散乱組織の瞬間変位を推定する。この組織運動は、従来のカラーフローイメージングではクラッタと呼ばれ、クラッタフィルタを使用して抑制される。一般に、心拍動、呼吸、およびトランスデューサ運動は各々、組織の観測される変位または運動に寄与することができる。そのような運動は、数ヘルツまたはそれ以下の低周波数にある。狭窄が存在するとき、狭窄の周囲の組織は、数10ヘルツから1000ヘルツ以上の範囲にわたる周波数で局所的に振動する。組織運動の異なる成分の周波数を分析することによって、狭窄血管によって引き起こされた振動は、その他の運動源によって引き起こされたクラッタから区別されることができる。組織振動プロセッサは、組織運動を優位運動成分に分解し、心拍動の周波数よりも高い周波数にあると思われる運動成分を識別することによって、この分析を実行する。
【0032】
組織振動プロセッサ28は、従来の超音波機械で使用するために、追加の固定機能回路板または特定用途向け集積回路(ASIC)として実装され得ることが企図されている。ともに同じデータアンサンブルを処理するので、任意選択で、組織振動プロセッサは、カラーフロープロセッサ26と組み合わされることができる。スタンドアロン型の組織振動イメージング装置が、フロントエンドサブシステム14、Bモードプロセッサ24、組織振動プロセッサ28、および走査変換器32とともに実施されることができる。組織振動プロセッサが、1つもしくは複数のデジタル信号プロセッサ(DSP)を使用するソフトウェア/ハードウェアで、または代替としてASICで実施され得ること、あるいは組織振動プロセッサの処理ステップを実行するために、プロセッサによってアクセスされるメモリに保存された機械語命令にアクセスする従来の汎用プロセッサチップ上でさえも実施され得ることは、当業者であれば理解されよう。
【0033】
超音波機械の計算力は、近年著しく高まっており、プロセッサ技術における進歩から恩恵を受けている。したがって、以下で説明される組織振動イメージングアルゴリズムを実行することから生じる付加的な計算負荷は、最新の超音波機械で無理なくサポートされることができる。かつて、新世代の高性能マルチメディアプロセッサを使用して、B、M、カラーフロー、およびドプラなどの従来の処理モードのすべてをソフトウェアでサポートする、組織振動プロセッサとしての使用に適したプログラム可能な超音波信号およびイメージ処理システムが開発され(例えば、非特許文献1参照)、その後、このシステムは、本明細書で開示される組織振動処理を実施する際に有用であることが示された。プログラム可能なシステムの主な強みは、従来の超音波機械では必要とされることもあったハードウェア変更を必要としない、組織振動イメージングなどの新しいモードおよびアプリケーションの開発が容易なことである。したがって、ソフトウェアプログラム可能な超音波システムを使用する統合組織振動イメージングが、2D超音波走査における振動のリアルタイム視覚化のために有効かつ有益に使用された。
【0034】
組織振動イメージング用のアルゴリズム
従来のカラーフローイメージングでは、血流の速度は、サンプルボリュームから受信された複数の超音波エコー(一般に6〜16パルス)の間の平均位相差を計算することによって推定される。動いている組織から後方散乱されたエコーは、血液からの弱い散乱と比べて著しく高い(一般に40dB〜60dB高い)信号強度を有する傾向にあり、より低い速度を有する傾向もある。この振幅が高く、周波数が低い組織信号は、一般にクラッタと呼ばれ、推定血流速度に偏りを与える傾向にある。したがって、クラッタは、従来のカラーフローイメージングでは、適切なフィルタを使用して抑制される。クラッタの主要成分は、心拍動、呼吸、およびトランスデューサの動きである。血流の渦が存在するとき、局所的な組織振動、例えば、狭窄血管における血流の渦によって引き起こされる組織振動も、このクラッタの一部であり、従来の超音波処理システムでは、通常は抑制される。
【0035】
本明細書で開示される概念によれば、組織振動は、残りのクラッタおよびフロー信号から分離される。この機能を達成する際に、組織振動とクラッタとは、異なる周波数内容を有する統計的に独立した信号を生み出すことが認識された。心拍動および呼吸に起因するクラッタは一般に、1Hzまたはそれ以下で生じるが、組織振動は一般に、50Hzまたはそれ以上で生じる。その他の雑音源は、著しくより高い周波数にある。組織散乱体は互いにより緊密に結合しており、集団で動く傾向にあるので、組織からの散乱は一般に、血液からの散乱と比べてより干渉性が高い。したがって、血流信号は一般に、その他の源からのクラッタおよび組織振動信号と比べて、はるかにより大きな周波数帯域を有する。血流信号は、弱い信号強度とより大きな帯域幅のため、より強く、より干渉性の高い組織振動信号と比べて、この手法の目的に関しては、雑音と見なされることができる。したがって、組織振動は、スペクトル分析に基づいて、クラッタおよび血流から区別されることができる。受信超音波エコーの位相のスペクトル分析は、散乱信号強度を無視して散乱体運動の成分を分離するために使用されることができるが、複素超音波エコーのスペクトル分析は、信号強度および運動成分の両方を考慮する。
【0036】
本発明の概念を実施する際に好ましくは使用される、限られた数の時間超音波サンプル(6〜16パルス)のため、従来のクラッタフィルタリングおよびスペクトル推定技法は、そのような短い時間的記録をもとに組織振動と通常のクラッタとを区別する十分な解像度を欠いている。したがって、この機能を実施するために、高解像度のスペクトル推定技法が開発された。
【0037】
狭窄血管に関連する振動の映像化に関して、直交成分の最適な組として信号をモデル化する固有分解ベースのスペクトル推定と、白色ガウス雑音によって駆動される自己回帰線形予測フィルタの出力として信号をモデル化する自己回帰スペクトル推定とを含む、2つの高解像度スペクトル推定技法が、この目的のために適しているとして認定された。したがって、狭窄に関連する組織振動を分離するために、3つの信号処理アルゴリズム(固有分解に基づいた2つと、自己回帰に基づいた1つ)が開発された。第1のアルゴリズムは、受信超音波エコーの位相の固有分解ベースのスペクトル分析に基づいており、第2のアルゴリズムは、複素超音波エコーの固有分解ベースのスペクトル分析に基づいており、第3のアルゴリズムは、複素超音波エコーの自己回帰スペクトル分析に基づいている。固有分解は計算集約的な演算であるので、反復的QR分解(iterative QR factorization)を利用する近似的固有分解が、計算効率の良いアルゴリズムとして使用される。
【0038】
狭窄血管に関連する振動を映像化するために開発された信号モデル
振動する組織から受信された信号をモデル化するため、一様な運動を有し、サンプルボリューム内の位置
【0039】
【数2】
【0040】
、s=1...Sにランダムに分配された、S個の点散乱体(point scatterer)を用いて、映像化される組織が近似され、ここで、
【0041】
【数3】
【0042】
は、球面座標の単位方向ベクトルを表す。散乱体の瞬間位置
【0043】
【数4】
は、
【0044】
【数5】
【0045】
によって与えられ、ここで、(dr(t),dΨ(t),dφ(t))は、時間の関数としての変位を表す。サンプルボリュームからの散乱が一様で、平均散乱係数としてαを有する場合、サンプルボリュームの散乱関数は、
【0046】
【数6】
【0047】
となる。その場合、サンプルボリュームからの複素受信信号y(τ,t)は、単一の点散乱体のパルスエコー空間インパルス応答
【0048】
【数7】
【0049】
と、トランスデューサの時間応答x(τ)と、散乱関数
【0050】
【数8】
【0051】
との畳み込み(convolution)としてモデル化されることができる。
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、時間インデックスτおよびtは、それぞれ「速い(fast)」時間および「遅い(slow)」時間を表し、f0は、トランスデューサの中心周波数であり、n(τ,t)は、白色熱雑音である。式(1)および(2)を組み合わせた結果が、
【0054】
【数10】
【0055】
であり、ここで、cは、音速であり、
【0056】
【数11】
【0057】
は、トランスデューサと各点散乱体の間の往復(two−way)パルス伝播時間である。振動に関する散乱体の変位は、パルスエコー空間インパルス応答の空間サイズおよびトランスデューサ応答の包絡線と比べて小さい。したがって、最初の2つの項の「遅い」時間変化は、無視されることができ、式(3)は、
【0058】
【数12】
【0059】
と簡略化されることができ、ここで、A(τ)は、散乱信号の複素振幅である。複素受信信号が、瞬間放射状変位(instantaneous radial displacement)を用いて位相変調されることは明らかである。
【0060】
サンプルボリューム内の散乱点がすべて、ピーク変位a0、周波数fvibで、単純な調和的な仕方で放射状に振動している場合、心拍動、呼吸、およびその他の組織運動(すなわち、クラッタまたは雑音)によるトランスデューサに対する組織変位は、dtiss(t)である。この運動は、これ以降、「クラッタ運動(clutter motion)」と呼ばれる。その後、合成された変位は、以下のように、重ね合わせと見なされることができる。
dr(t)=dtiss(t)+a0sin(2πfvibt) (5)
【0061】
超音波パルスのアンサンブルは、パルス繰り返し周波数(PRF)として知られるレートとで、同じ方向に送信される。その場合、m番目のパルス送信からの複素受信信号y(τ,m)は、
【0062】
【数13】
【0063】
であり、ここで、TPRFは、パルス繰り返し間隔である。位相変調複素受信信号のフーリエ変換は、ベッセル級数(Bessel series)
【0064】
【数14】
【0065】
であり、ここで、Jiは、第1種ベッセル関数(Bessel function of the first kind)、
【0066】
【数15】
【0067】
、δは、ディラックのデルタ関数(Dirac delta function)、c(f)は、クラッタ運動のスペクトル(クラッタスペクトル)、N(τ,f)は、雑音スペクトルである。
【0068】
図2は、組織振動が存在するときの超音波信号の典型的なパワースペクトル40を示している。スペクトルは、以下に提示される式(8)によって示されるように、振動周波数によって分けられるクラッタスペクトルの複数のコピーを含む。ftissにおける低周波数ピーク42は、クラッタスペクトルに対応し、参照番号44および46によってそれぞれ示される対称的なピークf-およびf+は、振動に対応し、ptiss、p+、およびp-は、対応するピークパワーである。f+およびf-における周波数ピークは、本明細書では、「マッチングペア(matching pair)」と呼ばれる。振幅が小さい振動の場合、より高次の項は無視されることができ、したがって、スペクトルエネルギーの大部分は、それぞれ3つの周波数ピークf-、ftiss、およびf+に存在する。
【0069】
【数16】
【0070】
であるので、周波数ピークにおけるパワーの比は、振動振幅の推定を提供することができる。したがって、振動周波数および振幅は、以下のように、パワースペクトルから推定されることができる。
【0071】
【数17】
【0072】
これらの推定法は、本明細書では、それぞれ「スペクトル周波数推定法(spectral frequency estimator)」および「パワー比振幅推定法(power ratio amplitude estimator)」と呼ばれる。代替として、振動周波数および振幅は、クラッタ運動の影響を抑制した後、超音波振動の残差位相
【0073】
【数18】
【0074】
から推定されることもできる。優位成分の周波数の計算効率の良い粗い推定
【0075】
【数19】
【0076】
は、残差位相のゼロ交差Nzeroをカウントすることによって得られることができる。この推定は、残差位相を補間して振動の平均周期を計算することによって、さらに洗練されることができる。振動振幅は、残差位相の分散によって推定されることができる。これらの推定法は、以下のように定義され、
【0077】
【数20】
【0078】
本明細書では、それぞれ「ゼロ交差周波数推定法(zero−crossing frequency estimator)」および「位相分散振幅推定法(phase variance amplitude estimator)」と呼ばれる。
【0079】
リアルタイム組織振動イメージングの場合、対象領域内の各サンプルボリュームからの超音波データの短いアンサンブル(一般に6〜16パルスまたはエコー)だけしか、処理のために利用できないことがある。従来のカラーフローイメージングシステムは、血流を保ちながら、クラッタを抑制するために、クラッタフィルタリングを利用する。しかし、僅かな数の時間サンプルのため、従来のクラッタフィルタリングベースの手法、またはフーリエベースの手法は、組織振動、血流、およびクラッタを区別するのに十分な解像度を欠いている。振動信号の特性を利用するパラメトリック手法は、この区別を行うのにより適しているように思われる。(a)雑音内の1対の複素指数の推定、(b)自己回帰モデリング、および(c)超音波信号の位相の分解を含む、式(6)および(7)の超音波振動のモデルに基づいた3つのパラメトリック手法が、利用されることができる。以下のセクションでは、これら3つのパラメトリック手法に基づいた例示的な振動検出アルゴリズムが、より詳細に説明される。式(4)の複素超音波信号を生成する1つの方法は、受信超音波信号の直交分解である。代替方法は、相互相関技法を使用して受信RF超音波データを処理することによって、式(4)の位相変化を生み出す時間遅延を計算することである。
【0080】
雑音内の複素指数の推定を使用する振動イメージング
式(7)のベッセル展開(Bessel expansion)の逆フーリエ変換を使用して、式(6)は、以下のように展開される。
【0081】
【数21】
【0082】
したがって、超音波信号は、雑音に埋め込まれた複素指数の和としてモデル化されることができる。式(10)の角括弧によって括られた式から理解され得るように、振動は、複素指数のマッチングペアに対応する。対照的に、クラッタ運動に対応する複素指数は一般に、周波数のそのようなマッチングペアをもたない。周波数(ftiss,f+,f-)は、root−MUSICアルゴリズムおよびESPRITアルゴリズムを使用して推定されることができる(例えば、非特許文献2参照)。その場合、振動は、マッチングピーク基準|f++f-−2ftiss|<Fthresholdを使用して、検出されることができ、振動振幅および周波数は、上で説明された式(9)を使用して、推定されることができる。アルゴリズムのステップは、図3Aに関して、以下でより詳細に説明される。この基準に基づいて、振動が検出され、クラッタ運動から区別されることができる。任意の血流信号は雑音スペクトルの一部として見なされ得る。
【0083】
図3Aは、カラーフロー処理から通常は除外される、クラッタまたは雑音内の1対の複素指数に基づいて組織振動を推定するための、第1のアルゴリズムに含まれる論理ステップを示すフローチャート50を示している。手順は、2D超音波データの直交復調アンサンブル52から始まる。
【0084】
ステップ53で、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタが抑制される。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0085】
ステップ54で、相関行列が、カラーフローデータから推定される。ステップ56で、固有分解を実行して、信号部分空間58と雑音部分空間60とを生成するために、相関行列が利用される。ステップ62で、信号部分空間と雑音部分空間とを使用して、優位成分の周波数が、上で述べられたroot−MUSICアルゴリズムおよびESPRITアルゴリズムを利用することによって推定される。その後、判断ステップ64は、各優位成分が両側性をもつ(double−sided)かどうかを決定し、一方、ステップ66は、式(8)を使用して各優位成分の振動振幅および周波数を推定する。優位成分が両側性をもたない(すなわち、潜在的組織振動成分ではない)場合、判断ステップ64は「0」を返し、一方、優位成分が両側性をもつ場合、判断ステップは1を返す。その後、乗算器68は、判断ステップ64の出力に優位成分の振動振幅および周波数推定を乗じ、優位成分が組織振動成分でない場合はヌルを生成し、その他の場合は優位成分の振動振幅および周波数推定を返す。その後、メジアンフィルタ70が、分離された誤検出振動とその他の望ましくない雑音とを結果から取り除き、その結果、ステップ72で、狭窄部位を示す残りの振動イメージが表示される。
【0086】
自己回帰信号モデルを使用する振動イメージング
振動からの超音波信号は、以下のように、分散σ2を有する白色ガウス雑音を入力としてもつ、p次自己回帰線形予測フィルタの出力としてモデル化されることができる。
【0087】
【数22】
【0088】
線形予測係数ak(τ)は、予測誤差の最小2乗最小化(least squares minimization)を使用して、または計算効率の良いBurgアルゴリズムを使用して(例えば、非特許文献2参照)、計算されることができる。その後、高解像度スペクトル推定が、この自己回帰モデルから、以下のように、取得されることができる。
【0089】
【数23】
【0090】
式(8)から、クラッタ運動ピークの周囲のパワースペクトルにおける周波数ピークの対称マッチングペアの存在が、振動として検出されることができる。以前のように、フロー信号は、雑音と見なされることができる。振動からの超音波信号の場合、式(13)のパワースペクトルは、多項式
【0091】
【数24】
【0092】
の極小において周波数ピーク(ftiss,f+,およびf-)を有する。振動は、マッチングピーク基準|f++f-−2ftiss|<Fthresholdを使用して、検出されることができ、振動振幅および周波数は、式(9)を使用して、推定されることができる。アルゴリズムのステップは、図3Bに関して、以下でより詳細に説明される。
【0093】
図3Bのフローチャート80に示されているように、第2の代替アルゴリズムも、直交復調アンサンブルデータセット52から始まる。やはり、ステップ53で、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタが抑制される。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0094】
ステップ82で、直交復調データの各アンサンブルについて、反射係数が計算される。ステップ84で、反射係数を使用して、線形予測係数が決定される。ステップ86で、パワースペクトルが線形予測係数から推定され、パワースペクトルのピークが検出される。やはり、判断ステップ64が、識別されたピークが両側性をもつかどうかを決定することによって、識別されたピークが組織振動に関するものかどうかを決定し、組織振動に関するものでない場合は0を返し、関するものである場合は1を返す。また、ステップ66が、これら各ピークにおける振動振幅および周波数の推定を提供し、乗算器68において、判断ステップ64からの結果が、推定された振幅および周波数によって乗じられる。その後、メジアンフィルタ70が、結果に適用され、ステップ72で、フィルタリングされたイメージデータが、振動イメージとして表示される。
【0095】
位相分解に基づいた振動イメージング
振動の検出および映像化のための第3のアルゴリズムは、位相超音波信号に基づくことができる。式(7)に示されるように、振動は、クラッタ運動の場合には一般に存在しない振動シグニチャ(oscillatory signature)を位相内に生み出す。フロー信号も振動位相を有することができるが、振動する組織からのエコーは、フローからのものよりも干渉性が高いと予想される。したがって、それらの位相は、より少ない数の優位成分によってモデル化されることができる。したがって、振動検出アルゴリズムは、超音波信号の位相のその優位成分への分解と、振動位相の試験とに基づくこともできる。代替として、直交復調超音波データを使用する代わりに、位相は、1対のRF超音波データの間の時間遅延を推定することによって、RF超音波データから推定されることもできる。
【0096】
最初に、従来の自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いて2D超音波データのアンサンブルをダウンミックスすることによって、線形時間変化運動が抑制される。その後、2D超音波データのアンサンブルの位相が計算され、固定エコーの影響を抑制するために平均位相が減算される。その後、残差位相が、主要成分分析に類似する方法を使用して、優位成分に分解される。分解の第1のステップは、修正された共分散法(Marple、1987年)を使用した、残差位相の相関行列の推定を含む。その後、相関行列の反復的QR分解を使用して、近似固有分解が実行されることができる。k回目の反復の後、上三角行列Rkの対角要素によって、近似固有値λiが推定されることができる。固有ベクトルは、固有値が減少する順序に配列される。固有値は、対応する固有ベクトルによって寄与を受ける信号エネルギーの尺度である。したがって、p個の優位成分に含まれる全信号エネルギーの一部分は、
【0097】
【数25】
【0098】
を使用して推定されることができる。したがって、雑音および血流は、閾値基準Ep>Ethresholdを超過したEpの値を利用するだけで、抑制されることができる。クラッタ運動から組織振動をさらに分離するため、組織振動はクラッタ運動に比べてより高い周波数を有するという事実が利用される。その場合、振動は、周波数閾値基準
【0099】
【数26】
【0100】
を使用してクラッタから分離されることができ、ここで、Fthresholdは、振動の1周期の半分の少なくとも一方がアンサンブルに含まれるように選択される。振動周波数および振幅は、式(10)を使用して推定されることができる。このアルゴリズムのステップは、図3Cに関して、以下でより詳細に説明される。この例示的なアルゴリズムは、内出血に関連する振動を映像化するために開発されたが、詳細に説明されたように、狭窄血管に関連する振動を映像化する際にも有効であることが示された。
【0101】
フローチャート90は、第3のアルゴリズムの論理ステップを示している。やはり、直交アンサンブルデータ52から始まり、ステップ53は、心拍動、拍動性血管壁運動、および呼吸に起因する低周波数クラッタを抑制する。一実施形態では、このステップは、自己相関法を使用して推定される平均クラッタ速度を用いてダウンミックスするステップを含むことができる。別の実施形態では、低周波数運動は、フィルタリングによって抑制されることができる。また別の実施形態では、主要運動成分を分析することによって低周波数組織振動の推定を形成するために、周囲組織の運動が使用されることができる。
【0102】
ステップ94は、直交アンサンブルまたはカラーフローデータのアンラップ位相(unwrapped phase)を計算し、その後、アンラップ位相から平均クラッタ速度を減算して、残差位相を生成することを提供する。上で説明されたように、直交復調データから位相を決定する代わりに、位相は、1対のRF超音波データの間の時間遅延を推定することによって、RF超音波データから決定されることもできる。ステップ96は、残差位相を使用して、相関行列を推定し、その後、相関行列は、ステップ98で、QR分解を実行するために使用され、上で述べられたように、式(10)を使用して決定される、固有値推定100、固有ベクトル推定102、ならびに振動振幅および周波数推定104を生成する。判断ステップ106は、固有値推定を使用して、p個の優位成分に含まれる全エネルギーが事前定義された閾値Tよりも大きいかどうかを決定する。そのような場合、判断ステップ106は、大きくない場合は0を返し、大きい場合は1を返す。同様に、判断ステップ108は、推定固有ベクトルが事前定義された閾値Fよりも大きい周波数をもつかどうかを決定する。もつ場合、判断ステップ108は、1を返し、もたない場合は0を返す。その後、判断ステップ106および108の結果、ならびに優位成分の推定振動振幅および周波数が、乗算器110によって一緒に掛け合わされ、その結果、判断ブロックのどちらかが0を返した場合、結果はヌルであり、どちらも0を返さなかった場合、ステップ104からの推定振動振幅および周波数が返される。やはり、メジアンフィルタ70が、推定振幅および周波数に適用され、狭窄の部位を示す振動イメージとしてステップ72で表示されるフィルタリングされた結果を提供する。
【0103】
狭窄を映像化および分析するために上で説明されたアルゴリズムを使用する
図4は、超音波を使用して動脈狭窄の位置を特定し、定量化することに含まれる論理ステップを示すフローチャート120を示している。手順は、カラードプラ超音波を使用して血管が映像化されるステップ122から始まる。ステップ124で、ブリュイの血管周囲のアーチファクトが可視になるまで、パルス繰り返し周波数(PRF)が調整される。ステップ126で、概括的に上で説明されたように、振動振幅イメージがリアルタイムに生成される。ステップ128で、2D振動イメージにおけるブリュイの位置が識別される。ステップ130で、ドプラサンプルボリュームが、最大振動振幅に最も近いブリュイに配置される。ステップ132で、パルス波ドプラデータから(やはり上で説明された技法を使用して)、振動スペクトルが生成される。ステップ134で、振動スペクトルの「折点」周波数が示され、ステップ136で、狭窄が定量化される。
【0104】
検出可能な振動振幅および周波数
身体ファントムモデル(physical phantom model)を使用した実験において、約1μmのピーク振幅を有する組織振動が正確に検出された。最小検出可能振動振幅は、受信超音波エコーの位相の雑音レベルおよびダイナミックレンジに依存する。最新の超音波機械では、位相は、(16ビット直交復調データの場合)96dBまたはそれ以上のダイナミックレンジを有することができ、信号は一般に、80dBまたはそれ以上、電子的および熱雑音レベルを超過する。したがって、式(4)から、50nmほどの小ささの振動は、理論的には、5MHzの超音波トランスデューサを使用して検出されることができる。実際には、超音波信号の減衰が、ダイナミックレンジを減少させ、深部組織における最小検出可能振幅を約0.5μmに制限する。
【0105】
検出可能な振動周波数は、PRFの選択に、すなわち、FPRFに依存する。振動周波数に比べて低すぎるPRFは、エイリアシングをもたらし、高すぎるPRFを選択すると、低周波数振動を検出することに失敗する。振動は、アンサンブルに対応する時間窓内で1振動サイクルの少なくとも半分が捕捉された場合にだけ検出されることができる。したがって、アンサンブルサイズがEの場合、
【0106】
【数27】
【0107】
と
【0108】
【数28】
【0109】
の間の周波数を有するすべての振動は、理論的には、エイリアシングなしに検出されることができる。振動は広帯域であることができるので、低PRF値でインタロゲート(interrogate)された高周波数振動は、このアルゴリズムを使用した場合、雑音と間違われることがあり得る。したがって、より良い感度のため、振動の数周期だけがアンサンブルに含まれるように、PRFおよびアンサンブルサイズを選択するのが望ましい。したがって、最大検出可能周波数は、振動のk周期がアンサンブルに含まれる場合、
【0110】
【数29】
【0111】
である。実施されたシミュレーションおよびファントム実験は、インタロゲーション期間(interrogation period)の間に2分の1から6振動周期を使用するだけで、信頼性の高い検出が実行され得ることを示している。例えば、1kHzのPRFおよび16周期/パルスのアンサンブルサイズを用いると、31.3Hzと375Hzの間の周波数の振動は、高い信頼性で検出されることができる。
【0112】
残存管腔直径の定量化
組織振動は血流の渦によって生み出されるので、組織振動の周波数は、渦の周波数と同じである。振動の周波数スペクトルは、乱流ジェットの有効直径に依存し、したがって、ブリュイのスペクトルは、狭窄の重症度に関連する。ブリュイのスペクトルは、それを超えると周波数の上昇に伴いエネルギーが急速に低下するピーク周波数を示す。ストローハル数(S)は、乱流変動の折点周波数(fvib)を、
【0113】
【数30】
【0114】
に従って、乱流の長さスケール(狭窄における残存管腔直径(D)および妨害のない血管における平均下流血流速度)に関係付ける。
【0115】
大多数の個人で、頚動脈血流速度とストローハル数の積は、折点周波数において約500mm/sと比較的一定であり続けることが、頚動脈狭窄において経験的に観測された。したがって、単純な関係が、折点周波数と残存管腔直径との間に存在する。
【0116】
【数31】
【0117】
頚動脈以外の動脈では、血流速度は、パルス波ドプラを使用して推定されることができる。その場合、ストローハル数が値1で一定であり続けることを仮定して、狭窄における残存管腔直径を定量化するために、折点周波数が使用されることができる。
【0118】
さらに、振動の振幅を直接測定する能力は、狭窄が等級分けされることを可能にする。渦におけるエネルギー(E)と、したがって、組織振動の振幅(avib)とは、以下のように、流量と直接的に比例する。
【0119】
【数32】
【0120】
これまで、ブリュイを分析する(聴診、血管音検査法、および心音図検査法など)その他の技法は、狭窄に関連する壁振動の振幅を直接的に測定することができなかった。振動の振幅を直接的に測定する能力は、音響パワー、(例えば、冠動脈における)圧力降下、およびフローパワー散逸など、狭窄および対応する振動に関連するその他のパラメータの定量化を可能にする。そのような技法を使用して狭窄血管から集められた経験的データは、血行力学的に重大な狭窄を表す狭窄特徴を識別するために分析されることができる。3D超音波イメージングが狭窄の正確な位置特定を提供することを容易にすることも理解されたい。例えば、そのようなイメージングは、3つの主要な冠動脈のどれに狭窄が関連付けられるかを決定することを容易にする。
【0121】
アーチファクト源
カラーフローデータ獲得では、各走査線に沿ったインタロゲーションは、短い期間だけ実行される。振動は、典型的には10ms〜100msの持続期間を有する一時的なものである。したがって、いくつかの振動がインタロゲートされない可能性が存在する。振動は一般に、相対的に大きな空間的広がりを有し、心臓周期毎に繰り返されるので、振動がまったく見落とされる可能性は低いが、イメージにおいて可視の振動の空間的広がりは、本当の空間的広がりの一部に過ぎないこともある。PRFおよび対象領域を適切に選択することによって、そのような不一致は最小化されることができる。
【0122】
その他のアーチファクトが、振動として誤検出されることもある。トランスデューサ運動は、クラッタスペクトルに追加的な周波数ピークを導入することがあり、誤検出を引き起こすことがあるが、訓練された超音波検査士を使用して走査を実行することで、これらの誤検出を最小化することができる。超音波検査士の緊張した骨格筋の振動および周囲の振動も、振動イメージ内で検出されることがある。加えて、高解像度スペクトル推定法は、振動として誤検出され得るスプリアスピークを生み出すことがある。そのようなアーチファクトは、解剖学的構造と相互関連があり、心臓周期毎に周期的であることが予想される、病気に起因する振動から容易に区別されることができる。これらのアーチファクトは、追加的な時間サンプルが利用可能である場合にも、回避されることができる。したがって、振動イメージ内に表示される振動は、ピーク強度の位置にドプラサンプルボリュームを配置することによって、振動スペクトルを用いて確認されるべきである。
【0123】
モデリングから導き出されたアルゴリズムの比較
振動を検出する提案されたアルゴリズムの能力は、シミュレーションモデルを使用して評価された。シミュレーションは、MUSICおよびESPRITなどの部分空間ベースのアルゴリズムが、クラッタおよび血流の存在下で狭帯域振動を検出するための高い感度(96%)および特定性(98%)を有し、広帯域振動が存在するときでさえも堅牢であることを示している。狭帯域振動の場合、自己回帰モデルに基づいたアルゴリズムは、僅かに改善された特定性(99%)、同程度の感度を有し、広帯域振動に対しても堅牢である。位相分解ベースのアルゴリズムは、僅かに低い感度(93%)および特定性(98%)を有するが、広帯域振動に対してより堅牢である。
【0124】
提案されたアルゴリズムの計算必要量が、以下の表2に示されている。部分空間ベースのアルゴリズム(MUSIC/ESPRIT)は、モデル次数(model order)の選択に大きく依存する計算必要量を有する。これらのアルゴリズムでは、固有分解が、最も計算集約的なタスクである。自己回帰ベースのアルゴリズムは、計算集約度がより低く、計算必要量は、モデル次数により小さく依存する。この場合、スペクトル推定のためのFFTの計算が、最も計算集約的なタスクである。位相分解法は、実信号の演算を含むだけなので、最も計算集約度が低い。したがって、位相分解アルゴリズムは、リアルタイム実施用に最も適している。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
改善された組織運動スペクトルのための2Dフーリエ変換処理
図5Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。ここに表された散乱体の運動は、超音波ビームの方向に軸が沿っている。受信パルスのスペクトルが、原点を通過する傾いた直線上にあることに留意されたい。
【0128】
【数33】
【0129】
(縦軸の左側の)ドプラスペクトルのピークは、直線21によって示されるように、
【0130】
【数34】
【0131】
のドプラシフトに対応する。
【0132】
図5Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。式(8)から、振動の存在が、受信信号のベッセル変調(Bessel modulation)を引き起こし、それが、図5Aに示されたスペクトルの複数のコピーを、原点を通過する直線に平行であり、互いにfvibだけずれた直線上に生成する。従来のドプラスペクトル(すなわち、図5Bに縦軸の左側)は、(直線23によって示される)129+300=429Hzおよび(矢印25によって示される)129−300=−171Hzの周波数において、それぞれ対応するピークを示している。
【0133】
シミュレートされた受信エコーのこの2Dスペクトル構成から、いくつかの洞察を得ることができる。第1の知見は、ドプラスペクトルのスペクトル拡散は、ドプラシフトに依存することである。この点は、図6Aにグラフによって示された、200mm/sの高い散乱体速度の場合の2D FFTからさらに理解されることができ、図6Aは、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が5MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方を含む。この場合、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。この例の場合、2D FFTスペクトルには平行な高調波帯が見えるが、ドプラスペクトルの大きな拡散は、振動パターンをほとんど完全に不鮮明にしている。図6Bは、2MHzのより低い超音波中心周波数がインタロゲーションのために(すなわち、受信超音波エコーの2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方のために)使用され、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、同じ状況を示している。ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。図6Bの2MHz超音波周波数のドプラシフトはより低いので、図6Bのドプラスペクトルの拡散は、図6Aのドプラスペクトルの拡散に比べて減じられ、対称的な振動シグニチャが部分的に見えることに留意されたい。したがって、心臓壁などの素早く動く組織の振動を分析する場合、インタロゲーション超音波の送信パルス用により低い周波数が選択されるべきである。
【0134】
別の洞察は、組織加速が2D FFTスペクトルの広がりを引き起こすことの認識に関する。心臓組織では、加速は、0〜10m/s2の範囲にわたることがあり得る。図7Aは、インタロゲーション窓内で10mm/sから30mm/sに(すなわち、5m/s2の加速で)加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2Dフーリエ(2D FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。従来のドプラスペクトル(すなわち、縦軸の左側のスペクトル)は、2MHzの送信パルスを用いてさえも、著しいスペクトルの広がりを示している。さらに、図7Bは、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、インタロゲーション窓内で10mm/sから30mm/sに(すなわち、5m/s2の加速で)加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。図7Bは、加速している組織に振動が存在するとき、高い加速は振動スペクトルを著しく不鮮明にすることができることを示している。したがって、組織加速の影響を抑制するために、受信超音波データを前処理することが重要である。
【0135】
式(5)で記述される受信超音波信号の位相は、主として変位の軸成分によって影響される。組織が完全に同質である場合、位相は、軸方向に直交する運動に対しては変化を受けずにいる。しかし、多くの組織の非同質性のため、運動の横成分および高さ成分に対しても、受信信号の位相および振幅に変化が存在する。したがって、軸をはずれた運動成分さえも、受信信号に影響を与える。横速度成分の存在は、横速度成分の大きさに比例するスペクトルの広がりを生じさせる。横振動成分は、同様のスペクトルの広がりを引き起こす。特に、この広がりは、振動がビーム軸に直交する方向で生じる場合であっても、振動を表す高調波ベッセル帯が依存としてドプラスペクトルに存在することを意味している。図8Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交している場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示しており、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。ドプラスペクトルはドプラシフトを示しておらず、散乱体速度に比例する広がりを示していないことに留意されたい。図8Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交しており、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示している。この図では、ドプラスペクトルは、縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルは、縦軸の右側に配置されている。振動の高調波帯特性が、矢印27によって示されるように、297Hzの周波数において明瞭に見られることに留意されたい。したがって、ビーム軸に直交する振動を検出することが可能なばかりでなく、振動周波数を正確に推定することも可能である。振動のこの重要な特性は、移動血液の速度に関して、正確な速度推定が超音波ビームの向きに大きく依存する、従来のデュプレックス超音波にまさる著しい利点を提供する。
【0136】
図5A〜図7Bに示されたように、従来のドプラスペクトルは、ドプラシフトおよび組織加速に依存する大きなスペクトル分散を有することがあり得る。従来のドプラ処理における別のアーチファクトは、サンプルボリューム内の複数の散乱体からの散乱の強め合うおよび弱め合う干渉によって生み出されるランダム位相シフトが原因で生み出される粒状スペックルパターン(granular speckle pattern)である。スペックルアーチファクトと大きな分散は、振動に関連する下に重なる高調波スペクトルシグニチャを覆い隠すことがあり得る。そのような影響は、心臓壁運動の場合など、組織運動と加速が大きい場合により顕著であり、それは、心臓壁の振動の分析に関する従来のドプラ処理の重要な限界である。
【0137】
広帯域ドプラ推定技法は、従来のドプラスペクトル処理によって導入される特有のスペクトルの広がりを減じることができる。図7Aおよび図7Bにおいて示されたように、スペクトル分散は、主として送信信号の帯域幅に起因する。広帯域推定技法は、送信信号の帯域幅を利用してドプラシフトを推定し、したがって、スペクトルの広がりを減じることができる。そのような帯域推定は、サンプルボリュームからの寄与が別個に分析されるので、スペックル雑音を減じることもできる。広帯域最尤推定法(WMLE:Wideband Maximum Likelihood Estimator)(例えば、非特許文献3参照)、広帯域相互相関推定法(WCCE:Wideband Cross−correlation Estimator)(例えば、非特許文献4参照)、および2D FFT推定法(例えば、非特許文献5参照)など、いくつかの広帯域推定技法が提案されている。振動は2Dスペクトル内に固有のシグニチャを有するので、2Dフーリエ変換が特に興味深い。
【0138】
血液速度を推定するため、ラドン変換が、2Dフーリエ変換領域における直線の傾きを推定するために提案された(例えば、非特許文献6参照)。速度拡散(velocity spread)は、ラドン変換におけるρ=0軸(ρ−θ領域)を見ることによって得られることができる。現在の手法では、この方法は、狭窄血管周囲の組織における振動を識別するために適合される。図5A〜図5Bに基づいて、ラドン変換領域は、正規化ドプラシフト
【0139】
【数35】
【0140】
と周波数シフトfvibの間のマッピングとして解釈されることができる。
【0141】
図9Aは、図5Aの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示している。正規化ドプラシフトの2.59×10-5、周波数シフトの0において、ピークが見られる。図9Bは、図5Bの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示している。2.59×10-5におけるピークの複数のコピーを、異なる周波数シフトにおいて見ることができる。対応するドプラスペクトルは、ピークドプラシフトにおけるすべての周波数シフトに対応する強度をプロットすることによって、ラドン変換から引き出すことができる。図9Cおよび図9Dは、図9Aおよび図9Bのラドン変換から計算された対応するドプラスペクトルをグラフによって示している。図5Aおよび図5Bのドプラスペクトルと比べて、スペクトル拡散が著しく減じられている。振動ピークは、図9Dの矢印29によって示されるように、±278Hzの周波数(300Hzの実際値と比べて7.3%の誤差)において生じる。(矢印31によって示される)組織運動ピークと第1の振動ピーク(矢印29)の間の差は、4.9dBであり、これは、推定された7.9μmの振動振幅(5μmの実際値と比べて58%の誤差)に対応する。
【0142】
代替の血液速度推定法は、送信帯域幅における周波数の全範囲に対応する適切にスケーリングされたドプラスペクトルを合成することによって、2D FFTスペクトルから導き出されることができる(例えば、非特許文献7参照)。この方法から推定された速度スペクトルは、
【0143】
【数36】
【0144】
によって与えられる。ここで、f0は、中心周波数、BWは、送信パルスの帯域幅、fRFおよびfDOPは、それぞれ2D FFT領域における空間周波数および時間周波数、Y(fRF,fDOP)およびY0(fRF)は、式(7)で定義されたフーリエ変換である。この推定は、「多周波推定(multifrequency estimate)」と呼ばれる。多周波推定は、サンプルボリュームにわたる積分によって導入される大きな統計的変動が回避されるので、速度解像度を改善する。本発明の開示では、これらの技法は、狭窄血管周囲の組織における振動を識別するために適合される。1MHzの帯域幅を使用して図5Aおよび図5Bから計算される多周波推定が、それぞれ図10Aおよび図10Bに示されている。組織運動ピークは、(図10Aおよび図10Bにおいて)矢印33によって示されるように、125Hzにあり、129Hzの予想ドプラシフトとよく対応する。第1の振動ピークは、(図10Bの矢印35によって示されるように)それぞれ−172Hzと422Hzにあり、式(13)によれば、297Hzの推定振動周波数(300Hzの実際値と比べて1%の誤差)を生じさせる。低周波数ピークと第1の振動ピークの間の差は、6.5dBであり、5.48μmの推定振動振幅(5μmの実際値と比べて9.6%の誤差)に対応する。
【0145】
上で示されたように、多周波推定は、ラドン変換と比べて、振動振幅および周波数のより正確な推定を提供する。ラドン変換推定は、平均組織運動によるドプラシフトについて自動的に補正を行うが、このドプラシフトは、多周波推定では保存される。多周波推定のスペクトル拡散は、ラドン変換推定のものと同じである。しかし、ラドン変換を計算する追加の計算負荷は、ラドン変換に基づいた推定を、多周波推定より望ましくないものにする。
【0146】
シミュレーションモデルを使用した狭窄の超音波振動イメージングの妥当性検証
提案された狭窄振動検出アルゴリズムを評価するため、血管壁における振動のシミュレーションモデルが開発された。図11Aは、妥当性検証で使用されるシミュレーションモデル(すなわち、散乱体分布の3Dモデル)を概略的に示している。超音波シミュレータField II(Jensen、1996年)が、パルスエコー空間インパルス応答hpe(・)およびトランスデューサ時間応答x0(・)を計算するために使用された。散乱振幅αsおよび平均位置r→sは、ガウス分布からランダムに割り当てられ、血管壁からの散乱強度は、血液からのものより40dB高い。瞬間散乱体位置ν(r→,t)は、図11Bにグラフによって示されているように、正常な人の大腿動脈の血管壁からのドプラ超音波信号の位相を使用して推定された。運動は、0.08mmのピーク変位をもち、血管壁に直交する方向に起こるものとして定義された。振動は、血管壁に直交する方向に運動し、0.5μmのピーク振幅、100Hzの周波数をもつように、血管壁の1つの領域において発生させられた。振動を伴うクラッタ運動が、図11Bのボックス180内にグラフによって示されている。振動drvib(t)は、異なる信号対雑音比(SNR)において白色ガウス雑音を有するガウス加重シヌソイド(Gaussian−weighted sinusoid)として、以下のようにモデル化され、
【0147】
【数37】
【0148】
【数38】
【0149】
ここで、tpositionおよびtdurationは、心臓周期における振動の位置および持続時間、βSNRは、白色ガウス雑音n(t)のSNRである。ガウス雑音の追加は、血流の渦および乱流によって生み出されると予想される広帯域振動をシミュレートする。振動周波数は100Hzであり、βSNRは0から2まで変化させられた。
【0150】
血液からの信号は、主要なアルゴリズムの両方で雑音スペクトルの一部であると見なされた。血流からの信号が振動として誤検出されないことをさらに検証するため、血流も、図11Aの妥当性検証モデルでシミュレートされた。血液に対応する散乱体の運動は、Jensenによって提案された人の大腿動脈における血流モデル(1996年)を使用して生成された。モデルに導入された血流は、50cm/sのピーク速度を有する放物線である。シミュレートされた血流の時間変化する速度特徴が、図11Cのグラフによって示されている。
【0151】
Field IIシミュレーションパラメータは、上で表1において言及された。得られたシミュレート無線周波(RF)ラインは、同相(I)および直交(Q)データを得るために復調され、これらは、原カラーフローデータを得るためにデシメーションされた。感度および特定性を測定するため、振動検出性能が異なる閾値を用いて評価された。位相分解アルゴリズムの場合、Ethresholdは、信号が振動として見なされるための、優位成分におけるエネルギーの%を示す。root−MUSICベースのアルゴリズム(すなわち、雑音における複素指数の推定に基づいたアルゴリズム)の場合、Fthresholdは、複素指数のマッチングペアの周波数の最大差を表す。シミュレーションは、異なる閾値および異なるモデル次数を用いて実行され、検出器性能を評価するために、受信器動作特性(ROC:receiver−operating characteristic)曲線が生成された。その後、ROC曲線は、適切な閾値設定およびモデル次数を選択するためのガイドラインとして使用されることができる。位相分解アルゴリズムの場合、p次モデルは、Eをアンサンブルサイズとして、2≦p<E/2である、2(p+1)×2(p+1)型の相関行列をもった。2つの優位成分が、振動検出のために考察された。root−MUSICアルゴリズムの場合、モデル次数pは、指数のマッチングペアの検出を可能にするため、3≦p<E/2であるように選択され、推定相関行列サイズは、2p×2pであった(例えば、非特許文献2参照)。
【0152】
図12Aは、黒緑カラーマップを使用してBモードイメージ上にオーバーレイされた振動振幅イメージである。カラーマップは、推定振幅の値に従って較正されている。提案されたアルゴリズムを定量的に評価するため、(図12Bにグラフによって示された)2つのマスクが生成され、Vは、振動がシミュレートされた領域に対応し、NVは、振動が存在しない領域に対応する。散乱体は時間変化運動を有するので、振動する散乱体が領域NVに存在しないことを保証するように、マスクは適切に空間的に生成される。領域Vにおいて振動として正しく検出されたピクセルのパーセンテージが、真陽性としてカウントされ、領域NVにおいて振動として検出されたピクセルのパーセンテージが、偽陽性としてカウントされる。
【0153】
異なるモデル次数を使用する、上で説明された2つの主要なアルゴリズム(位相分解アルゴリズムおよび雑音における複素指数の推定に基づいたアルゴリズム)に関する感度、特定性、およびROC曲線が、図13A〜図13Fにグラフによって示されている。図13Aは、図3Aに示された位相分解アルゴリズムの場合、閾値がより大きくなると、より多くの真の振動が拒絶されるので、すべてのモデル次数について、閾値が大きくなるにつれて感度が低下することが示されている。相関行列がより小さいので、より低いモデル次数がより高い感度を有し、したがって、限られた数の時間サンプルを使用して、より良い推定が得られることができる。
【0154】
図13Bは、特定性は、すべてのモデル次数について、非常に類似しており、より大きな閾値はより良い雑音拒絶をもたらすので、閾値が大きくなるにつれて上昇することが示されている。より細かい調査の結果、大多数の誤検出は、血流速度が低く、クラッタ対血液信号比(clutter−to−blood signal ratio)が高いときに生じることが決定された。そのような場合、血液からのI−Qドプラ信号は、振幅の小さい組織振動のものとほとんど区別がつかないことがあり得る。異なるモデル次数についてのROC曲線が、図13Cにグラフによって示されており、96%の感度および98%の特定性が2次のモデルを用いて達成され得ることが示されている。適切な閾値を選択するため、動作点がROC曲線において選択される。その後、対応する閾値が、図13Aまたは図13Bから見出されることができる。
【0155】
図13Dは、図3Aに示されたroot−MUSICベースのアルゴリズムの場合、周波数閾値が大きくなると、より多くの真の振動が検出され得るので、すべてのモデル次数について、周波数閾値が大きくなるにつれて感度が上昇することが示されている。
【0156】
図13Eは、周波数閾値が大きくなると、より多くの誤検出が生じるので、閾値が大きくなるにつれて特定性が低下することが示されている。4次のモデルは、クラッタ空間のより良いモデリングのため、僅かにより良い感度および特定性を有する。
【0157】
root−MUSICベースのアルゴリズムのROC曲線が、図13Fにグラフによって示されている。3次のアルゴリズムの場合、97%の感度および98%の特定性が達成可能であり、4次のアルゴリズムの場合、99%の特定性で、感度は98%に高められることができる。
【0158】
振動帯域幅の増大に伴う感度の変化が、図14にグラフによって示されており、(線200によって示される)図3Cの位相分解アルゴリズムと(線202によって示される)図3Aのroot−MUSICアルゴリズムの両方が、振動が狭帯域であるとき(βSNR=0)は、同じくらいの感度を達成し得ることを示している。振動の帯域幅が増大すると、root−MUSICアルゴリズム(線202)の場合、狭い帯域幅を有する複素指数として振動をモデル化することに基づいているので、感度が低下する。他方、位相分解アルゴリズム(線200)は、振動の帯域幅特性について事前仮定を作らないので、振動の帯域幅に対してより堅牢である。
【0159】
組織振動イメージングシステム
組織振動イメージングが臨床的に役に立つためには、振動のリアルタイム視覚化が非常に望ましい。B、M、カラーフロー、およびドプラなどすべての従来の処理モードをサポートするために高性能マルチメディアプロセッサを使用する、プログラム可能な超音波信号およびイメージ処理システムが、ソフトウェアで利用可能である。プログラム可能なシステムの主な強みは、新しいハードウェアを必要としない、または従来の超音波機械にハードウェア変更を施さない、新しいモードおよびアプリケーションの開発が容易なことである。そのようなプログラム可能な超音波機械は、内部の原カラーフローおよびパルス波(PW)ドプラ直交データへのアクセスおよび処理を可能にし、リアルタイムで組織振動イメージングのための上で述べた位相分解アルゴリズムの実施を容易にする。
【0160】
位相分解アルゴリズムは、2D超音波走査中の振動のオンライン視覚化のための、ソフトウェアプログラム可能な超音波システムで、すでに経験的に試験されている。現在、組織振動イメージングは、アンサンブルサイズが走査線当たり10および256サンプルで、32走査線の場合、9.1フレーム/秒で達成されることができる。超音波機械の計算能力は、プロセッサ技術の進歩から恩恵を受けて、近年著しく増大しており、この傾向は、将来も続くと予想される。マルチメディアアプリケーションを対象に据えた多くの最新プロセッサは、計算オーバーヘッドが実数の乗算および加算と同じである複素数の乗算および加算を実行することができる専用命令を有する。そのようなプロセッサを使用して、本明細書で開示されたアルゴリズムをサポートするための計算負荷は、3分の1または4分の1に引き下げられることができる。したがって、本明細書で開示された組織振動イメージングアルゴリズムの追加計算負荷は、最新の超音波機械で無理なくサポートされることができる。
【0161】
実験的妥当性検証
図15は、上記で開示される振動イメージングアルゴリズムを確認するために使用される、身体ファントム(すなわち、振動プレート)を含む試験システムを概略的に示している。圧電プレート181が、壁183およびプラスチック基台181を含む試験用の管に組み込まれる。圧電プレートは、機能発生器194に論理的に結合される。試験用の管は、水184で満たされる。(超音波機械190に論理的に結合される)超音波プローブ190と、(発振器192に論理的に結合される)光ファイバマイクロメータ188が、機能発生器194からのシヌソイド信号を使用して100Hzと800Hzの間の周波数で振動させられる圧電プレートに近づけて、水槽(すなわち、水で満たされた試験用の管)内に配置された。振動プレートの振幅が、1から7μmのピークプレート変位に対応する異なる駆動電圧について、光ファイバマイクロメータ188を使用して較正された。その後、圧電プレート181が、5MHzの線形トランスデューサおよび異なるPRFでアンサンブルサイズ10を有する、プログラム可能な超音波システムを使用して映像化された。プレートの位置も、光ファイバマイクロメータを使用して測定され、超音波を使用して得られたデータと行われる比較を可能にした。
【0162】
図16Aは、プレートファントム(すなわち、図18)の振動振幅イメージであり、図16Bは、プレートファントムの振動周波数イメージであり、振動が圧電プレートの位置として正しく検出されたことを示している。プレートの縁は基台に取り付けられるので、最大振動振幅はプレートの中央で生じ、縁では変位が0であることが予想され、それはまさに、図16Aに示されることに対応する。プレートの中央における推定振動周波数は、450と500Hzの間である。MUSIC擬似スペクトルが、図16Cに示されており、ゼロ周波数ピークが、定常エコーに対応することを示している。顕著な両側ピークが±500Hzにおいて観察され、プレートの振動周波数に対応する。
【0163】
図17Aは、圧電プレートを変位させるために使用される異なる駆動電圧について、超音波によって推定された振動振幅(y軸)対図15の光ファイバマイクロメータを使用して独立に測定された値(x軸)をグラフによって示している。振幅および周波数は、式(8)および式(9)で定義された推定法を使用して推定された。光ファイバ振幅測定は、プレートの中央で行われた。図17Bは、超音波によって推定された周波数(y軸)対機能発生器周波数(x軸)をグラフによって示している。両方のプロットに、1単位の傾きを有する実線204が示されている。推定値と測定値の間の差が、振幅については図17Cに、周波数については図17Dに、対応する測定値に対してプロットされている。図から理解されるように、検出値と測定値の間の最大差は、両方の推定法とも、振幅では1μm、周波数では50Hzより小さい。振幅における差のいくつかは、光ファイバ測定が行われたプレートの位置のばらつきに帰せられることができる。
【0164】
狭窄によって引き起こされた壁振動を視覚化し、振動スペクトルを推定する能力を検証するため、脈動流ファントム(pulsatile flow phantom)を使用して研究が実行された。実験は、生体外の子ヒツジの動脈で実行された。図18は、オシロスコープ142および光ファイバマイクロメータ148と論理的に結合されたコンピュータベースのコントローラ140と、ドプラ対応超音波イメージング機械142と、イメージングプローブ146とを含む、実験構成を概略的に示している。光ファイバマイクロメータ148およびイメージングプローブ146は、水槽内に配置された生体内動脈サンプル150の近くに位置付けられる。人の動脈流を模倣した脈動流が、脈動ポンプ154を使用して、動脈サンプルを通るように生み出される。脈動ポンプ154(フロリダ州プンタゴルダのPulsafeeder Incから入手可能なPulsatron(登録商標)ポンプ)の出力は、ダンピングカラム(damping column)156を通して、生体内動脈サンプルに接続される。ダンピングカラム内の液体の高さの調整が、全体的なフローインピーダンスを制御し、それによって、動脈内のドプラフロー特徴を、図19に示されるように、人の動脈流のものと同様に視覚的に出現させることができる。
【0165】
時間変化する壁変位が、超音波および光ファイバマイクロメータを使用して測定される。マイクロメータの出力は、オシロスコープを使用してデジタル化され、そのデータが、コンピュータベースのコントローラを使用して獲得される。原超音波データは、超音波機械の内部でデジタル的に獲得される。その後、両方の方法を使用して決定された壁変位のパワースペクトルが比較されることができる。動脈の一部分を部分的に結紮して有効管腔直径を小さくすることによって、狭窄がシミュレートされる。その後、パワースペクトル測定が、超音波および光ファイバ方法の両方を使用して繰り返される。
【0166】
図20Aおよび図20Bは、シミュレート狭窄をもつ2つの異なる生体外動脈からの振動振幅イメージである。図20Aでは、30%の狭窄が、3.4mm直径の動脈でシミュレートされている。壁振動は、約4動脈直径だけ離れた下流で生じる。図20Bでは、42%の狭窄が、3.1mm直径の動脈でシミュレートされており、壁振動は、より近い約3直径だけ下流で生じる。図20Aおよび図20Bは、上で説明された技法を使用して、動脈壁振動の位置(したがって、狭窄の位置)の明確な映像化が可能であることを示している。各イメージにおいて、狭窄部位は実線矢印141で示され、破線矢印143はフローの方向を示す。各イメージにおける対象領域は、ボックス145によって示される。
【0167】
図21は、ピークフロー加速中の、矢印147によって示される、超音波を使用して決定された平均振動スペクトルと、矢印149によって示される、光ファイバマイクロメータ(上で説明された図18を参照)を使用して決定された平均振動スペクトルをグラフによって示している。垂直軸は標準偏差を表す。両方のスペクトルとも同様の形状を有し、それを超えるとエネルギーが急速に降下する折点周波数が観察されることができる。この結果は、超音波を使用して壁振動スペクトルを評価することが可能であることを示している。
【0168】
人のバイパス静脈移植片における生体内振動
生体内の病的組織振動の特性を研究するため、大腿動脈に狭窄バイパス静脈移植片(bypass vein graft)を有する患者からデータが収集された。プログラム可能な超音波機械が、リアルタイムイメージングおよびデータ収集のために使用され、5MHzの線形プローブが、カラーフローモードにおいては500HzのPRF、10パルスのアンサンブルサイズで、PWドプラモードにおいては4〜8kHzのPRFで、イメージングおよびデータ収集のために使用された。
【0169】
図3Aに関して上で説明された(好ましくはESPRIT法を利用する)振動イメージングアルゴリズムが、オハイオ州ツインバーグのHitachi Medical Systems Americaによって製造されるプログラム可能な超音波機械Hitachi HiVision 5500(登録商標)で実施された。この機械上でのすべての信号およびイメージ処理は、ソフトウェアによって実行され、したがって、新しいアルゴリズムを容易に組み込むための柔軟性を提供する。上で開示されたアルゴリズムを使用するようにプログラムされたこのシステムは、振動がリアルタイムに視覚化されることを可能にし、生体内手続き中に上で説明された技法の評価を容易にする。
【0170】
データは、可聴ブリュイを有する、狭窄バイパス静脈移植片を有する患者から収集された。静脈移植片は最初に、カラードプラ超音波を使用して視覚化された。ブリュイの血管周囲アーチファクトが見えるまで、PRFが調整された。その後、振動振幅イメージがリアルタイムに生成された。ブリュイが2D振動イメージ内に見えるようになると、ドプラサンプルボリュームが、最大振動振幅をもつ位置に配置された。その後、振動スペクトルが、上で説明された技法(図3Aを参照)を使用して、パルス波ドプラデータから生成された。振動スペクトル内に「折点」周波数が認められた。
【0171】
図23Aは、狭窄静脈移植片のカラーパワーイメージであり、図23Bは、同じ狭窄静脈移植片の振動振幅イメージであり、図23Cは、同じ狭窄静脈移植片の振動周波数イメージである。矢印206は、狭窄の位置を示している。周囲血管アーチファクトは、矢印208によって示されるように、カラーパワーイメージ内に見ることができ、一方、振動振幅イメージは、矢印210によって示されるように、狭窄の下流のブリュイの発生源をはっきり示している。振動振幅は、血管壁の近くが最も高く、血管壁から遠ざかるにつれて減少する。
【0172】
血管壁変位をより詳細に評価するため、距離ゲートがピーク振動振幅の位置に配置され、(概括的に図5に関して上で説明されたように)変位がドプラ信号の位相から推定された。血管壁の瞬間位置および対応するスペクトルが、時間の関数として図24Aおよび図24Bに示されている。図24Aは、狭窄大腿静脈移植片からのパルス波ドプラデータの位相を使用して推定される、ボックス212に示される振動をもつ瞬間血管壁位置をグラフによって示している。図24Bは、図24Aからの信号の運動ピリオドグラム(motion periodogram)である。図24Bの変位スペクトルは、最大200Hzの著しいエネルギーを示し、各心臓サイクルで繰り返される。
【0173】
1.25秒の時間における図24Bのスペクトルの交差セクションが、図24Cにグラフによって示されている。矢印214によって示されるように、ピークが90Hzの折点周波数において観測され、それを超えると、周波数が増大するのに伴い、エネルギーが減退する。図24Dは、概括的に図3Aに関して説明されたMUSICアルゴリズムを使用して、同じ位置においてカラーフローデータの10アンサンブルだけから推定された擬似スペクトルをグラフによって示している。顕著なスペクトルピークが、矢印216によって示されるように、折点周波数において観測される。MUSIC擬似スペクトルは完全なスペクトル特性を反映していないが、スペクトルピークを推定するために使用され得ることに留意されたい。このケーススタディは、血流の渦によって引き起こされた生体内組織振動は、短い時間記録だけを使用して検出され得ることを示しており、リアルタイム振動イメージングの実現可能性を例証している。
【0174】
図25Aは、パルス波ドプラデータから推定された変位を使用して計算された正常大腿動脈からの壁変位スペクトルをグラフによって示している。スペクトルエネルギーは、数10Hz内で急速に減退し、100Hzを超えるスペクトルエネルギーは、雑音レベルに匹敵する。図25Bは、狭窄バイパス静脈移植片からのスペクトルをグラフによって示している。スペクトルエネルギーは、より緩やかに減退し、数100Hzにおいてさえも、相当なエネルギーが存在する。矢印160は、それを超えるとエネルギーが周波数の増大とともに減退する折点周波数を示す。図25Cは、同じ患者の第2の狭窄からのスペクトルをグラフによって示している。スペクトルのピークが、矢印162によって示されるように、折点周波数において観測されることができる。スペクトルの全体的形状は、図25Bのものと同様である。
【0175】
図25Dは、異なる患者の静脈移植片狭窄からのスペクトルをグラフによって示している。やはり、顕著なスペクトルピークが、矢印164によって示されるように、折点周波数において観測されることができる。
【0176】
振動スペクトルのリアルタイム定量評価のため、スクロール表示技法が実施されることができ、水平軸は時間を表し、垂直軸は対数目盛で周波数を表し、ピクセル輝度は振動強度を表す。図26A〜図26Dは、そのような時間変化する壁振動スペクトルをグラフによって示している。図26Aによって表される正常な大腿動脈では、45Hzを超えるスペクトルエネルギーは、雑音レベルに匹敵する。狭窄の場合、図26B〜図26Dにグラフによって示されるように、より高い周波数に相当なスペクトルエネルギーが存在する。3つの狭窄のすべてで(すなわち、図26B〜図26Dに示されるように)、振動はピーク収縮期壁運動の直後に生じる。折点周波数は、矢印166、168、および170によって示されるように、この時間変化する振動スペクトル表示から視覚的に決定されることができる。これらの折点周波数の自動検出も、リアルタイムに実行されることができる。
【0177】
人の冠動脈における生体内振動
図27Aは、左前下行(LAD:left anterior descending)動脈および右冠動脈(RCA:right coronary artery)に血管造影的に確認された冠動脈疾患を有する患者の心筋壁上に位置付けられた範囲から、上で説明された時間2D FFT法を使用して計算されたドプラスペクトルである。距離ゲートが、RCA付近に配置された。等容収縮(IVC:isovolumetric contraction)、心室駆出(VE:ventricular ejection)、等容弛緩(IVR:isovolumetric relaxation)、および心室充満(VF:ventricular filling)に対応する心筋壁運動の4つのフェーズが示されている。高周波数の狭帯域振動を示す明らかな高調波スペクトルが、心室駆出フェーズの後半の部分に観察されることができる。振動は、連続的に減少する周波数を有し、斜めの帯として現れ、2つの連続する心臓周期内で繰り返される。対称的な両側ピークが、心室駆出フェーズ末期において観測される振動を表す。
【0178】
図27Bは、上で詳細に説明された自己相関法を使用して推定された、心室駆出中の壁速度の詳細な時間経過をグラフによって示している。速度は、ボックスに囲われた領域内に示された、振動を表す振動成分を示している。振動の持続時間は約85msであり、振動は調和成分をもつように見える。
【0179】
図28Aは、コーダルアンギュレーション(caudal angulation)を用いて左前斜位投影(left anterior oblique projection)において獲得された、図27Aおよび図27Bで映像化された患者の右冠動脈の血管造影イメージである。近位RCAにおける瀰漫性20%狭窄(diffuse 20% stenosis)、中位RCAにおける管状20%狭窄(tubular 20% stenosis)、および遠位RCAにおける40%狭窄が識別されることができる。
【0180】
図28Bは、図27A、図27B、および図28Aの患者からの拡張期における心尖部二腔像(apical two−chamber view)にオーバーレイされた振動振幅イメージである。後側左心室壁の振動が、RCAの中位および遠位部分の近くに見られることができる。振動は、遠位RCAにおける2つの異なる病変に対応し得る2つの領域に発生源があるように思える。
【0181】
図29Aは、クラニアルアンギュレーション(cranial angulation)を用いて右前斜位投影において獲得された、図27A、図27B、図28A、および図28Bで映像化された患者の血管造影イメージである。近位LADは中度に石灰化している。中位LADに50%管状病変が存在する。
【0182】
図29Bは、図29Aの患者からの心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージである。中位LADセクションに心筋振動が観察されることができる。
【0183】
狭窄から生じる組織振動とその他の源から生じる組織振動との区別
振動は、孔の両側の圧力差によって生み出される。狭窄は、そのような圧力差が存在する、孔を含む比較的一般的な生理学的特徴を表す。しかし、破裂血管などのその他の生理学的特徴も、振動を生み出すことができる圧力差を有する孔を含む。以下では、本明細書で開示された振動イメージング技法が、どのようにして狭窄と組織振動のその他の源とを区別することができるかについての説明を提供する。
【0184】
狭窄では、圧力差は一般に、収縮期により著しいが、出血血管では、圧力差は、拡張期でも同様に著しいことがあり得る。したがって、心臓周期において振動が生じる時間に関する振動の分析は、狭窄に関連する振動を出血に関連する振動から区別するために使用され得るデータを提供する。
【0185】
図1を参照すると、組織振動プロセッサ28は、心電計信号を使用して、心臓周期における振動のタイミングを決定するように構成されることができる。別の実施形態では、組織振動プロセッサは、心拍動に起因する組織運動の周期性を使用して、心臓周期中の振動のタイミングを決定するように構成されることができる。
【0186】
要約
経験的証拠は、狭窄血管に関連する血管壁および周囲組織における低強度の局所振動のリアルタイム超音波イメージングの実現可能性を例証している。パラメトリック信号分解およびスペクトル推定に基づいたいくつかのアルゴリズムが、わずか10個程度の時間サンプルを使用して、振幅の小さな組織振動を映像化するために開発された。シミュレーションは、これらのアルゴリズムが、クラッタおよび血流の存在下で振動を検出することに関して、高い感度(96%から98%)および特定性(98%から99%)を有し、広帯域振動が存在するときでさえも堅牢であることを示す。振動振幅および周波数は、正確に推定されることができ、リアルタイム組織振動イメージングが、ソフトウェアプログラム可能なサブシステムを用いる超音波機械において実施された。振動は、狭窄バイパス静脈移植片において、および被験者の冠動脈から観測された。
【0187】
組織振動イメージングは、従来のツールを使用した場合は今のところ臨床家が入手できない、追加的な診断情報を提供することができる。組織振動イメージング能力を有する超音波装置は、従来のデュプレックス超音波を使用する他の方法では診断が困難な、これまではブリュイに関連付けられた、狭窄およびその他の血管異常を評価するための有用なスクリーニングおよび診断ツールとなることができる。本明細書で開示された超音波振動イメージング技法は、振幅の小さな振動をその発生源において視覚化する可能性のために魅力的である。振動スペクトルは、狭窄における残存管腔直径に直接関係する折点周波数を計算するために使用されることができる。組織振動イメージングの重要な応用例は、おそらく冠動脈狭窄の非侵襲的診断であろう。従来のデュプレックス超音波は、冠動脈を視覚化する困難および冠動脈血流からの貧弱な散乱強度によって制限される。冠動脈狭窄を有する患者は、300Hzと800Hzの間の周波数をもつ拡張期心雑音を有する。したがって、臨床的に重要な冠動脈狭窄は、冠動脈流量および最小残存管腔直径に依存する振幅および周波数を有する振動を生み出すことが予想される。冠動脈疾患によって生み出される心臓壁振動の経胸腔的評価(transthoracic assessement)は、臨床的に重要な冠動脈狭窄を診断するための低コストで有効な方法になることができる。
【0188】
本発明がそれを実施する好ましい形態およびそれに対する変更に関して説明されたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、その他の多くの変更が本発明に施され得ることを理解されよう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によって多少なりとも限定されることはなく、代わりに、もっぱら添付の特許請求の範囲を参照することによって決定されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】組織振動イメージングを実施するのに適した例示的な超音波システムの機能ブロック図である。
【図2】振動サンプルボリュームからの予想ドプラスペクトル(すなわち、周波数対パワー)のグラフである。
【図3A】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するための例示的な部分空間ベースのアルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図3B】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するために自己回帰を使用する例示的な代替アルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図3C】狭窄が明らかとなる振動組織イメージを生成するために位相分解を使用する別の例示的な代替アルゴリズムの論理ステップを示すフローチャートである。
【図4】超音波を使用して生成された振動組織イメージを使用して動脈狭窄を位置的に特定し、等級分けするための方法の論理ステップを示すフローチャートである。
【図5】図5Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に沿っている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D高速フーリエ変換(FFT)スペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図5Bは、エコーの原因である散乱体が超音波ビームの軸に沿って20mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図6】図6Aは、エコーの原因である散乱体が超音波ビームの軸に沿って200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が5MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図6Bは、エコーの原因である散乱体が200mm/sの一定速度で動いており、300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、(送信超音波信号の中心周波数が2MHzである)受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図7】図7Aは、5m/s2の加速で10mm/sから30mm/sに加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図7Bは、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、5m/s2の加速で10mm/sから30mm/sに加速する散乱体のグループからの、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図8】図8Aは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交している場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。図8Bは、エコーの原因である散乱体が20mm/sの一定速度で動いており、散乱体運動が超音波ビームの軸に直交しており、散乱体が300Hzの周波数、5μmの振幅で振動もしている場合の、シミュレートされた受信超音波エコーの、2D FFTスペクトルおよび従来のドプラスペクトルの両方をグラフによって示した図であって、ドプラスペクトルが縦軸の左側に配置され、2D FFTスペクトルが縦軸の右側に配置された図である。
【図9A】図5Aの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示した図である。
【図9B】図5Bの2D FFTスペクトルのラドン変換をグラフによって示した図である。
【図9C】図9Aのラドン変換から計算されたスペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図9D】図9Bのラドン変換から計算されたドプラスペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図10A】図5Aの2D FFTスペクトルから計算された多周波スペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図10B】図5Bの2D FFTスペクトルから計算された多周波スペクトル推定をグラフによって示した図である。
【図11A】本明細書で説明される、狭窄に関連する振動を映像化するための超音波使用を検証するために使用される散乱体分布の3Dシミュレーションモデルを概略的に示した図である。
【図11B】ボックスで囲われた領域によって示される振動を伴うモデル化されたクラッタ運動をグラフによって示した図である。
【図11C】モデル化された血流特徴をグラフによって示した図である。
【図12A】本明細書で開示される振動イメージング技法を検証するために使用されるシミュレーションモデルの振動振幅イメージの図である。
【図12B】振動検出の感度および特定性を計算するために使用されるマスクを概略的に示した図である。
【図13A】位相分解ベースの振動検出についての感度対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13B】位相分解ベースの振動検出についての特定性対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13C】位相分解ベースの振動検出についての受信器動作特性曲線をグラフによって示した図である。
【図13D】root−MUSICベースの振動検出についての感度対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13E】root−MUSICベースの振動検出についての特定性対閾値曲線をグラフによって示した図である。
【図13F】root−MUSICベースの振動検出についての例示的な受信器動作特性曲線をグラフによって示した図である。
【図14】本明細書で開示された位相分解アルゴリズムおよびroot−MUSICアルゴリズムについて、振動帯域幅の増大に対する感度の堅牢性をグラフによって示した図である。
【図15】プレートの振動を映像化するために超音波プローブが使用される実験構成であって、本明細書で開示された組織振動を映像化するための超音波の使用を支持する経験的証拠を生み出すために使用された構成を概略的に示した図である。
【図16A】振動振幅でオーバーレイされた図15の振動ファントムのBモード超音波イメージの図である。
【図16B】振動周波数でオーバーレイされた図15の振動ファントムのBモード超音波イメージの図である。
【図16C】図16Bの超音波イメージの一部から取り出されたI−QアンサンブルデータのMUSIC擬似スペクトルをグラフによって示した図である。
【図17A】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動振幅をグラフによって示した図である。
【図17B】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動周波数をグラフによって示した図である。
【図17C】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動振幅の間の差をグラフによって示した図である。
【図17D】超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して得られた、図15の実験構成からのプレートの振動周波数の間の差をグラフによって示した図である。
【図18】超音波プローブが生体外動脈の狭窄を映像化するために使用される実験構成であって、本明細書で開示された狭窄に関連する組織振動を映像化するための超音波の使用を支持する経験的証拠を生み出すために使用された構成を概略的に示した図である。
【図19】図18の生体外動脈におけるフローのイメージの図である。
【図20A】30%のシミュレート狭窄を表す、図18の実験構成を使用して得られた生体外動脈の振動振幅イメージの図である。
【図20B】42%のシミュレート狭窄を表す、図18の実験構成を使用して得られた生体外動脈の振動振幅イメージの図である。
【図21】図18の実験構成を使用してシミュレートされた狭窄からの振動スペクトルであって、パルス波ドプラ超音波および光ファイバマイクロメータの両方を使用して生成された振動スペクトルをグラフによって示した図である。
【図22】図22Aは被験者における狭窄静脈移植片からのカラードプライメージの図である。図22Bは図9Aの狭窄静脈移植片の振動振幅イメージの図である。
【図23】図23Aは周囲血管アーチファクトを含む狭窄大腿静脈移植片のカラーパワー超音波イメージの図である。図23Bは図23Aの狭窄大腿静脈移植片の振動振幅イメージの図である。図23Cは図23Aの狭窄大腿静脈移植片の振動周波数イメージの図である。
【図24A】狭窄大腿静脈移植片からのパルス波ドプラデータの位相分解を使用して推定される瞬間血管壁位置をグラフによって示した図である。
【図24B】図24Aを生成するために使用された信号の運動ピリオドグラムの図である。
【図24C】特定の時点における図24Bのスペクトルの交差セクション特徴をグラフによって示した図である。
【図24D】同じ位置におけるカラーフロー超音波データの10アンサンブルについてMUSICアルゴリズムを使用して計算された運動擬似スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25A】本明細書で開示された技法を使用して生体内で得られる正常な大腿動脈の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25B】本明細書で開示された技法を使用して生体内で得られる狭窄大腿バイパス静脈移植片の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25C】図25Bに表された狭窄と同じ患者に存在する異なる狭窄の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図25D】別の患者に存在する狭窄の動脈壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図26】図26Aは本明細書で開示された技法を使用して得られる正常な動脈の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Bは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Cは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。図26Dは本明細書で開示された技法を使用して得られる狭窄血管の時間変化する壁変位スペクトルをグラフによって示した図である。
【図27】図27Aは心室駆出フェーズ末期において観察される振動を対称的な両側ピークが表す、冠動脈疾患を有する患者の心筋の超音波イメージから2D FFT法を使用して計算されたドプラスペクトルの図である。図27Bは調和成分を含むように見える高周波数振動をボックスに囲われた領域が示す、心室駆出中の壁速度の時間経過をグラフによって示した図である。
【図28】図28Aはコーダルアンギュレーションを用いて左前斜位投影において獲得された、冠動脈疾患を有する患者の血管造影イメージの図である。図28Bは図28Aの患者の心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージの図である。
【図29】図29Aはクラニアルアンギュレーションを用いて右前斜位投影において獲得された、冠動脈疾患を有する患者の血管造影イメージの図である。図29Bは図29Aの患者の心尖部二腔像にオーバーレイされた振動振幅イメージの図である。
【符号の説明】
【0190】
12 超音波トランスデューサ
14 フロントエンドサブシステム
16 ビームフォーマ
18 時間利得補償
20 RF復調器&デシメータ
22 バックエンドサブシステム
24 Bモード処理
26 カラーフロー処理
28 組織振動処理
30 ドプラ処理
32 走査変換
34 後処理
36 ディスプレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理するステップと、
(b)前記内部部位に関する組織振動をリアルタイムに識別するステップと、
(c)前記組織振動の関数として前記狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記狭窄を検出するために心臓周期における前記組織振動のタイミングを識別するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記振動の測定された特性に基づいて前記狭窄の血行力学的特性を定量化するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理し、前記狭窄における軟部組織振動以外の源からの寄与が実質的に最小化された信号を生成するステップと、
(b)前記内部部位における軟部組織振動を識別するために前記信号を処理するステップと、
(c)前記軟部組織振動の関数として前記狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理するステップと、
(b)組織運動信号を生成するために前記超音波データに基づいて前記内部部位における組織運動を推定するステップと、
(c)前記組織運動の周波数スペクトルを得るために前記組織運動信号を処理するステップと、
(d)前記組織運動の前記周波数スペクトルの関数として狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
超音波データを使用して狭窄を検出するための方法であって、
(a)部位における組織振動をリアルタイムに識別するために前記超音波データを処理し、組織振動信号を生成するステップと、
(b)前記組織振動信号を処理し、前記部位における前記狭窄以外の源からの前記組織振動への寄与が実質的に最小化された信号を生成するステップであって、前記信号は前記狭窄の表示を提供するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記信号を使用して前記狭窄の位置を決定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記狭窄のイメージを生成するために前記信号を利用するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)前記超音波データのアンサンブルから相関信号を推定するステップと、
(b)信号部分空間と雑音部分空間とを識別するために前記相関信号の固有分解を実行するステップと、
(c)前記信号部分空間および前記雑音部分空間における優位振動成分の周波数を推定するステップと、
(d)前記優位振動成分の前記周波数の推定に基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅および前記振動周波数の少なくとも一方を決定するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)前記超音波データのアンサンブルから自己回帰プロセスの反射係数を計算するステップと、
(b)前記反射係数から線形予測フィルタ係数を計算するステップと、
(c)前記線形予測フィルタ係数からパワースペクトルを推定し、前記パワースペクトル内のピークを検出するステップと、
(d)前記パワースペクトルおよび前記ピークに基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅および前記振動周波数の少なくとも一方を決定するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)自己相関を使用して前記超音波データのアンサンブルから平均クラッタ速度を推定するステップと、
(b)前記平均クラッタ速度を用いて前記超音波データをダウンミックスして、ダウンミキシング信号を生成するステップと、
(c)前記ダウンミキシング信号の位相と前記ダウンミキシング信号の平均位相とを計算するステップと、
(d)前記ダウンミキシング信号の前記位相から前記平均位相を減算して、残差位相を生成するステップと、
(e)前記残差位相をその優位成分に分解するステップと、
(f)前記組織振動への雑音および血流による寄与を実質的に抑制するためにエネルギーおよび周波数閾値を前記優位成分に適用し、組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記残差位相を分解するステップは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定するステップと、
(b)前記優位成分を決定するために前記相関行列の固有分解を実行するステップとを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記残差位相を分解するステップは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定するステップと、
(b)前記優位成分を決定するために反復的QR分解を使用して前記相関行列の部分固有分解を実行するステップとを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組織振動は、複数の深さ位置からの前記超音波データを処理することによって識別されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項15】
フィルタリングを行うステップは、前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項16】
フィルタリングを行うステップは、前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数にある雑音をフィルタで除去するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項17】
ドプラサンプルボリュームを前記組織振動の位置に配置し、組織振動スペクトルを生成することによって、前記組織振動が前記部位における前記狭窄に対応することを確認するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記信号を使用して振動イメージを表示するステップをさらに含み、前記振動イメージを表示するステップは、前記部位の振動振幅イメージおよび振動周波数イメージの少なくとも一方を表示するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項19】
前記部位のカラーフローイメージに関連する振動組織に対応するイメージを前記信号を使用して実質的にリアルタイムに表示するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項20】
前記組織振動の周波数および振幅を使用して狭窄を等級分けするステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項21】
請求項6のステップを実行するためのコンピュータ装置によって実行可能な機械命令を有することを特徴とするコンピュータ可読メモリ媒体。
【請求項22】
超音波を使用して内部部位における狭窄を検出するための装置であって、
(a)超音波トランスデューサと、
(b)前記超音波トランスデューサの動作を制御するために前記超音波トランスデューサに結合された制御システムと、
(c)前記狭窄によって引き起こされた組織振動を識別するために前記超音波を処理し、前記狭窄を表す信号を生成する組織振動プロセッサとを含むことを特徴とする装置。
【請求項23】
前記組織プロセッサによって生成された前記信号は、前記組織振動の位置を決定することによって前記狭窄の位置を特定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記組織振動プロセッサによって生成された前記信号は、前記組織振動が前記狭窄の位置を表すイメージを生成するために使用可能であることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記振動イメージが提示されるディスプレイをさらに含み、前記イメージは、前記狭窄の位置を表すことを特徴とする請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記組織振動プロセッサは、特定用途向け集積回路、および前記組織振動を識別し、前記信号を生成するためにソフトウェアを実行する汎用プロセッサの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項27】
前記組織振動プロセッサは、前記狭窄における残存管腔直径を決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項28】
前記組織振動プロセッサは、前記組織振動を識別し、組織振動信号を生成し、前記組織振動信号をフィルタリングし、前記内部部位における前記狭窄以外の源からの前記組織振動への寄与が実質的に最小化されたフィルタリング信号を生成することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項29】
前記組織振動プロセッサは、
(a)カラーフロー信号から相関行列を推定し、
(b)信号部分空間と雑音部分空間とを識別するために前記相関行列の固有分解を実行し、
(c)前記信号部分空間および前記雑音部分空間における優位振動成分の周波数を推定し、
(d)前記優位振動成分の前記周波数の推定に基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅推定および前記振動周波数推定の少なくとも一方を決定することによって、前記内部部位における組織振動を決定することを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記組織振動プロセッサは、
(a)自己相関を使用して前記カラーフロー信号から平均クラッタ速度を推定し、
(b)前記平均クラッタ速度を用いて前記カラーフロー信号をダウンミックスして、ダウンミキシング信号を生成し、
(c)前記ダウンミキシング信号の位相と前記ダウンミキシング信号の平均位相とを計算し、
(d)前記ダウンミキシング信号の前記位相から前記平均位相を減算して、残差位相を生成し、
(e)前記残差位相をその優位成分に分解し、
(f)前記組織振動への雑音および血流による寄与を実質的に抑制するためにエネルギーおよび周波数閾値を適用し、組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成することによって、前記内部部位における組織振動を決定することを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項31】
前記組織振動プロセッサは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定し、
(b)前記優位成分を決定するために前記相関行列の固有分解を実行することによって、前記残差位相を分解することを特徴とする請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記組織振動プロセッサは、前記部位における前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去することによって、前記組織振動信号をフィルタリングすることを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項33】
前記組織振動プロセッサは、前記部位における前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去することによって、前記組織振動信号をフィルタリングすることを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項34】
前記組織振動プロセッサはさらに、距離ゲートを前記組織振動の位置に配置し、組織振動スペクトルを生成することによって、前記振動イメージに表示された振動が前記部位における前記狭窄に対応することを確認することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項35】
前記組織振動プロセッサは、心電計信号を使用して心臓周期における振動のタイミングを決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項36】
前記組織振動プロセッサは、心拍動による組織運動の周期性を使用して心臓周期における振動のタイミングを決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項37】
前記ディスプレイは、前記内部部位の振動振幅イメージおよび振動周波数イメージの少なくとも一方を提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項38】
前記内部部位の下に重なる解剖学的構造を示すグレースケールイメージを生成するBモードプロセッサをさらに含み、それによって、前記ディスプレイは、前記内部部位のBモードイメージおよび組織振動に応答して生成された前記内部部位の前記イメージの少なくとも一方を実質的にリアルタイムに選択的に提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項39】
カラーフロープロセッサをさらに含み、それによって、前記ディスプレイは、前記内部部位のカラーフローイメージおよび組織振動に応答して生成された前記内部部位の前記イメージの少なくとも一方を選択的に提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項40】
前記内部部位のドプライメージを生成するためのドプラプロセッサをさらに含むことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項1】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理するステップと、
(b)前記内部部位に関する組織振動をリアルタイムに識別するステップと、
(c)前記組織振動の関数として前記狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記狭窄を検出するために心臓周期における前記組織振動のタイミングを識別するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記振動の測定された特性に基づいて前記狭窄の血行力学的特性を定量化するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理し、前記狭窄における軟部組織振動以外の源からの寄与が実質的に最小化された信号を生成するステップと、
(b)前記内部部位における軟部組織振動を識別するために前記信号を処理するステップと、
(c)前記軟部組織振動の関数として前記狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
狭窄を検出するための方法であって、
(a)内部部位から反射された超音波データを処理するステップと、
(b)組織運動信号を生成するために前記超音波データに基づいて前記内部部位における組織運動を推定するステップと、
(c)前記組織運動の周波数スペクトルを得るために前記組織運動信号を処理するステップと、
(d)前記組織運動の前記周波数スペクトルの関数として狭窄を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
超音波データを使用して狭窄を検出するための方法であって、
(a)部位における組織振動をリアルタイムに識別するために前記超音波データを処理し、組織振動信号を生成するステップと、
(b)前記組織振動信号を処理し、前記部位における前記狭窄以外の源からの前記組織振動への寄与が実質的に最小化された信号を生成するステップであって、前記信号は前記狭窄の表示を提供するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記信号を使用して前記狭窄の位置を決定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記狭窄のイメージを生成するために前記信号を利用するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)前記超音波データのアンサンブルから相関信号を推定するステップと、
(b)信号部分空間と雑音部分空間とを識別するために前記相関信号の固有分解を実行するステップと、
(c)前記信号部分空間および前記雑音部分空間における優位振動成分の周波数を推定するステップと、
(d)前記優位振動成分の前記周波数の推定に基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅および前記振動周波数の少なくとも一方を決定するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)前記超音波データのアンサンブルから自己回帰プロセスの反射係数を計算するステップと、
(b)前記反射係数から線形予測フィルタ係数を計算するステップと、
(c)前記線形予測フィルタ係数からパワースペクトルを推定し、前記パワースペクトル内のピークを検出するステップと、
(d)前記パワースペクトルおよび前記ピークに基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅および前記振動周波数の少なくとも一方を決定するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記超音波データを処理するステップは、
(a)自己相関を使用して前記超音波データのアンサンブルから平均クラッタ速度を推定するステップと、
(b)前記平均クラッタ速度を用いて前記超音波データをダウンミックスして、ダウンミキシング信号を生成するステップと、
(c)前記ダウンミキシング信号の位相と前記ダウンミキシング信号の平均位相とを計算するステップと、
(d)前記ダウンミキシング信号の前記位相から前記平均位相を減算して、残差位相を生成するステップと、
(e)前記残差位相をその優位成分に分解するステップと、
(f)前記組織振動への雑音および血流による寄与を実質的に抑制するためにエネルギーおよび周波数閾値を前記優位成分に適用し、組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記残差位相を分解するステップは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定するステップと、
(b)前記優位成分を決定するために前記相関行列の固有分解を実行するステップとを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記残差位相を分解するステップは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定するステップと、
(b)前記優位成分を決定するために反復的QR分解を使用して前記相関行列の部分固有分解を実行するステップとを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組織振動は、複数の深さ位置からの前記超音波データを処理することによって識別されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項15】
フィルタリングを行うステップは、前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項16】
フィルタリングを行うステップは、前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数にある雑音をフィルタで除去するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項17】
ドプラサンプルボリュームを前記組織振動の位置に配置し、組織振動スペクトルを生成することによって、前記組織振動が前記部位における前記狭窄に対応することを確認するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記信号を使用して振動イメージを表示するステップをさらに含み、前記振動イメージを表示するステップは、前記部位の振動振幅イメージおよび振動周波数イメージの少なくとも一方を表示するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項19】
前記部位のカラーフローイメージに関連する振動組織に対応するイメージを前記信号を使用して実質的にリアルタイムに表示するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項20】
前記組織振動の周波数および振幅を使用して狭窄を等級分けするステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項21】
請求項6のステップを実行するためのコンピュータ装置によって実行可能な機械命令を有することを特徴とするコンピュータ可読メモリ媒体。
【請求項22】
超音波を使用して内部部位における狭窄を検出するための装置であって、
(a)超音波トランスデューサと、
(b)前記超音波トランスデューサの動作を制御するために前記超音波トランスデューサに結合された制御システムと、
(c)前記狭窄によって引き起こされた組織振動を識別するために前記超音波を処理し、前記狭窄を表す信号を生成する組織振動プロセッサとを含むことを特徴とする装置。
【請求項23】
前記組織プロセッサによって生成された前記信号は、前記組織振動の位置を決定することによって前記狭窄の位置を特定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記組織振動プロセッサによって生成された前記信号は、前記組織振動が前記狭窄の位置を表すイメージを生成するために使用可能であることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記振動イメージが提示されるディスプレイをさらに含み、前記イメージは、前記狭窄の位置を表すことを特徴とする請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記組織振動プロセッサは、特定用途向け集積回路、および前記組織振動を識別し、前記信号を生成するためにソフトウェアを実行する汎用プロセッサの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項27】
前記組織振動プロセッサは、前記狭窄における残存管腔直径を決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項28】
前記組織振動プロセッサは、前記組織振動を識別し、組織振動信号を生成し、前記組織振動信号をフィルタリングし、前記内部部位における前記狭窄以外の源からの前記組織振動への寄与が実質的に最小化されたフィルタリング信号を生成することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項29】
前記組織振動プロセッサは、
(a)カラーフロー信号から相関行列を推定し、
(b)信号部分空間と雑音部分空間とを識別するために前記相関行列の固有分解を実行し、
(c)前記信号部分空間および前記雑音部分空間における優位振動成分の周波数を推定し、
(d)前記優位振動成分の前記周波数の推定に基づいて、振動振幅および振動周波数、前記組織振動信号を含む前記振動振幅推定および前記振動周波数推定の少なくとも一方を決定することによって、前記内部部位における組織振動を決定することを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記組織振動プロセッサは、
(a)自己相関を使用して前記カラーフロー信号から平均クラッタ速度を推定し、
(b)前記平均クラッタ速度を用いて前記カラーフロー信号をダウンミックスして、ダウンミキシング信号を生成し、
(c)前記ダウンミキシング信号の位相と前記ダウンミキシング信号の平均位相とを計算し、
(d)前記ダウンミキシング信号の前記位相から前記平均位相を減算して、残差位相を生成し、
(e)前記残差位相をその優位成分に分解し、
(f)前記組織振動への雑音および血流による寄与を実質的に抑制するためにエネルギーおよび周波数閾値を適用し、組織の振動振幅および振動周波数の推定を生成することによって、前記内部部位における組織振動を決定することを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項31】
前記組織振動プロセッサは、
(a)前記残差位相から相関行列を推定し、
(b)前記優位成分を決定するために前記相関行列の固有分解を実行することによって、前記残差位相を分解することを特徴とする請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記組織振動プロセッサは、前記部位における前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく低い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去することによって、前記組織振動信号をフィルタリングすることを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項33】
前記組織振動プロセッサは、前記部位における前記狭窄に対応する組織振動の予想周波数範囲よりも著しく高い周波数においてクラッタおよび雑音をフィルタで除去することによって、前記組織振動信号をフィルタリングすることを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項34】
前記組織振動プロセッサはさらに、距離ゲートを前記組織振動の位置に配置し、組織振動スペクトルを生成することによって、前記振動イメージに表示された振動が前記部位における前記狭窄に対応することを確認することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項35】
前記組織振動プロセッサは、心電計信号を使用して心臓周期における振動のタイミングを決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項36】
前記組織振動プロセッサは、心拍動による組織運動の周期性を使用して心臓周期における振動のタイミングを決定することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項37】
前記ディスプレイは、前記内部部位の振動振幅イメージおよび振動周波数イメージの少なくとも一方を提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項38】
前記内部部位の下に重なる解剖学的構造を示すグレースケールイメージを生成するBモードプロセッサをさらに含み、それによって、前記ディスプレイは、前記内部部位のBモードイメージおよび組織振動に応答して生成された前記内部部位の前記イメージの少なくとも一方を実質的にリアルタイムに選択的に提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項39】
カラーフロープロセッサをさらに含み、それによって、前記ディスプレイは、前記内部部位のカラーフローイメージおよび組織振動に応答して生成された前記内部部位の前記イメージの少なくとも一方を選択的に提示することを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項40】
前記内部部位のドプライメージを生成するためのドプラプロセッサをさらに含むことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2008−511415(P2008−511415A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530355(P2007−530355)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/031135
【国際公開番号】WO2007/001352
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【住所又は居所原語表記】4311 11th Avenue N.E.,Suite 500,Seattle,WA98105,U.S.A
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/031135
【国際公開番号】WO2007/001352
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【住所又は居所原語表記】4311 11th Avenue N.E.,Suite 500,Seattle,WA98105,U.S.A
【Fターム(参考)】
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