説明

珪素ベースの複合材料

リチウムイオン電池の負極として有用性を有する複合材料が、珪素、遷移金属、セラミック及び炭素のような導電性稀釈剤を含む。特に例として、セラミックは、導電性であり、またバナジウムカーバイド又はタングステンカーバイドを含み得る。遷移金属は、いくつかの例において鉄を含み得る。この材料は、成分の出発混合物を共に粉砕することにより加工され得、粉砕は、高衝撃ボールミル粉砕処理により達成され得、また粉砕工程は、珪素と金属及び/又は炭素との部分的な合金化を生じさせ得る。更に、この材料及びこの材料を組み込む電極の製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2008年1月11日に出願された米国特許仮出願61/020,525及び2009年1月8日に出願された米国特許出願12/350,631の優先権を主張し、これらの内容は本明細書中参照として組み込まれる。
(発明の分野)
本発明は、一般的に材料及びそれらの加工方法に関する。特に、本発明は、リチウム電池のような電気化学的装置の電極の成分としての実用性を有する珪素ベースの複合材料に関する。
(発明の背景)
リチウムイオン電池の操作において、負極は、電池が充電される時に正極からリチウムイオンを取り込み(take up)、電池が放電される時にこれらのイオンをまた正極に放つ。負極材料の一つの重要なパラメータは、リチウムイオンを保持するための容量であり、それは所定の電池系が保持し得る電荷量に直接影響を与えるからである。別の重要なパラメータは、可逆性であり、すなわちこの材料が容量の劣化損失又は有意な損失なくリチウムイオンを取り込みかつ放出し得る回数である。
現在のリチウムイオン電池系は非常に高い可逆性を有しかつ非常に安全であるという事実のために一般的に炭素系負極を使用する。炭素材料における一つの問題は、それらのリチウムイオン容量が、程々に高いだけであり、故に相対的に大量の負極材料が所定の電池系に使用されなければならない。珪素は、相対的に大量のリチウムと合金でき、故にリチウムイオン電池の負極材料として多くの利点を有する。典型的な炭素ベースの負極は、約372mAh/gの放電容量を有するが、珪素が4200mAh/gの理論容量を有する。しかし、珪素は、リチウムがそこに組み込まれる場合相対的に大きな体積変化を被り、この体積変化は殆どの電池系で非常に不利であり、それは電池構造に容量の損失を生じさせ、サイクル寿命を減少させ、また機械的損傷を生じさせ得る。
【0002】
リチウムイオン電池系の負極としての珪素の潜在的な優位性のため、それを電池系に使用され得るようにするために、先行技術は機械的損傷及び可逆性の問題を克服する試みをなしてきた。その目的のために先行技術は、珪素と他の材料との合金、複合材料、及び他の錯体(complex)構造のリチウムイオン電池の負極における利用を追求してきた。いくつかのそのようなアプローチが、米国特許出願公報2007/0077490、2007/0190413及び2005/0282070、米国特許7,316,792、及び公開されたPCT出願WO2007/015910に開示される。
種々の努力にかかわらず、先行技術は、高いサイクル寿命を明示するリチウムイオン電池の高容量負極構造を調製するために成功裡に珪素ベースの材料を利用することが出来なかった。以下で詳細に説明されるように、本発明は、複合材料の、珪素ベースの電極材料を提供し、これは大量のリチウムイオンで合金にでき、また大数の充電/放電サイクルを通してこの能力を保持する。本発明の負極材料は、非常に良好なサイクル寿命を有する高容量リチウムイオン電池の製造を可能にする。これら及び他の本発明の利点は、後に続く図面、詳細な説明及び議論から明らかであろう。
(本発明の概要)
リチウムイオン電池又は他の電気化学的装置の電極として利用され得る複合材料が本明細書に開示される。この材料は、珪素、遷移金属、セラミック、及び炭素のような導電性稀釈剤からなる。特別な例としては、この材料は、質量に基づき5-85%の珪素、1-50%の遷移金属、1-50%のセラミック及び1-80%の稀釈剤を含む。遷移金属は、いくつかの例において、鉄を含み得るが、他の例において遷移金属は遷移金属の混合物を含み得る。セラミック材料は、いくつかの例において、窒化物、炭化物、酸化物、酸窒化物、酸炭化物又は先述の組み合わせを含み得る。具体的な例において、セラミックは、導電性であり、特別な例においてセラミックは、VC又はWCである。稀釈剤は、炭素を含み得、特別な例において、メソカーボンマイクロビーズを含む。いくつかの例において、珪素は、少なくとも部分的に遷移金属及び/又は炭素と合金にされる。他の例において、複合材料は、更に錫を含み得る。
【0003】
本発明の一つの特別な複合材料は、質量に基づき20%の珪素、20%の鉄、10%のVC及び残り炭素を含む。
複合材料の製造方法であって、出発混合物が質量に基づき5-85%の珪素、1-50%の遷移金属、1-50%のセラミック及び1-80%の炭素を含み共に粉砕される材料の製造方法を更に開示する。具体的な例において、粉砕は、ボールミル粉砕により実施される。特定の方法において、粉砕は、高衝撃ボールミル粉砕処理により珪素の少なくとも一部分が遷移金属及び/又は炭素と合金されるような条件下実施される。
更に複合材料を組み込む電極及びこれらの電極を組み込むリチウムイオン電池が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】本発明の負極材料を組み込む第一電池系に対するmAh/gに換算した脱リチウム化(delithiation)容量対充電-放電サイクル数のグラフである。
【図2】本発明の負極材料を組み込む第二電池系に対するmAh/gに換算した脱リチウム化容量対充電-放電サイクル数のグラフである。
【0005】
(発明の詳細な説明)
本発明の複合材料は、珪素及び1種以上の遷移金属をセラミックのような硬質の不活性材料を伴って含む。この開示の背景において、不活性材料は、リチウムイオンを取り込んだり放出したりしない範囲でリチウムイオン電池反応には関与しない材料であると理解される。珪素は、大量のリチウムと合金にし得るが、そうする場合、350%までの体積変化が生じ得ることが分かった。しかし、本発明の複合材料は、電池系の稼働の間リチウムイオンが取り込まれたり放出されたりする場合良好な機械的及び寸法安定性を示す。いくつかの安定性が珪素と遷移金属との結合から生じるが、更に安定性が、硬質の不活性材料の混入により達成されると考えられる。推測により拘束されることを望まないが、出願人は、この材料が、複合材料の調製の間効果を発揮し得、ここで珪素と金属成分間の最適な相互作用を保証するために作用するマイクロ粉砕剤として作用すると考える。更に、複合材料のサイクルの間、硬質の不活性材料は、複合材料の粒子の形態学を制御するために作用すると考えられる。再び、その点において、内部粉砕剤として作用して望まない粒子を減らし又は材料の形態学を制御し得る。硬質の不活性材料は、ほとんどの場合セラミックであり、特別な例において、VC又はWCのような導電性セラミックであり、この追加の導電性は、更に複合材料の能力を高めると考えられる。
【0006】
先に議論されるように、複合材料は、更に稀釈材料を含み得る。この稀釈剤は、導電性材料でありまた更に電気化学的にも活性であり得る。その点において、一つの具体的に使用される稀釈材料は、炭素である。炭素は、いかなる型のカーボンブラックを含み得る。本発明に使用される炭素の一つの型は、メソカーボンマイクロビーズの形態であり、そのような材料の特別な等級は、記号表示MCMBの下で大阪ガス会社から入手可能である。
本発明の典型的な材料としては、質量に基づき5-85%の珪素及び1-50%の遷移金属である。金属成分は、1種以上の遷移金属を含み得、また特別な場合、遷移金属は、鉄である。硬質の不活性材料は、先述のように1-50%の複合材料を含み、この材料は、一般的にセラミックであり、また金属の窒化物、炭化物、酸化物、酸窒化物、又は酸炭化物の1種以上である。本発明において実用性を有する具体的なセラミックとしては、バナジウムカーバイド(VC)又は上記とは別にタングステンカーバイド(WC)である。複合材料の残りは、炭素又は別の導電性稀釈剤などからなり、この成分は、典型的に1-80%の質量割合で存在する。いくつかの具体的な例において、珪素及び金属成分は、約等量で存在し、特別な配合において、複合材料は、質量に基づき20%の珪素、20%の鉄、10%のバナジウム(又はタングステン)カーバイドを含み、残りは炭素である。
【0007】
本発明の材料は、材料を一緒に粉砕することにより調製される。典型的に複合材料は、10ナノメートル〜50マイクロ(50ミクロン)の範囲の粒度を有し、一般的に本発明の完成材料は、10-20マイクロの範囲の粒度を有する。一般的に珪素成分が複合材料の間中ナノ分散(nanodispersed)するのが好ましく、その点において、一般的に出発混合物中に最初に分散していた珪素成分が相対的に小粒度であることが好ましい。いくつかの態様において、本発明の材料は、珪素の粒度が50-100ナノメートルの範囲の出発混合物を利用して調製された。別の例において、より大きい粒度の珪素、例えば325メッシュ珪素が使用されたが、いくつかの例において、珪素は、より小粒度へ予め粉砕されるか又はこの方法において全粉砕時間が適宜に調節される。
粉砕が典型的にボールミル粉砕処理により実施され、いくつかの場合、高衝撃ボールミル粉砕処理を利用することが有利なことが分かった。高衝撃ボールミル粉砕処理の詳細は当業者に周知であり、そのような技術は、本発明の操作に容易に適応され得る。高衝撃ボールミル粉砕処理が利用される場合、いくつかの条件下、珪素及び金属成分は、少なくとも部分的に合金になるために相互作用し、また合金材料の形成は、x-線回折分析により確認される。
【実施例】
【0008】
複合材料を本発明に従って質量に基づき20%の標準粒径50ナノメートルの珪素粉末、20質量%の325メッシュの鉄粉末、50%のメソポーラスカーボンマイクロビーズMCMB628、及び10%の325メッシュのVCを混合することにより加工した。この出発混合物を乾燥粉末形態でSPEX Sample Prep Groupからの8000Mミルを0.5-20時間使用して高衝撃ボールミル粉砕処理を施した。ボールミル粉砕処理は、いくつかの条件で少なくとも部分的な珪素と鉄及び炭素の合金化を生じさせ、x-線回折分析が証拠となる。
従って、調製された複合材料は、電極スラリーをCu箔に注型することにより電極を形成した。このスラリーは、70-95%のSi複合材料、2-15%のカーボンブラック又は他の添加剤、2-20%の結合剤、及び平衡溶媒(balanced solvent)を含む。電極を高温で時々真空下、乾燥した。従って、調製された電極を試験電池に組み込んだ。試験の第一シリーズにおいて、半電池(half cell)が調製され、その中で電極装填は、0.8mg/cm2であり、これらの電池は、EC:DMC:DECの1:1:1混合物中1モルのLiPF6を含む電極を使用した。これら半電池を2.2-0.1ボルトの電圧範囲でサイクルさせ電荷蓄積容量(charge storage capacity)をmAh/gに換算してサイクルメンバーに対してプロットした。この実験シリーズからのデータは、図1に要約され、本材料を組み込んだ電池が450サイクルを超えて非常に良好な安定性を示すことが理解されるだろう。
第二の実験シリーズにおいて、複合材料は、約1.1mg/cm2の装填で陽極に加工仕上げされた。これらの電池で使用された電解質は、1:1:1のEC:DMC:DEC中の1モルLiPF6であり、そこに追加されたフルオロカーボン添加剤を有する。これらの電池は、次いで2.2-0.1ボルトの電圧範囲でサイクルし、mAh/gに換算した電荷蓄積容量は、充電/放電サイクル機能として図2に示される。これらの電極が少なくとも500の充電/放電サイクルにおいて非常に良好なサイクル寿命を実証することを示した。
類似の結果が複合材料の使用に見込まれ、ここで金属成分は、別の遷移金属、例えばコバルト、ニッケル、銅、マンガン、クロム又はバナジウムを含む。同様に、先述されるように本発明に使用され得る多種類のセラミックが存在し、例えばセラミックとしては様々な金属の窒化物、炭化物、酸窒化物及び酸炭化物を含み得る。
先述の観点から本発明の多数の変更及び変化が当業者にとって明らかであろう。先の議論、詳細な説明及び実施例が本発明の例証であることを企図するが、その実施における限定を企図しない。以下の特許請求の範囲は全ての均等物を含み、発明の範囲を規定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的装置の電極に実用性を有する複合材料であって、以下、
珪素、
遷移金属、
セラミック、及び
導電性稀釈剤、
を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
質量に基づき5-85%の珪素、1-50%の前記遷移金属、1-50%の前記セラミック、及び1-80%の前記稀釈剤を含む請求項1記載の材料。
【請求項3】
前記遷移金属が、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、クロム又はバナジウムを含む請求項1記載の材料。
【請求項4】
前記セラミックが、窒化物、炭化物、酸化物、酸窒化物、酸炭化物、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される材料である請求項1記載の材料。
【請求項5】
前記セラミックが、導電性である請求項1記載の材料。
【請求項6】
前記セラミックが、バナジウムカーバイドである請求項4記載の材料。
【請求項7】
前記セラミックが、タングステンカーバイドである請求項4記載の材料。
【請求項8】
前記稀釈剤が、炭素を含む請求項1記載の材料。
【請求項9】
前記稀釈剤が、メソカーボンマイクロビーズを含む請求項1記載の材料。
【請求項10】
前記珪素及び前記遷移金属が、約等質量ベースで存在する請求項1記載の材料。
【請求項11】
前記珪素及び前記遷移金属が、少なくとも部分的に合金にされている請求項1記載の材料。
【請求項12】
前記遷移金属成分が、少なくとも二つの異なる遷移金属を含む請求項1記載の材料。
【請求項13】
前記材料が、10ナノメートル〜50マイクロメートルの範囲の粒度を有する請求項1記載の材料。
【請求項14】
複合材料であって、質量に基づき20%の珪素、20%の鉄、10%のバナジウムカーバイド、及び残余の炭素を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項15】
複合材料であって、質量に基づき20%の珪素、20%の鉄、10%のタングステンカーバイド、及び残余の炭素を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項16】
複合材料の製造方法であって、以下の工程、
(1)質量に基づいて
5-85%の珪素、
1-50%の遷移金属、
1-50%のセラミック、
1-80%の炭素、
を含む出発混合物を提供する工程、及び
(2)前記出発混合物を粉砕する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
前記混合物を粉砕する工程が、前記混合物をボールミル粉砕する工程を含む請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記混合物を粉砕する工程が、高衝撃ボールミル粉砕処理で前記混合物を粉砕する工程を含む請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記混合物を粉砕する工程が、アトリッションボールミル粉砕処理で前記混合物を粉砕する工程を含む請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記遷移金属が、鉄を含む請求項16記載の方法。
【請求項21】
前記セラミックが、VCを含む請求項16記載の方法。
【請求項22】
前記セラミックが、WCを含む請求項16記載の方法。
【請求項23】
前記出発混合物が、更に錫を含む請求項16記載の方法。
【請求項24】
電極であって、請求項1記載の複合材料を含む電極。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−512000(P2011−512000A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542364(P2010−542364)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/030547
【国際公開番号】WO2009/089414
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510192271)エイ123 システムズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】