現像剤担持体、現像器および画像形成装置
【課題】 現像剤を搬送する現像スリーブ等の現像剤担持体を備える画像形成装置において、長期間の使用において高い現像剤の搬送性を維持可能とする手段を提供する。
【解決手段】 現像スリーブ2032の基体表面301は、不定形ブラスト処理により粗面化処理が施された後、FCVA方式による蒸着処理により、ta−Cのコーティング層302により被覆されている。現像スリーブ2032の算術平均粗さは0.15以上である。現像スリーブ2032を用いた画像形成装置においては、例えばEA製法により製造され、形状係数が105以上115以下の真球に近いキャリアを含む二成分現像剤を用いてプリントを行った場合であっても高い搬送性が得られ、かつ高い耐久性が示される。
【解決手段】 現像スリーブ2032の基体表面301は、不定形ブラスト処理により粗面化処理が施された後、FCVA方式による蒸着処理により、ta−Cのコーティング層302により被覆されている。現像スリーブ2032の算術平均粗さは0.15以上である。現像スリーブ2032を用いた画像形成装置においては、例えばEA製法により製造され、形状係数が105以上115以下の真球に近いキャリアを含む二成分現像剤を用いてプリントを行った場合であっても高い搬送性が得られ、かつ高い耐久性が示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2成分現像剤を用いる電子写真方式において、現像剤の搬送性を長期間の使用において高く維持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成装置においては、一般的に以下の処理により画像形成が行われる。(a)表面に一様に静電気を帯電させた感光体に対し画像を示す光を照射し、一部の静電気を放電することにより、潜像を形成する。(b)表面に潜像の形成された感光体付近まで帯電したトナーを搬送し、トナーを潜像の静電気により付着させることにより、感光体表面にトナー像を形成する。(c)感光体表面に形成されたトナー像を紙等の転写媒体上に転写する。(d)トナー像の転写された転写媒体に加熱することにより、トナー像を転写媒体上に定着させる。
【0003】
図8は一般的な二成分現像剤方式による画像形成装置8が備える感光体10および現像器20の構成を示した側面図である。画像形成装置8は画像形成の指示を受け取ると、感光体10の回転を開始するとともに、帯電ロール(図示略)により感光体10の表面に一様な静電気の帯電を生じさせる。画像形成装置8はLED等を備えるイメージバー(図示略)を用いて、例えば、反転現像ならば形成されるべき画像の暗部に対応する感光体10上の位置に光を照射する。その結果、感光体10上に帯電していた静電気のうち、画像の暗部に対応する位置に帯電していた静電気は放電され、静電気による潜像が感光体10上に形成される。
【0004】
また、画像形成装置8は画像形成の指示を受け取ると、感光体10上に形成された潜像の先端に現像剤の供給が間に合うタイミングで、供給オーガ201、撹拌オーガ202およびマグネットロール203の回転を開始する。その結果、撹拌オーガ202により撹拌された現像剤が供給オーガ201を介してマグネットロール203の下端位置に供給される。
【0005】
図8において現像器20に収納されている現像剤209は二成分現像剤である。二成分現像剤には、転写媒体に転写定着される有色粉体であるトナーと、トナーを付着して搬送する磁性粉であるキャリアが所定範囲の混合率で混合されている。現像剤209が搬送される際の摩擦により、例えばトナーは負に帯電し、キャリアは正に帯電する。
【0006】
マグネットロール203は複数の磁石2031の周囲を現像スリーブ2032で覆う構造を備えている。磁石2031は、マグネットロール203の下端付近から左端付近にかけてはキャリアを現像スリーブ2032に付着し、マグネットロール203の例えば右端付近においてはキャリアを現像スリーブ2032から引き離すような磁界を生じるように、現像器20内の所定位置に所定の磁極方向で配置されている。
【0007】
現像スリーブ2032は上記のように固定された磁石2031の周りを回転することにより、マグネットロール203の下端付近でキャリアを表面に付着し、付着したキャリアを感光体10の表面付近まで搬送する。そのように搬送されるキャリアには、静電気によりトナーが付着している。その結果、マグネットロール203によりトナーが感光体10の表面付近に搬送されることになる。
【0008】
マグネットロール203の下端付近にて磁石2031により現像スリーブ2032の表面に付着した現像剤209の一部は、トリマーバー204により掻き落とされる結果、感光体10に搬送される現像剤209の量が一様となるようになっている。また、トリマーバー204と現像スリーブ2032との隙間であるトリマーギャップを調節することにより、感光体10に供給される現像剤209の量を調節できるようになっている。
【0009】
上記のように感光体10の表面付近まで搬送された現像剤209中のトナーは、感光体10の表面に形成された潜像により感光体10の表面に移動し付着する。その結果、感光体10の表面には、潜像に応じたトナー像が形成される。
【0010】
感光体10の表面に形成されたトナー像は、紙等の転写媒体上に転写された後、加熱溶融により転写媒体上に定着される。その結果、転写媒体上に画像が形成される。
【0011】
ところで、現像スリーブ2032の表面には、現像剤209を効率的に担持して感光体10の表面付近まで搬送するために、粗面化処理が施されている。しかしながら、現像器20の使用に伴い、現像スリーブ2032の表面の凸部が現像剤209(特に磁性粉であるキャリア)との摩擦により摩耗し、現像スリーブ2032による現像剤209の搬送性が低下する。そのような搬送性の低下は、画像形成装置により形成される画像が全体として薄くなる等の画質低下をもたらし、好ましくない。
【0012】
現像剤209の搬送性の低下を低減するための方法として、現像スリーブ2032の素材として硬質の素材を用いることが考えられる。また、他の方法として、現像スリーブ2032の表面を硬質の被膜でコーティングすることが考えられる。例えば特許文献1は、ブラストによる粗面化処理を施した現像スリーブの表面を硬質ニッケルクロームでメッキしコーティングする技術が開示されている。
【0013】
一方、現像剤209の搬送性の変化を低減する方法として、現像スリーブ2032の表面を粗面化処理した後、研磨等により凸部の形状に丸みを帯びさせることが考えられる。
【0014】
【特許文献1】特開2003−307959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現像スリーブ2032の素材として硬質の素材を用いる場合、現像剤209の搬送性の低下は低減されるが、加工に要する費用が高くなるという問題がある。
【0016】
現像スリーブ2032の表面をメッキやディッピングにより硬質金属でコーティングする場合、粗面化処理により形成された凹凸がコーティングにより埋められ、粗さが低下する結果、現像スリーブ2032の搬送性が十分に高まらない、という問題がある。
【0017】
図9は、粗面化処理により凹凸の形成された現像スリーブ2032の基体表面901に、メッキもしくはディッピングにより硬質金属のコーティング層902を設けた場合の様子を模式的に示した図である。図9に示される多数の六角形は、コーティング層902を形成する金属原子を模式的に示している。図9に示されるように、コーティング層902の表面は、現像スリーブ2032の基体表面901と比較し、粗さが低下している。その結果、コーティング層902の設けられた現像スリーブ2032は、コーティング層902の設けられていない場合と比較し、高い現像剤の搬送性が得られない。
【0018】
また、予め粗面化処理を施した表面を研磨等した現像スリーブ2032を用いる場合、研磨等を施さない場合と比較し、現像器20の使用時間に対する搬送性の変化は小さくなるが、現像スリーブ2032の表面の粗さが初期値において抑えられるため、高い現像剤の搬送性が得られない。
【0019】
特に、画像形成装置により形成される画像の画質を高めると同時に、キャリアの使用可能な期間を長くするために、重合製法によるキャリアのように表面が滑らかなキャリアが用いられる場合、高い現像剤の搬送性が得られないという上記の従来技術における問題は無視できない。
【0020】
上述の事情に鑑み、本発明は現像剤を搬送する現像スリーブ等の現像剤担持体を備える画像形成装置において、長期間の使用において高い現像剤の搬送性を維持可能とする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述の課題を解決するため、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体を提供する。
【0022】
好ましい態様において、前記真空アーク蒸着法は、Filtered Cathodic Vacuum Arc方式による蒸着法であってもよい。
【0023】
また、他の好ましい態様において、前記被膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボンの被膜であってもよい。
【0024】
さらに、他の好ましい態様において、前記粗面化処理は、ブラスト処理およびエッチング処理の少なくとも一方を用いる処理であってもよい。
【0025】
さらに、他の好ましい態様において、前記粗面化処理は、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける処理であってもよい。
【0026】
本発明の現像剤担持体は、粗面化処理の施された現像剤担持体の基体表面が、その粗さをほとんど損なわれることなく硬質なコーティング層により被覆されているので、高い現像剤の搬送性が長期間の使用において維持される。
【0027】
また、本発明は、上述したいずれかの現像剤担持体を備える現像器を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、算術平均粗さが0.15以上となるように粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤とを備える現像器を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、前記表面と溝の傾斜面とにより形成される頂部のR寸法が200ミクロン以下となるように、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤とを備える現像器を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上述したいずれかの現像剤担持体もしくは現像器を備える画像形成装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[1.第1実施形態]
本発明の第1実施形態にかかる画像形成装置1は、従来技術の画像形成装置8が備える構成部のうち、現像スリーブ2032の表面を除き、同様である。従って、以下の説明において、画像形成装置1の構成部には図8に示される符号を付すものとする。
【0032】
画像形成装置1の現像スリーブ2032の基体は、ステンレス等と比較して軟質の素材であり、例えば真鍮である。現像スリーブ2032の基体表面は、不定形の硬質粒子を高速で吹き付けて不定形の凹凸を形成する不定形ブラスト処理が施されている。図1は不定形ブラスト処理が施された後の現像スリーブ2032の基体表面301を示した図である。なお、現像スリーブ2032の基体表面に凹凸を形成する処理はブラスト処理に限られず、例えば腐食により凹凸を形成するエッチング処理を用いてもよい。
【0033】
上記のように粗面化処理の行われた現像スリーブ2032の基体表面301上には、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)方式により、ta−C(tetrahedral amorphous carbon)の薄膜層が蒸着形成されている。図2はta−Cの薄膜層によるコーティング処理が施された後の現像スリーブ2032の表面を示した図である。図2に示される多数の六角形は、コーティング層302を形成する炭素原子を模式的に示している。
【0034】
FCVA方式の蒸着においては、まず、ほぼ真空状態のチャンバ内において、ターゲットに対しアーク放電を行いプラズマが発生される。発生されたプラズマは、電磁誘導により蒸着対象である基板に導かれるが、その過程において、蒸着に不要なマクロ粒子や中性原子・分子が、例えば誘導経路の屈曲部に設けられた開口部から経路外に誘導されることにより除去される。基板に到達した純度の高いイオンはそこに凝集し膜を形成する。その結果、基板は純度の高い分子によりコーティングされる。FCVA方式の蒸着において、ターゲットに純度の高い炭素(黒鉛)を用いると、基板にta−Cの薄膜の形成が可能である。FCVA方式の蒸着技術については、例えば米国特許第6,031,239号、“fcva technology”、[平成17年9月5日検索]、インターネット〈URL:http://www.nanofilm.com.sg/eng/fcva_technology.htm〉等に開示があり、既に広く実用化されているため、その説明を省略する。
【0035】
なお、現像スリーブ2032の基体表面301に薄膜を形成する方法は、FCVA方式に限られず、他の方式の真空アーク蒸着を用いてもよい。また、薄膜の素材はta−Cに限られず、例えば窒化チタン等の他の素材であってもよいが、ta−Cはより薄いコーティング層を現像スリーブ2032の基体表面に形成できる点でより好適である。
【0036】
図2に示されるように、FCVA方式の蒸着により形成されるコーティング層302は従来技術によるコーティング層902(図9参照)と比較してその厚さが薄いため、コーティング層302の表面においては基体表面301の粗さがほぼ維持されている。
【0037】
上記のように表面に粗面化処理およびコーティング処理の施された現像スリーブ2032を用いて、現像剤の搬送性に関する測定を行った。測定に際し用いた現像剤209は、EA(Emulsion Aggregation)製法で製造されたトナーと、多孔性キャリアコアの表面および細孔の少なくとも一部にポリマ(またはポリマ混合物)を含み、さらにポリマ(またはポリマ混合物)によりコーティングされたキャリアを混合したものである。また、トナー濃度は8%であり、キャリアの形状係数は105以上115以下である。ただし、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100である。
【0038】
なお、測定に際し用いた現像剤209に含まれるキャリアは、内部にも結着ポリマを内在しているため圧縮応力を受けても割れにくく、微細破片により感光体10にダメージを与えにくい、という利点を有している。また、形状係数が105以上115以下と真球に近い滑らかな形状をしているため、キャリア同士の摩擦力が小さく、感光体10へのダメージが低減されるとともに、キャリア同士の摩擦による摩耗や現像スリーブ2032の摩耗が低減される、という利点も有している。なお、EA製法に限らず、他の重合方式の製法により製造されたキャリアも、一般的に同様の特性を備えている。
【0039】
図3は、粗面化処理の程度により、現像スリーブ2032による現像剤209の搬送性がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図3の横軸はトリマーギャップ(単位:mm)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。図3に示される6本の折れ線グラフは、それぞれ、表面の算術平均粗さ△aと十点平均粗さRzが以下の値となるように、不定形ブラスト処理の施された現像スリーブ2032を用いた場合の測定値を示している。
(G11)△a=0.25μm、Rz=15μm
(G12)△a=0.21μm、Rz=14μm
(G13)△a=0.15μm、Rz=13.1μm
(G14)△a=0.15μm、Rz=8.5μm
(G15)△a=0.14μm、Rz=8μm
(G16)△a=0.12μm、Rz=7.8μm
【0040】
図3に示されるグラフにおいて、トリマーギャップと現像剤搬送量が全領域にわたり直線的な一定の関係を維持している場合、現像剤と現像スリーブ2032との間にスリップが生じていないことを示している。一方、トリマーギャップと現像剤搬送量との関係が急に変化する場合、現像剤と現像スリーブ2032との間にスリップが生じており、十分な搬送性が維持されていないことを示している。すなわち、上記G15およびG16の特性を示す現像スリーブ2032においては、トリマーギャップが0.4〜0.6mmの領域においてスリップが生じていることが分かる。すなわち、算術平均粗さが0.15以上であれば、十分な現像剤の搬送性が得られる。
【0041】
上述したように、形状係数が105以上115以下のキャリアを搬送するには、算術平均粗さが0.15以上である微小凹凸が必要であるが、その微小凹凸が長期間の使用においても維持されることが重要である。図4は、プリント枚数により現像搬送量がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図4の横軸はプリント枚数(単位:千枚)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。
【0042】
図4に示される4本の折れ線グラフのうち、G21はコーティング層302の設けられた現像スリーブ2032を用いた場合の測定結果を示し、G22乃至G24はコーティング層302の設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合の測定結果を示している。なお、G21乃至G24の測定において用いられた現像スリーブ2032の表面の算術平均粗さ△aと十点平均粗さRzは以下のとおりである。
(G21)△a=0.25μm、Rz=15μm
(G22)△a=0.21μm、Rz=14μm
(G23)△a=0.15μm、Rz=8.5μm
(G24)△a=0.15μm、Rz=13.1μm
【0043】
図4に示されるように、コーティング層302が設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合、5〜10万枚程度のプリントにより現像剤搬送量の低下が生じているのに対し、コーティング層302が施された現像スリーブ2032を用いた場合、20万枚のプリントの後もなお、現像剤搬送量が維持されていることが分かる。
【0044】
以上のように、第1実施形態にかかる現像スリーブ2032によれば、高い現像剤搬送性が長期間の使用においても維持される。
【0045】
[2.第2実施形態]
本発明の第2実施形態にかかる画像形成装置2は、画像形成装置1と同様に、現像スリーブ2032の表面に特徴を有し、他は従来技術の画像形成装置8と同様である。従って、以下の説明において、画像形成装置2の構成部には図8に示される符号を付すものとする。
【0046】
画像形成装置2の現像スリーブ2032の基体表面には、現像剤209の搬送方向に対し垂直方向にV字形状の溝を複数本設けることにより、粗面化処理が施されている。図5はそのような粗面化処理が施された後の現像スリーブ2032の基体表面401を示した図である。
【0047】
V字形状の溝により粗面化処理を行う場合、溝の斜面と表面との間の頂部、すなわち図5に例示されるエッジ403のR寸法が現像スリーブ2032の現像剤搬送性を大きく左右し、このR寸法が200μmを超えると、現像剤のスリップが発生することが確認された。
【0048】
上記のように粗面化処理の行われた現像スリーブ2032の基体表面401上には、第1実施形態と同様に、FCVA方式により、ta−Cの薄膜層が蒸着形成されている。図6はta−Cの薄膜層によるコーティング処理が施された後の現像スリーブ2032の表面を示した図である。すなわち、溝の設けられた基体表面401の上には、コーティング層402が設けられているが、その厚さが薄いため、基体表面401の凹凸がコーティング層402の表面において損なわれていない。
【0049】
上述したように、形状係数が105以上115以下のキャリアを搬送するには、溝のエッジ部のR寸法が200μm以下である必要があるが、そのR寸法が長期間の使用においても維持されることが重要である。図7は、エッジ403のR寸法が50μmの溝を設けた基体表面401に、コーティング層402を設けた場合(G31)と、設けない場合(G32)とにおいて、プリント枚数により現像搬送量がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図7の横軸はプリント枚数(単位:千枚)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。
【0050】
図7に示されるように、コーティング層402が設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合、10万枚程度のプリントにより現像剤搬送量の低下が生じているのに対し、コーティング層402が施された現像スリーブ2032を用いた場合、20万枚のプリントの後もなお、現像剤搬送量が維持されていることが分かる。
【0051】
以上のように、第2実施形態にかかる現像スリーブ2032によれば、高い現像剤搬送性が長期間の使用においても維持される。
【0052】
[3.補足]
なお、上述した実施形態においては、現像剤のキャリアとして重合製法により製造され、多孔性キャリアコアの細孔等にポリマ等を充填コートしたものを用いる場合について説明したが、滑らかな表面を有する球形キャリアのいずれを用いる場合においても本発明は適用可能である。また、キャリアのみならずトナーの形状が滑らかである場合には、現像剤全体の搬送性は一般的に低下するので、本発明により得られる効果の重要性はさらに大きい。
【0053】
また、上述した実施形態においては、現像剤担持体としての現像スリーブ2032につき説明したが、上述した現像剤担持体を備えた現像器や、上述した現像剤担持体を備えた画像形成装置の態様で本発明が実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる現像スリーブの基体表面を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【図3】粗面化処理の程度と現像剤の搬送性との関係を示したグラフである。
【図4】プリント枚数と現像搬送量との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる現像スリーブの基体表面を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【図7】プリント枚数と現像搬送量との関係を示したグラフである。
【図8】従来技術にかかる画像形成装置が備える感光体および現像器の構成を示した側面図である。
【図9】従来技術にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1・2・8…画像形成装置、10…感光体、20…現像器、301・401・901…基体表面、302・402・902…コーティング層、201…供給オーガ、202…撹拌オーガ、203…マグネットロール、204…トリマーバー、209…現像剤、403…エッジ、2031…磁石、2032…現像スリーブ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2成分現像剤を用いる電子写真方式において、現像剤の搬送性を長期間の使用において高く維持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成装置においては、一般的に以下の処理により画像形成が行われる。(a)表面に一様に静電気を帯電させた感光体に対し画像を示す光を照射し、一部の静電気を放電することにより、潜像を形成する。(b)表面に潜像の形成された感光体付近まで帯電したトナーを搬送し、トナーを潜像の静電気により付着させることにより、感光体表面にトナー像を形成する。(c)感光体表面に形成されたトナー像を紙等の転写媒体上に転写する。(d)トナー像の転写された転写媒体に加熱することにより、トナー像を転写媒体上に定着させる。
【0003】
図8は一般的な二成分現像剤方式による画像形成装置8が備える感光体10および現像器20の構成を示した側面図である。画像形成装置8は画像形成の指示を受け取ると、感光体10の回転を開始するとともに、帯電ロール(図示略)により感光体10の表面に一様な静電気の帯電を生じさせる。画像形成装置8はLED等を備えるイメージバー(図示略)を用いて、例えば、反転現像ならば形成されるべき画像の暗部に対応する感光体10上の位置に光を照射する。その結果、感光体10上に帯電していた静電気のうち、画像の暗部に対応する位置に帯電していた静電気は放電され、静電気による潜像が感光体10上に形成される。
【0004】
また、画像形成装置8は画像形成の指示を受け取ると、感光体10上に形成された潜像の先端に現像剤の供給が間に合うタイミングで、供給オーガ201、撹拌オーガ202およびマグネットロール203の回転を開始する。その結果、撹拌オーガ202により撹拌された現像剤が供給オーガ201を介してマグネットロール203の下端位置に供給される。
【0005】
図8において現像器20に収納されている現像剤209は二成分現像剤である。二成分現像剤には、転写媒体に転写定着される有色粉体であるトナーと、トナーを付着して搬送する磁性粉であるキャリアが所定範囲の混合率で混合されている。現像剤209が搬送される際の摩擦により、例えばトナーは負に帯電し、キャリアは正に帯電する。
【0006】
マグネットロール203は複数の磁石2031の周囲を現像スリーブ2032で覆う構造を備えている。磁石2031は、マグネットロール203の下端付近から左端付近にかけてはキャリアを現像スリーブ2032に付着し、マグネットロール203の例えば右端付近においてはキャリアを現像スリーブ2032から引き離すような磁界を生じるように、現像器20内の所定位置に所定の磁極方向で配置されている。
【0007】
現像スリーブ2032は上記のように固定された磁石2031の周りを回転することにより、マグネットロール203の下端付近でキャリアを表面に付着し、付着したキャリアを感光体10の表面付近まで搬送する。そのように搬送されるキャリアには、静電気によりトナーが付着している。その結果、マグネットロール203によりトナーが感光体10の表面付近に搬送されることになる。
【0008】
マグネットロール203の下端付近にて磁石2031により現像スリーブ2032の表面に付着した現像剤209の一部は、トリマーバー204により掻き落とされる結果、感光体10に搬送される現像剤209の量が一様となるようになっている。また、トリマーバー204と現像スリーブ2032との隙間であるトリマーギャップを調節することにより、感光体10に供給される現像剤209の量を調節できるようになっている。
【0009】
上記のように感光体10の表面付近まで搬送された現像剤209中のトナーは、感光体10の表面に形成された潜像により感光体10の表面に移動し付着する。その結果、感光体10の表面には、潜像に応じたトナー像が形成される。
【0010】
感光体10の表面に形成されたトナー像は、紙等の転写媒体上に転写された後、加熱溶融により転写媒体上に定着される。その結果、転写媒体上に画像が形成される。
【0011】
ところで、現像スリーブ2032の表面には、現像剤209を効率的に担持して感光体10の表面付近まで搬送するために、粗面化処理が施されている。しかしながら、現像器20の使用に伴い、現像スリーブ2032の表面の凸部が現像剤209(特に磁性粉であるキャリア)との摩擦により摩耗し、現像スリーブ2032による現像剤209の搬送性が低下する。そのような搬送性の低下は、画像形成装置により形成される画像が全体として薄くなる等の画質低下をもたらし、好ましくない。
【0012】
現像剤209の搬送性の低下を低減するための方法として、現像スリーブ2032の素材として硬質の素材を用いることが考えられる。また、他の方法として、現像スリーブ2032の表面を硬質の被膜でコーティングすることが考えられる。例えば特許文献1は、ブラストによる粗面化処理を施した現像スリーブの表面を硬質ニッケルクロームでメッキしコーティングする技術が開示されている。
【0013】
一方、現像剤209の搬送性の変化を低減する方法として、現像スリーブ2032の表面を粗面化処理した後、研磨等により凸部の形状に丸みを帯びさせることが考えられる。
【0014】
【特許文献1】特開2003−307959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現像スリーブ2032の素材として硬質の素材を用いる場合、現像剤209の搬送性の低下は低減されるが、加工に要する費用が高くなるという問題がある。
【0016】
現像スリーブ2032の表面をメッキやディッピングにより硬質金属でコーティングする場合、粗面化処理により形成された凹凸がコーティングにより埋められ、粗さが低下する結果、現像スリーブ2032の搬送性が十分に高まらない、という問題がある。
【0017】
図9は、粗面化処理により凹凸の形成された現像スリーブ2032の基体表面901に、メッキもしくはディッピングにより硬質金属のコーティング層902を設けた場合の様子を模式的に示した図である。図9に示される多数の六角形は、コーティング層902を形成する金属原子を模式的に示している。図9に示されるように、コーティング層902の表面は、現像スリーブ2032の基体表面901と比較し、粗さが低下している。その結果、コーティング層902の設けられた現像スリーブ2032は、コーティング層902の設けられていない場合と比較し、高い現像剤の搬送性が得られない。
【0018】
また、予め粗面化処理を施した表面を研磨等した現像スリーブ2032を用いる場合、研磨等を施さない場合と比較し、現像器20の使用時間に対する搬送性の変化は小さくなるが、現像スリーブ2032の表面の粗さが初期値において抑えられるため、高い現像剤の搬送性が得られない。
【0019】
特に、画像形成装置により形成される画像の画質を高めると同時に、キャリアの使用可能な期間を長くするために、重合製法によるキャリアのように表面が滑らかなキャリアが用いられる場合、高い現像剤の搬送性が得られないという上記の従来技術における問題は無視できない。
【0020】
上述の事情に鑑み、本発明は現像剤を搬送する現像スリーブ等の現像剤担持体を備える画像形成装置において、長期間の使用において高い現像剤の搬送性を維持可能とする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述の課題を解決するため、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体を提供する。
【0022】
好ましい態様において、前記真空アーク蒸着法は、Filtered Cathodic Vacuum Arc方式による蒸着法であってもよい。
【0023】
また、他の好ましい態様において、前記被膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボンの被膜であってもよい。
【0024】
さらに、他の好ましい態様において、前記粗面化処理は、ブラスト処理およびエッチング処理の少なくとも一方を用いる処理であってもよい。
【0025】
さらに、他の好ましい態様において、前記粗面化処理は、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける処理であってもよい。
【0026】
本発明の現像剤担持体は、粗面化処理の施された現像剤担持体の基体表面が、その粗さをほとんど損なわれることなく硬質なコーティング層により被覆されているので、高い現像剤の搬送性が長期間の使用において維持される。
【0027】
また、本発明は、上述したいずれかの現像剤担持体を備える現像器を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、算術平均粗さが0.15以上となるように粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤とを備える現像器を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、前記表面と溝の傾斜面とにより形成される頂部のR寸法が200ミクロン以下となるように、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤とを備える現像器を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上述したいずれかの現像剤担持体もしくは現像器を備える画像形成装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[1.第1実施形態]
本発明の第1実施形態にかかる画像形成装置1は、従来技術の画像形成装置8が備える構成部のうち、現像スリーブ2032の表面を除き、同様である。従って、以下の説明において、画像形成装置1の構成部には図8に示される符号を付すものとする。
【0032】
画像形成装置1の現像スリーブ2032の基体は、ステンレス等と比較して軟質の素材であり、例えば真鍮である。現像スリーブ2032の基体表面は、不定形の硬質粒子を高速で吹き付けて不定形の凹凸を形成する不定形ブラスト処理が施されている。図1は不定形ブラスト処理が施された後の現像スリーブ2032の基体表面301を示した図である。なお、現像スリーブ2032の基体表面に凹凸を形成する処理はブラスト処理に限られず、例えば腐食により凹凸を形成するエッチング処理を用いてもよい。
【0033】
上記のように粗面化処理の行われた現像スリーブ2032の基体表面301上には、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)方式により、ta−C(tetrahedral amorphous carbon)の薄膜層が蒸着形成されている。図2はta−Cの薄膜層によるコーティング処理が施された後の現像スリーブ2032の表面を示した図である。図2に示される多数の六角形は、コーティング層302を形成する炭素原子を模式的に示している。
【0034】
FCVA方式の蒸着においては、まず、ほぼ真空状態のチャンバ内において、ターゲットに対しアーク放電を行いプラズマが発生される。発生されたプラズマは、電磁誘導により蒸着対象である基板に導かれるが、その過程において、蒸着に不要なマクロ粒子や中性原子・分子が、例えば誘導経路の屈曲部に設けられた開口部から経路外に誘導されることにより除去される。基板に到達した純度の高いイオンはそこに凝集し膜を形成する。その結果、基板は純度の高い分子によりコーティングされる。FCVA方式の蒸着において、ターゲットに純度の高い炭素(黒鉛)を用いると、基板にta−Cの薄膜の形成が可能である。FCVA方式の蒸着技術については、例えば米国特許第6,031,239号、“fcva technology”、[平成17年9月5日検索]、インターネット〈URL:http://www.nanofilm.com.sg/eng/fcva_technology.htm〉等に開示があり、既に広く実用化されているため、その説明を省略する。
【0035】
なお、現像スリーブ2032の基体表面301に薄膜を形成する方法は、FCVA方式に限られず、他の方式の真空アーク蒸着を用いてもよい。また、薄膜の素材はta−Cに限られず、例えば窒化チタン等の他の素材であってもよいが、ta−Cはより薄いコーティング層を現像スリーブ2032の基体表面に形成できる点でより好適である。
【0036】
図2に示されるように、FCVA方式の蒸着により形成されるコーティング層302は従来技術によるコーティング層902(図9参照)と比較してその厚さが薄いため、コーティング層302の表面においては基体表面301の粗さがほぼ維持されている。
【0037】
上記のように表面に粗面化処理およびコーティング処理の施された現像スリーブ2032を用いて、現像剤の搬送性に関する測定を行った。測定に際し用いた現像剤209は、EA(Emulsion Aggregation)製法で製造されたトナーと、多孔性キャリアコアの表面および細孔の少なくとも一部にポリマ(またはポリマ混合物)を含み、さらにポリマ(またはポリマ混合物)によりコーティングされたキャリアを混合したものである。また、トナー濃度は8%であり、キャリアの形状係数は105以上115以下である。ただし、形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100である。
【0038】
なお、測定に際し用いた現像剤209に含まれるキャリアは、内部にも結着ポリマを内在しているため圧縮応力を受けても割れにくく、微細破片により感光体10にダメージを与えにくい、という利点を有している。また、形状係数が105以上115以下と真球に近い滑らかな形状をしているため、キャリア同士の摩擦力が小さく、感光体10へのダメージが低減されるとともに、キャリア同士の摩擦による摩耗や現像スリーブ2032の摩耗が低減される、という利点も有している。なお、EA製法に限らず、他の重合方式の製法により製造されたキャリアも、一般的に同様の特性を備えている。
【0039】
図3は、粗面化処理の程度により、現像スリーブ2032による現像剤209の搬送性がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図3の横軸はトリマーギャップ(単位:mm)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。図3に示される6本の折れ線グラフは、それぞれ、表面の算術平均粗さ△aと十点平均粗さRzが以下の値となるように、不定形ブラスト処理の施された現像スリーブ2032を用いた場合の測定値を示している。
(G11)△a=0.25μm、Rz=15μm
(G12)△a=0.21μm、Rz=14μm
(G13)△a=0.15μm、Rz=13.1μm
(G14)△a=0.15μm、Rz=8.5μm
(G15)△a=0.14μm、Rz=8μm
(G16)△a=0.12μm、Rz=7.8μm
【0040】
図3に示されるグラフにおいて、トリマーギャップと現像剤搬送量が全領域にわたり直線的な一定の関係を維持している場合、現像剤と現像スリーブ2032との間にスリップが生じていないことを示している。一方、トリマーギャップと現像剤搬送量との関係が急に変化する場合、現像剤と現像スリーブ2032との間にスリップが生じており、十分な搬送性が維持されていないことを示している。すなわち、上記G15およびG16の特性を示す現像スリーブ2032においては、トリマーギャップが0.4〜0.6mmの領域においてスリップが生じていることが分かる。すなわち、算術平均粗さが0.15以上であれば、十分な現像剤の搬送性が得られる。
【0041】
上述したように、形状係数が105以上115以下のキャリアを搬送するには、算術平均粗さが0.15以上である微小凹凸が必要であるが、その微小凹凸が長期間の使用においても維持されることが重要である。図4は、プリント枚数により現像搬送量がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図4の横軸はプリント枚数(単位:千枚)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。
【0042】
図4に示される4本の折れ線グラフのうち、G21はコーティング層302の設けられた現像スリーブ2032を用いた場合の測定結果を示し、G22乃至G24はコーティング層302の設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合の測定結果を示している。なお、G21乃至G24の測定において用いられた現像スリーブ2032の表面の算術平均粗さ△aと十点平均粗さRzは以下のとおりである。
(G21)△a=0.25μm、Rz=15μm
(G22)△a=0.21μm、Rz=14μm
(G23)△a=0.15μm、Rz=8.5μm
(G24)△a=0.15μm、Rz=13.1μm
【0043】
図4に示されるように、コーティング層302が設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合、5〜10万枚程度のプリントにより現像剤搬送量の低下が生じているのに対し、コーティング層302が施された現像スリーブ2032を用いた場合、20万枚のプリントの後もなお、現像剤搬送量が維持されていることが分かる。
【0044】
以上のように、第1実施形態にかかる現像スリーブ2032によれば、高い現像剤搬送性が長期間の使用においても維持される。
【0045】
[2.第2実施形態]
本発明の第2実施形態にかかる画像形成装置2は、画像形成装置1と同様に、現像スリーブ2032の表面に特徴を有し、他は従来技術の画像形成装置8と同様である。従って、以下の説明において、画像形成装置2の構成部には図8に示される符号を付すものとする。
【0046】
画像形成装置2の現像スリーブ2032の基体表面には、現像剤209の搬送方向に対し垂直方向にV字形状の溝を複数本設けることにより、粗面化処理が施されている。図5はそのような粗面化処理が施された後の現像スリーブ2032の基体表面401を示した図である。
【0047】
V字形状の溝により粗面化処理を行う場合、溝の斜面と表面との間の頂部、すなわち図5に例示されるエッジ403のR寸法が現像スリーブ2032の現像剤搬送性を大きく左右し、このR寸法が200μmを超えると、現像剤のスリップが発生することが確認された。
【0048】
上記のように粗面化処理の行われた現像スリーブ2032の基体表面401上には、第1実施形態と同様に、FCVA方式により、ta−Cの薄膜層が蒸着形成されている。図6はta−Cの薄膜層によるコーティング処理が施された後の現像スリーブ2032の表面を示した図である。すなわち、溝の設けられた基体表面401の上には、コーティング層402が設けられているが、その厚さが薄いため、基体表面401の凹凸がコーティング層402の表面において損なわれていない。
【0049】
上述したように、形状係数が105以上115以下のキャリアを搬送するには、溝のエッジ部のR寸法が200μm以下である必要があるが、そのR寸法が長期間の使用においても維持されることが重要である。図7は、エッジ403のR寸法が50μmの溝を設けた基体表面401に、コーティング層402を設けた場合(G31)と、設けない場合(G32)とにおいて、プリント枚数により現像搬送量がどのように変化するかを測定した結果を示したグラフである。図7の横軸はプリント枚数(単位:千枚)を示し、縦軸は現像剤搬送量(単位:g/m2)を示している。
【0050】
図7に示されるように、コーティング層402が設けられていない現像スリーブ2032を用いた場合、10万枚程度のプリントにより現像剤搬送量の低下が生じているのに対し、コーティング層402が施された現像スリーブ2032を用いた場合、20万枚のプリントの後もなお、現像剤搬送量が維持されていることが分かる。
【0051】
以上のように、第2実施形態にかかる現像スリーブ2032によれば、高い現像剤搬送性が長期間の使用においても維持される。
【0052】
[3.補足]
なお、上述した実施形態においては、現像剤のキャリアとして重合製法により製造され、多孔性キャリアコアの細孔等にポリマ等を充填コートしたものを用いる場合について説明したが、滑らかな表面を有する球形キャリアのいずれを用いる場合においても本発明は適用可能である。また、キャリアのみならずトナーの形状が滑らかである場合には、現像剤全体の搬送性は一般的に低下するので、本発明により得られる効果の重要性はさらに大きい。
【0053】
また、上述した実施形態においては、現像剤担持体としての現像スリーブ2032につき説明したが、上述した現像剤担持体を備えた現像器や、上述した現像剤担持体を備えた画像形成装置の態様で本発明が実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる現像スリーブの基体表面を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【図3】粗面化処理の程度と現像剤の搬送性との関係を示したグラフである。
【図4】プリント枚数と現像搬送量との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる現像スリーブの基体表面を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【図7】プリント枚数と現像搬送量との関係を示したグラフである。
【図8】従来技術にかかる画像形成装置が備える感光体および現像器の構成を示した側面図である。
【図9】従来技術にかかるコーティング層の設けられた現像スリーブの表面を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1・2・8…画像形成装置、10…感光体、20…現像器、301・401・901…基体表面、302・402・902…コーティング層、201…供給オーガ、202…撹拌オーガ、203…マグネットロール、204…トリマーバー、209…現像剤、403…エッジ、2031…磁石、2032…現像スリーブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、
表面が、粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体。
【請求項2】
前記真空アーク蒸着法は、Filtered Cathodic Vacuum Arc方式による蒸着法である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項3】
前記被膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボンの被膜である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項4】
前記粗面化処理は、ブラスト処理およびエッチング処理の少なくとも一方を用いる処理である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項5】
前記粗面化処理は、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける処理である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の現像剤担持体を備える現像器。
【請求項7】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、算術平均粗さが0.15以上となるように粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、
形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤と
を備える現像器。
【請求項8】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、前記表面と溝の傾斜面とにより形成される頂部のR寸法が200ミクロン以下となるように、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、
形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤と
を備える現像器。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の現像剤担持体を備える画像形成装置。
【請求項10】
請求項6乃至8のいずれかに記載の現像器を備える画像形成装置。
【請求項1】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、
表面が、粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体。
【請求項2】
前記真空アーク蒸着法は、Filtered Cathodic Vacuum Arc方式による蒸着法である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項3】
前記被膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボンの被膜である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項4】
前記粗面化処理は、ブラスト処理およびエッチング処理の少なくとも一方を用いる処理である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項5】
前記粗面化処理は、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける処理である
請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の現像剤担持体を備える現像器。
【請求項7】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、算術平均粗さが0.15以上となるように粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、
形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤と
を備える現像器。
【請求項8】
粉末現像剤を表面に担持して搬送する現像剤担持体であって、表面が、前記表面と溝の傾斜面とにより形成される頂部のR寸法が200ミクロン以下となるように、粉末現像剤の搬送方向に対し垂直方向に溝を設ける粗面化処理を施された後、真空アーク蒸着法により形成された被膜でコーティングされている現像剤担持体と、
形状係数=((キャリア径の絶対最大長)2/キャリアの投影面積)×(π/4)×100で定義される形状係数が100以上115以下であるキャリアを含む粉末二成分現像剤と
を備える現像器。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の現像剤担持体を備える画像形成装置。
【請求項10】
請求項6乃至8のいずれかに記載の現像器を備える画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2007−86329(P2007−86329A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274174(P2005−274174)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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