説明

現像装置及び画像形成方法及び画像形成装置

【課題】ETH現像を利用して、高解像度の画像を得るための現像装置を実現する。
【解決手段】本発明は、像担持体10上の静電潜像に粉体Tを付着させて現像する現像装置において、像担持体10に対向して配置され、粉体Tを移動させる進行波電界を発生させるための複数の電極102を有する搬送部材1を備え、搬送部材1にn相の電圧を印加しながら粉体を搬送して静電潜像を現像する構成であり、電極102の粉体進行方向における電極幅を粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下とし、かつ電極の粉体進行方向における電極間隔を粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下とした。これにより電極上又は電極間にある帯電した粉体に対し、その吸着力にうち勝って粉体を搬送、ホッピングさせるのに十分な静電力を作用させることができ、粉体の滞留が防止されて、低電圧で安定して効率的に搬送及びホッピングをさせることができ、高品質の現像を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する現像装置、及び電子写真プロセスを用いた画像形成方法及び画像形成装置に関し、特に、高解像度の画像形成を行うための現像装置及び画像形成方法及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写装置、プリンタ、プロッタ、ファクシミリ等の電子写真プロセスを用いた画像形成装置としては、感光体等の像担持体に露光手段で静電潜像を形成し、この静電潜像に粉体である現像剤(以下「トナー」と言う)を付着させて現像し、トナー像として可視像化した後、このトナー像を記録媒体に転写し(あるいは中間転写部材に一旦転写した後、記録媒体に転写し)、定着することで画像を形成するものがある。
【0003】
このような画像形成装置において、静電潜像を現像する現像装置としては、従来から、現像装置内で攪拌されたトナーを現像剤担持体である現像ローラ表面に担持し、現像ローラを回転させることによって像担持体の表面に対向する位置まで搬送し、像担持体上の静電潜像を現像し、現像終了後、像担持体に転写しなかったトナーは現像ローラの回転により現像装置内に回収し、新たにトナーを攪拌・帯電して再び現像ローラに担持して搬送するようにしたものが知られている。
【0004】
また、画像形成装置としては、下記の特許文献1、特許文献2に記載されているように、像担持体と現像ローラとの間に、現像バイアスとして直流(DC)と交流(AC)とを重畳させた電圧を印加して、非接触で現像ローラから像担持体にトナーを転移させる所謂ジャンピング現像と称する方式で現像するものが知られている。
【0005】
さらに、画像形成装置としては、下記の特許文献3、特許文献4に記載されているように、静電搬送基板を用いて、トナーを像担持体に対向する位置まで搬送し、振動、浮遊、スモーク化させて、像担持体との間で生じる静電吸引力で搬送面からトナーを分離して像担持体表面に付着させるようにしたものもある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−197781号公報
【特許文献2】特開平9−329947号公報
【特許文献3】特公平5−31146号公報
【特許文献4】特公平5−31147号公報
【特許文献5】特開2004−69903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した現像ローラを用いてトナーを像担持体に与える現像装置を備えた画像形成装置にあっては、現像ローラと現像装置側板との間にトナーが侵入して、トナーが擦れてトナー固着等が発生し、画像に悪影響を及ぼしたり、現像装置周りのシール材が経時劣化することで、現像装置内にて現像剤もしくはトナーを攪拌・帯電させることにより、トナーが飛散し、画像の地汚れなどを生じることがある。
【0008】
また、摩擦帯電やコロナ放電による帯電によってトナーを帯電させた場合、飽和帯電したトナーと不飽和帯電のトナーとが混在し、大きな帯電分布を有することになる。このようなトナーを強制的に磁気ブラシや補給ローラなどを用いて現像ローラに転移すると、現像ローラの現像速度(線速100cm/sec程度)の速さでは、一旦現像ローラに担持させた現像剤のうちの電荷が小さなトナーは離脱して、トナーが飛散したり、形成画像の地汚れが生じ易くなる。
【0009】
さらに、所謂ジャンピング現像を行う現像装置にあっては、高電圧による帯電トナーの授受を行わなければならないため、高電圧電源が必要になり、装置の大型化、コストの増加を招くという課題がある。
【0010】
また、粉体を用いる画像形成装置における現在の課題は、画質とコストと環境をいかにして満足するかということである。画質について言えば、カラー画像を形成する場合に、直径わずか約30μmの1200dpi(dots per inch)の孤立1 ドットをいかに現像するか、それも好ましくは地汚れなしに現像するかということである。また、コストについて言えば、パーソナルのレーザプリンタを考えた場合、現像器や現像剤の単体コストのみならず、メンテナンス及び最終処分費用まで含めたトータルのコストを下げることが重要になる。さらに、環境について言えば、特に、微小粉末であるトナーが装置内や装置外に飛散することを防止することが重要になる。
【0011】
上記の課題に鑑みて本出願人がすでに提案しているものが、ETH(Electrostatic Transport & Hopping)現像である(特許文献5参照)。このETH現像を用いることによって、低電圧駆動が可能で高い現像効率が得られ、しかも粉体の飛散を防止できる現像装置及び現像方法、この現像装置を備えたプロセスカートリッジ及び画像形成装置、この現像方法を行う画像形成方法が実現できる。
【0012】
ここで、ETH現象とは、粉体が移相電界のエネルギーを与えられ、そのエネルギーが機械的なエネルギーに変換されて、粉体自身が動的に変動する現象をいう。このETH現象は、静電気力による粉体の水平方向の移動(搬送)と垂直方向の移動(ホッピング)を含む現象であり、静電搬送部材の表面を、移相電界によって粉体が進行方向の成分を持って飛び跳ねる現象であり、このETH現象を用いた現像方式をETH現像という。
【0013】
なお、本明細書において、ETH現象における搬送部材上の粉体の振る舞いを区別して表現する場合、基板水平方向への移動については、「搬送」、「搬送速度」、「搬送方向」、「搬送距離」という表現を使用し、基板垂直方向への飛翔(移動)については、「ホッピング」、「ホッピング速度」、「ホッピング方向」、「ホッピング高さ(距離)」という表現を使用し、搬送部材上での「搬送及びホッピング」は「移送」と総称する。また、搬送装置、搬送基板という用語に含まれる「搬送」は「移送」と同義である。
【0014】
本発明は、上記のETH現像を利用して、さらに高品質、高解像度の画像を得るための現像装置を提供することを目的とし、さらには、その現像装置を用いて高解像度、高品質の画像形成を行うことができる画像形成方法及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明では以下のような解決手段を採っている。
本発明の第1の手段は、像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する現像装置において、前記像担持体に対向して配置され、前記粉体を移動させる進行波電界を発生させるための複数の電極を有する搬送部材を備え、該搬送部材にn相の電圧を印加しながら前記粉体を搬送して前記静電潜像を現像する構成であり、前記電極の粉体進行方向における電極幅を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下とし、かつ、前記電極の粉体進行方向における電極間隔を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下としたことを特徴としている(請求項1)。
【0016】
本発明の第2の手段は、帯電された像担持体に、露光手段により画像情報に基づいて静電潜像を形成し、現像手段で前記像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する画像形成方法において、前記現像手段として第1の手段の現像装置を用いたことを特徴としている(請求項2)。
【0017】
本発明の第3の手段は、第1の手段の画像形成方法において、前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴としている(請求項3)。
【0018】
本発明の第4の手段は、第2または第3の手段の画像形成方法において、前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴としている(請求項4)。
また、本発明の第5の手段は、第3または第4の手段の画像形成方法において、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと、前記静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を用いることを特徴としている(請求項5)。
【0019】
本発明の第6の手段は、像担持体と、該像担持体を帯電する帯電手段と、前記像担持体上に画像情報に基づいて静電潜像を形成するための露光手段と、前記像担持体上の潜像に粉体を付着させて現像する現像手段とを備えた画像形成装置において、前記現像手段として第1の手段の現像装置を備えたことを特徴としている(請求項6)。
【0020】
本発明の第7の手段は、第6の手段の画像形成装置において、前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴としている(請求項7)。
【0021】
本発明の第8の手段は、第6または第7の手段の画像形成装置において、前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴としている(請求項8)。
また、本発明の第9の手段は、第7または第8の手段の画像形成装置において、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を有することを特徴としている(請求項9)。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の手段では、像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する現像装置において、前記像担持体に対向して配置され、前記粉体を移動させる進行波電界を発生させるための複数の電極を有する搬送部材を備え、該搬送部材にn相の電圧を印加しながら前記粉体を搬送して前記静電潜像を現像する構成であり、前記電極の粉体進行方向における電極幅を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下とし、かつ、前記電極の粉体進行方向における電極間隔を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下としたことを特徴としているので、電極上又は電極間にある帯電した粉体に対し、その鏡像力、ファンデルワールス力、その他、吸着力にうち勝って、粉体を搬送、ホッピングさせるのに十分な静電力を作用させることができ、粉体の滞留が防止されて、低電圧で安定して効率的に搬送及びホッピングをさせることができ、高品質の現像を行うことができる。
【0023】
本発明の第2の手段では、帯電された像担持体に、露光手段により画像情報に基づいて静電潜像を形成し、現像手段で前記像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する画像形成方法において、前記現像手段として第1の手段の現像装置を用いたことを特徴としているので、高解像度の画像形成を行うことができる。
また、本発明の第3の手段では、第2の手段の画像形成方法において、前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴としているので、像担持体の膜厚によらず、安定した画像形成が可能となる画像形成方法を実現することができる。
【0024】
本発明の第4の手段では、第2または第3の手段の画像形成方法において、前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴としているので、低電圧でも高い画像品質が得られる画像形成方法を実現することができる。
また、本発明の第5の手段では、第3または第4の手段の画像形成方法において、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと、前記静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を用いることを特徴としているので、像担持体の膜厚によらず、低電圧プロセスにおいて高画質な画像形成が可能な画像形成方法を実現することができる。
【0025】
本発明の第6の手段では、像担持体と、該像担持体を帯電する帯電手段と、前記像担持体上に画像情報に基づいて静電潜像を形成するための露光手段と、前記像担持体上の潜像に粉体を付着させて現像する現像手段とを備えた画像形成装置において、前記現像手段として第1の手段の現像装置を備えたことを特徴としているので、高解像度の画像形成を行うことができる。
また、本発明の第7の手段では、第6の手段の画像形成装置において、前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴としているので、像担持体の膜厚によらず、安定した画像形成が可能となる画像形成装置を実現することができる。
【0026】
本発明の第8の手段では、第6または第7の手段の画像形成装置において、前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴としているので、低電圧でも高い画像品質が得られる画像形成装置を実現することができる。
また、本発明の第9の手段では、第7または第8の手段の画像形成装置において、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を有することを特徴としているので、像担持体の膜厚によらず、低電圧プロセスにおいて高画質な画像形成が可能な画像形成装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
まず、本発明に係る現像装置の一実施形態について図1を参照して説明する。なお、同図は現像装置の概略構成図である。
【0028】
この現像装置は、粉体であるトナーTを搬送、ホッピング、回収するための電界を発生するための複数の静電搬送電極(以下、電極と言う)102を有する搬送部材である静電搬送基板(以下、搬送基板と言う)1を備え、この搬送基板1の各電極102に対しては駆動回路2から所要の電界を発生させるためのn相(ここでは3相とする)の異なる駆動波形Va1〜Vc1及びVa2〜Vc2が印加される。
【0029】
ここでは、搬送基板1は、駆動波形Va1〜Vc1及びVa2〜Vc2を与える電極102の範囲及び像担持体である感光体ドラム10との関係において、トナーTを感光体ドラム10近傍まで移送する現像ニップに対してトナー搬送方向上流側にあたる搬送領域11、感光体ドラム1の潜像にトナーTを付着させてトナー像を形成するための現像ニップ12、トナーTを搬送基板1側に回収するための現像ニップ通過後のトナー搬送方向下流側の領域(これを、以下「回収領域」と言う)13とに分けられる。
【0030】
現像ニップは、搬送基板1上を搬送されるトナーTのホッピング高さと搬送基板1と感光体ドラム10との空隙距離との関係で定義する。通常はホッピング高さより空隙距離を大きくした状態で、潜像部にはトナーが付着し、地肌部にはトナーが付着しない領域を現像ニップとする。このホッピング高さは、印加電圧、トナーQ/m、電極幅等により変化するので、実験によって、実際の現像ニップを求めている。実験方法は後述する。
【0031】
まず、この現像装置における搬送基板1の構成について図2乃至図6を参照して詳細に説明する。なお、図2は同搬送基板1の平面説明図、図3は図2のA−A線に沿う断面説明図、図4は図2のB−B線に沿う断面説明図、図5は図2のC−C線に沿う断面説明図、図6は図2のD−D線に沿う断面説明図である。
【0032】
この搬送基板1は、ベース基板(支持基板)101上に3本の電極(搬送電極)102a、102b、102c(これらを「電極102」とも総称する)を1セットとして、所定の間隔で、トナー移送方向(トナー進行方向、トナー移動方向:図2、図3で矢示方向とする)に沿ってトナー移送方向と略直交する方向に繰り返し形成配置し、この上に搬送面を形成する絶縁性の搬送面形成部材となり、電極102の表面を覆う保護膜となる、無機又は有機の絶縁性材料で形成した表面保護層103を積層したものである。なお、ここでは、表面保護層103が搬送面を形成しているが、表面保護層103上に更に粉体(トナー)との適合性に優れた表面層を別途成膜することもできる。
【0033】
これらの電極102a、102b、102cの両側には、電極102a、102b、102cとそれぞれ両端部で相互接続した共通電極105a、105b、105c(これらを「共通電極105」とも総称する)をトナー移送方向に沿って、すなわち、個々の電極と略直交する方向に設けている。この場合、共通電極105の幅(この幅は、トナー移送方向と直交する方向の幅)は電極102の幅(この幅は、トナー移送方向に沿う方向の幅)よりも広くしている。なお、図2では、共通電極105を、搬送領域11では共通電極105a1、105b1、105c1を、現像ニップ12では共通電極105a2、105b2、105c2、回収領域13では共通電極105a3、105b3、105c3と、区別して表記している。
【0034】
ここでは、支持基板101上に共通電極105a、105b、105cのパターンを形成した後、層間絶縁膜107(表面保護層103と同じ材料でも異なる材料のいずれでも良い)を形成し、この層間絶縁膜107にコンタクトホール108を形成した後、電極102a、102b、102cを形成することによって電極102a、102b、102cと共通電極105a、105b、105cとをそれぞれ相互接続している。
【0035】
なお、電極102aと共通電極105aを一体形成したパターン上に層間絶縁膜を形成し、この層間絶縁膜上に電極102bと共通電極105bを一体形成したパターンを形成し、更に層間絶縁膜を形成して、この層間絶縁膜上に電極102cと共通電極105cを一体形成したパターンを形成する、つまり、電極を三層構造とすることもでき、あるいは、一体形成に相互接続とコンタクトホールによる相互接続とを混在させることもできる。
【0036】
さらに、これらの共通電極105a、105b、105cには図示しないが駆動回路2からの駆動信号(駆動波形)Va、Vb、Vcを入力するための駆動信号印加用入力端子を設けている。この駆動信号入力用端子は、支持基板101に裏面側に設けてスルーホールを介して共通電極105に接続してもよいし、あるいは後述する層間絶縁膜107上に設けてもよい。
【0037】
ここで、支持基板101としては、ガラス基板、樹脂基板あるいはセラミックス基板等の絶縁性材料からなる基板、あるいは、ステンレススチール(SUS)などの導電性材料からなる基板にSiO等の絶縁膜を成膜したもの、ポリイミドフィルムなどのフレキシブルに変形可能な材料からなる基板などを用いることができる。
【0038】
電極102は、支持基板101上にアルミニウム(Al)、ニッケル・クローム(Ni−Cr)等の導電性材料を0.1〜10μm厚、好ましくは0.5〜2.0μmで成膜し、これをフォトリソ技術等を用いて所要の電極形状にパターン化して形成している。これらの複数の電極102の粉体進行方向における幅Lは移動させる粉体の平均粒径の1倍以上20倍以下とし、かつ、電極102、12の粉体進行方向の間隔Rも移動させる粉体の平均粒径の1倍以上20倍以下としている。
【0039】
表面保護層103としては、例えばSiO、TiO、TiO、SiON、BN、TiN、Taなどを厚さ0.5〜10μm、好ましくは厚さ0.5〜3μmで成膜して形成している。また、無機ナイトライド化合物、例えばSiN、Bn、Wなどを用いることができる。特に、表面水酸基が増えると帯電トナーの帯電量が搬送途中で下がる傾向にあるので、表面水酸基(SiOH、シラトール基)が少ない無機ナイトライド化合物が好ましい。
【0040】
次に、このように構成した搬送基板1におけるトナーの静電搬送の原理について説明する。
搬送基板1の複数の電極102に対してn相の駆動波形を印加することにより、複数の電極102によって移相電界(進行波電界)が発生し、搬送基板1上の帯電したトナーは反発力及び/又は吸引力を受けて移送方向にホッピングと搬送を含んで移動する。
【0041】
例えば、搬送基板1の複数の電極102に対して図7に示すようにグランドG(0V)と正の電圧+との間で変化する3相のパルス状駆動波形(駆動信号)A(A相)、B(B相)、C(C相)をタイミングをずらして印加する。
このとき、図8に示すように、搬送基板1上に負帯電トナーTがあり、搬送基板1の連続した複数の電極102に同図に(1)で示すようにそれぞれ「G」、「G」、「+」、「G」、「G」が印加されたとすると、負帯電トナーTは「+」の電極102上に位置する。
【0042】
次のタイミングで複数の電極102には(2)に示すようにそれぞれ「+」、「G」、「G」、「+」、「G」が印加され、負帯電トナーTには同図で左側の「G」の電極102との間で反発力が、右側の「+」の電極102との間で吸引力がそれぞれ作用するので、負帯電トナーTは「+」の電極102側に移動する。さらに、次のタイミングで複数の電極102には(3)に示すようにそれぞれ「G」、「+」、「G」、「G」、「+」が印加され、負帯電トナーTには同様に反発力と吸引力がそれぞれ作用するので、負帯電トナーTは更に「+」の電極102側に移動する。
【0043】
このように複数の電極102に電圧の変化する複相の駆動波形を印加することで、搬送基板1上には進行波電界が発生し、この進行波電界の進行方向に負帯電トナーTは搬送及びホッピングを行いながら移動する。なお、正帯電トナーの場合には駆動波形の変化パターンを逆にすることで同様に同方向に移動する。
【0044】
これを図9を参照して具体的に説明すると、同図(a)に示すように、搬送基板1の電極A〜Fがいずれも0V(G)で搬送基板1上に負帯電トナーTが載っている状態から、同図(b)に示すように電極A、Dに「+」が印加されると、負帯電トナーTは電極A及び電極Dに吸引されて電極A、D上に移る。次のタイミングで、同図(c)に示すように、電極A、Dがいずれも「0」になり、電極B、Eに「+」が印加されると、電極A、D上のトナーTは反発力を受けるとともに、電極B、Eの吸引力を受けることになって、負帯電トナーTは電極B及び電極Eに移送される。さらに、次のタイミングで、同図(d)に示すように、電極B、Eがいずれも「0」になり、電極C、Fに「+」が印加されると、電極B、E上のトナーTは反発力を受けるとともに、電極C、Fの吸引力を受けることになって、負帯電トナーTは電極C及び電極Fに移送される。このように進行波電界によって負帯電トナーは順次図において右方向に移送されることになる。
【0045】
次に、駆動回路2の全体構成について図10を参照して説明する。この駆動回路2は、パルス信号を生成出力するパスル信号発生回路21と、このパルス信号発生回路21からのパルス信号を入力して駆動波形Va1、Vb1、Vc1を生成出力する波形増幅器22a、22b、22cと、パルス信号発生回路21からのパルス信号を入力して駆動波形Va2、Vb2、Vc2を生成出力する波形増幅器23a、23b、23cとを有する。
【0046】
パルス信号発生回路21は、例えばロジックレベルの入力パルスを受けて、各120°に位相シフトした2組パルスで、次段の波形増幅器22a〜22c、23a〜23cに含まれるスイッチング手段、例えばトランジスタを駆動して100Vのスイッチングを行うことができるレベルの出力電圧10〜15Vのパルス信号を生成して出力する。
【0047】
波形増幅器22a、22b、22cは、搬送領域11の各電極102及び回収領域13の各電極102に対して、例えば図11に示すように、各相の+100Vの印加時間taを繰り返し周期tfの1/3である約33%に設定した(これを「搬送電圧パターン」又は「回収搬送電圧パターン」という)3相の駆動波形(駆動パルス)Va1、Vb1、Vc1を印加する。
【0048】
波形増幅器23a、23b、23cは、現像ニップ11の各電極102に対して、例えば図12又は図13に示すように、各相の+100V又は0Vの印加時間taを繰り返し周期tfの2/3である約67%に設定した(これを「ホッピング電圧パターン」という)3相の駆動波形(駆動パルス)Va2、Vb2、Vc2を印加する。
【0049】
次に搬送基板1を用いたETH現像の原理について説明する。ETH現像はトナーの静電搬送を利用するものであるが、従来の静電搬送を用いた現像装置のように、静電搬送に伴なって自然発生的に生じるトナーのスモーク化、クラウド化を利用して現像するのではなく、トナーを積極的に像担持体10に向かって打ち上げて現像するものである。
このETH現象は、従来の静電搬送基板を用いただけでは発生せず、電極幅、電極間隔と駆動波形との関係を設定することで発生することが見出されている。
【0050】
そこで、このような粉体の搬送及びホッピングを行うための基本原理と、搬送基板1の複数の電極102の幅(電極幅)L及び電極間隔R、駆動波形形状並びに表面保護層103の関係について説明する。
【0051】
まず、ETH現象に含まれるホッポング現象の基本原理について、実験と対応させながら二次元差分法でシミュレーションを行った結果を基にして説明する。
このシミュレーション対象領域の略図を図14に示している。なお、都合により重力の方向を上向きに取っている。ここでは、搬送基板1の電極102と反対側に導電性基板104を配置して常時接地している。また、搬送基板1に対向して感光体ドラム10としての有機感光体(OPC)層15を配置し、OPC層15には導電性基板16を設けて常時接地している。そして、OPC層15上に静電潜像17を載せている。また、負帯電トナーを用いて反転現像(電荷のない部分にトナーを付着させる現像方式)するため、静電潜像17の画像部には電荷がなく、非画像部(地肌部)に電荷が存在している。
【0052】
搬送基板1の電極102とOPC層15との間隔は200μmとし、トナーTの平均粒径は8μm、平均帯電量Q/mは−20μC/g、OPC層15上の電荷密度は、−3.0e-4[c/m]である(OPC層が全面がこの電荷密度で帯電された時その表面電位は−169Vになる)。トナーTは140個を2層にシミュレーション幅700μmに均一に並べた。
【0053】
上記の条件の内でOPC層15の帯電電荷密度を「ゼロ」とした場合に、搬送基板1上に並んで隣り合う3本の電極A,B,Cに、それぞれ+100V/0V/+100Vを印加したときの、電極B近傍の電界ベクトルは図15に示すようになる。
【0054】
なお、同図では、電極C近傍の電界は、電極Bを挟んで電極Aと対称なので省略している。また、トナーも省略している。両電極102、102の下側が、OPC層15に向かう空間である(OPC層15は図示していない)。また、図示できないが、左側の電極Aの近傍の電位は+100Vに近く、右側の電極Bの近傍の電位は0Vに近く、両電極A、Bより離れた空間の電位は+50V前後である。さらに、同図中、矢印はその場所の電界ベクトルを示し、その向きが電界の向きであり、その長さが電界の強さを示している。
【0055】
この図15から分かるように、+100Vが印加された電極Bのセンターからその下方(実際は上方)の空間にかけては、電界ベクトルが垂直に上を向いている。この結果、この時、電極Bのセンターにいた負帯電トナーには、まっすぐ下向き(実際は上向き)の静電力が働き、下向きに(実際は上向き)に加速され、搬送基板1を離れた後も、電界ベクトルの向きに従ってまっすぐ下降(実際は上昇)させられることが分かる。
【0056】
ここで、電極A,Cに印加する電圧を50V,100V、150Vにしたときの電極Bのセンターから真下(真上)の空間における垂直(Y)方向電界の一例を図16に示している。
この図16から、電極Bより約50μm下降(上昇)すると、電界ベクトルの大きさはほとんどゼロになるので、ここまで加速されてきたトナーは、この付近では空気の粘性抵抗で減速され、その先では、電界の向きが反転するので、逆向きの静電力を受けて下(上)向きの速度を失うことが予想される。
【0057】
さらに、電極幅Lを30μm、電極間隔Rを30μmとした電極構成で直径8μm、比帯電量Q/m=−20μC/gのトナーTを電極Bのセンターに置き、電極A,Cに印加する電圧を50V,100V、150Vにしたときの、当該トナーのY方向位置とY方向速度のシミュレーションを行った。この結果、電極Bの両隣りの電極A,Cに+100Vが印加された場合、電極Bのセンターに置かれたトナーは、50〜60μsec後に、電極Bの上方40〜50μmに達し、その時点で上昇速度が1m/secになり、その後は、徐々に減速されながらも、さらに上昇を続けている。
【0058】
このように、電極上にトナーをまっすぐ打ち上げる条件は、上記のシミュレーション結果から、負帯電トナーの場合には、0Vになった電極の両側の電極の電位が等しく、0Vより高く、かつ、その0Vの電極上にトナーが存在することがである。なお、正帯電トナーの場合には、0Vになった電極の両側の電極の電位が等しく、0Vより低く(例えば−100V高く)、かつ、その0Vの電極上にトナーが存在することである。
【0059】
この条件を最も充足する駆動波形パターンは、前述した図12又は図13に示すように各相の+100V又は0Vの印加時間taを繰り返し周期tfの2/3である約67%に設定したホッピング電圧パターンである。そこで、本実施形態においては、このホッピング電圧パターンを有する駆動波形Va2、Vb2、Vc2を現像領域12に対応する搬送基板1の各電極102に対して印加するようにしている。
【0060】
これに対して、トナーの搬送を行うための駆動波形パターンとしては、前述した図11に示すパターンが最も適している。すなわち、駆動波形Va(A相)、Vb(B相)、Vc(C相)を印加する場合、各相の+100Vの印加時間taを繰り返し周期tfの1/3である約33%に設定した搬送電圧パターンである。そこで、本実施形態においては、この搬送電圧パターンを有する駆動波形Va1、Vb1、Vc1を搬送領域11に対応する搬送基板1の各電極102に対して印加するようにしている。
【0061】
この搬送電圧パターンでは、B相電極に注目すると、B相電極の印加電圧が0Vになった時間においては、A相電極の印加電圧は0V、C相電極の印加電圧は+電圧であり、トナーの進行方向はA→Cであるから、B相電極上のトナーはA相電極との間では反発され、C相電極との間では吸引される方向の電界を受けることになり、搬送効率が高くなり、特に高速搬送を行うことができる。
【0062】
なお、ホッピング電圧パターンの駆動波形を印加した場合でも、0V電極のセンターに位置したトナー以外は、横方向への力も受けるため、すべてのトナーがいっせいに高く打ち上げられるというものではなく、水平方向に移動するトナーもあり、逆に、搬送電圧パターンの駆動波形を印加した場合でも、トナーの位置によっては、大きな角度で斜めに打ち上げられて水平に移動するよりも上昇距離の方が大きいものがある。
【0063】
したがって、搬送領域11の各電極102に印加する駆動波形パターンは前述した図11に示す搬送電圧パターンに限られるものではなく、また、現像領域12の各電極102に印加する駆動波形パターンも前述した図12又は図13に示すホッピング電圧パターンに限られるものではない。
【0064】
これを一般的に言えば、各電極に対してn相(nは3以上の整数)のパルス状電圧(駆動波形)を印加して進行波電界を発生させる場合、1相あたりの電圧印加時間が{繰り返し周期時間×(n−1)/n}未満となる電圧印加デューティとすることによって、搬送、ホッピングの効率を上げることができる。例えば、3相の駆動波形を用いる場合には、各相の電圧印加時間taを繰り返し周期時間tfの2/3である約67%未満に設定し、4相の駆動波形を用いる場合には、各相の電圧印加時間を繰り返し周期時間の3/4である75%未満に設定することが好ましい。
【0065】
他方、電圧印加デューティは{繰り返し周期時間/n}以上に設定することが好ましい。例えば、3相の駆動波形を用いる場合には、各相の電圧印加時間taを繰り返し周期時間tfの1/3である約33%以上に設定することが好ましい。
【0066】
すなわち、注目電極に印加する電圧と進行方向上流側隣接電極及び下流側隣接電極に印加する各電圧との間には、上流側隣接電極が反発、下流側隣接電極が吸引という時間を設定することによって、効率を向上することができる。特に、駆動周波数が高い場合は、{繰り返し周期時間/n}以上で{繰り返し周期時間×(n−1)/n}未満の範囲内に設定することにより、注目電極上のトナーに対する初期速度が得られやすくなる。
【0067】
ところで、搬送基板1における電極102の電極幅Lと電極間隔Rは粉体(ここでは、トナー)の搬送効率、ホッピング効率に大きく影響する。
すなわち、電極102と電極102の間にあるトナーTはほぼ水平方向の電界により、基板表面を隣接する電極102まで移動する。これに対して、電極上に乗っているトナーは、少なくとも垂直方向の成分も持った初速が与えられることから、多くは基板面から離れて飛翔する。
【0068】
特に、電極102の端面付近にあるトナーTは、隣接電極を飛び越えて移動するため、電極幅Lが広い場合には、その電極上に乗っているトナーの数が多くなり、移動距離の大きいトナーTが増えて搬送効率が上がる。ただし、電極幅Lが広すぎると、電極102の中央付近の電界強度が低下するためにトナーTが電極に付着し、搬送効率が低下することになる。そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、低電圧で効率よく粉体を搬送、ホッピングするための適正な電極幅Lがあることを見出した。
【0069】
また、電極間隔Rは、距離と印加電圧の関係から電極間の電界強度を決定し、間隔Rが狭い程電界強度は当然強く、搬送、ホッピングの初速が得られやすい。しかし、電極102から電極102へ移動するようなトナーTについては、一回の移動距離が短くなり、駆動周波数を高くしないと移動効率が上がらないことになる。これについても、本発明者らは鋭意研究した結果、低電圧で効率よく粉体を搬送、ホッピングするための適正な電極間隔Rがあることを見出した。
【0070】
さらに、電極表面を覆う表面保護層103の厚さも電極表面の電界強度に影響を与え、特に垂直方向成分の電気力線への影響が大きく、ホッピングの効率を決定することをも見出した。
【0071】
そこで、搬送基板1の電極幅L、電極間隔R、表面保護層103の厚さの関係を適正に設定することによって、電極表面でのトナー吸着問題を解決し、低電圧で効率的な移動を行うことができる。
【0072】
より詳しく説明すると、まず、電極幅Lについては、電極幅Lをトナー径(粉体径)の1倍としたときは、最低1個のトナーを乗せて搬送、ホピングするための幅寸法であり、これより狭いとトナーに作用する電界が少なくなり、搬送力、飛翔力が低下して実用上は十分でない。
【0073】
また、電極幅Lが広くなるに従って、特に、電極上面中央付近で、電気力線が進行方向(水平方向)に傾斜し、垂直方向の電界の弱い領域が発生し、ホッピングの発生力が小さくなる。電極幅Lがあまり広くなると、極端な場合、トナーの帯電電荷に応じた鏡像力、ファンデルワールス力、水分等による吸着力が勝り、トナーの堆積が発生することがある。
【0074】
そして、搬送及びホッピングの効率から、電極102の上にトナーTが20個程度乗る幅であれば吸着が発生しにくく、100V程度の低電圧の駆動波形で効率良く搬送、ホッピングの動作が可能である。それ以上広いと部分的に吸着が発生する領域が生じる。例えば、トナーの平均粒径を5μmとすると、5μm〜100μmまでの範囲に相当する。
【0075】
電極幅Lのより好ましい範囲は、駆動波形による印加電圧を100V以下の低電圧でより効率的に駆動するため、粉体の平均粒径の2倍以上〜10倍以下である。電極幅Lをこの範囲内とすることで、電極表面中央付近の電界強度の低下が1/3以下に抑えられ、ホッピングの効率低下は10%以下となって、効率の大幅な低下をきたすことがなくなる。これは、例えば、トナーの平均粒径を5μmとすると、10μm〜50μmの範囲に相当する。
【0076】
さらに、より好ましくは、電極幅Lは、粉体の平均粒径の2倍以上〜6倍以下の範囲である。これは、例えば、トナーの平均粒径を5μmとすると、10μm〜30μmに相当する範囲である。この範囲とすることによって非常に効率が良くなることが判明している。
【0077】
ここで、前述の図15及び図16は、搬送基板1上の電極102の幅(電極幅)Lを30μm、電極間隔Rを30μm、電極102の厚みを5μm、表面保護層103の厚みを0.1μmとし、隣接する2つの電極102、102にそれぞれ+100V、0Vを印加し、電極幅L、電極間隔Rに対する搬送電界TE、ホッピング電界HEの強度を測定した結果を示している。
【0078】
なお、各評価データはシミュレーション、および高速度ビデオによる粒子の振る舞いを実際に評価した結果である。図15では細部を分かり易くするために電極102は2つを示しているが、実際のシミュレーション、及び実験は十分な数の電極を有する領域について評価している。また、トナーTの粒径は8μm、電荷量は−20μC/gである。
【0079】
これらの図15及び図16で示す電界の強度は電極表面の代表点の値であり、搬送電界TEの代表点TEaは図15に示す電極端部から5μm上方の点、ホッピング電界HEの代表点HEaは図15に示す電極102の中央部から5μm上方の点とし、それぞれX方向、Y方向のトナーに作用する一番電界の強い代表点に相当する。
【0080】
これらの図15及び図16から、トナーの搬送、ホッピングに作用する力を付与できる電界としては(5E+5)V/m以上(「E+5」は「×10」を意味しており、以下同様である)、吸着の問題がない好ましい電界としては(1E+6)V/m以上、さらに十分な力を付与できるより好ましい電界としては(2E+6)V/m以上の範囲であることが分かる。
【0081】
電極間隔Rについては、間隔が広くなるほど搬送方向の電界強度は低下するため、上記電界強度の範囲に対応する値としても同様で、前述したように、トナーの平均粒径の1倍以上〜20倍以下、好ましくは2倍以上〜10倍以下、さらにより好ましくは2倍以上〜6倍以下である。
【0082】
また、図16からホッピングの効率は電極間隔Rが広がると低下するが、トナー平均粒径の20倍までは実用上のホッピング効率が得られる。トナー平均粒径の20倍を越えるとやはり多くのトナーの吸着力が無視できなくなり、ホッピングが全く発生しないトナーが発生するため、この点でも電極間隔Rはトナーの平均粒径の20倍以下とする必要がある。
【0083】
以上のように、Y方向の電界強度は電極幅L、電極間隔Rで決定され、狭い方が電界強度は高くなる。また、電極端部寄りのX方向の電界強度も電極間隔Rで決定され、狭い方が電界強度は高くなる。
【0084】
このように、電極102の粉体進行方向における幅LをトナーTの平均粒径の1倍以上20倍以下で、かつ、電極102の粉体進行方向の間隔RをトナーTの平均粒径の1倍以上20倍以下とすることによって、電極上又は電極間にある帯電したトナーTに対し、その鏡像力、ファンデルワールス力、その他の吸着力にうち勝って、トナーTを搬送、ホッピングさせるのに十分な静電力を作用させることができ、トナーTの滞留が防止されて、低電圧で安定して効率的に搬送及びホッピングをさせることができる。従って、高品質の現像を行うことが可能となる。
【0085】
本発明者らの研究するところによると、トナーTの平均粒径が2〜10μm、Q/mが負帯電の場合には−3〜−40μC/g、より好ましくは、−10〜−30μC/g、正帯電の場合には+3〜+40μC/g、より好ましくは、+10〜+30μC/gであるときに、特に上述した電極構成による搬送及びホッピングを効率的に行うことができた。
【0086】
以上の説明のようにETH現像ではトナーをホッピングさせることによって感光体ドラム10等の像担持体の静電潜像を一成分現像方式で反転現像を行うことができる。すなわち、図1に示す現像領域12で、トナーTが潜像の画像部に対しては像担持体10側に向かい、非画像部に対してはトナーTが像担持体10と反対側に向かう方向の電界を形成する手段を備えることによって現像を行うことができる。
【0087】
例えば、前述した図13に示すホッピング電圧パターンの駆動波形のように、0〜−100Vで遷移するパルス状電圧波形である場合、像担持体10上の非画像部電位が−100Vより低いときには、画像部に対してはトナーTが像担持体10側に向かい、非画像部に対してはトナーTが像担持体10と反対側に向かうことになる。この場合、潜像の非画像部の電位を−150Vや後述する−170Vとした場合に、トナーTが像担持体10側に向かうことが確認された。
【0088】
また、ホッピング電圧パターンの駆動波形が20V〜−80Vで遷移するパルス状電圧波形である場合、画像部の電位を約0V、非画像部の電位が−110Vのときにも、パルス状駆動波形のローレベルの電位が潜像の画像部電位と非画像部電位との間にあるので、同様に、画像部に対してはトナーTが像担持体10側に向かい、非画像部に対してはトナーTが像担持体10と反対側に向かうことになる。
要するに、パルス状駆動波形のローレベルの電位を潜像の非画像部電位より高い電位に設定することで、非画像部へのトナーTの付着を防止し、高品質の現像を行うことができる。
【0089】
このように、ETH現像においては、トナーTがホッピングしていることにより潜像の画像部に対してトナーTが吸引付着し、非画像部ではトナーTが反発されて付着されないので、トナーTによる潜像の現像を行うことができ、このとき、既にホッピングしているトナーTは搬送基板1との間で吸着力が生じないため、容易に像担持体10側に移送することができ、高い画像品質が得られる現像を低電圧で行うことができるようになる。
【0090】
すなわち、従来の所謂ジャンピング現像方式にあっては、現像ローラから帯電トナーを剥離させて像担持体に移送させるには、トナーの現像ローラに対する付着力以上の印加電圧が必要であり、DC600〜900Vのバイアス電圧をかけなければならない。これに対して、本発明によれば、トナーの付着力は通常50〜200nNであるが、搬送基板1上でホッピングしているために、搬送基板1に対する付着力が略零になるので、トナーTを搬送基板1から剥離する力が不要になり、低電圧で十分にトナーを像担持体側に移送することが可能になるのである。
【0091】
しかも、図15における電極102、102間に印加する電圧が|150〜100|V以下の低電圧であっても発生する電界が非常に大きい値となり、電極102表面に付着しているトナーTを容易に剥離し、飛翔、ホッピングさせることが可能になる。また、有機感光体(OPC)等の像担持体の帯電電位を低くすることにより、少ない放電で帯電が可能となるため、OPC等の像担持体を帯電する時に発生するオゾン、窒素酸化物(NOx)が非常に少なく、又は皆無にすることができて、環境問題、感光体の耐久性に非常に有利となる。
【0092】
したがって、従来方式の現像ローラ表面、またはキャリア表面に付着しているトナーを剥離するために現像ローラと像担持体の間に印加していた500V〜数KVの高電圧バイアスを必要とすることがなく、像担持体の帯電電位を非常に低い値として、潜像を形成して現像することが可能になる。
【0093】
例えば、像担持体10として有機感光体(OPC)を使用し、その表面の電荷移動層(CTL(Charge Transport Layer))の厚さが15μm、その比誘電率εが3、帯電したトナーの電荷密度が−300μC/mの場合、OPCの表面電位は約−170Vとなるが、この場合、搬送基板1の電極102への印加電圧として、0〜−100V、デューティ50%のパルス状駆動電圧を印加すると、平均で−50Vとなり、トナーが負帯電であれば搬送基板1の電極102とOPCとの間の電界は前述した関係になる。
【0094】
このとき、搬送基板1とOPCとのギャップ(間隔)が0.2〜0.3mmであれば十分に現像が可能となる。トナTーのQ/M、搬送基板1の電極102への印加電圧、印刷速度すなわちOPCの回転速度によっても異なるが、負帯電トナーの場合、少なくともOPCを帯電する電位は−300V以下、または現像効率を優先した構成の場合は−100V以下でも十分に現像を行うことができる。なお、正帯電の場合の帯電電位は+電位となる。
【0095】
さて、本発明では、以上のようなETH現像を利用した現像手段(現像装置)を用いて、さらに高解像度の画像を得ることができる条件を確立した画像形成方法及び画像形成装置を提供するものである。以下、本発明に係る画像形成方法及び装置の実施例を以下に示す。
【実施例】
【0096】
図17は本発明の一実施例を示す画像形成装置の概略構成図である。
この画像形成装置は、像担持体10と、像担持体10を帯電する帯電手段31と、像担持体10上に画像情報に基づいて静電潜像を形成するための露光手段32と、像担持体10上の潜像に粉体を付着させて現像する現像手段とを備えており、前記現像手段は、図1乃至図16を参照して説明したように、像担持体10に対向して配置され、粉体(例えばトナーT)を移動させる進行波電界を発生させるための複数の電極102を有する搬送部材(静電搬送基板)1を備え、該搬送基板1にn相(例えば3相)の電圧を印加しながら粉体を搬送して静電潜像を現像する現像装置である。そして、本発明の画像形成方法及び装置では、露光手段32により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、露光手段32により静電潜像が形成される像担持体10が電荷発生層(CGL)と電荷移動層(CTL)を有し、電荷発生層(CGL)が電荷移動層(CTL)よりも内側にある場合に、電荷移動層(CTL)の厚さTgと、静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴としている。
【0097】
さらに本発明の画像形成方法及び装置では、像担持体10に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすること、また、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段32を有することを特徴としている。
【0098】
なお、図17に示す画像形成装置には、像担持体10に形成された画像(トナー像)を記録媒体(例えば記録紙)に転写する転写手段(例えば転写ベルト33と転写バイアスローラ34)と、転写後の像担持体10上の残留トナーを除去するクリーニング手段(例えばクリーニングブレード)35と、像担持体10上の残留電荷を除去する除電手段(例えば除電ランプ)36を備えている。また、図示を省略しているが、前記転写手段の位置に記録紙を給紙する給紙手段、記録紙に転写されたトナー像を定着する定着手段、定着後の記録紙が排紙される排紙部等を備えている。給紙手段は、例えば、多数枚の記録紙を収納した給紙カセット、給紙カセットから記録紙を1枚づつ分離給紙する給紙ローラ、記録紙を搬送する搬送ローラ、搬送されて来た記録紙を画像形成のタイミングに合わせて転写手段に送り出すレジストローラ等で構成されている。また、定着手段は、加熱手段を有する定着ローラ(または定着ベルト)と加圧ローラを組み合わせたもの等で構成されている。
【0099】
次により具体的な装置構成について説明する。図17に示す画像形成装置の装置構成は、例えば、像担持体10として直径60mmの感光体ドラム(ここではOPCドラムとする)を、帯電手段(例えばスコロトロン帯電器)31で帯電し、露光手段であるレーザダイオード(LD)書き込みユニット32により画像データに応じたレーザを露光することでOPCドラム10上に静電潜像を形成する。なお、その表面電位は、OPCドラム10の右下に備え付けた表面電位計(図示せず)で測定した。
【0100】
OPCドラム10の直下には現像手段(現像装置)として前述の静電搬送基板1を設けた。なお、現像装置は、静電搬送基板1にn相の電圧を印加する駆動回路2と、静電搬送基板1にトナーTを供給するトナー容器3を備えている。このトナー容器3内にはトナーTを攪拌して帯電させる手段やトナーTの供給量を制御する手段が設けられている。
また、OPCドラム10と静電搬送基板1間の間隔は300μm、また、OPCドラム10の回転速度は150mm/secである。
【0101】
静電搬送基板1の構成は前述した通りであり、静電搬送電極102の電極幅Lは30μmで、電極間隔Rは30μm、ピッチは60μmである。静電搬送の駆動方式は3相で、駆動回路2による印加電圧は、相対的にトナーを引き付ける電圧Vpとトナーを反発する電圧Vrが交互に印加される。
【0102】
ここでは、印加電圧の周波数は3kHzに、デューティ(Duty)は50%の例で説明する。
トナーを静電搬送する力は、印加電圧値ではなく、VpとVr両電圧の差で決定されるので、Vp−Vrを一定に保っている限り、Vp,Vrを変えてもトナーの搬送状態は変わらない。
なお、今回の現像装置は、すべて、負帯電トナーが、静電潜像のマイナス電位が低い(絶対値が小さい)部分に付着する反転現像で行ったが、正規現像の場合も基本的に同じである。
【0103】
低電位現像の特徴として、前記にも述べたように、像担持体10の帯電電位を低くし、環境問題、耐久性等を向上させることが可能である。しかし、帯電電位が低いため、一般的なプロセスと比較して像担持体内部の電界強度が弱くなってしまうという欠点があった。像担持体が有機感光体(OPC)の場合、像担持体10は電荷発生層(CGL)と電荷移動層(CTL)を有しており、露光により像担持体内部の電荷発生層(CGL)では電荷が発生するが、その電荷発生量は像担持体10の電界強度に依存しており、電界強度の低下は電荷発生量の低下、すなわち潜像の掘り込みが浅く画像が顕像化されにくくなるという問題点につながる。これらの問題を解決するためには低電位プロセスの場合、像担持体10の膜厚(特に、電荷移動層(CTL)の厚さ)を薄くすることにより電界強度を大きくし、必要な静電潜像を形成できるようにすることが望ましい。しかし、一般的に使用されている接触現像においては、経時で像担持体が削れ、膜厚が薄くなり、現像γが変わるという不具合が発生している。そのため、像担持体の膜厚をあまり薄くすることはできないといわれている。しかし、本発明のように現像手段としてETH現像を用いることにより、現像部が非接触のため、像担持体の磨耗は発生せず、薄膜の像担持体でも使用することが可能となる。
【0104】
そこで、本実施例では、像担持体10として有機感光体(OPC)を用い、像担持体10が電荷発生層(CGL)と電荷移動層(CTL)を有し、電荷発生層(CGL)が電荷移動層(CTL)よりも内側にある構成とした場合に、電荷移動層(CTL)の厚さ(膜厚)Tgを変え、前記現像装置を使用して、潜像電位差を約−150Vに統一し、同一現像条件にて画像を出力したところ、像担持体10の電荷移動層(CTL)の膜厚Tgに応じて出力画像が異なることが確認された。特に孤立した最小画素の画像での違いが顕著であり、膜厚Tgが厚くなるに従い、画像がぼけてしまう現象が発生した。ここで画像の書込みをするための露光手段(LD書き込みユニット)32のレーザ光の静止ビームスポット径ωを数種振り、同一露光条件にて再度画像を出力したところ、ビームスポット径ωを絞ることにより、孤立最小画素のパターン(以下ドット画像とする)においてもドットがぼけることなく、高濃度でシャープな画像を得ることができた。
【0105】
これらの現象を解析するために、静電潜像の電位プロファイル(以下、潜像電位プロファイルと言う)を比較検討することにした。但し、潜像電位プロファイルの測定は困難なため、シミュレーションにより、各条件における潜像電位プロファイルを比較した。
【0106】
ここでシミュレーション方法について説明を行う。像担持体(OPC)内部のキャリア(電荷)の動きは、キャリア間のクーロン反発力、キャリア同士の再結合、像担持体内部でのキャリアの移動度の影響を受ける。よって、これらの影響を全て考慮した「潜像形成シミュレーション」により計算及び解析を行った。
解析に用いた物理モデルは、(1)ガウシアンレーザビームによる露光量計算、(2)電荷キャリアの生成とその輸送過程、の計算からなる。
【0107】
まず(1)の露光量計算は、レーザダイオード(LD)を光源として露光したときの露光プロファイルI(x,y)は、レーザ光のプロファイルをガウシアン分布で近似すると、下記の(式1)のように近似でき、X方向に点燈時間での移動距離(Vx×点燈時間)分だけ積分することで算出する。なお、ビームスポット径ωとは、静止ビーム露光強度の1/e径とする。
【0108】
【数1】

【0109】
次に(2)の電荷キャリア生成とその輸送の概念図を図18に示す。その過程は次に示す正負キャリアの連続の式(式2)、(式3)とPoisson方程式(式4)によって支配される。
【0110】
【数2】

【0111】
ここで,n、μ、E、Γ、r、ε、eはそれぞれ、キャリアの個数密度、移動度、電界強度、単位時間当りのキャリアの生成量、キャリアの単位時間当りの再結合係数、誘電率、および電荷素量を示す。また、添え字p,nは、それぞれ正負キャリアを示す。
【0112】
電荷キャリアは、CGL層が薄いことを考慮して、層内で一様に生成されると仮定した。このため、キャリア生成量Γは、入射光強度F、量子効率η、CGL層の厚さdと以下の(式5)の関係で結ばれる。
Γ=β・η・F/(d・hυ) (式5)
【0113】
ここで、β、hυは、それぞれ、CGL層内での光の吸収効率、及びレーザビームのフォトン一個当りのエネルギーである。また、量子効率ηは電界に依存しており、
η=αE
で表される。
また、上記(式1)、(式2)の右辺第二項目のキャリア再結合項は、正負キャリアが同じ近傍に共存する際に、実験的には生成キャリア量が減少することを説明するために導入されたものである。
【0114】
上記の物理量のうち、光の吸収係数β及び再結合係数Rは、黒ベタ露光時の表面電位から実験的なフィッティングを行い算出する。
露光前には、均一に感光体が帯電していると仮定し、感光体表面の電荷量を算出する。その後、上記の式を計算することで、露光後の感光体上の電荷密度分布を算出する。
【0115】
前記シミュレーションにより得られた、像担持体10の電荷移動層(CTL)の膜厚Tgを変動させたときの潜像プロファイルを図19に示す。図19内の実線がビームスポット径ωが50μm、像担持体10の電荷移動層(CTL)の膜厚Tgが30μmの場合の1ドット潜像電位プロファイル、点線がビームスポット径ωが50μm、像担持体10の電荷移動層(CTL)の膜厚Tgが10μmの場合の1ドット潜像電位プロファイルである。膜厚の厚い方のプロファイルがブロードになっている。
【0116】
膜厚に応じてドット画像に顕著な差が見られた原因として、膜厚に応じて潜像電位プロファイルが異なっているためと考えられる。これは、像担持体10のCGL層内で発生した電荷(ここでは正孔)が、像担持体10のCTL層内を移動するときに、電荷によるクーロン斥力により反発し、横に広がりながら移動する(以下、この状態を拡散とする。)ためと考えられる。すなわち、像担持体10の電荷移動層(CTL)の膜厚Tgが厚いほど移動距離が長くなり、拡散がより大きく発生すると考えられる。
【0117】
このような現象は、非画像部電位が−500V〜−1000V、画像部電位が−100〜−300V程度の一般的な電子写真プロセスにおいても発生しているが、本発明において使用しているプロセスにおいては、潜像電位差(掘り込み電位)が他のプロセスと比べて小さいため、膜厚の変動に対して非常に敏感に影響していると考えられる。このような状況に対して、ビームスポット径ωを変動させた場合について次に検討を行った。
【0118】
まず、露光強度分布について検討を行った。前記の(式1)より求めた各ビームスポット径ωにおけるビームプロファイルを図20に示す。図20内の破線がビームスポット径ωが50μm、実線がビームスポット径ωが30μmの静止ビームプロファイルである。
【0119】
ビームスポット径ωが小径になるに従い、プロファイルがシャープになり、中央部のピーク値が大きくなっていることがわかる。また、各プロファイルの積分値が1画素の露光エネルギー量になり、ビームスポット径ωによらず、積分値は一定の値になっている。このようなビームスポット径ωの異なるビームにおいて、同じエネルギーの露光を行った場合、小径ビームの方が中央部の露光強度が強くなる。像担持体に光が露光されると、光のエネルギーにより、像担持体内部の電荷発生物質(ここではCGL層)内でキャリアが励起される。生成される励起キャリア量は光のエネルギー、及び像担持体内部の電界強度に依存しており、エネルギーが強く電界強度が大きい場合、より多くのキャリアが生成される。生成された+のキャリアは電荷移動層(CTL)を経由して、像担持体表面に移動し、像担持体上に帯電された負電荷と中和し、静電潜像が形成される。よって、ビームスポット径ωによる静電潜像を比較した場合、小径ビームの方が掘り込みの深い静電潜像を形成することになる。
【0120】
次に、ビームスポット径ωにおける潜像電位プロファイルの例を図21に示す。図21内の実線がビームスポット径ωが50μm、像担持体10のCTL層の膜厚Tgが30μmの場合の1ドット潜像電位プロファイル、点線がビームスポット径ωが30μm、像担持体10のCTL層の膜厚Tgが30μmの場合の1ドット潜像電位プロファイルである。ビームスポット径ωが小径になるに従い潜像電位プロファイルがシャープになることがわかる。
【0121】
次に像担持体10のCTL層の膜厚Tg、ビームスポット径ωを変えたときの潜像径について検討を行った。ここで、潜像径はシミュレーションにより求めた潜像電荷密度分布の1/e径とした。各膜厚におけるビームスポット径ωと潜像径の関係を図22に示す。図の45度の直線はビームスポット径ωと潜像径が一致していることを表している。ビームスポット径ωを小径化するに従い45度の直線から離れて潜像径が太くなる傾向が確認できる。これは、ビームスポット径の小径化に伴い、像担持体内部に発生するキャリア量が増加し、発生したキャリアのクーロン反発力で互いに反発し、電荷が横に広がりながら移動するためと考えられる。よって、本発明の課題である高画質な画像を得るためにはビームスポット径の小径化による潜像の掘り込みの深さと拡散の双方の効果を見ながら適当な条件を探すことが必要となってくる。
【0122】
よって、次に像担持体10のCTL層の膜厚Tgとビームスポット径ωを可変したときの出力画像について検討を行った。ここで、出力画像は条件の傾向が顕著に確認できるよう、4画素×4画素のマトリクスに1画素だけ点灯するパターン(以下、孤立1ドット画像と呼ぶ)について画像を出力し、評価を行った。実験条件は、潜像電位差を−150Vに統一して、同一現像条件(像担持体10の線速100mm/sec、静電搬送電圧−180V±60V、周波数3kHz、Duty50%)にて行った。像担持体10のCTL層の膜厚Tgは13μm,15μm,18μm,22μm,28μmとし、ビームスポット径ωは20μm,30μm,50μmとした。その結果を図23に示す。ここで出力画像の画像部(1画素)においてトナーが1画素程度の範囲に適量付着しており、1画素がきちんと再現できているものを○、再現できていないものを×とし、目視評価を行った。
【0123】
例えばビームスポット径ωが50μmのとき、像担持体10のCTL層の膜厚Tgが13μm,15μm,18μmの条件下では画像がきちんと再現できていたのに対し、22μm以上になると、トナーがまばらに散らばり、濃度の薄いぼやけた画像になってしまった。同じようにビームスポット径ωが30μmのときは像担持体10のCTL層の膜厚Tgが13μm,15μm、ビームスポット径ωが20μmのときは像担持体10のCTL層の膜厚Tgが13μmのときに良好な画像を得ることができた。
【0124】
上記の結果より、良好な画像を得るためのビームスポット径ωと像担持体10のCTL層の膜厚Tgの関係について、以下の近似式(式6)を算出することができた。
Tg≦0.2ω+10 (式6)
【0125】
ここで、ビームスポット径ωを小径、かつ像担持体10のCTL層の膜厚Tgを薄くしていくと、顕像化される画素は小さくなり、高解像度の画像を達成することができる。一般的に使用されている接触現像等のプロセスの場合、画像の安定性を保つために像担持体のCTL層の膜厚Tgがある程度以上の値を有している。この場合、小径ビームを使用しても、前記にも述べたように像担持体内部の電荷が拡散し、潜像がボケる。しかし、ETH現像を使用する場合、像担持体10のCTL層の膜厚Tgを薄くすることができるため、潜像の拡散によって画像がボケてしまうことを防止できるが、一方、黒ベタやライン等の連続した画像の再現性が低下してしまうことがわかった。よって、解像度を変えて、各解像度を達成するための条件について確認を行った。
【0126】
像担持体上のトナー像を忠実に再現するためには、ドットのシャープさを再現しつつ、黒ベタ、斜めライン、縦ライン画像も像担持体上で再現されていないといけないと考えられる。
そこで、使用するビームスポット径ωと、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPとの関係、
ω=αP
について、1ドットライン画像で検討を行った。その結果について下記の表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
ライン幅Dが小さく、かつ途切れないラインを形成するには、
D≧√2×P
が良いことがわかる。よって、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチをP[μm]とすると、ビームスポット径ω[μm]が、
ω≧√2×P
になるような露光を行うことにより、黒ベタ、斜めライン、縦ライン画像が再現できることが判明した。
【0129】
以上のように、本発明では、像担持体10のCTL層の厚さTgと、静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことにより、像担持体10の膜厚によらず、安定した画像形成が可能となる。
また、本発明では、像担持体10に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることにより、低電圧でも高い画像品質が得られる。
さらに本発明では、解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
であることにより、像担持体の膜厚によらず、低電圧プロセスにおいて高解像度、高画質な画像形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明に係る現像装置の一実施形態を説明する概略構成図である。
【図2】図1の現像装置における搬送基板の平面説明図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面説明図である。
【図4】図2のB−B線に沿う断面説明図である。
【図5】図2のC−C線に沿う断面説明図である。
【図6】図2のD−D線に沿う断面説明図である。
【図7】搬送基板に与える駆動波形の一例を説明する説明図である。
【図8】粉体の搬送、ホッピングの説明に供する説明図である。
【図9】粉体の搬送、ホッピングの具体例の説明に供する説明図である。
【図10】現像装置の駆動回路の一例を示すブロック図である。
【図11】搬送基板に与える搬送電圧パターン及び回収搬送電圧パターンの駆動波形の一例を示す説明図である。
【図12】ホッピング電圧パターンの駆動波形の一例を示す説明図である。
【図13】ホッピング電圧パターンの駆動波形の別の例を示す説明図である。
【図14】ホッピングの原理の説明に供するシミュレーション対象領域の説明図である。
【図15】電極近傍の電界ベクトルの説明に供する説明図である。
【図16】印加電圧とホッピング方向電界と0V電極センターからの高さの関係の一例を説明する説明図である。
【図17】本発明の一実施例を示す画像形成装置の概略構成図である。
【図18】像担持体(有機感光体)における電荷キャリア生成とその輸送の概念の説明図である。
【図19】像担持体のCTL層の膜厚を変動させたときの潜像電位プロファイルの例を示す図である。
【図20】各ビームスポット径におけるビームプロファイルの例を示す図である。
【図21】各ビームスポット径における潜像電位プロファイルの例を示す図である。
【図22】ビームスポット径と潜像径の関係を示す図である。
【図23】ビームスポット径ωと像担持体の膜厚Tgの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
1:静電搬送基板(搬送部材)
2:駆動回路
3:トナー容器
10:像担持体(感光体ドラム)
11:搬送領域
12、現像領域
13:回収領域
31:帯電器(帯電手段)
32:LD書き込みユニット(露光手段)
33:転写ベルト(転写手段)
34:転写バイアスローラ(転写手段)
35:クリーニングブレード(クリーニング手段)
36:除電ランプ(除電手段)
101:支持基板
102:静電電極
103:表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する現像装置において、
前記像担持体に対向して配置され、前記粉体を移動させる進行波電界を発生させるための複数の電極を有する搬送部材を備え、該搬送部材にn相の電圧を印加しながら前記粉体を搬送して前記静電潜像を現像する構成であり、
前記電極の粉体進行方向における電極幅を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下とし、かつ、前記電極の粉体進行方向における電極間隔を前記粉体の平均粒径の1倍以上〜20倍以下としたことを特徴とする現像装置。
【請求項2】
帯電された像担持体に、露光手段により画像情報に基づいて静電潜像を形成し、現像手段で前記像担持体上の静電潜像に粉体を付着させて現像する画像形成方法において、
前記現像手段として請求項1記載の現像装置を用いたことを特徴とする画像形成方法。
【請求項3】
請求項2記載の画像形成方法において、
前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴とする画像形成方法。
【請求項4】
請求項2また3記載の画像形成方法において、
前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴とする画像形成方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の画像形成方法において、
解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと、前記静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を用いることを特徴とする画像形成方法。
【請求項6】
像担持体と、該像担持体を帯電する帯電手段と、前記像担持体上に画像情報に基づいて静電潜像を形成するための露光手段と、前記像担持体上の潜像に粉体を付着させて現像する現像手段とを備えた画像形成装置において、
前記現像手段として請求項1記載の現像装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項6記載の画像形成装置において、
前記露光手段により露光される光ビームのビーム強度の1/eでの静止ビームスポット径をωとし、該露光手段により静電潜像が形成される前記像担持体が電荷発生層と電荷移動層を有し、前記電荷発生層が前記電荷移動層よりも内側にある場合に、前記電荷移動層の厚さTgと、前記静止ビームスポット径ωとの関係が、
Tg≦0.2ω+10
を満たすことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項6または7記載の画像形成装置において、
前記像担持体に形成された静電潜像の画像部の電位Viと地肌部の電位Vgの差を300V以下とすることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項7または8記載の画像形成装置において、
解像度ρ(dpi)の副走査方向ドットピッチPと静止ビームスポット径ωの関係が、
ω≧√2×P
である露光手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−79143(P2007−79143A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267095(P2005−267095)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】