説明

球体研磨装置

【課題】 固定盤体の硬さを硬くしても、被加工球体を効率良く研磨することができる球体研磨装置を提供する。
【解決手段】 球体研磨装置1は、磁性体からなる固定盤体2と、固定盤体2に対して回転可能な回転盤体3とを備える。固定盤体2には、固定盤体2と回転盤体3との間に磁性体からなる被加工球体5を挟持して研磨加工する際に、被加工球体5を磁力によって固定盤体2に吸着させて、固定盤体2と被加工球体5との摩擦力を高める摩擦力付加手段6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工球体を研磨する球体研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば玉軸受等に用いられる鋼球を製造する際に使用される球体研磨装置は、被加工球体を固定盤体(鋳物盤)と回転盤体(砥石)との間で挟持し、回転盤体を回転させることにより被加工球体を研磨している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−291148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の球体研磨装置は、固定盤体が被加工球体との接触によって摩耗するのを抑制するために、固定盤体の硬さをできるだけ硬くしている。しかし、固定盤体の硬さを硬くすればするほど、固定盤体と被加工球体との摩擦力が小さくなるため、被加工球体の研磨効率が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、固定盤体の硬さを硬くしても、被加工球体を効率良く研磨することができる球体研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の球体研磨装置は、固定盤体と、当該固定盤体に対して軸方向に所定間隔をあけて対向配置された回転盤体とを備え、前記固定盤体と前記回転盤体との間に磁性体からなる被加工球体を挟持した状態で、前記回転盤体を前記固定盤体に対して回転させることにより当該被加工球体を研磨する球体研磨装置であって、前記固定盤体に対して、前記被加工球体を磁力によって吸着させて当該固定盤体と被加工球体との摩擦力を高める摩擦力付加手段を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、被加工球体を、摩擦力付加手段により固定盤体に磁力で吸着させることによって、固定盤体と被加工球体との摩擦力を高めることができる。したがって、固定盤体の硬さを硬くしても、被加工球体を効率良く研磨することができる。
【0008】
また、前記固定盤体が磁性体であり、前記摩擦力付加手段が当該固定盤体を磁化させることが好ましい。この場合、摩擦力付加手段により固定盤体を磁化させて、固定盤体の磁力で被加工球体を直接吸着させることができるため、少ない磁力で摩擦力を効果的に付加することができる。
【0009】
また、前記球体研磨装置は、前記摩擦力付加手段により磁化された前記固定盤体を脱磁する脱磁手段をさらに備えていることが好ましい。この場合、一旦磁化された固定盤体を脱磁手段で脱磁することにより、固定盤体と被加工球体との摩擦力を低下させて当該被加工球体を研磨することができる。これにより、被加工球体を高精度に研磨することができる。また、摩擦力付加手段および脱磁手段により、固定盤体の磁力を高めたり低下させることができるため、固定盤体と被加工球体との摩擦力を研磨条件に応じて調整することができる。
【0010】
また、前記摩擦力付加手段が、電磁石と、当該電磁石の磁力を可変調整する磁力調整手段とを有することが好ましい。この場合、磁力調整手段により、固定盤体と被加工球体との摩擦力を研磨条件に応じた値に高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固定盤体と被加工球体との摩擦力を、磁力によって高めることができるため、固定盤体の硬さを硬くしてその摩耗を抑制しつつ、被加工球体を効率良く研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。
【図2】前記球体研磨装置の固定盤体と回転盤体との間に被加工球体が挟持された状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。
【図6】(a)は磁化状態で研磨加工された被加工球体の径寸法と加工時間との関係を示すグラフであり、(b)は非磁化状態で研磨加工された被加工球体の径寸法と加工時間との関係を示すグラフである。
【図7】(a)は磁化状態で研磨加工された被加工球体の真球度と加工時間との関係を示すグラフであり、(b)は非磁化状態で研磨加工された被加工球体の真球度と加工時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。この球体研磨装置1は、例えば玉軸受に用いられる鋼球の製造工程において、プレス加工された被加工球体5を荒研磨する際に使用されるものである。球体研磨装置1は、固定盤体2と、固定盤体2と同一軸心X1上に対向配置された回転盤体3と、多数の被加工球体5を固定盤体2と回転盤体3との間に供給する回転コンベア4とを備えている。
【0014】
被加工球体5は、強磁性体の金属からなる。具体的には、被加工球体5は、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)、SUS440C(マルテンサイト系ステンレス鋼)、または、SKH4(高速度工具鋼)等の材料からなる。
【0015】
回転コンベア4は、その軸心X2回りに回転可能に配置された円柱状の内壁部41と、内壁部41ととともに回転する底板部42と、底板部42の外側に配置された外壁部43とを備えている。内壁部41および底壁部42は、図示しない駆動モータを駆動することにより、軸心X2を中心として図1矢符C方向に回転される。これにより、多数の被加工球体5を、回転コンベア4によって同時に搬送することができる。
【0016】
前記回転コンベア4により搬送された被加工球体4は、整列されながら入口シュート23(後述)から盤間(固定盤体2と回転盤体3との間)に送り込まれて研磨加工されるとともに、固定盤体2を一周したところで出口シュート24(後述)から再び回転コンベア4に戻される。この動作を例えば数十回繰り返すことにより、被加工球体5の表面が真球状に研磨される。
【0017】
図2は、固定盤体2および回転盤体3との間に被加工球体5が挟持された状態を示す断面図である。固定盤体2の対向面21および回転盤体3の対向面31には、それぞれ前記軸心X1を中心とする複数条の環状溝21a、31aが相互に対向するように形成されている。各環状溝21a、31aは、それぞれ断面形状が略半円状に形成されており、被加工球体5は、研磨加工時に対向する環状溝21a、31a内を自転しながら周方向に転動案内される。
【0018】
固定盤体2は、ミーハナイト鋳鉄などの強磁性体からなる金属により形成されている。固定盤体2の表面全体は、耐摩耗性を向上するために、焼入れや焼戻しなどの熱処理が施されており、そのHRC硬度は56以上とされている。
また、固定盤体2は、被加工球体5を回転コンベア4から盤間に送り込むための入口シュート23と、被加工球体5を盤間から回転コンベア4へ戻すための出口シュート24とを有している。
【0019】
回転盤体3は、砥石によって形成されており、回転軸10に軸心X1周りに回転可能に支持されている。また、回転盤体3は、軸方向にスライド可能に支持されており、図示しない押圧手段により固定盤体2側(矢符B方向)に押圧可能とされている。これにより、回転盤体3は、被加工球体5を盤間に送り込んだ状態で、前記押圧手段により固定盤体2側に高圧の押圧力(例えば7tf)で押し込まれるとともに、駆動モータ(図示せず)により矢符A方向に所定の回転速度(例えば100rpm)で回転される。なお、被加工球体5を盤間に送り込む際は、前記押圧手段によって盤間の押圧力を低圧にすることにより、被加工球体3を円滑に送り込むことができる。
【0020】
本発明の球体研磨装置1は、被加工球体5を研磨加工する際に固定盤体2に被加工球体5を磁力によって吸着させる摩擦力付加手段6と、前記研磨加工の終了時に磁化された固定盤体2を脱磁する脱磁手段7とをさらに備えている。
摩擦力付加手段6は、固定盤体2の外側面22に設けられている。この摩擦力付加手段6は、磁化コイル(図示せず)に電流を流して固定盤体2に磁場を発生させるものである。この摩擦力付加手段6により、固定盤体2の全体が所定の磁束密度(例えば9.5mT)となるように磁化される。磁化された固定盤体2は、被加工球体5の研磨加工時に、被加工球体5を固定盤体2側の環状溝21aに磁力によって吸着させ、固定盤体2と被加工球体5との摩擦力を高めることができる。
【0021】
脱磁手段7は、前記外側面22に摩擦力付加手段6に隣接して設けられている。この脱磁手段7は、例えば脱磁コイル(図示せず)に交流電流を流し、固定盤体2に磁場を印加しつつ、この磁場を徐々に減衰させて最終的に略零とする公知の交流脱磁法により脱磁するものである。これにより、摩擦力付加手段6で磁化された固定盤体2は、脱磁手段7により被加工球体5を研磨加工する最終段階において徐々に脱磁される。なお、脱磁手段7は、交流脱磁法以外に、熱脱磁法等の他の方法により脱磁するものであってもよい。
【0022】
以上のように構成された本実施形態の球体研磨装置1によれば、被加工球体5の研磨加工時に、被加工球体5を、摩擦力付加手段6によって固定盤体2(環状溝21a)に磁力で吸着させることができる。この結果、固定盤体21と被加工球体5との摩擦力を高めることができるので、被加工球体5の研磨加工を促進することができる。したがって、研磨加工を確保するために固定盤体2の硬さを硬くしても、被加工球体5を効率良く研磨することができるので、球体研磨装置1の研磨効率を向上させることができる。
【0023】
また、磁性体である固定盤体2を、摩擦力付加手段6により磁化させるようにしたので、固定盤体2の磁力で被加工球体5を固定盤体2に直接吸着させることができる。したがって、前記摩擦力を少ない磁力で効果的に付加することができる。
また、脱磁手段7により一旦磁化された固定盤体2を脱磁することにより、固定盤体2と被加工球体5との摩擦力を低下させることができる。したがって、研磨の最終段階で前記摩擦力を低下させて被加工球体5を所定時間研磨することにより、当該被加工球体5の研磨精度を高めることができる。また、摩擦力付加手段6および脱磁手段7を適宜操作することにより、固定盤体2の磁力を高めたり低下させたりすることができるため、固定盤体2と被加工球体5との摩擦力を研磨条件に応じて調整することができる。
【0024】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。以下、この実施形態について説明する。なお、この実施形態のうち、第1の実施形態と同一構成であるものは、第1の実施形態と同一符号で示す。
第2の実施形態における球体研磨装置101では、摩擦力付加手段106が、電磁石106aと、この電磁石106aの磁力を可変調整する磁力調整手段106bとによって構成されている。電磁石106aは、例えば鉄心部(図示せず)に巻かれたコイル部(図示せず)に電流を流して固定盤体2に磁場を発生させるものである。この電磁石106aによって、固定盤体2の全体を磁化させることができる。磁力調整手段106bは、例えば電磁石106aに流す電流を調整する可変抵抗器で構成されている。
以上のように構成された本実施形態の球体研磨装置101によれば、磁力調整手段106bにより電磁石106aの磁力を調整することができるので、固定盤体2と被加工球体5との摩擦力を研磨条件に応じた値に高めることができる。
【0025】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。以下、この実施形態について説明する。なお、この実施形態のうち、第1の実施形態と同一構成であるものは、第1の実施形態と同一符号で示す。
第2の実施形態における球体研磨装置201は、摩擦力付加手段206が、固定盤体2を磁化させるための磁化コイル206aと、固定盤体2の磁力を可変調整する磁力調整手段206bとを有している。
磁化コイル203は、固定盤体2の外周面25の周囲に巻き付けられており、この磁化コイル203に電流を流すことにより固定盤体2の全体を磁化させることができる。磁力調整手段206bは、例えば磁化コイル203に流す電流を調整する可変抵抗器で構成されている。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の球体研磨装置201によれば、固定盤体2を磁化コイル203により直接磁化させるようにしたので、固定盤体2を電磁石の鉄心部として兼用することができる。したがって、部品点数を削減することができ、製造コストを低減することができる。
【0027】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る球体研磨装置を示す斜視図である。以下、この実施形態について説明する。なお、この実施形態のうち、第1の実施形態と同一構成であるものは、第1の実施形態と同一符号で示す。
第3の実施形態における球体研磨装置301では、摩擦力付加手段306が、複数の永久磁石306aによって構成されている。各永久磁石306aは、例えばフェライト磁石によって形成されており、それぞれ強さの異なる磁力を有している。また、各永久磁石306aは、固定盤体2の外側面22に対して個別に着脱自在に取り付けられるようになっている。これらの永久磁石306aのいずれか1つ又は組み合わせたものを、固定盤体2の外側面22に取り付けることにより、固定盤体2の全体を磁化させることができる。
以上のように構成された本実施形態の球体研磨装置301によれば、永久磁石306aを固定盤体2に対して着脱するだけで、固定盤体2の磁力を調整することができるため、磁力の調整を容易に行うことができる。
【0028】
本発明は、前述の実施形態に限定されることなく適宜変更可能である。例えば、各実施形態の摩擦力付加手段は、固定盤体2の全体を磁化させているが、少なくとも被加工球体5が吸着される対向面21の環状溝21aを磁化されるものであればよい。
また、固定盤体2は、磁性体により形成されているが、非磁性体により形成されていてもよい。この場合は、摩擦力付加手段6(106,206,306)の例えば電磁石を固定盤体2の対向面21に近接させた状態で固定盤体2に内蔵すればよい。
【0029】
図6および図7は、図1の球体研磨装置1を用いて研磨加工された被加工球体5の加工時間および加工精度について、摩擦力付加手段6により固定盤体2を磁化した磁化状態と、固定盤体2を磁化していない非磁化状態とに分けて、比較検証試験を行った結果を示すグラフである。磁化状態および非磁化状態の各試験は、磁化の有無を除いて加工条件が同一となるように、固定盤体2の材質・硬さ、被加工球体5の材質、および回転盤体3の材質・回転数・押圧力等を同一にして行った。なお、磁化状態の試験は、磁束密度が9.5mTとなるように固定盤体2を磁化した状態で行った。
【0030】
図6において、(a)は、磁化状態で研磨加工された被加工球体5の径寸法と加工時間との関係を示すグラフであり、(b)は、非磁化状態で研磨加工された被加工球体5の径寸法と加工時間との関係を示すグラフである。なお、径寸法および加工時間は、同時に研磨加工された複数の被加工球体5の平均径寸法および平均加工時間を意味する。
図6の(a)および(b)のグラフを比較すると、被加工球体5が所定の径寸法になるまで研磨加工される加工時間は、(a)の磁性状態のほうが(b)の非磁性状態よりも短いことがわかる。すなわち、磁性状態での研磨加工は、非磁性状態での研磨加工よりも研磨効率が向上することがわかる。
【0031】
図7において、(a)は、磁化状態で研磨加工された被加工球体5の真球度と加工時間との関係を示すグラフであり、(b)は、非磁化状態で研磨加工された被加工球体5の真球度と加工時間との関係を示すグラフである。なお、真球度および加工時間は、同時に研磨加工された複数の被加工球体5の平均真球度および平均加工時間を意味する。
図7の(a)および(b)のグラフを比較すると、所定時間経過後の被加工球体5の真球度は、(a)の磁性状態と(b)の非磁性状態とがほぼ同一であることがわかる。すなわち、磁性状態での研磨加工は、非磁性状態での研磨加工とほぼ同等の加工精度であることがわかる。
【符号の説明】
【0032】
1,101,201,301:球体研磨装置、2:固定盤体、3:回転盤体、5:被加工球体、6,106,206,306:摩擦力付加手段、7:脱磁手段、106a:電磁石、106b,206b:磁力調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定盤体と、当該固定盤体に対して軸方向に所定間隔をあけて対向配置された回転盤体とを備え、前記固定盤体と前記回転盤体との間に磁性体からなる被加工球体を挟持した状態で、前記回転盤体を前記固定盤体に対して回転させることにより当該被加工球体を研磨する球体研磨装置であって、
前記固定盤体に対して、前記被加工球体を磁力によって吸着させて当該固定盤体と被加工球体との摩擦力を高める摩擦力付加手段を備えていることを特徴とする球体研磨装置。
【請求項2】
前記固定盤体が磁性体であり、前記摩擦力付加手段が当該固定盤体を磁化させる請求項1に記載の球体研磨装置。
【請求項3】
前記摩擦力付加手段により磁化された前記固定盤体を脱磁する脱磁手段をさらに備えている請求項2に記載の球体研磨装置。
【請求項4】
前記摩擦力付加手段が、電磁石と、当該電磁石の磁力を可変調整する磁力調整手段とを有する請求項1〜3に記載の球体研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−104696(P2011−104696A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261213(P2009−261213)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】