説明

球面弾性表面波センサ

【課題】円弧状帯を定義可能な三次元基材に電気音響変換素子を設け、電気音響変換素子から励起される弾性表面波を円弧状帯に設けられた反射器で反射して弾性表面波の伝搬経路を制限するとともに、温度係数が0でない場合に、センサの感度に対する温度変化の影響を補償することが可能な球面弾性表面波センサを提供する。
【解決手段】
円弧状帯を定義可能な三次元基材と、その円弧状帯上に位置しそれに沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、円弧状帯に沿って反射する反射器と、少なくとも一部が円弧状帯の電気音響変換素子と反射器間に存在し周囲の環境変化に反応する感応膜とを備えたセンサヘッドと、高周波発生部と、高周波信号を計測する検出・出力部とを備える球面弾性表面波センサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面弾性表面波センサの改良に関する。特に、本発明は、単結晶または圧電体(以後、これらを、「圧電性結晶」と称することもある。)で形成されており、少なくとも球面の一部で形成されていて円弧状帯である表面を有している基材を有しており、前記円弧状帯に沿って伝搬する弾性表面波(Surface Acoustic Wave;SAW)が励起される弾性表面波素子(以下、SAWデバイスとも称する)に関するものであり、ガスセンサに応用する上で好適な球面弾性表面波センサの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサとしては、接触燃焼式,半導体式,弾性表面波センサ等、様々なタイプが用いられている。この中の弾性表面波センサは、図7に示すような平面型の弾性表面波素子を用いている。
【0003】
図7に示すように、平行平板型の圧電基板10の上に、弾性表面波を励起するための送信側すだれ状電極11、弾性表面波を圧電変換で再び高周波電気信号に変換し、検出・出力部14で検出するための受信側すだれ状電極13、送信側すだれ状電極11から受信側すだれ状電極13に向かって弾性表面波を伝搬する伝搬路となり、且つ特定のガス分子を吸着或いは吸蔵する感応膜15が設けられている。
【0004】
圧電基板10は、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbTaO3),タンタル酸リチウム(LiTaO3)等の圧電結晶、或いは、表面に酸化膜を形成したシリコン基板やガラス基板上に、酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)などの圧電性薄膜等を形成した多層構造が用いられている。送信側すだれ状電極11には、高周波発生部12からの高周波電気信号が供給され、この高周波電気信号が送信側すだれ状電極11で圧電変換され、弾性表面波が励起される。受信側すだれ状電極13は、弾性表面波を圧電変換で再び高周波電気信号に変換し、検出・出力部14に供給し、検出・出力部14が高周波電気信号を検出する。送信側すだれ状電極11及び受信側すだれ状電極13は、例えばアルミニウム(Al),金(Au)等の金属よりなる。
【0005】
図7に示す平面型ガスセンサでは、弾性表面波の伝搬路上に、特定のガス分子を吸着或いは吸蔵する感応膜15が設けられているため、この感応膜15が、特定のガス分子を吸着或いは吸蔵することによって、例えば、弾性表面波の伝搬速度、減衰係数、分散等が変化する。或いは、この様な直接的な伝搬特性の変化の他、膜自身の発熱などを介して、間接的に伝搬特性に変化が与えられる。したがって、送信側すだれ状電極11から受信側すだれ状電極13への弾性表面波の伝搬特性を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、ひいては特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0006】
図7に示したような従来の平面弾性表面は素子においては、弾性表面波の伝搬における回折効果と圧電基板10の大きさによって、その伝搬距離が1mmから10mm程度と短かい距離に限定される。このため、センサとして十分な感度を得るためには、例えば100nm以上等のある程度の感応膜15の膜厚が必要だった。したがって、特に感応膜15を特定ガスの吸蔵薄膜にした場合は、反応速度が遅いという欠点を有していた。又、比較的厚い感応膜15は、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵によって生じる薄膜の反応による相転移、温度変化による体積の膨張・収縮等の物理的変化及びその繰り返しの衝撃に対し弱いという欠点を有していた。
【0007】
なお、高感度にするために、図7に示す構造を発展させ、平面上に弾性表面波の導波路
による周回リングを構成して、伝搬距離を増加することを提案することは可能である。しかし、平面上を伝搬する弾性表面波では、分散の影響を完全に回避することは困難であり、波形が歪んでしまう問題がある。更には、平面上に形成した導波路の曲率の大きい部分では、導波路からの漏れの抑制も困難であり、波が減衰する問題がある。
【0008】
一方、非特許文献1において、球上の弾性表面波の無回折伝搬による多重周回する報告がなされており、球上の弾性表面波を利用したセンサが報告されている。上記文献によれば、高感度、高速応答で、なおかつ機械的に丈夫なセンサヘッド及びこれを用いたガスセンサ、更にはセンサヘッドを実装したセンサユニットが提供でき、大気中や気相化学プロセス等における種々のガス成分を分析する分野に利用可能である。
【0009】
特許文献1は、球形状の弾性表面波素子(以下、ボールSAWデバイスや球状弾性表面波素子と称することもある)を開示している。ボールSAWデバイスの基材は、弾性表面波が励起可能であり励起された弾性表面波を伝搬させることが可能な球形状の表面を有している。ボールSAWデバイスにおける電気音響変換素子は、基材の球形状の表面において円環状に連続している所定の幅を有した帯域に配置されており、前記表面に励起した弾性表面波を前記帯域が連続している方向に沿い伝搬させ繰り返し周回させるよう構成される。ボールSAWデバイスでは、基材の表面の円環状に連続している弾性表面波伝搬帯域に電気音響変換素子により励起された弾性表面波を、弾性表面波伝搬帯域内で実質的に減衰することなく上記表面を繰り返し周回させることが出来る。
【0010】
ここで、球状の基材に弾性表面波を多数回周回させる方法において、さらに以下のような課題もあげられる。球状の基材であるため、球状の球面基材を位置決めし、特定位置に櫛型電極や櫛型電極に端子を形成するなどの加工が極めて難しい。また、球状の弾性表面波素子を電気的に接続する加工も、困難となる。さらに、球状の基材が圧電性結晶の場合、加工時に球状であるため結晶軸がわからなくなり、加工後に結晶方位を同定することは、極めて困難となる。
【0011】
また、ボールSAWデバイスを応用したガスセンサでは、圧電材料基材の弾性表面波の伝搬速度の温度係数がゼロでない、すなわち弾性表面波の伝搬速度が温度の影響を受けて変化することで、センサの感度が温度の影響を受けるという問題を有している。
【0012】
弾性表面波を周回させる周回帯は、球状の基材の最外周に制約される。周回帯には物理的に接触することができず保持方法が制限される。周回帯は弾性表面波を伝搬させるために表面の平坦性や清浄度などを良好にする必要があり、加工方法も制限される。同一の球状の基材に櫛形電極を複数設けて高集積化したい場合は、周回帯が最外周であることによって弾性表面波の伝搬経路が長くなり、球状基材における集積度が制限される。
【0013】
球状の基材の同一の周回帯に、複数の櫛形電極を設け、それら複数の櫛形電極から複数の弾性表面波を同時に伝搬させた場合、各弾性表面波が干渉してしまう。さらに、ある櫛形電極から発生した弾性表面波が、別の櫛形電極で電気信号に変換されて検出されてしまうことがある。
【0014】
球状の基材に櫛形電極を設け、弾性表面波を発生させて周回帯上に伝搬させた場合、周回ごとに弾性表面波が櫛形電極へ到達する伝搬距離は、球状の基材の最外周に制約される。そのため、櫛形電極から発生した弾性表面波が伝搬して櫛形電極へ到達する伝搬距離を、同一の球状の基材において任意に設定することができない。
【0015】
特許文献等は以下の通り。
【特許文献1】国際公開 WO 01/45255 号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会技術研究報告(Technical Report of Institute of Electronics, Information and Communication Engineers)US2000 巻14号(2000)p.49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、球面の周回帯の一部である円弧状帯を定義可能な三次元基材に電気音響変換素子を設け、電気音響変換素子から励起される弾性表面波を円弧状帯に設けられた反射器で反射して弾性表面波の伝搬経路を制限するとともに、圧電材料の弾性表面波の温度係数が0でない場合に、センサの感度に対する温度変化の影響を補償することが可能な球面弾性表面波センサを提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はかかる課題を解決するものであり、請求項1に関する発明は、球面の周回帯の一部である円弧状帯を定義可能な三次元基材と、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って反射する反射器と、少なくとも一部が前記三次元基材の前記円弧状帯の前記電気音響変換素子と前記反射器間に存在し周囲の環境変化に反応する感応膜とを備えたセンサヘッドと、前記電気音響変換素子に高周波電気信号を供給する高周波発生部と、前記電気音響変換素子から前記弾性表面波の伝搬特性に関する高周波信号を計測する検出・出力部とを備える球面弾性表面波センサを提供する。
【0018】
請求項2の発明は、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器を有する請求項1記載の球面弾性表面波センサを提供する。
【0019】
請求項3の発明は、前記電気音響変換素子は一方向に前記弾性表面波を励起する請求項2記載の球面弾性表面波センサを提供する。
【0020】
請求項4の発明は、複数の前記円弧状帯を定義可能な前記三次元基材において、前記電気音響変換素子と、前記反射器と、前記感応膜を複数備えたセンサヘッドを備える請求項2記載の球面弾性表面波センサを提供する。
【0021】
請求項5の発明は、球面の周回帯の一部である複数の円弧状帯を定義可能な三次元基材と、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器とを備え、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器と、少なくとも一部が前記三次元基材の前記円弧状帯の前記電気音響変換素子と前記反射器間に存在し周囲の環境変化に反応する感応膜を備えたセンサヘッドを備え、前記感応膜が存在しない前記円弧状帯における前記弾性表面波の伝搬速度と、前記感応膜が存在する前記円弧状帯における前記弾性表面波の伝搬速度の差を検出することを特徴とする球面弾性表面波センサを提供する。
【0022】
請求項6の発明は、前記感応膜が存在しない前記円弧状帯での弾性表面波の伝搬速度と、前記感応膜が存在する前記円弧状帯での前記弾性表面波の伝搬速度の温度特性が異なり、前記伝搬速度の温度特性値の違いから温度の影響を補正することを特徴とする請求項5記載の球面弾性表面波センサを提供する。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の弾性表面波素子によれば、球面の周回帯の一部である円
弧状帯に弾性表面波を伝搬させることで弾性表面波の拡散を防いで伝搬させつつ、反射器で弾性表面波を反射し、伝搬経路を周回帯の一部に限定することで素子加工を容易とし、周回帯に限定されず伝搬経路の長さを自在に定義でき、センサの集積度を高めることができる。さらに、球面を伝搬する弾性表面波の温度係数がゼロでない場合に、温度の影響を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図1を参照して本発明の第一の実施形態を説明する。
【0025】
(第一の実施形態)
センサヘッド21は、球面の周回帯の一部である円弧状帯22を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材23と、三次元基材23の円弧状帯22上に位置し、円弧状帯22に沿って弾性表面波31を励起する電気音響変換素子24と、弾性表面波31を反射する反射器25と、特定のガス分子と反応する感応膜26とを備えている。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0026】
三次元基材23に用いことのできる圧電性結晶として水晶やリチウムナイオベート、リチウムタンタレート等を例示することができる。反射器25には、一般的に金属ストライプを弾性表面波の波長の1/2の間隔でグレーティング構造に配置したものが用いられる。
【0027】
電気音響変換素子24は、所謂オルターニット・フェーズアレイであり、高周波信号発生部27から切替部28を介して供給された高周波電気信号を圧電変換して弾性表面波31を励起する。電気音響変換素子24が当該分野においては既知の一般的な櫛形電極の場合、弾性表面波31は双方向に励起される。更に、電気音響変換素子24は、円弧状帯22を伝搬して反射器25で反射された弾性表面波を圧電変換して、再び高周波電気信号に変換する機能をも兼ねている。
【0028】
電気音響変換素子24で弾性表面波から再び高周波電気信号に圧電変換された高周波電気信号は、切替部28を介して、アンプ29で増幅され、検出・出力部30に供給され、検出・出力部30で検出される。切替部28は、高周波信号発生部27と検出・出力部30を切り換える。高周波信号発生部27から高周波電気信号を電気音響変換素子24に供給して、電気音響変換素子24が弾性表面波31を送出後、所定の反射回数(第n周回:n≧1)目の弾性表面波が戻ってくる前に、電気音響変換素子24からの信号経路を検出・出力部30に切り換える。勿論、高周波信号発生部27から電気音響変換素子24の方向、及び電気音響変換素子24から検出・出力部30の方向への、方向性結合回路等でも構わない。
【0029】
センサヘッドとしての感度は、三次元基材21の表面に形成された感応膜26の材料と構造に依存する。この感応膜26は、特定のガスと接触することにより、弾性表面伝搬速度に変化を及ぼすものであることが必要である。例えば、気体を表面に吸着させ、その質量効果により弾性表面波の伝搬速度を遅くなっても良いし、或いは、気体を感応膜26内に吸蔵し、その薄膜の機械的堅さが変化し、弾性表面波の伝搬速度や減衰に変化を及ぼすものでも良い。更には、気体と反応することにより吸熱或いは発熱反応を起こし、弾性表面波の伝搬速度に影響を及ぼすものであっても良い。この感応膜26は、特定の気体とのみ選択的に反応を起こし、なおかつ、可逆反応を起こす材料であることが望ましい。
【0030】
例えば、この様な感応膜26として、水素(H2)を収蔵し、水素化物を形成して機械的性質が変化するパラジウム(Pd)、アンモニア(NH3)に対する吸着性が高いプラ
チナ(Pt)、水素化物を吸着する酸化タングステン(WO3)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)等を選択的に吸着するフタロシアニン(Phthalocyanine)等が知られている。
【0031】
第一の実施形態に係る図1(イ)のセンサヘッド21では、電気音響変換素子24より弾性表面波31を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波31の遅延時間を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。電気音響変換素子24が、双方向に弾性表面波31を励起することが可能な場合、いずれの弾性表面波31の遅延時間を計測しても良い。反射器25によって、弾性表面波31は反射され、円弧状帯22を多重周回せずに、円弧状帯22において弾性表面波31の伝搬距離を任意に設定することができる。
【0032】
また、図1(ロ)のセンサヘッドはセンサヘッド32のような構造とすることも可能である。センサヘッド32において、三次元基材33は、球面の周回帯の一部である円弧状帯34を定義できれば、球形である必要はない。これにより、三次元基材33には、球面レンズの加工技術がそのまま転用できるほか、円弧状帯34以外の部分を任意の形状とすることができることから素子加工や実装が容易となること、また、三次元基材34が圧電材料である場合の、結晶方位を示すオリフラを設けることができるなどの利点がある。
【0033】
電気音響変換素子35に高周波信号発生部27から高周波電流を印加することで、三次元基材33に弾性表面波36、弾性表面波37が励起され、円弧状帯34に沿って伝搬する。センサヘッド32は感応膜40を弾性表面波36の伝搬経路に位置する円弧状帯34上に備える。反射器38が存在しない方向に伝搬する弾性表面波37は、必要に応じ吸音材39を設けることで減衰することができる。弾性表面波36は、反射器38で反射されるため、円弧状帯34を三次元基材33に定義することで、弾性表面波36を拡散させずに伝搬させて、任意の伝搬距離を設定することができる。
【0034】
センサヘッド32のように円弧状帯34が周回帯の一部であり反射器38で反射される弾性表面波36が電気音響変換素子35で一回しか検出されない場合、電気音響変換素子35で送出された弾性表面波36が戻ってくる前に、電気音響変換素子35からの信号経路を検出・出力部30で切り換える。電気音響変換素子35より弾性表面波36を送出した後、感応膜40上を伝搬した弾性表面波36の遅延時間を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0035】
以下に図2を参照して本発明の第二の実施の形態を説明する。
【0036】
(第二の実施形態)
図2は本発明の第二の実施形態に係る弾性表面波センサを示す実施図である。
【0037】
図2(イ)のセンサヘッド51は、球面の周回帯の一部である円弧状帯52を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材53と、三次元基材53の円弧状帯52上に位置し、円弧状帯52に沿って弾性表面波54、弾性表面波55を励起する電気音響変換素子56と、弾性表面波54、弾性表面波55を反射する反射器57、反射器58と、特定のガス分子と反応する感応膜59とを備えている。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0038】
高周波信号発生部27から切替部28を介して供給される高周波電気信号によって、電気音響変換素子56から、双方向に弾性表面波54、弾性表面波55が励起される。弾性表面波54、弾性表面波55は、反射器57、反射器58で定義される伝搬経路において
多重反射する。
【0039】
センサヘッド53では、電気音響変換素子56より弾性表面波54、弾性表面波55を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波54または弾性表面波55の遅延時間を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。反射器57、反射器58によって、3次元基材53の周回帯を多重周回させずに、円弧状帯52において弾性表面波54、55の伝搬距離を任意に設定することができる。
【0040】
センサヘッドは図2(ロ)の様なセンサヘッド60のような構造とすることも可能である。センサヘッド60において、三次元基材61は、球面の周回帯の一部である円弧状帯62を定義できれば、球形である必要はない。電気音響変換素子63に高周波信号発生部27から高周波電流を印加することで、三次元基材61に弾性表面波64、弾性表面波65が励起され、円弧状帯62に沿って伝搬する。センサヘッド60は感応膜66を円弧状帯上62上に備える。弾性表面波64、弾性表面波65は、反射器67、反射器68で定義される伝搬経路において多重反射される。
【0041】
電気音響変換素子63より弾性表面波64、弾性表面波65を送出した後、感応膜66上を伝搬した弾性表面波64、または弾性表面波65の遅延時間を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0042】
以下に図3を参照して本発明の第三の実施の形態を説明する。
【0043】
(第三の実施形態)
図3は本発明の第三の実施形態に係る弾性表面波センサを示す実施図である。
【0044】
センサヘッド71は、球面の周回帯の一部である円弧状帯72を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材73と、三次元基材73の円弧状帯72上に位置し、円弧状帯72に沿って弾性表面波74を励起する電気音響変換素子75と、弾性表面波74を反射する反射器76、反射器77と、特定のガス分子と反応する感応膜78とを備えている。電気音響変換素子75は、当該分野においては周知の一方向性変換器とする。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0045】
高周波信号発生部27から切替部28を介して供給される高周波電気信号によって、電気音響変換素子75から、一方向に弾性表面波74が励起される。弾性表面波74は、反射器76、反射器77で定義される伝搬経路において多重反射する。
【0046】
センサヘッド71では、電気音響変換素子75より弾性表面波74を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波74の遅延時間を計測することによって、特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。反射器76、反射器77によって、3次元基材73の周回帯を多重周回させずに、円弧状帯72において弾性表面波74の伝搬距離を任意に設定することができる。
【0047】
三次元基材73は、第一の実施形態、第二の実施形態同様に、球面の周回帯の一部を有すれば球形である必要は無い。
【0048】
以下に図4を参照して本発明の第四の実施の形態を説明する。
【0049】
(第四の実施形態)
図4は本発明の第四の実施形態に係る弾性表面波センサを示す実施図である。
【0050】
センサヘッド80は、球面の周回帯の一部である円弧状帯81と円弧状帯82を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材83と、三次元基材83の円弧状帯81上に位置し、円弧状帯81に沿って弾性表面波84と弾性表面波85とを励起する電気音響変換素子86と、円弧状帯82に沿って弾性表面波87と弾性表面波88とを励起する電気音響変換素子89と、弾性表面波84と弾性表面波85とを反射する反射器90と反射器91と、弾性表面波87と弾性表面波88とを反射する反射器92と反射器93と、特定のガス分子と反応する感応膜94と感応膜95とを備えている。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0051】
高周波信号発生部27から切替部28を介して供給される高周波電気信号によって、電気音響変換素子86から弾性表面波84と弾性表面波85が、電気音響変換素子89から弾性表面波87と弾性表面波88が励起される。弾性表面波84と弾性表面波85は反射器90、反射器91で定義される伝搬経路において多重反射する。弾性表面波87と弾性表面波88は反射器92、反射器93で定義される伝搬経路において多重反射する。
【0052】
センサヘッド80では、電気音響変換素子86より弾性表面波84と弾性表面波85を、電気音響変換素子89より弾性表面波87と弾性表面波88を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波84または弾性表面波85と、弾性表面波87または弾性表面波88の遅延時間を計測することによって、感応膜94、感応膜95に反応する特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0053】
三次元基材83は、第一の実施形態、第二の実施形態、第三の実施形態同様に、球面の周回帯の一部を有すれば球形である必要は無い。
【0054】
以下に図5を参照して本発明の第五の実施の形態を説明する。
【0055】
(第五の実施形態)
図5は本発明の第五の実施形態に係る弾性表面波センサを示す実施図である。
【0056】
センサヘッド100は、球面の周回帯の一部である円弧状帯101と円弧状帯102を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材103と、三次元基材103の円弧状帯101上に位置し、円弧状帯101に沿って弾性表面波104と弾性表面波105とを励起する電気音響変換素子106と、円弧状帯102に沿って弾性表面波107と弾性表面波108とを励起する電気音響変換素子109と、弾性表面波104と弾性表面波105とを反射する反射器110と反射器111と、弾性表面波107と弾性表面波108とを反射する反射器112と反射器113と、特定のガス分子と反応する感応膜114とを備えている。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0057】
高周波信号発生部27から切替部28を介して供給される高周波電気信号によって、電気音響変換素子106から弾性表面波104と弾性表面波105が、電気音響変換素子109から弾性表面波107と弾性表面波108が励起される。弾性表面波104と弾性表面波105は反射器110、反射器111で定義される伝搬経路において多重反射する。弾性表面波107と弾性表面波108は反射器112、反射器113で定義される伝搬経路において多重反射する。
【0058】
センサヘッド100では、電気音響変換素子106より弾性表面波104と弾性表面波105を、電気音響変換素子109より弾性表面波107と弾性表面波108を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波104または弾性表面波105と、弾性表面波107または弾性表面波108の遅延時間を計測する。円弧状帯101における弾性表面波の遅延時間と、円弧状帯102における弾性表面波の遅延時間の差をとることによって、
圧電性結晶の温度係数などの環境の影響を除いた、感応膜114に反応する特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0059】
三次元基材103は、第一の実施形態、第二の実施形態、第三の実施形態、第四の実施形態同様に、球面の周回帯の一部を有すれば球形である必要は無い。
【0060】
以下に図6を参照して本発明の第六の実施の形態を説明する。
【0061】
(第六の実施形態)
図6は本発明の第六の実施形態に係る弾性表面波センサを示す実施図である。
【0062】
センサヘッド120は、球面の周回帯の一部である円弧状帯121と円弧状帯122を定義可能な曲面を有する圧電性結晶の三次元基材123と、三次元基材123の円弧状帯121上に位置し、円弧状帯121に沿って弾性表面波124と弾性表面波125とを励起する電気音響変換素子126と、円弧状帯122に沿って弾性表面波127と弾性表面波128とを励起する電気音響変換素子129と、弾性表面波124と弾性表面波125とを反射する反射器130と反射器131と、弾性表面波127と弾性表面波128とを反射するc反射器132と反射器133と、特定のガス分子と反応する感応膜134とを備えている。ガスセンサとして、高周波信号発生部27,切換部28,アンプ29及び検出・出力部30を備えている。
【0063】
高周波信号発生部27から切替部28を介して供給される高周波電気信号によって、電気音響変換素子126から弾性表面波124と弾性表面波125が、電気音響変換素子129から弾性表面波127と弾性表面波128が励起される。弾性表面波124と弾性表面波125は反射器130、反射器131で定義される伝搬経路において多重反射する。弾性表面波127と弾性表面波128は反射器132、反射器133で定義される伝搬経路において多重反射する。
【0064】
センサヘッド120では、電気音響変換素子126より弾性表面波124と弾性表面波125を、電気音響変換素子129より弾性表面波127と弾性表面波128を送出した後、特定の回数を多重反射した後の弾性表面波124または弾性表面波125と、弾性表面波127または弾性表面波128の遅延時間を計測する。円弧状帯121における弾性表面波の温度係数と、円弧状帯122における弾性表面波の温度係数が異なるとする。このとき円弧状帯121での伝搬速度V1は以下のように表される。
【0065】
1=Vc1+α1T+β1
また、円弧状帯122での伝搬速度V2は以下のように表される。
【0066】
2=Vc2+α2
ここで、Vc1,Vc2はそれぞれ円弧状帯121,円弧状帯122での一定温度の時の伝搬速度、α1、α2はそれぞれ円弧状帯121、122での温度係数、Tは温度、β1は感応膜125において特定ガスの影響が伝搬速度V1に及ぼす係数、mは特定ガスの感応膜125への感応量である。
【0067】
1及びV2は計測値であり、Vc1及びVc2、α1及びα2は既知であるため、V2を表す式から、温度Tを求め、V1を表す式に代入することで、特定ガスの反応量β1mを求めることができる。このように圧電性結晶の温度係数の影響を除いた、感応膜125に反応する特定のガス分子の吸着或いは吸蔵状態、更には特定のガス分子の有無や濃度を計測することができる。
【0068】
三次元基材123は、第一の実施形態、第二の実施形態、第三の実施形態、第四の実施形態、第五の実施形態同様に、球面の周回帯の一部を有すれば球形である必要は無い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示すもので、(イ)は三次元基材が球形の場合、(ロ)は球形でない場合の斜視図とその配線図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示すもので、(イ)は三次元基材が球形の場合、(ロ)は球形でない場合の斜視図とその配線図である。
【図3】本発明の第三の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示す斜視図とその配線図である。
【図4】本発明の第四の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示す斜視図とその配線図である。
【図5】本発明の第五の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示す斜視図とその配線図である。
【図6】本発明の第六の実施形態にかかわる弾性表面波素子を示す斜視図とその配線図である。
【図7】従来の平面型ガスセンサを示す斜視図とその配線図である。
【符号の説明】
【0070】
10・・・圧電基板
11・・・送信側すだれ状電極
12・・・高周波発生部
13・・・受信側すだれ状電極
14・・・検出・出力部
15・・・感応膜
21・・・センサヘッド
22・・・円弧状帯
23・・・三次元基材
24・・・電気音響変換素子
25・・・反射器
26・・・感応膜
27・・・高周波信号発生部
28・・・切換部
29・・・アンプ
30・・・検出・出力部
31・・・弾性表面波
32・・・センサヘッド
33・・・三次元基材
34・・・円弧状帯
35・・・電気音響変換素子
36・・・弾性表面波
37・・・弾性表面波
38・・・反射器
39・・・吸音材
40・・・感応膜
51・・・センサヘッド
52・・・円弧状帯
53・・・三次元基材
54・・・弾性表面波
55・・・弾性表面波
56・・・電気音響変換素子
57・・・反射器
58・・・反射器
59・・・感応膜
60・・・センサヘッド
61・・・三次元基材
62・・・円弧状帯
63・・・電気音響変換素子
64・・・弾性表面波
65・・・弾性表面波
66・・・感応膜
67・・・反射器
68・・・反射器
71・・・センサヘッド
72・・・円弧状帯
73・・・三次元基材
74・・・弾性表面波
75・・・電気音響変換素子
76・・・反射器
77・・・反射器
78・・・感応膜
80・・・センサヘッド
81・・・円弧状帯
82・・・円弧状帯
83・・・三次元基材
84・・・弾性表面波
85・・・弾性表面波
86・・・電気音響変換素子
87・・・弾性表面波
88・・・弾性表面波
89・・・電気音響変換素子
90・・・反射器
91・・・反射器
92・・・反射器
93・・・反射器
94・・・感応膜
95・・・感応膜
100・・・センサヘッド
101・・・円弧状帯
102・・・円弧状帯
103・・・三次元基材
104・・・弾性表面波
105・・・弾性表面波
106・・・電気音響変換素子
107・・・弾性表面波
108・・・弾性表面波
109・・・電気音響変換素子
110・・・反射器
111・・・反射器
112・・・反射器
113・・・反射器
114・・・感応膜
120・・・センサヘッド
121・・・円弧状帯
122・・・円弧状帯
123・・・三次元基材
124・・・弾性表面波
125・・・弾性表面波
126・・・電気音響変換素子
127・・・弾性表面波
128・・・弾性表面波
129・・・電気音響変換素子
130・・・反射器
131・・・反射器
132・・・反射器
133・・・反射器
134・・・感応膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の周回帯の一部である円弧状帯を定義可能な三次元基材と、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って反射する反射器と、少なくとも一部が前記三次元基材の前記円弧状帯の前記電気音響変換素子と前記反射器間に存在し周囲の環境変化に反応する感応膜とを備えたセンサヘッドと、前記電気音響変換素子に高周波電気信号を供給する高周波発生部と、前記電気音響変換素子から前記弾性表面波の伝搬特性に関する高周波信号を計測する検出・出力部とを備える球面弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器を有する請求項1記載の球面弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記電気音響変換素子は一方向に前記弾性表面波を励起する請求項2記載の球面弾性表面波センサ。
【請求項4】
複数の前記円弧状帯を定義可能な前記三次元基材において、前記電気音響変換素子と、前記反射器と、前記感応膜を複数備えたセンサヘッドを備える請求項2記載の球面弾性表面波センサ。
【請求項5】
球面の周回帯の一部である複数の円弧状帯を定義可能な三次元基材と、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器とを備え、前記三次元基材の前記円弧状帯上に位置し、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子と、前記弾性表面波を前記円弧状帯に沿って多重反射する反射器と、少なくとも一部が前記三次元基材の前記円弧状帯の前記電気音響変換素子と前記反射器間に存在し周囲の環境変化に反応する感応膜を備えたセンサヘッドを備え、前記感応膜が存在しない前記円弧状帯における前記弾性表面波の伝搬速度と、前記感応膜が存在する前記円弧状帯における前記弾性表面波の伝搬速度の差を検出することを特徴とする球面弾性表面波センサ。
【請求項6】
前記感応膜が存在しない前記円弧状帯での弾性表面波の伝搬速度と、前記感応膜が存在する前記円弧状帯での前記弾性表面波の伝搬速度の温度特性が異なり、前記伝搬速度の温度特性値の違いから温度の影響を補償することを特徴とする請求項5記載の球面弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−241542(P2008−241542A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84192(P2007−84192)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】