説明

環状オレフィン系付加重合体の製造方法

【課題】本発明は、触媒残さおよび未反応単量体の除去工程が不要で、耐熱性、高透明性および靱性に優れ、かつフィルム、シートなどに成形加工ができる分子量の範囲に分子量が制御された環状オレフィン付加(共)重合体を、少量のパラジウム触媒と分子量調節剤とを用いるのみによって製造する方法を提供するものである。
【解決手段】エテンの存在下で、a)パラジウムの有機酸塩またはβ−ジケトネート化合物、b)シクロペンチル系のホスフィン化合物およびc)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物からなる触媒を用い、環状オレフィン化合物を主成分とする単量体の付加(共)重合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合活性に優れるため少量の触媒成分で製造可能であり、触媒の除去および未反応単量体の除去の工程が不要である、環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法を提供するものである。また、本発明は少量の分子量調節剤を使用するのみで効率的に分子量が制御可能あるため分子量調節剤の使用量を低減できる環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法を提供するものである。さらには、耐熱性、高透明性および靱性に優れ、かつ分子量が制御されているためフィルム、シートなどへの成形加工性に優れた環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ類、バックライト、導光板、TFT基板、タッチパネルなど光学部品、液晶表示素子部品などの分野では、従来、無機ガラスが用いられていたが、近年、軽量化、小型、高密度化の要求に伴い、光学透明な樹脂による代替が進んでいる。そして、高透明性、高耐熱性、低吸水性の樹脂として、ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)およびその誘導体を単量体とする環状オレフィン系付加(共)重合体が注目されている。
【0003】
環状オレフィン系付加(共)重合体は、重合に用いる触媒により、分子量や立体規則性などが異なるため、溶媒に対する溶解挙動に大きな差異が生じる。重合触媒としてチタニウム、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウムなどが知られているが、たとえばジルコニウム系メタロセン触媒を用いて重合されたノルボルネン単独重合体は不融で、一般的な溶媒に対し不溶であることが報告されている(非特許文献1)。また、ニッケル系触媒を用いて重合されたノルボルネンの単独重合体はシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒に対して良好な溶解性を示すが、その成形物は靭性に劣り脆い。一方、パラジウム系触媒を用いて得られる付加重合体は、ニッケル系触媒で得られるものより立体規則性が高く(非特許文献2)、寸法安定性や機械強度に優れることが報告されている(特許文献6)。
【0004】
パラジウムを含む重合触媒は高い活性を示し、かつ極性の環状オレフィン化合物との共重合が可能であり有用である。パラジウムを触媒とする環状オレフィンの付加重合の先行技術としては、例えば、寸法安定性に優れた架橋体とその製造方法(特許文献6)、パラジウム化合物/イオン性ホウ素化合物/有機アルミニウム化合物から構成される触媒を用いた環状オレフィン付加重合体の製造方法(特許文献1)、パラジウム化合物/イオン性ホウ素化合物およびその他から構成される触媒を用いた環状オレフィン付加重合体の製造方法(特許文献2)、ニッケル、パラジウムなどの触媒および連鎖移動剤(分子量調節剤)としてのエチレンまたはその他のα−オレフィンを用いた環状オレフィン付加重合体の製造方法(特許文献3)、高活性なパラジウム錯体触媒を用いる環状オレフィンの製造方法(特許文献4)、パラジウム化合物、特定のコーンアングルのホスフィン化合物、イオン性ホウ素化合物およびその他の成分からなる触媒を用いて、エチレンの存在下で分子量の制御された環状オレフィン付加重合体の製造方法(特許文献5)などが知られている。
【0005】
ここでノルボルネンなどの環状オレフィン化合物から得られる付加(共)重合体は、分子量を適切に制御するための調節剤を用いない場合には、数平均分子量が30万を超える高分子量体となる。その結果、得られる重合体は溶融粘度が著しく高くなったり、溶解性が著しく低下し、たとえ溶解しても溶液が極端に高粘度で流動性のないものとなるため、フィルムやシートへの成型が不可能となる場合が多い。一方、該重合体の分子量が低いと、成型体の機械強度に劣るため脆い材料となる。このため、成形加工性と強度とのバラン
スをとるには、重合体の分子量は一定の範囲に制御される必要がある。
【0006】
また、透明性、対酸化劣化性、機械強度に優れた重合体を製造するためには、重合体中に混入する触媒残さ、未反応単量体など、重合体以外の不純物を十分に低減する必要がある。しかし、これら不純物の除去には煩雑な工程と多大なエネルギ−を要することが多い。また、一般に微量のパラジウム化合物は通常の脱灰操作によっては除去しにくいことが知られている。そのため触媒残さ、残留単量体などの除去工程を実質的に必要としない、環状オレフィン付加重合体の製造方法が求められている。
【特許文献1】特開平5−262821号公報
【特許文献2】特開平7−304834号公報
【特許文献3】特許第3476466号公報
【特許文献4】US6,455,650号公報
【特許文献5】特開2005−162990号公報
【特許文献6】特開2005−48060号公報
【非特許文献1】Makromol. Chem. Macromol. Symp., Vol.47, 831 (1991)
【非特許文献2】J. Polym. Sci.: Part B: Polym. Phys., Vol.41, 2185(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、触媒残さおよび未反応単量体の除去工程が不要で、耐熱性、高透明性および靱性に優れ、かつフィルム、シートなどに成形加工ができる分子量の範囲に分子量が制御された環状オレフィン付加(共)重合体を、少量のパラジウム触媒と分子量調節剤とを用いるのみによって製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特開2005−162990号公報(前記特許文献5)に記載の製造方法で使用される触媒は、本発明者らの検討によって、重合温度を60℃以上とした場合においては良好な活性を示すが、触媒寿命が充分でないために単量体が多く残留することがあり、一方、重合温度が60℃未満では重合速度が著しく低下することが明らかとなった。
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するためにパラジウム触媒および分子量調節剤について鋭意検討した。その結果、エテンの存在下で、パラジウムの有機酸塩またはβ−ジケトネート化合物、シクロペンチル基を有する特定のホスフィン化合物および、イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物からなる触媒を用いて、数平均分子量が10,000〜200,000の範囲である環状オレフィン付加(共)重合体の製造を行うことで、重合活性により優れるため少量のパラジウム触媒を用いるのみで、触媒残さおよび単量体の残留量を抑制することが可能であり、さらには分子量調節能により優れるため少量のエテンで効率的に分子量を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[7]の事項に関する。
[1]エテンの存在下で、
a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物および
b)下記式(2)で表されるホスフィン化合物、
および
c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物から選ばれた化合物
を用い、
下記式(1)で表される環状オレフィン化合物を主成分とする単量体を付加(共)重合し、数平均分子量が10,000〜200,000の環状オレフィン系付加(共)重合体を得ることを特徴とする環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
〔式(1)中、A1からA4は水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数5〜15のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシル基から選ばれた置換基;アルキレン基、アルケニレン基、あるいは酸素原子・窒素原子・硫黄原子から選ばれた少なくとも一種を有する有機基で連結されていてもよい、加水分解性シリル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数4〜20のトリアルキルシロキシカルボニル基、炭素数2〜20のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数3〜20のアルケニルカルボキシオキシ基、オキセタニル基から選ばれた極性または官能性の置換基;から選ばれた少なくとも1種である。
また、A1とA2、A1とA3が結合し、それぞれが結合している炭素原子を含めて環構造あるいはアルキリデン基を形成していてもよい。
mは0または1である。〕
P(R1)2(R2) ・ ・ ・式(2)
〔式(2)中、Pはリン原子、R1はそれぞれ独立にシクロペンチル基または炭素数1〜
3のアルキル基を有するシクロペンチル基から選ばれた置換基を示し、R2は炭素数3〜
10の炭化水素基を示す。〕
[2]上記式(1)で表される環状オレフィン化合物として、
1)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンおよび9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンから選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン化合物40〜100モル%と
2)アルキル基の炭素数が4〜10の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンから選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン化合物0〜60モル%と
を用いることを特徴とする上記[1]に記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【0013】
[3]上記有機酸が炭素数1〜10のカルボン酸であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
[4]上記式(2)で表されるホスフィン化合物がトリシクロペンチルホスフィンであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【0014】
[5]上記c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物から選ばれた化合物のカチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【0015】
[6]上記式(1)で表される環状オレフィン化合物1モルに対し、0.01mmol以下のパラジウム化合物を用いて付加(共)重合を行うことを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エテンの存在下で特定のパラジウム化合物含む触媒を使用することにより、極めて高活性であり、組み合わせる単量体や条件によっては単量体1モル当たりで0.001モル未満のパラジウム化合物を用いるのみにて重合可能であるため触媒残さおよび残留単量体の除去工程を実質的に必要とせず、かつ、少量の分子量調節剤を用いるのみによって分子量を効率的に制御できる環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、環状オレフィン系化合物の付加重合を、a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物およびb)上記式(2)で表される非置換あるいは置換シクロペンチルホスフィン化合物を用い、さらに加えてc)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物から選ばれた化合物を用いて行う。
【0018】
<触媒成分a>
本発明の製造方法で用いられる触媒成分a)パラジウム化合物は、パラジウムの有機酸塩またはβ−ジケトネート化合物である。
【0019】
このようなパラジウム化合物として、パラジウムのカルボン酸塩、有機スルホン酸塩が挙げられ、例えば以下の化合物が挙げられる。
パラジウムのカルボン酸塩
酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、酪酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、オクタン酸パラジウム、デカン酸パラジウム、ドデカン酸パラジウム、シクロヘキサンカルボン酸パラジウム、パラジウムビス(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボキシラート)、安息香酸パラジウム、フタル酸パラジウム、ナフタレンカルボン酸パラジウム。
【0020】
パラジウムの有機スルホン酸塩
メタンスルホン酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ドデシルベンゼンスルホン酸パラジウム、p−トルエンスルホン酸パラジウム、ナフタレンスルホン酸パラジウム。
【0021】
パラジウムのβ−ジケトネート化合物
パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
パラジウムビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)、
パラジウムビス(1−エトキシ−1,3−ブタンジオナート)。
【0022】
これらのパラジウム化合物のうち、本発明で用いる触媒成分a)としては、パラジウムの炭素数が1〜10のカルボン酸塩が好ましい。
これらのパラジウム化合物は単量体1モル当たり、パラジウム化合物として、0.0005〜0.02ミリモル、好ましくは0.001〜0.01ミリモル、さらに好ましくは0.002〜0.005ミリモルの範囲で用いられる。
【0023】
<触媒成分b>
本発明の製造方法において用いられる触媒成分b)のホスフィン化合物としては、上記式(2)で表される、シクロペンチル基または炭素数1〜3のアルキル基置換のシクロペンチル基から選ばれた置換基を少なくとも2つ有するホスフィン化合物を用いる。
【0024】
上記式(2)のR2における炭素数3〜10の炭化水素基としては、例えば、n−プロ
ピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基などのアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基などのアルキル基で置換されていてもよいアリール基を挙げることができる。
【0025】
上記式(2)で表されるホスフィン化合物としては、以下の具体例が挙げられる。
トリシクロペンチルホスフィン、
トリ(3−メチルシクロペンチル)ホスフィン、
トリ(3−エチルシクロペンチル)ホスフィン、
ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン、
ジシクロペンチル(フェニル)ホスフィン、
ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、
ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン、
ジ(3−メチルシクロペンチル)シクロペンチルホスフィン、
ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン、
ジシクロペンチル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン。
【0026】
これらのなかでもトリシクロペンチルホスフィンが最も好ましく用いられる。
このようなホスフィン化合物を触媒成分b)として用いることにより、60℃以下の比較的低温であっても高い活性を示すとともに、触媒寿命との両立が可能となる。そのため前述した少量の触媒において重合体への転化率を99.5%以上にまで高めることが可能となり、生成する(共)重合体に対する残留単量体の濃度を5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下にすることができる。また、エチレンに対して従来効果のあったトリ(o−トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどと較べても、より少ない分子量調節剤を用いることで、より効率的に分子量を制御できる。
【0027】
<触媒成分c>
本発明の製造方法において用いられる触媒成分c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物としては、下記式(3)で表される化合物が用いられる。
【0028】
〔R3+〔M(R4)4- ・ ・ ・ ・式(3)
〔式(3)中、R3はカルベニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカ
チオンまたはアニリニウムカチオンから選ばれた炭素数4〜25の有機カチオンを示し、Mはホウ素原子あるいはアルミニウム原子を示し、R4はフッ素原子置換またはフッ化ア
ルキル置換のフェニル基を示す。〕
イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物の具体例としては、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェ
ニル〕ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕アルミナート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕アルミナート、
トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、
N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、
N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、
などを挙げることができる。これらの中でもカチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンであるイオン性ホウ素化合物が好ましい。
【0029】
<触媒成分d>
本発明の製造方法において、上記触媒成分a)、b)およびc)以外に、触媒成分d)として有機アルミニウム化合物を必要に応じて用いることができ、助触媒成分として作用したり、あるいは系中の重合阻害物質を除去することができ、その結果、重合活性をさらに向上させることがある。
【0030】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、
メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、ブチルアルミノキサンなどのアルキルアルミノキサン化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムフルオライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどの、アルミニウム原子に対し少なくとも2つ以上のアルキル基を有するアルキルアルミニウム化合物などが挙げられる。
【0031】
本発明においては、上記a)〜c)、必要に応じてd)の各成分に関し、各触媒の添加順序等の調整法や使用法に特に制限はなく、本発明で重合反応に供される単量体と溶媒との混合物へ同時に、または逐次的に添加してもよい。
【0032】
上記触媒成分b)は、触媒成分a)のパラジウム化合物1モルに対して、通常0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モルの範囲で使用される。
上記触媒成分c)は、触媒成分a)のパラジウム化合物1モルに対して、通常0.2〜
10モル、好ましくは0.7〜5.0モル、さらに好ましくは1.0〜3.0モルの範囲で用いられる。
【0033】
上記触媒成分d)は、触媒成分a)のパラジウム化合物1モルに対して、通常1〜200モルの範囲で用いられる。
本発明の製造方法において、上記の触媒を使用する際に、組み合わされる分子量調節剤としては、エテンが特に大きな効果、すなわち他の1−アルケンと比較し1/100〜1/300の添加(モル比)のみにて同等の効果が得られることが明らかとなった。また、
エテンの量を多くするほど、数平均分子量の低い環状オレフィン系付加(共)重合体が得られるが、その際において、重合活性の低下を伴うことなく使用することができる。一方、上記以外の触媒系、例えばホスフィン化合物としてトリシクロヘキシルホスフィンを用いた場合と比較して、エチレンは1/2〜1/3の添加にて同等の効果が得られた。
【0034】
本発明の製造方法において、数平均分子量が10,000〜200,000の付加(共)重合体を得るために用いられるエテンの量は、単量体1モル当たり0.001〜0.1モルである。
【0035】
<単量体>
本発明の製造方法において用いられる単量体は、上記式(1)で表される環状オレフィン化合物である。
【0036】
式(1)で表される単量体である環状オレフィン化合物のうち、置換基に官能基を含まない環状オレフィン化合物は重合活性が特に良好であり、得られる付加(共)重合体の吸水率がおよび誘電率が低いため好ましく用いられる。具体例としては、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5、6−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチル−6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ベンジルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−インダニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ビニリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−(1−ブテニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリメチルシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリエチルシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、
3−メチルトリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、
トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−3,8−ジエン、
5,6−ベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、
テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−プロピルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−ブチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンが挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
これらの中でも、
1)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンあるいは炭素数が1または2のアルキル基
を置換基に有する5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、アルキル基の炭素数が1または2の9−アルキルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンから選ばれる1種以上の環状オレフィン化合物を40〜100モル%と
2)アルキル基の炭素数が4〜10の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを0〜60モル%
とを組み合わせることにより、少量のパラジウム触媒にて付加(共)重合が可能であるため触媒の除去工程がなくとも色相に優れた共重合体が得られ、さらには高い転化率が得られ残留単量体が極めて少ないため、未反応単量体の除去工程も不要となる。しかも靱性のあるフィルムやシートをこの付加(共)重合体から製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法においては、接着性の付与や架橋部位の導入の目的で、さらに、エステル基、加水分解性シリル基、酸無水物基、オキセタニル基などの官能基を置換基に有する環状オレフィン化合物を全単量体中20モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下の範囲で用いてもよい。この割合が20モル%を超えると、重合活性の低下を引き起こしたり、得られる環状オレフィン系付加(共)重合体の吸水性や誘電率が増大することがある。このような構造単位を形成する環状オレフィン化合物としては以下の具体例が挙げられる。
【0039】
アルコキシカルボニル基を置換基に有する環状オレフィン化合物
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸i−プロピル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ブチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチル、
テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸メチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸メチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸エチル、
テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸t−ブチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸t−ブチル。
【0040】
トリアルキルシロキシカルボニル基を置換基に有する環状オレフィン化合物
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ジメチルブチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ジエチルブチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4−カルボン酸トリエチルシリル。
【0041】
アルキルカルボニルオキシ基、またはアルケニルカルボニルオキシ基を置換基に有する環状オレフィン化合物
酢酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル〕、
酢酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチル−2−イル〕、
プロピオン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル〕、
プロピオン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチル−2−イル〕。
【0042】
酸無水物基を置換基に有する環状オレフィン化合物
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2、3−無水カルボン酸、
スピロ[ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3’−exo−スクシン酸無水
物]、
テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−9エン−4、5−無水カルボン酸。
【0043】
カルボンイミド基を置換基に有する環状オレフィン化合物
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−シクロヘキシル−2、3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−フェニル−2、3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−シクロヘキシル−スクシンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−フェニル−スクシンイミド。
【0044】
オキセタニル基を置換基に有する環状オレフィン化合物
5−〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔(3−オキセタニル)メトキシ〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(3−エチル−3−オキセタニル)メチル。
【0045】
加水分解性のシリル基を置換基に有する環状オレフィン化合物
5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジクロロシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
9−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−トリエトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−メチルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、
9−ジエトキシクロロシリルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン。
【0046】
加水分解性のシラシクロアルキル基を置換基に有する環状オレフィン化合物
5−〔1’-メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル〕ビシクロ[
2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔1’-メチル−2’,5’−ジオキサ−3’−メチル−1’−シラシクロペンチ
ル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔1’-メチル−2’,5’−ジオキサ−3’,4’−ジメチル−1’−シラシク
ロペンチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔1’-フェニル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル〕ビシクロ
[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔1’-メチル−2’,6’−ジオキサ−4’−メチル−1’−シラシクロヘキシ
ル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−〔1’-メチル−2’,6’−ジオキサ−4’4’−ジメチル−1’−シラシクロ
ヘキシル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
9−〔1’-メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル〕テトラシク
ロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン。
【0047】
例えばアルコキシカルボニル基、酸無水物基またはカルボンイミド基を置換基に有する環状オレフィン化合物を単量体として使用することにより、接着性の改良された付加共重合体が得られる。また、酸により加水分解しうるアルコキシカルボニル基、アルコキシシリル基などの加水分解性のシリル基、トリアルキルシロキシカルボニル基を置換基に有する環状オレフィン化合物、酸により開環しうるオキセタニル基を置換基に有する環状オレフィン化合物を単量体として使用することにより、架橋が可能な付加共重合体が得られる。
【0048】
また、本発明において分子量調節剤として用いられるエテンは、ごく一部が単量体として共重合する場合がある。エテン由来の構造単位の割合は、全構造単位に対し好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下の範囲である。
【0049】
<付加重合反応>
本発明の製造方法は重合溶媒中、エテンの存在下で、上記の多成分系触媒を用い単量体を付加重合させる。重合はバッチ式であっても、連続式であってもよく、槽型反応器、塔型反応およびチューブ型反応器などの反応器を適宜用いてよい。たとえば適切な単量体の供給口を装備した管型連続反応器を使用することもできる。重合反応は−20〜150℃、好ましくは20〜100℃の範囲にて行なわれる。重合反応に用いられる溶媒は、特に限定されないが、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロべンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などの溶媒を1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうちでも脂環式炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。これらの溶媒は、本発明で重合反応に供せられる全単量体100重量部に対し、通常0〜2,000重量部の範囲で用いることができる。
【0050】
上記重合溶媒中の水分は400ppm以下の範囲であればほとんど問題は生じず、一方、重合溶媒中の水分が400ppmを超えると、重合活性が低下することがあり好ましくない。なお、重合溶媒中の水分が100〜400ppmの範囲においては重合活性がわずか低下することがあるが、生成する環状オレフィン系付加重合体の分子量分布がシャープなものとなり、所望の特性や用途によっては、かかる条件をあえて選択することもある。重合系は窒素あるいはアルゴン雰囲気下で行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0051】
本発明の製造方法において、用いる単量体によって重合反応性に差がある場合、生成する付加共重合体の組成に著しい分布が生じ、機械強度や透明性が損なわれることがある。これを防ぐため、用いる単量体の一部を分割して、あるいは連続的に重合系に導入してもよい。最適な導入量および導入タイミングは、両者の反応性の比をFineman−Rossの方法などによって反応性比(r1,r2)として求め、その値を元に選択することもできる。重合系中での単量体の組成は、適宜サンプリングした重合反応溶液を分析し、未反応の各単量体の濃度、各単量体の転化率、1H−NMRにより測定される共重合体の組
成などを追跡することにより確認できる。係る方法をとることでさらに透明性や機械強度
に優れた環状オレフィン系付加共重合体を得ることができる。
【0052】
本発明の付加重合において、式(1)で表される環状オレフィン化合物からは、下記式(4)で表される構造単位が形成される。
【0053】
【化3】

【0054】
[式(4)中のA1〜A4およびmは、式(1)に同じ。]
本発明の付加重合において、トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−3,8−ジエンなど重合に関与しないオレフィン性不飽和結合を有するものを用いた場合は、熱や光に対する安定性に劣り、ゲル化や着色などの問題が生じる可能性がある。そのため、該重合体のオレフィン性不飽和結合の少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上を水素化することが望ましい。水素化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜採用できる。たとえば水素化触媒の存在下で、不活性溶媒中、水素圧0.5〜15MPa、0〜200℃の条件で水素化を行なうことができる。水素化触媒としては、チタン、コバルト、ニッケル、パラジウムなどの化合物と有機リチウム、有機アルミニウムなどの有機金属化合物とを組み合わせた触媒;ルテニウム、ロジウム、イリジウムなどの錯体;ニッケル、パラジウム、ルテニウムなどの金属またはその金属酸化物がアルミナ、シリカ、活性炭、ケイソウ土などに担持された不均一系触媒などを使用することができる。
【0055】
本発明の製造方法によれば、残留する触媒残さおよび単量体が少ないため、得られた付加(共)重合体を、脱触媒および脱単量体の工程を経ることなくフィルムやシートの成形に用いることができる。しかし、付加(共)重合体の水素化を行った場合などには必要に応じて触媒残さを除去してもよい。除去方法としては公知の技術を適宜用いてよく、例えば反応溶液を、塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸、乳酸、グリコール酸、オキシプロピオン酸、オキシ酪酸、エチレンジアミン四酢酸などの酸や、多価アミン化合物、トリエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、トリメルカプトトリアジン、チオ尿素などを用いて処理したり、さらに必要に応じて水、アルコール、ケトンなどで抽出し除去することができる。また、珪藻土、シリカ、アルミナ、活性炭などの吸着剤を用いて処理することもできる。その他、イオン交換樹脂により除去する方法、ゼータ電位フィルターを用いて濾過する方法、重合体溶液をエタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類により凝固する方法などを用いることができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られる環状オレフィン付加(共)重合体のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E”)から導かれる、Tanδ=E”/E’の温度分散のピーク温度で求められる。環状オレフィン系(共)重合体が十分に高い耐熱性を示すためには、ガラス転移温度は通常150〜450℃、好ましくは200〜400℃である。ガラス転移温度が150℃未満では耐熱性が劣り、また、450℃を超えると重合体が剛直になり、フィルムまたはシートなどに成形し
た際にそのフィルムまたはシートは割れやすくなることがある。
【0057】
本発明の製造方法により得られる環状オレフィン付加(共)重合体の分子量は、用途により適宜選択されるが、o−ジクロロベンゼン中、120℃において、ゲル・パーミエ−ションクロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜200,000、重量平均分子量(Mw)が30,000〜500,000であり、好ましくは、数平均分子量(Mn)が30,000〜150,000、重量平均分子量(Mw)が100,000〜300,000である。
【0058】
数平均分子量(Mn)が10,000未満であるか、または重量平均分子量(Mw)が30,000未満である場合、フィルムまたはシートとした際、割れやすいものとなる。また、数平均分子量(Mn)が200,000を超える場合、または重量平均分子量(Mw)が500,000を超える場合、フィルムまたはシートを作製する際の加工性が極端に悪化する。
【0059】
本発明の環状オレフィン付加(共)重合体は、キャスト法や溶融押出し法により、フィルム、シートおよび薄膜などに成形することができ、好ましくはキャスト法が用いられる。キャスト法では、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素化合物、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素化合物、塩化メチレン、1、2−ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物などの溶媒を、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0060】
本発明の環状オレフィン付加(共)重合体を用いて成形を行う際には、耐酸化劣化性を向上させるため、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤などの酸化防止剤から1種または2種以上選ばれた化合物を、該付加(共)重合体100重量部当たり、0.01〜5重量の範囲で配合することができる。
【0061】
また、本発明の環状オレフィン重合体はシート、フィルムおよび薄膜の形態や他の樹脂とのブレンドでの成形品で、光学材料部品をはじめ、電子・電気部品、医療用器材、電気絶縁材料、包装材料にも使用することができる。
【0062】
光学材料としては、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、CD、MD、DVDなどの光学記録基板、TFT用基板、カラーフィルター基板、光学レンズ類、封止材などに用いられる。
【0063】
電子・電気部品としては、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーション・フィルム、洗浄容器、パイプ、チューブなどに用いられる。
医療用器材としては、薬品容器、アンプル、シリンジ、輸液用バック、サンプル容器、試験管、採血管、滅菌容器、パイプ、チューブなどに用いられる。
【0064】
電気絶縁材料としては、電線・ケーブルの被覆材料、コンピューター、プリンター、複写機などのOA機器の絶縁材料、プリント基板の絶縁材料などに用いられる。
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0065】
なお、実施例および比較例における分子量およびガラス転移温度、ならびに試験例1〜
4における全光線透過率、ヘイズ値、吸水率、線膨張係数および引っ張り強度・伸びは、下記の方法で測定した。
【0066】
(1)分子量
ウォーターズ製150C型ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)装置で、東ソー製Hタイプカラムを用い、o−ジクロロベンゼンを溶媒として120℃で測定した。得られた分子量は標準ポリスチレン換算値である。
【0067】
(2)ガラス転移温度
レオバイブロンDDV−01FP(オリエンテック製)を用い、測定周波数が10Hz、昇温速度が4℃/分、加振モードが単一波形、加振振幅が2.5μmの条件で測定される、貯蔵弾性率(E')および損失弾性率(E")から導かれるTanδ(=E"/E')のピーク温度を付加共重合体のガラス転移温度とした。
【0068】
(3)光線透過率、ヘイズ
膜厚100μmのフィルムを用いて、可視UVスペクトロメーターU-2010(日立
製作所製)により、波長400nmの光線透過率を測定した。またヘイズ値はJIS K7105に準じ、Haze−Gard plus (BYK−Gardner製)を用いて測定した。
【0069】
(4)引っ張り強度・伸び
JIS K7113に準じて、試験片を引っ張り速度3mm/minで測定した。
(5)共重合組成の定量
66中、270MHzの1HNMRを用いて、メトキシシリル基を3.5ppmの吸
収をもとに定量した。もしくは重合体溶液の残留モノマーをガスグロマトグラムにより分析し、求めた。
【実施例1】
【0070】
窒素雰囲気下で100mlのガラス製耐圧ビンに、乾燥トルエンを60g、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを5.3g(35mmol)、75重量%の乾燥トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを6.9g(55mmol)仕込み、ゴムシール付きの穴あき王冠で封止した。さらに0.1MPaのエテンを9ml(0.37mmol)吹き込み、50℃に加熱した。0.2μmolの酢酸パラジウム、0.2μmolのトリシクロペンチルホスフィン、0.2μmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれ乾燥トルエン溶液として添加し、重合を開始した。重合開始後1時間および3時間経過した際にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの乾燥トルエン溶液をそれぞれ5mmolずつ添加した。合計7時間継続した結果、反応溶液のガスクロマトグラフィーにより求められる転化率は99.7%であった。残留する単量体は、環状オレフィン付加共重合体に対して5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが2700ppm、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが100ppm以下であった。この溶液を過剰のイソプロピルアルコールで凝固し、さらに真空乾燥して、環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は47,000、重量平均分子量は183,000であり、ガラス転移温度は260℃であった。
【実施例2】
【0071】
吹き込むエテンの量を5ml(0.20mmol)とした以外は実施例1と同じ操作を行い、99.7%の転化率で環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は78,000、重量平均分子量は302,000であり、ガラス転移温度は260℃であった。
【実施例3】
【0072】
酢酸パラジウムにかえてパラジウムビス(アセチルアセトネート)を0.2μmol用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、99.7%の転化率で環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた環状オレフィン系付加共重合体の数平均分子量は50,000、重量平均分子量は190,000、ガラス転移温度は265℃であった。
【実施例4】
【0073】
トリシクロペンチルホスフィンにかえてジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィンを用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、99.8%の転化率で環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は49,000、重量平均分子量は195,000、ガラス転移温度は265℃であった。
【実施例5】
【0074】
窒素雰囲気下で100mlのガラス製耐圧ビンに、乾燥トルエンを60g、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを5.3g(30mmol)、75重量%の乾燥トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを6.9g(55mmol)仕込み、ゴムシール付きの穴あき王冠で封止した。さらに0.1MPaのエテンを8ml吹き込み、50℃に加熱した。0.2μmolの酢酸パラジウム、0.2μmolのトリシクロペンチルホスフィン、0.2μmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれ乾燥トルエン溶液として添加し、重合を開始した。重合開始後1時間および3時間経過した際にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの乾燥トルエン溶液をそれぞれ7.5mmolずつ添加した。合計7時間継続した結果、反応溶液のガスクロマトグラフィーにより求められる転化率は99.7%であった。残留する単量体は、環状オレフィン系付加共重合体に対して5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが3200ppm、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが100ppm以下であった。得られた環状オレフィン系付加共重合体の数平均分子量は54,000、重量平均分子量は207,000であり、ガラス転移温度は225℃であった。
【実施例6】
【0075】
窒素雰囲気下で100mlのガラス製耐圧ビンに、乾燥シクロヘキサンを60g、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを0.75g(5mmol)、75重量%の乾燥トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを9.4g(75mmol)仕込み、ゴムシール付きの穴あき王冠で封止した。さらに0.1MPaのエテン12mlを吹き込み、55℃に加熱した。0.083μmolの酢酸パラジウム、0.083μmolのトリシクロペンチルホスフィン、0.090μmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを0.090μmolいずれも乾燥トルエン溶液として添加し、重合を開始した。重合開始後1.5時間および4時間経過した際にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの乾燥トルエン溶液をそれぞれ10mmolずつ添加した。合計10時間継続した結果、転化率は99.6%であり、全単量体に対しモル比で1,000,000分の1未満のパラジウム化合物を用いたのみであっても重合可能であった。残留する単量体は、付加共重合体に対して5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが3600ppm、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが200ppmであった。得られた環状オレフィン系付加共重合体の数平均分子量は61,000、重量平均分子量は223,000であり、ガラス転移温度は290℃であった。
【実施例7】
【0076】
窒素で置換していない100mlのガラス製耐圧ビンを容器とし、含水量が230pp
mであるトルエン60gを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行ない、99.8%の転化率で環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は48,000、重量平均分子量は156,000、ガラス転移温度は260℃であった。
【0077】
[比較例1]
エテンにかえて1−プロペンを気体で150ml吹き込んだ以外は実施例1と同様の操作を行った。反応溶液の粘度は著しく増大し、最終的には完全に流動性を失い、固形分濃度から求められる転化率は93%で頭打ちとなった。反応溶液を300mlのシクロヘキサンで希釈、2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、真空乾燥して環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は325,000、重量平均分子量は1,120,000であり、実施例と比較して明らかに多量の分子量調節剤を用いたにもかかわらず低い効果しか得られなかった。
【0078】
[比較例2]
分子量調節剤としてエテンにかえて1−ヘキセンを7.6g(90mmol)加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、98%の転化率で環状オレフィン系付加共重合体を得た。ガスクロマトグラフィーによって残留する単量体を分析した結果、環状オレフィン系付加共重合体に対して5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンは19,800ppm、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンは500ppmであった。得られた環状オレフィン系付加共重合体の数平均分子量は57,000、重量平均分子量は201,000、ガラス転移温度は265℃であり、実施例と比較して明らかに多量の分子量調節剤を要した。
【0079】
[比較例3]
トリシクロペンチルホスフィンを用いなかった以外は実施例1と同じ操作を行なったところ、重合はほとんど進行しなかった。酢酸パラジウムおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれ2.0μmol追加したところ、重合が進行した。合計7時間継続した結果、全単量体の付加重合体への転化率は92%であった。未反応の単量体をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンに由来する構造単位の含量は33mol%であった。得られた付加共重合体溶液を1.5倍に希釈し、過剰のイソプロピルアルコールにて凝固し、真空乾燥して環状オレフィン系付加重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量(Mn)は256,000、重量平均分子量(Mw)は930,000で、そのガラス転移温度は280℃であった。また、得られた付加共重合体は茶褐色に着色していた。
【0080】
[比較例4]
トリシクロペンチルホスフィンにかえて、トリシクロヘキシルホスフィンを用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。7時間重合を行なった結果、転化率は75%であり、実施例1と比較して明らかに低い重合活性しか示さなかった。得られた付加共重合体の数平均分子量は151,000、重量平均分子量は378,000、ガラス転移温度は265℃であり、トリシクロペンチルホスフィンを用いた場合と比較して高分子量体となった。
【0081】
[比較例5]
トリシクロペンチルホスフィンにかえて、トリシクロヘキシルホスフィンを用い、さらに重合温度を60℃とした以外は実施例1と同じ操作を行った。7時間重合を行なった際の転化率は98.2%であり、さらに継続しても転化率は上昇しなかったことから触媒が失活していることが示唆された。得られた付加共重合体の数平均分子量は80,000、重量平均分子量は311,000、ガラス転移温度は265℃であり、トリシクロペンチルホスフィンを用いた場合と比較して高分子量体となった。
【実施例8】
【0082】
窒素雰囲気下で100mlのガラス製耐圧ビンに、乾燥トルエンを45g、乾燥シクロヘキサンを15g、5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを0.70g(3.25mmol)、75重量%の乾燥トルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを11.9g(95mmol)仕込み、ゴムシール付きの穴あき王冠で封止した。さらに0.1MPaのエテンを13ml吹き込み、55℃に加熱した。0.083μmolの酢酸パラジウム、0.083μmolのトリシクロペンチルホスフィン、0.090μmolのトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをそれぞれ乾燥トルエン溶液として添加し、重合を開始した。重合開始後30分、60分、90分、150分経過した際に5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンをそれぞれ0.75mmol、0.5mmol、0.25mmol、0.25mmol追加した。重合を合計10時間継続した際の転化率は99.6%であった。この溶液を過剰のイソプロピルアルコールで凝固し、さらに真空乾燥して、環状オレフィン系付加共重合体を得た。得られた付加共重合体の数平均分子量は58,000、重量平均分子量は205,000、ガラス転移温度は300℃であった。
【0083】
[比較例6]
トリシクロペンチルホスフィンにかえて、トリフェニルホスフィンを用いた以外は実施例1と同じ操作をおこなった。反応溶液の粘度は著しく増大し、最終的には白濁し固化した。固形分濃度から求められる転化率は90%で頭打ちとなった。得られた環状オレフィン系付加共重合体が溶解しないため分子量は測定できなかった。
【0084】
[比較例7]
酢酸パラジウムおよびトリシクロペンチルホスフィンにかえて、テトラキス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムを1.0μmol用い、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートの添加量を1.0μmolとした以外は実施例6と同様の操作を行った。7時間重合を行なった際の転化率は5.0%であり、有機酸アニオンまたはβ−ジケトネートアニオンを有しないパラジウム化合物を用いると明らかに重合活性は著しく劣った。
【0085】
[比較例8]
窒素雰囲気下で100mlのガラス製耐圧ビンに、乾燥トルエンを50g、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを0.75g(5mmol)、75重量%の乾燥トルエン溶液を11.9g(95mmol)、分子量調節剤として、1−ヘキセンを0.084g(1.0mmol)仕込み、ゴムシール付きの穴あき王冠で封止した。30℃に調整し、ヘキサフルオロアンチモン酸で変性した2−エチルヘキサン酸ニッケル(HSbF6/Ni=1)を0.025mmol、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体を0
.225mmol、トリエチルアルミニウムを0.25mmol添加して重合を2時間行った結果、転化率は96%であった。さらに重合を継続しても転化率はほとんど変化しなかった。この付加重合体溶液へ乳酸を1g加え撹拌した後、過剰のイソプロピルアルコールで凝固し、真空乾燥して、環状オレフィン系付加重合体を得た。付加共重合体中の5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン由来の構造単位の割合は4.8モル%であった。また、その数平均分子量は108,000、重量平均分子量は216,000、ガラス転移温度は335℃であった。
【0086】
[試験例1]
実施例1にて得られた付加共重合体100重量部に対し、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)〕プロピオネートおよびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0
.5重量部からなる組成物をトルエンに溶解し、固形分濃度21%の溶液を調製した。この溶液からキャストし、乾燥して膜厚100μmのフィルムを得た。このフィルムについて、光線透過率、ヘイズ、破断強度、破断伸びを評価した結果を表1に示す。
【0087】
[試験例2]
実施例6にて得られた付加共重合体を用い、溶媒としてシクロヘキサンを用いた以外は試験例1と同様にして、フィルムを製造し、物性試験評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[試験例3]
実施例8にて得られた付加共重合体100重量部へ、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)〕プロピオネートおよびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部、加えてさらに熱酸発生剤としてp−トルエンスルホン酸シクロヘキシルを0.7重量部添加し、シクロヘキサンに溶解して固形分濃度21%の溶液を調製した。この溶液からキャストし、膜厚100μmのフィルムを得た。さらに、このフィルムを180℃の過熱水蒸気にて30分間処理することで、架橋フィルムを作成した。この架橋フィルムは液晶、シクロヘキサン、トルエン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、メタノール、アセトン、塩酸、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液に対して膨潤、溶解しなかった。この架橋フィルムについて物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
[試験例3]
比較例8にて得られた付加共重合体を用いた以外は試験例1と同様の操作を行い、フィルムを作成し、物性試験評価を行った。結果を表1に示す。ニッケル系触媒を用いて得られた付加共重合体のフィルムは、試験例1〜3で得られたものと比較して明らかに強度に劣り、脆かった。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エテンの存在下で、
a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物および
b)下記式(2)で表されるホスフィン化合物、
および
c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物から選ばれた化合物
を用い、
下記式(1)で表される環状オレフィン化合物を主成分とする単量体を付加(共)重合し、数平均分子量が10,000〜200,000の環状オレフィン系付加(共)重合体を得ることを特徴とする環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【化1】

〔式(1)中、A1からA4は水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数5〜15のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシル基から選ばれた置換基;アルキレン基、アルケニレン基、あるいは酸素原子・窒素原子・硫黄原子から選ばれた少なくとも一種を有する有機基で連結されていてもよい、加水分解性シリル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数4〜20のトリアルキルシロキシカルボニル基、炭素数2〜20のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数3〜20のアルケニルカルボキシオキシ基、オキセタニル基から選ばれた極性または官能性の置換基;から選ばれた少なくとも1種である。
また、A1とA2、A1とA3が結合し、それぞれが結合している炭素原子を含めて環構造あるいはアルキリデン基を形成していてもよい。
mは0または1である。〕
P(R1)2(R2) ・ ・ ・式(2)
〔式(2)中、Pはリン原子、R1はそれぞれ独立にシクロペンチル基または炭素数1〜
3のアルキル基を有するシクロペンチル基から選ばれた置換基を示し、R2は炭素数3〜
10の炭化水素基を示す。〕
【請求項2】
上記式(1)で表される環状オレフィン化合物として、
1)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02, 6]デカ−8−エン、テトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンおよび9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13, 6.02, 7]ドデカ−4−エンから選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン化合物40〜100モル%と
2)アルキル基の炭素数が4〜10の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンから選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン化合物0〜60モル%と
を用いることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【請求項3】
上記有機酸が炭素数1〜10のカルボン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【請求項4】
上記式(2)で表されるホスフィン化合物がトリシクロペンチルホスフィンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【請求項5】
上記c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物から選ばれた化合物のカチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。
【請求項6】
上記式(1)で表される環状オレフィン化合物1モルに対し、0.01mmol以下のパラジウム化合物を用いて付加(共)重合を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の環状オレフィン系付加(共)重合体の製造方法。

【公開番号】特開2007−161812(P2007−161812A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357683(P2005−357683)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】