説明

環状密封装置

【課題】簡単な構造でありながら、金属接触部分の密封性を高めると共に、シール対象部分の形状的特性にも対応できる環状密封装置を提供する。
【解決手段】芯金7と、該芯金に一体に固着された弾性体からなるシールリップ部材8とを備え、相互に軸回転する同心の金属製外側部材2及びフランジ部3aを有する内側部材3間に装着される環状密封装置5である。芯金は、外側部材の内周部2aに圧入嵌合される嵌合円筒部71と、外側部材におけるフランジ部側端面部2bに直接当接する当接部74を含む外向鍔状部73と、内向鍔状部73とを備える。シールリップ部材は、リップ基部80と、リップ基部より同心状に延出形成された複数の環状リップ82〜85とを含む。環状リップは、アキシャルリップ82,83と、フランジ部に摺接乃至は近接する外装リップ84と、当接部の外径側において外側部材の端面部に軸方向に沿った圧縮状態で弾接するガスケットリップ85とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状密封装置に関し、特に、自動車用車輪を回転自在に支持するハブベアリングにおいて、ハブフランジ側の外輪とハブ輪との間に装着される環状密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用車輪は、内輪、外輪及び内外輪間に介在される転動体によって構成される軸受部を介して回転自在に支持される。そして、軸受部はハブベアリングによって構成され、ハブベアリングは、車体側に固定される外輪と、回転(駆動回転或いは従動回転)シャフトに固定され、外輪に対し前記転動体を介して相対回転可能に支持される内輪としてのハブ輪とよりなる。該ハブ輪は、その一端に遠心方向に延びるよう連成されたハブフランジを含み、該ハブフランジにタイヤホイールがボルトによって固定される。従動輪では外輪回転の場合もあり、この場合は、外輪にタイヤホイールが固定され、内輪のハブフランジが車体側に固定される。前記転動体が介在される軸受空間は、内外輪間に介装された環状密封装置(シールリング)によって密封され、軸受空間内に装填されたグリース等の潤滑剤の漏出防止や、外部からの塵埃や泥水等の浸入の防止が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、前記ハブベアリングにおけるハブフランジ側に装着される環状密封装置(シールリング)の一例を示している。図8に示すシールリング100は、外輪300及びハブフランジ401付き内輪(ハブ輪)400を備えたハブベアリング(全体構成は図1参照)200における軸受空間200Aのハブフランジ401側端部に装着されるものである。このシールリング100は、外輪300の内周部301に圧入嵌合される芯金110と、該芯金110に一体に固着された弾性体(ゴム)からなるシールリップ部材120とよりなる。前記芯金110は、外輪内周部301に圧入嵌合される嵌合円筒部111と、該嵌合円筒部111の一端部111aより遠心方向に延びる外向鍔状部112と、該嵌合円筒部111の他端部111bより求心方向に延びる内向鍔状部113とを備える。
【0004】
また、前記シールリップ部材120は、前記芯金110における内向鍔状部113の内周縁部113aから外向鍔状部112の外周縁部112aに亘る面域に一体に固着されたリップ基部121と、該リップ基部121より同心状に延出形成された4個の環状リップ122,123,124,125とより構成される。環状リップ122は、ハブ輪400に弾性摺接するラジアルリップ(グリースリップ)であり、環状リップ123,124はハブフランジ401に弾性摺接するアキシャルリップ(サイドリップ)である。最外周側の環状リップ125は、ハブフランジ401に近接乃至は軽く接触する外装リップであり、前記アキシャルリップ123,124の形成部位に塵埃や泥水の浸入を防止するものである。そして、外向鍔状部112の外周縁部112aにおいてリップ基部121を外輪300側に回りこませ、この回り込み部分126を、外輪300のハブフランジ側端面部302と外向鍔状部112との間に介在させるようにしている。特許文献1では、このような回り込み部分126の存在により、芯金110の外向鍔状部112と外輪300とが金属接触せず、これにより、気密性が向上すると共に、両者の発錆が防止され、ベアリングの耐久性が向上するとされている。
【0005】
特許文献2には、自動車のアクスルとこれを覆うハウジングとの間に設けられるダストシール装置が開示されている。このダストシール装置は、金属補強環とこれに加硫接着されたゴム部からなり、アクスルシャフトを覆うハウジングの内周面に金属補強環が嵌合され、ハウジングの端面と、金属補強環の外側に延びる端部との間にゴム部を延長したパッキン部が介在するよう構成されている。そして、ハウジング端面の発錆による密封性の低下を防ぐ為に、ハウジングの外側端部外周面を覆うダストカバー部を設けている。
【0006】
また、特許文献3には、車両におけるアクスルシール構造が開示されている。このアクスルシール構造は、金属環を延長させてわん曲折曲片を形成し、このわん曲折曲片をホイールハブの端部に密接させるようホイールハブの内周面に嵌合させ、更に、金属環に接着一体とさせた弾性体でホイールハブの外周面に密接するシールリップを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−100826号公報
【特許文献2】実開平7−10631号公報
【特許文献3】実開昭61−66265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8のシールリング100は、白抜矢印に示すように不図示の治具を作用させることによって、外輪300の内周部に圧入嵌合される。この時、芯金110の外向鍔状部112と外輪300の端面部302との間に、シールリップ部材120の前記回り込み部分126が介在する為、回り込み部分126の反力が作用して圧入状態が安定せず、シールリング100が所期の嵌合位置に正確に位置決めされないことがある。従って、ハブ輪400を組み付けた際、前記アキシャルリップ123,124のハブフランジ401に対する弾接力が設計通りにならず、シール性や回転性(回転トルク等)に影響を及ぼすことになる。また、外装リップ125とハブフランジ401との隙間或は接触度合いも一定せず、この部分での塵埃及び泥水等の浸入防止機能に影響が生じる。更に、回り込み部分126には過重な圧縮力が加わる為、いわゆるゴム切れが生じることがある。加えて、回り込み部分126の回り込み度合いによっては(特に、回り込み幅が小さい場合)、圧入時に外向鍔状部112に対していびつな力が作用し、これが原因で芯金110が変形する事態に至ることもある。
【0009】
前記外装リップ125は、前述の通り、ハブフランジ401に対して近接乃至は軽く接触させて、前記アキシャルリップ123,124の形成部位に塵埃や泥水の浸入を防止するものである。ところで、ハブフランジ401の遠心方向側部分401aは、ハブベアリング200の構成上、図に示すように段差状に形成されていることが多く、その為、外装リップ125の出幅を大きくする必要がある。その結果、外装リップ125の形状保持性が低下するという問題点もあった。
【0010】
特許文献2に開示されたダストシール装置の場合、ハウジングの端面と、金属補強環との間にゴム部を延長したパッキン部が介在するから、圧入の際における前述のような問題点が生起されることは予想されるところである。また、特許文献3に開示されたアクスルシール構造の場合、金属環のわん曲折曲片とホイールハブの端部とは金属接触であるから、前記のような圧入時の問題点は生起されないが、この金属接触部分の密封性をカバーする為に設けられるシールリップは、単にホイールハブの外周面に密接するだけであるから、いわゆる圧縮弾性変形を伴ったガスケット機能を有するものではなく、金属接触部分の密封性を高めるにはなお不充分さがあることは否めなかった。
【0011】
本発明は、前記実情に鑑みなされたものであり、簡単な構造でありながら、金属接触部分の密封性を高めると共に、シール対象部分の形状的特性にも対応できる環状密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る環状密封装置は、芯金と、該芯金に一体に固着された弾性体からなるシールリップ部材とを備え、相互に軸回転する同心の金属製外側部材及びフランジ部を有する内側部材間に装着される環状密封装置であって、前記芯金は、前記外側部材の内周部に圧入嵌合される嵌合円筒部と、該嵌合円筒部の一端部より遠心方向に延び、前記圧入嵌合状態で該外側部材における前記フランジ部側端面部に直接当接する当接部を含む外向鍔状部と、該嵌合円筒部の他端部より求心方向に延びる内向鍔状部とを備え、前記シールリップ部材は、前記芯金における内向鍔状部の内周縁部から外向鍔状部の外周縁部に亘る面域に一体に固着されたリップ基部と、該リップ基部より同心状に延出形成された複数の環状リップとを含み、前記環状リップは、前記フランジ部に弾性摺接する複数のアキシャルリップと、最外周側にあって該フランジ部に摺接乃至は近接するよう形成された外装リップと、前記当接部の外径側において反フランジ部側に向くよう形成され前記外側部材の端面部に軸方向に沿った圧縮状態で弾接するガスケットリップとを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明において、前記当接部の外径側に、芯金の外向鍔状部と前記外側部材の端面部とが当接しない非当接部を有し、前記ガスケットリップは、この非当接部において、前記外向鍔状部と前記外側部材の端面部との間に圧縮状態で介在されるよう構成しても良い。この場合、前記非当接部を、前記外向鍔状部を、前記当接部の外径側において外側部材の端面部より離間するよう曲成した曲成部分によって構成し、或は、前記外側部材の端面部を、前記当接部の外径側において外向鍔状部より離間するよう削成した削成部分によって構成し、更には、両者を併用することによって構成しても良い。
【0014】
本発明において、前記外向鍔状部の外周縁部を、前記外側部材の端面部の最外径部より外径側に突出させても良い。
【0015】
本発明において、前記外装リップ及びガスケットリップ間における前記リップ基部を、前記外向鍔状部の外周縁部を跨るように前記芯金に固着一体とさせても良い。
【0016】
本発明において、前記ガスケットリップの形成基部には、凹条の逃げ部が形成されているものとしても良い。
【0017】
更に、本発明の環状密封装置を、ハブベアリングの軸受空間を密封するものとしても良い。この場合、前記外側部材がハブベアリングの外輪、内側部材がハブベアリングの内輪としてのハブ輪、前記フランジ部が該ハブ輪の一部を構成するハブフランジに夫々相当することになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る環状密封装置は、相互に軸回転する同心の外側部材及びフランジ部を有する内側部材間に装着される。この装着状態では、芯金の嵌合円筒部をして外側部材の内周部に圧入嵌合され、シールリップ部材を構成する環状リップの内、複数のアキシャルリップは内側部材のフランジ部に弾性摺接するから、相互に軸回転する外側部材及び内側部材の間が密封される。最外周側にある外装リップは、前記フランジ部に摺接乃至は近接するよう形成されているから、塵埃や泥水等のアキシャルリップの形成部位への浸入が阻止され、アキシャルリップの弾性摺接部の損耗が生じず、その密封機能が長く維持される。しかも、この外装リップは、フランジ部に摺接乃至は近接するだけであるから、これによる回転トルクの増大を来たす懸念がない。
【0019】
そして、芯金の外向鍔状部は、前記外側部材に圧入嵌合させた時に前記フランジ部側端面部に直接当接する当接部を含むから、当接部が金属接触となり、本環状密封装置が所期の位置に正確に嵌合され、意図した密封機能が確実に発揮される。更に、前記環状リップとしてのガスケットリップが、前記当接部の外径側において反フランジ部側に向くよう形成され、且つ、前記外側部材の端面部に軸方向に沿った圧縮状態で弾接するよう構成されているから、前記圧入嵌合の際、該ガスケットリップが、前記当接部の外径側において圧縮状態で介在し、前記金属接触となる当接部の密封性がカバーされる。従って、金属嵌合となる外側部材と芯金との嵌合部分から密封対象部位への泥水等の浸入が確実に阻止される。
【0020】
前記当接部の外径側に、前記曲成部分或は削成部分等による非当接部を形成し、前記ガスケットリップが、この非当接部において、前記外向鍔状部と前記外側部材の端面部との間に圧縮状態で介在されるよう構成した場合、前記圧入嵌合の際に、ガスケットリップが圧縮され、その反力を伴った相互の面圧によって、この部分の密封性が確実に得られる。しかも、この部分は静止体間の密封であるから、圧縮反力が前記回転トルクの増大を来たす懸念もない。
【0021】
また、前記外向鍔状部の外周縁部を、前記外側部材の端面部の最外径部より外径側に突出させるようにした場合、この外周縁部を起点として前記外装リップを形成するようにすれば、フランジ部の形状的特性により、外側部材の端面部からフランジ部が離れるような場合でも、外装リップの出幅を左程大きくする必要がなく、その形状保持性を保った状態で形成することができる。また、外装リップの先端部がより遠心方向に延出されることになり、外側部材及び内側部材の間が密封性がより向上する。更に、ガスケットリップと外装リップとが離れることになるから、前記圧入嵌合の際におけるガスケットリップの圧縮の影響が外装リップにおよび難く、圧入嵌合に伴って外装リップが起き上がる可能性も少なくなる。
【0022】
更に、前記外装リップ及びガスケットリップ間における前記リップ基部を、前記外向鍔状部の外周縁部を跨るように前記芯金に固着一体とすれば、この部分での固着強度が増すと共に、外周縁部がリップ基部で覆われ、この部分からの外向鍔状部乃至は芯金が発錆するような懸念もなく、密封装置の耐久性が向上する。
【0023】
前記ガスケットリップの形成基部に、凹条の逃げ部を形成した場合、前記圧入嵌合の際におけるガスケットリップの圧縮の影響が前記外装リップにおよび難く、これによってもガスケットリップの起き上がりの可能性が少なくなる。
【0024】
本発明の環状密封装置を、ハブベアリングの軸受空間を密封するものとした場合、ハブベアリングのハブフランジ側シールリング(環状密封装置)における前述の特有の問題点が解消され、ハブベアリングの軸受空間の密封性が向上すると共に、ハブベアリングの組立時における前記不具合もなくなり、組立工程の合理化も図られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の密封装置を組み込んだ軸受の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図であり、更に要部の拡大部を含む図である。
【図3】同実施形態の変形例を示す図2の拡大部と同様図である。
【図4】(a)は他の実施形態を示す図3と同様図であり、(b)はその変形例の同様図である。
【図5】(a)は図4(a)の別の変形例を示す図3と同様図であり、(b)は図4(b)の変形例を示す同様図である。
【図6】(a)は更に他の実施形態を示す図3と同様図であり、(b)はその変形例の同様図である。
【図7】図2に示す実施形態の別の変形例を示す図3と同様図である。
【図8】従来の密封装置を示す図2と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図1は自動車の車輪を回転自在に支持するハブベアリング1の構造の一例を示すものであり、外輪(外側部材)2は、車体の懸架装置(不図示)に取付固定される。内輪(内側部材)3を構成するハブ輪3Aのハブフランジ(フランジ部)3aにボルト3bによりタイヤホイール(不図示)が固定される。また、ハブ輪3Aに形成されたスプライン軸孔3cには駆動シャフト(不図示)がスプライン嵌合されて、該駆動シャフトの回転駆動力がタイヤホイールに駆動伝達される。そして、ハブ輪3Aは内輪部材3Bと共に内輪3を構成する。この外輪2と前記内輪3との間に2列の転動体(玉)4…がリテーナ4aで保持された状態で介装されている。この転動体4…及び内外輪2,3に形成された各軌道面により軸受空間1Aが構成され、軸受空間1Aを介して、内輪3が外輪2に対して軸回転可能に支持される。前記シャフトが従動回転するものである場合は、該シャフトは、ハブ輪3Aと共に外輪2に対してフリー回転可能とされる。2列の転動体(玉)4…の軌道面の軸心L方向に沿った外側、即ち、前記軸受空間1Aの軸心L方向の両側には、前記転動体4…の転動部(軸受空間1A)に装填される潤滑剤(グリース)の漏出或いは外部からの泥水や塵埃等の浸入を防止するためのシールリング(密封装置)5,6が、外輪2と内輪3との間に圧入装着されている。
【0027】
図2は、反車体側(アウター側)シールリング5の装着部の拡大断面図及び要部の更に拡大図を示し、図2を参照してシールリング5の構造を説明する。該シールリング5は、外輪2の内周部2aに圧入嵌合一体に装着される芯金7と、該芯金7に固着一体とされ環状リップ81〜85を備えるシールリップ部材8とよりなる。芯金7は、前記外輪2の内周部2aに圧入嵌合される嵌合円筒部71と、該嵌合円筒部71の一端部71aより遠心方向に延びるよう連成された外向鍔状部73と、該嵌合円筒部71の他端部71bより求心方向に延びる内向鍔状部72とを備える。前記外向鍔状部73は、芯金7の外輪2に対する嵌合円筒部71をした圧入嵌合状態で、該外輪2における前記ハブフランジ3a側端面部2bに直接当接する当接部74及び該当接部74の外径側に連なり端面部2bに当接しない非当接部75を有している。この非当接部75は、短筒部75Aaと、該短筒部75Aaを介してハブフランジ3a側に張出すよう形成された環状円盤部75Abとよりなる曲成部分75Aによって構成される。
【0028】
また、前記シールリップ部材8は、前記芯金7における内向鍔状部72の内周縁部72aから外向鍔状部73の外周縁部73aに亘る面域に一体に固着されたリップ基部80と、該リップ基部80より同心状に延出形成された前記5個の環状リップ81〜85とを含む。図示のシールリップ部材8はゴムの成型体からなり、ゴム材の芯金7に対する加硫一体成型により形成したものを示している。環状リップ81は、ラジアルリップ(グリースリップ)であり、前記内周縁部72aを回り込む部分より前記軸受空間1A側に向かい求心方向に縮径し、前記軸心Lを中心とする円錐状とされ、ハブベアリング1に対する組付状態では前記ハブ輪3Aの周面に弾性摺接するよう形成される。環状リップ82,83は、アキシャルリップであり、前記リップ基部80より前記軸受空間1Aとは反対側に向かい遠心方向に拡径し、前記軸心Lを中心とする同心円錐状とされ、いずれも前記組付状態では、ハブフランジ3aの立ち上がり部分からハブフランジ3aの盤面において弾性摺接するよう形成されている。
【0029】
前記ラジアルリップ81、アキシャルリップ82,83のハブ輪3Aに対する弾性摺接により、軸受空間1Aに装填されたグリース等の潤滑剤の外部への漏出が防止され、また、外部からの泥水や塵埃等の軸受空間1A内への浸入が防止され、外輪2に対する内輪3の回転自在な支持関係が維持され、ハブベアリング1の長寿命化が図られる。
【0030】
最外周側の環状リップ84は、前記外周縁部73a付近のリップ基部80より、ハブフランジ3a側に向き、遠心方向に拡径し、前記軸心Lを中心とする同心円錐状とされた外装リップである。該外装リップ84は、ハブフランジ3aにおける遠心側部分に形成された段差部3aaに摺接乃至は近接するよう形成されている。図2では、外装リップ84は、前記段差部3aaの表面に小隙rを以って対峙しているが、軽く接触していても良い。これにより、前記アキシャルリップ82,83の形成部位への、外部から泥水や塵埃等の浸入が阻止される。従って、これらアキシャルリップ82,83の前記ハブフランジ3aに対する弾性摺接部に、塵埃等が噛み込んでアキシャルリップ82,83の先端が磨耗することがなく、アキシャルリップ82,83の長寿命化が図られる。
【0031】
更に、環状リップ85は、前記当接部74の外径側において、即ち、前記非当接部75において反ハブフランジ3a側に向くよう形成され、前記外輪2の端面部2bに軸心L方向に沿った圧縮状態で弾接するガスケットリップである。ガスケットリップ85が端面部2bに圧縮状態で弾接することにより、この部分が密封され、泥水等の芯金7と外輪2との嵌合部分から軸受空間1A内への浸入が阻止される。図2において、2点鎖線で示すラジアルリップ81、アキシャルリップ82,83及びガスケットリップ85は、それぞれ弾性変形前の初期形状を表している。
【0032】
外装リップ84及びガスケットリップ85間における前記リップ基部80は、前記外向鍔状部73の外周縁部73aを跨るように(回り込むように)前記芯金7に固着一体とされている。これによって、外装リップ84及びガスケットリップ85の形成基部が芯金に強固に一体とされ、また、外周縁部73aがリップ基部80に覆われることにより、外向鍔状部73等の発錆が防止される。更に、外向鍔状部73の外周縁部73aを、外輪2の端面部2bの最外径部より外径側に突出させるよう形成している。従って、図のように段差部3aaを備えたハブフランジ3aであっても、この外装リップ84の形成起点としての外周縁部73aとの距離が実質的に離間することがなく、外装リップ84の出幅を左程大きくする必要がない。これによって、外装リップ84の形状保持性も得られる。また、外装リップ84の先端部がより遠心方向に延出されることになり、外輪2及び内輪3の間が密封性がより向上する。更に、ガスケットリップ85と外装リップ84とが離れることになるから、前記圧入嵌合の際におけるガスケットリップ85の圧縮の影響が外装リップ84におよび難く、圧入嵌合に伴って外装リップ84が起き上がる可能性も少なくなる。
【0033】
前記当接部74のハブランジ3a側の面における前記リップ基部80の固着部は、シールリング5を、白抜矢印に示すように治具(不図示)を作用させることによって、外輪2の内周部2aに圧入嵌合する際の治具の作用部80aとされる。即ち、この作用部80aに治具を白抜矢印に示すように作用させ、当接部74が外輪2の前記端面部2bに当接するまで圧入嵌合させる。この時、ガスケットリップ85は、軸心L方向に沿って圧縮され、図のように圧縮された状態で前記非当接部75と端面部2bとの間に介在する。従って、この圧縮弾性変形による面圧が作用して、非当接部75と端面部2bとの間が完全に密封され、当接部74と端面部2bとの金属接触部分及び嵌合円筒部71と外輪2との金属嵌合部分への泥水や塵埃等の浸入が阻止される。そして、ガスケットリップ85は、前記非当接部75と端面部2bとの間の空間部で圧縮されることになるから、ガスケットリップ85を構成するゴムの逃げ部が確保され、ガスケットリップ85の圧縮弾性変形が円滑になされる。
【0034】
しかも、当接部74と端面部2bとの当接は金属接触であるから、当接部74を端面部2bに確実に当接させるように嵌合すれば、シールリング5を所期の位置に正確に位置決め嵌合させることができる。これにより、ハブ輪3Aを組み付けた際、前記アキシャルリップ82,83のハブフランジ3aに対する弾接力が設計通りとなり、該アキシャルリップ82,83によるシール性や回転性(回転トルク等)を所期の意図した状態に維持することができる。また、外装リップ84とハブフランジ3aの前記段差部3aaとの小隙rも設計値に維持することができ、この部分での泥水や塵埃等の浸入防止機能も、所期の意図した状態に維持することができる。
【0035】
図3は、前記非当接部75の形成態様の変形例を示している。即ち、当接部分74の外径側から、ハブフランジ3a側に向かって漸次遠心方向に拡径するテーパ形状部(曲成部分)75Bによって、非当接部75が形成されている。ガスケットリップ85は、前記当接部74の外径側において、即ち、前記非当接部75において、前記と同様に反ハブフランジ3a側に向くよう形成されている。従って、作用部80aに対して白抜矢印のように治具を作用させてシールリング5を外輪2の内周部2aに圧入嵌合させた時には、非当接部75と外輪2の端面部2bとの間でガスケットリップ85が圧縮され、前記と同様の密封機能が発現される。その他の構成は前記の例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0036】
図4(a)(b)は、前記非当接部75の形成態様の別の実施形態を示している。これらの例は、いずれも、芯金7の外向鍔状部73が平板状であり、当接部74の外径側部分で、外輪2の端面部2bを外向鍔状部73から離間するよう削成した削成部21によって、実質的に非当接部75が構成されるようにしたことで特徴付けられる。図4(a)に示す削成部21は、外輪2の端面部2bと外周部2cとの角部を面取り状に削成したテーパ部21Aとされている。また、(b)に示す削成部21は、外輪2の端面部2bと外周部2cとの角部を円環状に研削除去した段差部21Bとされている。これらの例においても、作用部80aに対して白抜矢印のように治具を作用させてシールリング5を外輪2の内周部2aに圧入嵌合させた時には、非当接部75と外輪2の端面部2b(テーパ部21A、段差部21B)との間でガスケットリップ85が圧縮され、前記と同様の密封機能が発現される。これらの場合、外向鍔状部73は平板状であるから、前記作用部80aを図のように大きく確保でき、前記圧入嵌合の作業性に優れるというメリットがある。その他の構成は前記の例と同様であるから、ここでも、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0037】
図5(a)(b)は、図4(a)(b)の例の変形例を示す。これらの例の基本的な非当接部75の形成態様は、図4(a)(b)の例と同じであるが、非当接部75における外向鍔状部73の外輪2側を凹ませて薄肉部75Cとしている点で異なる。このような薄肉部75Cを形成することにより、ガスケットリップ85の圧縮空間が広がり、圧縮時の前記ゴムの逃げ部が大きく確保され、ガスケットリップ85の圧縮弾性変形の円滑性が向上する。その他の構成は図4(a)(b)の例と同様であるから、ここでも、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0038】
図6(a)(b)は、前記非当接部75の形成態様の更に別の実施形態を示している。これらの例は、図2の例と図4(a)(b)の例とを併用したことで特徴付けられるものである。即ち、図6(a)の例は、非当接部75を、芯金7の外向鍔状部73に形成された段差状の曲成部分75Aと、外輪2に形成されたテーパ状の削成部21(21A)とを併用することによって構成し、(b)の例は、非当接部75を、芯金7の外向鍔状部73に形成された段差状の曲成部分75Aと、外輪2に形成された段差状の削成部21(21B)とを併用することによって構成している。いずれの例も、ガスケットリップ85の圧縮空間が大きく確保され、ガスケットリップ85の圧縮弾性変形の円滑性がより向上する。その他の構成は前記各例と同様であるから、ここでも、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。尚、例示を省略するが、同趣旨から、非当接部75の形成態様として、図3の例の曲成部分75Bと図4(a)(b)の例の削成部分21(21A,21B)とを併用することも可能である。更に、これらに、図5に示す薄肉部75Cを適用することも可能である。
【0039】
図7は、図2に示す例の更に別の実施形態を示し、ガスケットリップ85の両側に凹条の逃げ部85a,85aが形成されている。このような逃げ部85a,85aの形成により、前記圧入嵌合の際におけるガスケットリップ85の圧縮の影響が外装リップ84におよび難く、これによってもガスケットリップ85の起き上がりの可能性が少なくなる。この場合、逃げ部85a,85aをガスケットリップ85の形成基部の両側に形成しているが、外周側の片方のみでも良い。また、この逃げ部85a,85aは、図3乃至図6に示す例にも適用することができる。その他の構成は前記各例と同様であるから、ここでも、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0040】
尚、前記実施形態では、本発明の密封装置がハブベアリング1のシールリング5である例について述べたが、例えば、同様に構成されるアクスル軸の密封装置にも適用することができる。また、シールリップ部材8が、ゴムの加硫成型体である例について述べたが、弾性合成樹脂の成型体であっても良い。更に、各環状リップの形状(数も含む)、芯金7の形状等も例示のもの限定されるものではない。加えて、外輪回転のハブベアリングにおいても、本発明の環状密封装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ハブベアリング
1A 軸受空間
2 外輪(外側部材)
2a 外輪(外側部材)の内周部
21(21A) 削成部
21(21B) 削成部
3 内輪(内側部材)
3A ハブ輪
3a ハブフランジ(フランジ部)
5 シールリング(密封装置)
7 芯金
71 嵌合円筒部
71a 一端部
71b 他端部
72 内向鍔状部
72a 内周縁部
73 外向鍔状部
73a 外周縁部
74 当接部
75 非当接部
75A 曲成部
75B 曲成部
8 シールリップ部材
80 リップ基部
82,83 アキシャルリップ(環状リップ)
84 外装リップ(環状リップ)
85 ガスケットリップ(環状リップ)
85a 逃げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、該芯金に一体に固着された弾性体からなるシールリップ部材とを備え、相互に軸回転する同心の金属製外側部材及びフランジ部を有する内側部材間に装着される環状密封装置であって、
前記芯金は、前記外側部材の内周部に圧入嵌合される嵌合円筒部と、該嵌合円筒部の一端部より遠心方向に延び、前記圧入嵌合状態で該外側部材における前記フランジ部側端面部に直接当接する当接部を含む外向鍔状部と、該嵌合円筒部の他端部より求心方向に延びる内向鍔状部とを備え、
前記シールリップ部材は、前記芯金における内向鍔状部の内周縁部から外向鍔状部の外周縁部に亘る面域に一体に固着されたリップ基部と、該リップ基部より同心状に延出形成された複数の環状リップとを含み、
前記環状リップは、前記フランジ部に弾性摺接する複数のアキシャルリップと、最外周側にあって該フランジ部に摺接乃至は近接するよう形成された外装リップと、前記当接部の外径側において反フランジ部側に向くよう形成され前記外側部材の端面部に軸方向に沿った圧縮状態で弾接するガスケットリップとを含むことを特徴とする環状密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の環状密封装置において、
前記当接部の外径側に、芯金の外向鍔状部と前記外側部材の端面部とが当接しない非当接部を有し、前記ガスケットリップは、この非当接部において、前記外向鍔状部と前記外側部材の端面部との間に圧縮状態で介在されるよう構成したことを特徴とする環状密封装置。
【請求項3】
請求項2に記載の環状密封装置において、
前記非当接部が、前記外向鍔状部を、前記当接部の外径側において外側部材の端面部より離間するよう曲成した曲成部分によって構成されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の環状密封装置において、
前記非当接部が、前記外側部材の端面部を、前記当接部の外径側において外向鍔状部より離間するよう削成した削成部分によって構成されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
前記外向鍔状部の外周縁部が、前記外側部材の端面部の最外径部より外径側に突出していることを特徴とする環状密封装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
前記外装リップ及びガスケットリップ間における前記リップ基部は、前記外向鍔状部の外周縁部を跨るように前記芯金に固着一体とさていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
前記ガスケットリップの形成基部には、凹条の逃げ部が形成されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
ハブベアリングの軸受空間を密封するものであって、前記外側部材がハブベアリングの外輪、内側部材がハブベアリングの内輪としてのハブ輪、前記フランジ部が該ハブ輪の一部を構成するハブフランジであることを特徴とする環状密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230150(P2010−230150A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81335(P2009−81335)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】