説明

生体再吸収性微粒子の製造方法、得た微粒子及びその使用

【課題】生体再吸収性微粒子の製造方法、得た微粒子及びその使用の提供。
【解決手段】本発明は、タンパク性物質が結合する非ラメラ生体再吸収性微粒子の調製方法であって、以下の段階:
(i)安定化剤及び界面活性剤を使用せず、少なくとも一種の生体再吸収性ポリマーから上記微粒子を調製する段階、並びに、
(ii)界面活性剤を使用せず、段階(i)で得た微粒子に上記タンパク性物質を結合させる段階:を含む
ことを特徴とする方法に関する。
本発明は、更に、こうして得た微粒子、並びに、診断及び治療におけるその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に予防接種の分野で有用な、タンパク性物質が結合する新規生体再吸収性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質及びペプチド等のタンパク性物質は抗原とも呼ばれ、ウイルス由来疾患等の多くの疾患の治療に、概してワクチンとして広く使用される。
【0003】
抗原の活性及び強度の増強、並びに、抗原含有医薬組成物の安定性改善のため、これら組成物はアジュバントを含有する。この点で、ワクチン調製物は細胞性応答及び液性応答を増強するための免疫性アジュバントを含むことが多い。
【0004】
従来のワクチンは、上記アジュバントを含有する場合でも標的病原体に対する非方向性保護を有するという欠点を有する場合が多い。用語「方向性保護」は、免疫系の細胞性応答及び液性応答の両方を含む保護の意味を意図する。
【0005】
好適な免疫応答の取得には、抗原が担体に吸着又は担体中に捕獲した状態で結合する粒子状担体を使用する。この担体は免疫系への提示対象である抗原のコピーを複数有し、局所リンパ節において抗原の捕獲及び保持を促進する。この粒子は抗原提示細胞により貪食され得、免疫系への抗原提示の増強が可能である。この担体の例としては、ポリ(メタクリル酸メチル)ポリマー、並びに、ポリ(D−又は、L−乳酸)(それぞれD−PLA又はL−PLAとして知られる)等のポリラクチドから、及び、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGとして知られる)からなる微粒子が含まれる。
【0006】
抗原を捕獲するPLGに基づく微粒子は免疫応答を付与可能である。例えば、Mooreらは、マイクロカプセル化したHIVウイルスgp120抗原がHIV特異的CD4+及びCD8+T細胞性応答を誘導することを示している(非特許文献1)。同様に、Vordemeierらは、PLG捕獲結核菌抗原が、この抗原で免疫したマウスにおいて液性応答及びT細胞性応答の両方を誘導することを示した(非特許文献2)。
【0007】
この種のアジュバントは他の高毒性の系よりも利点をいくつか有するが、微粒子の製造時に、抗原を変性させてその免疫原性を破壊しかねない溶媒等の腐食性化学物質を使用し、かつ、上記生産が困難であるという欠点を有する。また、カプセル化等の捕獲過程に要する激しい撹拌によって抗原が分解する可能性もある。
【0008】
従って、抗原が表面に吸着又はグラフトした微粒子の使用が提案される(非特許文献3)。しかしEldrigeら(非特許文献4)等による、好適なアジュバント効果の達成には微粒子による抗原捕獲が必要であると示す文献がいくつかある。
【0009】
特許文献1は、抗原が吸着可能な生分解性ポリマーからなる粒子を記載する。この粒子は上記抗原の輸送に有用である。この粒子は、結晶性又は部分的結晶性のポリマーの使用によりラメラ特性を有するために大きさの制御が不可能であるという欠点を有する。実際、予防接種用の粒子はサブミクロンサイズでなければトランスフェクション及び免疫に有効ではない。
【0010】
特許文献2及び3中には、抗原を吸着するポリラクチド又はPLGに基づく微粒子、及び、その使用による免疫応答刺激について記載する。これら特許出願中の抗原吸着微粒子は全て、微粒子のコロイド安定性を維持する界面活性剤及びポリ(ビニルアルコール)等の安定化剤をポリマー粒子調製時に使用して得たものである。これにより得た微粒子には、微粒子中の界面活性剤及び安定化剤により毒性を有するという欠点がある。
【特許文献1】国際特許出願WO97/02810
【特許文献2】国際特許出願WO98/33487
【特許文献3】国際特許出願WO00/06123
【非特許文献1】Mooreら,Vaccine,13:1741−1749(1995)
【非特許文献2】Vordemeierら,Vaccine,13−1576−1582(1995)
【非特許文献3】Rock K.L.,Efficient MHC I presentation of exogenous Ag,PNAS(1993)
【非特許文献4】Eldrigeら,Infect.Immun.,59:2978−2986(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本出願人は予想外にも、免疫応答の捕獲が要求される抗原性タンパク性物質が結合し、かつ、上記欠点を克服した、すなわち、ポリマー微粒子調製時に安定化剤及び界面活性化剤を使用せず、かつ、微粒子表面への抗原結合のための界面活性化剤を使用せずにコロイド安定性を損なうことなく調製するために毒性のない、上限ミクロンサイズの球状非ラメラ生体再吸収性微粒子を取得可能であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明の第一の主題は、
タンパク性物質が結合する生体再吸収性微粒子の調製方法であって、以下の段階:
(i)安定化剤及び界面活性剤を使用せず、少なくとも一種の生体再吸収性ポリマーから上記微粒子を調製する段階、並びに、
(ii)界面活性剤を使用せず、段階(i)で得た微粒子に上記タンパク性物質を結合させる段階:を含む
ことを特徴とする方法である。
【0013】
本発明の方法により得た微粒子は安定化剤及び界面活性剤を使用しない点で新規である。
【0014】
従って本発明の別の主題は、本発明の方法により取得可能な、タンパク性物質が結合する生体再吸収性微粒子である。
【0015】
例外なく、本発明の粒子はコロイド安定性を保持する。
【0016】
本発明の微粒子は細胞性応答及び液性応答の両方の刺激に有用であるため、治療及び診断の両方に有用である。
【0017】
従って本発明の別の主題は、医療品調製用の、本発明の微粒子の使用、及び、本発明の微粒子を含む医薬組成物、特にワクチンである。
【0018】
最後に本発明の別の主題は、上記微粒子に結合するタンパク性物質に関連する病状のin vitro診断用の、本発明の微粒子の使用である。
【0019】
予防接種用の微粒子はこれを摂取する生物に対して毒性を有してはならず、また同時に、そのコロイド安定性を保持する必要がある。
【0020】
界面活性剤又は安定化剤を使用しない本発明の方法により例外なく上記粒子を取得可能である。
【0021】
用語「微粒子」は、抗原提示細胞中に進入可能な上限ミクロンサイズ、好ましくは上限サブミクロンサイズの粒子の意味を意図する。
【0022】
用語「上限ミクロンサイズ」は999μm以下、用語「上限サブミクロンサイズ」は999nm以下の大きさの意味を意図する。
【0023】
微粒子の粒径は3μm以下であることが好ましい。本発明の粒子はサブミクロンサイズであることがより好ましく、好ましくは直径150〜900nm、より好ましくは直径250〜700nmである。
【0024】
例えば走査型電子顕微鏡、準弾性光散乱又は透過型電子顕微鏡等の当業者に公知の技術により上記粒子の大きさを容易に測定する。
【0025】
用語「毒性微粒子」は、上記微粒子を摂取した生物において代謝障害等の生物学的障害を誘導可能な少なくとも一種の化合物を含む微粒子の意味を意図する。
【0026】
本発明の方法の第一段階は、安定化剤及び界面活性剤を使用せず、少なくとも一種の生体再吸収性ポリマーから上記微粒子を調製することを含む。
【0027】
用語「生体再吸収性ポリマー」は、これを導入した生物において天然の経路により排出可能な化合物に分解可能なポリマーの意味を意図する。このポリマーは非晶質、わずかに結晶性又は結晶性であってよい。
【0028】
この生体再吸収性ポリマーの例としては、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル及びポリ無水物が含まれるがこれらに限定されない。好ましくは、本発明の方法で使用する生体再吸収性ポリマーはポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)(PLAと呼ばれる)、ポリ(グリコール酸)(PLG)等のポリ(α−ヒドロキシ酸)、又は、ポリ(D−及びL−乳酸)の混合物、ポリ(L−乳酸)及びポリ(グリコール酸)の混合物、ポリ(D−乳酸)及びポリ(グリコール酸)の混合物若しくはポリ(D−乳酸及びL−乳酸)及びポリ(グリコール酸)の混合物等のポリ(α−ヒドロキシ酸)の混合物であり、これらは本発明の一実施形態である。
【0029】
本発明の方法で使用するポリマーがポリ(α−ヒドロキシ酸)の混合物である場合、各成分の割合は当業者が容易に決定可能である。従って例えばポリ(D−及びL−乳酸)のラセミ混合物又はPLA/PLG混合物を当業者に公知の種々の割合で使用可能である。
【0030】
少なくとも一種の生体再吸収性ポリマーからの本発明の微粒子の調製は、安定化剤及び界面活性剤を使用しない、当業者に公知の任意の微粒子調製法でも実施可能である。実際、本発明の方法の段階(i)はこれらの剤を使用しないことを特徴とする。
【0031】
微粒子調製法で通常使用する安定化剤には、例えばポリ(ビニルアルコール)、プルロニック(ポリ(エチレンオキサイド)及びポリ(プロピレンオキサイド)のコポリマー)、及び、臭化セチルトリメチルアンモニウム又はドデシル硫酸ナトリウム等のカチオン性又はアニオン性界面活性剤が含まれる。
【0032】
言うまでもなく、先行技術の方法において安定化剤として界面活性剤を使用する場合には更なる界面活性剤を使用しない。
【0033】
先行技術の方法で通常使用する界面活性剤は広く当業者に公知であり、例えば国際特許出願WO98/33487中に記載される。
【0034】
安定化剤及び界面活性剤を使用しない微粒子調製法の例としては、透析、溶媒置換、乳化−溶媒蒸発及び乳化−拡散を挙げることができ、これらの方法は広く当業者に公知である。
【0035】
例えば、本発明の微粒子調製時の透析は、生体再吸収性ポリマーをアセトン、DMSO又はDMF等の水混和性溶媒中に濃度0.1質量%〜10質量%で溶解した溶液を使用し、千倍容量の水に対して12時間かけて実施可能である。
【0036】
本発明の方法の第二段階は、界面活性剤を使用せず、本方法の第一段階で得た微粒子にタンパク性物質を結合させることである。
【0037】
タンパク性物質を微粒子表面に結合させるこの段階は界面活性剤を使用せずに実施することが特徴である。実際、予想外にも、界面活性剤が存在しない場合でも本発明の微粒子はコロイド安定性を示し、粒子の大きさを免疫に好適な範囲内とする。
【0038】
微粒子表面にタンパク性物質を結合させるのに通常使用する界面活性剤の例としては、上記界面活性剤を挙げることができる。
【0039】
本発明の方法の段階(i)で得た微粒子の表面に結合するタンパク性物質は、免疫応答の捕獲が望まれる任意のタンパク性物質であってよい。
【0040】
用語「免疫応答」は、細胞性応答、液性応答又はその両方の意味を意図する。
【0041】
用語「細胞性応答」は、Tリンパ球及び/又は他の白血球が媒介する応答の意味を意図する。この応答は、細胞傷害性Tリンパ球による細胞溶解活性の誘導により、及び/又は、サプレッサーCD8+Tリンパ球による、若しくは、ヘルパーT細胞によるサイトカイン産生により反映される。
【0042】
用語「液性応答」は、Bリンパ球が分泌する抗体分子が媒介する応答の意味を意図する。
【0043】
本発明の目的に好適なタンパク性物質は、ウイルス又は細菌等多種に由来するものであってよい。
【0044】
このタンパク性物質の例としては例えば、抗原及びエピトープ、又は、微粒子への結合後に抗原の役割を有する任意のタンパク性物質を挙げることができる。
【0045】
抗原は、免疫応答により合成が誘導される抗体により認識可能な分子であり、かつ、少なくとも一種のエピトープを含む。抗原は、タンパク質そのもの、又は、目的の構造が保存されたタンパク質断片であってよい。
【0046】
エピトープはアミノ酸を3〜15個、概して5〜15個含むペプチドであり、上記と同様に目的の構造が保存されている。
【0047】
本発明の特定の実施形態によれば、タンパク性物質はウイルス由来の抗原である。
【0048】
タンパク性物質がウイルス由来である場合、好適なウイルスは、免疫応答可能な物質が知られる任意のウイルスである。
【0049】
その例としては、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)及びC型感染ウイルス(HCV)等の肝炎ウイルス、パピローマウイルス(HPV)、並びに、HIV−1及びHIV−2等のヒト免疫不全ウイルス(HIV)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0050】
本発明の目的に好適なウイルスの核酸配列、及び、この配列がコードするタンパク質は当業者に公知であり、例えばGenBank等のデータベースで入手可能である。
【0051】
従って、例えばHIVウイルスはウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子を有する。gag遺伝子は、p24抗原を含むビリオンの核を形成するタンパク質をコードする。pol遺伝子は、逆転写(逆転写酵素)、切断(プロテアーゼ)及び組み込み(インテグラーゼ)を担う酵素をコードする。env遺伝子はエンベロープ糖タンパク質をコードする。env遺伝子は、ウイルス遺伝子の発現調節に関与するタンパク質(調節タンパク質)をコードする六つの他の遺伝子(tat、rev、nef、vif、vpr及びvpu(HIV−1)又はvpx(HIV−2))を含む。HIVゲノムはウイルス遺伝子の発現に関与する調節因子を含有する5’及び3’LTR(ロングターミナルリピート)も含む。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、本発明の方法で使用するタンパク性物質はHIVウイルス抗原である。HIVウイルス抗原は調節タンパク質又はp24タンパク質であることが好ましく、好ましい調節タンパク質はTat、Rev又はNefタンパク質である。
【0053】
HCVについて、そのゲノムの5’末端は、構造タンパク質、ヌクレオキャプシドコアタンパク質、2つのエンベロープ糖タンパク質E1及びE2、並びに、p7と呼ばれる低分子タンパク質をコードする遺伝子に隣接する非翻訳領域に対応する。5’非翻訳領域及びコア遺伝子は種々の遺伝子型で比較的よく保存されている。E1及びE2エンベロープタンパク質は、各単離体により異なる領域によりコードされる。p7タンパク質は非常に疎水性の高いタンパク質であり、イオンチャネルを構成すると考えられる。HCVゲノムの3’末端は、非構造タンパク質(NS2、NS3、NS4、NS5)をコードする遺伝子、及び、よく保存されたドメインを有する3’非コード領域を含む(Major ME,Feinstone SM,Hepatology,June 1997,25(6):1527−1538)。
【0054】
HCVのNS3非構造タンパク質は次の二つの異なる構造ドメインを含むアミノ酸630個のタンパク質である:ウイルスタンパク質の成熟に関与する活発なセリンプロテアーゼ活性を有するアミノ酸81個のN末端ドメイン(NS3プロテアーゼと呼ばれるドメイン)、及び、ウイルスゲノムの複製時に機能するNTPase活性に関与するヘリカーゼ活性を含むアミノ酸549個のC末端ドメイン(NS3ヘリカーゼと呼ばれるドメイン)。このNS3タンパク質は種々のウイルス遺伝子型で比較的よく保存され、目的の「ワクチン候補」抗原を構成する。
【0055】
本発明の一実施形態において、目的のタンパク性物質はHCVの抗原タンパク質、好ましくは非構造タンパク質、より好ましくはNS3タンパク質、特に好ましくはNS3ヘリカーゼタンパク質である。
【0056】
本発明の目的に好適なタンパク性物質は以下の段階:
−目的のタンパク性物質をコードするヌクレオチド配列で形質転換した微生物又は真核生物細胞を培養する段階、並びに、
―上記微生物又は真核生物細胞が産生した上記タンパク性物質を回収する段階:を含む遺伝子工学技術により取得可能である。
【0057】
上記技術は当業者に公知である。詳細は次のマニュアルを参照可能である:Recombinant DNA Technology I,Editors Ales Prokop,Raskesh K Bajpai;Annals of the New−York Academy of Scieneces,Volume 646,1991。
【0058】
目的のタンパク性物質が小さい場合には、当業者に公知の従来のペプチド合成によっても調製可能である。
【0059】
タンパク性物質の生体再吸収性微粒子への結合は当業者に公知の任意の方法で実施可能である。
【0060】
上記結合の例としては、吸着、共有結合、及び、キトサン等の微粒子表面に付着した多糖ポリマーを介する結合が含まれる(この場合、タンパク性物質は吸着によりキトサンに結合する)。
【0061】
吸着は例えば、微粒子をタンパク性物質と混合し、(例えば常温又は37℃で)撹拌しながらインキュベートすることにより実施可能である。
【0062】
タンパク性物質の微粒子表面への共有結合は、例えばBioconjugate Techniques,G.T.Hermanson,Academic Press,London,1996、及び、Chemical Reagents for Protein Modification,R.L.Lundblad,Ed.CRC Press,1991に記載のもの等、文献中で公知の技術及び試薬の使用により実施可能である。
【0063】
特定の一実施形態において、タンパク性物質の微粒子への結合は吸着により実施される。
【0064】
本発明の方法で調製した、タンパク性物質が結合する生体再吸収性微粒子は、安定化剤及び界面活性剤を含まないため新規であり、本発明の別の主題を構成する。
【0065】
本発明の微粒子は、タンパク性物質により免疫応答を誘導可能であり、かつ、毒性がないため、微粒子に結合したタンパク性物質に関与する病状の治療に有用な医薬組成物、特にワクチンの調製に特に好適である。
【0066】
従って、本発明の別の主題は、医薬品を調製するための本発明の生体再吸収性微粒子の使用である。
【0067】
特に、本発明の微粒子の使用により調製した医薬品は、例えばHIV若しくはHCVウイルス又は他の任意の公知のウイルス等のウイルスにより生じる感染の阻害、予防又は治療に特に有用であり、本発明の別の実施形態を構成する。
【0068】
また本発明は、本発明の少なくとも一種の微粒子、及び、適切な場合には医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物、特にワクチンにも関する。
【0069】
本発明の医薬組成物は経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、局所的、部分的、気管内、鼻腔内、経皮、直腸、眼内又は耳介内投与に好適であり、上記有効成分は単位投与形態で投与可能である。
【0070】
単位投与形態は、例えば錠剤、ゼラチンカプセル、顆粒、粉末、注射用経口溶液若しくは懸濁液、経皮パッチ、舌下、頬内、気管内、眼内、鼻腔内若しくは耳介内投与形態、吸入投与形態、局所的、経皮、皮下、筋肉内若しくは静脈内投与形態、直腸投与形態、又は、インプラントであってよい。局所投与としてはクリーム、ゲル、軟膏、ローション又は眼用ローションが考えられる。
【0071】
これらの医薬形態を当該分野における通常の方法により調製する。
【0072】
言うまでもなく、当業者であれば、医薬組成物の成分及び単位投与形態に応じて好適な賦形剤及び微粒子の使用量を容易に決定可能である。
【0073】
上記投与形態は、医薬形態より有効成分を一日0.001〜10mg/体重1kg投与可能な投与量を含有する。
【0074】
高投与量又は低投与量が好適であるような特定の場合もあってよく、このような投与量は本発明の範囲を逸脱しない。通常の手法により、個々の患者にとって好適な投与量を医師は投与方法並びに患者の体重及び応答に応じて決定する。
【0075】
本発明の別の実施形態によれば、本発明は、有効量の本発明の医薬組成物の患者への投与を特徴とする、本発明の微粒子に結合したタンパク性物質に関与する病状の治療方法にも関する。
【0076】
本発明の微粒子により抗体の取得も可能であり、これは本発明の別の主題を構成する。
【0077】
本発明による抗体はポリクローナル又はモノクローナル抗体であり、モノクローナル抗体が好ましい。
【0078】
上記ポリクローナル抗体の取得は、少なくとも一種の本発明の微粒子で動物を免疫し、続いて、上記動物の血清を採取して、(特に、所望の抗体(特に本発明の微粒子の抗体)によって特異的に認識される抗原を付着させたカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィーにより)他の血清成分から上記抗体を分離し、上記抗体を精製した状態で回収することによって実施可能である。
【0079】
モノクローナル抗体はハイブリドーマ技術により取得可能であり、その一般的な原理を以下に挙げる。
【0080】
まず動物を、一般的にはマウス(又は、in vitroにおける免疫の場合は培養細胞)を、本発明の少なくとも一種の微粒子で免疫する。これにより、Bリンパ球が上記微粒子のタンパク性物質に対する抗体を産生可能である。次に、この抗体産生リンパ球を「不死」骨髄腫細胞(例示におけるネズミ細胞)と融合し、ハイブリドーマを作成する。得た異種細胞混合物から、特異的抗体を産生可能、かつ、無限に増殖可能な細胞を選択する。ハイブリドーマをそれぞれクローンとして複製し、それぞれによりモノクローナル抗体を作成し、本発明の微粒子に対する認識特性を(例えば、ELISAにより、一次元若しくは二次元イムノブロッティングにより、免疫蛍光法により、又は、バイオセンサーの使用により)試験可能である。その後、選択したモノクローナル抗体を、特に上述のアフィニティークロマトグラフィー法により精製する。
【0081】
本発明の微粒子及び抗体は、上記微粒子表面に結合したタンパク性物質に関与する病状の診断にも有用である。
【0082】
具体的には、検体の捕獲又は検出用のパートナーを使用するELISA方法等の任意の診断技術において、検体の捕獲又は検出用のパートナーとして本発明の微粒子又は抗体を使用可能である。例えば、検体として抗原の探索を意図する場合にはこの抗原が結合した微粒子から得た本発明の抗体を使用し、また、抗体の探索を意図する場合には本発明の微粒子を使用する。後者において、診断試験に固体支持体の使用を必要とする場合には、微粒子は上記のように機能してもよいししなくてもよい。
【0083】
従って、本発明の別の主題は本発明の生体再吸収性微粒子又は抗体からなる診断用組成物である。
【0084】
また本発明の別の主題は、生体再吸収性微粒子に結合したタンパク性物質に関与する病状のin vitro診断用の上記診断用組成物の使用にも関し、一実施形態において、病状はHIVウイルス又はHCVウイルス等により生じるウイルス感染であってよい。
【0085】
繰り返すが、当業者であれば、使用する診断技術に応じて使用する微粒子又は抗体の量を容易に決定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
本発明は、以下の例示及び付随の図1〜9によってより詳細に理解されるであろう。ただし、本発明はこれらの例示には制限されない。
【0087】
図1は、コントロールとしてのHCV NS3NS4ポリタンパク質に対応するDNA配列(図1A)で、微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼタンパク性物質及びフロイントアジュバント(図1B)で、微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼタンパク性物質(図1C)で、タンパク性物質を使用せずPLA微粒子(図1D)で、及び、ポリマーがPLAかつタンパク質基質がNS3ヘリカーゼペプチドである本発明の微粒子(図1E)でマウスを免疫することによるCTLアッセイの結果を示す。
【0088】
図2は、免疫前血清、及び、本発明の粒子PLA−p24を皮内(ID)又は皮下(SC)注射したウサギ6匹(L1〜L6)の免疫血清中の抗p24 IgG力価をELISAアッセイで調べたヒストグラムを表す。
【0089】
図3は、本発明の微粒子PLA/p24を摂取したマカクザル2匹M1及びM2においてELISPOTアッセイにより得たヒストグラム(四回の実験の平均+/−標準偏差)を表し、これは、抗原を使用しない刺激後における(培地、ネガティブコントロール、黒色のヒストグラム)、p24による刺激後における(灰色のヒストグラム)、又は、PMAイオノマイシンカップルによる刺激後における(外枠ヒストグラム)、免疫後日数に対する細胞100万個当たりのスポット数を示す。
【0090】
図4は、本発明の微粒子PLA/p24を摂取したマカクザル2匹M1及びM2においてELISPOTにより得たヒストグラムを表し、これは、p24タンパク質(黒色のヒストグラム)又はペプチド(灰色のヒストグラム)のいずれかによる刺激後の、総PBMC画分中の、抗CD4抗体存在下の総PBMC画分中の、CD4枯渇PBMC画分(CD4− PBMC)及び対応するCD4豊富画分(CD4+ PBMC)中の、並びに、CD8枯渇PBMC画分(CD8− PBMC)及び対応するCD8豊富画分(CD8+ PBMC)中のスポット数を示す。
【0091】
図5は、本発明の微粒子PLA/p24を摂取したサルM2においてELISAにより得た、連続して血清を採取した日に対する抗p24 IgG力価を示すヒストグラムを表す。
【0092】
図6は、SRDC細胞で免疫し、かつ、ネガティブコントロール(Ct1及びCt2)で、又は、p24タンパク質(p24−1及びp24−2)で、又は、ネガティブコントロール微粒子(NanoOval及びNanoOva2)で、又は、本発明の微粒子(Nanop24−1及びNanop24−2)で感作したマウスの免疫前血清中において、一回目の免疫後の血清中において、二回目の免疫後の血清中において、及び、三回目の免疫後の血清中においてELISAにより得たOD値を示すヒストグラムを表す。
【0093】
図7は、NS3h−PBSを摂取したマウスで使用したNS3hの量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alum組成物の量に対する、NS3hタンパク質に特異的な相対増殖指数(RPI)を示すグラフを表す。
【0094】
図8は、NS3h−PBSを摂取したマウスで使用したNS3hの量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alum組成物の量(Alum)に対する、NS3hタンパク質に対して特異的な相対増殖指数(RPI)を、局所細胞性応答について膝窩節細胞において(図8A)及び全身細胞性応答について脾臓細胞において(図8B)示すグラフを表す。
【0095】
図9は、マウスで使用した免疫原(すなわちNS3h−PBS)の量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alu組成物の量(Alum)に対する細胞増殖指数(RPI)を、刺激をしない脾臓細胞において(0)、NS3hタンパク質による刺激後において(1)、又は、タンパク質及び抗CD4+抗体による刺激後において(1+aCD4)示すヒストグラムを表す。
【実施例1】
【0096】
透析による本発明の微粒子の調製
1.PLA粒子の調製
モル質量52000DaのPLA50(ポリ(L−乳酸)50%及びポリ(D−乳酸)50%)(Phusis(登録商標))を使用した。
【0097】
このPLAをDMSO(Prolabo(登録商標))中に溶解し、PLAが溶液総重量の2%となるようにした。その後、PLAの有機溶液を孔の大きさが15000Daである透析膜(Spectrum(登録商標))中に導入し、二回蒸留した水(4L,MilliQ(登録商標))の水浴中にこの組み合わせを6時間入れ、その間水浴を撹拌して1時間毎に規則的に取り替えた。最後の透析浴を一晩継続して、粒子を沈殿として得た。
【0098】
翌日、PLA粒子の溶液を回収して4℃で保存した。
【0099】
得た粒子の大きさ、多分散指数及び電荷をZetasizer 3000 HS装置(Malvern(登録商標)Instruments)により調べた。また、秤量後に計算「(乾燥抽出物の質量/湿潤抽出物の質量)×100」により固形物含有量を調べた。
【0100】
2.粒子PLA/p24の調製
HIV−1 p24タンパク質を大腸菌において組換え体として調製し、Cheynet V.,ら(1993,Protein Expr.Purif.,4:367−372)の方法により金属キレートアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0101】
上記項目1中と同様に調製したPLA微粒子は粒径515.7+/−6.7nm、固形物含有量1.1%及び多分散指数0.242+/−0.013である。
【0102】
0.1Mリン酸バッファー(pH4.7、NaHPO・2HO、M=15.60g/L)10mL及び0.1Mリン酸バッファー(pH9.2、NaHPO・2HO、M=17.79g/L)1.1mLを混合し、水で1/10に希釈することにより、10mMリン酸バッファー(pH5.7)を調製した。
【0103】
10mMリン酸バッファー(pH5.7)中に0.6g/Lに希釈したp24タンパク質200μLを微粒子200μLと混合し、常温にてホイール(wheel)上で一晩撹拌した。その後、5000rpmで5分間遠心して上清を除去し、非吸着p24量をアッセイし(Pierce社より入手のBCAタンパク質アッセイキット)、この値から、微粒子に吸着したp24の濃度が0.2g/Lであると推定した。
【0104】
3.PLA/Tat微粒子の調製
Peloponese J.P.,ら(1999,The Journal of Biological Chemistry,274(17):11473−11478)記載の方法により合成した配列番号1のHIV−1 Tatタンパク質を使用した。
【0105】
上記項目1中と同様に調製したPLA微粒子は粒径420.1+/−10.7nm、固形物含有量1.02%、及び、多分散指数0.241+/−0.040である。
【0106】
0.1Mリン酸バッファー(pH9.2)13.8mLを使用した以外は上記項目2中と同様に調製した、脱気した10mMリン酸バッファー(pH6.8)中に0.4g/Lに希釈したTatタンパク質200μLを微粒子200μLと混合し、常温にてホイール上で一晩撹拌した。その後、5000rpmで5分間遠心して上清を除去し、非吸着Tatを定量し(Pierce社より入手のBCAタンパク質アッセイキット)、この値から、微粒子に吸着したTatの濃度が0.1g/Lであると推定した。
【0107】
4.PLA/NS3ヘリカーゼ微粒子の調製
以下のように組換え体で得た配列番号2のHCV NS3ヘリカーゼペプチドを使用した。
【0108】
ヘキサヒスチジンと融合したHCV NS3タンパク質のヘリカーゼドメインに対応する1192〜1458番目のアミノ酸をコードする遺伝子を原核生物発現ベクターpMH80中にクローニングし、E.coli JM109菌(プロメガ社)中で発現させた。IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(プロメガ社))1mMで3時間誘導後、30℃で組換えタンパク質を発現させた。遠心後、バッファー溶液(10mM Tris−HCl(pH8)、5mM MgCl、1%TritonX100、抗プロテアーゼ錠(ベーリンガー社)1錠、250Uベンゾナーゼ(メルク社))中での超音波処理により菌を溶解した。溶解及び遠心後、可溶性画分をNiアガロースカラムで精製し、300mM NaCl及び300mMイミダゾールを含有する10mMリン酸ナトリウムバッファー溶液(pH7.2)中で溶出した。その後、純粋なタンパク質をPBS(pH7.2)に対して透析した。精製後、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下のアクリルアミドゲル電気泳動及び質量分析によりタンパク質を調べた。NS3タンパク質ヘリカーゼドメインの純度は95%を超えると推測される。in vitro LAL及び機能アッセイによるエンドトキシン(LPS)の定量によって、エンドトキシンが存在しないことを確認した。
【0109】
上記項目1中と同様に調製したPLA微粒子は粒径約600nm、固形物含有量1%、及び、多分散指数0.2である。
【0110】
0.1Mリン酸バッファー(pH9.2)6.8mLを使用した以外は上記項目2中と同様に調製した、10mMリン酸バッファー(pH6.5)中に0.327g/Lに希釈したNS3ヘリカーゼペプチド200μLを微粒子200μLと混合し、常温にてホイール上で一晩撹拌した。その後、5000rpmで5分間遠心して上清を除去し、非吸着NS3ヘリカーゼを定量し(Pierce社より入手のBCAタンパク質アッセイキット)、この値から、微粒子に吸着したNS3ヘリカーゼの濃度が0.28g/Lであると推定した。
【実施例2】
【0111】
溶媒置換による本発明の微粒子の調製
1.PLA粒子の調製
モル質量52000DaのPLA50(ポリ(L−乳酸)50%及びポリ(D−乳酸)50%)(Phusis(登録商標))を使用した。
【0112】
このPLAをアセトン中に溶解し、PLAが溶液総重量の2%となるようにした。その後PLAのアセトン溶液を水35mL中に滴下し、減圧下で35分間かけて溶媒を蒸発させた。
【0113】
得た粒子の大きさ、多分散指数及び電荷をZetasizer 3000 HS装置(Malvern(登録商標)Instruments)により調べた。また、秤量後に計算「(乾燥抽出物の質量/湿潤抽出物の質量)×100」により固形物含有量を調べた。
【0114】
2.PLA/NS3ヘリカーゼ微粒子の調製
上記実施例1項目4中に示すように組換え体で得た配列番号2のHCV NS3ヘリカーゼペプチドを使用した。
【0115】
上記項目1中と同様に調製したPLA微粒子は粒径約250nm、固形物含有量1%及び多分散指数0.3である。
【0116】
0.1M PBSバッファー(pH9.2)6.8mLを使用した以外は上記項目1中と同様に調製した、PBSバッファー(リン酸緩衝化生理食塩水バッファー;150mM NaCl、pH7.1)中に0.327g/Lに希釈したNS3ヘリカーゼペプチド200μLを微粒子200μLと混合し、常温においてホイール上で一晩撹拌した。その後、5000rpmで5分間遠心して上清を除去し、非吸着NS3ヘリカーゼを定量し(Pierce社より入手のBCAタンパク質アッセイキット)、この値から、微粒子に吸着したNS3ヘリカーゼの濃度を0.34g/Lと推定した。
【実施例3】
【0117】
本発明の微粒子PLA/p24によるマウスの免疫
1.動物モデル
一回目の免疫時に6〜8週齢の雌BALB/c(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0118】
2.投与した免疫原
本実験においては、p24タンパク質単独、上記実施例1項目2中と同様に調製した本発明の微粒子PLA/p24、及び、油中水型エマルションの形態で調製したp24−フロイントアジュバント(シグマ社)組成物(ポジティブコントロール)(免疫能力が良好であることが知られる)を使用した。
【0119】
3.免疫
上記項目2に記載の免疫原を連続して三回(各40μg又は10μg)、0、2及び4週目にマウスに摂取させた。注射は全て皮下で実施した。
【0120】
三回目に注射して10日後(D38)、14日後(D42)又は42日後(D70)後に動物を屠殺し、血液及び脾臓を採取して免疫学的分析に供した。
【0121】
4.免疫学的分析
液性応答及び細胞性応答を以下のように調べた:
−液性応答:屠殺前にマウスの血液試料を採取した。ELASAにより抗p24抗体(IgG1、IgG2a及びIgG)が存在することを決定した。p24タンパク質により捕獲し、抗マウスポリクローナル抗体を検出抗体として使用して血清中に特異的抗体が存在することを明らかとした(この抗体は、所望の抗体に結合し、各々、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG1ヤギ抗体(Southern Biotechnology Associates Inc.,カタログ番号1070−05、アメリカ合衆国アラバマ州バーミンガム)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG2aヤギ抗体(Southern Biotechnology Associates Inc.,カタログ番号1080−05)、及び、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合AffiniPure抗マウスIgGヤギ抗体(H+L,Jackson Immunoresearch,カタログ番号115−035−062)である)。力価は希釈度の逆数であり、この値について、使用したELISAプロトコルで0.3OD単位の吸光度を得る。IgG2a:IgG1イソタイプの比率についてもELISAにより間接的に決定し、免疫応答のIFN−γ−IL−4の傾向(各々Th1−Th2)の判断を可能とした。
−細胞性応答:マウス屠殺後に脾臓を無菌的に摘出して、細胞懸濁液を調製した。得た細胞懸濁液について、マウスそれぞれ個々について以下の分析を実施した。
【0122】
(i)CTLアッセイ:免疫優性H−2K制限CTLエピトープに対応する9量体ペプチド(AMQMLKETI,配列番号3)、及び、IL−2を含む培地中に細胞懸濁液を入れた。5日後、ペプチドを負荷した無処理照射細胞でエフェクター群を再刺激した。7日後に細胞傷害性エフェクター群を回収し、51Cr標識P815細胞を標的としてCTL活性を測定した。
【0123】
(ii)ELISPOT:ELISPOTにより、特異的刺激に応答して所定のサイトカインを分泌する細胞数の決定が可能である。本出願人らは、サイトカインIFN−γ(Th1)に着目した。脾臓から採取した細胞懸濁液をin vitroにおいてペプチドAMQMLKETIで20時間再刺激し、CD8型の応答を調べた。
【0124】
PVDF膜(Multiscreen IP,ミリポア社)を備えた96ウェルELISPOTプレートを抗IFN−γ抗体で被覆した。再刺激中、脾臓細胞懸濁液をこのプレート中でインキュベートして、各細胞が分泌したサイトカインを捕獲した。目的のサイトカインを分泌する各細胞に相当するスポットを、目的のサイトカインに対して特異的なビオチニル化検出抗体で可視化した。
【0125】
(iii)増殖:p24タンパク質の存在下で脾臓細胞を5日間刺激した。細胞をトリチウム化チミジンで18時間パルスし、これにより、増殖した細胞のDNA中に取り込まれる。パルス後、DNAを保持する膜上に細胞を回収し、これによって、取り込まれなかった標識チミジンを洗浄により除去可能である。特異的刺激に応答して細胞が増殖するにつれ、DNAの標識が増大する;言い換えると、免疫原(p24)に対する細胞性応答が増大する。
【0126】
5.結果
マウス15匹(ブランチ当たりマウス5匹)に免疫原10μgを三回投与してD38においてマウスを屠殺し、液性応答、CTLアッセイ及び細胞性応答としての増殖の調査により、第一シリーズの実験を実施した。
【0127】
結果を下記表1中に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
:cpm値の平均(特異的刺激−培地による刺激)、cpm=1分当たりのカウント(ステューデント検定、P=0.002)
:ブランチの全マウス中、特異的CTL活性を有するマウスの数
:ブランチのマウスの抗p24 IgG1力価の数値平均
【0130】
この表は以下を示す:
−p24タンパク質単独又はフロイントアジュバントと比較して、本発明のp24/PLA微粒子により増殖応答が増強されたこと、
−免疫原のいずれによってもCTL活性は検出されないこと、及び、
−本発明のp24/PLA微粒子によって、p24単独投与の場合より非常に優れた特異的抗体力価を取得可能であり、得た応答はp24/フロイントアジュバントの組合せで得た抗体力価と同等であること。
【0131】
免疫原の割合を40μgとしてマウスをD42(マウス3匹)又はD70(マウス4匹)において屠殺した以外は上記と同様に、マウス13匹(ブランチ当たりマウス3又は4匹)について実験を実施した。
【0132】
結果を下記表2中に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
:(20時間に渉る特異的刺激(ペプチドAMQMLKETI)に応答してIFN−γを分泌する細胞数)/(全細胞10個)の平均
:ブランチの全マウス中、特異的CTL活性を有するマウスの数
:ブランチのマウスの抗p24 IgG1力価の数値平均
【0135】
表中の結果は以下を示す:
−表1中に示す抗体力価と表2中に示す抗体力価とを比較すると、投与量を10μgから40μgに増やすと匹敵する結果を提供可能であること、並びに、
−マウスの屠殺を後に延ばすことにより最後の注射後に長時間応答させることによって、24/PLA群の全マウスにおけるCTL応答、及び、ELISPOTによる、増強された抗体力価の項目における応答を証明可能であること。
【実施例4】
【0136】
本発明の微粒子PLA/Tatによるマウスの免疫
上記実施例1項目3中と同様に調製した微粒子PLA/Tat、Tatタンパク質単独、及び、油中水型エマルションの形態で調製したTatタンパク質/フロイントアジュバント(シグマ社)の組み合わせを免疫原として使用し、各々20μg注射し、液性応答についてはTatタンパク質を捕獲パートナーとして使用し、上記実施例3項目4中に示すマウスポリクローナル抗体を検出パートナーとして使用し、液性応答については、CD8型応答の分析用に後述の6つのペプチドのいずれかを20時間、又は、CD4型応答の分析用にTatタンパク質を42時間、刺激体として使用してELISPOTアッセイのみを実施した以外は、実施例3中に示す手法と同様に実施した。
【0137】
ELISPOTアッセイで使用したペプチド(Sygma Genosys)
CFHCQVCFTKKGLGI(配列番号4)
VCFTKKGLGISYGRK(配列番号5)
KGLGISYGRKKRRQR(配列番号6)
SYGRKKRRQRRRSPQ(配列番号7)
KRRQRRRSPQDSETH(配列番号8)
RRSPQDSETHQVSLS(配列番号9)
【0138】
結果を下記表3に示す。
【0139】
【表3】

【0140】
:(20時間に渉る特異的刺激(ペプチドのプール)に応答してIFN−γを分泌する細胞数)/(全細胞10個)の平均
:(42時間に渉る特異的刺激(Tatタンパク質)に応答してIFN−γを分泌する細胞数)/(全細胞10個)の平均
:ブランチのマウスの抗Tat総IgG力価の数値平均
:ブランチの全マウス中、特異的IgG2a応答を有するマウスの数
:応答したマウスの抗Tat IgG2a力価の数値平均
【0141】
上記表3における結果は以下を示す:
−Tatタンパク質単独又はTat/フロイント組成物の注射に対して、本発明の微粒子の注射によりIFN−γ分泌細胞の誘導が可能であること、及び
−Tatタンパク質単独又はフロイントアジュバントの使用で得た力価約10と比較して、Tatタンパク質のPLAへの結合は抗体力価(総IgG)を約1log増強可能であり、Tat/PLA微粒子の使用により、抗Tat IgG2aの頻度及び力価を共に増強可能であること。
【実施例5】
【0142】
本発明のPLA/NS3ヘリカーゼ微粒子によるマウスの免疫
1.動物モデル
HLA−A2分子を導入したC57BL/6マウス14匹について免疫実験を実施した(Pascolo S,ら.(1997),J.Exp Med.,185(12),2043−2051)。
【0143】
2.投与した免疫原
本実験においては、NS3NS4核酸配列(配列番号10)に対応する裸のDNAをポジティブコントロールとして使用し、上記実施例1項目1及び4中と同様に調製したNS3ヘリカーゼパプチド単独及びPLA粒子単独、油中水型エマルションの形態で調製したNS3ヘリカーゼ/フロイントアジュバント(シグマ社)組成物、並びに、上記実施例1項目4中と同様に調製した本発明のPLA/NS3ヘリカーゼ微粒子を使用した。
【0144】
3.免疫
上記項目2に記載の免疫原を連続して三回、タンパク質の場合には各々50μg、又は、裸のDNAの場合には各々100μgの割合で、0、2及び4週目にマウスに摂取させた。裸のDNAを筋肉内投与した以外は、注射は全て皮下で実施した。
【0145】
最初の注射から約70日(D70)後に動物を屠殺し、血液及び脾臓を採取して免疫学的に調べた。
【0146】
4.免疫学的分析
CTL細胞性応答を以下のように調べた:マウス屠殺後に脾臓を滅菌的に摘出し、細胞懸濁液を調製した。NS3タンパク質に含まれるCTLエピトープに対応するKLVペプチド(KLVALGVNAV、配列番号11)及びIL−2を含む培地に細胞懸濁液を入れた。5日後に、ペプチドを負荷した照射無処理細胞でエフェクター群を再刺激した。7日後に細胞傷害性エフェクター群を回収し、51Cr標識P815細胞を標的としてCTL活性を測定した。
【0147】
5.結果
結果を図1中に示すが、この図はエフェクター/標的の比率に対する特異的溶解の割合を示すグラフを表し、図1AはコントロールとしてのHCV NS3NS4ポリタンパク質に対応するDNA配列の注射後に誘導された細胞性応答を示し、図1Bは微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼ/フロイントアジュバントの組み合わせの注射後に誘導された細胞性応答を示し、図1Cは微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼペプチドの注射後に誘導された細胞性応答を示し、図1Dはタンパク性物質を使用せずPLA微粒子の注射後に誘導された細胞性応答を示し、図1Eは本発明のPLA/NS3ヘリカーゼ微粒子の注射後に誘導された細胞性応答を示す。
【0148】
上記グラフは、本発明のPLA/NS3微粒子の注射時に示された、NS3ヘリカーゼペプチドに対して特異的なCTL応答を示す。
【実施例6】
【0149】
本発明の微粒子PLA/p24によるウサギの免疫
1.動物モデル
一回目の免疫時に体重約2.5kgのNew Zealand White株ウサギについて免疫実験を実施した。
【0150】
2.投与した免疫原
本実験においては、上記実施例1項目2中と同様に調製した本発明のPLA−p24微粒子、及び、油中水型エマルションの形態で調製し、免疫原性能力が良好であることが知られる(ポジティブコントロール)p24−フロイントアジュバント(シグマ社)組成物を使用した。
【0151】
3.免疫
上記項目2に記載の免疫原200μgを五回連続して、0、1、2、3及び4か月目にウサギに摂取させた。注射はいずれも皮下又は皮内で実施した。
【0152】
4.抗p24液性応答の出現の観察
抗p24抗体の出現を追跡するために、動物の血液試料を規則的に採取した。その後、コンジュゲートの可視化をホースラディッシュペルオキシダーゼ結合AffiniPure抗ウサギIgGヤギ抗体(H+L,Jackson Immunoresearch,カタログ番号111−035−003)で置き換えた以外は、実施例3項目4中と同様のELISAアッセイにより抗p24抗体の存在を試験した。
【0153】
5.結果
結果を図2中に示すが、この図は、皮内(ID)又は皮下(SC)いずれかで注射したウサギ6匹(L1〜L6)の免疫前血清及び免疫血清中の抗p24 IgG力価を示す。力価は希釈度の逆数に対応し、この値について約0.1のODを得る。免疫前血清は免疫原注射前にD0において採取し、免疫血清はD0の4か月後に採取した。
【0154】
得た結果は、抗原投与が皮下又は皮内のいずれであるかにかかわらず、本発明のPLA/p24粒子による免疫が全ての動物において良好な力価を示すことを示す。しかし、選択したモデルにおいては、皮内投与の方が皮下投与よりわずかに良好であるようである。着目すべきは、フロイントアジュバント/p24の免疫で得た力価は、PLA/p24免疫で得た力価に実質的に匹敵するということである(2×10と5×10)。従って、微粒子PLA/p24の使用により、ウサギにおいてポリクローナル血清を誘導可能である。
【実施例7】
【0155】
本発明の微粒子PLA/p24によるマカク属サルの免疫
1.動物モデル
CEAに収容したカニクイザルについて免疫実験を実施した。
【0156】
2.投与した免疫原
本実験においては、上記実施例1項目2中と同様に調製した本発明の微粒子PLA/p24を使用した。
【0157】
3.免疫
カニクイザル2匹をPLA/p24(1匹当たり500μg筋肉内投与)の注射により免疫した後、6週間後に同一の追加抗原を注射した。同一条件下で6か月後に三回目の注射を実施する。
【0158】
4.抗p24液性応答の出現の観察
抗p24抗体の出現を追跡するために、0(最初に免疫した日)、2、4、6(追加抗原を注射した日)、8,10及び12週目にマカクザルの血液試料を採取した。その後、コンジュゲートの可視化をホースラディッシュペルオキシダーゼ結合AffiniPure抗ヒトIgG Fcγ断片マウス抗体(H+L,Jackson Immunoresearch,カタログ番号209−035−098)で置き換えた以外は、上記実施例3項目4中と同様のELISAアッセイにより、抗p24抗体の存在を試験した。また、同一ELISAフォーマットにより、抗ヒトIgG1(カタログ番号05−3320、Zymed)、抗ヒトIgG2(カタログ番号05−0520、Zymed)、抗ヒトIgG3(カタログ番号05−3620、Zymed)及び抗ヒトIgG4(カタログ番号05−3820、Zymed)ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗体を使用し、存在するIgGサブクラスを調べた。
【0159】
5.ELISPOTによる抗p24細胞性応答の出現の観察
この手法により、最終濃度5μg/mLでの48時間の抗原刺激に応答してインターフェロンγ(IFN−γ)を分泌する細胞の数を決定可能である。新たに単離した末梢血単核球(PBMC)、予め低温保存したPBMC、in vitroで刺激したPBMCから、及び、(抗CD4抗体を使用して)CD4細胞又は(抗CD8抗体を使用して)CD8細胞を予め枯渇させたPBMCから誘導したTリンパ球系列に対して、この手法を首尾よく使用した。Miltenyi Biotec社より入手のMACS試薬、CD4ミクロビーズ(カタログ番号130−091−102)及びCD8ミクロビーズキット(カタログ番号130−091−112)を使用して、製造業者の指示に従い、CD4+又はCD8+細胞を選別した。
【0160】
Tリンパ球の抗原活性化効果を模倣するPMA−イオノマイシンカップル(PMAは酢酸ミリスチン酸ホルボール)をポジティブコントロールとして使用した。
【0161】
PVDF膜(Multiscreen,ミリポア社)を備えた96ウェルELISPOTプレートを、滅菌PBS中に1μg/mLで添加した抗マカクザルIFN−γモノクローナル抗体のクローンGZ−4(Mabtech,ref:3420M−3)で+4℃において一晩かけて被覆した。その後プレートを洗浄して飽和させた。平行して、通常技術によりFicollグラジエントでPMBCを血液試料から単離した。1ウェル当たり細胞10個を含む培地100μL、及び、1ウェル当たり抗原源を含む培地100μLを入れた。実験によると、抗原源はp24タンパク質又は後に定義するgagペプチドのプールいずれかであり、それについては、ELISPOTにおいて陽性応答を取得可能であることをあらかじめ確認した。刺激に対するポジティブコントロールを産生するため、PMA50ng/mL及びイオノマイシン500ng/mLを入れたウェルに、1ウェル当たり細胞4×10個を含む培地200μLを入れた。その後、5%COの湿潤雰囲気中で37℃において24時間プレートをインキュベートし、PBSで洗浄した。その後、残存する細胞を氷冷水で10分間処理して溶解し、プレートを再度洗浄した。その後、可視化抗体である、ヒトIFN−γに対するビオチニル化モノクローナル抗体のクローン7−B6−1(Mabtech,ref:3420−6)を1ウェル当たり0.1μg添加した(37℃で2時間、又は、4℃で一晩インキュベート)。エキストラビジン−アルカリホスファターゼ及び5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)基質の添加によりスポットを可視化した。gagペプチドの配列は以下の通りである:
EQIGWMTNNPPIPVG(配列番号12)
WMTNNPPIPVGEIYK(配列番号13)
NPPIPVGEIYKRWII(配列番号14)
PVGEIYKRWIILGLN(配列番号15)
IYKRWIILGLNKIVR(配列番号16)
WIILGLNKIVRMYSP(配列番号17)
GLNKIVRMYSPTSIL(配列番号18)
IVRMYSPTSILDIRQ(配列番号19)
YSPTSILDIRQGPKE(配列番号20)
SILDIRQGPKEPFRD(配列番号21)
IRQGPKEPFRDYVDR(配列番号22)
PKEPFRDYVDRFYKT(配列番号23)
FRDYVDRFYKTLRAE(配列番号24)
VDRFYKTLRAEQASQ(配列番号25)
YKTLRAEQASQEVKN(配列番号26)
RAEQASQEVKNWMTE(配列番号27)
ASQEVKNWMTETLLV(配列番号28)
VKNWMTETLLVQNAN(配列番号29)
MTETLLVQNANPDCK(配列番号30)
LLVQNANPDCKTILK(配列番号31)
NANPDCKTILKALGP(配列番号32)
【0162】
6.結果
6.1 ELISPOT応答の証明
PLA/p24調製物を摂取させ、かつ、PBMCを刺激したマカクザル2匹(M1及びM2)についてのIFN−γELISPOTアッセイの結果を図3中に再度示すが、この図は、抗原を使用しない刺激後(培地、ネガティブコントロール、実線のヒストグラム)、p24による刺激後(点線のヒストグラム)、又は、PMA−イオノマイシンカップルによる刺激後の、免疫後の日数に対する細胞100万個当たりのスポット数を示すヒストグラム(4回の実験の平均+/−標準偏差)を表す。各グラフ下の矢印は注射した時点を表す(D0及びD+6週)。
【0163】
この結果は、本発明の微粒子PLA/p24により、試験動物2匹においてIFN−γELISPOT応答を誘導可能であることを示す。一匹目のサル(M1)のみが二回目の注射後に特異的な応答を生し、また、二匹目のサル(M2)は一回目の注射後に最初の試料を試験した際に既に応答を生じている。いずれの場合においても、得たELISPOT応答が高いことから、追加抗原注射の効果(追加抗原効果)は非常に大きい。また、得た応答は、非複製免疫原が関与すると仮定すると比較的持続する;応答は二回目の注射から約40日後も有意な状態で持続する。
【0164】
6.2 ELISPOT応答の性質
ELISPOT応答の性質により、エフェクター免疫細胞CD4+又はCD8+のいずれの型が、測定したIFN−γ分泌を担っているかを実証可能である。
【0165】
結果を図4中に示すが、この図は、総PBMC画分、抗CD4抗体存在下における総PBMC画分、CD4枯渇PBMC画分(CD4−PBMC)及び対応するCD4豊富画分(CD4+PBMC)、並びに、CD8枯渇PBMC画分(CD8−PBMC)及び対応するCD8豊富画分(CD8+PBMC)において、p24タンパク質(実線のヒストグラム)又はペプチド(点線のヒストグラム)のいずれかによる刺激後にELISPOTで得たスポット数を示すヒストグラムを表す。着目すべきは、M1サルにおいて得た細胞の量は、抗CD8抗体を使用した枯渇実験の実施には不十分であったということである。
【0166】
図4で得た結果は、IFN−γサイトカインは末梢血単核球のCD4−画分及びCD8−画分の両方により分泌されることを示す。更に、抗CD4抗体又は抗CD8抗体(陽性選別画分)の存在下においてELISPOT応答はなく、このことは、これらの抗体はいずれも免疫応答を妨げることを示す。従って、この実験により、観察されたIFN−γ分泌はCD4+エフェクター細胞及びCD8+エフェクター細胞の両方によって媒介されると結論可能である。更に、この観察は、使用した抗原刺激がp24タンパク質であるかgagペプチドのプールであるかにかかわらずあてはまる。微粒子に基づく調製物によって霊長類において目的の抗原に特異的なCD8+応答を誘導できたのはこれが最初であると強調するのは重要である。
【0167】
6.3 液性応答の分析
PBMCに対する細胞性応答の分析と同時に、本出願人らは、サルから連続して採取した血清についての液性応答も分析する。2匹のうち、M2サルのみが抗体応答を発生し、この応答は二回目の注射後に抗p24 IgG力価約10に達した。M1サルは2回のPLA/p24注射後に有意な抗体応答を示さず、力価は10未満のままであった。この結果はそれ程予想外のものではなく、その理由は、細胞性応答の分析中に本出願人らは、M1サルの応答は不十分であって、M2サルの場合より多数回注射しなければ免疫応答が生じないことを実証可能であったためである。
【0168】
M2サルにおけるELISAアッセイの結果を図5中に示すが、この図は、連続して血清を採取した日におけるM2サルの抗p24 IgG力価を示すヒストグラムを表す。これらの結果は第一に、本発明の微粒子PLA/p24によりマカクザルにおいて特異的抗体応答を誘導可能であり、第二に、応答の弱い個体においても応答を確実に誘導するためには、本出願人らが使用したプロトコルより1回又は2回多く注射する必要がおそらくあることを示す。
【0169】
6.4 結論
カニクイザルモデルにおいて実施した3回の実験全てから、本発明の微粒子により、ヒト以外の霊長類においてCD4+及びCD8+細胞性応答並びに抗体応答で良好な免疫応答を誘導可能であることが示された。
【実施例8】
【0170】
本発明の微粒子PLA/p24で感作させた樹状細胞によるマウスの免疫
1.動物モデル
一回目の免疫時に6〜8週齢である雌CBA/J(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0171】
2.投与した免疫原
本実験においては、SRDC(H−2)ネズミ脾臓細胞系を使用し、試験する種々の免疫原を輸送した。この樹状細胞系は以下の免疫原の一種で12時間感作させた:実施例1項目2中と同様に調製した本発明の微粒子PLA/p24(p24について換算してp24/PLA10μg/mL)、同様に調製したPLA−OVA微粒子(ネガティブコントロールとして)、又は、p24タンパク質。
【0172】
3.免疫
マウスを6匹ずつの4群に分けた。個々のマウスには感作SRDC細胞5×10個を0、2及び4週目に皮下摂取させた。4バッチのマウスに、非感作細胞(ネガティブコントロール)、又は、微粒子PLA/p24若しくは微粒子PLA/OVA(微粒子ネガティブコントロール)若しくはp24タンパク質で感作させた細胞のいずれかを摂取させた。
【0173】
4.抗p24液性応答の出現の観察
抗p24抗体の出現を観察するために、免疫後10日毎にマウスの血液試料を採取した。その後、先の実施例中の記載と同様のELISAアッセイにより抗p24抗体が存在するかどうかを試験した。
【0174】
5.結果
液性応答の分析を図6中に示すが、この図は、ネガティブコントロール(Ct1及びCt2)で、又は、p24タンパク質(p24−1及びp24−2)で、又は、微粒子ネガティブコントロール(NanoOva1及びNanoOva2)で、又は、本発明の微粒子(Nanop24−1及びNanop24−2)で感作させたマウスの、免疫前血清中の、一回目の免疫後の血清中の、二回目の免疫後の血清中の、及び、三回目の免疫後の血清中の、ELISAで得たOD値を示すヒストグラムを表す。
【0175】
結果は、SRDCをPLA−p24微粒子で感作させる場合にのみSRDC細胞の注射により抗体が誘導されることを示す。可溶性p24タンパク質による感作では免疫応答を取得不可能である。
【0176】
6.細胞性応答の実験
マウスから単離した脾臓及び粘膜リンパ球の両方を使用して実験した。刺激したTリンパ球亜群の分析は、リンパ増殖及びサイトカイン分泌アッセイにより実施し、最後の免疫から2週間後に抗原に対する応答能力を調べた。
【0177】
リンパ増殖アッセイでは、脾臓から及び粘膜リンパ節から単離したTリンパ球を、目的の抗原を種々の濃度で含む完全培地中に5日間入れておき、その後、Hチミジンで18時間放射標識した。チミジンの取り込み量はリンパ増殖応答の程度に対応する。
【0178】
サイトカイン分泌アッセイでは、脾臓から及び粘膜リンパ節から単離したTリンパ球を、目的の抗原を種々の濃度で含む完全培地中に3日間入れておき、その後、培養上清中に分泌されたサイトカインを市販のELISAキットでアッセイした。
【0179】
7.結果
下記表4中に得た結果をまとめる。
【0180】
【表4】

【0181】
上記のように、結果から、特異的免疫応答を表示可能な群はSRDC−PCA−p24群のみであることを示す。刺激指数は脾臓から単離した細胞では2.8であり、腸間膜リンパ節から単離した細胞では2.2である。他の群では、刺激指数の増加はないか、又は、有意ではない。同様に、Th1型サイトカインであるIFN−γの分泌を誘導可能な群はSRDC−PLA−p24群のみである。抗原存在下におけるこの分泌は、脾臓細胞及び腸間膜リンパ節細胞の両方により実証可能である。
【0182】
8.結論
これらの実験全てから、本出願人らがPLA−p24微粒子により目的の抗原(この場合にはp24)で樹状細胞を感作可能であることを実証可能であった。SRDC投与により(PLA−p24を負荷した場合には)細胞性及び液性両方の特異的応答を誘導可能であるが、可溶性p24で感作させたSRDCは抗p24応答を誘導不可能である。従って、in vitroで感作させた樹状細胞の移動に基づく免疫療法においてPLA微粒子を首尾よく使用可能である。目的の抗原を可溶性形態で樹状細胞に負荷できない場合、抗原を有するPLA微粒子により、樹状細胞による取り込みを促進可能である。本発明の微粒子により、得た特異的免疫応答を相当程度増強可能である。
【実施例9】
【0183】
本発明のPLA/NS3ヘリカーゼ微粒子によるマウスの免疫:初期かつ局所的細胞性応答
1.動物モデル
一回目の免疫時に6〜8週齢の雌BALB/c(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0184】
2.投与した免疫原
本実験においては各免疫群当たりマウス5匹を使用した:NS3ヘリカーゼ遺伝子型1bタンパク質(NS3h)単独、上記実施例1項目4中に記載の透析により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADYS)、上記実施例2項目2中に記載の溶媒置換により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADDS)、及び、エマルションの形態で調製し、かつ、市販のワクチン中でアジュバントであることが知られるNS3h−Alum(Pierce社)組成物(ポジティブコントロール)。
【0185】
3.免疫
上記項目2に記載した免疫原をマウスの足底肉趾皮下に一回(100μg)投与した。
【0186】
最初の注射から10日後にマウスを屠殺し、膝窩リンパ節を摘出して免疫学的分析に供した。
【0187】
4.免疫学的分析
初期かつ局所的なNS3hタンパク質特異的かつ用量応答性の細胞性応答を以下のように調べた:種々の濃度のNS3hタンパク質による刺激後の膝窩リンパ節細胞の増殖−膝窩リンパ節細胞を、NS3hタンパク質0、0.1、0.3及び1μMの存在下で3日間刺激した。細胞をトリチウム化チミジンで18時間パルスし、これにより、増殖した細胞のDNA中に取り込まれる。
【0188】
パルス後、DNAを保持する膜上に細胞を回収し、これによって、取り込まれなかった標識チミジンを洗浄により除去可能である。特異的刺激に応答して細胞が増殖するにつれ、DNAの標識が増大する;言い換えると、NS3h免疫原に対する細胞性応答が増大する。
【0189】
5.結果
NS3hタンパク質による刺激後における膝窩リンパ節細胞の増殖の結果を図7中に示すが、この図は、NS3h−PBS(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子(DDS)及びNS3h−Alum組成物を摂取したマウスにおいて、細胞増殖アッセイ時の再刺激で使用したNS3h量に対する、濃度0のNS3hタンパク質に対して各濃度(0、0.1、0.3及び1μM)のNS3hについて得たcpm(1分当たりのカウント)値の比率に対応する、NS3hタンパク質に特異的な相対増殖指数(RPI)を示すグラフを表す。
【0190】
このグラフは、溶媒置換(DDS)により調製したPLA/NS3h微粒子、及び、透析により調製したPLA/NS3h微粒子(DYS)を注射した場合における、NS3hタンパク質に対して特異的な細胞性応答を示す。本発明のPLADDS/NS3hを注射したマウスの特異的細胞性応答は、本発明のPLADYS/NS3h、ポジティブコントロール(Alum/NS3h)及び試験した任意の濃度のNS3h抗原についてのPBS/NS3hコントロールで得たものよりも大きい(PLADDS/NS3h>PLADYS/NS3h>Alum/NS3h=PBS/NS3h)。
【0191】
この結果は、NS3hタンパク質単独又はAlumとのアジュバントと比較して、本発明のPLADDS/NS3h及びPLADYS/NS3h微粒子により、細胞増殖応答が増強されたことを示す。
【実施例10】
【0192】
本発明のPLA/NS3ヘリカーゼ微粒子によるマウスの免疫:局所的かつ全身性の細胞性応答、及び、抗CD4抗体によるこの全身性細胞性応答の阻害
1.動物モデル
最初の免疫時に6〜8週齢の雌BALB/c(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0193】
2.投与した免疫原
本実験では、免疫群当たりマウス5匹を使用した:NS3ヘリカーゼ遺伝型1bタンパク質(NS3h)単独、上記実施例1項目4中に記載の透析により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADYS)、上記実施例2項目2中に記載の溶媒置換により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADDS)、及び、エマルションの形態で調製し、かつ、市販のワクチン中でアジュバントであることが知られるNS3h−Alum(Pierce社)組成物(ポジティブコントロール)。
【0194】
3.免疫
上記項目2中に記載の免疫原をマウスに二回(100μg)投与し、一回目は0日目に足底肉趾に皮下投与し、二回目は7日目に尾の付け根に皮下投与した。
【0195】
二回目の注射から7日後にマウスを屠殺し、膝窩リンパ節及び脾臓を摘出して免疫学的分析に供した。
【0196】
4.免疫学的分析
膝窩リンパ節に局所的な、及び、脾臓における全身性の、NS3hタンパク質特異的かつ用量応答性細胞性応答を以下のように調べた:種々の濃度のNS3hタンパク質による刺激後の膝窩リンパ節細胞の増殖−膝窩リンパ節及び脾臓の細胞をNS3hタンパク質0、0.1、0.3及び1μMの存在下で3日間刺激した。3日間培養後、上清50μLを除去した。細胞をトリチウム化チミジンで18時間パルスし、これにより、増殖した細胞のDNA中に取り込まれる。パルス後、DNAを保持する膜上に細胞を回収し、これによって、取り込まれなかった標識チミジンを洗浄により除去可能である。特異的刺激に応答して細胞が増殖するにつれ、DNAの標識が増大する;言い換えると、NS3h免疫原に対する細胞性応答が増大する。
【0197】
脾臓由来の細胞において抗CD4抗体(GK1.5;American Type Culture Collection(ATCC))による細胞性応答の阻害を以下のように求めた:
(i)NS3hタンパク質1μMによる刺激後の脾臓細胞の増殖の、抗CD4抗体による阻害−脾臓細胞をNS3hタンパク質1μMの存在下で刺激し、抗CD4抗体10μgと共に3日間インキュベートした。細胞をトリチウム化チミジンで18時間パルスし、これにより、増殖した細胞のDNA中に取り込まれる。パルス後、DNAを保持する膜上に細胞を回収し、これによって、取り込まれなかった標識チミジンを洗浄により除去可能である。特異的刺激に応答して細胞が増殖するにつれ、DNAの標識が増大する;言い換えると、NS3h免疫原に対する細胞性応答が増大する。
(ii)インターフェロンγのアッセイ−BD(登録商標)サイトメトリービーズアレイキット、マウスTh1/Th2サイトカインCBA(BD Biosciences,カタログ番号551287)を使用してインターフェロンγをアッセイした。蛍光強度の異なる5群のビーズを、IL−2、IL−4、IL−5、IFN−γ及びTNF−αタンパク質に特異的な捕獲抗体で被覆した。5群のビーズを一緒に混合してCBAを形成し、これを、BD FACScan(登録商標)Coule Cytometer等のフローサイトメーターのFL3チャネルで解像する。サイトカイン捕獲ビーズをフィコエリスリン結合検出抗体と混合した後、供給元の推奨に従ってインキュベートした。BD CBA分析ソフトウェアを使用することにより、フローサイトメーターにより試料データを取得し、結果を出した。
【0198】
5.結果
5.1 局所的及び全身性の細胞性応答
NS3hタンパク質による刺激後の脾臓細胞の増殖の結果を図8中に示すが、この図は、局所的細胞性応答につき膝窩リンパ節の細胞において(図8A)、及び、全身性の細胞性応答につき脾臓の細胞において(図8B)、NS3h−PBS(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子(DDS)、及び、NS3h−Alum組成物(Alum)を摂取したマウスにおいて使用したNS3hの量(μMで表した)に対する、NS3hタンパク質に対して特異的な相対増殖指数(RPI)を示すグラフを表す。
【0199】
これらの結果は、溶媒分散により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(DDS)及び透析により調製したPLA/NS3h微粒子(DYS)の1μMについて、全身性であって(脾臓細胞−図8B)、NS3hタンパク質に対して特異的な細胞性応答を示す。本発明のPLADDS/NS3h及びPLADYS/NS3hを摂取したマウスの特異的な細胞性応答は、ポジティブコントロール(Alum/NS3h)及びPBS/NS3hコントロール(PBS)で得たものよりも大きい(PLADDS/NS3h及びPLADYS/NS3h>>>Alum/NS3h=PBS/NS3h)。
【0200】
5.2 抗CD4抗体による全身性の細胞性応答の阻害
結果を図9中に示すが、この図は、刺激をしない脾臓細胞における(0)、NS3hタンパク質による刺激後における(1)、又は、タンパク質及び抗CD4+抗体による刺激後における(1+aCD4)、マウスで使用した免疫原、すなわち、NS3h−PBS(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子(DDS)及びNS3h−Alum組成物(Alum)に対する細胞増殖指数(RPI)を示すヒストグラムを表す。
【0201】
結果は、全身性の細胞性応答が抗CD4+抗体の存在下で少なくともファクター5だけ阻害されることを示し、これにより、NS3hタンパク質に特異的な応答がTh2型のものであることが示唆される。
【0202】
5.3 補足的結果
NS3hタンパク質による刺激後の増殖の3日目に、インターフェロンγ(IFN−γ)分泌が、使用した全ての条件下で観察され、この分泌は抗CD4抗体により減少する。
【0203】
NS3hタンパク質による刺激後3日目のIFN−γアッセイの結果を下記表5中に示す。
【0204】
【表5】

【実施例11】
【0205】
本発明のPLA/NS3へリカーゼ微粒子によるマウスの免疫:液性応答
1.動物モデル
最初の免疫時に6〜8週齢の雌BALB/c(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0206】
2.投与した免疫原
本実験においては、免疫群当たりマウス5匹を使用した。NS3ヘリカーゼ遺伝子型1bタンパク質(NS3h)単独、上記実施例1項目4中に記載の透析により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADYS)、上記実施例2項目2中に記載の溶媒置換により調製した本発明のPLA/NS3h微粒子(PLADDS)、及び、エマルションの形態で調製し、かつ、市販のワクチン中でアジュバントであることが知られるNS3h−Alum(Pierce社)組成物(ポジティブコントロール)。
【0207】
3.免疫
上記項目2中に記載の免疫原を三回(50μg)、0、2及び4週目にマウスの尾の付け根に皮下投与した。血清を13日目、27日目及び45日目に採取し、後に示すELISAアッセイにより、NS3hタンパク質に対する特異的液性応答を調べた。
【0208】
最初の注射から10日後にマウスを屠殺し、膝窩リンパ節を摘出して免疫学的分析に供した。
【0209】
4.免疫学的分析
初期かつ局所的なNS3hタンパク質特異的液性応答を以下のように調べた:
NS3hタンパク質に対する定性的及び定量的液性応答−最初の注射前(D0)、及び、D13、D27及びD45に血液試料を採取した。特異的抗NS3h抗体の存在、抗体力価及び免疫グロブリンイソタイプ(IgG、IgG1、IgG2a)をELISAにより決定した。微量滴定プレートをNS3hタンパク質で感作し、免疫したマウスの血清中のNS3hタンパク質に対して特異的な抗体を、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギ血清(H+L,Jackson Immunoresearch,カタログ番号115−035−062)で可視化した。抗体力価の決定において、免疫したマウスの血清を順次希釈した。イソタイプ分類の決定において、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG1ヤギ血清(Southern Biotechnology Associates社,カタログ番号1070−05,アメリカ合衆国アラバマ州バーミンガム)、及び、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG2aヤギ抗体(Interchim社,UPB90520)で反応を可視化した。IgG2a/IgG1イソタイプの比率も決定し、免疫応答のIFN−γ/IL−4の傾向(各々Th1−Th2)の解釈を可能とした。
【0210】
5.結果
30日目及び45日目における特異的抗NS3h総IgG抗体力価の結果を下記表6中に示す。
【0211】
【表6】

【0212】
結果は、NS3hタンパク質のPLAへの結合により、NS3hタンパク質単独で得た力価に対して約1logだけ抗体(総IgG)力価が増大可能であることを実証する。更に、得た力価はフロイントアジュバント/NS3h調製物で得たものに匹敵する。
【0213】
PLA/NS3h微粒子の使用により、NS3hタンパク質に特異的な実質的にIgG1抗体反応を取得可能となり、これは、この応答がTh2型のものであることを示唆する。
【実施例12】
【0214】
単球の樹状細胞への分化過程におけるPLA/NS3hの作用
この実験により、PLAナノ粒子に吸着したNS3hタンパク質の抗原提示細胞に対する効果を調べる。この実験は、ヒト末梢血液から単離した単球を使用して発生し、かつ、分化した樹状細胞の存在下で実施する。
【0215】
共刺激性分子の拡大を調べることにより、開始時に未成熟な樹状細胞(DCi)が成熟過程に入るか否かを決定可能である。
【0216】
潜在的アジュバント及びPLA−NS3h調製物により単球の樹状細胞への分化及び成熟を促進可能であるかどうかも試験する。この実験により、本出願人らは、先天性免疫と適応性免疫の間において必須の、細胞媒介におけるそれらの役割をより明瞭に理解可能である。分化及び成熟の表現型マーカーを連続的に調べ、かつ、生じたサイトカインの特性を調べることによってスクリーニングを実施する。サイトカイン産生の分析により、PLA−NS3調製物がTh1及び/又はTh2特性を誘導するか否かを同定可能である。
【0217】
1.ヒト末梢血液からの単球の精製
Ficoll及びPercoll(Amersham Biosciences社)勾配で遠心することにより(リヨンのEtadlissement Francais du Sang[フランス血液バンク]で回収した)正常ヒト末梢血液から単球を単離した。Ficollにより、細胞を傷つけずに機能を保持したまま、密度勾配の作成が可能である。遠心後、Ficollよりも密度の高い赤血球細胞及び多形核細胞が試験管の底に沈殿する。リンパ球及び単球を含むPBMC(末梢血単核球)は原形質とFicoll間の界面に依然として存在する。その後、それらをPercoll勾配で精製する。遠心後、Percollよりも密度の高いリンパ球はペレット中に存在し、他方、単球は培地とPercoll間の界面に依然として存在する。
【0218】
単球を後に示す抗体(Ab)の混合物と共にインキュベートして、Tリンパ球(マウス抗CD3 Ab OKT3,ATCC(アメリカ合衆国メリーランド州ロックヴィル)、抗Tリンパ球)、Bリンパ球(マウス抗CD19 Abハイブリドーマ4G7、抗Bリンパ球)、赤血球細胞(マウス抗糖タンパク質A Ab,Immunotech社)及びNK細胞(マウス抗CD56 Ab NKH1,Immunotech社、抗ナチュラルキラー細胞)の枯渇により、かつ、磁性ビーズ(Dynal社)を使用して、残留汚染物を除去した。Dynal社のビーズはマウス抗体に対するヒツジ抗体で被覆した小さな磁性ビーズである。この抗体がマウスAb/細胞複合体に結合した後、細胞懸濁液の磁化担体通過後に、単球のみが残留するであろう。
【0219】
枯渇は、FACScan(Becton Dickinson社)フローサイトメトリーにより確認した。
【0220】
細胞が液体マトリックスを通過する毎に細胞懸濁液を調べた。これらの細胞が光ビームを通過すると小角(前方散乱−FS)及び大角(側方散乱−SS)と呼ばれる2つの型の散乱が生じ、これらは考慮した二種の細胞パラメーター(細胞の大きさ(散乱)及び粒度分析(屈折))を表す。レーザーで励起可能なフルオロクロム(FITC:X軸FL1及びPEで読み取るフルオレセインイソチオシアネート:FL2においてY軸で読み取るフィコエリスリン)に結合した抗体の使用により、検出可能な蛍光を発光可能である。電気的シグナルの増幅及びアナログ−デジタル変換システムにより、データをコンピューターフォーマットに適合可能である。
【0221】
細胞を下記種々の型の抗体で標識した。:
・FITC標識抗CD14 Ab(単球特異的)
・PE標識抗CD3 Ab(LT特異的)
・抗CD56 Ab PE(NK細胞)
・抗CD20 Ab PE(LB特異的)
【0222】
汚染物レベルは10%未満である。
【0223】
単球を24ウェルプレート中の培地(RPMI 1640培地(Gibco社)、2mMのL−グルタミン(Life Technologies社)、10mMのHepes(Life Technologies社)、40ng/mLのゲンタマイシン(Life Technologies社)+10%無添加胎児ウシ血清)に、GM−CSF(40ng/mL)(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)及び組換えヒトIL−4(250U/mL)の存在下で、1×10個/mLの割合で順次入れた(0日)。GM−CSF及びIL−4により、単球は未成熟樹状細胞へ分化可能である。
【0224】
2.細胞の表現型分析
分化5日目、細胞を種々の試験に供した:
・250〜2000pg/mLのLPS→LPS(リポ多糖)は細菌膜の成分であって、DCisにより危険シグナルとして認識され、全身におけるその成熟を可能とする。各アッセイにおいてある範囲のLPS濃度を適用し、成熟度を比較した。
【0225】
NS3単独、粒子単独及びPL/NS3h粒子で用量−応答を実施した。
・1〜50μg/mLのNS3h→タンパク質単独では成熟は全く誘導されないことを確認するためのコントロール
・0.01〜1mg/mLのPLA→PLAがアジュバント効果を有するか否かを決定するための試験
・10〜100μLのPLA/NS3h→NS3hタンパク質の存在下でPLAがアジュバント効果を有するか否かを決定するための試験
【0226】
6日目に、上清200μLを−80℃で保存し、サイトカインをアッセイした。続いて細胞を回収して洗浄した。
【0227】
種々のコントロール標識を実施した:
・コントロールイソタイプ標識IgG1−FITC/IgG2a−PE:IgGは、Fc断片受容体を有する細胞に非特異的に結合可能である。従って、この標識により、反応特異性の確認、及び、種々のアッセイにおける非特異的蛍光の除去が可能である。IgG1及びIgG2aは、使用する抗CD抗体もこの種類であるということに関連する;
・(単球に対して特異的な)CD14−FITC/(未成熟樹状細胞に対して特異的な)CD1a−PE標識により、正しく分化したかどうかを確認可能である。
【0228】
続いて、成熟樹状細胞の特異的標識により表現型を決定した:
・抗CD80 FITC Ab/抗CD86 PE Ab
・抗HLA−DR FITC Ab/抗CD83 PE Ab
・抗CD40 PE Ab
【0229】
3.樹状細胞成熟プロトコルの実施
調製物を未成熟樹状細胞と接触させ、成熟樹状細胞を発生させるるPLA/NS3h粒子の能力(アジュバント効果)を判断した。
【0230】
アッセイを以下ように実施した:
・LPS範囲:250−300−400−500−750−1000−2000pg
・NS3h:1−10−25−50μg
・PLA粒子:0.05−0.1−0.5−1mg
・PLA/NS3h粒子:0.24mg DYS/10μg NS3h(10μL)−0.6mg/25μg(25μL)−1.2mg/50μg(50μL)−2.4mg/100μg(100μL)
【0231】
4.結果
NS3hタンパク質は陽性標識を与えない。
【0232】
D5においてPLA DYS粒子を単独でDCisに添加することにより、成熟化表現型(DCm CD83+,CD86+,CD40+)を取得可能である。細胞成熟化に対する用量−応答効果を観察した。
【0233】
PLA/NS3h粒子は非常に有利な効果を有する。具体的には、着目すべきは、成熟の活性化の程度は実質的であることである。正しくは10μL(0.24mg PLA/10μgヘリカーゼ)におけるアッセイから、成熟を観察可能である。DCisに添加したPLA/NS3hは全ての活性化マーカー(CD83+,CD86+,CD80+,HLA−DR+,CD40+)の発現を誘導する。
【0234】
100μLにおけるアッセイは、in vitroで使用する条件において100μLは大過剰であるとの認識により実施した。
【0235】
結論として、PLA調製物はHCV NS3hタンパク質に対してアジュバント効果を有する、というのは、PLA調製物により成熟樹状細胞を取得可能であるためである。
【実施例13】
【0236】
本発明の微粒子PLA/p24によるモノクローナル抗体の取得
1.動物モデル
一回目の免疫時に6〜8週齢である雌BALB/c(H−2)マウスについて免疫実験を実施した。
【0237】
2.投与した免疫原
本実験においては、上記実施例1項目2中と同様に調製した本発明の微粒子PLA/p24、及び、油中水型エマルションの形態で調製し、かつ、良好な免疫原性能力を有することが知られるp24−フロイントアジュバント(シグマ社)組成物(ポジティブコントロール)を使用した。
【0238】
3.免疫
0、2及び4週間において、上記項目2中に記載の免疫原10μgを三回連続してマウスに投与した。全ての注射は皮下投与で実施した。最初の注射からD68において、50μgのp24の静脈内注射で液性応答を再刺激した。
【0239】
4.抗p24液性応答の出現の観察
抗p24抗体の出現を観察するために、血液試料をマウスから規則的に採取した。その後、上記実施例2項目4中と同様のELISAアッセイにより、抗p24抗体の存在を試験する。しかし、コンジュゲートの可視化は、アルカリ性ホスファターゼ結合AffiniPure抗マウスIgGヤギ抗体(H+L,Jackson Immunoresearch社,カタログ番号115−055−146)で置き換える。
【0240】
5.モノクローナル抗体の取得
最後に注射して3日後に、PLA−p24群のマウスを屠殺した;血液及び脾臓を採取した。Kohler及びMilstein(Kohler,G.and Milstein,C.,1975,Nature,256:495−497;Kohler,G.及びMilstein,C.,1976,Eur.J.Immunol.,6:511−519)に記載のプロトコルにより、脾臓から取得した脾臓細胞をSp2/0−Ag14骨髄細胞を含む培地に入れ、融合かつ不死化させた。12〜14日間インキュベート後、得たハイブリドーマの上清をスクリーニングして、本実施例項目4に記載のELISAアッセイにより、抗p24抗体の存在を決定した。陽性ハイブリドーマコロニーを、限界希釈法により2回サブクローニングした。
【0241】
6.結果
マウス血清中の抗p24抗体力価を屠殺前に個々のマウスについて決定した。
【0242】
結果を下記表7に示す。
【0243】
【表7】

【0244】
二群について得た力価を比較する。モノクローナル抗体はフロイントアジュバント/p24免疫により既に得られているので、本出願人らは、匹敵する力価を誘導可能なPLA/p24免疫原によりモノクローナル抗体を取得可能であるか否かの判断を目的とした。
【0245】
このために、PLA/p24群のマウス(マウス1)を屠殺し、その脾臓由来の細胞を骨髄細胞と融合させた。融合で得たハイブリドーマを96ウェルプレート18枚中で限界希釈によりクローン化した。抗p24 ELISAアッセイによるハイブリドーマ培養上清のスクリーニングにより、p24特異的抗体を分泌するハイブリドーマクローン12種を同定可能であった。従って、微粒子PLA/p24の使用によりモノクローナル抗体の取得も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0246】
【図1】コントロールとしてのHCV NS3NS4ポリタンパク質に対応するDNA配列(図1A)で、微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼタンパク性物質及びフロイントアジュバント(図1B)で、微粒子を使用せずNS3ヘリカーゼタンパク性物質(図1C)で、タンパク性物質を使用せずPLA微粒子(図1D)で、及び、ポリマーがPLAかつタンパク質基質がNS3ヘリカーゼペプチドである本発明の微粒子(図1E)でマウスを免疫することによるCTLアッセイの結果を示す。
【図2】免疫前血清、及び、本発明の粒子PLA−p24を皮内(ID)又は皮下(SC)注射したウサギ6匹(L1〜L6)の免疫血清中の抗p24 IgG力価をELISAアッセイで調べたヒストグラムを表す。
【図3】本発明の微粒子PLA/p24を摂取したマカクザル2匹M1及びM2においてELISPOTアッセイにより得たヒストグラム(四回の実験の平均+/−標準偏差)を表し、これは、抗原を使用しない刺激後における(培地、ネガティブコントロール、黒色のヒストグラム)、p24による刺激後における(灰色のヒストグラム)、又は、PMAイオノマイシンカップルによる刺激後における(外枠ヒストグラム)、免疫後日数に対する細胞100万個当たりのスポット数を示す。
【図4】本発明の微粒子PLA/p24を摂取したマカクザル2匹M1及びM2においてELISPOTにより得たヒストグラムを表し、これは、p24タンパク質(黒色のヒストグラム)又はペプチド(灰色のヒストグラム)のいずれかによる刺激後の、総PBMC画分中の、抗CD4抗体存在下の総PBMC画分中の、CD4枯渇PBMC画分(CD4− PBMC)及び対応するCD4豊富画分(CD4+ PBMC)中の、並びに、CD8枯渇PBMC画分(CD8− PBMC)及び対応するCD8豊富画分(CD8+ PBMC)中のスポット数を示す。
【図5】本発明の微粒子PLA/p24を摂取したサルM2においてELISAにより得た、連続して血清を採取した日に対する抗p24 IgG力価を示すヒストグラムを表す。
【図6】SRDC細胞で免疫し、かつ、ネガティブコントロール(Ct1及びCt2)で、又は、p24タンパク質(p24−1及びp24−2)で、又は、ネガティブコントロール微粒子(NanoOval及びNanoOva2)で、又は、本発明の微粒子(Nanop24−1及びNanop24−2)で感作したマウスの免疫前血清中において、一回目の免疫後の血清中において、二回目の免疫後の血清中において、及び、三回目の免疫後の血清中においてELISAにより得たOD値を示すヒストグラムを表す。
【図7】NS3h−PBSを摂取したマウスで使用したNS3hの量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alum組成物の量に対する、NS3hタンパク質に特異的な相対増殖指数(RPI)を示すグラフを表す。
【図8】NS3h−PBSを摂取したマウスで使用したNS3hの量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alum組成物の量(Alum)に対する、NS3hタンパク質に対して特異的な相対増殖指数(RPI)を、局所細胞性応答について膝窩節細胞において(図8A)及び全身細胞性応答について脾臓細胞において(図8B)示すグラフを表す。
【図9】マウスで使用した免疫原(すなわちNS3h−PBS)の量(PBS)、透析により調製した本発明の微粒子の量(DYS)、溶媒置換により調製した本発明の微粒子の量(DDS)、及び、NS3h−Alu組成物の量(Alum)に対する細胞増殖指数(RPI)を、刺激をしない脾臓細胞において(0)、NS3hタンパク質による刺激後において(1)、又は、タンパク質及び抗CD4+抗体による刺激後において(1+aCD4)示すヒストグラムを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク性物質が結合する非ラメラ生体再吸収性微粒子の調製方法であって、以下の段階:
(i)安定化剤及び界面活性剤を使用せず、少なくとも一種の生体再吸収性ポリマーから前記微粒子を調製する段階、並びに、
(ii)界面活性剤を使用せず、段階(i)で得た微粒子に前記タンパク性物質を結合させる段階:を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記段階(i)で使用するポリマーはポリ(α−ヒドロキシ酸)又はポリ(α−ヒドロキシ酸)の混合物である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク性物質の微粒子への結合は吸着により実施される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク性物質はウイルス由来の抗原である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
抗原はHIVウイルス抗原、好ましくはp24タンパク質又は調節タンパク質である
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HIVウイルス抗原はTat、Rev及びNefタンパク質から選択される調節タンパク質である
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗原はHCVウイルス抗原、好ましくはHCVウイルスの非構造タンパク質である
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
抗原はNS3タンパク質、好ましくはNS3ヘリカーゼタンパク質である
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で取得した、タンパク性物質が結合した生体再吸収性微粒子。
【請求項10】
医薬品を調製するための、請求項9に記載の生体再吸収性微粒子の使用。
【請求項11】
医薬品は、ウイルスにより生じる感染の阻害、予防又は治療を目的とする
ことを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項9に記載の生体再吸収性微粒子の少なくとも一種、及び、適切な場合には医薬上許容される賦形剤を含む
ことを特徴とする医薬組成物、特にワクチン。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物の有効量の患者への投与を含む
ことを特徴とする、請求項9に記載の生体再吸収性微粒子に結合したタンパク性物質に関与する病状の治療方法。
【請求項14】
請求項9に記載の生体再吸収性微粒子に対する抗体。
【請求項15】
請求項9に記載の生体再吸収性微粒子又は請求項14に記載の抗体からなる診断用組成物。
【請求項16】
生体再吸収性微粒子に結合したタンパク性物質に関与する病状のin vitro診断用の、請求項15に記載の診断用組成物の使用。
【請求項17】
病状はウイルス感染である
ことを特徴とする請求項16に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−521321(P2007−521321A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526671(P2006−526671)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050447
【国際公開番号】WO2005/027871
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】