生体分子の検定を開発するための方法
本教示は、親娘イオン遷移モニタリング(PDITM)を使用した、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発する方法を提供する。種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法を提供する。種々の実施形態において、試料は、その試料の由来元となる生理学的流体に少量しか存在しないタンパク質のタンパク質分解断片を含む。本教示内容の方法は、例えば、約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の血中タンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発するのに応用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2005年10月13日に出願された仮特許出願第60/727,187号(この内容は、参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の分析の多くの用途では、試料中に低濃度でしか存在しない一連のタンパク質の絶対的又は相対的な定量データを得ることが強く望まれている。これは特にバイオマーカーの発見及びバリデーションに当てはまることであり、幾つかの理由から重要なこととされている。例えば、適切な検出限界を達成するには極めて高い感度が必要になる場合があり、又、試料が複雑である(例えば、数桁にわたる濃度で多数のタンパク質が存在する)ために、干渉が生じ、検出限界が損なわれる場合があることが理由として挙げられる。更に、対象タンパク質又はこれに対応するDNA配列が知られていても、対象タンパク質の標準試料がなく、従って、試料中のタンパク質を定量化することができる検定又は方法の開発が極めて困難な場合もある。
【0003】
従来、殆どの臨床的に関連するマーカーは、疾患の進行又は治療に関連する血清タンパクレベルを正確に測定できる免疫学的検定によって検出される。しかし、プロテオミクス及び転写プロファイリング法により発見される候補タンパク質マーカーの数が増えてきている中、ヒトの臨床用試料において正確な定量化を行うために使用できる抗体試薬がない場合が多い。更に、殆どの臨床的に関連するバイオマーカーは生体試料中に低濃度でしか存在しない。従って、これらのタンパク質が信頼性の高い疾患の予想因子であり、最終的には臨床診断に使用できることを確認するには、体液、組織、又はその他の生体基質に由来する多くの試料の中からバイオマーカーを定量分析する実用的な手法を開発することが必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本発明は、親娘イオン遷移モニタリング(PDITM)を使用した、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発する方法を提供する。種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法を提供する。種々の実施形態において、試料は、その試料の由来元となる生理学的流体(physiological fluid)に少量しか存在しないタンパク質のタンパク質分解断片を含む。
【0005】
本教示内容の方法は、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物を含むがこれらに限定されない幾つかの生体試料の内の何れかに存在するタンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発するのに応用することができる。生体試料は種々の供給源、条件、又はこれらの両方に由来してよく、例えばこれらには、対照群対実験群、種々の時点で採取した試料(例えば、配列を形成するため)、疾患群対健常群、実験群対疾患群、汚染群対非汚染群等がある。生理学的流体の例には、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0006】
種々の実施形態において、本教示内容の方法は、約10万アトモル/マイクロリットル未満、約1万アトモル/マイクロリットル未満、約1000アトモル/マイクロリットル未満、約100アトモル/マイクロリットル未満、約10アトモル/マイクロリットル未満、及び/又は約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の血中タンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発するのに応用することができる。このような方法は例えば、種々の実施形態でタンパク質バイオマーカー検定を開発するのに使用することができる。
【0007】
質量分析ベースのタンパク質検定を開発するに当たり、本教示内容では、親娘遷移モニタリングの質量分析法を使用する。「親娘イオン遷移モニタリング」即ち「PDITM」という用語は、例えば、質量分析を使用した測定であって、第1の質量分離器(しばしば質量分析の第1のディメンションと呼ばれる)の透過される質量電荷比(m/z)の範囲が、分子イオン(しばしば「親イオン」又は「前駆イオン」と呼ばれる)をイオン断片化装置(例えばコリジョンセル、光解離領域等)に透過して、断片イオン(しばしば「娘イオン」と呼ばれる)を生成するように選択され、第2の質量分離器(しばしば質量分析の第2のディメンションと呼ばれる)の透過されるm/z範囲が、1つ以上の娘イオンを、娘イオンシグナルを測定する検出器に透過するように選択される、測定を指す。モニタリングされる親イオンと娘イオン質量の組み合わせは、モニタリングされる「親娘イオン遷移」と呼ばれる。任意のモニタリングされる親イオンと娘イオンの組み合わせの、検出器における娘イオンシグナルは、「親娘イオン遷移シグナル」と呼ばれる。本教示内容では、タンパク質のタンパク質分解断片の親イオンを生成し、娘イオンのイオンシグナルを測定するが、任意のモニタリグされるタンパク質分解断片イオンと娘イオンの組み合わせの、検出器における娘イオンシグナルは、「親娘イオンシグナル」と呼ばれる。
【0008】
親娘イオンシグナル及び本明細書に記述するその他のイオンシグナルは、例えば娘イオンピークの強度(平均、中央値、最大等)、娘イオンピークの面積、又はこれらの組み合わせに基づいていてもよい。
【0009】
種々の実施形態において、親娘イオン遷移モニタリングは、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)(選択反応モニタリングとも呼ばれる)を含む。MRMの種々の実施形態において、任意の親娘イオン遷移のモニタリングは、対象親イオンのm/z上に配置した第1の四極子を対象親イオンを透過する第1の質量分離器として使用すること、並びに対象娘イオンのm/z上に配置した第2の四極子を対象娘イオンを透過する第2の質量分離器として使用することを含む。種々の実施形態においては、例えば、第1の質量分離器を対象親イオンのm/z上に配置して親イオンを透過し、対象娘イオンのm/z値を含むm/z範囲にわたって第2の質量分離器でスキャンを行い、更に例えばスペクトルからイオン強度プロファイルを抽出することによって、PDITMを行ってよい。例えばMRM等のPDITMを行うのに、タンデム質量分離器(MS/MS)、又はより一般的には多次元質量分離器(MSn)を使用してもよい。種々の実施形態において、質量分離器は、三連四重極リニアイオントラップ質量分離器である。
【0010】
種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;(b)前記タンパク質の前記タンパク質分解断片を衝突誘起解離(collision induced dissociation)に供する場合に前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(h)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(i)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記検定用の選択された親娘イオン遷移が、前記透過された親イオンが、前記タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、前記選択された親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。種々の実施形態において、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程は、(1)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに(2)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うことを含む。種々の実施形態において、このイオンシグナル測定工程は更に、前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も含む。
【0011】
種々の態様において、本教示内容は、血液試料中に少量しかないタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、前記タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づいて予想する工程;(b)前記タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、前記タンパク質の前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程であって、前記試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む血液試料に由来する、工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(h)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(i)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記検定用の選択された親娘イオン遷移が、前記透過された親イオンが前記タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、前記選択された親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。種々の実施形態において、前記予想された衝突誘起解離断片の前記m/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程は、(1)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定された強度閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに(2)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うことを含む。種々の実施形態において、このイオンシグナル測定工程は更に、前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も含む。
【0012】
種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、前記タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;(b)前記タンパク質のタンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程;(h)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定する工程;(i)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(j)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(k)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。
【0013】
当業者であれば理解する通り、「完全な産物イオンスキャン」という用語は、断片化に供した親イオンのプロダクトイオンに対応するm/z値にわたる質量分析スキャンを指す。本明細書で使用される「完全な産物イオンスキャン」では、0からプロダクトイオンで可能な最大m/z値までの全てのm/z値を包含するスキャンは必要とされない。当業者であれば理解する通り、質量分析計は、効果的に達成できるm/z値の下限に限定されてよく、例えば遊離水素イオン断片(H+)等の所定の質量以下のプロダクトイオンは対象とならない場合がある。例えば、質量が約30amu未満のイオンをスキャン又は検出しなくても、約30amuから、可能な最も高いプロダクトイオン質量に対応するm/z値までのプロダクトイオンを質量分析スキャンすれば、「完全な産物イオンスキャン」であると考えられる。
【0014】
本教示内容の種々の態様の種々の実施形態において、生体試料中の1つ以上の特定のタンパク質(例えば、バイオマーカータンパク質)の存在の検定は、タンパク質が例えば血液試料等の試料中に少量しか存在しない場合に開発される。種々の実施形態において、前記試料は、約10万アトモル/マイクロリットル未満、約1万アトモル/マイクロリットル未満、約1000アトモル/マイクロリットル未満、約100アトモル/マイクロリットル未満、約10アトモル/マイクロリットル未満、及び/又は約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度のタンパク質を含む。種々の実施形態において、本教示内容による試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定は、例えば試料中のタンパク質濃度のダイナミックレンジを下げることにより、より低濃度のタンパク質にも拡張することができる。例えば、より高濃度のタンパク質の除去、試料中の対象タンパク質の濃縮、又はこれらを組み合わせて行い、クロマトグラフィーカラムに充填する試料中の対象タンパク質の相対的な量を増加させることによって、複雑な混合物中のより低濃度の対象タンパク質を検出することができる。
【0015】
種々の実施形態において、試料は細胞、組織、及び生理学的流体の抽出物から調製される。生理学的流体の例には、血液、血清、血漿、汗、涙液、脳脊髄液、尿、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。試料は種々の供給源、条件、又はこれらの両方に由来してよく、例えばこれらには、対照群対実験群、種々の時点で採取した試料(例えば、配列を形成するため)、疾患群対健常群、実験群対疾患群、汚染群対非汚染群等がある。
【0016】
対象タンパク質のタンパク質分解断片を生成するには、幅広い種法を使用することができる。タンパク質からタンパク質分解断片を生成するのに好適な技法には、何れかの配列特異的開裂プロセスが含まれる。好適な酵素配列特異的開裂技法の例には、例えばセリンプロテアーゼ、及びチオールプロテアーゼ等のプロテアーゼを使用した開裂が含まれる。例えば、タンパク質分解断片(例えば、ペプチド)は、トリプシンによるペプチド結合の酵素加水分解で複数のペプチドタンパク質分解断片を生成することにより、タンパク質から生成することができる。
【0017】
種々の実施形態において、タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料は更に、本教示内容に基づき前記タンパク質の検定として使用するようにタンパク質分解断片を選択したことにより作成される、タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含む。例えば、濃度標準は、対象タンパク質から生成されるタンパク質分解ペプチドの1つに対応する安定同位元素標識ペプチドであってよい。
【0018】
種々の態様においては、1つ以上の試料中の対象タンパク質の存在を測定するように設計された検定が提供される。この検定は例えば、新薬発見又は診断検定のための種々の生化学経路の発見に使用するバイオマーカーバリデーション検定であってよい。この検定は例えば、疾患又は病態の診断、疾患又は病態の予後診断、又はこれらの両方であってよい。
【0019】
種々の態様において、本教示内容は、本発明の方法の機能を、例えばフロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、又はDVD−ROM等があるがこれらに限定されないコンピュータ可読媒体に記録したコンピュータ可読命令として埋め込んだ製造物品を提供する。
【0020】
本教示内容の前記及びその他の態様、実施形態、目的、特徴及び利点は、付随する図面と共に以下の説明からより詳細に理解することができる。これらの図面において、各図に記載される同じ参照記号は一般的に同じ特徴及び構成要素を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を例示することに力点が置かれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(種々の実施形態の詳細な説明)
質量分析ベースのタンパク質検定を開発するに当たり、本教示内容では、親娘イオン遷移モニタリングの質量分析法を使用する。種々の実施形態において、親娘イオン遷移モニタリングは、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)を含む。図1を参照すると、MRMスキャンは、例えば、対象タンパク質分解断片(即ち、親イオン102)の質量をイオン断片化装置103に透過するように第1の質量分離器101を設定することによって行うことができる。第1の質量分離器101の設定は、例えば、実質的にタンパク質分解断片の質量を中心とした約3質量単位幅の質量ウィンドウ内のイオンを透過するように第1の質量分離器を設定することによって可能である。種々の実施形態において、イオン断片化装置103の衝突エネルギーは、イオン断片化装置内のこのペプチド(娘イオン)の選択された荷電断片の生成を促進するように選択することができる(ここで、イオン断片化装置は、CIDを行う衝突ガス、及びイオン断片104の回収と断片イオンの透過を促進する四極子を含む)。第2の質量分離器105は、対象娘イオン106を検出器107に透過して、透過された娘イオンのイオンシグナルを生成するように(例えば、実質的に娘イオンの質量を中心とした約1質量単位幅の質量ウィンドウ内のイオンを移動するように第2の質量分離器を設定することによって)設定される。
【0022】
種々の実施形態において、親イオンと娘イオンの各組み合わせのMRMパラメータは、親イオン(対象タンパク質のタンパク質分解断片)に関連する選択された娘イオンのシグナルを最適化するように選択することができる。種々の実施形態において、この実験では質量分離器で通常約10ms〜約200msであるがこれらに限定されない滞留時間を使用することができ、又、MRM遷移を急速に変更できる機能により、LC−MSの一回の実行で混合物に含まれる複数の構成要素をモニタリングすることができる。例えば、LC−MSの1回の実行で50〜100種類の構成要素を一度にモニタリングすることができる。特定の期間を使用することにより、LC−MSの1回の実行で更に多くのMRM遷移をモニタリングすることができる。
【0023】
本教示内容では、PDITMを実行するのに幅広い質量分析システムを使用することができる。好適な質量分析システムは、2つの質量分離器と、この2つの質量分離器の間のイオン飛行経路に配置されたイオン断片化装置とを備える。好適な質量分離器の例には、四重極型、RFマルチポール、イオントラップ、飛行時間(TOF)、タイムドイオンセレクターを伴うTOFが含まれるが、これらに限定されない。好適なイオン断片化装置には、衝突誘起解離(CID、衝突支援解離(CAD)とも呼ばれる)、光誘起解離(PID)、表面誘起解離(SID)、ポストソース分解、又はこれらの組み合わせの原理で動作するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
質量分析器の好適な質量分析システムの例には、三連四重極、四重極リニアイオントラップ、四重極TOFシステム、及びTOF−TOFシステムを含むものが含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
質量分析システムに好適なイオン源には、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、マトリックス支援レーザイオン化(MALDI)、大気圧化学イオン化(APCI)、及び大気圧光イオン化(APPI)源が含まれるが、これらに限定されない。例えば、ESIイオン源は、LCコラムに由来するイオン化試料を質量分離器に導入する手段として機能することができる。ESIの幾つかの望ましい特徴の1つは、クロマトグラフィーカラムから得た分画が、カラムから直接ESIイオン源に移動できるという点である。
【0026】
種々の実施形態において、質量分析システムは、親イオンを選択しその断片娘イオンを検出する三連四重極質量分析計を含む。種々の実施形態において、第1の四極子(本明細書でQ1と称する)は親イオンを選択する。第2の四極子(本明細書でQ2と称する)は、十分に高い圧力及び電圧で維持されることから、数多くの低エネルギー衝突が生じ、親イオンの一部が断片化する。第3の四極子Q3は、選択した娘イオンを検出器に透過するように選択される。
【0027】
種々の実施形態において、三連四重極質量分析計中の四極子の1つ以上は、リニアイオントラップとして構成することができる(例えば、終端電極を追加し、四極子内に実質的に長い円筒状のトラップ容量を提供する)。種々の実施形態において、第1の四極子Qlは親イオンを選択する。第2の四極子Q2は十分に高い衝突ガス圧及び電圧で維持されることから、数多くの低エネルギー衝突が生じ、親イオンの一部が断片化する。第3の四極子Q3は、断片イオンをトラップし、充填時間後に、例えば終端電極にパルスして、選択された娘イオンをイオントラップから出すことによって、選択された娘イオンを検出器に透過するように選択される。所望の充填時間は、例えば断片イオンの数、イオントラップ内の電荷密度、種々のペプチドの溶離間の時間、デューティサイクル、励起状態のイオン種若しくは多重荷電イオンの分解時間、又はこれらの組み合わせに基づいて決定することができる。
【0028】
図2を参照すると、試料中のタンパク質の存在を検出するための質量分析ベースの検定を開発する本発明の種々の実施形態の概念図が示されている。種々の実施形態において、本教示内容では、対象タンパク質の既知の又は予想された配列に基づき、対象タンパク質の最初の推定MRM遷移を決定する。タンパク質配列情報は、アミノ酸配列データベース(例えば、Celera、SwissProt等)、DNAデータベース、遺伝子配列の翻訳、直接の実験測定、及びこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない幾つかの供給源から得ることができる。本発明の方法では、タンパク質配列210から、タンパク質のタンパク質分解断片(例えば、ペプチド断片)を予想し、イオン断片化装置の断片方法によるタンパク質分解断片の断片化から得たこれらのタンパク質分解断片の断片(娘イオン)を予想する。種々の実施形態において、イオン断片化方法は衝突誘起解離(CID)を含み、予想される娘イオンは対応するタンパク質分解断片のCIDから得たものである。従って、タンパク質の理論的なタンパク質分解から生成されるタンパク質分解断片(例えば、ペプチド)を使用して、対応するタンパク質分解断片の1つ以上の娘イオンを決定し、それによって最初の親娘イオン遷移220を決定し、MRMでモニタリングすることができる。この遷移は、しばしばMS1/MS2という記述で列挙されることが多く、この場合、MS1は第1の質量分離器によって透過された公称質量電荷比(従って、公称タンパク質分解断片m/z)を指し、MS2は、第2の質量分離器によって透過された公称m/z(従って、公称タンパク質分解断片娘イオンのm/z)を指す。
【0029】
次いで、対象タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料をMRM実験に供する。試料は、MRM実験に供する前に、例えば試料を濃縮する、干渉試料を分画して除去する、より高濃度のタンパク質の少なくとも一部を除去する等の処理工程に供してよい。試料の少なくとも一部は、クロマトグラフィーカラムに充填され、溶離液の少なくとも一部が質量分析システムに向けられる。質量分析システムを使用して、最初の親娘イオン遷移の1つ以上によるMRMを行い、親娘イオン遷移シグナルを測定する(230)。MRMで検出されているペプチドの同一性を確認するには、ペプチドの依存MS及びMS/MSスペクトルを得るために情報依存取得実験を使用することができる(240)。種々の実施形態において、例えばイオンシグナルが指定されたシグナル閾値を超える場合には、対応するタンパク質分解断片に実質的に完全な産物イオンスキャンが行われる。種々の実施形態において、イオンシグナルが指定されたシグナル閾値を超える場合には、幾つかのリニアイオントラップスキャンが起動され、例えばペプチドの電荷状態及びモノアイソトピック質量を確認する高解像度スキャン(リニアイオントラップを使用した高解像度スキャン)を行うか、及び/又はペプチドの配列を確認する強化プロダクトイオンスキャン(リニアイオントラップを使用したMS/MSスキャン)を行う。
【0030】
例えば、透過された親イオン及び配列決定された親イオンに完全な産物イオンスキャンを行うことで、検出された親イオンを所望のタンパク質由来のタンパク質分解断片として同定することができる。好ましくは、親イオンは衝突セル中で一連の断片イオンに断片化され、これらの中ではアミノ酸数の多い方から少ない方に並んだイオンのラダーができる。断片化はペプチドの任意の場所で生じる可能性があることから、観察された質量電荷比のスペクトルが生成される。一般的に、断片化スペクトルでは2組の顕著なイオンが観察される。1組はペプチドのC末端からアミノ酸を除去した配列ラダーであり(しばしばyシリーズと呼ばれる)、もう1組はN末端からアミノ酸を除去した配列ラダーである(しばしばbシリーズと呼ばれる)。親イオンの完全又は部分的なアミノ酸配列情報は、断片化スペクトルを解釈することによって得られる。ペプチド内の異なるアミノ酸はそれぞれ異なる質量を有するため、ペプチドの断片化スペクトルは通常そのペプチド配列に特徴がある。
【0031】
種々の実施形態においては、実験的に測定されたフルスキャンMS/MSスペクトルを使用して、最初に予想された親娘イオン遷移を改善し、改善したPDITの組を生成する。MRMを実行し親娘イオン遷移シグナルを測定する工程230は、改善した親娘イオン遷移の1つ以上を使用して繰り返される。この改善及び測定のプロセスは繰り返してもよい。
【0032】
本教示内容の方法では次いで、生体試料中のタンパク質の存在の検定として親娘イオン遷移を選択する(250)。親娘イオン遷移は、(i)親娘イオン遷移の親イオンがそのタンパク質のタンパク質分解断片であること;並びに以下の少なくとも1つに基づいて選択される:(ii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル(本実施例ではピーク面積で決定)を有すること;(iii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のシグナルノイズ比を有すること;(iv)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、イオンシグナル内にほぼ最少のエラー量を有するイオンシグナルを有すること;(v)選択された親娘イオン遷移は、指定された閾値値を超える定量下限値(LOQ)、シグナルノイズ比、及び/又は親娘イオンシグナルの1つ以上を有すること。
【0033】
種々の実施形態において、選択された親娘イオン遷移の娘イオンは、検出レベル(LOQ)、定量限界(LOQ)、シグナルノイズ(S/N)比、その他のペプチドのその他の娘イオンとの質量類似性等の1つ以上に基づいて選択することができる。種々の実施形態において、LOQは、使用したLCカラム上の試料のアトモルレベル(10−18モル)からフェムトモルレベル(10−15モル)の範囲内にあり、ダイナミックレンジはLOQよりも3桁〜4桁高いマグニチュードである。
【0034】
種々の実施形態において、本教示内容の方法は、検定の感度を高めるために(例えば、低濃度のタンパク質を検出しやすくするために)試料を調製する工程を含む。検定の感度を高めるには、例えば、試料中のタンパク質濃度のダイナミックレンジを下げる、試料中の対象タンパク質の相対濃度を増加させる、及びこれらを組み合わせる方法を含むがこれらに限定されない、幾つかの方法を使用することができる。例えば、対象タンパク質が低濃度である場合は、より高濃度のタンパク質を除去する、試料中の対象タンパク質を濃縮する、又はこれらを組み合わせることにより、例えばクロマトグラフィーカラムに充填される試料中の対象タンパク質の相対量を増加させて、達成することができる。質量分析計は理論的には単一分子を検出することができるが、一般的なクロマトグラフィーカラムには、充填できるタンパク質量に実用的な限界がある。
【0035】
種々の実施形態において、タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料は更に、本教示内容に基づきタンパク質の検定として使用するようにタンパク質分解断片を選択されたことにより作成される、タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含む。例えば、濃度標準は、対象タンパク質から生成されるタンパク質分解ペプチドの1つに対応する安定同位元素標識ペプチドであってよい。種々の実施形態において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法を提供することを理解されたい。従って、種々の実施形態において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析検定で使用する濃度標準を決定する方法を提供する。
【0036】
本教示内容の別の態様において、上記の方法の機能は、汎用コンピュータにコンピュータ可読命令として実装することができる。コンピュータは質量分析システムとは別個のものである場合もあれば、このシステムから脱着可能なものである場合もあり、このシステムに統合される場合もある。コンピュータ可読命令は、例えばFORTRAN、PASCAL、C、C++、又はBASIC等の幾つかの高レベル言語の何れか1つにて書かれる場合がある。更に、コンピュータ可読命令は、スクリプト、マクロ、又はEXCELやVISUAL BASIC等の市販のソフトウェアに機能を埋め込まれる機能にて書かれる場合もある。加えて、コンピュータ可読命令はコンピュータ上に常駐するマイクロプロセッサを対象としたアセンブリ言語で実装することもできる。例えば、コンピュータ可読命令をIBM PC又はPCクローンで実行するように構成する場合は、Intel 80×86アセンブリ言語で実装することができる。一実施形態において、コンピュータ可読命令は、例えばフロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、DVD−ROM等のコンピュータ可読プログラム媒体を含むがこれらに限定されない製造物品に埋め込むことができる。
【0037】
以下の実施例は、本教示内容の種々の原理を使用した実験を例示するものである。これらの実施例の教示内容は網羅的なものではなく、本発明の適用範囲を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1 枯渇ヒト血漿におけるフィブロネクチンの検出及び確認)
本実施例では、ヒト血漿(ここではアルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビン及び抗トリプシンという最も高濃度に含まれている一般的な血漿タンパク質を枯渇させた)におけるフィブロネクチンの検出及び確認を示している。これは、例えば、検定の結果の信頼性を高めるため、定量化に使用される特異的な保持時間での各MRM遷移に関する配列確認情報(フルスキャンMS/MS)を得るという、今回の検定の確認における重要な工程である。フィブロネクチンは一般的に約5397amol/μLの濃度のヒト血漿中に存在する。
【0039】
試料の調製
本実施例では、試料にはヒト血漿が含まれている。この血漿試料は、Multiple Affinity Removal System(「MARS」スピンカラム:Agilent Technologies)を使用して、(アルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビン及び抗トリプシンという)最も高濃度に含まれている一般的な血漿タンパク質が枯渇されており、この試料はクロマトグラフィーカラムに充填する前にろ過によって脱塩した。又、この血漿試料は、カラムに充填する前に変性、還元、アルキル化し、トリプシンによって消化しておいた。
【0040】
クロマトグラフ
ヒト血漿(0.01μL)をC18カラム(75μm×15cm、LCパッキング)に充填し、40分間勾配を使用した逆相HPLC(0.1%ギ酸中の2〜35%アセトニトリル)によって成分を分離させた。場合によっては、プレカラム脱塩工程を使用した(C18トラップ、300μm×5mm、LCパッキング)。
【0041】
質量分析装置
MRM分析は、Applied Biosystems/MDS Sciex 4000 Q TRAP(登録商標)システム(Q1:単位解像度、Q3:単位解像度)上のNanoSpray(登録商標)システム供給源を使用して実施した。各ペプチドのMRMは、MS/MSスペクトルに基づいて予想するか、ペプチド配列に基づいて設計した。最終検定における各MRM遷移及び保持時間の確認には、例示するMIDASTMワークフローを使用したMRM−Initiated Detection and Sequencingを使用した。
【0042】
考察
図3Aは、クロマトグラフィーカラムに充填した血漿約0.01μL(即ち、約54amolのタンパク質を含む充填した試料)に関するフィブロネクチン302のDLQFVEVTDVKペプチドのMRM遷移(647.3/789.4)を示している。図3Aは又、本実施例に関するMRM遷移シグナル304も示している。本実施例において、MRMによるペプチドの検出は、MS/MS実験によってペプチド配列を確認して、検出されたペプチドを同定し、フィブロネクチンのタンパク質分解断片(ペプチド)の娘イオン上の配列情報を得るためのMS/MSデータの収集を促進する。図3Bは、このようなMS/MSデータ206の一例を示している。消化試料は高度に複雑なペプチド混合物(タンパク質分解断片)であるが、MRMサーベイスキャンデータ304では単一のピークのみが観察されている。図3Bに示す完全な産物イオンスキャンMS/MSデータ306(星印は図3AのMRMで使用したQ3質量を示す)は、MRMスキャン304で観察された単一のピークが、フィブロネクチン由来の標的タンパク質分解断片(ペプチド)であるDLQFVEVTDVKであることを確認するのに使用した。本実施例は、複雑な生体混合物中の対象となる標的タンパク質由来のペプチドが、濃度は低いものの、MRMによって検出し、MS/MSによって確認できることを示している。
【0043】
(実施例2 全ヒト血漿試料及び枯渇ヒト血漿試料での評価)
本実施例は、多重法を使用したヒト血漿中の53個のタンパク質を示すペプチド(タンパク質分解断片)に適用した通り、本教示内容の種々の実施形態に関するデータ及び評価を示す。このうち47個は、2〜22%の変化量の同時係数(CV)(n=10)による定量的データをもたらした(検定の78%はCV<10%)。137 MRMを連続して測定した5回の実験(各10回の反復実行)では、幾つかのペプチドから2〜7%の範囲のCVが得られ、本教示内容を使用して複雑な消化物において達成可能な精度を証明している。(下記に示す通り)免疫サブトラクションによる6つの一般的に最も高濃度に含まれるタンパク質の枯渇は、全血漿と比べてCVを改善したが、両試料タイプ(枯渇及び非枯渇)とも検体を検出することが可能である。反復消化及び枯渇/消化実験では、それぞれ>99.5%及び>98.9%の相関係数(R2)が得られた。各ペプチドの絶対検体特異性は、MRM誘発MS/MSスキャンを使用して明らかにした。L−セレクチン(0.67μg/mLで測定)及びタンパク質の信頼できる検出では、μg/mLレベル以下のタンパク質は、最小限の試料調製で血漿中で定量化することが可能であり、1回の実験で約4〜5桁のダイナミックレンジが得られた。種々の実施例においては、本教示内容を使用してより濃度の低いタンパク質の検出を容易にするために、追加の先行的試料調製を実施することが可能である。このため、種々の実施例において、本教示内容は、バイオマーカーのバリデーションのための強固なプラットフォームを提供することができる。
【0044】
図4Aは、本実施例で分析された試料における53個のタンパク質(この図ではスペースの都合で10個のタンパク質のみ標識されている)のペプチドに関するLCクロマトグラムデータを示しており、図4Bはこれらのタンパク質の高濃度の範囲を示している。図4Bのひし形の記号は理論的に予想される値であり、正方形の記号は本実施例の実験結果を表している。
【0045】
試薬
化学物質の入手先は以下の通りである:トリプシン(Promega)、ドデシル硫酸ナトリウム(Bio−Rad Laboratories)、ヨードアセトアミド(Sigma)、ギ酸(Sigma)、トリ−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(Sigma)、及びアセトニトリル(Burdick and Jackson)。
【0046】
試料のタンパク質枯渇及び消化
全ての実験は、健常志願者に由来する単一のヒト血漿試料のアリコートで実施した。枯渇させた試料調製には、Multiple Affinity Removal System(「MARS」スピンカラム:Agilent Technologies)を使用し、製造業者の推奨するプロトコルに十分に従って、6種類の一般的に最も豊富なタンパク質を血漿から枯渇させた。次に、枯渇させた試料を、VivaSpin濃縮機(5000 MWCO、VivaScience)を使用して、50mM重炭酸アンモニウムに交換した。又、非枯渇血漿も消化の前に脱塩した。
【0047】
枯渇血漿試料及び非枯渇血漿試料の両方を変性させ、60℃の0.05% SDS及び5mMトリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン中で、培養タンパク質によって15分間還元した。次に、試料はヨードアセトアミド中で10mMに調製し、25℃で15分間暗室培養した。1つのアリコートにはトリプシンを加え(プロテアーゼ:タンパク質比=1:20)、37℃で5時間培養した。
【0048】
タンパク質のタンパク質分解断片の予想
本実施例では、以下の3つの基本的手法を採用して、このタンパク質のタンパク質分解断片及びMRM遷移を予想した:(1)配列データベースからのin silico消化、及びCIDペプチド断片イオンの予想、(2)利用可能なLC−MS/MSプロテオミクスサーベイデータからの予想、及び(3)本教示内容、MIDASTMワークフローを使用したタンパク質の全候補ペプチドの包括的なMRM試験。更に本教示内容の方法を評価するため、ランダムMRM遷移も発生させた。
【0049】
In Silico
このIn silico方法では、心血管疾患の一部の側面の実証された又は可能性ある血漿マーカーである177組のタンパク質及びタンパク質形態(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L. (2005) Candidate−based proteomics in the search for biomakers of cardiovascular disease. J Physiology 563.1, 23−60を参照)、並びに正常な血漿濃度の推定値が得られる選択された62個のタンパク質のサブセットを収集した。これらのそれぞれについて予想されたトリプシンペプチドが、関連するSwissprot注釈及び以下の一連のコンピュータ化された物理化学的パラメータと共に生成された:例えば、アミノ酸組成物、ペプチド質量、Hoop−Woods親水性(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Hopp, T.P. and Woods, K.R. (1981) Prediction of protein antigenic determinants from amino acid sequences. Proc Natl Acad Sci USA 78, 3824−8を参照)、並びに逆相(C18)クロマトグラフにおける予想保持時間(例えば、全体が参考として本明細書で援用される、Krokhin, O.V.Craig, R., Spicer, V., Ens, W., Standing, K.G., Beavis, R.C. and Wilkins, J.A. (2004) An improved model for prediction of retention times of tryptic peptides in ion pair reversed−phase hplc: Its application to protein peptide mapping by off−line phlc−maldi ms. Mol Cell Proteomics 3,908−19を参照)。同じタンパク質から最も多く検出されるペプチドのヒット数によって分けられたデータセットでペプチドの個々の「ヒット数」を計算することで算出した実験的検出の尤度指数は、Adkinsによって報告されたデータセットに由来するものであった(例えば、全体が参考として本明細書で援用される、Adkins, J.N., Varnum, S.M., Auberry, K.J., Moore, R.J., Angell, N.H., Smith, R.D., Springer, D.L. and Pounds, J.G. (2002) Toward a human blood serum proteome:Analysis by multidimensional separation coupled with mass spectrometry. Mol Cell Proteomics 1,947−55を参照)。ペプチド品質の全体指数は、P、KP、RP及びDPの内容物の陽性重量、並びにC、W、M、キモトリプシン部位の陰性重量、特定のSwissProt特徴(炭水化物結合、改質残基、配列競合、又は遺伝的変異)、並びに800未満又は2000以上の質量を求める式により得た。62個のタンパク質マーカー候補について予想された3619個のトリプシンペプチド(標的当たり6〜492個のペプチド)は、長さが1〜285個のアミノ酸の範囲内であった。8〜24個のアミノ酸の範囲内では、721個のペプチドにはc−末端Lysが、690個のペプチドにはc−末端Argがあった。本実施例では、更に試験をするため、C末端Lysで終わるこれらの標的タンパク質の30個からのペプチドを選択した。最終的に、単一のCID断片化規則に基づき、断片イオンを予想し、MRM遷移を生じさせるために使用した(例えば、親m/z値を上回る1つ目及び2つ目のyイオン)。
【0050】
LC−MS/MSプロテオミクスサーベイデータ
又、ペプチドは、直接のプロテオミクスサーベイ実験に基づいて選択した。この場合、フルスキャンMSによって観察される主要なイオンを、4000Q TRAP装置のイオントラップ機能を使用したMS/MSに供する、血漿消化物の伝統的なLC−MS/MS分析を行った。ペプチドは、所定の親タンパク質の相対的に最高のシグナル強度及びクロマトグラフのピーク形状を示す同定されたものを選択した。更に、BeavisのGPMデータベース(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Craig, R., Cortens, J.P. and Beavis, R.C. (2004) Open source systemf for analyzing, validating, and storingprotein identification data. J Ptoteome Res 3,1234−42を参照)を使用して、検出されることの多い標的タンパク質からペプチドを選択した(多重実験)。フルスキャンMS/MSデータから、観察された最も高濃度のyイオンをMRM遷移の断片イオンとして使用した。
【0051】
MRM試験
又、種々の血漿タンパク質から測定可能なトリプシンペプチドを探し出すために、MIDASTMワークフローの適合も使用した(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Unwin, R.D., Griffiths, J.R., Leverentz, M.K., Grallert, A., Hagan, I.M. and Wheton, A.D. (2005) Multiple reaction monitoring to identify sites of protein phosphorylation with high sensitivity. Mol Cell Proteomics 4, 1134−1144を参照)。この手法では、タンパク質配列をin silicoで消化し、有望なyイオン断片を予想して、全てのペプチドについて許容されるサイズの枠内で理論的なMRM値を生成した。次に、これらのMRM値を、特定のペプチドのピークを検出するデータ依存実験にてサーベイスキャンとして使用し、その結果得られる各MRMピークをフルスキャンMS/MSによって試験し、仮説を立てたペプチドの配列検証を得た。得られたフルスキャンMS/MSデータから、観察された最も高濃度のyイオンをMRM遷移の断片イオンとして使用し、これによって、ここでin silicoで予想した結果の更なる改善を行った。
【0052】
ランダムMRM
本実施例の疑似ランダムMRMを得る当たっては、2つの手法を使用した。最初の手法では、(Excel RAND機能により)408.5〜1290.2の間で無作為に分布した100 MS1値(実際のMRMの初期セットの最大及び最小値を試験)を使用し、このMS1と実際のMRMの最大値(1495.6)との間で無作為に選択したMS2値を対にし、これによって実際のMRMの特性(一般的には+2荷電状態のペプチド及び+1荷電断片)を模倣した。2つ目のセットでは、実際のMRMの大規模な表のMS1値の中から無作為に選択した131 MS1値と、同じ表の実際のMS2値から無作為に選択したMS2値とを対にし、各MS2が1回目と2回目の間で対をなすMS1質量とならなければならないという制限のみを課した(自験の実際のMRMの選択基準に近づけるため)。
【0053】
標識ペプチド内部標準:polySIS
選択した実験では、一連の安定同位体標識内部標準(SIS)ペプチドを、ポリプロテインのトリプシン消化物に混ぜることにより、試料に加え(「polySIS」)、本教示内容の方法の種々の実施形態の性能を評価し、これらの方法の商業的可能性の評価に関する実演を行った。しかし、安定同位体ペプチドは、同位体標識アミノ酸を使用したペプチドの化学合成、及び/又は標識試薬(例えば、ICATTM、iTRAQTM)による合成ペプチドの化学標識を含むがこれらに限定されない幾つかの供給源の何れからも得られる可能性がある。但し、本実施例における標準ペプチドの使用は、本教示内容の方法を評価することを目的としており、標準ペプチドは本教示内容の方法の使用に必ずしも必要なわけではないことを理解されたい。
【0054】
手短に言えば、このpolySISタンパク質は、U−13C6 U−15N2標識リジンの存在下における30の濃縮トリプシンペプチド配列(30個の血漿タンパク質由来)の無細胞転写及び合成遺伝子コーディングの翻訳によって生成されたものである(天然ペプチドと比べた総質量増分は8amu)。これらのペプチドの13個を今回の試験で使用した(残りはピーク面積>1e4で再現可能に検出されなかった)。各ペプチドの極限c末端における標識原子の配置は、c末端を含む全ての断片(即ち、y−イオン)が標識による質量シフトを示すのに対し、n−末端を含む全ての断片(従って、より多くのc末端残基の1つを喪失した:即ち、bシリーズイオン)は、天然(試料由来)標的タンパク質からの対応する断片と同じ質量であるという効果を持つ。これらの特徴(シフトしたy−イオン、正常b−イオン)は、SISペプチドの断片化パターンの翻訳を容易にする。polySISタンパク質の絶対濃度を測定するため、アリコートを1M尿素、0.05% SDS及び50mMトリスで希釈してpH8とし、N末端エドマン配列決定に供し、初回濃度である5±1ピコモル/μLを得た。polySISタンパク質のトリプシン消化物は、表1に示す最終濃度でヒト全血漿消化物及び枯渇ヒト血漿消化物を急増させた。
【0055】
データ収集及び処理
polySIS標準物質を加えた場合と加えなかった場合の血漿消化物をLC Packings(Dionexの一事業部[米国カリフォルニア州サニーベール])を使用したエレクトロスプレーLC−MS/MS、又は直径75ミクロンのC18 PepMap逆相カラム(LC Packing)を備えたEksigent nanoflow LC systems(表1)によって分析したのち、3〜30%アセトニトリルに0.1%ギ酸を加えた勾配で溶出させた。カラムオーブン(Keystone Scientific, Inc.)を使用してカラムの温度を35℃に維持した。4000Q TRAPハイブリッド三連四重極/リニアイオントラップ装置(Applied Biosystems/MDS Sciex)でNanoSpray(登録商標)供給源を使用してエレクトロスプレーMSデータを収集し、Analystソフトウェア1.4.1(IntelliQuan algorithm)の定量化法を使用してピークを組み込んだ。MRM遷移は、Q1及びQ3四重極の両方にて単位解像度で取得し、特異性を最大化させた。
【0056】
MRM遷移
本実施例では、MRM検定の代表的なペプチドを選択する初回手法において、計算された特徴のみに基づき、広範囲の血漿濃度(6.6×108〜1fmol/mL正常濃度)に及ぶ各30個のタンパク質から、8〜18個のアミノ酸からなる単一のペプチドを選択した(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L., Anderson, N.G., Haines, L.R., Hardie, D.B., Olafson, R.W and Pearson, T.W. (2004) Mass spectrometric quantitation of peptides and proteins using stable isotope standards and capture by anti−peptide antibodies (siscapa). J Proteome Res 3, 235−44を参照)。MRMは、二重電荷ペプチドイオンを想定し、2+親イオンのm/z値を超える有望なy−イオンとして選択された断片を使用し、衝突エネルギーを一般式(CE=0.05×m/z+5)によって割り当て、ペプチドをU−13C6 U−15N2リジンによって標識された各ペプチドの単一コピーを含む鎖状polySISタンパク質と表して、設計した。polySISのトリプシン消化を分析したところ、MRMによって30個のペプチドが全て検出された。ヒト全血漿の消化物にpolySISペプチドを加えた場合、同じMRM信号によって標識polySISペプチドの19個が検出されたが、(同位体標識質量について調整した同じMRMによって)検出された血漿消化物由来非標識同種ペプチドは11個のみであった。
【0057】
単一のタンパク質と異なるペプチドは、ESI−MSによる検出能において広範に変動する可能性があることから、代替のMRM設計法も又、主に従来のペプチドサーベイスキャン法からの実験データに基づき、立証された検出能を有するペプチドに選択基準を適用して、進められた。3時間のLC勾配を使用して、情報依存性データ収集(IDA)を使用した分離における主要な二重又は三重電荷イオンについてMS/MSスキャンを収集し、2回目は、最初の実行で検出されたペプチドイオンの時間フィルタリング排除を使用して実施された。これらの結果では、高濃度のアルブミンからフィブロネクチン(正常な血漿中濃度は約1μg/mL)までの54個の血漿タンパク質が同定された。この実験MS/MSデータは、ペプチド選択、電荷状態、及び特定の使用条件(即ち、衝突ペプチド断片化によるエレクトロスプレーイオン化)下の最も高濃度のy−イオンのm/z値に関する明確な情報をもたらし、MRMの設計の改善を可能にした。これらのMRMをその後の実行で同じ試料を分析するために使用し、任意のMRM信号でMS/MSスキャンを起動したところ、ペプチドの大部分がクロマトグラムでピークとして検出され、データベースの検索によって同定された。これらのMRMクロマトグラムの大半では、検出されたピークは1回のみであった。
【0058】
MRMを使用したペプチド検出感度はフルスキャンMSサーベイ法で達成されたよりも高いことが予想されるため、上述のサーベイ実験では検出されなかったタンパク質のための包括的な新規のMRM設計法が検討された。新規のソフトウェアツールであるMIDASTMワークフロー(前述を参照)の適合を使用して、それぞれの多数の高質量y−イオン断片と共に有用なサイズ範囲で予想したトリプシンペプチドを全て選択することにより、一連の標的タンパク質のそれぞれについて、大量のMRMを生成した。これらのMRMを未分画血漿消化物のLC−MS/MSで試験し、観察された任意のピークでMS/MSスキャンを起動し、一度に1〜2個のタンパク質の予想されたトリプシンペプチド全てを含むパネルでグループ分けした(1回の実行につき50〜100個のMRM)。試験した12個のタンパク質のうち、9個からは信号対ノイズ比(S/N)が約20を上回るMRM信号が少なくとも1回は得られた。得られたフルスキャンMS/MSデータを、最終検定で検出を改善する目的でMRM遷移を精選するために使用した。
【0059】
上記の手法からのMRM結果を保存し、ヒト血漿の53個のタンパク質を表す合計60個のペプチドを網羅した最適なMRMの組を収集した(表2を参照:7個のタンパク質は2つのペプチドで表されている)。この組にはin silico法で選択された18個のペプチドが含まれている(初回の30個のin silicoペプチドの内の8個は、濃度が低すぎて検出できない可能性があることから削除し、その代わりにその他の4つの実験データからより適切なペプチドを選択した)。1つを除く全てのペプチドでは、ペプチドの2個の断片(即ち、1ペプチド当たり2つのMRMを使用)が測定され、119個のMRMがもたらされた。最後に、消化物血漿試料中に混入させた標的ペプチドの18個の安定同位体標識内部標準(「SIS」)バージョンのMRM(即ち、polySISタンパク質のトリプシン消化物)を含めた。本実施例に記載した複製実行全てでは、MRMにつき18msecの滞留時間及び測定間の約3秒間のサイクル時間を使用して、結果として得られた137個のMRMを測定した。
【0060】
最終的なMRM法を構築したら、各特異的ペプチドを示す各MRM遷移及びそれぞれの保持時間を再度検証した。MRM信号の出現についてはフルスキャンMS/MSを取得し、結果として得られたスペクトルを手動で検査し、特異的なペプチドに対するマッチングを測定した。
【0061】
考察
何れの体液でのバイオマーカーの早期及び後期のバリデーションにおいても重要な要素は、高度に再現可能な方法で多くの試料を同時に調製及び分析する能力である。本実施例では、ヒト血漿中の53個のタンパク質を表すトリプシンペプチドから質量分光MRM検定を設計した(タンパク質の一覧については表2を参照)。本実施例では、最小限の試料調製による血漿中の約1μg/mLの濃度までのタンパク質が、消化ヒト血漿及び枯渇/消化ヒト血漿中で確実に検出され、例えば図4Bに例示する通り、この単一の方法での約5桁のダイナミックレンジをもたらした。このため、種々の実施例において、本教示内容は、バイオマーカーのバリデーションのための強固なプラットフォームを提供することができる。
【0062】
6種類の一連の実験(A〜F)を実施した。各実験では、単一の試料(同じ注入量)の連続複製LC−MS/MSの実行中に137個のMRMからなる同じ組を測定し、適切なピークをAnalystTMソフトウェアを使用して統合し、各実行で各MRMの値(ピーク面積)を得た。LC MRM法の再現性は、同じ試料で10個のLC−MRM複製を測定することによって評価した。実験A〜E(それぞれ10個の複製を実行)を表1に要約した。このような実験群には全(未分画)ヒト血漿(B、C)及び高濃度タンパク質を枯渇させた血漿(A、D、E);総ペプチド充填量高値(B、E)及び充填量低値(A、C、D);及び種々のクロマトグラムの設定が含まれていた。本実施例の実験の目的の1つは、種々の一般的な血漿消化実験におけるMRMの性能を評価することであった。参照ペプチドの充填量(実験A)は、最も豊富なタンパク質(タンパク質質量の約80%)を枯渇させた後の10nLの血漿中に含まれるタンパク質のトリプシン消化によって得た。総ペプチド質量の60〜70ngを占めると推定されるこの充填量は、MRMペプチドのナノ流量クロマトグラムに等しい充填量であることを証明した。実験B及びEでは更に高い充填量を使用し、ピーク安定性(高充填量による有害な影響を受けたクロマトグラムの品質)と信号対ノイズ(S/N)比との間のトレードオフ(検体量の増大により改善)を検討した。本実施例では、検討した条件の中で60〜70ngの充填量が最適であることが示された。クロマトグラム溶出時間は再現可能であり、平均CVが2%(実験D)及び2.5%(実験E)であることが示されている。
【0063】
再現性の考察
血漿調製の枯渇及び消化工程の両方に関する再現性は、別々の日に同じ血漿試料のアリコートで試料調製を実施したほか、1つの試料を選択し、それを2つに分け、並行して枯渇を行った後、更にそれぞれを分割して同じ日に消化を並行して行うことにより、検討した。何れの試料も後で評価し、関連付けた。結果からは、これらの試料調製法は高度に再現可能な様式で実施できることが示唆されている。
【0064】
異種調製における試料調製の再現性
図10A及び10Bを参照すると、図10Aは137個全てのMRMに及ぶ5件の実験(A〜E)に関するMRM値(ピーク面積)のCVのヒストグラムを示しており、このようなデータを反復再現性の評価に使用した。CVは、各試料で10回の反復注入を実施し、各MRM遷移のピーク面積を測定した後、10回の反復における各MRMの平均、標準偏差及び変動係数を計算することにより測定した。図10Aは、5回の実験に関する変動の係数(CV:平均ピーク面積によって分割された標準偏差)のヒストグラムを示している(各MRMの個々の値については、5回の実験における10回の複製分析の平均値及びCVを記載した表2に示している)。タンパク質枯渇血漿の分析では、MRMの60%以上が10%未満の同時CVを示し、ほぼ半数が5%未満のCVを示した。これらのMRMの幾つか(例えば、α−1−抗キモトリプシン、アポリポタンパク質E、ヘモペキシン、ヘパリン補因子II、プラスミノーゲン、プロトロンビン、フィブリノゲンγ鎖、補体C4及び因子B)は、3回の実験にわたって3〜4%の平均同時CVを示し、一般的な良好の臨床免疫検定と同等の精度であった。全(非枯渇)血漿消化の分析では、一般的にこれよりも高いCV値が示された(MRMの20〜50%が10%未満のCVを示した)。このような再現性の測定値は、未処理のピーク面積で計算され、内部標準を使用した補正は行わなかった。測定されたタンパク質の内の4種類は、使用したタンパク質免疫枯渇プロセスにより除去されると推測された。消化物の分析で得られた全血漿試料とタンパク質枯渇血漿試料との平均ピーク面積の比較では、アルブミン(1.3e8が約1e4に減少)、トランスフェリン(1.5e5が約5e3に減少)及びハプトグロブリン(4.6e6が約1e5に減少)の大幅な減少が認められた。本実施例において、α−1−抗トリプシンは、データの分析において、今回除去されたことを確認するのに十分な信頼性をもって検出されなかった。
【0065】
MRMに関する多くの測定値はCVの改善を期待させるものであったことから、実験では、59個のペプチドに関して別々に測定した2つの断片の合計値が、10回の複製実行にわたって個々のMRMよりも少ないCVを示すかどうかも検討された。表3に示す通り、59個のペプチドにおける総MRMの平均CVは、何れの個別のMRMの平均よりも1〜3%低値であった。合計CVを各MRMの2つの断片のCVの低い方と比較すると、実験群A〜EにおけるCVの平均減少率は+0.7%〜−0.1%の範囲であった。これらのCVの小幅な改善は、測定時間の倍増(又はモニタリングしたペプチド数の半減)という犠牲を払って得られたものである。
【0066】
実験群D及びEのCVとピーク面積との間の相関関係は、少なくとも本実施例のデータ及び条件に関して言えば、1e4未満のピーク面積では10%未満のCVを生じる可能性が少ないことを示唆している(図8)。1e4のカットオフ値は約10の信号対ノイズ比に対応しており、これは、報告された定量下限のS/Nの定量的目標と一致する。測定された最高のピーク面積(全血漿消化試料のアルブミンペプチド)は1e8を超えており、このカットオフ値を約4桁以上上回る最大使用ダイナミックレンジを示している。
【0067】
免疫サブトラクションにより再現性を改善
本実施例では一般的に、Agilent MARSカラムを使用した最も豊富なタンパク質の免疫サブトラクションによって、非サブトラクトタンパク質のMRMの性能が改善された。この効果は、単に検出感度が改善されたことに起因するのではなく、全血漿ではなく枯渇血漿消化物で検出を実施した今回の組ではペプチドが存在するとしても少数であったためであると考えられる。むしろ、枯渇の効果は、約1/4〜1/5倍という総ペプチド充填量の減少によって達成されたクロマトグラムピーク形状の改善のほか、MRMピークの信号対ノイズ比に現れていると思われ、これらの両方がCVの改善に寄与していると考えられる。図9及び9Bは、アルブミンペプチドの除去におけるタンパク質枯渇の利益のほか(主要なピークは図9A)、これによって枯渇試料で小規模なピークが惹起されていることを示している(図9B)。非枯渇血漿消化物の極めて高い充填量では、ピーク保持時間の大幅なシフトが認められたが、定格充填量の領域での充填では、高濃度のペプチドがMRM保持時間に及ぼす影響が小規模であった。
【0068】
免疫枯渇及び消化の再現性の評価
6つ目の実験セット(Fシリーズ)では、同じ血漿試料の2つのアリコートでMARS枯渇を実施したのち、各枯渇試料の2つのアリコートを別々に消化した(合計4試料;例えば、F1_2は最初の枯渇の2回目の消化であることを示す)。配列の影響を回避するため、無作為化した順序で、試料毎に137個のMRMに関する4回の複製の実行を実施した。図5B及び5Cでは、単一の枯渇試料の2つの消化(図5C、F1_1対F1_2)、2つの並行して実施した枯渇/消化(図5B、F1_1対F2_1)の平均ピーク面積を比較している。複製消化物は、優れた比較可能性を示している(F1_1対F1_2及びF2_1対F2_2のR2はそれぞれ0.995及び0.998)。複製枯渇物(必然的に種々の消化物の影響も含む)はわずかに劣っている(例えば、F2_1対F1_1又はF2_2対F1_2のR2はそれぞれ0.989及び0.991)。(!!図5B及び5Cを図5A及び5Bに変更する必要あり)
感度の評価
L−セレクチン及びフィブロネクチンという血漿中で比較的低い正常濃度の2つのタンパク質は、試験したMRMの中でも明確に検出されている。L−セレクチンの可溶形態は、約0.67μg/mL(26)又は20.3pmol/mLという正常濃度で血漿中に存在する33kDaのタンパク質である。フィブロネクチンは約1.4μg/mL(27、(28)、又は5.4pmol/mLという正常濃度で血漿中に存在する260kDのタンパク質である。実験Dのカラムに血漿0.01μLに相当する消化物を充填したと考えると、これらのペプチドはそれぞれ、約200amol及び約50amolでカラムに存在していると推測される。L−セレクチンの場合は、2.0fmolの強化SIS標準を使用して、天然の(試料由来の)ペプチドがSIS(単一の時点での定量)の0.1倍の量で存在しており、予想通りに200amolの測定値と、0.6〜0.67μg/mLの推定した血漿中濃度をもたらしたことが明らかにされた。実行D及びEでのフィブロネクチンのCVはそれぞれ4%及び4%であり、L−セレクチンのCVはそれぞれ22%及び11%であったことから、これらの実験における高品質検出では、L−セレクチンが下限(〜1e4)近くであることを示している。
【0069】
今回のデータ分析の時間及び段階では、選択された53個の標的タンパク質の内の6個が確実な観察されなかった。凝固因子V、ビタミンK依存性タンパク質C又はC4b結合タンパク質から選択されたペプチドからは、再現可能な信号が得られなかった。又、より高濃度のタンパク質由来のペプチドでも、今回のデータ分析の時間及び段階では確実に検出されなかった場合もみられた。インターαトリプシン阻害薬軽鎖(このタンパク質の重鎖由来のペプチドは良好な品質のMRMをもたらしたものの)、アポリポタンパク質C−II及びα1−抗トリプシンは、今回確実に検出されなかった。これらのより高濃度のタンパク質では、別のペプチドを選択することでより確実な検出が可能となる可能性があると考えられる:インターαトリプシン阻害薬軽鎖及びα−1−抗トリプシンの何れについても、別のペプチドが数多く存在しているが、アポリポタンパク質C−II等の少ないタンパク質については、より適切な代替ペプチドがないと思われるため、カラムに充填する試料におけるこれらのペプチドの更なる濃縮が必要であると思われる。
【0070】
ランダムMRMの動作及びMRM信号の密度
非無作為に設計されたMRMの大半では、枯渇血漿等の複雑な消化物に関するLCの実行中に検出されるピークは1回のみであるように思われる:73%のピーク面積は標的ペプチド検体と一致する約32,000を上回り(このデータでは信号対ノイズ比値を10と試算)、2回目のピークが同じピーク面積基準に達したのはわずかに約8%であった。このため、実験では、同じ枯渇血漿消化物試料で無作為化した2種類を試験することによって、「MRM−スペース」でのペプチドのピーク密度が実際に低い(試料の複雑性の割にはMS/MS検出器の高い特異性と同等)ことを確認することを試みた。最初のセットでは、137個の設計したMRMで使用した実際のペプチドの質量範囲にわたって無作為に割り付けた「親」質量によって100個のMRMを生成した後、設計したMRM(「ランダムMRM」)の中で「親」質量と最大断片質量との間に「断片」質量を無作為に割り付けた。SwissProtでMasctotを検索したところ、100個のランダムMRMの中で、32,000を超える面積を有するピークを示したのはわずか6例であり、これらのピークの中でタンパク質の同定につながるMS/MSスペクトルを生じたものは1つもなかった。131個のランダムMRMからなる2つ目のセットは、断片質量が親(「ランダム複合MRM」)よりも低値であるような場合を除き、親イオンと、血漿中で検出可能な設計したMRMのセットからのCID断片イオン質量とを無作為に対にするによって生成した。実際のペプチド質量及び断片質量を使用することで、これらのMRMでは、実際のペプチド質量が積分質量の周囲に群がる傾向から生じる可能性があるバイアス(質量欠陥)が回避された。この2つ目のセットでは、MRMの約12%が約32,000を超えるピーク面積のピークを示し、これらのピークからは何れもタンパク質同定をもたらすMS/MSスペクトルが得られなかった。ランダムMRMセットで観察された何れのピークも、設計した血漿タンパク質MRMの大部分の溶出の後にLC勾配(100分後)を生じた。これらの結果は、これらの実験の今回の感度では、極めて複雑なペプチド試料であり、何れの質量分析計の単位解像度を使用している場合でも、MRMスペースで定量可能な特徴の密度はわずか6〜12%であり、この内の少量が標準的なトリプシンペプチドであると思われることを示唆している。非無作為に設計したMRMでは、ランダムMRMで観察されたピーク面積の分布が2つ目(非標的ペプチド)のピークの分布と極めて一致しており、これらの追加のピークが無作為な背景を表していることを示唆している。
【0071】
血漿消化物の複雑性(特に、少数の過剰ペプチドが除去された枯渇血漿の複雑性)にもかかわらず、殆どのMRMはペプチドLCクロマトグラム全体でわずか1回のピークしか示さなかった。この所見は、枯渇血漿消化物で測定した無作為に割り付けたMRMの2組に見られた低密度のピークと一致しており、検出器として使用した2段階のQqQ−MS選択プロセスの特異性を明らかにしている。MRMのサブセット(約10%)における2つ目のピークの存在は(実際のところこれらがトリプシンペプチドであるかにかかわらず)、クロマトグラフ溶出時間がこれらの検定で望まれる絶対検体特異性をもたらす要因になる可能性があることを示している。
【0072】
予想MRM遷移の改善
In silico手段単独で選択し、PolySISペプチドの生成に使用した約半数のペプチド(30個中13個)は、血漿中で検出され、約1e4を超えるMS信号を発生した。トリプシンペプチドのイオン化特性の予想は、将来大幅に改善されることが期待されるが、本実施例では、実験的MS/MSデータを使用し、より適切な親娘イオン遷移を選択するための予想を改善した。本実施例では、2つの実験的方法が特に有用であることが証明された。MS1で認められた高信号ペプチドのサブセットをMS/MSに供した従来のLC/MS/MSデータ依存性フルスキャンMS実験では、高濃度の(高濃度に存在する)ペプチドが検出された。低濃度のペプチドは、本教示内容を使用し、標的タンパク質由来の適切なサイズの予想トリプシンペプチド全ての候補MRMの一覧を作成した後、検出されたMRMピークをMS/MS(AnalystTMソフトウェア内の専用のスクリプトを使用してMRM法が設計される、MIDASワークフロー)によって特徴付けることによって、検出した。MRMは一般的に極めて低濃度の成分を検出するフルスキャンサーベイMSよりも高感度であることから、MIDAS法によって、更に低濃度のペプチドのMRM(親娘イオン遷移)の改善がもたらされたほか、本教示内容の種々の実施形態において、この手法は、試料中のタンパク質に関する質量分光ベースの検定を開発する方法で使用されている。このプロセスは、高感度三連四重極MRMとハイブリッドリニアイオントラップ4000 Q TRAP質量分光計でのイオントラップMS/MSスキャン機能とを組み合わせることによって容易になった。
【0073】
この改善法の例については、タンパク質凝固因子XIIa軽鎖に関する図7で図示されている。このタンパク質にSwissProtデータベース由来のタンパク質配列を使用することで、24個のタンパク質分解ペプチドの48個の理論MRMの一覧が得られ、サーベイスキャンとして使用した。一例として、これらのMRMの1つが示されており、in silicoで予想された親娘イオン遷移を使用して、スキャン702及びその後の高解像度スキャン704を実施した。予想されたペプチドに起因する信号はスキャン706で観察された。完全な産物イオンスキャン708からは、予想された娘イオン710が別の断片712よりも大幅に信号強度が低いことが明らかになった。このスキャン708の情報を使用して、予想されたMRM(親娘イオン)の遷移を改善し、元のMRM 702よりも信号対ノイズ比の高い新しいMRM714を得た。この改善プロセスは、このタンパク質由来の2つのタンパク質分解ペプチドについて実施したが、優れた信号強度及びS/Nに基づいて最終検定のために選択したのは、わずか1個のペプチドだけであった。
【0074】
タンパク質検定のための親娘イオン遷移(MRM)の選択
試験した119個のMRMから親娘イオン遷移(MRM)を同定した。それぞれのタンパク質の検定に望ましい特性を有することは、表2のカラム「最適MRM」に×印を付けて示されている。59例では、試験した2つの断片イオンから断片(娘)イオンを選択し、7例では、タンパク質ごとに2つのペプチドを試験した例からペプチド(タンパク質分解断片)を選択した。(47回のMRM検定の)47個のペプチド配列は何れも、(集合ペプチドを表す)ヒトプロテオームに固有であることが検証されており、標的タンパク質中で1回のみ発生した。ペプチドの内の3種類(抗トロンビンIII、アポリポタンパク質E、及びビタミンK依存性タンパク質C)は、マウスでも同じように発生し、7種類(アポリポタンパク質E、ビタミンK依存性タンパク質C、補体C4β及びγ、フィブロネクチン、ハプトグロブリンβ、及びインターαトリプシン阻害薬重鎖)はラットでも発生した(他のヒト配列は何れも、他の種の集合ペプチドでは発生しない)。
【0075】
最終の47のMRM検定の中で、12検定はin sillico法より行われて30個のpolySISペプチドがもたらされており、1検定は以前のin silico法により行った(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L., Anderson, N.G.,Haines, L.R., Hardie, D.B., Olafson, R.W. and Pearson, T.W. (2004) Mass spectrometric quantitation of peptides and proteins using stable isotope standards and capture by anti−peptide antibodies (siscapa). J Proteome Res 3, 234−44を参照)。実験的試験の結果、合計8個のin silico選択ペプチドが同じ標的タンパク質に由来するペプチドによって置換され(137個のMRMの選択の前に4個、後に4個)、2個はその後失敗して、未だに置換されておらず、8個は濃度が不十分であることが予想されるために試験前に除外した。このため、13個のin silico選択ペプチドが残り、このうち10個は試験中に置換された。5回の実験(A〜E)における47回の最適MRMのCV分布については、図10Bに示している。例えば、実験Dでは、これらの内の40個でCVが10%を下回り、19個が5%を下回っており、この再現可能な定量化法の可能性が示されている。
【0076】
生体試料(ヒト血漿)中のタンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として選択可能な1つ以上のMRM遷移は、以下の条件に基づいて選択した:(i)親娘イオン遷移の親イオンは、ペプチドのフルプロダクトスキャン及び以下の特性の少なくとも1つに基づいて、そのタンパク質のタンパク質分解断片であることが確認される(ii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル(本実施例ではピーク面積で決定)を有すること;(iii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のシグナルノイズ比を有すること;並びに/或いは(iv)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、イオンシグナル内にほぼ最少のエラー量を有するイオンシグナルを有すること(例えば、他のピークから分離しているか又は低バックグラウンドで現れるMRMクロマトグラムのピークは一般的に、ピーク面積によって測定された場合、高バックグラウンドの領域のピーク及び/又は他のピークとのオーバーラップのみられる領域のピークに比べて、イオン信号値のエラーが少ない)。
【0077】
多重機能及び処理能力の考察
複雑な消化物におけるペプチドを測定するためのLC−QqQ−MSプラットフォームの多重機能は重要な機能であり、各実行中に数多くのタンパク質を正確に測定することを可能にする。何れも全LC勾配を通して18msecの連続測定で連続してモニタリングした、今回の137個のMRMのセットの性能を考えれば、100〜200個のMRMをLC長勾配でペプチドを日常的に測定するのに利用できると思われる。再現可能なクロマトグラフの溶出時間を考えれば、ピークの発生が予想される時間枠(例えば、静的、動的又はこれらの組み合わせ)の中で既存のシステムによって各MRMを測定することが可能である(例えば、自験のD及びEで測定したピーク溶出時間では平均2〜2.5%CVとすれば、総実行時間の10%の時間枠)。溶出時間及びカラムの再現可能性のほか、溶出時間内ではさほど密集しないというMRM信号の選択に関する知識に基づくと、10倍のMRM(1,000〜2,000)が1回のLC MRM実験で使用できると考えられる。
【0078】
MRM測定の処理能力に関する更なる考察としては、クロマトグラフの実行時間が挙げられる。反復実験D及びEでは、30分間の勾配を使用し、この勾配は(試料間の洗浄を含めて)75分間の総サイクル時間をもたらした。MRMスペースでの低密度のピークにより示される検体特異性は、種々の実施形態において、クロマトグラフ分離による利益が少ない、タンパク質検定に好適なMRMを開発できることを示している。個々の時間枠においてMRM測定に焦点を当てることができることから、各ピークにわたって必要とされる多重測定を犠牲にすることなく、使用した溶出時間でより多くのMRMを得ることができる。種々の実施形態において、より高流量(例えば、キャピラリー流量)のシステムへのシフトと併せて、実行時間の改善が得られ、日常的な操作におけるロバスト性の向上等が容易になる。
【0079】
(実施例3 内部標準ペプチドを使用した定量化の評価)
本教示内容に関する方法においては、必須ではないものの、最終検定でのタンパク質絶対量の定量化に関する内部標準を得るために、安定同位体標識ペプチドを含めることができる。最初の検定では、既知の量のペプチドを加え、血漿中の当該タンパク質の量を測定するための対照として使用した。単極の濃度曲線が生成されたが、より正確な定量化からは多重極の濃度曲線が得られる可能性がある。一例として、図6A及び6BにはL−セレクチン由来のタンパク質分解ペプチド断片AEIEYLEKに関する比較MRMデータを示しており、図6Aは標準の同位体標識断片AEIEYLEK*に関するデータである。標識ペプチドのピーク面積(図6B)と非標識ペプチドのピーク面積(図6A)との比のほか、既知の標識L−セレクチンペプチド濃度(2fmol/カラム)を使用することで、L−セレクチンの血漿中濃度が約0.7μg/mLであることが確定され、このタンパク質に関する文献データ値である0.67μg/mLと十分に一致していた。
【0080】
特許、特許出願、記事、書籍、学術論文、論文、ウェブページを含む、本出願中に引用した文献及び同様な資料は、その文献及び同様な資料の形式にかかわらず、全体が参考として本明細書で援用される。援用された文献及び同様な資料の1つ以上が、用語、用語の使用法、技術等を含めて本出願と矛盾する場合は、本出願が優先される。
【0081】
本明細書で使用される各項の見出しは構成上の目的であり、本明細書の主題を限定するものであると解釈すべきではない。
【0082】
以上において本発明を種々の実施形態及び実施例と共に説明してきたが、本教示内容をこのような実施形態又は実施例に限定することを目的としたものではない。逆に、当業者であれば理解する通り、本発明は種々の代替例、改変及び等価物を包含する。
【0083】
以上において本教示内容を特定の例示的な実施形態を参照して具体的に示し、記述してきたが、本発明の趣旨及び適用範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に種々の変更が加えられる場合があることを理解されたい。従って、本教示内容の適用範囲及び趣旨に含まれる実施形態及びその等価物が全て特許請求の対象である。本教示内容の検定の説明及び図は、特に記載のない限り、記載した要素の順序に限定して読むべきではない。
【0084】
請求項は、特に記載のない限り、記載した要素の順序に限定して読むべきではない。付随する請求項の適用範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に種々の変更が加えられる場合があることを理解されたい。従って、以下の請求項及び等価物の適用範囲及び趣旨に含まれる実施形態及びその等価物が全て特許請求の対象である。
【0085】
【表1】
実験間に30分間の洗浄時間を設けて反復実行を実施した。充填は試料から得た血漿の等価量として示している。
【0086】
【表2−1】
【0087】
【表2−2】
【0088】
【表2−3】
【0089】
【表2−4】
【0090】
【表2−5】
【0091】
【表2−6】
【0092】
【表2−7】
【0093】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、実施例で使用する質量分析計システムの簡略化した概略図である。
【図2】図2は、バイオマーカーのバリデーションのためのMRM検定を開発する方法の種々の実施形態を概略的に示す。
【図3】図3A及び図3Bは、実施例1で考察するフィブロネクチンペプチドに関するMRM及びMS/MS実験データを示す。
【図4A】図4Aは、実施例2の53個のタンパク質のペプチドのデータを示す。
【図4B】図4Bは実施例2で分析した試料中に存在するこれらのタンパク質の量の範囲を示す。
【図5A】図5Aはそれぞれ、同じ血漿試料に関する実施例2の平行枯渇/消化実験及び平行消化実験それぞれの間の、MRM遷移のピーク面積の相関グラフを示す。
【図5B】図5Bはそれぞれ、同じ血漿試料に関する実施例2の平行枯渇/消化実験及び平行消化実験それぞれの間の、MRM遷移のピーク面積の相関グラフを示す。
【図6】図6A及び図6Bは、試料のL−セレクチンのペプチド断片に関する実施例3のMRMデータ(図6A)と、同位体標識した合成ペプチドのMRMデータ(図6B)を比較した図である。
【図7】図7は、測定された親娘イオンシグナルに基づき予想されたMRM遷移を改善したものを概略的に示す。
【図8】図8は、実施例2の2つの実験(消化血漿及び枯渇血漿)のピークCV対ピーク面積のグラフである。
【図9】図9A及び図9Bは、実施例2の血漿から最も高濃度の6種類のタンパク質を枯渇させた効果を示す。
【図10A】図10Aは、実施例2の5つの実験セットに関するCV値の分布を示す。
【図10B】図10Bは、実施例2の5つの実験セットに関するCV値の分布を示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2005年10月13日に出願された仮特許出願第60/727,187号(この内容は、参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の分析の多くの用途では、試料中に低濃度でしか存在しない一連のタンパク質の絶対的又は相対的な定量データを得ることが強く望まれている。これは特にバイオマーカーの発見及びバリデーションに当てはまることであり、幾つかの理由から重要なこととされている。例えば、適切な検出限界を達成するには極めて高い感度が必要になる場合があり、又、試料が複雑である(例えば、数桁にわたる濃度で多数のタンパク質が存在する)ために、干渉が生じ、検出限界が損なわれる場合があることが理由として挙げられる。更に、対象タンパク質又はこれに対応するDNA配列が知られていても、対象タンパク質の標準試料がなく、従って、試料中のタンパク質を定量化することができる検定又は方法の開発が極めて困難な場合もある。
【0003】
従来、殆どの臨床的に関連するマーカーは、疾患の進行又は治療に関連する血清タンパクレベルを正確に測定できる免疫学的検定によって検出される。しかし、プロテオミクス及び転写プロファイリング法により発見される候補タンパク質マーカーの数が増えてきている中、ヒトの臨床用試料において正確な定量化を行うために使用できる抗体試薬がない場合が多い。更に、殆どの臨床的に関連するバイオマーカーは生体試料中に低濃度でしか存在しない。従って、これらのタンパク質が信頼性の高い疾患の予想因子であり、最終的には臨床診断に使用できることを確認するには、体液、組織、又はその他の生体基質に由来する多くの試料の中からバイオマーカーを定量分析する実用的な手法を開発することが必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本発明は、親娘イオン遷移モニタリング(PDITM)を使用した、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発する方法を提供する。種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法を提供する。種々の実施形態において、試料は、その試料の由来元となる生理学的流体(physiological fluid)に少量しか存在しないタンパク質のタンパク質分解断片を含む。
【0005】
本教示内容の方法は、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物を含むがこれらに限定されない幾つかの生体試料の内の何れかに存在するタンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発するのに応用することができる。生体試料は種々の供給源、条件、又はこれらの両方に由来してよく、例えばこれらには、対照群対実験群、種々の時点で採取した試料(例えば、配列を形成するため)、疾患群対健常群、実験群対疾患群、汚染群対非汚染群等がある。生理学的流体の例には、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0006】
種々の実施形態において、本教示内容の方法は、約10万アトモル/マイクロリットル未満、約1万アトモル/マイクロリットル未満、約1000アトモル/マイクロリットル未満、約100アトモル/マイクロリットル未満、約10アトモル/マイクロリットル未満、及び/又は約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の血中タンパク質に関する質量分析ベースの検定を開発するのに応用することができる。このような方法は例えば、種々の実施形態でタンパク質バイオマーカー検定を開発するのに使用することができる。
【0007】
質量分析ベースのタンパク質検定を開発するに当たり、本教示内容では、親娘遷移モニタリングの質量分析法を使用する。「親娘イオン遷移モニタリング」即ち「PDITM」という用語は、例えば、質量分析を使用した測定であって、第1の質量分離器(しばしば質量分析の第1のディメンションと呼ばれる)の透過される質量電荷比(m/z)の範囲が、分子イオン(しばしば「親イオン」又は「前駆イオン」と呼ばれる)をイオン断片化装置(例えばコリジョンセル、光解離領域等)に透過して、断片イオン(しばしば「娘イオン」と呼ばれる)を生成するように選択され、第2の質量分離器(しばしば質量分析の第2のディメンションと呼ばれる)の透過されるm/z範囲が、1つ以上の娘イオンを、娘イオンシグナルを測定する検出器に透過するように選択される、測定を指す。モニタリングされる親イオンと娘イオン質量の組み合わせは、モニタリングされる「親娘イオン遷移」と呼ばれる。任意のモニタリングされる親イオンと娘イオンの組み合わせの、検出器における娘イオンシグナルは、「親娘イオン遷移シグナル」と呼ばれる。本教示内容では、タンパク質のタンパク質分解断片の親イオンを生成し、娘イオンのイオンシグナルを測定するが、任意のモニタリグされるタンパク質分解断片イオンと娘イオンの組み合わせの、検出器における娘イオンシグナルは、「親娘イオンシグナル」と呼ばれる。
【0008】
親娘イオンシグナル及び本明細書に記述するその他のイオンシグナルは、例えば娘イオンピークの強度(平均、中央値、最大等)、娘イオンピークの面積、又はこれらの組み合わせに基づいていてもよい。
【0009】
種々の実施形態において、親娘イオン遷移モニタリングは、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)(選択反応モニタリングとも呼ばれる)を含む。MRMの種々の実施形態において、任意の親娘イオン遷移のモニタリングは、対象親イオンのm/z上に配置した第1の四極子を対象親イオンを透過する第1の質量分離器として使用すること、並びに対象娘イオンのm/z上に配置した第2の四極子を対象娘イオンを透過する第2の質量分離器として使用することを含む。種々の実施形態においては、例えば、第1の質量分離器を対象親イオンのm/z上に配置して親イオンを透過し、対象娘イオンのm/z値を含むm/z範囲にわたって第2の質量分離器でスキャンを行い、更に例えばスペクトルからイオン強度プロファイルを抽出することによって、PDITMを行ってよい。例えばMRM等のPDITMを行うのに、タンデム質量分離器(MS/MS)、又はより一般的には多次元質量分離器(MSn)を使用してもよい。種々の実施形態において、質量分離器は、三連四重極リニアイオントラップ質量分離器である。
【0010】
種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;(b)前記タンパク質の前記タンパク質分解断片を衝突誘起解離(collision induced dissociation)に供する場合に前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(h)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(i)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記検定用の選択された親娘イオン遷移が、前記透過された親イオンが、前記タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、前記選択された親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。種々の実施形態において、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程は、(1)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに(2)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うことを含む。種々の実施形態において、このイオンシグナル測定工程は更に、前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も含む。
【0011】
種々の態様において、本教示内容は、血液試料中に少量しかないタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、前記タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づいて予想する工程;(b)前記タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、前記タンパク質の前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程であって、前記試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む血液試料に由来する、工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(h)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(i)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記検定用の選択された親娘イオン遷移が、前記透過された親イオンが前記タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、前記選択された親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。種々の実施形態において、前記予想された衝突誘起解離断片の前記m/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程は、(1)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定された強度閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに(2)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うことを含む。種々の実施形態において、このイオンシグナル測定工程は更に、前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も含む。
【0012】
種々の態様において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、前記タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法であって、(a)タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、前記タンパク質のアミノ酸配列及び前記タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;(b)前記タンパク質のタンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に前記タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;(c)タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;(d)前記試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;(e)前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z範囲を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、前記予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;(f)前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲の前記イオンシグナルを測定する工程;(g)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程;(h)前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定する工程;(i)前記配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;(j)前記実質的に完全な産物イオンスキャンの前記親娘イオン遷移に伴う前記イオンシグナルを測定する工程;並びに(k)生体試料中の前記タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、前記親娘イオン遷移を選択する工程であって、前記親娘イオン遷移が、前記タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う前記測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高の親娘イオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比の1つ以上を有する、工程を含む、方法を提供する。
【0013】
当業者であれば理解する通り、「完全な産物イオンスキャン」という用語は、断片化に供した親イオンのプロダクトイオンに対応するm/z値にわたる質量分析スキャンを指す。本明細書で使用される「完全な産物イオンスキャン」では、0からプロダクトイオンで可能な最大m/z値までの全てのm/z値を包含するスキャンは必要とされない。当業者であれば理解する通り、質量分析計は、効果的に達成できるm/z値の下限に限定されてよく、例えば遊離水素イオン断片(H+)等の所定の質量以下のプロダクトイオンは対象とならない場合がある。例えば、質量が約30amu未満のイオンをスキャン又は検出しなくても、約30amuから、可能な最も高いプロダクトイオン質量に対応するm/z値までのプロダクトイオンを質量分析スキャンすれば、「完全な産物イオンスキャン」であると考えられる。
【0014】
本教示内容の種々の態様の種々の実施形態において、生体試料中の1つ以上の特定のタンパク質(例えば、バイオマーカータンパク質)の存在の検定は、タンパク質が例えば血液試料等の試料中に少量しか存在しない場合に開発される。種々の実施形態において、前記試料は、約10万アトモル/マイクロリットル未満、約1万アトモル/マイクロリットル未満、約1000アトモル/マイクロリットル未満、約100アトモル/マイクロリットル未満、約10アトモル/マイクロリットル未満、及び/又は約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度のタンパク質を含む。種々の実施形態において、本教示内容による試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定は、例えば試料中のタンパク質濃度のダイナミックレンジを下げることにより、より低濃度のタンパク質にも拡張することができる。例えば、より高濃度のタンパク質の除去、試料中の対象タンパク質の濃縮、又はこれらを組み合わせて行い、クロマトグラフィーカラムに充填する試料中の対象タンパク質の相対的な量を増加させることによって、複雑な混合物中のより低濃度の対象タンパク質を検出することができる。
【0015】
種々の実施形態において、試料は細胞、組織、及び生理学的流体の抽出物から調製される。生理学的流体の例には、血液、血清、血漿、汗、涙液、脳脊髄液、尿、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。試料は種々の供給源、条件、又はこれらの両方に由来してよく、例えばこれらには、対照群対実験群、種々の時点で採取した試料(例えば、配列を形成するため)、疾患群対健常群、実験群対疾患群、汚染群対非汚染群等がある。
【0016】
対象タンパク質のタンパク質分解断片を生成するには、幅広い種法を使用することができる。タンパク質からタンパク質分解断片を生成するのに好適な技法には、何れかの配列特異的開裂プロセスが含まれる。好適な酵素配列特異的開裂技法の例には、例えばセリンプロテアーゼ、及びチオールプロテアーゼ等のプロテアーゼを使用した開裂が含まれる。例えば、タンパク質分解断片(例えば、ペプチド)は、トリプシンによるペプチド結合の酵素加水分解で複数のペプチドタンパク質分解断片を生成することにより、タンパク質から生成することができる。
【0017】
種々の実施形態において、タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料は更に、本教示内容に基づき前記タンパク質の検定として使用するようにタンパク質分解断片を選択したことにより作成される、タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含む。例えば、濃度標準は、対象タンパク質から生成されるタンパク質分解ペプチドの1つに対応する安定同位元素標識ペプチドであってよい。
【0018】
種々の態様においては、1つ以上の試料中の対象タンパク質の存在を測定するように設計された検定が提供される。この検定は例えば、新薬発見又は診断検定のための種々の生化学経路の発見に使用するバイオマーカーバリデーション検定であってよい。この検定は例えば、疾患又は病態の診断、疾患又は病態の予後診断、又はこれらの両方であってよい。
【0019】
種々の態様において、本教示内容は、本発明の方法の機能を、例えばフロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、又はDVD−ROM等があるがこれらに限定されないコンピュータ可読媒体に記録したコンピュータ可読命令として埋め込んだ製造物品を提供する。
【0020】
本教示内容の前記及びその他の態様、実施形態、目的、特徴及び利点は、付随する図面と共に以下の説明からより詳細に理解することができる。これらの図面において、各図に記載される同じ参照記号は一般的に同じ特徴及び構成要素を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を例示することに力点が置かれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(種々の実施形態の詳細な説明)
質量分析ベースのタンパク質検定を開発するに当たり、本教示内容では、親娘イオン遷移モニタリングの質量分析法を使用する。種々の実施形態において、親娘イオン遷移モニタリングは、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)を含む。図1を参照すると、MRMスキャンは、例えば、対象タンパク質分解断片(即ち、親イオン102)の質量をイオン断片化装置103に透過するように第1の質量分離器101を設定することによって行うことができる。第1の質量分離器101の設定は、例えば、実質的にタンパク質分解断片の質量を中心とした約3質量単位幅の質量ウィンドウ内のイオンを透過するように第1の質量分離器を設定することによって可能である。種々の実施形態において、イオン断片化装置103の衝突エネルギーは、イオン断片化装置内のこのペプチド(娘イオン)の選択された荷電断片の生成を促進するように選択することができる(ここで、イオン断片化装置は、CIDを行う衝突ガス、及びイオン断片104の回収と断片イオンの透過を促進する四極子を含む)。第2の質量分離器105は、対象娘イオン106を検出器107に透過して、透過された娘イオンのイオンシグナルを生成するように(例えば、実質的に娘イオンの質量を中心とした約1質量単位幅の質量ウィンドウ内のイオンを移動するように第2の質量分離器を設定することによって)設定される。
【0022】
種々の実施形態において、親イオンと娘イオンの各組み合わせのMRMパラメータは、親イオン(対象タンパク質のタンパク質分解断片)に関連する選択された娘イオンのシグナルを最適化するように選択することができる。種々の実施形態において、この実験では質量分離器で通常約10ms〜約200msであるがこれらに限定されない滞留時間を使用することができ、又、MRM遷移を急速に変更できる機能により、LC−MSの一回の実行で混合物に含まれる複数の構成要素をモニタリングすることができる。例えば、LC−MSの1回の実行で50〜100種類の構成要素を一度にモニタリングすることができる。特定の期間を使用することにより、LC−MSの1回の実行で更に多くのMRM遷移をモニタリングすることができる。
【0023】
本教示内容では、PDITMを実行するのに幅広い質量分析システムを使用することができる。好適な質量分析システムは、2つの質量分離器と、この2つの質量分離器の間のイオン飛行経路に配置されたイオン断片化装置とを備える。好適な質量分離器の例には、四重極型、RFマルチポール、イオントラップ、飛行時間(TOF)、タイムドイオンセレクターを伴うTOFが含まれるが、これらに限定されない。好適なイオン断片化装置には、衝突誘起解離(CID、衝突支援解離(CAD)とも呼ばれる)、光誘起解離(PID)、表面誘起解離(SID)、ポストソース分解、又はこれらの組み合わせの原理で動作するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
質量分析器の好適な質量分析システムの例には、三連四重極、四重極リニアイオントラップ、四重極TOFシステム、及びTOF−TOFシステムを含むものが含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
質量分析システムに好適なイオン源には、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、マトリックス支援レーザイオン化(MALDI)、大気圧化学イオン化(APCI)、及び大気圧光イオン化(APPI)源が含まれるが、これらに限定されない。例えば、ESIイオン源は、LCコラムに由来するイオン化試料を質量分離器に導入する手段として機能することができる。ESIの幾つかの望ましい特徴の1つは、クロマトグラフィーカラムから得た分画が、カラムから直接ESIイオン源に移動できるという点である。
【0026】
種々の実施形態において、質量分析システムは、親イオンを選択しその断片娘イオンを検出する三連四重極質量分析計を含む。種々の実施形態において、第1の四極子(本明細書でQ1と称する)は親イオンを選択する。第2の四極子(本明細書でQ2と称する)は、十分に高い圧力及び電圧で維持されることから、数多くの低エネルギー衝突が生じ、親イオンの一部が断片化する。第3の四極子Q3は、選択した娘イオンを検出器に透過するように選択される。
【0027】
種々の実施形態において、三連四重極質量分析計中の四極子の1つ以上は、リニアイオントラップとして構成することができる(例えば、終端電極を追加し、四極子内に実質的に長い円筒状のトラップ容量を提供する)。種々の実施形態において、第1の四極子Qlは親イオンを選択する。第2の四極子Q2は十分に高い衝突ガス圧及び電圧で維持されることから、数多くの低エネルギー衝突が生じ、親イオンの一部が断片化する。第3の四極子Q3は、断片イオンをトラップし、充填時間後に、例えば終端電極にパルスして、選択された娘イオンをイオントラップから出すことによって、選択された娘イオンを検出器に透過するように選択される。所望の充填時間は、例えば断片イオンの数、イオントラップ内の電荷密度、種々のペプチドの溶離間の時間、デューティサイクル、励起状態のイオン種若しくは多重荷電イオンの分解時間、又はこれらの組み合わせに基づいて決定することができる。
【0028】
図2を参照すると、試料中のタンパク質の存在を検出するための質量分析ベースの検定を開発する本発明の種々の実施形態の概念図が示されている。種々の実施形態において、本教示内容では、対象タンパク質の既知の又は予想された配列に基づき、対象タンパク質の最初の推定MRM遷移を決定する。タンパク質配列情報は、アミノ酸配列データベース(例えば、Celera、SwissProt等)、DNAデータベース、遺伝子配列の翻訳、直接の実験測定、及びこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない幾つかの供給源から得ることができる。本発明の方法では、タンパク質配列210から、タンパク質のタンパク質分解断片(例えば、ペプチド断片)を予想し、イオン断片化装置の断片方法によるタンパク質分解断片の断片化から得たこれらのタンパク質分解断片の断片(娘イオン)を予想する。種々の実施形態において、イオン断片化方法は衝突誘起解離(CID)を含み、予想される娘イオンは対応するタンパク質分解断片のCIDから得たものである。従って、タンパク質の理論的なタンパク質分解から生成されるタンパク質分解断片(例えば、ペプチド)を使用して、対応するタンパク質分解断片の1つ以上の娘イオンを決定し、それによって最初の親娘イオン遷移220を決定し、MRMでモニタリングすることができる。この遷移は、しばしばMS1/MS2という記述で列挙されることが多く、この場合、MS1は第1の質量分離器によって透過された公称質量電荷比(従って、公称タンパク質分解断片m/z)を指し、MS2は、第2の質量分離器によって透過された公称m/z(従って、公称タンパク質分解断片娘イオンのm/z)を指す。
【0029】
次いで、対象タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料をMRM実験に供する。試料は、MRM実験に供する前に、例えば試料を濃縮する、干渉試料を分画して除去する、より高濃度のタンパク質の少なくとも一部を除去する等の処理工程に供してよい。試料の少なくとも一部は、クロマトグラフィーカラムに充填され、溶離液の少なくとも一部が質量分析システムに向けられる。質量分析システムを使用して、最初の親娘イオン遷移の1つ以上によるMRMを行い、親娘イオン遷移シグナルを測定する(230)。MRMで検出されているペプチドの同一性を確認するには、ペプチドの依存MS及びMS/MSスペクトルを得るために情報依存取得実験を使用することができる(240)。種々の実施形態において、例えばイオンシグナルが指定されたシグナル閾値を超える場合には、対応するタンパク質分解断片に実質的に完全な産物イオンスキャンが行われる。種々の実施形態において、イオンシグナルが指定されたシグナル閾値を超える場合には、幾つかのリニアイオントラップスキャンが起動され、例えばペプチドの電荷状態及びモノアイソトピック質量を確認する高解像度スキャン(リニアイオントラップを使用した高解像度スキャン)を行うか、及び/又はペプチドの配列を確認する強化プロダクトイオンスキャン(リニアイオントラップを使用したMS/MSスキャン)を行う。
【0030】
例えば、透過された親イオン及び配列決定された親イオンに完全な産物イオンスキャンを行うことで、検出された親イオンを所望のタンパク質由来のタンパク質分解断片として同定することができる。好ましくは、親イオンは衝突セル中で一連の断片イオンに断片化され、これらの中ではアミノ酸数の多い方から少ない方に並んだイオンのラダーができる。断片化はペプチドの任意の場所で生じる可能性があることから、観察された質量電荷比のスペクトルが生成される。一般的に、断片化スペクトルでは2組の顕著なイオンが観察される。1組はペプチドのC末端からアミノ酸を除去した配列ラダーであり(しばしばyシリーズと呼ばれる)、もう1組はN末端からアミノ酸を除去した配列ラダーである(しばしばbシリーズと呼ばれる)。親イオンの完全又は部分的なアミノ酸配列情報は、断片化スペクトルを解釈することによって得られる。ペプチド内の異なるアミノ酸はそれぞれ異なる質量を有するため、ペプチドの断片化スペクトルは通常そのペプチド配列に特徴がある。
【0031】
種々の実施形態においては、実験的に測定されたフルスキャンMS/MSスペクトルを使用して、最初に予想された親娘イオン遷移を改善し、改善したPDITの組を生成する。MRMを実行し親娘イオン遷移シグナルを測定する工程230は、改善した親娘イオン遷移の1つ以上を使用して繰り返される。この改善及び測定のプロセスは繰り返してもよい。
【0032】
本教示内容の方法では次いで、生体試料中のタンパク質の存在の検定として親娘イオン遷移を選択する(250)。親娘イオン遷移は、(i)親娘イオン遷移の親イオンがそのタンパク質のタンパク質分解断片であること;並びに以下の少なくとも1つに基づいて選択される:(ii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル(本実施例ではピーク面積で決定)を有すること;(iii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のシグナルノイズ比を有すること;(iv)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、イオンシグナル内にほぼ最少のエラー量を有するイオンシグナルを有すること;(v)選択された親娘イオン遷移は、指定された閾値値を超える定量下限値(LOQ)、シグナルノイズ比、及び/又は親娘イオンシグナルの1つ以上を有すること。
【0033】
種々の実施形態において、選択された親娘イオン遷移の娘イオンは、検出レベル(LOQ)、定量限界(LOQ)、シグナルノイズ(S/N)比、その他のペプチドのその他の娘イオンとの質量類似性等の1つ以上に基づいて選択することができる。種々の実施形態において、LOQは、使用したLCカラム上の試料のアトモルレベル(10−18モル)からフェムトモルレベル(10−15モル)の範囲内にあり、ダイナミックレンジはLOQよりも3桁〜4桁高いマグニチュードである。
【0034】
種々の実施形態において、本教示内容の方法は、検定の感度を高めるために(例えば、低濃度のタンパク質を検出しやすくするために)試料を調製する工程を含む。検定の感度を高めるには、例えば、試料中のタンパク質濃度のダイナミックレンジを下げる、試料中の対象タンパク質の相対濃度を増加させる、及びこれらを組み合わせる方法を含むがこれらに限定されない、幾つかの方法を使用することができる。例えば、対象タンパク質が低濃度である場合は、より高濃度のタンパク質を除去する、試料中の対象タンパク質を濃縮する、又はこれらを組み合わせることにより、例えばクロマトグラフィーカラムに充填される試料中の対象タンパク質の相対量を増加させて、達成することができる。質量分析計は理論的には単一分子を検出することができるが、一般的なクロマトグラフィーカラムには、充填できるタンパク質量に実用的な限界がある。
【0035】
種々の実施形態において、タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料は更に、本教示内容に基づきタンパク質の検定として使用するようにタンパク質分解断片を選択されたことにより作成される、タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含む。例えば、濃度標準は、対象タンパク質から生成されるタンパク質分解ペプチドの1つに対応する安定同位元素標識ペプチドであってよい。種々の実施形態において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、タンパク質の標準物質を使用せずに開発する方法を提供することを理解されたい。従って、種々の実施形態において、本教示内容は、試料中のタンパク質に関する質量分析検定で使用する濃度標準を決定する方法を提供する。
【0036】
本教示内容の別の態様において、上記の方法の機能は、汎用コンピュータにコンピュータ可読命令として実装することができる。コンピュータは質量分析システムとは別個のものである場合もあれば、このシステムから脱着可能なものである場合もあり、このシステムに統合される場合もある。コンピュータ可読命令は、例えばFORTRAN、PASCAL、C、C++、又はBASIC等の幾つかの高レベル言語の何れか1つにて書かれる場合がある。更に、コンピュータ可読命令は、スクリプト、マクロ、又はEXCELやVISUAL BASIC等の市販のソフトウェアに機能を埋め込まれる機能にて書かれる場合もある。加えて、コンピュータ可読命令はコンピュータ上に常駐するマイクロプロセッサを対象としたアセンブリ言語で実装することもできる。例えば、コンピュータ可読命令をIBM PC又はPCクローンで実行するように構成する場合は、Intel 80×86アセンブリ言語で実装することができる。一実施形態において、コンピュータ可読命令は、例えばフロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、DVD−ROM等のコンピュータ可読プログラム媒体を含むがこれらに限定されない製造物品に埋め込むことができる。
【0037】
以下の実施例は、本教示内容の種々の原理を使用した実験を例示するものである。これらの実施例の教示内容は網羅的なものではなく、本発明の適用範囲を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1 枯渇ヒト血漿におけるフィブロネクチンの検出及び確認)
本実施例では、ヒト血漿(ここではアルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビン及び抗トリプシンという最も高濃度に含まれている一般的な血漿タンパク質を枯渇させた)におけるフィブロネクチンの検出及び確認を示している。これは、例えば、検定の結果の信頼性を高めるため、定量化に使用される特異的な保持時間での各MRM遷移に関する配列確認情報(フルスキャンMS/MS)を得るという、今回の検定の確認における重要な工程である。フィブロネクチンは一般的に約5397amol/μLの濃度のヒト血漿中に存在する。
【0039】
試料の調製
本実施例では、試料にはヒト血漿が含まれている。この血漿試料は、Multiple Affinity Removal System(「MARS」スピンカラム:Agilent Technologies)を使用して、(アルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビン及び抗トリプシンという)最も高濃度に含まれている一般的な血漿タンパク質が枯渇されており、この試料はクロマトグラフィーカラムに充填する前にろ過によって脱塩した。又、この血漿試料は、カラムに充填する前に変性、還元、アルキル化し、トリプシンによって消化しておいた。
【0040】
クロマトグラフ
ヒト血漿(0.01μL)をC18カラム(75μm×15cm、LCパッキング)に充填し、40分間勾配を使用した逆相HPLC(0.1%ギ酸中の2〜35%アセトニトリル)によって成分を分離させた。場合によっては、プレカラム脱塩工程を使用した(C18トラップ、300μm×5mm、LCパッキング)。
【0041】
質量分析装置
MRM分析は、Applied Biosystems/MDS Sciex 4000 Q TRAP(登録商標)システム(Q1:単位解像度、Q3:単位解像度)上のNanoSpray(登録商標)システム供給源を使用して実施した。各ペプチドのMRMは、MS/MSスペクトルに基づいて予想するか、ペプチド配列に基づいて設計した。最終検定における各MRM遷移及び保持時間の確認には、例示するMIDASTMワークフローを使用したMRM−Initiated Detection and Sequencingを使用した。
【0042】
考察
図3Aは、クロマトグラフィーカラムに充填した血漿約0.01μL(即ち、約54amolのタンパク質を含む充填した試料)に関するフィブロネクチン302のDLQFVEVTDVKペプチドのMRM遷移(647.3/789.4)を示している。図3Aは又、本実施例に関するMRM遷移シグナル304も示している。本実施例において、MRMによるペプチドの検出は、MS/MS実験によってペプチド配列を確認して、検出されたペプチドを同定し、フィブロネクチンのタンパク質分解断片(ペプチド)の娘イオン上の配列情報を得るためのMS/MSデータの収集を促進する。図3Bは、このようなMS/MSデータ206の一例を示している。消化試料は高度に複雑なペプチド混合物(タンパク質分解断片)であるが、MRMサーベイスキャンデータ304では単一のピークのみが観察されている。図3Bに示す完全な産物イオンスキャンMS/MSデータ306(星印は図3AのMRMで使用したQ3質量を示す)は、MRMスキャン304で観察された単一のピークが、フィブロネクチン由来の標的タンパク質分解断片(ペプチド)であるDLQFVEVTDVKであることを確認するのに使用した。本実施例は、複雑な生体混合物中の対象となる標的タンパク質由来のペプチドが、濃度は低いものの、MRMによって検出し、MS/MSによって確認できることを示している。
【0043】
(実施例2 全ヒト血漿試料及び枯渇ヒト血漿試料での評価)
本実施例は、多重法を使用したヒト血漿中の53個のタンパク質を示すペプチド(タンパク質分解断片)に適用した通り、本教示内容の種々の実施形態に関するデータ及び評価を示す。このうち47個は、2〜22%の変化量の同時係数(CV)(n=10)による定量的データをもたらした(検定の78%はCV<10%)。137 MRMを連続して測定した5回の実験(各10回の反復実行)では、幾つかのペプチドから2〜7%の範囲のCVが得られ、本教示内容を使用して複雑な消化物において達成可能な精度を証明している。(下記に示す通り)免疫サブトラクションによる6つの一般的に最も高濃度に含まれるタンパク質の枯渇は、全血漿と比べてCVを改善したが、両試料タイプ(枯渇及び非枯渇)とも検体を検出することが可能である。反復消化及び枯渇/消化実験では、それぞれ>99.5%及び>98.9%の相関係数(R2)が得られた。各ペプチドの絶対検体特異性は、MRM誘発MS/MSスキャンを使用して明らかにした。L−セレクチン(0.67μg/mLで測定)及びタンパク質の信頼できる検出では、μg/mLレベル以下のタンパク質は、最小限の試料調製で血漿中で定量化することが可能であり、1回の実験で約4〜5桁のダイナミックレンジが得られた。種々の実施例においては、本教示内容を使用してより濃度の低いタンパク質の検出を容易にするために、追加の先行的試料調製を実施することが可能である。このため、種々の実施例において、本教示内容は、バイオマーカーのバリデーションのための強固なプラットフォームを提供することができる。
【0044】
図4Aは、本実施例で分析された試料における53個のタンパク質(この図ではスペースの都合で10個のタンパク質のみ標識されている)のペプチドに関するLCクロマトグラムデータを示しており、図4Bはこれらのタンパク質の高濃度の範囲を示している。図4Bのひし形の記号は理論的に予想される値であり、正方形の記号は本実施例の実験結果を表している。
【0045】
試薬
化学物質の入手先は以下の通りである:トリプシン(Promega)、ドデシル硫酸ナトリウム(Bio−Rad Laboratories)、ヨードアセトアミド(Sigma)、ギ酸(Sigma)、トリ−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(Sigma)、及びアセトニトリル(Burdick and Jackson)。
【0046】
試料のタンパク質枯渇及び消化
全ての実験は、健常志願者に由来する単一のヒト血漿試料のアリコートで実施した。枯渇させた試料調製には、Multiple Affinity Removal System(「MARS」スピンカラム:Agilent Technologies)を使用し、製造業者の推奨するプロトコルに十分に従って、6種類の一般的に最も豊富なタンパク質を血漿から枯渇させた。次に、枯渇させた試料を、VivaSpin濃縮機(5000 MWCO、VivaScience)を使用して、50mM重炭酸アンモニウムに交換した。又、非枯渇血漿も消化の前に脱塩した。
【0047】
枯渇血漿試料及び非枯渇血漿試料の両方を変性させ、60℃の0.05% SDS及び5mMトリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン中で、培養タンパク質によって15分間還元した。次に、試料はヨードアセトアミド中で10mMに調製し、25℃で15分間暗室培養した。1つのアリコートにはトリプシンを加え(プロテアーゼ:タンパク質比=1:20)、37℃で5時間培養した。
【0048】
タンパク質のタンパク質分解断片の予想
本実施例では、以下の3つの基本的手法を採用して、このタンパク質のタンパク質分解断片及びMRM遷移を予想した:(1)配列データベースからのin silico消化、及びCIDペプチド断片イオンの予想、(2)利用可能なLC−MS/MSプロテオミクスサーベイデータからの予想、及び(3)本教示内容、MIDASTMワークフローを使用したタンパク質の全候補ペプチドの包括的なMRM試験。更に本教示内容の方法を評価するため、ランダムMRM遷移も発生させた。
【0049】
In Silico
このIn silico方法では、心血管疾患の一部の側面の実証された又は可能性ある血漿マーカーである177組のタンパク質及びタンパク質形態(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L. (2005) Candidate−based proteomics in the search for biomakers of cardiovascular disease. J Physiology 563.1, 23−60を参照)、並びに正常な血漿濃度の推定値が得られる選択された62個のタンパク質のサブセットを収集した。これらのそれぞれについて予想されたトリプシンペプチドが、関連するSwissprot注釈及び以下の一連のコンピュータ化された物理化学的パラメータと共に生成された:例えば、アミノ酸組成物、ペプチド質量、Hoop−Woods親水性(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Hopp, T.P. and Woods, K.R. (1981) Prediction of protein antigenic determinants from amino acid sequences. Proc Natl Acad Sci USA 78, 3824−8を参照)、並びに逆相(C18)クロマトグラフにおける予想保持時間(例えば、全体が参考として本明細書で援用される、Krokhin, O.V.Craig, R., Spicer, V., Ens, W., Standing, K.G., Beavis, R.C. and Wilkins, J.A. (2004) An improved model for prediction of retention times of tryptic peptides in ion pair reversed−phase hplc: Its application to protein peptide mapping by off−line phlc−maldi ms. Mol Cell Proteomics 3,908−19を参照)。同じタンパク質から最も多く検出されるペプチドのヒット数によって分けられたデータセットでペプチドの個々の「ヒット数」を計算することで算出した実験的検出の尤度指数は、Adkinsによって報告されたデータセットに由来するものであった(例えば、全体が参考として本明細書で援用される、Adkins, J.N., Varnum, S.M., Auberry, K.J., Moore, R.J., Angell, N.H., Smith, R.D., Springer, D.L. and Pounds, J.G. (2002) Toward a human blood serum proteome:Analysis by multidimensional separation coupled with mass spectrometry. Mol Cell Proteomics 1,947−55を参照)。ペプチド品質の全体指数は、P、KP、RP及びDPの内容物の陽性重量、並びにC、W、M、キモトリプシン部位の陰性重量、特定のSwissProt特徴(炭水化物結合、改質残基、配列競合、又は遺伝的変異)、並びに800未満又は2000以上の質量を求める式により得た。62個のタンパク質マーカー候補について予想された3619個のトリプシンペプチド(標的当たり6〜492個のペプチド)は、長さが1〜285個のアミノ酸の範囲内であった。8〜24個のアミノ酸の範囲内では、721個のペプチドにはc−末端Lysが、690個のペプチドにはc−末端Argがあった。本実施例では、更に試験をするため、C末端Lysで終わるこれらの標的タンパク質の30個からのペプチドを選択した。最終的に、単一のCID断片化規則に基づき、断片イオンを予想し、MRM遷移を生じさせるために使用した(例えば、親m/z値を上回る1つ目及び2つ目のyイオン)。
【0050】
LC−MS/MSプロテオミクスサーベイデータ
又、ペプチドは、直接のプロテオミクスサーベイ実験に基づいて選択した。この場合、フルスキャンMSによって観察される主要なイオンを、4000Q TRAP装置のイオントラップ機能を使用したMS/MSに供する、血漿消化物の伝統的なLC−MS/MS分析を行った。ペプチドは、所定の親タンパク質の相対的に最高のシグナル強度及びクロマトグラフのピーク形状を示す同定されたものを選択した。更に、BeavisのGPMデータベース(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Craig, R., Cortens, J.P. and Beavis, R.C. (2004) Open source systemf for analyzing, validating, and storingprotein identification data. J Ptoteome Res 3,1234−42を参照)を使用して、検出されることの多い標的タンパク質からペプチドを選択した(多重実験)。フルスキャンMS/MSデータから、観察された最も高濃度のyイオンをMRM遷移の断片イオンとして使用した。
【0051】
MRM試験
又、種々の血漿タンパク質から測定可能なトリプシンペプチドを探し出すために、MIDASTMワークフローの適合も使用した(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Unwin, R.D., Griffiths, J.R., Leverentz, M.K., Grallert, A., Hagan, I.M. and Wheton, A.D. (2005) Multiple reaction monitoring to identify sites of protein phosphorylation with high sensitivity. Mol Cell Proteomics 4, 1134−1144を参照)。この手法では、タンパク質配列をin silicoで消化し、有望なyイオン断片を予想して、全てのペプチドについて許容されるサイズの枠内で理論的なMRM値を生成した。次に、これらのMRM値を、特定のペプチドのピークを検出するデータ依存実験にてサーベイスキャンとして使用し、その結果得られる各MRMピークをフルスキャンMS/MSによって試験し、仮説を立てたペプチドの配列検証を得た。得られたフルスキャンMS/MSデータから、観察された最も高濃度のyイオンをMRM遷移の断片イオンとして使用し、これによって、ここでin silicoで予想した結果の更なる改善を行った。
【0052】
ランダムMRM
本実施例の疑似ランダムMRMを得る当たっては、2つの手法を使用した。最初の手法では、(Excel RAND機能により)408.5〜1290.2の間で無作為に分布した100 MS1値(実際のMRMの初期セットの最大及び最小値を試験)を使用し、このMS1と実際のMRMの最大値(1495.6)との間で無作為に選択したMS2値を対にし、これによって実際のMRMの特性(一般的には+2荷電状態のペプチド及び+1荷電断片)を模倣した。2つ目のセットでは、実際のMRMの大規模な表のMS1値の中から無作為に選択した131 MS1値と、同じ表の実際のMS2値から無作為に選択したMS2値とを対にし、各MS2が1回目と2回目の間で対をなすMS1質量とならなければならないという制限のみを課した(自験の実際のMRMの選択基準に近づけるため)。
【0053】
標識ペプチド内部標準:polySIS
選択した実験では、一連の安定同位体標識内部標準(SIS)ペプチドを、ポリプロテインのトリプシン消化物に混ぜることにより、試料に加え(「polySIS」)、本教示内容の方法の種々の実施形態の性能を評価し、これらの方法の商業的可能性の評価に関する実演を行った。しかし、安定同位体ペプチドは、同位体標識アミノ酸を使用したペプチドの化学合成、及び/又は標識試薬(例えば、ICATTM、iTRAQTM)による合成ペプチドの化学標識を含むがこれらに限定されない幾つかの供給源の何れからも得られる可能性がある。但し、本実施例における標準ペプチドの使用は、本教示内容の方法を評価することを目的としており、標準ペプチドは本教示内容の方法の使用に必ずしも必要なわけではないことを理解されたい。
【0054】
手短に言えば、このpolySISタンパク質は、U−13C6 U−15N2標識リジンの存在下における30の濃縮トリプシンペプチド配列(30個の血漿タンパク質由来)の無細胞転写及び合成遺伝子コーディングの翻訳によって生成されたものである(天然ペプチドと比べた総質量増分は8amu)。これらのペプチドの13個を今回の試験で使用した(残りはピーク面積>1e4で再現可能に検出されなかった)。各ペプチドの極限c末端における標識原子の配置は、c末端を含む全ての断片(即ち、y−イオン)が標識による質量シフトを示すのに対し、n−末端を含む全ての断片(従って、より多くのc末端残基の1つを喪失した:即ち、bシリーズイオン)は、天然(試料由来)標的タンパク質からの対応する断片と同じ質量であるという効果を持つ。これらの特徴(シフトしたy−イオン、正常b−イオン)は、SISペプチドの断片化パターンの翻訳を容易にする。polySISタンパク質の絶対濃度を測定するため、アリコートを1M尿素、0.05% SDS及び50mMトリスで希釈してpH8とし、N末端エドマン配列決定に供し、初回濃度である5±1ピコモル/μLを得た。polySISタンパク質のトリプシン消化物は、表1に示す最終濃度でヒト全血漿消化物及び枯渇ヒト血漿消化物を急増させた。
【0055】
データ収集及び処理
polySIS標準物質を加えた場合と加えなかった場合の血漿消化物をLC Packings(Dionexの一事業部[米国カリフォルニア州サニーベール])を使用したエレクトロスプレーLC−MS/MS、又は直径75ミクロンのC18 PepMap逆相カラム(LC Packing)を備えたEksigent nanoflow LC systems(表1)によって分析したのち、3〜30%アセトニトリルに0.1%ギ酸を加えた勾配で溶出させた。カラムオーブン(Keystone Scientific, Inc.)を使用してカラムの温度を35℃に維持した。4000Q TRAPハイブリッド三連四重極/リニアイオントラップ装置(Applied Biosystems/MDS Sciex)でNanoSpray(登録商標)供給源を使用してエレクトロスプレーMSデータを収集し、Analystソフトウェア1.4.1(IntelliQuan algorithm)の定量化法を使用してピークを組み込んだ。MRM遷移は、Q1及びQ3四重極の両方にて単位解像度で取得し、特異性を最大化させた。
【0056】
MRM遷移
本実施例では、MRM検定の代表的なペプチドを選択する初回手法において、計算された特徴のみに基づき、広範囲の血漿濃度(6.6×108〜1fmol/mL正常濃度)に及ぶ各30個のタンパク質から、8〜18個のアミノ酸からなる単一のペプチドを選択した(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L., Anderson, N.G., Haines, L.R., Hardie, D.B., Olafson, R.W and Pearson, T.W. (2004) Mass spectrometric quantitation of peptides and proteins using stable isotope standards and capture by anti−peptide antibodies (siscapa). J Proteome Res 3, 235−44を参照)。MRMは、二重電荷ペプチドイオンを想定し、2+親イオンのm/z値を超える有望なy−イオンとして選択された断片を使用し、衝突エネルギーを一般式(CE=0.05×m/z+5)によって割り当て、ペプチドをU−13C6 U−15N2リジンによって標識された各ペプチドの単一コピーを含む鎖状polySISタンパク質と表して、設計した。polySISのトリプシン消化を分析したところ、MRMによって30個のペプチドが全て検出された。ヒト全血漿の消化物にpolySISペプチドを加えた場合、同じMRM信号によって標識polySISペプチドの19個が検出されたが、(同位体標識質量について調整した同じMRMによって)検出された血漿消化物由来非標識同種ペプチドは11個のみであった。
【0057】
単一のタンパク質と異なるペプチドは、ESI−MSによる検出能において広範に変動する可能性があることから、代替のMRM設計法も又、主に従来のペプチドサーベイスキャン法からの実験データに基づき、立証された検出能を有するペプチドに選択基準を適用して、進められた。3時間のLC勾配を使用して、情報依存性データ収集(IDA)を使用した分離における主要な二重又は三重電荷イオンについてMS/MSスキャンを収集し、2回目は、最初の実行で検出されたペプチドイオンの時間フィルタリング排除を使用して実施された。これらの結果では、高濃度のアルブミンからフィブロネクチン(正常な血漿中濃度は約1μg/mL)までの54個の血漿タンパク質が同定された。この実験MS/MSデータは、ペプチド選択、電荷状態、及び特定の使用条件(即ち、衝突ペプチド断片化によるエレクトロスプレーイオン化)下の最も高濃度のy−イオンのm/z値に関する明確な情報をもたらし、MRMの設計の改善を可能にした。これらのMRMをその後の実行で同じ試料を分析するために使用し、任意のMRM信号でMS/MSスキャンを起動したところ、ペプチドの大部分がクロマトグラムでピークとして検出され、データベースの検索によって同定された。これらのMRMクロマトグラムの大半では、検出されたピークは1回のみであった。
【0058】
MRMを使用したペプチド検出感度はフルスキャンMSサーベイ法で達成されたよりも高いことが予想されるため、上述のサーベイ実験では検出されなかったタンパク質のための包括的な新規のMRM設計法が検討された。新規のソフトウェアツールであるMIDASTMワークフロー(前述を参照)の適合を使用して、それぞれの多数の高質量y−イオン断片と共に有用なサイズ範囲で予想したトリプシンペプチドを全て選択することにより、一連の標的タンパク質のそれぞれについて、大量のMRMを生成した。これらのMRMを未分画血漿消化物のLC−MS/MSで試験し、観察された任意のピークでMS/MSスキャンを起動し、一度に1〜2個のタンパク質の予想されたトリプシンペプチド全てを含むパネルでグループ分けした(1回の実行につき50〜100個のMRM)。試験した12個のタンパク質のうち、9個からは信号対ノイズ比(S/N)が約20を上回るMRM信号が少なくとも1回は得られた。得られたフルスキャンMS/MSデータを、最終検定で検出を改善する目的でMRM遷移を精選するために使用した。
【0059】
上記の手法からのMRM結果を保存し、ヒト血漿の53個のタンパク質を表す合計60個のペプチドを網羅した最適なMRMの組を収集した(表2を参照:7個のタンパク質は2つのペプチドで表されている)。この組にはin silico法で選択された18個のペプチドが含まれている(初回の30個のin silicoペプチドの内の8個は、濃度が低すぎて検出できない可能性があることから削除し、その代わりにその他の4つの実験データからより適切なペプチドを選択した)。1つを除く全てのペプチドでは、ペプチドの2個の断片(即ち、1ペプチド当たり2つのMRMを使用)が測定され、119個のMRMがもたらされた。最後に、消化物血漿試料中に混入させた標的ペプチドの18個の安定同位体標識内部標準(「SIS」)バージョンのMRM(即ち、polySISタンパク質のトリプシン消化物)を含めた。本実施例に記載した複製実行全てでは、MRMにつき18msecの滞留時間及び測定間の約3秒間のサイクル時間を使用して、結果として得られた137個のMRMを測定した。
【0060】
最終的なMRM法を構築したら、各特異的ペプチドを示す各MRM遷移及びそれぞれの保持時間を再度検証した。MRM信号の出現についてはフルスキャンMS/MSを取得し、結果として得られたスペクトルを手動で検査し、特異的なペプチドに対するマッチングを測定した。
【0061】
考察
何れの体液でのバイオマーカーの早期及び後期のバリデーションにおいても重要な要素は、高度に再現可能な方法で多くの試料を同時に調製及び分析する能力である。本実施例では、ヒト血漿中の53個のタンパク質を表すトリプシンペプチドから質量分光MRM検定を設計した(タンパク質の一覧については表2を参照)。本実施例では、最小限の試料調製による血漿中の約1μg/mLの濃度までのタンパク質が、消化ヒト血漿及び枯渇/消化ヒト血漿中で確実に検出され、例えば図4Bに例示する通り、この単一の方法での約5桁のダイナミックレンジをもたらした。このため、種々の実施例において、本教示内容は、バイオマーカーのバリデーションのための強固なプラットフォームを提供することができる。
【0062】
6種類の一連の実験(A〜F)を実施した。各実験では、単一の試料(同じ注入量)の連続複製LC−MS/MSの実行中に137個のMRMからなる同じ組を測定し、適切なピークをAnalystTMソフトウェアを使用して統合し、各実行で各MRMの値(ピーク面積)を得た。LC MRM法の再現性は、同じ試料で10個のLC−MRM複製を測定することによって評価した。実験A〜E(それぞれ10個の複製を実行)を表1に要約した。このような実験群には全(未分画)ヒト血漿(B、C)及び高濃度タンパク質を枯渇させた血漿(A、D、E);総ペプチド充填量高値(B、E)及び充填量低値(A、C、D);及び種々のクロマトグラムの設定が含まれていた。本実施例の実験の目的の1つは、種々の一般的な血漿消化実験におけるMRMの性能を評価することであった。参照ペプチドの充填量(実験A)は、最も豊富なタンパク質(タンパク質質量の約80%)を枯渇させた後の10nLの血漿中に含まれるタンパク質のトリプシン消化によって得た。総ペプチド質量の60〜70ngを占めると推定されるこの充填量は、MRMペプチドのナノ流量クロマトグラムに等しい充填量であることを証明した。実験B及びEでは更に高い充填量を使用し、ピーク安定性(高充填量による有害な影響を受けたクロマトグラムの品質)と信号対ノイズ(S/N)比との間のトレードオフ(検体量の増大により改善)を検討した。本実施例では、検討した条件の中で60〜70ngの充填量が最適であることが示された。クロマトグラム溶出時間は再現可能であり、平均CVが2%(実験D)及び2.5%(実験E)であることが示されている。
【0063】
再現性の考察
血漿調製の枯渇及び消化工程の両方に関する再現性は、別々の日に同じ血漿試料のアリコートで試料調製を実施したほか、1つの試料を選択し、それを2つに分け、並行して枯渇を行った後、更にそれぞれを分割して同じ日に消化を並行して行うことにより、検討した。何れの試料も後で評価し、関連付けた。結果からは、これらの試料調製法は高度に再現可能な様式で実施できることが示唆されている。
【0064】
異種調製における試料調製の再現性
図10A及び10Bを参照すると、図10Aは137個全てのMRMに及ぶ5件の実験(A〜E)に関するMRM値(ピーク面積)のCVのヒストグラムを示しており、このようなデータを反復再現性の評価に使用した。CVは、各試料で10回の反復注入を実施し、各MRM遷移のピーク面積を測定した後、10回の反復における各MRMの平均、標準偏差及び変動係数を計算することにより測定した。図10Aは、5回の実験に関する変動の係数(CV:平均ピーク面積によって分割された標準偏差)のヒストグラムを示している(各MRMの個々の値については、5回の実験における10回の複製分析の平均値及びCVを記載した表2に示している)。タンパク質枯渇血漿の分析では、MRMの60%以上が10%未満の同時CVを示し、ほぼ半数が5%未満のCVを示した。これらのMRMの幾つか(例えば、α−1−抗キモトリプシン、アポリポタンパク質E、ヘモペキシン、ヘパリン補因子II、プラスミノーゲン、プロトロンビン、フィブリノゲンγ鎖、補体C4及び因子B)は、3回の実験にわたって3〜4%の平均同時CVを示し、一般的な良好の臨床免疫検定と同等の精度であった。全(非枯渇)血漿消化の分析では、一般的にこれよりも高いCV値が示された(MRMの20〜50%が10%未満のCVを示した)。このような再現性の測定値は、未処理のピーク面積で計算され、内部標準を使用した補正は行わなかった。測定されたタンパク質の内の4種類は、使用したタンパク質免疫枯渇プロセスにより除去されると推測された。消化物の分析で得られた全血漿試料とタンパク質枯渇血漿試料との平均ピーク面積の比較では、アルブミン(1.3e8が約1e4に減少)、トランスフェリン(1.5e5が約5e3に減少)及びハプトグロブリン(4.6e6が約1e5に減少)の大幅な減少が認められた。本実施例において、α−1−抗トリプシンは、データの分析において、今回除去されたことを確認するのに十分な信頼性をもって検出されなかった。
【0065】
MRMに関する多くの測定値はCVの改善を期待させるものであったことから、実験では、59個のペプチドに関して別々に測定した2つの断片の合計値が、10回の複製実行にわたって個々のMRMよりも少ないCVを示すかどうかも検討された。表3に示す通り、59個のペプチドにおける総MRMの平均CVは、何れの個別のMRMの平均よりも1〜3%低値であった。合計CVを各MRMの2つの断片のCVの低い方と比較すると、実験群A〜EにおけるCVの平均減少率は+0.7%〜−0.1%の範囲であった。これらのCVの小幅な改善は、測定時間の倍増(又はモニタリングしたペプチド数の半減)という犠牲を払って得られたものである。
【0066】
実験群D及びEのCVとピーク面積との間の相関関係は、少なくとも本実施例のデータ及び条件に関して言えば、1e4未満のピーク面積では10%未満のCVを生じる可能性が少ないことを示唆している(図8)。1e4のカットオフ値は約10の信号対ノイズ比に対応しており、これは、報告された定量下限のS/Nの定量的目標と一致する。測定された最高のピーク面積(全血漿消化試料のアルブミンペプチド)は1e8を超えており、このカットオフ値を約4桁以上上回る最大使用ダイナミックレンジを示している。
【0067】
免疫サブトラクションにより再現性を改善
本実施例では一般的に、Agilent MARSカラムを使用した最も豊富なタンパク質の免疫サブトラクションによって、非サブトラクトタンパク質のMRMの性能が改善された。この効果は、単に検出感度が改善されたことに起因するのではなく、全血漿ではなく枯渇血漿消化物で検出を実施した今回の組ではペプチドが存在するとしても少数であったためであると考えられる。むしろ、枯渇の効果は、約1/4〜1/5倍という総ペプチド充填量の減少によって達成されたクロマトグラムピーク形状の改善のほか、MRMピークの信号対ノイズ比に現れていると思われ、これらの両方がCVの改善に寄与していると考えられる。図9及び9Bは、アルブミンペプチドの除去におけるタンパク質枯渇の利益のほか(主要なピークは図9A)、これによって枯渇試料で小規模なピークが惹起されていることを示している(図9B)。非枯渇血漿消化物の極めて高い充填量では、ピーク保持時間の大幅なシフトが認められたが、定格充填量の領域での充填では、高濃度のペプチドがMRM保持時間に及ぼす影響が小規模であった。
【0068】
免疫枯渇及び消化の再現性の評価
6つ目の実験セット(Fシリーズ)では、同じ血漿試料の2つのアリコートでMARS枯渇を実施したのち、各枯渇試料の2つのアリコートを別々に消化した(合計4試料;例えば、F1_2は最初の枯渇の2回目の消化であることを示す)。配列の影響を回避するため、無作為化した順序で、試料毎に137個のMRMに関する4回の複製の実行を実施した。図5B及び5Cでは、単一の枯渇試料の2つの消化(図5C、F1_1対F1_2)、2つの並行して実施した枯渇/消化(図5B、F1_1対F2_1)の平均ピーク面積を比較している。複製消化物は、優れた比較可能性を示している(F1_1対F1_2及びF2_1対F2_2のR2はそれぞれ0.995及び0.998)。複製枯渇物(必然的に種々の消化物の影響も含む)はわずかに劣っている(例えば、F2_1対F1_1又はF2_2対F1_2のR2はそれぞれ0.989及び0.991)。(!!図5B及び5Cを図5A及び5Bに変更する必要あり)
感度の評価
L−セレクチン及びフィブロネクチンという血漿中で比較的低い正常濃度の2つのタンパク質は、試験したMRMの中でも明確に検出されている。L−セレクチンの可溶形態は、約0.67μg/mL(26)又は20.3pmol/mLという正常濃度で血漿中に存在する33kDaのタンパク質である。フィブロネクチンは約1.4μg/mL(27、(28)、又は5.4pmol/mLという正常濃度で血漿中に存在する260kDのタンパク質である。実験Dのカラムに血漿0.01μLに相当する消化物を充填したと考えると、これらのペプチドはそれぞれ、約200amol及び約50amolでカラムに存在していると推測される。L−セレクチンの場合は、2.0fmolの強化SIS標準を使用して、天然の(試料由来の)ペプチドがSIS(単一の時点での定量)の0.1倍の量で存在しており、予想通りに200amolの測定値と、0.6〜0.67μg/mLの推定した血漿中濃度をもたらしたことが明らかにされた。実行D及びEでのフィブロネクチンのCVはそれぞれ4%及び4%であり、L−セレクチンのCVはそれぞれ22%及び11%であったことから、これらの実験における高品質検出では、L−セレクチンが下限(〜1e4)近くであることを示している。
【0069】
今回のデータ分析の時間及び段階では、選択された53個の標的タンパク質の内の6個が確実な観察されなかった。凝固因子V、ビタミンK依存性タンパク質C又はC4b結合タンパク質から選択されたペプチドからは、再現可能な信号が得られなかった。又、より高濃度のタンパク質由来のペプチドでも、今回のデータ分析の時間及び段階では確実に検出されなかった場合もみられた。インターαトリプシン阻害薬軽鎖(このタンパク質の重鎖由来のペプチドは良好な品質のMRMをもたらしたものの)、アポリポタンパク質C−II及びα1−抗トリプシンは、今回確実に検出されなかった。これらのより高濃度のタンパク質では、別のペプチドを選択することでより確実な検出が可能となる可能性があると考えられる:インターαトリプシン阻害薬軽鎖及びα−1−抗トリプシンの何れについても、別のペプチドが数多く存在しているが、アポリポタンパク質C−II等の少ないタンパク質については、より適切な代替ペプチドがないと思われるため、カラムに充填する試料におけるこれらのペプチドの更なる濃縮が必要であると思われる。
【0070】
ランダムMRMの動作及びMRM信号の密度
非無作為に設計されたMRMの大半では、枯渇血漿等の複雑な消化物に関するLCの実行中に検出されるピークは1回のみであるように思われる:73%のピーク面積は標的ペプチド検体と一致する約32,000を上回り(このデータでは信号対ノイズ比値を10と試算)、2回目のピークが同じピーク面積基準に達したのはわずかに約8%であった。このため、実験では、同じ枯渇血漿消化物試料で無作為化した2種類を試験することによって、「MRM−スペース」でのペプチドのピーク密度が実際に低い(試料の複雑性の割にはMS/MS検出器の高い特異性と同等)ことを確認することを試みた。最初のセットでは、137個の設計したMRMで使用した実際のペプチドの質量範囲にわたって無作為に割り付けた「親」質量によって100個のMRMを生成した後、設計したMRM(「ランダムMRM」)の中で「親」質量と最大断片質量との間に「断片」質量を無作為に割り付けた。SwissProtでMasctotを検索したところ、100個のランダムMRMの中で、32,000を超える面積を有するピークを示したのはわずか6例であり、これらのピークの中でタンパク質の同定につながるMS/MSスペクトルを生じたものは1つもなかった。131個のランダムMRMからなる2つ目のセットは、断片質量が親(「ランダム複合MRM」)よりも低値であるような場合を除き、親イオンと、血漿中で検出可能な設計したMRMのセットからのCID断片イオン質量とを無作為に対にするによって生成した。実際のペプチド質量及び断片質量を使用することで、これらのMRMでは、実際のペプチド質量が積分質量の周囲に群がる傾向から生じる可能性があるバイアス(質量欠陥)が回避された。この2つ目のセットでは、MRMの約12%が約32,000を超えるピーク面積のピークを示し、これらのピークからは何れもタンパク質同定をもたらすMS/MSスペクトルが得られなかった。ランダムMRMセットで観察された何れのピークも、設計した血漿タンパク質MRMの大部分の溶出の後にLC勾配(100分後)を生じた。これらの結果は、これらの実験の今回の感度では、極めて複雑なペプチド試料であり、何れの質量分析計の単位解像度を使用している場合でも、MRMスペースで定量可能な特徴の密度はわずか6〜12%であり、この内の少量が標準的なトリプシンペプチドであると思われることを示唆している。非無作為に設計したMRMでは、ランダムMRMで観察されたピーク面積の分布が2つ目(非標的ペプチド)のピークの分布と極めて一致しており、これらの追加のピークが無作為な背景を表していることを示唆している。
【0071】
血漿消化物の複雑性(特に、少数の過剰ペプチドが除去された枯渇血漿の複雑性)にもかかわらず、殆どのMRMはペプチドLCクロマトグラム全体でわずか1回のピークしか示さなかった。この所見は、枯渇血漿消化物で測定した無作為に割り付けたMRMの2組に見られた低密度のピークと一致しており、検出器として使用した2段階のQqQ−MS選択プロセスの特異性を明らかにしている。MRMのサブセット(約10%)における2つ目のピークの存在は(実際のところこれらがトリプシンペプチドであるかにかかわらず)、クロマトグラフ溶出時間がこれらの検定で望まれる絶対検体特異性をもたらす要因になる可能性があることを示している。
【0072】
予想MRM遷移の改善
In silico手段単独で選択し、PolySISペプチドの生成に使用した約半数のペプチド(30個中13個)は、血漿中で検出され、約1e4を超えるMS信号を発生した。トリプシンペプチドのイオン化特性の予想は、将来大幅に改善されることが期待されるが、本実施例では、実験的MS/MSデータを使用し、より適切な親娘イオン遷移を選択するための予想を改善した。本実施例では、2つの実験的方法が特に有用であることが証明された。MS1で認められた高信号ペプチドのサブセットをMS/MSに供した従来のLC/MS/MSデータ依存性フルスキャンMS実験では、高濃度の(高濃度に存在する)ペプチドが検出された。低濃度のペプチドは、本教示内容を使用し、標的タンパク質由来の適切なサイズの予想トリプシンペプチド全ての候補MRMの一覧を作成した後、検出されたMRMピークをMS/MS(AnalystTMソフトウェア内の専用のスクリプトを使用してMRM法が設計される、MIDASワークフロー)によって特徴付けることによって、検出した。MRMは一般的に極めて低濃度の成分を検出するフルスキャンサーベイMSよりも高感度であることから、MIDAS法によって、更に低濃度のペプチドのMRM(親娘イオン遷移)の改善がもたらされたほか、本教示内容の種々の実施形態において、この手法は、試料中のタンパク質に関する質量分光ベースの検定を開発する方法で使用されている。このプロセスは、高感度三連四重極MRMとハイブリッドリニアイオントラップ4000 Q TRAP質量分光計でのイオントラップMS/MSスキャン機能とを組み合わせることによって容易になった。
【0073】
この改善法の例については、タンパク質凝固因子XIIa軽鎖に関する図7で図示されている。このタンパク質にSwissProtデータベース由来のタンパク質配列を使用することで、24個のタンパク質分解ペプチドの48個の理論MRMの一覧が得られ、サーベイスキャンとして使用した。一例として、これらのMRMの1つが示されており、in silicoで予想された親娘イオン遷移を使用して、スキャン702及びその後の高解像度スキャン704を実施した。予想されたペプチドに起因する信号はスキャン706で観察された。完全な産物イオンスキャン708からは、予想された娘イオン710が別の断片712よりも大幅に信号強度が低いことが明らかになった。このスキャン708の情報を使用して、予想されたMRM(親娘イオン)の遷移を改善し、元のMRM 702よりも信号対ノイズ比の高い新しいMRM714を得た。この改善プロセスは、このタンパク質由来の2つのタンパク質分解ペプチドについて実施したが、優れた信号強度及びS/Nに基づいて最終検定のために選択したのは、わずか1個のペプチドだけであった。
【0074】
タンパク質検定のための親娘イオン遷移(MRM)の選択
試験した119個のMRMから親娘イオン遷移(MRM)を同定した。それぞれのタンパク質の検定に望ましい特性を有することは、表2のカラム「最適MRM」に×印を付けて示されている。59例では、試験した2つの断片イオンから断片(娘)イオンを選択し、7例では、タンパク質ごとに2つのペプチドを試験した例からペプチド(タンパク質分解断片)を選択した。(47回のMRM検定の)47個のペプチド配列は何れも、(集合ペプチドを表す)ヒトプロテオームに固有であることが検証されており、標的タンパク質中で1回のみ発生した。ペプチドの内の3種類(抗トロンビンIII、アポリポタンパク質E、及びビタミンK依存性タンパク質C)は、マウスでも同じように発生し、7種類(アポリポタンパク質E、ビタミンK依存性タンパク質C、補体C4β及びγ、フィブロネクチン、ハプトグロブリンβ、及びインターαトリプシン阻害薬重鎖)はラットでも発生した(他のヒト配列は何れも、他の種の集合ペプチドでは発生しない)。
【0075】
最終の47のMRM検定の中で、12検定はin sillico法より行われて30個のpolySISペプチドがもたらされており、1検定は以前のin silico法により行った(例えば、内容全体が参考として本明細書で援用される、Anderson, N.L., Anderson, N.G.,Haines, L.R., Hardie, D.B., Olafson, R.W. and Pearson, T.W. (2004) Mass spectrometric quantitation of peptides and proteins using stable isotope standards and capture by anti−peptide antibodies (siscapa). J Proteome Res 3, 234−44を参照)。実験的試験の結果、合計8個のin silico選択ペプチドが同じ標的タンパク質に由来するペプチドによって置換され(137個のMRMの選択の前に4個、後に4個)、2個はその後失敗して、未だに置換されておらず、8個は濃度が不十分であることが予想されるために試験前に除外した。このため、13個のin silico選択ペプチドが残り、このうち10個は試験中に置換された。5回の実験(A〜E)における47回の最適MRMのCV分布については、図10Bに示している。例えば、実験Dでは、これらの内の40個でCVが10%を下回り、19個が5%を下回っており、この再現可能な定量化法の可能性が示されている。
【0076】
生体試料(ヒト血漿)中のタンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として選択可能な1つ以上のMRM遷移は、以下の条件に基づいて選択した:(i)親娘イオン遷移の親イオンは、ペプチドのフルプロダクトスキャン及び以下の特性の少なくとも1つに基づいて、そのタンパク質のタンパク質分解断片であることが確認される(ii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル(本実施例ではピーク面積で決定)を有すること;(iii)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のシグナルノイズ比を有すること;並びに/或いは(iv)選択された親娘イオン遷移は、そのタンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、イオンシグナル内にほぼ最少のエラー量を有するイオンシグナルを有すること(例えば、他のピークから分離しているか又は低バックグラウンドで現れるMRMクロマトグラムのピークは一般的に、ピーク面積によって測定された場合、高バックグラウンドの領域のピーク及び/又は他のピークとのオーバーラップのみられる領域のピークに比べて、イオン信号値のエラーが少ない)。
【0077】
多重機能及び処理能力の考察
複雑な消化物におけるペプチドを測定するためのLC−QqQ−MSプラットフォームの多重機能は重要な機能であり、各実行中に数多くのタンパク質を正確に測定することを可能にする。何れも全LC勾配を通して18msecの連続測定で連続してモニタリングした、今回の137個のMRMのセットの性能を考えれば、100〜200個のMRMをLC長勾配でペプチドを日常的に測定するのに利用できると思われる。再現可能なクロマトグラフの溶出時間を考えれば、ピークの発生が予想される時間枠(例えば、静的、動的又はこれらの組み合わせ)の中で既存のシステムによって各MRMを測定することが可能である(例えば、自験のD及びEで測定したピーク溶出時間では平均2〜2.5%CVとすれば、総実行時間の10%の時間枠)。溶出時間及びカラムの再現可能性のほか、溶出時間内ではさほど密集しないというMRM信号の選択に関する知識に基づくと、10倍のMRM(1,000〜2,000)が1回のLC MRM実験で使用できると考えられる。
【0078】
MRM測定の処理能力に関する更なる考察としては、クロマトグラフの実行時間が挙げられる。反復実験D及びEでは、30分間の勾配を使用し、この勾配は(試料間の洗浄を含めて)75分間の総サイクル時間をもたらした。MRMスペースでの低密度のピークにより示される検体特異性は、種々の実施形態において、クロマトグラフ分離による利益が少ない、タンパク質検定に好適なMRMを開発できることを示している。個々の時間枠においてMRM測定に焦点を当てることができることから、各ピークにわたって必要とされる多重測定を犠牲にすることなく、使用した溶出時間でより多くのMRMを得ることができる。種々の実施形態において、より高流量(例えば、キャピラリー流量)のシステムへのシフトと併せて、実行時間の改善が得られ、日常的な操作におけるロバスト性の向上等が容易になる。
【0079】
(実施例3 内部標準ペプチドを使用した定量化の評価)
本教示内容に関する方法においては、必須ではないものの、最終検定でのタンパク質絶対量の定量化に関する内部標準を得るために、安定同位体標識ペプチドを含めることができる。最初の検定では、既知の量のペプチドを加え、血漿中の当該タンパク質の量を測定するための対照として使用した。単極の濃度曲線が生成されたが、より正確な定量化からは多重極の濃度曲線が得られる可能性がある。一例として、図6A及び6BにはL−セレクチン由来のタンパク質分解ペプチド断片AEIEYLEKに関する比較MRMデータを示しており、図6Aは標準の同位体標識断片AEIEYLEK*に関するデータである。標識ペプチドのピーク面積(図6B)と非標識ペプチドのピーク面積(図6A)との比のほか、既知の標識L−セレクチンペプチド濃度(2fmol/カラム)を使用することで、L−セレクチンの血漿中濃度が約0.7μg/mLであることが確定され、このタンパク質に関する文献データ値である0.67μg/mLと十分に一致していた。
【0080】
特許、特許出願、記事、書籍、学術論文、論文、ウェブページを含む、本出願中に引用した文献及び同様な資料は、その文献及び同様な資料の形式にかかわらず、全体が参考として本明細書で援用される。援用された文献及び同様な資料の1つ以上が、用語、用語の使用法、技術等を含めて本出願と矛盾する場合は、本出願が優先される。
【0081】
本明細書で使用される各項の見出しは構成上の目的であり、本明細書の主題を限定するものであると解釈すべきではない。
【0082】
以上において本発明を種々の実施形態及び実施例と共に説明してきたが、本教示内容をこのような実施形態又は実施例に限定することを目的としたものではない。逆に、当業者であれば理解する通り、本発明は種々の代替例、改変及び等価物を包含する。
【0083】
以上において本教示内容を特定の例示的な実施形態を参照して具体的に示し、記述してきたが、本発明の趣旨及び適用範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に種々の変更が加えられる場合があることを理解されたい。従って、本教示内容の適用範囲及び趣旨に含まれる実施形態及びその等価物が全て特許請求の対象である。本教示内容の検定の説明及び図は、特に記載のない限り、記載した要素の順序に限定して読むべきではない。
【0084】
請求項は、特に記載のない限り、記載した要素の順序に限定して読むべきではない。付随する請求項の適用範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に種々の変更が加えられる場合があることを理解されたい。従って、以下の請求項及び等価物の適用範囲及び趣旨に含まれる実施形態及びその等価物が全て特許請求の対象である。
【0085】
【表1】
実験間に30分間の洗浄時間を設けて反復実行を実施した。充填は試料から得た血漿の等価量として示している。
【0086】
【表2−1】
【0087】
【表2−2】
【0088】
【表2−3】
【0089】
【表2−4】
【0090】
【表2−5】
【0091】
【表2−6】
【0092】
【表2−7】
【0093】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、実施例で使用する質量分析計システムの簡略化した概略図である。
【図2】図2は、バイオマーカーのバリデーションのためのMRM検定を開発する方法の種々の実施形態を概略的に示す。
【図3】図3A及び図3Bは、実施例1で考察するフィブロネクチンペプチドに関するMRM及びMS/MS実験データを示す。
【図4A】図4Aは、実施例2の53個のタンパク質のペプチドのデータを示す。
【図4B】図4Bは実施例2で分析した試料中に存在するこれらのタンパク質の量の範囲を示す。
【図5A】図5Aはそれぞれ、同じ血漿試料に関する実施例2の平行枯渇/消化実験及び平行消化実験それぞれの間の、MRM遷移のピーク面積の相関グラフを示す。
【図5B】図5Bはそれぞれ、同じ血漿試料に関する実施例2の平行枯渇/消化実験及び平行消化実験それぞれの間の、MRM遷移のピーク面積の相関グラフを示す。
【図6】図6A及び図6Bは、試料のL−セレクチンのペプチド断片に関する実施例3のMRMデータ(図6A)と、同位体標識した合成ペプチドのMRMデータ(図6B)を比較した図である。
【図7】図7は、測定された親娘イオンシグナルに基づき予想されたMRM遷移を改善したものを概略的に示す。
【図8】図8は、実施例2の2つの実験(消化血漿及び枯渇血漿)のピークCV対ピーク面積のグラフである。
【図9】図9A及び図9Bは、実施例2の血漿から最も高濃度の6種類のタンパク質を枯渇させた効果を示す。
【図10A】図10Aは、実施例2の5つの実験セットに関するCV値の分布を示す。
【図10B】図10Bは、実施例2の5つの実験セットに関するCV値の分布を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列及び該タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、該検定用の選択された親娘イオン遷移が、該透過された親イオンが該タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、該選択された親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項2】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物、及びこれらの組み合わせの少なくとも1つに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生理学的流体が、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生理学的流体が血液を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記血液試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質のタンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、該タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、該生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程が、
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに
該配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、該配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含するm/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
血液試料中に少量しかないタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程であって、該試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の該タンパク質を含む血液試料に由来する、工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
生体試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、該検定用の選択された親娘イオン遷移が、該透過された親イオンが該タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、該選択された親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項21】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質の前記タンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、該生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程が、
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに
該配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について前記実質的に完全な産物イオンスキャンを行うこと、
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項33】
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項35】
試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの該溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、該透過された親イオンの電荷状態を測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、該指定されたシグナル閾値を超える場合に、該透過された親イオンの配列を決定する工程;
該配列決定され透過された親イオンの配列が、該タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、該配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
生体試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該親娘イオン遷移を選択する工程であって、該親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項36】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物、及びこれらの組み合わせの少なくとも1つに由来する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記生理学的流体が、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせの1つ以上を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記生理学的流体が血液を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記血液試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
前記タンパク質の前記タンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、該タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、前記生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項1】
試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列及び該タンパク質の遺伝子配列の翻訳の1つ以上に基づき予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、該検定用の選択された親娘イオン遷移が、該透過された親イオンが該タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、該選択された親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項2】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物、及びこれらの組み合わせの少なくとも1つに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生理学的流体が、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生理学的流体が血液を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記血液試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質のタンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、該タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、該生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程が、
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに
該配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、該配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行うこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含するm/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
血液試料中に少量しかないタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程であって、該試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の該タンパク質を含む血液試料に由来する、工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、予想されたタンパク質分解断片のm/z値を包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
生体試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移を選択する工程であって、該検定用の選択された親娘イオン遷移が、該透過された親イオンが該タンパク質のタンパク質分解断片である場合の遷移に対応し、該選択された親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項21】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質の前記タンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、該生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記マルチプルリアクションモニタリングを使用して、前記予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する前記m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程が、
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、前記指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの配列を決定すること;並びに
該配列決定され透過された親イオンの配列が、前記タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、前記配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について前記実質的に完全な産物イオンスキャンを行うこと、
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項33】
前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する前記測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、前記透過された親イオンの電荷状態を測定する工程も更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項35】
試料中のタンパク質に関する質量分析ベースの検定を、該タンパク質の標準物質を使用せずに開発するための方法であって、
タンパク質のタンパク質分解断片の1つ以上を、該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて予想する工程;
該タンパク質分解断片を衝突誘起解離に供する場合に、該タンパク質の該タンパク質分解断片の1つ以上から産生される断片の1つ以上を予想する工程;
タンパク質のタンパク質分解断片を含む試料を提供する工程;
該試料の少なくとも一部をクロマトグラフィーカラムに充填する工程;
該クロマトグラフィーカラムからの該溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、指定されたシグナル閾値を超える場合に、該透過された親イオンの電荷状態を測定する工程;
該予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の衝突誘起解離断片に対応する該測定されたイオンシグナルが、該指定されたシグナル閾値を超える場合に、該透過された親イオンの配列を決定する工程;
該配列決定され透過された親イオンの配列が、該タンパク質のタンパク質分解断片に対応する場合に、該配列決定され透過された親イオンを包含するm/z値範囲について実質的に完全な産物イオンスキャンを行う工程;
該実質的に完全な産物イオンスキャンの親娘イオン遷移に伴うイオンシグナルを測定する工程;並びに
生体試料中の該タンパク質の存在を検定するための親娘イオン遷移として、該親娘イオン遷移を選択する工程であって、該親娘イオン遷移が、該タンパク質のその他の親娘イオン遷移に伴う測定されたイオンシグナルに比べて、ほぼ最高のイオンシグナル及びほぼ最高のシグナルノイズ比のうちの1つ以上を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項36】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が、生理学的流体、細胞溶解物、組織溶解物、及びこれらの組み合わせの少なくとも1つに由来する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記生理学的流体が、血液、血清、血漿、汗、涙液、尿、脳脊髄液、腹膜液、リンパ、膣分泌物、精液、髄液、腹水液、唾液、痰、胸滲出物、及びこれらの組み合わせの1つ以上を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記生理学的流体が血液を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記タンパク質のタンパク質分解断片化の前に、前記血液試料から少なくとも6種類の最も豊富なタンパク質が枯渇されている、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記血液試料が血漿又は血清である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記血液試料が約10万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記血液試料が約1万アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記血液試料が約1000アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
前記血液試料が約100アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
前記血液試料が約10アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記血液試料が約1アトモル/マイクロリットル未満の濃度の前記タンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
前記タンパク質の前記タンパク質分解断片がトリプシンペプチドを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
タンパク質のタンパク質分解断片を含む前記試料が更に、該タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の1つ以上の濃度標準も含み、該濃度標準が、前記生体試料中の該タンパク質の存在の検定として選択された親娘イオン遷移に基づいて選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
前記クロマトグラフィーカラムからの前記溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程が、三連四重極イオントラップ質量分析計を使用することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
前記イオントラップがリニアトラップを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
前記測定された完全な産物イオンスキャンの少なくとも1つ以上に基づいて、前記タンパク質の前記予想されたタンパク質分解断片の質量値、及び前記改善され予想されたタンパク質分解断片の前記予想された衝突誘起解離断片の質量値を改善する工程;
前記クロマトグラフィーカラムからの溶離液の少なくとも一部をマルチプルリアクションモニタリングに供する工程であって、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された親イオンのm/z範囲が、該タンパク質の該改善され予想されたタンパク質分解断片の1つ以上のm/z値を含み、各マルチプルリアクションモニタリングスキャンの前記透過された娘イオンのm/z範囲が、該予想されたタンパク質分解断片の該改善され予想された衝突誘起解離断片の1つ以上のm/z値を含む、工程;並びに
該マルチプルリアクションモニタリングを使用して、該改善され予想された衝突誘起解離断片のm/z値の1つ以上を包含する該m/z値範囲のイオンシグナルを測定する工程、
も更に含む、請求項35に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【公表番号】特表2009−511915(P2009−511915A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535752(P2008−535752)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/040263
【国際公開番号】WO2007/044935
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【出願人】(506183133)エムディーエス インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/040263
【国際公開番号】WO2007/044935
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【出願人】(506183133)エムディーエス インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】
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