説明

生体吸収性の移植可能な基体

移植可能な基体の少なくとも一部分を電子ビーム照射に曝露させるステップを備える、段階的な分子量分布を有する生体吸収性の移植可能な基体を製造する方法が記載される。また、厚さの少なくとも一部分にわたって段階的な分子量分布を有する生体吸収性ポリマを含む生体吸収性の移植可能な基体をも提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生体吸収性の移植可能な基体を製造する方法、生体吸収性の移植可能な基体の少なくとも一部分の生体吸収性の速度を変更する方法、およびこれらの方法に従って形成される段階的な分子量分布を有する生体吸収性の移植可能な基体に関する。
【0002】
生体材料研究の長期目標は組織再生にあるのであって、置換にではない。組織工学における生体適合性構造は、移植用の生体外生細胞構築物を設計するため、あるいは荷重を一時的に支持しかつ組織再生用の生体内メカニズムを促進するためのいずれかに使用することができる。これらの目的に理想的な材料は、初期に高い強度を提供し、次いで徐々に分解し、機械的荷重を再生組織に移していかなければならない。典型的な外科的適用は、結合軟組織、靭帯または腱、および硬組織、例えば骨の修復である。
【0003】
組織が一時的な支持または固定を必要とするだけの場合、生体吸収性ポリマの使用が適している。材料の選択および処理条件によって、生体吸収性ポリマは、数日、数週間、または数ヶ月、それらの組織の支持特性を維持することができる。これらの材料の利点は第一に、応力が最終的に治癒組織に移るので、長期合併症の危険性が低減されることであり、第二に、回収手術の必要性が回避されることである。
【0004】
整形外科診療および研究における現在の傾向は、外科手術で用いられる最も重要な生体吸収性ポリマが、脂肪族ポリエステル(例えばポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLA)、およびそれらのコポリマ)のような合成ポリマであることを示唆している。これらのポリエステルは、加水分解によって生体内で乳酸およびグリコール酸に分解し、それらは次いでトリカルボン酸回路に取り込まれ、排泄される。これらの種類のポリマは一般的に、水が物質に浸透する速度が、(水溶性フラグメントへの)鎖切断がポリマ内で発生する速度を超えるときに、バルク侵食により分解される(Middleton,J.C.、Tipton,A.J.、Biomaterials、2335‐2346、2000)。装置内部の劣化は、自己触媒反応のため、表面より速く発生することがある。これは、ポリマの有用な強度が低下した後も長期間にわたって、装置が空間充填材として残ることを暗に示す。インプラントの表面が最終的に分解されると、自然組織の内部成長は妨げられ、低pH物質の「ラクチドバースト」(lactide‐burst)が放出される可能性があり、それは周囲の細胞に損傷を与え炎症を引き起こしかねない。
【0005】
本発明の第一の態様によれば、移植可能な基体を提供するステップと、移植可能な基体のその部分を電子ビーム照射に曝露させることによって移植可能な基体の少なくとも一部分の分子量分布を変化させるステップとを備える、段階的な分子量分布を有する生体吸収性の移植可能な基体を製造する方法が提供される。
【0006】
移植可能な基体の電子ビーム照射に曝露される部分の分子量分布は低減することが好都合である。
【0007】
移植可能な基体の表面の少なくとも一部分を電子ビーム照射に曝露させることが好ましい。移植可能な基体の表面全体または全体の分子量分布は、移植可能な基体の表面全体を電子ビーム照射に曝露させることによって変化させるのが適切である。
【0008】
移植可能な基体の少なくとも一部分に、0.1〜100秒間、適切には1〜90秒間、より適切には3〜60秒間、電子ビーム照射を曝露させることができる。
【0009】
電子ビーム照射は、0.1〜20MeV、適切には0.5〜15MeV、より適切には1〜5MeVの強度を持つことができる。1〜100kGyの総放射線量を移植可能な基体に照射することができる。一実施形態では、移植可能な基体は、一回以上の放射線投与、適切には2〜4回の放射線投与を受けることができる。各放射線量は1〜50kGyとすることができる。
【0010】
電子ビーム照射は、移植可能な基体の表面から0.1〜50mm浸透することが適切であり、電子ビーム照射は2〜20mm浸透することがさらに適切である。一実施形態では、電子ビーム照射は2〜15mm浸透する。
【0011】
移植可能な基体は、少なくとも50mm以下、適切には15mm以下、より適切には5mm以下の壁厚を有することができる。
【0012】
一実施形態では、移植可能な基体の電子ビーム照射に曝露される部分の曲げ強度が変化し、適切には低減する。
【0013】
一実施形態では、移植可能な基体の電子ビーム照射に曝露される部分の質量損失率が変化し、適切には低減する。
【0014】
電子ビーム照射への曝露は、移植可能な基体の滅菌をももたらすことが好ましい。
【0015】
本方法は、移植可能な基体を一回以上の電子ビーム照射の線量に曝露させるステップを備えることができる。各回の電子ビーム照射の線量は異なる強度とすることができる。
【0016】
各回の電子ビーム照射は、移植可能な基体に異なる深度で浸透することが適切である。分子量分布およびしたがってインプラントの生分解速度は、深度によって異なることが適切である。
【0017】
本発明の第二の態様によれば、生体吸収性の移植可能な基体の少なくとも一部分を電子ビーム照射に曝露させるステップを備える、その部分の生体吸収速度を変更する方法が提供される。
【0018】
本発明の第三の態様によれば、上述した方法のいずれかによって得られる生体吸収性の移植可能な基体を提供する。
【0019】
本発明の第四の態様によれば、厚さの少なくとも一部分にわたって段階的な分子量分布を有する生体吸収性ポリマを含む生体吸収性の移植可能な基体が提供される。
【0020】
本発明の第五の態様によれば、外面およびコアを有し、移植可能な基体の分子量分布が外面よりコアで大きく、かつコアが外面より生体吸収性が低い、生体吸収性の移植可能な基体が提供される。
【0021】
本発明の生体吸収性の移植可能な基体は、所定の速度で生体吸収可能であることが好ましい。
【0022】
本発明の移植可能な基体は、表面の厚さから移植可能な基体全体の厚さまで、その厚さの少なくとも一部分にわたって段階的な分子量分布を有する。移植可能な基体分子量分布を表面に向かって低くして、したがって生体吸収性速度を表面に向かって高くなるようにすることができる。生体吸収速度は事前に定めておき、移植可能な基体の分子量分布を変化させることによって制御することができる。したがって、本発明の移植可能な基体の初期強度および分解中の平均強度は予測可能かつ制御可能である。
【0023】
一実施形態では、移植可能な基体の外面は最初に生分解し、基体の耐荷重強度はコアから維持される。本発明の移植可能な基体はしたがって、依然として多少の構造支持を提供しながら、自然組織の内部成長を可能にする。
【0024】
好ましくは、生体吸収性の移植可能な基体の外面およびコアは同一材料から形成される。
【0025】
一般的に、生体吸収性の移植可能な基体は、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(グリコリドコトリメチレンカーボネート)(PGA‐TMC)、ポリ無水物、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリウレタンおよびコポリマのような脂肪族ポリエステルから形成することが適切である。
【0026】
基体の分子量分布は移植可能な基体の材料に依存するが、移植可能な基体の外面の分子量分布は10,000〜200,000であり、移植可能な基体のコアの分子量分布は100,000〜500,000であることが適切である。移植可能な基体の分子量分布は表面からコアへ徐々に変化することが好ましい。
【0027】
移植可能な基体の身体への吸収速度は、移植可能な基体の材料および移植可能な基体の寸法に依存する。しかし、本発明の移植可能な基体の吸収速度は、その目的に適合するように事前に定められ、制御されることが好ましい。
【0028】
好ましくは、移植可能な基体は20日〜365日以内に、さらに好ましくは60日〜120日以内に生体吸収される。
【0029】
本発明の生体吸収性の移植可能な基体は、生物活性剤および薬剤のような添加剤を含むことができる。添加剤は生体吸収性ポリマに取り込まれて、組織再生を増強するか、あるいは移植に関連する感染症を低減することができる。添加剤の遊離速度は必ずしも線形的である必要はなく、ポリマの吸収速度に依存するが、一般的に20〜175日にわたって遊離する。生物活性剤は、移植可能な基体の外面が生分解し、かつ後でコアが生分解するにつれて、制御された方法で遊離する。したがって、生物活性剤は、組織修復を増強し、および/または感染症の危険性を最小化するように、必要なときに、必要に応じて遊離することができる。
【0030】
好ましくは、移植可能な基体は、干渉スクリュー(interference screw)、スーチャーアンカ(sture anchor)、(適切に自己補強される)生体吸収性ポリマ複合材料、または組織再生および成長用の生体吸収性足場である。
【0031】
移植可能な基体は、生体内または生体外で組織を培養することができる。
【0032】
本発明の第六の態様によれば、硬組織または軟組織の疾患または損傷の修復または治療における、前述した生体吸収性の移植可能な基体の使用が提供される。
【0033】
本発明の第七の態様によれば、前述した生体吸収性の移植可能な基体を人体または動物の体内に埋め込むステップを備える、硬組織または軟組織の疾患または損傷の治療の方法が提供される。
【0034】
本発明の第八の態様によれば、前述した治療用途のための生体吸収性の移植可能な基体が提供される。
【0035】
適切には、硬組織または軟組織は結合組織、靭帯、腱、または骨であることができる。
【0036】
疾患は、骨または関節リウマチ、骨粗しょう症、炎症性、腫瘍性、外傷性、および感染性組織状態、軟骨形成不全を特徴とする症候群、軟骨損傷、骨折、靭帯裂傷、ヘルニア、滑膜炎、全身性エリテマトーデス、または創傷、特に外科手術中に被るものといった、いずれかの組織欠損または外傷とすることができる。
【0037】
生体吸収性ポリマの分解速度は、少なくとも部分的にそれらの初期分子量に依存する。初期分子量が高ければ高いほど、生体吸収時間は長くなる(他の全ての因子が類似したままである場合)。現在は、生体吸収性ポリマが基本的に同一メカニズム、つまりエステル結合の加水分解切断によって分解することがよく立証されている。この反応は自己触媒反応であり、下記の擬一次反応速度論に従う。
【数1】


ここで、
Mn=移植からの時間経過後の分子量、
n,o=初期分子量、
e=指数関数、
k=定数、
t=移植からの経過時間、
である。
【0038】
Kは、適切には1〜9×10−6−1である。ポリグリコリドの場合、Kは一般的に1.16×10−6−1である。
【0039】
したがって、ポリマの初期分子量が既知である場合、分解速度は予測することができる。時間の経過による強度の低下もまた、次の方程式を使用して、分子量から予測可能である。
【数2】


ここで、
σ=移植からの時間(t)経過後の強度、
σ=初期強度、
B=定数、
である。
【0040】
Bは、適切には1〜9×10MPa・g−1molである。ポリグリコリドの場合、Bは一般的に3×10MPa・g−1molである。
【0041】
電子ビーム照射の浸透深度は、使用される電子のエネルギおよび吸収材の密度に依存する。浸透深度は次式から予測することができる。
【数3】


d=深度(cm)、
E=電子エネルギ(MeV)、
ρ=密度(gcm−3
【0042】
PGAおよびPLLAのようなポリエステルの一般的な密度は1.0〜1.5gcm−3の範囲であり、したがって0.3〜10MeVの範囲のエネルギの場合、電子の浸透深度は約0.2mm〜40mmとなる。10MeVの電子ビーム加速器のエネルギは、様々な厚さの金属遮蔽を使用することによって低減することができる。
【0043】
本発明について、単なる例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【0044】
図1は、人体または動物の体内に埋め込まれた後、公知の移植可能な基体がその断面全体にわたって強度および質量の損失を受けることを示す。公知の移植可能な基体は厚さ全体に均等な分子量分布を有するので、公知の移植可能な基体の表面およびコアはほぼ同一速度で生体吸収される。公知の移植可能な基体が占有する空間は、公知のインプラントがほぼ完全に生体吸収されるまで減少しない。
【0045】
埋込み後、長期間にわたって、公知の移植可能な基体は、質量の損失によりフラグメント化する。そのような移植可能な基体のコアは表面より先にフラグメント化し、その結果低pH物質の「ラクチドバースト」が発生することがあり、それは周囲の細胞を損傷し、炎症を引き起こすおそれがある。
【0046】
図2は本発明に係る移植可能な基体を示し、移植可能な基体が人体または動物の体内に埋め込まれた後、どのように生物分解されるかを示す。本発明の移植可能な基体は段階的な分子量分布を有し、移植可能な基体の表面はコアより低い分子量分布を有する。
【0047】
移植可能な基体の表面は、移植可能な基体のコアより高い速度で生体吸収されるので、移植可能な基体の表面は、コアより先に強度を失い、移植可能な基体によって占有された空間は徐々に減少し、インプラントによって占有された空間内への、組織のより大きい内部成長が可能になる。
【0048】
移植可能な基体のコアはまだフラグメントである可能性があるが、移植可能な基体の表面に続いて生体吸収される。移植可能な基体によって占有される空間は、生体吸収中に徐々に減少し、組織の内部成長を促進する。
【実施例1】
【0049】
ポリ(Lラクチド)PLLAを、Collin P200Pプラテンプレスで、温度を200℃に上昇し、かつ圧力を100バールに上昇して、厚さ約0.9mmのシート状に成形した。使用したPLLAは、Boehringer Ingelheim(Ingelheim,Germany)からペレットの形で供給されたResomer(登録商標)L(バッチ番号26033)から得た。材料のゲル透過クロマトグラフィから、462,000(ポリスチレン等価分子量として表わす)の分子量および166,000(ポリスチレン等価分子量として表わす)のMn数(平均分子量)が得られた。次いで、手動操作テーブルプレスを使用して、シートから長さ約75mmのISO527‐2標準引張試料を製造した。次いで試料をオーブンにて120℃で4時間焼鈍して、被加工材料の現実的な代表例を得た。
【0050】
材料のバルク内の様々な深度におけるPLLA材に対する電子ビーム照射の影響を調査するために、PLLAと同様の材料特性を持つスペーサが必要であった。PLLA試料と同様の密度を有するアクリルのシートを選択した。試料およびアクリルシートスペーサを積み重ねて、28個の引張PLLA試料に対し、複合構造の表面から五つの異なる深度、つまり0mm、3.9mm、13.9mm、27.3mm、および42.7mmに照射した。積み重ねられた試料およびスペーサを、少なくとも50mmの壁厚のアクリルシートで取り囲んだ。これにより、放射が意図された方向からのみPLLA試料に達することを確実にした。次いで、Ebis Iotron(Didcot,Oxfordshire)で10MeV電子ビーム機を使用して、試料に照射を行なった。放射線量は、複合試料の上部表面、すなわち深度0mmのPLLA試料に、40kGyの放射線量を与えるように設定した。照射後、試料を乾燥器内に保存した。
【0051】
PLLA試料の生体外分解に使用した媒質は、リン酸二水素カリウム(KHPO)およびリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)から作製された「Sorensen」pH7.4緩衝液であった。これらの塩を1:15mol/lの比率で溶液に混合した。次いで溶液を18.2%のKHPO溶液および81.8%のNaHPO溶液の比率で混合した。この比率は、ISO 15814「Implants for surgery―Copolymers and blends based on polylactide―In Vitro degradation testing」に規定されている。PLLA材の各引張試料を、約20mlの緩衝液入りのバイアル内に入れる前に秤量した。次いでバイアルを70℃のオーブンに入れた。特定の時間間隔で各深度から5個の試料を取り出し、次いでブロット乾燥し、水取込みの測定のために秤量した。次いで、ISO 527‐2に従って、Instron Universal材料試験機を使用して試料に引張試験を行なった。試験後、試料を乾燥し、秤量して質量損失結果を得た。試験した試料にゲル透過クロマトグラフィを実行して、分解されたPLLAの分子量を決定した。結果を、電子ビーム照射に曝露されていない対照試料と比較した。
【0052】
照射試料を最高70℃の温度に一日間曝して分解の加速を誘発し、電子ビーム照射直後、および加速分解が誘発された後に、試料の曲げ強度を記録した。結果を、電子ビーム照射に曝露されていない対照試料と比較した。
【0053】
質量損失調査は、照射がポリマの吸収速度にどのように影響したかを決定するように設計された。これを評価するために、分解の加速を誘発した。4つの時間点を取り、各々で三回の繰返しを可能にするために、各断面深度用および対照用に12個の試料を準備した。各資料の重さは約0.085gであった。試料は、個々に秤量してそれらの質量を記録する前に、37℃の真空オーブンで48時間乾燥した。次いで試料を、前述の通り「Sorensen」pH7.4の緩衝液中に入れ、70℃のオーブン内で保存した。設定期間後に、各組から3個の試料をオーブンから取り出した。資料および緩衝液は、硬質無灰濾紙を使用して濾過した。次いで濾過物を脱イオン水で洗浄し、再濾過した。次いで、濾過物を含む濾紙を80℃のオーブンで少なくとも3時間乾燥した後、室温まで冷却した。次いで、乾燥濾過物を取り出して秤量した。乾燥濾過物の質量を試料の元の質量と比較することにより、質量損失率を決定した。電子ビーム照射に曝露されていない対照試料も分析した。
【0054】
曲げ強度試験の結果を図3に要約する。電子ビーム照射への曝露後に、試料の表面付近(0〜27.3mm)の曲げ強度は低下した。コア(つまり表面から42.7mm)の曲げ強度は、対照試料の曲げ強度とほぼ同一であった。これは電子ビーム照射が試料のコアまで浸透していないことを示唆している可能性がある。分解の加速を誘発した後は、全ての試料の曲げ強度が低下した。試料のコア(表面から42.7mm)の曲げ強度は、分解加速後、対照試料の曲げ強度とほぼ同一のままであった。曲げ強度の結果は、電子ビーム照射に曝露された移植可能な基体が表面から内部へと徐々に生体分解される傾向を有することを示唆している。
【0055】
分子量試験の結果を図4に要約する。電子ビーム照射に曝露されなかった対照試料も分析した。試料から二つの分子量を得た。すなわちポリスチレン等価分子量(Mw)および平均分子量(Mn)である。電子ビーム照射への曝露後、移植可能な基体の分子量(MwおよびMnの両方)は、表面から3.9〜27.3mmの深度で減少した。コア(つまり表面から42.7mm)の分子量は、対照試料の分子量とほぼ同一のままであった。これは、電子ビーム照射が試料のコアまで浸透していないことを示唆している可能性がある。表面(0mm)の分子量は、電子ビーム照射への曝露後、予想外に高かった。これは、移植可能な基体が高すぎる電子ビーム照射線量に曝露された可能性があること、およびこれが表面のポリマの多少の架橋結合を誘発し、したがって表面の分子量を増加した可能性があることを示唆している。分子量の結果は、電子ビーム照射に曝露された移植可能な基体が表面からコアへの段階的な分子量分布を有し、コアの分子量が最大であることを示唆している。電子ビーム照射に曝露された移植可能な基体は、表面から内側に向かって徐々に生分解する傾向を有し、移植可能な基体によって占有される空間を徐々に低減する。しかし、高すぎる電子ビーム照射の線量を使用すると、表面で基体ポリマの架橋結合が誘発され、表面の比較的高い分子量を導く可能性がある。この作用は、使用する電子ビーム照射の線量を低減することによって回避することができる。
【0056】
図5は質量損失試験の結果を要約する。電子ビーム照射への曝露後、表面付近(0〜27.3mm)の質量損失率は、対照試料に比較して増加した。表面の質量損失率は、わずかに深さがある場合の質量損失率より低かった。これは、電子ビーム照射の線量が高く、表面にある程度の架橋結合を誘発したことを示唆している可能性がある。これはまた、分子量分析によっても示唆された。コア(42.7mm)の質量損失率は対照試料の質量損失率とほぼ同一であり、これは、電子ビーム照射が試料のコアに浸透しなかったことを示唆している可能性がある。質量損失の結果は、電子ビーム照射に曝露された移植可能な基体が表面から内側に向かって徐々に生分解する傾向を有することを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】当業界で公知の移植可能な基体の生体吸収作用を示す図であり、斜線の網掛けは基体の分解速度および分子量を表わし、幅が広くなった斜線の網掛けは分解速度の増加および分子量の低下を表わし、水平の網掛けは基体のフラグメント化を表わす。
【図2】本発明に係る移植可能な基体の生体吸収作用を示す図であり、斜線の網掛けは基体の分解速度および分子量を表わし、幅が広くなった斜線の網掛けは分解速度の増加および分子量の低下を表わし、水平の網掛けは基体のフラグメント化を表わす。
【図3】実施例1の方法に従って形成された移植可能な基体について、電子ビーム照射に曝露した直後(0日目)および分解の加速を誘発する状態に1日間曝露した後(1日目)の移植可能な基体の表面から様々な深度における曲げ強度を示す図である。
【図4】実施例1の方法に従って形成された移植可能な基体の表面から様々な深度におけるポリスチレン等価分子量(Mw)および平均分子量(Mn)を示す図である。
【図5】実施例1の方法に従って形成された移植可能な基体の、分解の加速を誘発する状態に12日間曝露した後の、表面から様々な深度における質量損失率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段階的な分子量分布を有する生体吸収性の移植可能な基体を製造する方法であって、
移植可能な基体を提供するステップと、
前記移植可能な基体の少なくとも一部分を電子ビーム照射に曝露させることによって前記移植可能な基体の前記部分の分子量分布を変化させるステップと、
を備える方法。
【請求項2】
前記移植可能な基体の表面全体を電子ビーム照射に曝露させることによって、前記移植可能な基体の前記表面全体の分子量分布を変化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移植可能な基体が、0.1〜10MeVの強度を有する0.1〜100秒間の電子ビーム照射の線量に1回以上曝露され、前記電子ビーム照射が前記移植可能な基体の表面から0.1〜40mm浸透する、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記移植可能な基体が1回以上の電子ビーム照射の線量に曝露され、各回の電子ビーム照射の線量が異なる強度である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
各回の電子ビーム照射の線量が前記移植可能な基体に異なる深度まで浸透する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生体吸収性の移植可能な基体の少なくとも一部分の生体吸収速度を変更する方法であって、前記部分を電子ビーム照射に曝露させるステップを備える方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって得られる生体吸収性の移植可能な基体。
【請求項8】
厚さの少なくとも一部分にわたって段階的な分子量分布を有する生体吸収性ポリマを含む生体吸収性の移植可能な基体。
【請求項9】
インプラントの前記生体吸収速度が所定である、請求項7または8のいずれか一項に記載の基体。
【請求項10】
前記移植可能な基体の厚さ全体にわたって段階的な分子量分布を有する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の基体。
【請求項11】
外面およびコアを有し、前記移植可能な基体の分子量分布が外面よりコアで大きく、かつコアの生体吸収速度が外面の生体吸収速度より低い、請求項7〜10のいずれか一項に記載の基体。
【請求項12】
前記生体吸収性の移植可能な基体の外面およびコアが同一材料から形成される、請求項11に記載の基体。
【請求項13】
ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(グリコリドコトリメチレンカーボネート)(PGA‐TMC)、ポリ無水物、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリウレタン、それらのコポリマ、またはそれらの組合せから形成される、請求項7〜12のいずれか一項に記載の基体。
【請求項14】
干渉スクリュー、スーチャーアンカ、生体吸収性ポリマ複合材料、または組織再生および成長用の生体吸収性足場の形態を取る、請求項7〜13のいずれか一項に記載の基体。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか一項に記載の基体を人体または動物の体内に埋め込むステップを備える、硬組織または軟組織の疾患または損傷の治療の方法。
【請求項16】
前記疾患が、骨または関節リウマチ、骨粗しょう症、炎症性、腫瘍性、外傷性、または感染性組織状態、軟骨形成不全を特徴とする症候群、軟骨損傷、骨折、靭帯裂傷、ヘルニア、滑膜炎、全身性エリテマトーデス、または外科手術中に被る創傷である、請求項15に記載の治療の方法。
【請求項17】
請求項7〜15のいずれか一項に記載の治療用途のための基体。
【請求項18】
人体または動物体の硬組織または軟組織の疾患または損傷の修復または治療用の医薬品の製造における、請求項7〜14のいずれか一項に記載の基体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−521902(P2007−521902A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552684(P2006−552684)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000471
【国際公開番号】WO2005/077431
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(504389636)ザ クイーンズ ユニヴァーシティ オブ ベルファスト (14)
【Fターム(参考)】