説明

生体情報入力用トランスデューサ、生体情報発信装置、生体情報監視装置及び生体情報監視システム

【課題】災害現場や辺鄙な作業現場等の通信インフラ環境の整わない場所においても、被災者や前線の作業員等の各種生体情報を取得して常時監視することのできる生体情報監視システムを提供する。
【解決手段】生体情報監視システム1は、使用者Xが所持する生体情報発信装置11及びアナログ無線装置51Aと、監視者Yが操作する生体情報監視装置31及びアナログ無線装置51Bとを備えており、生体情報発信装置11とアナログ無線装置51Aとの間は近距離無線通信61Aにより、アナログ無線装置51Bと生体情報監視装置31との間は近距離無線通信61Bにより、及びアナログ無線装置51Aと31Bとの間はアナログ無線通信62により、それぞれ相互に通信可能に接続されている。生体情報発信装置11は、使用者の外耳に装着して使用されるイヤホン型の送受話機能を備えた生体情報入力用トランスデューサ100と、音声の送受信及び生体情報の送信を行う制御装置200とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体情報入力用トランスデューサ、及びこれを利用した生体情報発信装置、生体情報監視装置及び生体情報監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の飛躍的な進歩により、生命活動を示す生体情報の各種測定機器が開発されている。例えば、大規模災害や大型旅客機事故あるいはバイオハザード等の現場では、測定機器を使用するための十分なスペースを確保することができない場合が多く、測定機器の小型化が切望されていた。また、そのような現場では、消防士や救命救急士あるいは自衛隊員等の救命救急要員、医師や看護師等の医療従事者、その他の救護担当者等の現場要員が不足している場合が多く、測定機器の操作手順の簡易化や測定時間の短縮化が待望されていた。そのような利用者側の要望を叶えるべく開発された測定機器としては、例えば、挿耳型生体信号測定装置が挙げられる(特許文献1参照)。この装置は、様々な生体情報を測定できるモジュールを含み、耳穴に挿入できるように構成されたものである。このような構成とすることで、単一の生体情報測定装置で複数の生体情報を同時に測定することができる。
【0003】
一方、上記のような過酷な環境と高度な危険を伴う現場で救護活動等を行う場合には、現場要員に対する伝達や現場状況の報告等を行うために無線通信装置が利用されている。このような既存の無線通信装置を現場に設置することによって、例え現地の通信ネットワーク環境が壊滅的な状況下に置かれたとしても、現場要員と後方の病院等指揮所や指令所等の本部との間で連絡を取り合うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−54650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公衆網やコンピュータネットワーク等の通信ネットワーク環境が利用できない現場では、測定した各生体情報を無線機を用いて直接本部に送ることができないので、現場の患者の容体や現場要員の健康状態等を本部の監視者との会話により伝えるしかできないという問題があった。また、過酷な環境下で現場要員が個々の患者に対応しなければならないので、一人に多くの救護や治療等の時間を割くことができず、多数の現場要員がいない場合には、他の被災者の救護や患者の治療中に重篤患者等の容体の急変を見逃す可能性があった。また、患者等を現場から受け入れ先の医療機関等へ搬送する場合に、特に重篤患者は容体が急変する可能性があるところ、受け入れ先がリアルタイムで患者の容体を知ることができず、緊急時の治療方針を立てたり、その準備を行うことができないという問題があった。また、患者の数が多い場合に、それらの生体情報を本部で集中管理することができないので、混乱した現場で情報が錯綜する可能性もあり、得られた情報に基づいて正しい治療等を行うことができない可能性があった。さらに、精神的にも肉体的にも相当疲労がたまっている現場要員が例え判断ミスをしたとしても、現場要員の健康状態をリアルタイムで知ることができない本部では、それを把握することができず、現場要員に退避令やローテーションの組み替え等の指示を出したりするタイミングを逃し、被災者等だけでなく現場要員の安全性を確保できないという問題があった。
【0006】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、災害現場や辺鄙な作業現場等の通信インフラ環境の整わない場所においても、被災者や前線の作業員等の各種生体情報を取得して常時監視することのできる生体情報監視システムを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、小型で軽量かつ簡便に装着でき、作業員の機動性や作業性を低下させたり被災者等に身体的な負担をかけることなく各種生体情報を送信することのできる生体情報監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
(1)すなわち、本発明は、生体情報を生体データに変換して入力する生体情報入力手段を備え、外耳に装着して使用されるイヤホン型の生体情報入力用トランスデューサである。
【0010】
(2)本発明はまた、インナーイヤー型又はカナル型である、(1)に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0011】
(3)本発明はまた、前記生体情報は、血圧、心拍数、呼吸数、血中酸素濃度又は体温である、(1)又は(2)に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0012】
(4)前記生体情報入力手段は、外耳道の内圧の変化を検出することにより心拍圧データを取得する心拍圧センサである、(1)〜(3)の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0013】
(5)本発明はまた、前記生体情報入力手段は、外耳道の音響振動の変化を検出することにより呼吸音データを取得する呼吸音センサである、(1)〜(4)の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0014】
(6)本発明はまた、前記生体情報入力手段は、赤外線を照射しその透過度を検出することにより酸素飽和度データを取得する血中酸素濃度センサである、(1)〜(5)の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0015】
(7)本発明はまた、前記生体情報入力手段は、鼓膜から放出された赤外線を検出することにより体温データを取得する体温センサである、(1)〜(6)の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0016】
(8)本発明はまた、音声を音声データに変換して入力する音声入力手段と、音声データを音声に変換して出力する音声出力手段と、を更に有することを特徴とする、(1)〜(7)の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサである。
【0017】
(9)また、本発明は、(8)に記載の生体情報入力用トランスデューサと、前記音声入力手段により取得した音声データと前記生体情報入力手段により検出した生体データを送信する送信手段と、音声データを受信する受信手段と、を有することを特徴とする、生体情報発信装置である。
【0018】
(10)本発明はまた、前記送信手段は、前記音声入力手段により取得した音声データと前記生体情報入力手段により検出した生体データとを多重化して送信することを特徴とする、(9)に記載の生体情報発信装置である。
【0019】
(11)本発明はまた、生体データを受信する生体データ受信手段と、前記生体データ受信手段により受信した生体データの異常を監視する生体データ監視手段と、を有することを特徴とする、生体情報監視装置である。
【0020】
(12)本発明はまた、前記生体データ受信手段により受信した生体データを記憶する生体データ記憶手段を更に有し、前記生体データ監視手段は、前記生体データ受信手段により受信した生体データを前記生体データ記憶手段により記憶した生体データと比較することにより生体データの異常を判断することを特徴とする、(11)に記載の生体情報監視装置である。
【0021】
(13)本発明はまた、前記生体データ監視手段は、前記生体データ受信手段により受信した生体データを予め設定された閾値と比較することにより生体データの異常を判断することを特徴とする、(11)に記載の生体情報監視装置である。
【0022】
(14)本発明はまた、前記生体データ受信手段により受信した生体データを表示する表示手段を更に有し、前記表示手段は、前記生体データ監視手段が生体データの異常を検知した場合にその旨の警告を表示することを特徴とする、(11)〜(13)のいずれか1項に記載の生体情報監視装置である。
【0023】
(15)本発明はまた、音声を音声データに変換して入力する音声入力手段と、前記音声入力手段により取得した音声データを送信する音声データ送信手段と、音声データを受信する音声データ受信手段と、前記音声データ受信手段により受信した音声データを音声に変換して出力する音声出力手段と、をさらに有することを特徴とする、(11)〜(14)のいずれか1項に記載の生体情報監視装置である。
【0024】
(15)更に、本発明は、(9)又は(10)に記載の生体情報発信装置と、(11)〜(15)のいずれか1項に記載の生体情報監視装置と、が互いに通信可能に接続されてなる、生体情報監視システムである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の生体情報入力用トランスデューサ及び生体情報発信装置によれば、音声だけでなく外耳から取得した本装置の使用者の各種生体情報を電波に乗せて送信することができるので、災害現場や辺鄙な作業現場等の通信インフラ環境の整わない場所においても、前線で作業等に当たっている本装置の使用者の各種生体情報を後方の指令本部等において取得して常時監視し、救助や危険作業に従事する前線要員の健康状態や身に迫る危険を事前に察知して的確な指示を伝達したり、重篤な被災者の容態等を前もって把握して迅速な救護活動を展開したりすることができる。
【0026】
また、本装置の使用者の各種生体情報から、自動的に監視者や使用者に警告を発信したり、被災者等を現場から受け入れ先の医療機関等へ搬送する場合であっても、被災者等の容態を自動的に受け入れ先に送信することができ、受け入れ先がリアルタイムで患者の容体を知ることができ、緊急時の治療方針を立てたり、その準備をスムーズに行うことができる。また、多数の患者がいる場合でも、それらの生体情報を本部で集中管理することができるので、得られた正しい情報に基づいて正しい治療等を行うことができる。また、患者の他にも現場要員の健康状態を本部で常にチェックすることにより、疲労がたまった現場要員に対してローテーションの変更を指示したり、作業環境が急激に悪化した場合であっても、送信された現場要員等の生体情報に基づいて退避令等の指示を出したりすることができる。これにより、被災者等だけでなく現場要員の安全性を確保することができる。
【0027】
本発明の生体情報入力用トランスデューサ及び生体情報発信装置によれば、外耳にトランスデューサを装着し、上着のポケット等に生体情報発信装置を携帯するだけで装着可能な小型で軽量な構造であるので、作業員の機動性や作業性を低下させたりむやみに体力を奪ったりすることがなく、また重篤な被災者等にも身体的な負担をかけることがない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態にかかる生体情報監視システム1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】生体情報発信装置11の全体構成を示すブロック図である。
【図3】生体情報監視装置31の全体構成を示すブロック図である。
【図4】生体情報発信装置11の送話及び生体情報送信処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】生体情報発信装置11の多重化変調処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】生体情報監視装置31の受話及び生体情報受信処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】生体情報監視装置31の送話処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】生体情報発信装置11の受話処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態にかかる生体情報監視システム2の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態にかかる生体情報監視システム1の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態にかかる生体情報監視システム1は、使用者Xが所持する生体情報発信装置11及びアナログ無線装置51Aと、監視者Yが操作する生体情報監視装置31及びアナログ無線装置51Bとを備えており、生体情報発信装置11とアナログ無線装置51Aとの間は近距離無線通信61Aにより、アナログ無線装置51Bと生体情報監視装置31との間は近距離無線通信61Bにより、及びアナログ無線装置51Aと31Bとの間はアナログ無線通信62により、それぞれ相互に通信可能に接続されている。なお、生体情報監視システム1に接続される生体情報発信装置、生体情報監視装置及びアナログ無線装置の台数は図1に示す例に限定されず、またこれら以外の機器が接続されていてもよい。
【0031】
次に、上記各機器の構成について説明するが、上記各機器は後述する構成要素以外の構成要素を含んでいてもよく、あるいは、後述する構成要素のうちの一部が含まれていなくてもよい。また、各機器で同様の機能を有する部分については、説明の重複を避けるため初回のみその説明を行い、2回目以降はその説明を省略する。
【0032】
図2は、生体情報発信装置11の全体構成を示すブロック図である。図2に示すように、生体情報発信装置11は、トランスデューサ100と制御装置200とを備えており、これらは信号をやり取りするための通信線を介して接続されている。
【0033】
トランスデューサ100は、使用者の外耳に装着して使用されるイヤホン型の送受話機能を備えた生体情報入力用トランスデューサであり、音声入力部110、音声出力部120及び生体情報入力部130を備えている。トランスデューサ100は、外耳道の入口付近に係止させて装着するインナーイヤー型であっても良いし、外耳道の中程まで挿入して装着するカナル型であっても良い。
【0034】
音声入力部110はマイクロフォン(振動トランスデューサ)であり、使用者Xの声帯で発生し耳管及び骨伝導により伝達された音声をアナログ信号の音声データ(送話)に変換して制御装置200に入力する。また、音声出力部120はスピーカ(振動トランスデューサ)であり、制御装置200から出力されたアナログ信号の音声データ(受話)を音声に変換して耳道及び骨伝導により使用者Xの鼓膜に伝達させる。なお、音声入力部110と音声出力部120とは、それぞれ別々の振動トランスデューサで構成されても良いが、これらを1枚の振動板を利用した可逆的振動トランスデューサで構成しても構わない。
【0035】
生体情報入力部130は生体情報センサであり、使用者の各種生体情報を検出しアナログ信号の生体データとして制御装置200に入力する。生体情報入力部130を構成する生体情報センサとしては、心拍圧センサ、呼吸音センサ、血中酸素濃度センサ、体温センサ等が挙げられ、それぞれ生体情報として、血圧及び心拍数、呼吸数、血中酸素濃度(SpO)、体温等を取得することができる。
【0036】
心拍圧センサ及び呼吸音センサは何れもマイクロフォン(振動トランスデューサ)で構成され、トランスデューサ100で密閉された使用者の外耳道から、前者は鼓膜及び外耳道壁から発生する微小な圧力変化を測定することにより耳の周辺の血管から発生する心拍圧の変化を検出し、後者は微小な音響振動の変化を測定することにより耳管を通じて呼吸音(呼吸に伴う雑音)を取得する。心拍圧は2〜20Hz程度の範囲の心拍圧力信号として、呼吸音は0.2〜2Hz程度の範囲のノイズ信号として、それぞれ外耳道で検出することが可能である。なお、生体情報入力130の心拍圧センサ、呼吸音センサ及び音声入力部110は、それぞれ別々の振動トランスデューサで構成されても良いが、心拍圧、呼吸音及び音声の3つの生体情報は周波数帯域が異なりフィルタ処理によってアナログ的に分離可能であるので、これらの一部又は全部を同じ振動トランスデューサで構成するようにしても良い。
【0037】
血中酸素濃度センサはパルスオキシメータ等で構成され、血管に赤色光及び赤外光を照射する発光部と、血管を透過した光量を測定するための受光部とからなる。血液中のヘモグロビンは酸素との結合の有無により赤色光と赤外光の吸収程度が異なるので、パルスオキシメータにより赤色光と赤外光を照射し血管を透過した光量を測定することにより、血中酸素濃度(SpO)を測定することができる。なお、血中酸素濃度センサの測定部位としては、耳介の毛細血管が好適であり、この場合、血中酸素濃度センサを、トランスデューサ100のイヤホン型筐体から突出あるいは分離させて、クリップ構造等により耳介の一部(例えば、耳珠、対耳珠、耳垂等)を狭掴した状態で固定可能なように構成しても良い。
【0038】
体温センサは接触式又は非接触式の温度センサで構成され、前者はサーミスタ等を利用して外耳道の温度を測定し、後者は鼓膜等から放射される赤外線等の強度を測定する。
【0039】
制御装置200は、アナログ信号処理部210、音声データ処理部220、生体データ処理部230、多重化変復調処理部240、近距離無線処理部250、アンテナ260等から構成される。
【0040】
アナログ信号処理部210は、トランスデューサ100から入力された音声データ及び生体データを含むアナログ信号を増幅する機能、及び音声データ処理部220からの音声データをトランスデューサ100に出力する機能、トランスデューサ100の各部を制御する機能等を有している。
【0041】
音声データ処理部220は、アナログ信号処理部210からのアナログ信号をフィルタ処理し、音声データを分離・増幅する機能、及び多重化変復調処理部240からの復調信号から音声データを分離・増幅する機能等を有している。
【0042】
生体データ処理部230は、アナログ信号処理部210からのアナログ信号をフィルタ処理し、各生体データを分離・増幅する機能等を有している。
【0043】
多重化変復調処理部240は、音声データ処理部220からの音声データと生体データ処理部230からの生体データを多重化復調する機能や近距離無線処理部250により受信した音声データを復調する機能等を有している。
【0044】
近距離無線処理部250は、多重化変復調処理部240により多重化復調された多重化データを、アンテナ260から近距離無線41を介して送信する機能、及びアンテナ260から電波としてアナログ無線装置51Aへ飛ばし、さらにアナログ無線装置51Aから近距離無線41を介して音声データを受信する機能等を有している。
【0045】
このような構成とすることで、多機能であっても外耳内に収めることができる、密閉性の高い軽量小型のトランスデューサ100を提供することができる。また、このトランスデューサ100は、送受話と共に生体情報の取得も可能であるため、生体情報を取得するための特別な装置を別途用意する必要がない。さらに、従来の生体情報を取得するためのセンサのように、装着及び脱着を繰り返すこともなく、また、軽量であるので、本発明を過酷な条件下で長時間装着しても使用者の身体的な負担を大幅に軽減することができる。
【0046】
図3は、生体情報監視装置31の全体構成を示すブロック図である。図3に示すように、生体情報監視装置31は、アンテナ310、近距離無線通信処理部320、多重化変復調処理部330、音声データ処理部340、音声入力部350、音声出力部360、生体データ処理部370、生体データ記憶部380、生体データ監視部390、表示部400等を備えている。
【0047】
次に、本実施形態にかかる生体情報監視システム1の作動の概要について説明する。
【0048】
図4は、本実施形態における生体情報発信装置11の送話及び生体情報発信処理の手順を示すフローチャートである。図4において、生体情報発信装置11は、まず、ステップS110において、トランスデューサ100の生体情報入力部130により各生体データを入力する。次いで、ステップS120において、送話命令がある場合は(S110のYES)、ステップ130に進んでトランスデューサ100の音声入力部110により音声データ(送話)を入力する。送話命令の入力は、生体情報発信装置11の制御装置200に備わったPTTスイッチ(図示せず)等を使用者Xが操作することにより行われる。但し、PTTスイッチによらずに、音声入力部110のマイクロフォンで音声を感知して自動的に送受信を切り替えるVOX機構(Voice Operated Relay)等を利用しても良い。ステップS120において、送話命令がない場合は(S120のNO)、ステップS130の音声データ入力処理は省略される。
【0049】
次に、ステップS140に進んで、制御装置200のアナログ信号処理部210により、ステップS110及びS130で得られた生体データ及び音声データを含むアナログ信号に対して、増幅、ノイズ除去等の各種アナログ信号処理を施す。
【0050】
更に、ステップS150において、制御装置200の音声データ処理部220及び生体データ処理部230により、ステップS140で得られたアナログ信号に対してフィルタ処理を施して音声データ及び各生体データをそれぞれ分離して増幅する。
【0051】
そして、ステップS160に進んで、ステップS150で得られた音声データ及び各生体データに対して、制御装置200の多重化変復調処理部240により多重化変調処理を行う。災害現場や作業現場等において、被害者や作業者等から得られる生体情報を無線通信手段を使用してテレメトリを行おうとする場合、新たなテレメトリセンシングネットワークを構築することは現実的ではなく、既存の無線通信手段を活用できる技術が重要となる。特に、災害現場等で使用される無線通信は、基本的には音声通話を主としたトランシーバ等が主流であり、従って、これらの音声通話帯域に限定されるアナログ無線通信を利用して、被災者等から得られる生体情報を伝送する方式が求められる。しかし、一般的なアナログ音声無線通信の場合、送受信可能な周波数帯域は、100Hzから3kHz程度であり、かつ実用的な通信でのS/N比は20dB程度であるので、トランスデューサ100で取得した各生体データをそのまま無線伝送することはできない。そこで、ステップS170では、ステップS160で得られた各生体データをアナログ音声無線通信を利用して音声データと同時転送するため、各生体データを音声符号化して多重化する多重化変調処理を行うものである。
【0052】
図5は、本実施形態における生体情報発信装置11の多重化変調処理の手順を示すフローチャートである。図5において、生体情報発信装置11は、まず、ステップS162においてステップS150で得られた各生体データを符号化し、次いで、ステップS164においてデータのパケット化を行い、更にステップS166において制御データ等を付加する。すなわち、ステップS150で得られた各生体データを符号化して多重化するとともに、無線区間の通信は常に行われているわけではないため、生体情報の定期的な取得や、使用者が重篤な状態になった場合のアラート発信等、無線通信区間上に転送される情報を制御するための制御情報やデータ転送上の誤りを検出するための冗長符号の転送を行う必要があり、これらの機能を実現するために、データ構造のパケット化を行うとともに、プロトコル制御を行うためのヘッダ制御部を追加する。パケットサイズについては、一度に転送するデータ量が大きければ、大量の情報を転送できる反面、無線区間の安定性が悪ければ一度に大量のデータを失う可能性があるため、通信占有時間と無線区間の安定性を考慮して適宜決定される。
【0053】
なお、生体データとして、例えば、心拍圧、呼吸音、及びSpO2を転送し、無線区間のデータフロー制御を行うための制御情報も同時に転送する場合、心拍圧信号は、信号周波数帯域が2〜20Hz程度であるので、サンプル周波数を40Hz程度、ダイナミックレンジを8bit程度とすると、320bps程度の通信レートが必要であり、呼吸音信号は、信号周波数帯域が0.2〜2Hz程度であるので、サンプル周波数を4Hz程度、ダイナミックレンジを7bit程度とすると、28bps程度の通信レートが必要となる。一方、SpO信号の生データは心拍拍動を伴った信号であるが、酸素飽和度(%)に換算し直すことができ、また、血中酸素濃度の変化量の測定は10秒単位なので呼吸信号や心拍圧信号などのようにアナログ的な波形を転送する必要はなく、転送されるデータパケット単位で16bit程度の情報を転送すればよい。従って、プロトコル上において、検出するための冗長符号をリードソロモン方式などの誤り修正が可能な方式を採用した場合のパケット化のときに制御信号多重化のオーバーヘッドの冗長度を100%程度として、(28bps+320bps)×2≒700bps以上の最大通信レートがあれば、必要とされる生体情報、制御情報、誤り訂正情報等の転送を行うことができる。
【0054】
次に、生体情報発信装置11は、ステップS168において、多重化されたデジタルデータをモデム(Modem)符号化して音声帯域信号に変換する。即ち、多重化されたデジタルデータを音声帯域信号に変換するためには、音声帯域上でのモデム符号化を使用することが必要となる。モデム符号化では、制限された周波数領域における標準搬送波に対する位相と振幅を用いた変調方式を使用するのが一般的であり、例えば、搬送波に対して、直交するIQ軸上に複数のサンプルポイントを設定したQ−AM符号変調方式等を利用することにより、想定する無線区間で安定したデジタルデータ転送を行うことができる。
【0055】
生体情報発信装置11は、ステップS168においてモデム符号化による音声帯域変換処理を終了したら、多重化変調処理を終了して図4に戻り、ステップS170において、制御装置200の近距離無線処理部250により、ステップS160で得られた音声データと生体データの多重化データを近距離無線通信61Aを介してアナログ無線装置51Aに送信する。
【0056】
そして、生体情報発信装置11は、終了命令があるまでステップS110〜S170の手順を繰り返し(S180のNO)、使用者による終了命令の入力があると(S180のYES)、送話及び生体情報発信処理を終了する。
【0057】
図6は、本実施形態における生体情報監視装置31の受話及び生体情報受信処理の手順を示すフローチャートである。図6において、生体情報監視装置31は、まず、ステップS210において、アナログ無線装置51Bから多重化データを受信するまで待機する(S210のNO)。アナログ無線装置51Bは、アナログ無線装置51Aからアナログ無線通信62を介して多重化データを受信すると、近距離無線通信61Bを介して生体情報監視装置31に多重化データを転送する。生体情報監視装置31は、近距離無線処理部320により、アナログ無線装置51Bから近距離無線通信61Bを介して多重化データを受信すると(S210のYES)、ステップS220に進んで、多重化変復調処理部330により、ステップS210で受信した多重化データを復調処理する。
【0058】
次いで、ステップS230において、音声データ処理部340によりステップ210で得られた復調信号から音声データを分離・増幅し、ステップS240において、音声出力部360により音声データを音声に変換して出力する。
【0059】
また、ステップS250において、生体データ処理部370によりステップ210で得られた復調信号から各生体データを分離・増幅し、ステップS260において、生体データ記憶部380により生体データを記録する。さらに、ステップ270において、生体データ監視部390により、受信した各生体データを予め生体データ毎に設定された閾値と比較して生体データが異常であるか否かを判断し、受信した生体データが異常である場合は(S270のYES)、ステップS280に進んで、表示部400により、異常と判断した生体データの種別及び当該生体データが異常である旨を表示する。なお、ステップS230〜S240とステップS250〜S280の手順は、いずれの順序で処理されるものであっても構わない。
【0060】
そして、生体情報監視装置31は、終了命令があるまでステップS210〜S280の手順を繰り返し(S290のNO)、監視者による終了命令の入力があると(S290のYES)、受話及び生体情報受信処理を終了する。
【0061】
図7は、本実施形態における生体情報監視装置31の送話処理の手順を示すフローチャートである。図7において、生体情報監視装置31は、まず、ステップS310において、送話命令があるまで待機し(S310のNO)、監視者により送話命令の入力があると(S310のNO)、ステップ320に進んで音声入力部350により音声データ(送話)を入力する。
【0062】
次に、ステップS330に進んで、音声データ処理部340により、ステップS320で得られた音声データを増幅し、更にステップSにおいて、音声データを変調し、ステップS350で、近距離無線処理部320により、ステップS340で変調した音声データを近距離無線通信61Bを介してアナログ無線装置51Bに送信する。
【0063】
そして、生体情報監視装置31は、終了命令があるまでステップS310〜S350の手順を繰り返し(S360のNO)、監視者による終了命令の入力があると(S360のYES)、送話処理を終了する。
【0064】
図8は、本実施形態における生体情報発信装置11の受話処理の手順を示すフローチャートである。図8において、生体情報発信装置11は、まず、ステップS410において、アナログ無線装置51Aから音声データを受信するまで待機する(S410のNO)。アナログ無線装置51Aは、アナログ無線装置51Bからアナログ無線通信62を介して音声データを受信すると、近距離無線通信61Aを介して生体情報発信装置11に音声データを転送する。生体情報発信装置11は、制御装置200の近距離無線処理部250により、アナログ無線装置51Aから近距離無線通信61Aを介して音声データを受信すると(S410のYES)、ステップS420に進んで、制御装置200の多重化変復調処理部240により、ステップS410で受信した音声データを復調し、次いで、ステップS440において、制御装置200の音声データ処理部220によりステップ430で復調された音声データを増幅し、更に、ステップS440において、トランスデューサ100の音声出力部110により音声データを音声に変換して出力する。
【0065】
そして、生体情報発信装置11は、終了命令があるまでステップS410〜S440の手順を繰り返し(S450のNO)、使用者による終了命令の入力があると(S450のYES)、受話処理を終了する。
【0066】
このように、生体情報監視システム1によれば、生体情報発信装置11により音声だけでなく外耳から取得した本装置の使用者の各種生体情報を電波に乗せて生体情報監視装置31に送信することができるので、災害現場や辺鄙な作業現場等の通信インフラ環境の整わない場所においても、前線で作業等に当たっている使用者Xの各種生体情報を後方の指令本部等における監視者Yが取得して常時監視することができ、救助や危険作業に従事する前線要員の健康状態や身に迫る危険を事前に察知して的確な指示を伝達したり、重篤な被災者の容態等を前もって把握して迅速な救護活動を展開したりすることができる。
【0067】
図9は、本発明の他の実施形態にかかる生体情報監視システム2の全体構成を示すブロック図である。図9に示すように、本実施形態にかかる生体情報監視システム2は、使用者Xが所持する生体情報発信装置12と、監視者Yが操作する生体情報監視装置32とが、近距離無線通信63、使用者Xが所持する携帯電話52、携帯電話通信網64、インターネット(WAN)65及び監視者Yが待機する監視センター等の施設内のイントラネット(LAN)66を介して接続されている。このように、本発明の生体情報監視システムは、災害現場等の限られた環境で利用される以外にも、インターネット等の広域通信ネットワーク網を利用することにより、例えば、老人性痴ほう症等の患者の徘徊の監視や、入院を要せずに日常生活を送っているが特定の疾患を有する患者等の健康状態の監視等、使用者の生体情報を遠隔地から監視する場合にも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上述したように、本発明の生体情報監視システムは、被災者や前線の作業員等の各種生体情報を取得して常時監視することができ、また、小型で軽量かつ簡便に装着でき、作業員の機動性や作業性を低下させたり被災者等に身体的な負担をかけることがないので、災害現場や辺鄙な作業現場等の通信インフラ環境の整わない場所等における生体情報監視システムとして利用した場合極めて有用である。
【符号の説明】
【0069】
1,2・・・生体情報監視システム
11,12・・・生体情報発信装置
100・・・トランスデューサ
110,350・・・音声入力部
120,360・・・音声出力部
130・・・生体情報入力部
200・・・制御装置
210・・・アナログ信号処理部
220,340・・・音声データ処理部
230,370・・・生体データ処理部
240,330・・・多重化変復調処理部
250,320・・・近距離無線処理部
260,310・・・アンテナ
31,32・・・生体情報監視装置
380・・・生体データ記憶部
390・・・生体データ監視部
400・・・表示部
51A,51B・・・アナログ無線装置
52・・・携帯電話
61A,61B,63・・・近距離無線通信
62・・・アナログ無線通信
64・・・携帯電話通信網
65・・・インターネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報を生体データに変換して入力する生体情報入力手段を備え、外耳に装着して使用されるイヤホン型の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項2】
インナーイヤー型又はカナル型である、請求項1に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項3】
前記生体情報は、血圧、心拍数、呼吸数、血中酸素濃度又は体温である、請求項1又は2に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項4】
前記生体情報入力手段は、外耳道の内圧の変化を検出することにより心拍圧データを取得する心拍圧センサである、請求項1〜3の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項5】
前記生体情報入力手段は、外耳道の音響振動の変化を検出することにより呼吸音データを取得する呼吸音センサである、請求項1〜4の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項6】
前記生体情報入力手段は、赤外線を照射しその透過度を検出することにより酸素飽和度データを取得する血中酸素濃度センサである、請求項1〜5の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項7】
前記生体情報入力手段は、鼓膜から放出された赤外線を検出することにより体温データを取得する体温センサである、請求項1〜6の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項8】
音声を音声データに変換して入力する音声入力手段と、
音声データを音声に変換して出力する音声出力手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の生体情報入力用トランスデューサ。
【請求項9】
請求項8に記載の生体情報入力用トランスデューサと、
前記音声入力手段により取得した音声データと前記生体情報入力手段により検出した生体データを送信する送信手段と、
音声データを受信する受信手段と、
を有することを特徴とする、生体情報発信装置。
【請求項10】
前記送信手段は、前記音声入力手段により取得した音声データと前記生体情報入力手段により検出した生体データとを多重化して送信することを特徴とする、
請求項9に記載の生体情報発信装置。
【請求項11】
生体データを受信する生体データ受信手段と、
前記生体データ受信手段により受信した生体データの異常を監視する生体データ監視手段と、
を有することを特徴とする、生体情報監視装置。
【請求項12】
前記生体データ受信手段により受信した生体データを記憶する生体データ記憶手段を更に有し、
前記生体データ監視手段は、前記生体データ受信手段により受信した生体データを前記生体データ記憶手段により記憶した生体データと比較することにより生体データの異常を判断することを特徴とする、
請求項11に記載の生体情報監視装置。
【請求項13】
前記生体データ監視手段は、前記生体データ受信手段により受信した生体データを予め設定された閾値と比較することにより生体データの異常を判断することを特徴とする、
請求項11に記載の生体情報監視装置。
【請求項14】
前記生体データ受信手段により受信した生体データを表示する表示手段を更に有し、
前記表示手段は、前記生体データ監視手段が生体データの異常を検知した場合にその旨の警告を表示することを特徴とする、
請求項11〜13のいずれか1項に記載の生体情報監視装置。
【請求項15】
音声を音声データに変換して入力する音声入力手段と、
前記音声入力手段により取得した音声データを送信する音声データ送信手段と、
音声データを受信する音声データ受信手段と、
前記音声データ受信手段により受信した音声データを音声に変換して出力する音声出力手段と、
をさらに有することを特徴とする、
請求項11〜14のいずれか1項に記載の生体情報監視装置。
【請求項16】
請求項9又は10に記載の生体情報発信装置と、
請求項11〜15のいずれか1項に記載の生体情報監視装置と、
が互いに通信可能に接続されてなる、生体情報監視システム。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−212167(P2011−212167A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82439(P2010−82439)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】