説明

生体材料の新規の製造方法

【課題】大きな寸法を有するCaO及びP25を含有するガラスを得る。
【解決手段】熱分解二酸化ケイ素の水性分散液又は含水分散液を形成させ;P25及びCaOを添加し;酸でpH値を2±0.5に至らせ;TEOSを添加し;ゾルを水酸化アンモニウムでpH4.1±0.2に滴定し;得られたゾルを型中に注ぎ;ゲル細孔中の溶剤を非プロトン性溶剤と置き換え;ゲルを加圧チャンバ中に設置し;加圧チャンバ中に不活性ガスを流し;加圧チャンバをプログラムされた時間にわたり加熱し、ゲル溶剤の関連の臨界値より低い温度と圧力の値にまで至らしめ、蒸発させ;加圧チャンバを減圧させ、不活性ガスで洗い;乾燥されたゲルを冷却し、該ゲルを加圧チャンバから取り出し;乾燥されたゲルを予め固定された温度で加熱することで焼結させて、亀裂を有さないガラス質の物体を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル技術を介してガラス質の物体を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体活性ガラス又は生物学的に活性なガラスという用語は、その主要成分としてケイ素の酸化物を有し、かつ生理的液体と反応した場合に成長組織と結合が可能である無機ガラス材料を意味する。フロリダ大学のLarry Henchとその同僚が1960年代後半にこれらの材料を初めて開発した、そして更に彼の調査チームによってインペリアルカレッジで、そして他の研究者によって世界的に更なる開発がなされている。米国食品医薬品局が承認し、bioglass(登録商標)と呼ばれる原形の組成物には多くのバリエーションが存在する。この組成物は、45S5として知られている。他の組成物を、以下のリストに示す。
【0003】
45S5:46.1モル%のSiO2、26.9モル%のCaO、24.4モル%のNa2O及び2.5モル%のP25
58S:60モル%のSiO2、36モル%のCaO及び4モル%のP25
S70C30:70モル%のSiO2、30モル%のCaO
生体活性ガラスの一つの重要な特徴は、体液中に浸漬した時に、それらのガラスが、その層表面上にヒドロキシ炭酸塩アパタイト(それこそまさにそれらを構成するリン酸カルシウムの炭酸カルシウムの形態である)を析出させることを誘導しうるということである。
【0004】
そのため生体活性ガラスには多くの用途が見出されているが、それらの用途は、主に、組織工学を介した骨修復と骨再生と、一般的な整形外科的な、頭蓋面的な(頭蓋と顔面の骨)、顎顔面的な、そして歯根周囲的な(歯を支持する骨構造)修復用の人工骨移植材料(これらは外科医に粉末形で供給できる)、移植蝸牛刺激装置、骨組織工学的足場(これらは多くの形状で、特に多孔質の(細胞が内部に増殖でき、液体が通過できる)三次元足場として調査されている)である。
【0005】
最初の生体活性ガラスは、80年代後半に、ケイ素と、カルシウムと、リンと、ナトリウムと他の酸化物の混合物から構成させて溶融によって製造された。これらのガラスでは、迅速なヒドロキシ炭酸塩アパタイトの成長に必要なシリカ含有率の範囲は、非常に狭い、つまり42%〜53%(L.L.Hench著のBioceramics vol.7,Proc.7th Int.Symp.On ceramics in Medicine,1994,p.3を参照)であると認められている。
【0006】
画期的な着想は、ゾル−ゲル技術の導入であった。
【0007】
非常に一般的な用語において、ゾル−ゲル法は、幾つかのレビュー及び特許において、例えばNogami他著の"Journal of Non−Crystalline Solids",Vol 37,No 191(1980)、Rabinovich他著の"Journal of Non−Crystalline Solids" Vol.47 No.435(1982)、及びHuessing及びSchubert著のAngewandte Chemie 1998,37,22において再検討されている。
【0008】
ゾル−ゲル技術と関連する問題点の説明をより深く行う前に、原理の説明の為に若干の字数を費やす必要があると思われる。初めに、本願を通して頻繁に使用されるゾルゲル法に関連した幾つかの用語を説明したい。いわゆるゾルは、1〜950nmの範囲の直径を有する粒子を有するコロイドである。そのゲルは、スポンジ状で、三次元の固体網目構造からなり、その細孔は、他の物質(通常は液体)で満たされている。ゲルを、金属もしくは半金属もしくは加水分解可能な金属の化合物の加水分解及び縮合(ゾル段階を通じて)によって製造する場合に、細孔の液体は主に水及び/又はアルコールからなる。得られた"ウェットな"ゲルは、アクアゲルもしくはヒドロゲルと呼ばれる。細孔中の液体を、その網目構造を決定的に変更することなく空気によって置き換えた場合に、エアロゲルが得られる(又は細孔の液体を凍結乾燥によって除去した場合にはクリオゲルが得られる)。キセロゲルは、ウェットなゲルの通常の乾燥によって、すなわち温度を上昇させるかもしくは圧力を低減させることによって、初期の均一なゲル体の大きな収縮(主に複数回の高温乾留による(times destructive))を伴って形成される。
【0009】
細孔の液体の蒸留後のゲル体の大きな収縮は、液体がゲル体に後退する時点で細孔壁に作用する毛管力によって引き起こされ、引き続き網目構造の破壊を伴う。これは、G.Schererによって、Journal of Non−Crystalline Solids Vol.121,1990,104で説明されている。従って、エアロゲルを製造するために、他の乾燥法を開発する必要があった。なかでも、特許PCT/EP01/07027号及びUS4,432,956号に記載される有機溶剤及び/又はCO2を用いた超臨界抽出の方法が挙げるに値するものである。それらの特許は、ゲルをアルコキシシランの溶液から製造し、そこに規定量の水を添加して、シランを加水分解させることによる方法を記載している。ゲルが形成した後に、オートクレーブに入れ、過剰量のエタノールもしくはアセトンを添加する。次いでその温度を臨界温度より高く上昇させ、臨界圧にも至らしめる。温度が臨界値より高く上昇した後に、圧力をゆっくりと低減させる。前記のようにして、乾燥モノリスゲルを得ることができた。
【0010】
代わって、特許US5,023,208号では、ウェットゲルの細孔サイズを、乾燥前に熱水変質させることによって拡大させている。そのようにして、乾燥の間の機械的応力の実質的な低下が達成される。
【0011】
通常の石英の製造においてゾルゲル技術は、全てのその成熟度を裏付けている一方で(例えば特許PCT/EP01/07027号及びPCT/EP2006/05075号)、ゾル−ゲル技術を介して大きな物体を製造可能であるとも判明している。特に、米国特許第5074916号では、生物学的活性を有する粉末形のゾル−ゲルガラスをもたらすゾル−ゲル組成物が記載されている。
【特許文献1】PCT/EP01/07027号
【特許文献2】US4,432,956号
【特許文献3】US5,023,208号
【特許文献4】PCT/EP01/07027号
【特許文献5】PCT/EP2006/05075号
【特許文献6】米国特許第5074916号
【非特許文献1】L.L.Hench著のBioceramics vol.7,Proc.7th Int.Symp.On ceramics in Medicine,1994,p.3
【非特許文献2】Nogami他著の"Journal of Non−Crystalline Solids",Vol 37,No 191(1980)
【非特許文献3】Rabinovich他著の"Journal of Non−Crystalline Solids" Vol.47 No.435(1982)
【非特許文献4】Huessing及びSchubert著のAngewandte Chemie 1998,37,22
【非特許文献5】G.Scherer著のJournal of Non−Crystalline Solids Vol.121,1990,104
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、大きな寸法を有するCaO及びP25を含有するガラスを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これにより、本願では、超孔質(100mq/gより大きい表面積)の物体であって焼結(synthering)を介して生体活性を有するガラスに変換される物体の製造方法を記載する。
【0014】
A)熱分解的に製造された二酸化ケイ素を、水もしくは含水溶剤中に分散させて、水性分散液又は含水分散液を形成させる。
【0015】
B)P25及びCaOを添加する。
【0016】
C)酸を添加して、pH値を2±0.5に至らしめる。
【0017】
D)テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を添加する。
【0018】
E)付加的に、TEOS加水分解によって形成されたエタノールを、減圧(P=0.29バール)での蒸発によって除去することができる。
【0019】
F)そのゾルを水酸化アンモニウムによってpH4.1±0.2にまで滴定する。
【0020】
G)こうして得られたゾルを、ゲル化を行う型中に注ぐ。
【0021】
H)ゲル細孔中の溶剤を非プロトン性溶剤と置き換える。
【0022】
I)ゲルを加圧チャンバ中に設置する。
【0023】
J)その加圧チャンバ中に不活性ガスを流す。
【0024】
K)加圧チャンバをプログラムされた時間にわたって加熱して、ゲル溶剤の関連の臨界値より低い予め規定された温度と圧力の値にまで至らしめ、それを蒸発させる。
【0025】
L)加圧チャンバを減圧させ、不活性ガスで洗う。
【0026】
M)乾燥されたゲルを冷却し、そして該ゲルを加圧チャンバから取り出す。
【0027】
N)乾燥されたゲルを予め固定された温度で加熱することにより焼結させて、如何なる亀裂も有さないガラス質の物体を形成させる。
【0028】
この手順によって、初めて、大きな寸法を有するCaO及びP25を含有するガラスが得られた。特に、16cm直径と厚さ6cmを有するディスクが得られた。知る限りでは、係る寸法を有する物体の製造の報告は初めてのことである。得られたエアロゲル材料の密度は平均で0.3g/cm3であり、一方で相応するガラスの密度は、2.3377g/cm3である。
【0029】
前記方法においては、オートクレーブ中での超臨界乾燥段階が存在し、その間に溶剤を除去して、いわゆるエアロゲルを得ることが挙げるに値するものと思われる。知る限りでは、この手順は、ゾル−ゲルを介して得られた生体活性ガラスの製造の特許の保護を請求している他の特許において記載されていない。
【0030】
如何なる特定の理論もしくは機構に縛られることをなく、本発明により経験された大きな寸法のガラスの高収率は、亀裂を妨げる機械的安定性と望まれる生物学的活性をも示す非常に特有の表面組成によるものと考えられる。
【0031】
その組成は、XPS分析によって測定された。その結果は、得られた物体の組成が、例えばEP1196150号B1及び同様の引用文献のような刊行物において特許の保護が請求された範囲よりも良好であることを裏付けている。
【0032】
特に、その組成は、C 30.0原子%、O 39.6原子%、Si 25.2原子%、Ca 1.0原子%、P 1.5原子%、Cl 0.2原子%である。
【0033】
生物学的活性を評価するために、それらのガラスを、37℃で7日間にわたって、ヒト体液に似た液体(SBF)中に浸漬させた。この試験は、科学界でより良好に受け入れられており、それというのもその結果をもって科学者は、そのガラスがヒトの骨構造への移植に適しているかどうかを予測できるからである。特に、SBFと接触させた後に、ガラス表面上に骨様物質、例えばヒドロキシカルシウムアパタイト(HCA)の発生がある、つまり該ガラスが生体活性であり、かつ生体適合性であるかどうかが分かる。
【0034】
本発明で実施された試験において、FT−IRと顕微鏡(SEM)分析によってHCA層の形成の徴候が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル技術を介してガラス質の物体を得る方法において、
・ 熱分解的に製造された二酸化ケイ素を、水もしくは含水溶剤中に分散させて、水性分散液又は含水分散液を形成させ;
・ P25及びCaOを添加し;
・ 酸を添加して、pH値を2±0.5に至らしめ;
・ テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を添加し;
・ 付加的に、TEOS加水分解によって形成されたエタノールを、減圧(P=0.29バール)での蒸発によって除去することができる;
・ そのゾルを水酸化アンモニウムによってpH4.1±0.2にまで滴定し;
・ こうして得られたゾルを、ゲル化を行う型中に注ぎ;
・ ゲル細孔中の溶剤を非プロトン性溶剤と置き換え;
・ ゲルを加圧チャンバ中に設置し;
・ その加圧チャンバ中に不活性ガスを流し;
・ 加圧チャンバをプログラムされた時間にわたって加熱して、ゲル溶剤の関連の臨界値より低い予め規定された温度と圧力の値にまで至らしめ、それを蒸発させ;
・ 加圧チャンバを減圧させ、不活性ガスにより洗い;
・ 乾燥されたゲルを冷却し、そして該ゲルを加圧チャンバから取り出し;
・ 乾燥されたゲルを予め固定された温度で加熱することにより焼結させて、如何なる亀裂も有さないガラス質の物体を形成させる方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、超臨界乾燥を、非プロトン性溶剤中で超臨界条件(T250℃)で実施する方法。

【公開番号】特開2008−100905(P2008−100905A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271338(P2007−271338)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(501094502)デグサ ノヴァラ テクノロジー ソチエタ ペル アツィオーニ (15)
【氏名又は名称原語表記】Degussa Novara Technology S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Pisacane 7/B, I−20016 Pero (MI), Italy
【Fターム(参考)】